(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-17
(45)【発行日】2023-11-28
(54)【発明の名称】時計ムーブメントのプレート上で文字盤を保持するためのキー
(51)【国際特許分類】
G04B 19/14 20060101AFI20231120BHJP
【FI】
G04B19/14 C
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022106931
(22)【出願日】2022-07-01
【審査請求日】2022-07-01
(32)【優先日】2021-08-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】591048416
【氏名又は名称】ウーテーアー・エス・アー・マニファクチュール・オロロジェール・スイス
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【氏名又は名称】山川 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】バティスト・ウィスブロー
(72)【発明者】
【氏名】マチュー・エラール
【審査官】細見 斉子
(56)【参考文献】
【文献】欧州特許出願公開第00465988(EP,A1)
【文献】米国特許第04213295(US,A)
【文献】実開平05-014972(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G04B 19/14
G01D 13/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
時計構造の第1のハウジングを通過するように係合される少なくとも1つの足(20)および文字盤足(20)を保持するための少なくとも1つのキー(10)を備える、文字盤を取り付けるためのデバイスであって、
前記キーは棒(12)の端部に配置された円筒形ヘッド(11)を有し、前記ヘッド(11)
の長手方向軸および前記棒(12)
の長手方向軸は同軸であり、前記ヘッド(11)は、平坦部分(13)、および、前記平坦部分(13)の両側において前記棒(12)の長手方向軸の周りに画定される角度セクター内において前記ヘッド(11)の周縁部の一部分の上を延在するカラー(14)を有し、前記カラー(14)は円錐台形形状を有する断面を有し、前記ヘッド(11)の前記周縁部を基準として、この角度セクターの端部のところに実質的にゼロである最小半径突出部を形成し、さらに、これらの端部の間に最大半径突出部を形成
し、
前記少なくとも1つのキー(10)の棒(12)は前記第1のハウジングに隣接する第2のハウジング内で係合され、前記デバイスは、「静止位置」と称される第1の角度位置において、平坦部分(13)を前記足(20)に接触させるのを完全に回避することになるように、および、前記ヘッド(11)の前記長手方向軸を中心として前記キー(10)をその静止位置からその取付位置まで回転させた場合の「取付位置」と称される第2の角度位置において、最初に、前記ヘッド(11)の周縁部を基準としてカラー(14)により形成された最小半径突出部を通して前記カラー(14)を前記足(20)に接触させることになるように、構成される、デバイス。
【請求項2】
前記カラー(14)は、前記ヘッド(11)の前記
長手方向軸を基準としてその回転軸が中心から外れているような回転により形成される形状を有する、請求項1に記載の
デバイス。
【請求項3】
前記カラー(14)は、前記平坦部分(13)によって画定される平面に対して直角である、前記ヘッド(11)の前記長手方向軸を通過する対称平面の両側で対称に配置される、請求項1に記載の
デバイス。
【請求項4】
前記カラー(14)によって形成される前記最大半径突出部は前記平坦部分(13)の正反対側にある、請求項1に記載の
デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は時計学の分野に関し、詳細には、外部部品を時計構造(horological structure)上に固定するためのデバイスに関する。
【0002】
より詳細には、本発明は、時計ムーブメントのプレート上で文字盤を保持するためのキーに関する。
【背景技術】
【0003】
