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特許7387963プリプレグ、プリプレグの製造方法、成形体、及び成形体の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-20
(45)【発行日】2023-11-29
(54)【発明の名称】プリプレグ、プリプレグの製造方法、成形体、及び成形体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/24 20060101AFI20231121BHJP
   B29C 70/46 20060101ALI20231121BHJP
   D04B 1/14 20060101ALI20231121BHJP
【FI】
C08J5/24 CEZ
B29C70/46
D04B1/14
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2019200030
(22)【出願日】2019-11-01
(65)【公開番号】P2021070788
(43)【公開日】2021-05-06
【審査請求日】2022-05-13
(73)【特許権者】
【識別番号】506209422
【氏名又は名称】地方独立行政法人東京都立産業技術研究センター
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 和詳
(74)【代理人】
【識別番号】100099025
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 浩志
(72)【発明者】
【氏名】唐木 由佑
(72)【発明者】
【氏名】高橋 俊也
【審査官】大▲わき▼ 弘子
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-089394(JP,A)
【文献】登録実用新案第3195907(JP,U)
【文献】特開平10-317262(JP,A)
【文献】実開昭60-013983(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29B11/16、15/08-15/14、C08J5/04-5/10、5/24、
B29C41/00-41/36、41/46-41/52、70/00-70/88、
D04B1/00-1/28、21/00-21/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
強化用繊維を用いた緯編により編成された成形用基材と、
前記成形用基材の少なくとも一部に含浸され、常温硬化性樹脂、熱硬化性樹脂、及び熱可塑性樹脂からなる群より選択される少なくとも1種を含む樹脂と、
を有し、
前記成形用基材は、編目がウェール方向に対して斜行した第1の編目列と、前記第1の編目列に隣接し、かつ、編目がウェール方向に対して前記第1の編目列と反対側に斜行した第2の編目列と、を繰り返し有し、
熱プレス機を用いて150℃、4kg/cm、120分の条件でプレスして得られる成形体を23℃で測定したときの、前記成形用基材のコース方向の曲げ強度Bc、前記成形用基材のウェール方向の曲げ強度Bw、前記コース方向の曲げ弾性率Mc、及び前記ウェール方向の曲げ弾性率Mwが、下記条件1及び/又は下記条件2を満たすプリプレグ。
条件1:前記Bcと前記Bwとの差の絶対値が前記Bcと前記Bwとの平均値の30%以下
条件2:前記Mcと前記Mwとの差の絶対値が前記Mcと前記Mwとの平均値の30%以下
【請求項2】
前記強化用繊維が、ガラス繊維、炭素繊維、炭化ケイ素繊維、金属繊維、アラミド繊維、超高分子量ポリエチレン繊維、バサルト繊維、ポリパラフェニレン・ベンゾビス・オキサゾール繊維、ポリアリレート繊維、ポリアセタール繊維、ポリビニルアルコール繊維、フッ素系樹脂繊維、セルロース系繊維、及びナイロン繊維からなる群より選択される少なくとも1種を含む請求項1記載のプリプレグ。
【請求項3】
前記緯編が、ゴム編、畦編、パール編、平編、袋編、両面編、ミラノリブ、及び鹿の子編からなる群より選択される少なくとも1つを含む請求項1又は請求項2に記載のプリプレグ。
【請求項4】
前記強化用繊維が、複数本の単繊維を合わせたマルチフィラメントである請求項1~請求項のいずれか1項に記載のプリプレグ。
【請求項5】
前記マルチフィラメントは、複数本の単繊維を引き揃えた引き揃え糸及び/又は撚糸加工を行った撚り糸である請求項に記載のプリプレグ。
【請求項6】
請求項1~請求項のいずれか1項に記載のプリプレグを製造する方法であって、
横編機を用いて下記第1の工程と下記第2の工程とを交互に繰り返すことで強化用繊維を用いた緯編により編成された成形用基材を製造する工程と、
前記成形用基材の少なくとも一部に、常温硬化性樹脂、熱硬化性樹脂、及び熱可塑性樹脂からなる群より選択される少なくとも1種を含む樹脂材料を含浸させる工程と、
を有するプリプレグの製造方法。
第1の工程:前記横編機の針床を一方に振った状態でキャリッジを移動させることで編目がウェール方向に対して斜行した第1の編目列を形成する工程
第2の工程:前記第1の工程と反対方向に前記針床を振った状態で前記キャリッジを前記第1の工程と反対方向に移動させることで、前記第1の編目列に隣接し、かつ、編目がウェール方向に対して前記第1の編目列と反対側に斜行した第2の編目列を形成する工程
【請求項7】
請求項に記載のプリプレグを製造する方法であって、
横編機を用いて下記第1の工程と下記第2の工程とを交互に繰り返すことで強化用繊維を用いた緯編により編成された成形用基材を製造する工程と、
前記成形用基材の少なくとも一部に、常温硬化性樹脂、熱硬化性樹脂、及び熱可塑性樹脂からなる群より選択される少なくとも1種を含む樹脂材料を含浸させる工程と、
