(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-20
(45)【発行日】2023-11-29
(54)【発明の名称】電力変換装置、駆動装置およびパワーステアリング装置
(51)【国際特許分類】
H02M 7/48 20070101AFI20231121BHJP
B62D 5/04 20060101ALI20231121BHJP
B62D 6/00 20060101ALI20231121BHJP
H02P 27/06 20060101ALI20231121BHJP
H02P 25/16 20060101ALI20231121BHJP
【FI】
H02M7/48 Z
B62D5/04
B62D6/00
H02P27/06
H02P25/16
(21)【出願番号】P 2019171048
(22)【出願日】2019-09-20
【審査請求日】2022-08-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000232302
【氏名又は名称】ニデック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109380
【氏名又は名称】小西 恵
(74)【代理人】
【識別番号】100109036
【氏名又は名称】永岡 重幸
(72)【発明者】
【氏名】山下 佳明
(72)【発明者】
【氏名】大橋 弘光
【審査官】町田 舞
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/026493(WO,A1)
【文献】特開2016-036244(JP,A)
【文献】国際公開第2019/151308(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/180360(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2009/0134828(US,A1)
【文献】国際公開第2019/159834(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 7/42-7/98
B62D 5/04
B62D 6/00
H02P 27/06
H02P 25/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電源からの電力を変換し、n相(nは3以上の整数)の互いに無結線な巻線を有するモータに供給する電力変換装置であって、
前記巻線の一端に接続される、前記n相それぞれのスイッチ素子を備えた第1インバータと、
前記一端に対する他端に接続される、前記n相それぞれのスイッチ素子を備えた第2インバータと、
前記第1インバータおよび前記第2インバータについて、前記n相それぞれのスイッチ素子と、各相のスイッチ素子に対する共通の電源端およびグランド端の少なくとも一方に設けられた共通素子とが実装される基板と、を備え、
前記基板は、前記第1インバータの実装領域と、前記第2インバータの実装領域とに区画され、
前記n相それぞれについて、一つの巻線に対する電流供給を担う両端のスイッチ素子が、前記基板に垂直な方向から見て互いに点対称に実装され、対称中心がn相で共通
し、
前記第1インバータおよび前記第2インバータは、前記n相それぞれのスイッチ素子として、前記巻線と前記電源端とに接続されるハイサイドスイッチ素子と、前記巻線と前記グランド端とに接続されるローサイドスイッチ素子と、を備え、
前記基板上に設けられた2n個の接続点に、n相の巻線の前記一端および前記他端が個々に接続され、
1つの前記接続点に接続される前記ハイサイドスイッチ素子および前記ローサイドスイッチ素子が、当該接続点を間に挟んだ両側に実装される電力変換装置。
【請求項2】
前記第1インバータの実装領域と前記第2インバータの実装領域が互いに線対称に区画される請求項1に記載の電力変換装置。
【請求項3】
前記ハイサイドスイッチ素子からなる素子群と前記ローサイドスイッチ素子からなる素子群とが互いに内側と外側とに分かれて実装される請求項
1に記載の電力変換装置。
【請求項4】
前記第1インバータは第1電源に接続され、
前記第2インバータは、前記第1電源とは独立の第2電源に接続される請求項1から
3のいずれか1項に記載の電力変換装置。
【請求項5】
請求項1から
4のいずれか1項に記載の電力変換装置と、
前記電力変換装置によって変換された電力が供給されるモータと、を備える駆動装置。
【請求項6】
請求項1から
4のいずれか1項に記載の電力変換装置と、
前記電力変換装置によって変換された電力が供給されるモータと、
前記モータによって駆動されるパワーステアリング機構と、を備えるパワーステアリング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力変換装置、駆動装置およびパワーステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、モータの巻線の両端にインバータが接続され、2つのインバータでモータが駆動される駆動システムが知られている。
【0003】
