(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-20
(45)【発行日】2023-11-29
(54)【発明の名称】動力伝達装置
(51)【国際特許分類】
F16H 48/40 20120101AFI20231121BHJP
B60T 1/06 20060101ALI20231121BHJP
F16D 63/00 20060101ALI20231121BHJP
F16H 48/08 20060101ALI20231121BHJP
【FI】
F16H48/40
B60T1/06 G
F16D63/00 H
F16H48/08
(21)【出願番号】P 2019043239
(22)【出願日】2019-03-10
【審査請求日】2021-12-08
【審判番号】
【審判請求日】2023-06-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000231350
【氏名又は名称】ジヤトコ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100148301
【氏名又は名称】竹原 尚彦
(72)【発明者】
【氏名】藤川 真澄
【合議体】
【審判長】平城 俊雅
【審判官】小川 恭司
【審判官】内田 博之
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-183875(JP,A)
【文献】特開2014-98401(JP,A)
【文献】国際公開第2019/039599(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 48/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動源と、
前記駆動源の下流に接続されたギアと、
前記ギアの下流に接続されたデファレンシャルギアと、
前記ギアと前記デファレンシャルギアのデファレンシャルケースとを連結することにより前記デファレンシャルギアの回転を係止する係止機構と、を備え、
前記ギアは、遊星ギアのピニオンギアであり、
前記デファレンシャルケースは、前記ピニオンギアを回転可能に支持する前記遊星ギアのキャリアと接続され、
前記係止機構は、前記デファレンシャルケースと、前記ピニオンギアとを連結する、動力伝達装置。
【請求項2】
駆動源と、
前記駆動源の下流に接続されたギアと、
前記ギアの下流に接続されたデファレンシャルギアと、
前記ギアと前記デファレンシャルギアのデファレンシャルケースとを連結することにより前記デファレンシャルギアの回転を係止する係止機構と、を備え、
前記ギアは、遊星ギアの
ピニオンギアの内径側に位置するサンギアであり、
前記デファレンシャルケースは、前記サンギアに接続する前記遊星ギアのピニオンギア
を回転可能に支持する前記遊星ギアのキャリアと接続され、
前記係止機構は、
前記サンギアと、前記デファレンシャルケースの前記サンギアに対向する部分と、を係止することにより、前記デファレンシャルケースと、前記サンギアとを連結する、動力伝達装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2において、
前記係止機構は、前記ギアまたは前記デファレンシャルケースの一方と一体回転し且つ軸方向にスライド可能なピストンである、動力伝達装置。
【請求項4】
請求項1または請求項2において、
前記係止機構は、スライドすることにより前記ギアおよび前記デファレンシャルケースを連結するスリーブである、動力伝達装置。
【請求項5】
駆動源と、
前記駆動源の下流に接続されたギアと、
前記ギアの下流に接続されたデファレンシャルギアと、
前記ギアと前記デファレンシャルギアのデファレンシャルケースとを連結することにより前記デファレンシャルギアの回転を係止する係止機構と、を備え、
前記係止機構は、スライドすることにより前記ギアおよび前記デファレンシャルケースを連結するスリーブである、動力伝達装置。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のいずれか一において、
前記駆動源はモータであり、
ドライブシャフトは、前記モータの内周を貫通して配置されている、動力伝達装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動力伝達装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、動力伝達装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
動力伝達装置を車両に搭載する場合には、回転駆動力の伝達経路上の回転要素の回転を規制するパークロック機構が必要である。
そのため、動力伝達装置には、パークロック機構を設けるためのスペースが必要であるが、パークロック機構を設けると、動力伝達装置が大型化してしまう。
そこで、パークロック機構をコンパクト化することが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は
駆動源と、
前記駆動源の下流に接続されたギアと、
前記ギアの下流に接続されたデファレンシャルギアと、
前記ギアと前記デファレンシャルギアのデファレンシャルケースとを連結することにより前記デファレンシャルギアの回転を係止する係止機構と、を備え、
前記ギアは、遊星ギアのピニオンギアであり、
前記デファレンシャルケースは、前記ピニオンギアを回転可能に支持する前記遊星ギアのキャリアと接続され、
前記係止機構は、前記デファレンシャルケースと、前記ピニオンギアとを連結する構成の動力伝達装置とした。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、従来公知のパークロック機構が備えるパークロッドなどの部材が不要になるので、パークロック機構のコンパクト化が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本実施形態にかかる動力伝達装置を説明する図である。
【
図2】動力伝達装置の減速機構周りの拡大図である。
【
図3】動力伝達装置の差動装置周りの拡大図である。
【
図4】変形例にかかる係止機構を説明する図である。
【
図5】変形例にかかる係止機構を説明する図である。
【
図6】変形例にかかる係止機構を説明する図である。
【
図7】変形例にかかる係止機構を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施形態を説明する。
図1は、本実施形態にかかる動力伝達装置1を説明する図である。
図2は、動力伝達装置1の遊星減速ギア5周りの拡大図である。
図3は、動力伝達装置1の差動装置6周りの拡大図である。
【0009】
動力伝達装置1は、モータ2と、モータ2の出力回転を減速して差動装置6に入力する遊星減速ギア5(減速機構)と、ドライブシャフト8(8A、8B)と、パークロック機構3と、を有している。
【0010】
動力伝達装置1では、モータ2の出力回転の伝達経路に沿って、遊星減速ギア5と、差動装置6と、ドライブシャフト8(8A、8B)と、が設けられている。
