(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-17
(45)【発行日】2023-11-28
(54)【発明の名称】インクジェット印刷のためのトリスアゾ化合物
(51)【国際特許分類】
C09B 33/22 20060101AFI20231120BHJP
C09B 67/20 20060101ALI20231120BHJP
C09D 11/328 20140101ALI20231120BHJP
G02B 5/22 20060101ALI20231120BHJP
【FI】
C09B33/22 CLA
C09B67/20 K CSP
C09D11/328
G02B5/22
(21)【出願番号】P 2021572483
(86)(22)【出願日】2020-05-29
(86)【国際出願番号】 EP2020065033
(87)【国際公開番号】W WO2020245052
(87)【国際公開日】2020-12-10
【審査請求日】2021-12-06
(32)【優先日】2019-06-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】505422707
【氏名又は名称】ランクセス・ドイチュランド・ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ドミニク・リンペル
(72)【発明者】
【氏名】ダミアン・モワニョー
【審査官】牟田 博一
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-501387(JP,A)
【文献】特開平4-304274(JP,A)
【文献】米国特許第04988804(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09B
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I
a)
【化1】
(式中、
R
1は、SO
3M又はCOOMであり、
R
2は、SO
3M又はCOOMであり、
R
3及びR
4は、互いに独立して、水素又はCH
3であり、
R
5及びR
6は、互いに独立して、SO
3M、COOM又はNO
2であり、及び
Mは、水素であるか、一価の金属カチオンであるか、アンモニウムであるか、又はC
1~C
4-アルキルによって同一に若しくは異なって単置換若しくは多置換されているアルキルアンモニウムである)
のトリスアゾ化合物。
【請求項2】
R
1は、SO
3M又はCOOMであり、
R
2は、SO
3M又はCOOMであり、
R
3及びR
4は、互いに独立して、水素又はCH
3であり、及び
R
5及びR
6は、互いに独立して、SO
3M、COOM又はNO
2であり、
ただし、前記基R
5又はR
6の一方は、NO
2であり、及び
Mは、水素、ナトリウム、カリウム、リチウム、アンモニウム又はC
1~C
2-アルキルによって同一に若しくは異なって単置換若しくは多置換されているアルキルアンモニウムであることを特徴とする、請求項1に記載のトリスアゾ化合物。
【請求項3】
R
1は、SO
3M又はCOOMであり、
R
2は、SO
3M又はCOOMであり、
R
3及びR
4は、互いに独立して、水素又はCH
3であり、及び
R
5及びR
6は、互いに独立して、SO
3M、COOM又はNO
2であり、
ただし、前記基R
5又はR
6の一方は、NO
2であり、及び
Mは、水素、ナトリウム、カリウム、リチウム、アンモニウム、トリメチルアンモニウム又はトリエチルアンモニウムであることを特徴とする、請求項1又は2に記載のトリスアゾ化合物。
【請求項4】
R
1は、SO
3M又はCOOMであり、
R
2は、SO
3M又はCOOMであり、
R
3及びR
4は、水素又はCH
3であり、
ただし、R
3及びR
4は、両方とも同時に水素であることはなく、且つ両方とも同時にCH
3であることはなく、
R
5及びR
6は、SO
3M、COOM又はNO
2であり、
ただし、前記基R
5又はR
6の一方は、NO
2であり、及び
Mは、水素、ナトリウム、カリウム、リチウム、アンモニウム、トリメチルアンモニウム又はトリエチルアンモニウムであることを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載のトリスアゾ化合物。
