(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-20
(45)【発行日】2023-11-29
(54)【発明の名称】制御装置及びブラシレスモータ
(51)【国際特許分類】
H02P 6/16 20160101AFI20231121BHJP
H02P 21/06 20160101ALI20231121BHJP
H02P 25/024 20160101ALI20231121BHJP
【FI】
H02P6/16
H02P21/06
H02P25/024
(21)【出願番号】P 2019173662
(22)【出願日】2019-09-25
【審査請求日】2022-08-31
(73)【特許権者】
【識別番号】000005496
【氏名又は名称】富士フイルムビジネスイノベーション株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104880
【氏名又は名称】古部 次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100125346
【氏名又は名称】尾形 文雄
(74)【代理人】
【識別番号】100166981
【氏名又は名称】砂田 岳彦
(72)【発明者】
【氏名】東海林 元広
(72)【発明者】
【氏名】高野 幸寿
(72)【発明者】
【氏名】紺谷 幸生
(72)【発明者】
【氏名】星野 豊彦
(72)【発明者】
【氏名】三上 均
【審査官】池田 貴俊
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-046595(JP,A)
【文献】特開2017-221001(JP,A)
【文献】特開2019-122117(JP,A)
【文献】特開2001-078487(JP,A)
【文献】特開2019-129590(JP,A)
【文献】特開2018-117414(JP,A)
【文献】特開2012-196063(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 6/16
H02P 21/06
H02P 25/024
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブラシレスモータの複数の相の各相に印加する電圧、電流を、回転子の回転を制御するときにはq軸電流を主とした回転制御で行い、停止の指令信号を受信したときにはd軸電流を主とした界磁固定制御で行うベクトル制御により制御する制御部
と、
前記ブラシレスモータの前記回転子の回転量及び回転方向を示す回転情報を取得する取得部と、を備え、
前記制御部は、
前記界磁固定制御において、前記ブラシレスモータの前記複数の相の各相に対応して設けられ、当該各相に電圧、電流を供給する複数のハーフブリッジ回路の各々を構成するハイサイドスイッチング素子とロウサイドスイッチング素子のいずれもがオフに設定されるデッ
ドタイムの影響を抑制して、当該ブラシレスモータを制御
し、
前記界磁固定制御において、前記ブラシレスモータの前記回転子の位置とベクトル制御における電気角度との初期の位置合わせを行うときに、当該ブラシレスモータに印加する前記複数の相のいずれかが絶対値において最大の電圧となる電気角度を設定し、前記取得部が取得した前記回転情報から、当該回転子の位置に対応する電気角度を算定して、当該ブラシレスモータを制御し、
設定した前記電気角度により前記回転子が回転した際に、前記取得部から取得される前記回転情報の回転量が予め定められた量以上になる場合、当該回転子の回転方向と逆の方向において最も近い電気角度であって、前記複数の相のいずれかが絶対値において最大の電圧となる電気角度を新たに設定して、初期の位置合わせを行う
制御装置。
【請求項2】
前記制御部は、
前記初期の位置合わせが終了した後、前記回転子の位置を当該初期の位置合わせを行う前の位置に戻す
ことを特徴とする請求項
1に記載の制御装置。
【請求項3】
ブラシレスモータの複数の相の各相に印加する電圧、電流を、回転子の回転を制御するときにはq軸電流を主とした回転制御で行い、停止の指令信号を受信したときにはd軸電流を主とした界磁固定制御で行うベクトル制御により制御する制御部を備え、
前記制御部は、
前記界磁固定制御において、前記ブラシレスモータの前記複数の相の各相に対応して設けられ、当該各相に電圧、電流を供給する複数のハーフブリッジ回路の各々を構成するハイサイドスイッチング素子とロウサイドスイッチング素子のいずれもがオフに設定されるデッドタイムの影響を抑制して、当該ブラシレスモータを制御し、
前記界磁固定制御において、前記ブラシレスモータの前記複数の相の各相に印加する電圧を、前記回転制御における電圧
と異なるように補正した電圧とする
制御装置。
【請求項4】
前記ブラシレスモータの前記回転子の回転量及び回転方向を示す回転情報を取得する取得部を備え、
前記制御部は、
前記回転子が停止したとき、前記取得部が取得した前記回転情報から得られた当該回転子の位置と指令された電気角度とにずれがある場合、当該ずれに対応させて電気角度を補正する
ことを特徴とする請求項
3に記載の制御装置。
【請求項5】
前記制御部は、
前記界磁固定制御によって前記回転子が停止したとき、前記取得部が取得した前記回転情報から得られた当該回転子の位置と指令された電気角度とのずれが予め定められた範囲以下又は予め定められた範囲未満になるとd軸電流を減少させ、当該回転子の位置と指令された電気角度とのずれが予め定められた範囲を超えるとd軸電流を増加させる
ことを特徴とする請求項
4に記載の制御装置。
【請求項6】
前記ブラシレスモータの前記回転子の回転量及び回転方向を示す回転情報を取得する取得部を備え、
前記制御部は、
前記界磁固定制御によって前記回転子が停止したとき、前記取得部が取得した前記回転情報から得られた当該回転子の位置と指令された電気角度とのずれが予め定められた範囲以下又は予め定められた範囲未満になるとd軸電流を減少させ、当該回転子の位置と指令された電気角度とのずれが予め定められた範囲を超えるとd軸電流を増加させる
ことを特徴とする請求項
3に記載の制御装置。
【請求項7】
ブラシレスモータの複数の相の各相に印加する電圧、電流を、回転子の回転を制御するときにはq軸電流を主とした回転制御で行い、停止の指令信号を受信したときにはd軸電流を主とした界磁固定制御で行うベクトル制御により制御する制御部を備え、
前記制御部は、
前記ブラシレスモータの前記複数の相の各相に印加する電圧を補正した目標電圧により、当該各相に電圧、電流を供給する複数のハーフブリッジ回路の各々を構成するハイサイドスイッチング素子とロウサイドスイッチング素子のいずれもがオフに設定されるデッ
ドタイムの影響を抑制して、当該ブラシレスモータを制御
し、
前記目標電圧の波形を、電圧0Vを境界として切り離し、+側及び-側にずらすように補正した電圧の波形を用いる
制御装置。
【請求項8】
ブラシレスモータの回転子の回転量及び回転方向を示す回転情報を取得する取得部と、
前記ブラシレスモータの複数の相の各相に印加する電圧、電流を、回転子の回転を制御するときにはq軸電流を主とした回転制御で行い、停止の指令信号を受信したときにはd軸電流を主とした界磁固定制御で行うベクトル制御により制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、
前記取得部が取得した前記回転情報から得られた前記回転子の回転速度が予め定められた回転速度以下又は予め定められた回転速度未満のときに、前記ブラシレスモータの前記複数の相の各相に印加する電圧を
、予め定められた回転速度より大きい又は回転速度以上のときに印加する電圧と異なるように補正した目標電圧として、当該ブラシレスモータを制御する
制御装置。
【請求項9】
請求項1乃至
8のいずれか1項に記載の制御装置と、
回転子と、
前記制御装置により制御された電圧、電流が印加される複数の相に対応して、前記回転子の周囲に配置される複数のコイルと
を備えるブラシレスモータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制御装置及びブラシレスモータに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、モータ始動前に一定時間2相通電にて固定磁界を発生させて前記回転子をゼロクロス点から位相差30°ずれた位置に位置決めするセットアップ通電を行うステップと、前記1相60°バイポーラ矩形波通電パターンからセットアップ理論停止位置より進行方向に一つ進んだ区間を選択して通電する1相180°通電の始動通電を行うステップと、回転子の理論停止位置から位相差90°進んだ位置のゼロクロス点を検出することで始動通電を完了し、その後は位相差60°ごとのゼロクロス点検出により前記1相60°バイポーラ矩形波通電を行うステップと、を含むモータ駆動方法が記載されている。
【0003】
特許文献2には、複数のスイッチング素子を有し、これらスイッチング素子のオン,オフによりモータへの駆動電力を出力するインバータと、前記モータの起動に際し、前記各スイッチング素子をPWM制御することにより前記モータの各相巻線に所定の励磁電流を流して前記モータのロータを初期位置へと回動させる制御手段と、を備え、前記制御手段は、前記ロータの初期位置を前記モータの起動ごとに切換えるモータ駆動装置が記載されている。
【0004】
特許文献3には、永久磁石界磁の位置検出に際して通電パターンごとにオフセット誤差が生じている場合に測定された第1測定値又は第2測定値に補正係数Aを乗じてオフセット誤差を補正した補正値を求め、該補正値に基づいて永久磁石界磁の位置推定を行う電動機の界磁位置誤差補正方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2017-22867号公報
