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特許7388140塗料組成物及び該塗料組成物から成る塗膜を有する塗装金属基体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-20
(45)【発行日】2023-11-29
(54)【発明の名称】塗料組成物及び該塗料組成物から成る塗膜を有する塗装金属基体
(51)【国際特許分類】
   C09D 167/00 20060101AFI20231121BHJP
   C09D 5/02 20060101ALI20231121BHJP
   B32B 1/02 20060101ALI20231121BHJP
   B32B 15/09 20060101ALI20231121BHJP
   B32B 27/36 20060101ALI20231121BHJP
【FI】
C09D167/00
C09D5/02
B32B1/02
B32B15/09 A
B32B27/36
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019203565
(22)【出願日】2019-11-08
(65)【公開番号】P2020079394
(43)【公開日】2020-05-28
【審査請求日】2022-10-13
(31)【優先権主張番号】P 2018213329
(32)【優先日】2018-11-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003768
【氏名又は名称】東洋製罐グループホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003524
【氏名又は名称】弁理士法人愛宕綜合特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100113217
【弁理士】
【氏名又は名称】奥貫 佐知子
(72)【発明者】
【氏名】柏倉 拓也
(72)【発明者】
【氏名】山本 宏美
(72)【発明者】
【氏名】櫻木 新
(72)【発明者】
【氏名】張 楠
【審査官】田名部 拓也
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-039626(JP,A)
【文献】特開2014-133778(JP,A)
【文献】特開2013-249376(JP,A)
【文献】特開2017-025318(JP,A)
【文献】特表2014-514370(JP,A)
【文献】特開2015-168760(JP,A)
【文献】特表2006-501108(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 27/36
C09D 5/02
C09D 167/00
B32B 15/09
B32B 1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸価5mgKOH/g以上のポリエステル樹脂(A)と、酸価5mgKOH/g未満のポリエステル樹脂(B)と、カルボキシル基と架橋反応可能な官能基を有する硬化剤とが含有されて成る塗料組成物であって、前記ポリエステル樹脂(A)と前記ポリエステル樹脂(B)の合計固形分質量を100質量部としたとき、ポリエステル樹脂(A)が50質量部より多く且つ97質量部以下の範囲であり、ポリエステル樹脂(B)が3質量部以上50質量部未満の範囲であり、前記硬化剤が、β-ヒドロキシアルキルアミド化合物、オキサゾリン基含有化合物、カルボジイミド基含有化合物から選択される少なくとも1種であることを特徴とする塗料組成物。
【請求項2】
前記硬化剤が、β-ヒドロキシアルキルアミド化合物である請求項記載の塗料組成物。
【請求項3】
前記ポリエステル樹脂(A)の酸価が10~70mgKOH/gである請求項1又は2記載の塗料組成物。
【請求項4】
前記ポリエステル樹脂(B)の酸価が3mgKOH/g未満である請求項1~の何れかに記載の塗料組成物。
【請求項5】
前記ポリエステル樹脂(B)がスルホン酸基含有ポリエステル樹脂である請求項記載の塗料組成物。
【請求項6】
前記塗料組成物が水性塗料組成物である請求項1記載の塗料組成物。
【請求項7】
請求項1~の何れかに記載の塗料組成物から成る塗膜が形成されていることを特徴とする塗装金属基体。
【請求項8】
請求項記載の塗装金属基体から成る絞りしごき缶。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗料組成物及び該塗料組成物から成る塗膜を有する塗装金属基体に関するものであり、より詳細には、ドライ条件下での絞りしごき加工等の過酷な加工にも適用可能な優れた製缶加工性を有すると共に、缶成形後の熱処理時にも剥離が生じない優れた塗膜剥離耐性を有する塗膜を形成可能な塗料組成物及び該塗料組成物から成る塗膜を有する塗装金属基体に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウム等の金属板を有機樹脂フィルムで被覆した有機樹脂被覆金属板は、缶用材料として古くから知られており、この有機樹脂被覆金属板を絞り加工或いは絞り・しごき加工等に付して、飲料等を充填するためのシームレス缶とし、或いはこれをプレス成形してイージーオープンエンド等の缶蓋とすることもよく知られている。例えば、エチレンテレフタレート単位を主体としたポリエステル樹脂から成る熱可塑性樹脂フィルムを有機樹脂被覆層として有する有機樹脂被覆金属板は、絞りしごき加工により成形されるシームレス缶(絞りしごき缶)用の製缶材料として使用されている(特許文献1等)。このような有機樹脂被覆金属板は、液体クーラントを使用しないドライ条件下で絞りしごき成形を行うことができるため、有機樹脂で被覆していない金属板を、多量の液体クーラントを用いて絞りしごき成形する場合に比して、環境負荷を大幅に低減できるという利点がある。
【0003】
このような有機樹脂被覆金属板は、熱可塑性ポリエステル樹脂等の予め形成されたフィルムを金属板に熱接着により貼り合せる方法、押出された熱可塑性ポリエステル樹脂等の溶融薄膜を金属板に貼り合せる押出しラミネート法等のフィルムラミネート方式により製造されている。
しかしながら、フィルムラミネート方式は、薄膜での製膜が難しいことから、フィルムの厚みが厚くなりやすく、経済性の面で問題となる場合がある。
【0004】
このようなフィルムラミネート方式による有機樹脂被覆金属板に代えて、薄膜での成膜が可能な塗装方式により金属板上に塗膜を形成した塗装金属板から、ドライ条件下で絞りしごき缶を製造することも提案されている。
例えば下記特許文献2には、両面塗装金属板であって、加工後に缶内面側となる皮膜の乾燥塗布量が90~400mg/100cm、ガラス転移温度が50~120℃であり、かつ60℃の試験条件において、鉛筆硬度H以上、伸び率200~600%及び動摩擦係数0.03~0.25の範囲内にあるものであり、加工後に缶外面側となる皮膜の乾燥塗布量が15~150mg/100cm、ガラス転移温度が50~120℃であり、かつ60℃の試験条件において、鉛筆硬度H以上にあるものである絞りしごき缶用塗装金属板が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2001-246695号公報
【文献】特許第3872998号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献2では、缶内面側塗料としてポリエステル樹脂とレゾール型フェノール樹脂、缶外面側塗料としてポリエステル樹脂とアミノ樹脂及び/又はレゾール型フェノール樹脂を含有する塗料組成物を用いており、そのような塗料組成物から形成される塗膜は、塗膜中にフェノール樹脂又はアミノ樹脂の自己縮合体に由来する硬く脆いドメインが形成されるため、そうしたドメインが塗膜の加工性低下を招き、製缶加工性の点で問題となる場合があった。また、レゾール型フェノール樹脂を用いた場合においては、形成される塗膜がフェノール樹脂特有の黄色味を帯びるため、外面側への適用など用途によっては塗膜色調が問題となる場合があった。
