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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-17
(45)【発行日】2023-11-28
(54)【発明の名称】Vリブドベルト
(51)【国際特許分類】
   F16G 5/20 20060101AFI20231120BHJP
   F16G 5/06 20060101ALI20231120BHJP
   C08L 21/00 20060101ALI20231120BHJP
   C08K 5/098 20060101ALI20231120BHJP
   C08K 5/3415 20060101ALI20231120BHJP
【FI】
F16G5/20 A
F16G5/06 D
C08L21/00
C08K5/098
C08K5/3415
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021035470
(22)【出願日】2021-03-05
(65)【公開番号】P2022135566
(43)【公開日】2022-09-15
【審査請求日】2022-12-09
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000005061
【氏名又は名称】バンドー化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000280
【氏名又は名称】弁理士法人サンクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小林 正吾
(72)【発明者】
【氏名】真銅 友哉
(72)【発明者】
【氏名】松田 和朗
(72)【発明者】
【氏名】大久保 貴幸
【審査官】小川 克久
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/055850(WO,A1)
【文献】特開2020-63841(JP,A)
【文献】特開2019-120402(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16G 5/20
F16G 5/06
C08L 21/00
C08K 5/098
C08K 5/3415
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のVリブを有するVリブドベルトであって、
前記複数のVリブのそれぞれは、架橋ゴム組成物からなるVリブ本体と、前記Vリブ本体の表面を被覆する繊維部材とを含み、
前記架橋ゴム組成物は、ゴム成分、架橋剤、並びに、不飽和カルボン酸金属塩及びマレイミド化合物の少なくとも一方を含有する未架橋ゴム組成物の架橋物であり、
前記不飽和カルボン酸金属塩及び前記マレイミド化合物の合計含有量は、前記ゴム成分100質量部に対して、10~40質量部である、Vリブドベルト。
【請求項2】
前記繊維部材はセルロース系繊維を含む、請求項1に記載のVリブドベルト。
【請求項3】
前記繊維部材は接着処理が施されていない、請求項1又は2に記載のVリブドベルト。
【請求項4】
前記不飽和カルボン酸金属塩の含有量は、前記ゴム成分100質量部に対して、10~40質量部である、請求項1~3のいずれかに記載のVリブドベルト。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Vリブドベルトに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エンジン、モーター等の回転動力を伝達する手段として、駆動側及び従動側のそれぞれの回転軸にプーリを固定させて設けると共に、それぞれのプーリにVリブドベルト等の伝動ベルトを掛け渡す方法が広く用いられている。
