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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-17
(45)【発行日】2023-11-28
(54)【発明の名称】無停電電源装置
(51)【国際特許分類】
   H02J 9/06 20060101AFI20231120BHJP
【FI】
H02J9/06 120
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2022554562
(86)(22)【出願日】2022-06-27
(86)【国際出願番号】 JP2022025595
【審査請求日】2022-09-09
(73)【特許権者】
【識別番号】501137636
【氏名又は名称】東芝三菱電機産業システム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】村田 涼
【審査官】佐藤 卓馬
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/180784(WO,A1)
【文献】国際公開第2021/255788(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/26430(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02J 9/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
交流電源の健全時に、前記交流電源から供給される交流電力を直流電力に変換して直流ラインに供給する第1の電力変換器と、
前記直流ラインに接続されたコンデンサと、
前記交流電源の停電時に、直流電源から供給される直流電力を前記直流ラインに供給する第2の電力変換器と、
前記直流ラインから受ける直流電力を交流電力に変換して負荷に供給する第3の電力変換器と、
前記交流電源の健全時には、前記直流ラインの直流電圧が第1の参照電圧になるように前記第1の電力変換器を制御し、前記交流電源の停電時には、前記直流ラインの直流電圧が前記第1の参照電圧よりも高い第2の参照電圧になるように前記第2の電力変換器を制御した後、前記直流ラインの直流電圧が前記第1の参照電圧になるように前記第2の電力変換器を制御する制御装置とを備える、無停電電源装置。
【請求項2】
前記制御装置は、前記交流電源の停電が発生した場合に、前記直流ラインの直流電圧が前記第2の参照電圧になるように前記第2の電力変換器を制御して、前記直流電源の出力電流を増大させることにより、前記直流電圧が下限電圧よりも低下することを防止する、請求項1に記載の無停電電源装置。
【請求項3】
前記制御装置は、前記交流電源の停電が発生したことに応じて、予め定められた時間だけ前記直流ラインの直流電圧が前記第2の参照電圧になるように前記第2の電力変換器を制御した後、前記直流ラインの直流電圧が前記第1の参照電圧になるように前記第2の電力変換器を制御する、請求項1に記載の無停電電源装置。
【請求項4】
前記予め定められた時間は、前記直流ラインの直流電圧が上限電圧を超えないように設定されている、請求項3に記載の無停電電源装置。
【請求項5】
前記制御装置は、
前記交流電源の停電が発生したことに応じて、前記予め定められた時間だけ前記第2の参照電圧を出力した後、前記第1の参照電圧を出力する参照電圧発生部と、
前記直流電源の出力電流を検出する電流検出器と、
前記参照電圧発生部の出力電圧と前記直流ラインの直流電圧との差に応じた値の電流指令値を生成する第1の制御部と、
前記電流指令値と前記直流電源の出力電流との差に応じた値の電圧指令値を生成する第2の制御部と、
前記電圧指令値に基づいて前記第2の電力変換器を制御する第3の制御部とを含む、請求項3に記載の無停電電源装置。
【請求項6】
前記直流電源は、直流電力を蓄える電力貯蔵装置であり、
前記第2の電力変換器は、前記交流電源の健全時には、前記第1の電力変換器によって生成される直流電力を前記電力貯蔵装置に蓄え、前記交流電源の停電時には、前記電力貯蔵装置の直流電力を前記直流ラインに供給し、
前記制御装置は、前記交流電源の健全時には、前記電力貯蔵装置の直流電圧が第3の参照電圧になるように前記第2の電力変換器を制御する、請求項1に記載の無停電電源装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、無停電電源装置に関し、特に、交流電源から供給される交流電力を直流電力に変換し、その直流電力を交流電力に変換して負荷に供給する無停電電源装置に関する。
【背景技術】
【0002】
たとえば国際公開2020/026430号(特許文献1)には、第1の電力変換器、コンデンサ、第2の電力変換器、第3の電力変換器、および制御装置を備えた無停電電源装置が開示されている。第1の電力変換器は、交流電源の健全時に、交流電源から供給される交流電力を直流電力に変換して直流ラインに供給する。コンデンサは、直流ラインに接続されている。第2の電力変換器は、交流電源の停電時に、直流電源から供給される直流電力を直流ラインに供給する。第3の電力変換器は、直流ラインから受ける直流電力を交流電力に変換して負荷に供給する。
【0003】
制御装置は、交流電源の健全時には、直流ラインの直流電圧が第1の参照電圧になるように第1の電力変換器を制御し、交流電源の停電時には、直流ラインの直流電圧が第1の参照電圧になるように第2の電力変換器を制御する。したがって、交流電源の停電時でも、負荷の運転を継続することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開2020/026430号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような無停電電源装置では、装置寸法の小型化を図るため、コンデンサの小型化が求められている。しかし、コンデンサを小型化してコンデンサの容量が不足すると、交流電源の停電時に、直流ラインの直流電圧が下限電圧よりも低下し、第3の電力変換器の交流出力電圧の波形が歪むという問題がある。