一方、塗装金属板から成形された絞りしごき缶において、缶体成形後に、加工により生じた塗膜の残留歪みの除去、或いは表面に印刷した印刷インキ、ニスの乾燥硬化を目的とした熱処理を施すような場合においては、過酷な加工により生じた塗膜の内部応力(残留応力)が緩和されるに伴い、特に缶胴側壁部の加工が厳しく薄肉化されている部位において、塗膜が金属基材から剥離する場合があった。
【0007】
従って本発明の目的は、上記のような問題を生じることがなく、ドライ条件下での絞りしごき加工等の過酷な加工にも適用可能な優れた製缶加工性を有すると共に、缶体成形後の熱処理時にも剥離することのない優れた塗膜剥離耐性を有する塗膜を形成可能な塗料組成物及び該塗料組成物から成る塗膜を有する塗装金属基体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、酸価5mgKOH/g以上のポリエステル樹脂(A)と、酸価5mgKOH/g未満のポリエステル樹脂(B)と、カルボキシル基と架橋反応可能な官能基を有する硬化剤(架橋剤)とが含有されて成る塗料組成物であって、前記ポリエステル樹脂(A)と前記ポリエステル樹脂(B)の合計固形分質量を100質量部としたとき、ポリエステル樹脂(A)が50質量部より多く且つ97質量部以下の範囲であり、ポリエステル樹脂(B)が3質量部以上50質量部未満の範囲であることを特徴とする塗料組成物が提供される。
【0009】
本発明の塗料組成物においては、
1.前記硬化剤が、β-ヒドロキシアルキルアミド化合物、オキサゾリン基含有化合物、カルボジイミド基含有化合物から選択される少なくとも1種であること、
2.前記硬化剤が、β-ヒドロキシアルキルアミド化合物であること、
3.前記ポリエステル樹脂(A)の酸価が10~70mgKOH/gであること、
4.前記ポリエステル樹脂(B)の酸価が3mgKOH/g未満であること、
5.前記ポリエステル樹脂(B)がスルホン酸基含有ポリエステル樹脂であること、
6.前記塗料組成物が水性塗料組成物であること、
が好適である。
【0010】
本発明によればまた、上記塗料組成物から成る塗膜が形成されていることを特徴とする塗装金属基体が提供される。
本発明によれば更に、上記塗装金属基体から成る絞りしごき缶が提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明者らは、前述の背景を鑑み、本用途に適した塗料組成物について鋭意検討した結果、酸価の異なるポリエステル樹脂を混合して用いると共に、特定の硬化剤(架橋剤)を用いることにより、上記課題を解決できることを見出した。本発明の塗料組成物から成る塗膜を有する塗装金属基体は、塗膜の加工性や伸び性に優れており、絞り加工やしごき加工のような過酷な加工に付された場合にも、缶胴側壁部での破断(本発明で破胴ということがある)が生じてしまうことはもちろん、金属露出が有効に防止されるため、優れた製缶加工性を有していると共に、形成される塗膜は無色透明であり、塗膜の色調が問題となるおそれもない。さらに、過酷な製缶加工によって生ずる内部応力を、塗膜内に存在する柔軟な成分が緩和できることから、缶体成形後に熱処理を施す場合においても塗膜が剥離するおそれがなく、塗膜剥離耐性にも優れるため、絞りしごき缶等の用途に好適に使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の塗料組成物について、さらに詳細に説明する。
(ポリエステル樹脂)
本発明の塗料組成物において、主剤として用いるポリエステル樹脂は、酸価5mgKOH/g以上のポリエステル樹脂(A)と、酸価5mgKOH/g未満のポリエステル樹脂(B)から成る混合ポリエステル樹脂であって、前記ポリエステル樹脂(A)と前記ポリエステル樹脂(B)の合計固形分質量を100質量部としたとき、ポリエステル樹脂(A)が50質量部より多く且つ97質量部以下の範囲であり、ポリエステル樹脂(B)が3質量部以上50質量部未満の範囲であることが、上述したように優れた製缶加工性、及び熱処理時にも塗膜が剥離しない優れた塗膜剥離耐性を得る上で重要な特徴である。その理由について以下のように推察している。
【0013】
本発明の塗料組成物を金属基体上に塗装後、焼付け工程において、β―ヒドロキシアルキルアミド化合物等の硬化剤(架橋剤)がポリエステル樹脂のカルボキシル基と架橋反応し、3次元的な網目架橋構造を形成することで硬化塗膜となるが、この焼付け工程における塗膜の架橋のしやすさ(硬化性)と得られる塗膜の加工性は、主成分であるポリエステル樹脂の酸価に大きく影響される。主剤として比較的酸価が高い、すなわち硬化剤との反応点となるカルボキシル基量が比較的多いポリエステル樹脂(A)のみを使用した場合は、架橋剤とポリエステル樹脂が効率良く反応し、架橋を形成しやすく、硬化性に優れる。しかしながら、ポリエステル樹脂が高度に架橋されることで、塗膜の性質としては未架橋の状態と比べて伸びにくいものになる。それにより、塗装金属板がしごき加工等の過酷な加工に付された際に、加工に追従して金属基体を被覆することが難しくなり、金属露出が発生するおそれがある。さらに、架橋した塗膜に対し、製缶加工により大変形を加えるため、加工後の塗膜には大きな内部応力が残留することになる。その状態のまま、外面印刷の乾燥工程等で、ポリエステル樹脂のガラス転移温度を超える温度(200℃程度)に加熱される熱処理が施されると、内部応力が緩和されるに伴い、塗膜と基体界面に収縮応力が働き、それにより塗膜が剥離するおそれがある。
【0014】
これに対し、ポリエステル樹脂(A)の他に、酸価5mgKOH/g未満のポリエステル樹脂(B)を塗料中にブレンドした条件で同様に塗装焼付けした場合、ポリエステル樹脂(A)が硬化剤と反応し、架橋構造を形成していく一方で、硬化剤との反応点となるカルボキシル基が少ないポリエステル樹脂(B)は、硬化剤と反応しにくい、或いは反応しないため、架橋構造に組み込まれにくく、大部分が未架橋のまま存在することになる。そうなると、架橋構造体と架橋構造に組み込まれなかった成分との間で相分離が起き、ポリエステル樹脂(A)を主成分とした架橋構造を有するマトリックス(連続層)とポリエステル樹脂(B)を主成分としたドメイン(分散層)から成る海島構造が形成されると推察される。塗膜がこのような海島構造、すなわち未架橋で伸び性・柔軟性に富むドメインが塗膜中に微分散した構造をとることで、塗膜全体の加工性が顕著に向上され、しごき加工等の過酷な加工に付された際にも、金属露出の発生を効果的に抑制することが可能になる。さらに、ポリエステル樹脂(B)を主成分としたドメインは、その柔軟性により製缶加工時に発生した内部応力を即座に緩和することができるため、熱処理時の収縮応力を大幅に低減でき、塗膜剥離を防止する効果が得られる。
【0015】
