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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-17
(45)【発行日】2023-11-28
(54)【発明の名称】水防構造及び水防方法
(51)【国際特許分類】
   E02B 3/04 20060101AFI20231120BHJP
【FI】
E02B3/04
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2023555349
(86)(22)【出願日】2023-03-29
(86)【国際出願番号】 JP2023013016
【審査請求日】2023-09-08
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000005061
【氏名又は名称】バンドー化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】寺村 篤
(72)【発明者】
【氏名】川原 英昭
(72)【発明者】
【氏名】坂中 宏行
(72)【発明者】
【氏名】大和 辰徳
【審査官】柿原 巧弥
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-303425(JP,A)
【文献】特開昭60-005904(JP,A)
【文献】実開昭58-153223(JP,U)
【文献】特開2003-064643(JP,A)
【文献】特開昭59-220512(JP,A)
【文献】特開2015-121048(JP,A)
【文献】特開昭64-021111(JP,A)
【文献】特開2005-105775(JP,A)
【文献】特開2006-144294(JP,A)
【文献】特開2000-204527(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0284775(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02B 3/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
防に沿って設けた取付部と、
前記取付部の一方側に基端部が固定され、平板状の折畳み状態から内部にエアーを送り込むことで膨らむ膨張状態に形状変更可能で、前記膨張状態で前記堤防の上面よりも上昇した水位の水の流出を防ぐ膨張部材とを含み、
前記膨張部材は、
前記堤防に沿って長い膨張可能な部材よりなり、
前記基端部と、
前記基端部に連続し、前記膨張状態においてエアーが充填されて湾曲面を有するように膨らむ膨張部材本体とを備え、
前記膨張状態において、前記堤防の上面を超える水により前記膨張部材本体が押され、前記膨張部材本体よりも水側にある前記取付部が引張荷重を受けるように構成されている
ことを特徴とする水防構造。
【請求項2】
前記膨張部材は、
前記折畳み状態において表面が平坦な平板状となり、前記堤防の上面に配置され、前記膨張部材の上を歩行可能に構成され、
前記膨張状態において、前記取付部に基端部が固定された状態で膨張しての流出を防止可能に構成されている
ことを特徴とする請求項1に水防構造。
【請求項3】
前記膨張部材における、前記折畳み状態において上面となる部分には、滑り止め構造が設けられている
ことを特徴とする請求項2に記載の水防構造。
【請求項4】
堤防に沿って設けた取付部と、
前記取付部に基端部が固定され、平板状の折畳み状態から内部にエアーを送り込むことで膨らむ膨張状態に形状変更可能で、前記膨張状態で前記堤防の上面よりも上昇した水位の水の流出を防ぐ膨張部材とを含み、
前記膨張部材は、
前記堤防に沿って長い膨張可能な部材よりなり、
前記基端部と、
前記膨張状態においてエアーが充填されて湾曲面を有するように膨らむ膨張部材本体とを備え、
前記膨張状態において、前記堤防の上面を超える水により前記膨張部材本体が押され、水側にある前記取付部が引張荷重を受けるように構成されており、
前記取付部は、前記堤防の側内面に沿って配置され、
前記膨張部材は、
前記取付部と前記膨張部材本体とを連結する連結部を有し、
前記折畳み状態において、前記堤防の側内面に沿って配置され、
前記膨張状態において、前記水位が上昇するに従って上昇し、
前記連結部が折れ曲がって前記堤防の上面に反転可能である