腕時計などの時計内で文字盤を固定することは、一般に、保持用のキー(holding key)によって行われる。
【0004】
より具体的には、これらの保持用のキーは、文字盤の反対側で時計ムーブメント・プレート(horological movement plate)の表面に対して当接された状態で静止することが意図されるヘッドを有する。ヘッドは、上記プレート内のハウジングの中に締まり嵌めにより挿入されることが意図される棒の端部に接続されており、ここでは、摩擦力に打ち勝つのに十分なトルクがヘッドに適用されるときにヘッドが枢動させられ得る。
【0005】
文字盤が、キーの棒が中に挿入されているハウジングの近傍に配置されたハウジング内で係合される足を有し、キーの棒が文字盤の反対側でプレートの表面上に出現する。
【0006】
キーが、それらのヘッドの周りに、棒の長手方向軸に平行な方向において切断されたカラーを有し、上記カラーは円錐台形断面を有し、キーの枢動後に隣接する足の中を刃先(cutting edge)により貫通することが意図される。
【0007】
この貫通により、ばりを形成する材料が切り取られることになり、ばりが文字盤足から脱着され得るようになり、ばりが時計ムーブメントの可動構成要素を妨害し得るかまたは損傷させ得る削りくずを形成する。
【0008】
さらに、既に変形した足を再び取り付けることが望まれる場合、足とキーとの間に機械的クリアランスが現れる可能性がある。
【0009】
文字盤を取り付けるためのこの解決策はまた、カラーが足を貫通するときに用いられる刃先のサイズが比較的大きいことを理由として、足および/またはキーに大きい機械的応力を発生させる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、文字盤の足の材料を切り取るようなリスクなしで文字盤を保持するのを可能にする解決策を提案することにより、上で言及した欠点を解決する。
【0011】
より具体的には、本発明は、キーを用いて足をクランプするのを保証しながら、足の変形を最小にすることを狙いとする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この目的のため、本発明は、文字盤足を保持するためのキーに関し、上記キーが棒の端部に配置された円筒形ヘッドを有し、ヘッドおよび棒が同軸であり、ヘッドが、平坦部分、および、平坦部分の両側において棒の長手方向軸の周りに画定される角度セクター内においてヘッドの周縁部の一部分の上を延在するカラーを有する。
【0013】
カラーが円錐台形形状を有する断面を有し、ヘッドの周縁部を基準として、この角度セクターの端部のところに実質的にゼロである最小半径突出部を形成し、さらに、これらの端部の間に最大半径突出部を形成する。
【0014】
特定の実施形態で、本発明が、単独で、または、技術的に可能であるあらゆる組み合わせに従って、以下の特徴のうちの1つまたは複数の特徴をさらに有することができる。
【0015】
本発明の特定の実施形態で、カラーが、ヘッドの軸を基準としてその回転軸が中心から外れているような回転により形成される形状を有する。
【0016】
特定の実施形態で、カラーが、平坦部分によって画定される平面に対して直角である、ヘッドの長手方向軸を通過する対称平面の両側で対称に配置される。
【0017】
特定の実施形態で、カラーによって形成される最大半径突出部が平坦部分の正反対側にある。
【0018】
別の態様によると、本発明がさらに、時計構造の第1のハウジングを通過するように係合される少なくとも1つの足および上で説明した少なくとも1つのキーを備える、文字盤を取り付けるためのデバイスに関し、少なくとも1つのキーの棒が第1のハウジングに隣接する第2のハウジング内で係合される。デバイスが、「静止位置」と称される第1の角度位置において、平坦部分を足に接触させるのを完全に回避することになるように、および、ヘッドの長手方向軸を中心としてキーをその静止位置からその取付位置まで回転させた場合の「取付位置」と称される第2の角度位置において、ヘッドの周縁部を基準として上記カラーにより形成された最小半径突出部を通して上記カラーを足に接触させることになるように、構成される。
【0019】
添付図面を参照して非限定の例として与えられる以下の詳細な説明を読むことにより本発明の他の特徴および利点が明らかとなる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の好適な例示の実施形態による文字盤キー(dial key)を示す斜視図である。