なお、ポリエステル樹脂(A)とポリエステル樹脂(B)の固形分配合比については、上述の通り、前記ポリエステル樹脂(A)と前記ポリエステル樹脂(B)の合計固形分質量を100質量部としたとき、ポリエステル樹脂(A)が50質量部より多く且つ97質量部以下、好ましくは60~95質量部、より好ましくは70~90質量部、ポリエステル樹脂(B)が3質量部以上50質量部未満、好ましくは5~40質量部、より好ましくは10~30質量部の範囲であることが重要である。この範囲よりもポリエステル樹脂(A)が多く、ポリエステル樹脂(B)が少ない場合においては、ポリエステル樹脂(B)をブレンドすることによる上述の効果を得ることが難しくなる。一方でこの範囲よりもポリエステル樹脂(A)が少なく、ポリエステル樹脂(B)が多い場合においては、塗膜の内部で未架橋のポリエステル樹脂が多くなり、塗膜全体としての硬化性が不足し、耐熱性が低下する。その結果、塗装金属基体から缶体を高速かつ連続で絞りしごき成形し、成形発熱により温度が上昇した場合に、塗膜が金型に張り付きやすくなる。特に缶内面側においては、絞りしごき成形後、成形パンチから缶体を抜き取る時点で、缶体が成形パンチに張り付き、成形パンチと缶体が分離しにくくなる現象(ストリッピング性不良)が生じ、それにより缶体が座屈、または破胴するなど、生産性が低下するおそれがある。一方、缶外面側においては、塗膜削れなどの外面不良が発生するおそれがある。また、未架橋の成分が多くなるため、塗膜の耐水性や耐レトルト白化性が劣るようになる。
【0016】
上記効果を効率よく奏するためには、ポリエステル樹脂(A)として酸価が5mgKOH/g以上、好ましくは10~70mgKOH/g、より好ましくは15~70mgKOH/g未満、更に好ましくは15以上50mgKOH/g未満、特に好ましくは17mgKOH/g以上30mgKOH/g未満の範囲にあるポリエステル樹脂を用いることが好ましい。上記範囲よりも酸価が低い場合には、硬化剤との架橋点となるカルボキシル基が少なく充分な硬化性を得られないおそれがあり、その結果、塗膜の耐熱性が低下し、塗装金属基体から缶体を高速かつ連続で絞りしごき成形した場合に、塗膜が金型に張り付きやすくなる。また、未架橋の成分が多くなるため、塗膜の耐水性や耐レトルト白化性が劣るようになる。また、塗膜と金属基体間の密着性に寄与するカルボキシル基が少ないため、塗膜の密着性が劣るようになる。一方上記範囲よりも酸価が高い場合には、硬化剤との架橋点が多くなることで硬化性には優れるものの、架橋密度が過度に高くなりやすく、塗膜の伸び性や加工性が低くなり、製缶加工性が劣るようになると共に、加工時に生じる内部応力も大きくなるため、缶体成形後の熱処理時に塗膜が剥離しやすくなる。なお、上記範囲よりも酸価が高い場合においても、硬化剤の配合量を少なくするなど調整すれば架橋密度を低く抑えることは可能であるが、その場合においては、架橋に用いられない遊離のカルボキシル基が塗膜に残存することになるため、塗膜の耐水性に劣るようになり、結果として充分な耐食性が得られない。
一方、ポリエステル樹脂(B)としては、酸価が5mgKOH/g未満、特に3mgKOH/g未満の範囲にあるポリエステル樹脂を用いることが好ましい。上記範囲よりも酸価が高いと、硬化剤と架橋反応をしやすくなるため、上記効果を得ることが難しくなる。
【0017】
本発明においては、ポリエステル樹脂(A)及び(B)のそれぞれが、複数のポリエステル樹脂のブレンド物であってもよい。例えば、ポリエステル樹脂(A)を複数種のポリエステル樹脂を混合して成る混合ポリエステル樹脂(A’)とし、同様にポリエステル樹脂(B)を混合ポリエステル樹脂(B’)としても良く、その場合には、各々のポリエステル樹脂の酸価と質量分率を乗じて得られた値の総和を、混合ポリエステル樹脂(A’)又は混合ポリエステル樹脂(B’)の平均酸価(Avmix)とし、その酸価が上記範囲内であれば良い。また、混合ポリエステル樹脂(A’)を構成するポリエステル樹脂は、前述したように酸価が5mgKOH/g以上の上記範囲内にあるポリエステル樹脂(A)から選択すれば良く、混合ポリエステル樹脂(B’)を構成するポリエステル樹脂は、酸価が5mgKOH/g未満の範囲内にあるポリエステル樹脂(B)から選択すれば良い。
【0018】
本発明で用いるポリエステル樹脂(A)及び(B)は、上述した酸価を有する以外は、塗料組成物に用いられる従来公知のポリエステル樹脂を使用することができ、塗料組成物が水性塗料組成物である場合には、水分散性及び/又は水溶性のポリエステル樹脂を使用する。
水分散性のポリエステル樹脂及び水溶性のポリエステル樹脂は、親水基を成分として含むポリエステル樹脂であり、これらの成分は、ポリエステル分散体表面に物理吸着されていてもよいが、ポリエステル樹脂骨格中に共重合されていていることが特に好ましい。
親水基としては、水酸基、アミノ基、カルボキシル基、スルホン酸基、又はこれらの誘導体や金属塩、エーテル等であり、これらを分子内に含むことにより水に分散可能な状態で存在することができる。
親水性基を含む成分としては、具体的には無水フタル酸、無水コハク酸、無水マレイン酸、無水トリメリット酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸等のカルボン酸無水物、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、グリセリン、ポリグリセリン等の水酸基含有ポリエーテルモノマー、5-スルホイソフタル酸、スルホテレフタル酸、4-スルホフタル酸、4-スルホナフタレン-2,7-ジカルボン酸、4-スルホ-1,8-ナフタレンジカルボン酸無水物等のスルホン酸含有芳香族モノマーの金属塩、又はアンモニウム塩等を挙げることができる。
【0019】
本発明においては、ポリエステル樹脂(A)として、親水基としてカルボキシル基を有するカルボキシル基含有ポリエステル樹脂、ポリエステル樹脂(B)としてスルホン酸基を有するスルホン酸基含有ポリエステル樹脂を好適に用いることができる。
【0020】
また、前記親水性基を含むモノマーと組み合わせて、ポリエステル樹脂を形成するモノマー成分としては、ポリエステル樹脂の重合に通常用いられるモノマーであれば特に限定されるものではない。ポリエステル樹脂を構成する多価カルボン酸成分としては、例えばテレフタル酸、イソフタル酸、オルソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジオン酸、ダイマー酸等の脂肪族ジカルボン酸、(無水)マレイン酸、フマル酸、テルペン-マレイン酸付加体などの不飽和ジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、テトラヒドロフタル酸、ヘキサヒドロイソフタル酸、1,2-シクロヘキセンジカルボン酸などの脂環族ジカルボン酸、(無水)トリメリト酸、(無水)ピロメリト酸、メチルシクロへキセントリカルボン酸等の3価以上の多価カルボン酸等が挙げられ、これらの中から1種または2種以上を選択し使用できる。本発明においては、耐食性や耐レトルト性、フレーバー性等の観点からポリエステル樹脂を構成する多価カルボン酸成分に占めるテレフタル酸やイソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸の割合が60モル%以上であることが好ましく、特に80%以上であることが好ましい。
【0021】
ポリエステル樹脂を構成する多価アルコール成分としては、特に限定はなく、エチレングリコール、プロピレングリコール(1,2-プロパンジオール)、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、ネオペンチルグリコール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2-エチル-2-ブチル-1,3-プロパンジオール、2,4-ジエチル-1,5-ペンタンジオール、1-メチル-1,8-オクタンジオール、3-メチル-1,6-ヘキサンジオール、4-メチル-1,7-ヘプタンジオール、4-メチル-1,8-オクタンジオール、4-プロピル-1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、などの脂肪族グリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等のエーテルグリコール類、1,4-シクロヘキサンジメタノール、1,3-シクロヘキサンジメタノール、1,2-シクロヘキサンジメタノール、トリシクロデカングリコール類、水添加ビスフェノール類、などの脂環族ポリアルコール、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、ペンタエリスリトール、などの3価以上のポリアルコール等から1種、または2種以上の組合せで使用することができる。本発明においては、上記の多価アルコール成分の中でも、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、2-メチル-1,3-プロパンジオールを、ポリエステル樹脂を構成する成分として好適に用いることできる。
