(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-17
(45)【発行日】2023-11-28
(54)【発明の名称】軟磁性粉末、それを含有する圧粉磁心、及び軟磁性粉末の製造方法
(51)【国際特許分類】
C22C 33/02 20060101AFI20231120BHJP
B22F 1/142 20220101ALI20231120BHJP
H01F 1/20 20060101ALI20231120BHJP
H01F 1/22 20060101ALI20231120BHJP
H01F 27/255 20060101ALI20231120BHJP
【FI】
C22C33/02 N
B22F1/142 100
H01F1/20
H01F1/22
H01F27/255
(21)【出願番号】P 2021053336
(22)【出願日】2021-03-26
【審査請求日】2022-11-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】110001047
【氏名又は名称】弁理士法人セントクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】明渡 邦夫
(72)【発明者】
【氏名】田口 理恵
(72)【発明者】
【氏名】村崎 孝則
(72)【発明者】
【氏名】岡崎 崇央
(72)【発明者】
【氏名】石野 尊拡
【審査官】池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】特開昭56-119753(JP,A)
【文献】特開2009-147252(JP,A)
【文献】特開2021-025083(JP,A)
【文献】田中 寿郎 他,Fe-(4~6 wt%)Si-(2~5 wt%)Al系合金単結晶の磁気異方性と磁歪,日本応用磁気学会誌,第12巻、第2号,1988年04月30日,p.269-272,DOI https://doi.org/10.3379/jmsjmag.12.269
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 1/00-9/30
H01F 1/12-1/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Fe-Si-Al合金からなり、
平均粒径が1~50μmの範囲内にあり、
X線回折測定における(111)、(200)及び(220)ピークの強度比から下記式:
DO
3型規則相の割合=I
111/I
200×100÷7
B2型規則相の割合=(I
200/I
220×100-I
111/I
220×300÷7)÷17.5
〔式中、I
111は(111)ピーク強度を表し、I
200は(200)ピーク強度を表し、I
220は(220)ピーク強度を表す。〕
により求められるDO
3型規則相の割合が0.2~0.85の範囲内にあり、B2型規則相の割合が0.05~0.8の範囲内にあ
り、
前記DO
3
型規則相の割合と前記B2型規則相の割合と不規則相の割合の合計が1である、
ことを特徴とする軟磁性粉末。
【請求項2】
X線回折測定における(220)ピークの半値幅が0.1度以下であることを特徴とする請求項1に記載の軟磁性粉末。
【請求項3】
前記B2型規則相の割合が0.05~0.5の範囲内にあることを特徴とする請求項1又は2に記載の軟磁性粉末。
【請求項4】
請求項
1~3のうちのいずれか一項に記載の軟磁性粉末を含有することを特徴とする圧粉磁心。
【請求項5】
平均粒径が1~50μmの範囲内にあり、X線回折測定における(111)、(200)及び(220)ピークの強度比から下記式:
DO
3型規則相の割合=I
111/I
200×100÷7
B2型規則相の割合=(I
200/I
220×100-I
111/I
220×300÷7)÷17.5
〔式中、I
111は(111)ピーク強度を表し、I
200は(200)ピーク強度を表し、I
220は(220)ピーク強度を表す。〕
により求められるDO
3型規則相の割合が0.2以下であり、B2型規則相の割合が0.05以下であ
り、前記DO
3
型規則相の割合と前記B2型規則相の割合と不規則相の割合の合計が1であり、FeとSiとAlとの合計量に対して、Siの含有量が5~15質量%であり、Alの含有量が2~10質量%である、原料Fe-Si-Al合金粉末を、不活性雰囲気中又は還元性雰囲気中、800℃以上の温度で熱処理した後、少なくとも800℃~600℃の範囲内においては10℃/時間~200℃/時間の範囲内の降温速度で徐冷することを特徴とする軟磁性粉末の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軟磁性粉末、それを含有する圧粉磁心、及び軟磁性粉末の製造方法に関し、より詳しくは、Fe-Si-Al合金からなる軟磁性粉末、それを含有する圧粉磁心、及び軟磁性粉末の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