【請求項5】
R
1は、SO
3Mであり、
R
2は、SO
3Mであり、
R
3及びR
4は、水素又はCH
3であり、
ただし、R
3及びR
4は、両方とも同時に水素であることはなく、且つ両方とも同時にCH
3であることはなく、
R
5及びR
6は、SO
3M、COOM又はNO
2であり、
ただし、前記基R
5又はR
6の一方は、NO
2であり、及び
Mは、水素、ナトリウム、カリウム、リチウム、アンモニウム又はトリエチルアンモニウムであることを特徴とする、請求項1~
4のいずれか一項に記載のトリスアゾ化合物。
【請求項6】
R
1は、COOMであり、
R
2は、COOMであり、
R
3及びR
4は、水素又はCH
3であり、
ただし、R
3及びR
4は、両方とも同時に水素であることはなく、且つ両方とも同時にCH
3であることはなく、
R
5及びR
6は、SO
3M、COOM又はNO
2であり、
ただし、前記基R
5又はR
6の一方は、NO
2であり、及び
Mは、水素、ナトリウム、カリウム、リチウム、アンモニウム又はトリエチルアンモニウムであることを特徴とする、請求項1~
5のいずれか一項に記載のトリスアゾ化合物。
【請求項7】
式
【化2-1】
【化2-2】
に対応することを特徴とする、請求項1~
6のいずれか一項に記載のトリスアゾ化合物。
【請求項8】
セルロース含有物質、動物の皮、動物の毛、卵の殻、多孔質物質及び金属の染色及び印刷のための方法において、使用される染料は、請求項1~
7のいずれか一項に記載の少なくとも1種のトリ
スアゾ化合物であることを特徴とする方法。
【請求項9】
請求項1~
7のいずれか一項に記載の少なくとも1種のトリスアゾ化合物を含有する配合物。
【請求項10】
液状配合物であることを特徴とする、請求項
9に記載の配合物。
【請求項11】
それぞれの場合に前記配合物全体を基準にして0.5重量%~25重量%の、請求項1~
7のいずれか一項に記載の少なくとも1種のトリスアゾ化合物を含有することを特徴とする、請求項
9又は1
0に記載の配合物。
【請求項12】
前記配合物全体を基準にして40重量%~99重量%の水と、任意選択的に、0.01重量%~50重量%の合計量の、N-メチル-2-ピロリドン、2-ピロリドン、2-ヘキシルピロリドン、ヒドロキシエチルピロリドン、2-プロパノール、エタンジオール、ヘキサン-1,2-ジオール、ブタン-1,2-ジオール、トリメチロールプロパン、ジエチレングリコール、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、グリセロール、乳酸ブチル、尿素、スルホラン、グリコールエーテル及び殺生物剤の群からの1種又は複数の添加剤とを含有することを特徴とする、請求項
9~1
1のいずれか一項に記載の配合物。
【請求項13】
前記配合物全体を基準にして40重量%~99重量%の、N-メチル-2-ピロリドン、2-ピロリドン、2-ヘキシルピロリドン、ヒドロキシエチルピロリドン、2-プロパノール、エタンジオール、ヘキサン-1,2-ジオール、ブタン-1,2-ジオール、トリメチロールプロパン、ジエチレングリコール、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、グリセロール、乳酸ブチルの群からの少なくとも1種の溶媒と、任意選択的に、0.01重量%~50重量%の合計量の、尿素、スルホラン、グリコールエーテル、殺生物剤の群からの1種又は複数の添加剤とを含有することを特徴とする、請求項
9~1
2のいずれか一項に記載の配合物。
【請求項14】
インクジェット印刷のための記録流体としての、筆記用具における着色剤としての、又は光学的及び光電子的用途のための色フィルターの製造における、請求項
9~1
3のいずれか一項に記載の配合物の使用。
【請求項15】
請求項1~
7のいずれか一項に記載のトリスアゾ化合物を調製するためのプロセスにおいて、式(II)
【化3】
(式中、R
1及びR
2は、請求項1に規定された定義を有する)
の少なくとも1種の化合物は、ジアゾ化剤と反応され、及び得られた反応混合物は、次いで、式(III)
【化4】
(式中、R
