(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-20
(45)【発行日】2023-11-29
(54)【発明の名称】電動オイルポンプ装置
(51)【国際特許分類】
F04C 15/00 20060101AFI20231121BHJP
【FI】
F04C15/00 G
(21)【出願番号】P 2019192408
(22)【出願日】2019-10-23
【審査請求日】2022-09-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】110000604
【氏名又は名称】弁理士法人 共立特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】飯村 大輔
【審査官】田谷 宗隆
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-064395(JP,A)
【文献】特開平05-180171(JP,A)
【文献】特開平02-075783(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04C 15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジングと、
前記ハウジング内に収容され、モータステータ及びモータロータを備える電動モータと、
前記ハウジング内において前記電動モータの位置を基準として軸方向の第一側に隣接した位置に構成され、前記モータロータと同軸に回転可能なポンプ回転要素を備えるオイルポンプと、
前記モータロータ及び前記ポンプ回転要素が一体回転可能に嵌合されたシャフトと、
前記ポンプ回転要素の位置を基準として軸方向の前記第一側に配置され、前記ハウジングに対して前記シャフトを回転可能に支持する第一軸受と、
前記ポンプ回転要素の位置を基準として軸方向の前記第一側とは反対の第二側に配置され、前記ハウジングに対して前記シャフトを回転可能に支持する第二軸受と、
を備え
、
前記シャフトは、外径に差を有する段部を有し、
前記ポンプ回転要素は、前記段部に軸方向に係合する係合部を有し、前記シャフトの軸方向移動を規制し、
前記ポンプ回転要素の前記係合部は、前記シャフトが前記電動モータ側に移動する動作を規制し、
前記ハウジングは、前記シャフトが前記電動モータとは反対側に移動する動作を規制する規制面を有する、電動オイルポンプ装置。
【請求項2】
前記第一軸受は、前記ポンプ回転要素の位置を基準として前記電動モータとは反対側である軸方向の前記第一側に配置され、
前記第二軸受は、前記ポンプ回転要素の位置を基準として前記電動モータ側である軸方向の前記第二側であって前記ポンプ回転要素と前記電動モータとの間に配置され、
前記シャフトにおいて前記第二軸受より前記電動モータの側は、自由端を構成し、
前記モータロータは、前記シャフトにおいて前記第二軸受よりも前記自由端側に固定される、請求項1に記載の電動オイルポンプ装置。
【請求項3】
前記第一軸受及び前記第二軸受の少なくとも一方は、滑り軸受である、請求項1又は2に記載の電動オイルポンプ装置。
【請求項4】
前記オイルポンプは、前記ポンプ回転要素の位置を基準として軸方向の前記第一側と前記第二側の何れか一方に吸入ポート及び吐出ポートを備え、
前記第一軸受及び前記第二軸受のうち少なくとも前記吸入ポート及び前記吐出ポートが位置する側の軸受が、滑り軸受である、請求項3に記載の電動オイルポンプ装置。
【請求項5】
前記ハウジングは、前記ポンプ回転要素の位置を基準として軸方向の前記第一側と前記第二側の何れか一方であって前記吸入ポート及び前記吐出ポートが位置する側において、前記ポンプ回転要素の回転軸線を含む位置に前記ポンプ回転要素と同軸の中心凹所を備え、
前記シャフトの一部は、前記中心凹所内に位置し、
前記第一軸受及び前記第二軸受の一方は、滑り軸受であって、前記中心凹所に配置され、前記シャフトにおいて前記中心凹所内に位置する部位を支持する、請求項4に記載の電動オイルポンプ装置。
【請求項6】
前記第一軸受及び前記第二軸受が、滑り軸受である、請求項3-5の何れか1項に記載の電動オイルポンプ装置。
【請求項7】
前記シャフトは、雄スプラインを有し、前記段部として前記雄スプラインの軸方向端面を有し、