圧粉磁心は、表面が絶縁被膜で覆われた磁性粒子を圧縮成形することによって得られるものであり、変圧器(トランス)、電動機(モータ)、発電機、スピーカ、誘導加熱器、各種アクチュエータ等の電磁気を利用した様々な製品に用いられている。このような圧粉磁心においては、周波数に応じて生じる高周波損失(鉄損)が少ないことが求められている。この鉄損は、ヒステリシス損と渦電流損とから決まるものであり、ヒステリシス損は、圧粉磁心に含まれる軟磁性粉末の保磁力が低いほど少なくなり、渦電流損は軟磁性粉末の粒子径が小さいほど少なくなる。
【0003】
保磁力が低い軟磁性材料としては、Fe-Si-Al合金であるセンダストが知られている。このFe-Si-Al合金であるセンダストは、組成:Fe-9.6%Si-5.4%Alの近傍において、磁歪定数及び磁気異方性定数がともにほぼ0となり、高い透磁率と低い保磁力が得られることも知られている。しかしながら、このような高い透磁率と低い保磁力を有するセンダストは、DO3型規則相が最大限に含まれているバルク磁性体であり、このようなバルク磁性体を粉末化したセンダスト粉末は、保磁力がバルク磁性体よりも高くなるため、圧粉磁心に配合しても、鉄損を低下させることは困難であった。
【0004】
一方、特開平7-320933号公報(特許文献1)には、Fe-Si-Al合金軟磁性膜においては、DO3相の割合を50%以上とすることによって、透磁率が高くなることが記載されており、Fe-Si-Al合金軟磁性膜を成膜した後、550~800℃で所定の時間熱処理することによって、DO3相の割合が50%以上となることが記載されている。また、特開2005-281783号公報(特許文献2)には、Fe-Si-Al合金のDO3構造という結晶構造がFe-Si-Al合金を含む軟磁性合金粉末の透磁率特性を向上させることが記載されており、このDO3構造は500~900℃で熱処理することによって生成しやすくなることが記載されている。しかしながら、特許文献1~2に記載の温度でFe-Si-Al合金粉末に熱処理を施しても、透磁率が高い軟磁性粉末は得られるものの、保磁力が低い軟磁性粉末は得られなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平7-320933号公報
【文献】特開2005-281783号公報
【発明の概要】
【0006】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、Fe-Si-Al合金からなり、保磁力が低い軟磁性粉末、それを含有する低鉄損化された圧粉磁心、及び前記軟磁性粉末の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、DO3型規則相及びB2型規則相が少ないFe-Si-Al合金粉末を、不活性雰囲気中又は還元性雰囲気中、所定の温度で熱処理した後、所定の条件で徐冷することによって、DO3型規則相及びB2型規則相の割合が所定の範囲内にあるFe-Si-Al合金からなり、保磁力が低い軟磁性粉末が得られること、さらに、この低保磁力の軟磁性粉末を用いることによって、鉄損が少ない圧粉磁心が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明の軟磁性粉末は、Fe-Si-Al合金からなり、平均粒径が1~50μmの範囲内にあり、X線回折測定における(111)、(200)及び(220)ピークの強度比から下記式:
DO3型規則相の割合=I111/I200×100÷7
B2型規則相の割合=(I200/I220×100-I111/I220×300÷7)÷17.5
〔式中、I111は(111)ピーク強度を表し、I200は(200)ピーク強度を表し、I220は(220)ピーク強度を表す。〕
により求められるDO3型規則相の割合が0.2~0.85の範囲内にあり、B2型規則相の割合が0.05~0.8の範囲内にあり、
前記DO
3
型規則相の割合と前記B2型規則相の割合と不規則相の割合の合計が1である、
ことを特徴とするものである。
【0009】
本発明の軟磁性粉末においては、X線回折測定における(220)ピークの半値幅が0.1度以下であることが好ましい。また、前記B2型規則相の割合が0.05~0.5の範囲内にあることが好ましい。
【0010】
また、本発明の圧粉磁心は、前記本発明の軟磁性粉末を含有することを特徴とするものである。
【0011】
さらに、本発明の軟磁性粉末の製造方法は、平均粒径が1~50μmの範囲内にあり、
X線回折測定における(111)、(200)及び(220)ピークの強度比から下記式:
DO3型規則相の割合=I111/I200×100÷7
B2型規則相の割合=(I200/I220×100-I111/I220×300÷7)÷17.5
〔式中、I111は(111)ピーク強度を表し、I200は(200)ピーク強度を表し、I220は(220)ピーク強度を表す。〕
により求められるDO3型規則相の割合が0.2以下であり、B2型規則相の割合が0.05以下であり、前記DO
3