【0006】
それゆえに、本開示の主たる目的は、小型のコンデンサを使用した場合でも、交流電源の停電時に直流ラインの直流電圧が下限電圧よりも低下することを防止することが可能な無停電電源装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示に係る無停電電源装置は、第1の電力変換器、コンデンサ、第2の電力変換器、第3の電力変換器、および制御装置を備える。第1の電力変換器は、交流電源の健全時に、交流電源から供給される交流電力を直流電力に変換して直流ラインに供給する。コンデンサは、直流ラインに接続されている。第2の電力変換器は、交流電源の停電時に、直流電源から供給される直流電力を直流ラインに供給する。第3の電力変換器は、直流ラインから受ける直流電力を交流電力に変換して負荷に供給する。
【0008】
制御装置は、交流電源の健全時には、直流ラインの直流電圧が第1の参照電圧になるように第1の電力変換器を制御し、交流電源の停電時には、直流ラインの直流電圧が第1の参照電圧よりも高い第2の参照電圧になるように第2の電力変換器を制御した後、直流ラインの直流電圧が第1の参照電圧になるように第2の電力変換器を制御する。
【発明の効果】
【0009】
本開示に係る無停電電源装置では、交流電源の停電時には、直流ラインの直流電圧が第1の参照電圧よりも高い第2の参照電圧になるように第2の電力変換器を制御した後、直流ラインの直流電圧が第1の参照電圧になるように第2の電力変換器を制御する。したがって、交流電源の停電発生時に第2の電力変換器の直流出力電流を通常よりも増大させることができ、小型のコンデンサを使用した場合でも、直流ラインの直流電圧が下限電圧よりも低下することを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本開示の実施の形態1に従う無停電電源装置の構成を示す回路ブロック図である。
図2】従来の無停電電源装置において小型のコンデンサを使用した場合に発生する問題点を説明するためのタイムチャートである。
図3図1に示す制御装置のうちのコンバータの制御に関連する部分の構成を示すブロック図である。
図4図3に示す制御回路の構成を示すブロック図である。
図5図1に示す制御装置のうちの双方向チョッパの制御に関連する部分の構成を示すブロック図である。
図6図5に示す制御回路32の構成を示すブロック図である。
図7図6に示す制御回路の動作を示すタイムチャートである。
図8図6に示す制御回路の動作を示す他のタイムチャートである。
図9】実施の形態1の比較例となる無停電電源装置の要部を示すブロック図である。
図10図9に示す制御回路の動作を示すタイムチャートである。
図11】本開示の実施の形態2に従う無停電電源装置の構成を示す回路ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[実施の形態1]
図1は、本開示の実施の形態1に従う無停電電源装置の構成を示す回路ブロック図である。図1において、この無停電電源装置は、入力端子T1、直流端子T2、出力端子T3、コンバータ1、電流検出器CD1~CD3、直流ラインL1~L3、コンデンサC1~C4、双方向チョッパ2、インバータ3、操作部4、および制御装置5を備える。
【0012】
入力端子T1は、商用交流電源6から交流電圧VIを受ける。交流電圧VIの瞬時値は、制御装置5によって検出される。交流電圧VIの瞬時値に基づいて、停電の発生の有無などが判別される。
【0013】
直流端子T2は、バッテリ7(直流電源、電力貯蔵装置)に接続される。バッテリ7は、直流電力を蓄える。バッテリ7の代わりにコンデンサが接続されていても構わない。直流端子T2の直流電圧VB(すなわち、バッテリ7の端子間電圧VB)の瞬時値は、制御装置5によって検出される。
【0014】
出力端子T3は、負荷8に接続される。負荷8は、無停電電源装置から供給される交流電力によって駆動される。出力端子T3に現れる交流電圧VOの瞬時値は、制御装置5によって検出される。
【0015】
なお、この無停電電源装置は、商用交流電源6から三相交流電圧を受け、負荷8に三相交流電圧を供給するものであるが、図面および説明の簡単化のため、図1では一相分の回路のみが示されている。
【0016】
コンバータ1(第1の電力変換器)は、交流端子1a、正電圧端子1b、中性電圧端子1c、および負電圧端子1dを有する。双方向チョッパ2(第2の電力変換器)は、直流端子2a、正電圧端子2b、中性電圧端子2c、および負電圧端子2dを有する。インバータ3(第3の電力変換器)は、交流端子3a、正電圧端子3b、中性電圧端子3c、および負電圧端子3dを有する。
【0017】
コンバータ1の交流端子1aは、入力端子T1に接続される。電流検出器CD1は、入力端子T1と交流端子1aの間に流れる電流Iiの瞬時値を検出し、その検出値を示す信号Iifを制御装置5に与える。
【0018】
双方向チョッパ2の直流端子2aは、直流端子T2に接続される。電流検出器CD2は、直流端子T2と直流端子2aの間に流れる直流電流IBの瞬時値を検出し、その検出値を示す信号IBfを制御装置5に与える。
【0019】
インバータ3の交流端子3aは、出力端子T3に接続される。電流検出器CD3は、交流端子3aと出力端子T3の間に流れる電流Ioの瞬時値を検出し、その検出値を示す信号Iofを制御装置5に与える。
【0020】
直流ラインL1~L3の一方端子は、それぞれコンバータ1の正電圧端子1b、中性電圧端子1c、および負電圧端子1dに接続される。直流ラインL1~L3の他方端子は、それぞれインバータ3の正電圧端子3b、中性電圧端子3c、および負電圧端子3dに接続される。また、直流ラインL1,L3は、それぞれ双方向チョッパ2の正電圧端子2aおよび負電圧端子2dにそれぞれ接続される。
【0021】
コンデンサC1は、直流ラインL1,L2間に接続され、直流ラインL1,L2間の直流電圧Epを安定化および平滑化させる。コンデンサC2は、直流ラインL2,L3間に接続され、直流ラインL2,L3間の直流電圧Enを安定化および平滑化させる。コンデンサC1,C2は、直流ラインL1,L3間に直列接続され、直流ラインL1,L3間の直流電圧VD=Ep+Enを安定化および平滑化させる。直流電圧Ep,Enの各々の瞬時値は、制御装置5によって検出される。
