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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-17
(45)【発行日】2023-11-28
(54)【発明の名称】燃料電池電極触媒
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/92 20060101AFI20231120BHJP
   H01M 4/86 20060101ALI20231120BHJP
   H01M 4/88 20060101ALI20231120BHJP
   H01M 4/96 20060101ALI20231120BHJP
   H01M 8/10 20160101ALI20231120BHJP
   B01J 23/42 20060101ALI20231120BHJP
   B01J 37/02 20060101ALI20231120BHJP
   B01J 37/08 20060101ALI20231120BHJP
   B01J 37/16 20060101ALI20231120BHJP
【FI】
H01M4/92
H01M4/86 B
H01M4/88 K
H01M4/96 B
H01M8/10 101
B01J23/42 M
B01J37/02 101E
B01J37/08
B01J37/16
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2023562325
(86)(22)【出願日】2023-05-23
(86)【国際出願番号】 JP2023019106
【審査請求日】2023-10-10
(31)【優先権主張番号】P 2022111131
(32)【優先日】2022-07-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000104607
【氏名又は名称】株式会社キャタラー
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100208225
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 修二郎
(74)【代理人】
【識別番号】100217179
【弁理士】
【氏名又は名称】村上 智史
(74)【代理人】
【識別番号】100122404
【弁理士】
【氏名又は名称】勝又 秀夫
(72)【発明者】
【氏名】堀 彰宏
(72)【発明者】
【氏名】笹川 廉
(72)【発明者】
【氏名】山本 憲司
【審査官】山本 雄一
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-138780(JP,A)
【文献】特開2009-238438(JP,A)
【文献】特開2005-235556(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/86- 4/98
H01M 8/00- 8/0297
H01M 8/08- 8/2495
B01J 21/00-38/74
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボン担体に、Pt又はPt合金から成る触媒金属粒子が担持されている、燃料電池電極触媒であって、
前記電極触媒についてXRDを測定したときに、下記数式で表されるPt(111)面のピーク強度比が0.626~0.630である:
Pt(111)ピーク強度比=Pt(111)ピーク強度/(Pt(111)ピーク強度+Pt(200)ピーク強度+Pt(220)ピーク強度)
燃料電池電極触媒。
【請求項2】
前記電極触媒についてXRDを測定したときに、下記数式で表されるPt(200)面のピーク強度比が0.240~0.243である:
Pt(200)ピーク強度比=Pt(200)ピーク強度/(Pt(111)ピーク強度+Pt(200)ピーク強度+Pt(220)ピーク強度)
請求項1に記載の燃料電池電極触媒。
【請求項3】
前記電極触媒についてXRDを測定したときに、下記数式で表されるPt(220)面のピーク強度比が0.129~0.132である:
Pt(220)ピーク強度比=Pt(220)ピーク強度/(Pt(111)ピーク強度+Pt(200)ピーク強度+Pt(220)ピーク強度)
請求項1に記載の燃料電池電極触媒。
【請求項4】
前記触媒金属粒子の粒径が、3.0nm以上5.0nm以下である、請求項1~3のいずれか一項に記載の燃料電池電極触媒。
【請求項5】
前記カーボン担体が、ファーネス法導電性カーボンブラックの粒子である、請求項1~3のいずれか一項に記載の燃料電池電極触媒。
【請求項6】
前記電極触媒の全質量に対する前記触媒金属粒子の質量の比で表される、前記触媒金属粒子の担持量が、1.0質量%以上50質量%以下である、請求項1~3のいずれか一項に記載の燃料電池電極触媒。
【請求項7】
請求項1~3のいずれか一項に記載の燃料電池電極触媒を含む触媒層を有する、燃料電池のカソード。
【請求項8】
