IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 東芝エレベータ株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-駆動回路および電力変換装置 図1
  • 特許-駆動回路および電力変換装置 図2
  • 特許-駆動回路および電力変換装置 図3
  • 特許-駆動回路および電力変換装置 図4
  • 特許-駆動回路および電力変換装置 図5
  • 特許-駆動回路および電力変換装置 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-17
(45)【発行日】2023-11-28
(54)【発明の名称】駆動回路および電力変換装置
(51)【国際特許分類】
   H02M 1/08 20060101AFI20231120BHJP
   H02M 1/00 20070101ALI20231120BHJP
   H02M 7/48 20070101ALI20231120BHJP
   H03K 17/16 20060101ALI20231120BHJP
   H03K 17/08 20060101ALI20231120BHJP
   H03K 17/695 20060101ALI20231120BHJP
【FI】
H02M1/08 A
H02M1/00 F
H02M7/48 M
H03K17/16 H
H03K17/08 C
H03K17/695
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2022099027
(22)【出願日】2022-06-20
【審査請求日】2022-06-20
(73)【特許権者】
【識別番号】390025265
【氏名又は名称】東芝エレベータ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】高上 遼馬
【審査官】柳下 勝幸
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-153007(JP,A)
【文献】特開2021-141661(JP,A)
【文献】特開2015-056979(JP,A)
【文献】特開2021-013259(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 1/08
H02M 1/00
H02M 7/48
H03K 17/16
H03K 17/08
H03K 17/695
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スイッチングデバイスの端子間電圧を検出する第1電圧検出部と、
前記第1電圧検出部から取得した前記端子間電圧の検出値を所定時間遅延させて出力する遅延部と、
前記スイッチングデバイスと巻き上げ機のモータとの間の電力線が接続される、前記モータの端部の電圧を検出する第2電圧検出部と、
前記スイッチングデバイスをオフするときに、前記スイッチングデバイスの制御端子に制御信号を印加する第1および第2駆動部と、
を備え、
前記第1駆動部は、前記第2駆動部よりも高速で前記スイッチングデバイスをオフし、前記遅延部から出力された遅延後の電圧検出値が所定の閾値を超えたときに動作を停止し、
前記第2駆動部は、前記第1電圧検出部により検出された前記端子間電圧が前記スイッチングデバイスに生じるピークサージ電圧の許容値未満の第1の閾値を超えたとき、または前記第2電圧検出部により検出された電圧が前記モータの端部に生じるピークサージ電圧の許容値未満の第2の閾値を超えたときに、前記第1または第2の閾値を超えた電圧が低下するように前記スイッチングデバイスの制御端子に制御信号を印加する、
駆動回路。
【請求項2】
前記スイッチングデバイスの制御端子は、ゲート端子であり、
前記第2駆動部は、前記第1電圧検出部により検出された前記端子間電圧が前記第1の閾値を超えたとき、または前記第2電圧検出部により検出された電圧が前記第2の閾値を超えたときに、前記第1または第2の閾値を超えた電圧が低下するように前記スイッチングデバイスのゲート端子に制御信号を印加することで、前記スイッチングデバイスのゲート抵抗値を調整する、
請求項1に記載の駆動回路。
【請求項3】
前記第2駆動部は、