前記ポンプ回転要素は、前記雄スプラインに係合する雌スプラインを有し、前記段部としての前記雄スプラインの軸方向端面に係合する前記係合部を有する、請求項
1-6の何れか1項に記載の電動オイルポンプ装置。
【請求項8】
前記シャフトの軸方向移動は、前記係合部および前記規制面によってのみ規制される、請求項1-7の何れか1項に記載の電動オイルポンプ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動オイルポンプ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、電動モータとオイルポンプとを備える電動オイルポンプ装置が記載されている。当該電動オイルポンプ装置においては、電動モータのモータロータとオイルポンプのポンプ回転要素との間で回転力を伝達するためのシャフトは、シャフトの軸方向の中央に配置された軸受により、ハウジングに対して回転可能に支持されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
オイルポンプは、周方向において、高圧の領域と低圧の領域を有する。そのため、シャフトには、高圧の領域のオイルによって、傾かせる方向の力(径方向の力)が作用する。従来の電動オイルポンプ装置のように、シャフトを支持する軸受がシャフトの軸方向の中央に配置されているだけでは、高圧オイルの作用によってシャフトが傾くおそれがある。
【0005】
オイルポンプの部位においてシャフトが傾くと、シャフトに固定されているポンプ回転要素(例えば、内接ギヤポンプのインナロータ)が傾き、その結果、ポンプ室が所望状態とは異なる状態となる。そうすると、ポンプ性能が低下するおそれがある。さらに、シャフトの傾きによってオイルポンプのポンプ回転要素が傾くと、ポンプ回転要素が摩耗するおそれがある。その結果、オイルポンプの耐久性が低下するおそれがある。
【0006】
本発明は、ポンプ性能及びポンプ耐久性を向上させることができる電動オイルポンプ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る電動オイルポンプ装置は、ハウジングと、前記ハウジング内に収容され、モータステータ及びモータロータを備える電動モータと、前記ハウジング内において前記電動モータの位置を基準として軸方向の第一側に隣接した位置に構成され、前記モータロータと同軸に回転可能なポンプ回転要素を備えるオイルポンプと、前記モータロータ及び前記ポンプ回転要素が一体回転可能に嵌合されたシャフトと、前記ポンプ回転要素の位置を基準として軸方向の第一側に配置され、前記ハウジングに対して前記シャフトを回転可能に支持する第一軸受と、前記ポンプ回転要素の位置を基準として軸方向の前記第一側とは反対の第二側に配置され、前記ハウジングに対して前記シャフトを回転可能に支持する第二軸受とを備え、前記シャフトは、外径に差を有する段部を有し、前記ポンプ回転要素は、前記段部に軸方向に係合する係合部を有し、前記シャフトの軸方向移動を規制し、前記ポンプ回転要素の前記係合部は、前記シャフトが前記電動モータ側に移動する動作を規制し、前記ハウジングは、前記シャフトが前記電動モータとは反対側に移動する動作を規制する規制面を有する。
【0008】
当該電動オイルポンプ装置によれば、シャフトは、第一軸受と第二軸受とにより、オイルポンプのポンプ回転要素の軸方向両側において、ハウジングに支持されている。従って、シャフトに高圧オイルによる力が作用したとしても、オイルポンプの位置においてシャフトが傾くことを抑制できる。その結果、ポンプ性能及びポンプ耐久性を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】電動オイルポンプ装置の軸方向断面図である。
【
図2】電動オイルポンプ装置におけるオイルポンプのユニット部分の軸方向断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(1.電動オイルポンプ装置の概要)
