(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-17
(45)【発行日】2023-11-28
(54)【発明の名称】傾斜車両
(51)【国際特許分類】
B62K 5/10 20130101AFI20231120BHJP
【FI】
B62K5/10
(21)【出願番号】P 2021544001
(86)(22)【出願日】2020-09-02
(86)【国際出願番号】 JP2020033273
(87)【国際公開番号】W WO2021045108
(87)【国際公開日】2021-03-11
【審査請求日】2022-02-22
(31)【優先権主張番号】P 2019159394
(32)【優先日】2019-09-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000010076
【氏名又は名称】ヤマハ発動機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001531
【氏名又は名称】弁理士法人タス・マイスター
(72)【発明者】
【氏名】長田 達矢
(72)【発明者】
【氏名】原 延男
【審査官】中川 隆司
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-172073(JP,A)
【文献】特開2019-001200(JP,A)
【文献】特開2009-126380(JP,A)
【文献】特開平10-291484(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第03378749(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62K 5/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体と、
前記車体に支持される1つ又は2つの前輪と、
前記車体に支持され、前記前輪が1つの場合は2つであり、前記前輪が2つの場合は1つ又は2つである後輪と、
左方向に旋回するときには、前記車体、前記前輪及び前記後輪を前記左方向に傾斜させ、右方向に旋回するときには、前記車体、前記前輪及び前記後輪を前記右方向に傾斜させる傾斜装置と、
前記前輪に機械的に接続され、乗員が回動操作することで前記前輪の進行方向を変化させるハンドルであって、前記
前輪を左回り方向に回動させる場合には前記左回り方向に回動操作され、前記
前輪を右回り方向に回動させる場合には前記右回り方向に回動操作されるハンドルと、
前記傾斜装置に接続され、前記車体、前記前輪及び前記後輪の傾斜動作に力を付与する傾斜アクチュエータと、
前記ハンドルの回動量を検出するハンドル回動量センサの信号に基づいて、前記傾斜アクチュエータを制御する制御装置と、
を備えた傾斜車両であって、
前記傾斜車両が直進するときの前記ハンドルの位置を中立位置と定義し、
前記ハンドルが前記中立位置から前記左回り方向に回動操作される際に回動可能な範囲を左回動可能範囲と定義し、
前記左回動可能範囲の一部であり且つ前記中立位置から連続する部分を第1左回動範囲と定義し、
前記ハンドルが前記中立位置から前記右回り方向に回動操作される際に回動可能な範囲を右回動可能範囲と定義し、
前記右回動可能範囲の一部であり且つ前記中立位置から連続する部分を第1右回動範囲と定義し、
前記制御装置は、
前記乗員が前記第1左回動範囲内又は前記第1右回動範囲内で前記ハンドルを回動操作して、前記ハンドルに機械的に接続された前記前輪を前記左回り方向又は前記右回り方向に回動させることにより、前記前輪の進行方向を機械的に変化させる場合には、前記ハンドルの回動操作に伴う前記車体、前記前輪及び前記後輪の前記左方向又は前記右方向への傾斜動作を前記傾斜装置により抑制するように前記傾斜アクチュエータを制御する、傾斜車両。
【請求項2】
請求項1に記載の傾斜車両であって、
前記制御装置は、
前記乗員が前記第1左回動範囲内又は前記第1右回動範囲内で前記ハンドルを回動操作して、前記ハンドルに機械的に接続された前記前輪を前記左回り方向又は前記右回り方向に回動させることにより、前記前輪の進行方向を機械的に変化させる場合には、前記車体、前記前輪及び前記後輪の直立状態を前記傾斜装置により維持するように前記傾斜アクチュエータを制御する、傾斜車両。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の傾斜車両であって、
前記左方向又は前記右方向に見て、前記ハンドルの回動軸線が路面と交差する位置は、前記前輪が路面に接する位置よりも前にある、傾斜車両。
【請求項4】
請求項1~3の何れか1項に記載の傾斜車両であって、
前記ハンドル回動量センサは、
前記ハンドルが前記第1左回動範囲内又は前記第1右回動範囲内で回動操作される場合に、前記信号を変化させないように構成されている、傾斜車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、傾斜車両に関し、詳しくは、前輪に機械的に接続されたハンドルの操作に応じて傾斜アクチュエータが車体を傾斜させる傾斜車両に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、前輪に機械的に接続されたハンドルの操作に応じて傾斜アクチュエータが車体を傾斜させる傾斜車両が知られている。このような傾斜車両においては、ハンドルが前輪に機械的に接続されているため、乗員がハンドルを操作することで前輪の進行方向が変化する。