【0022】
カルボキシル基含有ポリエステル樹脂は、上記の多価カルボン酸成分の1種類以上と多価アルコール成分の1種類以上とを重縮合させることや、重縮合後に多価カルボン酸成分、例えばテレフタル酸、イソフタル酸、無水トリメリット酸、トリメリット酸、ピロメリット酸等で解重合する方法、また、重縮合後に酸無水物、例えば 無水フタル酸、無水マレイン酸、無水トリメリト酸、エチレングリコールビストリメリテート二無水物等を開環付加させること等、公知の方法によって製造することができる。スルホン酸基含有ポリエステル樹脂は、上記多価カルボン酸成分、多価アルコール成分と併せて、5-スルホイソフタル酸、スルホテレフタル酸、4-スルホフタル酸、4-スルホナフタレン-2,7-ジカルボン酸、4-スルホ-1,8-ナフタレンジカルボン酸無水物等のスルホン酸含有芳香族モノマーの金属塩、又はアンモニウム塩等を共重合させる方法など、公知の方法によって製造することが出来る。
【0023】
また、本発明で用いるポリエステル樹脂は、アクリル樹脂で変性していない未アクリル変性ポリエステル樹脂であることが望ましい。
ポリエステル系水性塗料組成物においては、重合性不飽和モノマーをポリエステル樹脂にグラフト重合させる等の方法によりアクリル樹脂で変性したアクリル変性ポリエステル樹脂を用いることが広く提案されているが、アクリル樹脂で変性されたポリエステル樹脂は、形成される塗膜の加工性が劣る傾向にあると共に、その変性のために製造工程数が増え、製造コストも高くなる場合があるため、本発明に用いるポリエステル樹脂としては、アクリル樹脂で変性していないポリエステル樹脂(未アクリル変性ポリエステル樹脂)であることが好ましい。もしアクリル樹脂変性ポリエステル樹脂を用いる場合は、アクリル変性ポリエステル樹脂全体に占めるアクリル樹脂成分(重合性不飽和モノマーの重合体成分)の含有量(質量比率)が10質量%未満であることが好ましい。
【0024】
本発明に用いるポリエステル樹脂(A)及び(B)は、ポリエステル樹脂(A)のガラス転移温度(Tg)が20~120℃、好ましくは30~100℃、更に好ましくは40~90℃の範囲にあることが望ましく、またポリエステル樹脂(B)のガラス転移温度(Tg)が-70~80℃、好ましくは-50~70℃、より好ましくは-40~60℃、更に好ましくは-30~50℃の範囲にあることが望ましい。上記範囲よりもTgが高い場合には、形成される塗膜が硬くなるため、伸び性や加工性が劣るおそれがある。また、ポリエステル樹脂(B)においては、製缶加工時に発生した内部応力を緩和する働きなどの上述した効果を得ることが難しくなるおそれがある。一方、上記範囲よりもTgが低い場合には、塗膜バリアー性が低下し耐食性や耐レトルト性が劣るようになる。
【0025】
本発明においては、前述した通り、ポリエステル樹脂(A)及び(B)のそれぞれが、複数のポリエステル樹脂のブレンド物であってもよい。例えば、ポリエステル樹脂(A)を複数種のポリエステル樹脂を混合して成る混合ポリエステル樹脂(A’)とし、同様にポリエステル樹脂(B)を混合ポリエステル樹脂(B’)とした場合においては、混合ポリエステル樹脂のガラス転移温度(Tgmix)は、下記式(1)から算出され、混合ポリエステル樹脂(A’)及び混合ポリエステル樹脂(B’)のそれぞれのガラス転移温度が上記範囲にあれば良い。
1/Tgmix=(W/Tg)+(W/Tg)+…+(W/Tg
・・・(1)
+W+…+W=1
なお式中、Tgmixは混合ポリエステル樹脂のガラス転移温度(K)を表わし、Tg,Tg,…,Tgは使用する各ポリエステル樹脂(ポリエステル樹脂1,ポリエステル樹脂2,…ポリエステル樹脂m)単体のガラス転移温度(K)を表わす。また、W,W,…,Wmは各ポリエステル樹脂(ポリエステル樹脂1,ポリエステル樹脂2,…ポリエステル樹脂m)の質量分率を表わす。
【0026】
ポリエステル樹脂(A)及び(B)の数平均分子量(Mn)はこれに限定されるものではないが、1,000~100,000、特に1,000~50,000の範囲にあることが好ましい。上記範囲よりも小さいと塗膜が脆くなり、加工性に劣る場合があり、上記範囲よりも大きいと塗料安定性が低下するおそれがある。
【0027】
ポリエステル樹脂(A)及び(B)の水酸基価については、これに限定されるものではないが、20mgKOH/g以下、より好ましくは15mgKOH/g以下であることが好ましい。硬化剤としてβ-ヒドロキシアルキルアミド化合物を使用する場合、β-ヒドロキシアルキルアミド化合物はポリエステル樹脂のカルボキシル基とは反応し架橋を形成するが、水酸基とは反応しにくい、或いは反応しないと考えられるため、ポリエステル樹脂の水酸基の大部分は未反応のまま塗膜に残存することとなる。そのため、上記範囲よりも水酸基価が大きい場合は、残存する水酸基が多くなり、耐食性や耐レトルト白化性が低下するおそれがある。
【0028】
ポリエステル樹脂(B)として好適に用いることができる市販品としては、例えば、東洋紡社製「バイロナールMD-1100」(数平均分子量:20,000、Tg:40℃、酸価:3mgKOH/g未満、水酸基価:5mgKOH/g)、「バイロナールMD-1200」(数平均分子量:15,000、Tg:67℃、酸価:3mgKOH/g未満、水酸基価:6mgKOH/g)、「バイロナールMD-1500」(数平均分子量:8,000、Tg:77℃、酸価:3mgKOH/g未満、水酸基価:14mgKOH/g)、「バイロナールMD-1985」(数平均分子量:25,000、Tg:-20℃、酸価:3mgKOH/g未満、水酸基価:4mgKOH/g)、互応化学社製「プラスコートZ-221」(スルホン酸基含有タイプ、分子量:約14,000、Tg:47℃、酸価:5mgKOH/g未満)、「プラスコートZ-880」(スルホン酸基含有タイプ、分子量:約15,000、Tg:20℃、酸価:5mgKOH/g未満)、日本合成化学社製「ポリエスターWR-901」(スルホン酸基含有タイプ、Tg:51℃、酸価:4mgKOH/g未満、水酸基価:4~8mgKOH/g)が挙げられる。
【0029】
(硬化剤)
本発明においては、主剤であるポリエステル樹脂が有するカルボキシル基と架橋反応可能な官能基を有する特定の硬化剤を用いることが重要な特徴である。
本発明に用いる硬化剤における前記官能基の官能基当量としては、30~600g/eqであることが好ましく、特に40~200g/eqの範囲にあることが好ましい。なお、本発明における官能基当量とは、分子量を硬化剤1分子当たりの官能基数(ここで言う官能基は主剤ポリエステル樹脂のカルボキシル基と架橋反応可能な官能基を指す)で除した値であり、硬化剤の前記官能基1個当たりの分子量を意味し、例えばエポキシ当量などで表される。官能基当量が上記範囲よりも小さいと架橋点間距離を長くとることができないため、塗膜の柔軟性が低下し、加工性が劣るおそれがある。一方で上記範囲よりも大きすぎると硬化性が劣るおそれがある。
【0030】