モータ2の出力回転は、遊星減速ギア5で減速されて差動装置6に入力された後、ドライブシャフト8(8A、8B)を介して、動力伝達装置1が搭載された車両の左右の駆動輪(図示せず)に伝達される。
図1では、ドライブシャフト8Aが、動力伝達装置1を搭載した車両の左輪に回転伝達可能に接続されていると共に、ドライブシャフト8Bが、右輪に回転伝達可能に接続されている。
【0011】
ここで、遊星減速ギア5は、モータ2の下流に接続されており、差動装置6は、遊星減速ギア5の下流に接続されており、ドライブシャフト8(8A、8B)は、差動装置6の下流に接続されている。
【0012】
本実施形態では、モータハウジング10と、外側カバー11と、内側カバー12と、ケース13で、動力伝達装置1の本体ケース9を構成している。
モータハウジング10の内径側で、外側カバー11と内側カバー12との間に形成される空間Saは、モータ2を収容するモータ室となっている。
ケース13と内側カバー12との間に形成される空間Sbは、遊星減速ギア5と差動装置6を収容するギア室となっている。
【0013】
モータ2は、円筒状のモータシャフト20と、モータシャフト20に外挿された円筒状のロータコア21と、ロータコア21の外周を所定間隔で囲むステータコア25とを、有している。
【0014】
モータシャフト20は、ドライブシャフト8Bに外挿された状態で、ドライブシャフト8Bに対して相対回転可能に設けられている。
モータシャフト20では、長手方向の一端20a側と他端20b側の外周に、ベアリングB1、B1が外挿されて固定されている。
モータシャフト20の一端20a側は、ベアリングB1を介して、内側カバー12の円筒状のモータ支持部121で回転可能に支持されている。
モータシャフト20の他端20b側は、ベアリングB1を介して、外側カバー11の円筒状のモータ支持部111で回転可能に支持されている。
【0015】
モータ2は、ロータコア21の外周を所定間隔で囲むモータハウジング10を有している。本実施形態では、モータハウジング10の一端10aに、内側カバー12が接合されており、モータハウジング10の他端10bに、外側カバー11が接合されている。
【0016】
モータハウジング10の一端10aと他端10bには、シールリングS、Sが設けられている。モータハウジング10の一端10aは、当該一端10aに設けたシールリングSにより、内側カバー12の環状の基部120に隙間なく接合されている。
モータハウジング10の他端10bは、当該他端10bに設けたシールリングSにより、外側カバー11の環状の接合部110に隙間なく接合されている。
【0017】
内側カバー12では、基部120とモータ支持部121とが、回転軸X方向で位置をずらして設けられている。
本実施形態では、内側カバー12をモータハウジング10の一端10aに固定すると、モータ支持部121が、モータハウジング10の内側に挿入されるようになっている。
【0018】
図2に示すように、この状態においてモータ支持部121は、後記するコイルエンド253aの内径側で、ロータコア21の一端部21aに、回転軸X方向の隙間をあけて対向して配置される。
【0019】
なお、モータ支持部121のロータコア21側の端面121aには、ベアリングリテーナ125が固定されている。
ベアリングリテーナ125は、回転軸X方向から見てリング状を成している。ベアリングリテーナ125の内径側は、モータ支持部121で支持されたベアリングB1のアウタレースB1bの側面に回転軸X方向から当接している。ベアリングリテーナ125は、モータ支持部121からのベアリングB1の脱落を阻止している。
【0020】
図1に示すように、外側カバー11の接合部110をモータハウジング10の他端10bに固定すると、モータ支持部111が、モータハウジング10の内側に挿入されるようになっている。
【0021】
この状態においてモータ支持部111は、後記するコイルエンド253bの内径側で、ロータコア21の他端部21bに、回転軸X方向の隙間をあけて対向して配置される。
そして、モータ支持部111と、外側カバー11の側壁部113とを接続する筒状部115は、コイルエンド253bと支持筒112との接触を避けて、回転軸Xに沿う向きで設けられている。
【0022】
モータハウジング10の内側では、外側カバー11側のモータ支持部111と、内側カバー12側のモータ支持部121との間に、ロータコア21が配置されている。
【0023】
ロータコア21は、複数の珪素鋼板を積層して形成したものであり、珪素鋼板の各々は、モータシャフト20との相対回転が規制された状態で、モータシャフト20に外挿されている。
モータシャフト20の回転軸X方向から見て、珪素鋼板はリング状を成しており、珪素鋼板の外周側では、図示しないN極とS極の磁石が、回転軸X周りの周方向に交互に設けられている。
【0024】
回転軸X方向におけるロータコア21の一端部21aは、モータシャフト20の大径部203で位置決めされている。ロータコア21の他端部21bは、モータシャフト20に圧入されたストッパ23で位置決めされている。
【0025】
ステータコア25は、複数の電磁鋼板を積層して形成したものであり、電磁鋼板の各々は、モータハウジング10の内周に固定されたリング状のヨーク部251と、ヨーク部251の内周からロータコア21側に突出するティース部252を、有している。
本実施形態では、巻線253を、複数のティース部252に跨がって分布巻きした構成のステータコア25を採用しており、ステータコア25は、回転軸X方向に突出するコイルエンド253a、253bの分だけ、ロータコア21よりも回転軸X方向の長さが長くなっている。
【0026】
なお、ロータコア21側に突出する複数のティース部252の各々に、巻線を集中巻きした構成のステータコアを採用しても良い。
【0027】
モータシャフト20では、大径部203よりも一端20a側の領域の外周に、ベアリングB1が圧入されている。
図2に示すように、ベアリングB1のインナレースB1aは、回転軸X方向の一方の側面が、モータシャフト20の外周に設けた段部204に当接している。インナレースB1aは、他方の側面に、モータシャフト20の外周に圧入されたリング状のストッパ205が当接している。
ストッパ205によりベアリングB1は、インナレースB1aを、段部204に当接させた位置で位置決めされている。
【0028】
モータシャフト20の一端20aは、ストッパ205よりも差動装置6側(図中、左側)に位置している。回転軸X方向において一端20aは、遊星減速ギア5のサンギア51と、段付きピニオンギア53の大径歯車部531との噛み合い部分に、間隔をあけて対向している。
【0029】
モータシャフト20の一端20a側では、モータシャフト20の径方向外側に、円筒壁122が位置している。円筒壁122は、モータ支持部121から差動装置6側(図中、左側)に突出している。
【0030】
円筒壁122は、モータシャフト20の外周を所定間隔で囲んでおり、円筒壁122とモータシャフト20との間には、リップシールRSが設置されている。
リップシールRSは、モータハウジング10の内径側の空間Saと、ケース13の内径側の空間Sbとを、区画するために設けられている。
