(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-17
(45)【発行日】2023-11-28
(54)【発明の名称】熱変色性筆記具
(51)【国際特許分類】
B43K 1/08 20060101AFI20231120BHJP
B43K 7/01 20060101ALI20231120BHJP
B43K 7/10 20060101ALI20231120BHJP
【FI】
B43K1/08 120
B43K7/01
B43K7/10
(21)【出願番号】P 2022083037
(22)【出願日】2022-05-20
(62)【分割の表示】P 2017233876の分割
【原出願日】2017-12-06
【審査請求日】2022-06-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000005957
【氏名又は名称】三菱鉛筆株式会社
(72)【発明者】
【氏名】山本 達郎
(72)【発明者】
【氏名】牧 貴之
【審査官】飯野 修司
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/098612(WO,A1)
【文献】特開2014-008629(JP,A)
【文献】特開2015-083388(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B43K 1/08
B43K 7/01
B43K 7/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸筒内にリフィルを収容し、前記リフィルは、熱変色性インクを収容するインク収容管と、前記インク収容管の先端に備えられ、回転可能に遊嵌された筆記ボールが先端側にはカシメによって後端側には受け座によってそれぞれ前後退の移動規制されており内部には後端側から熱変色性インクを導出するインク孔を有するボールペンチップと、前記ボールペンチップは、受け座とインク孔を連通する複数の溝によって構成されているチャンネル溝と、先端のボールを常時直接又は間に可動部材を介して押圧する様に設置された弾発部材の付勢部とを有し、筆記荷重40g、分速1mを100m筆記したインク消費量を200mg以上とした熱変色性筆記具に於いて、付勢部による筆記ボール押力P(N)、とリフィルを含む筆記具総重量M(N)との間に、PがMの150%以上を満足する構成とし、軸筒後端から突出した操作部を設け、操作部には熱変色性インクを変色可能な摩擦部であり、摩擦部の表面には凹凸部が形成されていると共に、操作部は、筆記体の出没前後において、軸筒先端から操作部後端までの位置が一定であることを特徴とする熱変色性筆記具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、筆記ボールがチップ先端側のカシメ内面に密接するように常時弾性体で押圧するように設けた、所謂ボールバルブ機構を有したボールペンを備えた熱変色性筆記具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ボールペンタイプの筆記具では、高級アルコール溶剤を主溶剤とした高粘度(約1万cp)のインクをインク収容管に直接内蔵した所謂油性ボールペンや、水を主溶剤とした低粘度のインクを中綿と呼ぶ繊維束芯に保蔵させた所謂水性ボールペンや、剪断減粘性の性質を持たせたゲルボールペンが存在している。しかしながらどのタイプのインクを使用したボールペンでも、筆記をしていない保管時において(筆記時には見られない)不具合が確認された。具体的には出没式のボールペンにおいてペン先を収納せずにペン先を下向きに突出した状態、またはキャップ式のボールペンにおいてキャップをせずにペン先を下向きに突出した状態でペン立てなどに保管した場合に、ペン先のボールバルブが開いてしまいインクが漏れ出したり、ペン先が乾燥して筆記不能になるなどの不具合が見いだされ、さらに改良する必要が生じてきた。そこで、前記問題点を解決するために、例えば特許文献1や特許文献2のようなペン先のボールバルブの荷重を筆記具の軸重より高くしてペン先からのインク漏れを防ぐことや、特許文献3のような敷部材によりインク汚れを防ぐことが当業者間での技術常識となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2005-231033
【文献】特開2014-8629
【文献】特開2010-213912
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし複数の筆記具を重ねたり、店頭での試し書きの後にホルダー等での立てかけにおいて、軸体を垂直方向に立てた保管にならずに
図13に示した状態のような軸体がθ=10~45°傾斜してしまう際に、インク漏れが発生してしまい漏れたインクが固化してボールの回転を妨げ筆記不良に繋がることがある。
【0005】
そこで本発明は、ペン先内部に筆記部となるボールを先端から突出した状態で抜け止め不可能に遊嵌した所謂ボールペンの改良を目的としており、ペン先が下向きに突出した状態でペン立てなどに軸体を傾斜して保管されているときに、ペン先からのインク漏れによる汚れドライアップにより筆記不能となる問題の解決を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は発明者の鋭意開発の末、以下の発明を実現するに至った。
本発明は、軸筒内にリフィルを収容し、前記リフィルは、熱変色性インクを収容するインク収容管と、前記インク収容管の先端に備えられ、回転可能に遊嵌された筆記ボールが、先端側にはカシメによって後端側には受け座によってそれぞれ前後退の移動規制されており内部には後端側から熱変色性インクを導出するインク孔を有するボールペンチップと、前記ボールペンチップは、受け座とインク孔を連通する複数の溝によって構成されているチャンネル溝と、先端のボールを常時直接又は間に可動部材を介して押圧する様に設置された弾発部材の付勢部とを有し、筆記荷重40g、分速1mを100m筆記したインク消費量を200mg以上とした熱変色性筆記具に於いて、付勢部による筆記ボール押力P(N)、とリフィルを含む筆記具総重量M(N)との間に、PがMの150%以上を満足する構成とした事を特徴とする熱変色性筆記具である。
【0007】