Vリブドベルトでは、Vリブ表面を補強布で被覆することが行われている。このとき、補強布がVリブ表面から脱落することを防止するために、補強布として、セルロース系繊維を含む繊維部材とイソシアネート化合物とを含む複合繊維層を用いること(例えば、特許文献1参照)や、セルロース系繊維を含む繊維部材とイソシアネート化合物と樹脂成分とを含む複合繊維層を用いること(例えば、特許文献2参照)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2019-120402号公報
【文献】特開2020-063841号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1、2に記載のVリブドベルトでは補強布の構成が制限されることになる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、Vリブ表面を被覆する補強布の接着性を高めるべく鋭意検討を行い、特許文献1、2とは異なる新たな思想に基づき、補強布の接着性に優れたVリブドベルトを見出し、本発明を完成した。
【0006】
(1)本発明のVリブドベルトは、
複数のVリブを有するVリブドベルトであって、
上記複数のVリブのそれぞれは、架橋ゴム組成物からなるVリブ本体と、上記Vリブ本体の表面を被覆する繊維部材とを含み、
上記架橋ゴム組成物は、ゴム成分、架橋剤、並びに、不飽和カルボン酸金属塩及びマレイミド化合物の少なくとも一方を含有する未架橋ゴム組成物の架橋物であり、
上記不飽和カルボン酸金属塩及び上記マレイミド化合物の合計含有量は、上記ゴム成分100質量部に対して、1~40質量部である。
【0007】
上記Vリブドベルトでは、Vリブ本体を構成する架橋ゴム組成物を、ゴム成分と架橋剤と所定量の不飽和カルボン酸金属塩及び/又はマレイミド化合物とを含有する未架橋ゴム組成物の架橋物とすることで、Vリブ本体を被覆する繊維部材の当該Vリブ本体に対する接着性を良好なものにすることができる。
【0008】
(2)上記Vリブドベルトにおいて、上記繊維部材は、セルロース系繊維を含むことが好ましい。
セルロース系繊維は、上記組成のゴム組成物と組み合わせることによって、Vリブ本体との接着性が高められる繊維だからである。
【0009】
(3)上記Vリブドベルトにおいて、上記繊維部材は、接着処理が施されていないことが好ましい。
上記Vリブドベルトでは、上記繊維部材に接着処理が施されていなくても、当該繊維部材とVリブ本体を構成するゴム組成物との接着性に優れる。
【発明の効果】
【0010】
本発明のVリブドベルトは、Vリブ本体と繊維部材との接着性に優れる。そのため、両者の間ではく離が発生しにくく、耐久性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、本発明の一実施形態に係るVリブドベルトの一部を模式的に示す図である。
図2A】架橋装置の断面図である。
図2B図2Aに示した架橋装置の一部分の断面拡大図である。
図3A図1に示したVリブドベルトの製造方法を説明するための図である。
図3B図1に示したVリブドベルトの製造方法を説明するための図である。
図3C図1に示したVリブドベルトの製造方法を説明するための図である。
図4】耐久性評価試験におけるベルト走行試験機のプーリレイアウトを示す図である。
図5】注水伝動能力試験におけるベルト走行試験機のプーリレイアウトを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。
(Vリブドベルト)
図1は、本発明の一実施形態に係るVリブドベルトBの一部を模式的に示す図である。
このVリブドベルトBは、例えば、自動車のエンジンルーム内に設けられる補機駆動ベルト伝動装置に用いられるものであり、ベルト周長が700mm以上3000mm以下、ベルト幅が10mm以上36mm以下、及びベルト厚さが3.5mm以上5.0mm以下である。
【0013】
このVリブドベルトBは、ベルト内周側の圧縮ゴム層11と、ベルト外周側の接着ゴム層12との二重層に構成されたベルト本体10を備えている。ベルト本体10のベルト外周側表面には、背面補強布13が貼り付けられている。ベルト本体10のリブ側の表面には、リブ側補強布14が設けられている。また、接着ゴム層12には、心線16がベルト幅方向にピッチを有する螺旋を形成するように埋設されている。
