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特許7388114重合性組成物、重合物、レンズ、コーティング剤、化合物の製造方法および化合物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-20
(45)【発行日】2023-11-29
(54)【発明の名称】重合性組成物、重合物、レンズ、コーティング剤、化合物の製造方法および化合物
(51)【国際特許分類】
   C08G 18/76 20060101AFI20231121BHJP
   C07C 263/10 20060101ALI20231121BHJP
   C07C 265/14 20060101ALI20231121BHJP
   G02B 1/04 20060101ALI20231121BHJP
   C09D 175/04 20060101ALI20231121BHJP
【FI】
C08G18/76 014
C07C263/10
C07C265/14
G02B1/04
C09D175/04
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2019187675
(22)【出願日】2019-10-11
(65)【公開番号】P2021063163
(43)【公開日】2021-04-22
【審査請求日】2022-08-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼野 与一
【審査官】常見 優
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第03507834(US,A)
【文献】特開2005-124808(JP,A)
【文献】特開2012-011326(JP,A)
【文献】米国特許第02723265(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 18/00- 18/87
C08G 71/00- 71/04
C07B 31/00- 63/04
C07C 1/00-409/44
C08L 1/00-101/16
C08K 3/00- 13/08
G02B 1/04
C09D 175/04
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1-1)で表される化合物と、ポリオールおよびポリチオールの少なくとも一方を含む、重合性組成物。
【化1】
(式(1-1)中、RA~RDのうち少なくとも2つは、エチル基であり、それら以外のRA~RDは、水素原子である。)
【請求項2】
(1)で表される化合物と、ポリオールおよびポリチオールの少なくとも一方を含む、重合性組成物。
【化2】
(式(1)中、R A ~R D のうち少なくとも2つは、エチル基であり、それら以外のR A ~R D は、水素原子であり、かつ、A~RDのうち少なくとも1つが、水素原子である。)
【請求項3】
前記式(1-1)で表される化合物が、式(2)で表される化合物を含む、請求項1に記載の重合性組成物。
【化3】
【請求項4】
前記式(1-1)で表される化合物が、式(3)で表される化合物を含む、請求項1または3に記載の重合性組成物。
【化4】
【請求項5】
前記式(1)で表される化合物が、式(3)で表される化合物を含む、請求項2に記載の重合性組成物。
【化5】
【請求項6】
請求項1~のいずれか1項に記載の重合性組成物から形成された重合物。
【請求項7】
請求項に記載の重合物を含むレンズ。
【請求項8】
請求項に記載の重合物を含むコーティング剤。
【請求項9】
式(4)で表される化合物に対して、ホスゲンを反応させることを含む、イソシアネート化合物の製造方法。
【化6】
(式(4)中、RA~RDのうち少なくとも2つは、エチル基であり、それら以外のRA~RDは、水素原子である。)
【請求項10】
式(4)で表される化合物が、式(4-1)で表される化合物を含む、請求項に記載のイソシアネート化合物の製造方法。
【化7】
(式(4-1)中、RA~RDのうち少なくとも2つは、エチル基であり、それら以外のRA~RDは、水素原子である。)
【請求項11】
(1-1)で表される化合物。
【化8】
