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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-20
(45)【発行日】2023-11-29
(54)【発明の名称】金属付加製造装置及び金属付加製造方法
(51)【国際特許分類】
   B22F 3/105 20060101AFI20231121BHJP
   B22F 3/16 20060101ALI20231121BHJP
   B33Y 30/00 20150101ALI20231121BHJP
   B33Y 10/00 20150101ALI20231121BHJP
   B23K 26/34 20140101ALI20231121BHJP
   B23K 26/00 20140101ALI20231121BHJP
   B23K 26/21 20140101ALI20231121BHJP
【FI】
B22F3/105
B22F3/16
B33Y30/00
B33Y10/00
B23K26/34
B23K26/00 M
B23K26/21 Z
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019164368
(22)【出願日】2019-09-10
(65)【公開番号】P2021042415
(43)【公開日】2021-03-18
【審査請求日】2022-08-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】110000604
【氏名又は名称】弁理士法人 共立特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】長濱 貴也
(72)【発明者】
【氏名】溝口 高史
【審査官】関口 貴夫
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-507957(JP,A)
【文献】特開2018-119180(JP,A)
【文献】国際公開第2015/133137(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0250773(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 1/00-12/90
C22C 1/04- 1/059;33/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
造形光ビームの照射によって金属粉末を溶融させた後、固化させることにより金属付加製造物を製造する粉末床溶融式の金属付加製造装置であって、
前記造形光ビームの照射範囲に前記金属粉末の粉末層を一層ずつ供給する金属粉末供給装置と、
前記照射範囲に供給された前記粉末層の表面に前記造形光ビームを照射し前記金属付加製造物の輪郭となる外壁部を形成し、かつ前記外壁部の内側に位置する前記粉末層の表面に前記造形光ビームを照射して中塗り部を形成する造形光ビーム照射装置と、
前記金属粉末供給装置の作動を制御する金属粉末供給制御部及び前記造形光ビーム照射装置の作動を制御する造形光ビーム照射制御部を備える制御装置と、を備え、
前記造形光ビーム照射制御部は、
前記照射範囲に供給された前記粉末層の表面に前記造形光ビームのうち第一出力の第一造形光ビームを照射して前記外壁部を形成する第一照射部と、
前記外壁部の形成後、前記造形光ビームのうち前記第一出力より大きな第二出力の第二造形光ビームを照射して前記外壁部の内側に前記中塗り部を形成する第二照射部と、を備え、
前記第二照射部が前記第二造形光ビームを照射する際に前記外壁部の前記中塗り部側とは反対側の外側面に、前記第二造形光ビームの照射による熱の影響によって溶融部が生じないよう前記第二造形光ビームの照射条件であるスポット径、前記第二出力、走査速度、走査ピッチ、及び前記照射範囲に供給される前記粉末層の積層厚さの少なくとも一つの条件に基づいて前記外壁部の壁厚を設定する壁厚設定部を備える、金属付加製造装置。
【請求項2】
前記制御装置は、さらに、
前記造形光ビーム照射制御部が、前記外壁部の形成後、前記第一造形光ビームを照射して前記外壁部の内側に前記中塗り部を形成する第三照射部を備えるとともに、
前記第一照射部によって前記外壁部が形成された後に前記造形光ビーム照射装置が前記中塗り部を形成する場合に、前記第二照射部又は前記第三照射部の何れによって前記中塗り部を形成するかの判定を行なう造形光ビーム判定部を備える、請求項1に記載の金属付加製造装置。
【請求項3】
前記造形光ビーム判定部は、
前記金属付加製造物の形状に基づいて前記第二照射部又は前記第三照射部の何れによって前記中塗り部を形成するかの判定を行なう、請求項2に記載の金属付加製造装置。
【請求項4】
前記制御装置は、さらに格納部を備え、
前記格納部には、前記第二造形光ビームの前記照射条件、及び前記粉末層の前記積層厚さの各データと対応して予め取得された前記外壁部の前記外側面に前記溶融部を生じさせない前記壁厚の壁厚データが格納され、
前記壁厚設定部は、前記格納部に格納された前記各データと前記壁厚データとの関係性を示す条件マップに基づいて前記壁厚を設定する、請求項1-3の何れか1項に記載の金属付加製造装置。
【請求項5】
前記第一照射部が前記粉末層の表面に前記第一造形光ビームを照射して前記外壁部を形成する場合、前記金属粉末供給装置が前記照射範囲に前記粉末層を一層分供給する毎に前記第一造形光ビームを照射して前記一層分の前記粉末層を溶融させた後に固化させて前記外壁部を形成し、
前記第二照射部が前記粉末層の表面に前記第二造形光ビームを照射し前記中塗り部を形成する場合、前記金属粉末供給装置が前記照射範囲に前記粉末層が複数層分供給される毎に前記第二造形光ビームを照射して前記複数層分の前記粉末層を同時に溶融させた後に固化させて前記中塗り部を形成する、請求項1-4の何れか1項に記載の金属付加製造装置。
【請求項6】
前記中塗り部は、
前記外壁部から所定量離間した位置に形成される中央部と、
前記外壁部と前記中央部との間の隙間に形成される境界部とを備え、
前記中央部は前記境界部が形成されていない状態で形成され、前記境界部は前記中央部が形成された状態で形成される、請求項1-5の何れか1項に記載の金属付加製造装置。
【請求項7】
前記外壁部を形成するため、前記第一照射部の制御により前記粉末層の表面に照射される前記第一造形光ビームの照射条件は、
前記第一出力が、100W~400Wの範囲内で設定され、
スポット径が、Φ0.08mm~Φ0.2mmの範囲内で設定され、
前記中塗り部を形成するため、前記第二照射部の制御により前記外壁部の内側の前記粉末層の表面に照射される前記第二造形光ビームの前記照射条件は、
前記第二出力が、600W~1000Wの範囲内で設定され、
前記スポット径が、Φ0.2mm~Φ0.3mmの範囲内で設定される、請求項1-6の何れか1項に記載の金属付加製造装置。
【請求項8】
前記金属粉末は、SKD材(JIS)である、請求項1-7の何れか1項に記載の金属付加製造装置。
