(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-17
(45)【発行日】2023-11-28
(54)【発明の名称】顔料及びそれを用いたインク組成物または塗料組成物
(51)【国際特許分類】
C09C 3/04 20060101AFI20231120BHJP
C09C 1/62 20060101ALI20231120BHJP
C09D 11/322 20140101ALI20231120BHJP
C09D 201/00 20060101ALI20231120BHJP
【FI】
C09C3/04
C09C1/62
C09D11/322
C09D201/00
(21)【出願番号】P 2023123405
(22)【出願日】2023-07-28
(62)【分割の表示】P 2022110290の分割
【原出願日】2022-07-08
【審査請求日】2023-07-28
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000183923
【氏名又は名称】株式会社DNPファインケミカル
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】前川 喜哉
(72)【発明者】
【氏名】小谷 亮介
(72)【発明者】
【氏名】山崎 史絵
【審査官】桜田 政美
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2008/0107856(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2012/0107738(US,A1)
【文献】特表2006-507381(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09C 3/04
C09C 1/62
C09D 11/322
C09D 201/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
顔料の投影面積が最大となる方向から観察した際の、投影面における最大長さLmaxの変動係数が10%以下であ
り、
体積基準累積50%粒子径(D50)が、0.1μm以上10μm以下であって、
体積基準累積10%粒子径(D10)(μm)と、前記体積基準累積50%粒子径(D50)(μm)と、体積基準累積90%粒子径(D90)(μm)との関係が以下の式(I)の関係を満たす、2回以上の回転対称性を有する顔料
(前記顔料の周縁に、ふくれ様の隆起に起因する、くぼみが形成されているものを除く)。
(D90-D10)/D50≦1.0 ・・・(I)
【請求項2】
前記顔料が光輝性顔料である、請求項
1に記載の顔料。
【請求項3】
インクジェット法によって吐出されるインク組成物に用いられる、請求項1又は2に記載の顔料。
【請求項4】
前記顔料が、互いに平行な第1面及び第2面を有し、前記第1面側及び第2面側からの平面視が、角部を有する多角形状である、請求項1又は2に記載の顔料。
【請求項5】
前記最大長さLmaxが、0.5μm以上10μm以下である、請求項1又は2に記載の顔料。
【請求項6】
前記顔料が板状であって、前記第1面と前記第2面との距離である厚さが、10nm以上250nm以下である、請求項5に記載の顔料。
【請求項7】
前記顔料形状に対応する凹凸形状が複数形成されている型上に、前記顔料を構成する物質を蒸着して蒸着膜を形成後、前記型から前記蒸着膜を剥離する、請求項1又は2に記載の顔料の製造方法。
【請求項8】
前記顔料形状に対応する凹凸形状が複数形成されている型上に、前記顔料を構成する物質をメッキ被膜後、前記型からメッキ被膜を剥離する、請求項1又は2に記載の顔料の製造方法。
【請求項9】
請求項1又は2に記載の顔料を含むインク組成物または塗料組成物。
【請求項10】
基材の表面に、請求項1又は2に記載の顔料を含むインク組成物または塗料組成物が塗布された塗布物。
【請求項11】
基材の表面に、請求項1又は2に記載の顔料を含むインク組成物をインクジェット法により塗布する印刷物の製造方法。
【請求項12】
基材の表面に、請求項1又は2に記載の顔料を含むインク組成物をインクジェット法により塗布する記録方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、たとえば、インクや塗料に用いられる顔料、及びそれを用いたインク組成物または塗料組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、印刷物の小ロット多品種化が進んでおり、従来のオフセット方式やグラビア方式の印刷方法の代替として、オンデマンドプリントであるインクジェット方式の印刷方法が注目されている。インクジェット方式の印刷方法は、従来の印刷方法と比較して、簡便であり、経済性や省エネルギー性等のメリットを有する。インクジェット方式は、インクジェットヘッドから吐出したインクの微小液滴が記録媒体に着弾した後、乾燥、硬化、浸透等により定着してドットを形成し、このドットが多数集まることによって画像が形成される印刷方法である。
【0003】
また、基材(記録媒体)やその表面の一部又は全面に着色インク組成物が塗布された印刷物等の被体に金属調光沢等の光輝性を有する画像を表現することが行われることがある。このような光輝性を付与する手法として、真鍮、アルミニウム微粒子等から作製された金属粉を用いたインキをシルクスクリーン印刷や、グラビア印刷によって塗布する方式や、金属箔を用いた箔押し印刷、金属箔を用いた熱転写方式等が用いられてきた。
【0004】
そして、近年、光輝性を有する塗膜を形成する上記の方法の他に、インクジェット方式の印刷方法への応用例が数多く見受けられるようになってきており、インクジェット方式を用いた光輝性加飾印刷は、主としてインクジェットプリンター等を用いて行われる。
【0005】
例えば、特許文献1には、インクジェット法によって吐出されるインク組成物に用いられる光輝性顔料であって、蒸着やスパッタリングで形成された薄膜を粉砕して得られる光輝性顔料及びそれを用いたインク組成物が開示されている。
【0006】
また、特許文献2には、インクジェット法によって吐出されるインク組成物に用いられる光輝性顔料であって、アトマイズ法で形成された粒子を粉砕して得られる光輝性顔料及びそれを用いたインク組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2011-052041号公報