エレベータの通常運転に先立つ調整運転において、前記第1電圧検出部により検出された前記端子間電圧が前記第1の閾値を超えたときに前記第1の閾値を超えた電圧が低下して前記第1の閾値以下となるように、または前記第2電圧検出部により検出された電圧が前記第2の閾値を超えたときに、前記第2の閾値を超えた電圧が低下して前記第2の閾値以下となるように前記スイッチングデバイスの制御端子に制御信号を印加する、
請求項1に記載の駆動回路。
【請求項4】
エレベータの制御装置に搭載されるスイッチングデバイスの駆動回路であって、
前記スイッチングデバイスの制御端子は、ゲート端子であり、
前記第2駆動部は、
前記エレベータの通常運転に先立つ調整運転において、第1の条件または第2の条件が満たされたときに、前記スイッチングデバイスのゲート抵抗の値を保存し、
前記第1の条件は、前記第1電圧検出部により検出された前記端子間電圧が前記第1の閾値を超えたときに、前記第2駆動部が、前記第1の閾値を超えた電圧が低下するように前記スイッチングデバイスのゲート端子に制御信号を印加して、前記第1の閾値を超えた電圧が低下して前記第1の閾値以下となった条件であり、
前記第2の条件は、前記第2電圧検出部により検出された電圧が前記第2の閾値を超えたときに、前記第2駆動部が、前記第2の閾値を超えた電圧が低下するように前記スイッチングデバイスのゲート端子に制御信号を印加して、前記第2の閾値を超えた電圧が低下して前記第2の閾値以下となった条件であり、
前記第2駆動部は、
前記エレベータの通常運転において、第3の条件または第4の条件が満たされたときに、前記スイッチングデバイスのゲート抵抗の値が前記保存された値に戻るように調整
前記第3の条件は、前記第1電圧検出部により検出された前記端子間電圧が前記第1の閾値を超えたときに、前記第2駆動部が、前記第1の閾値を超えた電圧が低下するように前記スイッチングデバイスのゲート端子に制御信号を印加し、前記第1の閾値を超えた電圧が低下して、かつ前記通常運転に先立つ調整運転における前記ゲート端子への前記制御信号の印加前の電圧を下回った条件であり、
前記第4の条件は、前記第2電圧検出部により検出された電圧が前記第2の閾値を超えたときに、前記第2駆動部が、前記第2の閾値を超えた電圧が低下するように前記スイッチングデバイスのゲート端子に制御信号を印加し、前記第2の閾値を超えた電圧が低下して、かつ前記通常運転に先立つ調整運転における前記ゲート端子への前記制御信号の印加前の電圧を下回った条件である、
請求項1に記載の駆動回路。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれか1項記載の駆動回路と、
前記駆動回路から出力される制御信号により動作を制御される前記スイッチングデバイスと、
を備えた電力変換装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、駆動回路および電力変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エレベータ制御装置に適用されるインバータ装置である電力変換装置には、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)やMOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor Field-Effect Transistor)などの電力用スイッチングデバイスが搭載されており、この電力用スイッチングデバイスがスイッチング動作を行うことにより、所望の電力変換を行って、エレベータの巻き上げ機のモータに供給している。
【0003】
電力用スイッチングデバイスがターンオフする時には、電力変換装置と巻き上げ機のモータとの間の電力線における、電力変換装置の端部にサージ電圧が発生したり、ターンオフ損失が発生したりする。また、電力変換装置と巻き上げ機のモータとの間の電力線における、巻き上げ機のモータの端部(巻き上げ機の端部と称することもある)にもサージ電圧が発生する。
例えば電力変換装置の端部にて発生したサージ電圧が、電力用スイッチングデバイスの耐電圧値を超過すると、電力用スイッチングデバイスが破壊され、電力変換装置の故障の原因となる。一方で、ターンオフ損失が増大すると、電力用スイッチングデバイスの温度が上昇する。その結果、電力用スイッチングデバイスの温度が温度許容値を超過すると、電力用スイッチングデバイスが破壊され、電力変換装置の故障の原因となる。
【0004】
一般的に、電力用スイッチングデバイスにおけるサージ電圧とターンオフ損失とはトレードオフの関係がある。例えば、電力用スイッチングデバイスのターンオフの速度を緩めると、サージ電圧は低減し、ターンオフ損失は増大する。