【0014】
圧縮ゴム層11には、内周側に複数のVリブ本体11aが垂下するように形成されている。複数のVリブ本体11aは、各々がベルト長さ方向に延びる断面略逆三角形状の突条で構成されているとともに、ベルト幅方向に並設されている。圧縮ゴム層11の厚さは、例えば2.2mm以上3.2mm以下である。
【0015】
接着ゴム層12は、断面横長矩形の帯状に形成されている。接着ゴム層12の厚さは、例えば1.0mm以上2.5mm以下である。
【0016】
背面補強布13は、例えば、綿、ポリアミド繊維、ポリエステル繊維、アラミド繊維等の糸を用い、平織、綾織、朱子織等に製織した布材料、編物、不織布等により構成される。背面補強布13は、ベルト本体10に対する接着性を付与するために、成形加工前にRFL水溶液に浸漬して加熱する接着処理、及び/又は、接着ゴム層の外周面にゴム糊をコーティングして乾燥させる接着処理、が施されていてもよい。背面補強布13の厚さは、例えば0.4mm以上1.2mm以下である。
背面補強布13に代えて、厚さが例えば0.4mm以上0.8mm以下の背面ゴム層が設けられていてもよい。背面ゴム層の表面には、背面駆動時の音発生を抑制する観点から、織布の布目が転写されていてもよい。
【0017】
圧縮ゴム層11及び接着ゴム層12は、それぞれ架橋ゴム組成物からなる。この架橋ゴム組成物は、ゴム成分に架橋剤と不飽和カルボン酸金属塩及び/又はマレイミド化合物とを含む種々のゴム配合剤が配合され混練された未架橋ゴム組成物(原料組成物)が加熱及び加圧され、ゴム成分が架橋剤によって架橋した架橋物である。
圧縮ゴム層11及び接着ゴム層12は、同一の架橋ゴム組成物で構成されていてもよいし、異なる架橋ゴム組成物で構成されていてもよい。
【0018】
また、背面ゴム層を設ける場合、当該背面ゴム層は、圧縮ゴム層11及び接着ゴム層12の一方又は両方と同一の架橋ゴム組成物で構成されていてもよいし、圧縮ゴム層11及び接着ゴム層12のいずれとも異なる架橋ゴム組成物で構成されていてもよい。VリブドベルトBが背面ゴム層を有する場合、当該背面ゴム層は、ベルト背面と平プーリとの接触により粘着が生じるのを抑制する観点から、接着ゴム層12よりもやや硬めのゴム組成物で構成されていることが好ましい。
【0019】
上記原料組成物に含まれるゴム成分としては、例えば、エチレン・プロピレン・ジエン三元共重合体(EPDM)、エチレン-プロピレンコポリマー(EPM)、エチレン-ブテンコポリマー(EDM)、エチレン-オクテンコポリマー(EOM)などのエチレン-α-オレフィンエラストマー;クロロプレンゴム(CR);クロロスルホン化ポリエチレンゴム(CSM);水素添加アクリロニトリルゴム(H-NBR)等が挙げられる。上記ゴム成分は、これらのうちの1種又は2種以上を用いることが好ましく、エチレン-α-オレフィンエラストマーを用いることがより好ましく、EPDMを用いることが更に好ましい。
【0020】
上記原料組成物に含まれる架橋剤としては、硫黄及び有機過酸化物が挙げられる。
架橋剤以外のゴム配合剤としては、例えば、カーボンブラックなどの補強材、充填剤、老化防止剤、軟化剤、加硫促進剤、加硫促進助剤等が挙げられる。
また、上記原料組成物には短繊維が含まれていてもよいが、接着ゴム層12を形成する原料組成物には、心線16との接着性の点から短繊維が含まれていないことが好ましい。
【0021】
圧縮ゴム層11の形成に用いられる原料組成物は、更に、不飽和カルボン酸金属塩及びマレイミド化合物の少なくとも一方を含有する。
不飽和カルボン酸金属塩及びマレイミド化合物の合計含有量は、上記ゴム成分100質量部に対して、1~40質量部である。
このような所定量の不飽和カルボン酸金属塩及び/又はマレイミド化合物を含む原料組成物(未架橋ゴム組成物)の架橋物からなる圧縮ゴム層11は、リブ側補強布14との密着性に優れる。
【0022】
