(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-20
(45)【発行日】2023-11-29
(54)【発明の名称】R-T-B系永久磁石
(51)【国際特許分類】
H01F 1/057 20060101AFI20231121BHJP
C22C 38/00 20060101ALI20231121BHJP
【FI】
H01F1/057 170
C22C38/00 303D
C22C38/00 304
(21)【出願番号】P 2019053644
(22)【出願日】2019-03-20
【審査請求日】2021-11-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001494
【氏名又は名称】前田・鈴木国際特許弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】藤原 真理子
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 信
【審査官】久保田 昌晴
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-143828(JP,A)
【文献】特開2015-179841(JP,A)
【文献】特開2014-086529(JP,A)
【文献】国際公開第2018/034264(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/153057(WO,A1)
【文献】特開2002-173744(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 1/057
B22F 3/00
C22C 38/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Gaを含有するR-T-B系永久磁石であって、
Rは1種以上の希土類元素、TはFeまたはFeおよびCo、Bはホウ素であり、
R
2T
14B型結晶構造を有する結晶粒子から成る主相粒子と、隣り合う2つ以上の前記主相粒子によって形成される粒界と、を有し、
前記主相粒子の略中央部におけるGaの原子数濃度を[Ga]、Rの原子数濃度を[R]として、
個数ベースで70%以上の前記主相粒子が、
0.030≦[Ga]/[R]≦0.100
を満たし、
前記主相粒子の略中央部とは、前記主相粒子に対して互いに平行な2本の接線を引いた場合において、2本の接線の距離が最も長くなる接点を結んだ径の中点からの距離が1μm以内である部分のことであることを特徴とするR-T-B系永久磁石。
【請求項2】
前記粒界がR
6T
13Ga相を含む請求項1に記載のR-T-B系永久磁石。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、R-T-B系永久磁石に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、R2T14B型結晶構造を有する結晶粒子を主相とする希土類磁石であって、主相粒子の端部から主相粒子の内部に向かって増加するGaの濃度勾配を有する希土類磁石が記載されている。特に高温減磁抑制および室温での保磁力が向上した希土類磁石が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
現在では、さらに室温での保磁力を向上させたR-T-B系永久磁石が求められている。
【0005】
本発明は、残留磁束密度Brを維持したまま室温での保磁力HcJを向上させたR-T-B系永久磁石を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明に係るR-T-B系永久磁石は、
Gaを含有するR-T-B系永久磁石であって、
Rは1種以上の希土類元素、TはFeまたはFeおよびCo、Bはホウ素であり、
R2T14B型結晶構造を有する結晶粒子から成る主相粒子と、隣り合う2つ以上の前記主相粒子によって形成される粒界と、を有し、
前記主相粒子におけるGaの原子数濃度を[Ga]、Rの原子数濃度を[R]として、
