(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-20
(45)【発行日】2023-11-29
(54)【発明の名称】熱可塑性樹脂粉体造粒物
(51)【国際特許分類】
B29B 9/08 20060101AFI20231121BHJP
【FI】
B29B9/08
(21)【出願番号】P 2023080938
(22)【出願日】2023-05-16
【審査請求日】2023-05-17
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000214272
【氏名又は名称】長瀬産業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】513066041
【氏名又は名称】ナガセプラスチックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮本 朗
(72)【発明者】
【氏名】木谷 誠
【審査官】田代 吉成
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-326846(JP,A)
【文献】特開2003-25325(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29B 9/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂粉体を含む粉体造粒物であって、粉体造粒物の外縁に位置する熱可塑性樹脂粉体の少なくとも一部が溶融して構成された外壁部を有し、外壁部の内側に圧縮された熱可塑性樹脂粉体が収まって
おり、圧縮造粒物である、粉体造粒物。
【請求項2】
外壁部の内側の圧縮された熱可塑性樹脂粉体の少なくとも一部が、溶融していない圧縮された粉体状形態を含む、請求項1に記載の粉体造粒物。
【請求項3】
外壁部の内側の圧縮された熱可塑性樹脂粉体の少なくとも一部が、部分的に溶融している形態を含む、請求項1に記載の粉体造粒物。
【請求項4】
粉体造粒物の形状が、略円柱状又は略角柱状である、請求項1に記載の粉体造粒物。
【請求項5】
粉体造粒物の側面に、外壁部を有する、請求項4に記載の粉体造粒物。
【請求項6】
破壊強度が、2.0kg以上である、請求項5に記載の粉体造粒物。
【請求項7】
粉体造粒物の高さが、1mm以上である、請求項4に記載の粉体造粒物。
【請求項8】
熱可塑性樹脂粉体が、50~150℃の軟化開始温度を有する熱可塑性樹脂を含む、請求項1に記載の粉体造粒物。
【請求項9】
熱可塑性樹脂粉体が、60~90℃の軟化開始温度を有する熱可塑性樹脂を含む、請求項1に記載の粉体造粒物。
【請求項10】
熱可塑性樹脂粉体が、アクリル系樹脂、メタクリル系樹脂、ポリヒドロキシアルカノエート(PHA)系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリフェニレンエーテル(PPE)系樹脂、ポリフェニレンサルファイド(PPS)系樹脂、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)系樹脂、ポリイミド(PI)系樹脂、ポリアミドイミド(PAI)系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリカーボネート(PC)系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリケトン系樹脂、液晶ポリマー(LCP)、およびコアシェル型ポリマーからなる群から選ばれる少なくとも1種を含む、請求項1に記載の粉体造粒物。
【請求項11】
熱可塑性樹脂粉体が、PHA系樹脂を含む、請求項1に記載の粉体造粒物。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか1項に記載の粉体造粒物を製造する方法であって、
熱可塑性樹脂粉体をダイス穴から押し出す圧縮造粒法により熱可塑性樹脂粉体を造粒する圧縮造粒工程を含み、
造粒直後の造粒物温度Tp(℃)と熱可塑性樹脂粉体の軟化開始温度Ts(℃)とが式(1)を満たす条件で圧縮造粒工程が行われる、方法:
式(1):Ts-30≦Tp≦Ts+10。
【請求項13】
造粒直後の造粒物温度Tp(℃)と熱可塑性樹脂粉体の軟化開始温度Ts(℃)とが式(1)を満たす条件となるように、ダイスの温度が制御される、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
外壁部が、ダイス穴の壁面との接触面にて、壁面との摩擦熱もしくは壁面からの伝熱によって熱可塑性樹脂粉体の少なくとも一部が溶融することで形成される、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
圧縮造粒が、ディスクペレッター方式の圧縮造粒装置を用いて行われる、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
熱可塑性樹脂コンパウンド用原料、または成形用材料としての、請求項1~11のいずれか1項に記載の粉体造粒物の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂粉体の造粒物に関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性樹脂では、その製法に由来したり、再生粉砕品であったりすることで、粉体状の形状のものがある。このような熱可塑性樹脂粉体は、通常、取り扱い性が悪いので、取り扱い性を良くし、さらに生産性を高めるために、溶融押出機で可塑化溶融させて、ダイスを介して押出を行い、冷却固化させて、ペレット状の形態(以下、溶融混練ペレットとも称す)にして、各種の熱可塑性樹脂の加工機械に供し、製品化されることが一般的である。すなわち、粉体状の熱可塑性樹脂では、溶融混練ペレット化が通常行われる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
熱可塑性樹脂粉体は、溶融混練ペレット化の工程においても、粉体状の熱可塑性樹脂は嵩密度が小さいために、押出機を始めとする各種の溶融混練機への供給不良の問題や、生産性が上がらない等の問題がしばしば発生する。
【0004】
また、最近は、温暖化ガスの一つである二酸化炭素を削減することが目標とされており、熱可塑性樹脂の各種の加工においても、工程で使用されるエネルギー使用量を低減させ、工程で発生する二酸化炭素の発生量を低減させることが大きな課題となっている。
【0005】
本発明の目的は、熱可塑性樹脂粉体に対し、溶融混練ペレット化の工程を経ずとも、形状が安定し、嵩密度が高く、作業環境の良化をもたらし、加工機へのフィード特性(安定性、流動性)に優れ、また、溶融混練ペレット化に比べて、製造に要する電気使用量の削減、即ち、二酸化炭素の発生量を低減させることに寄与し得る、熱可塑性樹脂粉体の造粒物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1) 熱可塑性樹脂粉体を含む粉体造粒物であって、粉体造粒物の外縁に位置する熱可塑性樹脂粉体の少なくとも一部が溶融して構成された外壁部を有し、外壁部の内側に圧縮された熱可塑性樹脂粉体が収まっている、粉体造粒物。
(2) 外壁部の内側の圧縮された熱可塑性樹脂粉体の少なくとも一部が、溶融していない圧縮された粉体状形態を含む、(1)に記載の粉体造粒物。
(3) 外壁部の内側の圧縮された熱可塑性樹脂粉体の少なくとも一部が、部分的に溶融している形態を含む、(1)又は(2)に記載の粉体造粒物。
(4) 粉体造粒物の形状が、略円柱状又は略角柱状である、(1)~(3)のいずれか1つに記載の粉体造粒物。
(5) 粉体造粒物の側面に、外壁部を有する、(1)~(4)のいずれか1つに記載の粉体造粒物。
(6) 破壊強度が、2.0kg以上である、(1)~(5)のいずれか1つに記載の粉体造粒物。
(7) 粉体造粒物が、圧縮造粒物である、(1)~(6)のいずれか1つに記載の粉体造粒物。
(8) 熱可塑性樹脂粉体が、50~150℃の軟化開始温度を有する熱可塑性樹脂を含む、(1)~(7)のいずれか1つに記載の粉体造粒物。
