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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-20
(45)【発行日】2023-11-29
(54)【発明の名称】操舵制御装置
(51)【国際特許分類】
   B62D 6/00 20060101AFI20231121BHJP
   B62D 5/04 20060101ALI20231121BHJP
   B62D 119/00 20060101ALN20231121BHJP
   B62D 101/00 20060101ALN20231121BHJP
【FI】
B62D6/00
B62D5/04
B62D119:00
B62D101:00
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019076809
(22)【出願日】2019-04-15
(65)【公開番号】P2020172235
(43)【公開日】2020-10-22
【審査請求日】2022-03-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】小寺 隆志
【審査官】森本 康正
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-014468(JP,A)
【文献】特開2016-088436(JP,A)
【文献】特開2011-183883(JP,A)
【文献】国際公開第2016/162902(WO,A1)
【文献】特開平02-085059(JP,A)
【文献】特開2020-168918(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 5/04- 6/10
B62D 101/00-137/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の操舵機構に付与される駆動力の発生源であるモータを制御する操舵制御装置であって、
操舵状態に応じて目標舵角を演算する目標舵角演算部の後段に設けられ、前記モータの制御に使用される制御量を、前記目標舵角演算部により演算される目標舵角と車載の上位制御装置により演算される付加角度指令値とを加算することにより演算される最終的な目標舵角、または前記最終的な目標舵角に基づく前記操舵機構の動作に応じて変化する物理量の目標値と、前記物理量の検出値との差分に基づくフィードバック制御により演算する制御器を備え、
前記制御器は、前記上位制御装置が操舵制御に対する介入目的に応じて生成する指令に基づき前記フィードバック制御の制御パラメータを変更するように構成され、
前記指令は、想定される車速域が異なる少なくとも2つの運転支援の指令であって、極低速域での動作が想定される運転支援の指令と、極低速域よりも速い通常の走行状態での動作が想定される運転支援の指令とを含む操舵制御装置。
【請求項2】
前記操舵機構は、ステアリングホイールとの間の動力伝達が分離される転舵輪を転舵させる転舵シャフトを備えること、および前記モータは前記転舵シャフトに付与される前記駆動力として転舵輪を転舵させるための転舵力を発生する転舵モータを含むことを前提として、
前記制御器は、転舵輪の転舵動作に応じて変化する物理量の目標値に前記物理量の検出値を追従させるフィードバック制御を実行することにより前記制御量を演算する請求項1に記載の操舵制御装置。
【請求項3】
前記制御器は、前記転舵モータへ供給する電流の目標値に前記転舵モータへ供給される電流の検出値を追従させるフィードバック制御、および転舵輪の転舵動作に応じて回転するシャフトの回転角の目標値に前記シャフトの回転角の検出値を追従させるフィードバック制御の少なくとも一方を実行することにより前記制御量を演算する請求項2に記載の操舵制御装置。
【請求項4】
前記操舵機構は、ステアリングホイールの操作に連動して回転するとともに、転舵輪との間の動力伝達が分離されたステアリングシャフトを備えること、および前記モータは前記ステアリングシャフトに付与される前記駆動力として操舵方向と反対方向のトルクである操舵反力を発生する反力モータを含むことを前提として、
前記制御器は、前記ステアリングホイールの操作に応じて変化する物理量の目標値に前記物理量の検出値を追従させるフィードバック制御を実行することにより前記制御量を演算する請求項1~請求項3のうち何れか一項に記載の操舵制御装置。
【請求項5】
前記制御器は、前記反力モータへ供給する電流の目標値に前記反力モータへ供給される電流の検出値を追従させるフィードバック制御、および前記ステアリングシャフトの回転角の目標値に前記ステアリングシャフトの回転角の検出値を追従させるフィードバック制御の少なくとも一方を実行することにより前記制御量を演算する請求項4に記載の操舵制御装置。
【請求項6】
前記操舵機構は、ステアリングホイールの操作に連動して回転するシャフトおよび前記シャフトの回転に連動して転舵輪を転舵させる転舵シャフトを備えること、および前記モータは前記シャフトまたは前記転舵シャフトに付与される前記駆動力として操舵方向と同方向のトルクである操舵補助力を発生させるアシストモータであることを前提として、
前記制御器は、前記ステアリングホイールの操作に応じて変化する物理量の目標値に前記物理量の検出値を追従させるフィードバック制御を実行することにより前記制御量を演算する請求項1に記載の操舵制御装置。
【請求項7】
前記制御器は、前記アシストモータへ供給する電流の目標値に前記アシストモータへ供給される電流の検出値を追従させるフィードバック制御、および前記ステアリングホイールの操作に連動して回転するシャフトの回転角の目標値に前記シャフトの回転角の検出値を追従させるフィードバック制御の少なくとも一方を実行することにより前記制御量を演算する請求項6に記載の操舵制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、操舵制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両の操舵機構に対してモータのトルクをアシスト力として付与するEPS(電動パワーステアリング装置)が存在する。近年では、車両の安全性あるいは利便性をより向上させるための様々な運転支援機能あるいはシステムが運転を代替する自動運転機能を実現するための自動運転システムの開発が盛んに行われている。自動運転システムの制御装置は、その時々の車両の状態に基づき最適な制御方法を求め、その求められる制御方法に応じて各車載システムの制御装置に対して個別の制御を指令する。EPSの制御装置は、自動運転システムの制御装置により生成される指令値に基づきモータの駆動を制御する。
【0003】
たとえば特許文献1に記載のEPSの制御装置は、操舵トルクの検出値に応じて操舵負荷を軽減するアシストトルクを発生させるためのアシスト指令を生成する。また、EPSの制御装置は、自動運転システムにより生成される操舵に関わる物理量の目標値を取得し、その目標値に物理量の検出値を追従させる自動操舵トルクを発生させるための追従指令を生成する。そしてEPSの制御装置は、アシストトルクおよび自動操舵トルクを発生させるモータを、アシスト指令および追従指令の加算値に従って駆動する。ただし、EPSの制御装置は、運転者による追従制御への介入の程度、あるいは自動運転システムによるアシスト制御への介入の程度に応じて、目標追従制御の応答性を変化させる。
【0004】
このため、たとえば応答性の高い目標追従制御が実行されている場合に運転者の介入を検出したとき、目標追従制御の応答性を低下させることによって、運転者の介入を容易に実現することができる。逆に、応答性の低いアシスト制御が実行されている場合に自動運転システムの介入を検出したとき、目標追従制御の応答性を向上させることによって、目標追従制御に必要とされる応答性を確保することができる。したがって、現行の制御に対して運転者または自動運転システムが介入したとき、運転者に違和感を与えることなく制御の切り替えを行うことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2015-33942号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の目標追従制御を含め、制御装置が実行する操舵制御の内容には種々のものがある。このため、EPSの制御装置には、操舵制御の内容に応じて、より適切な制御特性を有することが要求される。たとえば、より迅速な操舵制御を実行する観点からすれば応答性はより高い方が好ましい。また、静粛性をより高める観点からすれば応答性はより低い方が好ましい。すなわち、応答性と静粛性とは、いわゆるトレードオフ(二律背反)の関係にある。このため、たとえば応答性が要求される操舵制御機能と静粛性が要求される操舵制御機能とをEPSの制御装置に持たせる場合、これら操舵制御機能に適した制御特性を両立させることが困難であった。
【0007】
なお、ステアリングホイールと転舵輪との間の動力伝達を分離した、いわゆるステアバイワイヤ方式の操舵装置の制御装置にも、EPSの制御装置と同様の課題が存在する。