0.030≦[Ga]/[R]≦0.100
を満たすことを特徴とする。
【0007】
本発明に係るR-T-B系永久磁石は、上記の特徴を有することにより、特にBrを低下させずに室温でのHcJを向上させることができる。
【0008】
前記粒界がR6T13Ga相を含んでもよい。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を、実施形態に基づき説明する。
【0011】
<R-T-B系永久磁石>
本実施形態に係るR-T-B系永久磁石について説明する。本実施形態に係るR-T-B系永久磁石は、R2T14B型結晶構造を有する結晶粒子から成る主相粒子と、隣り合う2つ以上の前記主相粒子によって形成される粒界と、を有する。
【0012】
主相粒子の平均粒子径は、通常1μm~30μm程度である。
【0013】
本実施形態に係るR-T-B系永久磁石は、R-T-B系合金を用いて形成される焼結体であっても良い。
【0014】
Rは、希土類元素の少なくとも1種を表す。希土類元素とは、長周期型周期表の第3族に属するScとYとランタノイド元素とのことをいう。ランタノイド元素には、例えば、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu等が含まれる。希土類元素は、軽希土類および重希土類に分類され、重希土類元素とは、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Luをいい、軽希土類元素は重希土類元素以外の希土類元素である。本実施形態においては、製造コストおよび磁気特性を好適に制御する観点から、RとしてNdおよび/またはPrを含んでもよい。また、特に保磁力を向上させる観点から軽希土類元素と重希土類元素との両方を含んでもよい。重希土類元素の含有量には特に制限はなく、重希土類元素を含まなくてもよい。重希土類元素の含有量は例えば5質量%以下(0質量%を含む)である。
【0015】
本実施形態では、Tは、FeまたはFeおよびCoである。また、Bはホウ素である。
【0016】
本実施形態に係るR-T-B系永久磁石は、主相粒子にGaが含まれる。そして、主相粒子におけるGaの原子数濃度を[Ga]、Rの原子数濃度を[R]として、0.030≦[Ga]/[R]≦0.100を満たす。
【0017】
R-T-B系永久磁石の主相粒子が0.030≦[Ga]/[R]≦0.100を満たすことで、HcJ、特に室温でのHcJを向上させることができる。HcJが向上するメカニズムは不明である。しかし、R2T14B型結晶構造を有する結晶粒子に含まれるRの一部がGaに置換されることで主相粒子の異方性磁界が向上するためであると本発明者らは考えている。
【0018】
R-T-B系永久磁石のHcJが向上するためには、R-T-B系永久磁石に含まれる全ての主相粒子が0.030≦[Ga]/[R]≦0.100を満たす必要はない。個数ベースで70%以上の主相粒子が0.030≦[Ga]/[R]≦0.100を満たすことで、R-T-B系永久磁石のHcJが向上する。主相粒子の[Ga]/[R]が小さすぎる場合には磁気特性、特にHcJが低下しやすい。[Ga]/[R]が0.100より大きい主相粒子が多く含まれるR-T-B系永久磁石を作製することは困難である。
【0019】
なお、主相粒子の[Ga]/[R]は例えば、下記の方法により測定する。まず、R-T-B系永久磁石を任意の断面で切断し、研磨する。次に、研磨した切断面における元素分布をSEMおよびEDSで分析する。測定倍率は2500倍~5000倍とする。そして、得られたSEM画像から長径が4μm以上である主相粒子を最低3個以上、選択する。その後、EDSを用いて、スポット径2μmの電子線を当該主相粒子の略中央部に設定した測定点に照射し、各元素の含有量を測定する。なお、スポットが粒界にはみ出さないようにする。各測定点における各元素の濃度から、各測定点における[Ga]/[R]を算出し、当該測定点を有する主相粒子の[Ga]/[R]とする。
【0020】
略中央部の決定方法について
図1を用いて説明する。まず、主相粒子1の長径11は、
図1に示すように主相粒子1に対して互いに平行な2本の接線を引いた場合において、2本の接線の距離が最も長くなる接点を結んだ径である。