請求項7に記載のカソードを含む、燃料電池電極接合体。
【請求項9】
請求項8に記載の燃料電池電極接合体を含む、燃料電池。
【請求項10】
カーボン担体と触媒金属前駆体とを接触させること、
前記触媒金属前駆体を還元して、前記カーボン担体上にPt又はPt合金から成る触媒金属粒子を担持して、電極触媒前駆体を得ること、及び
前記電極触媒前駆体を、酸素分圧4.0Pa以上800Pa以下、500℃以上1,100℃以下の条件下で焼成すること、
を含む、燃料電池電極触媒の製造方法。
【請求項11】
前記焼成を減圧下で行う、請求項10に記載の燃料電池電極触媒の製造方法。
【請求項12】
前記焼成を不活性気体の流通下で行う、請求項10に記載の燃料電池電極触媒の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池電極触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、次世代の電池として期待されている。特に、固体高分子形燃料電池は、作動温度が低く、起動時間が短く、コンパクトである等の利点を有し、自動車の駆動用電源等の分野では、既に実用化が始まっている。
【0003】
固体高分子形燃料電池は、カソード(空気極)、固体高分子電解質膜、及びアノード(燃料極)がこの順に積層された構造を有する。このような固体高分子形燃料電池では、カソードには酸素又は空気が供給され、アノードには燃料、例えば水素が供給されると、各極で酸化・還元反応が起こり、電力が発生する。
【0004】
燃料電池では、電極中に、上記の酸化・還元反応を促進するための燃料電池電極触媒を含む。この燃料電池電極触媒としては、カーボン担体上に、触媒金属粒子を担持させた構造のものが、広く用いられている。燃料電池電極触媒の触媒金属粒子としては、Pt粒子及びPt合金粒子が知られている。
【0005】
例えば、特許文献1には、担体粒子の存在下、液相にて、Pt前駆体化合物を還元して、担体粒子上にPtを還元担持する、Pt担持触媒の製造方法が記載されている。また、特許文献2には、固体高分子形燃料電池のカソードの活性を向上するために、触媒金属粒子として、Pt合金粒子を用いることが記載されており、担体粒子にPt及び合金金属を担持させた後に焼成する、燃料電池触媒の製造方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平08-084930号公報
【文献】特開2003-142112号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1の教示にしたがって、液相にて担体粒子上にPtを還元担持する方法により製造された燃料電池触媒は、必ずしも所期の活性を示すものではない。特に、この燃料電池触媒をカソード触媒として用いると、触媒活性が著しく低い場合がある。
【0008】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、触媒活性が高く、カソード触媒として用いたときにも所期の触媒活性を示す、燃料電池触媒の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は以下のとおりである。
【0010】
《態様1》カーボン担体に、Pt又はPt合金から成る触媒金属粒子が担持されている、燃料電池電極触媒であって、
前記電極触媒についてXRDを測定したときに、下記数式で表されるPt(111)面のピーク強度比が0.626~0.630である:
Pt(111)ピーク強度比=Pt(111)ピーク強度/(Pt(111)ピーク強度+Pt(200)ピーク強度+Pt(220)ピーク強度)
燃料電池電極触媒。
《態様2》前記電極触媒についてXRDを測定したときに、下記数式で表されるPt(200)面のピーク強度比が0.240~0.243である:
Pt(200)ピーク強度比=Pt(200)ピーク強度/(Pt(111)ピーク強度+Pt(200)ピーク強度+Pt(220)ピーク強度)
態様1に記載の燃料電池電極触媒。
《態様3》前記電極触媒についてXRDを測定したときに、下記数式で表されるPt(220)面のピーク強度比が0.129~0.132である:
Pt(220)ピーク強度比=Pt(220)ピーク強度/(Pt(111)ピーク強度+Pt(200)ピーク強度+Pt(220)ピーク強度)
態様1に記載の燃料電池電極触媒。
《態様4》前記触媒金属粒子の粒径が、3.0nm以上5.0nm以下である、態様1~3のいずれか一項に記載の燃料電池電極触媒。
《態様5》前記カーボン担体が、ファーネス法導電性カーボンブラックの粒子である、態様1~3のいずれか一項に記載の燃料電池電極触媒。
《態様6》前記電極触媒の全質量に対する前記触媒金属粒子の質量の比で表される、前記触媒金属粒子の担持量が、1.0質量%以上50質量%以下である、態様1~3のいずれか一項に記載の燃料電池電極触媒。
《態様7》態様1~3のいずれか一項に記載の燃料電池電極触媒を含む触媒層を有する、燃料電池のカソード。
《態様8》態様7に記載のカソードを含む、燃料電池電極接合体。
《態様9》態様8に記載の燃料電池電極接合体を含む、燃料電池。