【0022】
コンデンサC3は、双方向チョッパ2の端子2b,2c間に接続され、端子2b,2c間の直流電圧を安定化および平滑化させる。コンデンサC4は、双方向チョッパ2の端子2c,2d間に接続され、端子2c,2d間の直流電圧を安定化および平滑化させる。コンデンサC3,C4は、双方向チョッパ2の端子2b,2d間に直列接続され、端子2b,2d間の直流電圧VD=Ep+Enを安定化および平滑化させる。
【0023】
本実施の形態1では、装置寸法の小型化を図るため、従来よりも小型のコンデンサC1~C4が使用されており、コンデンサC1~C4の容量は従来よりも小さい。コンデンサC1~C4の容量が不足していると、停電発生時に直流電圧VDが下限電圧VDLよりも低下する恐れがある。本実施の形態1では、この問題の解決が図られる。
【0024】
コンバータ1は、制御装置5によって制御され、商用交流電源6から交流電圧VIが正常に供給されている場合(すなわち、商用交流電源6の健全時)には、商用交流電源6から入力端子T1を介して供給される交流電圧VIを3レベルの直流電圧V1~V3に変換して、それぞれ直流ラインL1~L3に出力する。すなわち、Ep=V1-V2、En=V2-V3である。商用交流電源6から交流電圧VIが正常に供給されていない場合(すなわち、商用交流電源6の停電時)には、コンバータ1の運転は停止される。
【0025】
制御装置5は、代表的には、所定のプログラムが予め記憶されたマイクロコンピュータによって構成することができる。例えば、制御装置5は、CPU(Central Processing Unit)と、メモリと、入出力回路とを含むように構成される。メモリの一部領域にはプログラムが予め格納されており、CPUが当該プログラムを実行することで、図3から図6に示される機能を実現することができる。
【0026】
制御装置5は、商用交流電源6の健全時には、直流ラインL1,L3間の直流電圧VD=Ep+Enが参照電圧VDR1(第1の参照電圧)になり、かつ直流電圧Ep,Enの差ΔE=Ep-Enが0になるようにコンバータ1を制御する。商用交流電源6の停電時には、制御装置5は、コンバータ1の運転を停止させる。
【0027】
双方向チョッパ2は、制御装置5によって制御される。商用交流電源6の健全時には、双方向チョッパ2は、コンバータ1から直流ラインL1,L3を介して供給される直流電力をバッテリ7に蓄える。
【0028】
商用交流電源6の停電時には、双方向チョッパ2は、バッテリ7の直流電圧VBを3レベルの直流電圧V1~V3に変換して、それぞれ正電圧端子2b、中性電圧端子2c、および負電圧端子2dに出力する。
【0029】
直流電圧V1,V3は、それぞれ直流ラインL1,L3に与えられる。直流ラインL1,L3間の直流電圧(V1-V3)がコンデンサC1,C2によって分圧され、直流ラインL2に中性電圧V2=(V1-V3)/2が発生する。直流ラインL2の直流電圧V2は、インバータ3に供給される。
【0030】
制御装置5は、商用交流電源6の健全時には、直流電圧VBが参照電圧VBR(第3の参照電圧)になるように双方向チョッパ2を制御する。商用交流電源6の停電が発生した場合には、制御装置5は、所定時間Tcだけ直流ラインL1,L3間の直流電圧VDが参照電圧VDR1よりも高い参照電圧VDR2(第2の参照電圧)になるように双方向チョッパ2を制御した後に、直流電圧VDが参照電圧VDR1になるように双方向チョッパ2を制御する。
【0031】
これにより、停電発生時に、バッテリ7から双方向チョッパ2を介して直流ラインL1~L3に流れる電流IBを一時的に増大させ、直流電圧VDが下限電圧VDLよりも低下することを防止することが可能となっている。
【0032】
インバータ3は、制御装置5によって制御される。商用交流電源6の健全時には、インバータ3は、コンバータ1から直流ラインL1~L3を介して供給される3レベルの直流電圧V1~V3を交流電圧VOに変換して負荷8に供給する。
【0033】
商用交流電源6の停電時には、インバータ3は、バッテリ7から双方向チョッパ2および直流ラインL1~L3を介して供給される3レベルの直流電圧V1~V3を交流電圧VOに変換して負荷8に供給する。インバータ3の出力電圧VOは所望の値に制御可能になっている。制御装置5は、交流出力電圧VOが正弦波状の参照電圧VORになるようにインバータ3を制御する。
【0034】
操作部4は、無停電電源装置の使用者によって操作される複数のボタン、種々の情報を表示する画像表示部などを含む。使用者が操作部4を操作することにより、無停電電源装置の電源をオンおよびオフしたり、種々の情報を設定することが可能となっている。
【0035】
無停電電源装置の使用者は、操作部4を使用して、上記参照電圧VDR1,VDR2,VBR,VORと上記所定時間Tcの各々を設定する。操作部4は、それぞれ設定された参照電圧VDR1,VDR2,VBR,VORを示す信号DB,D1,D2,DOと、設定された所定時間Tcを示す信号DTとを制御装置5に出力する。
【0036】
また、制御装置5は、交流入力電圧VI、交流入力電流Ii、直流電圧Ep,En,VB、直流電流IB、交流出力電圧VO、交流出力電流Io、操作部4からの信号DB,D1,D2,DO,DTなどに基づいて無停電電源装置全体を制御する。
【0037】
次に、この無停電電源装置の動作について説明する。商用交流電源6の健全時には、商用交流電源6から供給される交流電力がコンバータ1によって直流電力に変換される。この直流電力の一部は、直流ラインL1,L3および双方向チョッパ2を介してバッテリ7に蓄えられる。また、コンバータ1によって生成された直流電力の他の部分は、直流ラインL1~L3を介してインバータ3に供給され、交流電力に変換されて負荷8に供給される。
【0038】
商用交流電源6の停電が発生した場合には、コンバータ1の運転が停止されて商用交流電源6と直流ラインL1~L3とが電気的に切り離されるとともに、バッテリ7の直流電力が双方向チョッパ2および直流ラインL1~L3を介してインバータ3に供給され、交流電力に変換されて負荷8に供給される。したがって、商用交流電源6の停電が発生した場合でも、バッテリ7に直流電力が蓄えられている期間は負荷8の運転を継続することができる。