(9) 熱可塑性樹脂粉体が、60~90℃の軟化開始温度を有する熱可塑性樹脂を含む、(1)~(8)のいずれか1つに記載の粉体造粒物。
(10) 熱可塑性樹脂粉体が、アクリル系樹脂、メタクリル系樹脂、ポリヒドロキシアルカノエート(PHA)系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリフェニレンエーテル(PPE)系樹脂、ポリフェニレンサルファイド(PPS)系樹脂、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)系樹脂、ポリイミド(PI)系樹脂、ポリアミドイミド(PAI)系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリカーボネート(PC)系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリケトン系樹脂、液晶ポリマー(LCP)、およびコアシェル型ポリマーからなる群から選ばれる少なくとも1種を含む、(1)~(9)のいずれか1つに記載の粉体造粒物。
(11) 熱可塑性樹脂粉体が、PHA系樹脂を含む、(1)~(10)のいずれか1つに記載の粉体造粒物。
(12) (1)~(11)のいずれか1つに記載の粉体造粒物を製造する方法であって、
熱可塑性樹脂粉体をダイス穴から押し出す圧縮造粒法により熱可塑性樹脂粉体を造粒する圧縮造粒工程を含み、
造粒直後の造粒物温度Tp(℃)と熱可塑性樹脂粉体の軟化開始温度Ts(℃)とが式(1)を満たす条件で圧縮造粒工程が行われる、方法:
式(1):Ts-30≦Tp≦Ts+10。
(13) 造粒直後の造粒物温度Tp(℃)と熱可塑性樹脂粉体の軟化開始温度Ts(℃)とが式(1)を満たす条件となるように、ダイスの温度が制御される、(12)に記載の方法。
(14) 外壁部が、ダイス穴の壁面との接触面にて、壁面との摩擦熱もしくは壁面からの伝熱によって熱可塑性樹脂粉体の少なくとも一部が溶融することで形成される、(12)又は(13)に記載の方法。
(15) 圧縮造粒が、ディスクペレッター方式の圧縮造粒装置を用いて行われる、(12)~(14)のいずれか1つに記載の方法。
(16) 熱可塑性樹脂コンパウンド用原料、または成形用材料としての、(1)~(11)のいずれか1つに記載の粉体造粒物の使用。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、熱可塑性樹脂粉体に対し、溶融混練ペレット化の工程を経ずとも、形状が安定し、嵩密度が高く、作業環境の良化をもたらし、加工機へのフィード特性(安定性、流動性)に優れ、また、溶融混練ペレット化に比べて、製造に要する電気使用量の削減、即ち、二酸化炭素の発生量を低減させることに寄与し得る、熱可塑性樹脂粉体の造粒物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施例1で得られた粉体造粒物(アクリル樹脂粉体A1を使用)の外観写真である。
【
図2】実施例1で得られた粉体造粒物(アクリル樹脂粉体A1を使用)の断面写真である。
【
図3】実施例4のバイオポリエステル粉体A2のDSC測定結果である。
【
図4】実施例4で得られた粉体造粒物(バイオポリエステル粉体A2を使用)の外観写真である。
【
図5】実施例4で得られた粉体造粒物(バイオポリエステル粉体A2を使用)の断面写真である。
【
図6】実施例5において、実施例1で得られた粉体造粒物(アクリル樹脂粉体A1を使用)より得られた射出成形体の写真である。
【
図7】実施例6において、実施例4で得られた粉体造粒物(バイオポリエステル粉体A2を使用)より得られたシート成形品の写真である。
【
図8】実施例7で得られた粉体造粒物(バイオポリエステル粉体A3を使用)の断面写真である。
【
図9】実施例8で得られた粉体造粒物(バイオポリエステル粉体A3を使用)の断面写真である。
【
図10】実施例9で得られた粉体造粒物(バイオポリエステル粉体A4を使用)の断面写真である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
A.熱可塑性樹脂粉体造粒物の概要
本発明の粉体造粒物は、熱可塑性樹脂粉体を含む粉体造粒物であって、当該粉体造粒物の外縁に位置する熱可塑性樹脂粉体の少なくとも一部が溶融して構成された外壁部を有し、外壁部の内側に圧縮された熱可塑性樹脂粉体が収まっている、粉体造粒物である。本発明の粉体造粒物において、外壁部は造粒物の外縁に位置する。本明細書において、外壁部をシェル部とも称す。外壁部の内側には、圧縮された熱可塑性樹脂粉体が収まっており、該熱可塑性樹脂粉体は、少なくとも一部が溶融していてもよく、少なくとも一部が溶融していなくてもよい。外壁部の内側の圧縮された熱可塑性樹脂粉体は、未溶融状態であってもよい。すなわち、外壁部の内側の圧縮された熱可塑性樹脂粉体の少なくとも一部が、溶融していない圧縮された粉体状形態を含んでいてもよく、部分的に溶融している形態を含んでいてもよい。部分的に溶融している形態とは、熱可塑性樹脂粉体の構成成分が部分的に溶融しているが、外壁部のように熱可塑性樹脂粉体を保持できるほどに強固な溶着構造とはなっていない形態を意図している。なお、本明細書において、外壁部の内側をコア部とも称す。外壁部の内側のコア部には、圧縮された熱可塑性樹脂粉体が収まっているが、本明細書において、「圧縮された」とは、造粒前の熱可塑性樹脂粉体の嵩密度に比べて、コア部に位置する熱可塑性樹脂粉体の密度が高くなっていることを指す。
【0010】
本発明の熱可塑性樹脂粉体の造粒物における外壁部(シェル部)は、熱可塑性樹脂粉体の溶融物を含む密な構造を有し、一方、その内側のコア部は、圧縮されてはいるものの、溶融物を含む外壁部の密な構造(溶着構造)に比べて、疎な構造を有する。本発明の熱可塑性樹脂粉体は、熱可塑性樹脂粉体の溶融物が外壁となり、コア部に存在する圧縮された熱可塑性樹脂粉体を保持するため、粉体造粒物でありながら、構造が安定し、粉落ちが少なく、取扱い性および安全性に優れ、かつ、作業環境の良化をもたらし得る。
【0011】
このため、本発明の粉体造粒物は、樹脂組成物を調製する際のコンパウンド用原料として使用する場合においては、原料供給能力、供給安定性、および供給精度を向上させることができ、生産性向上に寄与し得る。同時に、溶融混練ペレット化の工程を省くことができるため、工程に要する電力エネルギーの使用量を削減することができ、加工工程における二酸化炭素の発生量を減じることが可能となる。
【0012】
また、本発明の粉体造粒物は、熱可塑性樹脂用の射出成形機、押出成形機など各種の成形機への直接供給や、成形用材料としての使用も可能である。この場合、溶融混練ペレット化の工程を省くことができるために、加工工程における二酸化炭素の発生量を減じることが可能となる。また、本発明の粉体造粒物は、ペレット化する程の熱を加えられていないため、少ない熱履歴を有し得る。
【0013】
外壁部(シェル部)は、粉体造粒物の外縁に位置する熱可塑性樹脂粉体の少なくとも一部が溶融した溶着構造を有する。外壁部は、光沢面外観を有する程に平滑面となっていてもよい。また、平滑面となる程までには溶融していないものの、熱可塑性樹脂粉体の構成成分の一部が溶融して隣接する成分と部分的に溶着することにより、外壁部が構成されていてもよい。詳細は後述するが、外壁部は、圧縮造粒において、例えばダイス穴との接触面で、壁面との摩擦熱もしくは壁面からの伝熱によって熱可塑性樹脂粉体の少なくとも一部が溶融することで形成されることができる。外壁部の厚みは、熱可塑性樹脂粉体の造粒物の製造条件により、様々な厚みを取り得る。
【0014】
コア部は、外壁部の内側に位置する部分であって、圧縮された熱可塑性樹脂粉体が収まっている部分である。コア部に位置する熱可塑性樹脂粉体は、多孔質状となっていてもよいし、造粒時に熱がコア部までには伝わらずに、非溶着構造となっていてもよい。コア部は、ダイス接触面からの距離が遠いために、粉体ポリマー原料が粉体形状を維持した構造(すなわち非溶着構造又は粉体状構造)、あるいは、一部が溶着しているが粉体ポリマー原料の形状が残存する構造を有し得る。
【0015】