【0005】
従来、SiC(シリコンカーバイト)などの新材料を適用した電力用スイッチングデバイスを用いることで、電力用スイッチングデバイスのスイッチングスピードを高速化することにより、電力用スイッチングデバイスのターンオフ損失を低減することが提案されている。また、電力用スイッチングデバイスの駆動方法を工夫することにより、ターンオフ損失を低減することも提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2019-221088号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記の巻き上げ機のモータの端部におけるサージ電圧は、エレベータの例えば連続運転により巻き上げ機のモータの温度が上昇したり、巻き上げ機のモータが経年劣化したりすることで発生する。
【0008】
ところで、エレベータの各物件では、乗りかごの大きさおよび運転速度が異なるので、巻き上げ機の容量および設置位置が異なり、また、電力変換装置と巻き上げ機との間の電力線に係るパラメータ、例えばインダクタンス特性が、物件ごとにばらつきがあるため、巻き上げ機のモータの端部で発生するサージ電圧は物件ごとに異なる。よって、エレベータの物件ごとに巻き上げ機のモータの端部のサージ電圧の基準を設けて、この基準に基づいて当該サージ電圧を抑制する必要がある。
【0009】
発明が解決しようとする課題は、エレベータで設置される電力変換装置と巻き上げ機のモータのそれぞれにおいて発生するサージ電圧を適切に抑制することが可能な駆動回路および電力変換装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
実施形態の駆動回路は、スイッチングデバイスの端子間電圧を検出する第1電圧検出部と、前記第1電圧検出部から取得した前記端子間電圧の検出値を所定時間遅延させて出力する遅延部と、前記スイッチングデバイスと巻き上げ機のモータとの間の電力線が接続される、前記モータの端部の電圧を検出する第2電圧検出部と、前記スイッチングデバイスをオフするときに、前記スイッチングデバイスの制御端子に制御信号を印加する第1および第2駆動部と、を備え、前記第1駆動部は、前記第2駆動部よりも高速で前記スイッチングデバイスをオフし、前記遅延部から出力された遅延後の電圧検出値が所定の閾値を超えたときに動作を停止し、前記第2駆動部は、前記第1電圧検出部により検出された前記端子間電圧が前記スイッチングデバイスに生じるピークサージ電圧の許容値未満の第1の閾値を超えたとき、または前記第2電圧検出部により検出された電圧が前記モータの端部に生じるピークサージ電圧の許容値未満の第2の閾値を超えたときに、前記第1または第2の閾値を超えた電圧が低下するように前記スイッチングデバイスの制御端子に制御信号を印加する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、実施形態に係るエレベータ制御装置に設けられる電力変換装置の一構成例を概略的に示す図である。
図2図2は、実施形態に係るエレベータ制御装置に設けられるゲート駆動回路の一構成例を概略的に示す図である。
図3図3は、図2に示すオフ用低速駆動部とオフ用高速駆動部とにおける抵抗値とサージ電圧との関係を概略的に示す図である。
図4図4は、実施形態において、スイッチングデバイスをターンオフする際のゲート駆動回路の動作の一例を説明するためのタイミングチャートである。
図5図5は、実施形態に係るエレベータ制御装置によるゲート抵抗値の初期設定に係る運転の手順の一例を示すフローチャートである。
図6図6は、実施形態に係るエレベータ制御装置によるサージ電圧の抑制に係る通常運転の手順の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、実施形態に係るエレベータ制御装置に設けられるゲート駆動回路および電力変換装置について、図面を参照して詳細に説明する。
実施形態に係るエレベータ制御装置は、一般的な例として、例えば駆動系として、三相交流電源、コンバータ装置、平滑コンデンサ、電力変換装置(インバータ装置)、およびエレベータ駆動用のモータを備える。
【0013】
三相交流電源は、商用電源として所定電力の交流電力を供給する。コンバータ装置は、三相交流電源から供給された交流電力を直流電力に変換する。平滑コンデンサは、コンバータ装置の出力電力である直流電力の脈動を平滑化する。電力変換装置はスイッチングデバイス(スイッチング素子とも称される)を搭載しており、このスイッチングデバイスにより、コンバータ装置から平滑コンデンサを介して与えられた直流電力をPWM(Pulse Width Modulation)制御により可変周波数可変電圧値の交流電力に変換し、これを駆動電力としてモータに供給する。