【文献】特表2011-508030号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1、2の顔料は、その製造方法から明らかなように、いずれも粉砕工程を必要とする。粉砕工程は物理的な衝撃によるものであるが故に、必然的に非常に広い粒度分布を有する。粒度分布の幅は、たとえば、D10、D50、D90などの体積基準累積粒子径として測定される。
【0009】
インクや塗料などの組成物中に、光輝性顔料などの顔料を用いる場合、粉砕工程に由来する、不定形で歪な形状や非常に広い粒度分布で大きさのバラツキが存在するということによって、たとえば、顔料の分散性や沈降性などの安定性が不十分という問題が存在する。しかしながら、上記のように、従来の光輝性顔料は非常に広い粒度分布を有することが従来一般的であるために、この課題の回避は不可避と考えられていた。フィルタリングなどで粒度分布を狭める試みも行われているが、そもそも粉砕工程を経ているために限界があり、未だ十分ではない。また、そのため、必要とされる光輝性や機能等に寄与しない、または光輝性や機能性を阻害する、目的としない大きさや形状の粒子が多く含有されることになったり、印刷適正が劣るインクおよび塗料組成物となったりすることにより、印刷物や塗布物において、光輝性や機能の発現が不十分なものとなる場合があった。
【0010】
上述の顔料をインクジェット法におけるインク組成物に適用した場合、形状や大きさのバラツキは、吐出性等のインクジェットインクとしての性能にも影響を及ぼす。
【0011】
本発明は、形状や大きさのバラツキが少ない均一な形状の顔料、及び、それを用いたインク組成物や塗料組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討をした結果、粉砕工程を用いない製造方法によって、均一形状、均一サイズの顔料を得ることができ、それにより上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的には、本発明は、以下のものを提供する。
【0013】
(1)顔料の投影面積が最大となる方向から観察した際の、投影面における最大長さLmaxの変動係数が10%以下である、2回以上の回転対称性を有する顔料。
【0014】
(2)体積基準累積50%粒子径(D50)が、0.1μm以上10μm以下であって、
体積基準累積10%粒子径(D10)(μm)と、前記体積基準累積50%粒子径(D50)(μm)と、体積基準累積90%粒子径(D90)(μm)との関係が以下の式(I)の関係を満たす、(1)に記載の顔料。
(D90-D10)/D50≦1.0 ・・・(I)
【0015】
(3)前記顔料が光輝性顔料である、(1)又は(2)に記載の顔料。
【0016】
(4)インクジェット法によって吐出されるインク組成物に用いられる、(1)から(3)のいずれかに記載の顔料。
【0017】
(5)前記顔料が、互いに平行な第1面及び第2面を有し、前記第1面側及び第2面側からの平面視が、角部を有する多角形状である、(1)から(4)のいずれかに記載の顔料。
【0018】
(6)前記最大長さLmaxが、0.5μm以上10μm以下である、(1)から(5)のいずれかに記載の顔料。
【0019】
(7)前記顔料が板状の場合、前記第1面と前記第2面との距離である厚さが、10nm以上250nm以下である、(1)から(6)のいずれかに記載の顔料。
【0020】
(8)前記顔料形状に対応する凹凸形状が複数形成されている型上に、前記顔料を構成する物質を蒸着して蒸着膜を形成後、前記型から前記蒸着膜を剥離する、(1)から(7)のいずれかに記載の顔料の製造方法。
【0021】
(9)前記顔料形状に対応する凹凸形状が複数形成されている型上に、前記顔料を構成する物質をメッキ被膜後、前記型からメッキ被膜を剥離する、(1)から(7)のいずれかに記載の顔料の製造方法。
【0022】
(10)(1)から(7)のいずれかに記載の顔料を含むインク組成物または塗料組成物。
【0023】
(11)基材の表面に、(1)から(7)のいずれかに記載の顔料を含むインク組成物または塗料組成物が塗布された塗布物。
【0024】
(12)基材の表面に、(1)から(7)のいずれかに顔料を含むインク組成物をインクジェット法により塗布する印刷物の製造方法。
【0025】
(13)基材の表面に、(1)から(7)のいずれかに記載の顔料を含むインク組成物をインクジェット法により塗布する記録方法。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、分散性や沈降性などの安定性が低下することを抑制できる顔料、及び、それを用いたインク組成物や塗料組成物を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の具体的な実施形態について詳細に説明するが、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。
【0029】
<1.顔料>
[顔料の種類]
顔料としては、着色顔料(色材)以外に、金属および金属酸化物を含有する顔料、光輝性顔料、導電性顔料、絶縁性顔料、特定波長を吸収する顔料、特定波長を反射する顔料などの加飾目的以外の光学特性や機能性を持つ材料等が挙げられるが、特に限定されない。光輝性顔料としては、たとえばパール顔料や金属含有光輝性顔料を含むものが挙げられる。
【0030】
パール顔料としては、雲母、魚鱗箔、酸塩化ビスマス、二酸化ケイ素、酸化チタンなどの金属酸化物、金属化合物、および、酸化チタン/二酸化ケイ素/酸化チタンなどの、金属酸化物の積層体等の、真珠光沢や干渉光沢を有する顔料が挙げられる。
【0031】
金属含有顔料に含有される金属としては、アルミニウム、銀、金、ニッケル、クロム、錫、亜鉛、インジウム、チタン、銅等の単体金属;金属化合物;合金およびそれら混合物の少なくとも1種、およびそれらの金属の酸化物、および無機酸化物に金属をドープしたもの、等を挙げることができる。金属含有顔料としてはアルミニウム、ニッケル、インジウム、銀、銅、クロムのいずれかを含むものを使用することが好ましい。金属含有光輝性顔料としては、アルミニウム、ニッケル、インジウム、銀のいずれかを含むものを用いることで、被体により好適な金属調の光沢性を付与することができる。特に、アルミニウムは、他の金属と比べて安価で加工が容易であり、好ましい。本実施の形態に係るインク組成物は、被体により好適な金属調の光沢性を付与するという効果を享受しつつ、インク組成物の吐出性に優れたものとすることが可能となる。