電動オイルポンプ装置は、例えば、自動車のトランスミッションに適用される。ただし、電動オイルポンプ装置は、自動車のトランスミッション以外にも適用可能である。電動オイルポンプ装置は、電動モータと、電動モータによって駆動されるオイルポンプとを備える。電動モータとオイルポンプとが、ハウジング内に構成されており、1つのユニットを構成する。さらに、電動モータとオイルポンプとは、回転軸方向に隣接して構成されている。
【0011】
電動モータには、インナロータタイプ及びアウタロータタイプの何れも適用可能である。オイルポンプは、電動モータのモータロータの回転軸線と同軸に回転可能なポンプ回転要素を備える。オイルポンプは、ギヤポンプ、ベーンポンプ等、種々のタイプを適用可能である。ギヤポンプの例としては、トロコイドポンプ等の内接ギヤポンプが適用される。オイルポンプが内接ギヤポンプの場合には、インナロータが、ポンプ回転要素に相当する。オイルポンプがベーンポンプの場合には、ベーンを径方向にスライド可能にガイドするロータが、ポンプ回転要素に相当する。
【0012】
また、電動オイルポンプ装置は、電動モータのモータロータとオイルポンプのポンプ回転要素との間で回転力(トルク)を伝達するためのシャフトを備えている。つまり、シャフトには、モータロータ及びポンプ回転要素が一体回転可能に嵌合されている。そして、シャフトは、ハウジングに、モータロータ及びポンプ回転要素と同軸回りに回転可能に支持されている。
【0013】
また、電動オイルポンプ装置は、上述した電動モータ及びオイルポンプと共に、制御基板を一体的に備えるユニットを構成してもよい。なお、電動オイルポンプ装置は、制御基板を備えない構成とすることもできる。つまり、制御基板は、電動オイルポンプ装置を構成するユニットの外部に配置されるようにしてもよい。
【0014】
(2.電動オイルポンプ装置1の構成の例)
電動オイルポンプ装置1の構成の例について、
図1を参照して説明する。
図1に示すように、電動オイルポンプ装置1は、ハウジング10と、電動モータ20と、オイルポンプ30と、シャフト40とを備える。ここで、
図1において、電動モータ20及びオイルポンプ30の中心軸方向の第一側である
図1の下側をA側とし、中心軸方向の第二側である
図1の上側をB側とする。
【0015】
ハウジング10は、任意の数の部材により構成することができ、本例においては4つのハウジング要素により構成する場合を例にあげる。本例では、ハウジング10は、電動モータ20の部分のハウジングとして機能するモータハウジング11,12と、オイルポンプ30の部分のハウジングとして機能するポンプハウジング13,14とを備える。本例では、モータハウジング11,12とポンプハウジング13,14とを別体としたが、モータハウジング11,12の一部とポンプハウジング13,14の一部とが1部材を構成してもよい。
【0016】
第一モータハウジング11は、例えば、樹脂により形成されている。第一モータハウジング11は、中央に貫通孔を有する筒状に形成されている。第一モータハウジング11は、軸方向両側(A側及びB側)に開口している。第一モータハウジング11が、主として、電動モータ20を収容する。第一モータハウジング11は、径方向外方に延在する取付フランジ、及び、外部と接続可能なコネクタ部を備える。
【0017】
第二モータハウジング12は、第一モータハウジング11のB側(
図1の上側)の開口を閉塞するためのカバーを構成する。第二モータハウジング12は、例えば、アルミニウム等の金属により形成されている。第二モータハウジング12は、ボルト(図示せず)等によって、第一モータハウジング11と一体的に締結されている。
【0018】
第一ポンプハウジング13は、例えば、高圧オイルに耐えることができる金属(例えば、アルミニウム)により形成されている。第一ポンプハウジング13は、中央に貫通孔を有する筒状に形成されている。第一ポンプハウジング13は、第一モータハウジング11のA側(
図1の下側)の開口に、一体的に固定される。詳細には、第一ポンプハウジング13の軸方向の一部分が、第一モータハウジング11のA側の内周面に、シール部材(例えばOリング)を介して嵌合されている。
【0019】
第二ポンプハウジング14は、第一ポンプハウジング13と同様に、高圧オイルに耐えることができる金属により形成されている。第二ポンプハウジング14は、第一ポンプハウジング13のA側(
図1の下側)に固定されている。