例えば特許文献1では、第1インバータ部は、U相コイル、V相コイルおよびW相コイルの一端と第1電力供給源との間に接続される。また、第2インバータ部は、U相コイル、V相コイルおよびW相コイルの他端と第2電力供給源との間に接続される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、巻線の両端に接続された2つのインバータは、通常は協働してモータを駆動するので、2つのインバータそれぞれに対する電源系の独立性が考慮された新たなインバータ配置が求められる。更に、各相におけるインピーダンスにばらつきが存在するとモータ特性に悪影響を与えてしまうので、相同士におけるインピーダンス差の抑制が求められる。
【0006】
そこで、本発明は、電源の独立性が確保された素子配置であるとともに、相同士のインピーダンス差の抑制が容易な素子配置を実現することを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る電力変換装置の一態様は、電源からの電力を変換し、n相(nは3以上の整数)の互いに無結線な巻線を有するモータに供給する電力変換装置であって、上記巻線の一端に接続される、上記n相それぞれのスイッチ素子を備えた第1インバータと、上記一端に対する他端に接続される、上記n相それぞれのスイッチ素子を備えた第2インバータと、上記第1インバータおよび上記第2インバータについて、上記n相それぞれのスイッチ素子と、各相のスイッチ素子に対する共通の電源端およびグランド端の少なくとも一方に設けられた共通素子とが実装される基板とを備え、上記基板は、上記第1インバータの実装領域と、上記第2インバータの実装領域とに区画され、上記n相それぞれについて、一つの巻線に対する電流供給を担う両端のスイッチ素子が、上記基板に垂直な方向から見て互いに点対称に実装され、対称中心がn相で共通し、上記第1インバータおよび上記第2インバータは、上記n相それぞれのスイッチ素子として、上記巻線と上記電源端とに接続されるハイサイドスイッチ素子と、上記巻線と上記グランド端とに接続されるローサイドスイッチ素子と、を備え、上記基板上に設けられた2n個の接続点に、n相の巻線の上記一端および上記他端が個々に接続され、1つの上記接続点に接続される上記ハイサイドスイッチ素子および上記ローサイドスイッチ素子が、当該接続点を間に挟んだ両側に実装されている。
【0008】
また、本発明に係るパワーステアリング装置の一態様は、上記電力変換装置と、上記電力変換装置によって変換された電力が供給されるモータと、上記モータによって駆動されるパワーステアリング機構と、を備える。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、電源の独立性が確保された素子配置であるとともに、相同士のインピーダンス差の抑制が容易な素子配置が実現される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、本実施形態によるモータ駆動ユニットの回路構成を模式的に示す図である。
【
図2】
図2は、モータ駆動ユニットのハードウェア構成を模式的に示す図である。
【
図3】
図3は、実装基板のハードウェア構成を模式的に示す図である。
【
図4】
図4は、本実施形態によるパワーステアリング装置の構成を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付の図面を参照しながら、本開示の電力変換装置、駆動装置およびパワーステアリング装置の実施形態を詳細に説明する。但し、以下の説明が不必要に冗長になるのを避け、当業者の理解を容易にするため、必要以上に詳細な説明は省略する場合がある。例えば、既によく知られた事項の詳細説明や実質的に同一の構成に対する重複説明を省略する場合がある。
【0012】
本明細書において、電源からの電力を、三相(U相、V相、W相)の巻線(「コイル」と表記する場合がある。)を有する三相モータに供給する電力に変換する電力変換装置を例にして、本開示の実施形態を説明する。ただし、電源からの電力を、四相または五相などのn相(nは4以上の整数)の巻線を有するn相モータに供給する電力に変換する電力変換装置も本開示の範疇である。
(モータ駆動ユニット1000の回路構成)
図1は、本実施形態によるモータ駆動ユニット1000の回路構成を模式的に示す図である。
モータ駆動ユニット1000は、インバータ101、102、モータ200および制御回路300を備える。
【0013】
本明細書では、構成要素としてモータ200を備えるモータ駆動ユニット1000を説明する。モータ200を備えるモータ駆動ユニット1000は、本発明の駆動装置の一例に相当する。ただし、モータ駆動ユニット1000は、構成要素としてモータ200が省かれた、モータ200を駆動するための装置であってもよい。モータ200が省かれたモータ駆動ユニット1000は、本発明の電力変換装置の一例に相当する。
【0014】
モータ200は、例えば三相交流モータである。モータ200は、U相、V相およびW相のコイルを有し、各コイルは互いに無結線である。コイルの巻き方は、例えば集中巻きまたは分布巻きである。
【0015】