上記不飽和カルボン酸金属塩は、不飽和カルボン酸と金属とからなる。上記不飽和カルボン酸としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸等の不飽和モノカルボン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸などの不飽和ジカルボン酸、マレイン酸モノメチル、イタコン酸モノエチルなどが挙げられる。
上記金属としては、不飽和カルボン酸と塩を形成するものであれば特に制限されないが、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、チタン、クロム、モリブデン、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、銀、亜鉛、カドミウム、アルミニウム、錫、鉛、水銀、アンチモンなどを使用することができる。
上記不飽和カルボン酸金属塩は、1種類のみを使用してもよいし、2種類以上を併用してもよい。
これらのなかでは、ジアクリル酸亜鉛又はジメタクリル酸亜鉛が好ましい。
【0023】
上記マレイミド化合物としては、分子内に2個のマレイミド基を有するビスマレイミド化合物が好ましい。上記ビスマレイミド化合物としては、例えば、N,N’-m-フェニレンビスマレイミド、N,N’-1,2-エチレンビスマレイミド、N,N’-1,2-プロピレンビスマレイミド、4,4’-ビスマレイミドジフェニルメタン、N,N′-(4,4-ジフェニル-メタン)ビスマレイミド、ビス(3-エチル-5-メチル-4-マレイミドフェニル)メタン、2,2′-ビス〔4-(4-マレイミドフェノキシ)フェニル〕プロパン、m-フェニレンビス(メチレン)ビスマレイミド、m-フェニレンビス(メチレン)ビスシトラコンイミド、1,1’-(メチレンジ-4,1-フェニレン)ビスマレイミド等が挙げられる。
上記ビスマレイミド化合物は、1種類のみを使用してもよいし、2種類以上を併用してもよい。
これらのなかでは、N,N’-m-フェニレンビスマレイミドが好ましい。
【0024】
不飽和カルボン酸金属塩及びマレイミド化合物の合計含有量は、上述した通り、上記ゴム成分100質量部に対して、1~40質量部である。
上記合計含有量が1質量部未満では、圧縮ゴム層11とリブ側補強布14との接着性が不十分になる。
一方、上記合計含有量が40質量部を超えると、圧縮ゴム層が硬くなり、Vリブドベルトの耐クラック性能が低下することがある。
【0025】
上記不飽和カルボン酸金属塩の含有量は、上記ゴム成分100質量部に対して、5~20質量部が好ましい。
この場合、必要な接着力を確保しながら、材料原価の上昇を抑制できる。
【0026】
上記マレイミド化合物の含有量は、上記ゴム成分100質量部に対して、3~10質量部が好ましい。
この場合、必要な接着力を確保しながら、材料原価の上昇を抑制できる。
【0027】
接着ゴム層12の形成に用いられる原料組成物は、圧縮ゴム層11の形成に用いられる原料組成物と組成が異なっていてよい。接着ゴム層12の形成に用いられる原料組成物は、不飽和カルボン酸金属塩及びマレイミド化合物を含有していなくてもよい。
【0028】
圧縮ゴム層11の複数のVリブ本体11aの表面は、リブ側補強布14で被覆されている。リブ側補強布14の厚さは、例えば0.1mm以上1.5mm以下である。そして、リブ側補強布14で被覆されたVリブ本体11aによってVリブ15が構成されている。このリブ側補強布14で被覆されたVリブ15の表面がプーリ接触面となる。各Vリブ15は、例えば、リブ高さが2.0mm以上3.0mm以下、及び基端間の幅が1.0mm以上3.6mm以下である。Vリブ15の個数は、例えば3個以上10個以下である(図1では6個)。
【0029】
リブ側補強布14は、織布で構成されていても、編布で構成されていても、どちらでもよい。織布の織物組織としては、例えば、平織、斜文織、朱子織、及びこれらの変化組織等が挙げられる。編布の編物組織としては、例えば、よこ編みでは、平編、ゴム編、パール編、その他の変化組織等、たて編みでは、シングルデンビー編、シングルバンダイク編、その他の変化組織等が挙げられる。
圧縮ゴム層11の複数のVリブ本体11aを被覆する観点から、リブ側補強布14は、伸縮性の高い編布で構成されていることが好ましい。
【0030】