また、軸筒内にはリフィルを後方へ付勢するコイルスプリングと、該軸筒の後部に設けられるとともに、該リフィルの後方に配置され、該リフィルと連動する操作部と、を有し、該操作部を前方に押圧又は回転によってリフィルを前記軸筒の先端から突出させることによって筆記位置となる出没式の熱変色性筆記具であり、前記ボールペンチップは筆記ボールと、該筆記ボールを先端に抱持するホルダーと、を備え、前記ホルダーの先端には前記筆記ボールを抱持するカシメ部が設けられ、該ホルダーの内部空間には、該ホルダーの先端に設けられるとともに前記筆記ボールが挿入されるボールハウス、該ホルダーの後端から先端方向へ該ボールハウスの近傍まで設けられたバック孔、及び該バック孔とボールハウスとを連結するインク誘導孔が形成されており、前記ボールハウスは軸心とほぼ平行な円筒面と、該円筒面に連続して後方へ向かって縮径する円錐面である底面と、該底面に前記筆記ボールの曲面が転写されたボール受座と、を有しており、前記インク誘導孔の周囲に等配された複数箇所には、前記ボールハウス側から後方に向かって穿設された放射状の溝であるインク溝が形成されており、前記バック孔内には、前記筆記ボールを先端方向に付勢する弾発部材が挿入されており、該弾発部材の先端部分は、先端方向に直線状に伸び前記インク誘導孔を通って前記筆記ボールの後端に当接しこれを付勢する付勢部として形成されており、前記リフィルに収容されるインクの最大容量が0.5ml以上であって、前記筆記ボールの真球度が1.0μm以下であって、インクに使用されている顔料の平均粒子径が0.3μm以上2.5μm以下であって、筆記ボールの直径をH、前記ホルダーの先端から前記筆記ボールが飛び出ている距離である筆記ボール出寸法をJ、該筆記ボールが前記ホルダー内で前記ボールペンチップの軸線方向に移動可能な量であるクリアランスをK、前記ボールハウスの円筒面の内径をL、前記インク誘導孔の内径をA、前記ボール受座の最外径をF、前記付勢部の線径をG、インク溝の外接円の径をCとしたときに、クリアランスが(0.05×H)≦K≦(0.1×H)であって、前記筆記ボールが(J+K)<(0.4×H)となるように前記カシメ部に抱持されており、前記ボールハウスの円筒面の内径はL≧(H×1.05)及び、F<(0.65×H)となるように形成されており、前記インク誘導孔はA≦(0.6×H)となるように形成されており、前記付勢部の線径は(0.2×A)≦G≦(0.6×A)となるように形成されており、前記インク溝の外接円の径はC>Hとなるように形成されていることを特徴とする。
【0008】
また、熱変色性インクの粘度は、20℃でのE型回転粘度計による3.84(1/S)の剪断速度におけるインク粘度が20~300mPa・sを示したものである。
【0009】
また、操作部は、筆記体の出没前後において、軸筒先端から操作部後端までの位置が一定としたものである。
【0010】
また、軸筒後端から突出した操作部を設け、操作部には熱変色性インクを変色容易な摩擦部であり、摩擦部の表面には凹凸部が形成されているものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によって、ペン先が下向きに突出した状態でペン立てなどに軸体を傾斜して保管されているときに、ペン先からのインク漏れやドライアップにより筆記不能となることを回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明における実施形態を示す筆記具の全体図である。
【
図2】本発明における実施形態を示す筆記具に収容されたリフィルの正面断面図である。
【
図3】本発明における実施形態を示す筆記具の筆記部であるボールペンチップの部品図である。
【
図9】他の実施形態に係るボールペンチップを
図6の断面図にならって示すものである。
【
図10】本発明に係るボールペンチップのホルダーと弾発部材の状態を示す部分断面図である。ただし筆記ボールは省略してある。
【
図11】
図3のボールペンチップの先端の正面断面図である。
【
図13】本発明に係る筆記具の傾斜状態を示した全体図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態を詳細に説明する。全図面に渡り、対応する構成要素には共通の参照符号を付す。また筆記部側を先端、前方と称し、他端側を後端、後方と称す。
【0014】
図1は、本発明に係る実施形態に関する筆記具1を示したものである。軸筒2の後端から操作部3が後方に突出して、操作部3の操作によって軸筒2の内部に収容されたボールペンリフィル5を軸筒前方の口先部材4から出没操作可能な筆記具である。軸筒2の側面にはクリップ6が固定されており、軸筒2との間でポケットや紙面等に挟めるようになっている。操作部3は、軸線方向に対し前方への押圧、又は径方向に回転することによってボールペンリフィル5を口先部材4の先端面から出没可能となっている。操作部3の後端面から軸筒2の先端面又は口先部材4の先端面まではボールペンリフィル5の出没状態に関わらず一定の距離となっており、筆記状態においての軸筒2又は口先部材4から突出したボールペンリフィル5の先端を除けば、筆記状態並びに保管状態共に同じ状態であり筆記具の外観を損なわない形態となっている。また、軸筒2の内部には図示しないコイルスプリングが収納され、ボールペンリフィルを後方へ付勢する構造となっている。
【0015】
操作部3は、操作時における滑り止めのため、操作部3の表面に凹凸部7が形成されている。凹凸部7は表面から突起又は溝又は突起と溝の組合せで構成される。また凹凸部7は梨地状態としてもよい。
【0016】
操作部3は、ボールペンリフィル5が熱変色性インクとした場合に摩擦部として機能することができる。紙面を傷めず且つ印刷文字を掠れさせないように、適度に摩耗するように形成される。具体的には、JIS K7204に規定された摩耗試験(ASTM D1044)荷重9.8N、1000rpm環境下において、テーバー摩耗試験機の摩耗輪CS-17でのテーバー摩耗量が10mg以上であることが好ましい。テーバー摩耗量が10mg未満の摩擦部材だと、摩擦による筆跡の変色時に紙面を傷めてしまい且つ印刷文字を掠れさせてしまう。
【0017】