【0032】
[顔料の最大長さ]
本発明においては、顔料の投影面積が最大となる方向から観察した際の、投影面における最大長さLmaxの変動係数が10%以下である。
【0033】
最大長さLmaxの変動係数が10%以下であることにより、均一形状、均一サイズであり、極めて粒径分布が狭く、これにより、インク組成物や塗料組成物として用いた場合、分散性や沈降性などの安定性や保存性が低下することを抑制できることが本発明者らによって判明した。また、インクジェット用のインク組成物として用いた場合には、インクジェット吐出安定性や印字ムラが格段に改善される。
【0034】
インク中に含まれる顔料が、同一形状、かつ同一サイズの顔料であることにより、ろ過性が格段に向上する。例えば、従来の板状の光輝性顔料では、平面が歪易く(平滑でなく)、不定形で、平面視の周縁は凹凸が多いため、ろ過孔の周囲に引っ掛かってしまい、また、顔料同士がろ過孔の周囲で凝集してろ過孔を塞ぐ場合があり、結果としてろ過孔を通過しない顔料が多くなる。また、不定形形状で凹凸があるため、粒子どうしが凝集しやすいため、ろ過孔を通過しない顔料が多くなる。これに対して、本発明の顔料は、均一形状、均一サイズ、均一平面であるために、ろ過性が格段に向上する。なお、このことは後述の実施例の結果によりサポートされる。
【0035】
特に、微細な構造のインクジェットヘッド内では、このような挙動が吐出性に大きく影響する。ヘッド内で大きさの異なる顔料の分布が偏ったり、インクを吐出させるための圧力の伝わり方が不均一になることによって、液滴形成が不安定になる場合がある。インクジェットヘッド内のフィルター通液性が悪くなると、不吐出や曲がりや散り等が発生して吐出性が悪くなったり、吐出されるインク滴の大きさやインク滴中の顔料濃度が偏ったり、ムラが生じたりする場合がある。
【0036】
上記のように、従来の光輝性顔料は、蒸着法やアトマイズ法で製造されるものであり、この場合、その製造方法から明らかなように、いずれも粉砕工程を介して粒径を調整する必要がある。この粉砕工程はボールミルや超音波などの物理的な衝撃によるものであるが故に、必然的に所定の粒度分布を有し、形状は不定形となる。つまり、粉砕工程を経る以上は、同一形状、かつ同一サイズということは考えられない。
【0037】
本発明は、後述するナノインプリントなどで形成された、顔料を形成するための型を用いる点が、従来の顔料と異なっている。この結果、基本的に、型に応じた同一形状、かつ同一サイズの粒子を得ることができる、という従来にはないものである。
【0038】
ここで、顔料の投影面積が最大となる方向から観察した際の、投影面における最大長さLmaxとは、例えば、板状(平板状、微細板状、鱗片状等とも表される)の場合、SEM像で測定される平面視の最大長さを意味し、平面視が四角形状であれば対角線の長さを意味する。柱状や錘状であればSEM像で観察される最大の長さを意味する。
【0039】
また、本発明における変動係数(Cv値)は、100個の顔料を測定した、最大長さLmaxの算術平均値とその標準偏差より、変動係数=標準偏差÷算術平均値として算出されるものである。変動係数は10%以下が好ましく、9%以下がより好ましく、8%以下が更に好ましい。
【0040】
[顔料の形状]
本発明においては、顔料の形状は、2回以上の回転対称性を有するものである。顔料が回転対称性を有するということは、回転軸に対して対称性を有する形状であるという意味であり、n回の回転軸(nは2以上の整数)を有する意味であり円を含む。これにより、インク組成物や塗料組成物として用いた場合、分散性や沈降性などの安定性や保存性が低下することを抑制できる。また、インクジェット用のインク組成物として用いた場合には、インクジェット吐出安定性が格段に改善される。
【0041】
例えば、板状の場合、面内垂直方向(
図8のZ方向)で重心を通る回転軸に対して、平面視(
図8のxy平面)が、楕円や長方形状であれば2回の(180度)回転対称性であるし、正三角形であれば3回の(120度)回転対称性であるし、正方形状であれば4回の(90度)回転対称性である。また、柱状の場合、重心を通り、対向する平行な第1面と第2面に垂直な回転軸に対して、長方体形状であれば2回の(180度)回転対称性であるし、正三角柱形状であれば3回の(120度)回転対称性であるし、正四角柱形状であれば4回の(90度)回転対称性である。また、錘状の場合、重心を通り、底面に垂直な回転軸に対して、正三角錐形状であれば3回の(120度)回転対称性であるし、正四角錐形状であれば4回の(90度)回転対称性である。
【0042】
上記の回転対称性を有する顔料の具体的形状としては、板状(平板状、微細板状、鱗片状等とも表される)であってもよく、柱状であってもよく、錘状であってもよい。
【0043】
板状の場合、互いに平行な第1面と第2面を有し、第1面側又は第2面側から見た平面視は、三角、四角、五角、六角、等の多角形状およびその類似形状であってもよく、円又は楕円およびその類似形状であってもよい。また、本発明の顔料が角部を有する場合、角部は厳密な角部に限定されず、曲面で構成されている隅部であってもよい。
【0044】
なお、本発明における「平行」とは、完全な平行のみならず、一定の誤差範囲内の実質的な平行、すなわち略平行も含むものである。また、「第1面側又は第2面側から見た平面視」とは、板状の顔料をSEMで観察した際の観察像を意味する。
【0045】
板状の場合の第1面及び第2面の一辺の長さは0.5μm以上10.0μm以下が好ましい。また、厚さは10nm以上250nm以下が好ましい。
【0046】
柱状の場合の第1面及び第2面の一辺の長さは0.5μm以上10.0μm以下が好ましい。また、厚さは250nm超10.0μm以下が好ましい。
【0047】
錘状の場合の一辺の長さは0.5μm以上10.0μm以下が好ましい。また、厚さ(錐高さ)は10nm以上10.0μm以下が好ましい。
【0048】
なお、板状、柱状、錘状のいずれの場合であっても、1辺の長さの最大値は、投影面の対角線が500nm以上10μm以下になるように設定されることが好ましい。