(式(1-1)中、RA~RDのうち少なくとも2つは、エチル基であり、それら以外のRA~RDは、水素原子である。)
【請求項12】
(1)で表される化合物。
【化9】
(式(1)中、R A ~R D のうち少なくとも2つは、エチル基であり、それら以外のR A ~R D は、水素原子であり、かつ、A~RDのうち少なくとも1つが、水素原子である。)
【請求項13】
式(1-1)で表される化合物が、式(2)で表される化合物である、請求項11に記載の化合物。
【化10】
【請求項14】
式(1-1)で表される化合物が、式(3)で表される化合物である、請求項11に記載の化合物。
【化11】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重合性組成物、重合物、レンズ、コーティング剤、化合物の製造方法および化合物に関する。特に、イソシアネート化合物を用いた重合性組成物等に関する。
【背景技術】
【0002】
イソシアネート化合物は、少なくとも1つのイソシアネート基(-NCO)を有する化合物であって、各種用途に広く用いられている。イソシアネート化合物の用途の一例としては、ポリウレタンおよびポリチオウレタンの原料が挙げられる。
一方、イソシアネート化合物に関連する技術としては、特許文献1が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2015/025773号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、イソシアネート化合物の需要が拡大している。そのため、新たなイソシアネート化合物が求められるようになっている。そして、新たなイソシアネート化合物は、その特性に応じ、各種工業材料として、色々な用途への展開が期待される。
かかる状況のもと、本発明では、新規なイソシアネート化合物、および、これを用いた重合性組成物、重合物、レンズ、コーティング剤、ならびに、イソシアネート化合物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題のもと、検討を行った結果、下記手段により、上記課題は解決された。
<1>式(1)で表される化合物と、ポリオールおよびポリチオールの少なくとも一方を含む、重合性組成物。
【化1】
(式(1)中、RA~RDのうち少なくとも2つは、エチル基であり、それら以外のRA~RDは、水素原子である。)
<2>前記式(1)で表される化合物が、式(1-1)で表される化合物を含む、<1>に記載の重合性組成物。
【化2】
(式(1-1)中、RA~RDのうち少なくとも2つは、エチル基であり、それら以外のRA~RDは、水素原子である。)
<3>前記式(1)で表される化合物として、前記式(1)において、RA~RDのうち少なくとも1つが、水素原子である化合物を含む、<1>または<2>に記載の重合性組成物。
<4>前記式(1)で表される化合物が、式(2)で表される化合物を含む、<1>~<3>のいずれか1つに記載の重合性組成物。
【化3】
<5>前記式(1)で表される化合物が、式(3)で表される化合物を含む、<1>~<4>のいずれか1つに記載の重合性組成物。
【化4】
<6><1>~<5>のいずれか1つに記載の重合性組成物から形成された重合物。
<7><6>に記載の重合物を含むレンズ。
<8><6>に記載の重合物を含むコーティング剤。
<9>式(4)で表される化合物に対して、ホスゲンを反応させることを含む、イソシアネート化合物の製造方法。
【化5】
(式(4)中、RA~RDのうち少なくとも2つは、エチル基であり、それら以外のRA~RDは、水素原子である。)
<10>式(4)で表される化合物が、式(4-1)で表される化合物を含む、<9>に記載のイソシアネート化合物の製造方法。
【化6】
(式(4-1)中、RA~RDのうち少なくとも2つは、エチル基であり、それら以外のRA~RDは、水素原子である。)
<11>式(1)で表される化合物。
【化7】
(式(1)中、RA~RDのうち少なくとも2つは、エチル基であり、それら以外のRA~RDは、水素原子である。)
<12>式(1)で表される化合物が、式(1-1)で表される化合物である、<11>に記載の化合物。
【化8】
(式(1-1)中、RA~RDのうち少なくとも2つは、エチル基であり、それら以外のRA~RDは、水素原子である。)
