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特許7387733トリス(トリクロロシリル)ジクロロガリルゲルマン、その製造方法およびその使用
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  • 特許-トリス(トリクロロシリル)ジクロロガリルゲルマン、その製造方法およびその使用 図1a
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-17
(45)【発行日】2023-11-28
(54)【発明の名称】トリス(トリクロロシリル)ジクロロガリルゲルマン、その製造方法およびその使用
(51)【国際特許分類】
   C01B 33/08 20060101AFI20231120BHJP
   C01G 17/00 20060101ALI20231120BHJP
   C01B 33/00 20060101ALI20231120BHJP
   C01B 33/06 20060101ALI20231120BHJP
【FI】
C01B33/08
C01G17/00
C01B33/00
C01B33/06
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021526374
(86)(22)【出願日】2019-11-07
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-18
(86)【国際出願番号】 EP2019080530
(87)【国際公開番号】W WO2020099233
(87)【国際公開日】2020-05-22
【審査請求日】2022-09-08
(31)【優先権主張番号】18206148.1
(32)【優先日】2018-11-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】519414848
【氏名又は名称】エボニック オペレーションズ ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】Evonik Operations GmbH
【住所又は居所原語表記】Rellinghauser Strasse 1-11, 45128 Essen, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【弁理士】
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】マティアス ヴァーグナー
(72)【発明者】
【氏名】ユリアン タイヒマン
(72)【発明者】
【氏名】ハンス-ヴォルフラム レアナー
【審査官】玉井 一輝
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-027294(JP,A)
【文献】特表2010-523458(JP,A)
【文献】特開平07-316860(JP,A)
【文献】OLARU, M. et al.,The weakly Coordinationg Tris(trichlorosilyl)silyl Anion,Angewandte Chemie International Edition,2017年,56,16490-16494
【文献】ALBERS, L. et al.,Wagner-Meerwein-Type Rearrangements of Germapolysilanes - A Stable Ion Study,Organometallics,2015年,34,3756-3763
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 33/00 -33/193
C01G 17/00
C23C 16/00 -16/56
H01L 21/205
H01L 21/31
H01L 21/365
H01L 21/469
H01L 21/86
C07F 7/02
C07F 7/30
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I):
【化1】
のトリス(トリクロロシリル)ジクロロガリルゲルマン。
【請求項2】
請求項1記載のトリス(トリクロロシリル)ジクロロガリルゲルマンの製造方法であって、
(a)[X][Ge(SiCl]型の少なくとも1つのトリス(トリクロロシリル)ゲルマニド塩をGaClと混合し、ここで、
Xは、アンモニウム(RN)および/またはホスホニウム(RP)であり、
Rは、アルキル基または芳香族基であり、
(b)少なくとも1つの塩素化炭化水素の環境中で5~40℃の温度で反応させて、塩[RN][GaCl]および/または[RP][GaCl]と、トリス(トリクロロシリル)ジクロロガリルゲルマンとを含む粗生成物を得て、次いで前記粗生成物を、
(c)少なくとも1つの非極性溶媒に導入し、不溶性残渣を分離した後に、
(d)前記非極性溶媒を除去して、トリス(トリクロロシリル)ジクロロガリルゲルマンを得る
ことによる、方法。
【請求項3】
前記ステップbにおいて前記反応を室温で行い、かつ/または前記ステップdにおいて前記非極性溶媒を室温で除去する、請求項2記載の方法。
【請求項4】
前記ステップbにおいて、塩素化炭化水素としてジクロロメタンCHClを使用する、請求項2または3記載の方法。
【請求項5】
前記ステップbにおいて、R=Etを選択する、請求項2から4までのいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
前記ステップcにおいて、ヘキサン、n-ヘキサン、ペンタンおよび/またはベンゼンから選択される前記非極性溶媒を使用する、請求項2から5までのいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