【0039】
また、商用交流電源6の停電が発生した場合には、所定時間Tcだけ直流ラインL1,L3間の直流電圧VDが参照電圧VDR1よりも高い参照電圧VDR2になるように双方向チョッパ2を制御した後に、直流電圧VDが参照電圧VDR1になるように双方向チョッパ2を制御する。これにより、直流電圧VDが下限値よりも低下することが防止される。
【0040】
以下、本実施の形態1について、より詳細に説明する。図2は、従来の無停電電源装置において小型のコンデンサC1~C4を使用した場合に発生する問題点を説明するためのタイムチャートである。従来の無停電電源装置では、直流電圧VDは常に参照電圧VDR1になるように、コンバータ1および双方向チョッパ2が制御される。
【0041】
図2において、(A)はインバータ3の交流出力電圧VR,VS,VTの波形を示し、(B)はコンデンサC1の端子間電圧Epの波形を示している。この無停電電源装置は、実際には商用交流電源6から三相交流電圧VU,VV,VWを受け、負荷8に三相交流電圧VR,VS,VTを供給するが、図1では、図面および説明の簡単化のため一相分の回路のみを示している。
【0042】
図1において、商用交流電源6から供給される交流電圧VIは三相交流電圧VU,VV,VWのうちのいずれか1つの交流電圧(たとえばVU)に対応し、負荷8に供給される交流電圧VOは三相交流電圧VR,VS,VTのうちのいずれか1つの交流電圧(たとえばVR)に対応している。
【0043】
商用交流電源6の健全時(時刻t0~t2)には、図2(A)に示すように、交流電圧VR,VS,VTの各々は、インバータ3によって正弦波状に生成されている。このとき、交流電圧VR,VS,VTの振幅は、直流電圧Ep,Enの各々の下限電圧VLに設定されている。交流電圧VR,VS,VTのうちの0V~VLの部分は直流電圧Epに基づいて生成され、交流電圧VR,VS,VTのうちの-VL~0Vの部分は直流電圧Enに基づいて生成される。
【0044】
また図2(B)に示すように、直流電圧Epが、参照電圧VDR1の1/2倍の参照電圧ER=VDR1/2になるようにコンバータ1が制御される。このとき、直流電圧Enが参照電圧ER=VDR1/2になるようにコンバータ1が制御される。
【0045】
時刻t2において、商用交流電源6の停電が発生すると、コンバータ1の運転が停止されるとともに、直流電圧VDが参照電圧VDR1になるように双方向チョッパ2が制御される。このとき、コンデンサC1~C4の容量が不足しているので、図2(B)に示すように、直流電圧VDすなわち直流電圧Epが下降する(時刻t2~t4)。
【0046】
直流電圧Epが下限電圧VLよりも低下すると、三相交流電圧VR,VS,VTの各々のピーク値付近の波形を正弦波状にすることができなくなり、三相交流電圧VR,VS,VTの波形が歪む。三相交流電圧VR,VS,VTの波形が歪むと、負荷8に悪影響が発生する恐れがある。
【0047】
そこで、本実施の形態1では、停電が発生してから所定時間Tcが経過するまで直流電圧VDが参照電圧VDR1よりも高い参照電圧VDR2になるように双方向チョッパ2を制御した後、直流電圧VDが参照電圧VDR1になるように双方向チョッパ2を制御する。これにより、直流電圧Ep,Enの各々が下限電圧VLよりも低下することを防止し、かつ直流電圧Ep,Enの各々が過大になることを防止することができる。
【0048】
なお、参照電圧ERと直流電圧Epの差が増大すると、双方向チョッパ2の出力電流が増大し、直流電圧Epは上昇し始める(時刻t4~t5)。
【0049】
次に、このように直流電圧VDCを制御する構成について説明する。図3は、制御装置5のうちのコンバータ1の制御に関連する部分の構成を示すブロック図である。図3において、制御装置5は、停電検出器10、加算器11、減算器12、および制御回路13を含む。
【0050】
停電検出器10は、商用交流電源6から供給される交流電圧VIに基づいて、商用交流電源6の停電が発生したか否かを検出し、検出結果を示す信号φFを出力する。商用交流電源6の健全時には、停電検出信号φFは非活性化レベルの「L」レベルにされる。商用交流電源6の停電が発生した場合には、停電検出信号φFは活性化レベルの「H」レベルにされる。たとえば、停電検出器10は、交流電圧VIが下限値よりも低下した場合に商用交流電源6の停電が発生したと判別する。
【0051】
加算器11は、直流ラインL1,L2間の直流電圧(すなわち、コンデンサC1の端子間電圧)Epと、直流ラインL2,L3間の直流電圧(すなわち、コンデンサC2の直流電圧)Enとを加算して、直流ラインL1,L3間の直流電圧VD=Ep+Enを求める。減算器12は、直流電圧Epから直流電圧Enを減算して直流電圧ΔE=Ep-Enを求める。
【0052】
制御回路13は、停電検出信号φFが「L」レベルである場合には、交流電圧VIと、交流電流Iiと、直流電圧VD,ΔEと、操作部4(図1)からの信号D1に基づき、直流電圧VDCが参照電圧VDR1となり、かつ直流電圧ΔEが0Vになるように、コンバータ1を制御する。
【0053】
停電が発生して停電検出信号φFが「H」レベルになった場合には、制御回路13は、コンバータ1の運転を停止させる。コンバータ1の運転が停止されると、コンバータ1に含まれる複数のスイッチング素子の全てがオフ状態にされ、入力端子T1と直流ラインL1~L3とが電気的に切り離される。
【0054】
図4は、制御回路13の構成を示すブロック図である。図4において、制御回路13は、参照電圧発生部20、減算器21,25、直流電圧制御部22、正弦波発生部23、乗算器24、電流制御部26、加算器27,29、バランス制御部28、およびPWM(Pulse Width Modulation)制御部30を含む。
【0055】