【文献】特開2014-217113号公報
【文献】特開2018-98915号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、ブラシレスモータの制御装置では、ハーフブリッジ回路のハイサイドスイッチング素子とロウサイドスイッチング素子とのオン/オフを制御してモータに印加する電圧、電流を制御する。この際、ハイサイドスイッチング素子とロウサイドスイッチング素子との同時オンを防止するデッドタイムにより、ブラシレスモータに印加される電圧、電流に誤差が生じ、ブラシレスモータの位置制御における誤差、消費電流の増加、速度変動の増加などが発生するおそれがあった。
【0007】
本発明の目的は、デッドタイムの影響を抑制したブラシレスモータの制御装置などを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に記載の発明は、ブラシレスモータの複数の相の各相に印加する電圧、電流を、回転子の回転を制御するときにはq軸電流を主とした回転制御で行い、停止の指令信号を受信したときにはd軸電流を主とした界磁固定制御で行うベクトル制御により制御する制御部と、前記ブラシレスモータの前記回転子の回転量及び回転方向を示す回転情報を取得する取得部と、を備え、前記制御部は、前記界磁固定制御において、前記ブラシレスモータの前記複数の相の各相に対応して設けられ、当該各相に電圧、電流を供給する複数のハーフブリッジ回路の各々を構成するハイサイドスイッチング素子とロウサイドスイッチング素子のいずれもがオフに設定されるデッドタイムの影響を抑制して、当該ブラシレスモータを制御し、前記界磁固定制御において、前記ブラシレスモータの前記回転子の位置とベクトル制御における電気角度との初期の位置合わせを行うときに、当該ブラシレスモータに印加する前記複数の相のいずれかが絶対値において最大の電圧となる電気角度を設定し、前記取得部が取得した前記回転情報から、当該回転子の位置に対応する電気角度を算定して、当該ブラシレスモータを制御し、設定した前記電気角度により前記回転子が回転した際に、前記取得部から取得される前記回転情報の回転量が予め定められた量以上になる場合、当該回転子の回転方向と逆の方向において最も近い電気角度であって、前記複数の相のいずれかが絶対値において最大の電圧となる電気角度を新たに設定して、初期の位置合わせを行う制御装置である。
請求項2に記載の発明は、前記制御部は、前記初期の位置合わせが終了した後、前記回転子の位置を当該初期の位置合わせを行う前の位置に戻すことを特徴とする請求項1に記載の制御装置である。
請求項3に記載の発明は、ブラシレスモータの複数の相の各相に印加する電圧、電流を、回転子の回転を制御するときにはq軸電流を主とした回転制御で行い、停止の指令信号を受信したときにはd軸電流を主とした界磁固定制御で行うベクトル制御により制御する制御部を備え、前記制御部は、前記界磁固定制御において、前記ブラシレスモータの前記複数の相の各相に対応して設けられ、当該各相に電圧、電流を供給する複数のハーフブリッジ回路の各々を構成するハイサイドスイッチング素子とロウサイドスイッチング素子のいずれもがオフに設定されるデッドタイムの影響を抑制して、当該ブラシレスモータを制御し、前記界磁固定制御において、前記ブラシレスモータの前記複数の相の各相に印加する電圧を、前記回転制御における電圧と異なるように補正した電圧とする制御装置である。
請求項4に記載の発明は、前記ブラシレスモータの前記回転子の回転量及び回転方向を示す回転情報を取得する取得部を備え、前記制御部は、前記回転子が停止したとき、前記取得部が取得した前記回転情報から得られた当該回転子の位置と指令された電気角度とにずれがある場合、当該ずれに対応させて電気角度を補正することを特徴とする請求項3に記載の制御装置である。
請求項5に記載の発明は、前記制御部は、前記界磁固定制御によって前記回転子が停止したとき、前記取得部が取得した前記回転情報から得られた当該回転子の位置と指令された電気角度とのずれが予め定められた範囲以下又は予め定められた範囲未満になるとd軸電流を減少させ、当該回転子の位置と指令された電気角度とのずれが予め定められた範囲を超えるとd軸電流を増加させることを特徴とする請求項4に記載の制御装置である。
請求項6に記載の発明は、前記ブラシレスモータの前記回転子の回転量及び回転方向を示す回転情報を取得する取得部を備え、前記制御部は、前記界磁固定制御によって前記回転子が停止したとき、前記取得部が取得した前記回転情報から得られた当該回転子の位置と指令された電気角度とのずれが予め定められた範囲以下又は予め定められた範囲未満になるとd軸電流を減少させ、当該回転子の位置と指令された電気角度とのずれが予め定められた範囲を超えるとd軸電流を増加させることを特徴とする請求項3に記載の制御装置である。
請求項7に記載の発明は、ブラシレスモータの複数の相の各相に印加する電圧、電流を、回転子の回転を制御するときにはq軸電流を主とした回転制御で行い、停止の指令信号を受信したときにはd軸電流を主とした界磁固定制御で行うベクトル制御により制御する制御部を備え、前記制御部は、前記ブラシレスモータの前記複数の相の各相に印加する電圧を補正した目標電圧により、当該各相に電圧、電流を供給する複数のハーフブリッジ回路の各々を構成するハイサイドスイッチング素子とロウサイドスイッチング素子のいずれもがオフに設定されるデッドタイムの影響を抑制して、当該ブラシレスモータを制御し、前記目標電圧の波形を、電圧0Vを境界として切り離し、+側及び-側にずらすように補正した電圧の波形を用いる制御装置である。
請求項8に記載の発明は、ブラシレスモータの回転子の回転量及び回転方向を示す回転情報を取得する取得部と、前記ブラシレスモータの複数の相の各相に印加する電圧、電流を、回転子の回転を制御するときにはq軸電流を主とした回転制御で行い、停止の指令信号を受信したときにはd軸電流を主とした界磁固定制御で行うベクトル制御により制御する制御部と、を備え、前記制御部は、前記取得部が取得した前記回転情報から得られた前記回転子の回転速度が予め定められた回転速度以下又は予め定められた回転速度未満のときに、前記ブラシレスモータの前記複数の相の各相に印加する電圧を、予め定められた回転速度より大きい又は回転速度以上のときに印加する電圧と異なるように補正した目標電圧として、当該ブラシレスモータを制御する制御装置である。
請求項9に記載の発明は、請求項1乃至8のいずれか1項に記載の制御装置と、回転子と、前記制御装置により制御された電圧、電流が印加される複数の相に対応して、前記回転子の周囲に配置される複数のコイルとを備えるブラシレスモータである。
【発明の効果】
【0009】
請求項1に記載の発明によれば、最も近い電気角度を設定しない場合に比べ、初期の位置合わせにおける回転子の回転量が少なくでき、デッドタイムの影響が抑制できる。
請求項2に記載の発明によれば、位置を戻さない場合に比べ、回転子が停止した位置から再開できる。
請求項3に記載の発明によれば、電圧を補正しない場合に比べて、ブラシレスモータの初期の位置合わせにおける誤差の発生を抑制できる。
請求項4に記載の発明によれば、電気角度を補正しない場合に比べて、回転子の位置制御の精度が向上する。
請求項5、6に記載の発明によれば、回転子の位置精度を維持して、消費電力が抑制できる。
請求項7に記載の発明によれば、デッドタイムの影響が抑制できる。
請求項8に記載の発明によれば、回転速度に依存せず補正する場合に比べ、制御装置の演算に対する負荷が小さくできる。
請求項9に記載の発明によれば、デッドタイムの影響を抑制したブラシレスモータが提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】第1の実施の形態が適用されるブラシレスモータの全体構成の一例を示す図である。
【
図3】固定子のコイルに流す3相の電流の一例を示す図である。
【
図4】モータにおいて、回転子が回転する様子を示す図である。(a)は、
図3において電気角度0°の電流を流した状態、(b)は、回転子が回転し始める状態、(c)は、回転子が回転を開始した状態である。
【
図5】モータ制御装置における、モータの各相に電圧を印加するモータドライバ部を説明する図である。
【
図6】モータの各相に設定された目標電圧と、モータの各相に流れた電流と、モータの回転軸の回転量との関係の一例を示す図である。(a)は、モータの各相に設定された目標電圧、(b)は、モータの各相に流れる電流、(c)は、モータの回転軸の回転量である。
【
図7】モータ制御装置のハードウエア構成を示す図である。
【
図8】第1の実施の形態が適用されるモータ制御装置の機能構成の一例を示す図である。
【
図9】第1の実施の形態における初期の位置合わせを説明する図である。(a)は、モータの各相に流れる電流、(b)は、d軸電流、(c)は、回転子の位置である。
【
図10】第3の実施の形態における初期の位置合わせを説明する図である。(a)は、モータの各相に流れる電流、(b)は、d軸電流、(c)は、回転子の位置である。
【
図11】第4の実施の形態が適用されるモータ制御装置の機能構成の一例を示す図である。
【
図12】座標変換部が供給する目標電圧の波形とデッ
ドタイム補正部が補正した補正電圧の波形とを示す図である。(a)は、座標変換部が供給する目標電圧の波形、(b)は、デッ
ドタイム補正部が補正した補正電圧の波形である。
【