型規則相の割合と前記B2型規則相の割合と不規則相の割合の合計が1であり、FeとSiとAlとの合計量に対して、Siの含有量が5~15質量%であり、Alの含有量が2~10質量%である、原料Fe-Si-Al合金粉末を、不活性雰囲気中又は還元性雰囲気中、800℃以上の温度で熱処理した後、少なくとも800℃~600℃の範囲内においては10℃/時間~200℃/時間の範囲内の降温速度で徐冷することを特徴とする方法である。
【0013】
なお、本発明の軟磁性粉末の保磁力が低くなる理由は必ずしも定かではないが、本発明者らは以下のように推察する。すなわち、Fe-Si-Al合金において、DO3型規則相は、良好な磁気特性を得るためには、その割合が多いことが好ましいが、低保磁力化のみに着目すると、DO3型規則相は、不規則相に比べて、磁化容易軸と磁化困難軸とのエネルギー差がわずかに大きい、すなわち、結晶磁気異方性定数が大きいため、DO3型規則相の割合が多くなると、保磁力が高くなると推察される。Fe-Si-Al合金のバルク磁性体においては、DO3型規則相を磁化容易軸に配向させることによって、磁化容易軸と磁束の方向とを一致させることにより、保磁力を低くすることが可能であるが、圧粉磁心においては、Fe-Si-Al合金粉末のDO3型規則相がランダムに配向しているため、磁化容易軸と磁束の方向とを一致させることができず、保磁力を低くすることは困難であると推察される。
【0014】
そこで、本発明においては、Fe-Si-Al合金粉末におけるDO3型規則相の割合を所定の上限以下に調整して不規則相や不規則相とDO3型規則相との中間のB2型規則相を導入することによって、DO3型規則相の良好な磁気特性を保持しつつ、結晶磁気異方性定数を小さくすることができ、保磁力を低くすることが可能になったと推察される。また、DO3型規則相の割合を所定の下限以上に調整することによって、DO3型規則相の良好な磁気特性を保持しつつ、局所的なSi-Si結合やAl-Al結合による磁気ピニングサイトの形成を抑制し、保磁力の増大を防止することが可能になったと推察される。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、Fe-Si-Al合金からなり、保磁力が低い軟磁性粉末、及びそれを含有する低鉄損化された圧粉磁心を得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】Fe-Si-Al合金粉末の保磁力とDO
3型規則相の割合との関係を示すグラフである。
【
図2】Fe-Si-Al合金粉末の保磁力とB2型規則相の割合との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
【0018】
〔軟磁性粉末〕
先ず、本発明の軟磁性粉末について説明する。本発明の軟磁性粉末は、Fe-Si-Al合金からなり、平均粒径が1~50μmの範囲内にあり、X線回折測定における(111)、(200)及び(220)ピークの強度比から下記式:
DO3型規則相の割合=I111/I200×100÷7
B2型規則相の割合=(I200/I220×100-I111/I220×300÷7)÷17.5
〔式中、I111は(111)ピーク強度を表し、I200は(200)ピーク強度を表し、I220は(220)ピーク強度を表す。〕
により求められるDO3型規則相の割合が0.2~0.85の範囲内にあり、B2型規則相の割合が0.05~0.8の範囲内にある、ものである。このような軟磁性粉末は、保磁力が低く、圧粉磁心の低鉄損化を可能にする。
【0019】
本発明の軟磁性粉末は、Fe-Si-Al合金からなる粉末であり、Siの含有量としては、FeとSiとAlとの合計量に対して、5~15質量%が好ましく、7~12質量%がより好ましく、9~10質量%が特に好ましい。Siの含有量が前記下限未満になると、結晶磁気異方性定数が大きくなり、保磁力が大きくなる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、徐冷してもB2型規則相が得られにくくなり、保磁力が大きくなる傾向にある。
【0020】
また、本発明の軟磁性粉末において、Alの含有量としては、FeとSiとAlとの合計量に対して、2~10質量%が好ましく、3~7質量%がより好ましく、5~6質量%が特に好ましい。Alの含有量が前記下限未満になると、徐冷してもB2型規則相が得られにくくなり、保磁力が大きくなる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、結晶磁気異方性定数が大きくなり、保磁力が大きくなる傾向にある。
【0021】
本発明の軟磁性粉末の平均粒径は1~50μmの範囲内にあることが必要であり、3~30μmの範囲内にあることが好ましく、5~15μmの範囲内にあることがより好ましい。軟磁性粉末の平均粒径が前記下限未満になると、酸化の影響が大きくなり、良好な磁気特性が得られない傾向にあり、他方、前記上限を超えると、軟磁性粉末を用いて成形体を作製した場合に、粒子の充填率が低くなるため、高い透磁率を有する成形体が得られない傾向にある。
【0022】