参照電圧発生部20は、操作部4(図1)からの信号D1によって示される参照電圧VDR1を生成する。減算器21は、参照電圧VDR1と、加算器11(図2)からの直流電圧VDとの差の電圧ΔVD1=VDR1-VDを求める。直流電圧制御部22は、電圧ΔVD1が0になるようにコンバータ1の入力側に流れる電流を制御するための電流指令値IDcを求める。直流電圧制御部22は、たとえば、ΔVD1を比例演算または比例積分演算することにより電流指令値IDcを求める。
【0056】
正弦波発生部23は、商用交流電源6から供給される交流電圧VIと同相の正弦波信号を出力する。乗算器24は、電流指令値IDcに正弦波信号を乗算して電流指令値Iicを生成する。これにより商用交流電源6から供給される交流電圧VIと同相の電流指令値Iicが生成される。減算器25は、電流指令値Iicと電流検出器CD1の出力信号Iifによって示される交流電流Iiとの差ΔIi=Iic-Iiを求める。
【0057】
電流制御部26は、ΔIiが0になるように電圧指令値VIAcを生成する。電流制御部26は、たとえばΔIiを比例制御または比例積分制御に従って増幅することにより電圧指令値VIAcを生成する。加算器27は、電圧指令値VIAcと交流電圧VIを加算して電圧指令値VI0cを生成する。
【0058】
バランス制御部28は、減算器12(図3)からの直流電圧ΔE=Ep-Enに基づいて、電圧指令値V1cを生成する。たとえばバランス制御回路28は、ΔEを比例演算または比例積分演算することにより電圧指令値V1cを生成する。ΔE=Ep-En>0である場合には、コンデンサC1の充電時間がコンデンサC2の充電時間よりも短くなるように、電圧指令値V1cが生成される。ΔE=Ep-En<0である場合には、コンデンサC1の充電時間がコンデンサC2の充電時間よりも長くなるように、電圧指令値V1cが生成される。
【0059】
加算器29は、電圧指令値VI0c,V1cを加算して電圧指令値VIcを生成する。PWM制御部30は、停電検出器10(図2)からの停電検出信号φFが非活性化レベルの「L」レベルである場合(商用交流電源6の健全時)には、正弦波状の電圧指令値VIcに基づいてコンバータ1を制御する。これにより、直流電圧VD=Ep+Enは参照電圧VDR1に維持されるとともに、直流電圧ΔEは0Vに維持される。
【0060】
また、PWM制御部30は、停電検出信号φFが活性化レベルの「H」レベルである場合(商用交流電源6の停電時)には、コンバータ1の運転を停止させる。これにより、入力端子T1と直流ラインL1~L3とが電気的に切り離される。
【0061】
図5は、制御装置5のうちの双方向チョッパ2の制御に関連する部分の構成を示すブロック図である。図5において、制御装置5は、制御回路31,32を含む。
【0062】
制御回路31は、停電検出信号φFが非活性化レベルの「L」レベルである場合に活性化され、直流電圧VD,VBと、電流検出器CD2の出力信号IBfによって示される直流電流IBと、操作部4からの信号DBとに基づき、直流電圧VBが参照電圧VBRとなるように、コンバータ1を制御する。
【0063】
制御回路32は、停電検出信号φFが活性化レベルの「H」レベルである場合に活性化され、直流電圧VD,VBと、直流電流IBと、操作部4からの信号D1,D2,DTとに基づいて双方向チョッパ2を制御する。
【0064】
すなわち、制御回路32は、停電検出信号φFが「L」レベルから「H」レベルに立ち上げられたことに応じて、信号DTによって示される所定時間Tcだけ直流電圧VDが、信号D1によって示される参照電圧VDR2になるように双方向チョッパ5を制御した後に、直流電圧VDが信号D1によって示される参照電圧VDR1になるように双方向チョッパ5を制御する。
【0065】
図6は、制御回路32の構成を示すブロック図である。図6において、制御回路32は、タイマー40、セレクタ41、参照電圧発生部42、減算器43,45、電圧制御部44、電流制御部46、PWM制御部47を含む。
【0066】
タイマー40は、停電検出信号φFと操作部4からの信号DTとに応答して、信号φ40を出力する。停電検出信号φFが非活性化レベルの「L」レベルから活性化レベルの「H」レベルに立ち上げられると、タイマー40は、信号φ40を「L」レベルから「H」レベルに立ち上げるとともに計時を開始し、信号DTによって示される時間Tcが経過するか、停電検出信号φFが「H」レベルから「L」レベルに立ち下げられると、信号φ40を「H」レベルから「L」レベルに立ち下げる。
【0067】
セレクタ41は、操作部4から信号D1,D2を受け、タイマー40の出力信号φ40が「L」レベルである場合は信号D1を出力し、タイマー40の出力信号φ40が「H」レベルである場合は信号D2を出力する。
【0068】
参照電圧発生部42は、セレクタ41から信号D1が出力されている場合には参照電圧VDR1を生成し、セレクタ41から信号D2が出力されている場合には参照電圧VDR2を生成する。
【0069】
したがって、参照電圧発生部42は、商用交流電源6の健全時には参照電圧VDR1を出力し、商用交流電源6の停電が発生した場合には、所定時間Tcだけ参照電圧VDR2を出力した後に、参照電圧VDR1を出力する。また、参照電圧発生部42は、参照電圧VDR2を出力し、所定時間Tcが経過する前であっても商用交流電源6が停電状態から健全状態に復旧した場合には、参照電圧VDR1を出力する。
【0070】
減算器43は、参照電圧発生部42の出力電圧VDRと加算器11(図2)によって求められた直流電圧VDとの差の電圧ΔVD=VDR-VDを求める。電圧制御部44(第1の制御部)は、バッテリ7の端子間電圧VBに基づいて、電圧ΔVDに応じたレベルの電流指令値IBcを求める。電圧制御部44は、たとえば、ΔVDを比例積分演算することにより電流指令値IBcを求める。
【0071】
減算器45は、電圧制御部44により生成された電流指令値IBcと電流検出器CD2(図1)の出力信号IBfによって示される直流電流IBとの偏差ΔIB=IBc-IBを求める。電流制御部46(第2の制御部)は、電流指令値IBcと直流電流IBとの偏差ΔIBに基づいて電圧指令値VDcを生成する。電流制御部46は、たとえば、ΔIBを比例積分演算することにより電圧指令値VDcを求める。
【0072】
