(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-17
(45)【発行日】2023-11-28
(54)【発明の名称】軽量自立壁及び軽量自立壁の施工方法
(51)【国際特許分類】
E04H 17/16 20060101AFI20231120BHJP
C04B 28/02 20060101ALI20231120BHJP
【FI】
E04H17/16 104
C04B28/02
(21)【出願番号】P 2021004527
(22)【出願日】2021-01-14
【審査請求日】2022-10-24
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 施工実績一覧 施工日 令和2年1月23日 物件名 針原・武蔵野会 邸 千葉県松戸市殿平賀 173-2 他 89カ所 別紙1及び別紙2の通り
(73)【特許権者】
【識別番号】518282185
【氏名又は名称】松岡 洋良
(74)【代理人】
【識別番号】100076473
【氏名又は名称】飯田 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188765
【氏名又は名称】赤座 泰輔
(74)【代理人】
【識別番号】100112900
【氏名又は名称】江間 路子
(74)【代理人】
【識別番号】100136995
【氏名又は名称】上田 千織
(74)【代理人】
【識別番号】100163164
【氏名又は名称】安藤 敏之
(72)【発明者】
【氏名】松岡 洋良
【審査官】土屋 保光
(56)【参考文献】
【文献】実開昭61-041754(JP,U)
【文献】特開2012-197196(JP,A)
【文献】特開2001-240452(JP,A)
【文献】特開2009-167778(JP,A)
【文献】特開2020-029759(JP,A)
【文献】特開平03-193649(JP,A)
【文献】特開2000-026150(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0183385(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04H 17/00 -17/26
C04B 28/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
横方向に互いに隣り合うものどうしが接合されて立設される複数の軽量パネルと、
該軽量パネルの接合する突合せ面に、それぞれ設けられた上下方向に沿った切欠凹部と、
該軽量パネル同士を突き合わせることにより、対向する該切欠凹部から形成される貫通孔と、
該貫通孔の中に挿通され、該軽量パネルを設置する基礎部位に、間隔をおいて立設された複数の支持部材と、
該貫通孔中に充填されて硬化した接合セメント成形物と、を備える軽量自立壁であって、
該接合セメント成形物を形成する接合セメント組成物
は、セメント系無収縮グラウト材100質量部に、セメント20~100質量部、珪砂6号100~200質量部、を混合させた組成物であり、
該接合セメント組成物のスラリーの
JASS15M-103に準拠して得られるフロー値が125~250mmであることを特徴とする軽量自立壁。
【請求項2】
前記軽量パネルは、発泡倍率が30~60倍のポリスチレン発泡体(EPS(expandable polystyrene beads))であることを特徴とする請求項1に記載の軽量自立壁。
【請求項3】
軽量自立壁を施工する基礎部位に、軽量自立壁を補強する支持部材を埋設する埋設穴を複数設ける、穴抜き工程と、
該埋設穴のそれぞれに、該支持部材を固定する固定セメント組成物のスラリーを充填することによって、該支持部材を垂直に立設させる、立設工程と、
立設させた複数の該支持部材の間に、上下方向に沿った切欠凹部を突合せ面に有する軽量パネルをそれぞれ設置し、設置された該軽量パネル間の対向する該切欠凹部から形成される貫通孔に該支持部材を挿通させる、設置工程と、
該貫通孔に、
セメント系無収縮グラウト材100質量部とセメント20~100質量部と珪砂6号100~200質量部とを混合させた接合セメント組成物のスラリーを充填する、充填工程と、
を有し、
該接合セメント組成物のスラリーのJASS15M-103に準拠して得られるフロー値が125~250mmであることを特徴とする軽量自立壁の施工方法。