本発明の軟磁性粉末において、Fe-Si-Al合金粉末の磁気特性を示す結晶相としては、DO3型規則相(例えば、PDF#00-045-1206)、B2型規則相(例えば、PDF#04-018-0311)及び不規則相(例えば、PDF#04-016-6265)を含有するものである。B2型規則相は、DO3型規則相と不規則相との中間の状態であり、体心立方格子のコーナー部のFeと中心部(Fe、Si、Al)との間には規則性があるが、中心部のFeとSiとAlの並びには規則性がないため、結晶磁気異方性定数は、体心立方格子のコーナー部のFeと中心部(Fe、Si、Al)との間及びに中心部のFeとSiとAlの並びに規則性があるDO3型規則相に比べて、低くなり、不規則相の場合と同様に、低保磁力化を可能にする。
【0023】
本発明の軟磁性粉末は、DO3型規則相の割合が0.2~0.85の範囲内にあることが必要であり、0.4~0.8の範囲内にあることが好ましく、0.5~0.7の範囲内にあることがより好ましい。DO3型規則相の割合が前記下限未満になると、磁気特性が低下し、また、局所的にSi-Si結合やAl-Al結合が生成して磁気ピニングサイトが形成され、保磁力が高くなる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、保磁力が高くなり、圧粉磁心の低鉄損化が困難となる傾向にある。
【0024】
また、本発明の軟磁性粉末は、B2型規則相の割合が0.05~0.8の範囲内にあることが必要であり、0.05~0.6の範囲内にあることが好ましく、0.05~0.5の範囲内にあることがより好ましい。B2型規則相はDO3型規則相と不規則相との中間の状態であり、B2型規則相の割合が前記下限未満になると、DO3型規則相と不規則相との共存状態が不安定となる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、熱的に不安定となり、耐熱性が低下する傾向にある。
【0025】
なお、DO3型規則相及びB2型規則相の割合は以下のようにして求められる値である。すなわち、軟磁性粉末(Fe-Si-Al合金粉末)について、光源としてCuKαを用いてX線回折測定を行い、X線回折パターンを得る。各結晶相において、PDFに示された(111)ピーク強度I111と(200)ピーク強度I200と(220)ピーク強度I220との比は、DO3型規則相でI111:I200:I220=7:3:100であり、B2型規則相でI111:I200:I220=0:17.5:100であり、不規則相でI111:I200:I220=0:0:100であることから、得られたX線回折パターンにおける(111)、(200)及び(220)ピークの強度比I111:I200:I220を、PDFに示された各結晶相の前記ピーク強度比でフィッティングして求め、下記式:
DO3型規則相の割合=I111/I200×100÷7
B2型規則相の割合=(I200/I220×100-I111/I220×300÷7)÷17.5
により、DO3型規則相及びB2型規則相の各割合を求める。ここで得られるDO3型規則相及びB2型規則相の各割合は、DO3型規則相とB2型規則相と不規則相の各割合の合計を1とした場合の値である。
【0026】
本発明の軟磁性粉末においては、前記X線回折パターンにおける(220)ピークの半値幅が0.1度以下であることが好ましく、0.08度以下であることがより好ましく、0.07度以下であることが特に好ましい。(220)ピークの半値幅が前記上限を超えると、結晶性が低下し、透磁率が低下する傾向にある。
【0027】
また、本発明の軟磁性粉末においては、その表面が絶縁被膜で覆われていることが好ましい。これにより、圧粉磁心に配合した場合、軟磁性粒子間を絶縁することができ、渦電流損を低減させることができる。このような絶縁被膜としては特に制限はないが、例えば、金属酸化物膜や樹脂膜等が挙げられ、中でも、シリカ膜、アルミナ膜、NiZnフェライト膜、MnZnフェライト膜、シリコーン樹脂膜が好ましい。
【0028】
このような本発明の軟磁性粉末は、例えば、以下の方法により製造することができる。すなわち、本発明の軟磁性粉末の製造方法は、平均粒径が1~50μmの範囲内にあり、X線回折測定における(111)、(200)及び(220)ピークの強度比から下記式:
DO3型規則相の割合=I111/I200×100÷7
B2型規則相の割合=(I200/I220×100-I111/I220×300÷7)÷17.5
〔式中、I111は(111)ピーク強度を表し、I200は(200)ピーク強度を表し、I220は(220)ピーク強度を表す。〕
により求められるDO3型規則相の割合が0.2以下であり、B2型規則相の割合が0.05以下である原料Fe-Si-Al合金粉末を、不活性雰囲気中又は還元性雰囲気中、800℃以上の温度で熱処理した後、少なくとも800℃~600℃の範囲内においては10℃/時間~200℃/時間の範囲内の降温速度で徐冷する方法である。この方法によって、前記本発明の軟磁性粉末を製造することができる。
【0029】