【0014】
モータの回転軸にはシーブが取り付けられており、そこに巻き掛けられたロープを介して乗りかごとカウンタウェイトが昇降路内をつるべ式に昇降動作する。モータは、電力変換装置から出力された交流電力で駆動して乗りかごを昇降させる。
【0015】
図1は、実施形態に係るエレベータ制御装置に設けられる電力変換装置の一構成例を概略的に示す図である。
図1に示されるように、本実施形態のエレベータ制御装置に設けられる電力変換装置は、複数のスイッチングデバイス1と、各スイッチングデバイスの駆動回路200と、を備えている。電力変換装置は、コンバータ装置と、エレベータの駆動用のモータ300との間に接続されている。また、駆動回路200内はエレベータ制御用のマイコン500からの制御信号を入力し、各部が動作する。
【0016】
電力変換装置は、例えば、U相、V相およびW相のレグを備えた三相交流電力変換装置である。各相レグは、高電位側の直流主回路と低電位側の直流主回路との間に接続されている。各相レグは上アームと下アームとを含み、上アームと下アームとの間(交流端)においてモータ300と電気的に接続されている。
【0017】
上アームと下アームとの各々は、スイッチングデバイス1を備える。スイッチングデバイス1は、IGBTやMOSFETなどの電力用スイッチングデバイスであって、駆動回路200から供給される制御信号により動作を制御される。
駆動回路200は、エレベータ制御用のマイコン500から供給されたゲート信号(上位制御信号)および他の複数のスイッチングデバイス1から取得した情報に基づいて、対象のスイッチングデバイス1の動作を制御する。
【0018】
図2は、実施形態に係るエレベータ制御装置に設けられるゲート駆動回路の一構成例を概略的に示す図である。
駆動回路200は、複数のスイッチングデバイス1の動作を制御する複数のゲート駆動回路2を備えている。図2では、一つのスイッチングデバイス1を制御する一つのゲート駆動回路2の一構成例を概略的に示している。
【0019】
スイッチングデバイス1は例えばMOSFETである。スイッチングデバイス1は、ゲート端子(制御端子)と、ソース端子(第1端子)と、ドレイン端子(第2端子)と、を備える。上アームのスイッチングデバイス1のソース端子は交流端と電気的に接続され、ドレイン端子は高電位側の直流主回路と電気的に接続されている。下アームのスイッチングデバイス1のソース端子は低電位側の直流主回路と電気的に接続され、ドレイン端子は交流端と電気的に接続されている。スイッチングデバイス1のゲート端子は、ゲート駆動回路2の出力端と電気的に接続されている。スイッチングデバイス1は、ゲート端子に印加されるゲート電圧により、ソース端子とドレイン端子との間が電気的に接続された状態(オン状態)と遮断された状態(オフ状態)とに切り替えられる。
【0020】
なお、スイッチングデバイス1は、上記のMOSFETに限られず、他の種類の電力用スイッチングデバイスであってもよい。スイッチングデバイス1として例えばIGBTを適用する場合には、スイッチングデバイス1は、ゲート端子(制御端子)と、エミッタ端子(第1端子)と、コレクタ(第2端子)とを備え、ゲート端子に印加されるゲート電圧(制御信号)により、エミッタ端子とコレクタ端子との間の電気的接続状態(オン又はオフ)が制御される。
【0021】
ゲート駆動回路2は、オン用駆動部4と、オフ用高速駆動部(第1オフ用駆動部)5と、オフ用低速駆動部(第2オフ用駆動部)6と、第1電圧検出部7Aと、第2電圧検出部7Bと、遅延部8と、ゲート抵抗値設定部9と、判定部21,22とを備えている。第1電圧検出部7Aは、スイッチングデバイス1用の電圧検出部であり、第2電圧検出部7Bは、モータ300用の電圧検出部である。ゲート抵抗値設定部9の機能および判定部21,22の機能は、エレベータの制御用のマイコン500が担ってもよい。
オン用駆動部4は、スイッチングデバイス1のゲート端子に電気的に接続されたオン用抵抗器(図示せず)を備える。オン用駆動部4には、エレベータ制御用のマイコン500からゲート信号が入力される。オン用駆動部4は、例えばゲート信号がオンである期間に動作するよう構成され、オン用抵抗器を介してスイッチングデバイス1をオンする制御信号(ゲート電圧)をゲート端子に印加する。
【0022】