【0049】
[顔料の体積基準累積粒子径]
顔料の粒度分布の幅は、たとえば、D10、D50、D90などの体積基準累積粒子径としても測定される。
【0050】
本発明においては、好ましくは顔料の体積基準累積10%粒子径(D10)(μm)と、体積基準累積50%粒子径(D50)(μm)と、体積基準累積90%粒子径(D90)(μm)との関係が以下の式(I)の関係を満たし、体積基準累積50%粒子径(D50)が、0.5μm以上10μm以下である。
(D90-D10)/D50 ≦1.0・・・(I)
【0051】
なお、本明細書においての体積基準累積10%粒子径(D10)とは、体積基準の累積粒度分布において、小径側から計算した累積10%となる粒子径(μm)を意味し、体積基準累積50%粒子径(D50)(μm)とは、小径側から計算した累積50%となる粒子径(μm)を意味し、体積基準累積90%粒子径(D90)とは、小径側から計算した累積90%となる粒子径(μm)を意味する。また、体積基準累積50%粒子径(D50)は「体積平均粒子径」「平均粒子径」「メジアン径」とも呼ばれることがある。以下、それぞれの粒子径について単に「D10」、「D50」、「D90」と表記することがある。また、本明細書において、「A≦B」とはAがBと同等であること、又はAがBよりも小さい(BがAよりも大きい)ことを意味する。
【0052】
顔料のD10、D50、D90及び厚みは、粒度分布測定装置等を使用して測定することができる。具体的には、シスメックス(株)製の「FPIA-3000S」、(株)島津製作所製レーザー回折式粒度分布計「SALD 7500nano」等で測定できる。また、走査電子顕微鏡(SEM)等を使用して測定することもできる。具体的には、日立ハイテクノロジーズ製 S-4800や、日立ハイテクノロジーズ製す1510や、ジャスコインターナショナル製 Phenon Prox等で測定できる。
【0053】
式(I)における(D90-D10)/D50は1.0以下であり、0.9以下であることが好ましい。これにより、インク組成物や塗料組成物として用いた場合、分散性や沈降性などの安定性や保存性が低下することを抑制できる。また、インクジェット用のインク組成物として用いた場合には、インクジェット吐出安定性が格段に改善される。
【0054】
式(I)における(D90-D10)/D50はゼロ超であることが好ましく、0.1以上であることがより好ましい。
【0055】
式(I)における(D90-D10)は6.0以下であることが好ましく、5.0以下であることがより好ましい。
【0056】
式(I)における(D90-D10)は0.1以上であることが好ましく、0.2以上であることがより好ましい。
【0057】
D90は10.0μm以下であることが好ましく、9.0μm以下であることがより好ましく、8.0μm以下であることが更に好ましい。
【0058】
D90は0.5μm以上であることが好ましく、0.6μm以上であることがより好ましく、0.7μm以上であることが更に好ましい。
【0059】
D50は、10.0μm以下であるが、9.0μm以下であることが好ましく、8.0μm以下であることがより好ましく、6.0μm以下であることが更に好ましい。
【0060】
D50は、0.1μm以上であるが、0.3μm以上であることが好ましく、0.4μm以上であることがより好ましく、0.5μm以上であることが更に好ましい。
【0061】
D10は7.0μm以下であることが好ましく、6.0μm以下であることがより好ましく、5.0μm以下であることが更に好ましい。
【0062】
D10は0.1μm以上であるが、0.2μm以上であることが好ましく、0.3μm以上であることが更に好ましい。
【0063】
[顔料の製造方法]
本発明の顔料は、従来のように大面積で形成した後に粉砕工程を経るものではなく、顔料一つ一つが型を用いて形成され、その後に型から剥離することによって、均一形状、均一サイズの顔料を直接得ることができる。具体的には以下の2つの方法が例示できる。
【0064】
第1の製造方法は、顔料形状に対応する凹凸形状が複数形成されている型上に、前記顔料を構成する物質を蒸着して蒸着膜を形成後、前記型から前記蒸着膜を剥離するものである。
【0065】
具体的には、顔料形状に対応する凹凸形状が複数形成されているモールドを形成して、このモールドの凹凸形状をフィルムや樹脂を塗工したフィルムなどに賦形して賦形型を得る、いわゆるナノインプリント法により賦形型を得る工程と、この型上に、蒸着法やスパッタリング法により、所定の膜厚で凹凸形状に沿った薄膜を形成する蒸着工程と、当該薄膜を賦形型から剥離する剥離工程と、を備え、不要なサイズのものを遠心分離やろ過(フィルタリング)により除去する精製工程を必要に応じて更に備える。なお、型は賦形型に限らず、後述のフォトリソグラフィーにより形成されていてもよい。また、蒸着面を平滑にするため、必要に応じて蒸着後にドライエッチング工程を設けてもよく、蒸着とドライエッチングの工程を繰り返すことにより所望の顔料を作製してもよい。
【0066】
図8は、上記の賦形型の一例を示す概念斜視図である。この賦形型100は、賦形基材150の表面上に、平面視で正方形の凹凸が交互に千鳥形状に配置されている。それぞれの凹凸部は、第1面を構成する正方形の上部平面部110と、第2面を構成する正方形の底部平面部120と、垂直の側壁130とで構成されている。ここで、蒸着工程において、
図8のxy平面に対して、Z方向より垂直に蒸着することにより、少なくともそれぞれの凹平面、凸平面に均一な厚さの蒸着膜が形成され、その後に剥離工程を行うことにより、凹平面、凸平面に対応した正方形形状の顔料が得られる。なお、剥離工程は、物理的剥離、化学的剥離、およびそれらの組合せ等、特に限定されるものではなく、蒸着膜および顔料の性質によって適宜調整される。
【0067】
蒸着膜の均一性は、AFM(原子間力顕微鏡または走査型プローブ顕微鏡ともいう)等により厚さのバラツキを測ることで得られ、本発明によれば、n=10以上における蒸着膜厚さの標準偏差が10%以下とすることができる。厚さの標準偏差は10%以下が好ましく、5%以下がより好ましく、2%以下がより好ましい。
【0068】