このような傾斜車両は、例えば、国際公開第2017/86352号に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、前輪に機械的に接続されたハンドルに対する乗員の操作に基づく制御性を高めることができる傾斜車両を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一実施形態に係る傾斜車両は、車体と、車体に支持される1つ又は2つの前輪と、車体に支持され、前輪が1つの場合は2つであり、前輪が2つの場合は1つ又は2つである後輪と、左方向に旋回するときには、車体、前輪及び後輪を左方向に傾斜させ、右方向に旋回するときには、車体、前輪及び後輪を右方向に傾斜させる傾斜装置と、前輪に機械的に接続され、乗員が回動操作することで前輪の進行方向を変化させるハンドルであって、車輪を左回り方向に回動させる場合には左回り方向に回動操作され、車輪を右回り方向に回動させる場合には右回り方向に回動操作されるハンドルと、傾斜装置に接続され、車体、前輪及び後輪の傾斜動作に力を付与する傾斜アクチュエータと、ハンドルの回動量を検出するハンドル回動量センサの信号に基づいて、傾斜アクチュエータを制御する制御装置と、を備えた傾斜車両である。傾斜車両が直進するときのハンドルの位置を中立位置と定義し、ハンドルが中立位置から左回り方向に回動操作される際に回動可能な範囲を左回動可能範囲と定義し、左回動可能範囲の一部であり且つ中立位置から連続する部分を第1左回動範囲と定義し、ハンドルが中立位置から右回り方向に回動操作される際に回動可能な範囲を右回動可能範囲と定義し、右回動可能範囲の一部であり且つ中立位置から連続する部分を第1右回動範囲と定義する。制御装置は、乗員が第1左回動範囲内又は第1右回動範囲内でハンドルを回動操作して、ハンドルに機械的に接続された前輪を左回り方向又は右回り方向に回動させることにより、前輪の進行方向を機械的に変化させる場合には、ハンドルの回動操作に伴う車体、前輪及び後輪の左方向又は右方向への傾斜動作を傾斜アクチュエータにより抑制するように傾斜アクチュエータを制御する。
【0006】
上記傾斜車両によれば、前輪に機械的に接続されたハンドルを乗員が第1左回動範囲内又は第1右回動範囲内で回動操作して、乗員によるハンドルの回動操作を前輪に機械的に伝達することにより、前輪の進行方向を機械的に変化させる場合には、ハンドルが回動操作されることで前輪の進行方向を変化させながら、車体の左方向又は右方向への傾斜を抑制することができる。そのため、前輪に機械的に接続されたハンドルを乗員が第1左回動範囲内又は第1右回動範囲内で回動操作する場合には、例えば、車体を直立又はそれに近い状態に維持しながら、前輪の進行方向を機械的に変化させることができる。その結果、乗員が前輪に機械的に接続されたハンドルを操作する際の制御性を高めることができる。
【0007】
本発明の一実施形態において、車体は、車体フレームを含む。車体フレームは、複数の部品を組み合わせたフレ-ムであってもよいし、複数の部品を一体的に成形したフレ-ムであってもよい。車体フレームの材料は、アルミ、鉄などの金属であってもよいし、CFRPなどの合成樹脂であってもよいし、それらの組み合わせであってもよい。車体フレームは、傾斜車両の外観部品で構成したモノコック構造であってもよいし、その一部が傾斜車両の外観部品を兼ねるセミモノコック構造であってもよい。
【0008】
本発明の一実施形態において、1つまたは2つの前輪は、例えば、車体の上下方向に延びる軸線回りに回動可能な状態で車体に支持される。車体の上下方向に延びる軸線は、車体が直立している状態で、鉛直方向に延びていなくてもよい。車体の上下方向に延びる軸線は、例えば、車体が直立している状態で、鉛直方向に対して車体の後方向に傾斜していてもよい。別の表現をすれば、車体の上下方向に延びる軸線の上端は、車体が直立している状態で、車体の上下方向に延びる軸線の下端よりも後に位置していてもよい。
【0009】
本発明の一実施形態において、前輪は、例えば、車体に直接支持されていてもよいし、車体に間接的に支持されていてもよい。前輪が車体に間接的に支持される態様には、例えば、前輪と車体との間に配置され前輪を車体に支持する懸架装置を用いる態様が含まれる。1つの前輪を車体に支持する懸架装置は、例えば、テレスコピック式やボトムリンク式のフロントフォークである。2つの前輪を車体に支持する懸架装置は、例えば、独立懸架方式のサスペンションである。2つの前輪は、例えば、傾斜車両の左右方向に並んで配置される。
【0010】
本発明の一実施形態において、後輪は、例えば、車体に直接支持されていてもよいし、車体に間接的に支持されていてもよい。後輪が車体に間接的に支持される態様には、例えば、後輪と車体との間に配置され後輪を車体に支持する懸架装置を用いる態様が含まれる。1つの後輪を車体に支持する懸架装置は、例えば、スイングアーム式のサスペンションである。2つの後輪を車体に支持する懸架装置は、例えば、独立懸架方式のサスペンションである。2つの後輪は、例えば、傾斜車両の左右方向に並んで配置される。
【0011】
本発明の一実施形態において、傾斜装置は、例えば、傾斜アクチュエータからの力が伝達されることで変形可能なリンク機構を含む。このようなリンク機構は、例えば、2つの前輪を傾斜させるリーン機構としてのパラレログラムリンク方式のリーン機構を含む。傾斜装置が車体、前輪及び後輪を左方向又は右方向に傾斜させる態様は、傾斜装置が車体、前輪及び後輪の何れかを左方向又は右方向に傾斜させ、それに伴って、残りが左方向又は右方向に傾斜する態様を含む。
【0012】
本発明の一実施形態において、傾斜アクチュエータは、傾斜装置に直接接続されていてもよいし、傾斜装置に間接的に接続されていてもよい。傾斜アクチュエータは、例えば、傾斜装置に機械的に接続された出力部材を有する。出力部材が傾斜装置に機械的に接続される態様は、例えば、出力部材から傾斜装置への動力伝達が可能な態様を含む。傾斜アクチュエータは、例えば、正方向及び逆方向に回転可能な出力部材を有する電気モータである。傾斜アクチュエータが車体、前輪及び後輪の傾斜動作に対して力を付与する態様は、例えば、傾斜装置が有するリンク機構を傾斜アクチュエータからの力で変形させる態様を含む。傾斜アクチュエータが車体、前輪及び後輪の傾斜動作に対して力を付与する態様は、例えば、傾斜アクチュエータが車体、前輪及び後輪の何れかを傾斜させるために力を付与し、それに伴って、残りが傾斜する態様を含む。