原料Fe-Si-Al合金粉末において、Siの含有量としては、FeとSiとAlとの合計量に対して、5~15質量%が好ましく、7~12質量%がより好ましく、9~10質量%が特に好ましい。Siの含有量が前記下限未満になると、結晶磁気異方性定数が大きくなり、保磁力が大きくなる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、徐冷してもB2型規則相が得られにくくなり、保磁力が大きくなる傾向にある。
【0030】
また、原料Fe-Si-Al合金粉末において、Alの含有量としては、FeとSiとAlとの合計量に対して、2~10質量%が好ましく、3~7質量%がより好ましく、5~6質量%が特に好ましい。Alの含有量が前記下限未満になると、徐冷してもB2型規則相が得られにくくなり、保磁力が大きくなる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、結晶磁気異方性定数が大きくなり、保磁力が大きくなる傾向にある。
【0031】
また、原料Fe-Si-Al合金粉末の平均粒径は1~50μmの範囲内にあることが必要であり、3~30μmの範囲内にあることが好ましく、5~15μmの範囲内にあることがより好ましい。原料Fe-Si-Al合金粉末の平均粒径が前記下限未満になると、得られる軟磁性粉末が酸化の影響を受けやすく、良好な磁気特性が得られない傾向にあり、他方、前記上限を超えると、得られる軟磁性粉末を用いて成形体を作製した場合に、粒子の充填率が低くなるため、高い透磁率を有する成形体が得られない傾向にある。
【0032】
原料Fe-Si-Al合金粉末は、DO3型規則相の割合が0.2以下若しくはB2型規則相の割合が0.05以下であることが必要であり、DO3型規則相の割合が0.1以下若しくはB2型規則相の割合が0.03以下であることが好ましい。原料Fe-Si-Al合金粉末のDO3型規則相及びB2型規則相の割合が前記上限を超えると、DO3型規則相及びB2型規則相の割合が所定の範囲内にあるFe-Si-Al合金を形成することによる保磁力低減効果が得られにくくなる傾向にある。
【0033】
なお、原料Fe-Si-Al合金粉末のDO3型規則相及びB2型規則相の割合は、上述した軟磁性粉末のDO3型規則相及びB2型規則相の割合と同様にして求めることができる。
【0034】
このような原料Fe-Si-Al合金粉末の調製方法としては特に制限はないが、ガスアトマイズ法、水アトマイズ法、インゴッド粉砕法、溶液中合成法等が挙げられる。これらの方法により調製したFe-Si-Al合金は、必要に応じて粉砕処理を施した後、篩分け等により、所定の平均粒径に整粒して用いる。
【0035】
本発明の軟磁性粉末の製造方法においては、このような原料Fe-Si-Al合金粉末を、不活性雰囲気中又は還元性雰囲気中、所定の温度で熱処理した後、所定の条件で徐冷する。
【0036】
不活性雰囲気としては特に制限はなく、例えば、アルゴン雰囲気、窒素雰囲気、ヘリウム雰囲気等が挙げられる。還元性雰囲気としては、水素とアルゴンとの混合ガス雰囲気、水素と窒素との混合ガス雰囲気、水素とヘリウムとの混合ガス雰囲気等が挙げられる。
【0037】
熱処理温度としては、800℃以上であることが必要であり、850℃以上であることが好ましく、900℃以上であることがより好ましい。熱処理温度が前記下限未満になると、DO3型規則相及びB2型規則相の割合が所定の範囲内の軟磁性粉末を得ることが困難である。また、熱処理温度の上限としては特に制限はないが、1300℃以下が好ましい。熱処理温度が前記上限を超えると、熱処理温度がFe-Si-Al合金の融点を超えるため、所望の形状の軟磁性粉末を得ることが困難となる。
【0038】
熱処理時間としては特に制限はないが、1~100時間が好ましく、1~10時間がより好ましく、2~5時間が特に好ましい。熱処理時間が前記下限未満になると、結晶性が十分に向上せず、良好な磁気特性が得られない傾向にあり、他方、前記上限を超えると、粒子の焼結が起こり、所望の形状の軟磁性粉末を得ることが困難となり、また、生産性が低下する傾向にある。
【0039】
本発明の軟磁性粉末の製造方法においては、徐冷時の降温速度が、10℃/時間~200℃/時間の範囲内にあることが必要であり、30℃/時間~150℃/時間の範囲内にあることが好ましく、30℃/時間~100℃/時間の範囲内にあることがより好ましい。降温速度が前記下限未満になると、生産性が低下する。他方、降温速度が前記上限を超えると、DO3型規則相の割合が所定の範囲より大きくなるため、得られる軟磁性粉末において、保磁力が増大する。さらに、B2型規則相の割合も所定の範囲より小さくなるため、得られる軟磁性粉末においては、DO3型規則相と不規則相との共存状態が不安定となる傾向にある。
【0040】
また、本発明の軟磁性粉末の製造方法においては、少なくとも800℃~600℃の範囲内において所定の降温速度で徐冷すればよい。したがって、前記温度範囲よりも広い温度範囲内(例えば、900℃~500℃の範囲内)において所定の降温速度で徐冷してもよい。所定の降温速度で徐冷する温度範囲が前記温度範囲よりも狭くなると(例えば、750~650℃の範囲内になると)、DO3型規則相の割合が所定の範囲より大きくなるため、得られる軟磁性粉末において、保磁力が増大する傾向にある。
