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特許7387867コーティングの質感特徴をシミュレートするための方法およびシステム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-17
(45)【発行日】2023-11-28
(54)【発明の名称】コーティングの質感特徴をシミュレートするための方法およびシステム
(51)【国際特許分類】
   G06T 15/06 20110101AFI20231120BHJP
【FI】
G06T15/06
【請求項の数】 19
(21)【出願番号】P 2022503813
(86)(22)【出願日】2020-07-13
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-09-16
(86)【国際出願番号】 EP2020069803
(87)【国際公開番号】W WO2021013615
(87)【国際公開日】2021-01-28
【審査請求日】2022-03-18
(31)【優先権主張番号】19187275.3
(32)【優先日】2019-07-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】390008981
【氏名又は名称】ビーエーエスエフ コーティングス ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】BASF Coatings GmbH
【住所又は居所原語表記】Glasuritstrasse 1, D-48165 Muenster,Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100100354
【弁理士】
【氏名又は名称】江藤 聡明
(74)【代理人】
【識別番号】100167106
【弁理士】
【氏名又は名称】倉脇 明子
(74)【代理人】
【識別番号】100194135
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 修
(74)【代理人】
【識別番号】100206069
【弁理士】
【氏名又は名称】稲垣 謙司
(74)【代理人】
【識別番号】100185915
【弁理士】
【氏名又は名称】長山 弘典
(72)【発明者】
【氏名】ムンドゥス,マルクス
(72)【発明者】
【氏名】カンティム,トマス
【審査官】中田 剛史
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-129133(JP,A)
【文献】特開2019-102058(JP,A)
【文献】特開平08-221560(JP,A)
【文献】特開平10-247256(JP,A)
【文献】特開平08-123981(JP,A)
【文献】特開2011-017549(JP,A)
【文献】国際公開第2007/013492(WO,A1)
【文献】特開2006-140945(JP,A)
【文献】特開2000-172873(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06T 15/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
層対象コーティング(100、200)の質感特徴をシミュレートするためのコンピュータ実装された方法であって、前記層対象コーティング(100、200)の各層(111、112、113)は、既知の実際の幾何学的特性を有し、既知の実際の材料特性を備えた既知の個々の成分で構成され、前記方法は、
a)少なくとも1つの通信インターフェースを介して、前記既知の実際の幾何学的特性および前記既知の実際の材料特性を備えた前記既知の個々の成分を提供する工程と、
b)少なくとも1つのプロセッサ(410)によって、仮想環境において前記層対象コーティング(100、200)をモデル化する工程であって、前記層対象コーティング(100、200)の各層(111、112、113)は、その実際の幾何学的特性および材料特性に従って作成され、層と層との境界の界面での光線と物質の相互作用が、特定の光学特性に設定されている、工程と、
c)1つまたは複数の仮想光源(220)からの入射光線と前記層対象コーティング(100、200)との相互作用をシミュレートするために、前記少なくとも1つのプロセッサ(410)の少なくとも1つによって、前記1つまたは複数の仮想光源(220)から前記層対象コーティング(100、200)の表面上に規定された照準領域に向かう光線を仮想的に追跡する工程と、
d)1つまたは複数のレシーバ(230)によって、前記層対象コーティング(100、200)と相互作用した光線を仮想的に収集する工程と、
e)前記1つまたは複数のレシーバ(230)によって、前記層対象コーティング(100、200)から再放射または反射された前記光線の角度的強度分布、スペクトル的強度分布、および空間的強度分布のうちの少なくとも1つを仮想的に判定する工程と、
f)前記少なくとも1つのプロセッサ(410)のうちの少なくとも1つによって、前記判定された強度分布を評価し、前記評価に基づいて、出力デバイス(430)によって少なくとも1つの画像を出力する工程と、
を少なくとも含む、方法。
【請求項2】