<13>前記式(1)で表される化合物は、前記式(1)において、RA~RDのうち少なくとも1つが、水素原子である化合物である、<11>に記載の化合物。
<14>式(1)で表される化合物が、式(2)で表される化合物である、<11>に記載の化合物。
【化9】
<15>式(1)で表される化合物が、式(3)で表される化合物である、<11>に記載の化合物。
【化10】
【発明の効果】
【0006】
本発明により、新規なイソシアネート化合物、および、これを用いた重合性組成物、重合物、レンズ、コーティング剤、ならびに、イソシアネート化合物の製造方法を提供可能になった。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下において、本発明の内容について詳細に説明する。なお、本明細書において「~」とはその前後に記載される数値を下限値および上限値として含む意味で使用される。
本明細書において、各種物性値および特性値は、特に述べない限り、23℃におけるものとする。
【0008】
[式(1)で表される化合物]
本発明の化合物は、式(1)で表される化合物である。このような新規なイソシアネート化合物を用いることにより、各種用途への応用が期待できる。特に、ポリウレタンやポリチオウレタンの原料として期待される。
【化11】
(式(1)中、RA~RDのうち少なくとも2つは、エチル基であり、それら以外のRA~RDは、水素原子である。)
【0009】
式(1)で表される化合物は、式(1-1)で表される化合物であることが好ましい。
【化12】
(式(1-1)中、RA~RDのうち少なくとも2つは、エチル基であり、それら以外のRA~RDは、水素原子である。)
【0010】
式(1)および式(1-1)の好ましい実施形態の一例は、RA~RDのうち3つまたは4つは、エチル基であり、それら以外のRA~RDは、水素原子である。エチル基の置換率を高くすることにより、立体障害によりイソシアネート基の反応性を低下させ水との反応をより効果的に抑制できる。
式(1)および式(1-1)の好ましい他の実施形態の一例は、RA~RDのうち少なくとも2つは、エチル基であり、RA~RDのうち少なくとも1つは、水素原子である。水素原子を少なくとも1つ含む構成とすることにより、イソシアネート基の反応性が向上し、水中でのハンドリング性とアルコール、チオール類との反応性のバランスが良好になる傾向にある。
【0011】
式(1)で表される化合物は、式(2)で表される化合物であることが好ましい。
【化13】
式(1)で表される化合物は、また、式(3)で表される化合物であることも好ましい。
【化14】
【0012】
また、式(1)で表される化合物は、以下の化合物であることも好ましい。
【化15】
【0013】
また、式(1)で表される化合物は、2種以上の混合物であってもよい。
式(1)で表される化合物が混合物である場合、式(1)で表される化合物であって、RA~RDのうち、3つまたは4つがエチル基である化合物の合計割合が、式(1)で表される化合物の合計量の80質量%以上(好ましくは90質量%以上)である混合物が例示される。
さらには、式(1)で表される化合物であって、RA~RDのうち、3つがエチル基である化合物の合計割合が、式(1)で表される化合物の合計量の80質量%以上(好ましくは90質量%以上)である混合物が例示される。
また、式(1)で表される化合物であって、RA~RDのうち、4つがエチル基である化合物の合計割合が、式(1)で表される化合物の合計量の80質量%以上(好ましくは90質量%以上)である混合物が例示される。
【0014】
[イソシアネート化合物の製造方法]
上記式(1)で表される化合物は、公知の方法で製造できる。イソシアネート化合物の製造方法としては、例えば、式(4)で表される化合物に対して、ホスゲンを反応させることを含む製造方法が挙げられる。
【化16】
(式(4)中、RA~RDのうち少なくとも2つは、エチル基であり、それら以外のRA~RDは、水素原子である。)
【0015】
まず、式(4)で表される化合物について説明する。
式(4)で表される化合物は、原料ジアミンであり、式(4)におけるRA~RDは、式(1)におけるRA~RDと同義であり、好ましい範囲も同様である。