を有するプリプレグの製造方法。
第1の工程:前記横編機のキャリッジを一方に移動させることで編目がウェール方向に対して斜行した第1の編目列を形成する工程
第2の工程:前記キャリッジを前記第1の工程と反対方向に移動させることで、前記第1の編目列に隣接し、かつ、編目がウェール方向に対して前記第1の編目列と反対側に斜行した第2の編目列を形成する工程
【請求項8】
請求項1~請求項のいずれか1項に記載のプリプレグの成形体であって、
天板部及び縦壁部を有する凹部を含む成形体。
【請求項9】
前記凹部は、開口径dに対する深さDの比(D/d)が0.5以上である請求項に記載の成形体。
【請求項10】
前記天板部が平面である請求項又は請求項に記載の成形体。
【請求項11】
請求項1~請求項のいずれか1項に記載のプリプレグ又は請求項若しくは請求項に記載のプリプレグの製造方法により得られたプリプレグを成形することで、天板部及び縦壁部を有する凹部を含む形状に賦形する成形工程を有する成形体の製造方法。
【請求項12】
前記成形工程が、プレス成形、ハンドレイアップ成形、オートクレーブ成形、RTM成形、引抜き成形、及びシートワインディング成形からなる群より選択される少なくとも1つの成形法により賦形する工程を含む請求項11に記載の成形体の製造方法。
【請求項13】
前記成形工程が、深絞り成形を行う工程である請求項11に記載の成形体の製造方法。
【請求項14】
前記成形工程において、前記天板部を形成する成形面が平面状であるパンチ型を用いる請求項13に記載の成形体の製造方法。
【請求項15】
請求項1~請求項のいずれか1項に記載のプリプレグの成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プリプレグ、プリプレグの製造方法、成形体、及び成形体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
繊維強化樹脂(Fiber Reinforced Plastics;FRP)は、航空宇宙、自動車等の様々な分野において、高強度であり、且つ、軽量な材料として、使用されている。繊維強化樹脂としては、例えば、強化用繊維を用いた基材に樹脂を含浸させたものが挙げられ、強化用繊維を用いた基材としては、例えば、不織布、織物、又は編物が挙げられる。
【0003】
繊維強化樹脂は、高強度であり軽量である一方で、成形性に乏しく、複雑形状への賦形が難しいことが知られている。
繊維強化樹脂を用いた複合材を賦形する方法として、例えば特許文献1には、炭素繊維ストランドを用いた縦方向の編み組織を有するメッシュ状編み構造体を賦形した後に樹脂を含浸して硬化した繊維強化複合材が開示されている。また特許文献2には、目的形状に倣った局面を付与しつつ編んだ編物層に経糸を挿入することで強化した上でマトリックスを含浸させた複合材部品が開示されている。このように、まず強化用繊維の基材を賦形した後に樹脂を含浸させることで、目的とする形状を得る技術の開発が進められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-17120号公報
【文献】特開2017-218688号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、繊維強化樹脂は、高強度である一方で伸縮性が得られにくく、賦形前の基材に樹脂を含浸させたプリプレグを用いて、天板部及び縦壁部を有する凹部を含む形状に成形することは難しい。特に、例えば深絞り成形のように、凹部における開口径dに対する深さDの比(D/d)が大きい形状に成形する場合、成形時にかかる力によって、プリプレグ内の基材が破断することがある。また、基材の種類によっては、破断せずに成形体が得られるものの、応力に対して弱い方向を有する成形体となる場合があり、得られた成形体全体としての耐久性が求められる。
そこで、本発明では、成形時における基材の破断が生じにくく、かつ、成形体としたときの耐久性に優れるプリプレグ、前記プリプレグの製造方法、前記プリプレグを用いた成形体、及び前記成形体の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題は、以下の手段により解決される。即ち、
【0007】
[1] 強化用繊維を用いた緯編により編成された成形用基材と、
前記成形用基材の少なくとも一部に含浸され、常温硬化性樹脂、熱硬化性樹脂、及び熱可塑性樹脂からなる群より選択される少なくとも1種を含む樹脂と、
を有し、
熱プレス機を用いて150℃、4kg/cm、120分の条件でプレスして得られる成形体を23℃で測定したときの、前記成形用基材のコース方向の曲げ強度Bc、前記成形用基材のウェール方向の曲げ強度Bw、前記コース方向の曲げ弾性率Mc、及び前記ウェール方向の曲げ弾性率Mwが、下記条件1及び/又は下記条件2を満たすプリプレグ。
条件1:前記Bcと前記Bwとの差の絶対値が前記Bcと前記Bwとの平均値の30%以下
条件2:前記Mcと前記Mwとの差の絶対値が前記Mcと前記Mwとの平均値の30%以下
[2] 前記成形用基材は、編目がウェール方向に対して斜行した第1の編目列と、前記第1の編目列に隣接し、かつ、編目がウェール方向に対して前記第1の編目列と反対側に斜行した第2の編目列と、を繰り返し有する[1]に記載のプリプレグ。
[3] 前記強化用繊維が、ガラス繊維、炭素繊維、炭化ケイ素繊維、金属繊維、アラミド繊維、超高分子量ポリエチレン繊維、バサルト繊維、ポリパラフェニレン・ベンゾビス・オキサゾール繊維、ポリアリレート繊維、ポリアセタール繊維、ポリビニルアルコール繊維、フッ素系樹脂繊維、セルロース系繊維、及びナイロン繊維からなる群より選択される少なくとも1種を含む[1]又は[2]に記載のプリプレグ。