前記モデル化する工程において、前記幾何学的特性に関して、横方向寸法における前記層対象コーティング(100、200)のモデル化は、前記工程c)において前記入射光線と相互作用する領域に制限される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記モデル化する工程において、前記幾何学的特性に関して、長手方向寸法における前記多層対象コーティング(100、200)のモデル化が、前記既知の実際の幾何学的特性によって与えられる正確な値でモデル化される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記モデル化する工程において、前記材料特性に関して、層成分がそれらのそれぞれの複素屈折率によって記述される、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記モデル化する工程は、カラー/黒/白顔料型およびフレーク料(114)のうちの少なくとも1つの顔料をモデル化する工程を含み、前記カラー/黒/白の顔料は、体積散乱粒子によって記述され、前記フレーク型顔料(114)は、特定の層に浸されたさまざまな形状の幾何学的成分によってモデル化され、これらの浸漬された成分の界面特性は、前記フレーク型顔料(114)の所望のスペクトル光学特性に設定される、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記モデル化する工程が、特定の横方向および/または縦方向の整列、厚さ、および/または光学特性分布にさらに設定されるフレーク型顔料(114)を含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記光線を仮想的に追跡する工程が、所定のスペクトル、角度、および/または空間分布に従うものとして前記光線をモデル化する工程を含む、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
質感分析のための工程e)において、前記角度的強度分布および空間的強度分布が評価され、少なくとも1つのグレースケール画像が取得される、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
質感分析のための工程e)において、前記光線のスペクトル的強度分布が判定され、少なくとも1つのカラー画像が取得される、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記少なくとも1つの画像の仮想ピクセルサイズがμmスケールの解像度を得るために選択される、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記質感特徴を推定するための既知の後処理方法によって、前記少なくとも1つの画像を後処理する工程をさらに含む、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記特定の光学特性が、吸収、ランバート散乱、フレネル反射、任意散乱分布関数または透明度に従った散乱を少なくとも含む群から選択される、請求項1から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記層と層との境界の界面での光線と物質の相互作用がフレネルの式で表され、この式において、2つの層の間の境界面での反射および透過が、光線の入射角と2つの層の層材料の複素屈折率とからそれぞれ計算される、請求項1から12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
界面の粗さが、前記界面で出会うそれぞれの表面の散乱特性によってモデル化される、請求項1から13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記特定の光学特性が、入射光線を鏡面反射方向に100%反射する完璧な鏡、すべての入射光線を完全に吸収する完全な吸収体、またはラムチアンの法則に従って入射光線を統計的に散乱する完全なランバート反射のような理想的な界面特性として選択される、請求項1から14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
層対象コーティング(100、200)の質感特徴をシミュレートするためのシステムであって、前記層対象コーティング(100、200)の各層(111、112、113)は既知の実際の幾何学的特性を有し、既知の実際の材料特性を有する既知の個々の成分で構成されており、前記システムは、
A)少なくとも1つのコンピュータデバイス(410)と、
B)コンピュータプログラム製品(415)であって、前記コンピュータプログラム製品は、前記少なくとも1つのコンピュータデバイスに機能的に結合されたコンピュータ可読記憶媒体に格納されたコンピュータ実行可能コードであって、動作中に前記少なくとも1つのコンピュータデバイスにコンピュータ方法を実行させる、コンピュータ実行可能コードを含み、前記コンピュータ方法は、
B1)少なくとも1つの通信インターフェースを介して、前記既知の実際の幾何学的特性および前記既知の実際の材料特性を備えた前記既知の個々の成分を受信する工程と、
B2)仮想環境における前記層対象コーティング(100、200)をモデル化する工程であって、前記層対象コーティングの各層が、その実際の幾何学的特性および材料特性に従って作成され、層と層との境界の界面での光線と物質の相互作用が、特定の光学特性に設定されている工程と、
B3)1つまたは複数の仮想光源(220)からの入射光線と前記層対象コーティング(100、200)との相互作用をシミュレートするために、前記1つまたは複数の仮想光源(220)から、前記層対象コーティング(100、200)の表面上に規定された照準領域に向かう光線を仮想的に追跡する工程と、
B4)前記層対象コーティング(100、200)と相互作用した光線を仮想的に収集する工程と、
B5)前記層対象コーティング(100、200)から再放射または反射された前記光線の角度的強度分布、スペクトル的強度分布、および空間的強度分布のうちの少なくとも1つを仮想的に判定する工程と、
B6)前記判定された強度分布を評価し、前記評価に基づいて、出力デバイス(430)を介して少なくとも1つの画像を出力する工程と、を含む、
コンピュータプログラム製品(415)と、
を備える、システム。
【請求項17】
C)コーティング組成物および相互に関連する比色データのためのそれらの材料特性および配合物を有する個々の成分を含むカラーデータベース(420)をさらに備え、
前記コンピュータデバイス(410)は、前記カラーデータベース(420)に機能的に結合され、前記コンピュータデバイス(410)は、入力デバイス(435)と前記出力デバイス(430)とをさらに含む、
請求項16に記載のシステム。
【請求項18】