また、本明細書において、説明の簡便化のために「外壁部(シェル部)」や「コア部」との用語を用いているが、上述の通り、外壁部は、造粒時の熱によって熱可塑性樹脂粉体が溶融して形成されるものであるため、実際には、外壁部(シェル部)とコア部の境界は明確に存在するものではない。外壁部(シェル部)は、熱可塑性樹脂粉体の溶着構造を含み、粉体造粒物の外縁に位置して粉体造粒物の一定の形状を保つのに寄与する部分を指し、コア部は、その外壁部(シェル部)の内側に位置する部分を指す。
【0016】
粉体造粒物の形状は、略円柱状又は略角柱状であることが好ましく、粉体造粒物は、粉体造粒物の側面に外壁部を有することが好ましい。本発明において、粉体造粒物は、略円柱状又は略角柱状を有し、略円柱状又は略角柱状を有する粉体造粒物の側面に外壁部が形成されていることが好ましい。
【0017】
本発明の粉体造粒物は、粉体圧縮造粒法を用いることで好ましく得ることができるが、製造方法の詳細については後述する。
【0018】
本発明の粉体造粒物は、溶融コンパウンドによる樹脂組成物の製造において、熱可塑性樹脂の原料として使用され得る。更には、粉体造粒物は、射出成形や押出成形などの各種の樹脂成形機に直接投入し、各種の成形品を得ることが可能となる。
【0019】
樹脂組成物の溶融コンパウンドにおいて、粉体造粒物を添加すれば、生産性向上を図ることができる。具体的には、粉体造粒物は、押出機等の装置への投入安定性に著しく優れるため、当該粉体造粒物を用いれば、樹脂組成物の生産性(時間当たりのコンパウンド加工速度)を飛躍的に向上させることができる。また、粉塵による作業環境汚染を著しく改善し、作業者の労働安全衛生環境を向上させることができ、さらに、設備の切り替え清掃の時間を大幅に短縮できる。
【0020】
粉体造粒物を、射出成形や押出成形などの各種の樹脂成形加工機に直接投入する場合、「溶融混練ペレット化」の工程を省くことができるので、従来法(溶融混練ペレット工程を含む樹脂製品加工方法)と比較して、工程のトータルでの二酸化炭素の発生量を大きく減じることが可能となる。
【0021】
粉体造粒物は、任意の適切な形状であり得る。代表的には、粉体の圧縮造粒で製造され、円形状のダイス穴を通過させて造粒を行う場合、基本的な形状は円柱状のペレット形状である。
【0022】
尚、本明細書における「ダイス」とは、粉体造粒物を圧縮して形状付与するための「型」に相当する工具を総称するものとする。
【0023】
粉体造粒物が円柱状である場合、粉体造粒物の直径は、例えば、2mm~7mmであり、好ましくは、3mm~5mmである。粉体造粒物の長さ(高さ)は、例えば、1mm~10mmであり、好ましくは、2mm~7mmである。このような形状であれば、ハンドリングしやすい粉体造粒物となる。粉体造粒物の直径は、例えば、造粒の際のディスクプレート(ダイスプレート)のダイス穴の径により調整でき、長さはディスクプレートとカッター間の距離で調整できる。当該距離は任意の適切な距離とされ得る。ディスクプレートとカッター間の距離は、例えば、1mm~30mmであり、より好ましくは2mm~20mmであり、さらに好ましくは3mm~10mmである。
【0024】
粉体造粒物の嵩密度は任意の適切な嵩密度とされ得る。粉体造粒物の嵩密度は、好ましくは0.3kg/L~2.0kg/Lであり、より好ましくは0.5kg/L~1.0kg/Lである。嵩密度を高くすることで、各種加工機への粉体造粒物の供給速度と供給安定性が高まる。嵩密度は、升を用いて、粉体を当該升に自然落下させてすり切り一杯にして、正確に1リットルの容積ではかり取り、その質量を測定することで算出される(単位:kg/L)。
【0025】
粉体造粒物の木屋式硬度計における破壊強度は、好ましくは0.5kg以上であり、好ましくは1.0kg以上であり、好ましくは2.0kg以上であり、好ましくは3.0kg以上であり、好ましくは4.0kg以上であり、好ましくは5.0kg以上であり、好ましくは6.0kg以上であり、好ましくは7.0kg以上であり、好ましくは8.0kg以上であり、好ましくは9.0kg以上であり、好ましくは10kg以上である。上限は木屋式硬度計の測定限界(シロ産業社製、商品名「WPF1600-B」では10kgが測定限界)を超えてもよい。このような範囲であれば、ハンドリング性と溶融加工性に優れる粉体造粒物を得ることができる。ここで、破壊強度とは、20粒以上(好ましくは25粒以上)について、粉体造粒物の長手方向(押出方向)に対して垂直な方向に粉体造粒物を圧し潰すことで測定した平均の破壊応力(破壊荷重)を示す。粉体造粒物では、シェル部が溶融樹脂で構成されるため、粉体造粒物であるにもかかわらず、造粒物として安定な形状を維持することが可能となる。木屋式硬度計の加圧アタッチメントの加圧面の直径は、例えば、5mmである。
【0026】
粉体造粒物の水分量は、任意の適切な水分量とされ得る。粉体造粒物の水分量は、原料粉体が元々保有する水分の他に、造粒を円滑化するために粉体に水を加えることもある。造粒時に水を加える場合の、水の配合量については後述する。
【0027】
粉体造粒物は造粒後に乾燥処理を行うこともできるが、最終的な水分量は、好ましくは10質量%以下であり、より好ましくは5.0質量%以下であり、さらに好ましくは3.0質量%以下であり、特に好ましくは1.0質量%以下であり、最も好ましくは0.5質量%以下である。最終的な粉体造粒物の水分量は、使用目的に応じて適宜選択され得る。
【0028】
粉体造粒物は、「水の添加なし」で造粒されたものであることが好ましい。粉体造粒物の水分量が低い場合は、造粒後の乾燥工程が不要となり得る。水を使用せずに造粒できれば、乾燥工程が不要となるので、粉体造粒工程で発生する二酸化炭素の排出量を大きく削減できる。
【0029】
「水の添加なし」で造粒された粉体造粒物の水分量は、例えば1.0質量%以下であり、好ましくは0.5質量%以下であり、より好ましくは0.3質量%以下であり、更に好ましくは0.2質量%以下である。
【0030】
粉体造粒物の水分量は、後述の通り、赤外線水分計を用いて測定される。
【0031】
本発明で使用される熱可塑性樹脂粉体の粒子径は、本発明の効果が得られる限り、その形態に応じて、任意の適切な粒子径とされ得る。樹脂粉体粒子の最大径は5mm以下であることが好ましく、また最小径は、0.0001mm以上が好ましい。
【0032】
熱可塑性樹脂粉体の平均粒子径は、例えば、0.001mm~1.0mmである。熱可塑性樹脂粉体の平均粒子径は、好ましくは1.0mm以下であり、より好ましくは0.01mm~0.8mmであり、特に好ましくは0.1mm~0.5mmである。本明細書において、平均粒子径は、レーザー回折法で測定され得る。樹脂粉体の平均粒子径は、体積基準での累積粒度分布における累積50%となる粒子径(d50)であり得る。
【0033】
熱可塑性樹脂粉体は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0034】
熱可塑性樹脂粉体の嵩密度は、本発明の効果が得られる限り、その形態に応じて、任意の適切な嵩密度とされ得る。熱可塑性樹脂粉体の嵩密度は、好ましくは0.01kg/L~1kg/Lであり、好ましくは0.05kg/L~0.8kg/Lであり、より好ましくは0.1kg/L~0.8kg/Lであり、さらに好ましくは0.1kg/L~0.6kg/Lであり、特に好ましくは0.2kg/L~0.5kg/Lである。
【0035】
熱可塑性樹脂粉体は、その製造プロセスを経て得られた粉体状樹脂、すなわち、製造プロセスを要因として粉体状であってもよく、ペレット状の樹脂、塊状の樹脂もしくは樹脂成形体等の非粉体状の樹脂を粉砕して得られた粉体状樹脂であってもよい。粉砕された粉体状樹脂は、成形品、ペレット、射出成形において発生するスプルやランナー等を室温下、あるいは、必要に応じてドライアイスや液体窒素を用いて冷却した後、粉砕機(例えば、ダルトン社製、商品名「ネアミル、シルフィードミル、アトマイザー、インパクトミル」等)を使用して得ることができる。
【0036】