[4] 前記緯編が、ゴム編、畦編、パール編、平編、袋編、両面編、ミラノリブ、及び鹿の子編からなる群より選択される少なくとも1つを含む[1]~[3]のいずれか1つに記載のプリプレグ。
[5] 前記強化用繊維が、複数本の単繊維を合わせたマルチフィラメントである[1]~[4]のいずれか1つに記載のプリプレグ。
[6]前記マルチフィラメントは、複数本の単繊維を引き揃えた引き揃え糸及び/又は撚糸加工を行った撚り糸である[5]に記載のプリプレグ。
【0008】
[7] [1]~[6]のいずれか1つに記載のプリプレグを製造する方法であって、
横編機を用いて下記第1の工程と下記第2の工程とを交互に繰り返すことで強化用繊維を用いた緯編により編成された成形用基材を製造する工程と、
前記成形用基材の少なくとも一部に、常温硬化性樹脂、熱硬化性樹脂、及び熱可塑性樹脂からなる群より選択される少なくとも1種を含む樹脂材料を含浸させる工程と、
を有するプリプレグの製造方法。
第1の工程:前記横編機の針床を一方に振った状態でキャリッジを移動させることで編目がウェール方向に対して斜行した第1の編目列を形成する工程
第2の工程:前記第1の工程と反対方向に前記針床を振った状態で前記キャリッジを前記第1の工程と反対方向に移動させることで、前記第1の編目列に隣接し、かつ、編目がウェール方向に対して前記第1の編目列と反対側に斜行した第2の編目列を形成する工程
[8] [6]に記載のプリプレグを製造する方法であって、
横編機を用いて下記第1の工程と下記第2の工程とを交互に繰り返すことで強化用繊維を用いた緯編により編成された成形用基材を製造する工程と、
前記成形用基材の少なくとも一部に、常温硬化性樹脂、熱硬化性樹脂、及び熱可塑性樹脂からなる群より選択される少なくとも1種を含む樹脂材料を含浸させる工程と、
を有するプリプレグの製造方法。
第1の工程:前記横編機のキャリッジを一方に移動させることで編目がウェール方向に対して斜行した第1の編目列を形成する工程
第2の工程:前記キャリッジを前記第1の工程と反対方向に移動させることで、前記第1の編目列に隣接し、かつ、編目がウェール方向に対して前記第1の編目列と反対側に斜行した第2の編目列を形成する工程
【0009】
[9] [1]~[6]のいずれか1つに記載のプリプレグの成形体であって、
天板部及び縦壁部を有する凹部を含む成形体。
[10] 前記凹部は、開口径dに対する深さDの比(D/d)が0.5以上である[9]に記載の成形体。
[11] 前記天板部が平面である[9]又は[10]に記載の成形体。
【0010】
[12] [1]~[6]のいずれか1つに記載のプリプレグ又は[7]若しくは[8]に記載のプリプレグの製造方法により得られたプリプレグを成形することで、天板部及び縦壁部を有する凹部を含む形状に賦形する成形工程を有する成形体の製造方法。
[13] 前記成形工程が、プレス成形、ハンドレイアップ成形、オートクレーブ成形、RTM成形、引抜き成形、及びシートワインディング成形からなる群より選択される少なくとも1つの成形法により賦形する工程を含む[12]に記載の成形体の製造方法。
[14] 前記成形工程が、深絞り成形を行う工程である[12]に記載の成形体の製造方法。
[15] 前記成形工程において、前記天板部を形成する成形面が平面状であるパンチ型を用いる[14]に記載の成形体の製造方法。
[16] [1]~[6]のいずれか1つに記載のプリプレグの成形体。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、成形時における基材の破断が生じにくく、かつ、成形体としたときの耐久性に優れるプリプレグ、前記プリプレグの製造方法、前記プリプレグを用いた成形体、及び前記成形体の製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】斜行編目を有する編物の一例を部分的に示す模式図である。
図2】成形体における凹部の一例を模式的に示す端面図である。
図3】実施例2において金型3を用いてプリプレグ2の成形を行って得られた成形体のX線CT画像である。
図4】比較例2において金型2を用いての成形を行って得られた成形体のX線CT画像である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本発明の実施形態について説明する。これらの説明及び実施例は実施形態を例示するものであり、実施形態の範囲を制限するものではない。
【0014】
本明細書中に段階的に記載されている数値範囲において、一つの数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本明細書中に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
【0015】
本実施形態において、各成分は該当する物質を複数種含んでいてもよい。本実施形態において組成物中の各成分の量について言及する場合、組成物中に各成分に該当する物質が複数種存在する場合には、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数種の物質の合計量を意味する。
【0016】
本明細書において「工程」との語は、独立した工程だけでなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。
【0017】
[プリプレグ]
本実施形態のプリプレグは、強化用繊維を用いた緯編により編成された成形用基材と、前記成形用基材の少なくとも一部に含浸され、常温硬化性樹脂、熱硬化性樹脂、及び熱可塑性樹脂からなる群より選択される少なくとも1種を含む樹脂と、を有し、熱プレス機を用いて150℃、4kg/cm、120分の条件でプレスして得られる成形体を23℃で測定したときの、成形用基材のコース方向の曲げ強度Bc、ウェール方向の曲げ強度Bw、コース方向の曲げ弾性率Mc、及びウェール方向の曲げ弾性率Mwが、下記条件1及び/又は下記条件2を満たす。