本発明の目的は、制御内容に応じたより適切な制御特性が得られる操舵制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成し得る操舵制御装置は、車両の操舵機構に付与される駆動力の発生源であるモータを制御する。操舵制御装置は、前記モータの制御に使用される制御量を操舵状態に応じて演算する制御器を備えている。前記制御器は、車載される上位制御装置が操舵制御に対する介入目的に応じて生成する指令に基づき自己の制御パラメータを変更する。
【0009】
この構成によれば、操舵制御に対する上位制御装置の介入目的に応じて制御器の制御パラメータが変更される。このため、操舵制御に対する上位制御装置の介入目的に応じたより適切な制御特性を得ることができる。
【0010】
上記に記載の操舵制御装置において、前記制御器は、前記操舵機構の動作に応じて変化する物理量の目標値に前記物理量の検出値を追従させるフィードバック制御を実行することにより前記制御量を演算するようにしてもよい。
【0011】
この構成によれば、操舵制御に対する上位制御装置の介入目的に応じて制御器の制御パラメータが変更されることにより、操舵機構の動作に応じて変化する物理量に対するフィードバック制御の応答性が変更される。このため、操舵機構の動作に応じて変化する物理量に対するフィードバック制御の応答性として、上位制御装置の介入目的に応じたより適切な応答性を得ることができる。
【0012】
上記に記載の操舵制御装置において、前記操舵機構は、ステアリングホイールとの間の動力伝達が分離される転舵輪を転舵させる転舵シャフトを備えること、および前記モータは前記転舵シャフトに付与される前記駆動力として転舵輪を転舵させるための転舵力を発生する転舵モータを含むことを前提として、前記制御器は、転舵輪の転舵動作に応じて変化する物理量の目標値に前記物理量の検出値を追従させるフィードバック制御を実行することにより前記制御量を演算するようにしてもよい。
【0013】
この構成によれば、操舵制御に対する上位制御装置の介入目的に応じて制御器の制御パラメータが変更されることにより、転舵輪の転舵動作に応じて変化する物理量に対するフィードバック制御の応答性が変更される。このため、転舵輪の転舵動作に応じて変化する物理量に対するフィードバック制御の応答性として、上位制御装置の介入目的に応じた、より適切な応答性を得ることができる。ひいては、上位制御装置の介入目的に応じたより適切な転舵制御特性を得ることができる。
【0014】
上記に記載の操舵制御装置において、前記制御器は、前記転舵モータへ供給する電流の目標値に前記転舵モータへ供給される電流の検出値を追従させるフィードバック制御、および転舵輪の転舵動作に応じて回転するシャフトの回転角の目標値に前記シャフトの回転角の検出値を追従させるフィードバック制御の少なくとも一方を実行することにより前記制御量を演算するようにしてもよい。
【0015】
この構成によれば、操舵制御に対する上位制御装置の介入目的に応じて制御器の制御パラメータが変更されることにより、転舵モータへ供給する電流に対するフィードバック制御、および転舵輪の転舵動作に応じて回転するシャフトの回転角に対するフィードバック制御の少なくとも一方の応答性が変更される。このため、転舵モータへ供給する電流および転舵輪の転舵動作に応じて回転するシャフトの回転角の少なくとも一方に対するフィードバック制御の応答性として、上位制御装置の介入目的に応じたより適切な応答性を得ることができる。ひいては、上位制御装置の介入目的に応じたより適切な転舵制御特性を得ることができる。
【0016】
上記に記載の操舵制御装置において、前記操舵機構は、ステアリングホイールの操作に連動して回転するとともに、転舵輪との間の動力伝達が分離されたステアリングシャフトを備えること、および前記モータは前記ステアリングシャフトに付与される前記駆動力として操舵方向と反対方向のトルクである操舵反力を発生する反力モータを含むことを前提として、前記制御器は、前記ステアリングホイールの操作に応じて変化する物理量の目標値に前記物理量の検出値を追従させるフィードバック制御を実行することにより前記制御量を演算するようにしてもよい。
【0017】
この構成によれば、操舵制御に対する上位制御装置の介入目的に応じて制御器の制御パラメータが変更されることにより、ステアリングホイールの操作に応じて変化する物理量に対するフィードバック制御の応答性が変更される。このため、ステアリングホイールの操作に応じて変化する物理量に対するフィードバック制御の応答性として、上位制御装置の介入目的に応じた、より適切な応答性を得ることができる。ひいては、上位制御装置の介入目的に応じたより適切な操舵反力制御特性を得ることができる。
【0018】
上記に記載の操舵制御装置において、前記制御器は、前記反力モータへ供給する電流の目標値に前記反力モータへ供給される電流の検出値を追従させるフィードバック制御、および前記ステアリングシャフトの回転角の目標値に前記ステアリングシャフトの回転角の検出値を追従させるフィードバック制御の少なくとも一方を実行することにより前記制御量を演算するようにしてもよい。
【0019】
この構成によれば、操舵制御に対する上位制御装置の介入目的に応じて制御器の制御パラメータが変更されることにより、反力モータへ供給する電流に対するフィードバック制御、およびステアリングシャフトの回転角に対するフィードバック制御の少なくとも一方の応答性が変更される。このため、反力モータへ供給する電流およびステアリングシャフトの回転角の少なくとも一方に対するフィードバック制御の応答性として、上位制御装置の介入目的に応じたより適切な応答性を得ることができる。ひいては、上位制御装置の介入目的に応じたより適切な操舵反力制御特性を得ることができる。
【0020】
上記に記載の操舵制御装置において、前記操舵機構は、ステアリングホイールの操作に連動して回転するシャフトおよび前記シャフトの回転に連動して転舵輪を転舵させる転舵シャフトを備えること、および前記モータは前記シャフトまたは前記転舵シャフトに付与される前記駆動力として操舵方向と同方向のトルクである操舵補助力を発生させるアシストモータであることを前提として、前記制御器は、前記ステアリングホイールの操作に応じて変化する物理量の目標値に前記物理量の検出値を追従させるフィードバック制御を実行することにより前記制御量を演算するようにしてもよい。
【0021】
この構成によれば、操舵制御に対する上位制御装置の介入目的に応じて制御器の制御パラメータが変更されることにより、ステアリングホイールの操作に応じて変化する物理量に対するフィードバック制御の応答性が変更される。このため、ステアリングホイールの操作に応じて変化する物理量に対するフィードバック制御の応答性として、上位制御装置の介入目的に応じた、より適切な応答性を得ることができる。ひいては、上位制御装置の介入目的に応じたより適切な操舵補助制御特性を得ることができる。
【0022】
上記に記載の操舵制御装置において、前記制御器は、前記アシストモータへ供給する電流の目標値に前記アシストモータへ供給される電流の検出値を追従させるフィードバック制御、および前記ステアリングホイールの操作に連動して回転するシャフトの回転角の目標値に前記シャフトの回転角の検出値を追従させるフィードバック制御の少なくとも一方を実行することにより前記制御量を演算するようにしてもよい。
【0023】
この構成によれば、操舵制御に対する上位制御装置の介入目的に応じて制御器の制御パラメータが変更されることにより、アシストモータへ供給する電流に対するフィードバック制御、およびステアリングホイールの操作に連動して回転するシャフトの回転角に対するフィードバック制御の少なくとも一方の応答性が変更される。このため、アシストモータへ供給する電流およびステアリングホイールの操作に連動して回転するシャフトの回転角の少なくとも一方に対するフィードバック制御の応答性として、上位制御装置の介入目的に応じたより適切な応答性を得ることができる。ひいては、上位制御装置の介入目的に応じたより適切な操舵補助制御特性を得ることができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明の操舵制御装置によれば、制御内容に応じたより適切な制御特性が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】操舵制御装置の第1の実施の形態が搭載されるステアバイワイヤ方式の操舵装置の構成図。
図2】操舵制御装置の第1の実施の形態の制御ブロック図。
図3】第1の実施の形態における操舵反力指令値演算部の制御ブロック図。
図4】第1の実施の形態(第3~第6の実施の形態)における舵角フィードバック制御部の制御ブロック図。
図5】第2の実施の形態(第3~第6の実施の形態)における舵角フィードバック制御部の制御ブロック図。
図6】操舵制御装置を電動パワーステアリング装置に適用した第7の実施の形態の制御ブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0026】
<第1の実施の形態>
以下、操舵制御装置をステアバイワイヤ方式の操舵装置に適用した第1の実施の形態を説明する。
【0027】
図1に示すように、車両の操舵装置10は、ステアリングホイール11に連結されたステアリングシャフト12を有している。ステアリングシャフト12は操舵機構を構成する。また、操舵装置10は、車幅方向(図1中の左右方向)に沿って延びる転舵シャフト14を有している。転舵シャフト14の両端には、それぞれタイロッド15,15を介して左右の転舵輪16,16が連結されている。転舵シャフト14が直線運動することにより、転舵輪16,16の転舵角θが変更される。