《態様10》カーボン担体と触媒金属前駆体とを接触させること、
前記触媒金属前駆体を還元して、前記カーボン担体上に触媒金属粒子を担持して、電極触媒前駆体を得ること、及び
前記電極触媒前駆体を、酸素分圧4.0Pa以上800Pa以下、500℃以上1,100℃以下の条件下で焼成すること、
を含む、燃料電池電極触媒の製造方法。
《態様11》前記焼成を減圧下で行う、態様10に記載の燃料電池電極触媒の製造方法。
《態様12》前記焼成を不活性気体の流通下で行う、態様10に記載の燃料電池電極触媒の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によると、触媒活性が高く、カソード触媒として用いたときにも稼働時の活性低下を来たさない、燃料電池触媒が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0012】
《燃料電池電極触媒》
本発明の燃料電池触媒は、
カーボン担体に、Pt又はPt合金から成る触媒金属粒子が担持されている、燃料電池電極触媒であって、
電極触媒についてXRDを測定したときに、下記数式で表されるPt(111)面のピーク強度比が0.626~0.630である:
Pt(111)ピーク強度比=Pt(111)ピーク強度/(Pt(111)ピーク強度+Pt(200)ピーク強度+Pt(220)ピーク強度)
燃料電池電極触媒である。
【0013】
本発明の燃料電池触媒は、例えば、
カーボン担体と触媒金属前駆体とを接触させること、
触媒金属前駆体を還元して、カーボン担体上に触媒金属粒子を担持して、電極触媒前駆体を得ること、及び
電極触媒前駆体を、酸素分圧4.0Pa以上800Pa以下、300℃以上1,100℃以下の条件下で焼成すること、
を含む方法により製造されてよい。
【0014】
上述したとおり、液相にて担体粒子上にPtを還元担持し、その後に焼成を行わない方法により製造された燃料電池電極触媒は、必ずしも、所期の活性を示すものではない。特に、この電極触媒を、カソード触媒として用いると、燃料電池の稼働時に触媒活性が著しく低下する。
【0015】
本発明者らの検討によると、焼成工程を含まないPt還元担持法によって製造された燃料電池電極触媒における触媒金属粒子では、粒子担体上にPtを還元担持する際に、最も安定なPt(111)面が優先して成長することが分かった。Pt(111)面の露出割合が高いと、触媒活性が低いことが知られている。このことは、後述の実施例でも検証されている。
【0016】
そこで、粒子担体上にPtを還元担持して得られたPt担持カーボン(電極触媒前駆体)を焼成して、Pt粒子径を成長させるとともに、Ptの結晶性を調節することが考えられる。
【0017】
ここで、焼成時の雰囲気中に、有意量の酸素が残留していると、カーボン担体が燃焼して、触媒金属粒子が粗大化することが懸念される。一方で、本発明者らの検討により、焼成時の雰囲気中の酸素が過度に少ないと、Ptの(111)面が優先して成長し、上記の課題が解決されないことが分かった。
【0018】
本発明では、粒子担体上にPtを還元担持して得られたPt担持カーボン(電極触媒前駆体)を、酸素分圧4.0Pa以上800Pa以下の条件下で焼成することにした。このような製造方法によって得られる燃料電池電極触媒では、カーボン担体の燃焼が抑制されつつ、触媒金属粒子のPt(111)面の割合が適度の範囲内に調節される結果、XRDを測定したときに下記数式:
Pt(111)ピーク強度比=Pt(111)ピーク強度/(Pt(111)ピーク強度+Pt(200)ピーク強度+Pt(220)ピーク強度)で表されるPt(111)面のピーク強度比が0.626~0.630である燃料電池電極触媒となるのである。
【0019】
〈カーボン担体〉
本発明の燃料電池電極触媒におけるカーボン担体は、例えば、カーボンブラック、黒鉛、炭素繊維、活性炭、アモルファス炭素、ナノカーボン材料等であってよい。ナノカーボン材料は、カーボンナノチューブ、グラフェン、フラーレン等を包含する。
【0020】
本発明におけるカーボン担体としては、特に、カーボンブラックを用いてよい。カーボンブラックは、ファーネス法カーボンブラック、チャンネル法カーボンブラック、アセチレン法カーボンブラック、サーマル法カーボンブラック等であってよい。本発明におけるカーボン担体は、特に、ファーネス法導電性カーボンブラックの粒子であってよい。
【0021】
本発明におけるカーボン担体は、窒素を吸着質としてBET法によって測定した比表面積が、10m/g以上、20m/g以上、30m/g以上、40m/g以上、50m/g以上、100m/g以上、150m/g以上、又は200m/g以上であってよく、1,700m/g以下、1,600m/g以下、1,500m/g以下、1,400m/g以下、1,200m/g以下、1,000m/g以下、800m/g以下、600m/g以下、500m/g以下、400m/g以下、300m/g以下、250m/g以下、又は200m/g以下であってよい。
【0022】
カーボン担体の比表面積は、例えば、10m/g以上1,700m/g以下、50m/g以上1,500m/g以下、又は100m/g以上1,400m/g以下であってよい。