操作部3を形成するための材料として、シリコーンゴム、ニトリルゴム、エチレンプロピレンゴム、エチレンプロピレンジエンゴム等の熱硬化性ゴムやスチレン系エラストマー、オレフィン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー等の熱可塑性エラストマーといったゴム弾性材料、2種以上のゴム弾性材料の混合物、及び、ゴム弾性材料と合成樹脂との混合物を、テーバー摩耗量が10mg以上となるように構成し、操作部3を形成してもよい。さらに、ポリプロピレン樹脂及びスチレン系熱可塑性エラストマーの混合物、またはポリプロピレン樹脂及びオレフィン系熱可塑性エラストマーの混合物を、テーバー摩耗量が10mg以上となるように構成し、操作部3を形成してもよい。
【0018】
さらに、テーバー摩耗量が10mg以上となるように調整するために、操作部3の材料に対して、より柔軟性を出すためのアルキルスルフォン酸フェニルエステル、シクロヘキサンジカルボン酸エステルやフタル酸系可塑剤を添加してもよい。操作部3が、アルキルスルフォン酸フェニルエステル、シクロヘキサンジカルボン酸エステル、メタクリル酸エステル、アクリル酸エステル、アセチルクエン酸トリブチル、アジピン酸系ポリエステル、アセチルクエン酸トリブチル、セバシン酸ジエステル、ジエチレングリコールジベンゾエートやフタル酸系可塑剤を含むことによって、操作部3がより摩耗しやすくなるため、紙面を傷めず且つ印刷文字等を掠れさせることなく、筆跡の消去が可能となる。なお、操作部3は、タッチペン、スタイラスペンとしても適用可能である。
【0019】
さらに、操作部3は、JIS K6203に規定されたデュロメータD硬度が30以上であることが望ましい。それによって、所定の硬さが確保でき、より安定した擦過動作が可能となる。
【0020】
また、アミン類、フェノール類、イミダゾール類、リン類またはチオウレア類等の老化防止剤を添加してもよい。
【0021】
アミン類としては、フェニル-α-ナフチルアミン、2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリンポリマー、6-エトキシ-2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリン、p、p’-ジオクチルジフェニルアミン、p,p’-ジクミルジフェニルアミン、N,N'-ジ-2-ナフチル-p-フェニレンジアミン、N,N'-ジフェニル-p-フェニレンジアミン、N-フェニル-N’-イソプロピル-p-フェニレンジアミン、N-フェニル-N’-1,3-ジメチルブチル-p-フェニレンジアミン、N-(1,3-ジメチルブチル)-N’-フェニル-p-フェニレンジアミンなどが挙げられる。
【0022】
フェノール類としては、2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノール、2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノール、スチレン化メチルフェノール、2,2’-メチレンビス(4-エチル-6-tert-ブチルフェノール)、2,2’-メチレンビス(4-メチル-6-tert-ブチルフェノール)、4,4’-ブチリデンビス(3-メチル-6-tert-ブチルフェノール)、4,4’-チオビス(3-メチル-6-tert-ブチルフェノール)、2,5-ジ-tert-ブチルハイドロキノン、2,5-ジ-tert-アミルハイドロキノンなどが挙げられる。
【0023】
イミダゾール類としては、2-メルカプトベンズイミダゾール、2-メルカプトベンズイミダゾールの亜鉛塩、ジブチルジチオカルバミン酸ニッケルなどが挙げられる。
【0024】
その他、トリス(ノニル化フェニル)フォスファイトなどのリン類、1,3-ビス(ジメチルアミノプロピル)-2-チオウレア、トリブチルチオウレアなどのチオウレア類、オゾン劣化防止用ワックスなどを用いても良い。
【0025】
上記の老化防止剤は1種類を単独で用いても、2種類以上を組み合わせても用いても良い。なかでも、N-(1,3-ジメチルブチル)-N’-フェニル-p-フェニレンジアミンを用いることが好ましい。
【0026】
老化防止剤の含有量は、ポリマー成分100質量部に対して、0.1質量部以上5質量部以下であることが好ましい。老化防止剤の含有量が0.1質量部未満であると、老化防止効果を得ることができない。一方、老化防止剤の含有量が5質量部を超えると、ポリマー組成物にブルーミング現象が発生する。老化防止剤の含有量は、さらに0.3質量部以上4質量部以下が好ましい。
【0027】
また、筆記具1の外面の部材である軸筒2、操作部3、口先部材4、クリップ6には抗菌剤が含ませることもできる。本発明の抗菌剤を含む基材に使用する主要な材料としては、スチレン樹脂、アクリル樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、クロロスルホン化ポリエチレン、ABS樹脂、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリエステル、ポリエチレンテレフタレート、ポリアセタール、フェノール樹脂、尿素樹脂、天然ゴム、合成ゴムなどの合成樹脂類、紙類、木材、金属などがあげられる。通常、合成樹脂類は着色剤、充填剤、安定剤、可塑剤などの助剤とともに用いられる。例えば、オートクレーブ滅菌(120~130℃)処理の可能な樹脂材料としては、〔“ウルテム”GE社製〕などのポリエーテルイミド(PEI);〔“スミカエクセル”住友化学製〕、〔“ウルトラゾーン”BASF社製〕、〔“レーデル”AMOCO社製〕などのポリエーテルサルホン(PES);〔“ユーデル”AMOCO社製〕などのポリサルホン(PSF);〔“ビクトレックス”ビクトレックス社製〕、〔“PEEK”三井東圧(株)製〕などのポリエーテルエーテルケトン(PEEK);〔“PPS”東レ(株)製〕などのポリフェニレンスルフィド(PPS)などが示される。
【0028】