リブ側補強布14は、接着処理が施されていないことが好ましい。
VリブドベルトBは、圧縮ゴム層11が上述した架橋ゴム組成物からなるため、リブ側補強布14に接着処理が施されていなくても、圧縮ゴム層11とリブ側補強布14とは充分な接着力で接着している。
また、接着処理が施されていないリブ側補強布14を備えたVリブドベルトBは、接着処理が施されたリブ側補強布を備えたVリブドベルトに比べて、注水時の異音耐久性に優れる。これは接着処理が施されていないリブ側補強布は、接着処理が施されたリブ側補強布に比べて吸水特性に優れる傾向にあるためと推測される。また、接着処理が施されていないリブ側補強布14としては、接着処理が施されないことによって優れた吸水特性を確保するのに好適であることから、セルロース系繊維を含むリブ側補強布が好ましい。
また、優れた吸水特性を確保する観点から、リブ側補強布14は、表面(VリブドベルトBの内周面)にセルロース系繊維が露出していることが好ましい。
なお、本発明の実施形態において、リブ側補強布14は、接着処理が施されていてもよい。
【0031】
本発明のVリブドベルトにおいて、リブ側補強布に接着処理が施されていないとは、リブ側補強布を接着剤に浸漬する接着処理が施されておらず、リブ側補強布の表面に接着剤が付着していないことを意味する。
本発明において「接着剤に浸漬する接着処理」は、エポキシ樹脂溶液又はイソシアネート樹脂溶液に浸漬して加熱する処理、RFL水溶液に浸漬して加熱する処理、及びゴム糊に浸漬して乾燥させる処理である。
【0032】
リブ側補強布14は、セルロース系繊維を含んで形成されている。つまり、リブ側補強布14は、織布の経糸及び緯糸として、或いは、編布の編糸として、このセルロース系繊維が用いられている。
上記セルロース系繊維としては、例えば、針葉樹や広葉樹の木材パルプ、竹繊維、サトウキビ繊維、綿繊維やカポックの種子毛繊維、麻やコウゾやミツマタのジン皮繊維、マニラ麻やニュージーランド麻の葉繊維などの天然植物由来のセルロース繊維;ホヤセルロースなどの動物由来のセルロース繊維;バクテリアセルロース繊維;藻類のセルロース繊維;セルロースエステル繊維;レーヨンやキュプラやリヨセルなどの再生セルロース繊維等が挙げられる。
これらのなかでは、繊維材料としての実用性の観点から綿繊維が好ましい。
【0033】
リブ側補強布14を構成する繊維に占めるセルロース系繊維の割合は、50質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましく、100質量%であってもよい。
【0034】
接着ゴム層12のベルト厚さ方向の中間部には、ベルト幅方向にピッチを有する螺旋を形成するように配された心線16が埋設されている。
心線16は、ポリアミド繊維、ポリエステル繊維、アラミド繊維、ポリアミド繊維等の撚り糸で構成されている。心線16の直径は例えば0.5mm以上2.5mm以下であり、断面における相互に隣接する心線16中心間の寸法は例えば0.05mm以上0.20mm以下である。
心線16には、エポキシ樹脂溶液又はイソシアネート樹脂溶液に浸漬して加熱する接着処理、RFL水溶液に浸漬した後に加熱する接着処理、及びゴム糊に浸漬した後に乾燥させる接着処理のうちの1種又は2種以上の接着処理が施されていることが好ましい。
【0035】
次に、VリブドベルトBの製造方法について、図面を参照して説明する。
図2A及び図2Bは、本実施形態に係るVリブドベルトBの製造で用いる架橋装置40を示す図である。図3A図3B及び図3Cは、本実施形態に係るVリブドベルトBの製造方法を説明するための図である。
【0036】
この架橋装置40は、基台41と、その上に立設された円柱状の膨張ドラム42と、その外側に設けられた円筒状の円筒金型43とを備えている。
【0037】