【0028】
<操舵反力を発生させるための構成:反力ユニット>
また、操舵装置10は、操舵反力を生成するための構成として、反力モータ31、減速機構32、回転角センサ33、およびトルクセンサ34を有している。ちなみに、操舵反力とは、運転者によるステアリングホイール11の操作方向と反対方向へ向けて作用する力(トルク)をいう。操舵反力をステアリングホイール11に付与することにより、運転者に適度な手応え感を与えることが可能である。
【0029】
反力モータ31は、操舵反力の発生源である。反力モータ31としてはたとえば三相(U,V,W)のブラシレスモータが採用される。反力モータ31(正確には、その回転軸)は、減速機構32を介して、ステアリングシャフト12に連結されている。減速機構32は、ステアリングシャフト12におけるクラッチ21よりもステアリングホイール11側の部分に設けられている。反力モータ31のトルクは、操舵反力としてステアリングシャフト12に付与される。
【0030】
回転角センサ33は反力モータ31に設けられている。回転角センサ33は、反力モータ31の回転角θを検出する。反力モータ31の回転角θは、舵角(操舵角)θの演算に使用される。反力モータ31とステアリングシャフト12とは減速機構32を介して連動する。このため、反力モータ31の回転角θとステアリングシャフト12の回転角、ひいてはステアリングホイール11の回転角である舵角θとの間には相関がある。したがって、反力モータ31の回転角θに基づき舵角θを求めることができる。
【0031】
トルクセンサ34は、ステアリングホイール11の回転操作を通じてステアリングシャフト12に加わる操舵トルクTを検出する。トルクセンサ34は、ステアリングシャフト12における減速機構32よりもステアリングホイール11側の部分に設けられている。
【0032】
<転舵力を発生させるための構成:転舵ユニット>
また、操舵装置10は、転舵輪16,16を転舵させるための動力である転舵力を生成するための構成として、転舵モータ41、減速機構42、および回転角センサ43を有している。
【0033】
転舵モータ41は転舵力の発生源である。転舵モータ41としては、たとえば三相のブラシレスモータが採用される。転舵モータ41(正確には、その回転軸)は、減速機構42を介してピニオンシャフト44に連結されている。ピニオンシャフト44のピニオン歯44aは、転舵シャフト14のラック歯14bに噛み合わされている。転舵モータ41のトルクは、転舵力としてピニオンシャフト44を介して転舵シャフト14に付与される。転舵モータ41の回転に応じて、転舵シャフト14は車幅方向(図中の左右方向)に沿って移動する。
【0034】
回転角センサ43は転舵モータ41に設けられている。回転角センサ43は転舵モータ41の回転角θを検出する。
ちなみに、操舵装置10は、ピニオンシャフト13を有している。ピニオンシャフト13は、転舵シャフト14に対して交わるように設けられている。ピニオンシャフト13のピニオン歯13aは、転舵シャフト14のラック歯14aに噛み合わされている。ピニオンシャフト13を設ける理由は、ピニオンシャフト44と共に転舵シャフト14をハウジング(図示略)の内部に支持するためである。すなわち、操舵装置10に設けられる支持機構(図示略)によって、転舵シャフト14は、その軸方向に沿って移動可能に支持されるとともに、ピニオンシャフト13,44へ向けて押圧される。これにより、転舵シャフト14はハウジングの内部に支持される。ただし、ピニオンシャフト13を使用せずに転舵シャフト14をハウジングに支持する他の支持機構を設けてもよい。
【0035】
<制御装置>
また、操舵装置10は、制御装置50を有している。制御装置50は、各種のセンサの検出結果に基づき反力モータ31、および転舵モータ41を制御する。センサとしては、前述した回転角センサ33、トルクセンサ34および回転角センサ43に加えて、車速センサ501がある。車速センサ501は、車両に設けられて車両の走行速度である車速Vを検出する。
【0036】
制御装置50は、反力モータ31の駆動制御を通じて操舵トルクTに応じた操舵反力を発生させる反力制御を実行する。制御装置50は操舵トルクTおよび車速Vに基づき目標操舵反力を演算し、この演算される目標操舵反力、操舵トルクTおよび車速Vに基づきステアリングホイール11の目標操舵角を演算する。制御装置50は、実際の舵角θを目標操舵角に追従させるべく実行される舵角θのフィードバック制御を通じて舵角補正量を演算し、この演算される舵角補正量を目標操舵反力に加算することにより操舵反力指令値を演算する。制御装置50は、操舵反力指令値に応じた操舵反力を発生させるために必要とされる電流を反力モータ31へ供給する。
【0037】
制御装置50は、転舵モータ41の駆動制御を通じて転舵輪16,16を操舵状態に応じて転舵させる転舵制御を実行する。制御装置50は、回転角センサ43を通じて検出される転舵モータ41の回転角θに基づきピニオンシャフト44の実際の回転角であるピニオン角θを演算する。このピニオン角θは、転舵輪16,16の転舵角θを反映する値である。制御装置50は、前述した目標操舵角を使用して目標ピニオン角を演算する。そして制御装置50は、目標ピニオン角と実際のピニオン角θとの偏差を求め、当該偏差を無くすように転舵モータ41に対する給電を制御する。
【0038】
ここで、車両には、車両の安全性あるいは利便性をより向上させるための様々な運転支援機能あるいはシステムが運転を代替する自動運転機能を実現する自動運転システムが搭載されることがある。この場合、車両においては、制御装置50と他の車載システムの制御装置との協調制御が行われる。協調制御とは、複数種の車載システムの制御装置が互いに連携して車両の動きを制御する技術をいう。車両には、たとえば各種の車載システムの制御装置を統括制御する上位制御装置500が搭載される。上位制御装置500は、その時々の車両の状態に基づき最適な制御方法を求め、その求められる制御方法に応じて各種の車載制御装置に対して個別の制御を指令する。
【0039】
上位制御装置500は、制御装置50による操舵制御に介入する。上位制御装置500は、運転席などに設けられる図示しないスイッチの操作を通じて、自己の自動運転制御機能をオン(有効)とオフ(無効)との間で切り替える。近年では様々な運転支援が存在するところ、ここでは制御装置50に要求される制御特性の違いに基づき、第1の運転支援および第2の運転支援に分類する。第1の運転支援には、たとえば、車線逸脱防止支援および衝突回避支援などが含まれる。第2の運転支援には、駐車支援などが含まれる。第1の運転支援を行うための制御には、制御特性として応答性(追従性)が要求される。第2の運転支援を行うための制御には、制御特性として静粛性が要求される。
【0040】
上位制御装置500は、運転支援の内容ごとに個別の指令値を演算し、これら個別の指令値を合算することにより最終的な指令値Sを生成する。ここでは、上位制御装置500は、第1の運転支援を行うための指令値S および第2の運転支援を行うための指令値S を演算し、これら指令値S ,S を合算することにより最終的な指令値Sを生成する。これら指令値S ,S ,Sは、付加角度指令値である。付加角度指令値とは、その時々の車両の走行状態に応じて、車両を目標車線に沿って走行させるために必要とされる操舵角の目標値(現在の操舵角に付加すべき角度)である。制御装置50は、上位制御装置500により演算される指令値Sを使用して反力モータ31および転舵モータ41を制御する。
【0041】
また、上位制御装置500は、運転支援の内容ごとに、制御装置50に対する指令Sr1,Sr2としてフラグを生成する。指令Sr1は、第1の運転支援制御機能がオンであるかオフであるかを示す情報である。指令Sr2は、第2の運転支援制御機能がオンであるかオフであるかを示す情報である。上位制御装置500は、第1の運転支援制御機能および第2の運転支援制御機能がオンであるとき、指令Sr1,Sr2としてのフラグの値を「1」にセットする。上位制御装置500は、第1の運転支援制御機能および第2の運転支援制御機能がオフであるとき、指令Sr1,Sr2としてのフラグの値を「0」にセットする。
【0042】
<制御装置の詳細構成>
つぎに、制御装置50について詳細に説明する。
図2に示すように、制御装置50は、反力制御を実行する反力制御部50a、および転舵制御を実行する転舵制御部50bを有している。
【0043】
<反力制御部>
反力制御部50aは、舵角演算部51、操舵反力指令値演算部52、および通電制御部53を有している。
【0044】
舵角演算部51は、回転角センサ33を通じて検出される反力モータ31の回転角θに基づきステアリングホイール11の舵角θを演算する。
操舵反力指令値演算部52は、操舵トルクT、車速Vおよび舵角θに基づき操舵反力指令値Tを演算する。操舵反力指令値演算部52は、操舵トルクTの絶対値が大きいほど、また車速Vが遅いほど、より大きな絶対値の操舵反力指令値Tを演算する。ちなみに、操舵反力指令値演算部52は、操舵反力指令値Tを演算する過程でステアリングホイール11の目標舵角θを演算する。操舵反力指令値演算部52については、後に詳述する。