【0031】
円筒壁122の外径側には、遊星減速ギア5側(
図2における左側)に開口した凹部124が形成されている。
凹部124の外径側には、ベアリングB3を位置決めする段部124aが設けられている。凹部124内において、ベアリングB3は、モータ支持部121との接触を避けて設けられており、ベアリングB3は、後記する筒状部552の外周を支持している。
【0032】
モータシャフト20の一端20a側の連結部202は、ロータコア21が外挿された中間領域201よりも大きい内径で形成されている。
この一端20a側の連結部202の内側には、サンギア51の円筒状の連結部511が挿入されている。この状態において、モータシャフト20の一端20a側の連結部202と、サンギア51の連結部511とが、相対回転不能にスプライン嵌合している。
【0033】
そのため、モータ2の出力回転が、モータシャフト20を介して、遊星減速ギア5のサンギア51に入力されて、サンギア51がモータ2の回転駆動力で、回転軸X回りに回転する。
【0034】
サンギア51は、内径側の側面51aから回転軸X方向に延びる連結部511を有している。連結部511は、サンギア51と一体に形成されおり、サンギア51の内径側と連結部511の内径側とに跨がって、貫通孔510が形成されている。
サンギア51は、貫通孔510を貫通したドライブシャフト8Bの外周で回転可能に支持されている。
【0035】
サンギア51の差動装置6側の側面51bは、後記するデフケース60の筒状の支持部601に、回転軸X方向の隙間をあけて対向しており、側面51bと支持部601との間には、ニードルベアリングNBが介在している。
【0036】
サンギア51は、前記したモータシャフト20の延長上で、段付きピニオンギア53の大径歯車部531に噛合している。
【0037】
段付きピニオンギア53は、サンギア51に噛合する大径歯車部531と、大径歯車部531よりも小径の小径歯車部532とを有している。
段付きピニオンギア53は、大径歯車部531と小径歯車部532が、回転軸Xに平行な軸線X1方向で並んで、一体に設けられたギア部品である。
【0038】
段付きピニオンギア53は、大径歯車部531と小径歯車部532の内径側を軸線X1方向に貫通した貫通孔530を有している。
段付きピニオンギア53は、貫通孔530を貫通したピニオン軸54の外周で、ニードルベアリングNBを介して回転可能に支持されている。
【0039】
ピニオン軸54の外周では、大径歯車部531の内径側と、小径歯車部532の内径側に、ニードルベアリングNBがそれぞれ設けられている。ピニオン軸54の外周においてニードルベアリングNB、NBは、軸線X1方向に直列に並んでいる。
【0040】
ピニオン軸54の長手方向の一端と他端は、デフケース60と一体に形成された側板部651と、この側板部651に間隔をあけて配置された側板部551で支持されている。
【0041】
側板部651、551は、回転軸X方向に間隔をあけて互いに平行に設けられている。
側板部651、551の間では、複数の段付きピニオンギア53が回転軸X周りの周方向に所定間隔で複数(例えば、3つ)設けられている。
【0042】
小径歯車部532の各々は、リングギア52の内周に噛合している。リングギア52は、ケース13の内周にスプライン嵌合しており、リングギア52は、ケース13との相対回転が規制されている。
【0043】
側板部551の内径側には、モータ2側に延びる筒状部552が設けられている。筒状部552は、内側カバー12の凹部124に、回転軸X方向から挿入されている。凹部124内において、筒状部552は、モータ支持部121との接触を避けて設けられている。
【0044】
筒状部552は、モータシャフト20の連結部202と、遊星減速ギア5側の連結部511との噛み合い部分の径方向外側に位置している。筒状部552の外周には、モータ支持部121の凹部124に固定されたベアリングB3が接触している。側板部551の筒状部552は、ベアリングB3を介して、内側カバー12で回転可能に支持されている。
【0045】
図3に示すように、遊星減速ギア5では、キャリア55を構成する側板部551と側板部651のうちの一方の側板部651は、差動装置6のデフケース60と一体に形成されている。
そのため、遊星減速ギア5のキャリア55(側板部551、651、ピニオン軸54)は、デフケース60と実質的に一体に形成されている。
【0046】
遊星減速ギア5では、モータ2の出力回転が、サンギア51に入力される。
サンギア51に入力された出力回転は、サンギア51に噛合する大径歯車部531を介して、段付きピニオンギア53に入力されて、段付きピニオンギア53が軸線X1回りに回転する。
【0047】
そうすると、大径歯車部531と一体に形成された小径歯車部532は、大径歯車部531と一体に軸線X1周りに回転する。
ここで、小径歯車部532は、ケース13の内周に固定されたリングギア52に噛合している。そのため、小径歯車部532が軸線X1回りに回転すると、段付きピニオンギア53は、軸線X1回りに自転しながら、回転軸X周りに回転する。
【0048】
そうすると、ピニオン軸54の一端が、デフケース60と一体に形成された側板部651に支持されているので、段付きピニオンギア53の回転軸X周りの周方向の変位に連動して、デフケース60が回転軸X回りに回転する。
【0049】
ここで、段付きピニオンギア53では、小径歯車部532の外径R2が大径歯車部531の外径R1よりも小さくなっている(
図3参照)。
そして、遊星減速ギア5では、サンギア51が、モータ2の出力回転の入力部となっており、段付きピニオンギア53を支持するキャリア55が、入力された回転の出力部となっている。
そうすると、遊星減速ギア5のサンギア51に入力された回転は、段付きピニオンギア53により大きく減速されたのちに、キャリア55の側板部651が一体に形成されたデフケース60に出力される。
【0050】
図3に示すように、デフケース60は、シャフト61と、かさ歯車62A、62Bと、サイドギア63A、63Bとを、内部に収納する中空状に形成されている。
デフケース60では、回転軸X方向(図中、左右方向)の両側部に、筒状の支持部601、602が設けられている。支持部601、602は、シャフト61から離れる方向に、回転軸Xに沿って延出している。
【0051】
支持部601の外径側には、キャリア55の側板部651と側板部551とを接続する接続片56が設けられている。
接続片56のデフケース60側の一端は、側板部651とデフケース60の外周とに跨がって設けられており、他端は、回転軸X方向から側板部551に接続されている。
【0052】
接続片56は、前記した段付きピニオンギア53との干渉を避けた位置に設けられている。前記したように、段付きピニオンギア53は、回転軸X周りの周方向に所定間隔で複数(例えば、3つ)設けられている。
接続片56は、回転軸X回りの周方向で隣接する段付きピニオンギア53の間に設けられている。
【0053】
デフケース60の支持部602には、ベアリングB2が外挿されている。支持部602に外挿されたベアリングB2は、ケース13のリング状の支持部131で保持されており、デフケース60の支持部602は、ベアリングB2を介して、ケース13で回転可能に支持されている。