図1では、長径11の長さをLとしている。そして、長径11の中点が主相粒子1の中心11Aとなる。そして、主相粒子1の中心11Aの近傍、具体的には主相粒子1の中心11Aからの距離が1μm以内である部分を主相粒子1の略中央部とする。
【0021】
なお、主相粒子中におけるGaの濃度は、具体的には、0.5原子%以上であってよい。HcJ、特に室温でのHcJを向上させることができる。
【0022】
HcJ、特に室温でのHcJを向上させる観点からは、主相粒子の内部において、Gaの濃度差が存在してもよく、相対的にGaの濃度が高い部分が主相粒子の略中央部にあり、相対的にGaの濃度が低い部分が主相粒子の外縁部にあってよい。
【0023】
HcJ、特に室温でのHcJを向上させる観点からは、主相粒子の内部において、Bの濃度差が存在してもよく、相対的にBの濃度が低い部分が主相粒子の略中央部にあり、相対的にBの濃度が高い部分が主相粒子の外縁部にあってよい。
【0024】
HcJ、特に室温でのHcJを向上させる観点からは、主相粒子の内部において、Cの濃度差が存在してもよく、相対的にCの濃度が高い部分が主相粒子の略中央部にあり、相対的にCの濃度が低い部分が主相粒子の外縁部にあってよい。
【0025】
本実施形態に係るR-T-B系永久磁石は、粒界にR6T13Ga相を含んでもよい。R6T13Ga相とは、主相よりもRおよびGaの各濃度が高く、La6Co11Ga3型の結晶構造を持つ相である。粒界にR6T13Ga相を含むことでHcJ、特に室温でのHcJが向上しやすくなる。
【0026】
本実施形態に係るR-T-B系永久磁石の粒界は、R2T14B結晶粒よりRの濃度が高いRリッチ相を含んでいてもよい。
【0027】
本実施形態に係るR-T-B系永久磁石におけるRの合計含有量は限定されない。例えば29.0質量%以上33.5質量%以下である。Rの合計含有量が少ないほどHcJが低下しやすい。多いほどBrが低下しやすい。Rの合計含有量が少ない場合には、R-T-B系永久磁石の主相粒子の生成が十分ではなくなる。そして、軟磁性を持つα-Feなどが析出しやすくなり、HcJが低下しやすくなる。また、Rの合計含有量が多い場合には、R-T-B系永久磁石の主相粒子の体積比率が減少しやすくなり、Brが低下しやすくなる。
【0028】
本実施形態に係るR-T-B系永久磁石におけるBの含有量は限定されない。例えば0.70質量%以上0.99質量%以下である。0.80質量%以上0.96質量%以下であってもよい。Bの含有量が少ないほど焼結性が低下しやすくなり、高い角形比(Hk/HcJ)を有し異常粒成長がない焼結温度の幅が狭くなりやすい。Bの含有量が多すぎるとBrが低下しやすくなる。また、Bの含有量が0.96質量%より大きいとR6T13Ga相が粒界に形成されにくくなり、主相粒子間に非磁性の粒界相を形成しにくくなる。そのため、室温でのHcJが低下しやすくなる。
【0029】
Tは、FeまたはFeおよびCoである。TはFeのみでもよいが、FeおよびCoであってもよい。本実施形態に係るR-T-B系永久磁石におけるCoの含有量は任意である。例えば0.10質量%以上2.5質量%以下である。0.10質量%以上0.44質量%以下であってもよい。Coの含有量が0.10質量%未満であると耐食性が低下しやすくなる。Coの含有量が多いほど、BrおよびHcJが低下しやすくなる。また、本実施形態に係るR-T-B系永久磁石が高価となる傾向がある。
【0030】
本実施形態に係るR-T-B系永久磁石は、さらにGaを含む。
【0031】
本実施形態に係るR-T-B系永久磁石におけるGaの含有量は限定されない。例えば0.30質量%以上2.0質量%以下である。0.50質量%以上1.0質量%以下であってもよい。Gaの含有量が少ないほど主相粒子におけるGaの含有量が減少し、主相粒子におけるGaの原子数濃度が減少する。さらに、R6T13Ga相が粒界に生じにくくなる。その結果、磁気特性、特にHcJが低下しやすくなる。また、Gaの含有量が多いほど、Brが低下しやすくなる。
【0032】
本実施形態に係るR-T-B系永久磁石は、さらにCu,ZrおよびAlから選択される1種以上を含んでもよい。
【0033】