【請求項9】
前記造形光ビームの照射によって前記金属粉末を溶融させた後、固化させることにより前記金属付加製造物を製造する請求項1-8の何れか1項に記載の金属付加製造装置の金属付加製造方法であって、
前記第二造形光ビームを前記粉末層の前記表面に照射して前記中塗り部を形成する場合において前記外壁部の前記中塗り部側とは反対側の前記外側面に、前記第二造形光ビームの照射による熱の影響によって前記溶融部が生じないよう前記第二造形光ビームの前記照射条件である前記スポット径、前記第二出力、前記走査速度、前記走査ピッチ、及び前記照射範囲に供給される前記粉末層の前記積層厚さの少なくとも一つの条件に基づいて前記外壁部の前記壁厚を設定する壁厚設定工程と、
前記造形光ビームの前記照射範囲に前記金属粉末の前記粉末層を一層ずつ供給する金属粉末供給工程と、
前記壁厚設定工程によって設定された前記壁厚となるよう前記照射範囲に供給された前記粉末層の前記表面に前記第一造形光ビームを照射して前記外壁部を形成する第一照射工程と、
前記外壁部の形成後、前記第二出力の前記第二造形光ビームを照射して前記外壁部の内側に前記中塗り部を形成する第二照射工程と、を備える、金属付加製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属付加製造装置及び金属付加製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、金属粉末を一層ずつベッド上に敷き詰め、敷き詰めた金属粉末の表面の所望の位置にレーザ光を照射し、照射した金属粉末を焼結又は溶融させて固化させ一層ずつ層状に積層して立体的な金属付加製造物を製造する、例えば特許文献1に示すような、SLM(selective laser melting)式の金属AM(Additive Manufacturing)の開発が盛んに行なわれている。
【0003】
しかしながら、通常、市販されているSLM式の金属AM製造装置では、一種類の出力(例えば、400W)のレーザ光のみを金属粉末の表面に照射し、金属粉末を焼結又は溶融し固化して製造物を製造する設定のものが多い。この場合、レーザ光は、低出力であるため、照射された金属粉末の溶融速度は遅い。これにより、製造物の製造にかかる時間が長くなり、延いては高コスト化の要因となる。
【0004】
このような課題に対応するため、金属AM製造装置の各メーカーでは、主となるレーザ光の出力(400W)より高い出力を有する、従となる高出力(例えば、1000W)のレーザ光をオプションで準備し、主となる低出力(400W)のレーザ光と組み合わせてユーザーが自由に使用できるように設定しているものもある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2018-119180号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、高出力のレーザ光を照射する際の照射条件等は、販売元から公表されていない場合が多い。このため、オプションである高出力のレーザ光を使用する場合、ユーザーが自らの知見に基づき照射条件を設定する必要がある。ところが、高出力レーザ光ゆえに、既に形成された部分に必要以上の熱を付与してしまい、製造物の品質を劣化させてしまう等、製造時間の短縮化の効果を得ながら安定して使用することが困難な状況にある。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、高出力のレーザ光を使用する際、既に形成されている他の部位に対して大きな熱影響を与えることなく金属粉末の粉末層に対してレーザ光を照射し製造物を短時間で造形可能な金属付加製造装置及び金属付加製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1.金属付加製造装置)
本発明に係る金属付加製造装置は、造形光ビームの照射によって金属粉末を溶融させた後、固化させることにより金属付加製造物を製造する粉末床溶融式の金属付加製造装置である。金属付加製造装置は、前記造形光ビームの照射範囲に前記金属粉末の粉末層を一層ずつ供給する金属粉末供給装置と、前記照射範囲に供給された前記粉末層の表面に前記造形光ビームを照射し前記金属付加製造物の輪郭となる外壁部を形成し、かつ前記外壁部の内側に位置する前記粉末層の表面に前記造形光ビームを照射して中塗り部を形成する造形光ビーム照射装置と、前記金属粉末供給装置の作動を制御する金属粉末供給制御部及び前記造形光ビーム照射装置の作動を制御する造形光ビーム照射制御部を備える制御装置とを備える。
【0009】
前記造形光ビーム照射制御部は、前記照射範囲に供給された前記粉末層の表面に前記造形光ビームのうち第一出力の第一造形光ビームを照射して前記外壁部を形成する第一照射部と、前記外壁部の形成後、前記造形光ビームのうち前記第一出力より大きな第二出力の第二造形光ビームを照射して前記外壁部の内側に前記中塗り部を形成する第二照射部と、を備えるとともに、前記第二照射部が前記第二造形光ビームを照射する場合に前記外壁部の前記中塗り部側とは反対側の外側面に、前記第二造形光ビームの照射による熱の影響によって溶融部が生じないよう前記第二造形光ビームの照射条件であるスポット径、前記第二出力、走査速度、走査ピッチ、及び前記照射範囲に供給される前記粉末層の積層厚さの少なくとも一つの条件に基づいて前記外壁部の壁厚を設定する壁厚設定部を備える。
【0010】
このように、金属付加製造物を製造する際、金属付加製造物の外壁部は、第一出力の第一造形光ビームを粉末層に照射して形成する。そして、外壁部の壁厚が、外壁部の内側において中塗り部を形成するため第一出力より大きな出力である第二出力で第二造形光ビームを粉末層に照射する際に、第二造形光ビームの照射による熱の影響によって外壁部の外側面に溶融部が生じないよう設定される。詳細には、壁厚は中塗り部を形成する際の第二造形光ビームの複数の照射条件、及び照射範囲に供給された粉末層の積層厚さの少なくとも一つの条件に基づいて設定される。
【0011】
これにより、外壁部及び外壁部の外側面は溶融することなく品質が維持される。また、中塗り部は、第一出力W1より大きな第二出力で照射され形成されるので、第一出力W1で照射され形成される場合と比較して短時間で形成できる。
【0012】
(2.金属付加製造方法)
本発明に係る金属付加製造方法は、前記造形光ビームの照射によって前記金属粉末を溶融させた後、固化させることにより前記金属付加製造物を製造する上記金属付加製造装置の金属付加製造方法である。
【0013】