【請求項4】
前記充填工程の前工程として、前記軽量パネル間に、コーキング材、又は、補填パネル及びコーキング材、を埋入させる埋入工程、を有することを特徴とする請求項
3に記載の軽量自立壁の施工方法。
【請求項5】
前記軽量パネルは、発泡倍率が30~60倍のポリスチレン発泡体(EPS(expandable polystyrene beads))であることを特徴とする請求項3又は4に記載の軽量自立壁の施工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の軽量パネルを並べて設置することにより形成される軽量自立壁及び軽量パネル間に充填される接合セメント組成物並びに軽量自立壁の施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
軽量パネルは、自立壁に使用した際に、軽量であるため倒壊し難く、加工が容易であるため曲線等の自立壁の施工も容易にすることができることから、従来のコンクリートブロックにかわって自立壁に使用されつつある。特許文献1には、つなぎ合わせる軽量パネルと軽量パネルとの隙間に、鉄筋を配置し、モルタルのスラリーを充填することによって、軽量パネル同士を接合して形成される、軽量自立壁が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の軽量自立壁は、軽量パネル同士を接合するモルタルのスラリーが、つなぎ合わせる軽量パネル間の隙間に、充填され、硬化することによって軽量パネル同士を接合するものである。しかしながら、従来の軽量自立壁は、つなぎ合わせる軽量パネル間の隙間へのモルタルのスラリーの充填性まで考慮されているものではなく、スラリーの隙間への充填性が劣り、施工時の作業性が劣るという課題があった。
【0005】
本発明は、上述の課題を解決するものであり、施工時の作業性に優れる軽量自立壁を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る軽量自立壁は、横方向に互いに隣り合うものどうしが接合されて立設される複数の軽量パネルと、
該軽量パネルの接合する突合せ面に、それぞれ設けられた上下方向に沿った切欠凹部と、
該軽量パネル同士を突き合わせることにより、対向する該切欠凹部から形成される貫通孔と、
該貫通孔の中に挿通され、該軽量パネルを設置する基礎部位に、間隔をおいて立設された複数の支持部材と、
該貫通孔中に充填されて硬化した接合セメント成形物と、を備える軽量自立壁であって、
該接合セメント成形物を形成する接合セメント組成物は、セメント系無収縮グラウト材100質量部に、セメント20~100質量部、珪砂6号100~200質量部、を混合させた組成物であり、
該接合セメント組成物のスラリーのJASS15M-103に準拠して得られるフロー値が125~250mmであることを特徴とする。
【0007】
本発明の軽量自立壁によれば、施工時に、軽量パネル同士を突き合わせることにより、対向する該切欠凹部から貫通孔が形成される。貫通孔に充填される接合セメント組成物のスラリーのJASS15M-103に準拠して得られるフロー値が125~250mmであるため、接合セメント組成物のスラリーは、適度な流動性を有し、貫通孔への充填を容易にすることができる。このため、施工時の作業性に優れるものとすることができる。また、接合セメント組成物のスラリーが適度な流動性を有しているため、貫通孔への充填を容易にすることができる。このため、施工時の作業性に優れるものとすることができる。
【0008】
また、上記軽量自立壁において、前記軽量パネルは、発泡倍率が30~60倍のポリスチレン発泡体(EPS(expandable polystyrene beads))であるものとすることができる。
【0009】
これによれば、軽量パネルの大きさの調整を容易に行うことができ、軽量パネルから形成される軽量自立壁の大きさを、自由に設定することができる。
【0010】
また、本発明に係る軽量自立壁の施工方法は、軽量自立壁を施工する基礎部位に、軽量自立壁を補強する支持部材を埋設する埋設穴を複数設ける、穴抜き工程と、
該埋設穴のそれぞれに、該支持部材を固定する固定セメント組成物のスラリーを充填することによって、該支持部材を垂直に立設させる、立設工程と、