層対象コーティング(100、200)の質感特徴をシミュレートするためのコンピュータプログラム製品であって、前記層対象コーティングの各層(111、112、113)が、既知の実際の幾何学的特性を有し、既知の実際の材料特性を有する既知の個々の成分から構成されており、前記コンピュータプログラム製品は、少なくとも1つのコンピュータデバイスに機能的に結合されたコンピュータ可読記憶媒体に格納されたコンピュータ実行可能コードであって、動作中に前記少なくとも1つのコンピュータデバイスにコンピュータ方法を実行させる、コンピュータ実行可能コードを含み、前記コンピュータ方法は、
1)少なくとも1つの通信インターフェースを介して、既知の実際の幾何学的特性および既知の実際の材料特性を有する既知の個々の成分を受信する工程と、
2)仮想環境における前記層対象コーティング(100、200)をモデル化する工程であって、前記層対象コーティング(100、200)の各層(111、112、113)が、実際の幾何学的特性および材料特性に従って作成され、層と層との境界の界面での光線と物質の相互作用が、特定の光学特性に設定されている、工程と、
3)1つまたは複数の仮想光源(220)からの入射光線と前記層対象コーティング(100、200)からの入射光線との相互作用をシミュレートするために、前記1つまたは複数の仮想光源(220)から、前記層対象コーティング(100、200)の表面上に規定された照準領域に向かう光線を仮想的に追跡する工程と、
4)前記層対象コーティング(100、200)と相互作用した光線を仮想的に収集する工程と、
5)前記層対象コーティング(100、200)から再放射または反射された前記光線の角度的強度分布、スペクトル的強度分布、および空間的強度分布のうちの少なくとも1つを仮想的に判定する工程と、
6)前記判定された強度分布を評価し、前記評価に基づいて、出力デバイス(430)を介して少なくとも1つの画像を出力する工程と、
を含む、コンピュータプログラム製品。
【請求項19】
層対象コーティング(100、200)の質感特徴をシミュレートするための非一時的なコンピュータ可読媒体であって、前記層対象コーティング(100、200)の各層(111、112、113)が、既知の実際の幾何学的特性を有し、既知の実際の材料特性を有する既知の個々の成分で構成されており、前記コンピュータ可読媒体は、1つまたは複数のプロセッサによって実行されると、マシンに、
1)少なくとも1つの通信インターフェースを介して、前記既知の実際の幾何学的特性および前記既知の実際の材料特性を有する前記既知の個々の成分を受信する工程と、
2)仮想環境における層対象コーティング(100、200)をモデル化する工程であって、前記層対象コーティング(100、200)の各層が、実際の幾何学的および材料特性に従って作成され、層と層との境界の界面での光線と物質の相互作用が、特定の光学特性に設定されている、工程と、
3)1つまたは複数の仮想光源(220)からの入射光線と前記層対象コーティング(100、200)からの入射光線との相互作用をシミュレートするために、前記1つまたは複数の仮想光源(220)から、前記層対象コーティング(100、200)の表面上に規定された照準領域に向かう光線を仮想的に追跡する工程と、
4)前記層対象コーティング(100、200)と相互作用した光線を仮想的に収集する工程と、
5)前記層対象コーティング(100、200)から再放射または反射された前記光線の角度的強度分布、スペクトル的強度分布、および空間的強度分布のうちの少なくとも1つを仮想的に判定する工程と、
6)前記判定された前記強度分布を評価し、前記評価に基づいて、出力デバイス(430)を介して少なくとも1つの画像を出力する工程と、
を引き起こす命令を格納している、コンピュータ可読媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、n層対象コーティングの質感特徴をシミュレートするための方法およびシステムに関する。本開示はまた、それぞれのコンピュータ可読媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
ペイントやコーティングの外観は、その色と質感の両方に依存する。したがって、粗さ、きらめき領域、きらめき強度などの質感特徴は、色の記述、マッチング、および発色のためのペイントおよびコーティングの測色に使用される。
【0003】
例えば、自動車用途では、ほとんどのペイントまたはコーティングは多層材料で構成されており、各層の目的は異なる。ペイントの全体的な外観は、ペイントの組成だけでなく、ほとんどの場合、不均一でマルチスケールである粒子の空間分布にも依存する。例えば、金属粒子は鏡面反射やきらめき効果を生み出し得る。これらの効果は、粒子の化学的性質、粒子の表面粗さ、コーティング内の粒子の分散、およびクラスタ効果に依存する。
【0004】
一般に、質感特徴は、明確な直接または拡散照明条件下におけるコーティングの写真から判定される。カラーマッチングでは、これらの特徴を使用して、例えばデータベース検索によって正しい色を見つけることをサポートする。発色においては、統計モデルを適用して、新しい配合の質感特徴を予測する。ただし、これらのモデルには大量の物理学習データが必要であり、質感特徴を、例えばスクラッチから、またはまったく新しい層構成用にシミュレートすることはできない。
【0005】
コンピュータグラフィックスの1つの用途は、仮想プロトタイピング、つまり、製品を完全にデジタルで設計し、その仮想製品のコンピュータ生成画像のみに基づいて設計を判定することである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このような背景に対して、本開示の目的は、基本的にデジタルで、すなわち統計的学習データなしでペイントコーティングをシミュレートする可能性を提供し、デジタル発色をサポートすることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示は、n層対象コーティングの質感特徴をシミュレートするためのコンピュータ実装された方法であって、n層対象コーティングの各層は、既知の実際の幾何学的特性を有し、既知の実際の材料特性を備えた既知の個々の成分で構成され、方法は、