図1においては、ボルトにより、第一ポンプハウジング13及び第二ポンプハウジング14が共に、第一モータハウジング11に締結されている。
【0020】
電動モータ20は、ハウジング10内に収容されている。本例においては、電動モータ20は、第一モータハウジング11内に収容されている。電動モータ20は、モータステータ21及びモータロータ22を備える。電動モータ20は、本例においては、インナロータタイプを適用する。従って、モータステータ21が径方向外側に位置し、モータロータ22が径方向内側に位置する。つまり、モータステータ21は、第一モータハウジング11の内周側に固定されており、モータロータ22は、モータステータ21の内周面との径方向間に、隙間(ギャップ)を有して配置されている。
【0021】
オイルポンプ30は、第一ポンプハウジング13及び第二ポンプハウジング14内に構成されている。つまり、オイルポンプ30は、電動モータ20の位置を基準として、軸方向の第一側(A側)に隣接した位置に構成される。
【0022】
オイルポンプ30は、例えば、内接ギヤポンプ(トロコイドポンプ等)を適用する。オイルポンプ30は、収容室31、インナロータ32、アウタロータ33、吸入ポート34、吐出ポート35、入口通路36、出口通路37を備える。
【0023】
収容室31は、第一ポンプハウジング13及び第二ポンプハウジング14により形成された円筒状の空間である。収容室31の円筒内周面の中心軸線は、電動モータ20のモータロータ22の回転軸線に対して偏心している。
【0024】
収容室31の内部には、インナロータ32(ポンプ回転要素に相当する)及びアウタロータ33が回転可能に収容されている。インナロータ32は、円環状に形成され、外周面に外歯を有する。アウタロータ33は、円環状に形成され、内周面に、インナロータ32の外歯に噛み合う内歯を有する。アウタロータ33の外周面は、収容室31の円筒内周面に対応する円筒状に形成されており、収容室31の円筒内周面の中心軸線と同軸に回転する。一方、インナロータ32は、電動モータ20のモータロータ22の回転軸線と同軸に回転可能に設けられている。つまり、インナロータ32とアウタロータ33における回転軸線は偏心している。
【0025】
また、インナロータ32の外歯とアウタロータ33の内歯とが周方向で複数箇所において噛み合っている。従って、インナロータ32の外歯とアウタロータ33の内歯との径方向間には、周方向に隣り合う位置に複数のポンプ室38が形成されている。インナロータ32の外歯とアウタロータ33の内歯とが噛み合いながら、インナロータ32及びアウタロータ33が収容室31内を回転することで、ポンプ室38の容積が小さくなっていき、オイルの圧力が高くなる。
【0026】
ポンプハウジング13,14には、インナロータ32及びアウタロータ33の位置を基準として、軸方向のA側(第一側)とB側(第二側)の何れか一方に、収容室31に連通する吸入ポート34及び吐出ポート35が形成されている。本例においては、吸入ポート34及び吐出ポート35は、第二ポンプハウジング14において、収容室31の円筒状空間の軸方向端面に開口するように形成されている。つまり、吸入ポート34及び吐出ポート35は、インナロータ32及びアウタロータ33の位置を基準として、A側(第一側)、すなわち、電動モータ20とは反対側に形成されている。
【0027】
そして、吸入ポート34と吐出ポート35は、周方向にずらして形成されている。そして、吸入ポート34が形成されている第二ポンプハウジング14には、吸入ポート34に連通する入口通路36が形成されている。また、吐出ポート35が形成されている第二ポンプハウジング14には、吐出ポート35に連通する出口通路37が形成されている。なお、吸入ポート34、吐出ポート35、入口通路36及び出口通路37は、第一ポンプハウジング13に形成することもできる。ただし、スペース上の観点から、電動モータ20が配置されていない側、すなわち、第二ポンプハウジング14の方が、各ポート34,35及び各通路36,37を形成することが容易である。
【0028】
そして、入口通路36及び吸入ポート34を介して吸入されたオイルがポンプ室38に供給される。ポンプ室38にて高圧にされたオイルが、吐出ポート35及び出口通路37を介して外部へ吐出される。
【0029】