【0013】
本発明の一実施形態において、ハンドルが前輪に機械的に接続される態様は、例えば、ハンドルから前輪に力を伝達可能な態様を含む。ハンドルが前輪に機械的に接続される態様は、例えば、ハンドルが前輪の車軸に接続される態様を含む。ハンドルが前輪に機械的に接続される態様は、例えば、前輪を車体に支持する懸架装置を介してハンドルが前輪に接続される態様を含む。ハンドルが回動操作される態様は、例えば、ハンドルが車体の上下方向に延びる軸線回りの周方向において360°未満の範囲で回転する態様を含む。車体の上下方向に延びる軸線は、車体が直立している状態で、鉛直方向に延びていなくてもよい。ハンドル回動量センサが検出するハンドルの回動量を示す信号は、アナログ信号であってもよいし、デジタル信号であってもよい。
【0014】
本発明の一実施形態において、制御装置は、例えば、ECU(Electric Control Unit)である。ECUは、例えば、IC(Integrated Circuit)、電子部品、回路基板等の組み合わせによって実現される。制御装置による制御は、例えば、CPU(Central Processing Unit)が不揮発性のメモリに記憶されたプログラムを読み出し、当該プログラムに従って所定の処理を実行すること等によって実現される。
【0015】
本発明の一実施形態において、左回り方向は、下方向に見て、前輪及びハンドルを反時計回りの方向に回動させる方向である。右回り方向は、下方向に見て、前輪及びハンドルを時計回りの方向に回動させる方向である。
【0016】
本発明の一実施形態において、第1左回動範囲は、例えば、左回動可能範囲を複数の範囲に分割した場合に、これら複数の範囲のうち中立位置に最も近い範囲である。第1左回動範囲は、例えば、左回動可能範囲のうち第1左回動範囲を除いた範囲より小さくてもよい。第1右回動範囲は、例えば、右回動可能範囲を複数の範囲に分割した場合に、これら複数の範囲のうち中立位置に最も近い範囲である。第1右回動範囲は、例えば、右回動可能範囲のうち第1右回動範囲を除いた範囲より小さくてもよい。
【0017】
本発明の一実施形態において、左回動可能範囲のうち第1左回動範囲を除いた範囲内でハンドルが回動操作される場合、制御装置は、傾斜装置が車体、前輪及び後輪を左方向に傾斜させるように、傾斜アクチュエータを制御してもよい。左回動可能範囲のうち第1左回動範囲を除いた範囲内でハンドルが回動操作される場合、制御装置は、ハンドルの左回り方向への回動量に応じて、傾斜装置が車体、前輪及び後輪を左方向に傾斜させるように、傾斜アクチュエータを制御してもよい。ハンドルが第1左回動範囲内で回動操作される場合にハンドルの回動操作に伴う車体、前輪及び後輪の左方向への傾斜動作を傾斜装置により抑制するように制御装置が傾斜アクチュエータを制御する態様は、例えば、左回動可能範囲のうち第1左回動範囲を除いた範囲内でハンドルが回動操作される場合と比べて、ハンドルの回動操作に伴う車体、前輪及び後輪の左方向への傾斜動作を傾斜装置により抑制するように制御装置が傾斜アクチュエータを制御する態様を含む。
【0018】
本発明の一実施形態において、右回動可能範囲のうち第1右回動範囲を除いた範囲内でハンドルが回動操作される場合、制御装置は、傾斜装置が車体、前輪及び後輪を右方向に傾斜させるように、傾斜アクチュエータを制御してもよい。右回動可能範囲のうち第1右回動範囲を除いた範囲内でハンドルが回動操作される場合、制御装置は、ハンドルの右回り方向への回動量に応じて、傾斜装置が車体、前輪及び後輪を右方向に傾斜させるように、傾斜アクチュエータを制御してもよい。ハンドルが第1右回動範囲内で回動操作される場合にハンドルの回動操作に伴う車体、前輪及び後輪の右方向への傾斜動作を傾斜装置により抑制するように制御装置が傾斜アクチュエータを制御する態様は、例えば、右回動可能範囲のうち第1右回動範囲を除いた範囲内でハンドルが回動操作される場合と比べて、ハンドルの回動操作に伴う車体、前輪及び後輪の右方向への傾斜動作を傾斜装置により抑制するように制御装置が傾斜アクチュエータを制御する態様を含む。
【0019】
なお、傾斜動作の抑制は、傾斜動作の抑制時におけるハンドルの回動操作に伴う傾斜量又は傾斜角の変化を、傾斜動作の抑制が行われていない時のハンドルの回動操作に伴う傾斜量又は傾斜角の変化よりも小さくすること、を意味する。傾斜動作の抑制は、傾斜動作の抑制時におけるハンドルの回動操作に伴う傾斜量又は傾斜角の変化をゼロにすること、を含む。また、傾斜動作の抑制は、傾斜動作の抑制時において傾斜動作に要する力を、傾斜動作の抑制が行われていない時に傾斜動作に要する力よりも大きくすること、も意味してもよい。
【0020】
本発明の一実施形態に係る傾斜車両において、好ましくは、制御装置は、乗員が第1左回動範囲内又は第1右回動範囲内でハンドルを回動操作して、ハンドルに機械的に接続された前輪を左回り方向又は右回り方向に回動させることにより、前輪の進行方向を機械的に変化させる場合には、車体、前輪及び後輪の直立状態を維持するように傾斜アクチュエータを制御する。
【0021】
本発明の一実施形態において、「車体の直立状態」とは、傾斜車両の乗員にとって実質的に車体が直立している状態を意味する。このような状態には、実際の車体の傾斜角度が±3度以内である状態が含まれる。実際の車体の傾斜角度は、好ましくは、±2度以内である。実際の車体の傾斜角度は、より好ましくは、±1度以内である。「車体の直立状態を維持するように傾斜アクチュエータを制御する」とは、車体を直立させる際の目標値を±3度以内にする制御であってもよい。また、車体を直立させる際の目標値が±0度であっても、例えば、車体の傾斜角度を検出するセンサ及び/又は傾斜アクチュエータの精度により、実際の車体の傾斜角度が±3度以内になる場合もある。この場合も、「車体の直立状態を維持するように傾斜アクチュエータを制御する」ことに含まれる。なお、「前輪の直立状態」及び「後輪の直立状態」は、何れも、「車体の直立状態」と同様であるから、それらの詳細な説明は省略する。