第1電圧検出部7Aは、スイッチングデバイス1のドレイン‐ソース間電圧(端子間電圧)Vdsの値を検出し、検出した値を遅延部8へ供給する。この供給は、後述する判定部21による判定に関わらずなされる。なお、第1電圧検出部7Aは、ドレイン‐ソース間電圧Vdsに相当する値を出力してもよい。
また、第2電圧検出部7Bは、電力変換装置とモータ300との間の電力線におけるモータ300の端部の電圧を検出し、検出した値をオフ用低速駆動部6へ供給する。
【0023】
遅延部8は、第1電圧検出部7Aから供給された電圧値(若しくは電圧相当値)を、所定時間遅延させてオフ用高速駆動部5へ供給する遅延部8は、抵抗器12とコンデンサ13とによる遅延回路を備え、コンデンサ13の静電容量Cdと抵抗器12の抵抗値Rdとの積に応じた時定数分だけ入力値を遅延させることができる。したがって、静電容量Cdと抵抗値Rdとの値を選択することにより、入力値を遅延させる時間を調整することができる。本実施形態では、遅延部8から出力される遅延後のドレイン‐ソース間電圧Vdsの値は、オフ用高速駆動部5の動作状態(動作又は停止)を切り替えるための信号である。
【0024】
オフ用高速駆動部5は、スイッチングデバイス1のゲート端子に電気的に接続された第1オフ用抵抗器(図示せず)を含む。オフ用高速駆動部5には、エレベータ制御用のマイコン500からゲート信号が入力され、遅延部8から出力された遅延後のドレイン‐ソース間電圧Vdsの値が入力される。オフ用高速駆動部5は、例えばゲート信号がオフである期間に、第1オフ用抵抗器を介してスイッチングデバイス1をオフする制御信号(ゲート電圧)をゲート端子に印加するように構成されている。
【0025】
オフ用高速駆動部5は、遅延後のドレイン‐ソース間電圧Vdsの値が所定の閾値以上となったとき(例えば遅延後のドレイン‐ソース間電圧Vdsが立ち上がったとき)に、制御信号をゲート端子に印加する動作を停止するように構成されている。
【0026】
換言すると、オフ用高速駆動部5は、ゲート信号がオフとなってから遅延後のドレイン‐ソース間電圧Vdsが立ち上がるまでの期間において、第1オフ用抵抗器を介してスイッチングデバイス1をオフする制御信号をゲート端子に印加する。
【0027】
オフ用低速駆動部6は、スイッチングデバイス1のゲート端子に電気的に接続された第2オフ用抵抗器(図示せず)を含む。オフ用低速駆動部6には、エレベータ制御用のマイコン500からゲート信号が入力され、また、第2電圧検出部7Bから出力された、モータ300の端部の電圧が入力される。オフ用低速駆動部6は、例えばゲート信号がオフである期間に、第2オフ用抵抗器を介してスイッチングデバイス1をオフする制御信号をゲート端子に印加する。なお、第2オフ用抵抗器の抵抗値は、第1オフ用抵抗器の抵抗値よりも大きい。
【0028】
図3は、図2に示すオフ用低速駆動部とオフ用高速駆動部とにおける抵抗値とサージ電圧との関係を概略的に示す図である。
オフ用低速駆動部6の第2オフ用抵抗器の抵抗値は、例えば、オフ用低速駆動部6が、スイッチングデバイス1に生じるピークサージ電圧およびモータ300の端部に生じるピークサージ電圧を許容値未満とできる速度でターンオフを実現するように設定される。この許容値は、スイッチングデバイス1またはモータ300が故障するときのピークサージ電圧の値である。上記のスイッチングデバイス1に生じるピークサージ電圧は、電力変換装置と巻き上げ機のモータ300との間における電力変換装置の端部のピークサージ電圧に該当する。オフ用高速駆動部5の第1オフ用抵抗器の抵抗値は、例えば、オフ用高速駆動部5が、オフ用低速駆動部6よりも高速でスイッチングデバイス1をターンオフすることができるように設定されている。
【0029】
このことにより、オフ用低速駆動部6は、スイッチングデバイス1におけるピークサージ電圧およびモータ300の端部に生じるピークサージ電圧を許容値未満に抑えるように動作することが可能となり、オフ用高速駆動部5は、スイッチングデバイス1におけるターンオフ損失を低減するように動作することが可能となる。
【0030】
次に、上記ゲート駆動回路2の動作の一例について説明する。
図4は、施形態において、スイッチングデバイスをターンオフする際のゲート駆動回路の動作の一例を説明するためのタイミングチャートである。
ここでは、ゲート駆動回路2に入力されるゲート信号と、スイッチングデバイス1のドレイン‐ソース間電圧Vdsおよびゲート‐ソース間電圧Vgsと、ドレイン電流Idと、第1電圧検出部7Aの出力真理値と、遅延部8の出力真理値と、オフ用高速駆動部5の動作状態(動作又は停止)と、オフ用低速駆動部6の動作状態(動作又は停止)との一例を、タイミングチャートで示している。