ことを特徴とする防構造。
【請求項5】
前記取付部は、
前記堤防の上面に埋め込まれるアンカーボルトと、
前記アンカーボルトに挿通され、前記堤防の上面に接する受け部材と、
前記アンカーボルトに挿通され、前記受け部材と共に、前記膨張部材の基端部を挟み込んで保持する押さえ部材とを備えている
ことを特徴とする請求項1に記載の水防構造。
【請求項6】
堤防に沿って設けた取付部と、
前記取付部に基端部が固定され、平板状の折畳み状態から内部にエアーを送り込むことで膨らむ膨張状態に形状変更可能で、前記膨張状態で前記堤防の上面よりも上昇した水位の水の流出を防ぐ膨張部材とを含み、
前記膨張部材は、
前記堤防に沿って長い膨張可能な部材よりなり、
前記基端部と、
前記膨張状態においてエアーが充填されて湾曲面を有するように膨らむ膨張部材本体とを備え、
前記膨張状態において、前記堤防の上面を超える水により前記膨張部材本体が押され、水側にある前記取付部が引張荷重を受けるように構成されており、
前記取付部は、前記堤防の水側内面に沿って配置され、
前記膨張部材は、
前記取付部と前記膨張部材本体とを連結する連結部を有し、
前記折畳み状態において、前記堤防の水側内面に沿って配置され、
前記膨張状態において、前記水位が上昇するに従って上昇し、
前記連結部が折れ曲がって前記堤防の上面に反転可能であり、
前記取付部は、
前記側内面に埋め込まれるアンカーボルトと、
前記アンカーボルトに挿通され、前記側内面に接する受け部材と、
前記アンカーボルトに挿通され、前記受け部材と共に、前記膨張部材の基端部を挟み込んで保持する押さえ部材とを備えている
ことを特徴とする防構造。
【請求項7】
前記受け部材と前記押さえ部材との間に、棒状のロッドが巻き付けられた前記膨張部材の基端部が挟み込まれている
ことを特徴とする請求項5又は6に記載の水防構造。
【請求項8】
防に前記堤防の上面に沿って取付部を取り付け、前記取付部の一方側に、表面が平坦な平板状の折畳み状態の膨張可能な部材よりなる膨張部材の基端部を固定する設置工程と、
位が上昇したときに、前記膨張部材の膨張部材本体の内部にエアーを送り込み、前記取付部の一方側に基端部が固定された状態で膨らませて、前記堤防の上面を超える水により前記膨張部材本体が押され、前記膨張部材本体よりも水側にある前記取付部が引張荷重を受けた状態で、前記堤防の上面よりも上昇した水位の水の流出を防ぐ氾濫防止工程とを含み、
折畳み状態の膨張部材の上を歩行可能である
ことを特徴とする水防方法。
【請求項9】
防に前記堤防の側内面に沿って取付部を取り付け、前記取付部に、折畳み状態の膨張可能な部材よりなる膨張部材の基端部を固定する設置工程と、
位が上昇したときに、前記膨張部材の膨張部材本体の内部にエアーを送り込み、前記取付部に基端部が固定された状態で膨らませて前記取付部と前記膨張部材本体とを連結する連結部が折れ曲がって前記堤防の上面に反転し、前記堤防の上面よりも上昇した水位の水の流出を防ぐ氾濫防止工程とを含む
ことを特徴とする水防方法。
【請求項10】
前記取付部の水側のみに前記基端部が固定されている
ことを特徴とする請求項1に記載の水防構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膨張可能な膨張可能な部材よりなる膨張部材を備えた水防構造及びそれを用いた水防方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、河川の氾濫や海水の陸上浸入に備えて構築された堤防の長手方向に沿い、該堤防の頂面に対をなし該堤防の長手方向に沿い所定の間隔を存し列状に埋設された多対の碇着手段と、前記堤防の長手方向に沿い該堤防の頂面に載置され流体の供給により膨張起立し排出により倒伏する可撓性の長袋体と、列状に配設された碇着手段に係留しうる複数の可撓性連結材とを備えた、可撓性長袋体を用いた水防構造は知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、例えば、特許文献2のように、河川の堤防や住宅地等の防水区域の地面に開閉蓋を有する防水フェンスの収納ボックスを設置し、当該収納ボックス内に流体の注入、排出により上下方向に膨張、収縮自在なゴム袋体からなる防水フェンスが収納してあり、当該防水フェンスに流体を供給することにより、開閉蓋を開いて当該防水フェンスを起立伸長させる構成を特徴とする膨張式防水フェンス装置は知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開昭64-21111号公報