本発明に用いる抗菌剤としては、2-(4-チアゾリル)ベンツイミダゾール、2-ベンツイミダゾール酸カルバミンメチル、1-(ブチルカルバモイル)2-ベンツイミダゾールカルバミン酸メチル、2-(メトキシカルボニルアミノ)ベンツイミダゾール、2-(ベンツイミダゾール)カルバミン酸メチルなどのイミダゾール系、1,2-ベンツイソチアゾリン-3-オン、2-n-オクチル-4-イソチアゾリン-3-オン、2-(4-チオシアノメチルチオ)ベンツチアゾール、5-クロロ-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オンなどのチアゾール系、3-ヨード-2-プロパギルブチルカルバミン酸、4-クロロフェニル-3-ヨードプロパギルホルマール、ジヨードメチル-p-トリルスルホン、3-エトキシカルボニルオキシ-1-ブロム-1,2-ジヨード-1-プロペンなどのヨード系、2,3,5,6-テトラクロロイソフタロニトリル、5-クロロ-2,4,6-トリフルオロイソフタロニトリルなどのニトリル系、p-クロロ-m-クレゾール、2,4,4′-トリクロロ-2′-ヒドロキシジフェニルエーテルなどのフェノール系、N-(フルオロジクロロメチルチオ)フタルイミド、N,N-ジメチル-N′-(ジクロロフルオロメチルチオ)-N′-フェニルスルファミド、N,N-ジメチル-N′-(ジクロロフルオロメチルチオ)-N′-トリルスルファミド、N-(トリクロルメチルチオ)フタルイミド、テトラクロルエチルチオテトラヒドロフタルイミド、N-トリクロルメチルチオ-4-シクロヘキセン-1,2-ジカルボキシイミドなどのハロアルキルチオ系、2-ピリジンチオール-1-オキシドナトリウム、2-ピリジンチオール-1-オキシド亜鉛、2,3,5,6-テトラクロロ-4-(メチルスルホニル)ピリジンなどのピリジン系、ヘキサヒドロ-1,3,5-トリス(2-ヒドロキシエチル)S-トリアジン、ヘキサヒドロ-1,3,5-トリエチル-S-トリアジンなどのトリアジン系、2-プロモ-2-ニトロ-1,3-プロパンジオール、1,2-ジブロモ-2,4-ジシアノブタンなどのブロム系、銀-ゼオライト、亜鉛ゼオライト、銀-アパタイト、リン酸ジルコニウム-銀、チタニア-銀、水溶性ガラス-銀、リン酸カルシウムー銀、ゼオライト-銅、ゼオライト-亜鉛、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、アモルファス銅、過炭酸ナトリウム、次亜塩素酸ナトリウム、メタホウ酸バリウムなどの無機系、トリクロルカルバンなどのハロジアリル尿素系、グルコン酸クロロヘキサジン、グルコン酸クロロヘキサジン+シクロピロクスオラミン、ポリヘキサメチレンピグアニジン塩酸塩などのグアニジン系、プロピルグリコールモノ脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステルなどの脂肪酸エステル系、セルロース銅、銅架橋アクリロニトリル・アクリル酸コポリマー、金属酸化物配位アミノケイ素系ポリマー、亜鉛配位アクリル酸ポリマーなどのポリマー配位金属系、10,10'-オキシビスフェノキシアルシン、8-オキシキノリン銅、メチレンヒスチオシアネート、ビス(ジメチルジチオカルバモイル)ジスルフィド、1-(3-クロルアリル)-3,5,7-トリアザ-1-アゾニアアダマンタンクロリド、3,5-ジメチルテトラヒドロ-1,3,5-チアジアジン-2-チオン、ジメチルジチオカルバミン酸亜鉛、4,4’-(2-エチル-2-ニトロトリメチレン)ジモルホリン、レバン分解酵素剤、N-(2-ヒドロキシプロピル)アミノメタノール、2-(メトキシカルボニルアミノ)ベンツイミダゾール+8-オキシキノリン銅、5-(クロル-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン+1,2-ベンツイソチアゾリン-3-オンなどをあげることができる。また、市販品としては、ポリアルファーBN,ZAG,AG,DN〔濤和化学(株)製〕、アムテクリーンZ MK-10,MK-2,MK-20,MK-30〔松下アムテック(株)製〕などがあげられる。また、ダイキラー〔大日精化工業(株)製〕のPEM701,PEM702,PEM703,ABM501,PSM401、銀ナノ粒子(「イオンフレア」八千代工業株式会社製、平均粒子径=5nm)などのマスターバッチ製品などから選択される。
【0029】
本発明の筆記具の外面の部材に抗菌剤を含有させる方法としては、金属、木材には抗菌剤を含む塗装材を塗装加工するが、上記の合成樹脂とそれに必要な助剤に抗菌剤を混入し、射出、押し出しなどで成形加工するのが好ましい。また、外面の部材には凹凸部、角には丸み面加工いわゆるR加工を施し、部材の組合せは溝、すき間などの生じないようにするのがよい。
【0030】
合成樹脂に抗菌剤を混入する場合に、成形後の抗菌剤の効果をあげるためにつぎのような方法がある。(1)成形時にワックスを添加するか、ワックスと抗菌剤とが予め混入されたマスターバッチを用いる方法。(2)抗菌剤の分散を良くするために、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸リチウムなどの添加物を加える方法。たとえば、抗菌剤とステアリン酸亜鉛とを7:3~8:2で混合かくはん溶解する、すなわち、抗菌剤を120~180℃に加熱溶融後ステアリン酸金属塩を添加して得られた抗菌剤と添加物の混合物は、ポリオレフィン、塩ビ、A.B.Sなどの樹脂に1~2%添加し、約10分ニーダーで混合する。(3)界面活性剤を添加する方法。(4)親水性ポリマーを添加する方法。この方法は成形品の表面が湿気をおびてくるので抗菌剤の効果が増大する。
【0031】
本発明の筆記・塗布用具の部材に含有する抗菌剤の量は、抗菌剤の種類、該部材の種類それに使用する材料の種類により異なり、特に限定する必要はないが、部材中、通常0.001~30%含有する。
【0032】
また、ボールペンリフィル5内のインクにも抗菌剤を含有させることで、筆跡にも抗菌効果を付与させることもできる。
【0033】
抗菌の基準として、抗菌製品協議会が定めるガイドラインを満たす、JIS Z2801に基づく抗菌加工製品-抗菌性試験を行い、抗菌活性値2.0以上であることが好ましい。
【0034】
ボールペンリフィル5は、
図2に示すように筆記部としてのボールペンチップ20がインク18を収容したインク収容管16に継手17を介して装着され、ボールペンリフィル15となる。なお、インク18の後端にはインク18の尾端からの逆流を防止するグリース状のインク追従体19が充填されるとともに、その中にはその追従性を高めるべく比重を等しくしたフロート19aを収容している。このボールペンリフィル5は軸筒2内部に収納される。本実施形態については、ボールペンリフィル5を含めた筆記具1の重量は25gで、その時のスプリングの押圧荷重は40gとなっている。それによりポールペンチップ20を軸筒2から突出させたままで、筆記具1を傾斜させて保管した状態においてもボールペンチップ20からのインク18の漏れを防ぐことができる。