条件1:BcとBwとの差の絶対値がBcとBwとの平均値の30%以下
条件2:McとMwとの差の絶対値がMcとMwとの平均値の30%以下
つまり、本実施形態のプリプレグは、上記条件1及び上記条件2からなる群より選択される少なくとも一方を満たす。
以下、BcとBwとの平均値に対するBcとBwとの差の絶対値の割合(%)を「成形後の強度異方性」ともいい、McとMwとの平均値に対するMcとMwとの差の絶対値の割合(%)を「成形後の弾性率異方性」ともいう。
【0018】
ここで、上記プリプレグの成形後における曲げ強度及び曲げ弾性率は、JIS K 7017(1999年)に準拠して、以下のようにして測定する。
まず、測定対象のプリプレグを、熱プレス機(アズワン株式会社、型番:H300-15)により、温度150℃、圧力4kg/cm、時間120分の条件でプレスすることで成形体を得る。
次に、得られた成形体について、オートグラフ精密万能試験機(株式会社島津製作所、型番AG-100kNX)により、温度23℃、相対湿度50%、気圧86kPa以上106kPa以下、曲げ速度:1mm/min、支点間距離:20mm、圧子径:5mmの条件で三点曲げ試験を行い、各方向における曲げ強度及び曲げ弾性率を求める。
【0019】
上記プリプレグは、緯編により編成された強化用繊維の編物基材である成形用基材を用い、かつ、成形後の強度異方性及び/又は成形後の弾性率異方性が小さいことにより、成形時における基材の破断が生じにくく、かつ、成形体としたときの耐久性に優れる。その理由は定かではないが、以下のように推測される。
上記のように、緯編により編成された編物基材は、織物基材及び特許文献1に開示された繊維強化複合材のような経編の基材等に比べて、伸縮性が良好である。そのため、例えば深絞り成形のように、開口径dに対する深さDの比(D/d)が大きい凹部を含む形状に成形すると、織物基材又は経編の基材を用いたプリプレグでは基材の破断が生じやすいのに対し、緯編により編成された編物基材を用いたプリプレグでは成形時における基材の破断が生じにくい。
また、緯編により編成された編物基材であっても、従来の一般的な緯編の編物である成形用基材を用いると、プリプレグを成形した成形体におけるコース方向とウェール方向との特性が大きく異なることが分かった。コース方向とウェール方向との特性が大きく異なる成形体は、コース方向及びウェール方向のうち強度の低い方向に割れが生じやすい等により、全体として使用時における耐久性が低くなるため、用途が限られてくると考えられる。特に、自動車部材等のように、平面部及び凹部を有する成形体として使用される場合は、平面部及び凹部のそれぞれについて、あらゆる方向からの応力に対する耐久性が求められると考えられる。
これに対して、本実施形態のプリプレグは、緯編により編成された強化用繊維の編物基材を成形用基材として用い、かつ、成形後の強度異方性及び/又は成形後の弾性率異方性が30%以下である。それにより、成形用基材の伸縮性が高く成形時にかかる力の集中が抑えられるため基材の破断が生じにくくなるとともに、コース方向とウェール方向との特性の差が小さいため、あらゆる方向からの応力に耐えられ、使用時における全体としての耐久性が高くなると推測される。そして、全体としての耐久性が高くなることにより、例えばあらゆる方向からの応力に耐える必要がある自動車、航空機、鉄道、建材用部材、橋等の建造物などに対しても用いることが可能となり、成形体の用途が広がる。
【0020】
本実施形態のプリプレグは、成形後の強度異方性及び成形後の弾性率異方性の両方が30%以下であってもよく、成形後の強度異方性が30%以下であり成形後の弾性率異方性が30%を超えていてもよく、成形後の強度異方性が30%を超え成形後の弾性率異方性が30%以下であってもよい。
本実施形態のプリプレグは、成形時の破断をより抑制し成形体としたときの耐久性をより向上する観点から、成形後の強度異方性及び成形後の弾性率異方性の両方が30%以下であることが望ましい。
【0021】
成形後の強度異方性は、30%以下であることが好ましく、成形時の破断をより抑制し成形体としたときの耐久性をより向上する観点から、20%以下であることがより好ましく、10%以下であることがさらに好ましい。
成形体におけるコース方向の曲げ強度Bcは、成形性、成形時の破断抑制、及び成形体の耐久性向上の観点から、50MPa~400MPaであることが好ましく、75MPa~300MPaであることがより好ましく、100MPa~200MPaであることがさらに好ましい。
成形体におけるウェール方向の曲げ強度Bwは、成形性、成形時の破断抑制、及び成形体の耐久性向上の観点から、50MPa~400MPaであることが好ましく、75MPa~300MPaであることがより好ましく、100MPa~200MPaであることがさらに好ましい。
【0022】
成形後の弾性率異方性は、30%以下であることが好ましく、成形時の破断をより抑制し成形体としたときの耐久性をより向上する観点から、20%以下であることがより好ましく、10%以下であることがさらに好ましい。
成形体におけるコース方向の曲げ弾性率Mcは、成形性、成形時の破断抑制、及び成形体の耐久性向上の観点から、3GPa~30GPaであることが好ましく、5GPa~30GPaであることがより好ましく、10GPa~30GPaであることがさらに好ましい。
成形体におけるウェール方向の曲げ弾性率Mwは、成形性、成形時の破断抑制、及び成形体の耐久性向上の観点から、3GPa~30GPaであることが好ましく、5GPa~30GPaであることがより好ましく、10GPa~30GPaであることがさらに好ましい。
