(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-17
(45)【発行日】2023-11-28
(54)【発明の名称】切替弁及びこの切替弁を備えた油圧緩衝器
(51)【国際特許分類】
F16K 1/36 20060101AFI20231120BHJP
F16F 9/34 20060101ALI20231120BHJP
【FI】
F16K1/36 Z
F16F9/34
(21)【出願番号】P 2023546443
(86)(22)【出願日】2023-08-01
(86)【国際出願番号】 JP2023028039
【審査請求日】2023-08-01
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】509186579
【氏名又は名称】日立Astemo株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100067356
【氏名又は名称】下田 容一郎
(72)【発明者】
【氏名】村上 陽亮
(72)【発明者】
【氏名】藤川 暢介
(72)【発明者】
【氏名】黒岩 尚矢
(72)【発明者】
【氏名】道浦 大祐
(72)【発明者】
【氏名】藤田 真崇
【審査官】加藤 昌人
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-176552(JP,A)
【文献】国際公開第2023/067941(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16K 31/06-31/11
F16K 1/00- 1/54
F16F 9/34- 9/348
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
オイルが流れる流路に連通することが可能な弁口と、前記弁口の周縁に形成されている弁座面とを有している弁座と、
前記弁座面に対して接離可能に前記弁座面の軸線に沿う方向へ移動して前記弁口を開閉する樹脂成型品から成る部材であって、前記弁座面に当接して密封可能な曲面状のシール面を有しているシール部と、
前記シール部から前記シール面とは反対側へ延びて一体に形成されており樹脂成型のときに生じる痕跡部がそのまま残存している延長部と、を有している弁体と、
前記弁体の前記シール面が前記弁座面から離れたときに前記流路の一部を形成することが可能な通路部分と、
前記弁座面に対する前記シール面の開閉位置を維持するように前記延長部の姿勢を規制する規制部と、を含む切替弁。
【請求項2】
前記延長部を保持する保持部材を、更に含み、
前記通路部分及び前記規制部は、前記保持部材に形成されている、請求項1に記載の切替弁。
【請求項3】
前記通路部分は、前記保持部材の外周面に形成されたオイル通路によって構成され、前記弁座面の軸線方向に貫通している、請求項2に記載の切替弁。
【請求項4】
前記保持部材の外周面のうちの、少なくとも前記延長部を保持する部分の周りには、全周にわたって、前記オイル通路と前記弁座との間のオイル通過流路が形成されている、請求項3に記載の切替弁。
【請求項5】
前記保持部材は、前記延長部を保持する部分に対して反対側の端面に、圧縮コイルバネの一端部を受けるバネ受け用凹部を有しており、
前記バネ受け用凹部の底面は、前記弁体の前記シール面を前記弁座面に当接する方向へ、前記圧縮コイルバネによって付勢されている、請求項2に記載の切替弁。
【請求項6】
前記シール部は、半球状の構成であり、
前記延長部は、前記シール部の底の部位に連続し且つ前記底の部位の径と同径の円柱状の構成である、請求項1に記載の切替弁。
【請求項7】
前記弁体は、可撓性樹脂から成る前記樹脂成型品であり、
前記保持部材は、前記延長部を保持する保持用孔を有しており、
前記延長部は、前記保持用孔に圧入によって保持されている、請求項2に記載の切替弁。
【請求項8】
前記延長部は、前記シール部の前記底の部位から前記シール面とは反対側へ拡径するテーパ状の大径部を含み、
前記通路部分は、前記大径部の外周面に形成されるとともに、前記弁座面の軸線方向に貫通しており、
前記延長部のなかの、前記大径部の最も外径が大きい部位の外周面を保持する保持部材を、更に含んでいる、請求項1に記載の切替弁。
【請求項9】
前記延長部は、前記大径部の底面から前記シール部の前記底の部位とは反対側へ延び且つ前記大径部の前記底面よりも小径の円柱状の小径部を含み、
前記大径部の前記底面は、前記弁体の前記シール面を前記弁座面に当接する方向へ、圧縮コイルバネによって付勢されており、
前記小径部は、前記圧縮コイルバネのコイル内に嵌め込まれており、
前記規制部は、前記小径部と前記圧縮コイルバネとによって構成されている、請求項8に記載の切替弁。
【請求項10】
請求項1の切替弁を備えた油圧緩衝器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、切替弁及びこの切替弁を備えた油圧緩衝器の改良技術に関する。
【背景技術】
【0002】
切替弁のなかには、弁座面に対して接離可能に、この弁座面の軸線に沿う方向へ移動して弁口を開閉するボール状(球状)の弁体を用いた、いわゆるボール型切替弁がある。この種のボール型切替弁は、例えばチェック弁、リリーフ弁、油圧緩衝器にも多く採用されている。この種のボール型切替弁は、例えば特許文献1によって知られている。
【0003】
特許文献1で知られているボール型切替弁は、油圧緩衝器(電動制御型ダンパ)に設けられた構成であって、テーパ状の弁座面を有している弁座と、この弁座の弁座面に対して接離可能なボール状の弁体と、この弁体を弁座面に押し付ける圧縮コイルバネとを備えている。弁体は、弁座面の軸線に沿う方向へ移動して弁口を開閉する。この弁口は、オイルが流れる流路に連通している。圧縮コイルばねの付勢力は、押付部材を介して弁体に伝えられる。プッシュロッドにより弁体を押して弁座面から離すと、ボール型切替弁の弁口が開放して流路にオイルが流れる。ボール状の弁体は、弁座面との接触面圧が高いことからシール性が良好である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-176552号公報(
図3、
図4参照)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1で知られている切替弁では、弁体がボール状の構成なので、球面の全体がシール面となり得る。このため、弁座面に対する弁体の接触する部位は、一定ではない。この弁体は、例えばコストダウンを図るために、樹脂成型品によって構成される場合がある。弁体を樹脂成型した場合には、パーティングラインや吐出ゲートなどの痕跡部(成型痕跡)が発生し得る。弁座面に対する、弁体の接触する部位がどこであっても、弁体のシール性能に影響を及ぼさないためには、痕跡部を研磨する必要がある。弁体の生産工程に研磨工程を有するのでは、弁体の生産性を高めて切替弁の生産コストを低減する上で、不利である。