図13】モータの各相に設定された補正電圧と、モータの各相に流れる電流と、モータの回転軸の回転量との関係の一例を示す図である。(a)は、モータの各相に設定された補正電圧、(b)は、モータの各相に流れる電流、(c)は、モータの回転軸の回転量である。
【
図14】第4の実施の形態が適用されるモータ制御装置により、モータの回転を制御するタイミングチャートを示す図である。
【
図15】第5の実施の形態が適用されるモータ制御装置の機能構成の一例を示す図である。
【
図16】第6の実施の形態が適用されるモータ制御装置の機能構成の一例を示す図である。
【
図17】第7の実施の形態が適用されるモータ制御装置の機能構成の一例を示す図である。
【
図18】第7の実施の形態が適用されるモータ制御装置により、モータの回転を制御するタイミングチャートを示す図である。
【
図19】第8の実施の形態が適用されるモータ制御装置の機能構成の一例を示す図である。
【
図20】第8の実施の形態が適用されるモータ制御装置により、モータの回転を制御するタイミングチャートを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
ブラシレスモータは、永久磁石を回転子(ロータとも呼ばれる。)とし、回転子の周囲に配置された複数のコイルを固定子(ステータとも呼ばれる。)として、各コイルに流す電流を変化させることで回転磁界を発生させ、回転子を回転させるモータである。なお、ブラシレスモータは、固定子の周囲に回転子を配置した構成であってもよい。ここでは、ブラシレスモータは、回転子の周囲に固定子が配置されているとして説明する。
【0012】
[第1の実施の形態]
図1は、第1の実施の形態が適用されるブラシレスモータ1の全体構成の一例を示す図である。
ブラシレスモータ1は、モータ10と、エンコーダ20と、モータ制御装置30とを備える。モータ10は、回転子と、固定子と、回転軸とを備える。回転軸は、回転子に固定され回転子と共に回転する。回転軸には負荷2が取り付けられている。負荷2は、例えばギヤ、カム及びローラ等の機械要素であり、回転軸とともに回転して動力を伝達する。エンコーダ20は、回転子の回転方向及び回転量を表す回転信号を出力する装置である。
【0013】
エンコーダ20は、例えば、光学透過型のエンコーダであって、スリットを有する円板と、光源と、受光センサとを備える。円板は、円周に沿って等間隔に並んだスリットを有する。エンコーダ20は、光源からの光を円板のスリットを透過して受光センサで受光する。つまり、円板が回転子とともに回転することで、受光センサは、円板のスリットを通過した光をパルス状に受光する。A相及びB相の2系統のスリット列(チャネルと呼ばれる。)を設けることで、A相のパルスとB相のパルスとにおいて先に立ち上がるパルスが回転方向を表し、単位時間当たりのパルス数が回転量を表す。ここで、エンコーダ20の出力である回転方向及び回転量を示す回転信号が、回転情報の一例である。
【0014】
モータ制御装置30は、エンコーダ20から出力される回転信号を用いて、モータ10の回転(詳細には回転子の回転)を制御するコンピュータである。
【0015】
図2は、モータ10の構成の一例を示す図である。
モータ10は、回転子11と、固定子12と、回転軸14とを備える。回転子11には、回転軸14が固定されている。回転子11は、1組の磁極(N極及びS極)を有する永久磁石である。固定子12は、3つのコイル13(それぞれを区別する場合は、コイル13u、13v、13wと表記する。)を備える。各コイル13は、回転軸14から各コイル13に向かう方向が互いに120°ずつずれる位置に配置されている。各コイル13の巻線は、一端部が後述するモータドライバ部(後述する
図5のモータドライバ部311)に接続され、他端部が互いに接続されている。
【0016】
以下では、説明の便宜上、回転軸14を中心としてコイル13uが配置されている方向を0°の方向(上方向ともいう)、その反対側を180°の方向(下方向ともいう)とし、それらに対して90°の角度を成す方向のうちコイル13wに近い方を270°の方向(左方向ともいう)、コイル13vに近い方を90°の方向(右方向ともいう)と表記する。この場合、コイル13uは0°の方向に、コイル13vは120°の方向に、コイル13wは240°の方向に配置されていることになる。モータ10は、これら3つのコイル13に位相が120°ずつずれた3相(U相、V相、W相)の電流をそれぞれ流すことで回転子11を回転させる3相モータである。
【0017】
ここでは、一例としてモータ10は、回転子11が1組の磁極を有する永久磁石としたが、複数組の磁極を有する永久磁石であってもよい。同様に、固定子12が3つのコイル13を備えるとしたが、3を超える3の倍数のコイルを備えてもよい。
【0018】
図3は、固定子12のコイル13に流す3相の電流の一例を示す図である。
図3では、縦軸が電流(A)を示し、横軸が電気角度(°)を示す。電気角度とは、正弦波の電流の1周期を360°(2πラジアン)としたときの位相(周期中の位置)である。ここでは、電気角度は、ベクトル制御におけるd軸方向に対する電気角度である。なお、d軸方向とは、回転子11のN極が向かう方向である。
【0019】
この例では、U相電流(コイル13uに流す電流)は、電気角度0°で“-F1”、90°で“0”、180°で“F1”、270°で“0”、360°で再び“-F1”となっている。V相電流(コイル13vに流す電流)は、電気角度30°で“0”、120°で“-F1”、210°で“0”、300°で“F1”、390°で再び“0”となっている。W相電流(コイル13wに流す電流)は、電気角度60°で“F1”、150°で“0”、240°で“-F1”、330°で“0”、420°で再び“F1”となっている。
【0020】
図4は、モータ10において、回転子11が回転する様子を示す図である。
図4(a)は、
図3において電気角度0°の電流を流した状態、
図4(b)は、回転子11が回転し始める状態、
図4(c)は、回転子11が回転を開始した状態である。
図4(a)において、回転子11のN極は、
図2で定義したモータ10の0°方向、S極は、モータ10の180°方向に向いている。
【0021】
図4(a)に示すように、コイル13に
図3の電気角度90°の電流を流すとV相とW相とに電流が流れる。すると、V相の電流がコイル13vに流れ、W相の電流がコイル13wに流れる。なお、U相の電流は“0”であるのでコイル13uに電流が流れない。よって、モータ10の270°側をN極、90°側をS極とする磁界が形成される。すると、
図4(b)に示すように、回転子11のN極は、形成された磁界のS極に引き与せられ、回転子11のS極は、形成された磁界のN極に引き寄せられる。これにより、回転子11は時計回りに回転し始める。ここでいう時計周りとは、コイル13uからコイル13vを経てコイル13wに向かう方向(
図2で述べた方向を示す角度が増えていく方向)のことをいうものとする。そして、
図4(c)に示すように、回転子11が回転し始めるとともに、
図3に示すように電気角度が変化してコイル13に流れる電流が変化すると、電流によって形成される磁界のN極及びS極も時計方向に回転する。回転する磁界のことを回転磁界と表記する。すると、回転子11のN極及びS極は、回転磁界のS極及びN極にそれぞれ引き寄せられることで回転する。つまり、コイル13に流れる電流によって回転磁界が形成され、回転子11のN極及びS極が回転磁界にそれぞれ引き寄せられ続けることで、モータ10の回転子11が回転する。つまり、モータ10が回転する。コイル13に流れる電流は、モータ制御装置30によって制御される。
【0022】
以上説明したように、モータ10が1組の磁極で構成された回転子11と、3相の電流が流される3個のコイル13とを備えている場合、回転子11の位置と電気角度とが一致する。
【0023】
図5は、モータ制御装置30における、モータ10の各相に電圧を印加するモータドライバ部311(後述する
図8参照)を説明する図である。ここでは、モータ10と、エンコーダ20と、モータドライバ部311にパルス幅変調信号(以下では、PWM(Pulse Width Modulation)信号と表記する。)を供給するPWM変換部317を合わせて示している(後述する
図8参照)。PWM信号とは、電圧のオン/オフを繰り返して形成されるパルス信号であって、オンのパルス幅に対応した電圧が印加される。
【0024】
モータドライバ部311は、モータ10のU相、V相、W相のそれぞれに電圧を供給するハーフブリッジ回路40(それぞれを区別する場合は、ハーフブリッジ回路40u、40v、40wと表記する。)を備える。各ハーフブリッジ回路40は、直列接続されたpチャネルFET41とnチャネルFET42とを備える。そして、各ハーフブリッジ回路40におけるpチャネルFET41とnチャネルFET42との接続点(pチャネルFET41のドレイン側とnチャネルFET42のドレイン側との接続点)が、モータ10の各相に接続されている。つまり、ハーフブリッジ回路40uの接続点がモータ10のU相に接続され、ハーフブリッジ回路40vの接続点がモータ10のV相に接続され、ハーフブリッジ回路40wの接続点がモータ10のW相に接続されている。なお、pチャネルFET41には帰還ダイオード43が並列に接続され、nチャネルFET42には帰還ダイオード44が並列に接続されている。そして、pチャネルFET41のソース側が電源に接続され、nチャネルFET42のソース側が抵抗Rを介して接地されている。抵抗Rにより、各ハーフブリッジ回路40に流れる電流i(それぞれを区別する場合は、電流iu、iv、iwと表記する。)が検出される。なお、帰還ダイオード43、44は、ハーフブリッジ回路40に接続されたコイル13に蓄積されたエネルギーを電源に帰還させるために設けられている。なお、pチャネルFET41は、ハイサイドスイッチング素子の一例であり、nチャネルFET42は、ロウサイドスイッチング素子の一例である。