膨張ドラム42は、中空円柱状に形成されたドラム本体42aと、その外周に外嵌めされた円筒状のゴム製の膨張スリーブ42bとを有する。ドラム本体42aの外周部には、各々、内部に連通した多数の通気孔42cが形成されている。膨張スリーブ42bの両端部は、それぞれドラム本体42aとの間で固定リング44,45によって封止されている。架橋装置40には、ドラム本体42aの内部に高圧空気を導入して加圧する加圧手段(図示せず)が設けられている。架橋装置40は、上記加圧手段によりドラム本体42aの内部に高圧空気が導入されると、高圧空気が通気孔42cを通ってドラム本体42aと膨張スリーブ42bとの間に入って膨張スリーブ42bを径方向外向きに膨張させるように構成されている。
【0038】
円筒金型43は、基台41に脱着可能に構成されている。基台41に取り付けられた円筒金型43は、膨張ドラム42との間に間隔をおいて同心状に設けられる。円筒金型43は、内周面に、各々、周方向に延びる複数のVリブ形成溝43aが軸方向(溝幅方向)に連設されている。各Vリブ形成溝43aは、溝底側に向かうに従って幅狭に形成されており、具体的には、断面形状が、製造するVリブドベルトBのVリブ15と同一形状に形成されている。架橋装置40には、円筒金型43の加熱手段及び冷却手段(いずれも図示せず)が設けられており、これらの加熱手段及び冷却手段により円筒金型43の温度制御が可能となるように構成されている。
【0039】
実施形態に係るVリブドベルトBの製造方法では、まず、ゴム成分に、架橋剤と不飽和カルボン酸金属塩及び/又はマレイミド化合物とを含む各ゴム配合剤を配合し、ニーダー、バンバリーミキサー等の混練機で混練し、得られた未架橋ゴム組成物をカレンダー成形等によってシート状に成形して圧縮ゴム層11用の未架橋ゴムシート11’を作製する。同様に、接着ゴム層12用の未架橋ゴムシート12’も作製する。また、リブ側補強布14及び背面補強布13を準備し、必要に応じて接着処理を施す。接着処理は背面補強布13には施し、リブ側補強布14には施さないことが好ましい。背面補強布13及びリブ側補強布14は、予め筒状に形成しておいてもよい。さらに、心線16を準備し、必要に応じて心線16に接着処理を施す。
【0040】
次いで、図3Aに示すように、表面が平滑な円筒ドラム46上にゴムスリーブ47を被せ、その上に、背面補強布13、及び接着ゴム層12用の未架橋ゴムシート12’を順に巻き付けて積層し、その上から心線16を螺旋状に巻き付け、更にその上から接着ゴム層12用の未架橋ゴムシート12’、及び圧縮ゴム層11用の未架橋ゴムシート11’を順に巻き付ける。最後に、未架橋ゴムシート11’の上にリブ側補強布14を巻き付けて未架橋スラブS’を成形する。
【0041】
次いで、円筒ドラム46から未架橋スラブS’を設けたゴムスリーブ47を外し、図3Bに示すように、円筒金型43の内周面側に内嵌めした後、その未架橋スラブS’を設けた円筒金型43を、膨張ドラム42を覆うように設けて基台41に取り付ける。
【0042】
続いて、円筒金型43を加熱すると共に、図3Cに示すように、膨張ドラム42のドラム本体42aと膨張スリーブ42bとの間に通気孔42cを介して高圧空気を注入して膨張スリーブ42bを膨張させる。このとき、未架橋スラブS’が円筒金型43に対して押し付けられ、未架橋ゴムシート11’,12’がリブ側補強布14を押圧して伸張させながらVリブ形成溝43aに流入するとともに、それらのゴム成分の架橋が進行して一体化し、かつリブ側補強布14、心線16、及び背面補強布13と複合し、最終的に、円筒状のベルトスラブSが成型される。このベルトスラブSの成型温度は例えば100℃以上180℃以下、成型圧力は例えば0.5MPa以上2.0MPa以下、成型時間は例えば10分以上60分以下である。
【0043】
そして、膨張ドラム42のドラム本体42aと膨張スリーブ42bとの間から高圧空気を抜いた後、円筒金型43の内周面上に成型されたベルトスラブSを取り出し、ベルトスラブSを所定のVリブ15の個数に輪切りして表裏を裏返すことによりVリブドベルトBが得られる。
【実施例
【0044】
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
ここでは、実施例1~9及び比較例1、2のVリブドベルトを作製し、評価した。
【0045】
<圧縮ゴム材料>