式(4)で表される化合物は、式(4-1)で表される化合物であることが好ましい。
【化17】
(式(4-1)中、RA~RDのうち少なくとも2つは、エチル基であり、それら以外のRA~RDは、水素原子である。)
式(4-1)中、RA~RDは、式(1)におけるRA~RDと同義であり、好ましい範囲も同様である。
【0016】
式(4)で表される化合物は、例えば、キシリレンジアミン(好ましくはメタキシリレンジアミン)に、塩基の存在下で、エチレンを充填して、エチレン化することにより得られる。前記エチレン充填時の反応液の温度は0~10℃が好ましい。また、エチレンの充填圧力が1.5~2.3MPaであることが好ましい。
前記塩基は、炭酸ルビジウム、水酸化ルビジウム、炭酸セシウム、および、水酸化セシウムからなる群より選択される1種以上のアルカリ金属含有化合物と、金属ナトリウムとを含有する塩基組成物であることが好ましい。上記塩基組成物における、アルカリ金属含有化合物と、金属ナトリウムとを含有する塩基組成物は、さらに、アルカリ土類金属含有化合物(周期表第2元素を含有する化合物)を含有することが好ましい。アルカリ土類金属含有化合物(C)は、Mc(OH)2、McCO3、McO(Mcはアルカリ土類金属)がより好ましく、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、および、炭酸マグネシウムからなる群より選択される1種以上のアルカリ土類金属含有化合物を含有することがさらに好ましい。アルカリ土類金属含有化合物を含有することにより、塩基組成物のべたつきを抑え、ハンドリング性を向上することができる。
式(4)で表される化合物を、上記のような製造方法で製造するにより、芳香環に結合しているアルキル基のα位の炭素原子のエチレン化率の高いジアミンが得られ、結果として、エチレン化率の高いイソシアネート化合物が得られる。
式(4)で表される化合物としては、以下の化合物が例示される。
【化18】
【0017】
また、本発明の製造方法において、式(4)で表される化合物は、1種のみ用いてもよいし、2種以上の混合物を用いてもよい。
式(4)で表される化合物が混合物である場合、式(4)で表される化合物であって、RA~RDのうち、3つまたは4つがエチル基である化合物の合計割合が、式(4)で表される化合物の合計量の80質量%以上(好ましくは90質量%以上)である混合物が例示される。
さらには、式(4)で表される化合物であって、RA~RDのうち、3つがエチル基である化合物の合計割合が、式(4)で表される化合物の合計量の80質量%以上(好ましくは90質量%以上)である混合物が例示される。
また、式(4)で表される化合物であって、RA~RDのうち、4つがエチル基である化合物の合計割合が、式(4)で表される化合物の合計量の80質量%以上(好ましくは90質量%以上)である混合物が例示される。
【0018】
次に、式(4)で表される化合物とホスゲンの反応について述べる。
本発明では、式(4)で表される化合物に、ホスゲンを反応させて、式(1)で表される化合物を得ることができる。例えば、式(4)で表される化合物と、塩酸を溶剤中で反応させて式(4)で表される化合物と塩酸の塩を得て、その後、これをホスゲンと反応させて式(1)で表される化合物を合成することができる。溶剤としては、芳香族系溶剤やエステル系溶剤が例示され、芳香族系溶剤が好ましく、キシレンがより好ましい。
式(4)で表される化合物とホスゲンの反応は、例えば、100~170℃で行うことができる。
【0019】
また、本発明では、式(1)で表される化合物は、非ホスゲン法で製造してもよい。例えば、式(4)で表される化合物を、ハロゲン化アルキルクロロホルメート、ハロゲン化ジアルキルクロロカーボネートおよびジアルキルカーボネートの少なくとも1種と反応させてビスカルバメートを調製し、その後、これを触媒の存在中、130~250℃の温度で、溶剤中において熱分解させ、式(1)で表される化合物を合成してもよい。
【0020】
[重合性組成物]
式(1)で表される化合物は、ポリオールやポリチオールと共に重合性組成物として用いることができる。すなわち、本発明は、式(1)で表される化合物と、ポリオールおよびポリチオールの少なくとも一方を含む、重合性組成物に関する。
【0021】