【0035】
インク18は、熱変色性インクがインク収容管16内に充填される。熱変色性インクとは、常温(例えば25℃)で所定の色彩(第1色)を維持し、所定温度(例えば65℃)まで昇温させると別の色彩(第2色)へと変化し、その後、所定温度(例えば-10℃)まで冷却させると、再び元の色彩(第1色)へと復帰する性質を有するインクを言う。一般的には第2色を無色とし、第1色(例えば赤)で筆記した描線を昇温させて無色とする構成でもよい。従って、描線が筆記された紙面等に対して摩擦体9によって擦過して摩擦熱を生じさせ、それによって描線を無色に変化させる。なお、当然のことながら第2色は、無色以外の有色でもよい。詳細に述べると、熱変色インクの色材となる熱変色性マイクロカプセル顔料としては、少なくともロイコ色素、顕色剤、変色温度調整剤を含む熱変色性組成物を、マイクロカプセル化したものが挙げられる。可逆熱変色性マイクロカプセル顔料は、粒子径の平均値が0.3~2.5μmの範囲にあることが好ましい。可逆熱変色性マイクロカプセル顔料は、インク組成物全量に対し、好ましくは4~30重量%配合することが好ましい。なお、平均粒子径の測定は、粒子径測定器N4Plus(COULTER社製)を用いて測定した。測定時には試料がN4Plusの推奨濃度に到達するまで水で希釈して、25℃の温度条件で測定した。また、インク粘度は、20℃でのE型回転粘度計による3.84(1/S)の剪断速度におけるインク粘度が20~300mPa・sである。また、インク収容管16に収容されるインクの容量は、0.5ml以上である。
【0036】
用いることができるロイコ色素としては、電子供与性染料で、発色剤としての機能するものであれば、特に限定されものではない。具体的には、発色特性に優れるインクを得る点から、トリフェニルメタン系、スピロピラン系、フルオラン系、ジフェニルメタン系、ローダミンラクタム系、インドリルフタリド系、ロイコオーラミン系等従来公知のものが、単独(1種)で又は2種以上を混合して(以下、単に「少なくとも1種」という)用いることができる。
【0037】
具体的には、6-(ジメチルアミノ)-3,3-ビス[4-(ジメチルアミノ)フェニル]-1(3H)-イソベンゾフラノン、3,3-ビス(p-ジメチルアミノフェニル)-6-ジメチルアミノフタリド、3-(4-ジエチルアミノフェニル)-3-(1-エチル-2-メチルインドール-3-イル)フタリド、3-(4-ジエチルアミノ-2-エトキシフェニル)-3-(1-エチル-2-メチルインドール-3-イル)-4-アザフタリド、1,3-ジメチル-6-ジエチルアミノフルオラン、2-クロロ-3-メチル-6-ジメチルアミノフルオラン、3-ジブチルアミノ-6-メチル-7-アニリノフルオラン、3-ジエチルアミノ-6-メチル-7-アニリノフルオラン、3-ジエチルアミノ-6-メチル-7-キシリジノフルオラン、2-(2-クロロアニリノ)-6-ジブチルアミノフルオラン、3,6-ジメトキシフルオラン、3,6-ジ-n-ブトキシフルオラン、1,2-ベンツ-6-ジエチルアミノフルオラン、1,2-ベンツ-6-ジブチルアミノフルオラン、1,2-ベンツ-6-エチルイソアミルアミノフルオラン、2-メチル-6-(N-p-トリル-N-エチルアミノ)フルオラン、2-(N-フェニル-N--メチルアミノ)-6-(N-p-トリル-N-エチルアミノ)フルオラン、2-(3’-トリフルオロメチルアニリノ)-6-ジエチルアミノフルオラン、3-クロロ-6-シクロヘキシルアミノフルオラン、2-メチル-6-シクロヘキシルアミノフルオラン、3-ジ(n-ブチル)アミノ-6-メトキシ-7-アニリノフルオラン、3,6-ビス(ジフェニルアミノ)フルオラン、メチル-3’,6’-ビスジフェニルアミノフルオラン、クロロ-3’,6’-ビスジフェニルアミノフルオラン、3-メトキシ-4-ドデコキシスチリノキノリン、などが挙げられ、これらは、少なくとも1種用いることができる。これらのロイコ色素は、ラクトン骨格、ピリジン骨格、キナゾリン骨格、ビスキナゾリン骨格等を有するものであり、これらの骨格(環)が開環することで発色を発現するものである。好ましくは、熱により有色から無色となるロイコ色素の使用が望ましい。
【0038】
用いることができる顕色剤は、上記ロイコ色素を発色させる能力を有する成分となるものであり、例えば、フェノール樹脂系化合物、サリチル酸系金属塩化物、サリチル酸樹脂系金属塩化合物、固体酸系化合物等が挙げられる。具体的には、o-クレゾール、ターシャリーブチルカテコール、ノニルフェノール、n-オクチルフェノール、n-ドデシルフェノール、n-ステアリルフェノール、p-クロロフェノール、p-ブロモフェノール、o-フェニルフェノール、ヘキサフルオロビスフェノール、p-ヒドロキシ安息香酸n-ブチル、p-ヒドロキシ安息香酸n-オクチル、レゾルシン、没食子酸ドデシル、2,2-ビス(4'-ヒドロキシフェニル)プロパン、4,4-ジヒドロキシジフェニルスルホン、2-ビス(4'-ヒドロキシフェニル)エタン、2,2-ビス(4'-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルフィド、1-フェニル-2-ビス( 4'-ヒドロキシフェニル)エタン、2-ビス(4'-ヒドロキシフェニル)-3-メチルブタン、2-ビス(4'-ヒドロキシフェニル)-2-メチルプロパン、2-ビス(4'-ヒドロキシフェニル)n-ヘキサン、2-ビス(4'-ヒドロキシフェニル)n-ヘプタン、2-ビス(4'-ヒドロキシフェニル)n-オクタン、2-ビス(4'-ヒドロキシフェニル)n-ノナン、2-ビス(4'-ヒドロキシフェニル)n-デカン、2-ビス(4'-ヒドロキシフェニル)n-ドデカン、2,2-ビス(4'-ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2-ビス(4'-ヒドロキシフェニル)エチルプロピオネート、2,2-ビス(4'-ヒドロキシフェニル)-4-メチルペンタン、2,2-ビス(4'-ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス(4'-ヒドロキシフェニル)n-ヘプタン、2,2-ビス(4'-ヒドロキシフェニル)n-ノナンなどの少なくとも1種が挙げられる。
【0039】