圧縮ゴム層を形成するためのゴム材料として、EPDM(JSR社製 商品名:EP22)をゴム成分とし、このゴム成分100質量部に対し、所定量のHAFカーボンブラック(東海カーボン社製 商品名:シースト3)、可塑剤(日本サン石油社製 商品名:サンフレックス2280)8質量部、硫黄(細井化学社製 商品名:オイルサルファー)1.5質量部、加硫促進剤(1)(大内新興化学社製 商品名:ノクセラーMSA-G)1質量部、加硫促進剤(2)(三新化学社製 商品名:サンセラーEM-2)3質量部、加硫促進助剤としての酸化亜鉛(堺化学工業社製 商品名:亜鉛華2号)5質量部、所定量のメタクリル酸亜鉛(川口化学社製 商品名:アクターZMA)、及び所定量のマレイミド化合物(大内新興化学社製 商品名:バルノックPM)を配合したものをバンバリーミキサーで混練後、カレンダーロールで圧延して、厚さ1.0mmのシートを作製した。
圧縮ゴム材料の組成は表1にも示した。
【0046】
【表1】
【0047】
<接着ゴム材料>
接着ゴム層を形成するための接着ゴム材料としては、各実施例及び比較例において、圧縮ゴム材料と同様の組成で配合原料を配合したものをバンバリーミキサーで混練後、カレンダーロールで圧延したものを準備した。
【0048】
<心線>
心線としては、ポリエステル繊維の撚り糸を準備し、これをRFL水溶液に浸漬し、その後、加熱乾燥する接着処理を行ったものを用意した。
【0049】
<リブ側補強布>
リブ側補強布として、綿繊維を用いた平編(天竺編)のニット布を用意した。
上記ニット布に接着処理を施さなかったものをニット1とした。
上記ニット布にRFL水溶液に浸漬し、その後、加熱乾燥する接着処理を行ったものをニット2とした。
【0050】
<背面補強布>
リブ側補強布として用意した、RFL処理が施されたニット2を背面補強布とした。
【0051】
(実施例1)
上記実施形態と同様の構成を有し、リブ側補強布としてニット1を使用し、圧縮ゴム材料、接着ゴム材料、心線及び背面補強布として上述したものを使用したVリブドベルトを、図2A図3Cを参照しながら説明した製造方法で作製し、実施例1のVリブドベルトとした。ここでは、Vリブの個数が6個のVリブドベルトと3個のVリブドベルトとを作製した。
【0052】
また、実施例1で採用した圧縮ゴム層とリブ側補強布との接着力を測定するための評価サンプルを別途作製した。
ここでは、カレンダーロールで圧延した未架橋の圧縮ゴム材料からなるシートをカットし、積層して、長さ180mm×幅40mm×厚さ6mmの積層体を作製した。この積層体の上に綿繊維の編物であるニット1を載せ、160℃で30分間プレスして評価サンプルを作製した。
【0053】
(実施例2~9及び比較例1)
表1に示した圧縮ゴム材料を用いた以外は、実施例1と同様にして、Vリブの個数が6個のVリブドベルトと3個のVリブドベルトとを作製した。
また、実施例1と同様の手法を用いて、実施例2~9及び比較例1のそれぞれで採用した圧縮ゴム層とリブ側補強布との接着力を測定するための評価サンプルを作製した。
【0054】
(比較例2)
表1に示した圧縮ゴム材料を使用し、リブ側補強布としてニット2を採用した以外は、実施例1と同様にして、Vリブの個数が6個のVリブドベルトと3個のVリブドベルトとを作製した。
また、実施例1と同様の手法を用いて、比較例2で採用した圧縮ゴム層とリブ側補強布との接着力を測定するための評価サンプルを作製した。
【0055】
実施例及び比較例で作製したVリブドベルト及び評価サンプルに対して下記の評価を行った。結果を表2に示した。
【0056】
(試験方法)
<接着力試験>
実施例及び比較例のそれぞれで作製した、架橋した圧縮ゴム材料とリブ側補強布との接着力を測定するための評価サンプルに、25.4mm幅で切れ目を入れ、ゴムと編物の端をチャックして、剥離速度50mm/分の条件で剥離試験を行い、上記接着力を測定した。結果を表2に示した。
【0057】
<耐久性評価試験>
図4は、耐久性評価試験のベルト走行試験機50のプーリレイアウトを示す。
【0058】