【0022】
本発明の一実施形態において、好ましくは、左方向又は右方向に見て、ハンドルの回動軸線が路面と交差する位置は、前輪が路面に接する位置よりも前にある。
【0023】
本発明の一実施形態に係る傾斜車両において、好ましくは、ハンドル回動量センサは、ハンドルが第1範囲内又は第2範囲内で回動操作される場合に、信号を変化させないように構成されている。
【0024】
本発明の一実施形態において、ハンドル回動量センサは、例えば、ハンドルが回動操作される際にハンドルとともに移動する可動接点と、当該可動接点に接触可能な固定接点とを含む。この場合、ハンドルが第1左回動範囲内又は第1右回動範囲内で回動操作される場合にハンドル回動量センサが信号を変化させないように構成される態様は、例えば、ハンドルが第1左回動範囲内又は第1右回動範囲内で回動操作される場合に可動接点が固定接点に接触しないようにする態様と、ハンドルが第1左回動範囲内又は第1右回動範囲内で回動操作される場合に可動接点が固定接点に接触するけれど、ハンドル回動量センサが出力信号を変化させない態様とを含む。ハンドル回動量センサは、操舵可能な角度範囲の全体において操舵角を検出可能な舵角センサであってもよい。そのような舵角センサとしては、従来公知のセンサが採用可能である。
【0025】
この発明の上述の目的及びその他の目的、特徴、局面及び利点は、添付図面に関連して行われる以下のこの発明の実施形態の詳細な説明から一層明らかとなろう。本明細書にて使用される場合、用語「及び/又は(and/or)」は1つの、又は複数の関連した列挙されたアイテム(items)のあらゆる又は全ての組み合わせを含む。本明細書中で使用される場合、用語「含む、備える(including)」、「含む、備える(comprising)」又は「有する(having)」及びその変形の使用は、記載された特徴、工程、操作、要素、成分及び/又はそれらの等価物の存在を特定するが、ステップ、動作、要素、コンポーネント、及び/又はそれらのグループのうちの1つ又は複数を含むことができる。他に定義されない限り、本明細書で使用される全ての用語(技術用語及び科学用語を含む)は、本発明が属する当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。一般的に使用される辞書に定義された用語のような用語は、関連する技術及び本開示の文脈における意味と一致する意味を有すると解釈されるべきであり、本明細書で明示的に定義されていない限り、理想的又は過度に形式的な意味で解釈されることはない。本発明の説明においては、多数の技術及び工程が開示されていると理解される。これらの各々は個別の利益を有し、それぞれは、他の開示された技術の1つ以上、又は、場合によっては全てと共に使用することもできる。従って、明確にするために、この説明は、不要に個々のステップの可能な組み合わせの全てを繰り返すことを控える。それにもかかわらず、明細書及び特許請求の範囲は、そのような組み合わせが全て本発明及び特許請求の範囲内にあることを理解して読まれるべきである。以下の説明では、説明の目的で、本発明の完全な理解を提供するために多数の具体的な詳細を述べる。しかしながら、当業者には、これらの特定の詳細なしに本発明を実施できることが明らかである。本開示は、本発明の例示として考慮されるべきであり、本発明を以下の図面又は説明によって示される特定の実施形態に限定することを意図するものではない。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、前輪に対して機械的に接続されているハンドルに対する乗員の操作に基づく制御性を高めることができる傾斜車両を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】本発明の実施の形態による傾斜車両の傾斜制御に関する構成のブロック図と、傾斜制御を説明するための説明図とを併せて示す図面である。
【
図2】
図1に示す傾斜車両が備える制御装置によって実行される傾斜制御の一例を示すフローチャートである。
【
図3】ハンドルが第1範囲内又は第2範囲内で回動操作される場合に信号を変化させないように構成されたハンドル回動量センサの一例を示す図面である。
【
図4】傾斜車両が備える傾斜制御システムに関する構成のブロック図と、傾斜制御システムに異常が発生した場合の対応を説明するための説明図とを併せて示す図面である。
【
図5】
図4に示す傾斜車両が備える制御装置によって実行される異常対応制御の一例を示すフローチャートである。
【
図6】
図4に示す傾斜車両が備える制御装置によって実行される異常対応制御の他の一例を示すフローチャートである。
【
図7】変形例に係る傾斜車両が備える傾斜制御システムに関する構成のブロック図と、傾斜制御システムに異常が発生した場合の対応を説明するための説明図とを併せて示す図面である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施の形態による傾斜車両の詳細について説明する。なお、以下に説明する実施の形態は、あくまでも一例である。本発明は、以下に説明する実施の形態によって、何等、限定的に解釈されるものではない。
【0029】
図1を参照しながら、本発明の実施の形態による傾斜車両10について説明する。
図1は、傾斜車両10の傾斜制御に関する構成のブロック図と、傾斜制御を説明するための説明図とを併せて示す図面である。
【0030】
本明細書では、傾斜車両10における各種の方向を、傾斜車両10のシートに着座した乗員から見た方向とする。傾斜車両10では、車体20が左方向L又は右方向Rに傾斜できる。車体20が左方向L又は右方向Rに傾斜している場合、車体の上下方向及び左右方向は、車両の上下方向UD及び左右方向LRと一致しない。一方、車体20が直立している場合、車体の上下方向及び左右方向は、車両の上下方向UD及び左右方向LRと一致する。