熱可塑性樹脂粉体は、任意の適切な熱可塑性樹脂から構成される。熱可塑性樹脂の具体例としては、例えば、高密度ポリエチレン(HDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、ポリプロピレン(PP)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリ塩化ビニリデン、ポリスチレン(PS)、ポリ酢酸ビニル(PVAc)、ポリウレタン(PUR)、フッ素系樹脂、ABS樹脂(アクリロニトリルブタジエンスチレン樹脂)、AS樹脂、アクリル樹脂(PMMA)等の汎用樹脂、ポリアミド(PA)、ポリアセタール(POM)、ポリカーボネート(PC)、ポリフェニレンエーテル、変性ポリフェニレンエーテル(m-PPE、変性PPE、PPO)、ポリエステル類(PET、PBT等)、環状ポリオレフィン(COP)等のエンジニアリングプラスチック類、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリテトラフロロエチレン(PTFE)、ポリサルフォン(PSF)、ポリエーテルサルフォン(PES)、非晶ポリアリレート(PAR)、液晶ポリマー(LCP)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)等のスーパーエンジニアリングプラスチック類、乳化重合あるいは懸濁重合で得られるコアシェルゴム類等が挙げられる。
【0037】
また、上記熱可塑性樹脂として、生分解性樹脂を用いてもよい。生分解性樹脂としては、例えば、脂肪族ポリエステル系樹脂(例えば、ポリヒドロキシアルカノエート(PHA)、ポリカプロラクトン、ポリ乳酸、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート・アジペート、ポリヒドロキシバリレート等のホモポリマーあるいはコポリマー、これらのホモポリマーあるいはコポリマーの変性物等)、脂肪族・芳香族ポリエステル樹脂(例えば、脂肪族カルボン酸もしくはヒドロキシ酸、芳香族ジカルボン酸と1,3-プロパンジオール等のブロックポリマーあるいはランダムポリマー等)、ポリビニルアルコール系樹脂(例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルアセテート、ポリビニルブチレート、エチレン・ビニルアルコールコポリマー等)等が挙げられる。
【0038】
本発明では、特に好ましい熱可塑性樹脂粉体として、アクリル系樹脂、メタクリル系樹脂、ポリヒドロキシアルカノエート(PHA)系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリフェニレンエーテル(PPE)系樹脂、ポリフェニレンサルファイド(PPS)系樹脂、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)系樹脂、ポリイミド(PI)系樹脂、ポリアミドイミド(PAI)系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリカーボネート(PC)系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリケトン系樹脂、液晶ポリマー(LCP)、およびコアシェル型ポリマーからなる群から選ばれる少なくとも1種が用いられる。
【0039】
ポリヒドロキシアルカノエート(PHA)系樹脂は、例えば、微生物が、糖質、油脂類等を餌として、体内で生成した化合物であり得る。このようなポリヒドロキシアルカノエートは、一次的には粉体状のポリマーとして取り出される。
【0040】
ポリヒドロキシアルカノエート系樹脂は、原料成分であるヒドロキシアルカン酸を重合成分として含み、ヒドロキシアルカン酸から誘導された繰り返し単位を少なくとも有する。ポリヒドロキシアルカノエート系樹脂は、人工的に合成したものであってもよいし、微生物により生合成されたものであってもよい。ヒドロキシアルカン酸の例としては、グリコール酸、3-ヒドロキシブチレート、3-ヒドロキシプロピオネート、3-ヒドロキシバレレート、3-ヒドロキシヘキサノエート、3-ヒドロキシヘプタノエート、3-ヒドロキシオクタノエート、3-ヒドロキシナノエート、3-ヒドロキシデカノエート、3-ヒドロキシテトラデカノエート、3-ヒドロキシヘキサデカノエート、3-ヒドロキシオクタデカノエート、4-ヒドロキシブチレート、4-ヒドロキシバレレート、5-ヒドロキシバレレート、6-ヒドロキシヘキサノエート等が挙げられる。ヒドロキシアルカン酸の炭素数は2以上、3以上、4以上、5以上、6以上、7以上、又は8以上であってよく、好ましくは3以上である。ヒドロキシアルカン酸の炭素数は15以下、12以下、10以下、8以下、6以下、又は4以下であってよく、好ましくは10以下、特に6以下である。ヒドロキシアルカン酸は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0041】
ポリヒドロキシアルカノエート系樹脂としては、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)やポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)が好ましく挙げられる。
【0042】
アクリル系樹脂、メタクリル系樹脂、コアシェル型ポリマーは、乳化重合あるいは懸濁重合で得られる粉体状のポリマーが好ましく使用される。乳化重合あるいは懸濁重合で得られる粉体状のポリマーは、そのまま造粒用の熱可塑性樹脂粉体として用いることができる。
【0043】
本発明の粉体造粒物では、造粒物に外壁部(シェル部)を形成させるために、造粒工程において、ダイス壁面での粉体との摩擦熱、あるいは伝熱により、熱可塑性樹脂粉体の構成成分の一部を融解させる必要がある。このために、熱可塑性樹脂粉体の軟化開始温度が造粒温度より高い場合には、造粒温度よりも軟化開始温度が低い他の熱可塑性樹脂粉体との混合物として造粒することにより、造粒物を得ることに有利となる。
【0044】
粉体造粒物は、必要に応じて、任意の適切な添加剤を含み得る。添加剤は、粉体状であってもよく、液状であってもよい。添加剤としては、例えば、酸化防止剤、光安定剤、発泡剤、紫外線吸収剤、ブロッキング防止剤、熱安定剤、衝撃改質剤、抗菌剤、分散剤、相溶化剤、加工助剤、潤滑剤、カップリング剤、結晶化核剤、加水分解抑制剤、脱酸素剤、着色剤(染顔料)、又は結着剤等が挙げられる。添加剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0045】
上記添加剤は、粉体であってもよいし、液状であってもよい。
【0046】
粉体造粒物中の添加剤の含有量は、例えば10質量%以下であり、好ましくは5.0質量%以下であり、好ましくは3.0質量%以下であり、より好ましくは1.0質量%以下である。
【0047】
本実施形態の粉体造粒物は、添加剤として、結着剤(バインダー)を含み得る。ここで、「結着剤」とは、原料の熱可塑性樹脂粉体の構成成分以外に、熱可塑性樹脂粉体間に存在して、粉体同士を結着させ、造粒物の破壊強度を高める作用効果を発揮させ得る化合物を総称して表すものとするが、必要に応じて、結着効果を奏する様々な化合物、好ましくは、水分散系あるいは水溶性のポリマー化合物、多糖類等を結着剤として適宜選択して使用することができる。
【0048】
好ましくは熱可塑性樹脂粉体の構成成分の一部を融解・結着させて粉体造粒物とすることが好ましく、結着剤を配合しないことが好ましい。
【0049】
本実施形態の粉体造粒物において結着剤を配合する場合、その含有割合は、粉体造粒物の全質量に対して、通常、10質量%以下であり、好ましくは5.0質量%以下であり、より好ましくは3.0質量%以下であり、さらに好ましくは1.0質量%以下であり、よりさらに好ましくは0.5質量%以下であり、特に好ましくは0.1質量%以下であり、最も好ましくは0質量%(検出不可)である。
【0050】
1つの実施形態においては、添加剤として、分散剤が好ましく使用される。分散剤としては、界面活性剤が好ましく用いられる。分散剤(界面活性剤)における親水性/疎水性バランスは、分散剤となる化合物のエステル化度や脂肪酸の種類(水酸基の有無、飽和又は不飽和脂肪酸、アルキル鎖長)、重合度等を調整することにより、制御することができる。分散剤の使用により、「粉体造粒物の生産性(吐出速度)を向上させる」、「造粒時の摩擦熱を低下させる」、「造粒装置の清掃性を高めることができる」、等の効用をもたらし得ることがある。
【0051】