シャフト40には、電動モータ20のモータロータ22、及び、オイルポンプ30のポンプ回転要素としてのインナロータ32が一体回転可能に嵌合されている。具体的には、シャフト40とモータロータ22の中心孔とが嵌合されている。本例では、圧入によってシャフト40とモータロータ22が固定されている。また、シャフト40とオイルポンプ30のインナロータ32の中心孔とが嵌合されており、圧入とは異なる固定方法によってシャフト40とインナロータ32とが一体回転可能にされている。
【0030】
シャフト40は、ハウジング10に回転可能に支持されている。シャフト40の回転軸線は、モータロータ22の回転軸線及びオイルポンプ30のインナロータ32の回転軸線と同軸である。
【0031】
また、電動オイルポンプ装置1は、さらに、シャフト40をハウジング10に対して回転可能に支持するために、第一軸受51及び第二軸受52を備える。第一軸受51及び第二軸受52は、ラジアル軸受である。第一軸受51及び第二軸受52は、滑り軸受を適用してもよいし、転がり軸受を適用してもよい。シャフト40の支持構造に関する詳細は、後述する。
【0032】
電動オイルポンプ装置1は、さらに、シール部材60を備える。シール部材60は、オイルポンプ30を構成する収容室31と、電動モータ20が配置されている領域との間において、収容室31内のオイルが電動モータ20側に流動しないようにする。シール部材60は、第一ポンプハウジング13の内周面のうちB側、すなわち電動モータ20側の位置に配置され、シャフト40の外周面に接触する。
【0033】
また、電動オイルポンプ装置1は、さらに、制御基板70を備える。なお、制御基板70は、電動オイルポンプ装置1のユニット内に配置されずに、外部に配置されるようにしてもよい。制御基板70は、電動モータ20を制御するための制御回路が形成されている。制御基板70は、第一モータハウジング11と第二モータハウジング12とにより形成された空間に配置されている。具体的には、制御基板70は、電動モータ20の位置を基準として、B側(
図1の上側)に配置されている。
【0034】
(3.シャフト40の詳細構成)
シャフト40の詳細構成について、
図1を参照して説明する。シャフト40は、軸方向において、A側の端部からB側(
図1の上側)に向かって、順に、第一軸受面41、回転伝達面42、第二軸受面43、シール面44、モータロータ固定面45を備える。第一軸受面41、第二軸受面43、シール面44、モータロータ固定面45は、円筒外周面を有する。本例においては、第一軸受面41、第二軸受面43、シール面44、モータロータ固定面45は、同一外径に形成されるが、異なる外径としてもよい。
【0035】
第一軸受面41は、第一軸受51により支持される面である。第一軸受51が滑り軸受である場合には、第一軸受面41は、第一軸受51と摺動する面となる。第一軸受51が転がり軸受である場合には、第一軸受面41は、第一軸受51の内輪が固定される面となる。
【0036】
回転伝達面42は、オイルポンプ30のインナロータ32(ポンプ回転要素)との間で回転力(トルク)を伝達可能な構成を有する。本例においては、回転伝達面42は、雄スプラインを有する。雄スプラインは、径方向に突出する形状を有する。従って、回転伝達面42において、雄スプラインの軸方向両端面には、第一段部42a及び第二段部42bを有する。第一段部42a及び第二段部42bは、外径に差を有する部分である。第一段部42aは、雄スプラインのA側(
図2の下側)の端面であり、第二段部42bは、雄スプラインのB側(
図2の上側)の端面である。本例においては、雄スプラインの軸方向両端面における第一段部42a及び第二段部42bは、傾斜面に形成されている。
【0037】
第二軸受面43は、第二軸受52により支持される面である。第二軸受52が滑り軸受である場合には、第二軸受面43は、第二軸受52と摺動する面となる。第二軸受52が転がり軸受である場合には、第二軸受面43は、第二軸受52の内輪が固定される面となる。
【0038】
シール面44は、シール部材60に摺動する面である。モータロータ固定面45は、モータロータ22が嵌合される面である。本例においては、モータロータ固定面45は、モータロータ22が圧入されている。すなわち、モータロータ固定面45は、径方向の締め代を有して嵌合されている。
【0039】