【0031】
図1を参照して、傾斜車両10は、車体20と、2つの前輪30Fと、1つの後輪30Bと、傾斜装置40と、ハンドル50と、ハンドル回動量センサ60と、傾斜アクチュエータ70と、制御装置80とを備える。以下、これらについて説明する。
【0032】
車体20は、例えば、車体フレームを含む。2つの前輪30Fは、それぞれ、車体20に支持される。2つの前輪30Fは、左右方向LRに並んで配置される。2つの前輪30Fは、車体20の上下方向に延びる軸線50L回りに回動可能な状態で車体20に支持される。後輪30Bは、車体20に支持される。
【0033】
傾斜装置40は、左方向Lに旋回するときには、車体20、2つの前輪30F及び後輪30Bを左方向Lに傾斜させる。傾斜装置40は、右方向Rに旋回するときには、車体20、2つの前輪30F及び後輪30Bを右方向Rに傾斜させる。
【0034】
ハンドル50は、2つの前輪30Fに機械的に接続される。2つの前輪30Fに機械的に接続されたハンドル50が傾斜車両10の乗員によって回動操作されることで、2つの前輪30Fの進行方向が変化する。つまり、傾斜車両10は、2つの前輪30Fの操舵をバイワイヤで制御する車両ではない。
【0035】
ハンドル50は、車体20の上下方向に延びる軸線50L回りに回動可能な状態で配置される。つまり、軸線50Lは、ハンドル50の回動軸線である。ハンドル50が中立位置から左回り方向(
図1における反時計回りの方向)に回動可能な範囲は、ハンドル50が中立位置から左回り方向とは反対の方向である右回り方向(
図1における時計回りの方向)に回動可能な範囲と同じである。ハンドル50の中立位置とは、ハンドル50が回動操作されていない状態でのハンドル50の位置である。ハンドル50が中立位置に存在する場合、車体20の上方向又は下方向に見て、ハンドル50の軸線50Lに交差しかつ車体の前後方向に延びる直線は、車体20の前後方向に平行である。
【0036】
ここで、軸線50Lは、左方向L又は右方向Rに見て、軸線50Lの上部が鉛直線よりも後に位置するように、鉛直線に対して傾斜している。そのため、左方向L又は右方向Rに見て、軸線50Lが路面RSと交差する位置P1は、2つの前輪30Lの各々が路面RSに接する位置P2よりも前に位置している。つまり、傾斜車両10は、正のトレールを有する。
【0037】
ハンドル50は、左方向Lに旋回する場合には、中立位置(
図1においてハンドル50を仮想線で示す位置)から左回り方向に回動操作される。ハンドル50は、右方向Rに旋回する場合には、中立位置(
図1においてハンドル50を仮想線で示す位置)から左回り方向とは反対の方向である右回り方向に回動操作される。
【0038】
ハンドル回動量センサ60は、ハンドル50の回動量を検出する。ハンドル回動量センサ60は、例えば、ハンドル50の中立位置から左回り方向への回動角度に関する信号を制御装置80に入力する。ハンドル回動量センサ60は、例えば、ハンドル50の中立位置から右回り方向への回動角度に関する信号を制御装置80に入力する。
【0039】
傾斜アクチュエータ70は、傾斜装置40に接続される。傾斜アクチュエータ70は、例えば、傾斜装置40に機械的に接続されかつ正方向及び逆方向に回転可能な出力部材を有する電気モータである。傾斜アクチュエータ70は、車体20、2つの前輪30F及び後輪30Bの傾斜動作に力を付与する。
【0040】
制御装置80は、ハンドル50の回動量を検出するハンドル回動量センサ60の信号に基づいて、傾斜アクチュエータ70を制御する。制御装置80は、第1左回動範囲としての範囲L11内でハンドル50が回動操作される場合には、車体20の傾斜を抑制するように、傾斜アクチュエータ70を制御する。制御装置80は、第1右回動範囲としての範囲R11内でハンドル50が回動操作される場合には、車体20の傾斜を抑制するように、傾斜アクチュエータ70を制御する。
【0041】
ここで、第1左回動範囲としての範囲L11は、左回動可能範囲としての回動可能範囲L1のうちハンドル50の左回り方向への回動が規制される位置(つまり、回動可能範囲L1の端)を含む範囲L12よりも中立位置に近い範囲である。範囲L11は、範囲L12よりも小さくてもよい。範囲L11は、範囲L12と同じであってもよい。範囲L11は、範囲L12よりも大きくてもよい。第1右回動範囲としての範囲R11は、右回動可能範囲としての回動可能範囲R1のうちハンドル50の右回り方向への回動が規制される位置(つまり、回動可能範囲R1の端)を含む範囲R12よりも中立位置に近い範囲である。範囲R11は、範囲R12よりも小さくてもよい。範囲R11は、範囲R12と同じであってもよい。範囲R11は、範囲R12よりも大きくてもよい。
【0042】
範囲L12内でハンドル50が回動操作される場合、制御装置80は、ハンドル50の左回り方向への回動量が大きくなるにつれて、車体20、前輪30F及び後輪30Rの左方向Lへの傾斜が大きくなるように、傾斜アクチュエータ70を制御する。範囲L12内でハンドル50が回動操作される場合、制御装置80は、車体20、前輪30F及び後輪30Rの左方向Lへの傾斜を抑制しない。範囲R12内でハンドル50が回動操作される場合、制御装置80は、ハンドル50の右回り方向への回動量が大きくなるにつれて、車体20、前輪30F及び後輪30Rの右方向Rへの傾斜が大きくなるように、傾斜アクチュエータ70を制御する。範囲R12内でハンドル50が回動操作される場合、制御装置80は、車体20、前輪30F及び後輪30Rの右方向Rへの傾斜を抑制しない。
【0043】