【0023】
上記成形後の強度異方性及び/又は成形後の弾性率異方性を低く抑える方法は、特に限定されるものではなく、例えば、成形用基材として、ウェール方向に対して斜行した編目(以下「斜行編目」ともいう)を有する編物を用いる方法が挙げられる。
以下、上記プリプレグの一例として、斜行編目を有する編物を成形用基材として用いたプリプレグについて説明する。
【0024】
(成形用基材)
図1は、斜行編目を有する編物の一例を部分的に示す模式図である。図1に示す編物100は、編目がウェール方向Wに対して斜行した第1の編目列112と、第1の編目列112に隣接し、かつ、編目がウェール方向Wに対して第1の編目列112と反対側に斜行した第2の編目列114と、を繰り返し有する。
【0025】
斜行編目を有する編物において、編目の斜行角度は、特に限定されるものではなく、例えば、自然状態(すなわち、特定の方向に対して引張応力等の外力が作用されていない状態)において、ウェール方向を基準として30度~60度の範囲が挙げられる。
なお、図1においては、すべての編目列が第1の編目列112と第2の編目列114との繰り返しで構成されているが、これに限定されるものではない。成形後の強度異方性及び/又は成形後の弾性率異方性を低く抑える観点からは、基材を構成する編目列のうち第1の編目列と第2の編目列との繰り返しが占める割合は、70%以上であることが好ましく、85%以上であることがより好ましく、95%以上であることがより好ましい。
また、図1においては、各編目列において、コース方向Cのすべての編目が斜行しているが、これに限定されるものではなく、各編目列を構成する編目全体における斜行編目の割合は、70%以上であることが好ましく、85%以上であることがより好ましく、95%以上であることがより好ましい。
【0026】
コース方向における曲げ強度Bc及びウェール方向における曲げ強度Bwを制御する方法としては、例えば、成形用基材における強化用繊維の材質、形態、繊度等を調整する方法が挙げられる。
また、コース方向における曲げ弾性率Mc及びウェール方向における曲げ弾性率Mwを制御する方法としては、例えば、成形用基材における強化用繊維の材質、形態、繊度等を調整する方法が挙げられる。
【0027】
成形用基材における緯編の種類としては、例えば、ゴム編、畦編、パール編、平編、袋編、両面編、ミラノリブ、及び鹿の子編が挙げられ、その中でもゴム編、畦編、両面編が好ましく、ゴム編がより好ましい。
成形用基材の目付は、特に限定されるものではなく、例えば、50g/m~1000g/mが挙げられ、100g/m~700g/mが好ましく、100g/m~500g/mがより好ましい。
以下、成形用基材に用いる強化用繊維について説明する。
【0028】
<強化用繊維>
強化用繊維の材質としては、例えば、ガラス繊維、炭素繊維、炭化ケイ素繊維、金属繊維、アラミド繊維、超高分子量ポリエチレン繊維、バサルト繊維、ポリパラフェニレン・ベンゾビス・オキサゾール繊維(すなわち、PBO繊維)、ポリアリレート繊維、ポリアセタール繊維(例えば、高強度PVA繊維)、ポリビニルアルコール繊維、フッ素系樹脂繊維、セルロース系繊維、及びナイロン繊維が挙げられる。強化用繊維は、これらの中でも、ガラス繊維、炭素繊維、金属繊維、アラミド繊維が好ましく、ガラス繊維がより好ましい。
【0029】
強化用繊維は、単繊維であるモノフィラメントをそのまま用いたものであってもよく、複数本の単繊維で構成されたマルチフィラメントであってもよい。マルチフィラメントとしては、例えば、複数本の単繊維を引き揃えた実質的に撚りのない引き揃え糸、捲縮加工を行った捲縮加工糸、撚糸加工を行った撚り糸、紡績加工を行った紡績糸等が挙げられる。成形後の強度異方性及び/又は成形後の弾性率異方性を低く抑える観点から、強化用繊維として、マルチフィラメントを用いることが好ましく、その中でも引き揃え糸及び/又は撚り糸を用いることがより好ましく、引き揃え糸を用いることがさらに好ましい。
マルチフィラメントにおけるフィラメント数は、特に限定されるものではなく、例えば50本~1000本の範囲が挙げられ、100本~800本であることが好ましく、200本~800本であることがより好ましい。また、マルチフィラメントの中でも引き揃え糸におけるフィラメント数は、100本~500本であることが好ましく、200本~400本であることがより好ましい。
【0030】
強化用繊維に用いる繊維の単繊維径としては、例えば、0.1μm~10μmの範囲が挙げられ、0.5μm~9μmの範囲であることが好ましく、2μm~7μmの範囲であることがより好ましい。
強化用繊維の繊度としては、例えば、1.0tex~100texの範囲が挙げられ、10tex~70texの範囲であることが好ましく、20tex~70texの範囲であることがより好ましい。
【0031】
<成形用基材の製造方法>
成形用基材は、例えば、横編機を用いて製造する。横編機のゲージ数は特に限定されず、例えば10ゲージ~22ゲージが挙げられ、12ゲージ~22ゲージであることが好ましい。
横編機を用いて、斜行編目を有する編物である成形用基材を製造する方法としては、編物を製造する過程で針床を振る「振り編み」を行う方法、強化用繊維として引き揃え糸及び/又は撚り糸を用いる方法等が挙げられ、これらの方法を組み合わせてもよい。その中でも特に、強化用繊維として捲縮加工糸及び/又は紡績糸を用いる場合は、上記振り編みを行う方法で成形用基材を製造することが好ましい。
【0032】
上記振り編みを行う方法としては、例えば、針床を一方に振った状態でキャリッジを移動させることで編目がウェール方向に対して斜行した第1の編目列を形成する第1の工程と、第1の工程と反対方向に針床を振った状態でキャリッジを第1の工程と反対方向に移動させることで、第1の編目列に隣接し、かつ、編目がウェール方向に対して第1の編目列と反対側に斜行した第2の編目列を形成する第2の工程と、を交互に繰り返し行う方法が挙げられる。