また、前記硬化剤としては、硬化剤同士で自己縮合反応しにくいもの、特に自己縮合反応しないものが好ましい。一般にポリエステル系塗料組成物の硬化剤として使用されているレゾール型フェノール樹脂やメラミン樹脂等のアミノ樹脂は硬化剤同士の自己縮合反応を起こしやすく、塗膜形成時に硬く脆いドメインである自己縮合体が形成され、それにより塗膜が硬くなり加工性を低下させる場合がある。また自己縮合反応に硬化剤の反応点(官能基)が消費されてしまうため、充分な硬化性を得るために必要となる硬化剤の量が多くなる場合があり非効率であると共に、塗膜に含まれる多量の硬化剤の存在が、加工性や耐衝撃性などの塗膜特性に悪影響を与えるおそれがある。これに対して、自己縮合反応しにくい、或いは自己縮合反応しない硬化剤を使用した場合は、硬く脆い自己縮合体の形成を抑制できると共に、ポリエステル樹脂のカルボキシル基量に対応した最低限の量を配合すれば良いため効率的であると共に、塗膜中の硬化剤量も少なくでき、結果として加工性及び耐衝撃性に優れた塗膜を形成することができる。
従って硬化剤としては、ポリエステル樹脂のカルボキシル基との反応性を有する官能基として、上述した理由により、硬化剤同士の自己縮合反応を誘発しにくい官能基を有する硬化剤が好ましく、そのような硬化剤としては、β-ヒドロキシアルキルアミド化合物、カルボジイミド基含有化合物(ポリマー)、オキサゾリン基含有化合物(ポリマー)が挙げられ、特にβ-ヒドロキシアルキルアミド化合物を好適に使用することができる。
【0031】
[β-ヒドロキシアルキルアミド化合物]
本発明の塗料組成物においては、主剤であるポリエステル樹脂が有するカルボキシル基と架橋反応可能な官能基として、β-ヒドロキシアルキルアミド基を有するβ-ヒドロキシアルキルアミド化合物から成る硬化剤を用いることが好適である。
βーヒドロキシアルキルアミド化合物から成る硬化剤は、前述の通り、硬化剤同士の自己縮合反応による加工性低下を招くおそれがなく、必要最低限の量で十分な硬化性を得ることができるため効率的であると共に、塗膜中の硬化剤量も少なくでき、結果として加工性に優れた塗膜を形成することができる。さらに、フェノール樹脂を用いた場合のように、塗膜が着色するおそれがなく、無色透明な塗膜を形成できることも利点である。また、原料としてホルムアルデヒドを含まないため、フレーバー性等の面で好ましい。
β―ヒドロキシアルキルアミド化合物から成る硬化剤としては、例えば下記一般式〔I〕で示されるものが挙げられる。
一般式〔I〕;
[HO―CH(R)―CH―N(R)―CO―]―A―[―CO―N(R’)
―CH―CH(R’)―OH]
[式中、RおよびR’は水素原子又は炭素数1から5までのアルキル基、RおよびR’は水素原子又は炭素数1から5までのアルキル基又は一般式〔II〕で示されるもの、Aは多価の有機基、mは1又は2、nは0から2(mとnの合計は少なくとも2である。)を表わす。]
【0032】
一般式〔II〕;HO―CH(R)―CH
[式中、Rは水素原子又は炭素数1から5までのアルキル基を表わす。]
【0033】
前記一般式〔I〕中のAは、脂肪族、脂環族又は芳香族炭化水素であることが好ましく、炭素数2から20の脂肪族、脂環族又は芳香族炭化水素がより好ましく、炭素数4から10の脂肪族炭化水素が更に好ましい。
また、前記一般式〔I〕におけるmとnの合計は、2又は3又は4であることが好ましい。
上記一般式〔I〕で示されるもの中でも、硬化剤として用いるβ-ヒドロキシアルキルアミド化合物としては、特にN,N,N’,N’-テトラキス(2-ヒドロキシエチル)アジポアミド[CAS:6334-25-4、分子量:約320、1分子当たりの官能基数:4、官能基当量(理論値):約80g/eq、製品例:EMS-GRILTECH社製Primid XL552]やN,N,N’,N’-テトラキス(2-ヒドロキシプロピル)アジポアミド[CAS:57843-53-5、分子量:約376、1分子当たりの官能基数:4、官能基当量(理論値):約95g/eq、製品例:EMS-GRILTECH社製Primid QM1260]が好ましい。これらの中でも、硬化性や耐レトルト性の観点からN,N,N’,N’-テトラキス(2-ヒドロキシプロピル)アジポアミドを用いることがより好ましい。N,N,N’,N’-テトラキス(2-ヒドロキシエチル)アジポアミドに比べて、N,N,N’,N’-テトラキス(2-ヒドロキシプロピル)アジポアミドの方が、ポリエステル樹脂との反応性が高く、硬化性に優れると共に、より緻密な架橋構造を形成することで、レトルト時にも塗膜が白化しにくく、耐レトルト性に優れた塗膜を形成することができる。
【0034】
[カルボジイミド基含有化合物]
前記カルボジイミド基含有化合物としては、例えば、分子中にカルボジイミド基を有する樹脂を用いることができ、市販品の商品名としては、例えば、日清紡社ケミカル社製「カルボジライトV-02」、「カルボジライトV-02-L2」、「カルボジライトV-04」、「カルボジライトE-01」、「カルボジライトE-02」等を挙げることができる。
【0035】
[オキサゾリン基含有硬化剤]
オキサゾリン基を有する硬化剤としては、例えばオキサゾリン誘導体を含むモノマー組成物を重合させた水溶性重合体が挙げられ、そのようなオキサゾリン誘導体としては、例えば、2-ビニル-2-オキサゾリン、2-ビニル-4-メチル-2-オキサゾリン、2-ビニル-5-メチル-2-オキサゾリン、2-イソプロペニル-2-オキサゾリン、2-イソプロペニル-4-メチル-2-オキサゾリン、2-イソプロペニル-5-メチル-2-オキサゾリン、2-イソプロペニル-5-エチル-2-オキサゾリン等が挙げられる。また、オキサゾリン誘導体を含むモノマー組成物に含まれるオキサゾリン誘導体以外のモノマーとしては、オキサゾリン誘導体と共重合し、かつ、オキサゾリン基に対して不活性な化合物であればよく、特に限定されるものではない。オキサゾリン基含有重合体中において、オキサゾリン誘導体に由来する構造単位が占める割合としては、5質量%以上であることが好ましい。具体的には、株式会社日本触媒製エポクロスWS-300[数平均分子量:約4万、官能基(オキサゾリン)当量:約130g/eq]、エポクロスWS-700[数平均分子量:約2万、官能基(オキサゾリン)当量:約220g/eq]が挙げられる。
【0036】
硬化剤は、ポリエステル樹脂(固形分)100質量部に対して、1~20質量部、好ましくは、2~15質量部、より好ましくは3~10質量部、特に好ましくは3~8質量部で配合するのが望ましい。上記範囲よりも硬化剤の配合量が少ない場合には、充分な硬化性を得ることができず、一方上記範囲よりも硬化剤の配合量が多い場合には、経済性に劣るだけでなく、ポリエステル樹脂のカルボキシル基量に対して、硬化剤の官能基が大過剰になった場合に、硬化剤1分子が2分子以上のポリエステル樹脂と反応することが困難になり、結果として架橋形成に不備が生じ、かえって硬化性が低下する場合がある。また長期保存の安定性に劣るおそれがある。
硬化剤としてβ-ヒドロキシアルキルアミド化合物を使用する場合、ポリエステル樹脂のカルボキシル基量に対する硬化剤のβ-ヒドロキシアルキルアミド基由来の水酸基の当量比(OH基/COOH基モル比)が、0.3~3.0倍当量、好ましくは0.5~2.5倍当量、より好ましくは0.8~2.0倍当量の範囲にあることが望ましい。
【0037】
(塗料組成物)
本発明の塗料組成物は、主剤として上述したポリエステル樹脂、及び上述した硬化剤を含有する。なお、本発明においては、塗料組成物中の塗膜を形成する固形成分(水や溶剤などの揮発する物質を除いた不揮発成分)の中で、最も含有量(質量割合い)が多い成分のことを、主剤(主成分)として定義する。なお、ここで、塗膜を形成する固形成分とは、塗装後の焼付けにより、塗膜として連続層を形成する成分のことを意味し、連続層を形成しない成分、例えば無機顔料、無機粒子(フィラー)等は、これに該当しない。
本発明の塗料組成物の種類としては、水性塗料組成物、溶剤型塗料組成物、粉体塗料組成物などが挙げられるが、取扱い性、作業性等の観点から、水性塗料組成物であることが望ましい。
【0038】
(水性塗料組成物)
本発明の塗料組成物が水性塗料組成物である場合においては、上述したポリエステル樹脂及び硬化剤と共に、水性媒体を含有する。