【0031】
第1電圧検出部7Aの出力真理値は、例えば、第1電圧検出部7Aの検出値が所定の閾値未満のときに0となり、所定の閾値以上となるときに1となる値である。本実施形態では、スイッチングデバイス1がオンしているときのドレイン‐ソース間電圧Vdsの値を所定の閾値とし、ドレイン‐ソース間電圧Vdsが立ち上がるタイミングで出力真理値が1となるものとする。
【0032】
遅延部8の出力真理値は、遅延部8の出力値が所定の閾値以下のときに0となり、所定の閾値を超えたときに1となる。本実施形態では、スイッチングデバイス1がオンしているときのドレイン‐ソース間電圧Vdsの値を所定の閾値とし、遅延後のドレイン‐ソース間電圧Vdsが立ち上がるタイミングで出力真理値が1となるものとする。
【0033】
ゲート信号がオンからオフとなると、オフ用高速駆動部5およびオフ用低速駆動部6が動作状態となり、スイッチングデバイス1のゲート‐ソース間電圧Vgsが低下し始める。スイッチングデバイス1のゲート‐ソース間電圧Vgsが所定値まで低下すると、ドレイン‐ソース間電圧Vdsが立ち上がり、ドレイン電流Idが低下し始める。
ドレイン‐ソース間電圧Vdsが立ち上がるタイミングで、第1電圧検出部7Aの出力真理値が0から1に変化し、第1電圧検出部7Aから所定の閾値を超えた電圧値が遅延部8に入力される。
【0034】
遅延部8は、第1電圧検出部7Aから入力された値を所定時間遅延させて出力する。したがって、遅延部8の出力真理値は、第1電圧検出部7Aの出力真理値が立ち上がるタイミングより所定時間遅れて0から1に変化している。
【0035】
遅延部8の出力真理値が1になるタイミングで、遅延部8の出力値が所定の閾値以上となり、オフ用高速駆動部5が動作状態から停止状態となる。すなわち、スイッチングデバイス1のドレイン‐ソース間電圧Vdsが所定の閾値を超えてから所定の遅延時間が経過したタイミングまでは、オフ用高速駆動部5とオフ用低速駆動部6とによりスイッチングデバイス1のターンオフ動作が制御される。スイッチングデバイス1のドレイン‐ソース間電圧Vdsが所定の閾値を超えてから所定の遅延時間が経過したタイミング以降は、オフ用低速駆動部6のみによりスイッチングデバイス1のターンオフ動作が制御される。
【0036】
以上に説明の動作により、スイッチングデバイス1は、ターンオフの初期段階では、オフ用高速駆動部5とオフ用低速駆動部6とにより高速にターンオフするため、ターンオフ損失を低減することができる。スイッチングデバイス1が高温となっているときには、上記のターンオフ損失を低減することで、エレベータの運転時のスイッチングデバイス1の温度を下げることができる。一方、オフ用高速駆動部5が停止状態となった後は、オフ用低速駆動部6のみでスイッチングデバイス1をターンオフするため、スイッチングデバイス1におけるサージ電圧を抑制することができる。
【0037】
本実施形態のゲート駆動回路では、ドレイン‐ソース間電圧Vdsの立ち上がりを検出し、立ち上がりが検出されたタイミングを起点として所定時間後にオフ用高速駆動部5を停止状態にさせている。このことにより、例えばSiCなどの材料を用いたスイッチングデバイス1がターンオフする際に、高速動作を行っている途中で遅滞なくオフ用高速駆動部5を停止させ、低速動作に移行することができる。
【0038】
一方で、オフ用高速駆動部5を停止するタイミングが早すぎると、スイッチングデバイス1をターンオフする期間において低速駆動期間が長引くこととなり、ターンオフ損失が増大する可能性がある。遅延部8における遅延時間を適切な時間に設定し、オフ用高速駆動部5を停止させることで、スイッチングデバイス1のターンオフ損失を抑制しつつ、サージ電圧を抑制することを実現できる。
【0039】
次に、遅延部8における遅延時間の設定法の一例について説明する。ここでは、電力変換装置の動作条件として、直流電圧(直流主回路間の電圧)がVcc[V]、電圧変化率の最大値がdVdtMax[V/s]であるとする。
【0040】
一般的なスイッチングデバイスのターンオフ動作において、ドレイン‐ソース間電圧Vdsが直流電圧値(スイッチングデバイスのオフ完了時の電圧値)に達すると、ドレイン電流Idが大幅に低下しはじめる。サージ電圧の大きさは、このときのドレイン電流Idの変化率に応じた値となる。よって、サージ電圧を確実に抑制するためには、ドレイン‐ソース間電圧Vdsが直流電圧Vccに達する前に、オフ用高速駆動部5を停止状態にすることが好ましい。上記において、ドレイン‐ソース間電圧Vdsが直流電圧Vccに達する時間Tvccは、下記(1)式により算出することができる。