モータ駆動ユニット1000は電源410、420に接続される。本実施形態では、電源として、第1インバータ101用の電源410と、第2インバータ102用の電源420が用いられる。即ち、第1インバータ101は第1の電源410に接続され、第2インバータ102は、第1の電源410とは独立の第2の電源420に接続される。
【0016】
電源410、420は所定の電源電圧(例えば12V)を生成する。電源410、420として、例えば直流電源が用いられる。ただし、電源410、420は、AC-DCコンバータまたはDC―DCコンバータであってもよいし、バッテリー(蓄電池)であってもよい。
図1では、一例として、第1インバータ101用の電源410および第2インバータ102用の電源420が示されるが、モータ駆動ユニット1000は、第1インバータ101および第2インバータ102に共通の電源に接続されてもよい。また、モータ駆動ユニット1000は、内部に電源を備えていてもよい。
【0017】
モータ駆動ユニット1000はコンデンサ105、106を備える。コンデンサ105、106は、いわゆる平滑コンデンサであり、モータ200で発生する環流電流を吸収することで電源電圧を安定化させてトルクリップルを抑制する。コンデンサ105、106は、例えば電解コンデンサであり、容量および使用する個数は設計仕様などによって適宜決定される。
【0018】
モータ駆動ユニット1000は、2つのインバータ101、102によって、電源410、420からの電力をモータ200に供給する電力に変換することが可能である。例えば、モータ駆動ユニット1000は、直流電力を、U相、V相およびW相の擬似正弦波である三相交流電力に変換することが可能である。
【0019】
2つのインバータ101、102のうち第1インバータ101は、モータ200のコイルの一端210に接続され、第2インバータ102は、モータ200のコイルの他端220に接続される。即ち、モータ駆動ユニット1000は、モータ200のコイルの一端210に接続される、U相、V相およびW相の3相それぞれのスイッチ素子を備えた第1インバータ101と、一端210対する他端220に接続される、U相、V相およびW相の3相それぞれのスイッチ素子を備えた第2インバータ102とを備える。
【0020】
また、第1インバータ101および第2インバータ102は、3個のレグを有するブリッジ回路を備え、各レグは、モータ200のコイルと電源端とに接続された3つのハイサイドスイッチ素子と、モータ200のコイルとグランド端とに接続された3つのローサイドスイッチ素子とを備える。
【0021】
具体的には、U相のコイルの一端210および他端220それぞれに、U相のハイサイドスイッチ素子113H、116Hおよびローサイドスイッチ素子113L、116Lが接続される。V相のコイルの一端210および他端220それぞれに、V相のハイサイドスイッチ素子114H、117Hおよびローサイドスイッチ素子114L、117Lが接続される。W相のコイルの一端210および他端220それぞれに、W相のハイサイドスイッチ素子115H、118Hおよびローサイドスイッチ素子115L、118Lが接続される。スイッチ素子としては、例えば電界効果トランジスタ(MOSFETなど)または絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(IGBT)が用いられる。なお、スイッチ素子がIGBTである場合には、スイッチ素子と逆並列にダイオード(フリーホイール)が接続される。
【0022】
各相について、コイルの一端210および他端220に接続されたハイサイドスイッチ素子およびローサイドスイッチ素子によってHブリッジが構成される。つまり、モータ駆動ユニット1000は、U相、V相、W相に対応した3つのHブリッジを備える。モータ駆動ユニット1000は、これら3つのHブリッジによって、互いに無結線なU相、V相、W相のコイルそれぞれに対して個別に電力を供給することができる。
【0023】
電源410、420とインバータ101、102の電源端との間には、上流側の分離スイッチ121、122が備えられている。また、インバータ101、102のグランド端とグランドとの間には、下流側の分離スイッチ123、124が備えられている。分離スイッチ121、122、123、124は、電源410、420とインバータ101、102との接続・非接続を切替えることができる。インバータ101、102のグランド端とグランドとの間には、下流側の分離スイッチ123、124と直列に、下流側の分離スイッチ123、124とは逆向きの電流を止める分離スイッチ125、126が備えられてもよい。逆向きの分離スイッチ125、126は、電源が誤って逆向きに接続された場合にインバータ101、102を保護する。
【0024】
制御回路300には、例えばパワーステアリング装置の制御用コンピュータなどといった外部装置からモータ200の目標トルクなどが入力される。制御回路300は、図示を省略した角度センサや電流センサなどで検出されるモータ200の出力情報と、上記目標トルクなどに基づいて目標電流値を設定し、インバータ101、102によるモータ200の駆動を制御する。具体的には、制御回路300は、インバータ101、102に備えられた各スイッチ素子におけるオンオフ動作をPWM制御する。また、制御回路300は、分離スイッチ121、122、123、124、125、126のオンオフ動作も制御する。