【0006】
本発明は、樹脂成型品から成る弁体を備えた切替弁の、シール性能を確保しつつコストダウンを図ることができる技術を、提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、鋭意検討の結果、弁体は弁座面に接触するシール面のみが曲面状であればよいことに着目した。そして、弁体の、シール面のみを曲面状にし、他の部位を非曲面状とすることによって、弁体の姿勢を規制することが可能になり、この結果、弁座面に対する弁体の接触する部位が一定になることを知見した。本発明は、この知見に基づいて完成させた。
【0008】
本開示によれば、オイルが流れる流路に連通することが可能な弁口と、前記弁口の周縁に形成されている弁座面とを有している弁座と、前記弁座面に対して接離可能に前記弁座面の軸線に沿う方向へ移動して前記弁口を開閉する樹脂成型品から成る部材であって、前記弁座面に当接して密封可能な曲面状のシール面を有しているシール部と、前記シール部から前記シール面とは反対側へ延びて一体に形成されており樹脂成型のときに生じる痕跡部がそのまま残存している延長部と、を有している弁体と、前記弁体の前記シール面が前記弁座面から離れたときに前記流路の一部を形成することが可能なオイル通路を有している通路部分と、前記弁座面に対する前記シール面の開閉位置を維持するように前記延長部の姿勢を規制する規制部と、を含む切替弁が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本開示では、樹脂成型品から成る弁体を備えた切替弁の、シール性能を確保しつつコストダウンを図ることができる技術を、提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図5】
図4に示される第2弁体の拡大した斜視図である。
【
図7】
図2に示される弁装置の開放状態の作用図である。
【
図8】
図1に示される切替弁を備えた油圧緩衝器の要部を断面した側面図である。
【
図9】
図8に示される油圧緩衝器の切替弁周りの拡大図である。
【
図14】
図11に示される第1弁体と第2弁体と圧縮コイルバネとの関係を表した拡大図である。
【
図15】
図14に示される第2弁座面に対する第2弁体の傾きの規制状態を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の実施の形態を添付図に基づいて以下に説明する。なお、添付図に示した形態は本発明の一例であり、本発明は当該形態に限定されない。
【0012】
<実施例1>
図1~
図9を参照しつつ、実施例1の切替弁10と、この切替弁10を備えた油圧緩衝器100について説明する。
【0013】
図1に示されるように、切替弁10は、オイルが流れる流路Fp(
図1の矢印Fp参照)を開閉するものであって、各種のオイル装置に設けることが可能である。この切替弁10は、例えば弁装置11をアクチュエータ20によって駆動する、自動弁の構成である。但し、切替弁10は、自動弁の構成に限定されるものではない。
【0014】
先に、アクチュエータ20について説明する。このアクチュエータ20は、作動ロッド21を備えた電磁ソレノイドによって構成されることが好ましい。このアクチュエータ20のことを、適宜「電磁ソレノイド20」ということがある。この電磁ソレノイド20は、励磁用コイル22に供給される電流量とプランジャ23の進出距離(進退量)とが比例する比例ソレノイドの構成である。さらに、この電磁ソレノイド20は、励磁用コイル22の励磁によってプランジャ23を前進させる。作動ロッド21は、プランジャ23と共に、作動ロッド21の中心線CLに沿う方向へ進退可能である。このように、電磁ソレノイド20は、比例ソレノイドの構成であるから、プランジャ23及び作動ロッド21の進出距離に従って、弁装置11の開度を調整することができる。
【0015】
励磁用コイル22及びプランジャ23は、筒状のアクチュエータハウジング24に収納されている。このアクチュエータハウジング24の一端は、リッド25によって閉鎖されている。作動ロッド21はリッド25を貫通している。
【0016】
アクチュエータハウジング24の一端部には、倍力機構30を介して弁装置11が設けられている。倍力機構30は、リッド25に対して、電磁ソレノイド20とは反対側に位置している。この倍力機構30は、モーメントの釣り合いを利用することにより、作動ロッド21の小さい押し力(入力)によって、大きい押し力(出力)を得ることが可能である。
【0017】
倍力機構30は、例えば、第1及び第2押し部材31,32と、これらの押し部材31,32間に介在している弾性を有する板状部材33とによって、構成されている。第1及び第2押し部材31,32と板状部材33は、作動ロッド21の中心線CL上に配列されている。作動ロッド21が第1押し部材31を押す押し力は、板状部材33により倍力されて第2押し部材32に伝わる。この第2押し部材32は、先端部分(下端部分)に押し部34を一体に備えている。この押し部34は弁棒の機能を有する。倍力機構30は、アクチュエータハウジング24の一端部に固定された収納部35に収納されている。この収納部35は、リッド25に重なっている平盤状の第1支持部材36と、この第1支持部材36に重なっているカップ状の第2支持部材37とによって、構成されている。
【0018】
弁装置11は、倍力機構30の下端に取り外し可能に取り付けられている。詳しく述べると、
図2に示されるように、この弁装置11は、弁ハウジング40と、この弁ハウジング40に収納された第1弁体50及び第2弁体60とを備えている、いわゆるパイロット切替弁の構成である。以下、切替弁10のことを、適宜「パイロット切替弁10」ということがある。
【0019】
弁ハウジング40は、平盤状の第1ハウジング部41と、円筒状の第2ハウジング部42と、有底筒状の第3ハウジング部43と、を備えている。これらのハウジング部41~43は、いずれか2つまたは全てを一体とした構成であってもよい。
【0020】
第1ハウジング部41は、第2支持部材37(
図1参照)の下端に嵌め込み可能である。第1ハウジング部41と第2支持部材37との間には、弁装置11から流れたオイルを外部に案内する案内空間部44が形成されている。
図3に示されるように、この第1ハウジング部41は、作動ロッド21の中心線CL上に第1弁座41aを備えている。この第1弁座41aは、オイルが流れる流路Fp(
図1参照)に連通することが可能な第1弁口41bと、この第1弁口41bの周縁に形成されている第1弁座面41cと、を有している。