立設させた複数の該支持部材の間に、上下方向に沿った切欠凹部を突合せ面に有する軽量パネルをそれぞれ設置し、設置された該軽量パネル間の対向する該切欠凹部から形成される貫通孔に該支持部材を挿通させる、設置工程と、
該貫通孔に、セメント系無収縮グラウト材100質量部とセメント20~100質量部と珪砂6号100~200質量部とを混合させた接合セメント組成物のスラリーを充填する、充填工程と、を有し、
該接合セメント組成物のスラリーのJASS15M-103に準拠して得られるフロー値が125~250mmであることを特徴とする。
【0011】
実施形態の軽量自立壁の施工方法によれば、軽量パネル間に貫通孔が形成され、この貫通孔に充填する接合セメント組成物のスラリーが適度な流動性を有しているため、施工性に優れるものとすることができる。
【0012】
また、上記の軽量自立壁の施工方法において、前記充填工程の前工程として、前記軽量パネル間に、コーキング材、又は、補填パネル及びコーキング材、を埋入させる埋入工程、を有するものとすることができる。
【0013】
これによれば、軽量パネル間の隙間、すなわち、貫通孔の隙間を埋めることができるため、貫通孔に接合セメント組成物のスラリーを充填する際に、接合セメント組成物のスラリーが漏れるのを防ぐことができる。
【0014】
また、上記の軽量自立壁の施工方法において、前記軽量パネルは、発泡倍率が30~60倍のポリスチレン発泡体(EPS(expandable polystyrene beads))であるものとすることができる。
【0015】
これによれば、軽量パネルの大きさの調整を容易に行うことができ、軽量パネルから形成される軽量自立壁の大きさを、自由に設定することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、施工時の作業性に優れる軽量自立壁を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の実施形態の軽量自立壁の斜視図である。
【
図3】軽量パネル間に隙間がある際の軽量自立壁の施工途中の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係る軽量自立壁の実施形態について説明する。本明細書および特許請求の範囲における各用語の意味は次の通りである。
【0019】
(接合又は固定)セメント組成物とは、セメント、骨材及びその他添加剤が均一に混合された粉体状の材料である。セメント組成物が水と混錬されることにより流動性を有し、塗工や充填が可能なスラリー(塗料)となる。スラリーのセメントが水和反応によって硬化することにより、セメント組成物のスラリーは、硬化体としてのセメント成形物となるものである。
【0020】
実施形態の軽量自立壁は、それぞれが接合される複数の軽量パネル21の接合する突合せ面22に、上下方向に沿った切欠凹部23が形成され、軽量パネル21同士を突き合わせることにより、対向する切欠凹部23から貫通孔24が形成される。貫通孔24には、基礎部位11から立設された支持部材51が挿通され、接合セメント組成物のスラリーが充填される。接合セメント組成物のスラリーは、JASS15M-103に準拠して得られるフロー値が125~250mmであるため、適度な流動性を有し、貫通孔24への充填を容易にすることができ、施工時の作業性に優れるものとしたものである。
【0021】
軽量パネル21には、ビーズ発泡により成型が容易なポリスチレン発泡体(EPS(expandable polystyrene beads))を使用し、厚みが150mm、発泡倍率が50倍であるものを使用した。軽量パネル21は、カッターナイフなどで容易に切断することができるため、軽量パネル21の大きさの調整を容易に行うことができる。このため、軽量パネル21から形成される軽量自立壁の大きさを、自由に設定することができる。
【0022】
軽量パネル21は、
図2に示すように、軽量パネル21同士を接合する突合せ面22に、上下方向に沿った切欠凹部23が設けられている。これにより、軽量パネル21同士を突き合わせることにより、対向する切欠凹部23が軽量パネル21によって周方向が閉塞され、切欠凹部23からなる貫通孔24が形成される。貫通孔24には、詳しくは後述する、支持部材51が挿通され、接合セメント成形物31を形成する接合セメント組成物のスラリーが充填される。
【0023】