【0041】
〔圧粉磁心〕
次に、本発明の圧粉磁心について説明する。本発明の圧粉磁心は、前記本発明の軟磁性粉末を含有するものであり、前記軟磁性粉末の表面は絶縁被膜で覆われていることが好ましい。このような本発明の圧粉磁心は、例えば、以下の方法により製造することができる。すなわち、先ず、前記軟磁性粉末(好ましくは、絶縁被膜で覆われている前記軟磁性粉末)と結着剤等の各種添加剤と混合する。結着剤としては、ポリビニルアルコールやポリビニルブチラール等が挙げられる。
【0042】
前記軟磁性粉末と前記添加剤との混合方法としては特に制限はなく、例えば、ボールミルや乳鉢を用いて混合する方法、溶媒に前記軟磁性粉末と前記添加剤とを分散・溶解させた後、乾燥等により溶媒を除去することによって混合する方法等が挙げられる。また、前記軟磁性粉末は再配列性に劣るため、溶媒に前記軟磁性粉末と前記添加剤とを分散・溶解させた後、スプレードライ等により顆粒状の混合物を調製してもよい。これにより、圧縮成形時に顆粒状の混合物が崩れて前記軟磁性粉末が再配列しやすくなるため、圧粉磁心の密度が向上する。
【0043】
次に、このようにして得られた前記軟磁性粉末と前記添加剤との混合物を、必要に応じて潤滑剤を塗布した金型に充填する。前記潤滑剤としては特に制限はなく、例えば、ステアリン酸リチウム、ステアリン酸亜鉛等の飽和脂肪酸の金属塩、潤滑グリース(例えば、株式会社ミスミ製「M-HGSSC-H500」)等が挙げられる。
【0044】
次に、金型に充填した前記軟磁性粉末と前記添加剤との混合物を加圧成形することによって、本発明の圧粉磁心を得ることができる。成形温度としては、600℃以下が好ましく、100~400℃がより好ましい。成形温度が前記下限未満になると、得られた成形体が離型しにくくなる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、金型の強度が低下し、金型の寿命が短くなる傾向にある。なお、金型は、設定温度(成形温度)に、前記軟磁性粉末と前記添加剤との混合物を充填する前に昇温してもよいし、充填後に昇温してもよい。
【0045】
成形圧力としては500MPa~3GPaが好ましく、800MPa~2GPaがより好ましい。成形圧力が前記下限未満になると、前記混合物が十分に圧縮されないため、圧粉磁心の密度が小さくなる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、スプリングバック現象の影響が大きく、クラックが発生して圧粉磁心の密度が低くなる傾向にある。
【0046】
また、このようにして製造した圧粉磁心には、必要に応じて熱処理を施してもよい。これにより、加圧により圧粉磁心に生じた歪みを緩和し、磁気特性を改善することができる。このような熱処理の温度は通常500~800℃である。
【実施例】
【0047】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、粉末の平均粒径、Fe-Si-Al合金のDO3型規則相、B2型規則相及び不規則相の各割合、並びに、Fe-Si-Al合金粉末の保磁力は以下の方法により求めた。
【0048】
<平均粒径>
Fe-Si-Al合金粉末の体積基準の粒度分布を、レーザー回折・散乱式粒度分布測定装置(マイクロトラック・ベル株式会社製「MT3300EX」)を用いて測定し、得られた粒度分布における50%粒子径をFe-Si-Al合金粉末の平均粒径とした。
【0049】
<X線回折測定>
Fe-Si-Al合金について、光源としてCuKαを用いてX線回折測定を行い、得られたX線回折パターンに基づいて、(111)、(200)及び(220)ピークの強度比I111:I200:I220を求め、下記式:
DO3型規則相の割合=I111/I200×100÷7
B2型規則相の割合=(I200/I220×100-I111/I220×300÷7)÷17.5
不規則相の割合=1-(DO3型規則相の割合+B2型規則相の割合)
により、DO3型規則相、B2型規則相及び不規則相の各割合を求めた。なお、I111は(111)ピーク強度を表し、I200は(200)ピーク強度を表し、I220は(220)ピーク強度を表す。また、DO3型規則相、B2型規則相及び不規則相の各割合は、DO3型規則相とB2型規則相と不規則相の各割合の合計を1とした場合の値である。
【0050】
<保磁力>
振動試料型磁力計(東英工業株式会社製「VSM-3S-15」)を用いて、室温、最大印加磁場20kOeの条件で、Fe-Si-Al合金粉末の保磁力を測定した。
【0051】
(実施例A1)
先ず、Fe-Si-Al合金ガスアトマイズ粉(大同特殊鋼株式会社製、Si:9.64質量%、Al:5.45質量%)を篩分けして平均粒径21μmの原料粉末を得た。この原料粉末のDO3型規則相、B2型規則相及び不規則相の各割合を求めたところ、DO3型規則相:B2型規則相:不規則相=0.00:0.00:1.00であった。
【0052】