【0021】
図3に示されるように、第2ハウジング部42は、第1ハウジング部41の一端面41d(倍力機構30とは反対側の面41d)に嵌め込み可能であって、径方向に内外に貫通した第1オイル入り口42aを有している。
【0022】
図2に示されるように、第3ハウジング部43は、第2ハウジング部42を第1ハウジング部41の一端面41dに押し付け可能である。この第3ハウジング部43は、第2ハウジング部42の外周面42bを包囲する円筒部43aと、この円筒部43aの底に一体に形成されている平板状の底板43bとを備えている。第3ハウジング部43の底板43bは、内外に貫通した少なくとも1つの第2オイル入り口43c(オリフィス43c)と、この第2オイル入り口43cに連通する連通溝43dを有している。第2オイル入り口43cは、作動ロッド21の中心線CL上に位置している。連通溝43dは、底板43bの底面43eに形成されており、第3ハウジング部43の外周面43fに連通している。
【0023】
図3及び
図4に示されるように、第1弁体50は、第1弁座面41cに対し接離可能に作動ロッド21の中心線CL(第1弁座面41cの軸線CL)に沿う方向へ移動して第1弁口41bを開閉することが可能である。この第1弁体50は、第2ハウジング部42の内周面42cにより、第1弁座面41cの軸線CLに沿ってスライド可能に案内されている。さらに、この第1弁体50は、第3ハウジング部43の底板43b側に開放された有底筒状の部材であって、第2ハウジング部42の内周面42cにスライド可能に嵌合された第1円筒部51と、この第1円筒部51の底に一体に形成されている平板状の第1底板52(第1天板52ともいう)とを備えている。
【0024】
第1弁体50の第1底板52の底面52aは、作動ロッド21の中心線CLに対して直交する平坦面であって、縁部に環状の第1シール面53を有している。この第1シール面53は、作動ロッド21の中心線CLに対して直交する平坦面であって、底面52aに対して同一面、凸面または凹面に形成されている。第1弁体50は、例えば樹脂成型品である。
【0025】
第1ハウジング部41の第1弁座面41cと、第1弁体50の第1シール部52aとの、組み合わせ構造は、第1弁12を構成する。この第1弁12は、パイロット切替弁10(切替弁10)のうちの主弁の機能を有しており、第1弁座面41cに対して第1シール部52aを接離することによって、開閉する。この第1弁12のことを、適宜「主弁12」ということがある。
【0026】
第1弁体50の第1底板52の内底面52b(内側の底面52b)は、作動ロッド21の中心線CLに対して直交する平坦面であって、作動ロッド21の中心線CL上に第2弁座54を備えている。この第2弁座54は、オイルが流れる流路Fpに連通することが可能な第2弁口54aと、この第2弁口54aの周縁に形成されている第2弁座面54bとを有している。第2弁口54aは、作動ロッド21の中心線CL上に位置し、第1底板52を貫通している。第2弁座面54bは、例えば第1底板52の内底面52bから第2弁口54aまで先細り状となるテーパ面または円弧状の面である。
【0027】
第1弁体50は、外周面50aのうち、第2ハウジング部42の第1オイル入り口42aに向かい合う部分に、外周面50aよりも小径の小径部55を有している。第1弁体50の外周面50aと小径部55の外周面55aとは、段差面56によって連続している。この小径部55と第2ハウジング部42の内周面42cとの間には、空間57が形成されている。この空間57は、第1弁12に対して上流側の油圧室の機能を有する。段差面56に作用した油圧は、第1弁体50を中心線CLに沿って、第1弁座41aから離反させる方向へ押す力に、変換される。
【0028】
図3及び
図4に示されるように、第2弁体60は樹脂成型品であって、好ましくは可撓性樹脂から成り、より好ましくはウレタン樹脂(ポリウレタン)や、ニトリルゴム(NBR)から成る。この第2弁体60は、第2弁座面54bに対し、接離可能に作動ロッド21の中心線CL(第2弁座面54bの軸線CL)に沿う方向へ移動して、第2弁口54aを開閉することが可能である。
【0029】
図5も参照すると、さらに第2弁体60は、第2シール面61aを有している第2シール部61と、この第2シール部61から第2シール面61aとは反対側へ延びている延長部62と、を有した一体成型品である。第2シール面61a(シール領域61a)は、曲面状に形成されており、第2弁座面54bに当接して密封可能である。第2シール部61は、例えば半球状に構成されている。延長部62は、第2シール部61の底の部位61b(境界61b)に連続し且つこの底の部位61bの径Bdと同径の円柱状の構成である。延長部62の底面62aは、第2弁座面54bの軸線CLに対して直交する平坦面である。
【0030】
第2弁体60を樹脂成型する場合には、第2弁体60にパーティングラインや吐出ゲートなどの痕跡部63(成型痕跡63)が発生し得る。実施例1では、痕跡部63が発生し得る部位を、第2弁体60のなかの、シール性を必要としない延長部62に予め設定している。第2弁体60を樹脂成型したときに生じた痕跡部63は、除去されることなく、延長部62にそのまま残存している。
【0031】
図3に示されるように、第2弁座面54bと、第2弁体60の第2シール部61との、組み合わせ構造は、第2弁13を構成する。この第2弁13は、パイロット切替弁10(切替弁10)のうちのパイロット弁の機能を有しており、第2弁座面54bに対して第2シール部61を接離することによって、開閉する。この第2弁13のことを、適宜「パイロット弁13」ということがある。
【0032】
図3及び
図4に示されるように、第2弁13は、延長部62を保持する第2保持部材70を備えている。この第2保持部材70は、第1弁体50の第1円筒部51の内周面51aに嵌め込まれることにより、この内周面51aによって、スライド可能に保持されている。つまり、第2保持部材70は、第1円筒部51によって姿勢を保持されており、作動ロッド21の中心線CL(第2弁座面54bの軸線CL)に沿って、移動可能である。第1弁体50のことを、適宜「第1保持部材50」ということがある。
【0033】
さらに第2保持部材70は、第1弁体50の第1底板52の内底面52bに向かい合う一端面70aに、凹状の保持用孔71(第1凹部71)を有している。この第2保持用孔71を形成している内周面71aは、円柱状の延長部62を嵌め込み可能な円形状の構成である。保持用孔71の底面71bは、第2弁座面54bの軸線CLに対して直交する平坦面である。延長部62は、保持用孔71に対して隙間無く嵌め込まれており、例えば圧入によって保持されている。従って、保持用孔71を形成している内周面71aは、第2弁座面54bに対する第2シール面61aの開閉位置を維持するように延長部62の姿勢を規制している。延長部62の底面62aは、保持用孔71の底面71bに接していることが好ましい。保持用孔71の内周面71aのことを、適宜「規制部71a」ということがある。つまり、規制部71aは第2保持部材70に形成されている。この第2保持部材70は、例えば樹脂成型品から成る。