【文献】特許3656769号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の水防構造では、多数の可撓性連結部材が長袋体の上面全体を覆っているため、通常時には、見映えが悪く、また、出っ張りがあるため、邪魔になり、また、膨張時の長袋体の高さを高くできないという問題がある。
【0006】
また、特許文献2の膨張式防水フェンス装置では、一対の取付部の幅に比べて防水フェンスの高さが高く、取付部に過大な負荷がかからないようにフェンスを設けなければならず、大がかりな設備が必要となるという問題がある。
【0007】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、折畳み状態においては邪魔になりにくくて見映えがよく、膨張状態では、大きく膨らんで水の浸入を防ぐことができるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、この発明では、膨張部材の基端部のみを堤防に固定するようにした。
【0009】
具体的には、第1の発明の水防構造は、
河川又は海の堤防に前記堤防に沿って設けた取付部と、
前記取付部に基端部が固定され、平板状の折畳み状態から内部にエアーを送り込むことで膨らむ膨張状態に形状変更可能で、前記膨張状態で前記堤防の上面よりも上昇した水位の水の流出を防ぐ膨張部材とを含み、
前記膨張部材は、
前記堤防に沿って長い膨張可能な部材よりなり、
前記基端部と、
前記膨張状態においてエアーが充填されて湾曲面を有するように膨らむ膨張部材本体とを備え、
前記膨張状態において、前記堤防の上面を超える水により前記膨張部材本体が押され、河川又は海側にある前記取付部が引張荷重を受けるように構成されている。
【0010】
上記の構成によると、平板状の折畳み状態では、出っ張りがなくて見映えがよく、膨張状態では、取付部に基端部のみが固定されるので、取付が容易である。また、エアーによって膨張部材が膨張するので、液体に比べて膨張させやすく、平板状の折畳み状態に戻せばよいので、元に戻しやすい。さらに、取付部で引張荷重を受けるようにしているので、荷重を支持しやすくなって膨張部材本体を支えるフェンス部材などが必須とならず、構造が簡単となる。なお、「堤防」とは、一般に、河川の氾濫や海水の侵入を防ぐため、河岸・海岸に沿って設けた土石やコンクリート製の構築物を言うが、市街地を流れる小型河川のように、盛土が無いような岸の壁部も含む意味である。
【0011】
第2の発明では、第1の発明において、
前記膨張部材は、
前記折畳み状態において表面が平坦な平板状となり、前記堤防の上面に配置され、前記膨張部材の上を歩行可能に構成され、
前記膨張状態において、前記取付部に基端部が固定された状態で膨張して前記河川の水の流出を防止可能に構成されている。
【0012】
上記の構成によると、折畳み状態では表面が平坦な平板状となり、その上を歩行できるので、邪魔にならず、また、ゴム特有の柔らかさもあり、歩行者が歩きやすい。さらに、基端部が固定された状態で膨張部材本体が拡がるので、膨張部材を支えるためのフェンスは必ずしも必要ではなく、高さも確保しやすい。
【0013】
第3の発明では、第2の発明において、
前記膨張部材における、前記折畳み状態において上面となる部分には、滑り止め構造が設けられている。
【0014】
上記の構成によると、折畳み状態の膨張部材の上を歩いたり走ったりするときに滑らず安全である。
【0015】
第4の発明では、第1の発明において、
前記取付部は、前記堤防の河川又は海側内面に沿って配置され、
前記膨張部材は、
前記取付部と前記膨張部材本体とを連結する連結部を有し、
前記折畳み状態において、前記堤防の河川又は海側内面に沿って配置され、
前記膨張状態において、前記河川の水位が上昇するに従って上昇し、
前記連結部が折れ曲がって前記堤防の上面に反転可能である。
【0016】
上記の構成によると、折畳み状態では、取付部と膨張部材本体とが堤防の河川又は海側内面に配置されているので、見映えがよく、堤防を歩いたり走行したりするときに、邪魔にならない。また、膨張時には、連結部が折れ曲がって前記堤防の上面に反転するので、水位が徐々に上がる状況を一目で確認できる。さらに、連結部の長さを調整できるので、取付部の位置の自由度も高い。