【
図3】
図2の断面軸A-Aに沿う長手方向断面図である。
【
図4】キーが静止位置にある状態の、文字盤を取り付けるためのデバイスを示す詳細図である。
【
図5】キーが文字盤足を取り付ける位置にある状態であり、上記キーが上記足に最大の力を作用させている状態である、文字盤を取り付けるためのデバイスを示す詳細図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1は、本発明による文字盤足20を保持するためのキー10を示す。キー10は、時計ムーブメント・プレート30から例えば構成された時計構造の中に作られたハウジング内で係合されることが意図される棒12の端部に接続された円筒形ヘッド11を有する。
【0022】
ヘッド11および棒12が同軸の長手方向軸に沿って延在する。ヘッド11が、底部面111の反対側にある頂部面110を備える。ここでは、「頂部」および「底部」という用語は、
図1から5に示されるキー10の位置に関する。
【0023】
底部面111は棒12およびヘッド11の長手方向軸に対して直角である平面を画定し、時計ムーブメントのプレート30に対して当接された状態で静止することが意図される。
【0024】
ヘッド11が、頂部面110と底部面111との間を延在してヘッド11の長手方向軸に平行な平面を画定する平坦部分13を有する。
【0025】
ヘッド11が、平坦部分13の両側において、ヘッド11の長手方向軸の周りに画定される角度セクターに沿うところに、ヘッドの周縁部の一部分の上に配置されたカラー14をさらに有する。カラー14が円錐台形形状の断面を有し、円錐台形形状の断面の断面積がヘッド11の周縁部に周りで変化する。
【0026】
具体的には、図によって示されるように、カラー14が、ヘッド11の周縁部を基準として、環状セクターの端部において最小半径のまたはさらには実質的にゼロ半径の突出部を形成し、これらの端部の間において最大半径突出部を形成する。
【0027】
カラーが最小半径のまたはさらには実質的にゼロ半径の突出部を形成する。というのは、この突出部が無視できる程度の大きさであり、例えば10分の1ミリメートル以下のオーダーであるからである。
【0028】
言い換えると、ヘッド11の周縁部とカラー14の周縁部との間の距離が、カラー14がそこに沿って延在しているところである角度セクターの端部のところにおいて最小であり、これらの端部の間において最大である。
【0029】
より正確には、
図2の平面図によって示されるように、カラー14が、ヘッド11の軸を基準としてその回転軸が中心から外れているような回転により形成される形状を有する。
【0030】
有利には、カラー14が、平坦部分13によって画定される平面に対して直角である、ヘッド11の長手方向軸を通過する対称平面の両側で対称に配置される。したがって、カラー14によって形成される最大突出部が平坦部分13の正反対側にある。
【0031】
この特徴により、キー10を時計回り方向におよび反時計回り方向に枢動させることにより文字盤足20を取り付けるのを実現可能にすることが可能となる。
【0032】
カラー14が、頂部面140により、および底部面141により、その境界を画定される。
【0033】
底部面141は、ヘッド11の底部面111によって画定される平面と同一平面内にある平面を画定し、時計ムーブメントのプレート30に対して当接された状態で静止することが意図される。言い換えると、カラー14の底部面141が、
図3の断面図によって示されるように、ヘッド11の底部面111に一致するように位置する。
【0034】
カラー14の頂部面140が、底部面141と共に、例えば0度以上かつ45度以下である、角度を画定するように配置される。この角度が小さくなるとカラー14が文字盤足20を貫通することがより容易になり、上記カラー14の抵抗において不利となり、この角度が大きくなると、足20の中へより大きく貫通することでより大きいトルクが必要となり、足20がより大きいひずみを受けることになる。
【0035】
有利には、ヘッド11がトルクを受けて伝達することが可能となるように構成され、この目的のため、使用者によって操作されるツールと協働するように適合された立体構造を有する。
【0036】
このような立体構造は、図に示される例示の実施形態では、ヘッド11の頂面から延在する直径方向スロット15によって形成される。スロット15は、例えばドライバなどの、ツールのブレードを受けることが意図される。