本実施形態に係るR-T-B系永久磁石におけるCuの含有量は限定されない。0.10質量%以上1.5質量%以下であってもよい。0.53質量%以上0.97質量%以下であってもよい。Cuの含有量が少ないほど、耐食性が低下しやすくなる。Cuの含有量が多いほどBrが低下しやすくなる。
【0034】
本実施形態に係るR-T-B系永久磁石におけるAlの含有量は限定されない。Alの含有量は例えば0.010質量%以上0.80質量%以下である。0.10質量%以上0.50質量%以下であってもよい。Alの含有量を少なくすることは、例えば合金鋳造時にAlが混入しやすいなどの理由により困難な場合がある。Alの含有量が多いほどBrが低下しやすくなる。
【0035】
本実施形態に係るR-T-B系永久磁石におけるZrの含有量は限定されない。Zrの含有量は例えば、0.10質量%以上0.80質量%以下である。0.20質量%以上0.60質量%以下であってもよい。Zrの含有量が少ないほど耐食性および焼結性が低下しやすくなる。Zrの含有量が多いほどBrが低下しやすくなる。
【0036】
本実施形態に係るR-T-B系永久磁石は、O、Cおよび/またはNを含んでもよい。
【0037】
本実施形態に係るR-T-B系永久磁石においては、酸素量は任意である。例えば0.300質量%以下であってもよい。0.200質量%以下であってもよい。酸素量が多いほどHcJが低下しやすくなる。
【0038】
本実施形態に係るR-T-B系永久磁石においては、炭素量は限定されない。例えば0.003質量%以上0.200質量%以下である。0.065質量%以上0.120質量%以下であってもよい。炭素量が少なくなるほど粒界中にFeリッチ相が形成されやすくなり、Brが低下しやすくなる。炭素量が多くなるほどHcJが低下しやすくなる。
【0039】
本実施形態に係るR-T-B系永久磁石においては、窒素量は限定されない。例えば0.300質量%以下であってもよい。0.100質量%以下であってもよい。窒素量が多いほどHcJが低下しやすくなる。
【0040】
R-T-B系永久磁石中の酸素量、炭素量、窒素量の測定方法は、一般的に知られている方法を用いることができる。酸素量は、例えば、不活性ガス融解-非分散型赤外線吸収法により測定され、炭素量は、例えば、酸素気流中燃焼-赤外線吸収法により測定され、窒素量は、例えば、不活性ガス融解-熱伝導度法により測定される。
【0041】
本実施形態に係るR-T-B系永久磁石におけるFeの含有量は、R-T-B系永久磁石の構成要素における実質的な残部である。Feの含有量が実質的な残部であるとは、具体的には、上述した元素、すなわち、R,T,B,Ga,Cu,Al,Zr,O,C,N以外の元素の合計含有量が1質量%以下である場合を指す。
【0042】
本実施形態に係るR-T-B系永久磁石は、一般的には任意の形状に加工されて使用される。本実施形態に係るR-T-B系永久磁石の形状は特に限定されるものではなく、例えば、直方体、六面体、平板状、四角柱などの柱状、R-T-B系永久磁石の断面形状がC型の円筒状等の任意の形状とすることができる。四角柱としては、たとえば、底面が長方形の四角柱、底面が正方形の四角柱であってもよい。
【0043】
また、本実施形態に係るR-T-B系永久磁石には、当該磁石を加工して着磁した磁石製品と、当該磁石を着磁していない磁石製品との両方が含まれる。
【0044】
<R-T-B系永久磁石の製造方法>
次に、本実施形態に係るR-T-B系永久磁石の製造方法の一例を説明する。本実施形態に係るR-T-B系永久磁石は通常の粉末冶金法により製造することができる。当該粉末冶金法は、原料合金を調製する調製工程、原料合金を粉砕して原料微粉末を得る粉砕工程、原料微粉末を成形して成形体を作製する成形工程、成形体を焼結して焼結体を得る焼結工程、前記焼結体に時効処理を施す熱処理工程を有する。
【0045】
調製工程は、本実施形態に係るR-T-B系永久磁石に含まれる各元素を有する原料合金を調製する工程である。まず、所定の元素を有する原料金属等を準備し、これらを用いて、例えば以下に示すストリップキャスティング法を行う。これによって原料合金を調製することができる。原料金属等としては、例えば、希土類金属や希土類合金、純鉄、フェロボロン、カーボン、またはこれらの合金が挙げられる。これらの原料金属等を用い、所望の組成を有するR-T-B系永久磁石が得られるような原料合金を調製する。