【0045】
通電制御部53は、操舵反力指令値Tに応じた電力を反力モータ31へ供給する。具体的には、通電制御部53は、操舵反力指令値Tに基づき反力モータ31に対する電流指令値を演算する。また、通電制御部53は、反力モータ31に対する給電経路に設けられた電流センサ54を通じて、当該給電経路に生じる実際の電流Iの値を検出する。この電流Iの値は、反力モータ31に供給される実際の電流の値である。そして通電制御部53は、電流指令値と実際の電流Iの値との偏差を求め、当該偏差を無くすように反力モータ31に対する給電を制御する(電流Iのフィードバック制御)。これにより、反力モータ31は操舵反力指令値Tに応じたトルクを発生する。運転者に対して路面反力に応じた適度な手応え感を与えることが可能である。
【0046】
<転舵制御部>
転舵制御部50bは、ピニオン角演算部61、ピニオン角フィードバック制御部62、通電制御部63を有している。
【0047】
ピニオン角演算部61は、回転角センサ43を通じて検出される転舵モータ41の回転角θに基づきピニオンシャフト44の実際の回転角であるピニオン角θを演算する。転舵モータ41とピニオンシャフト44とは減速機構42を介して連動する。このため、転舵モータ41の回転角θとピニオン角θとの間には相関関係がある。この相関関係を利用して転舵モータ41の回転角θからピニオン角θを求めることができる。また、ピニオンシャフト44は、転舵シャフト14に噛合されている。このため、ピニオン角θと転舵シャフト14の移動量との間にも相関関係がある。すなわち、ピニオン角θは、転舵輪16,16の転舵角θを反映する値である。
【0048】
ピニオン角フィードバック制御部62は、操舵反力指令値演算部52により演算される目標舵角θを目標ピニオン角θ として取り込む。また、ピニオン角フィードバック制御部62は、ピニオン角演算部61により演算される実際のピニオン角θを取り込む。ピニオン角フィードバック制御部62は、実際のピニオン角θを目標ピニオン角θ (ここでは、目標舵角θに等しい。)に追従させるべくピニオン角θのフィードバック制御を通じてピニオン角指令値T を演算する。
【0049】
通電制御部63は、ピニオン角指令値T に応じた電力を転舵モータ41へ供給する。具体的には、通電制御部63は、ピニオン角指令値T に基づき転舵モータ41に対する電流指令値を演算する。また、通電制御部63は、転舵モータ41に対する給電経路に設けられた電流センサ64を通じて、当該給電経路に生じる実際の電流Iの値を検出する。この電流Iの値は、転舵モータ41に供給される実際の電流の値である。そして通電制御部63は、電流指令値と実際の電流Iの値との偏差を求め、当該偏差を無くすように転舵モータ41に対する給電を制御する(電流Iのフィードバック制御)。これにより、転舵モータ41はピニオン角指令値T に応じた角度だけ回転する。
【0050】
<操舵反力指令値演算部>
つぎに、操舵反力指令値演算部52について詳細に説明する。
図3に示すように、操舵反力指令値演算部52は、加算器70、目標操舵トルク演算部71、トルクフィードバック制御部72、軸力演算部73、目標舵角演算部74、舵角フィードバック制御部75、および加算器76を有している。
【0051】
加算器70は、トルクセンサ34を通じて検出される操舵トルクTとトルクフィードバック制御部72により演算される第1の操舵反力指令値T とを加算することにより、ステアリングシャフト12に印加されるトルクとしての入力トルクTin を演算する。
【0052】
目標操舵トルク演算部71は、加算器70により演算される入力トルクTin に基づき目標操舵トルクT を演算する。目標操舵トルクT とは、ステアリングホイール11に印加すべき操舵トルクTの目標値をいう。目標操舵トルク演算部71は、入力トルクTin の絶対値が大きいほど、より大きな絶対値の目標操舵トルクT を演算する。
【0053】
トルクフィードバック制御部72は、トルクセンサ34を通じて検出される操舵トルクT、および目標操舵トルク演算部71により演算される目標操舵トルクT を取り込む。トルクフィードバック制御部72は、トルクセンサ34を通じて検出される操舵トルクTを目標操舵トルクT に追従させるべく操舵トルクTのフィードバック制御を通じて第1の操舵反力指令値T を演算する。
【0054】
軸力演算部73は、目標舵角演算部74により演算される目標舵角θを目標ピニオン角θ として取り込む。また、軸力演算部73は、電流センサ64を通じて検出される転舵モータ41の電流Iの値、および車速センサ501を通じて検出される車速Vを取り込む。軸力演算部73は、目標ピニオン角θ 、転舵モータ41の電流Iの値、および車速Vに基づき、転舵輪16,16を通じて転舵シャフト14に作用する軸力Faxを演算する。具体的には、つぎの通りである。
【0055】
軸力演算部73は、目標ピニオン角θ に基づき、転舵輪16,16を通じて転舵シャフト14に作用する軸力の理想値である理想軸力F1を演算する。軸力演算部73は、制御装置50の図示しない記憶装置に格納された理想軸力マップを使用して理想軸力F1を演算する。理想軸力F1は、目標ピニオン角θ (あるいは目標ピニオン角θ に所定の換算係数を乗算することにより得られる目標転舵角)の絶対値が増大するほど、また車速Vが遅いほど、より大きな絶対値に設定される。なお、車速Vは必ずしも考慮しなくてもよい。
【0056】
また、軸力演算部73は、転舵モータ41の電流Iの値に基づき、転舵シャフト14に作用する推定軸力F2を演算する。ここで、転舵モータ41の電流Iの値は、路面状態(路面摩擦抵抗)に応じた外乱が転舵輪16に作用することに起因して目標ピニオン角θ と実際のピニオン角θとの間の差が発生することによって変化する。すなわち、転舵モータ41の電流Iの値には、転舵輪16,16に作用する実際の路面反力が反映される。このため、転舵モータ41の電流Iの値に基づき路面状態の影響を反映した軸力を演算することが可能である。推定軸力F2は、車速Vに応じた係数であるゲインを転舵モータ41の電流Iの値に乗算することにより求められる。
【0057】
そして、軸力演算部73は、理想軸力F1に対する配分比率(ゲイン)、および推定軸力F2に対する配分比率をそれぞれ個別に設定する。軸力演算部73は、理想軸力F1および推定軸力F2に対してそれぞれ個別に設定される配分比率を乗算した値を合算することにより、混合軸力F3を演算する。配分比率は、車両挙動、路面状態あるいは操舵状態が反映される各種の状態変数に応じて設定される。
【0058】
目標舵角演算部74は、トルクセンサ34を通じて検出される操舵トルクT、トルクフィードバック制御部72により演算される第1の操舵反力指令値T 、軸力演算部73により演算される軸力Fax、および車速センサ501を通じて検出される車速Vを取り込む。目標舵角演算部74は、これら取り込まれる操舵トルクT、第1の操舵反力指令値T 、軸力Faxおよび車速Vに基づき、ステアリングホイール11の目標舵角θを演算する。具体的には、つぎの通りである。
【0059】
目標舵角演算部74は、第1の操舵反力指令値T および操舵トルクTの総和である入力トルクTin から軸力Faxをトルクに換算したトルク換算値(軸力に応じた操舵反力)を減算することにより、ステアリングホイール11に対する最終的な入力トルクTin を求める。目標舵角演算部74は、最終的な入力トルクTin から次式(A)で表される理想モデルに基づいて目標舵角θ(目標操舵角)を演算する。この理想モデルは、ステアリングホイール11と転舵輪16,16との間が機械的に連結されている操舵装置を前提として、入力トルクTin に応じた理想的な転舵角に対応するステアリングホイール11の舵角(操舵角)を予め実験などによりモデル化したものである。
【0060】
in =Jθ*′′+Cθ*′+Kθ …(A)
ただし、「J」はステアリングホイール11およびステアリングシャフト12の慣性モーメントに対応する慣性係数、「C」は転舵シャフト14のハウジングに対する摩擦などに対応する粘性係数(摩擦係数)、「K」はステアリングホイール11およびステアリングシャフト12をそれぞればねとみなしたときのばね係数である。粘性係数Cおよび慣性係数Jは、車速Vに応じた値となる。また、「θ*′′」は目標舵角θの二階時間微分値、「θ′」は目標舵角θの一階時間微分値である。
【0061】
ちなみに、上位制御装置500による運転支援制御または自動運転制御の実行を通じて、指令値Sとして付加角度指令値が演算される場合、指令値Sは目標舵角演算部74により演算される目標舵角θに加算される。この指令値Sが加算された最終的な目標舵角θは、軸力演算部73および舵角フィードバック制御部75へそれぞれ供給される。
【0062】
舵角フィードバック制御部75は、舵角演算部51により演算される舵角θ、および目標舵角演算部74により演算される目標舵角θを取り込む。舵角フィードバック制御部75は、舵角演算部51により演算される実際の舵角θを目標舵角θに追従させるべく舵角θのフィードバック制御を通じて第2の操舵反力指令値T を演算する。
【0063】
加算器76は、トルクフィードバック制御部72により演算される第1の操舵反力指令値T 、および舵角フィードバック制御部75により演算される第2の操舵反力指令値T を加算することにより操舵反力指令値Tを演算する。
【0064】
<舵角フィードバック制御部>