次に、この原料粉末をH2(80%)/Ar(20%)の混合ガス雰囲気中、800℃で3時間熱処理した後、800℃から600℃まで100℃/時間の降温速度で徐冷し、その後、600℃から室温まで自然冷却して、平均粒径21μmのFe-Si-Al合金粉末(Si:9.64質量%、Al:5.45質量%)を得た。
【0053】
このFe-Si-Al合金粉末のDO3型規則相、B2型規則相及び不規則相の各割合を前記方法に従って求めた。また、このとき得られたX線回折パターンに基づいて、(220)ピークの半値幅を求めた。さらに、このFe-Si-Al合金粉末の保磁力を前記方法に従って測定した。これらの結果を表1に示す。
【0054】
(実施例A2)
熱処理温度を900℃に変更し、900℃から600℃まで100℃/時間の降温速度で徐冷した以外は実施例A1と同様にして、平均粒径21μmのFe-Si-Al合金粉末(Si:9.64質量%、Al:5.45質量%)を得た。
【0055】
このFe-Si-Al合金粉末のDO3型規則相、B2型規則相及び不規則相の各割合を前記方法に従って求めた。また、このとき得られたX線回折パターンに基づいて、(220)ピークの半値幅を求めた。さらに、このFe-Si-Al合金粉末の保磁力を前記方法に従って測定した。これらの結果を表1に示す。
【0056】
(実施例A3)
降温速度を200℃/時間に変更した以外は実施例A1と同様にして、平均粒径21μmのFe-Si-Al合金粉末(Si:9.64質量%、Al:5.45質量%)を得た。
【0057】
このFe-Si-Al合金粉末のDO3型規則相、B2型規則相及び不規則相の各割合を前記方法に従って求めた。また、このとき得られたX線回折パターンに基づいて、(220)ピークの半値幅を求めた。さらに、このFe-Si-Al合金粉末の保磁力を前記方法に従って測定した。これらの結果を表1に示す。
【0058】
(実施例A4)
先ず、アーク溶解法により、Fe-Si-Al合金インゴット(Si:9.40質量%、Al:5.60質量%)を作製し、スタンプミルを用いて粗粉砕した後、さらに、ボールミルを用いて粉砕し、平均粒径26μmの原料粉末を得た。この原料粉末のDO3型規則相、B2型規則相及び不規則相の各割合を求めたところ、DO3型規則相:B2型規則相:不規則相=0.09:0.04:0.87であった。
【0059】
次に、この原料粉末を用いた以外は実施例A1と同様にして、熱処理し、徐冷し、自然冷却して、平均粒径26μmのFe-Si-Al合金粉末(Si:9.40質量%、Al:5.60質量%)を得た。
【0060】
このFe-Si-Al合金粉末のDO3型規則相、B2型規則相及び不規則相の各割合を前記方法に従って求めた。また、このとき得られたX線回折パターンに基づいて、(220)ピークの半値幅を求めた。さらに、このFe-Si-Al合金粉末の保磁力を前記方法に従って測定した。これらの結果を表1に示す。
【0061】
(実施例A5)
先ず、Fe-Si-Al合金ガスアトマイズ粉(大同特殊鋼株式会社製、Si:9.64質量%、Al:5.45質量%)をボールミルにより粉砕し、平均粒径21μmの原料粉末を得た。この原料粉末のDO3型規則相、B2型規則相及び不規則相の各割合を求めたところ、DO3型規則相:B2型規則相:不規則相=0.00:0.00:1.00であった。
【0062】
次に、この原料粉末を用いた以外は実施例A1と同様にして、熱処理し、徐冷し、自然冷却して、平均粒径21μmのFe-Si-Al合金粉末(Si:9.64質量%、Al:5.45質量%)を得た。
【0063】
このFe-Si-Al合金粉末のDO3型規則相、B2型規則相及び不規則相の各割合を前記方法に従って求めた。また、このとき得られたX線回折パターンに基づいて、(220)ピークの半値幅を求めた。さらに、このFe-Si-Al合金粉末の保磁力を前記方法に従って測定した。これらの結果を表1に示す。
【0064】
(比較例A1)
降温速度を400℃/時間に変更した以外は実施例A1と同様にして、平均粒径21μmのFe-Si-Al合金粉末(Si:9.64質量%、Al:5.45質量%)を得た。
【0065】
このFe-Si-Al合金粉末のDO3型規則相、B2型規則相及び不規則相の各割合を前記方法に従って求めた。また、このとき得られたX線回折パターンに基づいて、(220)ピークの半値幅を求めた。さらに、このFe-Si-Al合金粉末の保磁力を前記方法に従って測定した。これらの結果を表1に示す。
【0066】
(比較例A2)
降温速度を400℃/時間に変更した以外は実施例A4と同様にして、平均粒径26μmのFe-Si-Al合金粉末(Si:9.40質量%、Al:5.60質量%)を得た。
【0067】
このFe-Si-Al合金粉末のDO3型規則相、B2型規則相及び不規則相の各割合を前記方法に従って求めた。また、このとき得られたX線回折パターンに基づいて、(220)ピークの半値幅を求めた。さらに、このFe-Si-Al合金粉末の保磁力を前記方法に従って測定した。これらの結果を表1に示す。
【0068】
(比較例A3)