【0023】
カーボン担体の粒径は、電子顕微鏡観察によって測定された個数平均の一次粒径として、5nm以上、10nm以上、20nm以上、30nm以上、又は50nm以上であってよく、300nm以下、200nm以下、100nm以下、又は50nm以下であってよい。
【0024】
カーボン担体の粒径は、燃料電池電極触媒について撮影された電子顕微鏡像に基づいて、等価直径の個数平均として計算することができる。なお、「等価直径」とは、測定対象図形の外周長さと等しい外周長さを有する正円の直径をいう。
る。
【0025】
〈触媒金属粒子〉
触媒金属粒子は、Pt又はPt合金から成り、カーボン担体に担持されている。
【0026】
触媒金属粒子がPt合金から成っているとき、該Pt合金は、
Ptと、
Ti、Cr、Mo、W、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Ga、Zr、Hf、Ru、Ir、Pd、Os、Rh、及びSnから成る群から選択される1種又は2種以上の金属と
を含む合金であってよい。
【0027】
Pt合金は、典型的には、Pt-Fe合金、Pt-Co合金、又はPt-Ni合金であってよい。
【0028】
Pt合金中のPt原子の割合は、Pt合金中の金属原子のモル数の合計に対してPt原子のモル数が占める百分率として、50モル%以上、60モル%以上、70モル%以上、75モル%以上、80モル%以上、又は85モル%以上であってよく、99モル%以下、95モル%以下、90モル%以下、85モル%以下、80モル%以下、又は75モル%以下であってよい。
【0029】
触媒金属粒子の平均粒径は、1.0nm以上、1.5nm以上、2.0nm以上、2.5nm以上、又は3.0nm以上であってよく、10.0nm以下、8.0nm以下、6.0nm以下、5.0nm以下、4.5nm以下、又は4.0nm以下であってよい。平均粒径が10.0nm以下の触媒金属粒子は、比活性が高い利点を有する。平均粒径が1.0nm以上の触媒金属粒子は、燃料電池を長期間稼働したときの比活性の維持性に優れる利点を有する。
【0030】
触媒金属粒子の粒径は、例えば、3.0nm以上5.0nm以下であってよい。
【0031】
触媒金属粒子がPt粒子である場合、触媒金属粒子の平均粒径は、燃料電池電極触媒のXRD測定におけるPtの(220)面の回折ピークの線幅から、シェラー式によって算出されてよい。一方、触媒金属粒子がPt合金である場合、触媒金属粒子の平均粒径は、小角X線散乱又は透過型電子顕微鏡(TEM)によって算出されてよい。
【0032】
上述したように、本発明の燃料電池電極触媒についてXRDを測定したときに、下記数式で表されるPt(111)面のピーク強度比は、0.626~0.630である。
Pt(111)ピーク強度比=Pt(111)ピーク強度/(Pt(111)ピーク強度+Pt(200)ピーク強度+Pt(220)ピーク強度)
【0033】
このPt(111)面のピーク強度比が0.626~0.630の範囲であると、燃料電池電極触媒の触媒活性が高く、本発明の電極触媒を燃料電池のカソードに用いたときでも、高い触媒活性が長期間維持される。
【0034】
また、本発明の燃料電池電極触媒についてXRDを測定したときに、下記数式で表されるPt(200)面のピーク強度比は、0.240~0.243であってよい。
Pt(200)ピーク強度比=Pt(200)ピーク強度/(Pt(111)ピーク強度+Pt(200)ピーク強度+Pt(220)ピーク強度)
【0035】
Pt(200)面のピーク強度比が0.240~0.243の範囲であると、燃料電池電極触媒の触媒活性はより高くなる。
【0036】
更に、本発明の燃料電池電極触媒についてXRDを測定したときに、下記数式で表されるPt(220)面のピーク強度比は、0.129~0.132であってよい。
Pt(220)ピーク強度比=Pt(220)ピーク強度/(Pt(111)ピーク強度+Pt(200)ピーク強度+Pt(220)ピーク強度)
【0037】
Pt(220)面のピーク強度比が0.129~0.132の範囲であると、燃料電池電極触媒の触媒活性は更に高くなる。
【0038】
本発明の燃料電池電極触媒において、触媒金属粒子はカーボン担体に担持されている。
【0039】
本発明の燃料電池電極触媒における触媒金属粒子の担持量は、電極触媒の全質量に対する触媒金属粒子の質量の比として、1.0質量%以上、5.0質量%以上、10質量%以上、15質量%以上、20質量%以上、又は25質量%以上であってよく、70質量%以下、60質量%以下、50質量%以下、45質量%以上、40質量%以上、又は35質量%以上であってよい。
【0040】
〈任意成分〉
本発明の燃料電池電極触媒は、カーボン担体及び触媒金属粒子を含むが、これら以外の任意成分を含んでいてもよい。本発明の燃料電池電極触媒に、含まれてもよい任意成分は、例えば、カーボン担体以外の炭素材料、Ir粒子、Ir・Ru合金粒子、Ir酸化物等から選択される、1種又は2種以上の成分であってよい。カーボン担体以外の炭素材料は、触媒金属粒子を担持していない炭素材料であり、例えば、黒鉛、炭素繊維、カーボンブラック、黒鉛化カーボンブラック、カーボンナノチューブ等から選択されてよい。