分散剤としては、例えば、脂肪酸、脂肪酸金属塩、脂肪酸スルホン酸塩、脂肪酸アマイド、アクリルアミド、多価アルコール脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル等が挙げられる。分散剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0052】
1つの実施形態においては、分散剤は、多価アルコール脂肪酸エステル、脂肪酸アマイド、ポリグリセリン脂肪酸エステル、縮合ヒドロキシ脂肪酸および縮合ヒドロキシ脂肪酸のアルコールエステルからなる群から選ばれる少なくとも1種である。
【0053】
多価アルコール脂肪酸エステルとは、多価アルコールと脂肪酸とから構成されるエステル化合物である。多価アルコール脂肪酸エステルとしては、例えば、ペンタエリスリトール、グリセリン等の多価アルコールと炭素数が8以上(好ましくは炭素数8~24、より好ましくは炭素数10~22)の脂肪酸のエステル類が用いられる。
【0054】
脂肪酸アマイドとは、脂肪酸とアンモニアあるいは1級、2級アミンとが脱水縮合した構造を持つ化合物である。脂肪酸アマイドとしては、例えば、ラウリン酸アミド、パルミチン酸アミド、ステアリン酸アミド、ベヘン酸アミド等の飽和脂肪酸モノアミド類が挙げられる。
【0055】
ポリグリセリン脂肪酸エステルとは、ポリグリセリンと脂肪酸とから構成されるエステル化合物である。ポリグリセリン脂肪酸エステルとしては、例えば、ジグリセリンパルミチン酸エステル、ジグリセリンステアリン酸エステル、ジグリセリンオレイン酸エステル、デカグリセリンパルミチン酸エステル、デカグリセリンステアリン酸エステル、デカグリセリンオレイン酸エステル等が挙げられる。
【0056】
分散剤の含有割合は、粉体造粒物全量に対して、通常、0.01質量%~10質量%であり、好ましくは0.1質量%~7.0質量%であり、より好ましくは0.3質量%~5.0質量%である。
【0057】
1つの実施形態において、添加剤として、結晶化核剤が用いられる。結晶化核剤は、粉体造粒物が結晶性の熱可塑性樹脂粉体を主体とする造粒物である場合に好ましく使用される。特に、結晶化核剤は、熱可塑性樹脂粉体として、生物が産生するバイオポリエステル(例えば、ポリヒドロキシアルカノエート(PHA)類)を用いる場合に、好ましく添加される。結晶化核剤を用いれば、結晶性の熱可塑性樹脂粉体(例えば、バイオポリエステル)の結晶化速度と結晶化度を高めることが可能となり、剛性や耐熱性の向上のみならず、生産性も高めることができる。このような結晶化核剤としては、例えば、リン酸エステル金属塩、安息香酸金属塩、ピメリン酸金属塩、ロジン金属塩、シュウ酸金属塩、脂肪酸金属塩等の有機金属塩化合物類、脂肪族有機エステル、リン酸トリアリル、ポリアルキレングリコールもしくはその誘導体や脂肪族ポリエステル、ベンジリデンソルビトール等の有機化合物類、キナクドリン、シアニンブルー、カーボンブラック等の染顔料類、タルク、マイカ、カオリン、クレー、炭酸塩鉱物、金属酸化物、金属硫酸塩等の鉱物類、アイオノマー、高融点ポリアミド等の高分子化合物類等が挙げられる。1つの実施形態においては、結晶化核剤として、タルク、マイカ、カオリン、炭酸カルシウム等が用いられる。結晶化核剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0058】
結晶化核剤の含有割合は、粉体造粒物全量に対して、通常、0.01質量%~10質量%であり、好ましくは0.1質量%~7.0質量%であり、より好ましくは0.3質量%~5.0質量%である。
【0059】
B.粉体造粒物の製造方法
本発明のコア部とシェル部を有する粉体造粒物は、「ダイス」を介して、粉体造粒物を圧縮し、ダイス接触部の熱可塑性樹脂粉体を溶融させることで得られ得るが、好ましくは、熱可塑性樹脂粉体をダイス穴から押し出す圧縮造粒法で得ることができ、シェル部は、熱可塑性樹脂粉体がダイス穴から押し出される際、すなわち押出造粒時、ダイス穴の壁面との接触面にて、壁面との摩擦熱もしくは壁面からの伝熱によって熱可塑性樹脂粉体の構成成分が溶融することで形成される。
【0060】
シェル部を形成することで、粉体造粒物としての一定の形状(例えば円柱状、角柱状)を保つことができ、品質安定性(形状安定性、硬度の均一性)、低微粉性、高硬度性、ハンドリング性に優れる粉体造粒物を得ることができる。
【0061】
1つの実施形態においては、粉体造粒物は、水を使用することなく、造粒を行うことができるので乾燥工程が不要となる。このため、造粒に使用される電力量を削減でき、工程で発生する二酸化炭素の排出量を大きく削減できる。
【0062】
粉体造粒物の押出造粒時に、粉体がダイス内を通過する場合は、ダイス穴の壁面と粉体との間で摩擦熱を発し得る。この際、摩擦熱によって粉体造粒物は、温度が上昇するが、造粒直後の造粒物温度(Tp;単位℃)が、熱可塑性樹脂粉体の軟化開始温度(Ts、Tsは融点もしくはガラス転移温度に相当する)よりも高くなり過ぎると、熱可塑性樹脂粉体が過剰に溶融して、ダイス穴の壁面に貼り付いたり、ダイス穴詰まりを発生してしまうために、連続造粒が不能となる。一方、造粒直後の造粒物温度(Tp)が、樹脂粉体の軟化開始温度Tsよりも低くなり過ぎると、原料樹脂粉体は、結着力を持たずに、粉体の状態で粒状物とならないか、もしくは容易に圧縮崩壊してしまう造粒物となり、安定な形状で造粒物を得難くなる。
【0063】
粉体造粒物を安定に得るためには、造粒直後の造粒物温度(Tp)と、熱可塑性樹脂粉体の軟化開始温度(Ts)が特定範囲にあることが好ましい。すなわち、本発明に係る粉体造粒物の製造方法は、熱可塑性樹脂粉体をダイス穴から押し出す圧縮造粒法により熱可塑性樹脂粉体を造粒する圧縮造粒工程を含み、造粒直後の造粒物温度Tp(℃)と熱可塑性樹脂粉体の軟化開始温度Ts(℃)とが式(1)を満たす条件で、より好ましくは式(2)を満たす条件で、さらに好ましくは式(3)を満たす条件で圧縮造粒工程が行われる、方法である。
式(1):Ts-30≦Tp≦Ts+10
式(2):Ts-20≦Tp≦Ts+5
式(3):Ts-15≦Tp≦Ts
【0064】
式(1)~(3)において、左辺と右辺を任意に組み合わせて、Tpの好ましい範囲を規定する他の式を作成してもよい。例えば、Ts-20≦Tp≦Ts+10、Ts-15≦Tp≦Ts+10、Ts-30≦Tp≦Ts+5、Ts-15≦Tp≦Ts+5、Ts-30≦Tp≦Ts、Ts-20≦Tp≦Tsを満たす条件で圧縮造粒工程を好ましく行うことができる。
【0065】
造粒直後の造粒物温度(Tp)は、接触式熱電対により、測定することができる。造粒直後の造粒物温度(Tp)の測定は、粉体造粒装置において、造粒が安定に行える状態とした後、造粒中に装置を停止させ、ダイス部、もしくはダイス穴内部の粉体造粒物内へ熱電対を直接挿入して、その温度を素早く計測することにより行うことができる。測定は、最低3回以上(好ましくは5回)行い、その平均値をTpとする。この際、粉体がダイスに貼り付いたり、あるいは目詰まりを生じて、造粒不能となった場合も、同様に粉体内部へ熱電対を直接挿入して、その温度を計測する。
【0066】
本発明のコア/シェル構造を有する粉体造粒物を効率よく得るためには、粉体と直接接するダイス温度の制御が最も効果的である。即ち、ダイスに温度調整のためのヒーターや熱媒流路を設けて加温できる仕組み、更には冷却用媒体の流路を設けて冷却する仕組み、を設けることにより、式(1)の温度条件となるように、ダイスの温度制御を行うことが好ましい。
【0067】
一般の圧縮造粒装置では、装置の簡便性から、ダイスの温度制御ができない単純な構造である場合が多いが、この場合においても、造粒装置のローラーの回転数、ダイス穴の穴径、ダイス穴の加圧有効長、原料粉体の供給速度、原料粉体とダイス表面との接触面積および接触時間、造粒設備への断熱もしくは冷却等の方法により、造粒直後の造粒物温度(Tp)を変化させ、制御することができる。
【0068】
ダイスの温度調整装置がない場合においては、造粒時の摩擦熱による昇温と外部への熱発散とのバランスによる温度制御となるが、式(1)を満たして粉体造粒物を効率よく得るためには、熱可塑性樹脂粉体の軟化開始温度(Ts)が50~150℃であることが好ましく、55~120℃であることがより好ましく、60~90℃であることがさらに好ましい。
【0069】