【0033】
具体的には、例えば横編機が二列針床型である場合、まず、後部針床を前部針床に対して1針間移動(ラッキング)させた状態でキャリッジを通過させることで、編目がウェール方向に対して斜行した第1の編目列が形成される(第1の工程)。続いて、後部針床を前部針床に対して、第1の工程とは反対方向に1針間移動(ラッキング)させ、その状態でキャリッジを第1の工程とは反対方向に通過させる。それにより、第1の編目列に隣接し、かつ、編目がウェール方向に対して第1の編目列と反対側に斜行した第2の編目列が形成される(第2の工程)。この第1の工程と第2の工程とを交互に繰り返し行う(つまり、キャリッジが往復するごとに、後部針床を左右交互に1針間ずつ移動させる)ことで、上記第1の編目列と第2の編目列とを繰り返し有する編物が形成される。
なお、針床の移動距離は、1針間に限定されるものではなく、例えば1/4ピッチ~2ピッチ(すなわち1/4針間~2針間)が挙げられ、3/4ピッチ~1ピッチ(すなわち3/4針間~1針間)が好ましい。
【0034】
強化用繊維として引き揃え糸及び/又は撚り糸を用いる方法では、振り編みを行うことでより斜行編目を形成しやすく、かつ、斜行角度を調整しやすいが、振り編みを行わなくても斜行編目が形成される場合がある。引き揃え糸及び/又は撚り糸を用いる事で斜行編目が形成される理由は定かではないが、糸の表面が滑りやすいことに起因していると推測される。
振り編みを行わずに斜行編目を形成する観点で、引き揃え糸及び撚り糸の材質はガラス繊維であることが好ましく、フィラメント数は200本~400本であることが好ましく、単繊維径は2μm~7μmであることが好ましい。
【0035】
(樹脂)
次に、樹脂について説明する。
プリプレグは、成形用基材の少なくとも一部に樹脂が含浸されていればよく、成形用基材の80体積%以上に樹脂が含浸されていることが好ましく、成形用基材の95体積%以上に樹脂が含浸されていることがより好ましく、成形用基材の全体に樹脂が含浸されていることがさらに好ましい。
【0036】
プリプレグが有する樹脂は、常温硬化性樹脂、熱硬化性樹脂、及び熱可塑性樹脂からなる群より選択される少なくとも1種を含む。
常温硬化性樹脂及び熱硬化性樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、ビニルエステル樹脂、メタクリル酸メチル樹脂(すなわちMMA樹脂)、アクリル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂が挙げられる。また、熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂が挙げられる。
樹脂は、これらの中でも、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、及び不飽和ポリエステル樹脂からなる群より選択される少なくとも1種を含むことが好ましく、フェノール樹脂、エポキシ樹脂を含むことがより好ましい。
【0037】
プリプレグ全体に対する樹脂の割合は、特に限定されず、30質量%~80質量%が好ましく、40質量%~70質量%がより好ましく、50質量%~60質量%がさらに好ましい。
【0038】
<プリプレグの製造方法>
プリプレグは、成形用基材の少なくとも一部に樹脂材料を含浸させる工程を経ることで製造される。
成形用基材の少なくとも一部に樹脂材料を含浸させる方法は、特に限定されず、例えば、成形用基材を硬化前の樹脂に浸漬させる方法、硬化前の樹脂を成形用基材に塗布する方法、硬化前の樹脂を塗布したラミネートフィルムを成形用基材にラミネートする方法、成形用基材を溶融した樹脂材料に浸漬させる方法、溶融した樹脂材料を成形用基材に塗布する方法が挙げられ、その中でも成形用基材を硬化前の樹脂に浸漬させる方法、硬化前の樹脂を成形用基材に塗布する方法、硬化前の樹脂を塗布したラミネートフィルムを成形用基材にラミネートする方法が好ましく、成形用基材を硬化前の樹脂に浸漬させる方法がより好ましい。
【0039】
上記工程で用いる樹脂材料は、常温硬化性樹脂、熱硬化性樹脂、及び熱可塑性樹脂からなる群より選択される少なくとも1種を含む樹脂を含有するものであればよく、樹脂以外の成分を含有していてもよい。なお、樹脂材料が樹脂以外の成分を含有する場合は、樹脂材料全体における樹脂の含有量が80質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましく、95質量%以上であることがさらに好ましい。
【0040】
[成形体]
本実施形態の成形体は、上述したプリプレグの成形体である。成形体は、天板部及び側壁部を有する凹部を含む。
図2は、成形体における凹部の一例を模式的に示す端面図である。
図2に示す凹部10は、天板部12と、天板部12の周囲に隣接する縦壁部14と、を有する。図2に示す凹部10の天板部12は、開口面16と平行な平面となっているが、これに限られず、開口面と平行ではない平面であってもよく、曲面であってもよい。また、図2に示す縦壁部14の端面は、凹部10の開口面16側から天板部12側にかけて直線であるが、これに限られず、曲線であってもよい。
【0041】
凹部10における開口径dに対する深さDの比(D/d)は、0.5以上であることが好ましく、0.5~4.0であることがより好ましく、0.5~1.2であることがさらに好ましい。