【0017】
第5の発明では、第1の発明において、
前記取付部は、
前記堤防の上面に埋め込まれるアンカーボルトと、
前記アンカーボルトに挿通され、前記堤防の上面に接する受け部材と、
前記アンカーボルトに挿通され、前記受け部材と共に、前記膨張部材の基端部を挟み込んで保持する押さえ部材とを備えている。
【0018】
第6の発明では、第4の発明において、
前記取付部は、
前記河川又は海側内面に埋め込まれるアンカーボルトと、
前記アンカーボルトに挿通され、前記河川又は海側内面に接する受け部材と、
前記アンカーボルトに挿通され、前記受け部材と共に、前記膨張部材の基端部を挟み込んで保持する押さえ部材とを備えている。
【0019】
これらの構成によると、膨張部材の基端部が、受け部材と押さえ部材とに挟み込まれて抜け止めされているので、流れ込んできた水により引張荷重を受けても基端部が抜けるのが防止される。
【0020】
第7の発明では、第5又は第6の発明において、
前記受け部材と前記押さえ部材との間に、棒状のロッドが巻き付けられた前記膨張部材の基端部が挟み込まれている。
【0021】
上記の構成によると、棒状のロッドは、膨張可能な部材よりも変形しにくいため、引張荷重が加わったときに基端部がより抜けにくくなる。
【0022】
第8の発明の水防方法では、
河川の堤防に前記堤防の上面に沿って取付部を取り付け、前記取付部に、表面が平坦な平板状の折畳み状態の膨張可能な部材よりなる膨張部材の基端部を固定する設置工程と、
河川の水位が上昇したときに、前記膨張部材の膨張部材本体の内部にエアーを送り込み、前記取付部に基端部が固定された状態で膨らませて前記堤防の上面よりも上昇した水位の水の流出を防ぐ氾濫防止工程とを含み、
折畳み状態の膨張部材の上を歩行可能である。
【0023】
上記の構成によると、少なくとも平板状の折畳み状態の膨張部材の基端部を固定すればよいので、膨張部材の取付が容易である。また、膨張部材にエアーを送り込んで膨張させればよいので、液体を送り込む場合に比べて時間が短く、膨張状態から平板状の折畳み状態に戻しやすい。さらに、少なくとも膨張部材の基端部を固定すればよいので、膨張部材の高さを確保しやすく、水の流出を効果的に防止できる。しかも、折畳み状態では、その上を歩行できるので、邪魔にならず、また、ゴム特有の柔らかさもあり、歩行者が歩きやすい。
【0024】
第9の発明の水防方法では、
河川の堤防に前記堤防の河川又は海側内面に沿って取付部を取り付け、前記取付部に、折畳み状態の膨張可能な部材よりなる膨張部材の基端部を固定する設置工程と、
河川の水位が上昇したときに、前記膨張部材の膨張部材本体の内部にエアーを送り込み、前記取付部に基端部が固定された状態で膨らませて前記取付部と前記膨張部材本体とを連結する連結部が折れ曲がって前記堤防の上面に反転し、前記堤防の上面よりも上昇した水位の水の流出を防ぐ氾濫防止工程とを含む構成とする。
【0025】
上記の構成によると、少なくとも折畳み状態の膨張部材の基端部を固定すればよいので、膨張部材の取付が容易である。また、膨張部材にエアーを送り込んで膨張させればよいので、液体を送り込む場合に比べて時間が短く、膨張状態から折畳み状態に戻しやすい。さらに、堤防の河川又は海側内面に設置した状態では、堤防の上面には膨張部材が存在せず、見映えがよく、堤防を歩いたり走行したりするときに、邪魔にならない。膨張時には、連結部が折れ曲がって前記堤防の上面に反転するので、水位が徐々に上がる状況を一目で確認できる。
【発明の効果】
【0026】
以上説明したように、本発明によれば、折畳み状態においては邪魔になりにくくて見映えがよく、膨張状態では、大きく膨らんで水の浸入を防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1A】本発明の実施形態1に係る水防構造の折畳み状態を示す断面図である。
図1B】本発明の実施形態1に係る水防構造の膨張状態を示す断面図である。
図1C】本発明の実施形態1に係る水防構造の水の流出を防止する様子を示す断面図である。
図2】本発明の実施形態1に係る取付部及びその周辺を拡大して示す断面図である。
図3】本発明の実施形態1に係る水防構造のブロアシステムの概略を示す図である。
図4A】本発明の実施形態1の変形例1に係る水防構造の折畳み状態を示す断面図である。
図4B】本発明の実施形態1の変形例1に係る水防構造の膨張状態を示す断面図である。