【0025】
PWM変換部317は、各ハーフブリッジ回路40におけるpチャネルFET41のゲートとnチャネルFET42のゲートとにPWM信号を供給する。つまり、PWM変換部317は、pチャネルFET41のゲートにPWM信号である電圧VH(それぞれを区別する場合は、電圧VHu、VHv、VHwと表記する。)を印加し、nチャネルFET42のゲートにPWM信号である電圧VL(それぞれを区別する場合は、電圧VLu、VLv、VLwと表記する。)を印加する。各ハーフブリッジ回路40におけるpチャネルFET41とnチャネルFET42とは、供給されたPWM信号によりオン/オフが設定される。そして、オンになったpチャネルFET41及びnチャネルFET42により、モータ10の各相に電圧が印加され、固定子12におけるコイル13に電流が流れる。なお、各ハーフブリッジ回路40に対して、オンの期間とオフの期間との割合(デューティ比)を切り替えながら設定することで、平均値としてモータ10の各相に
図3で示したような正弦波の電流が流れるようにしている。例えば、ハーフブリッジ回路40uのpチャネルFET41がオンで、ハーフブリッジ回路40vのnチャネルFET42がオンである場合、ハーフブリッジ回路40uのpチャネルFET41、コイル13u、コイル13v、ハーフブリッジ回路40vのnチャネルFET42を経由して流れる。このとき、コイル13uには、一端部から他端部へ電流が流れ、コイル13vには、他端部から一端部へ電流が流れる。ここで、コイル13に流れる電流は、一端部から他端部に流れる電流を正、他端部から一端部に流れる電流を負とする。
【0026】
ハーフブリッジ回路40において、直列接続されたpチャネルFET41とnチャネルFET42とが同時にオンになると、ハーフブリッジ回路40の電源から接地へと電流が流れることになる。この電流は、貫通電流と呼ばれることがある。そこで、pチャネルFET41とnチャネルFET42とが同時にオンになること(貫通電流が流れること)を抑制するために、pチャネルFET41がオンの期間とnチャネルFET42がオンの期間との間に、pチャネルFET41とnチャネルFET42とが共にオフになる期間、いわゆるデッドタイムが設けられている。
【0027】
図6は、モータ10の各相に設定された目標電圧(Vv、Vu、Vw)と、モータ10の各相に流れた電流と、モータ10の回転軸14の回転量との関係の一例を示す図である。
図6(a)は、モータ10の各相に設定された目標電圧、
図6(b)は、モータ10の各相に流れる電流、
図6(c)は、モータ10の回転軸14の回転量である。ここで、横軸は、時間である。なお、
図6(c)における一点鎖線は、モータ10の回転軸14の回転量が時間に比例して変化する理想的な場合を示す。
【0028】
図6(a)に示す、モータ10の各相に設定された目標電圧(Vv、Vu、Vw)は、正弦波に近似できるように階段状に設定されている。つまり、モータドライバ部311は、時間の経過ともにモータ10のU相、V相、W相のそれぞれに印加する電圧を変化させていく。これにより、モータ10のU相、V相、W相に電流が流れ、モータ10の回転子11が回転する。しかし、
図6(b)に示すモータ10の各相(U、V、W)に流れる電流は、正弦波に近似されない。特に、
図6(b)において、
図6(a)における目標電圧Vwが0Vと交差する部分(αと表記)、目標電圧Vuが0Vと交差する部分(βと表記)及び目標電圧Vvが0Vと交差する部分(γと表記)が、正弦波からのずれが大きい。
【0029】
よって、
図6(c)に示すように、回転軸14の回転量は、一点鎖線で示す理想的な回転軸14の回転量に対して、ずれることになる。特に、
図6(c)において、
図6(a)における目標電圧Vwが0Vと交差する部分(αと表記)、目標電圧Vuが0Vと交差する部分(βと表記)及び目標電圧Vvが0Vと交差する部分(γと表記)のずれが大きい。なお、目標電圧が0Vと交差すること、又は電流が0Aと交差することをゼロクロスと表記することがある。
【0030】
以上説明したように、
図6(a)に示したように、モータ10の各相に設定する目標電圧を、正弦波に近似するように階段状に設定しても、モータ10の各相には、正弦波に近似された電流が流れない。このため、モータ10において、回転子11の位置制御の誤差が発生したり、予め定められた位置に回転子11が位置しないために消費電力が増加したり、回転子11の回転速度に変動が発生したりするおそれがある。これは、ハイサイドスイッチング素子(pチャネルFET41)とロウサイドスイッチング素子(nチャネルFET42)との同時オンを防止するデッドタイムに起因して発生する。
【0031】
図7は、モータ制御装置30のハードウエア構成を示す図である。モータ制御装置30は、CPU31と、ROM32と、RAM33と、入出力インターフェイス(以下では、入出力IFと表記する。)34と、通信インターフェイス(以下では、通信IFと表記する。)35と、バス36とを備える。CPU31、ROM32、RAM33、入出力IF34及び通信IF35は、バス36によって接続されている。なお、図示しないが、モータ制御装置30は、HDDを備えてもよい。HDDもバス36に接続される。
【0032】
入出力IF34は、モータドライバ部311に接続されている。モータドライバ部311は、モータ10に接続されている。そして、入出力IF34は、エンコーダ20に接続されている。通信IF35は、不図示の他の制御装置(又はCPU)などに接続されている。なお、破線で囲んだ部分が、制御部の一例である。
【0033】
CPU31は、電源が投入されると、ROM32(又は、HDD)に記憶されたプログラムやデータを読み出して、RAM33上に実行可能な状態に展開して書き込む。そして、プログラムを実行する。プログラムの実行にともない、RAM33、入出力IF34、通信IF35などとデータのやり取りを行う。
【0034】
入出力IF34は、モータドライバ部311を介してモータ10の各相に電圧を供給するとともに、エンコーダ20からA相、B相の各パルスを取得する。通信IF35は、他の制御装置から、モータ10の回転開始/回転停止の指令や、回転速度、停止位置などの制御に関する指令(指令値と表記することがある)を取得する。また、通信IF35は、他の制御装置に、モータ10の回転開始/回転停止の状態、回転速度、停止位置などの状態に関する情報(データと表記することがある)を出力する。
【0035】
なお、ROM32(又は、HDD)は、例えば、EPROM、EEPROM、フラッシュメモリなどであって、プログラムやプログラムが用いる定数や変数の初期値などのデータを記憶する。また、RAM33は、フラッシュメモリなどの書き換え可能な不揮発メモリであってもよい。
【0036】
図8は、第1の実施の形態が適用されるモータ制御装置30の機能構成の一例を示す図である。モータ制御装置30は、タイマ制御部301と、指示信号取得部302と、目標速度設定部303と、エンコーダ出力取得部304と、回転速度算出部305と、速度制御部306と、位置制御部307と、PWM変換部317と、電流検出部312と、電流変換部313と、q軸電流制御部314と、d軸電流制御部315と、座標変換部316と、制御切替部320と、第1切替部321と、第2切替部322と、第3切替部323と、第4切替部324とを備える。なお、タイマ制御部301などの各部を機能部と表記する。
【0037】
ブラシレスモータ1は、予め定められた回転速度で回転子11を回転させる回転制御と、電源投入によりブラシレスモータ1の回転を開始させるときや、回転子11を停止位置に設定するときの界磁固定制御とで制御される。特に、ブラシレスモータ1は、回転子11の位置(ここでは、回転子11のN極が向いている方向)を検出するセンサを備えていない。そのため、電源投入後に、界磁固定制御により、回転子11の位置と制御の電気角度とを合わせる。これを初期の位置合わせと表記する。初期の位置合わせの後に、モータ10の回転子11の回転を制御する回転制御が行われる。なお、回転の後に、回転子11を停止させる場合も界磁固定制御される。つまり、ブラシレスモータ1は、回転制御と界磁固定制御とを切り替えることで制御される。ここでは、界磁固定制御は、回転子11を電気角度で指定される位置に固定することをいい、具体的には、固定子12のコイル13に電流を流して形成した磁界(界磁と呼ばれる。)によって、回転子11の位置を予め定められた位置に固定することをいう。
【0038】
ベクトル制御において、界磁固定制御は、電気角度を指定するとともに、q軸電流を“0”Aに設定し、d軸電流を設定して行なわれる。回転制御は、q軸電流を設定することで行われる。なお、回転制御においてd軸電流が設定されてもよい。q軸電流は、d軸電流から90°位相が進んでいる。
【0039】
ここでは、指示信号取得部302が取得した指示信号に基づいて制御切替部320が、第1切替部321、第2切替部322、第3切替部323及び第4切替部324を切り替えることで、回転制御と界磁固定制御とが切り替えられる。なお、
図8では、制御切替部320による制御を破線で示し、界磁固定制御の場合に設定される定数、ここでは、初期の位置合わせの場合の定数を付記している。以下ではまず、回転制御を行う機能部について説明する。
【0040】
タイマ制御部301は、定められた周期の信号を生成して指示信号取得部302及びエンコーダ出力取得部304に供給する。指示信号取得部302は、他の制御装置から回転方向及び回転速度、又は、回転位置(回転子11を停止させる位置)を指示する指示信号が入力されており、タイマ制御部301から信号が供給されてから次の信号が供給されるまでに入力される指示信号を取得する。ここでいう他の制御装置とは、例えば負荷2の動作を制御する装置である。