【0034】
なお、延長部62の円柱状の構成には、円筒状の構成を含むことが可能である。延長部62を円筒状に構成にすることによって、保持用孔71に対する嵌め込みを、より容易にすることができる。
【0035】
第2弁体60と、この第2弁体60の姿勢を保持する第2保持部材70との組み合わせ構造は、単一の弁体ユニット81を構成している。つまり、この弁体ユニット81全体によって、第2弁13の弁体を構成していると、みなすことができる。
【0036】
さらに、第2保持部材70は、第1弁体50の第1底板52の底面52a側へ、付勢部材82によって付勢されている。この付勢部材82は、例えば圧縮コイルバネによって構成される。付勢部材82のことを、適宜「圧縮コイルバネ82」ということがある。この圧縮コイルバネ82は、第3ハウジング部43の底板43bと、第2保持部材70との間に介在している。例えば、第2保持部材70は、延長部62を保持する部分71(保持用孔71)に対して反対側の端面70b(他端面70b)に、圧縮コイルバネ82の一端部82aを受けるバネ受け用凹部72(第2凹部72)を有している。圧縮コイルバネ82の一端部82aは、バネ受け用凹部72に嵌め込まれることによって、第2保持部材70に対する位置が規定されている。バネ受け用凹部72の底面72aは、第2弁体60の第2シール面61aを第2弁座面54bに当接する方向へ、圧縮コイルバネ82によって付勢される。
【0037】
図6も参照すると、さらに第2弁13は、第2保持部材70に形成された通路部分73を含む。この通路部分73は、第2弁13が開放されたとき、つまり第2弁体60の第2シール面61aが第2弁座面54bから離れたときに、オイルが流れる流路Fp(
図1の矢印Fp参照)の一部を形成することが可能な構成である。この通路部分73は、第2保持部材70の外周面70cに形成された少なくとも1つ(好ましくは複数)のオイル通路73aによって構成されている。このオイル通路73aは、例えば、第2保持部材70の外周面70bに形成された溝によって構成されており、第2弁座面54bの軸線CL方向に貫通している。溝状のオイル通路73aは、第1弁体50の第1円筒部51の内周面51aによって塞がれている。このため、オイルはオイル通路73aを通過することが可能である。
【0038】
図3及び
図4に示されるように、さらに、第2保持部材70の外周面70cのうちの、保持用孔71(延長部62を保持する部分71)に対応した部位74は、小径に形成されている。この小径の部分74(小径部74)の径方向外側には、空間75が形成されている。この空間75は、オイル通路73aと第2弁座54との間を流れるオイルの通過流路を構成する。この空間75のことを、適宜「オイル通過流路75」ということがある。言い換えると、第2保持部材70の外周面70cのうちの、少なくとも延長部62を保持する部分の周りには、全周にわたって、オイル通路73aと第2弁座54との間のオイル通過流路75が形成されている。
【0039】
以上の説明から明らかなように、第2弁13は、半球状の第2シール部61と円柱状の延長部62とを有する、細長い構成である。しかも、延長部62は第2保持部材70によって保持されている。このため、第2弁体60と第2保持部材70との組み合わせから成る弁体ユニット81の、軸線CL方向の長さは、従来のボール状(球状)の弁体に比べて長い。
【0040】
これに対し、第2弁体60及び第2保持部材70は、有底筒状の第1弁体50の内部に嵌め込まれ且つ収納されている。第1弁体50の第1底板52の底面52a(外側の面52a)は、第1弁12の第1弁体50の第1シール部52aを有している。第1弁体50の第1底板52の内底面52b(内側の底面52b)は、第2弁13の第2弁座54を有している。切替弁10の特徴の1つは、平板状である第1底板52が、表裏に第1シール部52aと第2弁座54の両方を有していることである。第1弁12と第2弁13とは、平板状の第1底板52を挟んで両側に配置される。このため、第1弁12と第2弁13の両方を備えている切替弁10(パイロット切替弁10)を、小型化することができる。
【0041】
次に、切替弁10の開閉作用について、
図2及び
図7を参照しつつ説明する。
図2に示される状態の切替弁10は、押し部34が第2弁体60から離反している。このため、圧縮コイルバネ82の付勢力によって、第2弁体60の第2シール面61aが第2弁座面54bに接触して閉鎖するとともに、第1弁体50の第1シール面53が第1弁座面41cに接触して閉鎖している。第1弁12及び第2弁13は閉鎖した状態にある。
【0042】
その後、押し部34が下降して第2弁体60の第2シール部61を押すと、この押す力は第2弁体60の延長部62から第2保持部材70の保持用孔71の底面71b(
図3参照)に伝わる。従って、
図7に示されるように、第2弁体60及び第2保持部材70は、圧縮コイルバネ82の付勢力に抗して第2弁座面54bから離反する方向へ変位する。この結果、第2弁体60の第2シール面61aが第2弁座面54bから離れるので、第2弁13は開放状態となる。第3ハウジング部43(弁ハウジング40)の第2オイル入り口43cから第3ハウジング部43内に流入したオイルは、第2保持部材70のオイル通路73aとオイル通過流路75とを流れ、第2シール面61aと第2弁座面54bとの間の隙間を通って、弁ハウジング40の外部へ流出する。
【0043】
第2弁13が開放した状態では、第1弁体50は圧縮コイルバネ82の付勢力を受けない。このため、第2弁13の上流側と下流側との間の、オイルの圧力差によって、第1弁体50の第1シール面53が第1弁座面41cから離れるので、第1弁12は開放状態となる。この結果、オイルが流れる流路Fpの流量を増すことができる。
【0044】
その後、第2押し部材32が上昇すると、押し部34は第2弁体60の第2シール部61から離反する。この結果、圧縮コイルバネ82の付勢力により、第1弁12及び第2弁13は、
図2に示される元の閉鎖状態に戻る。
【0045】
次に、切替弁10の使用例について、
図8及び
図9を参照しつつ説明する。この切替弁10は各種のオイル装置、例えば油圧緩衝器100に備えることができる。この油圧緩衝器100は、二輪車や三輪車等の鞍乗型車両の前部に搭載されたフロントフォークの、主要部を構成する。油圧緩衝器100は、車体側及び車輪側にそれぞれ配置されるテレスコピック型の車体側チューブ101及び車軸側チューブ102と、これらのチューブ101,102を互いに離間する方向に付勢する圧縮コイルバネ(図示せず)とを、備えている。各チューブ101,102によって囲われた空間には、オイルが充填されている。