【0039】
(水性媒体)
水性媒体としては、公知の水性塗料組成物と同様に、水、或いは水とアルコールや多価アルコール、その誘導体等の有機溶剤を混合したものを水性媒体として用いることができる。有機溶剤を用いる場合には、水性塗料組成物中の水性媒体全体に対して、1~45質量%の量で含有することが好ましく、特に5~30質量%の量で含有することが好ましい。上記範囲で溶剤を含有することにより、製膜性能が向上する。
このような有機溶媒としては、両親媒性を有するものが好ましく、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、n―ブタノール、エチレングリコール、メチルエチルケトン、ブチルセロソルブ、カルビトール、ブチルカルビトール、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールエチレングリコールモノブルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、3-メチル3-メトキシブタノールなどが挙げられる。
【0040】
(塩基性化合物)
上記水性塗料組成物において、ポリエステル樹脂に水分散性又は水溶性を付与するために、ポリエステル樹脂のカルボキシル基を中和可能な塩基性化合物が含有されていることが好ましい。塩基性化合物としては塗膜形成時の焼付で揮散する化合物、すなわち、アンモニア及び/又は沸点が250℃以下の有機アミン化合物などが好ましい。
具体的には、トリメチルアミン、トリエチルアミン、n-ブチルアミン等のアルキルアミン類、2-ジメチルアミノエタノール、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、アミノメチルプロパノール、ジメチルアミノメチルプロパノール等アルコールアミン類等が使用される。またエチレンジアミン、ジエチレントリアミン等多価アミンも使用できる。更に、分岐鎖アルキル基を有するアミンや複素環アミンも好適に使用される。分岐鎖アルキル基を有するアミンとしては、イソプロピルアミン、sec-ブチルアミン、tert-ブチルアミン、イソアミルアミン等の炭素数3~6、特に炭素数3~4の分岐鎖アルキルアミンが使用される。複素環アミンとしては、ピロリジン、ピペリジン、モルホリン等の1個の窒素原子を含む飽和複素環アミンが使用される。
本発明においては、上記の中でもトリエチルアミン、又は2-ジメチルアミノエタノールを好適に使用することができ、その使用量は、カルボキシル基に対して0.5~1.5当量で用いるのがよい。
【0041】
(潤滑剤)
本発明に用いる塗料組成物には、必要に応じ潤滑剤を含有することができる。ポリエステル樹脂100質量部に対し、潤滑剤0.1質量部~10質量部を加えることが好ましい。
潤滑剤を加えることにより、缶蓋等の成形加工時の塗膜の傷付きを抑制でき、また成形加工時の塗膜の滑り性を向上させることができる。
【0042】
塗料組成物に加えることのできる潤滑剤としては、例えば、ポリオール化合物と脂肪酸とのエステル化物である脂肪酸エステルワックス、シリコン系ワックス、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素系ワックス、ポリエチレンなどのポリオレフィンワックス、パラフィンワックス、ラノリン、モンタンワックス、マイクロクリスタリンワックス、カルナバろう、およびシリコン系化合物、ワセリンなどを挙げることができる。これらの潤滑剤は一種、または二種以上を混合し使用できる。
【0043】
(その他)
本発明に用いる塗料組成物には、上記成分の他、従来より塗料組成物に配合されている、レベリング剤、顔料、消泡剤等を従来公知の処方に従って添加することもできる。
また、本発明の目的を損なわない範囲で、ポリエステル樹脂と併せてその他の樹脂成分が含まれていても良く、例えばポリ酢酸ビニル、エチレン・酢酸ビニル共重合体、ポリオレフィン系樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、アクリル樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリ塩化ビニル-酢酸ビニル共重合樹脂、ポリビニルアルコール、エチレン・ビニルアルコール共重合体、ポリビニルピロリドン、ポリビニルエチルエーテル、ポリアクリルアミド、アクリルアミド系化合物、ポリエチレンイミン、澱粉、アラビアガム、メチルセルロース等の水分散或いは水溶性樹脂が含まれていても良い。
【0044】
上述した水性塗料組成物においては、ポリエステル樹脂が固形分として5~55質量%の量で含有されていることが好適である。上記範囲よりも樹脂固形分が少ない場合には、適正な塗膜量を確保することができず、被覆性が劣るようになる。一方、上記範囲よりも樹脂固形分が多い場合には、作業性及び塗工性に劣る場合がある。
【0045】
(塗装金属基体)
本発明の塗装金属基体は、本発明の塗料組成物を金属板、金属容器等の金属基体に塗装することにより得られる。また、本発明の塗装金属基体は、少なくとも片面に塗膜を有する塗装金属基体であって、前記塗膜がポリエステル樹脂、カルボキシル基と架橋反応可能な官能基を有する硬化剤とを含有し、かつ前記塗膜が、少なくとも2つのガラス転移温度を有していることが重要な特徴である。本発明の塗料組成物を金属基体上に塗装焼付けすることにより形成された塗膜において、少なくても2成分、すなわちポリエステル樹脂(A)を主成分とした架橋成分とポリエステル樹脂(B)を主成分とした未架橋成分が相溶せず、相分離している状態(海島状態)、すなわち少なくとも2成分に由来するガラス転移温度を有する状態を実現することにより、前述のような製缶加工性及び塗膜剥離耐性の向上効果がより顕著に得られるのである。
なお、塗膜が架橋形成する前に、非相溶系により2成分以上のガラス転移温度を有してもよいが、架橋形成前は相溶系の単一層であり、ポリエステル樹脂(A)と硬化剤を中心とした架橋形成反応に伴う反応誘起相分離により、徐々に2成分以上のガラス転移温度に分かれる方が、ポリエステル樹脂(B)を主成分としたドメインの塗膜中における分散径を小さくでき、上述のような効果が得られやすくなると共に、塗膜が白濁することがなく透明な塗膜を得ることできるため好ましい。
本発明においては、塗膜が少なくとも2つのガラス転移温度を有し、該ガラス転移温度が-70~120℃の間にあることが好ましい。そのうち最も低い成分のガラス転移温度が-70~80℃、好ましくは-50℃~60℃、より好ましくは-40~50℃、特に好ましくは-40℃以上40℃未満の範囲にあることが望ましい。ガラス転移温度が最も低い成分以外の成分のガラス転移温度は20~120℃、好ましくは30~100℃、より好ましくは40~90℃の範囲にあることが好ましい。特に、前記塗膜が、40℃~90℃の間のガラス転移温度(Tg)及び-40℃以上40℃未満の間のガラス転移温度(Tg)を有することが好ましい。
【0046】
(塗装金属基体の製造方法)
本発明の塗料組成物を、ロールコーター塗装、スプレー塗装、ディップ塗装、また粉体塗料組成物の場合は、静電粉体塗装や流動浸漬塗装などのなどの公知の塗装方法によって金属板、或いは金属容器又は金属蓋等の金属基体に塗装し、オーブン等の加熱手段によって焼き付けることにより塗装金属板、塗装金属容器、塗装金属蓋等の塗装金属基体を得ることができる。また後述するように、この塗装金属板を成形に付して、絞りしごき缶等の塗装金属容器はもちろん、塗装金属蓋とすることもできる。
塗料組成物の焼き付け条件は、ポリエステル樹脂の種類、硬化剤の種類、金属基体の種類や形状、塗料組成物の塗工量等によって適宜調節されるが、上述した塗料組成物は、充分な硬化性を得るために、焼付け温度が150℃~350℃、好ましくは200℃より高く320℃以下の温度で、5秒以上、好ましくは5秒~30分間、特に好ましくは8秒~180秒間の条件で加熱硬化させることが好ましい。