Tvcc=Vcc/dVdtMax (1)
【0041】
さらに実際の電力変換装置においては、第1電圧検出部7A、遅延部8、オフ用高速駆動部5を構成する各部品の動作に固有の遅れが存在する。したがって、電力変換装置を構成する各部品の動作の遅れの総量(各部品の動作の遅れ時間の総和)Tdeviceを考慮すると、遅延部8の遅延時間Tdが下記(2)式を満たすように設定することにより、ドレイン‐ソース間電圧Vdsが直流電圧Vccに達する前にオフ用高速駆動部5を停止状態にすることができ、サージ電圧を抑制可能となる。
Td<Tvcc-Tdevice=Vcc/dVdtMax-Tdevice (2)
【0042】
また、上記関係を満たす範囲において、遅延部8における遅延量を調整することで、スイッチングデバイス1におけるサージ電圧の抑制とターンオフ損失抑制とのバランスを調整することができる。
【0043】
本実施形態のゲート駆動回路および電力変換装置では、スイッチングデバイスのターンオフ開始時はゲート駆動速度を高くする(低ゲート抵抗値にて駆動する)ことで低損失化をはかり、一方で、スイッチングデバイスの電圧の立ち上がり始めを検出した上で、調整された遅延を持たせた上でゲート速度を低くする(高ゲート抵抗値にて駆動する)ことができる。これにより、スイッチングデバイスにおけるサージ電圧を確実に低減する。
【0044】
図5は、実施形態に係るエレベータ制御装置によるゲート抵抗値の初期設定に係る運転の手順の一例を示すフローチャートである。
ここでは、例えばエレベータの据え付け時または点検作業時における、スイッチングデバイス1に生じるサージ電圧(以下、インバータサージと称することがある)およびモータ300の端部に生じるサージ電圧(以下、モータサージと称することがある)が、スイッチングデバイス1およびモータ300が故障する電圧に近づいたときの基準以下となるように、スイッチングデバイス1のゲート抵抗値を初期設定値に調整する運転の手順について説明する。
【0045】
ゲート抵抗値の初期設定にあたり、まず、上記据え付け時または点検作業時において、スイッチングデバイス1のゲート抵抗値を調整する運転である、乗りかごの通常運転に先立つ調整運転がエレベータ制御装置により開始される(S11)。
そして、ゲート駆動回路2の第1電圧検出部7Aにより検出された電圧がスイッチングデバイス1に生じるピークサージ電圧であって、このピークサージ電圧が、上記許容値に近づいたときの閾値(第1の閾値)である基準を超過すると判定部21により判定されたときは、オフ用低速駆動部6の動作によりスイッチングデバイス1のゲート抵抗値を調整することで、スイッチングデバイス1に生じるピークサージ電圧が上記基準以下となるよう、当該サージ電圧の抑制を図る。
【0046】
また、ゲート駆動回路2の第2電圧検出部7Bにより検出された電圧がモータ300の端部に生じるピークサージ電圧であって、このピークサージ電圧が、上記許容値に近づいたときの閾値(第2の閾値)である基準を超過すると判定部22により判定されたときは、オフ用低速駆動部6の動作によりスイッチングデバイス1のゲート抵抗値を調整することで、モータ300の端部に生じるピークサージ電圧が上記基準以下となるよう、当該サージ電圧の抑制を図る(S12~S14)。
【0047】
スイッチングデバイス1における、上記基準を超えたピークサージ電圧が上記基準以下になったと判定部21により判定されたとき、または、モータ300の端部に生じる、上記基準を超えたピークサージ電圧が上記基準以下になったと判定部22により判定されたときは(S13のNO)、ゲート抵抗値設定部9は、上記S14により調整されたゲート抵抗値を、例えばスイッチングデバイス1のゲート‐ソース間電圧及びゲート電流に基づいて測定し、この測定結果をスイッチングデバイス1のゲート抵抗の初期設定値として、ゲート抵抗値設定部9の内部メモリに保存する。この保存後に調整運転が終了し、ゲート抵抗値の初期設定が終了する(S15)。
【0048】
図6は、実施形態に係るエレベータ制御装置によるサージ電圧の抑制に係る通常運転の手順の一例を示すフローチャートである。
ここでは、上記調整運転による、スイッチングデバイス1のゲート抵抗値の初期設定が終了した後の通常運転であって、この運転において生じる、スイッチングデバイス1のピークサージ電圧、およびモータ300のピークサージ電圧が許容値以下となるように抑制する運転について説明する。