【0046】
車軸側チューブ102の下端部は、車軸側ブラケット103を備えている。車軸側チューブ102の下部は、ブラダ104と前記切替弁10とを備えている。ブラダ104は、車軸側チューブ102内の余剰のオイルを、一時的に蓄えることができる。
【0047】
切替弁10は、車軸側チューブ102とブラダ104との間を流れるオイルの流路Fpを開閉することができる。車軸側チューブ102の下部は、有底の弁装着孔105を有している。
図1に示されるように、切替弁10は、弁装着孔105に挿入してアクチュエータハウジング24を弁装着孔105の内周面105aにネジ結合することにより、車軸側チューブ102(
図8参照)に取り付けることができる。第3ハウジング部43の底面43b(
図2参照)が弁装着孔105の底面105bに押し付けられることにより、弁ハウジング40は、アクチュエータハウジング24と弁装着孔105の底面105bとの間に固定されている。
【0048】
<実施例2>
図10~
図16を参照しつつ、実施例2の切替弁200について説明する。
【0049】
図10は、実施例2の切替弁200を説明する断面図であって、上記実施例1の切替弁10を説明する
図1に対応している。
図11は、実施例2の弁装置211を説明する断面図であって、上記実施例1の弁装置11を説明する
図2に対応している。
【0050】
図10及び
図11に示される実施例2の切替弁200は、
図1及び
図2に示される実施例1の切替弁10に対して、次の構成に変更している。第1に、弁装置11を弁装置211に変更した。第2に、第3ハウジング部43を第3ハウジング部243に変更し、この第3ハウジング部243によって実施例1の第2ハウジング部42を兼ねた。第3に、第1弁体50を第1弁体250に変更し、この第1弁体250によって実施例1の第2保持部材70を兼ねた。第4に、第2弁体60を第2弁体260に変更した。第5に、付勢部材82を付勢部材282に変更した。その他の基本的な構成については、実施例1の切替弁10と共通する。実施例1の切替弁10と共通する部分については、符号を流用すると共に、詳細な説明を省略する。
【0051】
以下、実施例2の切替弁200について、詳しく説明する。
図10に示されるように、切替弁200は、例えば弁装置211をアクチュエータ20によって駆動する、自動弁の構成である。但し、切替弁200は、自動弁の構成に限定されるものではない。弁装置211は、倍力機構30の下端に取り外し可能に取り付けられている。
【0052】
詳しく述べると、
図11に示されるように、この弁装置211は、弁ハウジング240と、この弁ハウジング240に収納された第1弁212及び第2弁213とを備えている、いわゆるパイロット切替弁の構成である。以下、切替弁200のことを、適宜「パイロット切替弁200」ということがある。
【0053】
第1弁212は、第1ハウジング部41の第1弁座面41cと、第1弁体250の第1シール部52aとの、組み合わせによって構成されている。この第1弁212は、パイロット切替弁200(切替弁200)のうちの主弁の機能を有しており、第1弁座面41cに対して第1シール部52aを接離することによって、開閉する。この第1弁212のことを、適宜「主弁212」ということがある。
【0054】
第2弁213は、第2弁座面54bと、第2弁体260の第2シール部61(
図12参照)との、組み合わせによって構成されている。この第2弁213は、パイロット切替弁200(切替弁200)のうちのパイロット弁の機能を有しており、第2弁座面54bに対して第2シール部61を接離することによって、開閉する。この第2弁213のことを、適宜「パイロット弁213」ということがある。
【0055】
図11及び
図12に示されるように、弁ハウジング240は、平盤状の第1ハウジング部41と、有底筒状の第3ハウジング部243とを備えている。これらのハウジング部41,243は、一体とした構成であってもよい。
【0056】
第3ハウジング部243は、実施例1の円筒状の第2ハウジング部42(
図2参照)を兼ねている。この第3ハウジング部243は、第1ハウジング部41の一端面41dに嵌め込み可能であって、径方向に内外に貫通した第1オイル入り口42aを有している。第3ハウジング部243の、他の構成は実施例1の第3ハウジング部43と同じである。
【0057】
第1弁体250は、第3ハウジング部243の円筒部43aの内周面43gにより、第1弁座面41cの軸線CLに沿ってスライド可能に案内されている。この第1弁体250は、実施例1の第2保持部材70を兼ねている。第1弁体250のことを、適宜「保持部材250」ということがある。第1弁体250の、他の構成は実施例1の第1弁体50と同じである。
【0058】
この第1弁体250は、第3ハウジング部243の底板43b側に開放された有底筒状の部材であって、第1円筒部51の内周面51aと第1底板52とによって囲まれた内部空間251を有している。この内部空間251は、第2弁体260及び付勢部材282の少なくとも一部を収納可能である。この内部空間251のことを、適宜「収納凹部251」ということがある。
【0059】
第2弁体260は、第1弁体250の第1円筒部51の内周面51aに嵌め込まれることにより、この内周面51aによってスライド可能に保持されている。
図13A及び
図13Bに示されるように、この第2弁体260は樹脂成型品であって、好ましくは可撓性樹脂から成り、より好ましくはウレタン樹脂(ポリウレタン)や、ニトリルゴム(NBR)から成る。この第2弁体260は、第2シール面61aを有している第2シール部61と、この第2シール部61から第2シール面61aとは反対側へ延びている大径部262と、この大径部262から更に反対側へ延びている小径部263とを有した、一体成型品である。第2シール部61と大径部262と小径部263とは、第2弁座面54b(
図11参照)の軸線CL上に位置している。
【0060】
第2シール部61は、上記実施例1の第2シール部61(
図5参照)と同じ構成であるとともに、同じ機能を有しているので、説明を省略する。
【0061】
大径部262は、第2シール部61の底の部位61b(境界61b)から第2シール面61aとは反対側へ拡径するテーパ状(略テーパ状を含む)の構成である。この大径部262のテーパ面262a(外面262a)は、曲面状の第2シール面61aに対して接線Tnに沿っていることが好ましい。大径部262のうちの、シール部61の底の部位61bとは反対側の面262bのことを「大径部262の底面262b」という。大径部262のうちの、最も径Cdが大きい部位の面262cのことを「大径部262の外周面262c」という。