実施例A1と同様にして、平均粒径21μmの原料粉末を得た。この原料粉末(熱処理していないFe-Si-Al合金粉末)のDO3型規則相、B2型規則相及び不規則相の各割合を前記方法に従って求めた。また、このとき得られたX線回折パターンに基づいて、(220)ピークの半値幅を求めた。さらに、この原料粉末の保磁力を前記方法に従って測定した。これらの結果を表1に示す。
【0069】
(比較例A4)
実施例A4と同様にして、平均粒径26μmの原料粉末を得た。この原料粉末(熱処理していないFe-Si-Al合金粉末)のDO3型規則相、B2型規則相及び不規則相の各割合を前記方法に従って求めた。また、このとき得られたX線回折パターンに基づいて、(220)ピークの半値幅を求めた。さらに、この原料粉末の保磁力を前記方法に従って測定した。これらの結果を表1に示す。
【0070】
【0071】
表1に示した結果に基づいて、Fe-Si-Al合金粉末の保磁力をDO
3型規則相の割合又はB2型規則相の割合に対してプロットした。その結果を
図1及び
図2に示す。
【0072】
表1、
図1及び
図2に示したように、原料のFe-Si-Al合金粉末を所定の温度で熱処理した後、所定の降温速度で徐冷した場合(実施例A1~A5)には、DO
3型規則相及びB2型規則相の割合が所定の範囲内にあるFe-Si-Al合金粉末が得られた。また、このFe-Si-Al合金粉末は、保磁力が1Oe以下と低いものであった。
【0073】
一方、所定の降温速度よりも速い降温速度で徐冷した場合(比較例1~2)には、DO3型規則相が所定の割合よりも多く、B2型規則相が所定の割合よりも少ないFe-Si-Al合金粉末が得られた。また、このFe-Si-Al合金粉末は、保磁力が高く、1Oeを超えるものであった。
【0074】
また、熱処理していない原料のFe-Si-Al合金粉末(比較例3~4)は、DO3型規則相及びB2型規則相がともに所定の割合よりも少なく、不規則相の割合が多いものであった。また、このFe-Si-Al合金粉末は、保磁力が非常に高く、2Oeを超えるものであった。
【0075】
以上の結果から、DO3型規則相及びB2型規則相がともに少なく、不規則相の割合が多いFe-Si-Al合金粉末を所定の温度で熱処理した後、所定の降温速度で徐冷することによって、DO3型規則相及びB2型規則相の割合が所定の範囲内となり、保磁力が低くなることがわかった。
【0076】
(実施例B1)
実施例A1で得られたFe-Si-Al合金粉末(平均粒径:21μm、Si:9.64質量%、Al:5.45質量%、保磁力:0.44Oe)に、O2(2%)/N2(98%)の混合ガス雰囲気中、400℃で1時間熱酸化処理を施し、Fe-Si-Al合金粉末の表面に酸化絶縁被膜を形成した。この酸化絶縁被膜を有する粉末100質量部にポリビニルブチラール0.5質量部を混合し、得られた混合物をリング試験片用金型(外径14mmφ、内径10mmφ)に充填し、手動油圧真空加熱プレス(株式会社井元製作所製「IMC-1823型改」)を用いて、大気中、1.4GPaに加圧しながら150℃で1分間加熱した。加圧を停止した後、真空中、700℃で焼鈍した。その後、室温まで冷却して圧粉磁心を得た。
【0077】
得られた圧粉磁心の鉄損を、B-Hアナライザ(岩崎通信機株式会社製「SY-8218」を用いて、周波数150kHz、印加磁束密度100mTの条件で測定したところ、635kW/m3であった。
【0078】
(比較例B1)
実施例A1で得られたFe-Si-Al合金粉末(平均粒径:21μm、Si:9.64質量%、Al:5.45質量%、保磁力:1.79Oe)の代わりに、比較例A1で得られたFe-Si-Al合金粉末(平均粒径:21μm、Si:9.64質量%、Al:5.45質量%、保磁力:0.44Oe)を用いた以外は実施例B1と同様にして圧粉磁心を作製し、その鉄損を測定したところ、2378kW/m3であった。
【0079】
圧粉磁心の鉄損は、それに含まれる粒子の保磁力に依存するヒステリシス損と粒子の平均粒径に依存する渦電流損とによって決まるものである。実施例A1で得られたFe-Si-Al合金粉末と比較例A1で得られたFe-Si-Al合金粉末においては、平均粒径が同じであることから、渦電流損に差はない。このため、両者の鉄損の差はヒステリシス損の差によるものであることがわかる。そして、保磁力が低い実施例A1で得られたFe-Si-Al合金粉末を含有する圧粉磁心の鉄損が、保磁力が高い比較例A1得られたFe-Si-Al合金粉末を含有する圧粉磁心の鉄損に比べて小さいことから、保磁力が低い軟磁性粉末を用いることによって、圧粉磁心の低鉄損化が可能となると考えられる。
【0080】
以上の結果から、低保磁力である本発明の軟磁性粒子は圧粉磁心の低鉄損化に有効であることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0081】
以上説明したように、本発明によれば、Fe-Si-Al合金からなり、保磁力が低い軟磁性粉末を得ることが可能となる。したがって、本発明の圧粉磁心は、低保磁力の軟磁性粉末を含有することによって低鉄損化されるため、変圧器(トランス)、電動機(モータ)、発電機、スピーカ、誘導加熱器、各種アクチュエータ等の電磁気を利用した製品のコア材等として有用である。