ここで、シャフト40は、ハウジング10に対して第一軸受51及び第二軸受52の二箇所のみで支持されている。つまり、シャフト40は、オイルポンプ30のポンプ回転要素としてのインナロータ32の位置を基準として、軸方向のA側(第一側、
図1の下側)及びB側(第二側、
図1の上側)の両方において、ハウジング10に回転可能に支持されている。
【0040】
さらに、シャフト40は、上記二箇所のみによりハウジング10に支持されているため、第二軸受面43よりもB側(
図1の上側)、すなわち電動モータ20側は、自由端を構成する。つまり、モータロータ22は、シャフト40において第二軸受面43よりも自由端側に固定されている。
【0041】
(4.ハウジング10の支持面の構造)
次に、ハウジング10における支持面の構造について、
図2を参照してより詳細に説明する。第一軸受51及び第二軸受52は、ハウジング10のうちポンプハウジング13,14に支持されている。
【0042】
図1及び
図2に示すように、第二ポンプハウジング14には、吸入ポート34、吐出ポート35、入口通路36及び出口通路37が形成されている。これらは、何れも、オイルポンプ30のインナロータ32の回転軸線に対して、径方向にずれた位置に形成されている。
【0043】
第二ポンプハウジング14には、中心凹所14aが形成されている。中心凹所14aは、吸入ポート34、吐出ポート35、入口通路36及び出口通路37が形成されていない領域に位置する。中心凹所14aは、収容室31側に開口し、円筒内周面14a1を有すると共に円形底面14a2を有する。中心凹所14aは、オイルポンプ30のインナロータ32(ポンプ回転要素)の回転軸線を含む位置に配置されており、中心凹所14aの円筒内周面14a1は、インナロータ32と同軸に形成されている。中心凹所14aには、シャフト40の一部である第一軸受面41の部分が配置されている。
【0044】
中心凹所14aの円筒内周面14a1は、第一軸受51が嵌合される面である。本例では、中心凹所14aの円筒内周面14a1には、第一軸受51が圧入されている。つまり、中心凹所14aの円筒内周面14a1は、シャフト40に対する第一ラジアル支持面を構成する。
【0045】
また、中心凹所14aの円形底面14a2は、シャフト40のA側(
図2の下側)の端面が接触し得る面である。ただし、中心凹所14aの円形底面14a2は、シャフト40の端面に接触してもよいし、シャフト40の端面に直接接触せずにシャフト40の端面との間にオイルを介在するようにしてもよい。つまり、中心凹所14aの円形底面14a2は、シャフト40に対して、軸方向のA側(第一側)に係合する第一スラスト支持面を構成する。中心凹所14aの円形底面14a2は、軸方向において、シャフト40が電動モータ20とは反対側(A側)に移動する動作を規制する規制面として機能する。
【0046】
また、第一ポンプハウジング13には、収容室31とシール部材60を支持する位置との軸方向間に、円筒内周面13aを有する。円筒内周面13aが、インナロータ32と同軸状に形成されている。円筒内周面13aは、第二軸受52が嵌合される面である。本例では、円筒内周面13aには、第二軸受52が圧入されている。つまり、円筒内周面13aは、シャフト40に対する第二ラジアル支持面を構成する。
【0047】
(5.オイルポンプ30のインナロータ32の詳細構成)
次に、オイルポンプ30のインナロータ32(ポンプ回転要素)の詳細構成について、
図2を参照して説明する。インナロータ32は、外周面に外歯32aを有する。外歯32aは、例えば、トロコイド曲線により形成されている。インナロータ32は、内周面に、回転伝達面32bを有する。回転伝達面32bは、シャフト40の回転伝達面42との間で、回転力(トルク)を伝達可能な構成を有する。本例においては、インナロータ32の回転伝達面32bは、雌スプラインであって、シャフト40の回転伝達面42である雄スプラインに嵌合する。
【0048】
さらに、インナロータ32は、回転伝達面32bを構成する雌スプラインのB側の端部に、係合部32cを有する。係合部32cは、雌スプラインのB側の端部において、雌スプラインの溝部の周方向位置に形成された壁面である。インナロータ32の係合部32cは、シャフト40の回転伝達面42を構成する雄スプラインの第二段部42b(軸方向端面)に、軸方向に係合する。