【0046】
調整方法の一例としてストリップキャスティング法を説明する。ストリップキャスティング法は、前記原料金属等を溶解させた溶湯をタンディッシュに流し込み、さらにタンディッシュから前記溶湯を回転する銅ロール上に溶湯を出湯させ、溶湯を銅ロール上で冷却させて凝固させる方法である。銅ロールは内部が水冷されている。放射温度計で溶湯の温度変化を観察すると、1300℃~1600℃でタンディッシュから出湯された溶湯は、銅ロール上で800℃~1000℃まで急速に冷却されて凝固する。そして、凝固した溶湯は銅ロールから剥がれて合金片となり、回収箱の中に収集される。
【0047】
そして、回収箱の中で合金片がさらに冷却される。ここで、回収箱の中に冷却機構を備えさせることで、合金片の冷却速度を加速させることができる。冷却機構としては、例えば回収箱の中に櫛状に並べた冷却板などが挙げられる。以下、銅ロール上での冷却を1次冷却、回収箱の中での冷却を2次冷却と呼ぶことがある。また、1次冷却の速度を1次冷却速度、2次冷却の速度を2次冷却速度と呼ぶ。
【0048】
ここで、2次冷却速度を速くすることで、Gaを主相粒子中に多く固溶させることができ、[Ga]/[R]を高くすることができる。2次冷却速度を速くする有効な方法としては、例えば合金厚みを薄くする方法が挙げられる。また、回収箱の中に冷却板を櫛状に並べている場合には、冷却板を冷却する冷却水の水温を低下させる方法、冷却水の水量を増加させる方法、冷却板同士の間隔を狭くする方法などが挙げられる。また、2次冷却速度が不足すると、Gaを主相粒子中に十分に固溶させられなくなり、代わりに、Gaを多く含有する粒界、例えばRリッチ相やR6T13Ga相が形成しやすくなる。
【0049】
主相粒子におけるGaの濃度は、単に溶湯におけるGaの含有量を増やしても増加しにくい。Gaは主相粒子よりも粒界、特に粒界中のRリッチ相に濃縮しやすいためである。また、特にRが多い組成や、Bが少ない組成では、鋳造時にRリッチ相が多く形成するため、Gaの含有量を増やしても主相粒子におけるGaの濃度は増加しにくい。そこで、上記の通り、合金鋳造時に粒界に含まれるRリッチ相などの相が凝固する温度において冷却速度を速くすることで、Gaを多く含む粒界の形成を妨げ、主相粒子におけるGaの濃度を増加させることが可能になる。
【0050】
特に、900℃以下の温度域において冷却速度を速くした場合において、Gaが主相粒子に固溶しやすくなる。粒界に含まれるRリッチ相などの各相が900℃以下で凝固するために900℃以下の温度域に留まる時間を短くすることでGaを多く含む粒界の形成を妨げることができるためである。すなわち、1次冷却速度と2次冷却速度のうち、特に2次冷却速度を速くすることがGaを主相粒子に固溶させる上で重要である。
【0051】
原料合金に含まれるカーボン量は0.01質量%以上であってもよい。この場合には、主相粒子の外縁部におけるGaの濃度およびCの濃度を主相粒子の内部におけるGaの濃度およびCの濃度よりも低く調整することが容易である。また、主相粒子の外縁部におけるBの濃度を主相粒子の内部におけるBの濃度よりも高く調整することが容易である。
【0052】
原料合金におけるカーボン量を調整する方法として、例えば、カーボンを含む原料金属等を使用することで調整する方法がある。特にFe原料の種類を変化させることでカーボン量を調整する方法が容易である。カーボン量を増やすためには炭素鋼や鋳鉄などを使用し、カーボン量を減らすためには電解鉄などを使用すればよい。
【0053】
粉砕工程は、調製工程で得られた原料合金を粉砕して原料微粉末を得る工程である。この工程は、粗粉砕工程及び微粉砕工程の2段階で行ってもよいが、微粉砕工程のみの1段階としても良い。
【0054】
粗粉砕工程は、例えばスタンプミル、ジョークラッシャー、ブラウンミル等を用い、不活性ガス雰囲気中で行うことができる。水素を吸蔵させた後、粉砕を行う水素吸蔵粉砕を行うこともできる。粗粉砕工程においては、原料合金を、粒径が数百μmから数mm程度の粗粉末となるまで粉砕を行う。
【0055】