切欠凹部23は、接合セメント成形物31を形成する接合セメント組成物のスラリーを容易に充填できる大きさとし、厚み方向の幅Wは50mm、面方向の深さDは50mmとした。
【0024】
支持部材51は、一辺の長さが50mmの鉄製のL型アングルを使用した。支持部材51は、
図1に示すように、軽量パネル21を設置する基礎部位11に設けられた埋設穴12に、L型アングルの短手方向の断面における両端部を結ぶ斜辺が、設置する軽量パネル21の横方向と平行になるように、かつ、基礎部位11に対して垂直となるように、後述する固定セメント組成物で固定される。なお、基礎部位11は、地盤の上に設けられたコンクリート成形物である。
【0025】
接合セメント組成物は、セメント系無収縮グラウト材に、セメント及び骨材をブレンドしたものを使用した。セメント系無収縮グラウト材だと、スラリーの流動性が高く、軽量パネル21間の隙間からスラリーが漏れ出すおそれがあるため、セメント及び骨材をブレンドすることによって、スラリーの流動性を低下させたものである。また、接合セメント組成物は、セメント系無収縮グラウト材の無収縮性が維持されており、貫通孔24に接合セメント組成物のスラリーが充填され硬化する際の収縮がほとんどない。このため、接合セメント組成物のスラリーから成形された接合セメント成形物と貫通孔24との間に、収縮による隙間が生じることがなく、雨水が軽量自立壁に侵入することを防止することができる。
【0026】
セメント系無収縮グラウト材は、市販されているセメント系無収縮グラウト材であれば使用することができる。市販されているセメント系無収縮グラウト材として、U-グラウト一般用、U-グラウトRS、U-グラウトRP(以上、宇部興産建材株式会社製)、プレユーロックス(一般用)、プレユーロックスM(低発熱型)、プレユーロックスLH(収縮低減型)、プレユーロックスGC(豆砂利混入簡易コンクリート型)、プレユーロックススーパー(速硬型)、プレユーロックススーパーTYPE-10、プレユーロックスパッド(硬練りパッド用)、プレユーロックスHW(重量モルタル)、プレユーロックスS(高強度型)、プレユーロックスMS(高強度型)、プレユーロックスUHS (超高強度型)、プレユーロックスLC-MIX(水中不分離タイプ)、ユーロックスセメント(小間隙用スラリータイプ)、ユーロックス(混和材型)、JフローKR2(軽量型)、JフローKR2粉塵低減型(粉塵低減型、軽量型)、プレユーロックスLW30(軽量型)(以上、太平洋マテリアル株式会社製)、ノンシュリンクライトグラウト、ノンシュリンクハイグラウト、ノンシュリンクHS80、ノンシュリンクHS100、ノンシュリンクST3000-G、ノンシュリンクグラウトプレミックス、ノンシュリンクグラウトスタンダード、ノンシュリンクライトグラウトM(以上、ABC商会株式会社製)、プレタスコンTYPE-1、プレタスコンTYPE-1R(以上、デンカ株式会社製)、JSグラウト(一般用)(日本スタッコ株式会社製)、グラウトミックス(株式会社トクヤマエムテック製)などを使用することができる。
【0027】
セメントは、JIS R 5210:2019に規定されるポルトランドセメント(普通ポルトランドセメント)を使用し、骨材には、市販の珪砂を用いた。
【0028】
接合セメント組成物の配合比率は、セメント系無収縮グラウト材:100、普通ポルトランドセメント:50、珪砂:150とし、接合セメント組成物のスラリーのJASS15M-103に準拠して得られるフロー値が125~250mmとなるように、加水量を調整する。より好ましくは、接合セメント組成物のスラリーのフロー値が150~200となるように、加水量を調整する。
【0029】
固定セメント組成物は、セメント系無収縮グラウト材に、セメント及び骨材をブレンドしたものを使用した。セメント系無収縮グラウト材、セメント及び骨材は、接合セメント組成物に使用した、セメント系無収縮グラウト材、セメント及び骨材と同じである。
【0030】
固定セメント組成物の配合比率は、セメント系無収縮グラウト材:100、普通ポルトランドセメント:50、珪砂:150とし、固定セメント組成物のスラリーのJASS15M-103に準拠して得られるフロー値が125~250mmとなるように、加水量を調整する。より好ましくは、固定セメント組成物のスラリーのフロー値が150~200となるように、加水量を調整する。
【0031】