重合性組成物に含まれる式(1)で表される化合物の好ましい範囲は、上記[式(1)で表される化合物]で述べた事項と同様である。
重合性組成物に含まれる式(1)で表される化合物の含有量は、溶剤を除く成分中、下限値が、30質量%以上であることが好ましく、35質量%以上であることがより好ましい。また、前記式(1)で表される化合物の含有量の上限値は、溶剤を除く成分中、55質量%以下であることが好ましく、40質量%以下であることがより好ましい。
重合性組成物には、式(1)で表される化合物が1種のみ含まれていてもよいし、2種以上含まれていてもよい。2種以上含まれている場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0022】
重合性組成物に含まれうるポリオールとしては、1分子中に水酸基を2以上有する化合物であり、一分子中に水酸基を2~6有する化合物が好ましい。ポリオールは、2つ以上の水酸基を有する低分子化合物であってもよいし、2つ以上の水酸基を有するオリゴマーまたはポリマーであってもよい。
ポリオールとしては、具体的には、ポリアルキレングリコール、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール等が例示される。また、ポリオールとしては、国際公開第2018/061658号の段落0026~0037、国際公開第2018/021394号の段落0134~0233の記載を参酌でき、これらの内容は本明細書に組み込まれる。
【0023】
重合性組成物に含まれるうるポリチオールとしては、1分子中にメルカプト基を2以上有する化合物であり、一分子中にメルカプト基を2~6有する化合物が好ましい。
ポリチオールとしては、具体的には、ヘキサンジチオール、デカンジチオール、1,4-ブタンジオールビスチオプロピオネート、1,4-ブタンジオールビスチオグリコレート、エチレングリコールビスチオグリコレート、エチレングリコールビスチオプロピオネート、トリメチロールプロパントリスチオグリコレート、トリメチロールプロパントリスチオプロピオネート、トリメチロールプロパントリス(3-メルカプトブチレート)、ペンタエリスリトールテトラキスチオグリコレート、ペンタエリスリトールテトラキスチオプロピオネート、トリメルカプトプロピオン酸トリス(2-ヒドロキシエチル)イソシアヌレート、1,4-ジメチルメルカプトベンゼン、2、4、6-トリメルカプト-s-トリアジン、2-(N,N-ジブチルアミノ)-4,6-ジメルカプト-s-トリアジンなどが挙げられる。また、ポリチオールとしては、特開2019-119860号公報の段落0020~0041の記載、特開2017-211547号公報の段落0078~0081を参酌でき、これらの内容は本明細書に組み込まれる。
【0024】
重合性組成物に含まれるポリオールおよび/またはポリチオールの含有量は、下限値が、30質量%以上であることが好ましく、35質量%以上であることがより好ましい。また、前記ポリオールおよび/またはポリチオールの含有量の上限値は、55質量%以下であることが好ましく、40質量%以下であることがより好ましい。
重合性組成物には、ポリオールおよびポリチオールのいずれか1種のみ含まれていてもよいし、2種以上含まれていてもよい。また、ポリオールとポリチオールの混合物であってもよい。本発明の重合性組成物にポリオールおよび/またはポリチオールが2種以上含まれている場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0025】
重合性組成物に含まれる式(1)で表される化合物と、ポリオールおよび/またはポリチオールの総量の質量比は、1:0.1~3.0であることが好ましく、1:0.5~1.5であることがより好ましい。このような範囲とすることにより、より良好な特性を有する重合物が得られる。
【0026】
重合性組成物は、上記の他、ウレタン化触媒、チオウレタン化触媒、重合開始剤、重合禁止剤、鎖延長剤等を含んでいてもよい。また、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、式(1)で表される化合物以外のイソシアネート化合物を含んでいてもよい。