図1では、ハンドル50が範囲L11内で回動操作される場合と、ハンドル50が範囲L12内で回動操作される場合とを示している。ハンドル50が範囲L11内で回動操作される場合、車体20は直立状態に維持される。一方、ハンドル50が範囲L12内で回動操作される場合、ハンドル50の左回り方向への回動量に応じて、車体20が左方向Lに傾斜する。なお、ハンドル50が範囲R11内で回動操作される場合は、ハンドル50が範囲L11内で回動操作される場合と同様に、車体20は直立状態に維持される。また、ハンドル50が範囲R12内で回動操作される場合は、ハンドル50が範囲L12内で回動操作される場合と同様に、ハンドル50の右回り方向への回動量に応じて、車体20が右方向Rに傾斜する。
【0044】
図2を参照しながら、制御装置80が実行する傾斜制御について説明する。先ず、制御装置80は、ステップS11において、ハンドル50が左回り方向に回動操作されているか否かを判定する。ハンドル50が左回り方向に回動操作されているか否かの判定は、ハンドル回動量センサ60の信号に基づいて行われる。
【0045】
ハンドル50が左回り方向に回動操作されている場合(ステップS11:YES)、制御装置80は、ステップS12において、ハンドル50が範囲L11内で回動しているか否かを判定する。ハンドル50が範囲L11内で回動しているか否かの判定は、ハンドル回動量センサ60の信号に基づいて行われる。
【0046】
ハンドル50が範囲L11内で回動している場合(ステップS12:YES)、制御装置80は、ステップS13において、車体20の傾斜を抑制するように、傾斜アクチュエータ70を制御する。具体的には、制御装置80は、車体20が直立状態に維持されるように、傾斜アクチュエータ70を制御する。その後、制御装置80は、傾斜制御を終了する。
【0047】
ハンドル50が範囲L11内で回動していない場合、つまり、ハンドル50が範囲L12内で回動している場合(ステップS12:NO)、制御装置80は、ステップS14において、ハンドル50の左回り方向への回動量に応じて車体20を傾斜させるように、傾斜アクチュエータ70を制御する。具体的には、制御装置80は、ハンドル50の左回り方向への回動量が大きくなるにつれて、車体20の左方向Lへの傾斜が大きくなるように、傾斜アクチュエータ70を制御する。その後、制御装置80は、傾斜制御を終了する。
【0048】
ハンドル50が左回り方向に回動操作されていない場合(ステップS11:NO)、制御装置80は、ステップS15において、ハンドル50が右回り方向に回動操作されているか否かを判定する。ハンドル50が右回り方向に回動操作されているか否かの判定は、ハンドル回動量センサ60の信号に基づいて行われる。
【0049】
ハンドル50が右回り方向に回動操作されていない場合(ステップS15:NO)、制御装置80は、傾斜制御を終了する。ハンドル50が右回り方向に回動操作されている場合(ステップS15:YES)、制御装置80は、ステップS16において、ハンドル50が範囲R11内で回動しているか否かを判定する。ハンドル50が範囲R11内で回動しているか否かの判定は、ハンドル回動量センサ60の信号に基づいて行われる。
【0050】
ハンドル50が範囲R11内で回動している場合(ステップS16:YES)、制御装置80は、ステップS17において、車体20の傾斜を抑制するように、傾斜アクチュエータ70を制御する。具体的には、制御装置80は、車体20が直立状態に維持されるように、傾斜アクチュエータ70を制御する。その後、制御装置80は、傾斜制御を終了する。
【0051】
ハンドル50が範囲R11内で回動していない場合、つまり、ハンドル50が範囲R12内で回動している場合(ステップS16:NO)、制御装置80は、ステップS18において、ハンドル50の右回り方向への回動量に応じて車体20を傾斜させるように、傾斜アクチュエータ70を制御する。具体的には、制御装置80は、ハンドル50の右回り方向への回動量が大きくなるにつれて、車体20の右方向Rへの傾斜が大きくなるように、傾斜アクチュエータ70を制御する。その後、制御装置80は、傾斜制御を終了する。
【0052】
このような傾斜車両10においては、ハンドル50が範囲L11内又は範囲R11内で回動操作される場合、ハンドル50が回動操作されることで2つの前輪30Fの進行方向を変化させながら、車体20の傾斜を抑制することができる。そのため、ハンドル50が範囲L11内又は範囲R11内で回動操作される場合には、例えば、車体20を直立又はそれに近い状態に維持しながら、2つの前輪30Fの進行方向を変化させることができる。その結果、傾斜車両10の乗員がハンドル50を操作する際の制御性を高めることができる。
【0053】
(ハンドル回動量センサの変形例)
ハンドル回動量センサは、ハンドル50が範囲L11内又は範囲R11内で回動操作される場合に、信号を変化させないように構成されていてもよい。このようなハンドル回動量センサについて、
図6を参照しながら説明する。
図3は、ハンドル50が範囲L11内又は範囲R11内で回動操作される場合に信号を変化させないように構成されたハンドル回動量センサ60Aの一例を示す図面である。
【0054】
ハンドル回動量センサ60Aは、ハンドル50が回動操作される際にハンドル50とともに移動する可動接点60A1と、可動接点60A1に接触可能な固定接点60A2とを含む。可動接点60A1は、例えば、ハンドル50が取り付けられるステアリングシャフトに固定される。固定接点60A2は、例えば、車体フレームに設けられて、ステアリングシャフトが挿入されるヘッドパイプに固定される。
【0055】
ハンドル回動量センサ60Aにおいては、ハンドル50が範囲L11内又は範囲R11内で回動操作される場合に可動接点60A1が固定接点60A2に接触しないようになっている。そのため、ハンドル回動量センサ60Aは、ハンドル50が範囲L11内又は範囲R11内で回動操作される場合にハンドル回動量センサ60Aが信号を変化させないように構成されている。
【0056】