【0041】
指示信号取得部302は、取得した回転速度を示す指示信号を目標速度設定部303に供給し、また、取得した回転子11の位置を示す指示信号を第1切替部321経由で位置制御部307に供給する。そして、取得したd軸電流(後述)を示す指示信号を第3切替部323経由でd軸電流制御部315に供給する。さらに、取得した電気角度φeを示す指示信号を第4切替部324経由で座標変換部316に供給する。
【0042】
目標速度設定部303は、指示信号取得部302から供給された指示信号が示す回転速度を目標速度として設定し、設定した目標速度を速度制御部306に供給する。
【0043】
エンコーダ出力取得部304には、
図5に示したエンコーダ20から出力された回転信号(A相のパルス、B相のパルス)が入力されており、タイマ制御部301から信号が供給されてから次の信号が供給されるまでに入力される回転信号を取得し、取得した回転信号を回転速度算出部305及び位置制御部307に供給する。また、エンコーダ出力取得部304は、取得した回転信号を第4切替部324経由で座標変換部316に供給する。エンコーダ出力取得部304は、エンコーダ20が出力する回転情報を取得する取得部の一例である。
【0044】
回転速度算出部305は、エンコーダ出力取得部304から供給された回転信号を用いて、回転子11の回転速度を算出する。回転速度算出部305は、例えば、回転信号が示す単位時間当たりのパルス数から回転速度を算出する。算出された回転速度は、回転子11の現在の回転速度の測定値に相当する。回転速度算出部305は、算出した回転速度を速度制御部306に供給する。
【0045】
速度制御部306は、回転速度算出部305から供給される回転子11の回転速度を、目標速度設定部303により設定された目標速度に近づける速度制御を行う。速度制御部306は、例えばフィードバック制御の一つであるPI(Proportional-Integral)制御の手法を用いて速度制御を行う。
【0046】
速度制御部306は、各コイル13に流れる3相の電流を変換した2軸の電流(d軸電流及びq軸電流)のうちのq軸電流の指令値(算出された回転速度及び目標速度に応じた値)を後述するq軸電流制御部314に第2切替部322経由で供給し、測定される各コイル13に流れる電流をq軸電流に変換した値(後述するiq)を指令値に近づける制御を行わせることで、回転速度を目標速度に近づける。
【0047】
位置制御部307は、第1切替部321経由で供給された指示信号が示す回転子11の位置を目標位置とし、回転子11の位置を目標位置に近づける位置制御を例えばP(Proportional)制御の手法を用いて行う。回転制御の際には、既に回転子11の初期位置が検出されている。位置制御部307は、その検出された初期位置と、エンコーダ出力取得部304から供給された回転信号が表す回転方向及び回転量から、回転子11の現在の位置を検出する。
【0048】
位置制御部307は、指示信号取得部302から第1切替部321経由で供給された指示信号が示す回転位置(回転子11を停止させる位置)と、検出した回転子11の現在の位置との誤差を算出する。位置制御部307は、算出した誤差を速度制御部306に繰り返し供給し、例えばその誤差が“0”になったら速度を“0”にするように制御させることで、回転位置に回転子11を停止させる。
【0049】
電流検出部312は、
図5に示したモータドライバ部311のハーフブリッジ回路40u、40v、40wの各々に流れている3相の電流iu、iv、iwを取得し、電流変換部313に供給する。そして、電流変換部313は、3相の電流iu、iv、iwを、クラーク変換により2相直交固定座標の電流iα、iβに変換する。さらに、電流変換部313は、パーク変換により、電流iα、iβの固定座標を回転座標に変換したd軸電流id及びq軸電流iqを得る。電流変換部313は、こうして得たq軸電流iqを第2切替部322経由でq軸電流制御部314に供給し、d軸電流idを第3切替部323経由でd軸電流制御部315に供給する。
【0050】
q軸電流制御部314は、電流変換部313から供給されるq軸電流iqを、速度制御部306から供給されたq軸電流の指令値に近づける制御を、例えばPI制御の手法を用いて行う。q軸電流制御部314は、q軸電流iq及びその指令値から求めたq軸電圧Vqの指令値を座標変換部316に供給する。d軸電流制御部315は、電流変換部313から供給されるd軸電流idを、他の制御装置から第3切替部323経由で供給されるd軸電流の指令値に近づける制御を、例えばPI制御の手法を用いて行う。d軸電流制御部315は、d軸電流id及び指令値から求めたd軸電圧の指令値Vdを座標変換部316に供給する。
【0051】
座標変換部316は、回転子11の初期位置が検出済みの場合、エンコーダ出力取得部304から供給された回転信号が示す回転方向及び回転量と回転子11の初期位置とから現在の電気角度を求める。座標変換部316は、求めた電気角度を用いて、q軸電流制御部314から供給されたq軸電圧の指令値と、d軸電流制御部315から供給されたd軸電圧の指令値とを、空間ベクトル変換により各相(U相、V相、W相)の目標電圧値(Vu、Vv、Vw)の座標に変換する。
【0052】
そして、PWM変換部317は、3相の電圧値座標を、PWM信号とした電圧信号に変換し、モータドライバ部311に供給する。
【0053】
続いて、初期の位置合わせにおいて界磁固定制御を行う機能部について説明する。以下では、回転制御と対比して説明する。前述したように、制御切替部320は、第1切替部321、第2切替部322、第3切替部323及び第4切替部324を制御して、各切替部の下流の機能部に供給する情報を、回転制御の場合と界磁固定制御の場合とで切り替える。
【0054】
制御切替部320は、第1切替部321を制御し、回転制御の場合は、指示信号取得部302が取得した回転子11の位置を示す指示信号を下流の位置制御部307に供給させ、初期位置検出における界磁固定制御の場合は、指示信号取得部302が取得した位置を回転子11の初期位置の目標位置として下流の位置制御部307に供給する。
【0055】
制御切替部320は、第2切替部322を制御し、回転制御の場合は、速度制御部306からのq軸電流の指令値及び電流変換部313からのq軸電流iqを下流のq軸電流制御部314に供給させ、初期位置検出における界磁固定制御の場合は、q軸電流の電流値を“0”Aとした指令値を下流のq軸電流制御部314に供給する。
【0056】
制御切替部320は、第3切替部323を制御し、回転制御の場合は、他の制御装置からのd軸電流の指令値及び電流変換部313からのd軸電流idを下流のd軸電流制御部315に供給させ、初期位置検出における界磁固定制御の場合は、d軸電流の電流値を定められた値(ここでは“X”A)にする指令値を下流のd軸電流制御部315に供給する。
【0057】
制御切替部320は、第4切替部324を制御し、回転制御の場合は、エンコーダ出力取得部304からの回転信号を下流の座標変換部316に供給させ、初期位置検出における界磁固定制御の場合は、電気角度を徐々に変化させる指令値を下流の座標変換部316に供給する。
【0058】
指示信号取得部302が、
図7における通信IF35によって実現され、PWM変換部317、エンコーダ出力取得部304及び電流検出部312が、
図7における入出力IFによって実現され、モータドライバ部311を除く他の機能部が、
図7におけるCPU31、ROM32、RAM33によって実現される。なお、破線で囲んだ部分が、制御部の一例である。
【0059】
(界磁固定制御による回転子11の初期の位置合わせ)
次に、第1の実施の形態における回転子11の初期の位置合わせについて説明する。
ブラシレスモータ1の備えるエンコーダ20は、回転信号(A相、B相)をモータ制御装置30に供給する。回転信号(A相、B相)から、モータ10の回転軸14の回転方向及び回転速度が分かる。しかし、前述したように、電源投入時には、モータ10における回転子11の位置は分からない。このため、電源投入時に、モータ制御装置30は、モータ10の回転を制御するために、回転子11の位置と制御のための電気角度とを合わせる。これが、初期の位置合わせである。
【0060】
初期の位置合わせは、
図2に示した固定子12のコイル13に電流を供給して磁界を形成し、回転子11を予め定められた位置に停止させることで行われる。つまり、電気角度を指定し、その電気角度に対応する電流をコイル13に流し、固定子12により磁界(界磁)を形成する。そして、回転子11を電気角度で指定される位置まで回転させて停止させることで、回転子11の位置と制御のための電気角度とを合わせる。しかし、初期の位置合わせを行う電気角度を電圧のゼロクロス付近に指定すると、
図6に示したように、コイル13に流れる電流に誤差が発生しやすい。このため、回転子11が停止する位置に誤差が発生しやすい。つまり、初期の位置合わせにずれが発生してしまう。初期の位置合わせにずれが発生すると、モータ10の駆動において、回転子11の位置制御における誤差の発生に加え、消費電力の増加や回転速度の変動が発生するおそれがある。
【0061】
そこで、第1の実施の形態では、初期の位置合わせを行うために指定する電気角度を、ゼロクロス付近を避けて指定する。このようにすることで、デッドタイムの影響による初期の位置合わせにおけるずれが抑制される。
【0062】
図9は、第1の実施の形態における初期の位置合わせを説明する図である。