前記金属付加製造方法は、前記第二造形光ビームを前記粉末層の前記表面に照射して前記中塗り部を形成する場合において前記外壁部の前記中塗り部側とは反対側の前記外側面に、前記第二造形光ビームの照射による熱の影響によって前記溶融部が生じないよう前記第二造形光ビームの照射条件である前記スポット径、前記第二出力、前記走査速度、前記走査ピッチ、及び前記照射範囲に供給される前記粉末層の前記積層厚さの少なくとも一つの条件に基づいて前記外壁部の壁厚を設定する壁厚設定工程と、前記造形光ビームの前記照射範囲に前記金属粉末の前記粉末層を一層ずつ供給する金属粉末供給工程と、前記壁厚設定工程によって設定された前記壁厚となるよう前記照射範囲に供給された前記粉末層の前記表面に前記第一造形光ビームを照射して前記外壁部を形成する第一照射工程と、前記外壁部の形成後、前記第二出力の前記第二造形光ビームを照射して前記外壁部の内側に前記中塗り部を形成する第二照射工程とを備える。このような、金属付加製造方法によって、上述の金属付加製造装置で製造される金属付加製造物が備える効果と同様の効果を備えた金属付加製造物が製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】第一実施形態に係る金属付加製造装置の概要図である。
図2図1における金属粉末供給装置の上面図である。
図3】レーザヘッドの構成を説明する図である。
図4図2を使用して造形光ビームの照射パターンを説明する図である。
図5】中塗り部を説明する図である。
図6図5のVI-VI矢視断面図である。
図7】実験結果を示す三種の製造物の写真である。
図8】第一実施形態に係る金属付加製造方法のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(1.概要)
まず、本発明の第一実施形態に係る金属付加製造装置100(図1参照)の概要について説明する。金属付加製造装置100は、造形光ビームの照射によって、照射範囲に供給された金属粉末の粉末層を少なくとも一層ずつ又は複数層ずつ溶融させたのち固化させて金属付加製造物を付加製造(積層造形)する粉末床溶融式の装置、即ちSLM(selective laser melting)式の金属付加製造装置である。
【0016】
本実施形態では、造形光ビームとして、安価な近赤外波長のレーザ光を採用するものとして説明する。以降、本実施形態においては、二種類の近赤外波長のレーザ光を第一、第二レーザ光L1、L2と称す。ここで、二種類の第一、第二レーザ光L1、L2は、出力が異なるレーザ光である。詳細については、後に述べる。なお、上記態様には限らない。第一、第二レーザ光L1、L2は、あくまで一例であり、造形光ビームとしては、近赤外波長のレーザ光に限らず、CO2レーザ(遠赤外レーザ光)や半導体レーザや電子ビームを採用してもよい。
【0017】
また、本実施形態において、造形物の原材料となる金属粉末としては、SKD61(JIS G 4404)、アルミ、SUS、チタン、マルエージングなどがある。なお、SKD61は、H13(AISI/SAE規格)と同等の材料である。また、本実施形態では、第一層目は、造形物の最下層部(ベース部)を構成する平面状のベースプレート27の上面に供給されるものとする。
【0018】
(2.金属付加製造装置)
本発明に係る金属付加製造装置100について説明する。図1は、本発明に係る第一実施形態の金属付加製造装置100の概要図である。金属付加製造装置100は、チャンバ10と、金属粉末供給装置20と、造形光ビーム照射装置30と、制御装置45と、を備える。制御装置45は、金属粉末供給制御部25と、造形光ビーム照射制御部49(第一照射部49a、第二照射部49b、及び第三照射部49c)と、造形光ビーム判定部46と、格納部47と、壁厚設定部48と、造形部70と、を備える。
【0019】
チャンバ10は、概ね直方体形状で形成された筐体であり、外気と内気との遮断が可能な容器である。チャンバ10は、内部の空気を、例えばHe(ヘリウム)、N2(窒素)やAr(アルゴン)などの不活性ガスに置換可能な装置を備える(不図示)。なお、チャンバ10は、内部を不活性ガスに置換するのではなく、真空近傍まで内部の空気を吸引し減圧可能な構成としてもよい。
【0020】
金属粉末供給装置20は、チャンバ10の内部に設けられる。金属粉末供給装置20は、制御装置45の金属粉末供給制御部25によって作動が制御される。金属粉末供給装置20は、金属付加製造物の原材料となる金属粉末15を第一レーザ光L1(第一造形光ビームに相当)及び第二レーザ光L2(第二造形光ビームに相当)の照射範囲Ar1(図1図2参照)に供給する。金属粉末15は、粒径の上下限が例えば10μm~45μm、中央値が25μm程度の粒子で構成された金属粉末である。本実施形態においては、金属粉末15は、上述したようにSKD61(JIS)である。
【0021】
図1図2に示すように、金属粉末供給装置20は、造形用容器21と、粉末収納容器22とを備える。図1に示すように、造形用容器21内には、造形物昇降テーブル23が設けられる。造形物昇降テーブル23上には、ベースプレート27が載置される。なお、図1においては、薄膜層15aが一層分敷き詰められている状態を示している。
【0022】
粉末収納容器22は、フィードテーブル24上に金属粉末15が収容され、フィードテーブル24が上方に移動されることにより、金属粉末15が所定量、上方に突出し供給される。造形物昇降テーブル23,フィードテーブル24には、それぞれ支持軸23a、24aが取り付けられる。支持軸23a,24aは、金属粉末供給制御部25に制御される駆動装置(図略)に接続され、駆動装置の作動によって上下に移動される。
【0023】
また、金属粉末供給装置20には、造形用容器21、及び粉末収納容器22の開口の全領域にわたって移動するリコータ26が設けられる。リコータ26は、図1図2の右から左に向かって移動される。これにより、フィードテーブル24の上昇により供給された金属粉末15が造形物昇降テーブル23上に運搬され、造形物昇降テーブル23上に薄膜層15a(本発明に係る粉末層に相当する)が一層ずつ形成される。このとき、薄膜層15aの積層厚さh1は、造形物昇降テーブル23の下降量で決まる。
【0024】
造形光ビーム照射装置30は、制御装置45の造形光ビーム照射制御部49によって作動が制御される。造形光ビーム照射装置30は、チャンバ10内の照射範囲Ar1(図1図2参照)に供給された金属粉末15の薄膜層15aの表面の所望位置に対し、外気が遮断された状態で第一レーザ光L1又は第二レーザ光L2を、以下に説明する所定の照射パターンH1,H2,H3で照射する装置である。所定の照射パターンH1,H2,H3は、造形部70が記憶している。
【0025】
図4に示す照射パターンH1は、金属付加製造物の外壁部81を形成するための照射パターンであり、平面視が概ね矩形形状を呈する。図示は省略するが、照射パターンH1では、図6の外壁部81の断面図に示す所望の壁厚α1を得るため、必要な回数だけ、先回行った照射の外側又は内側において繰り返し矩形形状の走査によって照射がされる。
【0026】
また、照射パターンH2は、図5に示す外壁部81の内側の中塗り部82(又は92)のうちの中央部83(又は93)を形成するための照射パターンである。照射パターンH2は、図4において、矢印で示すように中央部83(又は93)を塗り潰すよう直線経路を往復又は一方方向に複数回走査する。
【0027】