3及びR
4は、請求項1に規定された定義を有する)
の少なくとも1種の化合物と反応されて、式(IV)
【化5】
(式中、R
1、R
2、R
3及びR
4は、請求項1に規定された定義を有する)
の中間体を与え、及び前記式(IV)の中間体は、次いで、ジアゾ化剤と反応され、及びその後、そのようにして得られた反応混合物は、式(V)
【化6】
の化合物と反応されて、式(VI)
【化7】
(式中、R
1、R
2、R
3及びR
4は、請求項1に規定された定義を有する)
の中間体を与え、及び次いで、前記式(VI)の中間体は、式(VII)
【化8】
(式中、R
5及びR
6は、請求項1に規定された定義を有する)
の化合物をジアゾ化剤と反応させることによって得ることができる反応生成物とさらに反応され、及び形成される前記式(I)のトリスアゾ化合物は、次いで、前記反応混合物の濾過によって単離されることを特徴とするプロセス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なトリスアゾ化合物及びその塩、その調製のためのプロセス並びに天然及び合成物質を染色及び印刷するための、特にインクジェット印刷で使用するためのその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット印刷プロセスで適用するための一連の黒色染料は、従来技術から既に公知である。
【0003】
産業用インクジェット印刷の分野では、例えば、染料C.I.アシッドブラック1及びC.I.ダイレクトブラック19が採用されることが多い。
【0004】
加えて、(特許文献1)は、インクジェット印刷プロセスで使用するための黒色のトリスアゾ染料を開示している。
【0005】
しかし、従来技術から公知の染料は、依然としていくつかの点で改良する必要がある。特に、従来技術から公知の染料は、十分な貯蔵安定性を有さず、これは、液状の染料溶液の貯蔵中に色強度及び色座標の両方の変化において明らかになる。
【0006】
従って、上述の欠点を克服するインクジェット印刷のための新規な染料が依然として必要とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】欧州特許出願公開第A3 020 770号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、従って、天然及び合成物質を黒い色調で染色及び印刷するための、特にインクジェット印刷に向けた適用のための新規な染料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、式(I)
【化1】
(式中、
R
1は、SO
3M又はCOOMであり、及び
R
2は、水素、SO
3M又はCOOMであり、
ただし、R
1は、R
2が水素である場合、SO
3Mであり、R
3及びR
4は、互いに独立して、水素又はCH
3であり、
R
5及びR
6は、互いに独立して、SO
3M、COOM又はNO
2であり、及び
Mは、水素であるか、一価の金属カチオンであるか、アンモニウムであるか、又はC
1~C
4-アルキルによって同一に若しくは異なって単置換若しくは多置換されているアルキルアンモニウムである)
のトリスアゾ化合物を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0010】
基R5又はR6の一方がNO2である、式(I)のトリスアゾ化合物が好ましい。
【0011】
Mの定義内における有用な一価の金属カチオンの例としては、ナトリウム、カリウム又はリチウムイオンが挙げられる。
【0012】
C1~C4-アルキルによって同一に又は異なって単置換又は多置換されているアルキルアンモニウムの有用な例としては、トリメチルアンモニウム、トリエチルアンモニウム、トリイソプロピルアンモニウム、トリブチルアンモニウム、好ましくはトリエチルアンモニウム及びトリイソプロピルアンモニウムが挙げられる。
【0013】
一般式(I)のトリスアゾ化合物は、遊離酸としてのものであり得るか、又は無機塩若しくは有機塩の形態であり得る。それらは、アルカリ金属塩又はアンモニウム塩、特にナトリウム塩として存在することが好ましい。
【0014】