なお、ハンドル50が範囲L11内又は範囲R11内で回動操作される場合にハンドル回動量センサが信号を変化させないようにする構成として、ハンドル50が範囲L11内又は範囲R11内で回動操作される場合に可動接点が固定接点に接触するけれど、ハンドル回動量センサが出力信号を変化させない構成を採用してもよい。
【0057】
[他の傾斜車両]
図4を参照しながら、傾斜車両11について説明する。傾斜車両11は、車体21と、2つの前輪31Fと、1つの後輪31Bと、傾斜リンク装置41と、ステアリングハンドル51と、傾斜アクチュエータ71と、制御装置81とを備える。
【0058】
車体21は、例えば、車体フレームを含む。2つの前輪31Fは、それぞれ、車体21に支持される。2つの前輪31Fは、それぞれ、前輪31Fの回転中心軸線を含む平面における接地部位の断面形状が湾曲している。2つの前輪31Fは、左右方向LRに並んで配置される。2つの前輪31Fは、車体21の上下方向に延びる操舵軸線51L回りに回動可能な状態で車体21に支持される。
【0059】
ここで、操舵軸線51Lは、左方向L又は右方向Rに見て、操舵軸線51Lの上部が鉛直線よりも後に位置するように、鉛直線に対して傾斜している。そのため、左方向L又は右方向Rに見て、操舵軸線51Lと路面RSとの交点P1が2つの前輪30Lの各々の路面RSに対する接地点P2よりも前に位置している。
【0060】
後輪31Bは、車体21に支持される。後輪31Bは、後輪31Bの回転中心軸線を含む平面における接地部位の断面形状が湾曲している。
【0061】
傾斜リンク装置41は、左方向Lに旋回するときには、車体21、2つの前輪31F及び後輪31Bを左方向Lに傾斜させる。傾斜リンク装置41は、右方向Rに旋回するときには、車体21、2つの前輪31F及び後輪31Bを右方向Rに傾斜させる。
【0062】
ステアリングハンドル51は、2つの前輪31Fに機械的に接続される。ステアリングハンドル51は、2つの前輪31Fの各々の回転軸に機械的に接続される。2つの前輪31Fに機械的に接続されたステアリングハンドル51が傾斜車両11の乗員によって回動操作されることで、2つの前輪31Fの各々が操舵軸線51Lを中心に回動される。その結果、傾斜車両11の進行方向が変化する。つまり、傾斜車両11は、2つの前輪31Fの操舵をバイワイヤで制御する車両ではない。
【0063】
傾斜アクチュエータ71は、傾斜リンク装置41に接続される。傾斜アクチュエータ71は、例えば、傾斜リンク装置41に機械的に接続されかつ正方向及び逆方向に回転可能な出力部材を有する電気モータである。傾斜アクチュエータ71は、車体21、2つの前輪31F及び後輪31Bの傾斜動作に力を付与する。傾斜アクチュエータ71は、ステアリングハンドル51が回動操作されることで、車体21、2つの前輪31F及び後輪31Bの傾斜動作に力を付与する。具体的には、ステアリングハンドル51が左回り方向(つまり、反時計回りの方向)に回動操作される場合、傾斜アクチュエータ71は、車体21、2つの前輪31F及び後輪31Bが左方向に傾斜するように力を付与する。ステアリングハンドル51が右回り方向(つまり、時計回りの方向)に回動操作される場合、傾斜アクチュエータ71は、車体21、2つの前輪31F及び後輪31Bが右方向に傾斜するように力を付与する。傾斜アクチュエータ71は、制御装置81によって制御される。
【0064】
傾斜車両11は、駆動源22と、アクセル操作子24とをさらに備える。駆動源22は、後輪31Bに駆動力を付与する。駆動源22は、例えば、エンジンであってもよいし、電気モータであってもよいし、エンジンと電気モータの両方を含んでいてもよい。駆動源22は、車体21に支持される。アクセル操作子24は、傾斜車両11の乗員が操作することで駆動源22の駆動力を調整する。アクセル操作子24は、ステアリングハンドル51に配置されている。つまり、アクセル操作子24は、傾斜車両11の乗員が傾斜車両11に乗車している状態で操作可能な位置に配置されている。
【0065】
傾斜車両11は、傾斜制御システム91をさらに備える。傾斜制御システム91は、傾斜リンク装置41、傾斜アクチュエータ71及び制御装置81を含む。制御装置81は、傾斜制御システム91に異常が発生した場合、傾斜アクチュエータ71への電力供給を遮断し、又は、傾斜アクチュエータ71と傾斜リンク装置41との間の機械的な接続を遮断する。傾斜アクチュエータ71と傾斜リンク装置41との間の機械的な接続を遮断する機構としては、例えば、制御装置81によって電気的に制御されるクラッチ機構がある。なお、傾斜制御システム91に異常が発生する場合としては、例えば、以下のような場合が考えられる。ただし、傾斜制御システム91に異常が発生する場合は、以下の場合に限定されない。
【0066】
傾斜制御システム91に異常が発生する場合として、例えば、傾斜アクチュエータ71が想定どおりに作動していない場合が考えられる。この場合、例えば、傾斜アクチュエータ71への指令値に対して傾斜アクチュエータ71の出力が到達するまでの時間によって、傾斜制御システム91に異常が発生しているか否かを判定してもよい。例えば、傾斜アクチュエータ71への指令値に対して傾斜アクチュエータ71の出力が到達するまでの時間を正常時の時間と比較することにより、傾斜制御システム91に異常が発生しているか否かを判定してもよい。
【0067】
傾斜制御システム91に異常が発生する場合として、例えば、傾斜制御システム91で使用しているセンサに異常が発生する場合が考えられる。例えば、電圧センサ、電流センサ、傾斜角センサなどの断線や信号異常等があった場合に、傾斜制御システム91に異常が発生していると判定してもよい。
【0068】
図5を参照しながら、制御装置81が実行する異常対応制御の一例について説明する。先ず、制御装置81は、ステップS101において、傾斜制御システム91に異常が発生しているか否かを判定する。傾斜制御システム91に異常が発生していない場合(ステップS101:NO)、制御装置81は、異常対応制御を終了する。傾斜制御システム91に異常が発生している場合(ステップS101:YES)、制御装置81は、ステップS102において、傾斜アクチュエータへの電力供給を遮断する。その後、制御装置81は、異常対応制御を終了する。