【0049】
通常運転にあたり、スイッチングデバイス1またはモータ300の温度上昇または経年劣化により、スイッチングデバイス1またはモータ300のピークサージ電圧が変化し、ゲート駆動回路2の第1電圧検出部7Aにより検出された電圧がスイッチングデバイス1におけるピークサージ電圧であって、このピークサージ電圧が、上記許容値に近づいたときの基準を超過すると判定部21により判定されたときは、オフ用低速駆動部6の動作によりスイッチングデバイス1のゲート抵抗値を調整することで、スイッチングデバイス1におけるピークサージ電圧が上記基準以下となるよう、当該サージ電圧の抑制を図る。
【0050】
また、ゲート駆動回路2の第2電圧検出部7Bにより検出された電圧がモータ300の端部におけるピークサージ電圧であって、このピークサージ電圧が、上記許容値に近づいたときの基準を超過すると判定部22により判定されたときは、オフ用低速駆動部6の動作によりスイッチングデバイス1のゲート抵抗値を調整することで、モータ300の端部におけるピークサージ電圧が上記基準以下となるよう、当該サージ電圧の抑制を図る(S21~S23)。S23の後はS21に戻る。
【0051】
スイッチングデバイス1における、上記基準を超えたピークサージ電圧が上記基準以下になったと判定部21により判定されたとき、または、モータ300の端部における、上記基準を超えたピークサージ電圧が上記基準以下となったと判定部22により判定されたときは(S22のNO)、上記S23により低下して、ゲート駆動回路2の第1電圧検出部7Aにより検出された、スイッチングデバイス1におけるピークサージ電圧、またはゲート駆動回路2の第2電圧検出部7Bにより検出された、モータ300におけるピークサージ電圧が、上記調整運転におけるゲート抵抗値の調整前に検出された、すなわち調整運転の開始時に検出されたピークサージ電圧より低いときは、スイッチングデバイス1のゲート抵抗値が、上記調整運転におけるS15でゲート抵抗値設定部9により設定された初期設定値に戻るように、オフ用低速駆動部6の動作により調整する(S24~S26)。S26の後はS21に戻る。
【0052】
また、上記検出されたピークサージ電圧が、上記調整運転における調整前に検出された、すなわち調整運転の開始時に検出されたピークサージ電圧以上であるとき(S25のNO)はS21に戻る。
【0053】
以上説明した実施形態によれば、エレベータに設けられる電力変換装置のスイッチングデバイスで生じるピークサージ電圧および巻き上げ機のモータの端部で生じるピークサージ電圧が基準以下となるようにスイッチングデバイスのゲート抵抗値が調整される。この調整により、スイッチングデバイスと巻き上げ機のモータの間のパラメータ、例えばインダクタンス特性が可変的に調整され得る。したがって、上記実施形態に係るエレベータ制御装置をエレベータの各物件に適用し、このエレベータの各物件で設置される電力変換装置と巻き上げ機との間の電力線における、電力変換装置の端部と、巻き上げ機のモータの端部のそれぞれにおいて発生するサージ電圧を適切に抑制することができる。
【0054】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0055】
1…スイッチングデバイス、2…ゲート駆動回路、4…オン用駆動部、5…オフ用高速駆動部、6…オフ用低速駆動部、7A…第1電圧検出部、7B…第2電圧検出部、8…遅延部、9…ゲート抵抗値設定部、12…抵抗器、13…コンデンサ、21,22…判定部、200…駆動回路、300…モータ、500…エレベータ制御用のマイコン。
【要約】
【課題】エレベータで設置される電力変換装置と巻き上げ機のモータのそれぞれにおいて発生するサージ電圧を適切に抑制する。
【解決手段】実施形態に係る駆動回路は、スイッチングデバイスの端子間電圧を検出する第1電圧検出部と、前記スイッチングデバイスと巻き上げ機のモータとの間の電力線が接続される、前記モータの端部の電圧を検出する第2電圧検出部と、前記スイッチングデバイスをオフするときに、前記スイッチングデバイスの制御端子に制御信号を印加する駆動部と、を備え、前記駆動部は、前記第1電圧検出部により検出された前記端子間電圧が第1の閾値を超えたとき、または前記第2電圧検出部により検出された電圧が第2の閾値を超えたときに、前記第1または第2の閾値を超えた電圧が低下するように前記スイッチングデバイスの制御端子に制御信号を印加する。
【選択図】 図2
図1
図2
図3
図4
図5
図6