図9(a)は、モータ10の各相に流れる電流、
図9(b)は、d軸電流、
図9(c)は、回転子11の位置である。なお、
図9(a)において、縦軸は電流(A)、横軸は電気角度(°)、
図9(b)は、縦軸はd軸電流(A)、横軸は時間、
図9(c)において、縦軸は回転子の位置(°)、横軸は時間である。
図9(
b)、(
c)の横軸において、時間は、時刻t0、t1、t2、…と経過する。
【0063】
前述したように、界磁固定制御による回転子11の初期の位置合わせは、d軸電流を設定して行われる。初期の位置合わせを行う場合、まず、他の制御装置により回転子11を設定したい電気角度が指定される。以下では、他の制御装置により設定される回転子11の電気角度を指令電気角度と表記する。モータ制御装置30は、他の制御装置から指令電気角度を取得すると、回転子11を指令電気角度の位置に設定するために、固定子12のコイル13に電流を流す。このとき、指令電気角度は、
図9(a)に示す破線で囲った部分の電気角度を避けて設定される。なお、避ける電気角度は、U相、V相、W相のいずれかがゼロクロスとなる付近の電気角度である。
【0064】
図9(b)、(c)に示す時刻t0において、初期の位置合わせを行う前の回転子11の位置が一例として180°であったとする。そして、他の制御装置からの回転子11を停止させる指令電気角度を0°とする。ただし、電源投入時において、モータ制御装置30は、回転子11の位置を把握していない。なお、指令電気角度0°は、
図9(a)に示すように、U相、V相、W相のいずれの電流もゼロクロス付近に位置しない。つまり、指令電気角度0°は、ゼロクロスとなる付近の電気角度を避けた電気角度である。
【0065】
そして、モータ制御装置30は、時刻t1において、回転子11の回転速度を設定するためのd軸電流を流し始める。ここでは、d軸電流は、“X”Aである。すると、“X”Aのd軸電流で形成される界磁により、回転子11の位置が180°から0°に向かって回転を始める。そして、回転子11は、時刻t2において、位置が0°になると、回転が停止し、固定される。その後、
図9(
b)に示すように、時刻t3においてd軸電流が0にされる。なお、時刻t1<時刻t2≦時刻t3である。そして、モータ制御装置30は、この回転子11の位置(0°)を制御のための電気角度(0°)として算定する。
【0066】
回転子11が4極、6極、8極など、2極と異なる場合や、固定子12のコイル13の数が、6個、9個、12個など、3個と異なる場合であっても、回転子11の位置は、指令電気角度に対応する位置に固定(界磁固定)される。
【0067】
上記で説明した初期の位置合わせにおいて、回転子11が、位置0°に固定されたか否かは、d軸電流を流し始めた時刻t1から予め設定された時間(ここでは、t2-t1)の経過によって判断してもよく、エンコーダ20による回転子11の回転量から回転の停止を検出することで判断してもよい。
【0068】
さらに、回転子11の初期の位置合わせが終了した後、エンコーダ20からモータ制御装置30が取得した初期の位置合わせの期間(時刻t1から時刻t2までの時間)における回転子11の回転量を逆方向に回転させて、電源投入時(初期の位置合わせを行う前)の位置に回転子11を戻してもよい。このとき、回転子11の電源投入時(初期の位置合わせを行う前)の位置の電気角度は、指令電気角度と回転子11の回転量とから算出される。
【0069】
以上説明したように、第1の実施の形態では、U相、V相、W相のいずれかの電流がゼロクロス付近となる電気角度を避けて、指令電気角度を設定している。例えば、
図9(a)から分かるように、d軸電流における電気角度30°、90°、150°、210°、270°、330°は、U相、V相、W相のいずれかの電流がゼロクロスとなる電気角度である。よって、これらの付近の電気角度を避けて、指令電気角度を設定すればよい。
なお、ゼロクロス付近とは、ゼロクロスとなる電気角度に対して、例えば±10°未満をいう。
【0070】
[第2の実施の形態]
第1の実施の形態では、U相、V相、W相の電流のいずれかゼロクロス付近となる電気角度を避けて指令電気角度を設定して、初期の位置合わせを行った。第2の実施の形態では、指令電気角度としてU相、V相、W相の電流のいずれかが絶対値において最大となる電気角度を指令電気角度として設定して、初期の位置合わせを行う(後述する
図10(a)参照)。他の構成は、第1の実施の形態と同様であるので、説明を省略する。
【0071】
図9(a)に示したように、U相、V相、W相の電流のいずれかが絶対値において最大となる電気角度は、U相電流が負側において最大になる0°、W相電流が正側において最大になる60°、V相電流が負側において最大になる120°、U相電流が正側において最大になる180°、W相電流が負側において最大になる240°、V相電流が正側において最大になる300°が該当する。この電気角度であれば、絶対値が最大になる相以外の相の電流のいずれもがゼロクロス付近にならない。
【0072】
[第3の実施の形態]
第2の実施の形態では、指令電気角度を設定し、その電気角度に回転子11を界磁固定した。第3の実施の形態では、初期の位置合わせにおける回転子11の回転量を少なくする。他の構成は、第1の実施の形態と同様であるので、説明を省略する。
【0073】
図10は、第3の実施の形態における初期の位置合わせを説明する図である。
図10(a)は、モータ10の各相に流れる電流、
図10(b)は、d軸電流、
図10(c)は、回転子11の位置である。なお、
図10(a)において、縦軸は電流(A)、横軸は電気角度(°)、
図10(b)は、縦軸はd軸電流(A)、横軸は時間、
図10(c)において、縦軸は回転子の位置(°)、横軸は時間である。なお、
図10(b)、(c)の横軸に付す時刻t0、t1、t2、…は、
図9(b)、(c)の横軸に付した時刻t0、t1、t2、…と異なる。
【0074】
ここで、初期の位置合わせを行う前(時刻t0)における回転子11の位置は、140°であったとする。そして、指令電気角度は、0°であるとする。なお、指令電気角度0°は、
図10(a)に示すように、U相電流が負側(絶対値)において最大になる電気角度である。
【0075】
そして、モータ制御装置30は、時刻t1において、回転子11の回転速度を設定するためのd軸電流を流し始める。ここでは、d軸電流は、“X”Aである。すると、回転子11は、位置0°に向かって回転を開始する。この場合、回転子11は、140°回転することを要する。ここでは、
図10(a)に示す電気角度と回転子11の位置とは同じである。よって、
図10(a)から分かるように、位置140°から位置0°に向かう方向において、V相電流の絶対値が最大になる電気角度120°が位置140°から最も近い。しかし、電源投入時において、モータ制御装置30は、回転子11の位置を把握していないので、指令電気角度0°に向けて回転子11を回転させてゆく。
【0076】
モータ制御装置30は、エンコーダ20からの回転情報から、回転子11の回転量が60°以上となったことを検知すると、指令電気角度0°に60°を足した60°を新たな指令電気角度として設定し直す。このとき、回転子11の位置は80°となっている。しかし、指令電気角度60°は、先の指令電気角度0°と同じ側にある。よって、回転子11は、これまでと同じ方向に回転して、指令電気角度60°に向かう。そこで、モータ制御装置30は、エンコーダ20からの回転情報から、指令電気角度を設定し直しても回転子11が同じ方向に回転することを検知すると、指令電気角度60°にさらに60°を足した指令電気角度120°を新たな指令電気角度として設定し直す。このとき、回転子11の位置は80°よりさらに小さい側に移動している。よって、指令電気角度120°は、回転子11の位置から逆方向に回転した方向にある。そこで、回転子11は、指令電気角度120°に向かって、これまでと逆方向に回転し始める。そして、指令電気角度120°の位置に界磁固定される。つまり、回転子11の電源投入時(初期の位置合わせを行う前)の位置(この例では、140°)に最も近い位置(この例では、120°)で初期の位置合わせが行われる。そして、モータ制御装置30は、この回転子11の位置を制御のための電気角度として算定する。
【0077】
つまり、3相の場合、各相の電流の絶対値が最大になる電気角度は、
図10(a)に示すように60°間隔である。このため、指令電気角度に向かって回転子11を回転させた場合、回転子11が60°以上回転すると、最も近い電流の絶対値が最大になる電気角度を通り越して、回転子11の初期の位置合わせを行うことになる。そこで、モータ制御装置30は、エンコーダ20からの回転情報から、回転子11が60°超えて回転した場合には、指令電気角度を60°減らす。そして、回転子11の回転方向が逆転するか否かを判断する。回転子11の回転方向が同じである場合、つまり回転方向が逆転しない場合には、さらに指令電気角度を60°減らす。一方、回転方向が逆転した場合には、その指令電気角度を維持して、回転子11の位置を指令電気角度に固定する。この場合、回転子11は、初期の回転子11の位置から最も近い、電流の絶対値が最大になる電気角度に固定される。なお、電源投入時において、エンコーダ20は、電源投入時の回転子11の位置を把握しないが、回転子11の回転による回転速度及び回転方向を検出する。
【0078】
このようにすることで、回転子11に接続された負荷2は、位置合わせをする前の状態から大きくずれた状態になることが抑制される。
【0079】
なお、上記では、指令電気角度が電源投入時(初期の位置合わせを行う前)の回転子11の位置より小さい場合であった。逆に、指令電気角度が電源投入時(初期の位置合わせを行う前)の回転子11の位置より大きい場合には、回転方向が逆になる。