PWM制御部47(第3の制御部)は、停電検出信号φFが活性化レベルの「H」レベルである場合(商用交流電源6の停電時)に活性化され、電圧指令値VDcに基づいて、双方向チョッパ2を制御する。双方向チョッパ2は、バッテリ7の直流電力をインバータ3に供給する。
【0073】
PWM制御部47は、停電検出信号φFが非活性化レベルの「L」レベルである場合(商用交流電源6の健全時)に非活性化され、双方向チョッパ2のPWM制御を行なわない。なお、商用交流電源6の健全時には、双方向チョッパ2は制御回路31(図5)によって制御され、バッテリ7に直流電力を蓄える。
【0074】
図7は、図6に示した制御回路32の動作を示すタイムチャートである。図7において、(A)は停電検出信号φFの波形を示し、(B)はタイマー40の出力信号φ40の波形を示し、(C)は参照電圧発生部42の出力電圧VDRの波形を示している。
【0075】
図7の時刻t0では、商用交流電源6(図1)は健全であり、停電検出信号φFは非活性化レベルの「L」レベルであるものとする。このとき、タイマー40の出力信号φ40は「L」レベルとなり、セレクタ41によって信号D1が選択され、参照電圧発生部42は参照電圧VDR1を出力する。
【0076】
時刻t1において、商用交流電源6の停電が発生すると、停電検出信号φFは非活性化レベルの「L」レベルから活性化レベルの「H」レベルに立ち上げられる。停電検出信号φFが「H」レベルに立ち上げられると、タイマー40が計時を開始するとともに、信号φ40を「L」レベルから「H」レベルに立ち上げる。信号φ40が「H」レベルにされると、セレクタ41によって信号D2が選択され、参照電圧発生部42は参照電圧VDR2を出力する。
【0077】
停電検出信号φFが「H」レベルに立ち上げられてから、信号DTによって示される所定時間Tcが経過すると、タイマー40は信号φ40を「H」レベルから「L」レベルに立ち下げる。信号φ40が「L」レベルにされると、セレクタ41によって信号D1が選択され、参照電圧発生部42は参照電圧VDR1を出力する(時刻t2)。
【0078】
時刻t3において、商用交流電源6が停電状態から健全状態に復旧されると、停電検出信号φFは活性化レベルの「H」レベルから非活性化レベルの「L」レベルに立ち下げられ、タイマー40は初期状態にリセットされる。また、セレクタ41によって信号D1が選択され続け、参照電圧発生部42は参照電圧VDR1の出力を継続する。
【0079】
図8は、図6に示した制御回路32の動作を示す他のタイムチャートである。図8において、(A)はインバータ3から出力される三相交流電圧VR,VS,VTの波形を示し、(B)は商用交流電源6から供給される三相交流電流IU,IV,IWの波形を示し、(C)はコンデンサC1の端子間電圧Epの波形を示し、(D)はバッテリ7と双方向チョッパ2との間に流れる電流IBの波形を示し、(E)は参照電圧発生部42の出力電圧VDRの波形を示している。
【0080】
商用交流電源6から供給される交流電流Ii(図1)は三相交流電流IU,IV,IWのうちのいずれか1つの交流電流(たとえばIU)に対応し、負荷8に供給される交流電圧VO(図1)は三相交流電圧VR,VS,VTのうちのいずれか1つの交流電圧(たとえばVR)に対応している。
【0081】
商用交流電源6の健全時(時刻t0~t2)には、図8(A)(B)に示すように、交流電圧VR,VS,VTの各々の波形は正弦波状にされ、交流電流IU,IV,IWの各々の波形は正弦波状にされている。三相交流電流IU,IV,IWの位相は、120度ずつずれており、商用交流電源6から供給される三相交流電圧VU,VV,VWの位相にそれぞれ一致している。三相交流電圧VR,VS,VTの位相は、それぞれ三相交流電流IU,IV,IWの位相に一致している。
【0082】
このとき、交流電圧VR,VS,VTの振幅は、図2で示したように、直流電圧Ep,Enの各々の下限電圧VLに設定されている。交流電圧VR,VS,VTのうちの0V~VLの部分は直流電圧Epに基づいて生成され、交流電圧VR,VS,VTのうちの-VL~0Vの部分は直流電圧Enに基づいて生成される。
【0083】
また図8(C)に示すように、直流電圧Epが、参照電圧VDR1の1/2倍の参照電圧ER=VDR1/2になるようにコンバータ1が制御される。このとき、直流電圧Enが参照電圧ER=VDR1/2になるようにコンバータ1が制御される。
【0084】
また図8(D)に示すように、バッテリ7が満充電状態にされており、電流IBは0Aになっている。また図8(E)に示すように、参照電圧発生部42(図6)の出力電圧VDRは参照電圧VDR1になっている。
【0085】
時刻t2において、商用交流電源6の停電が発生してコンバータ1の運転が停止されると、図8(B)に示すように、商用交流電源6からの三相交流電流IU,IV,IWの供給が停止されるとともに、制御回路32が活性化され、バッテリ7(図1)の直流電力が双方向チョッパ2および直流ラインL1~L3を介してインバータ3に供給され、交流電力に変換されて負荷8に供給される。
【0086】
また、停電が発生したことに応じて、図8(E)に示すように、参照電圧発生部42の出力電圧VDRが参照電圧VDR1から参照電圧VDR2に上昇する。これにより、減算器43によって求められる電圧ΔVDがVDR2とVDR1の差の電圧ΔVDR=VDR2-VDR1だけ上昇し、それに応じて電流指令値IBcが上昇し、図8(D)に示すように、直流電流IBが増大する。
【0087】
このとき、直流電流IBが増大するので、図8(C)に示すように、直流電圧Epの低下は小さく抑制され、下限電圧VLよりも高い値に維持される。したがって、コンデンサC1~C4の容量が小さく設定されていても、図8(A)に示すように、交流電圧VR,VS,VTの各々の波形は正弦波状に維持される。
【0088】
停電が発生してから所定時間Tcが経過すると(時刻t3)、図8(E)に示すように、参照電圧発生部42の出力電圧VDRが参照電圧VDR2から参照電圧VDR1に低下する。これにより、減算器43によって求められる電圧ΔVDがVDR2とVDR1の差の電圧ΔVDR=VDR2-VDR1だけ低下し、それに応じて電流指令値IBcが少し低下し、図8(D)に示すように、直流電流IBが少し減少する。このとき、直流電圧Ep,En,VDの低下は小さく抑制されているので、直流電流IBの変化も小さい。時刻t3以降も直流電圧Epの低下は小さく抑制され、下限電圧VLよりも高い値に維持され、交流電圧VR,VS,VTの各々の波形は正弦波状に維持される。