【0037】
別法として、このような立体構造が非円形断面を有する空洞によって形成されてもよく、ヘッド11の形状が角柱となり、つまり例えばその周縁部上に複数の平坦部分を有し、その結果、その断面の形状が多角形などとなる。
【0038】
ヘッド11および棒12が同軸の長手方向軸を有し、トルクが付随のレバーアーム効果なしで伝達される。
【0039】
本発明はさらに、より一般的には、別の態様によると、例えば時計ムーブメントのプレート30である、時計構造の第1のハウジングを通過するように係合される少なくとも1つの足20を備える文字盤を取り付けるためのデバイスに関する。
【0040】
第1のハウジングがキー10の棒12を受ける第2のハウジングに隣接しており、取付デバイスが、
図4の詳細図に示されるように、「静止位置」と称される第1の角度位置において、平坦部分13を足20に接触させるのを完全に避けることになるように、および、「取付位置」と称される
図5の詳細に示される第2の角度位置において、カラー14が足20を貫通することになるように、構成される。
【0041】
より具体的には、取付デバイスが、ヘッド11の長手方向軸を中心としてキー10がその静止位置から回転させられるときにカラー14を通して足20に接触することになるように(最初に、上記カラー14によって形成された最小半径突出部のところで接触する)、構成される。
【0042】
次いで、キー10の回転中にカラー14が徐々に足20を貫通していき、ここでは足20の材料が切り取られるリスクがない。
【0043】
具体的には、カラー14のこの特有の形状により、径方向の力および軸方向の力が足20の中に徐々に作用していく。その理由は、キー10の回転により足を貫通しているカラー14の部分の厚さおよび幅が増していくからである。
【0044】
ここでの「厚さ」および「幅」という用語は、それぞれ、径方向および軸方向におけるカラーの寸法を示す。
【0045】
平坦部分13が第1および第2のハウジングを互いから短い距離のところに構成するのを実現可能にするのを可能にし、したがって、取付デバイスをコンパクトにするのを可能にする。
【0046】
キー10をその静止位置まで枢動させることにより、文字盤がプレート30から容易に分離され得る。
【0047】
有利には、キー10のこの特徴により、および具体的にはカラー14の形状により、同一の足20がプレート30に取り付けられたり分離されたりされ得るようになり、これは複数回行われ得る。
【0048】
さらに、本発明は、キー10の回転の程度を、およびひいては文字盤足20内でのカラー14の貫通を、非常に精細に管理するのを可能にする。
【0049】
キー10の回転の程度の管理は、文字盤足20を最適に取り付けるのを可能にすることにおいて不可欠なことである。その理由は、過度に大きい回転は文字盤足20おいて材料の機械的ひずみおよび不必要な変形を発生させ、過度に小さい回転は足20内でのカラー14の不十分な貫通につながり、結果として取り付けが不十分となり、それにより文字盤が誤って分離される可能性がある。
【0050】
最適な取り付けを達成するのに必要な回転の程度は、具体的には、文字盤足20を作っている材料と、その硬さおよびその直径と、文字盤の重量とに応じて変化し得ることを理由として、キー10の回転の程度の管理はより重要となる。
【0051】
さらに、文字盤を作っている材料によっては、亀裂または可視の変形の発生を回避するためにキー10の回転の程度を精細に制御することが必要となる。このような事例は、具体的には、例えば、真珠層、サファイア、セラミックなどの、脆性材料から文字盤が作られる場合に、または文字盤が薄い場合に、発生する可能性がある。
【0052】
最後に、文字盤の受ける取り付け/分離サイクルの回数に応じて、キー10の回転の程度を調整することも必要となる。その理由は、1回の取り付け/分離サイクルの後では、前回の取り付け中に発生するクランプ力と同じレベルに達するためには、文字盤足20の取り付けが、前回の取り付けにおいて実施されたときより大きいキー10の回転運動により達成されるからである。
【符号の説明】
【0053】
10 キー
11 ヘッド
12 棒
13 平坦部分
14 カラー
15 スロット
20 文字盤足
30 時計ムーブメント・プレート
110 頂部面
111 底部面
140 頂部面
141 底部面