つぎに、舵角フィードバック制御部75について詳細に説明する。ここでは、舵角フィードバック制御部75は、フィードバック制御として比例制御を実行する。
【0065】
図4に示すように、舵角フィードバック制御部75は、減算器81、2つの徐変処理部82,83、2つのゲイン演算部84,85、および2つの乗算器86,87を有している。これらの構成要素(81~87)は、比例制御器を構成する。比例制御器は、目標値と現在値との差に比例した値の操作量を演算する。本実施の形態では、目標値は目標舵角θ、現在値は舵角θ、操舵量は第2の操舵反力指令値T である。
【0066】
減算器81は、目標舵角演算部74により演算される目標舵角θから舵角演算部51により演算される舵角θを減算することにより、差δθを求める。
徐変処理部82は、上位制御装置500により生成される指令Sr1としてフラグを取り込む。徐変処理部82は、指令Sr1としてのフラグの値に対して、時間に対する徐変処理(徐々に変化させるための処理)を施すことにより自動運転率DRを演算する。この自動運転率DRは、上位制御装置500により演算される指令値S に対するものである。
【0067】
徐変処理部83は、上位制御装置500により生成される指令Sr2としてフラグを取り込む。徐変処理部83は、指令Sr2としてのフラグの値に対して、時間に対する徐変処理を施すことにより自動運転率DRを演算する。この自動運転率DRは、上位制御装置500により演算される指令値S に対するものである。
【0068】
ちなみに、自動運転率とは、車両の運転に対するシステムの関与の度合い(ここでは、操舵制御に対する上位制御装置500の介入度合い)を示す値をいう。技術レベルの高度化に応じて運転支援システムが複合化あるいは高度化されるにつれて、システムの運転への関与度合いが高まる。たとえば、自動運転率が「1(100%)」であるとき、システムが完全に運転を代替する。逆に、自動運転率が「0(0%)」であるとき、走行環境の認識、危険判断、および車両の運転操作(操舵、加減速など)を運転者がすべて行う。
【0069】
徐変処理部82,83としては、たとえばつぎの2つの構成(a1),(a2)のいずれか一方の構成が採用される。
(a1)徐変処理部82,83は、単位時間当たりの指令Sr1,Sr2としてフラグの値の変化量を所定の制限値に制限する、いわゆる時間に対する変化量ガード機能を有すること。ただし、徐変処理部82,83は、操舵速度、目標操舵速度、操舵トルク、または操舵トルク微分値に応じて制限値を変更するようにしてもよい。
【0070】
(a2)徐変処理部82,83として、ローパスフィルタを採用すること。ただし、ローパスフィルタは、操舵速度、目標操舵速度、操舵トルク、または操舵トルク微分値に応じてカットオフ周波数を変更可能としてもよい。
【0071】
ゲイン演算部84は、徐変処理部82により演算される自動運転率DRに基づき、上位制御装置500により演算される指令値S に対するゲインGを演算する。ゲインGは、自動運転率DRに応じて第1の運転支援制御に対する応答性を調節する観点に基づき演算される。ゲイン演算部84は、たとえば自動運転率DRの値が大きくなるほど、より大きな値のゲインGを演算する。
【0072】
ゲイン演算部85は、徐変処理部83により演算される自動運転率DRに基づき、上位制御装置500により演算される指令値S に対するゲインGを演算する。ゲインGは、自動運転率DRに応じて第2の運転支援制御に対する応答性を調節する観点に基づき演算される。ゲイン演算部85は、たとえば自動運転率DRの値が大きくなるほど、より小さな値のゲインGを演算する。
【0073】
乗算器86は、制御装置50に設けられた図示しない記憶装置に標準値として記憶された比例ゲインKと、ゲイン演算部84により演算されるゲインGと、ゲイン演算部85により演算されるゲインGとを乗算することにより、最終的な比例ゲインKを演算する。
【0074】
乗算器87は、減算器81により演算される差δθと、乗算器86により演算される最終的な比例ゲインKpとを乗算することにより、第2の操舵反力指令値T を演算する。
【0075】
<第1の実施の形態の作用>
つぎに、第1の実施の形態の作用を説明する。
舵角フィードバック制御部75において実行される舵角フィードバック制御の応答性は、比例ゲインKの値が大きいほど向上し、比例ゲインKの値が小さいほど低下する。また、操舵装置10の静粛性は、舵角フィードバック制御の応答性が高いほど低下し、舵角フィードバック制御の応答性が低いほど向上する。
【0076】
第1の運転支援制御機能がオフからオンへ切り替えられた場合、上位制御装置500は指令Sr1としてのフラグの値を「0」から「1」へ切り替える。このとき、徐変処理部82は、指令Sr1としてのフラグの値を自動運転率DRとして「0」から「1」へ向けて、たとえば「0.1」刻みで徐々に変化させる。自動運転率DRの増加に伴いゲインGの値も徐々に増加する。このため、標準値である比例ゲインKにゲインGが乗算されることにより得られる最終的な比例ゲインKの値も徐々に増加する。したがって、比例ゲインKとして標準値を使用する場合に比べて、舵角フィードバック制御の応答性が向上する。第1の運転支援については、より高い安全性を確保する観点に基づき、上位制御装置500により演算される指令値Sが、より目標舵角θに対して迅速に反映されることが好ましい。
【0077】
第2の運転支援制御機能がオフからオンへ切り替えられた場合、上位制御装置500は指令Sr2としてのフラグの値を「0」から「1」へ切り替える。このとき、徐変処理部83は、指令Sr2としてのフラグの値を自動運転率DRとして「0」から「1」へ向けて、たとえば「0.1」刻みで徐々に変化させる。自動運転率DRの増加に伴いゲインGの値は徐々に減少する。このため、標準値である比例ゲインKにゲインGが乗算されることにより得られる最終的な比例ゲインKの値も徐々に減少する。したがって、比例ゲインKとして標準値を使用する場合に比べて、舵角フィードバック制御の応答性が低下する。そして、舵角フィードバック制御の応答性が低下することにより、操舵装置10の静粛性が向上する。
【0078】
ちなみに、駐車時の車速Vは、極低速であることが想定される。また、駐車時においては、ステアリングホイール11をより大きく回転させる必要がある。このため、路面反力、ひいては転舵シャフト14に作用する軸力がより大きな値となりやすい。また、目標舵角θの値もより大きな値に設定されやすい。すなわち、反力モータ31および転舵モータ41にはより大きなトルクを発生させる必要があるため、反力モータ31および転舵モータ41の作動に伴い音あるいは振動が発生しやすい。したがって、駐車時においては、舵角フィードバック制御の応答性よりも、操舵装置10の静粛性が要求されることがある。
【0079】
<第1の実施の形態の効果>
したがって、第1の実施の形態によれば、以下の効果を得ることができる。
(1)運転支援の実施状況に応じて制御装置50におけるフィードバック制御の応答性が変更される。具体的には、舵角フィードバック制御部75の制御パラメータである比例ゲインKの値が、運転支援の内容に応じた適切な値に設定される。このため、制御装置50が実行する運転支援制御の内容に応じた、より適切な制御特性(応答性および静粛性)が得られる。
【0080】
ちなみに、転舵シャフト14に作用する軸力は車速Vに応じて変化する。そして、軸力の大きさによって、比例ゲインKの最適な値が異なる。こうした観点からも、想定される車速域が異なる運転支援の内容に応じて比例ゲインKの値を変更することが好ましい。
【0081】
(2)自動運転率DR,DRが「0」と「1」との間で即時に切り替えられるとき、差δθの値によるものの、最終的な比例ゲインKの値が急激に増加したり、急激に減少したりするおそれがある。この点、本実施の形態では、第1の運転支援制御機能あるいは第2の運転支援制御機能がオンとオフとの間で切り替えられる際、徐変処理部82,83による徐変処理の実行を通じて、自動運転率DR,DRの急激な変化が抑制される。このため、第2の操舵反力指令値T 、ひいてはステアリングホイール11に付与される操舵反力が急激に変化することが抑えられる。
【0082】
<第2の実施の形態>
つぎに、操舵制御装置の第2の実施の形態を説明する。本実施の形態は、舵角フィードバック制御部75(比例制御器)の構成の点で先の第1の実施の形態と異なる。
【0083】
図5に示すように、舵角フィードバック制御部75は、減算器81および2つの乗算器86,87に加えて、単一のゲイン演算部88を有している。先の図4に示される2つの徐変処理部82,83およびゲイン演算部84,85は、いずれも割愛されている。
【0084】
ゲイン演算部88は、テーブルデータ88aを有している。ゲイン演算部88は、テーブルデータ88aを参照することによりゲインG3を演算する。テーブルデータ88aは、指令Sr1,Sr2の値(「1」または「0」)とゲインG3との対応関係を規定する情報である。ゲイン演算部88は、指令Sr1,Sr2の値に応じてゲインG3の値を設定する。具体的には、つぎの通りである。
【0085】