【0054】
支持部602には、ケース13の開口部130を貫通したドライブシャフト8Aが、回転軸X方向から挿入されており、ドライブシャフト8Aは、支持部602で回転可能に支持されている。
開口部130の内周には、リップシールRSが固定されており、リップシールRSの図示しないリップ部が、ドライブシャフト8Aの外周に弾発的に接触することで、ドライブシャフト8Aの外周と開口部130の内周との隙間が封止されている。
【0055】
図1に示すように、デフケース60の支持部601には、外側カバー11の開口部114を貫通したドライブシャフト8Bが、回転軸方向から挿入されている。
ドライブシャフト8Bは、モータ2のモータシャフト20と、遊星減速ギア5のサンギア51の内径側を回転軸X方向に横切って設けられており、ドライブシャフト8Bの先端側が、支持部601で回転可能に支持されている。
【0056】
外側カバー11の開口部114の内周には、リップシールRSが固定されており、リップシールRSの図示しないリップ部が、ドライブシャフト8Bの外周に弾発的に接触することで、ドライブシャフト8Bの外周と開口部114の内周との隙間が封止されている。
【0057】
図3に示すように、デフケース60の内部では、ドライブシャフト8A、8Bの先端部の外周に、サイドギア63A、63Bがスプライン嵌合しており、サイドギア63A、63Bとドライブシャフト8(8A、8B)とが、回転軸X周りに一体回転可能に連結されている。
【0058】
デフケース60には、回転軸Xに直交する方向に貫通した軸孔60a、60bが、回転軸Xを挟んで対称となる位置に設けられている。
軸孔60a、60bは、回転軸Xに直交する軸線Y上に位置しており、軸孔60a、60bには、シャフト61が挿入されている。
シャフト61は、ピンPでデフケース60に固定されており、シャフト61は、軸線Y回りの自転が禁止されている。
【0059】
シャフト61は、デフケース60内において、サイドギア63A、63Bの間に位置しており、軸線Yに沿って配置されている。
【0060】
デフケース60内においてシャフト61には、かさ歯車62A、62Bが外挿して回転可能に支持されている。
かさ歯車62A、62Bは、シャフト61の長手方向(軸線Yの軸方向)で間隔を空けて2つ設けられており、かさ歯車62A、62Bは、互いの歯部を対向させた状態で配置されている。
シャフト61においてかさ歯車62A、62Bは、当該かさ歯車62A、62Bの軸心を、シャフト61の軸心と一致させて設けられている。
【0061】
デフケース60内において、回転軸Xの軸方向におけるかさ歯車62A、62Bの両側には、サイドギア63A、63Bが位置している。
サイドギア63A、63Bは、互いの歯部を対向させた状態で、回転軸Xの軸方向に間隔を空けて2つ設けられており、かさ歯車62A、62Bとサイドギア63A、63Bとは、互いの歯部を噛合させた状態で組み付けられている。
【0062】
ここで、動力伝達装置1には、当該動力伝達装置1を搭載した車両の駐車状態を維持するためのパークロック機構3が設けられている。
パークロック機構3は、デフケース60と、段付きピニオンギア53との相対回転を規制する係止機構31を有している。
【0063】
図2に示すように、係止機構31は、回転軸X(軸線X1)方向にスライド移動可能なピストン32と、ピストン32の係止突起321が係脱する凹部33と、を有している。
【0064】
デフケース60の側板部651には、ピストン32の収容穴34が設けられている。
側板部651において収容穴34は、段付きピニオンギア53側(図中、右側)の側面で、段付きピニオンギア53の端面53aとの対向部に開口している。
【0065】
回転軸X方向から見て収容穴34は、軸線X1を所定間隔で囲むリング状を成しており、収容穴34には、軸線X1方向から見てリング状を成すピストン32と、スプリングSpが挿入されている。
【0066】
ピストン32は、リング状の基部320と、係止突起321と、を有している。
係止突起321は、基部320の段付きピニオンギア53側の面から、段付きピニオンギア53側に突出している。軸線X1方向から見て係止突起321は、軸線X1周りの周方向に所定間隔で複数設けられている。
【0067】
ピストン32は、スプリングSpにより収容穴34の奥側に引き込まれており、ピストン32は、スプリングSpの引き込み力により、収容穴34の内部に収容された位置で保持されている。
【0068】
ピストン32は、軸線X1回りの回転が規制された状態で、軸線X1方向にスライド移動可能に設けられている。
段付きピニオンギア53の端面53aでは、係止突起321に対向する部位に、係止突起321が係合する凹部33が設けられている。
【0069】
側板部651では、収容穴34が設けられた外径側の領域に、環状壁部652が設けられている。環状壁部652は、軸線X1の外径側を、段付きピニオンギア53から離れる方向に直線状に延びており、回転軸X方向から見てリング状を成している
回転軸X(軸線X1)方向から見て環状壁部652は、収容穴34と重なる位置に設けられている。
【0070】
ケース13には、環状壁部652の内側に挿入される環状壁132が設けられている。
環状壁132は、環状壁部652の内周に僅かな隙間をあけて設けられている。環状壁132は、差動装置6のシャフト61の外径側を回転軸X方向に横切って設けられており、環状壁132の先端は、デフケース60の側板部651の近傍で、側板部651との間に隙間をあけて対向している。
【0071】
環状壁132の根元側(図中、左側)の外径側には、ニードルベアリングNBの収容部135が設けられている。収容部135に設置されたニードルベアリングNBには、前記した側板部651の環状壁部652が、軸線X1方向から当接している。
【0072】
環状壁132の内部には、軸線X1方向に延びる油路133が設けられている。この油路133には、オイルポンプOPから吐出されたオイルOLの一部が、切替弁Vを介して供給される。
油路133の先端側には、径方向油路134が連絡しており、径方向油路134は、環状壁132の外周に開口している。
【0073】
環状壁132の外周では、回転軸X方向における径方向油路134の両側に、シールリングS、Sが設けられている。シールリングS、Sは、環状壁部652の内周に弾性的に接触しており、環状壁132の外周と環状壁部652の内周との隙間を塞いでいる。
【0074】
環状壁132の外周を所定間隔で囲む環状壁部652では、径方向油路134に対向する位置の内周に、第2油路302が開口している。
第2油路302は、環状壁部652内を軸線X1に沿う方向に延びる第1油路301を介して、ピストン32の収容穴34に連絡している。
【0075】
第1油路301および第2油路302から構成される油路30は、収容穴34にオイルOLを供給するために設けられている。
【0076】
本実施形態では、係止機構31が作動すると、切替弁Vを介して油路133に供給されたオイルOLが、径方向油路134と油路30とを通ってピストン32の収容穴34内に供給される。