また形成する塗膜の膜厚は、塗料組成物が水性塗料組成物、溶剤型塗料組成物である場合には乾燥膜厚で30μm未満、好ましくは0.5~20μm、より好ましくは2μmより大きく15μm以下、更に好ましくは3~14μm範囲にあることが好適である。塗料組成物が粉体塗料の場合は、塗装膜厚が30~150μmの範囲にあることが好ましい。
【0047】
金属基体として用いる金属板としては、これに限定されないが、例えば、熱延伸鋼板、冷延鋼板、溶融亜鉛メッキ鋼板、電気亜鉛メッキ鋼板、合金メッキ鋼板、アルミニウム亜鉛合金メッキ鋼板、アルミニウム板、スズメッキ鋼板、ステンレス鋼板、銅板、銅メッキ鋼板、ティンフリースチール、ニッケルメッキ鋼板、極薄スズメッキ鋼板、クロム処理鋼板などが挙げられ、必要に応じてこれらに各種表面処理、例えばリン酸クロメート処理やジルコニウム系の化成処理、ポリアクリル酸などの水溶性樹脂と炭酸ジルコニウムアンモン等のジルコニウム塩を組み合わせた塗布型処理等を行ったものが使用できる。
また、上記金属板の塗膜上に更に、有機樹脂被覆層としてポリエステル樹脂フィルム等の熱可塑性樹脂フィルムをラミネートし、有機樹脂被覆塗装金属板を形成することもできる。
【0048】
(絞りしごき缶)
本発明の塗装金属基体(塗装金属板)を成形して成る絞りしごき缶は、上述した塗装金属板を用いる限り、従来公知の成形法により製造することができる。本発明の塗料組成物により形成される塗膜が優れた加工性、及び密着性を有していることから、過酷な絞り・しごき加工の際にも、破胴や缶口端での塗膜剥離を生じることなく、絞りしごき缶を成形することができる。なお、本発明の塗装金属板は、成形性や潤滑性に優れるものであるから、液体のクーラントを用いる場合はもちろん、液体クーラントを用いず、ドライ条件下で成形を行った場合でも、絞りしごき缶を成形することができる。
【0049】
絞りしごき成形に先立って塗装金属板の表面には、ワックス系潤滑剤、例えば、パラフィン系ワックス、白色ワセリン、パーム油、各種天然ワックス、ポリエチレンワックス等を塗布することが好ましく、これによりドライ条件下で効率よく絞りしごき加工を行うことができる。ワックス系潤滑剤が塗布された樹脂被覆アルミニウム板を、カッピング・プレスで、ブランクを打抜き、絞り加工法により、絞りカップを成形する。本発明においては、下記式(2)で定義される絞り比RDが、トータル(絞りしごき缶まで)で1.1~2.6の範囲、特に1.4~2.6の範囲にあることが望ましい。上記範囲よりも絞り比が大きいと、絞りしわが大きくなり、塗膜に亀裂が発生して金属露出を発生するおそれがある。
RD=D/d・・・(2)
式中、Dはブランク径、dは缶胴径を表す。
【0050】
次いで、前記絞りカップを、再絞り-一段又は数段階のしごき加工を行うが、この際本発明においては、成形パンチの温度が10~80℃となるように温度調節されていることが好ましい。
本発明においては、下記式(3)で表されるしごき率Rが、25~80%の範囲にあることが望ましい。上記範囲よりもしごき率が低いと、十分に薄肉化できず、経済性の点で十分満足するものではなく、一方上記範囲よりもしごき率が高い場合には、金属露出や、巻締加工での金属露出のおそれがある。
R(%)=(tb-tw)/tb×100・・・(3)
式中、tbは元の金属板の厚み、twは絞りしごき缶の缶胴側壁中央部の厚みを表す。
また本発明の絞りしごき缶においては、缶胴側壁中央部の厚みが、缶底(中央部)の厚みの20~75%、好ましくは30~60%の厚みであることが好適である。
得られた絞りしごき缶を、常法に従って底部のドーミング成形及び開口端縁のトリミング加工を行う。
得られた絞りしごき缶は、少なくとも一段の熱処理に付し、加工により生じる塗膜の残留歪みを除去するか、或いは表面に印刷した印刷インキを乾燥硬化させる。熱処理後は急冷或いは放冷した後、所望により、一段或いは多段のネックイン加工に付し、フランジ加工を行って、巻締用の缶とする。また、絞りしごき缶を成形した後、その上部を変形させてボトル形状にすることもできるし、底部を切り取って、他の缶端を取り付けてボトル形状とすることもできる。
【0051】
本発明の塗装金属基体(塗装金属板)は、優れた製缶加工性を有することから、絞りしごき缶の製造のように過酷な加工にも耐え、金属露出のない耐食性に優れた絞りしごき缶を成形することができる。したがって、本発明の塗装金属板は、絞りしごき缶よりも加工度の低い成形品には当然、同程度以上の加工性を発現可能であることから、絞りしごき缶以外の用途、例えば従来公知の製法による絞り缶(DR缶)、深絞り缶(DRD缶)、絞り引き伸ばし加工缶(DTR缶)、引っ張り絞りしごき加工缶、又は缶蓋等にも好適に適用できる。缶蓋の形状は、内容物注出用開口を形成するためのスコア及び開封用のタブが設けられたイージーオープン蓋等の従来公知の形状を採用することができ、フルオープンタイプ又はパーシャルオープンタイプ(ステイ・オン・タブタイプ)の何れであってもよい。
【実施例
【0052】
以下、実施例、比較例を挙げて、本発明を具体的に説明する。実施例において単に部とあるものは質量部を示す。
【0053】
ポリエステル樹脂(A)の各種測定項目は以下の方法に従った。なお、ポリエステル樹脂(A)はいずれも未アクリル変性ポリエステル樹脂である。
(数平均分子量の測定)
ポリエステル樹脂の固形物を用いて、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によって標準ポリスチレンの検量線を用いて測定した。
(ガラス転移温度の測定)
ポリエステル樹脂の固形物を用いて、示差走査熱量計(DSC)によって測定した。
(酸価の測定)
ポリエステル樹脂の固形物1.0gを10mlのクロロホルムに溶解し、0.1NのKOHエタノール溶液で滴定し、樹脂酸価(mgKOH/g)を求めた。指示薬はフェノールフタレインを用いた。ポリエステル樹脂が溶解しない場合には、溶媒にテトラヒドロフラン等の溶媒を用いた。
(モノマー組成の測定)
ポリエステル樹脂の固形物30mgを重クロロホルム0.6mlに溶解させ、1H-NMR測定し、ピーク強度からモノマー組成比を求めた。なおごく微量な成分(全モノマー成分に対して1モル%未満)は除き、組成比を決定した。
【0054】
(塗装金属板の作成)
各実施例、比較例の水性塗料組成物を用い、塗装金属板を作成した。なお、塗装金属板の内面側、外面側の塗膜は、同一製造例の塗料組成物を用いて形成した。金属板としてリン酸クロメート系表面処理アルミニウム板(3104合金、板厚:0.28mm、表面処理皮膜中のクロム重量:20mg/m2)を用い、まず、成形後に外面側となる面に、焼付け後の塗膜の膜厚が3μmになるようバーコーターにて塗装し120℃で60秒間乾燥を行った。その後、反対側の内面側となる面に、焼付け後の塗膜の膜厚が9μmとなるようバーコーターにて塗装し、250℃で60秒間焼付けを行なうことにより作成した。
【0055】
各実施例、比較例の塗料組成物で得られる塗膜の性能、および上記方法で得られた各実施例、比較例、参考例の塗装金属板において、下記の試験方法に従って試験を行った。結果を表1に示す。
【0056】
[塗膜のガラス転移温度(塗膜Tg)]
各実施例および比較例、参考例で用いた水性塗料組成物を、焼付け後の塗膜の膜厚が9μmになるようアルミニウム箔上にバーコーターにて塗装し250℃で60秒間焼付けを行い、アルミニウム箔上に塗膜を形成した。次いで、塗膜を形成したアルミニウム箔を希釈した塩酸水溶液中に浸漬させてアルミニウム箔を溶解させることで、フィルム状の塗膜を取り出し、十分に蒸留水で洗浄して乾燥させ、測定用サンプルとした。得られた塗膜について、示差走査熱量計(DSC)を用いて、下記の条件で塗膜のガラス転移温度を測定した。なお、2nd-run(昇温)において、補外ガラス転移開始温度、すなわち低温側のベースラインを高温側に延長した直線と、ガラス転移の階段状変化部分の曲線のこう配が最大になるような点で引いた接線との交点の温度を塗膜のガラス転移温度(塗膜Tg)とした。