そして、上記における60°は、回転子11が1組の磁極を有し、固定子12が3個であって、モータ10が3相で駆動された場合である。他の構成の場合には、構成に合わせて値を設定すればよい。60°は、回転情報の回転量における予め定められた量の一例である。
【0080】
[第4の実施の形態]
第1の実施の形態から第3の実施の形態では、界磁固定制御による回転子11の初期の位置合わせにおいて、ハイサイドスイッチング素子(pチャネルFET41)とロウサイドスイッチング素子(nチャネルFET42)との同時オンを防止するデッドタイムの影響を抑制した。第4の実施の形態では、
図8における座標変換部316とPWM変換部317との間に、デッ
ドタイム補正部318を設けて、座標変換部316が出力する各相の電圧波形(Vu、Vv、Vw)を補正してPWM変換部317に供給することで、回転制御及び界磁固定制御におけるデッ
ドタイムの影響を抑制する。
【0081】
図11は、第4の実施の形態が適用されるモータ制御装置30Aの機能構成の一例を示す図である。モータ制御装置30Aは、
図8に示した第1の実施の形態が適用されるモータ制御装置30の構成において、座標変換部316とPWM変換部317との間に、デッ
ドタイム補正部318を備えている。他の構成は、第1の実施の形態と同様であるので説明を省略する。
【0082】
デッドタイム補正部318は、座標変換部316から供給された電圧Vu、Vv、Vwを補正して、電圧Vu′、Vv′、Vw′として、PWM変換部317に供給する。さらに、デッドタイム補正部318には、座標変換部316に入力される電気角度φeに関する信号が供給される。
【0083】
図12は、座標変換部316が供給する目標電圧の波形とデッ
ドタイム補正部318が補正した補正電圧の波形とを示す図である。
図12(a)は、座標変換部316が供給する目標電圧(Vu、Vv、Vw)の波形、
図12(b)は、デッ
ドタイム補正部318が補正した補正電圧(Vu′、Vv′、Vw′)の波形である。
図11(a)、(b)において、縦軸は電圧(V)、横軸は電気角度(°)である。なお、
図11(a)、(b)では、3相の内の一相を示している。
【0084】
図12(b)に示すデッ
ドタイム補正部318が補正した補正電圧の波形(Vu′、Vv′、Vw′)は、
図12(a)に示した目標電圧(Vu、Vv、Vw)の波形を、電圧0Vを境界として切り離し、+側及び-側にずらした波形である。このようにすることで、特にゼロクロス付近の電圧が絶対値において大きくなる。これにより、デッ
ドイムによる影響が抑制される。
【0085】
図13は、モータ10の各相に設定された補正電圧(Vu′、Vv′、Vw′)と、モータ10の各相に流れる電流と、モータ10の回転軸14の回転量との関係の一例を示す図である。
図13(a)は、モータ10の各相(U相、V相、W相)に設定された補正電圧(Vu′、Vv′、Vw′)、
図13(b)は、モータ10の各相(U相、V相、W相)に流れる電流、
図13(c)は、モータ10の回転軸14の回転量である。ここで、横軸は、時間である。なお、
図13(c)における一点鎖線は、モータ10の回転軸14の回転量が時間に比例して変化する理想的な場合を示す。
【0086】
図13(a)に示す、モータ10の各相(U相、V相、W相)に設定された補正電圧は、
図12(b)に示したように、ゼロクロス付近において、電圧が+側及び-側にずらされている。つまり、
図6(a)に示したデッ
ドタイム補正をしない場合の電圧波形に比べ、ゼロクロス付近の電圧波形が異なっている。これにより、
図13(b)に示す、上記の目標電圧に対してモータ10の各相(U相、V相、W相)に流れる電流が、正弦波に近似されるようになっている。つまり、
図13(b)において、
図6(a)における電圧Vwが0Vと交差するαの部分、電圧Vuが0Vと交差するβの部分及び電圧Vvが0Vと交差するγの部分の正弦波からのずれが抑制されている。
【0087】
よって、
図13(c)に示すように、回転軸14の回転量は、一点鎖線で示す理想的な回転軸14の回転量に対して、ずれが抑制されている。すなわち、デッ
ドタイム補正部318を設け、座標変換部316から供給される目標電圧Vu、Vv、Vwを補正電圧Vu′、Vv′、Vw′に補正することで、デッ
ドタイムによって、回転子11の位置制御の誤差が発生したり、予め定められた位置に回転子11が位置しないために消費電力が増加したり、回転子11の回転速度に変動が発生したりするおそれが抑制される。
【0088】
図14は、第4の実施の形態が適用されるモータ制御装置30Aにより、モータ10の回転を制御するタイミングチャートを示す図である。横軸は、時間であり、時刻a、b、c、…の順に時間が経過するとする。ここでは、第1の実施の形態で説明した界磁固定制御による回転子11の初期の位置合わせが終了し、時刻aにおいて、他の制御装置により、モータ10の回転の開始(モータON)が指示されたとする。
図14では、上から、他の制御装置からの回転子11の回転速度を指示する指令速度、モータ10の回転の開始を指示するモータON信号、回転子11の位置誤差、モータ10の停止を指示するモータ停止(STOP)信号、目標q軸電流、目標d軸電流及びモータ10の電気角度φeが表記されている。
【0089】
モータ10は、他の制御装置からの指示によるモータON信号により回転制御される。一方、モータ10は、他の制御装置からの指示による指令速度が“0”に設定されることで停止する。このとき、速度制御部306は、モータSTOP信号を座標変換部316に供給する。つまり、モータ10の停止は、指令速度が“0”に設定されるとともに、q軸電流が“0”Aに設定され、d軸電流が“X”Aに設定された界磁制御で行われる。なお、“0”の指令速度は、停止の指令信号の一例であり、他の制御装置から指令速度が“0”に設定されたことは、停止の指令速度を受信したことの一例である。
【0090】
時刻aにおいて、モータON信号により、モータ10の回転が指示されると、指令速度が“0”から徐々に大きく設定される。時刻aの直後においては、回転子11の位置誤差は、指令速度より遅く回転する回転不足となる。回転子11の回転とともに、位置誤差は小さくなる。このとき、目標q軸電流が大きく設定されることで、回転速度が大きくなって、指令速度に到達しやすくなるように制御される。このため、指令速度が一定値に設定される時刻bに近づくと、逆に指令速度より早く回転する過剰回転になる。なお、目標d軸電流は、“0”Aに設定される。
時刻bにおいて、指令速度が一定値に設定されると、目標q軸電流を減らして、過剰回転が指令速度に到達しやすくなるように制御される。
時刻cにおいて、位置誤差が“0”となり、回転子11は、指令速度で回転する。そして、目標q軸電流は、回転子11が指令速度での回転を維持するように、一定の値に維持される。
【0091】
時刻dにおいて、時刻eから始まる停止状態に向けて、指令速度は、徐々に小さくなるように設定される。すると、回転子11の位置誤差は、一旦過剰回転になったのち、再び回転不足になる。このとき、目標d軸電流は、過剰回転を抑制するため、一旦-側に設定されたのち、再び+側に設定される。
【0092】
時刻eにおいて、指令速度が“0”になると、目標q軸電流が“0”Aに設定され、目標d軸電流が予め設定された値になる。つまり、界磁固定制御が行われる。ここでは、回転子11の位置誤差は、回転不足の状態から予め設定された電気角度φeで停止して固定される。
時刻fにおいて、再び指令速度が、徐々に大きくなるように設定されると、時刻aでと同様に、回転子11の回転が開始される。時刻fから時刻kまでは、時刻aから時刻fまでと同様であるので、説明を省略する。
以上説明したように、指令速度によって、回転子11の回転が制御される。ここでは、時刻aから時刻bまでに示すように、目標q軸電流は、回転子11の位置誤差により調整され、回転子11の回転速度が指令速度に速やかに収束するように制御されている。なお、回転子11の回転速度が指令速度に収束する時間が長くなるが、目標q軸電流を一定の値としてもよい。
【0093】
[第5の実施の形態]
第4の実施の形態においては、デッドタイム補正部318は、座標変換部316から供給された目標電圧(Vu、Vv、Vw)を補正電圧(Vu′、Vv′、Vw′)に常に補正して、PWM変換部317に供給した。第5の実施の形態では、デッドタイム補正部318は、モータSTOP信号が供給された場合にのみ、座標変換部316から供給された目標電圧(Vu、Vv、Vw)を補正電圧(Vu′、Vv′、Vw′)に補正して、PWM変換部317に供給する。
【0094】
図15は、第5の実施の形態が適用されるモータ制御装置30Bの機能構成の一例を示す図である。モータ制御装置30Bは、
図11に示した第4の実施の形態が適用されるモータ制御装置30Aの構成において、デッ
ドタイム補正部318が速度制御部306からモータSTOP信号を供給されるようになっている。他の構成は、第4の実施の形態と同様であるので説明を省略する。
【0095】
このようにすることで、回転制御の場合には、デッドタイム補正部318による電圧の補正を行なわず、座標変換部316から供給された目標電圧(Vu、Vv、Vw)をPWM変換部317に供給する。そして、速度制御部306からモータSTOP信号が供給された場合に、座標変換部316から供給された目標電圧(Vu、Vv、Vw)を補正電圧(Vu′、Vv′、Vw′)に補正して、PWM変換部317に供給する。このようにすることで、モータ制御装置30におけるCPU31の負荷が小さくなる。つまり、モータSTOP信号の有無に関わらずデッドタイム補正を行なおうとすると、補正電圧(Vu′、Vv′、Vw′)を目標電圧(Vu、Vv、Vw)の時間変化に追従させて生成することになる。しかし、モータSTOP信号が供給されているモータ10を停止させる場合には目標電圧(Vu、Vv、Vw)が固定されるため、補正電圧(Vu′、Vv′、Vw′)に補正しやすい。つまり、高速動作する高価なCPU31を用いなくとも、デッドタイム補正が行える。