なお、照射パターンH2は、図4に示した態様に限らず、新たな薄膜層15aが供給され、第一レーザ光L1又は第二レーザ光L2によって中央部83(又は93)が新たに形成される際には、例えば、外壁部81の重心を中心として、任意の角度(例えば33deg)ずつ回転させながら中央部83(又は93)を積層し形成することが好ましい。これによって、各層毎に第一レーザ光L1又は第二レーザ光L2の走査方向が異なることになる。このため、各層毎に異方性が生じ各層の間でのずれに対する強度を向上させることができる。但し、回転させずに積層してもよい。これによっても、本願発明における高出力である第二レーザ光L2の使用により、製造時間の短縮を図る、という効果は十分得られる。照射パターンH3(図4中、破線参照)は、図5に示す中塗り部82のうちの境界部84(又は94)を形成するための照射パターンである。照射パターンH3は、外壁部81と中央部83との間の隙間に沿って一回、若しくは複数回走査する。
【0028】
図1図3に示すように、造形光ビーム照射装置30は、第一レーザ発振器31a及び第一レーザヘッド32aと、第二レーザ発振器31b及び第二レーザヘッド32bとを備える。また、第一レーザ発振器31aは、第一レーザ発振器31aで発振されたレーザ光を第一レーザヘッド32aに伝送する第一光ファイバ35aを備える。また、第二レーザ発振器31bは、第二レーザ発振器31bで発振されたレーザ光を第二レーザヘッド32bに伝送する第二光ファイバ35bを備える。
【0029】
第一、第二レーザ発振器31a、31bは、波長が予め設定された所定の赤外波長となるよう発振させて連続波CWのレーザ光である第一、第二レーザ光L1、L2を生成する。このとき、低出力の第一レーザ光L1は、第一レーザ発振器31aの調整によって、出力が100W~400Wの範囲で調整可能である。また、高出力の第二レーザ光L2は、第二レーザ発振器31bの調整によって、出力が600W~1000Wの範囲で調整可能である。なお、上記態様に限らず、第一レーザ光L1及び第二レーザ光L2は、パルス発振レーザであってもよい。
【0030】
具体的には、第一、第二レーザ光L1、L2として、HoYAG(波長:約1.5μm),YVO(イットリウム・バナデイト、波長:約1.06μm),Yb(イッテルビウム、波長:約1.09μm)などが採用可能である。これにより、第一、第二レーザ発振器31a、31bを安価に製作できるとともに、運用時においても消費エネルギーは小さく安価である。
【0031】
図1に示すように、第一、第二レーザヘッド32a、32bは、チャンバ10内の薄膜層15aの表面から所定の距離を隔てて配置される。図3に示すように、第一、第二レーザヘッド32a、32bは、それぞれコリメートレンズ33、ミラー34、ガルバノスキャナ36、及びfθレンズ38を備える。各コリメートレンズ33、ミラー34、ガルバノスキャナ36、及びfθレンズ38は、第一、第二レーザヘッド32a、32bの各筐体内に配置される。各コリメートレンズ33は、第一、第二光ファイバ35a、35bから照射された第一、第二レーザ光L1、L2をコリメートして平行光に変換する。
【0032】
各ミラー34は、コリメートされた第一、第二レーザ光L1、L2が、各ガルバノスキャナ36に入射するよう第一、第二レーザ光L1、L2の進行方向を変換する。本実施形態において、各ミラー34は、第一、第二レーザ光L1、L2の進行方向を90度変換する。
【0033】
各ガルバノスキャナ36は、第一、第二レーザ光L1、L2の進行方向を変更し、第一、第二レーザ光L1、L2を、各fθレンズ38を介して、薄膜層15aの表面の所定の位置に照射する。つまり、第一、第二レーザヘッド32a、32bは、各ガルバノスキャナ36によって、第一、第二レーザ発振器31a、31bから発振された第一、第二レーザ光L1、L2の照射角度を自在に変更可能である。
【0034】
各ガルバノスキャナ36には、例えば、直交する2方向に首ふり運動の可能な一対の可動ミラー(図示しない)を含む周知のスキャナが用いられる。各fθレンズ38は、ガルバノスキャナ36から入射された平行な第一、第二レーザ光L1、L2を集光するレンズである。また、第一、第二レーザヘッド32a、32bから照射された第一、第二レーザ光L1、L2は、チャンバ10の上面に設けられる透明なガラス又は樹脂を通してチャンバ10内に照射される。なお、上記において、使用する第一、第二レーザ光L1、L2は、YAGレーザによるものである。
【0035】
(2-1.制御装置45)
上述したように制御装置45は、金属粉末供給制御部25と、造形光ビーム照射制御部49が備える第一照射部49a、第二照射部49b、及び第三照射部49cと、造形光ビーム判定部46と、格納部47と、壁厚設定部48と、造形部70と、を備える。
【0036】
金属粉末供給制御部25は、造形部70と通信可能に設けられ、造形部70の制御によって金属粉末供給装置20の作動を制御する。造形光ビーム照射制御部49は、造形部70と通信可能に設けられ、造形部70の制御によって造形光ビーム照射装置30の作動を制御する。
【0037】
詳細には、造形部70は、造形光ビーム照射制御部49の第一照射部49aを制御して造形光ビーム照射装置30の第一レーザ発振器31a及び第一レーザヘッド32aを作動させる。そして、照射範囲Ar1に供給された一層分の薄膜層15aの表面の所定の位置に、低出力である第一出力W1の第一レーザ光L1(造形光ビーム)を、予め設定した照射パターンH1に従って照射する。
【0038】
これにより、図4図5図6に示すように、薄膜層15a一層分の外壁部81が形成される。換言すると、第一照射部49aが薄膜層15aの表面に第一レーザ光L1を照射し外壁部81を形成する場合、金属粉末供給装置20が照射範囲Ar1に薄膜層15a(粉末層)を一層分供給する毎に、第一レーザ光L1を照射し一層分の薄膜層15aを溶融させた後に固化させて外壁部81が形成される。なお、外壁部81の壁厚α1(図6参照)は、外壁部81が形成されるタイミングより以前に壁厚設定部48で設定され格納部47に記憶されている。詳細については後に述べる。
【0039】
外壁部81を形成するための、外壁部81の延在方向に沿った第一レーザ光L1の走査回数は、壁厚設定部48で設定された外壁部81の壁厚α1と、第一レーザ光L1のスポット径とに基づき決定される。つまり、外壁部81を形成するための第一レーザ光L1の走査回数は、設定された外壁部81の壁厚αを、第一レーザ光L1の一回の走査で形成される壁厚α1で除すことにより求められる。
【0040】
本実施形態では、外壁部81を形成する第一レーザ光L1の照射条件は下記のとおりである。
(照射条件)
スポット径ΦA1:Φ0.08mm~Φ0.2mmの範囲内で設定、
第一出力W1(図略):100W~400Wの範囲内で設定(第一レーザ発振器31a の最大定格出力は400W)、
走査速度V1(図略、mm/s):スポット径ΦA1及び第一出力W1に基づき設定、
走査ピッチP1(図略、mm):スポット径ΦA1及び第一出力W1に基づき設定、