a)少なくとも1つの通信インターフェースを介して、既知の実際の幾何学的特性および既知の実際の材料特性を備えた既知の個々の成分を提供する工程と、
b)少なくとも1つのプロセッサによって、仮想環境においてn層対象コーティングをモデル化する工程であって、n層対象コーティングの各層は、その実際の幾何学的特性および材料特性に従って作成される、工程と、
c)1つまたは複数の仮想光源からの入射光線とn層対象コーティングとの相互作用をシミュレートするために、少なくとも1つのプロセッサの少なくとも1つによって、1つまたは複数の仮想光源からn層対象コーティングの表面上に規定された照準領域に向かう光線を仮想的に追跡する工程と、
d)1つまたは複数のレシーバによって、n層対象コーティングと相互作用した光線を仮想的に収集する工程と、
e)1つまたは複数のレシーバによって、n層対象コーティングから再放射または反射された光線の角度的強度分布、スペクトル的強度分布、および空間的強度分布のうちの少なくとも1つを仮想的に判定する(測定する)工程と、
f)少なくとも1つのプロセッサのうちの少なくとも1つによって、判定された強度分布を評価し、評価に基づいて、出力デバイスによって少なくとも1つの画像を出力する工程と、
を少なくとも含む、方法、を提供する。
【0008】
本開示の範囲において、「レシーバ(receiver)」という用語は、コーティングによって再放射または反射されるレシーバを通過する光線の情報を収集および格納する仮想環境内の点または領域を表す。光線のそのような情報は、光線のスペクトル、振幅、位置および/または角度情報を含み得る。仮想環境では、レシーバは、対象コーティングのすぐ上に配置された2次元ユニットとして表わされ得る。
【0009】
本開示の範囲において、「ペイント」、「コーティング」および「ペイントコーティング」という用語は同義語として使用される。
【0010】
「n層対象コーティング」という用語は、1層対象コーティングおよび多層対象コーティングを含み、つまり、nは1より大きい、または1に等しいすべての自然数であり得る。
【0011】
本発明によれば、質感特徴は、光学シミュレーションから直接判定される。したがって、本発明は、統計的学習データを必要とせず、対象コーティングの下にある配合物の個々の成分の実際の物理的特性のみを必要とする。光学シミュレーションアプローチ、すなわち提案された方法は、高度なデジタル発色をサポートすることを目的としている。
【0012】
提案された方法では、3つの主要な方法工程が区別され得る。上記の工程a)およびb)に対応する第1の工程では、シミュレートされるコーティング(または層スタック)が仮想環境で作成される。上記の方法工程c)に対応する第2の工程では、光線追跡を使用して、入射光(例えば、直接または拡散仮想光源からの)と作成された層スタックとの相互作用をシミュレートする。本開示は、例えば、該当する場合、薄膜干渉または散乱プロセスが光線追跡アプローチを補完し得る波動光学処理としての光線光学シミュレーションに限定されない。上記の方法工程d)からf)に対応する第3の工程では、層スタック/コーティングから再放射された(または反射された)光線は、レシーバによって空間的および/またはスペクトル的に分解された方法で評価され、後処理されて質感特徴値が取得される。
【0013】
例示的な実施形態では、モデル化する工程において、幾何学的特性に関して、横方向の寸法でのn層対象コーティングのモデル化は、工程c)で入射光線と相互作用する領域に制限される。
【0014】
さらなる例示的な実施形態では、モデル化する工程において、幾何学的特性に関して、長手方向寸法での、すなわち厚さに関するn層対象コーティングのモデル化は、既知の実際の幾何学的特性によって与えられる正確な値でモデル化される。
【0015】
さらに別の実施形態では、モデル化する工程において、材料特性に関して、層成分は、それらのそれぞれの複素屈折率によって記述される。
【0016】
モデル化する工程では、コーティングの各層がその幾何学的特性および材料特性に従って作成される。幾何学的特性に関しては、横方向の寸法(対象コーティングが提供されたサンプルの幅と長さ)でのモデル化を、第2の工程で入射光線と相互作用する領域に制限するだけで十分であり得る。対照的に、層の厚さは光線と物質の相互作用に大きく影響するため、縦方向の寸法(コーティングの厚さ)は正確な値でモデル化する必要がある。層の材料は、それぞれの複素屈折率で表される。さらに、層と層との境界の界面、すなわち層の界面での光線と物質の相互作用は、特定の、場合によっては理想化された光学特性に、例えば、吸収、ランバート散乱、フレネル反射、または透明度に設定され得るが、これらに限定されない。光線光学では、層の境界面での相互作用は一般にフレネルの式で表される。これらの方程式では、2つの層の間の境界面での反射および透過は、光線の入射角と2つの層の層材料の複素屈折率とからそれぞれ計算される。さらに、界面の粗さは、前記界面で出会うそれぞれの表面の(例えば、ランダムな)散乱特性によってモデル化され得る。場合によっては、物理的な複雑さを軽減し、例えば、入射光線を鏡面反射方向に100%反射する完璧な鏡、すべての入射光線を完全に吸収する完全な吸収体、またはラムチアンの法則に従って入射光線を統計的に散乱する完全なランバート反射のような理想的な界面特性を想定した計算の労力を軽減することが有利であり得る。
【0017】