熱可塑性樹脂粉体は単一成分でも良いし、2種以上の複数の成分の組み合わせでも良い。特に、対象の熱可塑性樹脂粉体の軟化開始温度(Ts)と造粒物温度(Tp)の差が大きく、造粒物温度を上記式(1)~(3)のいずれかの条件を満たすように設定し難い場合には、造粒物温度よりも軟化開始温度が低い熱可塑性樹脂を配合し、混合物として造粒を行うことで、造粒物を得ることに有利となる。
【0070】
熱可塑性樹脂粉体が2種以上の複数成分で構成される場合は、軟化開始温度(Ts)が最も低い熱可塑性樹脂粉体の構成成分のTsを式(1)のTsとして、造粒直後の造粒物温度(Tp)が式(1)を満たす範囲となる条件(例えばダイス温度)を設定することが好ましい。より好ましくは、熱可塑性樹脂粉体の構成成分のいずれの軟化開始温度も式(1)を満たす条件(例えばダイス温度)を設定することである。
【0071】
熱可塑性樹脂粉体が2種以上の複数成分で構成される場合は、最も軟化開始温度が低い熱可塑性樹脂粉体の構成成分は、熱可塑性樹脂粉体の全量に対し、50質量%以下、好ましくは30質量%以下、より好ましくは10質量%以下である。
【0072】
本明細書において、熱可塑性樹脂粉体の軟化開始温度(Ts)は、融点またはガラス転移温度を意味し、示差走査型熱量計(DSC)で測定され得る。1つの実施形態においては、DSC測定において、吸熱あるいは発熱のピークが観測される場合において軟化温度は融点に相当し、また、ベースラインの不連続性が観測される場合において軟化温度はガラス転移温度に相当する。
【0073】
DSC測定では、通常5mg程度の熱可塑性樹脂粉体の試料を試料皿に測り取り、窒素気流下で10℃/分で昇温させて、軟化開始温度(Ts)を求める。
【0074】
結晶性樹脂の場合は、低温部からのベースラインと、結晶融解の吸熱ピークが観測される融解開始側での変曲点(上に凸の曲線が下に凸の曲線に変わる点)における接線の交点を「融点」とみなし、これを軟化開始温度(Ts)とする。
【0075】
尚、結晶融解の吸熱ピークが複数現れる場合は、最も低温側に現れるピークについての融点を軟化開始温度とする。
【0076】
非晶性樹脂の場合は、低温部からのベースラインと、変曲点における接線の交点をガラス転移点(Tg)とみなし、これを軟化開始温度(Ts)とする。
【0077】
粉体造粒物は、圧縮造粒機により、製造することができるが、例えば、ディスクペレッター方式、スクリュー押出方式、ブリケッティング方式、タブレッティング方式、等が挙げられる。上記に例示する中で、造粒生産性と、得られる粉体造粒物の品位や形状均一性の観点から、ディスクペレッター方式が好ましく採用される。ディスクペレッター方式では、適度な水分を含有させる「半湿式造粒法」も採用され得るが、本発明では、水を使用することなく、造粒を行うことが可能となり、この場合、乾燥工程が不要となり得る。水を使用せずに造粒できれば、乾燥工程で必要となるエネルギー量を削減でき、工程で発生する二酸化炭素の排出量を大きく削減できる。
【0078】
熱可塑性樹脂粉体が2種以上の粉体原料を含む混合物である場合は、任意の適切な混合機を用いて、均一に混合することが好ましい。混合機としては、例えば、ヘンシェルミキサー、ナウターミキサー、粉体用ニーダー(KDH、KDA、CKD、CPM)(ダルトン社)、スパルタンミキサー(SPM)(ダルトン社)、SPグラニュレーター(SPG)(ダルトン社)等を挙げることができる。造粒性に優れた好ましい混合物を得るために、混合攪拌装置の攪拌羽根が適切であること好ましい。例えば、ヘンシェルミキサータイプの混合機を使用する場合、ミキサーの羽根は上羽根と下羽根の組み合わせとし、上羽根はY1羽根(商品名、日本コークス(株)製)とし、下羽根はS0羽根(商品名、日本コークス(株)製)を使用することが好ましい。また、撹拌槽内にデフレクターを装着し、混合することが好ましい。すなわち、混合物全体にわたって各成分を均一に分散させることが可能な混合工程とすることにより、最終的に得られる粉体造粒物の生産性と品質安定性を高めることに有利となる。
【0079】
「半湿式造粒法」も採用することができるが、水の配合量は、粉体の特性(吸水性等)により、任意の適切な量とされ得る。この場合、水の配合量は、熱可塑性樹脂粉体100質量部に対して、3質量部~30質量部であり、好ましくは5~25質量部、より好ましくは5~20質量部である。半湿式法は造粒工程で造粒性が安定しない場合に採用することができる。
【0080】
ディスクペレッター方式の造粒機は、基本構造として、2mm~30mmの孔が多数あけられた1個または2個のディスクと、ディスクの孔に原料を圧送するためのローラーとを有する。ディスクとローラーの間、もしくは2個のディスクの間に供給された熱可塑性樹脂粉体(水分を含んでもよい)が、ローラーの回転に伴い、ディスクの孔に圧入され、円柱状の押出物が成形される。押し出された造粒物は、ディスクの裏面において、カッター等で切断されることで、ペレット状の粉体造粒物を得ることができる。造粒物の長さは、ディスクの裏面とカッター間の距離、ローラーの回転数、によって調整が可能である。ディスクプレートとカッター間の距離は、任意の適切な距離とされ得る。ディスクプレートとカッター間の距離は、例えば、1mm~30mmであり、より好ましくは2mm~20mmであり、さらに好ましくは3mm~10mmである。
【0081】
ディスクペレッター方式としては、より具体的には、ローラー・ディスクダイ方式、ローラー・リングダイ方式、ダブルダイス方式、フラットダイ方式等が挙げられる。市販のディスクペレッター方式の造粒機としては、例えば、ダルトン社製のディスクペレッターFシリーズを挙げることができる。
【0082】
C.粉体造粒物を使用する溶融コンパウンド
1つの実施形態においては、粉体造粒物は、熱可塑性樹脂コンパウンド原料または成形用材料として用いられる。本発明の一実施形態は、熱可塑性樹脂コンパウンド用原料、または成形用材料としての、本発明の粉体造粒物の使用である。例えば、粉体造粒物と、その他の熱可塑性樹脂との溶融コンパウンドが提供され得る。
【0083】
溶融コンパウンドは、任意の適切な方法が採用され得る。例えば、ニーダー、バンバリーミキサー、ロール、単軸もしくは二軸以上の多軸押出機を使用することができる。好ましくは、二軸スクリュー押出機が用いられる。溶融混練して得られた組成物はペレット化される。
【0084】
1つの実施形態においては、粉体造粒物は、射出成形機、押出成形機等の樹脂の加工装置に直接投入して、各種の樹脂組成物成形品を得ることもできる。
【実施例】
【0085】
以下に、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれら実施例により何ら限定されるものではない。尚、部および%は特に断りのない限り質量基準に基づく。
【0086】
[評価]
実施例および比較例で得られた粉体造粒物の評価は以下の方法で行った。
(1)造粒性(造粒可否)
得られた粉体造粒物の確認し、以下の基準で造粒性を評価した。
A:コア・シェル構造の粉体造粒物が得られ、シェル部に溶融ポリマーが明確に観察される。
B:コア・シェル構造の粉体造粒物が得られ、シェル部に溶融ポリマーが部分的に観察される。
C:不安定であるがコア・シェル構造の粉体造粒物が得られ、シェル部に溶融ポリマーがわずかながら観察される。
D:造粒物が不安定で崩壊しやすい。
E:「粉体状形状のまま」、もしくは「ダイス詰まり」で造粒不能。
【0087】
(2)造粒物の断面観察写真
得られた粉体造粒物から、剃刀刃を用いて、ダイスからの押出方向に対して垂直に切片を切り出し(厚み:0.5mm)、切り出し断面を光学顕微鏡により観察した。
【0088】
(3)嵩密度
乾燥後の粉体造粒物を1リットルの升に自然落下させ、すり切り一杯にして、正確に1リットルの容積ではかり取り、その質量を測定することで、粉体造粒物の嵩密度(単位:kg/L)を算出した。
【0089】
(4)水分量
赤外線水分計(ケット科学研究所製 FD-660)を用いて、粉体造粒物に残存する水分量(単位:質量%)を測定した。
【0090】
(5)破壊強度