図5A】本発明の実施形態1の変形例2に係る水防構造の通常時状態を示す断面図である。
図5B】本発明の実施形態1の変形例2に係る水防構造の折畳み状態を示す断面図である。
図5C】本発明の実施形態1の変形例2に係る水防構造の膨張状態を示す断面図である。
図6A】本発明の実施形態2に係る水防構造の折畳み状態を示す断面図である。
図6B】本発明の実施形態2に係る水防構造の膨張状態を示す断面図である。
図6C】本発明の実施形態2に係る水防構造の膨張部材が高水位の水面上に浮かぶ様子を示す断面図である。
図6D】本発明の実施形態2に係る水防構造の膨張部材がさらに高水位の水面上に浮かぶ様子を示す断面図である。
図6E】本発明の実施形態2に係る水防構造の膨張部材が堤防正面よりも高い水面上に浮かぶ様子を示す断面図である。
図6F】本発明の実施形態2の変形例1に係る水防構造の図4A相当断面図である。
図6G】本発明の実施形態2の変形例2に係る水防構造の図4A相当断面図である。
図7A】本発明の実施形態2の変形例3に係る水防構造の折畳み状態を示す断面図である。
図7B】本発明の実施形態2の変形例3に係る水防構造の膨張状態を示す断面図である。
図7C】本発明の実施形態2の変形例3に係る水防構造の膨張部材が高水位の水面上に浮かぶ様子を示す断面図である。
図7D】本発明の実施形態2の変形例3に係る水防構造の膨張部材がさらに高水位の水面上に浮かぶ様子を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の各実施形態を図面に基づいて説明する。
【0029】
(実施形態1)
-水防構造-
図1A図1Cは本発明の実施形態1の水防構造1を示し、この水防構造1は、河川の堤防10に、この堤防10に沿って延びるように設けた取付部3を備えている。取付部3は、河川に合わせ、直線状に設けてもよいし、折れ曲がって設けたり、湾曲して設けたりしてもよい。
【0030】
図2Aに拡大して示すように、取付部3には、膨張部材2の基端部2aが固定されている。この膨張部材2は、図1Aに示す平板状の折畳み状態から内部にエアーを送り込むことで膨らむ膨張状態(図1B参照)に形状変更可能で、膨張状態で堤防10の上面10aよりも上昇した水位の水Wの流出を防ぐことができるようになっている。
【0031】
膨張部材2は、堤防10に沿って長いゴム部材よりなる。詳しくは図示しないが、このゴム部材は、多層部材よりなり、基端部2aと、湾曲面を有するように膨らむ膨張部材本体2bとを備え、基端部2aは、補強芯体と、外層芯体と、カバーゴムとを含み、膨張部材本体2bは、膨張部芯体と、補強芯体と、外層芯体と、カバーゴムとを含む。各ゴム層は、補強のために帆布や芯材が設けられており、膨張部芯体の周りには、充填ゴムが充填されてエアーが漏れにくくなっていてもよい。また、膨張部芯体同士は、膨張時に離れやすいように離型剤が設けられていてもよい。基端部2aの長さは長くてもよく、取付部3と膨張部材本体2bとの間に板状の膨らまない連結部(例えば、図7Aの連結部402d)があってもよい。詳しくは図示しないが、基端部2aには、送風機からのエアーを取り入れる取り入れ口2cが設けられている(図3にのみ図示)。この構成は特に限定されないが、この取り入れ口2cは、例えば筒状部材で、膨張部材本体2b(膨張部芯体)の内部と密閉状に連通していればよい。また、膨張部材2の基端部2aと反対側に膨らまないフィン状の継手部(例えば、図7Dの継手部402e)があってもよい。
【0032】
図1Aに示すように、膨張部材2は、折畳み状態において、板状であり、堤防10の河川側上面10aに配置され、膨張部材2の上を歩行可能に構成されている。
【0033】
一方で、膨張部材2は、膨張状態において、取付部3に基端部2aが固定された状態で膨張して河川の水Wの流出を防止可能に構成されている。
【0034】
膨張部材2における、折畳み状態において上面となる部分には、凹凸表面などの滑り止め構造が設けられている。このため、折畳み状態の膨張部材2の上を歩行者Mが歩いたり走ったりするときに滑らず安全な構成となっている。
【0035】
図2Aに示すように、取付部3は、堤防10の上面10aに埋め込まれるアンカーボルト4と、アンカーボルト4に挿通され、堤防10の上面10aに接する受け部材3aと、アンカーボルト4に挿通され、受け部材3aと共に、膨張部材2の基端部2aを挟み込んで保持する押さえ部材3bとを備えている。
【0036】