なお、制御回路としては、2つのインバータ101、102について個別に対応した2つの制御回路が備えられてもよい。
(モータ駆動ユニット1000のハードウェア構成)
次にモータ駆動ユニット1000のハードウェア構成について説明する。
図2は、モータ駆動ユニット1000のハードウェア構成を模式的に示す図である。
【0025】
モータ駆動ユニット1000は、ハードウェア構成として、上述したモータ200と、実装基板1001と、ハウジング1003と、コネクタ1004とを備える。
【0026】
モータ200の外周付近からは、コイルの一端210と他端220が突き出し、実装基板1001に向かって延びる。コイルの一端210と他端220の双方が実装基板1001に接続される。
【0027】
実装基板1001の基板面に交わる方向にモータ200の回転軸201が延びる。実装基板1001とモータ200は、ハウジング1003内に収容されることで互いの位置が固定される。
【0028】
ハウジング1003には、2つの電源410、420(
図1参照)からの電源コードが接続されるコネクタ1004が取り付けられる。コネクタ1004と実装基板1001との間は、図示が省略された接続線で接続される。
図3は、実装基板1001のハードウェア構成を模式的に示す図である。
【0029】
実装基板1001は、基板1100と、基板1100上に実装された各種の素子とを備える。
基板1100は、第1インバータ101を構成する各スイッチ素子113H、114H、115H、113L、114L、115Lが実装される第1領域131と、第2インバータ102を構成する各スイッチ素子116H、117H、118H、116L、117L、118Lが実装される第2領域132とに区画される。制御回路300については、第1領域131および第2領域132とは別の領域に実装される。
【0030】
第1インバータ101の分離スイッチ121、123は第1領域131に実装され、第2インバータ102の分離スイッチ122、124は第2領域132に実装される。また、第1インバータ101の各スイッチ素子113H、114H、115H、113L、114L、115Lに接続される電流ラインを構成する配線パターンは第1領域131に形成され、第2インバータ102の各スイッチ素子116H、117H、118H、116L、117L、118Lに接続される電流ラインを構成する配線パターンは第2領域132に形成される。
【0031】
言い換えると、基板1100には、第1インバータ101および第2インバータ102について、U相、V相、W相の3相それぞれのスイッチ素子と、各相のスイッチ素子に対する共通の電源端およびグランド端の少なくとも一方に設けられた共通素子とが実装される。そして、実装基板1001は、第1インバータ101の実装領域である第1領域131と、第2インバータ102の実装領域である第2領域132とに区画される。このような区画により、第1インバータ101と第2インバータ102とで電流ラインの独立性が確保される。また、本実施形態のように、第1インバータ101と第2インバータ102が異なる電源410、420に接続される場合は、上記区画により電源系統の独立性も確保される。
【0032】
第1インバータ101および第2インバータ102の四つの分離スイッチ121、122、123、124は、第1領域131と第2領域132とに跨がった箇所にまとめて実装される。即ち、第1インバータ101および第2インバータ102の四つの分離スイッチ121、122、123、124は、第1領域131と第2領域132との境界線に近いエリアに実装される。
【0033】
第1領域131には、モータの各相のコイルにおける一端210が個々に接続され、この一端210には、第1インバータ101の各スイッチ素子113H、114H、115H、113L、114L、115Lが相毎に接続される。第2領域132には、モータの各相のコイルにおける他端220が個々に接続され、この他端220には、第2インバータ102の各スイッチ素子116H、117H、118H、116L、117L、118Lが相毎に接続される。
【0034】
第1インバータ101および第2インバータ102のスイッチ素子のうち、例えばU相の四つのスイッチ素子113H、113L、116H、116Lに着目すると、一端210に接続されるスイッチ素子113H、113Lと、他端220に接続されるスイッチ素子116H、116Lとが互いに点対称に実装される。
【0035】
同様に、V相の四つのスイッチ素子114H、114L、117H、117Lも、一端210に接続されるスイッチ素子114H、114Lと、他端220に接続されるスイッチ素子117H、117Lとが互いに点対称に実装される。W相の四つのスイッチ素子115H、115L、118H、118Lも、一端210に接続されるスイッチ素子115H、115Lと、他端220に接続されるスイッチ素子118H、118Lとが互いに点対称に実装される。そして、このような点対称な実装における対称中心Tは各相で共通する。具体的には、例えば対称中心Tが第1領域131と第2領域132との境界上に位置している。