基R1、R2、R3、R5及びR6のSO3M及びCOOMの定義において、Mは、同一であるか又は異なり得る。基R1、R2、R3、R5及びR6のSO3M及びCOOMの定義において、それぞれの場合にMが同一の定義を有することが好ましい。
【0015】
式(I)のトリスアゾ化合物であって、
R1は、SO3M又はCOOMであり、及び
R2は、水素、SO3M又はCOOMであり、
ただし、R1は、R2が水素である場合、SO3Mであり、
R3及びR4は、互いに独立して、水素又はCH3であり、及び
R5及びR6は、互いに独立して、SO3M、COOM又はNO2であり、
ただし、基R5又はR6の一方は、NO2であり、及び
Mは、水素、ナトリウム、カリウム、リチウム、アンモニウム又はC1~C2-アルキルによって同一に若しくは異なって単置換若しくは多置換されているアルキルアンモニウムである、トリスアゾ化合物が好ましい。
【0016】
式(I)のトリスアゾ化合物であって、
R1は、SO3M又はCOOMであり、及び
R2は、水素、SO3M又はCOOMであり、
ただし、R1は、R2が水素である場合、SO3Mであり、R3及びR4は、互いに独立して、水素又はCH3であり、及び
R5及びR6は、互いに独立して、SO3M、COOM又はNO2であり、
ただし、基R5又はR6の一方は、NO2であり、及び
Mは、水素、ナトリウム、カリウム、リチウム、アンモニウム、トリメチルアンモニウム又はトリエチルアンモニウムである、トリスアゾ化合物が特に好ましい。
【0017】
式(I)のトリスアゾ化合物であって、
R1は、SO3M又はCOOMであり、及び
R2は、水素、SO3M又はCOOMであり、
ただし、R1は、R2が水素である場合、SO3Mであり、R3及びR4は、水素又はCH3であり、
ただし、R3及びR4は、両方とも同時に水素であることはなく、且つ両方とも同時にCH3であることはなく、
R5及びR6は、SO3M、COOM又はNO2であり、
ただし、基R5又はR6の一方は、NO2であり、及び
Mは、水素、ナトリウム、カリウム、リチウム、アンモニウム、トリメチルアンモニウム又はトリエチルアンモニウムである、トリスアゾ化合物が極めて特に好ましい。
【0018】
式(Ia)又は(Ib)
【化2】
(式中、
R
1は、SO
3M又はCOOMであり、及び
R
2は、水素、SO
3M又はCOOMであり、
ただし、R
1は、R
2が水素である場合、SO
3Mであり、
R
3及びR
4は、水素又はCH
3であり、
ただし、R
3及びR
4は、両方とも同時に水素であることはなく、且つ両方とも同時にCH
3であることはなく、
R
5及びR
6は、SO
3M、COOM又はNO
2であり、
ただし、基R
5又はR
6の一方は、NO
2であり、及び
Mは、水素、ナトリウム、カリウム、リチウム、アンモニウム、トリメチルアンモニウム又はトリエチルアンモニウムである)
に対応する式(I)の化合物が特に好ましい。
【0019】
式(I)、(Ia)及び(Ib)の化合物であって、
R1は、SO3Mであり、
R2は、SO3Mであり、
R3及びR4は、水素又はCH3であり、
ただし、R3及びR4は、両方とも同時に水素であることはなく、且つ両方とも同時にCH3であることはなく、
R5及びR6は、SO3M、COOM又はNO2であり、
ただし、基R5又はR6の一方は、NO2であり、及び
Mは、水素、ナトリウム、カリウム、リチウム、アンモニウム又はトリエチルアンモニウムである、化合物が特に好ましい。
【0020】
式(I)、(Ia)及び(Ib)の化合物であって、
R1は、COOMであり、
R2は、COOMであり、
R3及びR4は、水素又はCH3であり、
ただし、R3及びR4は、両方とも同時に水素であることはなく、且つ両方とも同時にCH3であることはなく、
R5及びR6は、SO3M、COOM又はNO2であり、
ただし、基R5又はR6の一方は、NO2であり、及び
Mは、水素、ナトリウム、カリウム、リチウム、アンモニウム又はトリエチルアンモニウムである、化合物が同様に特に好ましい。
【0021】
本発明による式(I)のトリスアゾ化合物は、各種の物質を特に黒い色調で染色及び印刷するのに著しく適している。
【0022】
本発明による式(I)のトリスアゾ化合物は、セルロース含有物質、特に紙、綿、リネン及びビスコース、動物の皮及び毛、特に皮革及び羊毛、卵の殻及びナノ多孔質物質並びに金属の染色及び印刷に特に適している。