そうすると、収容穴34内に供給されたオイルOLが、ピストン32を段付きピニオンギア53側(図中、右側)に押圧し、ピストン32は、スプリングSpの引張り力に抗して、段付きピニオンギア53側に変位する。
これにより、オイルOLで押されたピストン32の係止突起321が、段付きピニオンギア53に設けた凹部33に挿入されて係止される。
【0077】
ここで、モータ2の出力回転の伝達経路では、遊星減速ギア5に入力された回転が、キャリア55を構成する側板部651を介してデフケース60に伝達される。
そのため、係止機構31の作動により、ピストン32の係止突起321が凹部33に係止されると、段付きピニオンギア53と側板部651との相対回転が規制される。
【0078】
そうすると、デフケース60と遊星減速ギア5との間での回転伝達が規制された状態、いわゆるインターロック状態となって、動力伝達経路に沿う回転の伝達が規制される。この状態では、ドライブシャフト8(8A、8B)と、ドライブシャフト8(8A、8B)が連結された左右の駆動輪の回転が規制される。すなわち、係止機構31の作動が、パークロック機構3の作動となる。
【0079】
かかる構成の動力伝達装置1の作用を説明する。
動力伝達装置1では、モータ2の出力回転の伝達経路に沿って、遊星減速ギア5と、差動装置6と、ドライブシャフト8(8A、8B)と、が設けられている。
【0080】
モータ2の駆動により、ロータコア21が回転軸X回りに回転すると、ロータコア21と一体に回転するモータシャフト20を介して、遊星減速ギア5のサンギア51に回転が入力される。
【0081】
遊星減速ギア5では、サンギア51が、遊星減速ギア5の出力回転の入力部となっており、段付きピニオンギア53を支持するキャリア55が、入力された回転の出力部となっている。
【0082】
サンギア51が入力された回転で回転軸X回りに回転すると、段付きピニオンギア53(大径歯車部531、小径歯車部532)が、サンギア51側から入力される回転で、軸線X1回りに回転する。
ここで、段付きピニオンギア53の小径歯車部532は、ケース13の内周に固定されたリングギア52に噛合している。そのため、段付きピニオンギア53は、軸線X1回りに自転しながら、回転軸X周りに回転する。
【0083】
ここで、段付きピニオンギア53では、小径歯車部532の外径R2が大径歯車部531の外径R1よりも小さくなっている(
図3参照)。
これにより、段付きピニオンギア53を支持するキャリア55(側板部551、651)が、モータ2側から入力された回転よりも低い回転速度で回転軸X回りに回転する。
そのため、遊星減速ギア5のサンギア51に入力された回転は、段付きピニオンギア53により、大きく減速されたのちに、キャリア55の側板部651が一体に形成されたデフケース60(差動装置6)に出力される。
【0084】
そして、デフケース60が入力された回転で回転軸X回りに回転することにより、ドライブシャフト8(8A、8B)が回転軸X回りに回転して、動力伝達装置1が搭載された車両の左右の駆動輪(図示せず)に伝達される。
【0085】
動力伝達装置1を搭載した車両の停車時に、図示しない制御装置が、駆動用のオイルポンプOPと切替弁Vを制御して、係止機構31が作動すると、ピストン32の収容穴34内にオイルOLが供給される。
そうすると、オイルOLで押されたピストン32の係止突起321が、段付きピニオンギア53に設けた凹部33に挿入されて係止される(
図3、拡大図参照)。これにより、段付きピニオンギア53と側板部651との相対回転が規制される。
【0086】
そうすると、デフケース60と遊星減速ギア5との間での回転伝達が規制された状態、いわゆるインターロック状態となって、動力伝達経路に沿う回転の伝達が規制される。この状態では、ドライブシャフト8(8A、8B)と、ドライブシャフト8(8A、8B)が連結された左右の駆動輪の回転が規制される。すなわち、係止機構31の作動により、パークロック機構3が作動して、動力伝達装置1を搭載した車両の移動が規制される。
【0087】
以上の通り、本実施形態にかかる動力伝達装置1は、以下の構成を有している。
(1)動力伝達装置1は、
モータ2(駆動源)と、
モータ2の下流に接続された遊星減速ギア5(ギア)と、
遊星減速ギア5の下流に接続された差動装置6(デファレンシャルギア)と、を有する。
動力伝達装置1では、遊星減速ギア5の段付きピニオンギア53と、差動装置6のデフケース60とを、相対回転不能に連結することにより、差動装置6(デフケース60)の回転が規制される。
【0088】
従来公知のパークロック機構が備えるパークロッドなどの部材が不要になるので、パークロック機構を設けるために、動力伝達装置1が大型化することを好適に防止できる。
すなわち、パークロック機構に相当する機構のコンパクト化が可能になる。
【0089】
本実施形態にかかる動力伝達装置1は、以下の構成を有している。
(2)遊星減速ギア5の段付きピニオンギア53と、差動装置6のデフケース60は、パークロック機構3が備える係止機構31を介して、相対回転不能に連結される。
係止機構31は、
デフケース60と一体に回転し、かつ回転軸X方向(軸方向)にスライド可能なピストン32と、
段付きピニオンギア53に設けられて、ピストン32の係止突起321が回転軸X方向から係脱する凹部33と、から構成される。
【0090】
ここで、ピストン32の代わりに、段付きピニオンギア53側に突出する係止突起を、デフケース60における段付きピニオンギア53との対向部に設けることが考えられる。
この場合、段付きピニオンギア53とデフケース60のうちの少なくとも一方を回転軸X方向に変位させて、係止機構31を作動させることになる。しかしながら、例えば段付きピニオンギア53を回転軸X方向に変位させると、他のギアとの噛み合い位置が回転軸X方向にずれてしまう。
【0091】
上記のように、デフケース60と一体に回転し、かつ回転軸X方向(軸方向)にスライド可能なピストン32を用いることで、段付きピニオンギア53やデフケース60を回転軸X方向に変位させることなく、係止機構31を作動させることができる。
すなわち、噛み合い位置のずれを生じさせることなく、パークロック機構3の機能を発揮させることができる。
【0092】
なお、回転軸X方向(軸方向)にスライド可能なピストン32を、段付きピニオンギア53側に設けると共に、ピストン32の係止突起321が回転軸X方向から係脱する凹部33をデフケース60側に設けた構成としても良い。
【0093】
本実施形態にかかる動力伝達装置1は、以下の構成を有している。
(3)遊星減速ギア5では、サンギア51が、モータ2の出力回転の入力部であり、キャリア55が回転の出力部であり、リングギア52が固定部である。
差動装置6のデフケース60は、遊星減速ギア5のキャリア55(側板部651)と一体に接続されている。
係止機構31は、キャリア55の側板部651に設けられたピストン32により、段付きピニオンギア53と、差動装置6のデフケース60を、相対回転不能に連結する。
【0094】
段付きピニオンギア53と差動装置6のデフケース60とを、ピストン32により相対回転不能に連結すると、ドライブシャフト8(8A、8B)の回転と、駆動輪の回転を規制できる。