【0036】
各スイッチ素子の実装について言い換えると、n相それぞれについて、一つの巻線に対する電流供給を担う両端のスイッチ素子が、基板1100に垂直な方向から見て互いに点対称に実装され、対称中心Tがn相で共通する。このような点対称配置でのスイッチ素子実装によれば、各相における電流ラインとして、相同士で比較した場合にインピーダンス差の小さい電流ラインが容易に得られ、相同士のインピーダンス差が抑制される。この結果、モータ200における各相への電力供給がバランスしてモータ200の駆動が円滑化する。特に、上述した3つのHブリッジによってU相、V相、W相それぞれの無結線のコイルに個別に給電するシステムにおいては、相同士でインピーダンス差が抑制されることによって零相電流が抑制され、零相電流による影響も抑制される。
【0037】
互いに区画された第1領域131および第2領域132は、それぞれが1つに連続した領域であり、
図3に示す例では、第1インバータ101の実装領域である第1領域131と第2インバータ102の実装領域である第2領域132とが互いに線対称に区画される。この区画構成は、区画が簡素であるとともに電流ラインの設計自由度が高い。
【0038】
モータのコイルにおける一端210および他端220の配置と各スイッチ素子の実装配置について更に詳細に説明すると、基板1100上に設けられた2n個(ここでは2×3個)の接続点に、n相(ここでは3相)の巻線の一端210および他端220が個々に接続される。
【0039】
そして、U相の一端210に接続される二つのスイッチ素子113H、113Lは、当該一端210の接続点を間に挟んだ両側に実装され、U相の他端220に接続される二つのスイッチ素子116H、116Lは、当該他端220の接続点を間に挟んだ両側に実装される。同様に、V相の一端210に接続される二つのスイッチ素子114H、114Lは、当該一端210の接続点を間に挟んだ両側に実装され、V相の他端220に接続される二つのスイッチ素子117H、117Lは、当該他端220の接続点を間に挟んだ両側に実装される。更に、W相の一端210に接続される二つのスイッチ素子115H、115Lは、当該一端210の接続点を間に挟んだ両側に実装され、W相の他端220に接続される二つのスイッチ素子118H、118Lは、当該他端220の接続点を間に挟んだ両側に実装される。このように接続点を挟んだ配置により、ハイサイドスイッチ素子およびローサイドスイッチ素子それぞれに対する電流ラインとして、インピーダンス差の小さい電流ラインが容易に得られる。
【0040】
更に、
図3に示す例では、6つのハイサイドスイッチ素子113H、……、118Hが、6つのローサイドスイッチ素子113L、……、118Lを挟んで外側に位置する。言い換えると、ハイサイドスイッチ素子113H、……、118Hからなる素子群とローサイドスイッチ素子113L、……、118Lからなる素子群とが互いに内側と外側とに分かれて実装される。このような配置により、同電位のスイッチ素子同士がまとまって実装されるので短絡などが一時的に無視できる。
(パワーステアリング装置の実施形態)
【0041】
自動車等の車両は一般的に、パワーステアリング装置を備える。パワーステアリング装置は、運転者がステアリングハンドルを操作することによって発生するステアリング系の操舵トルクを補助するための補助トルクを生成する。補助トルクは、補助トルク機構によって生成され、運転者の操作の負担を軽減することができる。例えば、補助トルク機構は、操舵トルクセンサ、ECU、モータおよび減速機構などから構成される。操舵トルクセンサは、ステアリング系における操舵トルクを検出する。ECUは、操舵トルクセンサの検出信号に基づいて駆動信号を生成する。モータは、駆動信号に基づいて操舵トルクに応じた補助トルクを生成し、減速機構を介してステアリング系に補助トルクを伝達する。
【0042】
上記実施形態のモータ駆動ユニット1000は、パワーステアリング装置に好適に利用される。
図4は、本実施形態によるパワーステアリング装置2000の構成を模式的に示す図である。
パワーステアリング装置2000は、ステアリング系520および補助トルク機構540を備える。
【0043】
ステアリング系520は、例えば、ステアリングハンドル521、ステアリングシャフト522(「ステアリングコラム」とも称される。)、自在軸継手523A、523B、および回転軸524(「ピニオン軸」または「入力軸」とも称される。)を備える。
【0044】
また、ステアリング系520は、例えば、ラックアンドピニオン機構525、ラック軸526、左右のボールジョイント552A、552B、タイロッド527A、527B、ナックル528A、528B、および左右の操舵車輪(例えば左右の前輪)529A、529Bを備える。
【0045】