ウレタン化触媒およびチオウレタン化触媒としては、アミン系触媒、イミダゾール系触媒、ジアザシクロアミン塩系触媒、金属系触媒等が例示される。ウレタン化触媒およびチオウレタン化触媒の具体例は、特開2019-143150号公報の段落0034~0037の記載、特開2016-222050号公報の段落0130~0132の記載を参酌でき、これらの内容は本明細書に組み込まれる。
式(1)で表される化合物以外のイソシアネート化合物としては、国際公開第2017/208959号の段落0035~0037の記載を参酌でき、この内容は本明細書に組み込まれる。
【0027】
さらに、重合性組成物の用途に応じて、重合性組成物には、熱安定剤や光安定剤などの安定剤、可塑剤、無機充填剤、滑剤、着色剤、シリコンオイル、発泡剤、難燃剤、表面調整剤、溶剤、バインダー、フィラー、顔料分散剤、導電性付与剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、乾燥防止剤、浸透剤、pH調整剤、金属封鎖剤、防菌防かび剤、界面活性剤、可塑剤、ワックス、レベリング剤の添加剤を配合してもよい。
【0028】
[重合物]
本発明は、上記重合性組成物から形成された重合物にも関する。前記重合物の例には、ポリウレタン、ポリチオウレタンが含まれる。
重合性組成物を用いて重合物を製造する方法としては、公知のポリウレタンまたはポリチオウレタンの製造方法が採用できる。本発明では、重合性組成物を所望の型に適用して、成形加工することが好ましい。成形加工法としては、例えば、注型成形法、射出成形法、トランスファー成形法、などがあげられる。また、特開2019-131711号公報の段落0046~0047の記載を参酌でき、この内容は本明細書に組み込まれる。
【0029】
本発明の重合物は、例えば、レンズ、コーティング剤、ポリウレタンエラストマー、接着剤、フォーム、バインダー、弾性繊維、合成皮革、人工皮革、シーリング材、防水材、床材等に用いられ、レンズおよびコーティング剤に好ましく用いられる。
本発明の重合物をレンズに用いる場合、特開2017-095695号公報の記載を参酌でき、これらの内容は本明細書に組み込まれる。
本発明の重合物をコーティング材料に用いる場合、特開2015-206017号公報の記載を参酌でき、これらの内容は本明細書に組み込まれる、
【実施例
【0030】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り、適宜、変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例に限定されるものではない。
【0031】
イソシアネート化合物の分析は以下の方法にて行った。
<イソシアネート化合物の分析>
(1)ガスクロマトグラフィー(以下、「GC分析」ということがある)
装置:島津製作所製社製、GC-2025
カラム:アジレント・テクノロジー社製、CP-Sil8CBforAmines(0.25μm×0.25mm×30m)
カラム温度:80℃で2分間維持した後、8℃/分の速度で昇温し、150℃に達した後、5分間維持し、15℃/分の速度で昇温し、300℃に達した後、5分間維持した。
(2)飛行時間形質量分析(以下、「TOFMS分析」ということがある)
装置:日本電子社製、AccuTOF GCX
イオン化手法:FI+
(3)核磁気共鳴吸収法(1H-NMR、13C-NMR)
装置:BRUKER製、核磁気共鳴装置AVANCEII600MHz
重水素置換クロロホルム溶剤中で測定を行った。尚、後述のδ(ppm)は次式で表される化学シフトを示す。
δ(ppm)=106×(νS-νR)/νR
νS:試料の共鳴周波数(Hz)
νR:標準物質のトリメチルシラン(TMS)の共鳴周波数(Hz)
(4)赤外線(IR)スペクトル分析
装置:FT/IR-4100typeA
合成反応後溶剤を留去した粗生成物についてATR法を用いて、分析を実施した。
【0032】
(塩基組成物の調製)
磁気撹拌子を備えた200mLのナスフラスコに窒素雰囲気下で、炭酸セシウム(Cs2CO3、富士フイルム和光純薬社製)23.375g、金属ナトリウム(Na、富士フイルム和光純薬社製)1.65g、酸化マグネシウム(MgO、富士フイルム和光純薬社製)17.6gを仕込んだ。このナスフラスコをアルミブロックヒータースターラーに設置して、250℃で、1時間加熱撹拌した後に、アルミブロックヒータースターラーから取り外した。上記ナスフラスコを空冷で室温まで冷却して、塩基組成物を得た。