上記照射条件で第一レーザ光L1を照射し外壁部81を形成すると、外壁部81の外側面85の形状精度を良好なものとすることができる。また、照射範囲に供給され、第一レーザ光L1が照射される薄膜層15a(粉末層)の一層分の積層厚さh1は、例えば、約25μm程度とする。これらのデータは、格納部47に格納される。
【0041】
また、造形部70は、外壁部81が形成された状態において、造形光ビーム照射制御部49の第二照射部49b又は第三照射部49cの一方を制御して、中塗り部82又は中塗り部92を形成する。第二照射部49b又は第三照射部49cの何れによって、中塗り部82又は中塗り部92を形成するのかは、以下に説明する造形光ビーム判定部46が判定する。
【0042】
図1に示すように、造形光ビーム判定部46は、造形部70と通信可能に設けられる。上述したように、造形光ビーム判定部46は、第一照射部49aによって外壁部81が形成された後に、造形光ビーム照射装置30が中塗り部82(又は中塗り部92)を形成する際、第二照射部49b又は第三照射部49cの何れによって中塗り部82(又は中塗り部92)を形成するかの判定を行なう判定部である。造形光ビーム判定部46は、金属付加製造物の形状に基づいて第二照射部49b又は第三照射部49cの何れによって中塗り部82(又は中塗り部92)を形成するかの判定を行なう。
【0043】
つまり、造形光ビーム判定部46は、一例として、中塗り部82を高出力である第二出力の第二レーザ光L2の照射によって形成した場合と、中塗り部92を低出力である第一出力W1の第一レーザ光L1の照射によって形成した場合とを比較し、製造時間に大きな違いが生じないと判定したとき第一レーザ光L1の照射によって中塗り部92を形成すると判定してもよい。
【0044】
また、別の判定例として、造形光ビーム判定部46は、中塗り部82の大きさ(面積)が非常に小さく、このため外壁部81に熱の影響を与えずに、高出力の第二レーザ光L2を外壁部81の内側に照射することが困難であると判定した場合、第一レーザ光L1の照射によって中塗り部92を形成すると判定してもよい。
【0045】
但し、これらはあくまで判定の一例であって、造形光ビーム判定部46が判定をどのように行なうかは任意に設定すればよい。造形光ビーム判定部46における判定は、機械学習されたAIによって行ってもよいし、作業者が判定を判断し、判断結果を造形光ビーム判定部46に直接入力するようにしてもよい。また、造形光ビーム判定部46は備えず、第二レーザ光L2の照射のみによって、常に中塗り部82を形成するようにしてもよい。
【0046】
(2-2.中塗り部82及び中塗り部92の説明)
ここで中塗り部82(又は中塗り部92)について説明しておく。上述したように、中塗り部82(又は中塗り部92)は、中央部83(又は中央部93)と、境界部84(又は境界部94)とを備える(図5図6参照)。中央部83(又は中央部93)は、外壁部81から所定量離間した位置に形成される領域である。中央部83(又は中央部93)の形状は、外壁部81の内側面の形状と概ね相似形であり、内側面より若干、小さな形状で形成される。
【0047】
このため、外壁部81の内側面と中央部83(又は中央部93)の外周面との間には微少な隙間を有する。なお、ここで隙間とは、中央部83(又は中央部93)の外側と外壁部81の内側面との間の全ての範囲に亘って完全に離間し形成されている隙間に限らない。中央部83(又は中央部93)の形成過程において、中央部83(又は中央部93)の外側と外壁部81の内側面とが断続的に接続された場合においても、接続されていない微少な空隙部分は隙間とする。
【0048】
境界部84(又は境界部94)は、外壁部81と中央部83(又は中央部93)との間の隙間に形成される。境界部84(又は境界部94)を第二レーザ光L2(又は第一レーザ光L1)の照射によって形成する際、第二レーザ光L2(又は第一レーザ光L1)は、中央部83(又は中央部93)の外側と外壁部81の内側面との間の境界部84(又は境界部94)に沿って照射される。
【0049】
このように、中央部83(又は中央部93)は境界部84(又は境界部94)が形成されていない状態で形成され、境界部84(又は境界部94)は、中央部83(又は中央部93)が形成された状態で形成される。また、境界部84(又は境界部94)は、中央部83(又は中央部93)の外側と外壁部81の内側面との間の境界部84(又は境界部94)に沿って、図4に示すように、照射パターンH3に従い、一回、若しくは複数回走査されて形成される。このようにして、中央部83(又は中央部93)及び境界部84(又は境界部94)が形成されて中塗り部82(又は中塗り部92)が形成される。
【0050】
造形光ビーム判定部46が、高出力の第二レーザ光L2の照射によって中塗り部82を形成すると判定した場合には、外壁部81が薄膜層15aの二層(複数層)分、連続して形成された後に、照射範囲Ar1に供給された二層分の薄膜層15aの表面の所定の位置に、高出力である第二出力の第二レーザ光L2を照射する。
【0051】
つまり、第二照射部49bが薄膜層15aの表面に第二レーザ光L2を照射して中塗り部82を形成する場合、金属粉末供給装置20が照射範囲Ar1に、二層(複数層)分の薄膜層15aを供給する毎に第二レーザ光L2を予め設定された照射パターンH2に従って照射する。図4に示すように、このとき、照射パターンH2は、外壁部81の内側において、相互に平行となるよう複数本、第二レーザ光L2を往復又は一方向に走査させる照射パターンである(図4では往復で記載)。これにより、二層(複数層)分の薄膜層15aを同時に溶融させた後に、固化させて中塗り部82のうちの中央部83を形成する。このように、二層(複数層)分の薄膜層15aの厚さの中塗り部82を一度に溶融させて形成するので、製造時間の短縮が図れる。
【0052】
本実施形態において、中塗り部82の中央部83を第二レーザ光L2で照射し形成する場合の第二レーザ光L2の照射条件は下記のとおりである。
(照射条件)
スポット径ΦA2:Φ0.2mm~Φ0.3mmの範囲内で設定、
第二出力W2(図略):600W~1000Wの範囲内で設定(第二レーザ発振器31 bの最大定格出力は1000W)、
走査速度V2(図略):200~300mm/sの範囲内で設定、
走査ピッチP2(図略、mm):スポット径ΦA2及び第二出力W2に基づき設定。
【0053】
また、中塗り部82の境界部84を形成する第二レーザ光L2の照射条件は下記のとおりである。
(照射条件)
スポット径ΦA2:Φ0.2mm~Φ0.3mmの範囲内で設定、
第二出力W2(図略):600W~1000Wの範囲内で設定(第二レーザ発振器31 bの最大定格出力は1000W)、
走査速度V2(図略、mm/s):スポット径ΦA2及び第二出力W2に基づき設定。
【0054】
また、造形光ビーム判定部46が、低出力の第一レーザ光L1の照射によって中塗り部92を形成すると判定した場合、薄膜層15aの一層分だけ外壁部81が形成された後に、中塗り部92を形成する。つまり、照射範囲Ar1において、外壁部81内側に供給された一層分の薄膜層15aの表面に、第一出力W1(低出力)の第一レーザ光L1を、予め設定された照射パターンH2に従って照射する。このときも、中塗り部92は、上記で説明した第二レーザ光L2の照射によって中塗り部82を形成する場合と同様に、中央部93と境界部94とを備える。これにより、薄膜層15a一層分の薄膜層15aを溶融させた後に固化させて中塗り部92のうちの中央部93を形成する。