用いる顕色剤の使用量は、所望される色彩濃度に応じて任意に選択すればよく、特に限定されるものではないが、通常、前記したロイコ色素1質量部に対して、0.1~100質量部程度の範囲内で選択するのが好適である。
【0040】
変色温度調整剤は、前記ロイコ色素と顕色剤の呈色において変色温度をコントロールする物質であり、従来公知のものが使用可能である。例えば、アルコール類、エステル類、ケトン類、エーテル類、酸アミド類、アゾメチン類、脂肪酸類、炭化水素類などが挙げられる。
【0041】
具体的には、ビス(4-ヒドロキシフェニル)フェニルメタンジカプリレート(C7H5)、ビス(4-ヒドロキシフェニル)フェニルメタンジラウレート(C2H23)、ビス(4-ヒドロキシフェニル)フェニルメタンジミリステート(C13H27)、ビス(4-ヒドロキシフェニル)フェニルエタンジミリステート(C13H27)、ビス(4-ヒドロキシフェニル)フェニルメタンジパルミテート(C5H30)、ビス(4-ヒドロキシフェニル)フェニルメタンジベヘネート(C21H43)、ビス(4-ヒドロキシフェニル)フェニルエチルヘキシリデンジミリステート(C13H27)等の少なくとも1種が挙げられる。
【0042】
前記剪断減粘性付与剤を添加したインクの粘度は、20℃でのE型回転粘度計による3.84(1/S)の剪断速度におけるインク粘度が20~300mPa・sを示し、且つ、剪断減粘指数が0.1~0.9を示すことが好ましい。前記した粘度範囲及び剪断減粘指数を示すことによって、更にインク漏れだし、インクの逆流を防止することができる。なお、剪断減粘指数(n)は、剪断応力値(T)及び剪断速度値(j)の如き粘度計による流動学測定から得られる実験式T=Kjn(Kは非ニュートン粘性係数)にあてはめることによって計算される値である。
【0043】
図3は、本実施形態に係る筆記部であるボールペンチップ20を示したものである。ボールペンチップ20は、ホルダー21と、その先端に抱持される筆記ボール35と、その内部に収納される弾発部材40とから構成される。
【0044】
ホルダー21は、ステンレス鋼製の円柱材の切削で形成される。その先端部分は、
図3(A)に示すように、先細に略円錐状に切削されてテーパー部22として形成されている。一方、後端部分は外径を減じた被挿入部24として形成されている。この部分は、後述の継手17に挿入される。さらにテーパー部22の内側に抱持される筆記ボール35の先端部が先端縁から露出するとともに、テーパー部22の小口が内方に押圧されて縮径変形されたカシメ部23として形成されている。ホルダー21の内部空間は、前記テーパー部22の内側で前記筆記ボール35が挿入されるボールハウス26、該ホルダー21の後端から先端方向へ該ボールハウス26の近傍まで設けられているバック孔28、及び、該バック孔28と該ボールハウス26とを連結するインク誘導孔30として形成され、前記インク誘導孔30の周囲に等配された複数箇所には、前記ボールハウス26側から前記バック孔28の先端部分29まで放射状に該インク誘導孔30を貫通する溝であるインク溝31が形成され、前記バック孔28内には前記筆記ボール35を先端方向に付勢する弾発部材40が挿入され、前記弾発部材40の先端部分は、真っ直ぐな棒状に形成され先端方向に伸び前記インク誘導孔30を通って前記筆記ボール35の後端に当接しこれを付勢する付勢部41として形成され、前記バック孔28の先端部分29における前記各インク溝31の後端に接する位置に、内方に突出する内方凸部32が形成され、前記インク誘導孔30の内径をA、前記バック孔28の先端部分29の内径をB、前記インク溝31の外接円の径をC及び前記内方凸部32の内接円の直径をDとしたときに、A<B<CかつD<Bなる関係を満たすとともに、前記内方凸部32は、前記インク溝31を形成する際に生ずる変形部位を利用して形成され、前記付勢部41は、前記インク溝31と接触することがないように、前記内方凸部32に当接されている。
【0045】
ホルダー21とは、ボールペンチップ20から「筆記ボール35を除いた本体部分」をいい、たとえば、ステンレス鋼等の金属製の「円柱材」を切削することにより形成することが可能である。このホルダー21の先端側で先細に形成されている部分を「テーパー部22」という。たとえば、ホルダー21が金属製の円柱材より形成される場合にはこのテーパー部22は切削加工により形成されることとなる。ここでいう「先端」とは、ボールペンチップ20の筆記先端の側であり、またその反対側が「後端」であることはいうまでもない。なお、ホルダー21後端側については特に限定はないが、外径を減じるように切削してインク収容管16に直接挿入される部分、あるいはこれとの間に介在する継手17等に挿入される部分を形成することもできる。
【0046】
ボールハウス26とは、先端側からテーパー部22の内周に当たる部分に形成された空間をいい、この中に筆記ボール35が挿入される。ホルダー21が金属製の円柱材より形成される場合にはボールハウス26は先端からの切削加工で形成される。ボールハウス26に挿入された筆記ボール35は、テーパー部22の先端縁を内方に縮径した「カシメ部23」により脱落しないよう保持される。ボールハウス26の内筒面の内径Lはインク流出性と筆記ボール保持力の点から筆記ボール35の直径Hより1.05倍以上、より好ましくは1.10倍以上1.15倍未満で形成することが望ましい。
【0047】
バック孔28とは、ホルダー21の後端からボールハウス26に達しない近傍までに達する中心孔で、ホルダー21が金属製の円柱材より形成される場合には切削加工により形成される。また、バック孔28は、ホルダー21の後端から、ボールハウス26に近づくにつれて段階的に内径を減じるようにすることが望ましい。
【0048】
インク誘導孔30とは、バック孔28とボールハウス26とを連結する、バック孔28よりも小径な中心孔である。
【0049】
インク溝31とは、インク誘導孔30周囲に軸心に対して複数等配された軸方向に沿った溝である。ホルダー21が金属製の円柱材より形成される場合には、インク溝31はボールハウス26の底面27からブローチ加工ツールによる切削加工で形成される。なお、このインク溝31は、バック孔28の先端部分29まで貫通している。これにより、前記バック孔28の先端まで誘導されたインクは、このインク溝31及びインク誘導孔30を経由して、ボールハウス26へ至ることとなる。インク溝31の外接円の径Cは、加工の安定性からボールハウス26の内径より小さく形成することが望ましい。さらにインク溝31の外接円の径Cは、筆記ボール35の直径より大きくすることが望ましい。こうすることで、筆記ボール35の長距離にわたる筆記による回転によってボールハウス26の底面27が磨耗し、筆記ボール35がインク溝31を塞ぐことを防ぐことができる。これによっても、インク流出性の安定に寄与することができる。