【0033】
(合成例1:α,α,α’,α’-テトラエチルメタキシリレンジアミンの合成)
冷却水循環ジャケット、撹拌翼を備えた500mLオートクレーブにアルゴン雰囲気下で、上記で得られた塩基組成物12.2g、および、テトラヒドロフラン(富士フイルム和光純薬社製、超脱水、安定剤不含グレード)25mLを入れた後、ジャケットに-5℃の冷媒を循環させ、内溶液温度を10℃とした。液温が1℃になるように氷冷した13.2gのα,α,α’-トリエチルメタキシリレンジアミンと80mLのテトラヒドロフランからなる原料溶液を窒素ガスの圧力によりオートクレーブ内に導入しジャケットに冷媒を循環させながら15分間700rpmで撹拌した。撹拌を継続しながらオートクレーブをエチレンガスボンベに接続し、エチレンガス(ジャパンファインプロダクツ社製、エチレン純度:99.9体積%超)を1.8MPaの圧力で充填した。冷媒の温度を20℃に変更し、24時間撹拌を継続し反応を行った。反応液に53mLのイソプロピルアルコールを加えて反応を停止し、No.5C桐山ろ紙で塩基組成物残渣を取り除いた。ろ液に300mLのクロロホルム(富士フイルム和光純薬社製)と200mLの純水を加えて、分液操作を行った後、有機層側を回収、エバポレーターを用いて溶剤を留去することで15.6gの粗生成物を得た。粗生成物を原料に120Paの減圧条件下で単蒸留を行い純度92%のα,α,α’,α’-テトラエチルメタキシリレンジアミンを得た。
【0034】
(合成例2:α,α,α’-トリエチルメタキシリレンジアミンの合成)
冷却水循環ジャケット、撹拌翼を備えた500mLオートクレーブにアルゴン雰囲気下で、上記で得られた塩基組成物19.2g、および、テトラヒドロフラン(富士フイルム和光純薬社製、超脱水、安定剤不含グレード)30mLを入れた後、ジャケットに-5℃の冷媒を循環させ、内溶液温度を6℃とした。液温が1℃になるように氷冷した13.2gのメタキシリレンジアミン(東京化成工業社製)と75mLのテトラヒドロフランからなる原料溶液を窒素ガスの圧力によりオートクレーブ内に導入し、ジャケットに冷媒を循環させながら15分間700rpmで撹拌した。撹拌を継続しながらオートクレーブをエチレンガスボンベに接続し、エチレンガス(ジャパンファインプロダクツ社製、エチレン純度:99.9体積%超)を1.8MPaの圧力で充填した。冷媒の温度を20℃に変更し、24時間撹拌を継続し反応を行った。反応液に53mLのイソプロピルアルコールを加えて反応を停止し、No.5C桐山ろ紙で塩基組成物残渣を取り除いた。ろ液に300mLのクロロホルム(富士フイルム和光純薬社製)と200mLの純水を加えて、分液操作を行った後、有機層側を回収、エバポレーターを用いて溶剤を留去することで22g(α,α,α’-トリエチルメタキシリレンジアミン含有率54質量%)の粗生成物を得た。粗生成物を原料に40~50Paの減圧条件下で精密蒸留を行い純度98%のα,α,α’-トリエチルメタキシリレンジアミンを得た。
【0035】
(実施例1) α,α,α’,α’-テトラエチルメタキシリレンジイソシアネート化合物(2)の合成
合成例1で得られた純度92%のα,α,α’,α’-テトラエチルメタキシリレンジアミン5.00gにキシレンを加えた後、共沸脱水を行い水分量32質量ppm(カールフィッシャー水分計での分析結果)とした。次いで、キシレン溶剤中に塩化水素を導入して、上記ジアミンを塩酸塩とし、ホスゲンを吹き込み、120℃で1時間反応させた。ホスゲンと溶剤のキシレンを留去し、5.88gの粗生成物を得た。粗生成物を原料に260Paの減圧条件下で単蒸留を実施した結果、ガスクロマトグラフィー純度94%の化合物(2)を含有する無色透明の留分4.51gを取得した。
【0036】
【化19】
【0037】
α,α,α’,α’-テトラエチルメタキシリレンジイソシアネート化合物(2)の各種スペクトルデータは以下のとおりであった。
1H NMR(CDCl3、テトラメチルシラン)δ(ppm):0.771、0.786、0.800(12H、t、Ar-C(NCO)-CH2-CH3におけるCH3の水素)、1.948、1.962、1.977、1.992(8H、q、Ar-C(NCO)-CH2-CH3におけるCH2の水素)、7.198~7.230(3H、Ar)、7.316~7.347(1H、Ar)