【0055】
中央部93は、第三照射部49cが制御する第一レーザ光L1の照射によって、上記で説明した第二レーザ光L2により中央部93が形成される場合と同様のプロセスで形成される。境界部94についても同様のプロセスで形成される。なお、このとき、第三照射部49cにより中塗り部92(中央部93及び境界部94)を形成する方法は従来と同様の形成方法である。
【0056】
上述したように、格納部47には、第二レーザ光L2の各照射条件、及び薄膜層15a(粉末層)の積層厚さh1の各データ(パラメータ)と対応して予め取得された外壁部81の外側面85に溶融部を生じさせない壁厚αの壁厚データが格納される。このとき、壁厚αは、どのようにして求めてもよい。例えば、壁厚αは実験により求めてもよい、また、壁厚αは、CAE解析等による演算により求めてもよい。
【0057】
図1に示すように、壁厚設定部48は、造形部70及び格納部47と通信可能に設けられる。壁厚設定部48は、格納部47に格納された各データと壁厚データとの関係性を示す条件マップ(図略)に基づいて壁厚αを設定する。即ち、壁厚設定部48は、第二照射部49bが、第二出力(高出力)の第二レーザ光L2を照射し、中塗り部82(中央部83及び境界部84)を形成する際に、外壁部81の中塗り部82側とは反対側の外側面85に第二レーザ光L2の照射による熱の影響によって溶融部が生じないよう外壁部81の壁厚αを設定する。
【0058】
具体的には、壁厚設定部48は、第二レーザ光L2の照射条件であるスポット径ΦA2、第二出力W2、走査速度V2、走査ピッチP2、及び照射範囲に供給される薄膜層15a(粉末層)の積層厚さh1の少なくとも一つの条件に基づいて外壁部81の壁厚αを設定する。本実施形態では、スポット径ΦA2、第二出力W2、走査速度V2、走査ピッチP2、及び照射範囲に供給される薄膜層15a(粉末層)の積層厚さh1と、外壁部81の外側面85に溶融部を生じさせない外壁部81の壁厚αとの関係を求めるために実験を行なった
【0059】
具体的には、スポット径ΦA2、第二出力W2、走査速度V2、走査ピッチP2、及び薄膜層15a(粉末層)の積層厚さh1を上述した値とし、壁厚αを0.6mm、1.0mm、2.0mmの三種類とした条件で立方体を付加造形で製造する実験を行なった。図7に示す写真は、実験において摸式的に製造した製造物であり、壁厚αが0.6mm、1.0mm、2.0mmの立方体製造物である。各立方体製造物においては、側面Sが外壁部81の外側面85に相当する。
【0060】
実験結果より、壁厚αが0.6mmの時には、側面Sに若干の溶融部が生じ、固化した際には表面に凹凸が生じた。しかし、壁厚αが1.0mm及び2.0mmの時には、側面Sには溶融部は生じず、側面S表面に凹凸は生じていない。従って、スポット径ΦA2、第二出力W2、走査速度V2、走査ピッチP2、及び薄膜層15a(粉末層)の積層厚さh1が上述の条件の下では、壁厚αが1.0mm以上であれば、溶融部は生じないことが分かった。他の条件についても同様に実験を行ない、データを取得する。
【0061】
そして、この実験結果は格納部47に格納される。これにより、第二レーザ光L2の照射により中塗り部82を形成する際、例えば、スポット径ΦA2、第二出力W2、走査速度V2、走査ピッチP2、及び薄膜層15a(粉末層)の積層厚さh1が分かれば、外壁部81の外側面85に溶融部を生じさせない外壁部81の壁厚αが分かる。これにより、第一出力W1の第一レーザ光L1(造形光ビーム)を、予め設定した照射パターンH1に従って照射し、外壁部81の外側面85を溶融させる虞のない最適な壁厚αによって外壁部81を形成することができる。
【0062】
なお、上記においては、壁厚αを設定する際の参照条件として、全ての照射条件(スポット径ΦA2、第二出力W2、走査速度V2、走査ピッチP2)、及び薄膜層15a(粉末層)の積層厚さh1と、外壁部81の壁厚αとの間の相関関係(データ)を取得した。しかし、この態様には限らず、全ての条件を用いずに、所定の複数の条件の組み合わせに基づき、壁厚αを設定してもよい。さらに、何れか一つの条件のみに基づいて壁厚αを設定してもよい。これらによっても相応の効果を得ることはできる。
【0063】
(2-3.作動)
次に、本発明に係る金属付加製造方法について、図8のフローチャートに基づき説明する。金属付加製造方法は、金属付加製造装置100を用い、第一、第二レーザ光L1、2(造形光ビーム)の照射によって、各層の薄膜層15aの一部を溶融させた後、固化させて積層し金属付加製造物を形成する方法である。
【0064】
なお、金属付加製造装置100では、中塗り部82(92)を形成する際、通常は、製造時間短縮のために出力の大きな第二レーザ光L2の照射によって形成する。しかし、製造する金属付加製造物の形状によっては、出力の小さな第二レーザ光L2の照射によって中塗り部92形成する場合もある。以下では、このような態様も含めた方法として説明する。
【0065】
金属付加製造方法は、壁厚設定工程S10と、金属粉末供給工程S20と、第一照射工程S30と、造形光ビーム判定工程S40と、粉末層積層回数確認工程S50と、第二照射工程(中央部)S60と、第二照射工程(境界部)S70と、第三照射工程(中央部)S80と、第三照射工程(境界部)S90と、積層完了判定工程S100と、を備える。
【0066】
まず、壁厚設定工程S10(壁厚設定部48)では、外壁部81の壁厚αを設定する。壁厚設定工程S10では、外壁部81の中塗り部82側とは反対側の外側面85に、第二レーザ光L2の照射による熱の影響によって溶融部(溶融池)が生じないよう第二レーザ光L2の照射条件であるスポット径ΦA2、第二出力W2、走査速度V2、及び照射範囲Ar1に供給される粉末層の積層厚さh1に基づいて外壁部81の壁厚α1を設定する。
【0067】
具体的には、壁厚設定工程S10では、上記で説明したように、事前に取得され格納部47に格納された第二レーザ光L2の各種照射条件データと壁厚データとの関係性を示す条件マップ(図略)に、第二レーザ光L2の実際の照射条件データを当てはめ最適な壁厚αを設定する。
【0068】
次に、金属粉末供給工程S20(金属粉末供給制御部25)では、金属粉末供給制御部25が、金属粉末供給装置20を制御する。そして、図2に示すように、金属粉末15の薄膜層15aを第一、第二レーザ光L1、L2の照射範囲Ar1に一層ずつ供給する。このとき、薄膜層15a一層分の積層厚さh1の中央値は、例えば、25μm程度である。
【0069】