【0069】
このような傾斜車両11においては、傾斜制御システム91に異常が発生していない場合には、傾斜車両11の乗員がステアリングハンドル51を回動操作することで、傾斜アクチュエータ71からの力が車体21に伝達される。その結果、車体21が傾斜する。
【0070】
また、傾斜車両11においては、傾斜制御システム91に異常が発生している場合に、傾斜車両11を速やかに退避スペースに移動させることができる。具体的には、以下のとおりである。
【0071】
傾斜車両11においては、傾斜制御システム91に異常が発生している場合に、傾斜アクチュエータ71への電力供給を遮断する。そのため、傾斜アクチュエータ71による傾斜リンク装置41への影響を最小限にすることができる。
【0072】
また、傾斜車両11においては、上記のように傾斜アクチュエータ71による傾斜リンク装置41への影響を最小限にしても、左右方向LRに車体21を傾斜させることができる。具体的には、以下のとおりである。
【0073】
傾斜車両11において、操舵軸線51Lは、左方向L又は右方向Rに見て、操舵軸線51Lの上部が鉛直線よりも後に位置するように、鉛直線に対して傾斜している。そのため、左方向L又は右方向Rに見て、操舵軸線51Lと路面RSとの交点P1が2つの前輪30Lの各々の路面RSに対する接地点P2よりも前に位置している。これは、傾斜車両11に正のトレールが設定されていることと同じである。傾斜車両11に正のトレールが設定されている場合、傾斜車両11の乗員は、逆操舵動作を利用して左右方向LRに車体21を傾斜させることができる。具体的には、ステアリングハンドル51を左回り方向に回動(つまり、反時計回りに回動)させることで車体21を右方向Rに傾斜させることができる。また、ステアリングハンドル51を右回り方向に回動(つまり、時計回りに回動)させることで車体21を左方向Lに傾斜させることができる。その結果、傾斜車両11においては、傾斜アクチュエータ71による傾斜リンク装置41への影響を最小限にしても、左右方向LRに車体21を傾斜させることができる。
【0074】
また、傾斜車両11においては、2つの前輪31Fは、それぞれ、前輪31Fの回転中心軸線を含む平面における接地部位の断面形状が湾曲している。そのため、傾斜車両11の乗員の重心移動で左右方向LRに車体21を傾斜させることができる。また、上記の逆操舵動作を利用して左右方向LRに車体21を傾斜させることが容易にできる。つまり、傾斜車両11においては、傾斜アクチュエータ71による傾斜リンク装置41への影響を最小限にしても、左右方向LRに車体21を傾斜させることができる。
【0075】
また、傾斜車両11は、2つの前輪31Fに対して駆動力を付与する駆動源22と、傾斜車両11の乗員が操作することで駆動源22の駆動力を調整するアクセル操作子24とを備える。そのため、傾斜車両11の乗員は、アクセル操作子24を利用して左右方向LRに車体21を傾斜させることができる。つまり、傾斜車両11の乗員は、車体21が傾斜しているときの傾斜車両11の速度(つまり、旋回中の傾斜車両11の速度)を調整して向心力を変化させることで、左右方向LRへの車体21の傾斜を調整することができる。その結果、傾斜車両11においては、傾斜アクチュエータ71による傾斜リンク装置41への影響を最小限にしても、左右方向LRに車体21を傾斜させることができる。
【0076】
[異常対応制御の他の一例]
続いて、
図6を参照しながら、制御装置81が実行する異常対応制御の他の一例について説明する。先ず、制御装置81は、ステップS101において、傾斜制御システム91に異常が発生しているか否かを判定する。傾斜制御システム91に異常が発生していない場合(ステップS101:NO)、制御装置81は、異常対応制御を終了する。傾斜制御システム91に異常が発生している場合(ステップS101:YES)、制御装置81は、ステップS103において、傾斜アクチュエータ71と傾斜リンク装置41との間の機械的な接続を遮断する。その後、制御装置81は、異常対応制御を終了する。
【0077】
[傾斜車両11の変形例]
図7を参照しながら、傾斜車両11Aについて説明する。傾斜車両11Aでは、傾斜アクチュエータ71は、傾斜している車体21を起き上がらせる。具体的には、傾斜アクチュエータ71は、傾斜車両11Aが停車するために減速している際に車体21が傾斜していれば、車体21を起き上がらせる。
【0078】
(その他の実施形態)
本明細書において記載と図示の少なくとも一方がなされた実施形態及び変形例は、本開示の理解を容易にするためのものであって、本開示の思想を限定するものではない。上記の実施形態及び変形例は、その趣旨を逸脱することなく変更・改良され得る。当該趣旨は、本明細書に開示された実施形態に基づいて当業者によって認識されうる、均等な要素、修正、削除、組み合わせ(例えば、実施形態及び変形例に跨る特徴の組み合わせ)、改良、変更を包含する。特許請求の範囲における限定事項は当該特許請求の範囲で用いられた用語に基づいて広く解釈されるべきであり、本明細書あるいは本願のプロセキューション中に記載された実施形態及び変形例に限定されるべきではない。そのような実施形態及び変形例は非排他的であると解釈されるべきである。例えば、本明細書において、「好ましくは」、「よい」という用語は非排他的なものであって、「好ましいがこれに限定されるものではない」、「よいがこれに限定されるものではない」ということを意味する。
【符号の説明】
【0079】
10 傾斜車両
20 車体
30F 前輪
30B 後輪
40 傾斜装置
50 ハンドル
50L 軸線
60 ハンドル回動量センサ
70 傾斜アクチュエータ
80 制御装置
90 車速センサ
L1 回動可能範囲
L11 範囲
L12 範囲
R1 回動可能範囲
R11 範囲
R12 範囲