さらなる態様では、モデル化する工程は、カラー/黒/白顔料型およびフレーク料のうちの少なくとも1つの顔料をモデル化することを含む。本明細書において、カラー/黒/白顔料は、それらのサイズ、それらの材料、それらの材料密度、それらの周囲のマトリックス材料に対するそれらの体積または重量のパーセンテージ、それらの角度散乱分布およびそれらの透過率によって記述される体積散乱粒子によって記述される。これらの特性は、例えば、ミー理論または波動光学シミュレーションまたはその他の適用可能な数値的方法または理論から得られる。例えば、銀または二酸化チタンで作られた球状ナノ粒子による散乱は、ミー理論によって正確にモデル化され得る。そのような粒子でバルクボリュームに浸透する光線は、バルク材料に分散されたそのような顔料の量から生じる平均自由行程によって記述される特定の距離の後に特定の粒子と相互作用する。前記特定の粒子と相互作用すると、光線(またはその一部)は、前記粒子の角度散乱分布に従って、統計的に新しい角度方向に散乱される。光線の別の部分は、方向を変えずに吸収または透過され得る。バルク内の粒子は、均一なサイズであるか、またはある程度のサイズ分布を有し得る。モデルは、バルクに均一に分散した顔料を想定している。フレーク型の顔料は、特定の層に浸された表面法線に対してさまざまな形状と方向と有する単一の表面によってモデル化される。ここで、限定的ではないが、双方向反射率分布関数(bi-directional reflectance distribution functions:BRDF)、薄膜コーティング、フレネル相互作用、完全な鏡、完全な吸収体、または完全な透過率などの界面特性は、表面に起因し得る。例えば、金属酸化物でコーティングされたマイカフレークとの光線の相互作用は薄膜干渉によってモデル化されるが、アルミニウムフレークとの相互作用は鏡面反射または鏡面反射率の円錐をもつBRDFによって近似され得る。
【0018】
さらに、モデル化する工程は、特定の横方向/縦方向、整列、厚さ、および/または光学特性分布にさらに設定されるフレーク型の顔料を含む。
【0019】
したがって、モデル化する工程には、2つの異なる型の顔料、すなわち、1)カラーまたは黒/白の顔料、および、2)フレーク型の顔料、のモデル化が含まれ得る。カラー/黒/白の顔料は、ミー散乱または、例えば、以前の波動光学シミュレーションから取得可能なその他のユーザ定義の散乱特性に従う体積散乱粒子によって説明され得る。アルミニウム、雲母などのフレーク型の顔料は、特定の層に浸されたさまざまな形状の幾何学的成分によってモデル化され得る。その後、これらの浸漬された幾何学的成分の界面特性は、例えば、薄膜干渉、異なる滑らかさの鏡、特定の双方向散乱分布などのフレーク型の顔料の所望のスペクトル光学特性に設定される。各顔料型の光学特性、濃度、およびサイズをモデル化することができるが、フレーク型の顔料は、特定の横方向および/または縦方向の位置合わせ、厚さ、および光学特性分布(例えば、さまざまなフィルム厚さ分布)に追加で設定できる。
【0020】
光線を追跡する工程では、光線は1つまたは複数の仮想光源からコーティング表面内/上に規定された照準領域に向かって追跡される。光線は、事前に与えられたスペクトル分布、角度分布、および/または空間分布に従うものとしてモデル化され得る。したがって、少なくとも1つの光源は、例えば、D65スペクトル分布を有する直接または拡散光源であり得る。D65は、国際照明委員会によって定義された一般的に使用される標準光源を指定する。光源はスペクトル分布を定義する。
【0021】
第3の工程では、コーティングと相互作用した光線が1つまたは複数のレシーバによって収集される。これらのレシーバは、コーティングから再放射された(または反射された)光線の角度的強度分布、スペクトル的強度分布、および/または空間的強度分布を測定/判定し得る。
【0022】
提案された方法の一実施形態によれば、質感分析のための工程e)において、光線の強度の角度的および/または空間的分布が評価され、少なくとも1つのグレースケール画像が取得される。
【0023】
別の用途では、この情報は、スペクトル分解された方法でも受け取ることができる(例えば、カラー画像を取得するため、またはより一般的には、コーティングの空間反射率に関するスペクトル情報を取得するため)。これは、質感分析の工程e)で、光線のスペクトル的強度分布が判定され、少なくとも1つのカラー画像が取得されることを意味する。
【0024】
マイクロメートルスケールの解像度、すなわちμmスケールの解像度を得るために、少なくとも1つの画像の仮想ピクセルサイズを選択することが有利である。これにより、フレーク型の顔料と(より暗い)背景によって引き起こされる明るいスポットを明確に区別することができる。
【0025】
さらなる一態様によれば、提案された方法は、質感特徴を推定するための既知の後処理方法によって少なくとも1つの画像を後処理する工程をさらに含む。実際のサンプルの測定画像と同様に、仮想コーティングからのこれらのシミュレートされた画像は、質感特徴を推定するために、当技術分野で知られているさまざまな方法によって後処理され得る。例えば、グレースケール画像の質感は、質感要素の幾何学的特性から質感(特徴)を抽出する幾何学的方法、または他の方法によって、最近傍のグレートーン空間依存行列(Haralick et al.,IEEE Transactions on Systems,Man,and Cybernetics 3(6),1973)、または自己相関法(例:Kaizer et al.,Boston University Research Laboratories,Boston University,Boston,MA,Tech.Note 121,1955)、によって統計的に記述され得る。さまざまな質感分析アプローチのレビューは、例えば、パターン認識とコンピュータビジョンのハンドブック(Chapter 2.1,Texture Analysis,written by Mihran Tuceryan and Anil K.Jain)に記載されている。
【0026】
本開示は、さらに、n層対象コーティングの質感特徴をシミュレートするためのシステムであって、n層対象コーティングの各層は既知の実際の幾何学的特性を有し、既知の実際の材料特性を有する既知の個々の成分で構成されており、システムは、
A)少なくとも1つのコンピュータデバイスと、
B)コンピュータプログラム製品であって、コンピュータプログラム製品は、少なくとも1つのコンピュータデバイスに機能的に結合されたコンピュータ可読記憶媒体に格納されたコンピュータ実行可能コードであって、動作中に少なくとも1つのコンピュータデバイスにコンピュータ方法を実行させる、コンピュータ実行可能コードを含み、コンピュータ方法は、
B1)少なくとも1つの通信インターフェースを介して、既知の実際の幾何学的特性および既知の実際の材料特性を備えた既知の個々の成分を受信する工程と、
B2)仮想環境におけるn層対象コーティングをモデル化する工程であって、n層対象コーティングの各層が、その実際の幾何学的特性および材料特性に従って作成される、工程と、