第一照射工程S30(第一照射部49a)では、外壁部81の壁厚αが壁厚設定工程S10によって設定された壁厚α1となるよう、照射範囲Ar1に供給された薄膜層15aの表面に第一レーザ光L1を予め設定した照射パターンH1に従って照射し外壁部81を形成する。このとき、本実施形態における条件の下では、外壁部81の壁厚α1は、例えば1.0mm~2.0mm程度が好ましい。また、壁厚α1は、第二レーザ光L2を照射して中塗り部82を形成するときの第二レーザ光L2のスポット半径ΦA2/2の7倍以上であることが好ましい。また、第一レーザ光L1の照射条件は、上述のとおりである。
【0070】
造形光ビーム判定工程S40(造形光ビーム判定部46)は、第一照射工程S30によって外壁部81が壁厚α1で形成された後に、造形光ビーム照射装置30が、第二照射部49b又は第三照射部49cの何れによって中塗り部82(又は中塗り部92)を形成するかの判定を行なう。このとき、判定の基準については上述したとおりであり、任意に設定すればよい。
【0071】
造形光ビーム判定工程S40(造形光ビーム判定部46)において、中塗り部82は、第二照射部49bの制御により形成すると判定された場合には、粉末層積層回数確認工程S50に移動し、金属粉末供給工程S20及び第一照射工程S30の連続した処理が予め設定された回数(n回、本実施形態では二回)だけ行われたか否かを確認する。設定されたn回(本実施形態では二回)に達していなければ、金属粉末供給工程S20に戻って二回目のS20~S40の処理を行なう。
【0072】
また、連続した処理が設定されたn回(二回)に達した場合には、第二照射工程(中央部)S60に移動する。そして、薄膜層15aがn層分(二層分)、積層された状態で、第二照射部49bの制御により、第二レーザ光L2が照射パターンH2で照射される。このとき、第二レーザ光L2は、上述したように、外壁部81の内側の所定の範囲内を往復動又は一方向に移動しながら照射され、中塗り部82の中央部83を塗り潰して形成する。このとき、外壁部81と中央部83との間には、上述した隙間を有する。
【0073】
次に、第二照射工程(境界部)S70に移動する。そして、中央部83と外壁部81との間の隙間を埋めるため、第二照射部49bの制御により、第二レーザ光L2が照射パターンH3(概ね矩形)で一回、若しくは複数回照射され、中塗り部82の境界部84を形成する。そして、積層完了判定工程S100に移動し、全ての工程が終了し製造の対象物である金属付加製造物が完成したか否かが判定される。
【0074】
積層完了判定工程S100において、金属付加製造物が完成したと判定した場合、プログラムを終了する。しかし、積層完了判定工程S100において、金属付加製造物は、未完成であると判定した場合、金属粉末供給工程S20に戻り、積層完了判定工程S100にて製造が完成したと判定されるまで、金属粉末供給工程S20~第二照射工程(境界部)S70を繰り返し処理する。
【0075】
また、造形光ビーム判定工程S40(造形光ビーム判定部46)において、中塗り部92は、第三照射部49cにより形成すると判定された場合には、第三照射工程(中央部)S80に移動する。そして、第三照射工程(中央部)S80において、薄膜層15aが一層分、積層された状態で、第三照射部49cの制御により第一レーザ光L1を照射パターンH2で照射し、中塗り部92の中央部93を形成する。
【0076】
その後、第三照射工程(境界部)S90に移動し、中央部93と外壁部81との間の隙間部を埋めるため、第三照射部49cの制御により第一レーザ光L1を照射パターンH3(矩形)で照射し、中塗り部92の境界部94を形成する。そして、積層完了判定工程S100に移動し、全ての工程が終了し、製造の対象物である金属付加製造物が完成したか否かを判定する。
【0077】
積層完了判定工程S100において、金属付加製造物の製造が完成したと判定された場合、プログラムを終了する。しかし、積層完了判定工程S100において、金属付加製造物は、未完成であると判定した場合、金属粉末供給工程S20に戻り、積層完了判定工程S100にて完了したと判定されるまで、金属粉末供給工程S20~第三照射工程(境界部)S90を繰り返し処理する。
【0078】
(2-4.第一実施形態による効果)
上記第一実施形態によれば、粉末床溶融式(SLM式)の金属付加製造装置100であって、金属付加製造装置100は、金属粉末供給装置20と、造形光ビーム照射装置30と、金属粉末供給装置20の作動を制御する金属粉末供給制御部25及び造形光ビーム照射装置30の作動を制御する造形光ビーム照射制御部49を備える制御装置45と、を備える。
【0079】
造形光ビーム照射制御部49は、照射範囲Ar1に供給された粉末層(薄膜層15a)の表面に造形光ビームのうち第一出力W1の第一レーザ光L1(第一造形光ビーム)を照射して外壁部81を形成する第一照射部49aと、外壁部81の形成後、造形光ビームのうち第一出力W1より大きな第二出力W2の第二レーザ光L2(第二造形光ビーム)を照射して外壁部81の内側に中塗り部82を形成する第二照射部49bとを備える。
【0080】
また、制御装置45は、第二照射部49bが第二レーザ光L2を照射する際に外壁部81の中塗り部82側とは反対側の外側面85に、第二レーザ光L2(第二造形光ビーム)の照射による熱の影響によって溶融部が生じないよう第二レーザ光L2の照射条件であるスポット径ΦA2、第二出力W2、走査速度V2、走査ピッチP2、及び照射範囲Ar1に供給される薄膜層15a(粉末層)の積層厚さの少なくとも一つの条件に基づいて外壁部の壁厚を設定する壁厚設定部48を備える。
【0081】
このように、金属付加製造物を製造する際、金属付加製造物の外壁部81は、第一出力W1の第一造形光ビームを薄膜層15aに照射して形成する。そして、外壁部81の壁厚αが、外壁部81の内側において中塗り部82を形成するため第一出力W1より大きな出力である第二出力W2で第二レーザ光L2を薄膜層15aに照射する際に、第二レーザ光L2の照射による熱の影響によって外壁部81の外側面85に溶融部が生じないよう設定される。詳細には、壁厚αは中塗り部82を形成する際の第二レーザ光L2の複数の照射条件、及び照射範囲Ar1に供給された薄膜層15a(粉末層)の積層厚さの少なくとも一つの条件に基づいて設定される。
【0082】
これにより、外壁部81及び外壁部81の外側面85は溶融されることなく品質が維持される。また、中塗り部82は、第一出力W1より大きな第二出力W2で照射され形成されるので、第一出力W1で照射され形成される場合と比較して短時間で形成できる。
【0083】
また、上記第一実施形態によれば、制御装置45は、さらに、造形光ビーム照射制御部49が、外壁部81の形成後、第一レーザ光L1(第一造形光ビーム)を照射して外壁部81の内側に中塗り部92を形成する第三照射部49cを備える。また、制御装置45は、第一照射部49aによって外壁部81が形成された後に、造形光ビーム照射装置30が中塗り部82、92を形成する場合に、第二照射部49b又は第三照射部49cの何れによって中塗り部82(又は92)を形成するかの判定を行なう造形光ビーム判定部46を備える。造形光ビーム判定部46は、金属付加製造物の形状に基づいて第二照射部49b又は前記第三照射部49cの何れによって中塗り部82(又は中塗り部92)を形成するかの判定を行なう。
【0084】