なお、蒸着膜が凹凸面の側壁130にも形成される場合があるが、蒸着法の特性上、垂直方向よりも上面部および底面部に蒸着しやすいため、側壁130への蒸着量(蒸着厚さ)は、上部平面部110や底部平面部120に比較して薄くなるので、ブラッシングなどの適度なせん断力をxy平面に対して加えることで(物理的剥離)、側壁130の蒸着膜は容易に剥離して、上部平面部110や底部平面部120上の蒸着膜(顔料)から分離し、顔料同士がつながることを防止できる。また、粘着フィルムの粘着面に蒸着膜のみを転写することで、その衝撃によって側壁130、上部平面部110、底部平面部120のつながりを断つこともできる。その後、粘着層を溶解する等によって粘着層を除去することにより、平板状顔料を得ることができる。なお、側壁130の蒸着膜は、これを除去するために、好ましくは側壁由来のアンダーサイズの粒子を除去する遠心分離や分級などの精製工程を行ってもよい。また、更に別途、非賦形部分やアッパーサイズの破片を除去するろ過工程などの精製工程を設けてもよい。この方法により、凹凸形状に対応する均一形状、均一顔料が得られ、なかでも、平板状の顔料を得る場合に好適である。
【0069】
なお、蒸着面を傾けていわゆる斜め蒸着を行うと、傾斜面で厚さが不均一になったり、影ができて所望の箇所に完全に蒸着できない。この結果、回転対称性を有する顔料を得ることができず、顔料の収率も低下する。また、斜め蒸着は面積が小さいものをバッチ方式で行うことが多いため、生産性を高めることが困難となる。
【0070】
第2の製造方法は、顔料形状に対応する凹凸形状が複数形成されている型上に、顔料を構成する物質をメッキ被膜後、型からメッキ被膜を剥離するものである。なお、メッキとは、いわゆる電鋳法を含む意味で用いられる。
【0071】
具体的には、顔料形状に対応する凹凸形状が複数形成されている型をフォトリソグラフィーにより形成する型形成工程と、この型の凹部のみに、メッキ(電鋳)によりメッキ被膜を形成する被膜形成工程と、当該被膜を型から剥離する剥離工程と、を備え、不要なサイズをフィルタリングにより除去するろ過工程を必要に応じて更に備える。なお、型はフォトリソグラフィーに限らず、上述の賦形型により形成されていてもよい。
【0072】
この方法により、凹凸形状に対応する均一形状、均一顔料が得られ、なかでも、柱状や錘状などの厚さを有する顔料を得る場合に好適である。
【0073】
顔料の表面には保護層が形成(被覆)されていてもよい。保護層は非金属性保護層であることが好ましい。非金属性保護層は、例えば、樹脂や脂肪酸類化合物等の疎水性化合物からなる層を挙げられる。例えば、脂肪酸、脂肪酸エステル、芳香族カルボン酸、芳香族カルボン酸エステル、リン酸エステル、含ケイ素化合物、含フッ素化合物、およびこれらを含有するポリマーやオリゴマー、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、セルロースエステル樹脂等が挙げられる。光輝性顔料が、アルミニウムを含有する場合は特に、保護層は疎水性化合物からなるものであることが好ましい。疎水性化合物としては、例えば、炭素数4以上のアルキル基、芳香族基、脂環基、トリフルオロ基、等の構造を有し、水に溶解しない化合物、および、上記樹脂等が挙げられる。顔料の表面に保護層が形成されることによって、顔料の酸化を抑制することが可能となり、保存安定性の高いインク組成物となる。
【0074】
<2.インク組成物または塗料組成物>
本発明のインク組成物または塗料組成物(以下、単に組成物ともいう)は、上記の顔料を含有する。インク組成物または塗料組成物としては、溶剤系(非水系)、水系、活性エネルギー線硬化型、いずれにおいても使用可能であり特に限定されない。
【0075】
インク組成物の場合、インクジェット法によって吐出されるインク組成物として好適に用いられる。そして、このインク組成物はインクジェット法によって被体に吐出されると、被体の表面にインク組成物が塗布されることで、顔料が光輝性顔料の場合、被体に金属調やパール調の光沢性(光輝性)を付与することができる。導電性顔料、絶縁性顔料、特定+波長を吸収する顔料、特定波長を反射する顔料などの加飾目的以外の機能を持つ材料の場合はそれらの機能を付与することができる。なお、本明細書において被体とは、記録媒体の表面そのものであっても、記録媒体の表面の一部又は全面に着色インク組成物やプライマーが塗布されたものであってもよく、特に限定されるものではない。また、インクジェットに限らず、例えば、ディスペンサー等で使用されるインク(塗料)、コーター、スプレー等で使用されるインク(塗料)、オフセットやグラビア等の印刷で使用されるインク、トナー等にも使用できる。本発明の顔料は、粉砕工程を必要とせずに得ることができる形状がそろった粒子であるため、一般的な物理的粉砕による歪みや構造および機能性の劣化がなく、分散性に優れるため、インク組成物や塗料組成物へ添加することが容易である。
【0076】
組成物は水系組成物であってもよく、活性エネルギー線を照射することにより硬化する活性エネルギー線硬化型の組成物であってもよく、非水系組成物であってもよい。非水系インク組成物とは、水を含有しないインク組成物である。本明細書において、「水を含有しない」とは、水を意図的に含有させずに製造されたインク組成物であることを意味し、例えば大気中等に含有される水蒸気等や添加剤に含有される水等に起因するような製造者が意図しないような原因により含有されてしまうような水は考慮しない。
【0077】
組成物に含まれる顔料の含有量は、とくに限定されるものではないが、顔料の含有量の下限は、インク組成物全量中0.3質量%以上であることが好ましく、0.5質量%以上であることがより好ましく、1.0質量%以上であることがさらに好ましい。これにより、顔料が光輝性顔料の場合、被体により好適な金属調の光沢性を付与することができるようになる。顔料の含有量の上限は、特に限定されるものではないが、インクジェット用インクの場合、インク組成物全量中5.0質量%以下であることが好ましく、4.0質量%以下であることがより好ましく、3.0質量%以下であることがさらに好ましい。本発明の顔料は均一性が極めて高いので、少ない含有量でも良好な光輝性が得られ、また、含有量が多くなっても吐出性を保つことができるため、良好な機能性を得ることができる、という特徴がある。
【0078】