ゲイン演算部88は、指令Sr1としてのフラグの値が「1」、すなわち第1の運転支援制御機能がオンであるとき、ゲインG3としてゲインG3を設定する。また、ゲイン演算部88は、指令Sr2としてのフラグの値が「1」、すなわち第2の運転支援制御機能がオンであるとき、ゲインG3としてゲインG3を設定する。また、ゲイン演算部88は、指令Sr1,Sr2としてのフラグの値がいずれも「0」、すなわち第1の運転支援制御機能および第2の運転支援制御機能がいずれもオフであるとき、ゲインG3としてゲインG3を設定する。
【0086】
これら3つのゲインG3,G3,G3の値は、制御装置50が第1の運転支援制御あるいは第2の運転支援制御を実行するうえで制御装置50に要求される制御特性(ここでは、応答性および静粛性)を得ることを目的として比例ゲインKの値を調節する観点に基づき、実験あるいはシミュレーションを通じて設定される。
【0087】
ゲインG3は、舵角フィードバック制御の応答性を高めるべく最終的な比例ゲインKの値を標準値よりも大きい値に変更する観点に基づき設定される。ゲインG3は、舵角フィードバック制御の応答性を低下させるべく最終的な比例ゲインKの値を標準値よりも小さい値に変更する観点に基づき設定される。ゲインG3は、たとえば舵角フィードバック制御の応答性を調整する必要がないとして、最終的な比例ゲインKの値を標準値に維持する観点に基づき設定される。ゲインG3の値は、たとえば「1」に設定される。これらゲインG3,G3,G3の大小関係は、次式(B)に示す通りである。
【0088】
G3>G3>G3>0 …(B)
ゲイン演算部88によりゲインG3が演算される場合、乗算器86によってゲインG3と標準値である比例ゲインKとが乗算されることにより、標準値よりも大きな値を有する最終的な比例ゲインKが演算される。ゲイン演算部88によりゲインG3が演算される場合、乗算器86によってゲインG3と標準値である比例ゲインKとが算されることにより、標準値よりも小さな値を有する最終的な比例ゲインKが演算される。ゲイン演算部88によりゲインG3が演算される場合、乗算器86によってゲインG3(ここでは、G3=1)と標準値である比例ゲインKとが乗算されることにより、標準値と同じ値を有する最終的な比例ゲインKが演算される。
【0089】
したがって、第2の実施の形態によれば、第1の実施の形態の(1)に記載の効果と同様の効果を得ることができる。
<第3の実施の形態>
つぎに、操舵制御装置の第3の実施の形態を説明する。本実施の形態は、トルクフィードバック制御部72の構成の点で先の第1の実施の形態と異なる。
【0090】
トルクフィードバック制御部72は、先の図4に示される舵角フィードバック制御部75と同様の構成を有している。図4に括弧書きの符号で示すように、トルクフィードバック制御部72は、上位制御装置500により生成される指令Sr1,Sr2を取り込み、この取り込まれる指令Sr1,Sr2に応じて比例ゲインKを調節する。
【0091】
舵角フィードバック制御部75が目標舵角θおよび舵角θを取り込むのに対し、トルクフィードバック制御部72は、操舵トルクTおよび目標操舵トルク演算部71により演算される目標操舵トルクT を取り込む。また、舵角フィードバック制御部75の減算器81が目標舵角θと舵角θとの差δθを演算するのに対し、トルクフィードバック制御部72の減算器81は目標操舵トルクT と操舵トルクTとの差δTを演算する。トルクフィードバック制御部72の乗算器87は、目標操舵トルクT と操舵トルクTとの差δTと、指令Sr1,Sr2に応じて調節された後の最終的な比例ゲインKとを乗算することにより、第1の操舵反力指令値T を演算する。
【0092】
したがって、第3の実施の形態によれば、第1の実施の形態の(1),(2)に記載の効果に加え、以下の効果を得ることができる。
(3)トルクフィードバック制御部72の制御パラメータである比例ゲインKの値が、運転支援の内容に応じた適切な値に設定される。このため、制御装置50が実行する運転支援制御の内容に応じた、より適切な制御特性(応答性および静粛性)が得られる。
【0093】
<第4の実施の形態>
つぎに、操舵制御装置の第4の実施の形態を説明する。本実施の形態は、先の図2に示される通電制御部53の構成の点で先の第1の実施の形態と異なる。
【0094】
通電制御部53は、電流指令値演算部、電流フィードバック制御部および駆動回路(インバータ回路)を有している。電流指令値演算部は、操舵反力指令値Tに基づき反力モータ31に対する電流指令値を演算する。電流指令値は、操舵反力指令値Tに応じた適切な大きさの目標操舵反力を発生させるために必要とされる反力モータ31に供給するべき電流の目標値である。電流フィードバック制御部は、電流センサ54を通じて検出される実際の電流Iの値を電流指令値に追従させるべく電流Iのフィードバック制御を通じてモータ制御信号を生成する。駆動回路は、モータ制御信号に応じた電流を反力モータ31へ供給する。これにより、反力モータ31は操舵反力指令値Tに応じたトルクを発生する。
【0095】
電流フィードバック制御部は、先の図4に示される舵角フィードバック制御部75と同様の構成を有している。図4に括弧書きの符号で示すように、電流フィードバック制御部53aは、上位制御装置500により生成される指令Sr1,Sr2を取り込み、この取り込まれる指令Sr1,Sr2に応じて比例ゲインKを調節する。
【0096】
舵角フィードバック制御部75が目標舵角θおよび舵角θを取り込むのに対し、電流フィードバック制御部53aは、電流センサ54を通じて検出される実際の電流Iの値、および電流指令値演算部により演算される電流指令値I を取り込む。また、舵角フィードバック制御部75の減算器81が目標舵角θと舵角θとの差δθを演算するのに対し、電流フィードバック制御部53aの減算器81は電流指令値I と実際の電流Iの値との差δIを演算する。電流フィードバック制御部53aの乗算器87は、電流指令値I と実際の電流Iの値との差δIと、指令Sr1,Sr2に応じて調節された後の最終的な比例ゲインKとを乗算することにより、反力モータ31に対するモータ制御信号Sを演算する。
【0097】
したがって、第4の実施の形態によれば、第1の実施の形態の(1),(2)に記載の効果に加え、以下の効果を得ることができる。
(4)電流フィードバック制御部53aの制御パラメータである比例ゲインKの値が、運転支援の内容に応じた適切な値に設定される。このため、制御装置50が実行する運転支援制御の内容に応じた、より適切な制御特性(応答性および静粛性)が得られる。
【0098】
<第5の実施の形態>
つぎに、操舵制御装置の第5の実施の形態を説明する。本実施の形態は、先の図2に示されるピニオン角フィードバック制御部62の構成の点で先の第1の実施の形態と異なる。
【0099】
ピニオン角フィードバック制御部62は、先の図4に示される舵角フィードバック制御部75と同様の構成を有している。図4に括弧書きの符号で示すように、ピニオン角フィードバック制御部62は、上位制御装置500により生成される指令Sr1,Sr2を取り込み、この取り込まれる指令Sr1,Sr2に応じて比例ゲインKを調節する。
【0100】
舵角フィードバック制御部75が目標舵角θおよび舵角θを取り込むのに対し、ピニオン角フィードバック制御部62は、操舵反力指令値演算部52により演算される目標舵角θを目標ピニオン角θ として取り込む。また、ピニオン角フィードバック制御部62は、ピニオン角演算部61により演算される実際のピニオン角θを取り込む。
【0101】
また、舵角フィードバック制御部75の減算器81が目標舵角θと舵角θとの差δθを演算するのに対し、ピニオン角フィードバック制御部62の減算器81は目標ピニオン角θ と実際のピニオン角θとの差δθを演算する。ピニオン角フィードバック制御部62の乗算器87は、目標ピニオン角θ と実際のピニオン角θとの差δθと、指令Sr1,Sr2に応じて調節された後の最終的な比例ゲインKとを乗算することにより、ピニオン角指令値T を演算する。
【0102】
したがって、第5の実施の形態によれば、第1の実施の形態の(1),(2)に記載の効果に加え、以下の効果を得ることができる。
(5)ピニオン角フィードバック制御部62の制御パラメータである比例ゲインKの値が、運転支援の内容に応じた適切な値に設定される。このため、制御装置50が実行する運転支援制御の内容に応じた、より適切な制御特性(応答性および静粛性)が得られる。
【0103】
<第6の実施の形態>
つぎに、操舵制御装置の第6の実施の形態を説明する。本実施の形態は、先の図2に示される通電制御部63の構成の点で先の第1の実施の形態と異なる。
【0104】
通電制御部63は、電流指令値演算部、電流フィードバック制御部および駆動回路(インバータ回路)を有している。電流指令値演算部は、ピニオン角指令値T に基づき転舵モータ41に対する電流指令値を演算する。電流指令値は、ピニオン角指令値T に応じた適切な転舵角θを実現するために必要とされる転舵モータ41に供給するべき電流の目標値である。電流フィードバック制御部は、電流センサ64を通じて検出される実際の電流Iの値を電流指令値に追従させるべく電流Iのフィードバック制御を通じてモータ制御信号を生成する。駆動回路は、モータ制御信号に応じた電流を転舵モータ41へ供給する。これにより、転舵モータ41はピニオン角指令値T に応じたトルクを発生する。
【0105】
電流フィードバック制御部は、先の図4に示される舵角フィードバック制御部75と同様の構成を有している。図4に括弧書きの符号で示すように、電流フィードバック制御部63aは、上位制御装置500により生成される指令Sr1,Sr2を取り込み、この取り込まれる指令Sr1,Sr2に応じて比例ゲインKを調節する。