開口径dの値は、特に限定されるものではなく、例えば5mm~100mmの範囲が挙げられ、10mm~50mmの範囲であることが好ましく、20mm~30mmの範囲であることがより好ましい。また、深さDの値は、特に限定されるものではなく、例えば、5mm~100mmの範囲が挙げられ、10mm~50mmの範囲であることが好ましく、10mm~30mmの範囲であることがより好ましい。
【0042】
ここで、開口径dは、凹部10の開口面16の円相当径を表す。また、深さDは、凹部10の開口面16から天板部12までの距離を表す。天板部が開口面と平行ではない場合又は曲面である場合、深さDは、開口面16から天板部12までの距離のうち最も遠い距離を表す。
【0043】
天板部12が平面である場合、天板部12の円相当径dtは、特に限定されず、例えば開口径dの0.05倍~1倍の範囲が挙げられ、0.1倍~1倍の範囲であることが好ましく、0.3倍~1倍の範囲であることがより好ましい。
開口面16及び天板部12の形状は、特に限定されず、円形、楕円形、多角形等が挙げられる。
【0044】
成形体は、天板部及び側壁部を有する凹部を少なくとも1つ以上含んでいればよく、上記凹部を2以上含んでもよい。また、成形体が凹部を2以上含む場合、前記2以上の凹部は、互いに同じ形状であってもよく、異なる形状であってもよい。
【0045】
<成形体の製造方法>
成形体は、上述したプリプレグを成形し、天板部及び縦壁部を有する凹部を含む形状に賦形する成形工程を経ることで製造される。
上記成形工程において適用する成形法としては、例えば、プレス成形、ハンドレイアップ成形、オートクレーブ成形、RTM成形、引抜き成形、シートワインディング成形等が挙げられ、その中でもプレス成形、オートクレーブ成形が好ましく、プレス成形がより好ましい。また、上記成形工程において適用する成形法は、プレス成形の中でも、深絞り成形を行う工程であることがさらに好ましい。
【0046】
深絞り成形を行う工程では、例えば、深絞り成形用金型を用いて深絞り成形を行う。深絞り成形用金型としては、例えば、凸状のパンチ型と、凹状のダイと、ホルダーと、を有する金型が用いられる。上記深絞り成形用金型を用いる場合、例えば、ホルダーによりプリプレグの端部を抑えた状態で、パンチ型とダイとの間にプリプレグを挟み込んで成形を行う。
パンチ型の凸面は、形成する凹部の天板部及び縦壁部を形成するための成形面となっている。すなわち、パンチ型は、例えば、凹部の天板部を形成する成形面と、凹部の縦壁部を形成する成形面と、を有する。したがって、例えば天板部が平面である凹部を有する成形体を深絞り成形により作製する場合、深絞り成形用金型として、天板部を形成する成形面が平面状であるパンチ型を有する金型を用いる。
【0047】
成形体を製造する際の成形条件は、特に限定されるものではない。成形温度としては例えば80℃~180℃が挙げられ、成形圧力としては例えば0.5kg/cm~10kg/cmが挙げられ、成形時間としては例えば30分~180分が挙げられる。
【実施例
【0048】
以下、本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明は下記実施例により限定されるものではない。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理手順等は、本実施形態の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。なお、特に断りがない限り「部」は「質量部」を意味する。
【0049】
[実施例1]
<成形用基材の製造>
強化用繊維として、繊度70.0texの捲縮加工ガラス繊維(捲縮加工マルチフィラメント、単繊維径:6μm、フィラメント数:800本)を用いた。
14ゲージ横編機を使用して、左右にニードルヘッドをラッキングさせながらゴム編みを編成し、編目をウェール方向に対して左右に斜行させた。具体的には、針床を一方に1針間振った状態でキャリッジを移動させ、その後、針床を反対方向に1針振った状態でキャリッジを反対方向に移動させることを、交互に繰り返し行った。
それにより、編目がウェール方向に対して45°に斜行した第1の編目列と、第1の編目列に隣接し、かつ、編目がウェール方向に対して第1の編目列と反対側に45°斜行した第2の編目列と、を繰り返し有する編物基材である成形用基材1(目付:370g/m)を得た。
【0050】
<プリプレグの製造>
エポキシ樹脂(サンユレック株式会社製 プリプレグ作製用エポキシ樹脂シート 品名:DRS-028-100)を樹脂材料として用い、以下のようにして成形用基材1全体に含浸させることで、プリプレグ全体に対する樹脂の割合が50質量%であるプリプレグ1を得た。
具体的には、エポキシ樹脂シートを成形用基材表面に上下から密着させた状態で貼り付け、熱ラミネーターを用いて100℃でラミネートすることでプリプレグ1を得た。
得られたプリプレグ1について、上述した方法で成形体の曲げ強度を測定したところ、コース方向における曲げ強度Bcは157.00MPa、ウェール方向における曲げ強度Bwは158.50MPa、成形後の強度異方性は1.0%であった。
また、得られたプリプレグ1について、上述した方法で成形体の曲げ弾性率を測定したところ、コース方向における曲げ弾性率Mcは10.05GPa、ウェール方向における曲げ弾性率Mwは10.25GPa、成形後の弾性率異方性は2.0%であった。
したがって、プリプレグ1を用いて得られる成形体は、強度異方性及び弾性率異方性が低いため、全体としての耐久性に優れ、様々な用途に用いられると考えられる。
【0051】
[実施例2]
<成形用基材の製造>
強化用繊維として、繊度67.5texのガラス繊維(マルチフィラメント引き揃え糸、単繊維径:9μm、フィラメント数:400本)を用いた。
16ゲージ横編機を用い、総針ゴム編みにて、ガラス繊維を1本取りにして編成した。具体的には、針床を振らずにキャリッジを往復させた。