実施形態の軽量自立壁の施工方法は、基礎部位11に埋設穴12を設ける穴抜き工程と、埋設穴12に固定セメント組成物のスラリーを充填して支持部材51を立設させる立設工程と、支持部材51の間に軽量パネル21を設置する設置工程と、設置された軽量パネル21間に継目張り補強を施す目張り工程と、軽量パネル21間の貫通孔24に接合セメント組成物のスラリーを充填する充填工程と、の順に行なった。
【0032】
穴抜き工程では、既存又は新設の基礎部位11の軽量自立壁を設置する箇所に、φ100mmの振動ドリルを用いて、軽量自立壁を補強する支持部材51を埋設する埋設穴12を複数設けた。埋設穴12を設ける間隔は、1000mm以下の任意の間隔とし、埋設穴12の深さは、220mmとした。なお、埋設穴12を設ける間隔の下限を定めるとした場合、100mm以上となる。
【0033】
立設工程では、それぞれの埋設穴12に、支持部材51として一辺の長さが50mmのL型アングルを、L型アングルの短手方向の断面における両端部を結ぶ斜辺が、設置する軽量パネル21の横方向と平行になるように(
図2)、かつ、基礎部位11に対して垂直となるようにそれぞれの埋設穴12に配置し、その後、埋設穴12に、固定セメント組成物のスラリーを充填した。
【0034】
設置工程では、固定セメント組成物のスラリーが硬化し、支持部材51を立設させた後、支持部材51の間に、軽量パネル21をそれぞれ設置した。軽量パネル21は、突合せ面22に、上下方向に沿って切欠凹部23を設けているため、軽量パネル21が設置されたとき、軽量パネル21の突合せ面22のそれぞれの切欠凹部23から貫通孔24が形成される。支持部材51を挟んで2枚の軽量パネル21が設置されるため、支持部材51は、切欠凹部23から形成された貫通孔24に挿通される。軽量パネル21間の突合せ面22には、シリコーン系のコーキング材25を塗布し、軽量パネル21間を接着させた。また、軽量パネル21と基礎部位11との間にも、コーキング材25を塗布し、軽量パネル21と基礎部位11とを接着させた。これにより、軽量パネル21間の隙間がコーキング材25で埋められ、貫通孔24は、上下に亘って隙間が埋められる。
【0035】
目張り工程では、
図2に示すように、次の充填工程で充填される接合セメント組成物のスラリーがコーキング材25の接着の弱い箇所から流出するのを防ぐため、軽量パネル21間に、布製粘着テープなどの補強テープ62を貼付した。次に、軽量パネル21間を跨いだ上端部の両幅に、貫通孔24の上端部側が開くのを防止する板状の支保工材63を当接させ、クランプ(図示せず)で固定した。
【0036】
充填工程では、貫通孔24に、接合セメント組成物のスラリーを充填した。接合セメント組成物のスラリーは、フロー値が125~250mmとなるように、加水量を調整した。フロー値が125~250mmである接合セメント組成物のスラリーは、適度な流動性を有しているため、貫通孔24への充填を容易にすることができる。このため、実施形態の軽量自立壁は、施工時の作業性に優れるものとすることができる。接合セメント組成物のスラリーが硬化して接合セメント成形物31が形成され、軽量自立壁が形成される。
【0037】
充填工程の後、接合セメント組成物のスラリーが硬化して接合セメント成形物31が成型されたことを確認し、補強テープ62や支保工材63などの副資材を外し、軽量自立壁に塗料などの化粧材を施す化粧工程を設けることができる。化粧工程は、軽量自立壁(軽量パネル21)の不陸を調整する下地調整工程と、下地調整工程の後に行われる化粧材を施工する仕上工程とから構成される。
【0038】
下地調整工程では、軽量自立壁(軽量パネル21)の表面を、グラスファイバーメッシュで覆い、グラスファイバーメッシュの上(表面側)から左官ゴテなどでセメント系下地調整材を全面に塗布し、グラスファイバーメッシュをセメント系下地調整材中に埋没させる。グラスファイバーメッシュをセメント系下地調整材中に埋設させることにより、軽量自立壁の強度を高めることができる。
【0039】
仕上工程では、下地調整された軽量自立壁に、建築物外壁に施す塗料や化粧シートを施工することにより、軽量自立壁に美観や耐候性を付与することができる。塗料や化粧シートの施工は、使用する塗料や化粧シートの標準施工仕様に従って行う。
【実施例】