なお、インクジェット用インク以外の、例えば塗装用塗料や、ディスペンサーやスプレー塗料の場合は、顔料の含有量は、塗料組成物中40質量%以下であることが好ましく、35質量%以下であることがより好ましく、30質量%以下であることがさらに好ましい。コーター塗布、シルクスクリーン印刷、グラビア印刷等で使用されるインク組成物の場合は、インク組成物中30質量%以下であることが好ましく、25質量%以下であることがより好ましく、20質量%以下であることがさらに好ましい。オフセット印刷等で使用されるインク組成物の場合は、インク組成物中25質量%以下であることが好ましく、20質量%以下であることがより好ましく、15質量%以下であることがさらに好ましい。下限値としては、1.0質量%以上が好ましく、3.0質量%以上がより好ましく、5.0質量%以上がさらに好ましい。
【0079】
(組成物の製造方法)
本発明の組成物を製造する方法は、光輝性顔料と、有機溶剤や水や重合性化合物やその他の必要に応じた成分とを混合することにより組成物を製造できる。
【0080】
例えば、非水系組成物の場合、有機溶剤、光輝性顔料、及び必要に応じて樹脂、界面活性剤等を添加して調製する方法、有機溶剤に、光輝性顔料と分散剤を加えて調製した後、樹脂、界面活性剤及び必要に応じてその他の成分を添加して調製する方法、有機溶剤に光輝性顔料と樹脂と界面活性剤と必要に応じてその他の成分を添加した後、光輝性顔料を加えて調製する方法等が挙げられる。
例えば、水系組成物の場合、水、有機溶剤、光輝性顔料、及び必要に応じて樹脂、添加剤等を添加して調製する方法、有機溶剤に光輝性顔料と表面処理剤を加えて調整した後、水、樹脂、界面活性剤及び必要に応じてその他の成分を添加して調製する方法等が挙げられる。
例えば、活性エネルギー線硬化型の組成物の場合、重合性化合物、重合開始剤、光輝性顔料、オリゴマー、ポリマー、添加剤等を必要に応じて添加して調製する方法、有機溶剤に、光輝性顔料と分散剤を加えて調製した後、重合性化合物、重合開始剤、及び必要に応じてその他の成分を添加して調製する方法等が挙げられる。重合性化合物とは、活性エネルギー線を照射することにより重合されるエチレン性不飽和二重結合を有する化合物である。活性エネルギー線とは、紫外線(UV)、電子線(EB)、等である。
【0081】
次に、本発明の組成物により得られる印刷物(塗布物)について説明する。
【0082】
<3.印刷物(塗布物)>
上記の実施形態に係る組成物を使用して得られる印刷物や、塗料組成物を使用して得られる塗膜などの塗布物は、基材(記録媒体)と、この基材(記録媒体)の表面に、上記の組成物が塗布されており、顔料が光輝性顔料の場合には、被体に金属調の光沢性を付与することができる。
【0083】
[基材(記録媒体)]
基材(記録媒体)としては、特に限定はされず、樹脂基材、金属板、ガラスなどの非吸収性基材であっても、紙や布帛などの吸収性基材であっても、受容層を備える基材のような表面塗工が施された基材であってもよく、種々の基材を使用することができる。
【0084】
非吸収性基材としては、ポリエステル系樹脂、ポリプロピレン系合成紙、塩化ビニル樹脂、ポリイミド樹脂等の樹脂基材や、金属、金属箔コート紙、ガラス、合成ゴム、天然ゴム等を挙げることができる。
【0085】
吸収性基材としては、更紙、中質紙、上質紙、綿、化繊織物、絹、麻、布帛、不織布、皮革等を挙げることができる。
【0086】
表面塗工が施された基材としてはコート紙、アート紙、キャスト紙、軽量コート紙、微塗工紙等を挙げることができる。また、インク組成物の場合、インク吸収層を有する各種基材を使用することもできる。
【0087】
[その他]
基材にはプライマーを塗布してもよい。プライマーは、基材(記録媒体)の表面に塗布され、色材(染料・顔料)を含有する着色インク組成物や光輝性顔料を含有する組成物の定着性を向上させたり、滲みを抑制して画質を向上させる機能を有する。
【0088】
たとえば、光輝性インク組成物を印刷する際には着色インク組成物を共に用いてもよい。着色インク組成物とは、光輝性顔料とは異なる通常のインク組成物に使用されるような色材(染料・顔料)を含有するインク組成物である。又、光輝性インク組成物を印刷する前、あるいは後に、着色インク組成物による印刷を行ってもよい。この着色インク組成物は、活性エネルギー線硬化型のインク組成物であっても、色材を含有し、水を含有しない非水系インク組成物であっても、色材を含有し、水を含有する水性インク組成物であってもよい。また、複数のインク組成物(例えば、イエローインク、マゼンタインク、シアンインク、ブラックインクを含む複数の場合等)であってもよい。なお、この着色インク組成物には樹脂が含有されていてもよい。
【0089】
又、この着色インク組成物の塗布方法は、特に限定されるものではない。例えば、スプレー法、コーター法、インクジェット法、グラビア法、フレキソ法等を挙げることができる。中でもインクジェット法により吐出(塗布)されることが好ましい。インクジェット法であれば、基材の任意の場所に吐出(塗布)することも、基材全面に吐出(塗布)することも容易である。
【0090】
着色インク組成物の色材は、特に限定されるものではなく、染料系であってもよいし、顔料系であってもよいが、耐水性や耐光性等の耐性が良好である顔料系インク組成物を使用することが好ましい。着色インク組成物に用いることのできる顔料は特に限定されず、従来のインク組成物に使用されている有機顔料又は無機顔料等が挙げられる。これらは1種単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。具体的な有機顔料としては、例えば、不溶性アゾ顔料、溶性アゾ顔料、染料からの誘導体、フタロシアニン系有機顔料、キナクリドン系有機顔料、ペリレン系有機顔料、ジオキサジン系有機顔料、ニッケルアゾ系顔料、イソインドリノン系有機顔料、ピランスロン系有機顔料、チオインジゴ系有機顔料、縮合アゾ系有機顔料、ベンズイミダゾロン系有機顔料、キノフタロン系有機顔料、イソインドリン系有機顔料、キナクリドン系固溶体顔料、ペリレン系固溶体顔料等の有機固溶体顔料等、無機顔料としては、酸化チタン、酸化亜鉛等、その他の顔料として、カーボンブラック等が挙げられる。インク組成物に用いることのできる顔料は、複数の有機顔料や無機顔料を併用してもよく、顔料分散剤によって水溶性溶媒中に分散させた顔料分散体と自己分散型顔料を併用したものであってもよい。
【0091】
[オーバーコート剤]
印刷物の表面にはオーバーコート剤を塗布してもよい。オーバーコート剤は、印刷物の最上面(例えば着色インク組成物の表面)に形成され、印刷物の耐久性を向上させる機能を有する。