前記ステップaにおいて、
[X][Ge(SiCl]およびGaClであって、これらの成分は固体状態であるものとする成分を撹拌により混合し
前記ステップbにおいて、
前記ステップaで得られた前記混合物を、1種以上の前記塩素化炭化水素に完全に溶解させ、0.1~24時間後に、前記1種以上の塩素化炭化水素を除去する、請求項2から6までのいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
前記ステップcにおいて、前記粗生成物を導入した後に、前記1種以上の非極性溶媒の温度を、1回~5回、RTから高温にし、その後、冷却させる、請求項2から7までのいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
請求項1記載のトリス(トリクロロシリル)ジクロロガリルゲルマン、または請求項2から8までのいずれか1項記載の方法により製造されたトリス(トリクロロシリル)ジクロロガリルゲルマンの、ガリウムドープSi-Ge層を蒸着するための前駆体としての使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規の非帯電性の塩素化物質であるトリス(トリクロロシリル)ジクロロガリルゲルマン、その製造方法およびその使用に関する。
【0002】
ハロシラン、ポリハロシラン、ハロゲルマン、ポリハロゲルマン、シラン、ポリシラン、ゲルマン、ポリゲルマン、および対応する混合化合物は、長年にわたって知られている。無機化学の一般的な教本に加えて、国際公開第2004/036631号、またはC.J. Ritter et al., J. Am. Chem. Soc., 2005, 127, 9855-9864を参照のこと。
【0003】
Lars Muellerらは、J. Organomet. Chem. 1999, 579, 156-163において、部分的に塩素化された有機ゲルマニウム化合物をトリエチルアミンの添加下にトリクロロシランと反応させて、Si-Ge結合を生成する方法について説明している。
【0004】
Thomas Lobreyerらは、SiHとGeHとナトリウムとの反応に基づいて、中性のSi-Ge化合物を生成する別の方法を紹介している(Angew. Chem. 1993, 105, 587-588)。
【0005】
特許出願EP 17173940.2、EP 17173951.9およびEP 17173959.2には、さらなるSi-Ge化合物およびその製造方法が開示されている。
【0006】
そのため、基礎研究の面では、新規の化合物を見出すことや新規の製造経路を探索することが、特に工業的な応用や適宜改善可能な応用についても尽力されている。
【0007】
本発明は、発火性物質や毒性物質を使用せずに非帯電性ケイ素-ゲルマニウム化合物を製造するための新規の合成法を提供するという課題に基づいていた。
【0008】
[RN][Ge(SiCl]または[RP][Ge(SiCl]型のアンモニウムまたはホスホニウムのトリス(トリクロロシリル)ゲルマニド塩を、それぞれGaClおよびアルキルまたは芳香族基Rと反応させることで、ガリウムドープされた非帯電性の塩素化Si-Ge化合物が生成されるまったく新規の合成法が見出された。とりわけ、この新規の合成法の驚くべき点は、ガリウムがわずか1ステップで既存のSi-Ge化合物に導入され、得られるトリス(トリクロロシリル)ジクロロガリルゲルマンが非帯電性であることである。
【0009】
したがって、本発明の対象は、式(I):
【化1】
の物質であるトリス(トリクロロシリル)ジクロロガリルゲルマンである。
【0010】
本発明によるトリス(トリクロロシリル)ジクロロガリルゲルマンの製造方法であって、
(a)[X][Ge(SiCl]型の少なくとも1つのトリス(トリクロロシリル)ゲルマニド塩をGaClと混合し、ここで、
Xは、アンモニウム(RN)および/またはホスホニウム(RP)であり、
Rは、アルキル基または芳香族基であり、
(b)少なくとも1つの塩素化炭化水素の環境中で5~40℃の温度で反応させて、塩[RN][GaCl]および/または[RP][GaCl]と、トリス(トリクロロシリル)ジクロロガリルゲルマンとを含む粗生成物を得て、次いでこの粗生成物を、
(c)少なくとも1種の非極性溶媒に導入し、不溶性残渣を分離した後に、
(d)非極性溶媒を除去して、トリス(トリクロロシリル)ジクロロガリルゲルマンを得る
ことによる方法も同様に対象である。
【0011】
本方法は、例えばSiH、GeHまたはナトリウムなどの発火性物質や毒性物質を使用する必要がないという利点を有する。確かに従来技術では、このような有害物質の使用を避ける方法がすでに知られている。しかし、こうした従来の方法では、一般的に有機残渣を伴う中性のSi-Ge化合物が生成される。蒸着時に設定された温度でSiCが形成されるため、有機残渣が存在すると、半導体エレクトロニクスで注目されているこのような蒸着反応においてSi-Ge化合物を使用することができなくなる。SiCは非導電性であり、Si-Ge層に求められる導電性や半導電性を損なう。
【0012】
同様に、塩状のSi-Ge化合物も、そうした物質には有機残渣が存在することから、半導体エレクトロニクスには使用することができない。
【0013】
一方、本発明による方法では、塩状のSi-Ge化合物は生成されず、有機残渣も存在しない。特許請求の範囲に記載された方法では、単一のステップで既存のSi-Ge化合物にガリウムがドープされると同時に塩状の出発物質が非帯電性の非イオン性生成物に転化される。そのため、本発明による、または本発明により得られたトリス(トリクロロシリル)ジクロロガリルゲルマンを半導体エレクトロニクスに支障なく使用できることは、さらに非常に重要な利点であることが判明した。
【0014】