アンカーボルト4は、基端4aがL字状に折れ曲がっており、抜けにくくなっている。折れ曲がった基端4aの延びる方向が氾濫時の引張荷重に沿うようにしてコンクリート5内部等に埋め込まれているのが望ましい。アンカーボルト4は、堤防10に沿って所定の間隔を開けて一列に設けられている。アンカーボルト4は、錆びにくいステンレス製などが適している。
【0037】
受け部材3aと、押さえ部材3bとは、相補形状の凹凸が設けられていると、基端部2aを挟み込んで締め付けたときに、基端部2aが抜けにくくて有利である。
【0038】
本実施形態の水防構造1は、図3に示すブロアシステム20を有する。このブロアシステム20は、例えば、堤防10の上面10aに設けられ、例えば、電動モータにより駆動されるブロア21と、ブロア21からのエアーの供給又は排気を切り換える切換弁22及び切換レバー23と、圧力計24と、電動給気弁25と、これらを制御する制御盤26とを備えている。緊急時には、ブロア21からの供給用ホース27が、膨張部材2の基端部2aの所定場所に設けられた空気取り入れ口2cに接続される。
【0039】
-水防方法-
次に、本実施形態に係る水防方法について説明する。
【0040】
まず、設置工程において、河川の堤防10に、この堤防10に沿って取付部3を取り付ける。具体的には、図2Aに示すように、既存又は新規の堤防10に所定間隔を開けてアンカーボルト4を埋め込む。上述したように、アンカーボルト4の折れ曲がった基端4aの延びる方向が、氾濫時の引張荷重に沿うようにしてコンクリート5の内部等に埋め込む。コンクリート5の表面からは、アンカーボルト4の先端のみが突出する。
【0041】
そして、取付部3に、表面が平坦な平板状の折畳み状態の膨張部材2の基端部2aを固定する。具体的には、受け部材3aの平坦な面がコンクリート5の上面に当接するように、その貫通孔(図示せず)にアンカーボルト4の先端を通す。
【0042】
次いで、その先端に膨張部材2の基端部2aの貫通孔(図示せず)を挿通し、次いで、押さえ部材3bの貫通孔(図示せず)を挿通させ、押さえ部材3bと受け部材3aとで基端部2aを挟み込む。
【0043】
次いで、アンカーボルト4の先端に締結用ナット4bを挿通し、所定の締付トルクで締め付ける。このように、少なくとも折畳み状態の膨張部材2の基端部2aを固定すればよいので、膨張部材2の取付が容易である。
【0044】
このとき、図1Aに示すように、膨張部材2は、板状の状態で、堤防10の上面10aにできるだけ平坦となるように拡げておく。そうすると、この折畳み状態では、見映えがよく、また、その上を歩行者Mが歩行できる。このため、膨張部材2が邪魔にならず、また、ゴム特有の柔らかさもあり、歩行者Mが歩いたり走ったりしやすい。
【0045】
次いで、氾濫防止工程において、河川の水位が上昇したときに、図3に示すように、膨張部材2の内部に取り入れ口2cからエアーを送り込む。具体的には、ブロア21からの供給用ホース27を膨張部材2の空気取り入れ口2cに接続した後、制御盤26を操作してブロア21を起動してエアー(空気)を膨張部材本体2bに送り込む。
【0046】
すると、図1Bに示すように、膨張部材2の膨張部材本体2bは、取付部3に基端部2aが固定された状態で膨らむ。
【0047】
さらに水位が上昇すると、図1Cに示すように、膨張状態にある膨張部材本体2bが、堤防10上面10aよりも上昇した水位の水Wの流出を防ぐ。この状態では、基端部2aがしっかりと固定された状態で膨張部材2が拡がるので、膨張部材2を支えるためのフェンスは必ずしも必要ではなく、強度を高くできるため、高さも確保しやすい。
【0048】
このように、本実施形態の膨張部材2は、膨張部材2にエアーを送り込んで膨張させればよいので、液体を送り込む場合に比べて時間が短く、再び折り畳む場合でも、膨張状態から平板状態に戻しやすい。
【0049】
さらに、本実施形態では、膨張部材2の基端部2aが、受け部材3aと押さえ部材3bとに挟み込まれて抜け止めされているので、流れ込んできた水Wにより引張荷重を受けても基端部2aが抜けるのが防止される。
【0050】
したがって、本実施形態に係る水防構造1によると、折畳み状態においては邪魔になりにくくて見映えがよく、膨張状態では、大きく膨らんで水Wの浸入を防ぐことができる。
【0051】
-実施形態1の変形例1-