【0040】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。接合セメント組成物の組成等と性能評価結果を表1及び表2にそれぞれ記載する。接合セメント組成物の組成は、質量比で記載した。表中、試験例1~9が実施例であり、試験例10~12が比較例である。
【0041】
【0042】
【0043】
表中の原材料の名称には一部について略称を用いた。使用した原材料について、括弧書きに一般名称又は原材料名などを添えて以下に記載する。
【0044】
グラウト材A(プレユーロックススーパー(太平洋マテリアル株式会社製セメント系無収縮グラウト材))
グラウト材B(U-グラウト一般用(宇部興産建材株式会社製セメント系無収縮グラウト材))
グラウト材C(ノンシュリンクライトグラウト(ABC商会株式会社製セメント系無収縮グラウト材))
セメント(普通ポルトランドセメント(JIS R 5210:2019))
骨材(珪砂6号(平均粒径(d50):約0.37mm))
これらには市販品を用いた。
【0045】
これら試験例の接合セメント組成物について、以下に記載する評価項目の試験を行った。
【0046】
(1)フロー値(mm)
フロー試験値(mm)として、JASS15M-103「セルフレベリング材の品質基準」に準拠して得られるフロー値を求めた。厚さ5mmのみがき板ガラスの上に、内径50mm、高さ100mmの塩化ビニル製パイプ(内容積196mL)を置き、セメント組成物のスラリーを充填した後、パイプを引き上げ、スラリーの広がりが静止してから、直角2方向の直径を測定し、その平均をフロー値(mm)とした。なお、混練水量は、グラウト材の標準加水量とセメントの加水量(セメントの質量×0.5)を足した量とした。
【0047】
(2)充填性試験
充填性試験は、貫通孔24に、セメント組成物のスラリーを充填した際の作業性を確認した。接合セメント組成物のスラリーが流動性に優れ、充填の作業性に優れるものを○、流動性がやや劣り、充填の作業性がやや劣るものを△、流動性が劣り、充填が困難であるものを×(A)、流動性が高すぎ、充填の作業性に優れるものの、軽量パネル21の継ぎ目から流れ出るおそれがあるものを×(B)として評価した。
【0048】
(3)材料コスト
材料コストの評価は、接合セメント組成物について、セメント系無収縮グラウト材と単位質量当りの原価で比較した。そして、セメント系無収縮グラウト材より、安価であるものを○、同等(±5%以内)であるものを△、高価であるものを×、として評価した。
【0049】
(試験例1~試験例3)
試験例1~試験例3は、好ましい範囲となる試験例であり、試験例1がベストモードとなる試験例である。これらは、全ての評価項目において優れた評価が得られた。
【0050】
(試験例4~試験例6)
試験例4~試験例6は、試験例1から骨材の配合量を増減させたものである。なお、試験例5は、試験例1と同じである。骨材の配合量を多くした試験例6は、流動性がやや劣り、充填の作業性がやや劣るものとなった。
【0051】
(試験例7~試験例9)
試験例7~試験例9は、試験例1からセメントの配合量を増減させたものである。セメントの配合量を少なくした試験例7は、流動性がやや劣り、充填の作業性がやや劣るものとなった。
【0052】
(試験例10~試験例12)
試験例10~試験例12は、セメント系無収縮グラウト材を標準化水量で混錬して使用したものである。これらは、流動性が高すぎ、充填の作業性に優れるものの、軽量パネル21の継ぎ目から流れ出るおそれがあるものであった。
【0053】
なお、実施形態の軽量自立壁は、その構成を以下のような形態に変更しても実施することができる。
【0054】
実施形態の軽量自立壁では、軽量パネル21は、ビーズ発泡により成型が容易なポリスチレン発泡体(EPS)を使用したが、軽量化されたパネルであれば使用することができる。軽量化されたパネルの材質として、高分子発泡体、無機質発泡体を使用することができる。高分子発泡体として、ポリスチレン発泡体、ポリウレタン発泡体、ポリフェノール発泡体、ポリオレフィン発泡体(ポリエチレン発泡体、ポリプロピレン発泡体)などを使用することができる。無機質発泡体として、水酸化アルミニウム系発泡体(タルボセル)、セメント系発泡体(ALC(autoclaved lightweight aerated concrete))などであっても使用することができる。
【0055】