ベルト走行試験機50は、各々、プーリ径が120mmのリブプーリである大径従動プーリ51及び駆動プーリ52が上下に間隔をおいて設けられ、また、それらの上下方向中間にプーリ径が70mmの平プーリであるアイドラプーリ53が設けられ、更に、アイドラプーリ53の右方にプーリ径が55mmのリブプーリである小径従動プーリ54が設けられている。そして、このベルト走行試験機50は、VリブドベルトBのVリブ側がリブプーリである大径従動プーリ51、駆動プーリ52、及び小径従動プーリ54に接触すると共に背面側が平プーリであるアイドラプーリ53に接触して巻き掛けられるように構成されている。なお、小径従動プーリ54はVリブドベルトBの巻き掛け角度が90°となるように位置付けられている。
【0059】
実施例及び比較例のそれぞれのVリブの個数が3個のVリブドベルトBについて、ベルト走行試験機50にセットし、大径従動プーリ51に11.8kWの回転負荷を与え、ベルト張力が負荷されるように小径従動プーリ54に側方に686Nのデッドウェイトを負荷し、雰囲気温度120℃の下、駆動プーリ52を4900rpmの回転数で回転させてベルト走行させた。そして、168時間走行後、VリブドベルトBのリブ側補強布14の圧縮ゴム層からの剥離の有無を確認した。結果を表2に示した。
【0060】
<注水伝動能力試験>
図5は、注水伝動能力試験のベルト走行試験機60のプーリレイアウトを示す。
【0061】
このベルト走行試験機60は、向かって左下にプーリ径が121.6mmのリブプーリの第1駆動プーリ61が設けられ、その右方にプーリ径が141.5mmのリブプーリの第2駆動プーリ62が設けられている。第2駆動プーリ62の右斜め上方にはプーリ径が77.0mmのリブプーリの第1従動プーリ63が設けられ、第2駆動プーリ62の上方にはプーリ径が61.0mmのリブプーリの第2従動プーリ64が設けられている。第1駆動プーリ61と第2従動プーリ64との間にはプーリ径が76.2mmの平プーリの第1アイドラプーリ65が設けられ、第1従動プーリ63と第2従動プーリ64との間にはプーリ径が76.2mmの平プーリの第2アイドラプーリ66が設けられている。第2従動プーリ64は、上下に可動に設けられており、軸荷重を負荷できるように構成されている。
【0062】
実施例及び比較例のそれぞれのVリブの個数が6個のVリブドベルトBについて、Vリブ側が接触するように、第1及び第2駆動プーリ61,62並びに第1及び第2従動プーリ63,64に巻き掛けるとともに、背面補強布側が接触するように、第1及び第2アイドラプーリ65,66に巻き掛け、第2従動プーリ64に上方に706Nの軸荷重(DW)をかけてベルト張力を与えた。VリブドベルトBの第2駆動プーリ62への巻き掛かり角度は39°であった。次いで、21℃の温度雰囲気下、第1駆動プーリ61を800rpm及び第2駆動プーリ62を931rpmのそれぞれの回転数で同一方向に回転させ、それにより第2駆動プーリ62上においてVリブドベルトBを強制的にスリップさせた。また、第1駆動プーリ61の右側のVリブドベルトBの巻き掛かり始めの部分のVリブ表面には1分間に300mlの割合で水滴を滴下した。そして、第2駆動プーリ62に設けたトルクメータにより、発生トルクの最大値を計測した。
また、注水伝動能力試験と同時に異音の発生の有無を確認し、異音を聴覚によって観測されなかった場合をA、異音が聴覚によって観測された場合をBと評価した。結果を表2に示した。
【0063】
【表2】
【0064】
表2に示した通り、本発明の実施形態に係るVリブドベルトによれば、圧縮ゴム層とリブ側補強布との密着性を確保することができる。
また、接着処理が施されていないリブ側補強布を採用することにより、注水時の異音耐久性の向上を図ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本開示のVリブドベルトは、例えば、自動車の補機構駆動ベルト伝動装置等に有用である。
【符号の説明】
【0066】
10 ベルト本体
11 圧縮ゴム層
11a Vリブ本体
12 接着ゴム層
13 背面補強布
14 リブ側補強布
15 Vリブ
16 心線
40 架橋装置
50、60 走行試験機
11’、12’ 未架橋ゴムシート
B Vリブドベルト
図1
図2A
図2B
図3A
図3B
図3C
図4
図5