【0041】
〈燃料電池電極触媒の用途〉
本発明の燃料電池触媒は、燃料電池のカソード又はアノードにおける電極触媒として使用することができ、特に、燃料電池のカソードにおける電極触媒として好適である。
【0042】
《燃料電池電極触媒の製造方法》
本発明の燃料電池電極触媒は、例えば、
カーボン担体と触媒金属前駆体とを接触させること、
触媒金属前駆体を還元して、カーボン担体上に触媒金属粒子を担持して、電極触媒前駆体を得ること、及び
電極触媒前駆体を、酸素分圧4.0Pa以上800Pa以下、300℃以上1,100℃以下の条件下で焼成すること、
を含む方法によって製造されてよい。
【0043】
触媒金属粒子がPt粒子であるときは、触媒金属前駆体としてPt前駆体を用い、適当な溶媒中で、カーボン担体とPt前駆体とを接触させた後、Pt前駆体を還元して、カーボン担体上にPt粒子を担持することにより、電極触媒前駆体を得ることができる。
【0044】
使用されるカーボン担体は、所望の燃料電池電極触媒におけるカーボン担体に応じて、適宜選択して使用してよい。
【0045】
Pt前駆体は、溶媒可溶のPt化合物から適宜選択して使用してよい。Pt前駆体としては、例えば、PtCl、PtCl、PtBr、PtS、Pt(CN)、PtCl(NH(ジニトロジアンミン白金)等から適宜選択して使用してよい。
【0046】
溶媒は、使用するPt前駆体を溶解可能なものから選択して使用してよい。例えば、Pt前駆体が、PtClであるときには塩酸を使用してよく、PtBrであるときには臭化水素酸水溶液を使用してよく、PtCl(NHであるときには硝酸水溶液を使用してよく、PtCl、PtS、又はPt(CN)であるときには水を使用してよい。
【0047】
Pt前駆体の還元は、適当な還元剤を使用して行ってよい。還元剤は、例えば、エタノール、酢酸、アセトアルデヒド、水素化ホウ素ナトリウム、ヒドラジン等であってよい。還元は、10℃以上100℃以下の温度にて、0.5時間以上8時間以下の時間で行われてよい。還元温度は、還元剤として水素化ホウ素ナトリウムを用いる場合には、10℃以上50℃以下とすることが好ましく、還元剤は、エタノール、酢酸、アセトアルデヒド、又はヒドラジンを用いる場合には、60℃以上100℃以下とすることが好ましい。
【0048】
このようにして、カーボン担体上にPt粒子が担持された、電極触媒前駆体が得られる。
【0049】
一方、触媒金属粒子がPt合金粒子であるときは、例えば、以下のいずれかの方法によって、電極触媒前駆体を得ることができる。
(1)Ptと合金金属とを順次に還元担持する方法(方法1):
適当な溶媒中で、カーボン担体とPt前駆体とを接触させた後、Pt前駆体を還元し、カーボン担体上にPt粒子を担持して、Pt担持カーボンを得ること;
適当な溶媒中で、Pt担持カーボンと合金金属前駆体とを接触させた後、合金金属前駆体を還元し、Pt担持カーボン上に合金金属粒子が担持された、Pt-合金金属担持カーボンを得ること;及び
Pt-合金金属担持カーボンを加熱し、Ptと合金金属とを合金化することにより、カーボン担体上にPt合金粒子が担持された、電極触媒前駆体を得ること。
【0050】
(2)Ptと合金金属とを同時に還元担持する方法(方法2):
適当な溶媒中で、カーボン担体と、Pt前駆体及び合金金属前駆体とを接触させた後、Pt前駆体及び合金金属前駆体を還元して、カーボン担体上にPt粒子及び合金金属粒子が担持された、Pt-合金金属担持カーボン(電極触媒前駆体)を得ること。
【0051】
本明細書において、「合金金属」とは、触媒金属粒子を構成するPt合金のうちの、Pt以外の金属を意味する。
【0052】
以下、触媒金属粒子がPt合金粒子である、電極触媒前駆体を製造するための方法1及び方法2について、順に説明する。
【0053】
(1)カーボン担体上に、Ptと合金金属とを順次に担持する方法(方法1)
方法1では、先ず、適当な溶媒中で、カーボン担体とPt前駆体とを接触させた後、Pt前駆体を還元し、カーボン担体上にPt粒子を担持して、Pt担持カーボンを得る。この工程は、触媒金属粒子がPt粒子であるときの、電極触媒前駆体の製造と同様に行われてよい。
【0054】
次いで、適当な溶媒中で、得られたPt担持カーボンと合金金属前駆体とを接触させた後、合金金属前駆体を還元し、Pt担持カーボン上に合金金属粒子が担持された、Pt-合金金属担持カーボンが得られ、これを電極触媒前駆体として用いる。
【0055】
合金金属前駆体は、所望の燃料電池電極触媒における合金金属の種類に応じて、適宜選択して使用してよい。合金金属前駆体は、所望の合金金属を含む、溶媒可溶の化合物から適宜選択して使用してよい。例えば、所望の合金金属の、水酸化物、塩化物、硫化物、硝酸塩、硫酸塩、酢酸塩等であってよい。
【0056】
溶媒は、使用する合金金属前駆体を溶解可能なものから選択して使用してよい。溶媒は、例えば、水であってよい。
【0057】