実施形態の軽量自立壁では、軽量パネル21は、EPSの発泡倍率が50倍であるものを使用したが、発泡倍率は、30~60倍であれば、軽量パネル21のEPSとして使用することができる。発泡倍率が30倍未満のEPSである場合には、樹脂(ビーズ)を多く要し、不経済となるおそれがある。一方、発泡倍率が60倍を超えるEPSである場合には、強度が弱く、衝撃を受けた際に、塑性変形してしまうおそれがある。より好ましくは、EPSの発泡倍率は、40~55倍である。
【0056】
実施形態の軽量パネル21に設けた切欠凹部23は、厚み方向の幅Wを50mm、面方向の深さDを50mmとしたが、幅Wと深さDは、それぞれ、30~100mmとすることができる。幅Wと深さDが30~100mmであれば、切欠凹部23からなる貫通孔24に、接合セメント成形物31を形成する接合セメント組成物のスラリーを容易に充填することができるためである。幅Wと深さDがそれぞれ30mm未満である場合には、貫通孔24が細く、接合セメント組成物のスラリーの充填性が劣るおそれがある。一方、幅Wと深さDがそれぞれ100mmを超える場合には、接合セメント組成物のスラリーの充填性に優れるものの、接合セメント組成物の使用量が多くなり、不経済となるおそれがある。より好ましくは、幅Wと深さDは、それぞれ40~90mmであり、さらに好ましくは、50~80mmである。なお、幅Wは、軽量パネル21の厚みによって変更させることもできる。軽量パネル21の厚み方向のかぶり厚さ(軽量パネル21の表面から切欠凹部23までの厚さ)を35mmとしたとき、厚み120mmの軽量パネル21では、幅Wは50mmとすることができ、厚み150mmの軽量パネル21では、幅Wは80mmとすることができる。
【0057】
実施形態の支持部材51には、一辺の長さが50mmのL型アングルを使用したが、軽量自立壁の高さに応じて、一辺の長さが40~50mmのL型アングルを使用することができる。また、支持部材51は、これに限定されるものではなく、フラットバーであっても良いし、鉄筋、異形鉄筋、鉄骨など、接合セメント成形物31を補強するものであれば使用することができる。
【0058】
実施形態の軽量自立壁では、接合させる軽量パネル21同士を接合させ、コーキング材25を用いて軽量パネル21間を閉塞させたが、接合させる軽量パネル21間に隙間がある場合には、
図3に示すように、長尺板状の延長パネル21aを使用して、軽量パネル21間を閉塞させることができる。なお、延長パネル21aの材質は、軽量パネル21と同じものを用いることができる。
【0059】
実施形態の接合セメント組成物又は固定セメント組成物に用いたセメントは、JIS R 5210:2019に規定されるポルトランドセメント(普通ポルトランドセメント)を使用したが、セメントはセメント水和物を生成するものであれば使用することができる。接合セメント組成物又は固定セメント組成物に用いることができるセメントとして、JIS R 5210:2019に規定されるポルトランドセメント(普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント、耐硫酸塩ポルトランドセメント、普通ポルトランドセメント(低アルカリ形)、早強ポルトランドセメント(低アルカリ形)、超早強ポルトランドセメント(低アルカリ形)、中庸熱ポルトランドセメント(低アルカリ形)、低熱ポルトランドセメント(低アルカリ形)、耐硫酸塩ポルトランドセメント(低アルカリ形))、又は、JISには該当しないがJIS R 5210:2019相当のセメントなど(例えば、超速硬セメント、外国製のポルトランドセメントなど)を使用することができる。また、高炉セメント(JIS R 5211:2019)、フライアッシュセメント(JIS R 5213:2019)、エコセメント(JIS R 5214:2019)、アルミナセメント(JIS R 2521:1995)、水硬性石灰なども使用することができる。また、接合セメント成形物31又は固定セメント成形物41として強度が低下しない限りにおいて、気硬性材料(石灰、石膏、ドロマイトプラスタなど)も実施形態のセメントとして使用することができる。
【符号の説明】
【0060】
11…基礎部位、12…埋設穴、21…軽量パネル、21a…延長パネル、22…突合せ面、23…切欠凹部、24…貫通孔、25…コーキング材、31…接合セメント成形物、41…固定セメント成形物、51…支持部材、62…補強テープ、63…支保工材。