それにより、編目がウェール方向に対して約45°に斜行した第1の編目列と、第1の編目列に隣接し、かつ、編目がウェール方向に対して第1の編目列と反対側に、約45°斜行した第2の編目列と、を繰り返し有する編物基材である成形用基材2(目付:577g/m)を得た。
【0052】
<プリプレグの製造>
成形用基材1の代わりに成形用基材2を用いた以外は、プリプレグ1と同様にして、プリプレグ全体に対する樹脂の割合が60質量%であるプリプレグ2を得た。
得られたプリプレグ2について、上述した方法で成形体の曲げ強度を測定したところ、コース方向における曲げ強度Bcは133.0MPa、ウェール方向における曲げ強度Bwは160.0MPa、成形後の強度異方性は18.4%であった。
また、得られたプリプレグ1について、上述した方法で成形体の曲げ弾性率を測定したところ、コース方向における曲げ弾性率Mcは10.9GPa、ウェール方向における曲げ弾性率Mwは11.7GPa、成形後の弾性率異方性は7.1%であった。
したがって、プリプレグ2を用いて得られる成形体は、強度異方性及び弾性率異方性が低いため、全体としての耐久性に優れ、様々な用途に用いられると考えられる。
【0053】
<破裂試験(成形体の製造)>
深絞り形状に成形するため、JIS L 1096:2010に規定されたB法の試験治具形状をもとに深絞り成形用金型を作製した。具体的には、開口径dが25mmで深さDが10mmの凹部を形成する金型1(つまり、開口径dが25mmで深さDが10mmの凹部を形成する成形面を有するパンチ型を含む深絞り成形用金型)、開口径dが25mmで深さDが20mmの凹部を形成する金型2(つまり、開口径dが25mmで深さDが20mmの凹部を形成する成形面を有するパンチ型を含む深絞り成形用金型)、及び開口径dが25mmで深さDが30mmの凹部を形成する金型3(つまり、開口径dが25mmで深さDが30mmの凹部を形成する成形面を有するパンチ型を含む深絞り成形用金型)を作製した。なお、金型1~3により形成される凹部はいずれも、開口部が円形、天板部が曲面となるものである。
金型1~3を用いて、成形温度150℃、成形圧力4kg/cm、成形時間120分の条件でそれぞれ成形体を作製し、得られた成形体における成形用基材の破断の有無を、X線CT装置(ブルカー株式会社、型番:skyscan2211管電圧:50kV、露光時間:550ms、検出器:フラットパネル)により確認した。
その結果、いずれの成形体についても、成形用基材の破断が無く、綺麗に成形されていることが確認された。
図3に、金型3を用いてプリプレグ2の成形を行って得られた成形体のX線CT画像を示す。図3のX線CT画像から、金型3を用いて作製されたプリプレグ2の成形体においては、凹部の編目構造が均一に近い状態であることが分かる。
【0054】
[比較例1]
<成形用基材の製造>
強化用繊維として、繊度70.0texの捲縮加工ガラス繊維(捲縮加工マルチフィラメント、単繊維径:6μm、フィラメント数:800本)を用いた。
16ゲージ横編機を用い、総針ゴム編みにて、ガラス繊維を1本取りにして編成した。具体的には、針床を振らずにキャリッジを往復させた。
それにより、編目がウェール方向に対して斜行していない編物基材である成形用基材C1(目付:528g/m)を得た。
【0055】
<プリプレグの製造>
フェノール樹脂(利昌工業株式会社製)を樹脂材料として用い、以下のようにして成形用基材C1全体に含浸させることで、プリプレグ全体に対する樹脂の割合が60質量%、であるプリプレグC1を得た。
具体的には、硬化前のフェノール樹脂を成形前基材に手塗りで含浸させ、樹脂の割合が60質量%となるようマングルを用いて調整した。
得られたプリプレグC1について、上述した方法で成形体の曲げ強度を測定したところ、コース方向における曲げ強度Bcは81.74MPa、ウェール方向における曲げ強度Bwは198.8MPa、成形後の強度異方性は83.4%であった。
また、得られたプリプレグ1について、上述した方法で成形体の曲げ弾性率を測定したところ、コース方向における曲げ弾性率Mcは5.0GPa、ウェール方向における曲げ弾性率Mwは13.4GPa、成形後の弾性率異方性は91.3%であった。
【0056】
[比較例2]
<成形用基材の準備>
成形用基材C2として、織物基材を準備した。
なお、上記織物基材は、強化用繊維としてガラス繊維を用いたものである。
【0057】
<プリプレグの製造>
フェノール樹脂(利昌工業株式会社製)を樹脂材料として用い、以下のようにして成形用基材C2全体に含浸させることで、プリプレグ全体に対する樹脂の割合が60質量%、であるプリプレグC2を得た。
具体的には、硬化前のフェノール樹脂を成形前基材に手塗りで含浸させ、樹脂の割合が60質量%となるようマングルを用いて調整した。
【0058】
<破裂試験(成形体の製造)>
実施例2と同様にして、金型1~3を用いてそれぞれ成形体を作製し、得られた成形体における成形用基材の破断の有無を確認した。
その結果、いずれの成形体についても、成形用基材の破断が確認された。
図4に、金型2を用いての成形を行って得られた成形体のX線CT画像を示す。図4のX線CT画像から、金型2を用いて作製されたプリプレグC2の成形体においては、成形用基材の破断が明らかに生じていることが分かる。
【0059】
以上の結果から、緯編により編成された強化用繊維の編物基材である成形用基材を用い、かつ成形後の強度異方性及び/又は成形後の弾性率異方性が30%以下であるプリプレグとすることで、成形時における基材の破断が生じにくく、かつ、成形体としたときの耐久性に優れることが分かった。
【符号の説明】
【0060】
10 凹部
12 天板部
14 縦壁部
16 開口面
100 編物
112 第1の編目列
114 第2の編目列
図1
図2
図3
図4