【0092】
オーバーコート剤としては活性エネルギー線硬化型のインク組成物であっても、水を含有しない非水系のインク組成物であっても、水を含有する水性型のインク組成物であってもよい。オーバーコート剤は、例えば、上述した色材(染料・顔料)を含有する着色インク組成物であって、樹脂成分や重合性化合物を主成分とし、色材を除外又は減量して色彩を視認しないように調整したようなインク組成物であってもよい。着色インク組成物や光輝性インク組成物と同様の組成のオーバーコート剤を使用することで着色インク組成物や光輝性インク組成物との密着性を向上させることができる。また、オーバーコート剤は、例えば、従来公知のオーバーコート剤であってもよい。
【0093】
オーバーコート剤を印刷物の表面に塗布する方法としてはどのような方法であってもよく、例えば、スプレー塗布、布やスポンジ等を用いた塗布、ディスペンサー、刷毛塗り、コーター、グラビア印刷、フレキソ印刷、シルクスクリーン印刷、インクジェット印刷、熱転写方式等のいずれであってもよい。
【0094】
<4.記録方法>
上記の実施形態に係る組成物を用いて基材(記録媒体)の表面に記録する記録方法は、あらゆる印刷方法や塗布方法が適用でき、オフセット、グラビア、シルクスクリーン、トナー、スプレー、ディスペンサーなどのいずれの方式にも適用可能である。なかでも、インクジェット法に用いた場合には吐出安定性が高く、良好に適応可能である。
【0095】
インクジェット記録装置は、ピエゾ方式、サーマル方式、静電方式等のいずれのインクジェット記録装置にも適用することができる。汎用性と高精細化の観点からは、ピエゾ方式が好ましい。
【0096】
インクジェット法によって吐出されたインク組成物(たとえば光輝性インク組成物)を乾燥させるためにインクジェット記録装置にヒーターや送付機等の乾燥機構を備えていてもよい。
【0097】
インク組成物(たとえば光輝性インク組成物)に含まれる光輝性顔料は、粒子径を所定の範囲に制御しているのでインクジェットの吐出安定性が高いものであり、このインク組成物を使用する記録方法により所望の金属調が付与された印刷物を得ることが可能である。
【0098】
<5.印刷物(塗布物)の製造方法>
上記の実施形態に係る組成物(たとえば光輝性インク組成物)を基材の表面に吐出する記録方法は、印刷物の製造方法および印刷物として定義することもできる。たとえば光輝性インク組成物を使用する印刷物の製造方法により所望の金属調が付与された印刷物を得ることが可能である。
【実施例】
【0099】
以下、実施例により、本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの記載に何ら制限を受けるものではない。
【0100】
1.光輝性顔料の作製と評価
<実施例1>
図8に示すような平面視で正方形状の凹凸形状を有する賦形型をナノインプリント法で作製し、真空蒸着装置(真空デバイス社製VE-1010型真空蒸着装置)を用いて、上記の賦形型上に平均膜厚が所定膜厚のアルミニウム薄膜を形成した(表中、「NIP-蒸着」と標記、実施例2~8においても同様)。その後、ブラシローラーなど物理的なせん断を与える剥離工程、遠心分離による目的粒子より比重が軽いものを除去し、更にゴミ取りや一部アッパーサイズの破片を除去するためにろ過する、精製工程を経て、表1に示すような、長軸(正方形の対角線)長さの平均値が0.7μm、長軸長さの変動係数(Cv値)6%、厚さ0.05μmである、平板状の実施例1の光輝性顔料(A-1)を得た。
【0101】
<実施例2>
賦形型と蒸着条件を変更し、長軸長さの平均値が1.4μm、長軸長さの変動係数(Cv値)7%、厚さ0.03μmとした以外は実施例1と同様にして、平板状の実施例2の光輝性顔料(A-2)を得た。
図1は実施例2の光輝性顔料のSEM像である。
【0102】
<実施例3>
賦形型と蒸着条件を変更し、長軸長さの平均値が2.8μm、長軸長さの変動係数(Cv値)3%、厚さ0.10μmとした以外は実施例1と同様にして、平板状の実施例3の光輝性顔料(A-3)を得た。
【0103】
<実施例4>
賦形型と蒸着条件を変更し、長軸長さの平均値が7.1μm、長軸長さの変動係数(Cv値)3%、厚さ0.25μmとした以外は実施例1と同様にして、平板状の実施例4の光輝性顔料(A-4)を得た。
図2は実施例4の光輝性顔料のSEM像である。
【0104】
<実施例5>
蒸着材料をクロム(Cr)に変更し、賦形型と蒸着条件を変更し、長軸長さの平均値が2.3μm、長軸長さの変動係数(Cv値)3%、厚さ0.10μmとした以外は実施例1と同様にして、平板状の実施例5の光輝性顔料(A-5)を得た。
【0105】
<実施例6>
四角錐形状の凹凸形状を有する賦形型をナノインプリント法で作製し、蒸着材料を酸化チタン(TiO2)に変更し、賦形型と蒸着条件を変更し、長軸長さ(底面の対角線長さ)の平均値が2.8μm、長軸長さの変動係数(Cv値)7%、厚さ(錐高さ)0.50μmとした以外は実施例1と同様にして、四角錐状の実施例6の光輝性顔料(A-6)を得た。
【0106】
<実施例7>
蒸着材料を酸化チタン(TiO2)-酸化ケイ素(SiO2)-酸化チタン(TiO2)の三層構成に変更し、賦形型と蒸着条件を変更し、長軸長さの平均値が2.8μm、長軸長さの変動係数(Cv値)3%、厚さ0.20μmとした以外は実施例1と同様にして、平板状の実施例7の光輝性パール顔料(A-7)を得た。
【0107】
<実施例8>
四角錐台形状の凹凸形状を有する(側面がテーパーを有する)賦形型をナノインプリント法で作製し、蒸着材料を銀(Ag)に変更し、賦形型と蒸着条件を変更し、長軸長さ(底面の対角線長さ)の平均値が1.4μm、長軸長さの変動係数(Cv値)8%、厚さ(錐高さ)0.50μmとした以外は実施例1と同様にして、四角錐台状の実施例8の光輝性顔料(A-8)を得た。
【0108】
<実施例9>
平面視で正方形状の凹凸形状を有する型をフォトリソグラフィーで作製し、電鋳法を用いて、上記の型上に平均膜厚が所定膜厚の銅(Cu)薄膜を形成した(表中、「電鋳」と標記、実施例10においても同様)。その後、ブラシローラーなど物理的なせん断を与える剥離工程、遠心分離による目的粒子より比重が軽いものを除去し、更にゴミ取りや一部アッパーサイズの破片を除去するためにろ過する、精製工程を経て、表1に示すような、長軸(正方形の対角線)長さの平均値が3.1μm、長軸長さの変動係数(Cv値)3%、厚さ0.20μmである、平板状の実施例9の光輝性顔料(A-9)を得た。