【0106】
舵角フィードバック制御部75が目標舵角θおよび舵角θを取り込むのに対し、電流フィードバック制御部63aは、電流センサ64を通じて検出される実際の電流Iの値、および電流指令値演算部により演算される電流指令値I を取り込む。また、舵角フィードバック制御部75の減算器81が目標舵角θと舵角θとの差δθを演算するのに対し、電流フィードバック制御部63aの減算器81は電流指令値I と実際の電流Iの値との差δIを演算する。電流フィードバック制御部63aの乗算器87は、電流指令値I と実際の電流Iの値との差δIと、指令Sr1,Sr2に応じて調節された後の最終的な比例ゲインKとを乗算することにより、転舵モータ41に対するモータ制御信号Sを演算する。
【0107】
したがって、第6の実施の形態によれば、第1の実施の形態の(1),(2)に記載の効果に加え、以下の効果を得ることができる。
(6)電流フィードバック制御部63aの制御パラメータである比例ゲインKの値が、運転支援の内容に応じた適切な値に設定される。このため、制御装置50が実行する運転支援制御の内容に応じた、より適切な制御特性(応答性および静粛性)が得られる。
【0108】
<第7の実施の形態>
つぎに、操舵制御装置をEPS(電動パワーステアリング装置)の制御装置に具体化した第7の実施の形態を説明する。なお、第1の実施の形態と同様の部材については同一の符号を付し、その詳細な説明を割愛する。
【0109】
EPSは、図1に示されるステアリングホイール11と転舵輪16,16との間が機械的に連結されている。すなわち、ステアリングシャフト12、ピニオンシャフト13および転舵シャフト14は、ステアリングホイール11と転舵輪16,16との間の動力伝達経路として機能する。ステアリングホイール11の回転操作に伴い転舵シャフト14が直線運動することにより、転舵輪16,16の転舵角θが変更される。また、EPSは、図1に示される反力モータ31および転舵モータ41のいずれか一方と同じ位置に設けられるアシストモータを有している。アシストモータは、操舵補助力(アシスト力)を発生する。
【0110】
図6に示すように、EPS100の制御装置101は、アシストモータ102に対する通電制御を通じて操舵トルクTに応じた操舵補助力を発生させるアシスト制御を実行する。制御装置101は、トルクセンサ34を通じて検出される操舵トルクT、車速センサ501を通じて検出される車速V、アシストモータ102に設けられる回転角センサ103を通じて検出される回転角θに基づき、アシストモータ102に対する給電を制御する。
【0111】
制御装置101は、ピニオン角演算部111、アシスト指令値演算部112、および通電制御部113を有している。ピニオン角演算部111は、アシストモータ102の回転角θを取り込み、この取り込まれる回転角θに基づきピニオンシャフト13の回転角であるピニオン角θを演算する。アシスト指令値演算部112は、操舵トルクTおよび車速Vに基づきアシスト指令値Tas を演算する。アシスト指令値Tas は、アシストモータ102に発生させるべき回転力であるアシストトルクを示す指令値である。通電制御部113は、アシスト指令値Tas に応じた電力をアシストモータ102へ供給する。アシストモータ102に対する給電経路には、電流センサ114が設けられている。電流センサ114は、アシストモータ102へ供給される実際の電流Iの値を検出する。
【0112】
つぎに、アシスト指令値演算部112の構成を詳細に説明する。
アシスト指令値演算部112は、基本アシストトルク演算部121、軸力演算部122、目標ピニオン角演算部123、ピニオン角フィードバック制御部(ピニオン角F/B制御部)124、および加算器125を有している。
【0113】
基本アシストトルク演算部121は、操舵トルクTに基づいて基本アシストトルクTas1 を演算する。基本アシストトルク演算部121は、加算器131、目標操舵トルク演算部132、およびトルクフィードバック制御部133を有している。加算器131は、トルクセンサ34を通じて検出される操舵トルクTとトルクフィードバック制御部133により演算される基本アシストトルクTas1 とを加算することにより、ステアリングシャフト12に印加されるトルクとしての入力トルクTin を演算する。目標操舵トルク演算部132は、加算器131により演算される入力トルクTin に基づき目標操舵トルクT を演算する。目標操舵トルク演算部132は、入力トルクTin の絶対値が大きいほど、より大きな絶対値の目標操舵トルクT を演算する。トルクフィードバック制御部133は、トルクセンサ34を通じて検出される操舵トルクT、および目標操舵トルク演算部132により演算される目標操舵トルクT を取り込む。トルクフィードバック制御部133は、トルクセンサ34を通じて検出される操舵トルクTを目標操舵トルクT に追従させるべく操舵トルクTのフィードバック制御を通じて基本アシストトルクTas1 を演算する。
【0114】
軸力演算部122は、先の図3に示される第1の実施の形態の軸力演算部73と同様の機能を有している。軸力演算部122は、電流センサ114を通じて検出されるアシストモータ102の電流Iの値、目標ピニオン角演算部123により演算される目標ピニオン角θ 、および車速センサ501を通じて検出される車速Vを取り込む。軸力演算部122は、これらアシストモータ102の電流Iの値、目標ピニオン角θ 、および車速Vに基づき、転舵シャフト14に作用する軸力Faxを演算する。
【0115】
目標ピニオン角演算部123は、先の図3に示される第1の実施の形態の目標舵角演算部74と同様の機能を有している。目標ピニオン角演算部123は、基本アシストトルク演算部121により演算される基本アシストトルクTas1 、トルクセンサ34を通じて検出される操舵トルクT、および軸力演算部122により演算される軸力Faxを使用して、先の式(A)で表される理想モデルに基づき目標ピニオン角θ を演算する。
【0116】
ピニオン角フィードバック制御部124は、先の図3に示される第1の実施の形態の舵角フィードバック制御部75と同様の機能を有している。ピニオン角フィードバック制御部124は、目標ピニオン角演算部123により算出される目標ピニオン角θ およびピニオン角演算部111により算出される実際のピニオン角θをそれぞれ取り込む。ピニオン角フィードバック制御部124は、実際のピニオン角θが目標ピニオン角θ に追従するように、ピニオン角θのフィードバック制御を行う。すなわち、ピニオン角フィードバック制御部124は、目標ピニオン角θ と実際のピニオン角θとの偏差を求め、当該偏差を無くすように基本アシストトルクTas1 に対する補正成分として補正アシストトルクTas2 を演算する。
【0117】
加算器125は、基本アシストトルク演算部121により演算される基本アシストトルクTas1 と、ピニオン角フィードバック制御部124により演算される補正アシストトルクTas2 とを合算することによりアシスト指令値Tas を演算する。
【0118】
通電制御部113は、アシスト指令値Tas に基づきアシストモータ102に対する電流指令値を演算する。また、通電制御部113は電流センサ114を通じて検出される電流Iの値を取り込む。そして通電制御部113は、電流指令値と実際の電流Iの値との偏差を求め、当該偏差を無くすようにアシストモータ102に対する給電を制御する。これにより、アシストモータ102はアシスト指令値Tas に応じたトルクを発生する。すなわち、操舵状態に応じた操舵アシストが行われる。
【0119】
<ピニオン角フィードバック制御部>
ピニオン角フィードバック制御部124は、先の図4に示される舵角フィードバック制御部75と同様の構成を有している。図4に括弧書きの符号で示すように、ピニオン角フィードバック制御部124は、上位制御装置500により生成される指令Sr1,Sr2を取り込み、この取り込まれる指令Sr1,Sr2に応じて比例ゲインKを調節する。
【0120】
舵角フィードバック制御部75が目標舵角θおよび舵角θを取り込むのに対し、ピニオン角フィードバック制御部124は、目標ピニオン角演算部123により演算される目標ピニオン角θ 、およびピニオン角演算部111により演算される実際のピニオン角θを取り込む。
【0121】
また、舵角フィードバック制御部75の減算器81が目標舵角θと舵角θとの差δθを演算するのに対し、ピニオン角フィードバック制御部124の減算器81は目標ピニオン角θ と実際のピニオン角θとの差δθを演算する。ピニオン角フィードバック制御部124の乗算器87は、目標ピニオン角θ と実際のピニオン角θとの差δθと、指令Sr1,Sr2に応じて調節された後の最終的な比例ゲインKとを乗算することにより、補正アシストトルクTas2 を演算する。
【0122】
<トルクフィードバック制御部>
トルクフィードバック制御部133は、先の図4に示される舵角フィードバック制御部75と同様の構成を有している。図4に括弧書きの符号で示すように、トルクフィードバック制御部133は、上位制御装置500により生成される指令Sr1,Sr2を取り込み、この取り込まれる指令Sr1,Sr2に応じて比例ゲインKを調節する。
【0123】