【0049】
つまり、インナロータ32の係合部32cは、シャフト40に対して、軸方向のB側(第二側)に係合する第二スラスト支持面を構成する。インナロータ32の係合部32cは、軸方向において、シャフト40が電動モータ20側(B側)に移動する動作を規制する規制面として機能する。
【0050】
(6.シャフト40のラジアル荷重の支持構造)
シャフト40のラジアル荷重の支持構造について、
図1及び
図2を参照して説明する。上述したように、シャフト40は、ハウジング10に対して、ラジアル軸受である第一軸受51及び第二軸受52により回転可能に支持されている。
【0051】
シャフト40は、オイルポンプ30のポンプ回転要素としてのインナロータ32の位置を基準としてA側(第一側、
図2の下側)に位置する第一軸受51を介して、第二ポンプハウジング14に回転可能に支持されている。また、シャフト40は、インナロータ32の位置を基準としてB側(第二側、
図2の上側)であって、インナロータ32と電動モータ20との軸方向間に位置する第二軸受52を介して、第一ポンプハウジング13に回転可能に支持されている。
【0052】
つまり、シャフト40は、第一軸受51と第二軸受52とにより、オイルポンプ30のポンプ回転要素としてのインナロータ32の軸方向両側において、ハウジング10に支持されている。従って、シャフト40に高圧オイルによる力が径方向に作用したとしても、オイルポンプ30の位置においてシャフト40が傾くことを抑制できる。シャフト40の傾きが抑制されることで、シャフト40に固定されるポンプ回転要素としてのインナロータ32が傾くことが抑制される。ポンプ回転要素としてのインナロータ32の傾きを抑制できることによって、ポンプ室38を所望の状態に維持することができるため、ポンプ性能及びポンプ耐久性を向上することができる。
【0053】
ここで、シャフト40を支持する軸方向位置は、二箇所が好適である。上述したように、シャフト40は、第一軸受51及び第二軸受52により支持されているため、第二軸受52より電動モータ20側は自由端を構成する。電動モータ20のモータロータ22がシャフト40の自由端側に固定されている。
【0054】
シャフト40を傾かせる力は、オイルポンプ30の高圧オイルによる力の方が電動モータ20による力より大きい。従って、シャフト40は、オイルポンプ30の位置において傾くことが抑制されることで、自由端側であったとしても電動モータ20の位置においても傾くことは抑制されている。
【0055】
さらに、第一軸受51は、第二ポンプハウジング14の中心凹所14aに配置されている。第二ポンプハウジング14には、吸入ポート34、吐出ポート35、入口通路36及び出口通路37が形成されており、中心凹所14aが形成された位置は、各ポート34,35及び各通路36,37を形成することができない領域である。このようなデッドスペースとなるおそれのある領域を、中心凹所14aとして利用することにより、ハウジング10を大きくすることなく、シャフト40を支持するための構造を確保することができる。
【0056】
また、本例においては、電動オイルポンプ装置1は、制御基板70を、電動モータ20よりもB側(
図1の上側)に配置している。そして、第一軸受51及び第二軸受52は、電動モータ20よりもオイルポンプ30側に位置しており、電動モータ20より制御基板70側には軸受が配置されていない。そのため、電動モータ20と制御基板70との間の空間を広く確保することができる。その結果、ハウジング10を大きくすることなく、制御基板70に大型電子部品を配置することが可能となる。
【0057】
(7.シャフト40のスラスト荷重の支持構造)
シャフト40のスラスト荷重の支持構造について、
図2を参照して説明する。上述したように、シャフト40は、軸方向において、中心凹所14aの円形底面14a2によって電動モータ20とは反対側への移動が規制され、係合部32cによって電動モータ20側への移動が規制される。このように、シャフト40は、軸方向の両方向において規制されている。
【0058】
特に、シャフト40は、オイルポンプ30のポンプ回転要素としてのインナロータ32の近傍において、軸方向を規制されている。従って、シャフト40は、オイルポンプ30の位置において、安定した状態で位置決めされることになる。