【0062】
大径部262の外周面262cの径Cdの大きさは、次の2つの条件を達成可能な範囲に、設定されることが好ましい。第1の条件は、
図11に示される第1弁体250の第1円筒部51の内周面51aに対して大径部262の外周面262cが円滑にスライド可能なことである。第2の条件は、
図11に示される第2弁座面54bの軸線CLに対する、大径部262の径方向のオフセット量を極力小さくできることである。
【0063】
小径部263は、大径部262の底面262bからシール部61の底の部位61bとは反対側へ延びている。この小径部263は、大径部262の外周面262cよりも小径の円柱状の構成である。
【0064】
このような第2弁体260の全体形状は、いわゆる「きのこ状」と称する形状である。この第2弁体260のうちの、シール部61を除く他の部位264のことを、適宜「延長部264」ということがある。この延長部264は、上記実施例1の延長部62に相当する。この延長部264は、テーパ状の大径部262(第1延長部262)と、円柱状の小径部263(第2延長部263)とによって構成される。
【0065】
第2弁体260を樹脂成型する場合には、第2弁体260にパーティングラインや吐出ゲートなどの痕跡部265(成型痕跡265)が発生し得る。実施例2では、痕跡部265が発生し得る部位を、第2弁体260のなかのシール性を必要としない延長部264に、予め設定している。第2弁体260を樹脂成型したときに生じた痕跡部265は、除去されることなく、延長部264にそのまま残存している。例えば、痕跡部265が発生し得る部位は、大径部262の外周面262cに設定される。
【0066】
図14も参照すると、第2弁体260の大径部262には、通路部分273が形成されている。この通路部分273は、第2弁13が開放されたとき、つまり第2弁体260の第2シール面61aが第2弁座面54bから離れたときに、オイルが流れる流路Fp(
図10の矢印Fp参照)の一部を形成することが可能な構成である。この通路部分273は、大径部262の外周面262cを含み、テーパ面262a(外面262a)に形成され、第2弁座面54bの軸線CL方向に貫通している。この通路部分273は、大径部262の外周面262cを含み、テーパ面262aに形成された少なくとも1つ(好ましくは複数)のオイル通路273aによって構成されている。このオイル通路273aは、例えば大径部262の外周面262cを含み、テーパ面262aに形成された平坦面または溝によって構成されている。このため、オイルはオイル通路273aを通過することが可能である。
【0067】
図14に示されるように、第2弁体260の大径部262の底面262bは、第2シール面61aを第2弁座面54bに当接する方向へ、付勢部材282によって付勢されている。この付勢部材282は、例えば圧縮コイルバネによって構成される。付勢部材282のことを、適宜「圧縮コイルバネ282」ということがある。この圧縮コイルバネ282は、第3ハウジング部43の底板43b(
図11参照)と、大径部262の底面262bとの間に介在している。圧縮コイルバネ282は、収納凹部251に嵌め込まれることによって、第1弁体250に対する位置が規定されている。
【0068】
この圧縮コイルバネ282は、大径部262の底面262bに当接する方の一端部282a側を先細り状とした(コイル径を小径にした)、「円錐圧縮コイルばね」の構成であることが好ましい。なぜなら、第2弁体260の小径部263を、圧縮コイルバネ282のコイル内に概ね隙間無く嵌め込むことが、可能となるからである。この結果、第2弁体260の中心(軸線CL)に対する、圧縮コイルバネ282の一端部282a部分のコイル中心を概ね合致させることができる。圧縮コイルバネ282の一端部282aは、大径部262の底面262bを偏り無く付勢することができる。
【0069】
圧縮コイルバネ282は、第2弁座面54bに対する第2シール面61aの開閉位置を維持する範囲に、第2弁体260の姿勢を規制している。例えば、
図15に示されるように、第2弁座面54bの軸線CLに対して、第2シール面61aの中心線QLが傾いたときには、第2シール面61aと共に、大径部262の底面262b及び小径部263も傾く。このときに、小径部263に押された圧縮コイルバネ282の一端部282aは、小径部263を元の軸線CLへ戻す方向Rbに反発する。
【0070】
加えて、大径部262の底面262bが傾くことによって、圧縮コイルバネ282の一端部282aに偏り荷重が作用する。このときに、一端部282aから大径部262の底面262bへ働く反力P1,P2(付勢力P1,P2)は偏る。底面262bのうち、一端部282aから離れる方に働く第1反力P1に対し、一端部282aを深く押す方に働く第1反力P2が大きい。反力P1,P2の差分によって、第2シール面61aの中心線QLを第2弁座面54bの軸線CLへ戻す方向Rbのモーメントが第2弁体260に生じる。
【0071】
このように、大径部262の底面262bと小径部263と圧縮コイルバネ282とによって、第2弁体260の姿勢を規制することができる。小径部263及び圧縮コイルバネ282のことを、適宜「規制部263,282」ということがある。
【0072】
図14に示されるように、第1弁体250(保持部材250)は、第2弁体260を直接に保持している。また、圧縮コイルバネ282は、第2弁体260を直接に付勢している。このため、
図3に示される上記実施例1の第2保持部材70は不要である。その分、切替弁200の部品数を削減することができるとともに、切替弁200の小型化を図ることができる。
【0073】
次に、切替弁200の開閉作用について、
図11、
図14及び
図16を参照しつつ説明する。
図11及び
図14に示される状態の切替弁200は、押し部34が第2弁体260から離反している。このため、圧縮コイルバネ282の付勢力によって、第2弁体260の第2シール面61aが第2弁座面54bに接触して閉鎖するとともに、第1弁体250の第1シール面53が第1弁座面41cに接触して閉鎖している。第1弁212及び第2弁213は閉鎖した状態にある。
【0074】
その後、押し部34が下降して第2弁体260の第2シール部61を押すと、第2弁体260は圧縮コイルバネ282の付勢力に抗して第2弁座面54bから離反する方向へ変位する。この結果、
図16に示されるように、第2弁体260の第2シール面61aが第2弁座面54bから離れるので、第2弁213は開放状態となる。第3ハウジング部243(弁ハウジング240)の第2オイル入り口43cから第3ハウジング部243内に流入したオイルは、オイル通過流路273とを流れ、第2シール面61aと第2弁座面54bとの間の隙間を通って、弁ハウジング240の外部へ流出する。