【0023】
本発明によるトリスアゾ化合物は、好ましくは、紙の本体又は表面を着色するために使用され得る。それらの染料は、長浴からの取り出しプロセス又は連続プロセスにおいて、綿、ビスコース及びリネンから製造された糸及び商品を染色するためにも使用され得る。
【0024】
本発明によるトリスアゾ化合物は、水性及び有機溶媒ベースのインクのための染料、特にインクジェット印刷のための記録流体並びに筆記用具、例えばペン及びスタンプなどのための染料として特に適している。それらは、多孔質、特にナノ多孔質の記録用シート上、並びに金属、紙及び他のセルロース含有物質並びに卵の殻上にインクジェット印刷するのに特に適している。
【0025】
ナノ多孔質の記録用シートとしては、例えば、ナノ多孔質の無機化合物、例えば二酸化ケイ素、酸化/水酸化アルミニウム、酸化アルミニウム又はそれらの混合物などから製造されたシートが挙げられる。
【0026】
本発明によるトリスアゾ化合物は、インクジェット印刷及び筆記用具のための液状配合物を製造するための着色剤として又は光学的及び光電子的用途のための色フィルターの製造において特に適している。
【0027】
そのようにして得られた着色物及び印刷物は、最高の品質要求に適合する。驚くべきことに、本発明による式(I)のトリスアゾ化合物は、顕著に改良された水溶液状態での貯蔵安定性を特徴とする。これにより、本発明によるトリスアゾ化合物の水溶液を、溶液の色強度及び色座標を変化させることなく比較的長期間にわたって貯蔵することが可能となる。
【0028】
本発明は、式(I)の少なくとも1種のトリスアゾ化合物を含有する配合物、特に液状配合物と、染色及び印刷用途のための染色組成物、特にインクジェット印刷及び筆記具のための記録流体としてのそれらの配合物の使用とをさらに提供する。
【0029】
本発明における液状配合物は、配合物全体を基準にして一般的に0.5重量%~25重量%、好ましくは1.0重量%~15重量%、特に好ましくは2.0重量%~8.0重量%の式(I)の少なくとも1種のトリスアゾ化合物を含有する。
【0030】
本発明による配合物は、水ベースであることが好ましい。一般的に、それらは、40重量%~99重量%、好ましくは70重量%~95重量%の水と、任意選択的に、N-メチル-2-ピロリドン、2-ピロリドン、2-ヘキシルピロリドン、ヒドロキシエチルピロリドン、2-プロパノール、エタンジオール、ヘキサン-1,2-ジオール、ブタン-1,2-ジオール、トリメチロールプロパン、ジエチレングリコール、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、グリセロール、乳酸ブチル、尿素、スルホラン、グリコールエーテル及び殺生物剤の群からの1種又は複数の添加剤とを含有し、すべての添加剤の合計量は、配合物全体を基準にして0.01重量%~50重量%、好ましくは0.1重量%~20重量%である。
【0031】
本発明による液状配合物は、有機溶媒もベースとし得る。この場合、配合物は、一般的に、40重量%~99重量%、好ましくは70重量%~95重量%の、N-メチル-2-ピロリドン、2-ピロリドン、2-ヘキシルピロリドン、ヒドロキシエチルピロリドン、2-プロパノール、エタンジオール、ヘキサン-1,2-ジオール、ブタン-1,2-ジオール、トリメチロールプロパン、ジエチレングリコール、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、グリセロール、乳酸ブチルの群からの少なくとも1種の溶媒と、任意選択的に、尿素、スルホラン、グリコールエーテル、殺生物剤の群からの1種又は複数の添加剤とを含有し、すべての添加剤の合計量は、配合物全体を基準にして0.01重量%~50重量%、好ましくは0.1重量%~20重量%である。
【0032】
本発明による配合物は、本発明による式(I)の少なくとも1種のトリスアゾ化合物を、水及び/又は少なくとも1種の有機溶媒並びに任意選択的に1種又は複数の添加剤と混合することによって製造され得る。
【0033】
本発明は、染色組成物、特にインク、記録流体又は織物着色剤としての、本発明による配合物の使用をさらに提供する。