B3)1つまたは複数の仮想光源からの入射光線とn層対象コーティングとの相互作用をシミュレートするために、1つまたは複数の仮想光源から、n層対象コーティングの表面上に規定された照準領域に向かう光線を仮想的に追跡する工程と、
B4)n層対象コーティングと相互作用した光線を仮想的に収集する工程と、
B5)n層対象コーティングから再放射または反射された光線の角度的強度分布、スペクトル的強度分布、および空間的強度分布のうちの少なくとも1つを仮想的に判定する(測定する)工程と、
B6)判定された強度分布を評価し、評価に基づいて、出力デバイスを介して少なくとも1つの画像を出力する工程と、を含む、
コンピュータプログラム製品と、
を備える、システム、に関する。
【0027】
提案されたシステムの1つの可能な実施形態によれば、システムは、
C)コーティング組成物および相互に関連する比色データのためのそれらの材料特性および配合物を有する個々の成分を含むカラーデータベースをさらに備え、
コンピュータデバイスは、カラーデータベースに機能的に結合されている。
【0028】
既知の個々の成分の既知の実際の材料特性は、カラーデータベースから受け取ることができる。
【0029】
コンピュータデバイスは、入力デバイスおよび出力デバイスをさらに含み得る。コンピュータデバイスは、適切な通信接続を介して、入力デバイスおよび出力デバイスに少なくとも機能的に結合されている。
【0030】
コンピュータデバイスは、タッチスクリーン、オーディオ入力、動作入力、マウス、キーパッド入力などの1つまたは複数の入力ユニットを含み得るか、またはそれらと通信し得る。さらに、コンピュータデバイスは、オーディオ出力、ビデオ出力、スクリーン/ディスプレイ出力などのような1つまたは複数の出力デバイスを含み得るか、またはそれらと通信し得る。
【0031】
本発明の実施形態は、スタンドアロンユニットであり得るか、またはインターネットやイントラネットなどのネットワークを介して、クラウドなどに配置された中央コンピュータと通信している1つまたは複数の遠隔端末またはデバイスを含み得るコンピュータシステムと共に使用されるか、またはコンピュータシステムに組み込まれ得る。したがって、本明細書で説明されるコンピュータデバイスおよび関連する構成要素は、ローカルコンピュータシステムまたはリモートコンピュータまたはオンラインシステムまたはそれらの組み合わせの一部であり得る。本明細書に記載のデータベースおよびソフトウェアは、コンピュータの内部メモリまたは非一時的なコンピュータ可読媒体に格納され得る。
【0032】
提案されたシステムのすべての構成要素は、相互に通信接続されている、つまり、相互にネットワーク化されている。このような通信接続は、直接接続または間接接続であり得る。各通信接続は、有線接続または無線接続であり得る。それぞれの適切な通信技術が使用され得る。コンピュータデバイスおよびデータベースなどのシステムの異なる構成要素は、それぞれ、互いに通信するための1つまたは複数の通信インターフェースを含み得る。このような通信は、ファイバ分散データインターフェイス(fiber distributed data interface:FDDI)、デジタル加入者線(digital subscriber line:DSL)、イーサネット、非同期転送モード(asynchronous transfer mode:ATM)、またはその他の有線伝送プロトコルなどの有線データ伝送プロトコルを使用して実行され得る。あるいは、通信は、汎用パケット無線サービス(General Packet Radio Service:GPRS)、万国移動通信システム(Universal Mobile Telecommunications System:UMTS)、符号分割多元接続(Code Division Multiple Access:CDMA)、ロングタームエボリューション(Long Term Evolution:LTE)、ワイヤレス・ユニバーサル・シリアル・バス(Universal Serial Bus:USB)、および/またはその他のワイヤレスプロトコルなどのようなさまざまなプロトコルのいずれかを使用する無線通信ネットワークを介して無線で行われ得る。それぞれの通信は、無線通信と有線通信の組み合わせであり得る。
【0033】
本開示は、さらに、n層対象コーティングの質感特徴をシミュレートするためのコンピュータプログラム製品であって、n層対象コーティングの各層が、既知の実際の幾何学的特性を有し、既知の実際の材料特性を有する既知の個々の成分から構成されており、コンピュータプログラム製品は、少なくとも1つのコンピュータデバイスに機能的に結合されたコンピュータ可読記憶媒体に格納されたコンピュータ実行可能コードであって、動作中に少なくとも1つのコンピュータデバイスにコンピュータ方法を実行させる、コンピュータ実行可能コードを含み、コンピュータ方法は、
1)少なくとも1つの通信インターフェースを介して、既知の実際の幾何学的特性および既知の実際の材料特性を有する既知の個々の成分を受信する工程と、
2)仮想環境におけるn層対象コーティングをモデル化する工程であって、n層対象コーティングの各層が、実際の幾何学的特性および材料特性に従って作成される、工程と、
3)1つまたは複数の仮想光源からの入射光線とn層対象コーティングからの入射光線との相互作用をシミュレートするために、1つまたは複数の仮想光源から、n層対象コーティングの表面上に規定された照準領域に向かう光線を仮想的に追跡する工程と、
4)n層対象コーティングと相互作用した光線を仮想的に収集する工程と、
5)n層対象コーティングから再放射または反射された光線の角度的強度分布、スペクトル的強度分布、および空間的強度分布のうちの少なくとも1つを仮想的に判定する(測定する)工程と、
6)判定された強度分布を評価し、評価に基づいて、出力デバイスを介して少なくとも1つの画像を出力する工程と、
を含む、コンピュータプログラム製品に関する。
【0034】