【0096】
[第6の実施の形態]
第5の実施の形態においては、モータSTOP信号が供給された場合にのみ、デッドタイム補正部318は、座標変換部316から供給された目標電圧(Vu、Vv、Vw)を補正電圧(Vu′、Vv′、Vw′)に補正して、PWM変換部317に供給した。第6の実施の形態では、モータ10の回転速度が予め定められた速度以下になった場合にのみ、デッドタイム補正部318は、座標変換部316から供給された電圧(Vu、Vv、Vw)を電圧(Vu′、Vv′、Vw′)に補正して、PWM変換部317に供給する。
【0097】
図16は、第6の実施の形態が適用されるモータ制御装置30Cの機能構成の一例を示す図である。モータ制御装置30Cは、
図15に示した第5の実施の形態が適用されるモータ制御装置30Bの構成において、回転速度判定部308を備える。回転速度判定部308は、回転速度算出部305から供給される回転子11の回転速度(ここでは、Rとする。)が予め定められた回転速度(ここでは、Rthとする。)以下(R≦Rth)であることを示す回転速度信号をデッ
ドタイム補正部318に供給する。デッ
ドタイム補正部318は、回転速度信号が供給された場合のみ、座標変換部316から供給された目標電圧(Vu、Vv、Vw)を補正電圧(Vu′、Vv′、Vw′)に補正して、PWM変換部317に供給する。なお、回転速度信号は、回転子11の回転速度(R)が予め定められた回転速度(Rth)未満(R<Rth)の場合に供給されてもよい。
【0098】
このようにすることで、回転子11の回転速度(R)が、予め定められた回転速度(Rth)を超える場合には、デッドタイム補正部318による電圧の補正を行なわず、座標変換部316から供給された目標電圧(Vu、Vv、Vw)をPWM変換部317に供給する。そして、回転子11の回転速度(R)が、予め定められた回転速度(Rth)以下又は未満の場合に、座標変換部316から供給された目標電圧(Vu、Vv、Vw)を補正電圧(Vu′、Vv′、Vw′)に補正して、PWM変換部317に供給する。このようにすることで、モータ制御装置30CにおけるCPU31の負荷が小さくなる。つまり、回転速度が低い場合は、高い場合に比べ、目標電圧(Vu、Vv、Vw)の時間変化が緩やかになる。よって、目標電圧(Vu、Vv、Vw)の時間変化が緩やかであれば、補正電圧(Vu′、Vv′、Vw′)への補正がしやすい。つまり、CPU31として、高速動作する高価なCPUを用いなくとも、デッドタイム補正が行える。
【0099】
[第7の実施の形態]
第4の実施の形態では、回転子11は、停止状態において予め設定された電気角度φeの位置に固定されるとした。しかし、負荷2などの影響により、停止した位置が設定された電気角度φeの位置と異なる場合がある。第7の実施の形態では、回転子11が停止した位置が、電気角度φeの位置と異なる場合に、電気角度を補正する。
【0100】
図17は、第7の実施の形態が適用されるモータ制御装置30Dの機能構成の一例を示す図である。モータ制御装置30Dは、
図11に示した第4の実施の形態が適用されるモータ制御装置30Aの構成において、補正電気角度算出部309を備える。補正電気角度算出部309は、エンコーダ出力取得部304から得られた回転子11の停止した位置にずれ(Δφeとする。)があった場合、電気角度のずれ(Δφe)を補正(-Δφe)した補正電気角度φe′をデッ
ドタイム補正部318に供給する。すると、デッ
ドタイム補正部318は、電気角度を補正電気角度φe′に置き換える。
【0101】
図18は、第7の実施の形態が適用されるモータ制御装置30Dにより、モータ10の回転を制御するタイミングチャートを示す図である。横軸は、時間である。
図18のタイミングチャートは、
図14のタイミングチャートにおいて、時刻eと時刻fとの間を除いて、同じである。よって、時刻eと時刻fとの間を説明し、他の部分の説明を省略する。ここでは、時刻eと時刻fとの間に時刻e1を設けている。
【0102】
時刻eにおいて、指令速度が“0”になると、回転子11が停止状態に移行する。すると、回転子11が停止した位置が、指定された位置と電気角度でΔφeずれていたとする。つまり、停止位置に電気角度でΔφeの誤差が生じていた。そこで、補正電気角度算出部309は、電気角度φeを-Δφe補正した電気角度φe′であることを算出し、デッドタイム補正部318に供給する。これにより、電気角度φeが電気角度φe′に補正され、以後の回転子11の回転制御に影響することが抑制される。なお、停止位置に誤差がある状態で、時刻fからの回転制御を行うと、回転子11の位置に誤差が生じたままの状態で制御されることになってしまう。
【0103】
[第8の実施の形態]
第5の実施の形態から第7の実施の形態では、回転子11の停止状態において、d軸電流を流し続けた。しかし、回転子11の停止状態が維持されれば、d軸電流を流し続けることを要しない。第8の実施の形態では、回転子11が停止状態になった後に、d軸電流を低減する。
【0104】
図19は、第8の実施の形態が適用されるモータ制御装置30Eの機能構成の一例を示す図である。モータ制御装置30Eは、
図11に示した第4の実施の形態が適用されるモータ制御装置30Aの構成において、d軸電流調整部310を備える。d軸電流調整部310には、第3切替部323を経由してd軸電流が供給されるとともに、第4切替部324を経由して電気角度φeが供給される。そこで、停止状態における回転子11の位置が電気角度φeで指定された位置にある場合には、低減したd軸電流をデッ
ドタイム補正部318に供給する。回転子11の位置が電気角度φeで指定された位置にある場合とは、予め定められた範囲以下、又は予め定められた範囲未満にある場合を含む。
【0105】
図20は、第8の実施の形態が適用されるモータ制御装置30Eにより、モータ10の回転を制御するタイミングチャートを示す図である。横軸は、時間である。
図20のタイミングチャートは、
図14のタイミングチャートにおいて、時刻eと時刻fとの間及び時刻jと時刻kとの間を除いて、同じである。よって、時刻eと時刻fとの間及び時刻jと時刻kとの間を説明し、他の部分の説明を省略する。ここでは、時刻eと時刻fとの間に時刻e1、e2、e3、e4を設け、時刻jと時刻kとの間に、時刻j1、j2を設けている。
【0106】
時刻eにおいて、指令速度が“0”になると、回転子11が停止状態に移行する。時刻e1において、回転子11に位置誤差があるため、d軸電流調整部310は、回転子11を停止状態に移行させたd軸電流を維持する。時刻e2において、位置誤差が予め定められた範囲以下又は未満になると、d軸電流調整部310は、d軸電流を徐々に小さくする(減少させる)。しかし、時刻e3において、位置誤差が予め定められた範囲を超え又は以上になると、d軸電流調整部310は、d軸電流を徐々に大きくする(増加させる)。これにより、位置誤差が小さくなる。そして、時刻e4において、d軸電流調整部310は、その時のd軸電流を維持する。
【0107】
同様に、時刻jにおいても、指令速度が“0”になると、回転子11が停止状態に移行する。時刻j1において、回転子11に位置誤差が予め定められた範囲以下又は未満なると、d軸電流調整部310は、d軸電流を徐々に小さくする(減少させる)。このとき、時刻j2において、位置誤差が発生しないため、d軸電流調整部310は、d軸電流を“0”Aに設定する。
【0108】
以上説明したように、d軸電流調整部310は、回転子11を停止状態に移行させる際、回転子11の位置誤差(電気角度φeのずれ)により、d軸電流を変化させている。例えば、d軸電流調整部310は、回転子11の位置誤差が予め定められた範囲以下又は未満になれば、d軸電流を“0”Aにしてもよい。また、停止状態において、回転子11に位置誤差が予め定められた範囲を超え又は以上になれば、d軸電流を大きくして回転子11の位置誤差が小さくなるようにしてもよい。さらに、回転子11の位置誤差が予め定められた範囲以下又は未満になれば、停止状態に移行する際のd軸電流より、d軸電流を小さくしてもよい。このようにすることで、モータ制御装置30の消費電流が抑制される。なお、位置誤差の予め定められた範囲とは、必ずしも“0”でなくともよく、許容される誤差の範囲をいう。
【0109】
以上説明した第5の実施の形態から第8の実施の形態をいくつか組み合わせて用いてもよい。
【符号の説明】
【0110】
1…ブラシレスモータ、2…負荷、10…モータ、11…回転子、12…固定子、13…コイル、14…回転軸、20…エンコーダ、30、30A、30B、30C、30D、30E…モータ制御装置、40…ハーフブリッジ回路、41…pチャネルFET、42…nチャネルFET、301…タイマ制御部、302…指示信号取得部、303…目標速度設定部、304…エンコーダ出力取得部、305…回転速度算出部、306…速度制御部、307…位置制御部、308…回転速度判定部、309…補正電気角度算出部、310…d軸電流調整部、311…モータドライバ部、312…電流検出部、313…電流変換部、314…q軸電流制御部、315…d軸電流制御部、316…座標変換部、317…PWM変換部、318…デッドタイム補正部、320…制御切替部、321…第1切替部、322…第2切替部、323…第3切替部、324…第4切替部