したがって、本発明によるトリス(トリクロロシリル)ジクロロガリルゲルマン、または本発明による方法により製造されたトリス(トリクロロシリル)ジクロロガリルゲルマンの、ガリウムドープSi-Ge層を蒸着するための前駆体としての使用も、本発明の対象である。
【0015】
以下、本発明につき詳説する。
【0016】
本発明による方法のステップaにおいて、好ましくは、[X][Ge(SiCl]型のトリス(トリクロロシリル)ゲルマニド塩1当量あたり2当量のGaClを使用することができ、ここで、Xは、アンモニウム(RN)および/またはホスホニウム(RP)である。
【0017】
本発明による方法のステップbにおいて生じる反応中に、中央のゲルマニウム原子にGaCl基が付加して、非帯電性の塩素化化合物であるGe(SiClGaClが粗生成物中に生成される。
【0018】
塩化アンモニウム塩または塩化ホスホニウム塩は、GaClと[RN][GaCl]または[RP][GaCl]型の塩を形成するが、これらも同様に粗生成物中に含まれている。これらの塩状の化合物から、式(I)の非帯電性分子が非極性溶媒での抽出により分離され、純粋な形で回収される。非極性溶媒としては、有利にペンタン、ヘキサンおよび/またはベンゼンが適している。特に好ましくは、n-ヘキサンを使用することができる。
【0019】
本発明による方法のステップbにおける反応を、有利に室温で行うことができる。この選択肢に加えて、またはこれに代えて、ステップdにおいて非極性溶媒を室温で除去することができる。
【0020】
さらに、本発明による方法のステップbにおいて塩素化炭化水素としてジクロロメタンCHClを使用することが有利である場合がある。
【0021】
もう1つの選択肢は、本発明による方法のステップbにおいて、R=Etを選択することである。
【0022】
本発明による方法のステップcにおいて、有利に、非極性溶媒を、ヘキサン、n-ヘキサン、ペンタンおよび/またはベンゼンから選択することができる。特に好ましくは、ステップcにおいてn-ヘキサンを使用することができる。
【0023】
本発明による方法のさらに好ましい一実施形態は、ステップaにおいて、[X][Ge(SiCl]およびGaClであって、これらの成分は好ましくは固体状態であるものとする成分を撹拌により混合し、好ましくは無酸素環境中で、特に好ましくは保護ガス、窒素またはアルゴン下に混合し、ステップbにおいて、ステップaで得られたこの混合物を、1種以上の塩素化炭化水素に完全に溶解させ、0.1~24時間後、好ましくは1~5時間後に、この1種以上の塩素化炭化水素を除去し、この除去を、好ましくは5~40℃の温度で、特に好ましくは室温で、さらに好ましくは無酸素乾燥環境中で、特に好ましくは隔離された環境中で、さらに好ましくは常圧または減圧下で、特に好ましくは1~500hPaの範囲で行うことである。
【0024】
さらに、本発明による方法のステップcにおいて、粗生成物を導入した後に、1種以上の非極性溶媒の温度を、1回~5回、好ましくは3回、RTから高温に、好ましくは少なくとも1種の非極性溶媒の沸点にし、その後、好ましくはRTまで冷却させることが有利である場合がある。
【0025】
以下の実施例は、対象を限定することなく本発明をさらに説明するものである。「室温」という用語は、「RT」と略記される。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1a】本発明による生成物1の29Si NMRスペクトルを示す図。
図1b】本発明による生成物1のX線回折分析結果を示す図。
【0027】
実施例1では、[EtN][Ge(SiCl]とGaClとの反応について説明する。[RN][Ge(SiCl]または[RP][Ge(SiCl]型の他のアンモニウムまたはホスホニウムの(トリクロロシリル)ゲルマニド塩の反応も、同様に実施することができる。
【0028】
結晶構造決定の分析手法
いずれの構造のデータも、鏡面光学系を備えたGenixマイクロフォーカス管を搭載したSTOE IPDS II 2サークル回折計を用いて、173KでMoKα線(λ=0.71073Å)を用いて収集し、プログラムX-AREA(Stoe & Cie, 2002)のフレーム・スケーリング手順を用いてスケーリングした。構造は、プログラムSHELXS(Sheldrick, 2008)を用いて直接法で解析し、Fに対しては完全行列最小二乗法を用いて精密化した。セルパラメータは、I>6σ(I)の反射のθ値に対して精密化して決定した。
【0029】
実施例1:トリス(トリクロロシリル)ジクロロガリルゲルマン(1)の製造
式1により、CHClの添加下に[EtN][Ge(SiCl]およびGaClから合成を行った。
【0030】
【化2】
式1:CHClの添加下でRTでの[EtN][Ge(SiCl]とGaClとの反応
【0031】
この反応を、グローブボックス内で行った。
【0032】
0.050g(0.082mmolに相当)の量の[EtN][Ge(SiCl]と、0.028g(0.16mmolに相当)の量のGaClとを、固体状態で混合した後、ジクロロメタンCHCl中に完全に溶解させた。
【0033】
3時間後、ジクロロメタンをRTでゆっくりと蒸発させた。1日後、Ge(SiClGaCl (1)と[EtN][GaCl]との混合物が結晶性の粗生成物として形成された。この粗生成物に、沸騰するまでn-ヘキサン各7mlを3回加えて加熱した。その後、無色透明のn-ヘキサン溶液から、シリンジを用いて不溶性残渣を分離した。
【0034】
その後、非極性溶媒をRTでゆっくりと除去し、1日後にGe(SiClGaCl (1)を結晶性物質として単離した。
【0035】
本発明による生成物1の29Si NMRスペクトルを図1aに、そのX線回折分析結果を図1bに示す。
【0036】
29Si NMR分光分析のデータ:
29Si NMR(99.4MHz、CDCl、298K):δ=7.2ppm
図1a
図1b