【0034】
本発明による式(I)のトリスアゾ化合物は、式(II)
【化3】
(式中、R
1及びR
2は、式(I)について規定された定義を有する)
の少なくとも1種の化合物をジアゾ化剤と反応させ、及び次いで反応混合物を、式(III)
【化4】
(式中、R
3及びR
4は、式(I)について規定された定義を有する)
の少なくとも1種の化合物と反応させて、式(IV)
【化5】
(式中、R
1、R
2、R
3及びR
4は、式(I)について規定された定義を有する)
の中間体を与え、及び式(IV)の中間体をジアゾ化剤と反応させ、及び次いで、そのようにして得られた反応混合物を、式(V)
【化6】
の化合物と反応させて、式(VI)
【化7】
(式中、R
1、R
2、R
3及びR
4は、式(I)について規定された定義を有する)
の中間体を形成し、次いで、式(VI)の中間体を、式(VII)
【化8】
(式中、R
5及びR
6は、式(I)について規定された定義を有する)
の化合物をジアゾ化剤とを反応させることによって得ることができる反応生成物と反応させることによって調製され得る。
【0035】
ジアゾ化剤としては、無機及び有機の亜硝酸塩、ニトロシル硫酸、好ましくは亜硝酸ナトリウム又は亜硝酸メチルが適している。
【0036】
本発明におけるプロセスのジアゾ化工程は、当業者に公知の方法で実施されることが好ましい。ジアゾ化工程に関するpHは、広い範囲で変化させることができる。pHは、典型的には、0~12の範囲であり得る。
【0037】
ジアゾ化剤は、個別に使用され得るか、又は相互に任意の所望の混合物において使用され得る。
【0038】
本発明における調製プロセスは、典型的には、-20℃~+90℃、好ましくは-10℃~+60℃の温度範囲で実施される。
【0039】
便宜上、本発明におけるプロセスの個々の工程は、周囲圧力で実施されるが、反応は、1000~10000hPa、好ましくは10~5000hPaの範囲で実施され得る。周囲圧力とは、約925hPa~1070hPaの範囲の空気圧を意味することが理解される。
【0040】
本発明によるトリスアゾ化合物は、通常、単離されず、むしろ形成された水溶液の形態で直接使用される。例えば、イオン交換体又は加圧浸透法を使用して生成物溶液を精製することが可能であるが、その必要はない。しかし、本発明によるトリスアゾ染料の仕上げ及び単離のために、エタノールを用いてそれらを沈殿させ、吸引フィルター上でそれらを洗浄することが可能である。
【0041】
以下の実施例は、本発明を説明することを目的とするが、本発明をそれに限定するものではない。
【実施例】
【0042】
実施例A
実施例Aは、式
【化9】
に対応する染料C.I.アシッドブラック1(本発明によるものではない)である。TCI Chemicalsからの製品。
【0043】
実施例B
実施例Bは、式
【化10】
に対応する染料C.I.ダイレクトブラック19(本発明によるものではない)である。Dystarからの製品、商品名Jettex Direct Black 19。
【0044】
実施例1:
1.00mmolの5-アミノイソフタル酸を80当量の水中に懸濁させた。次いで、2.50当量の塩酸(37%水溶液の形態)を添加し、反応混合物を冷却して2℃とした。40%亜硝酸ナトリウム水溶液を等モル量で添加し、混合物を3℃で1時間撹拌した。アミドスルホン酸を添加することにより、過剰の亜硝酸塩を除去した。次いで、等モル量のm-トルイジンを水中に懸濁させ、60分以内に反応混合物に添加した。次いで、塩酸を用いて反応混合物のpHを調節してpH1.8とし、混合物を30分間撹拌した。黒色の沈殿物を濾過により単離し、塩酸水(1%HCl水溶液)を用いて洗浄した。
【0045】