さらに、n層対象コーティングの質感特徴をシミュレートするための非一時的なコンピュータ可読媒体が提供され、n層対象コーティングの各層が、既知の実際の幾何学的特性を有し、既知の実際の材料特性を有する既知の個々の成分で構成されており、コンピュータ可読媒体は、1つまたは複数のプロセッサによって実行されると、マシンに、
1)少なくとも1つの通信インターフェースを介して、既知の実際の幾何学的特性および既知の実際の材料特性を有する既知の個々の成分を受信する工程と、
2)仮想環境におけるn層対象コーティングをモデル化する工程であって、n層対象コーティングの各層が、実際の幾何学的および材料特性に従って作成される、工程と、
3)1つまたは複数の仮想光源からの入射光線とn層対象コーティングからの入射光線との相互作用をシミュレートするために、1つまたは複数の仮想光源から、n層対象コーティングの表面上に規定された照準領域に向かう光線を仮想的に追跡する工程と、
4)n層対象コーティングと相互作用した光線を仮想的に収集する工程と、
5)n層対象コーティングから再放射または反射された光線の角度的強度分布、スペクトル的強度分布、および空間的強度分布のうちの少なくとも1つを仮想的に判定する(測定する)工程と、
6)判定された強度分布を評価し、評価に基づいて、出力デバイスを介して少なくとも1つの画像を出力する工程と、
を引き起こす命令を格納している。
【0035】
本発明のさらなる態様は、添付の特許請求の範囲に特に示されている要素および組み合わせによって実現および達成されるであろう。前述の一般的な説明および以下の詳細な説明の両方は、例示的かつ説明的なものにすぎず、説明されているように本発明を限定するものではないことを理解されたい。
【図面の簡単な説明】
【0036】
図1】提案された方法の一実施形態に従って仮想的に作成されたコーティングでの概略断面図を示す図である。
図2】提案された方法のさらなる実施形態による、拡散光源によって仮想的に照明された、概略的に図示されたさらに仮想的に作成されたコーティングにおける上からの角度のある図を示す。
図3a】測定された光学値に基づくコーティングの画像の例を示す図である。
図3b】提案された方法の別の実施形態によって得られた、仮想的に作成され、照射されたコーティングの画像の例を示す図である。
図4】提案されたシステムの実施形態を概略的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
図1は、n層対象コーティング100の例、すなわち、提案された方法の実施形態に従って作成された層スタックの断面を示している。ここに示されるn層対象コーティング100は、3層コーティングであり、すなわち、3層、すなわち、3つのコートが基板110の上に提供される。各層には既知の実際の幾何学的特性があり、既知の実際の材料特性を有する既知の個々の成分で構成されている。3層対象コーティングは、仮想環境において、少なくとも1つのプロセッサによってモデル化され、3層対象コーティングの各層は、その実際の幾何学的および材料特性に従って作成される。モデル化する工程では、幾何学的特性に関して、横方向の3層対象コーティングのモデル化は、後続の光線追跡工程で入射光線と相互作用する領域に制限され得る。
【0038】
3層対象コーティングは、基板110上に提供される。基板110の真上には、フレーク型の顔料を含まないが、カラーおよび/または白/黒の顔料を含む第1のコート(第1の層)111がある。第1のコート111の上に、さまざまなサイズ、位置、および配向のフレーク型の顔料114が浸漬された第2のコート(第2の層)112が提供される。第2のコート112の上に、第3のコート(第3の層)113としてのクリアコートが提供される。クリアコート113は、フレーク型の顔料を含まない。隣接する層の間の界面116および117、ならびに基板110と第1の層111との間の界面105は、より暗い重なり合う領域によって強調されている。界面は、シミュレーションで隣接する層が光学的に接触していることを保証する、つまり、隣接する層間に空隙がないことを保証する。
【0039】
モデル化する工程では、幾何学的特性に関して、縦方向の寸法(厚さ)での3層対象コーティングのモデル化は、既知の実際の幾何学的特性によって与えられる正確な値でモデル化され得る。
【0040】
材料特性に関しては、層の成分はそれぞれの複素屈折率で表される。これらの材料特性は、カラーデータベースから提供または取得され得る。
【0041】
モデル化する工程では、コーティングの各層111、112、113が、その幾何学的特性と材料特性に従って作成される。幾何学的特性に関しては、横方向の寸法(対象コーティング100が提供されるサンプルの幅および長さ)でのモデル化を、後続の光線追跡ステップで入射光線と相互作用する領域に制限するだけで十分であり得る。対照的に、層111、112、113の厚さは光線と物質の相互作用に大きく影響するため、縦方向の寸法(コーティング100の厚さ)は正確な値でモデル化する必要がある。層の材料は、それぞれそれらの複素屈折率であると説明されている。さらに、層-層境界の界面116および117での光線と物質の相互作用は、特定の光学特性に、例えば、吸収、ランバート散乱、フレネル反射、任意散乱分布関数または透明度に従った散乱のような特定の光学特性に設定され得るが、これらに限定されない。
【0042】
モデル化する工程には、2つの異なる型の顔料、すなわち、1)カラーまたは白黒の顔料、および、2)フレーク型の顔料のモデル化が含まれ得る。
【0043】
第1の層111のカラー/黒/白の顔料は、体積散乱粒子によって記述される。第1の層111の色/黒/白の顔料は、ミー散乱または、例えば、以前の波動光学シミュレーションから得られる他のユーザ定義の散乱特性に従う体積散乱粒子によって説明され得る。アルミニウム、マイカなどの第2の層112のフレーク型顔料114は、ベースコートに浸漬されたさまざまな形状の幾何学的表面によってモデル化され、両方が一緒になって第2の層112を形成する。これらの浸漬表面の界面特性は、例えば、薄膜干渉、異なる滑らかさの鏡、特定の双方向散乱分布などのフレーク型の顔料の望ましいスペクトル光学特性に設定される。さらに、第2の層112のフレーク型の顔料は、特定の横方向/縦方向の整列、厚さ、および/または光学特性の分布、例えば、さまざまなフィルムの厚さの分布にさらに設定される。第2の層112の浸漬されたフレーク型の顔料は、暗い影114として示され、ここでは、第2の層112の上部領域に浮かんでいる。