合金金属前駆体の還元は、適当な還元剤又は中和剤を使用して行ってよい。還元剤は、例えば、水素化ホウ素ナトリウム、ヒドラジン、水素ガス、ギ酸等であってよい。中和剤は、例えば、メタホウ酸ナトリウム、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、アンモニア等であってよい。
【0058】
還元剤を用いる還元は、10℃以上100℃以下の温度にて、0.5時間以上8時間以下の時間で行われてよい。還元温度は、還元剤として水素化ホウ素ナトリウムを用いる場合には、10℃以上50℃以下とすることが好ましく、還元剤は、エタノール、酢酸、アセトアルデヒド、又はヒドラジンを用いる場合には、60℃以上100℃以下とすることが好ましい。
【0059】
合金金属前駆体の還元において、中和剤を用いる場合には、Pt担持カーボン上に、合金金属が一旦1価以上の価数を有する状態で担持された後、加熱されることによって、還元されるとともにPtとの合金を形成するものと考えられる。中和剤を用いる還元は、60℃以上100℃以下の温度にて、0.5時間以上8時間以下の時間で行われてよい。
【0060】
このようにして、Pt担持カーボン上に合金金属粒子が担持された、電極触媒前駆体が得られる。
【0061】
(2)Ptと合金金属とを同時に還元担持する方法(方法2)
方法2では、カーボン担体と触媒金属前駆体とを接触させる際に、触媒金属前駆体として、Pt前駆体とともに合金金属前駆体を併用する他は、触媒金属粒子がPt粒子であると同様にして、電極触媒前駆体が得られる。
【0062】
次いで、上記で得られた電極触媒前駆体を、酸素分圧4.0Pa以上800Pa以下、300℃以上1,100℃以下の条件下で焼成することにより、本発明の燃料電池電極触媒が得られる。この工程により、触媒金属粒子がPt粒子である場合には、露出されるPtの結晶面が制御されつつ、触媒金属粒子が成長する。また、触媒金属粒子がPt合金粒子である場合には、Ptと合金金属とが合金化されるとともに、露出されるPtの結晶面が制御されつつ、触媒金属粒子が成長する。
【0063】
焼成時の酸素分圧は、4.0Pa以上であり、5.0Pa以上、10Pa以上、20Pa以上、50Pa以上、100Pa以上、又は200Pa以上であってよい。また、焼成時の酸素分圧は、800Pa以下であり、700Pa以下、600Pa以下、500Pa以下、400Pa以下、又は300Pa以下であってよい。
【0064】
焼成時の雰囲気は、減圧下であってもよいし、不活性気体の存在下であってもよい。
【0065】
焼成時の雰囲気を減圧下とする場合の圧力は、雰囲気中の酸素分圧を上記の所定の範囲に制御する観点から、絶対圧として、4.0Pa以上であり、5.0Pa以上、10Pa以上、20Pa以上、50Pa以上、100Pa以上、又は200Pa以上であってよく、900Pa以下であり、800Pa以下、700Pa以下、600Pa以下、500Pa以下、又は400Pa以下であってよい。
【0066】
焼成時の雰囲気を不活性気体の存在下とする場合、不活性気体は、例えば、窒素、ヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトン等であってよい。不純物(特に酸素)が少なく、入手性に優れるとの観点からは、不活性気体としてアルゴンが好適である。
【0067】
焼成時の雰囲気を不活性気体の存在下とする場合、不活性気体を流通させつつ焼成を行ってもよいし、電極触媒前駆体に対して不活性気体を移動させない状態で焼成を行ってもよい。電極触媒前駆体近傍の酸素分圧を所望の酸素分圧に維持する観点からは、不活性気体を流通させつつ焼成を行うことが好適である。
【0068】
焼成温度は、450℃以上、500℃以上、550℃以上、又は600℃以上であってよく、1,100℃以下、1,000℃以下、又は900℃以下であってよい。
【0069】
焼成時間は、15分以上、30分以上、45分以上、1時間以上、1.5時間以上、又は2時間以上であってよく、24時間以下、12時間以下、8時間以下、6時間以下、又は4時間以下であってよい。
【0070】
《燃料電池のカソード》
本発明の別の観点では、本発明の燃料電池電極触媒を含む触媒層を有する、燃料電池のカソードが提供される。
【0071】
カソードは、適当な基材層と、該基材層上の触媒層とを有していてよく、触媒層は、本発明の燃料電池電極触媒を含む。
【0072】
基材層は、燃料電池電極触媒及び溶媒、並びに電極形成時に好ましく行われる加熱処理、加圧処理等に耐え得る、化学的及び機械的な安定性を有するものから適宜選択して使用してよい。具体的には、例えば、ポリイミド、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスルホン、ポリテトラフルオロエチレン等のシートを使用してよい。
【0073】
触媒層は、本発明の燃料電池電極触媒を含むが、これ以外に、アイオノマーを含んでいてよく、例えばバインダー等の任意成分を、更に含んでいてよい。アイオノマーは、例えば、ナフィオン(テトラフルオロエチレン系(共)重合体のスルホン化物)であってよい。
【0074】
《燃料電池電極接合体》
本発明の更に別の観点では、上記のカソードを含む、燃料電池電極接合体が提供される。
【0075】