舵角フィードバック制御部75が目標舵角θおよび舵角θを取り込むのに対し、トルクフィードバック制御部133は、トルクセンサ34を通じて検出される操舵トルクTおよび目標操舵トルク演算部132により演算される目標操舵トルクT を取り込む。また、舵角フィードバック制御部75の減算器81が目標舵角θと舵角θとの差δθを演算するのに対し、トルクフィードバック制御部133の減算器81は目標操舵トルクT と操舵トルクTとの差δTを演算する。トルクフィードバック制御部133の乗算器87は、目標操舵トルクT と操舵トルクTとの差δTと、指令Sr1,Sr2に応じて調節された後の最終的な比例ゲインKとを乗算することにより、基本アシストトルクTas1 を演算する。
【0124】
<通電制御部>
通電制御部113は、電流指令値演算部、電流フィードバック制御部および駆動回路(インバータ回路)を有している。電流指令値演算部は、アシスト指令値Tas に基づきアシストモータ102に対する電流指令値を演算する。電流指令値は、アシスト指令値Tas に応じた適切な大きさの目標アシスト力を発生させるために必要とされるアシストモータ102に供給するべき電流の目標値である。電流フィードバック制御部は、電流センサ114を通じて検出される実際の電流Iの値を電流指令値に追従させるべく電流Iのフィードバック制御を通じてモータ制御信号を生成する。駆動回路は、モータ制御信号に応じた電流をアシストモータ102へ供給する。これにより、アシストモータ102はアシスト指令値Tas に応じたトルクを発生する。
【0125】
電流フィードバック制御部は、先の図4に示される舵角フィードバック制御部75と同様の構成を有している。図4に括弧書きの符号で示すように、電流フィードバック制御部113aは、上位制御装置500により生成される指令Sr1,Sr2を取り込み、この取り込まれる指令Sr1,Sr2に応じて比例ゲインKを調節する。
【0126】
舵角フィードバック制御部75が目標舵角θおよび舵角θを取り込むのに対し、電流フィードバック制御部113aは、電流センサ114を通じて検出される実際の電流Iの値、および電流指令値演算部により演算される電流指令値I を取り込む。また、舵角フィードバック制御部75の減算器81が目標舵角θと舵角θとの差δθを演算するのに対し、電流フィードバック制御部113aの減算器81は電流指令値I と実際の電流Iの値との差δIを演算する。電流フィードバック制御部113aの乗算器87は、電流指令値I と実際の電流Iの値との差δIと、指令Sr1,Sr2に応じて調節された後の最終的な比例ゲインKとを乗算することにより、アシストモータ102に対するモータ制御信号Sを演算する。
【0127】
したがって、第7の実施の形態によれば、ステアリングホイール11と転舵輪16,16との間の動力伝達を機械的に連結した操舵装置において、第1の実施の形態の(1),(2)に記載の効果に加え、以下の効果を得ることができる。
【0128】
(7)ピニオン角フィードバック制御部62の制御パラメータである比例ゲインKの値が、運転支援の内容に応じた適切な値に設定される。また、トルクフィードバック制御部133の制御パラメータである比例ゲインKの値が、運転支援の内容に応じた適切な値に設定される。また、電流フィードバック制御部113aの制御パラメータである比例ゲインKの値が、運転支援の内容に応じた適切な値に設定される。このため、制御装置50が実行する運転支援制御の内容に応じた、より適切な制御特性(応答性および静粛性)が得られる。
【0129】
<他の実施の形態>
なお、前記各実施の形態は、つぎのように変更して実施してもよい。
・第1の実施の形態において、舵角フィードバック制御部75として徐変処理部82,83を割愛した構成を採用してもよい。この場合、指令Sr1,Sr2の値が自動運転率DR,DRとしてゲイン演算部84,85に取り込まれる。これは、第3~第7の実施の形態における各フィードバック制御部についても同様である。
【0130】
・第3~第7の実施の形態の各フィードバック制御部に対して、先の図5に示される第2の実施の形態を適用してもよい。
・第1~第7の実施の形態において、上位制御装置500では指令Sr1,r2としてフラグ(「0」または「1」)ではなく、自動運転率が生成されることも考えられる。この場合であれ、指令Sr1,r2としての自動運転率は、徐変処理部82,83による徐変処理を経てゲイン演算部84,85へ供給される。
【0131】
・第1の実施の形態において、舵角フィードバック制御部75は、先の比例制御に加えて、積分制御および微分制御の少なくとも一方を実行するようにしてもよい。ただし、積分制御および微分制御の制御パラメータ(積分ゲインK、および微分ゲインK)の値は、比例ゲインKと同様に、指令Sr,Srに応じて調節される。第1~第7の実施の形態における舵角フィードバック制御部75以外の制御器である他のフィードバック制御部についても同様である。
【0132】
ちなみに、舵角フィードバック制御部75を含め、制御器が比例制御、積分制御および微分制御のすべてを実行する場合、目標値を得るために制御対象を操作する量である操作量uは、次式(C)で表される。
【0133】
u=K・ε+K・(εの積分値)+K・ε′ …(C)
ただし、「ε」は目標値と実際値との偏差、「ε′」は偏差εを微分した微分値、「K」は比例ゲイン、「K」は積分ゲイン、「K」は微分ゲインである。
【0134】
なお、式(C)には、比例項、積分項および微分項に加えて、外乱オブザーバ項、ダンピング項、およびフィードフォワード項(F/F項)のうち少なくとも1つを加算するようにしてもよい。
【0135】
・第1~第6の実施の形態において、先の図3に示される操舵反力指令値演算部52として、つぎの構成を採用してもよい。すなわち、操舵反力指令値演算部52には、先の図3に示される目標操舵トルク演算部71およびトルクフィードバック制御部72に代えて、目標操舵反力としての第1の操舵反力指令値T を演算する目標操舵反力演算部を設ける。この目標操舵反力演算部は、操舵トルクTのフィードバック制御ではなく、たとえば操舵トルクTと目標操舵反力との関係を車速Vに応じて規定する三次元マップを使用して、目標操舵反力としての第1の操舵反力指令値T を演算する。
【0136】
ちなみに、目標操舵反力演算部は、操舵トルクTおよび車速Vに加えて、軸力演算部73により演算される転舵シャフト14の軸力Faxを取り込み、これら取り込まれる操舵トルクT、車速Vおよび軸力Faxに基づき第1の操舵反力指令値T を演算してもよい。また、目標操舵反力演算部は、操舵トルクTおよび車速Vを取り込まず、軸力演算部73により演算される軸力Faxのみを取り込み、この取り込まれる軸力Faxに基づき目標操舵反力としての第1の操舵反力指令値T を演算してもよい。
【0137】
・第7の実施の形態において、先の図6に示される基本アシストトルク演算部121として、つぎの構成を採用してもよい。すなわち、基本アシストトルク演算部121は、操舵トルクTのフィードバック制御ではなく、操舵トルクTと基本アシストトルクTas1 との関係を車速Vに応じて規定する三次元マップを使用して、基本アシストトルクTas1 を演算する。基本アシストトルク演算部121は、操舵トルクTの絶対値が大きくなるほど、また車速Vが遅くなるほど、基本アシストトルクTas1 の絶対値をより大きな値に設定する。
【0138】
・第1~第6の実施の形態において、操舵装置10にクラッチを設けてもよい。この場合、先の図1に二点鎖線で示すように、ステアリングシャフト12とピニオンシャフト13とをクラッチ21を介して連結する。クラッチ21としては、励磁コイルに対する通電の断続を通じて動力の断続を行う電磁クラッチが採用される。制御装置50は、クラッチ21の断続を切り替える断続制御を実行する。クラッチ21が切断されるとき、ステアリングホイール11と転舵輪16,16との間の動力伝達が機械的に切断される。クラッチ21が接続されるとき、ステアリングホイール11と転舵輪16,16との間の動力伝達が機械的に連結される。
【符号の説明】
【0139】
10…操舵装置、11…ステアリングホイール、12…操舵機構を構成するステアリングシャフト(シャフト)、14…操舵機構を構成する転舵シャフト、16…転舵輪、31…反力モータ(モータ)、41…転舵モータ(モータ)、44…ピニオンシャフト(シャフト)、50,100…制御装置(操舵制御装置)、電流フィードバック制御部53a(制御器)、ピニオン角フィードバック制御部62(制御器)、63a…電流フィードバック制御部(制御器)、72…トルクフィードバック制御部(制御器)、75…舵角フィードバック制御部(制御器)、113a…電流フィードバック制御部(制御器)、124…ピニオン角フィードバック制御部(制御器)、133…トルクフィードバック制御部(制御器)、102…アシストモータ、500…上位制御装置、K…比例ゲイン(制御パラメータ)、S,S,S…モータ制御信号(制御量)、Sr1,Sr2…指令、T …第1の操舵反力指令値(制御量)、T …第2の操舵反力指令値(制御量)、Tas2 …補正アシストトルク(制御量)、T …ピニオン角指令値(制御量)、I,I,I…電流(物理量、検出値)、I ,I ,I …電流指令値(目標値)、T…操舵トルク(物理量、検出値)、T …目標操舵トルク(目標値)、θ…ピニオン角(物理量、検出値)、θ …目標ピニオン角(目標値)、θ…舵角(物理量、検出値)、θ…目標舵角(目標値)。
図1
図2
図3
図4
図5
図6