装置:セイコーインスツルメント株式会社製 DSC6220
試料量:5mg
昇温速度:10℃/分
温度範囲:-80~200℃(昇温、冷却、昇温)
環境条件:窒素気流下
なお、両面に塗膜を形成した塗装金属板から測定用サンプルを得る場合は、測定しない片側の塗膜をサンドペーバーで削るなどして除去した後、希釈した塩酸水溶液中に浸漬させるなど常法により金属基材(金属板)を溶解させ、フィルム状のフリー塗膜を取り出し、十分に蒸留水で洗浄して乾燥させることで、測定用サンプルを得ることができる。
【0057】
(硬化性)
塗膜硬化性をMEK抽出率で評価した。各実施例および比較例の水性塗料組成物を、焼付け後の塗膜が9μmになるように、リン酸クロメート系表面処理アルミニウム板(3104合金、板厚:0.28mm、表面処理皮膜中のクロム重量:20mg/m)にバーコーターにて塗装し250℃で60秒間焼付けを行い、塗装金属板を作製した。塗装金属板から5cm×5cmサイズの試験片を切り出し、試験片の質量測定後(W1)、200mlのMEK(メチルエチルケトン)を用い、沸騰しているMEK(80℃還流下)に試験片を1時間浸漬させ、沸点で1時間のMEK抽出を行った。抽出後の塗装板をMEKで洗浄後、120℃で1分間乾燥し、抽出後の試験片の質量(W2)を測定した。さらに塗膜を濃硫酸による分解法で剥離し、試験片の質量(W3)を測定した。塗装板のMEK抽出率は下記式(4)で求められる。
MEK抽出率%=100×(W1-W2)/(W1-W3)・・・(4)
評価基準は以下の通りである。
◎:20%未満
○:20%以上30%未満
△:30%以上45%未満
×:45%以上
【0058】
(絞りしごき缶の作成)
上記の方法で作成した塗装金属板の両面に、パラフィンワックスを塗油した後、直径142mmの円形に打ち抜き、浅絞りカップを作成した。次いで、この浅絞りカップを、油圧プレスを用いて、ドライ条件下で外径Φ66mmのパンチ(温調あり)を速度1m/sにて移動させ、まず再絞り加工を行いし、次いで三回のしごき加工を施し、ドーミング成形を行い、トータルの絞り比2.15、しごき率64%の絞りしごき缶(缶高さ:約130mm、缶胴側壁中央部の厚みが缶底中央部の厚みの38.5%)を得た。
【0059】
(製缶加工性評価)
上記で得られた絞りしごき缶において、硫酸銅試験により成形後の内面塗膜の被覆性(金属露出度合い)を評価した。缶体のフランジより約10mmまで硫酸銅水溶液[20部の硫酸銅(II)五水和物、70部の脱イオン水、及び10部の塩酸(36%)を混合して調製]を満たし、約2分間放置させた。次いで、缶体から硫酸銅水溶液を出し、水洗して缶を切り開き、内面側の銅の析出の程度により金属露出度合いを観察し、製缶加工性を評価した。
評価基準は以下の通りである。
◎:金属露出が認められない。
○:缶胴側壁の最も加工が厳しく薄肉化されている部位で金属露出がごくわずかに認
められる。
△:缶胴側壁の最も加工が厳しく薄肉化されている部位で部分的に金属露出が認めら
れる。
×:缶胴側壁の最も加工が厳しく薄肉化されている部位の大部分で金属露出が認めら
れる。
【0060】
[塗膜剥離耐性評価]
上記で得られた絞りしごき缶において、熱処理を施し、熱処理後の内面塗膜の剥離度合いを評価した。成形後の缶体に、オーブンを用いて、201℃で75秒間の熱処理を施した後、缶を切り開き、塗膜剥離度合いを観察し評価した。
評価基準は以下の通りである。
◎:塗膜剥離が認められない。
○:缶胴側壁の最も加工が厳しく薄肉化されている部位で部分的に塗膜剥離が認めら
れる。
△:缶胴側壁の最も加工が厳しく薄肉化されている部位で塗膜剥離が認められる。
×:缶胴側壁の広範囲において塗膜剥離が認められる。
【0061】
(水性塗料組成物の調製)
(実施例1)
ポリエステル樹脂(A)としてポリエステル樹脂(A)-a(酸価:23mgKOH/g、Tg:80℃、Mn=8,000、モノマー組成:テレフタル酸成分/エチレングリコール成分/プロピレングリコール成分=50/10/40mol%)、及びポリエステル樹脂(A)-c(Tg:-25℃、Mn=17,000、酸価:11mgKOH/g、モノマー組成:テレフタル酸成分/イソフタル酸成分/セバシン酸成分/1,4-ブタンジオール成分=14/17/19/50mol%)を用い、ポリエステル樹脂(B)として互応化学社製「プラスコートZ-880」(スルホン酸基含有タイプ、分子量:約15,000、Tg:20℃、酸価:5mgKOH/g未満;表中ポリエステル樹脂(B)-aと表記)、硬化剤のβ-ヒドロキシアルキルアミド化合物としてN,N,N’,N’-テトラキス(2-ヒドロキシプロピル)アジポアミド(EMS-GRILTECH社製「Primid QM1260」)を用いた。ポリエステル樹脂(A)-a、ポリエステル樹脂(A)-c、及びポリエステル樹脂(B)-aの水分散液を固形分質量比で73:18:9となるように混合した混合ポリエステル樹脂の水分散液(樹脂固形分濃度:30質量%、イソプロピルアルコール濃度:18質量%)を333部(固形分100部)、予めイオン交換水を用いて調整しておいたβ-ヒドロキシアルキルアミド化合物の水溶液(固形分濃度:30質量%)16.7部(固形分5部)をガラス容器内に入れて10分間攪拌し、固形分濃度30質量%、固形分配合比がポリエステル樹脂/硬化剤=100/5(質量比)の水性塗料組成物を得た。
【0062】
(実施例2~15、比較例1~4)
表1に示す各種ポリエステル樹脂、或いは、固形分配合比となるようにした以外は、実施例1と同様に水性塗料組成物を調製した。前述のポリエステル樹脂の他、ポリエステル樹脂(A)として、ポリエステル樹脂(A)-(b)(Tg:80℃、Mn=5,000、酸価:36mgKOH/g)、ポリエステル樹脂(B)として、互応化学社製「プラスコートZ-3310」(スルホン酸基含有タイプ、分子量:約15,000、Tg:-20℃、酸価:5mgKOH/g未満;表中ポリエステル樹脂(B)-bと表記)、東洋紡社製「バイロナールMD-1100」(数平均分子量:20,000、Tg:40℃、酸価:3mgKOH/g未満、水酸基価:5mgKOH/g);表中ポリエステル樹脂(B)-cと表記)、東洋紡社製「バイロナールMD-1335」(数平均分子量:8,000、Tg:4℃、酸価:3mgKOH/g未満、水酸基価:13mgKOH/g;ポリエステル樹脂(B)-dと表記)、東洋紡社製「バイロナールMD-1930」(数平均分子量:20,000、Tg:-10℃、酸価:3mgKOH/g未満、水酸基価:5mgKOH/g;ポリエステル樹脂(B)-eと表記)、東洋紡社製バイロナール「MD-1985」(数平均分子量:25,000、Tg:-20℃、酸価:3mgKOH/g未満、水酸基価:4mgKOH/g;ポリエステル樹脂(B)-fと表記)、東洋紡社製バイロナール「MD-1480」(数平均分子量:15,000、Tg:20℃、酸価:3mgKOH/g、水酸基価:4mgKOH/g;ポリエステル樹脂(B)-gと表記)を使用した。
【0063】
表1に各実施例、比較例における各水性塗料組成物の組成(ポリエステル樹脂の種類、硬化剤の種類、固形分配合比等)、塗膜性能(塗膜Tg)、及び塗装金属板の評価結果を示す。
【0064】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明の塗料組成物は、ドライ条件下での絞りしごき加工等の過酷な加工にも適用可能な優れた製缶加工性を有すると共に、缶体成形後の熱処理時にも剥離することのない優れた塗膜剥離耐性を有する塗膜を形成可能なため、絞りしごき缶等に用いる塗装金属基体の塗膜を形成する塗料組成物として、好適に使用できる。