【0050】
弾発部材40は、インク誘導孔30を極力塞がないで構成できるコイルスプリングが望ましいが、ゴム棒やダンパーでも静止状態において筆記ボール35を前方に常に押圧する部材であれば特に限定されない。なお、弾発部材40は、筆記先端が常に外気に曝されるノック式ボールペンにおいては、筆記先端を下向きにして放置したときにインクのボタ落ちを防止するために必要な構成である。もちろん、不使用時にキャップを嵌めることで筆記先端がシールされるキャップ式ボールペンにこのような弾発部材40を使用することとしても、キャップを閉め忘れて転倒で保管されることがあるので何ら問題はない。また、剪断減粘性インクを使用する場合には弾発部材40、特にコイルスプリングを用いると、筆記中にコイルスプリングが内部で動くことでインクに剪断力を発生させることが容易となり、インク流出性の向上をもたらすことになる。
【0051】
この弾発部材40の先端に形成される付勢部41は、バック孔28からインク誘導孔30を貫通してボールハウス26内に位置する筆記ボール35の後端に当接する。そして、弾発部材40の弾性により、筆記ボール35を常に先端へ付勢する。この付勢部41は真っ直ぐな棒状に形成される。なお、付勢部の線径Gは、インク誘導孔の内径Aの20%以上60%以下とすることが望ましい。
【0052】
内方凸部32は、バック孔28の先端部分29かつインク溝31の後端に接する位置において内方へ突出するように形成された突起である。この内方凸部32は複数のインク溝31のそれぞれに対応して設けられているので、インク溝31と同様に軸心に対して等配されている。また、内方凸部32の内周面は、バック孔28の先端部分29の内径Bより小径の内径Dを有するように必要に応じて切削加工等によって仕上げられる。すなわち、筆記ボール35にインクが至る前の部分で最も流体抵抗の大きいインク誘導孔30の部分のインク溝31は貫通構造とする。また、バック孔28の先端部分29の内径Bをインク溝31の外接円の径Cより小さく、かつインク誘導孔30の内径Aより大きく設定する。さらに、バック孔28の先端部分29までインク溝31を加工する。そして、インク溝31を切削する際に生ずる変形部位、たとえばその際に切削されてインク溝31の後端方向へ押しやられて変形した金属部分によって内方凸部32が形成される。上記構成により、弾発部材40の付勢部41の先端がインク溝31のある方向へ傾いた場合、当該インク溝31へ至る前に内方凸部32の内周面に当接することになる。そしてそれ以上のインク溝31の方向への移動は阻止される。これにより、インク溝31の幅が弾発部材40の付勢部41の径より大きく設計されていたとしても、インク溝31への弾発部材40の嵌りを防止する構造とし、かつ静止粘度が高いインクの流出性を向上させることができる。
【0053】
筆記ボール35のサイズについては、ボールペンチップ20の形態であれば特に規定しないが、特に0.9mm以上の比較的大径のボール径において、顕著な効果を発揮する。なお、インク溝31の本数は、2本以上であればインク流出性に問題はないが、幅広の等間隔に配置された3本が特に望ましい。
【0054】
次に、
図3から
図10までを参照しつつ、本発明に係るボールペンチップ20の製造工程を説明する。まず、ステンレス鋼製の円柱材の先端側が先細に切削されてテーパー部22が形成される。次に、ホルダー21の後端付近の外径を減じるように切削して被挿入部24が形成される(
図3(A))。そして、ホルダー21の後端から、テーパー部22の中途部分に至るまで、何段階か径を減じつつバック孔28が穿孔される(
図3(B)、
図4)。次に、ホルダー21の先端からバック孔28まで、インク誘導孔30を貫通させた後、再び先端から筆記ボール35外径よりやや大径のドリルにて、ボールハウス26が切削形成される(
図4)。続いて、ボールハウス26の底面27より、ブローチ加工ツールを用いて、インク誘導孔30の周りにインク溝31が形成される(
図5、
図10)。ここでこのインク溝31は、
図4のI-I断面である
図5や、同II-II断面である
図6に示すように、インク誘導孔30の周りに放射状に3本等配されるように設けられる。このインク溝31は、バック孔28の先端部分29まで貫通している(
図4)。このインク溝31が形成される際に押圧された部分が後端側へ押しやられて内方へ盛り上がった部分の内周をドリルで滑らかに切削仕上げして、内方凸部32が形成される(
図4)。ここで、
図5や、
図4のIII-III断面である
図7に示すように、先端方向から見ると内方凸部32はインク溝31の後端方向に視認される。また、
図4のIV-IV断面である
図8に示すように、内方凸部32はバック孔28の先端部分29から内方に突出するように形成される。
【0055】
ここで、インク誘導孔30の内径をA、バック孔28の先端部分29の内径をB、インク溝31の外接円の径をC及び内方凸部32の内周面の内径をDとする。そして、
図5及び
図7に示すようにD<A<Cであり、また
図8に示すようにD<Bである。さらに、
図7と
図8とにおいて、同サイズであるDとの比較により明らかにA<BかつB<Cであることが分かる。よって、これらの図より、A<B<CかつD<Bである。
なお、
図7に示すようにA>Dとなっているのは一例であり、たとえば
図9に示す他の実施の形態のようにA<Dとすることもできる。ただし、A<Dの寸法差が大き過ぎるとインク流出が困難になるため、A≒Dの関係が望ましい。
【0056】
そして、ボールハウス26に超硬合金製の筆記ボール35が挿入され、続いてカシメツールによりテーパー部22の先端が内方に押圧変形されて、カシメ部23が形成される(
図3(A)、(B)、