このような構成により、金属付加製造装置100は、高出力の第二レーザ光L2(第二造形光ビーム)だけでなく、従来のような低出力の第一レーザ光L1(第一造形光ビーム)が選択できる。このため、金属付加製造物の形状に応じて、中塗り部92(又は中塗り部82)を形成することができ、効率的である。
【0085】
また、上記第一実施形態によれば、制御装置45は、さらに格納部47を備える。格納部47には、第二レーザ光L2(第二造形光ビーム)の照射条件、及び薄膜層15a(粉末層)の積層厚さの各データと対応して予め取得された外壁部81の外側面85に溶融部を生じさせない壁厚αの壁厚データが格納される。そして、壁厚設定部48は、格納部47に格納された各データと壁厚データとの関係性を示す条件マップに基づいて外壁部81の壁厚αを設定する。このように、壁厚設定部48では、予め格納部47に記憶された条件マップに基づいて、外壁部81の壁厚αが設定できるので、制御部の処理の負荷を低減できる。
【0086】
また、上記第一実施形態によれば、第一照射部49aが薄膜層15a(粉末層)の表面に、第一レーザ光L1(第一造形光ビーム)を照射して外壁部81を形成する場合、金属粉末供給装置20が照射範囲Ar1に薄膜層15a(粉末層)を一層分供給する毎に第一レーザ光L1を照射して一層分の薄膜層15aを溶融させた後に固化させて外壁部81を形成する。
【0087】
そして、第二照射部49bが薄膜層15aの表面に第二レーザ光L2を照射し中塗り部82を形成する場合、金属粉末供給装置20が照射範囲Ar1に薄膜層15aが複数層(二層)分供給される毎に第二レーザ光L2を照射して複数層分の薄膜層15aを同時に溶融させた後に固化させて中塗り部82を形成する。このように、第二レーザ光L2を照射し中塗り部82を形成する場合には、一度に複数層分の薄膜層15aに第二レーザ光L2を照射して溶融させ固化させることができるので、製造時間の短縮が図れる。
【0088】
また、上記第一実施形態によれば、中塗り部82は、外壁部81から所定量離間した位置に形成される中央部83、93と、外壁部81と中央部83、93との間の隙間に形成される境界部84、94とを備える。中央部83、93は境界部84、94が形成されていない状態で形成され、境界部94、94は中央部83、93が形成された状態で形成される。このように、形成時において、連続して複数回の第二レーザ光L2の照射が行われるため温度が上昇しやすい中央部83、93が、外壁部81との間に隙間を有することにより、外壁部81の温度上昇を抑制する。そして、隙間では、一回、若しくは複数回の第二レーザ光L2の照射によって境界部84、94が形成される。このため、外壁部81の温度上昇は抑制され、外側面85に溶融部が生じることを抑制する。
【0089】
また、上記第一実施形態によれば、外壁部81を形成するため、第一照射部49aの制御により薄膜層15a(粉末層)の表面に照射される第一レーザ光L1(第一造形光ビーム)の照射条件は、第一出力W1が、100W~400Wの範囲内で設定され、スポット径ΦA1が、Φ0.08mm~Φ0.2mmの範囲内で設定される。これにより、輪郭が整った形状精度の高い外壁部81が形成できる。
【0090】
また、外壁部81の形成後、中塗り部82を形成するため、第二照射部49bの制御により外壁部81の内側の薄膜層15a(粉末層)の表面に照射される第二レーザ光L2(第二造形光ビーム)の照射条件は、第二出力W2が、600W~1000Wの範囲内で設定され、スポット径ΦA2が、Φ0.2mm~Φ0.3mmの範囲内で設定される。このように、第一出力W1に対して大出力であるとともにスポット径ΦA2も大きく、且つ走査速度V2も早いので、薄膜層15aが二層以上であっても中塗り部82を迅速に溶融させた後、固化させることができ、金属付加製造物の製造時間を効果的に短縮できる。
【0091】
また、上記第一実施形態によれば、金属粉末は、SKD材(JIS)である。これにより、強度が高い金属付加製造物が製造できる。
【0092】
造形光ビームの照射によって金属粉末を溶融させた後、固化させることにより金属付加製造物を製造する金属付加製造装置100の金属付加製造方法である。金属付加製造方法は、第二レーザ光L2(第二造形光ビーム)を薄膜層15a(粉末層)の表面に照射して中塗り部82を形成する場合において外壁部81の中塗り部82側とは反対側の外側面85に、第二レーザ光L2の照射による熱の影響によって溶融部が生じないよう第二レーザ光L2の照射条件であるスポット径ΦA2、第二出力W2、走査速度V2、走査ピッチP2、及び照射範囲Ar1に供給される薄膜層15aの積層厚さの少なくとも一つの条件に基づいて外壁部81の壁厚αを設定する壁厚設定工程S10と、第一レーザ光L1、第二レーザ光L2の照射範囲Ar1に金属粉末の薄膜層15aを一層ずつ供給する金属粉末供給工程S20と、壁厚設定工程S10によって設定された壁厚αとなるよう照射範囲Ar1に供給された薄膜層15aの表面に第一レーザ光L1(第一造形光ビーム)を照射して外壁部81を形成する第一照射工程S30と、外壁部81の形成後、第二出力W2の第二レーザ光L2を照射して外壁部81の内側に中塗り部82を形成する第二照射工程(中央部)S60及び第二照射工程(境界部)S70と、を備える。これにより、金属付加製造装置100で製造した金属付加製造物と同様の効果を備える金属付加製造物が製造できる。
【0093】
(3.その他)
なお、上記第一実施形態においては、第二照射部49bが薄膜層15aの表面に第二レーザ光L2を照射して中塗り部82を形成する際、金属粉末供給装置20が照射範囲Ar1に、二層分の薄膜層15aを供給する毎に第二レーザ光L2を予め設定された照射パターンH2に従って照射すると説明した。しかしこの態様には限らない。中塗り部82を形成する際、金属粉末供給装置20が照射範囲Ar1に、三層分以上の薄膜層15aを供給する毎に第二レーザ光L2を予め設定された照射パターンH2に従って照射しても良い。
【符号の説明】
【0094】
15;金属粉末、 15a;薄膜層(粉末層)、 20;金属粉末供給装置、 25;金属粉末供給制御部、 30;造形光ビーム照射装置、 45;制御装置、 46;造形光ビーム判定部、 47;格納部、 48;壁厚設定部、 49;造形光ビーム照射制御部、 49a;第一照射部、 49b;第二照射部、 49c;第三照射部、 70;造形部、 81;外壁部、 82、92;中塗り部、 83、93;中央部、 84、94;境界部、 85;外側面、 100;金属付加製造装置、 Ar1;照射範囲、 L1;第一レーザ光、 L2;第二レーザ光、 S10;壁厚設定工程、 S20;金属粉末供給工程、 S30;第一照射工程、 S40;造形光ビーム判定工程、 S50;粉末層積層回数確認工程、 S60;第二照射工程(中央部)、 S70;第二照射工程(境界部)、 S80;第三照射工程(中央部)、 S90;第三照射工程(境界部)、 S100;積層完了判定工程、 α、α1;壁厚。
図1
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図8