【0089】
なお、所定時間Tcが長すぎると、直流電圧VDが参照電圧VDR1を超えてしまう。そこで、所定時間Tcは、直流電圧VDが上限電圧VDHを超えないように実験により決定される。上限電圧VDHは、参照電圧VDR1よりも高い所定の直流電圧である。
【0090】
[比較例]
図9は、実施の形態1の比較例となる無停電電源装置の要部を示すブロック図であって、図6と対比される図である。図9を参照して、比較例が実施の形態1と異なる点は、制御回路32が制御回路50で置換されている点である。
【0091】
制御回路50が制御回路32と異なる点は、タイマー40およびセレクタ41が除去され、操作部4からの信号D1が参照電圧発生部42に直接与えられる点である。したがって、参照電圧発生部42の出力電圧VDRは、常に、信号D1によって示される参照電圧VDR1となる。
【0092】
図10は、図9に示した制御回路50の動作を示すタイムチャートであって、図8と対比される図である。図10において、(A)はインバータ3から出力される三相交流電圧VR,VS,VTの波形を示し、(B)は商用交流電源6から供給される三相交流電流IU,IV,IWの波形を示し、(C)はコンデンサC1の端子間電圧Epの波形を示し、(D)はバッテリ7と双方向チョッパ2との間に流れる電流IBの波形を示し、(E)は参照電圧発生部42の出力電圧VDRの波形を示している。
【0093】
商用交流電源6の健全時(時刻t0~t2)における制御回路50の動作は、制御回路32の動作と同じである。時刻t2において、商用交流電源6の停電が発生してコンバータ1の運転が停止されると、図8(C)に示すように、商用交流電源6からの三相交流電流IU,IV,IWの供給が停止されるとともに、制御回路50が活性化され、バッテリ7(図1)の直流電力が双方向チョッパ2および直流ラインL1~L3を介してインバータ3に供給され、交流電力に変換されて負荷8に供給される。
【0094】
このとき、コンデンサC1~C4の容量が不足しているので、コンデンサC1~C4の端子間電圧が徐々に下降し、直流電圧VDが徐々に下降する。たとえばコンデンサC1の端子間電圧Epは、図10(C)に示すように、徐々に下降する。
【0095】
このとき、参照電圧発生部42の出力電圧VDRは常に参照電圧VDR1であるので、減算器43によって求められる電圧ΔVD=VDR1-VDが徐々に増大する。電圧ΔVDが徐々に増大するに従って、図10(D)に示すように、直流電流IBが徐々に増大するが、コンデンサC1~C4の端子間電圧の下降を小さく抑制することができず、図10(C)に示すように、直流電圧Epは下限電圧VLよりも低下してしまう。このため、図10(A)に示すように、交流電圧VR,VS,VTの各々の波形を正弦波状にすることができなくなる。
【0096】
以上のように、この実施の形態1では、商用交流電源6の停電時には、所定時間Tcだけ直流ラインL1,L3間の直流電圧VDが参照電圧VDR1よりも高い参照電圧VDR2になるように双方向チョッパ2を制御した後、直流電圧VDが参照電圧VDR1になるように双方向チョッパ2を制御する。したがって、停電発生時にバッテリ電流IBを一時的に通常よりも増大させることができ、小型のコンデンサC1~C4を使用した場合でも、直流電圧VDが下限電圧VDL=2×VLよりも低下することを防止することができる。このため、直流電圧VDが下限電圧VDL=2×VLよりも低下して交流出力電圧VOの波形が歪むことを防止することができる。
【0097】
[実施の形態2]
図11は、本開示の実施の形態2に従う無停電電源装置の構成を示す回路ブロック図であって、図1と対比される図である。図11において、この無停電電源装置が図1の無停電電源装置と異なる点は、コンバータ1、双方向チョッパ2、インバータ3、コンデンサC1~C4がそれぞれコンバータ51、双方向チョッパ52、インバータ53、コンデンサC5,C6で置換され、直流ラインL2が除去されている点である。
【0098】
コンバータ51(第1の電力変換器)は、交流端子51a、正電圧端子51b、および負電圧端子51cを有する。双方向チョッパ52(第2の電力変換器)は、直流端子52a、正電圧端子52b、および負電圧端子52cを有する。インバータ53(第3の電力変換器)は、交流端子53a、正電圧端子53b、および負電圧端子53cを有する。
【0099】
コンバータ51の交流端子51aは、入力端子T1に接続される。電流検出器CD1は、入力端子T1と交流端子51aの間に流れる電流Iiの瞬時値を検出し、その検出値を示す信号Iifを制御装置54に与える。
【0100】
双方向チョッパ52の直流端子52aは、直流端子T2に接続される。電流検出器CD2は、直流端子T2と直流端子52aの間に流れる直流電流IBの瞬時値を検出し、その検出値を示す信号IBfを制御装置54に与える。
【0101】
インバータ53の交流端子53aは、出力端子T3に接続される。電流検出器CD3は、交流端子53aと出力端子T3の間に流れる電流Ioの瞬時値を検出し、その検出値を示す信号Iofを制御装置54に与える。
【0102】
直流ラインL1,L3の一方端子は、それぞれコンバータ51の正電圧端子51bおよび負電圧端子51cに接続される。直流ラインL1,L3の他方端子は、それぞれインバータ53の正電圧端子53bおよび負電圧端子53cに接続される。また、直流ラインL1,L3は、それぞれ双方向チョッパ52の正電圧端子52aおよび負電圧端子52dにそれぞれ接続される。
【0103】
コンデンサC5は、直流ラインL1,L3間に接続され、直流ラインL1,L3間の直流電圧VDを安定化および平滑化させる。直流電圧VDCの瞬時値は、制御装置5によって検出される。コンデンサC6は、双方向チョッパ52の端子52b,52c間に接続され、端子52b,52c間の直流電圧を安定化および平滑化させる。
【0104】