図11)。筆記ボールの真球度は1.0μm以下とすることで、ボールの回転を安定することができるので、快適な筆記を得ることができる。なお、真球度は真球度測定機〔(株)ミツトヨ製 ROUNDTEST RA-2000〕にて測定した値を用いる。また、筆記ボール35は、最大でもボールの表面粗さRaが10nmで形成することとしている。なぜなら、筆記ボール30の表面粗さRaが10nmを超えると、筆記時に受座摩耗が激しくなるため、筆記距離が伸びるに連れてインクの流出量が低下していき、最悪の場合にはインクの流出が停止し、筆記不能となってしまうからである。なお、表面粗さRaは、非接触表面形状測定機(Zygo社製NewView7200)により、レンズ倍率50倍、評価長さ100μm、ガウシアンフィルタ25μmの条件で設定し、それ以外はJIS B0601(製品の幾何特性仕様-表面性状)に準拠するものとする。一方、バック孔28の内部には、コイルスプリングで形成された弾発部材40が挿入されている。この弾発部材40の先端部分は真っ直ぐな棒状に形成されており、この部分を付勢部41と称する。付勢部41の先端は、インク誘導孔30を通って筆記ボール35の後端に接し、常に先端方向へ押圧している。なお、ホルダー21の後端の一部は内向きにかしめられており、この部分が弾発部材40の脱落を防止する固定部25となっている(
図3(B))。
【0057】
このボールペンチップ20においては、
図10に示すように、弾発部材40の先端の付勢部41がインク溝31の方向へ偏心した場合、内方凸部32に当接することで、インク溝31と接触することがない。したがって、インク溝31の幅を付勢部41の径より大きく設計したとしても付勢部41がインク溝31に嵌ることがなくなる。
【0058】
図11は、ボールペンチップ20の先端の正面断面図である。筆記ボール35の直径は0.5mm以上であって、好ましくは0.9~1.2mmである。また、筆記ボール35の直径をH、
図12に示すように、ホルダー21の先端から筆記ボール35が飛び出ている距離である筆記ボール出寸法をJ、筆記ボール35がホルダー21内でボールペンチップ20軸線方向に移動可能な量であるクリアランスをKとすると、クリアランスは(0.05×H)≦K≦(0.1×H)であって、(J+K)<(0.4×H)の関係が成り立つように筆記ボール35はホルダー21に抱持されている。また、カシメ部23の外径は、面取り加工されていることで、傾斜して筆記した状態での摩擦抵抗を低減させることができる。
【0059】
図12は、
図11のI-I部で切断したボールペンチップの先端の詳細拡大正面図である。ボールハウス26は、軸心とほぼ平行な円筒面26bと、この円筒面26bに連続して後方へ向かって縮径する円錐面である底面27と、該底面27に筆記ボール35の曲面が転写されたボール受座27cと、を有している。ここで、
図4に示すように、ボールハウス26の円筒面26bの内径をL、インク誘導孔30の内径をA、ボール受座の最外径Fとすると、ボールハウス26は、L≧(筆記ボールの直径H×1.05)及び、F<(0.65×H)となるように形成されている。また、インク誘導孔30はインク誘導孔の内径Aは筆記ボールの直径Hの60%以下となるように形成されており、インク誘導孔30の周囲の3つに等配された箇所には、ボールハウス26側からバック孔28に向かって放射状に貫通する溝であるインク溝31が形成されている。また、インク溝31の外接円の径Cは、筆記ボール35の直径Hより大きくすることでボール受座27cが摩耗して径が大きくなっても安定した筆記流量を保つことができる。
【0060】
図13は、本発明の実施形態の筆記具を角度θ傾斜した状態であり、付勢部による筆記ボール押力P(N)、とリフィルを含む筆記具総重量M(N)との間に、PがMの150%以上を満足する構成とすることで、傾斜した状態でもペン先であるボールペンチップ20からのインク漏れやドライアップにより筆記不能となることを回避することができる。そして、本実施形態の筆記具は、筆記具総重量Mは0.157N(16g)であり、筆記ボール押力Pは0.245N(25g)である。また、軸筒に高級感等を得るために金属部材を用いて筆記具総重量Mを0.245N(25g)以上とした場合は、それに伴い筆記ボール押力Pを0.39N(40g)以上とすることでより顕著な効果を発揮することができる。また、ボールペンリフィル5のインク量は、少なくとも0.5ml以上収容されることで筆記距離100m以上を得ることができる。また1.0m/min、筆記荷重40gの際、筆記ボール35の外径が0.5~0.7mmの時は、100mのインク消費量は200~400mg、0.9~1.2mmの時は500~1000mgとすることが望ましい。ボール径Hに対してインク消費量が少ないと筆跡が薄くて見にくく、多いと筆跡が乾燥しづらく筆記後の筆跡で手を汚すおそれがある。特にボール径が0.9mm~1.2mmが滑らかな書き味を得ることができ好適である。なお、インク消費量は前述の筆記条件を除き、JIS S 6061に準拠した測定機並びに筆記条件において測定する。
【0061】
さらに、筆記ボールの直径H(mm)と付勢部による筆記ボール押力P(N)との間に関係式:(15×H×H)<P<(60×H×H)並びに、前記ボールペンリフィル5はコイルスプリングにより軸筒後方に附勢されるように構成される出没式筆記具の場合は、付勢部による筆記ボール押力P(N)とリターンスプリングの押力S(N)と筆記具総重量M(N)との間に関係式:50・M<S<(50×M+20×P)を満足する構成とすることで、ボール飛びや強い衝撃の時のカスレや筆記性のバランスなど高度な性能の確保でき好適である。
【符号の説明】
【0062】
1 筆記具
2 軸筒
3 操作部
4 口先部材
5 ボールペンリフィル
6 クリップ
7 凹凸部
16 インク収容管
17 継手
18 インク
19 インク追従体
19a フロート
20 ボールペンチップ
21 ホルダー
22 テーパー部
23 カシメ部
24 被挿入部
25 固定部
26 ボールハウス
26b ボールハウスの円筒面
27 底面
27c ボール受座
28 バック孔
29 バック孔の先端部分
30 インク誘導孔
31 インク溝
32 内方凸部
33 円筒面
35 筆記ボール
40 弾発部材
41 付勢部
A インク誘導孔の内径
B バック孔の先端部分の内径
C インク溝の外接円の径(インク溝のボールハウス側の外径)
D 内方凸部の内接円の直径
F ボール受座の最外径
G 付勢部の線径
H 筆記ボールの直径
J ホルダーの先端から筆記ボールが飛び出ている距離である筆記ボール出寸法
K クリアランス
L ボールハウスの円筒面の内径
M 筆記具総重量
P 付勢部による筆記ボール押力
S リターンスプリングの押力