ステアリングハンドル521は、ステアリングシャフト522と自在軸継手523A、523Bとを介して回転軸524に連結される。回転軸524にはラックアンドピニオン機構525を介してラック軸526が連結される。ラックアンドピニオン機構525は、回転軸524に設けられたピニオン531と、ラック軸526に設けられたラック532とを有する。ラック軸526の右端には、ボールジョイント552A、タイロッド527Aおよびナックル528Aをこの順番で介して右の操舵車輪529Aが連結される。右側と同様に、ラック軸526の左端には、ボールジョイント552B、タイロッド527Bおよびナックル528Bをこの順番で介して左の操舵車輪529Bが連結される。ここで、右側および左側は、座席に座った運転者から見た右側および左側にそれぞれ一致する。
【0046】
ステアリング系520によれば、運転者がステアリングハンドル521を操作することによって操舵トルクが発生し、ラックアンドピニオン機構525を介して左右の操舵車輪529A、529Bに伝わる。これにより、運転者は左右の操舵車輪529A、529Bを操作することができる。
【0047】
補助トルク機構540は、例えば、操舵トルクセンサ541、ECU542、モータ543、減速機構544および電力供給装置545を備える。補助トルク機構540は、ステアリングハンドル521から左右の操舵車輪529A、529Bに至るステアリング系520に補助トルクを与える。なお、補助トルクは「付加トルク」と称されることがある。
【0048】
ECU542としては、例えば
図1に示された制御回路300が用いられる。また、電力供給装置545としては、例えば
図1に示されたインバータ101、102が用いられる。また、モータ543としては、例えば
図1に示されたモータ200が用いられる。ECU542、モータ543および電力供給装置545が、一般的に「機電一体型モータ」と称されるユニットを構成する場合には、当該ユニットとしては、例えば
図2に示されたハードウェア構成のモータ駆動ユニット1000が好適に用いられる。
図4に示された各要素のうち、ECU542、モータ543および電力供給装置545を除いた要素で構成された機構は、モータ543によって駆動されるパワーステアリング機構の一例に相当する。
【0049】
操舵トルクセンサ541は、ステアリングハンドル521によって付与されたステアリング系520の操舵トルクを検出する。ECU542は、操舵トルクセンサ541からの検出信号(以下、「トルク信号」と表記する。)に基づいてモータ543を駆動するための駆動信号を生成する。モータ543は、操舵トルクに応じた補助トルクを駆動信号に基づいて発生する。補助トルクは、減速機構544を介してステアリング系520の回転軸524に伝達される。減速機構544は、例えばウォームギヤ機構である。補助トルクはさらに、回転軸524からラックアンドピニオン機構525に伝達される。
【0050】
パワーステアリング装置2000は、補助トルクがステアリング系520に付与される箇所によって、ピニオンアシスト型、ラックアシスト型、およびコラムアシスト型等に分類される。
図4には、ピニオンアシスト型のパワーステアリング装置2000が示される。ただし、パワーステアリング装置2000は、ラックアシスト型、コラムアシスト型等にも適用される。
【0051】
ECU542には、トルク信号だけでなく、例えば車速信号も入力され得る。ECU542のマイクロコントローラは、トルク信号や車速信号などに基づいてモータ543をベクトル制御またはPWM制御することができる。
【0052】
ECU542は、少なくともトルク信号に基づいて目標電流値を設定する。ECU542は、車速センサによって検出された車速信号を考慮し、さらに角度センサによって検出されたロータの回転信号を考慮して、目標電流値を設定することが好ましい。ECU542は、電流センサ(
図1参照)によって検出された実電流値が目標電流値に一致するように、モータ543の駆動信号、つまり、駆動電流を制御することができる。
【0053】
パワーステアリング装置2000によれば、運転者の操舵トルクにモータ543の補助トルクを加えた複合トルクを利用してラック軸526によって左右の操舵車輪529A、529Bを操作することができる。特に、上述した機電一体型モータに、上記実施形態のモータ駆動ユニット1000が利用されることにより、モータ駆動が円滑化され、円滑なパワーアシストが実現される。
【0054】
なお、ここでは、本発明の電力変換装置、駆動装置における使用方法の一例としてパワーステアリング装置が挙げられるが、本発明の電力変換装置、駆動装置の使用方法は上記に限定されず、ポンプ、コンプレッサなど広範囲に使用可能である。
【0055】
上述した実施形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した実施の形態ではなくて請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0056】
101、102 :インバータ
113H、……、118H :ハイサイドスイッチ素子
113L、……、118L :ローサイドスイッチ素子
121、122、123、124 :分離スイッチ
200 :モータ
210 :コイルの一端
220 :コイルの他端
300 :制御回路
310 :角度センサ
410、420 :電源
1000 :モータ駆動ユニット
1001 :実装基板
1100 :基板
2000 :パワーステアリング装置