本実施の形態2では、装置寸法の小型化を図るため、従来よりも小型のコンデンサC5,C6が使用されており、コンデンサC5,C6の容量は従来よりも小さい。コンデンサC5,C6の容量が不足していると、停電発生時に直流電圧VDCが下限電圧VDLよりも低下する恐れがある。本実施の形態2では、この問題の解決が図られる。
【0105】
コンバータ51は、制御装置54によって制御され、商用交流電源6の健全時には、商用交流電源6から入力端子T1を介して供給される交流電圧VIを直流電圧VDに変換して、直流ラインL1,L3間に出力する。商用交流電源6の停電時には、コンバータ51の運転は停止される。
【0106】
制御装置54は、商用交流電源6の健全時には、直流ラインL1,L3間の直流電圧VDが参照電圧VDR1(第1の参照電圧)になるようにコンバータ51を制御する。商用交流電源6の停電時には、制御装置54は、コンバータ51の運転を停止させる。
【0107】
双方向チョッパ52は、制御装置54によって制御される。商用交流電源6の健全時には、双方向チョッパ52は、コンバータ51から直流ラインL1,L3を介して供給される直流電力をバッテリ7に蓄える。商用交流電源6の停電時には、双方向チョッパ52は、バッテリ7の直流電圧VBを直流電圧VDに変換して正電圧端子52bおよび負電圧端子52c間に出力する。
【0108】
制御装置54は、商用交流電源6の健全時には、直流電圧VBが参照電圧VBR(第3の参照電圧)になるように双方向チョッパ52を制御する。商用交流電源6の停電が発生した場合には、制御装置54は、所定時間Tcだけ直流ラインL1,L3間の直流電圧VDが参照電圧VDR1よりも高い参照電圧VDR2(第2の参照電圧)になるように双方向チョッパ52を制御した後に、直流電圧VDが参照電圧VDR1になるように双方向チョッパ52を制御する。これにより、コンデンサC5,C6の容量が不足しているために、直流電圧VDが下限電圧VDL=2×VLよりも低下することを防止することができる。
【0109】
インバータ53は、制御装置54によって制御される。商用交流電源6の健全時には、インバータ53は、コンバータ51から直流ラインL1,L3を介して供給される直流電圧VDを交流電圧VOに変換して負荷8に供給する。
【0110】
商用交流電源6の停電時には、インバータ53は、バッテリ7から双方向チョッパ52および直流ラインL1,L3を介して供給される直流電圧VDを交流電圧VOに変換して負荷8に供給する。インバータ53の出力電圧VOは所望の値に制御可能になっている。制御装置54は、交流出力電圧VOが正弦波状の参照電圧VORになるようにインバータ53を制御する。
【0111】
制御装置54は、交流入力電圧VI、交流入力電流Ii、直流電圧VD,VB、直流電流IB、交流出力電圧VO、交流出力電流Io、操作部4からの信号DB,D1,D2,DO,DTなどに基づいて無停電電源装置全体を制御する。
【0112】
次に、この無停電電源装置の動作について説明する。商用交流電源6の健全時には、商用交流電源6から供給される交流電力がコンバータ51によって直流電力に変換される。この直流電力の一部は、直流ラインL1,L3および双方向チョッパ52を介してバッテリ7に蓄えられる。また、コンバータ51によって生成された直流電力の他の部分は、直流ラインL1,L3を介してインバータ53に供給され、交流電力に変換されて負荷8に供給される。
【0113】
商用交流電源6の停電が発生した場合には、コンバータ51の運転が停止されて商用交流電源6と直流ラインL1,L3とが電気的に切り離されるとともに、バッテリ7の直流電力が双方向チョッパ52および直流ラインL1,L3を介してインバータ53に供給され、交流電力に変換されて負荷8に供給される。したがって、商用交流電源6の停電が発生した場合でも、バッテリ7に直流電力が蓄えられている期間は負荷8の運転を継続することができる。
【0114】
また、商用交流電源6の停電が発生した場合には、所定時間Tcだけ直流ラインL1,L3間の直流電圧VDが参照電圧VDR1よりも高い参照電圧VDR2になるように双方向チョッパ52を制御した後に、直流電圧VDが参照電圧VDR1になるように双方向チョッパ52を制御する。これにより、コンデンサC5,C6の容量が不足している場合でも、直流電圧VDが下限電圧VDLよりも低下することを防止し、交流出力電圧VOの波形が歪むことを防止することができる。
【0115】
他の構成および動作は、実施の形態1と同じであるので、その説明は繰り返さない。この実施の形態2でも、実施の形態1と同じ効果が得られる。
【0116】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明は上記した説明ではなくて請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0117】
T1 入力端子、T2 直流端子、T3 出力端子、1,51 コンバータ、CD1~CD3 電流検出器、L1~L3 直流ライン、C1~C6 コンデンサ、2,52 双方向チョッパ、3,53 インバータ、4 操作部、5,54 制御装置、6 商用交流電源、7 バッテリ、8 負荷、10 停電検出器、11,27,29 加算器、12,21,25,43,45 減算器、13,31,32,50 制御回路、20,42 参照電圧発生部、22 直流電圧制御部、23 正弦波発生部、24 乗算器、26,46 電流制御部、28 バランス制御部、30,47 PWM制御部、40 タイマー、41 セレクタ、44 電圧制御部。
【要約】
この無停電電源装置では、商用交流電源(6)の停電時には、所定時間(Tc)だけ直流ライン(L1,L3)間の直流電圧(VD)が第1の参照電圧(VDR1)よりも高い第2の参照電圧(VDR2)になるように双方向チョッパ(2)を制御した後、直流電圧が第1の参照電圧になるように双方向チョッパ(2)を制御する。したがって、停電発生時にバッテリ電流(IB)を一時的に通常よりも増大させることができ、小型のコンデンサ(C1~C4)を使用した場合でも、直流電圧が下限電圧(VDL)よりも低下することを防止できる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11