図3は実施例9の光輝性顔料のSEM像である。
【0109】
<実施例10>
直方体状の凹凸形状を有する型をフォトリソグラフィーで作製し、電鋳法を用いて、上記の型凹部に平均膜厚が所定膜厚の銅(Cu)を電鋳形成した。その後、ブラシローラーなど物理的なせん断を与える剥離工程、遠心分離による目的粒子より比重が軽いものを除去し、更にゴミ取りや一部アッパーサイズの破片を除去するためにろ過する、精製工程を経て、表1に示すような、長軸長さの平均値が3.5μm、長軸長さの変動係数(Cv値)5%、厚さ2.0μmである、直方体状の実施例10の光輝性顔料(A-10)を得た。
図4は実施例10の光輝性顔料の側面視SEM像である。
【0110】
<比較例1>
膜厚100μmのPETフィルム上に、セルロースアセテートブチレート(ブチル化率35~39%、関東化学社製)3.0質量%及びイソプロパノール97質量%からなる樹脂層塗工液をバーコート法によって均一に塗布し、60℃、10分間乾燥する事で、PETフィルム上に樹脂層薄膜を形成した。次に、真空蒸着装置(真空デバイス社製VE-1010型真空蒸着装置)を用いて、上記の樹脂層上に平均膜厚が0.02μmのアルミニウム薄膜を形成した。
【0111】
次に、上記方法にて形成した樹脂層とアルミニウム層の積層体を、ジエチレングリコールジエチルエーテル中に浸漬し、VS-150超音波分散機(アズワン社製)を用いてPETフィルムからの剥離・微細化・分散処理を同時に行い、光輝性顔料分散液を得た(表中、「蒸着-分散」と標記、比較例2、3においても同様)。
【0112】
得られたメタリック顔料分散液を、SUSメッシュフィルターにてろ過処理を行い、粗大粒子を除去した。次いで、ろ液を丸底フラスコに入れ、ロータリーエバポレターを用いてジエチレングリコールジエチルエーテルを留去し、超音波の強度や処理時間およびフィルターの目開きを変更して、光輝性顔料の粒径を調整し、表1に示すような、長軸長さの平均値が1.1μm、長軸長さの変動係数(Cv値)50%、厚さ0.02μmである、平板状の比較例1の光輝性顔料(A-11)を得た。
図5は比較例1の光輝性顔料のSEM像である。
【0113】
<比較例2>
長軸長さの平均値が2.0μm、長軸長さの変動係数(Cv値)60%、厚さ0.05μmとした以外は実施例1と同様にして、平板状の比較例2の光輝性顔料(A-12)を得た。
【0114】
<比較例3>
長軸長さの平均値が3.1μm、長軸長さの変動係数(Cv値)64%、厚さ0.10μmとした以外は実施例1と同様にして、平板状の比較例2の光輝性顔料(A-13)を得た。
【0115】
<比較例4>
特許文献2に記載のアトマイズ法を用い、その後粉砕することにより、長軸長さの平均値が4.9μm、長軸長さの変動係数(Cv値)36%、厚さ0.10μmである、平板状の比較例4のニッケル光輝性顔料(A-14)を得た(表中、「アトマイズ」と標記)。
図6は比較例4の光輝性顔料のSEM像である。
【0116】
<比較例5>
天然マイカを高屈折金属酸化物膜で被覆して得られた、長軸長さの平均値が16.9μm、長軸長さの変動係数(Cv値)69%、厚さ0.50μmである、平板状の比較例5の光輝性パール顔料(A-15)を得た(表中、「被覆」と標記)。
図7は比較例5の光輝性顔料のSEM像である。
【0117】
[体積基準累積粒子径の測定]
実施例及び比較例の体積基準累積10%粒子径(D10)、体積基準累積50%粒子径(D50)、体積基準累積90%粒子径(D90)、(D90-D10)/D50、及び膜厚を表1に示す。なお、粒径は、島津製作所製レーザー回折式粒度分布計「SALD 7500nano」を用いて測定した。表1に測定結果を示す。
【0118】
[ろ過性の測定]
エタノール中に0.1g/Lで無機粒子を分散させ、各粒子の長軸長さの2倍サイズ程度になる下記のフィルターを選定し、20ml通液させた。マイクロスコープ(キーエンス VHX-5000)で観察した際に、フィルター上に粒子が5個以上存在する場合は×とし、5個未満の場合を〇とした。表1に測定結果を示す。
φ2.5μm:目開き2.5μm金属フィルター
♯2300:金属メッシュ(真鍋工業製)
♯2000:金属メッシュ(真鍋工業製)
【0119】
【0120】
2.インク組成物の製造
上記の「光輝性顔料分散液」を使用してインク組成物を製造した。具体的には、上記の光輝性顔料分散液と、表2に示す、水(B-1)と、各種有機溶剤(B-2からB-4)と、樹脂(C-1:セルロースアセテートブチレート樹脂、C-2:ポリビニルアルコール(重合度500))と、界面活性剤(D-1、D-2)と、を用いて下記表3の割合になるように実施例、比較例のインク組成物を混合後、撹拌24時間、超音波10分間を照射して調整した。表3の配合量単位は質量%である。
【0121】
【0122】
【0123】
3.評価
インクジェット吐出安定性試験
製造例及び製造比較例のインク組成物について吐出安定性を評価した。具体的には、予めノズルクリーニングを行った後にノズル径20μmのインクジェットヘッドに実施例及び比較例のインク組成物を充填して吐出を行った。そして、5分間吐出を停止し、実施例及び比較例のインク組成物を再吐出し、以下の評価基準のもと曲がりや不吐出のノズル数を確認することによりインク組成物の吐出安定性を以下の評価基準で確認した。
<評価基準>
A:曲がりや不吐出のノズル数が全ノズル中10%未満である。
B:曲がりや不吐出のノズル数が全ノズル中10%以上30%%未満である。
C:曲がりや不吐出のノズル数が全ノズル中30%%以上である。
【0124】
表3から分かるように、最大長さLmaxの変動係数が10%以下であって2回以上の回転対称性を有する光輝性顔料を含有するインク組成物であれば、インクジェットの吐出安定性を有するものであることが分かる。
【要約】
【課題】形状や大きさのバラツキが少ない均一な形状の顔料、及び、それを用いたインク組成物や塗料組成物を提供する。
【解決手段】顔料の投影面積が最大となる方向から観察した際の、投影面における最大長さLmaxの変動係数が10%以下である、2回以上の回転対称性を有する顔料である。D50とD10とD90との関係が以下の式(I)の関係を満たすことが好ましい。
(D90-D10)/D50≦1.0 ・・・(I)
【選択図】
図1