キャリア55の側板部651と、段付きピニオンギア53は、軸線X1方向で近接して配置されているので、ピストン32を上記のような配置にすると、係止機構31を作動させるのに必要なピストン32のストローク量を抑えることができる。
すなわち、段付きピニオンギア53とデフケース60(側板部651)との近距離での連結が可能であるので、係止機構31を設けるにあたり、回転軸X方向の長さを抑えることができる。これにより、回転軸X方向(軸長方向)の動力伝達装置1のコンパクト化が可能である。
【0095】
本実施形態にかかる動力伝達装置1は、以下の構成を有している。
(4)差動装置6(デファレンシャルギア)の回転を駆動輪に伝達するドライブシャフト8Bは、モータ2のロータコア21(モータシャフト)の内周を、回転軸X方向に貫通して配置されている。
【0096】
このように構成すると、動力伝達装置1の縦方向(重力方向)にサイズダウンが可能である。
【0097】
図4は、変形例にかかる係止機構31Aを説明する図である。
図4の(a)は、変形例にかかる動力伝達装置1Aにおける差動装置6周りの拡大図である。
図4の(b)は、
図4の(a)における領域Aの拡大図であって、係止機構31Aの作動の前後の状態を示した図である。
【0098】
前記した実施形態では、係止機構31が、段付きピニオンギア53とデフケース60との相対回転を規制する場合を例示した。
図4の(a)に示すように、サンギア51とデフケース60との相対回転を規制する構成の係止機構31Aとしても良い。
図4の(b)に示すように、係止機構31Aは、回転軸X方向にスライド移動可能なピストン32と、ピストン32の係止突起321が係脱する凹部33と、を有している。
【0099】
サンギア51には、ピストン32の収容穴34が設けられている。
サンギア51において収容穴34は、デフケース60の支持部601側(図中、左側)の側面51bで、デフケース60の支持部601を向いて開口している。
【0100】
回転軸X方向から見て収容穴34は、回転軸Xを所定間隔で囲むリング状を成しており、収容穴34には、回転軸X方向から見てリング状を成すピストン32と、スプリングSpが挿入されている。
【0101】
ピストン32は、リング状の基部320と、係止突起321と、を有している。
係止突起321は、デフケース60の支持部601側に突出している。回転軸X方向から見て係止突起321は、回転軸X周りの周方向に所定間隔で複数設けられている。
【0102】
ピストン32は、スプリングSpにより収容穴34の奥側に引き込まれており、ピストン32は、スプリングSpの引き込み力により、収容穴34の内部に収容された位置で保持されている。
【0103】
ピストン32は、回転軸X回りの回転が規制された状態で、回転軸X方向にスライド移動可能に設けられている。
デフケース60の支持部601では、係止突起321に対向する部位に、係止突起321が係合する凹部33が設けられている。
【0104】
サンギア51では、円筒状の基部512の内部に、回転軸X方向に延びる油路513が設けられている。この油路513には、図示しないオイルポンプOPから吐出されたオイルOLの一部が、図示しない切替弁Vを介して供給される。
油路513は、ピストン32の収容穴34に連絡しており、油路513を介して収容穴34内にオイルOLが供給される。
収容穴34にオイルOLが供給されると、オイルOLで押されたピストン32が、スプリングSpの引張り力に抗して、ピストン32を差動装置6側(図中、左側)に変位する。
これにより、オイルOLで押されたピストン32の係止突起321が、デフケース60の支持部601に設けた凹部33に挿入されて係止される。
【0105】
係止機構31Aの作動により、ピストン32の係止突起321が凹部33に係止されると、サンギア51とデフケース60との相対回転が規制される。
そうすると、デフケース60と遊星減速ギア5との間での回転伝達が規制された状態、いわゆるインターロック状態となって、動力伝達経路に沿う回転駆動力の伝達が規制される。
【0106】
この状態では、ドライブシャフト8(8A、8B)と、ドライブシャフト8(8A、8B)が連結された左右の駆動輪の回転が規制される。すなわち、係止機構31Aの作動により、パークロック機構3が作動して、動力伝達装置1を搭載した車両の移動が規制される。
【0107】
変形例にかかる動力伝達装置1Aは、以下の構成を有している。
(5)遊星減速ギア5のサンギア51と、差動装置6のデフケース60は、パークロック機構3が備える係止機構31Aを介して、相対回転不能に連結される。
係止機構31Aは、
サンギア51と一体に回転し、かつ回転軸X方向(軸方向)にスライド可能なピストン32と、
デフケース60の支持部601に設けられて、ピストン32の係止突起321が回転軸X方向から係脱する凹部33と、から構成される。
【0108】
このように構成すると、サンギア51やデフケース60を回転軸X方向に変位させることなく、係止機構31Aを作動させることができる。
すなわち、噛み合い位置のずれを生じさせることなく、パークロック機構3の機能を発揮させることができる。
【0109】
なお、回転軸X方向(軸方向)にスライド可能なピストン32を、デフケース60の支持部601側に設けると共に、ピストン32の係止突起321が回転軸X方向から係脱する凹部33をサンギア51側に設けた構成としても良い。
【0110】
変形例にかかる動力伝達装置1Aは、以下の構成を有している。
(6)サンギア51は、遊星減速ギア5の第1回転要素であり、差動装置6のデフケース60は、遊星減速ギア5の第2回転要素であるキャリア55と接続されている。
【0111】
遊星減速ギア5の3つの回転要素(サンギア51、キャリア55、リングギア52)のうち2つの回転要素を連結することで、ドライブシャフト8(8A、8B)と、駆動輪の回転を停止させることができる。
遊星減速ギア5の3つの回転要素(サンギア51、キャリア55、リングギア52)は、回転軸方向で近接して配置されている。そのため、サンギア51とデフケース60(支持部601)との近距離での連結が可能であるので、係止機構31Aを設けるにあたり、回転軸X方向の長さを抑えることができる。これにより、回転軸X方向(軸長方向)の動力伝達装置1Aのコンパクト化が可能である。
【0112】
図5は、変形例にかかる係止機構31Bを説明する図である。
図5の(a)は、変形例にかかる動力伝達装置1Bにおける差動装置6周りの拡大図である。
図5の(b)は、
図5の(a)における係止機構31B周りの拡大図であって、係止機構31Bの作動後の状態を示した図である。
【0113】
前記した実施形態では回転軸X(軸線X1)方向にスライド移動可能なピストン32を用いて、段付きピニオンギア53Bとデフケース60との相対回転を規制する場合を例示した。
図5に示すように、回転軸X方向に変位するスリーブ38を有する係止機構31Bを用いて、段付きピニオンギア53Bとデフケース60との相対回転を規制する構成としても良い。
【0114】
図5に示すように、係止機構31Bは、デフケース60と一体に回転する第1ギア35と、段付きピニオンギア53Bに回転伝達可能に噛合した第2ギア36と、回転軸X方向(軸線X2方向)に変位可能なスリーブ38と、を有している。