燃料電池電極接合体は、カソード、固体高分子電解質膜、及びアノードがこの順に積層させた構造を有していよく、カソードが、本発明の燃料電池電極触媒を含む電極であってよい。
【0076】
この燃料電池電極接合体における、固体高分子電解質膜及びアノードは、それぞれ、公知の固体高分子電解質膜及びアノードであってよい。
【0077】
本発明の燃料電池電極接合体は、カソードとして、本発明の燃料電池用電極触媒を含む電極を用いる他は、公知の方法により、製造されてよい。
【0078】
《燃料電池》
本発明の更に別の観点では、上記の燃料電池電極接合体を含む、燃料電池が提供される。本発明の燃料電池は、固体高分子形燃料電池であってよい。
【0079】
本発明の燃料電池は、本発明の燃料電池電極接合体を含む。これ以外に、例えば、カソード側に、空気チャネル又は酸素チャネルを有していてよく、アノード側に、燃料チャネルを有していてよい。
【0080】
本発明の燃料電池は、カソードとして、本発明の燃料電池電極触媒を含む電極を用いる他は、公知の方法により、製造されてよい。
【実施例
【0081】
《実施例1》
(1)電極触媒の調製
カーボン担体として、CB1(キャボット社製のファーネス法導電性カーボンブラック「Vulcan XC72R」、一次粒径30nm、比表面積231m/g)0.7gを、濃度0.1Nの硝酸水溶液中に分散させて、分散液を得た。この分散液に、ジニトロジアンミン白金(II)硝酸溶液を加え、30分撹拌して、混合液を得た。ここで、ジニトロジアンミン白金(II)硝酸溶液の添加量は、カーボン担体と金属換算Ptとの合計質量に対する金属換算Ptの質量割合が、30質量%になる量とした。
【0082】
撹拌後の混合液に、還元剤としてのエタノール8.4gを加え、2時間加熱還流して、カーボン担体上にPtを担持させた。固形分をろ取により回収し、純水で洗浄した後、80℃において15時間乾燥させて、乾燥物を得た。
【0083】
得られた乾燥物を、炉内圧力5.0Pa、炉内酸素分圧5.0Paに調節した焼成炉内で、700℃において2時間焼成した後に粉砕することにより、実施例1の電極触媒を得た。
【0084】
(2)電極触媒の評価
(2-1)Pt粒径の測定
得られた電極触媒について測定したXRDの結果から、Ptの(220)面の回折ピークをフィッティングし、その半値幅からシェラー式を用いて、Ptの粒径を算出した。
【0085】
XRDの測定は、以下の条件にて行った。
検出器:(株)リガク製、試料水平型強力X線回折装置「RINT-TTR III」
管球:CuKα(波長1.5418Å)
出力:50kV-300mA
測定角度範囲(2θ):20~90°
サンプリング間隔:0.02°
【0086】
(2-2)Pt(111)ピーク強度比の測定
上記のXRD測定において、Ptの(111)面、(200)面、及び(220)面をそれぞれフィッティングした。フィッティング後の各ピークのピーク高さを用いて、下記数式により、Pt(111)ピークのピーク強度比を算出した。
Pt(111)ピーク強度比=Pt(111)ピーク強度/(Pt(111)ピーク強度+Pt(200)ピーク強度+Pt(220)ピーク強度)
【0087】
(3)触媒活性(比活性)の評価
(3-1)触媒活性評価用単セルの製造
得られた実施例1の電極触媒を水中に分散させた後、エタノールを加え、更にアイオノマーとしてのナフィオンを含む水分散液を添加し、超音波分散して、カソード(空気極)触媒層形成用塗工液を調製した。得られたカソード触媒層形成用塗工液を、テフロン(登録商標)製のシートの片面上に塗布した後、乾燥して、シート上にカソード触媒層を形成した。
【0088】
実施例1の電極触媒の代わりに、ケッツェンブラック(ケッチェン・ブラック・インターナショナル(株)製、品名「EC300」)上にPtを担持した触媒粉末を用いた他は、カソード触媒層形成用塗工液の調製と同様にして、アノード(水素極)触媒層形成用塗工液を調製し、これを用いてシート上にアノード触媒層を形成した。このアノード触媒層に用いた触媒粉末中のPtの担持量は、触媒粉末の質量を基準として、30質量%であった。
【0089】
高分子電解質膜の両面に、上記で得られたカソード触媒層及びアノード触媒層を有するテフロン(登録商標)シートを、触媒層形成面を対向させて積層し、ホットプレスによって転写した後、テフロン(登録商標)シートを剥離して、カソード触媒層、高分子電解質膜、及びアノード触媒層が、この順に積層された電極接合体(MEA)を得た。次いで、各触媒層の表面上に拡散層を設置することにより、触媒活性評価用単セルを製造した。
【0090】
(3-2)触媒活性(比活性)の評価
先ず、Pt粒子のECSA(電気化学活性面積)を求めた。北斗電工(株)製の電気化学測定システム、型名「HZ-5000」)を用い、セル温度90℃、加湿度90%の環境下で、カソード側に窒素を2.0L/分にて供給し、アノード側に水素を0.5L/分にて供給しつつ、0.01~1.20A/cmの範囲でサイクリックボルタンメトリー(CV)測定を行い、水素脱離波の面積C値を求めた。得られたC値と、評価試料のPt目付量(m-Pt/m-MEA)とから、ECSAを算出した。