木屋式硬度計(シロ産業社製、商品名「WPF1600-B」)を用いて、粉体造粒物の破壊応力(単位:kg)を測定した。測定値は粉体造粒物25粒の平均値とした。即ち、粉体造粒物の側面が底面となるように硬度計にセットし、5mmφの円柱状の押し具を用いて、粉体造粒物の側面を圧し潰すことで、破壊応力の測定を行った。さらに換言すると、粉体造粒物を長手方向(押出方向)に対して垂直方向に圧し潰すことで、破壊応力の測定を行った。
A: 破壊強度が10kg(測定限界)以上
B: 破壊強度が5.0kg以上、10kg未満
C: 破壊強度が2.0kg以上、5.0kg未満
D: 破壊強度が0.5kg以上、2.0kg未満
E: 破壊強度が0.5kg未満、もしくは得られた粉体造粒物が粉体状
【0091】
(6)排出二酸化炭素(CO2)量
粉体造粒に使用した電力量に対し、環境省発行の「温室効果ガス排出量算定・報告・公表制度」(ウェブサイトに記載されている、A0272関西電力の2020年度基礎排出係数実績値(2022年1月7日公表))の基礎排出係数である0.000362[トン-CO2/kWh]の数値を乗じて、粉体造粒物の単位質量(1kg当たり)の排出二酸化炭素(CO2)量の計算値(単位:kg(CO2)/kg)を求めた。
【0092】
[製造例1]アクリル樹脂粉体造粒物
(アクリル樹脂粉体の製造)
撹拌機、還流冷却器、温度計、窒素ガス導入管及びフィードポンプを備えた重合装置を用いて、水140質量部、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.05質量部、硫酸ナトリウム0.1質量部を混合し、混合物を得た。該混合物を80℃で窒素置換した後に、過硫酸カリウム0.1質量部を添加し、次いで、攪拌しながら、メタクリル酸メチル(MMAとも称す)90質量部及びアクリル酸ブチル(BAとも称す)10質量部からなる単量体混合物を180分間を要して連続添加し、乳化重合を行った。単量体混合物の追加開始から45分、90分目に、それぞれ、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.3質量部を添加した。単量体混合物の添加終了後、更に1時間攪拌して重合を行い、反応を終了させてアクリル系共重合体ラテックスを得た。
【0093】
得られたラテックスを室温まで冷却し、得られたラテックスを塩化カルシウムで塩析、凝固し、水洗、乾燥してアクリル樹脂粉体A1を得た。
【0094】
得られたアクリル樹脂粉体A1を、10メッシュの金網(メッシュ隙間は約2.5mm)で篩い、完全パスさせたものを収集した。同粉体の嵩密度は0.32kg/Lであり、ガラス転移温度(Tg)を示差走査型熱量計(DSC,日立ハイテクサイエンス社製、商品名「DSC6220」)を用いて測定したところ、81℃と観測された。
【0095】
[実施例1]
(アクリル樹脂粉体造粒物の製造)
得られたアクリル樹脂粉体A1を原料として、ディスクペレッター(ダルトン社製、商品名「ディスクペレッターF-5/11-175」)に投入し、ローラー回転数108rpmの条件でペレット状の粉体造粒物とした。尚、ディスクペレッターのダイスプレートの厚みは15mmとし、孔径は3mmφとした。粉体がダイスプレート内部において、ダイス壁面から圧縮応力を受ける長さ(有効長と称す)は10mmとした。
【0096】
造粒直後の粉体造粒物の温度は、造粒装置のローラーの回転数、ダイス穴の加圧有効長、ダイスプレートの加温もしくは冷却等の因子によって変化させた。
【0097】
造粒直後の造粒物の温度は、造粒が安定化した後、装置を停止させ、ダイス穴の内部へ熱電対を直接挿入して、ダイス内部の圧縮された粉体の温度を素早く計測することにより測定した。当該測定を5回行い、その平均値を造粒直後の造粒物温度(Tp)とした。粉体がダイスに貼り付いたまたは目詰まりを生じた等の理由により、造粒不能となった場合も、同様に粉体内部へ熱電対を直接挿入して、その温度を計測した。
【0098】
実施例1は、造粒直後の造粒物温度(Tp)が原料のアクリル樹脂粉体A1の軟化開始温度(81℃)に対して-5℃(すなわち造粒物温度が76℃)の場合の例であるが、安定して略円柱状の造粒物を得ることができた。
【0099】
実施例1の粉体造粒物の外観を写した写真を
図1に示す。
図1に示されるように、略円柱状の圧縮造粒物を安定して得ることができた。
【0100】
実施例1で得られた粉体造粒物の側面は、熱可塑性樹脂粉体の構成成分の溶融物を含む外壁構造(シェル構造)を有し、その外壁構造の内側(コア部)には、溶融していない粉体状痕跡が確認された。
図2に、実施例1で得られた粉体造粒物の長手方向(押出方向)に対して垂直な面における断面写真を示す。
【0101】
実施例1の粉体造粒物は、嵩密度が0.58kg/L、水分量が0.12質量%、造粒物の破壊強度が6.9kgであり、ハンドリング性に優れた粉体造粒物であった。
【0102】
[実施例2]
実施例2は、造粒直後の造粒物温度(Tp)が原料のアクリル樹脂粉体A1の軟化開始温度(81℃)に対して-15℃(すなわち造粒物温度が66℃)の場合の例である。造粒物温度はローラー回転数を低下させることにより制御した。得られた粉体造粒物は実施例1と同様にコア・シェル構造の粉体造粒物であった。
【0103】
実施例2の粉体造粒物は、嵩密度が0.52kg/L、水分量が0.2質量%、造粒物の破壊強度が5.1kgであり、ハンドリング性に優れた粉体造粒物であった。
【0104】
[実施例3]
実施例3は、造粒直後の造粒物温度(Tp)が原料のアクリル樹脂粉体A1の軟化開始温度(81℃)に対して-26℃(すなわち造粒物温度が55℃)の場合の例である。造粒物温度はローラー回転数を更に低下させ、また、ディスクプレートにエアーを吹き付けて強制冷却することで制御した。得られた粉体造粒物は実施例1と同様にコア・シェル構造の粉体造粒物であった。
【0105】
実施例3の粉体造粒物は、嵩密度が0.6kg/L、水分量が0.15質量%、造粒物の破壊強度が2.7kgであり、ハンドリング性に優れた粉体造粒物であった。
【0106】
表1に実施例1~3で得られた粉体造粒物の製造条件と粉体造粒物の各種の測定結果を示す。
【0107】
[比較例1]
比較例1は、造粒直後の造粒物温度(Tp)が原料のアクリル樹脂粉体A1の軟化開始温度(81℃)に対して-41℃(すなわち造粒物温度が40℃)の場合の例である。造粒物温度はダイス有効長を5mmに変更し、ディスクプレートを強制冷却することで制御した。
【0108】
比較例1では、アクリル樹脂粉体A1は粉体のままダイス穴を通過してしまい、造粒物を得ることができなかった。
【0109】
[比較例2]
比較例2は、造粒直後の造粒物温度が原料のアクリル樹脂粉体A1の軟化開始温度(81℃)に対して+14℃(すなわち造粒物温度が95℃)の場合の例である。造粒物温度はディスクプレートを外部ヒータを用いて強制加熱することで制御した。
【0110】
比較例2では、アクリル樹脂粉体A1はダイス穴で目詰まりを起こして、造粒物を得ることができなかった。
【0111】
実施例1~3及び比較例1~2で得られた粉体造粒物を評価した結果を表1に示す。
【0112】
【0113】
[実施例4]バイオポリエステル粉体造粒物
PHAの一種で、3-ヒドロキシ酪酸と3-ヒドロキシヘキサン酸の共重合ポリエステルであるポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3―ヒドロキシヘキサノエート)(PHBH)のペレット((株)カネカ製、商品名「Green planet X131A」、ヘキサノエート含有率6%)を粉砕処理し、10メッシュの金網で篩い、バイオポリエステル粉体A2を得た。
【0114】
バイオポリエステル粉体A2のDSC測定を行ったところ、軟化開始温度(Ts)は80℃であった。軟化開始温度(Ts)は、
図3に示す通り、低温部からのベースラインと、最初に観測される結晶融解吸熱ピークの融解開始側での変曲点における接線との交点における温度から求めた。
【0115】
実施例1と同様にバイオポリエステル粉体A2をディスクペレッターに投入し、粉体造粒物を得た。
【0116】
実施例4での造粒直後の造粒物温度(Tp)は81℃であり、軟化開始温度(Ts:80℃)との差は1℃であったが、安定して略円柱状の造粒物を得ることができた。得られた粉体造粒物の側面は、熱可塑性樹脂粉体の構成成分が溶融して溶融ポリマーからなる外壁構造(シェル構造)を有し、その外壁構造の内側(コア部)には、溶融していない粉体状外観が確認された。実施例4の粉体造粒物の外観を写した写真を