微粉砕工程は、粗粉砕工程で得られた粗粉末(粗粉砕工程を省略する場合には原料合金)を微粉砕して、平均粒径が数μm程度の原料微粉末を調製する。原料微粉末の平均粒径は、焼結後の結晶粒子の成長度合を勘案して設定すればよい。微粉砕は、例えば、ジェットミルを用いて行うことができる。
【0056】
微粉砕の前には粉砕助剤を加えることができる。粉砕助剤を加えることで粉砕性を改善し、成形工程での磁場配向を容易にする。加えて焼結時のカーボン量を変えることが可能となり、主相粒子におけるGaの濃度,Cの濃度,およびBの濃度を好適に制御することが容易である。
【0057】
上記理由により粉砕助剤は潤滑性を有した有機物であってもよい。特に窒素を含んだ有機物であってもよい。具体的にはステアリン酸、オレイン酸、ラウリン酸などの長鎖炭化水素酸の金属塩、または前記長鎖炭化水素酸のアミドであってもよい。
【0058】
粉砕助剤の添加量は主相粒子の組成を制御する観点から原料合金100質量%に対して0.05~0.15質量%としてもよい。また、原料合金に含まれるカーボンに対する粉砕助剤の質量比率を5~15倍にすることで、主相粒子の外縁部におけるGaの濃度およびCの濃度を主相粒子の内部におけるGaの濃度およびCの濃度よりも低く調整することが容易となる。また、主相粒子の外縁部におけるBの濃度を主相粒子の内部におけるBの濃度よりも高く調整することが容易となる。
【0059】
成形工程は、原料微粉末を磁場中で成形して成形体を作製する工程である。具体的には、原料微粉末を電磁石中に配置された金型内に充填した後、電磁石により磁場を印加して原料微粉末の結晶軸を配向させながら、原料微粉末を加圧することにより成形を行うことで成形体を作製する。この磁場中の成形は、例えば、1000~1600kA/mの磁場中、30~300MPa程度の圧力で行えばよい。
【0060】
焼結工程は、成形体を焼結して焼結体を得る工程である。前記磁場中の成形後、成形体を真空もしくは不活性ガス雰囲気中で焼結し、焼結体を得ることができる。焼結条件は、成形体の組成、原料微粉末の粉砕方法、粒度等の条件に応じて適宜設定すればよい。ここで、主相粒子におけるGaの濃度を高く維持するためには、焼結温度を950℃~1050℃という比較的低い温度としてもよく、焼結時間を1~12時間程度としてもよい。焼結温度は950℃~1000℃としてもよい。このように比較的低い温度で焼結することにより、焼結時における主相粒子の溶解量を低減し、調整工程において主相粒子に固溶したGaが粒界へ拡散することを低減することができる。また昇温過程を調整することで、焼結後のR-T-B系永久磁石におけるカーボン量を調整することも可能である。室温から300℃までの昇温速度を1℃/分以上にすることが、カーボンを焼結時まで残すためには望ましい。4℃/分以上としてもよい。
【0061】
熱処理工程は、焼結体を時効処理する工程である。熱処理工程を経ることで、粒界にR6T13Ga相を生じさせることができる。R6T13Ga相は熱処理工程において溶解した主相粒子から形成される相である。また、R6T13Ga相が粒界に形成される温度は500℃付近である。したがって、R6T13Ga相が粒界に形成される時点では主相粒子におけるGaの濃度は変化しない。一方、熱処理後の冷却過程において、主相の外縁部にGaの濃度が低い部分が析出する。したがって、R6T13Ga相が粒界全体に均一に析出する場合には、特に主相粒子の外縁部におけるGaの濃度が主相粒子の内部におけるGaの濃度よりも低くなりやすい。したがって、R6T13Ga相が生じる場合には、室温でのHcJが特に向上しやすくなる。
【0062】
具体的には、熱処理は480℃~900℃の範囲で行えばよい。また、1段階で行ってもよく、2段階で行ってもよい。1段階で行う場合には、480℃~550℃の温度範囲で1時間~3時間、熱処理を行っても良い。2段階で行う場合には、700℃~900℃で1時間~2時間、熱処理を行った後に、480℃~550℃で1時間~3時間、熱処理を行ってもよい。さらに、熱処理の降温過程における冷却速度でも微細組織は変動するが、冷却速度は、50℃/分以上、特に100℃/分以上としてもよく、250℃/分以下、特に200℃/分以下としてもよい。原料合金組成、調整工程における凝固時の冷却速度、前記した焼結条件及び熱処理条件を種々設定することにより、主相粒子内における[Ga]/[R]、R6T13Ga相の有無などを適宜制御することができる。