第1ギア35は、回転軸X方向から見てリング状を成しており、回転軸Xに直交する向きで設けられている。第1ギア35の内径側は、デフケース60の外周の側板部653にボルトBで固定されている。
【0115】
第1ギア35の外周部には、回転軸X方向に沿う歯溝35aが形成されている。歯溝35aは、回転軸X周りの周方向の全周に亘って設けられている。
【0116】
第2ギア36では、回転軸X方向から見てリング状を成す基部360の外周部に、回転軸X方向に沿う歯溝36aが形成されている。歯溝36aは、回転軸X周りの周方向の全周に亘って設けられている。
【0117】
第2ギア36の内周には、回転軸X周りの周方向の全周に亘って歯部36bが設けられている。第2ギア36の歯部36bには、段付きピニオンギア53B側の歯部535aが噛合している。
段付きピニオンギア53Bは、ピニオン軸54の一端を回転可能に支持する支持部534を有している。支持部534の外周は、側板部651に設けた支持孔651aで支持されている。
支持部534では、軸線X1と交差する位置の側板部551側(図中、右側)の面に、ピニオン軸54の端部を支持する支持穴534aが設けられている。
支持穴534aは、開口を側板部551側に向けた有底穴であり、ピニオン軸54の端部を回転可能に支持している。
【0118】
支持部534から見て、側板部551とは反対側(図中、左側)には、連結部535が、支持部534と同軸に設けられている。
【0119】
連結部535は、段付きピニオンギア53Bと一体に形成されており、連結部535の外周には、第2ギア36側の歯部36bに噛合する歯部535aが形成されている。
第2ギア36の段付きピニオンギア53B側(図中、右側)の側面には、側板部651で支持されたニードルベアリングNBが回転軸X方向から接触している。
第2ギア36の外周の歯溝36aには、スリーブ38の内周部が噛合している。スリーブ38の外周では、回転軸X方向(軸線X2方向)の中央部に、操作子37が係合する凹部38aが開口している。
操作子37の外周は、ケース13の内周にスプライン嵌合している。操作子37は、外周側がケース13とのスプライン嵌合部、内周側がスリーブ38との係合部となっており、スプライン嵌合部と係合部との間の領域を、駆動用モータ(図示せず)の出力軸39が回転軸X方向に貫通している。
【0120】
出力軸39は、軸線X1に平行な軸線X2に沿って設けられており、操作子37は、軸線X2回りの回転が規制された状態で、出力軸39の外周に螺合している。
本実施形態では、駆動用モータ(図示せず)の駆動により出力軸39が軸線X2回りに回転すると、操作子37が、軸線X2方向の一方向に変位する。
【0121】
本実施形態では、パークロック機構3の非作動時には、スリーブ38は、第2ギア36にのみ噛合した位置で保持される(
図5の(a)参照)。パークロック機構3の作動時には、スリーブ38は、第1ギア35と第2ギア36の両方に噛合した位置で保持される(
図5の(b)参照)。
【0122】
係止機構31Bの作動により、スリーブ38が、第1ギア35と第2ギア36の両方に噛合した位置で保持されると、段付きピニオンギア53Bとデフケース60との相対回転が規制される。
そうすると、デフケース60と遊星減速ギア5との間での回転伝達が規制された状態、いわゆるインターロック状態となって、動力伝達経路に沿う回転駆動力の伝達が規制される。
【0123】
この状態では、ドライブシャフト8(8A、8B)と、ドライブシャフト8(8A、8B)が連結された左右の駆動輪の回転が規制される。すなわち、係止機構31Bの作動により、パークロック機構3が作動して、動力伝達装置1Bを搭載した車両の移動が規制される。
【0124】
変形例にかかる動力伝達装置1Bは、以下の構成を有している。
(7)遊星減速ギア5の段付きピニオンギア53Bと、差動装置6のデフケース60は、パークロック機構3が備える係止機構31Bを介して、相対回転不能に連結される。
係止機構31Bは、
回転軸X方向(軸方向)にスライドすることにより、段付きピニオンギア53Bとデフケース60とを連結するスリーブ38を有している。
【0125】
このように構成すると、段付きピニオンギア53Bとデフケース60との相対回転が、スリーブ38により規制される。
そうすると、デフケース60と遊星減速ギア5との間での回転伝達が規制された状態、いわゆるインターロック状態となって、動力伝達経路に沿う回転駆動力の伝達が規制される。これにより、ドライブシャフト8(8A、8B)と、ドライブシャフト8(8A、8B)が連結された左右の駆動輪の回転が規制される。すなわち、係止機構31Bの作動により、パークロック機構3が作動して、動力伝達装置1Bを搭載した車両の移動が規制される。
【0126】
図6は、変形例にかかる係止機構31Cを説明する図である。
図7は、変形例にかかる係止機構31Dを説明する図である。
図6の(a)は、変形例にかかる動力伝達装置1Cにおける差動装置6周りの拡大図である。
図6の(b)は、
図6の(a)における領域Aの拡大図であって、係止機構31Cの作動の前後の状態を示した図である。
図7の(a)は、変形例にかかる動力伝達装置1Dにおける差動装置6周りの拡大図である。
図7の(b)は、
図7の(a)における係止機構31周りの拡大図であって、係止機構31Dの作動の前後の状態を示した図である。
【0127】
前記した変形例では、回転軸X方向にスライド移動可能なピストン32と、ピストン32の係止突起321が係脱する凹部33と、を有する係止機構31A(
図4参照)を用いて、サンギア51とデフケース60との相対回転を規制する場合を例示した。
【0128】
サンギア51とデフケース60との相対回転を規制する構成は、
図4の構成にのみ限定されない。
図6の(a)に示す構成の係止機構31Cを用いて、サンギア51とデフケース60との相対回転を規制するようにしても良い。
係止機構31Cは、サンギア51におけるデフケース60側の側面51bに設けられた歯部515と、デフケース60の支持部601におけるサンギア51との対向部601a
に設けられた凹部603と、を有している。
【0129】
歯部515は、サンギア51の側面51bからデフケース60側に突出して形成されている。サンギア51の側面51bにおいて歯部515は、回転軸X回りの周方向に所定間隔で複数設けられている。
【0130】
凹部603は、支持部601におけるサンギア51との対向部601aに、サンギア51から離れる方向に凹状に窪んで形成されている。この凹部603もまた、回転軸X回りの周方向に所定間隔で、サンギア51側の歯部515と同数設けられている。
【0131】
サンギア51は、図示しない駆動機構により回転軸X方向に進退移動可能に設けられている。サンギア51がデフケース60に近づく方向に変位すると、サンギア51側の歯部515が、デフケース60側の凹部603に回転軸X方向から係合して、サンギア51とデフケース60との相対回転が規制される。
そうすると、デフケース60と遊星減速ギア5(サンギア51)との間での回転伝達が規制された状態、いわゆるインターロック状態となって、動力伝達経路に沿う回転駆動力の伝達が規制される。
【0132】