図4に示す。実施例4の粉体造粒物の断面写真を
図5に示す。
【0117】
実施例4の粉体造粒物は、嵩密度が0.50kg/L、水分量が0.48質量%、造粒物の破壊強度が10kg以上であり、ハンドリング性に優れた粉体造粒物であった。
【0118】
[実施例5]粉体造粒物を使用する射出成形
実施例1で得た、アクリル樹脂粉体A1からなる粉体造粒物を射出成形機(芝浦社製、商品名「EX75SX」)に投入し、設定樹脂温度240℃、金型温度60℃、冷却時間30秒にて、名刺判形状(88mm×53mm、厚み1、2、3mmの3段プレート)成形体を得ることができた。得られた射出成形体の写真を
図6に示す。
【0119】
[実施例6]粉体造粒物を使用するシート押出成形
実施例4で得た、バイオポリエステル粉体A2(PHBH)からなる粉体造粒物をシート押出機(テクノベル社製、商品名「KTZ15」)に投入し、押出速度2kg/Hrで、T型ダイスを介して、厚み0.5mm、幅100mmの単層押出シートを得た。ロール温度は20℃とし、巻き取り速度は5m/分とした。
【0120】
実施例6は「溶融混練ペレット化」を省いた押出成形であるが、溶融混練ペレット化を使用した場合とほぼ同等のシート成形体を得ることができた。得られたシート成形体の写真を
図7に示す。
【0121】
[実施例7]
ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3―ヒドロキシヘキサノエート)(PHBH)のペレット((株)カネカ製、商品名「Green planet X151A」、ヘキサノエート含有率11%)を粉砕処理し、粉砕物は10メッシュの金網で篩い、バイオポリエステル粉体A3を得た。
【0122】
バイオポリエステル粉体A3について、実施例4と同様にDSC測定を行い、軟化開始温度(Ts)を測定したところ、80℃であった。
【0123】
FMミキサー(日本コークス工業(株)製、商品名「5FM5C/I」;処理容積:5L)に、100質量部のバイオポリエステル粉体A3を投入し、攪拌羽を回転数2,000rpmで回転させながら、上記バイオポリエステル粉体A3に対して噴霧状に上水(水道水)20質量部を、10分間で連続的に噴霧注入し、含水粉体混合物を得た。
【0124】
FMミキサーの羽根は上羽根と下羽根の組み合わせとし、上羽根はY1羽根(商品名、日本コークス(株)製)とし、下羽根はS0羽根(商品名、日本コークス(株)製)を使用した。また、撹拌槽内には邪魔板(デフレクターとも称す)を装着した。
【0125】
この含水粉体を、実施例1と同様にディスクペレッターに投入し、略円柱状の造粒物前駆体を得た。
【0126】
実施例7は、半湿式での造粒方法となるが、適度な水分の存在は、粉体の嵩密度を上げ、粉体のダイス穴への喰いこみを良くし、また、造粒時の過剰な発熱を抑え、ダイス詰まりを抑制する作用があり、これらの作用効果の結果、造粒速度の向上をもたらすことができ、造粒物前駆体造粒物の造粒速度は88kg/Hrに至った。
【0127】
実施例7においては、造粒直後の造粒物前駆体温度が54℃となり、原料のバイオポリエステル粉体A3の軟化開始温度(80℃)に対して-26℃(すなわち造粒物温度が54℃)であった。実施例7では、安定して円柱状の造粒物を得ることができた。
【0128】
得られた造粒物前駆体は、熱風式循環型乾燥機(エスペック製、商品名「PH-402」)を用いて、140℃で、水分量が0.5wt%以下になるまで乾燥し、粉体造粒物を得た。
【0129】
得られた粉体造粒物は、実施例1と同様にコア・シェル構造の粉体造粒物であった。実施例7の粉体造粒物の断面写真を
図8に示す。
【0130】
実施例7の粉体造粒物は、嵩密度が0.49kg/L、水分量が0.27質量%、造粒物の破壊強度が10.0kg以上であり、ハンドリング性に優れた粉体造粒物であった。
【0131】
[実施例8]
実施例7で使用したバイオポリエステル粉体A3を実施例1と同様にディスクペレッターに投入し、粉体造粒物を得た。実施例8では、実施例7と異なり、水添加を行わなかった。
【0132】
得られた粉体造粒物は、実施例1と同様にコア・シェル構造の粉体造粒物であった。実施例8の粉体造粒物の断面写真を
図9に示す。
【0133】
実施例8の粉体造粒物は、嵩密度が0.53kg/L、水分量が0.52質量%、造粒物の破壊強度が10.0kg以上であり、ハンドリング性に優れた粉体造粒物であった。
【0134】
[実施例9]
ポリヒドロキシアルカノエート(PHA)のペレット(米国Danimer scientific社製、商品名「DAH-04267」を粉砕処理し、粉砕物は10メッシュの金網で篩い、バイオポリエステル粉体A4を得た。
【0135】
バイオポリエステル粉体A4について、実施例4と同様にDSC測定を行い、軟化開始温度(Ts)を測定したところ、85℃であった。
【0136】
実施例9はバイオポリエステル粉体A4を使用し、実施例7と同様に水道水を20質量部配合して造粒を行った例である。
【0137】
実施例9においては、造粒物の造粒速度は39kg/Hrであり、造粒直後の造粒物前駆体温度が76℃となり、原料のバイオポリエステル粉体A3の軟化開始温度(85℃)に対して-9℃(すなわち造粒物温度が76℃)であった。実施例9では、安定して略円柱状の造粒物前駆体を得ることができた。
【0138】
得られた造粒物前駆体は、実施例7と同様に熱風式循環型乾燥機により、140℃で、水分量が0.5wt%以下になるまで乾燥し、粉体造粒物を得た。得られた粉体造粒物は、コア・シェル構造の粉体造粒物であった。実施例9の粉体造粒物の断面写真を
図10に示す。
【0139】
実施例9の粉体造粒物は、嵩密度が0.35kg/L、水分量が0.30質量%、造粒物の破壊強度が10.0kg以上であり、ハンドリング性に優れた粉体造粒物であった。
【0140】
実施例4、7~9の評価結果を表2に示す。
【0141】
【0142】
[比較例3]
実施例7で使用したバイオポリエステル粉体A3を二軸押出機(日本製鋼社製、商品名「TEX44αII」、L/D=42、シリンダー設定温度:140℃)に連続投入し、溶融混練を行い、熱可塑性樹脂組成物のペレットを製造した。
【0143】
バイオポリエステル粉体A3は、重量式フィーダーを介して定量的に押出機の最上流部のホッパー位置から投入した。スクリューの回転数を81rpmとし、押出機先端部のダイスからストランドを引き出し、60℃の水温でストランド冷却を行い、ペレタイザ―(いすゞ社製、商品名「HSCR-150」)により長さ約3mmでペレタイズを行い、バイオポリエステル粉体A3の「溶融混練ペレット」を得た。
【0144】
バイオポリエステル粉体A3の押出機への投入は、材料の投入速度を段階的に上げ、時間当たりのコンパウンド加工速度が最大となる供給速度(即ち、押出機への原料粉体のフィードネックが生じない安定生産可能な最大供給速度)で造粒を行った結果、最大の吐出は60kg/Hrに留まった。
【0145】
得られた溶融混練ペレットは、実施例7と同様に、熱風式循環型乾燥機を用いて、80℃で、水分量が0.2wt%以下になるまで乾燥し、溶融混練ペレットを得た。
【0146】
実施例7と同様に、単位質量(1kg当たり)の造粒物に対する各プロセスの消費電力量と工程発生二酸化炭素量(計算値)を算出した。結果を表3に示す。
【0147】
実施例7,8と比較例3の比較で、本発明の「粉体ポリマー造粒物」は、大きな熱源ヒーターと動力を使用する二軸押出機を使用する「溶融混練ペレット」に比べて、工程排出CO2量を大きく減らすことが示される。
【0148】
【要約】
【課題】本発明の目的は、熱可塑性樹脂粉体に対し、溶融混練ペレット化の工程を経ずとも、形状が安定し、嵩密度が高く、作業環境の良化をもたらし、加工機へのフィード特性(安定性、流動性)に優れ、また、溶融混練ペレット化に比べて、製造に要する電気使用量の削減、即ち、二酸化炭素の発生量を低減させることに寄与し得る、熱可塑性樹脂粉体の造粒物を提供することである。
【解決手段】本発明は、熱可塑性樹脂粉体を含む粉体造粒物であって、粉体造粒物の外縁に位置する熱可塑性樹脂粉体の少なくとも一部が溶融して構成された外壁部を有し、外壁部の内側に圧縮された熱可塑性樹脂粉体が収まっている、粉体造粒物である。
【選択図】
図2