図4A及び図4Bは本発明の実施形態1の変形例1に係る水防構造101を示し、膨張部材102の折畳み状態の形状(巻き取り状態)が異なる点で上記実施形態1と異なる。なお、以下の各変形例及び実施形態2では、図1A図3と同じ部分については同じ符号を付してその詳細な説明は省略する。
【0052】
本変形例に係る水防構造101では、膨張部材102は、折畳み状態で平板状ではなく、丸められている。この構成は、設置スペースが狭く、上記実施形態1のような平板状の膨張部材2を配置できない部分に適している。膨張部材102を膨張させるときには、エアーの圧力で、自動で開く。
【0053】
なお、本変形例では、歩行者Mは、膨張部材102の上を歩くことができないが、その横は歩くことができる。
【0054】
このため、堤防10のうち一部領域のみ本変形例の膨張部材102を設置するようにしてもよい。
【0055】
-実施形態1の変形例2-
図5A図5Cは本発明の実施形態1の変形例2に係る水防構造201を示し、設置位置が橋Aの手前である点及びそれにより構成が異なる点で、上記実施形態1と異なる。
【0056】
本変形例では、自動車C等が通過する橋Aの手前であるため、上記実施形態1の膨張部材2のように常時設置しておけないため、図5Aに示すように、取付部3を側溝Gの中に収容しておき、図5Bに示すように、水位が上がったときには側溝Gの蓋Lを開いて取付部3に膨張部材202の基端部2aを取り付けるとよい。
【0057】
すると、図5Cのように水位が上がってきて橋Aよりも高くなっても、橋Aの手前側に水Wが流れ込まない。
【0058】
例えば、橋Aの手前以外の堤防10の部分は、上記実施形態1の水防構造1としておき、橋Aの手前のみ本変形例の構成としてもよい。
【0059】
本変形例の構成により、自動車Cが通過するような領域においても取付部3が邪魔にならず、また、膨張部材202が傷むことはない。ただし、膨張部材202を搬入し取付部3に固定する手間がかかるので、最小限の範囲とするとよい。
【0060】
(実施形態2)
図6A図6Eは本発明の実施形態2に係る水防構造301を示し、取付部3の取付位置が異なる点で上記実施形態1と異なる。
【0061】
本実施形態では、設置工程において、取付部3の受け部材3aは、堤防10の河川側内面10bに接するように設けられている。また、膨張部材2は、折畳み状態において、堤防10の河川側内面10bに沿って配置され、膨張状態において、河川の水位が上昇するに従って上昇し、堤防10の上面10aに反転可能となっている。
【0062】
図6Aに示すように、通常は、取付部3及び折畳み状態の膨張部材2が堤防10の上面10aにはないので、見映えがよくて邪魔にならない。
【0063】
次いで、氾濫防止工程において、図6Bに示す膨張状態では、膨張した膨張部材2は、最初、堤防10よりも河川側にある。
【0064】
図6Cに示すように、水位が上昇するに従って膨張部材2も上昇するので、歩行者M等が、水位が上昇していることを視認しやすい。
【0065】
図6Dに示すように、さらに水位が上昇すると、かなり危険な水位にあることが分かる。
【0066】
さらに、図6Eに示すように、水位がさらに上がると、膨張部材2が堤防10の上面10a上に反転し、その高さを確保できるので、水Wの流出を効果的に防ぐことができる。
【0067】
-実施形態2の変形例1-
図6Fは本発明の実施形態2の変形例1に係る水防構造301’を示し、堤防10’の形状が上記各実施形態と異なる。
【0068】
すなわち、堤防10’の上面10a’の幅が狭い。つまり、幅が狭くて平板状の膨張部材2の設置スペースが確保できないような場合に本変形例は有利である。
【0069】
この場合も、膨張部材2は、基端部2aのみが河川側内面10b’に設けた取付部3に固定されているので、堤防10’の上面10a’の幅が狭くても問題なく、基端部2aに加わる引張荷重を取付部3で支持できるので、水Wの浸入を防止することができる。
【0070】
-実施形態2の変形例2-
図6Gは本発明の実施形態2の変形例2に係る水防構造301’’を示し、堤防10’’の形状が上記各実施形態と異なる。
【0071】
すなわち、堤防10’’の河川側内面10b’’が傾斜しており、上面10a’’の幅も狭い。
【0072】
本変形例においても、基端部2aに加わる引張荷重を取付部3で支持できるので、水Wの浸入を効果的に防止することができる。
【0073】
-実施形態2の変形例3-
図7A図7Dは、本発明の実施形態2の変形例2に係る水防構造401を示し、主に折畳み時に膨張部材402が水面下にある点で上記各実施形態と異なる。