13C NMR(CDCl3、テトラメチルシラン)δ(ppm):8.5、37.01、69.4、122.0、122.9、124.2、128.4、142.25
TOFMS分析:m/eの理論値(C182422)として300.18323、実測値300.18486。
上記においてArはベンゼン環を示している(以下、同じ)。
IRスペクトル分析:2252cm-1(NCO伸縮振動)
【0038】
(実施例2) α,α,α’-トリエチルメタキシリレンジイソシアネート化合物(3)の合成
合成例2で得られた純度98%のα,α,α’-トリエチルメタキシリレンジアミン5.00gにキシレンを加えた後、共沸脱水を行い水分量52質量ppm(カールフィッシャー水分計での分析結果)とした。次いでキシレン溶剤中に塩化水素を導入し、原料ジアミンを塩酸塩とし、ホスゲンを吹き込み、120℃で1時間反応させた。ホスゲンと溶剤のキシレンを留去し、5.96gの粗生成物を得た。粗生成物を原料に300Paの減圧条件下で単蒸留を実施した結果、ガスクロマトグラフィー純度96%の化合物(3)を含有する無色透明の留分4.33gを取得した。
【0039】
【化20】
【0040】
α,α,α,α’-トリエチルメタキシリレンジイソシアネート化合物(3)の各種スペクトルデータは以下のとおりであった。
1H NMR(CDCl3、テトラメチルシラン) δ(ppm):0.784、0.801、0.815(6H、t、Ar-C(NCO)-CH2-CH3におけるCH3の水素)、0.952、0.966、0.981(3H、t、Ar-CH(NCO)-CH2-CH3におけるCH3の水素)、1.825~1.882(2H、m、Ar-CH(NCO)-CH2-CH3におけるCH2の水素)、1.942~1.992(4H、m、Ar-C(NCO)-CH2-CH3におけるCH2の水素)、4.540、4.553、4.566(1H、t、Ar-CH(NCO)-CH2-CH3におけるCHの水素)7.193、7.211、7.243、7.246(3H、Ar)7.332、7.348、7.363(1H、Ar)。
13C NMR(CDCl3、テトラメチルシラン) δ(ppm):8.55、10.55、32.92、36.93、36.97、60.88、69.29、121.95、123.20、123.27、124.39、125.03、128.75、141.39、142.76。
TOFMS分析:m/eの理論値(C162022)として272.15193、実測値272.15063。
IRスペクトル分析:2250cm-1(NCO伸縮振動)
【0041】
(実施例3)
ペンタエリスリトールテトラキスチオプロピオネート(東京化成工業社製)2.297gとα,α,α’,α’-テトラエチルメタキシリレンジイソシアネート2.703g、2-エチルヘキサン酸錫(II)(富士フイルム和光純薬社製)25mg、1,4-ジアザビシクロ[2,2,2]オクタン(東京化成工業社製)25mgを混合し重合性組成物を調製した。
【0042】
(実施例4)
<重合物の作製>
重合性組成物を脱気後、2.5mm厚の平板レンズ用モールドに注入し、オーブン中で昇温速度8℃/時間の条件で40℃から120℃まで昇温後、120℃で12時間保持する条件で加熱し重合硬化を進行させることで、重合物(ポリチオウレタン)(以下、「サンプル」と呼ぶ」)を作製した。得られたサンプルは無色透明であった。
【0043】
<重合物の評価>
重合物の評価は以下の方法により行った。
ガラス転移温度の測定:
サンプルを3mmに切り出し、直径1mmのピンに10gの加重を与え、30℃から10℃/分で昇温し、熱機械分析(TMA法)測定を行い、ガラス転移温度(℃)を測定した。
屈折率:
上記で得られたサンプルについて、カルニュー精密屈折計(KPR-2000)を用い温度25℃、湿度50%の条件で行った。屈折率の波長は、589.3nmのD線における値である。
黄色度(YI):
上記で得られたサンプル(厚み2.5mm)について、コニカミノルタ社製の分光測色計CM-5でYIを測定した。
ヘイズ値:
上記で得られたサンプル(厚み2.5mm)について、コニカミノルタ社製の分光測色計CM-5でASTM D1003に準拠して測定した。
各評価結果を表1に示す。
【0044】
【表1】