【0059】
ここで、シャフト40は、中心凹所14aの円形底面14a2と係合部32cとによって、軸方向の両方向において移動を規制されている。つまり、シャフト40の回転伝達面42である雄スプラインと、インナロータ32の回転伝達面32bである雌スプラインとは、大きな締め代を有する必要がない。
【0060】
ところで、一般に、シャフト40とインナロータ32とは、圧入によって固定することも可能である。しかし、両者が圧入により固定されると、インナロータ32の外形が僅かに膨らむ。つまり、インナロータ32の外歯32aが変形する。インナロータ32の外歯32aが変形することにより、アウタロータ33の内歯との噛み合い状態が僅かに変化し、ポンプ性能に影響を及ぼすおそれがある。
【0061】
しかし、本例においては、シャフト40とインナロータ32とは、圧入により固定する必要がない。シャフト40とインナロータ32とは、中心凹所14aの円形底面14a2と係合部32cとによって、軸方向の両方向において移動を規制されている。そのため、シャフト40の回転伝達面42とインナロータ32の回転伝達面32bとは、圧入により固定する必要はなく、回転力(トルク)を伝達できるように嵌合されていればよい。従って、インナロータ32の外歯32aが変形することを抑制でき、結果としてポンプ性能を向上することができる。もちろん、ポンプ耐久性の向上にも寄与する。
【0062】
(8.軸受の種類)
次に、第一軸受51及び第二軸受52の軸受の種類について説明する。第一軸受51及び第二軸受52は、ラジアル軸受であれば、滑り軸受、転がり軸受の何れを適用してもよい。ただし、第一軸受51及び第二軸受52は、滑り軸受を適用することが好適である。
【0063】
第一軸受51は、中心凹所14aに配置されている。一般に、滑り軸受は、転がり軸受と比較すると、径方向厚みが小さい。そして、中心凹所14aは、周囲の環境、すなわち各ポート34,35及び各通路36,37の存在より、十分にスペースを確保することが容易ではない。そこで、第一軸受51に滑り軸受を適用することにより、ポンプハウジング13,14を小型にすることができる。
【0064】
また、第二軸受52は、第一ポンプハウジング13において電動モータ20側(B側)の内周面に嵌合されている。第一ポンプハウジング13の電動モータ20側の部分は、第一モータハウジング11の内周面に嵌合されている。従って、第二軸受52の外径が大きくなると、第一モータハウジング11の外径が大きくなってしまう。従って、第二軸受52に滑り軸受を適用することにより、第一モータハウジング11を小型にすることができる。
【0065】
また、第一軸受51及び第二軸受52は、オイルポンプ30のオイルが進入する部位に設けられている。従って、第一軸受51とシャフト40との摺動抵抗、及び、第二軸受52とシャフト40との摺動抵抗は、十分に小さくすることができる。
【0066】
ただし、第二軸受52について、電動モータ20とオイルポンプ30との軸方向間に位置するため、第一モータハウジング11を大型化することなく、スペースを確保することができれば、転がり軸受を適用してもよい。同様に、第一軸受51についても、同様に、スペースを確保することができれば、転がり軸受を適用してもよい。なお、第一軸受51及び第二軸受52のうち一方のみを滑り軸受とする場合は、各ポート34,35及び各通路36,37が位置する側の軸受、すなわち第一軸受51を、滑り軸受とするとよい。
【符号の説明】
【0067】
1:電動オイルポンプ装置、10:ハウジング、11,12:モータハウジング、13,14:ポンプハウジング、13a:円筒内周面(第二ラジアル支持面)、14a:中心凹所(第一ラジアル支持面、第一スラスト支持面)、14a1:中心凹所の内周面、14a2:中心凹所の底面(規制面)、20:電動モータ、21:モータステータ、22:モータロータ、30:オイルポンプ、32:インナロータ(ポンプ回転要素)、32b:回転伝達面(雌スプライン)、32c:係合部(第二スラスト支持面)、33:アウタロータ、34:吸入ポート、35:吐出ポート、40:シャフト、41:第一軸受面、42:回転伝達面(雄スプライン)、42a:第一段部、42b:第二段部、43:第二軸受面、51:第一軸受、52:第二軸受