【0075】
図16に示されるように、第2弁213が開放した状態では、第1弁体250は圧縮コイルバネ282の付勢力を受けない。このため、第2弁213の上流側と下流側との間の、オイルの圧力差によって、第1弁体250の第1シール面53が第1弁座面41cから離れるので、第1弁212は開放状態となる。この結果、オイルが流れる流路Fpの流量を増すことができる。
【0076】
その後、第2押し部材32が上昇すると、押し部34は第2弁体260から離反する。この結果、圧縮コイルバネ282の付勢力により、第1弁212及び第2弁213は、
図11に示される元の閉鎖状態に戻る。
【0077】
実施例2の切替弁200の作用、効果は、上記実施例1の切替弁10の作用、効果と同じである。また、実施例2の切替弁200は、実施例1と同様に、各種のオイル装置、例えば油圧緩衝器100(
図8,
図9参照)に備えることができる。
【0078】
以上に説明した切替弁10,200及びこの切替弁10,200を備えた油圧緩衝器100についてまとめると、次の通りである。
【0079】
図1、
図2、
図10、
図11を参照する。本実施例によれば、第1に、切替弁10,200は、オイルが流れる流路Fpに連通することが可能な弁口54a(第2弁口54a)と、この弁口54aの周縁に形成されている弁座面54b(第2弁座面54b)と、を有している弁座54(第2弁座54)を含む。さらに切替弁10,200は、弁座面54bに対して接離可能にこの弁座面54bの軸線CLに沿う方向へ移動して弁口54aを開閉する樹脂成型品から成る部材60,260、つまり弁体60,260(第2弁体60,260)を含む。この弁体60,260は、弁座面54bに当接して密封可能な曲面状のシール面61a(第2シール面61a)を有しているシール部61(第2シール部61)と、このシール部61からシール面61aとは反対側へ延びて一体に形成されており樹脂成型のときに生じる痕跡部63,265(
図3及び
図13A参照)がそのまま残存している延長部62,264(
図3及び
図13A参照)と、を有している。さらに切替弁10,200は、弁体60,260のシール面61aが弁座面54bから離れたときに流路Fpの一部を形成することが可能な通路部分73,273を含む。さらに切替弁10,200は、弁座面54bに対するシール面61aの開閉位置を維持するように延長部62,264の姿勢を規制する規制部71a,263,282を含む。
【0080】
このように、樹脂成型品から成る弁体60,260は、曲面状のシール面61aを有しているシール部61と、このシール部61からシール面61aとは反対側へ延びて一体に形成され延長部62,264とによって構成されている。弁体60,260を樹脂成型する場合に発生し得る、パーティングラインや吐出ゲートなどの痕跡部63,265の部位は、延長部62,264に位置している。この延長部62,264は、弁座面54bに当接しない部分なので、シール性を必要としない。しかも、延長部62,264の姿勢は、規制部71a,263,282によって規制されている。痕跡部63,265が延長部62,264にそのまま残存しても、弁座面54bに対するシール面61aのシール性に影響を及ぼすことはない。延長部62,264から痕跡部63,265を除去する必要がないので、その分、弁体60,260の生産コストを低減することができる。このように、樹脂成型品から成る弁体60,260を備えた切替弁10,200の、シール性能を確保しつつコストダウンを図ることができる。
【0081】
図2を参照する。第2に、好ましくは、第1に記載の切替弁10であって、延長部62を保持する保持部材70(第2保持部材70)を含む。通路部分73及び規制部71aは、保持部材70に形成されている。
【0082】
保持部材70によって弁体60の延長部62を保持することにより、弁座面54bに対する弁体60のシール面61aの姿勢が安定する。このため、切替弁10のシール性を確実に維持することができる。さらには、オイル通路73aを有している通路部分73及び規制部71aを、保持部材70に設けたので、別個の通路部分及び規制部を必要としない。切替弁10の小型化を図ることができる。
【0083】
図2及び
図7を参照する。第3に、好ましくは、第1及び第2に記載の切替弁10であって、通路部分73は、保持部材70(第2保持部材70)の外周面70cに形成されたオイル通路73aによって構成され、弁座面54bの軸線CL方向に貫通している。
【0084】
保持部材70の中央は、弁体60(第2弁体60)の延長部62を保持する部分71(保持用孔71)を有している。一方、保持部材70の外周面70cであれば、制約がない。保持部材70の外周面70cにオイル通路73aを形成するので、オイル通路73aの断面積を大きく確保できる。
【0085】
図2及び
図7を参照する。第4に、好ましくは、第3に記載の切替弁10であって、保持部材70の外周面70cのうちの、少なくとも延長部62を保持する部分の周りには、全周にわたって、オイル通路73aと弁座54(第2弁座54)との間のオイル通過流路75が形成されている。
【0086】
保持部材70の外周面70cのうち、弁座54の近くであれば、比較的大きい断面積のオイル通過流路75を設けることが可能である。切替弁10を開いたときには、オイルはオイル通路73aからオイル通過流路75、弁体60のシール面61aと弁座面54bとの間、弁口54aを通って流路Fpへ流れることができる。オイル通過流路75の大きい断面積を確保することにより、オイルの通過抵抗を低減して、より円滑に流すことができる。
【0087】
図2及び
図4を参照する。第5に、好ましくは、第2~第4に記載の切替弁10であって、保持部材70は、延長部62を保持する部分71(保持用孔71)に対して反対側の端面70bに、圧縮コイルバネ82の一端部82aを受けるバネ受け用凹部72を有している。バネ受け用凹部72の底面72aは、弁体60のシール面61aを弁座面54bに当接する方向へ、圧縮コイルバネ82によって付勢されている。
【0088】
圧縮コイルバネ82は、保持部材70を介して弁体60を間接的に付勢している。このため、保持部材70によって延長部62を保持しているにもかかわらず、圧縮コイルバネ82は、弁座面54bに対してシール面61aを当接する方向へ、弁体60を安定して付勢することができる。
【0089】
図5を参照する。第6に、好ましくは、第1~第5に記載の切替弁10であって、シール部61は、半球状の構成である。延長部62は、シール部61の底の部位61b(境界61b)に連続し且つ底の部位61bの径Bdと同径の円柱状の構成である。
【0090】
弁体60は、半球状のシール部61と円柱状の延長部62との一体成型品であり、いわゆる砲弾形と称する形状に構成されている。このため、規制部71aによって延長部62の姿勢が規制される弁体60を、極めてシンプルな構成とすることができる。