【0063】
本実施形態においては、主相粒子内における[Ga]/[R]、R6T13Ga相の有無などを熱処理条件等により制御する方法を例示したが、本実施形態のR-T-B系永久磁石は上記の製造方法によって得られるものに限定されない。組成要因の制御、調整工程における凝固条件の制御、焼結条件の制御を付加することによって、本実施形態で例示する熱処理条件等とは異なる条件でも同様の効果を奏するR-T-B系永久磁石を得ることができる。
【0064】
得られたR-T-B系永久磁石は、必要に応じて所望の形状に加工してもよい(加工工程)。加工の種類としては、例えば切断、研削などの形状加工や、バレル研磨などの面取り加工などが挙げられる。
【0065】
加工されたR-T-B系永久磁石の粒界に対して、さらに重希土類元素を拡散させてもよい(粒界拡散工程)。粒界拡散の方法には特に制限はない。例えば、塗布または蒸着等により重希土類元素を含む化合物をR-T-B系永久磁石の表面に付着させた後に熱処理を行うことで実施してもよい。また、重希土類元素の蒸気を含む雰囲気中でR-T-B系永久磁石に対して熱処理を行うことで実施してもよい。粒界拡散により、R-T-B系永久磁石のHcJをさらに向上させることができる。
【0066】
以上の工程により得られたR-T-B系永久磁石は、めっき処理、樹脂コーティング処理、酸化処理、化成処理などの表面処理を施してもよい(表面処理工程)。これにより、耐食性をさらに向上させることができる。
【0067】
以上の方法により、本実施形態に係るR-T-B系永久磁石が得られるが、本発明に係るR-T-B系永久磁石の製造方法は上記の方法に限定されず、適宜変更してよい。例えば、本実施形態では加工工程、粒界拡散工程、表面処理工程を行っているが、これらの工程は必ずしも行う必要はない。また、本実施形態に係るR-T-B系永久磁石の用途に制限はない。例えば、ハードディスクドライブのボイスコイルモータ、産業機械用モータ、家電用モータに好適に用いられる。さらに、自動車用部品、特にEV用部品、HEV用部品及びFCV用部品にも好適に用いられる。
【0068】
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内で種々に改変することができる。
【0069】
本実施形態に係るR-T-B系永久磁石は焼結によって製造されるものに限定されない。例えば、本実施形態に係るR-T-B系永久磁石は熱間加工によって製造されていてもよい。熱間加工によってR-T-B系永久磁石を製造する方法は、以下の工程を有する。
(a)原料金属を溶解し、得られた浴湯を急冷して薄帯を得る溶解急冷工程
(b)薄帯を粉砕してフレーク状の原料粉末を得る粉砕工程
(c)粉砕した原料粉末を冷間成形する冷間成形工程
(d)冷間成形体を予備加熱する予備加熱工程
(e)予備加熱した冷間成形体を熱間成形する熱間成形工程
(f)熱間成形体を所定の形状に塑性変形させる熱間塑性加工工程。
(g)R-T-B系永久磁石を時効処理する時効処理工程
【実施例】
【0070】
次に、本発明を具体的な実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されない。成形体を焼結して焼結体を得る焼結工程、前記焼結体に時効処理を施す熱処理工程を有する。
【0071】
<調製工程>
先ず、焼結磁石の原料金属を準備し、これらを用いてストリップキャスティング法により、原料合金を作製した。実施例1~4および比較例1、2では、表1に示すストリップキャスティング法の条件で表2に示す組成の原料合金を作製した。
【0072】
【0073】
【0074】
表1の回収箱水温および回収箱水量は、回収箱に流れる冷却水の水温および水量である。すなわち、2次冷却速度に密接に関係するパラメータである。表1の合金厚みは、作製した原料合金から任意に50枚の合金片を抜き出し、各合金片の厚みをマイクロメーターで測定し、平均した値である。比較例2では、1次冷却速度、すなわち合金片が凝固する時の冷却速度を遅くすることで、他の実施例および比較例よりも合金厚みが厚くなるようにした。