【0091】
次いで、(株)東陽テクニカ製の燃料電池評価システムを用い、セル温度90℃、加湿度90%の環境下で、カソード側に空気を2.0L/分にて供給し、アノード側に水素を0.5L/分にて供給しつつ、電流密度0.01~0.20A/cmの範囲で電圧値を測定した。得られたデータから、電圧0.9Vを示した電流密度を、触媒活性とした。この値を、上記で得られたECSAで除することにより、比活性(A/m-Pt)を算出した。
【0092】
《実施例2~4及び比較例1~5》
焼成時の炉内条件(酸素分圧及び圧力)を、それぞれ、表1に記載のとおりに調節した他は、実施例1と同様にして、電極触媒を調製し、評価した。評価結果を表1に示す。
【0093】
《実施例5》
焼成を、酸素分圧50Paのアルゴン流通下で行った他は、実施例1と同様にして、電極触媒を調製し、評価した。評価結果を表1に示す。
【0094】
《比較例6》
焼成を行わなかった他は、実施例1と同様にして、電極触媒を調製し、評価した。評価結果を表1に示す。
【0095】
《比較例7》
焼成温度を400℃とした他は、実施例1と同様にして、電極触媒を調製し、評価した。評価結果を表1に示す。
【0096】
《実施例6及び7、並びに比較例8及び9》
カーボン担体として、CB2(ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ(株)製のケッチェンブラック「Ketjenblack EC600JD」、一次粒径34nm、比表面積1,343m/g)を用い、カーボン担体と金属換算Ptとの合計質量に対する金属換算Ptの質量割合を42質量%とし、更に焼成時の炉内条件(酸素分圧及び圧力)を、それぞれ、表2に記載のとおりに調節した他は、実施例1と同様にして、電極触媒を調製し、評価した。評価結果を表2に示す。
【0097】
《実施例8及び9、並びに比較例10及び11》
カーボン担体として、CB3(デンカ(株)製のアセチレンブラック「Li435」、一次粒径23nm、比表面積127m/g)を用い、カーボン担体と金属換算Ptとの合計質量に対する金属換算Ptの質量割合を18質量%とし、更に焼成時の炉内条件(酸素分圧及び圧力)を、それぞれ、表2に記載のとおりに調節した他は、実施例1と同様にして、電極触媒を調製し、評価した。評価結果を表2に示す。
【0098】
【表1】
【0099】
【表2】
【0100】
表1によると、触媒金属粒子であるPtの(111)面のピーク強度比が0.626~0.630である実施例1~5の電極触媒は、このピーク強度比が0.626未満の比較例3~5、並びにこのピーク強度比が0.630を超える比較例1、2、6、及び7の電極触媒よりも、高い触媒活性(比活性)を示すことが検証された。
【0101】
Pt(111)面のピーク強度比が0.626~0.630である触媒金属粒子を含む電極触媒は、カーボン担体にPtを担持した後に行われる焼成の際に、周囲雰囲気の酸素分圧を、4.0Pa以上800Pa以下に調節することにより、得られる。
【0102】
焼成を行っていない比較例6及び焼成温度が低い比較例7の電極触媒では、Pt(111)面のピーク強度比が過度に大きい。これは、カーボン担体上にPtを還元担持する際に、最も安定なPt(111)面が優先して成長し、未焼成又は焼成温度が低い場合には、このPt(111)面が維持されたためと考えられる。これらの電極触媒を、適正な温度で焼成すると、触媒金属粒子の粒径の増大に伴って、Ptの(111)面、(200)面((100)面と等価)、及び(220)面((110)面と等価)が競合して成長すると考えられる。
【0103】
このとき、焼成時の酸素分圧が4.0Pa未満であると、Pt(111)面のピーク強度比が0.630超となり、触媒活性が低下する(比較例1及び2)。これは、低酸素分圧条件下において、Pt(111)面が過度に成長したためと考えられる。
【0104】
一方、焼成時の酸素分圧が800Paを超えると、Pt(111)面のピーク強度比が0.626未満となり、触媒活性が低下する(比較例3~5)。これは、焼成時の酸素分圧が800Paを超えると、Pt(111)面に高分圧の酸素が吸着して、Pt(111)面の成長が妨げられたことによると考えられる。
【0105】
また、電極触媒の焼成を、酸素分圧が1,000Paを超える条件下で行うと、触媒金属粒子の粒径が急激に増大することが確認された(比較例4及び5)。これは、高分圧の酸素によって、カーボン担体の燃焼が起こり、触媒金属粒子のシンタリングが進行したためと考えられる。
【0106】
表2によると、カーボン担体の種類が変更された場合でも上記の傾向が表れ、本発明所定の電極触媒によって、本発明が所期する効果が発現されることが検証された。
【要約】
カーボン担体に、Pt又はPt合金から成る触媒金属粒子が担持されている、燃料電池電極触媒であって、前記電極触媒についてXRDを測定したときに、数式:Pt(111)ピーク強度比=Pt(111)ピーク強度/(Pt(111)ピーク強度+Pt(200)ピーク強度+Pt(220)ピーク強度)で表されるPt(111)面のピーク強度比が0.626~0.630である、燃料電池電極触媒。