【0091】
図2及び
図5を参照する。第7に、好ましくは、第2~第6に記載の切替弁10であって、弁体60(第2弁体60)は、可撓性樹脂から成る樹脂成型品である。保持部材70(第2保持部材70)は、延長部62を保持する保持用孔71を有している。延長部62は、保持用孔71に圧入によって保持されている。なお、可撓性樹脂としてはウレタン樹脂(ポリウレタン)や、ニトリルゴム(NBR)などが適用可能である。
【0092】
弁体60の材質は、ウレタン樹脂である。延長部62の底面63がそのまま残存している延長部62であっても、保持部材70の保持用孔71に対して、圧入により容易に嵌め込むことが可能であり、保持する構成も簡素化できる。弁体60を保持部材70に容易に組み付けることができる。
【0093】
図10及び
図14を参照する。第8に、好ましくは、第1に記載の切替弁200であって、延長部264は、シール部61(第2シール部61)の底の部位61b(境界61b)からシール面61aとは反対側へ拡径するテーパ状の大径部262(第1延長部262)を含む。通路部分273は、大径部262の外周面262cに形成されるとともに、弁座面54bの軸線CL方向に貫通している。切替弁200は、延長部264のなかの、大径部262の最も外径が大きい部位の外周面262cを保持する保持部材250(第1弁体250)を含んでいる。
【0094】
保持部材250は、シール部61の底の部位61bから拡径した大径部262のなかの、最大径の部位の外周面262cを保持している。つまり、保持部材250は、弁体260のうちの、シール部61よりも大径の部位を、保持することができる。このため、保持部材250は弁体260を安定して保持することができる。さらには、通路部分273は、大径部262の外周面262cに形成されている。このため、通路部分273を保持部材250に形成することなく、シール部61のシール性を確保することができる。保持部材250の小型化を図ることができる。
【0095】
図14を参照する。第9に、好ましくは、第8に記載の切替弁200であって、延長部264は、大径部262の底面262bからシール部61の底の部位61bとは反対側へ延び且つ大径部262の底面262bよりも小径の円柱状の小径部263(第2延長部263)を含む。大径部262の底面262bは、弁体260のシール面61aを弁座面54bに当接する方向へ、圧縮コイルバネ282によって付勢されている。小径部263は、圧縮コイルバネ282のコイル内に嵌め込まれている。規制部263,282は、小径部263と圧縮コイルバネ282とによって構成されている。
【0096】
圧縮コイルバネ282は、弁体260のなかの、径が大きい大径部262の底面262bを直接に付勢している。このため、圧縮コイルバネ282は、弁座面54bに対してシール面61aを当接する方向へ、弁体260を安定して付勢することができる。さらには、大径部262の底面262bからシール部61の底の部位61bとは反対側へ延びた小径部263は、圧縮コイルバネ282のコイル内に嵌め込まれている。このため、小径部263と圧縮コイルバネ282とによって、弁体260の姿勢を規制する規制部263,282を、簡素な構成とすることができる。
【0097】
図8を参照する。第10に、好ましくは、第1~第9に記載の切替弁10,200であって、油圧緩衝器100に備えている。
【0098】
樹脂成型品から成る弁体60,260を備えてシール性能を確保しつつコストダウンを図った切替弁10,200を、油圧緩衝器100に備えたので、この油圧緩衝器100自体の特性を確保しつつ、油圧緩衝器100のコストダウンを図ることができる。
【0099】
なお、本発明による切替弁10,200及びこの切替弁10,200を備えた油圧緩衝器100は、本発明の作用及び効果を奏する限りにおいて、上記実施例に限定されるものではない。例えば、切替弁10,200は、自動弁の構成に限定されず、手動操作式弁や逆止弁であってもよい。また、切替弁10,200は、パイロット型バルブの構成に限定されるものではない。また、倍力機構30の有無は任意であり、電磁ソレノイド20によって切替弁10,200を直接に駆動した構成であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0100】
本発明の切替弁10,200は、パイロット型バルブに適用するのに好適である。また、本発明の切替弁10,200及びこの切替弁10,200を備えた油圧緩衝器100は、鞍乗り型車両用に搭載するのに好適である。
【符号の説明】
【0101】
10…切替弁、 54…弁座(第2弁座)、 54a…弁口(第2弁口)、 54b…弁座面(第2弁座面)、 60…弁体(第2弁体)、 61…シール部(第2シール部)、 61a…シール面(第2シール面)、 61b…シール部の底の部位(境界)、 62…延長部、 63…痕跡部(成型痕跡)、 70…保持部材(第2保持部材)、 70b…延長部を保持する部分に対して反対側の端面、 70c…外周面、 71…延長部を保持する部分(保持用孔)、 71a…規制部、 72…バネ受け用凹部、 72a…バネ受け用凹部の底面、 73…通路部分、 73a…オイル通路、 75…オイル通過流路、 82…圧縮コイルバネ、 82a…圧縮コイルバネの一端部、 100…油圧緩衝器、 200…切替弁、 250…保持部材(第2保持部材、第1弁体)、 260…弁体(第2弁体)、 262…大径部(第1延長部)、 262b…大径部の底面、 262c…大径部の外周面、 263…小径部(第2延長部、規制部)、 264…延長部、 265…痕跡部(成型痕跡)、 273…通路部分、 282…圧縮コイルバネ(規制部)、 Bd…シール部の底の部位の径、 CL…弁座面の軸線、 Fp…オイルが流れる流路。
【要約】
切替弁(10)は、弁座(54)と弁体(60)と通路部分(73)と規制部(71a)とを含む。前記弁座(54)は、弁口(54a)の周縁に形成されている弁座面(54b)を有する。前記弁体(60)は、前記弁座面(54b)の軸線(CL)に沿う方向へ移動する樹脂成型品である。前記弁体(60)は、前記弁座面(54b)を密封可能な曲面状のシール面(61a)を有したシール部(61)と、前記シール部(61)から前記シール面(61a)とは反対側へ延びており樹脂成型のときに生じる痕跡部(63)がそのまま残存している延長部(62)と、を有する。前記通路部分(73)は、前記シール面(61a)が前記弁座面(54b)から離れたときに流路(Fp)の一部を形成するオイル通路(73a)を有する。前記規制部(71a)は、前記弁座面(54b)に対する前記シール面(61a)の開閉位置を維持するように前記延長部(62)の姿勢を規制する。