【0075】
表2に示した各元素の含有量は、Nd,Pr,Fe,Co,Cu,Al,Ga,Zrについては蛍光X線分析により、BについてはICP発光分光分析により測定した。
【0076】
<粉砕工程>
次に、得られた原料合金に水素を吸蔵させた後、Arガス雰囲気下で300℃、2時間の脱水素を行う水素粉砕処理を行った。その後、得られた粉砕物をArガス雰囲気下で室温まで冷却した。
【0077】
得られた粉砕物に粉砕助剤を添加し混合した後、ジェットミルを用いて微粉砕を行い、平均粒径が3μmである原料粉末を得た。
【0078】
<成形工程>
得られた原料粉末を、低酸素雰囲気(酸素濃度100ppm以下の雰囲気)下において、配向磁場1200kA/m、成形圧力120MPaの条件で成形を行って、成形体を得た。
【0079】
<焼結工程>
その後、成形体を、真空中、表1に示す焼結温度および焼結時間で焼結した後、急冷して焼結体を得た。
【0080】
<熱処理工程>
得られた焼結体に対し、Arガス雰囲気下で2段階の熱処理を行った。1段階目の熱処理では、880℃で60分保持した後に5kPaまで加圧して室温まで冷却した。2段階目の熱処理では、500℃で90分保持した後に5kPaまで加圧して室温まで冷却した。
【0081】
以上のようにして得られた各試料(実施例1~4および比較例1、2)につき、磁気特性を測定した。具体的には、B-Hトレーサーを用いて、BrおよびHcJをそれぞれ測定した。結果を表1に示す。
【0082】
次に磁気特性を測定した各試料を切断し、切断面を研磨した。そして、研磨した切断面における元素分布をSEM(日立ハイテクノロジーズ社製SU-5000)およびEDS(ホリバ社製EMAXEvolution)で分析した。測定倍率は5000倍とした。そして、得られたSEM画像から長径が4μm以上である主相粒子を3個選択した。その後、EDSを用いて、スポット径2μmの電子線を当該主相粒子の略中央部に設定した測定点に照射し、各元素の濃度を測定した。各測定点における各元素の濃度から、各測定点における[Ga]/[R]を算出し、各測定点を含む主相粒子の[Ga]/[R]とした。結果を表3および表4に示す。
【0083】
【0084】
【0085】
さらに、前記切断面についてSEMおよびEDSを用いて倍率2500倍で元素マッピングを行った。そして、粒界にR6T13Ga相が含まれているか否かを確認した。実施例1~4および比較例1、2では、全ての試料で粒界にR6T13Ga相が含まれていた。
【0086】
実施例1と実施例2とを比較する。980℃で焼結した実施例1は1050℃で焼結した実施例2と比較して[Ga]/[R]が高くなり、HcJが優れていた。実施例1は比較的低温で焼結したために焼結時において主相粒子の溶解量が小さく、原料合金を作製する際に主相粒子に固溶したGaが焼結時において粒界へ拡散しにくかったためであると考える。
【0087】
実施例1、実施例3および実施例4を比較する。実施例3は実施例1と比較してGaが少ない組成であり、実施例4は実施例1と比較してBが少ない組成である。しかし、いずれの実施例もGaの含有量およびBの含有量が上記の組成の範囲内であり、いずれの実施例も同等な磁気特性を有していた。
【0088】
実施例1と比較例1とを比較する。比較例1は実施例1と比較して回収箱水温が高く、回収箱水量が少ない。すなわち、比較例1は実施例1と比較して2次冷却速度が遅い。その結果、比較例1では原料合金を作製する際に主相粒子にGaが固溶しにくく、[Ga]/[R]が著しく低下したものと考える。そして、比較例1では磁気特性、特にHcJが著しく低下したものと考える。
【0089】
実施例1と比較例2とを比較する。比較例2は実施例1と比較して1次冷却速度が遅く、合金厚みが厚い。比較例2は合金厚みが厚いため、2次冷却速度が実施例1と比較して遅い。その結果、比較例2では原料合金を作製する際に主相粒子にGaが固溶しにくく、[Ga]/[R]が著しく低下したものと考える。そして、比較例2では磁気特性、特にHcJが著しく低下したものと考える。
【符号の説明】
【0090】
1 主相粒子
11 長径
11A (主相粒子の)中心