【0044】
図2は、提案された方法のさらなる実施形態による、拡散光源220によって仮想的に照明される仮想的に作成された対象コーティング200の例における上からの角度のある図を示す。拡散光源220が示されている、すなわち、半透明の半球としてモデル化されている。コーティング200は、基板210の上部に塗布され、光源220から発生する光線が透過する。コーティング200の表面のすぐ上に仮想的に配置されたレシーバ230は、光線がコーティング200と相互作用した後に光線を収集する。レシーバ230は、コーティング200によって再放射または反射される光線の強度の角度分布、スペクトル分布、および空間分布のうちの少なくとも1つを判定する。質感分析では、光線の強度の角度および空間分布が評価され、グレースケール画像が取得される。1つの例示的な画像を図3bに示す。あるいは、質感分析のための情報は、例えば、カラー画像を取得するために、またはより一般的には、コーティング200の空間反射率に関するスペクトル情報を取得するために、スペクトル分解された方法で受信され得る。
【0045】
互いに垂直な矢印201および202は、矢印201がコーティング200の表面に平行に配向され、矢印202がコーティング200の表面に垂直に配向される、すなわちコーティング200の深さにおいて配向される座標系を示す。
【0046】
マイクロメートル(μm)スケールの解像度を得るために、画像の仮想ピクセルサイズを選択することが有利である。これにより、個々のフレーク型の顔料を識別し、背景と対比することができることが確実にされる。はるかに大きなピクセルの場合、フレークと背景からの寛解の影響が平均化され、質感を検出できない。ピクセルがはるかに小さいと、許容できる低ノイズレベルの画像を取得するために、計算の労力と必要な追跡光線の数が増加する。
【0047】
このような高解像度により、フレーク状の顔料によって引き起こされる明るいスポットと暗い背景を明確に区別することができる。
【0048】
図3bに示されるようなシミュレートされた画像は、実際のコーティングの測定された画像と同様に、質感特徴を低減するために当技術分野で知られている異なる方法によって後処理され得る。
【0049】
図3aは、実際のコーティングの測定画像の例を示している。図3bは、提案された方法の実施形態によって得られたシミュレートされたコーティングのシミュレートされた画像の例を示している。両方の画像を同じ方法で、つまり同じ方法で後提案して、質感特徴を推測することができる。
【0050】
図4は、提案されたシステムの実施形態を概略的に示している。システム400は、n層対象コーティングの質感特徴をシミュレートするように構成され、n層対象コーティングの各層は、既知の実際の幾何学的特性を有し、既知の実際の材料特性を有する既知の個々の成分から構成される。このようなn層対象コーティングの例を図1および図2に示す。システム400は、コンピュータデバイス410を備える。システム400は、コンピュータ可読記憶媒体に記憶されたコンピュータ実行可能コードを含むコンピュータプログラム製品をさらに含む。ここに示される例では、コンピュータ可読記憶媒体415は、コンピュータデバイス410の内部メモリにロードされる。したがって、コンピュータ可読記憶媒体415は、コンピュータデバイス410に機能的に結合されている。コンピュータ可読記憶媒体415とコンピュータデバイス410との他の任意の機能的結合が可能である。コンピュータ可読記憶媒体415は、動作中にコンピュータデバイス410にコンピュータ方法を実行させ、コンピュータ方法は、以下の工程、すなわち、
B1)少なくとも1つの通信インターフェースを介して、既知の実際の幾何学的特性および既知の実際の材料特性を備えた既知の個々の成分を受信する工程と、
B2)仮想環境でのn層対象コーティングをモデル化する工程であって、n層対象コーティングの各層は、実際の幾何学的および材料特性に従って作成される、工程と、
B3)1つまたは複数の仮想光源からの入射光線とn層対象コーティングとの相互作用をシミュレートするために、n層対象コーティングの表面上に規定された照準領域に向かって1つまたは複数の仮想光源からの光線を仮想的に追跡する工程と、
B4)n層対象コーティングと相互作用した光線を仮想的に収集する工程と、
B5)n層対象コーティングから再放射または反射された光線の角度的強度分布、スペクトル的強度分布、および空間的強度分布のうちの少なくとも1つを仮想的に判定する工程と、
B6)判定された強度分布を評価し、評価に基づいて、出力デバイス430を介して少なくとも1つの画像を出力する工程と、
を含む。
【0051】
ここに示される例では、提案されたシステム400はまた、コーティング組成物および相互に関連する比色データのためのそれらの材料特性および配合物を有する個々の成分を含むカラーデータベース420を含む。コンピュータデバイス510は、カラーデータベース420に機能的に結合されており、既知の実際の幾何学的特性および既知の実際の材料特性を有する既知の個々の成分をカラーデータベース420から検索することができる。コンピュータデバイス410は、入力デバイス435および出力デバイス430をさらに備える(または少なくとも機能的に結合される)。入力デバイス435は、タッチスクリーン、オーディオ入力、移動入力、マウス、キーパッド入力などであり得る。出力装置430は、オーディオ出力、ビデオ出力、スクリーン/ディスプレイ出力などであり得る。
【符号の説明】
【0052】
100 対象コーティング
110 基板
111 第1の層
112 第2の層
113 第3の層
114 フレーク型顔料
116 層-層インターフェース
117 層-層インターフェース
200 対象コーティング
201、202 座標系を示す矢印
210 基板
220 光源
230 レシーバ
400 システム
410 コンピュータデバイス
415 コンピュータ可読記憶媒体
420 色データベース
430 出力デバイス
435 入力デバイス
図1
図2
図3a
図3b
図4