フィルターケーキを80当量の水中に懸濁させ、懸濁液を4℃で40分間撹拌した。次いで、2.75当量のHClを添加し、次いで等モル量の40%亜硝酸ナトリウム水溶液を60分にわたって計量仕込みした。アミドスルホン酸を添加することにより、過剰の亜硝酸塩を除去した。次いで、等モル量の4-アミノ-5-ヒドロキシナフタレン-1,7-ジスルホン酸を添加し、懸濁液を2時間撹拌した。懸濁液を温めて15℃とし、HCl水溶液を添加することにより、pHを調節して1.1とした。次いで、反応混合物を12時間撹拌し、NaOH水溶液を使用してpHを7.7に設定した(懸濁液1)。等モル量の4-[(4-アミノ-3-ニトロフェニル)アミノ]-4-オキソブタン酸を70当量の水中に懸濁させ、4当量の塩酸を添加した。次いで、等モル量の亜硝酸ナトリウム水溶液を添加した。アミドスルホン酸を添加することにより、過剰の亜硝酸塩を除去した。この懸濁液に3℃の温度で懸濁液1を計量仕込みした。NaOH水溶液を使用してpHを調節して8.8とした。次いで、反応混合物を温めて室温とした。さらなる精製のために、SiO
2層(Celite(登録商標))上で濾過を実施した。0.42mmolの、式
【化11】
の染料が得られた。収率:42%。
【0046】
実施例2:
実施例1と同様に実施例2の染料を調製したが、異なる点として、5-アミノイソフタル酸の代わりに等モル量のp-アミノ安息香酸を使用した。0.44mmolの、式
【化12】
の染料が得られた。収率:44%。
【0047】
実施例3:
実施例1と同様に実施例3の染料を調製したが、異なる点として、5-アミノイソフタル酸の代わりに等モル量のアニリン-2,4-ジスルホン酸を使用し、4-[(4-アミノ-3-ニトロフェニル)アミノ]-4-オキソブタン酸の代わりに等モル量の4-ニトロアニリン-2-スルホン酸を使用した。0.49mmolの、式
【化13】
の染料が得られた。収率49%。
【0048】
実施例4:
実施例1と同様に実施例4の染料を調製したが、異なる点として、5-アミノイソフタル酸の代わりに等モル量のアニリン-2,4-ジスルホン酸を使用し、4-[(4-アミノ-3-ニトロフェニル)アミノ]-4-オキソブタン酸の代わりに等モル量の2-ニトロアニリン-4-スルホン酸を使用した。0.50mmolの、式
【化14】
の染料が得られた。収率50%。
【0049】
実施例5:
実施例1と同様に実施例5の染料を調製したが、異なる点として、5-アミノイソフタル酸の代わりに等モル量のアニリン-2,4-ジスルホン酸を使用し、4-[(4-アミノ-3-ニトロフェニル)アミノ]-4-オキソブタン酸の代わりに等モル量の2-ニトロアニリン-4-スルホン酸を使用し、m-トルイジンの代わりに等モル量のo-トルイジンを使用した。0.53mmolの、式
【化15】
の染料が得られた。収率53%。
【0050】
実施例6:
実施例1と同様に実施例6の染料を調製したが、異なる点として、5-アミノイソフタル酸の代わりに等モル量のアニリン-2,4-ジスルホン酸を使用し、4-[(4-アミノ-3-ニトロフェニル)アミノ]-4-オキソブタン酸の代わりに等モル量の4-ニトロアニリン-2-スルホン酸を使用し、m-トルイジンの代わりに等モル量のo-トルイジンを使用した。0.48mmolの、式
【化16】
の染料が得られた。収率48%。
【0051】
実施例7:
実施例1と同様に実施例7の染料を調製したが、異なる点として、5-アミノイソフタル酸の代わりに等モル量のアニリン-2,5-ジスルホン酸を使用し、4-[(4-アミノ-3-ニトロフェニル)アミノ]-4-オキソブタン酸の代わりに等モル量の4-ニトロアニリン-2-スルホン酸を使用した。0.42mmolの、式
【化17】
の染料が得られた。収率42%。
【0052】
実施例8:
実施例1と同様に実施例8の染料を調製したが、異なる点として、5-アミノイソフタル酸の代わりに等モル量のアニリン-2,5-ジスルホン酸を使用し、4-[(4-アミノ-3-ニトロフェニル)アミノ]-4-オキソブタン酸の代わりに等モル量の2-ニトロアニリン-4-スルホン酸を使用した。0.49mmolの、式
【化18】
の染料が得られた。収率49%。
【0053】
実施例9:
実施例1と同様に実施例9の染料を調製したが、異なる点として、5-アミノイソフタル酸の代わりに等モル量のアニリン-2,5-ジスルホン酸を使用し、4-[(4-アミノ-3-ニトロフェニル)アミノ]-4-オキソブタン酸の代わりに等モル量の2-ニトロアニリン-4-スルホン酸を使用し、m-トルイジンの代わりに等モル量のo-トルイジンを使用した。0.53mmolの、式
【化19】
の染料が得られた。収率53%。
【0054】
実施例10:
実施例1と同様に実施例10の染料を調製したが、異なる点として、5-アミノイソフタル酸の代わりに等モル量のアニリン-2,5-ジスルホン酸を使用し、4-[(4-アミノ-3-ニトロフェニル)アミノ]-4-オキソブタン酸の代わりに等モル量の4-ニトロアニリン-2-スルホン酸を使用し、m-トルイジンの代わりに等モル量のo-トルイジンを使用した。0.50mmolの、式
【化20】
の染料が得られた。収率50%。
【0055】
実施例11:
実施例1と同様に実施例11の染料を調製したが、異なる点として、5-アミノイソフタル酸の代わりに等モル量のアニリン-2,5-ジスルホン酸を使用し、4-[(4-アミノ-3-ニトロフェニル)アミノ]-4-オキソブタン酸の代わりに等モル量の4-ニトロアニリン-2-スルホン酸を使用し、m-トルイジンの代わりに等モル量のo-トルイジンを使用した。合成に続けて、10.0当量の塩化アンモニウムを添加し、反応混合物を室温で2時間撹拌した。さらなる精製のために、SiO
2層(Celite(登録商標))上で濾過を実施した。0.49mmolの、式
【化21】
の染料が得られた。収率49%。
【0056】
実施例12:
実施例1と同様に実施例11の染料を調製したが、異なる点として、5-アミノイソフタル酸の代わりに等モル量のアニリン-2,5-ジスルホン酸を使用し、4-[(4-アミノ-3-ニトロフェニル)アミノ]-4-オキソブタン酸の代わりに等モル量の4-ニトロアニリン-2-スルホン酸を使用し、m-トルイジンの代わりに等モル量のo-トルイジンを使用した。合成に続けて、10.0当量のトリエチルアミンを添加し、反応混合物を室温で2時間撹拌した。さらなる精製のために、SiO
2層(Celite(登録商標))上で濾過を実施した。0.47mmolの、式
【化22】
の染料が得られた。収率47%。
【0057】
実施例13:
実施例1と同様に実施例13の染料を調製したが、異なる点として、5-アミノイソフタル酸の代わりに等モル量の4-アミノフタル酸を使用し、4-[(4-アミノ-3-ニトロフェニル)アミノ]-4-オキソブタン酸の代わりに等モル量の2-アミノ-4-ニトロ安息香酸を使用した。0.50mmolの、式
【化23】
の染料が得られた。収率50%。
【0058】
実施例14:
実施例1と同様に実施例13の染料を調製したが、異なる点として、5-アミノイソフタル酸の代わりに等モル量の4-アミノフタル酸を使用し、4-[(4-アミノ-3-ニトロフェニル)アミノ]-4-オキソブタン酸の代わりに等モル量の4-ニトロアニリン-2-スルホン酸を使用した。0.52mmolの、式
【化24】
の染料が得られた。収率52%。
【0059】
染料水溶液の貯蔵安定性の測定:
記載されるE1/1値は、(水に溶解された)それぞれの化合物の1重量パーセント溶液が、1cmの経路長を有するセル内で測定された場合に得られるであろう仮想上の吸収値である。
【0060】
E1/1値における変化及びλmaxにおける変化は、染料水溶液の貯蔵安定性の基準として役立つ。実施例A及びB並びに実施例1~14の本発明による染料及び本発明によるものではない染料の貯蔵安定性を測定するために、それぞれの場合に19重量%の濃度を有する染料水溶液を作製し、それらの染料溶液を、密閉したガラス容器内において45℃で28日間貯蔵した。それぞれの場合に0日後及び28日後に上述の手順に従ってE1/1値を測定した。この期間におけるE1/1値の変化は、値ΔE1/1=E1/1(28日)-E1/1(0日)となる。この期間におけるλmaxの変化は、値Δλmax=λmax(28日)-λmax(0日)となる。
【0061】
この場合、E1/1値における変化は、貯蔵期間における色強度の損失の基準であり、及びλmaxにおける変化は、貯蔵期間における色座標のシフトの基準である。
【0062】
それらの結果を表1に再現する。
【0063】
【0064】
結論:表1に見られるように、実施例3~14の本発明によるトリスアゾ化合物の水溶液は、本発明によるものではない従来技術の実施例A及びB並びに実施例1及び2の染料と比較して、45℃の高温での28日間の長い貯蔵期間後でも顕著に低い吸収値及びλmaxの変化を示す。これは、本発明によるトリスアゾ化合物の水溶液では、その色強度及び色座標が28日の期間でも実質的に変化しないままであるが、対照的に、本発明によるものではない染料では顕著な変化が認められることを意味する。