この状態では、ドライブシャフト8(8A、8B)と、ドライブシャフト8(8A、8B)が連結された左右の駆動輪の回転が規制される。すなわち、係止機構31Cの作動により、パークロック機構3が作動して、動力伝達装置1Cを搭載した車両の移動が規制される。
【0133】
変形例にかかる動力伝達装置1Cは、以下の構成を有している。
(8)遊星減速ギア5のサンギア51と、差動装置6のデフケース60は、パークロック機構3が備える係止機構31Cを介して、相対回転不能に連結される。
係止機構31Cは、歯部515と凹部603と、から構成される。
歯部515は、回転軸X方向に進退移動可能に設けられたサンギア51に設けられている。歯部515は、サンギア51のデフケース60側の側面51bから、回転軸X方向に突出している。
凹部603は、デフケース60の支持部601に設けられて、サンギア51の歯部515が回転軸X方向から係脱する。
【0134】
このように構成することによっても、動力伝達装置1Cを搭載した車両の移動を規制できる。
【0135】
また、
図7の(a)に示す構成の係止機構31Dを用いて、段付きピニオンギア53とデフケース60との相対回転を規制するようにしても良い。
係止機構31Dは、段付きピニオンギア53の大径歯車部531におけるデフケース60側の側面531bに設けられた歯部536と、デフケース60の支持部601におけるサンギア51との対向部601aに設けられた凹部603と、を有している。
【0136】
歯部536は、大径歯車部531の側面531bからデフケース60側に突出して形成されている。大径歯車部531の側面531bにおいて歯部536は、段付きピニオンギア53の回転軸(軸線X1)周りの周方向に所定間隔で複数設けられている。
【0137】
デフケース60では、大径歯車部531との対向する領域に、外径側に延びる膨出部604が設けられている。凹部603は、膨出部604における大径歯車部531との対向部604aに、大径歯車部531から離れる方向に凹状に窪んで形成されている。
【0138】
段付きピニオンギア53は、図示しない駆動機構により回転軸(軸線X1)方向に進退移動可能に設けられている。段付きピニオンギア53がデフケース60の側板部651に近づく方向(図中、左方向)に変位すると、段付きピニオンギア53側の歯部536が、デフケース60側の凹部603に回転軸X方向から係合して、段付きピニオンギア53とデフケース60との相対回転が規制される。
そうすると、デフケース60と遊星減速ギア5(段付きピニオンギア53)との間での回転伝達が規制された状態、いわゆるインターロック状態となって、動力伝達経路に沿う回転駆動力の伝達が規制される。
【0139】
この状態においても、ドライブシャフト8(8A、8B)と、ドライブシャフト8(8A、8B)が連結された左右の駆動輪の回転が規制される。すなわち、係止機構31Dの作動により、パークロック機構3が作動して、動力伝達装置1Dを搭載した車両の移動が規制される。
【0140】
変形例にかかる動力伝達装置1Cは、以下の構成を有している。
(9)遊星減速ギア5の段付きピニオンギア53と、差動装置6のデフケース60は、パークロック機構3が備える係止機構31Dを介して、相対回転不能に連結される。
係止機構31Dは、歯部536と凹部603と、から構成される。
歯部536は、回転軸X方向に進退移動可能に設けられた段付きピニオンギア53に設けられている。歯部536は、段付きピニオンギア53の大径歯車部531のデフケース60側の側面531bから、回転軸X(軸線X1)方向に突出している。
凹部603は、デフケース60の支持部601の外周に設けた膨出部604に設けられて、段付きピニオンギア53側の歯部536が回転軸X方向から係脱する。
【0141】
このように構成することによっても、動力伝達装置1Dを搭載した車両の移動を規制できる。
【0142】
ここで、本明細書における用語「下流に接続」とは、上流に配置された部品から下流に配置された部品へと動力が伝達される接続関係にあることを意味する。
例えば、モータ2の下流に接続された遊星減速ギア5という場合は、モータ2から遊星減速ギア5へと動力が伝達されることを意味する。
また、本明細書における用語「直接接続」とは、他の減速機構、増速機構、変速機構などの減速比が変換される部材を介さずに部材同士が動力伝達可能に接続されていることを意味する。
【0143】
前記した実施形態では、段付きピニオンギア53を採用した遊星減速ギア5を例示したが、段付きでないピニオンギアを採用した遊星減速ギアを採用しても良い。
【0144】
なお、モータ2の出力部(モータシャフト20)と遊星減速ギア5の入力部(サンギア51)との連結態様は、前記した実施形態のものに限定されない。
モータ2の出力部(モータシャフト20)と遊星減速ギア5の入力部(サンギア51)とを、別のギア部品などを介して回転伝達可能に連結した構成としても良い。
【0145】
さらに、実施形態では、減速機構が、段付きピニオンギア53を備える遊星減速ギア5であり、モータ2の出力回転の伝達経路上に、ひとつの遊星減速ギア5が設けられている場合を例示した。
本発明は、この態様にのみに限定されない。モータ2の出力回転の伝達経路上に、複数の遊星減速ギアが直列に配置されている構成としても良い。
【0146】
以上、本願発明の実施形態を説明したが、本願発明は、これら実施形態に示した態様のみに限定されるものではない。発明の技術的な思想の範囲内で、適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0147】
1、1A、1B、1C、1D 動力伝達装置
10 モータハウジング
11 外側カバー
110 接合部
12 内側カバー
120 基部
121 モータ支持部
13 ケース
130 開口部
131 支持部
132 環状壁
133 油路
134 径方向油路
2 モータ
20 モータシャフト
21 ロータコア
25 ステータコア
251 ヨーク部
252 ティース部
253 巻線
253a、253b コイルエンド
3 パークロック機構
30 油路
301 第1油路
302 第2油路
31、31A、31B、31C、31D 係止機構
32 ピストン
320 基部
321 係止突起
33 凹部
34 収容穴
35 第1ギア
36 第2ギア
37 操作子
38 スリーブ
39 出力軸
5 遊星減速ギア
51 サンギア
513 油路
515 歯部
52 リングギア
53、53B 段付きピニオンギア
531 大径歯車部
532 小径歯車部
534 支持部
534a 支持穴
535 連結部
536 歯部
54 ピニオン軸
55 キャリア
551 側板部
6 差動装置
60 デフケース
601、602 支持部
603 凹部
651 側板部
652 環状壁部
653 側板部
61 シャフト
62A、62B かさ歯車
63A、63B サイドギア
8(8A、8B) ドライブシャフト
9 本体ケース
B1、B2、B3 ベアリング
NB ニードルベアリング
OP オイルポンプ
OL オイル
P ピン
RS リップシール
S シールリング
Sa 空間(モータ室)
Sb 空間(ギア室)
Sp スプリング
V 切替弁
X 回転軸
X1、X2、Y 軸線