【0074】
すなわち、本変形例では、取付部3に挟持される基端部402aと膨張部402bとの間に面積の広い板状の連結部402dが形成されており、その先端側に膨張部402bが連結されている。
【0075】
なお、図7Dに示すように、膨張部402bの先端側に空気の入らないフィン状(帯状)の継手部402eが設けられていてもよい。
【0076】
本変形例は、石、岩などが流れ込みにくい比較的小規模の水路等を対象とし、対面側にも取付部3及び膨張部材402が設けられている。
【0077】
図7Aに示すように、通常時、膨張部材402の少なくとも一部は、水面下に隠れているので、見映えがよい。
【0078】
そして、膨張時には、図7Bに示すように、膨らんだ膨張部402bが水面に浮かぶ。
【0079】
次いで、図7Cに示すように、河川の水Wの水位が上がるにつれて膨張部402bが徐々に上昇する。すると、歩行者Mは、水位が上がっていることを一目で判断できる。
【0080】
そして、図7Dに示すように、水位が堤防10の上面10aよりも上昇すると、膨張部402bが反転して堤防10の上面10aに乗り上げ、河川の水Wがあふれ出るのを防止する。
【0081】
このようにして、本変形例においても、基端部2aに加わる引張荷重を取付部3で支持できるので、水Wの浸入を効果的に防止することができる。
【0082】
(その他の実施形態)
本発明は、上記実施形態について、以下のような構成としてもよい。
【0083】
すなわち、上記実施形態では、図2Aに示す取付部3を設けた。詳細は図示しないが、アンカーボルトに挿通した受け部材と押さえ部材との間に、棒状のロッドが巻き付けられた膨張部材の基端部が挟み込まれた取付部を設けてもよい。そうすると、棒状のロッドは、ゴム部材よりも変形しにくいため、引張荷重が加わったときに基端部がより抜けにくくなる。
【0084】
上記実施形態では、河川氾濫を対象としているが、海に面する堤防(岸壁を含む)に水防構造1を設置すれば、小規模な津波や、台風による高波、高潮等からの防護にも適用できることはもちろんである。
【0085】
上記実施形態では、膨張部材2は、ゴム部材としたが、折り畳んだり丸めたりでき、ある程度剛性があれば、塩ビシート、ターポリン等の膨張可能な部材でもよい。
【0086】
膨張部材2は、収納時、膨張時共に見映えをよくするために表面に絵柄が設けられていてもよい。
【0087】
なお、以上の実施形態は、本質的に好ましい例示であって、本発明、その適用物や用途の範囲を制限することを意図するものではない。
【符号の説明】
【0088】
1 水防構造
2 膨張部材
2a,2a’ 基端部
2b 膨張部材本体
2c 空気取り入れ口
3,3’ 取付部
3a,3a’ 受け部材
3b,3b’ 押さえ部材
3c’ ロッド
3d’ ビス
4,4’ アンカーボルト
4a 基端
4b 締結用ナット
5 コンクリート
10,10’,10’’ 堤防
10a,10a’,10a’’ 上面
10b,10b’,10b’’ 河川側内面
20 ブロアシステム
21 ブロア
22 切換弁
23 切換レバー
24 圧力計
25 電動給気弁
26 制御盤
27 供給用ホース
101 水防構造
102 膨張部材
201 水防構造
202 膨張部材
301,301’,301’’ 水防構造
401 水防構造
402 膨張部材
402a 基端部
402b 膨張部
402d 連結部
402e 継手部
A 橋
C 自動車
G 側溝
W 水
【要約】
水防構造(1)は、河川の堤防(10)に堤防(10)に沿って設けた取付部(3)と、取付部(3)に基端部(2a)が固定され、折畳み状態から内部にエアーを送り込むことで膨らむ膨張状態に形状変更可能で、膨張状態で堤防(10)の上面(10a)よりも上昇した水位の水(W)の流出を防ぐ膨張部材(2)とを備える。膨張部材(2)が、堤防10に沿って長い膨張可能な部材よりなり、取付部(3)に固定される基端部(2a)と、膨張状態においてエアーが充填されて湾曲面を有するように膨らむ膨張部材本体(2b)とを備え、膨張状態において、流れ込む水(W)により膨張部材本体(2b)が押され、河川又は海側にある取付部(3)が引張荷重を受けるように構成する。
図1A
図1B
図1C
図2
図3
図4A
図4B
図5A
図5B
図5C
図6A
図6B
図6C
図6D
図6E
図6F
図6G
図7A
図7B
図7C
図7D