(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-20
(45)【発行日】2023-11-29
(54)【発明の名称】加熱装置の状態監視方法、及び状態監視システム
(51)【国際特許分類】
H05B 3/00 20060101AFI20231121BHJP
G01N 27/20 20060101ALI20231121BHJP
C03B 5/235 20060101ALI20231121BHJP
G05B 23/02 20060101ALN20231121BHJP
【FI】
H05B3/00 320Z
G01N27/20 Z
C03B5/235
G05B23/02 Z
(21)【出願番号】P 2019206283
(22)【出願日】2019-11-14
【審査請求日】2022-08-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】百々 大介
(72)【発明者】
【氏名】高橋 文弘
(72)【発明者】
【氏名】井元 一平
【審査官】木村 麻乃
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-270164(JP,A)
【文献】特開2013-035724(JP,A)
【文献】実開昭52-002431(JP,U)
【文献】実公昭41-015888(JP,Y1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05B 3/00
G01N 27/20
C03B 5/235
G05B 23/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の発熱体を電気的に直列接続した導電経路と、前記導電経路に電気を供給する電源とを備える加熱装置の状態監視方法であって、
少なくとも一つの前記発熱体を含む導電経路部の電位差を取得する電位差取得工程と、
前記発熱体の状態を監視する監視情報を取得する監視情報取得工程と、
前記監視情報取得工程における前記監視情報に基づいて前記導電経路部の異常を判定する異常判定工程と、を備え、
前記電位差取得工程は、第1導電経路部の第1電位差を取得する第1電位差取得工程と、
前記第1導電経路部とは異なる第2導電経路部の第2電位差を取得する第2電位差取得工程と、を備え、
前記監視情報取得工程の前記監視情報は、前記第1電位差と前記第2電位差とを含む各電位差を比較した比較情報を含
み、
前記第1導電経路部及び前記第2導電経路部のいずれか一方の導電経路部は、前記発熱体を複数含む、加熱装置の状態監視方法。
【請求項2】
複数の発熱体を電気的に直列接続した導電経路と、前記導電経路に電気を供給する電源とを備える加熱装置の状態監視方法であって、
前記発熱体を含む導電経路部の電位差を取得する電位差取得工程と、
前記発熱体の状態を監視する監視情報を取得する監視情報取得工程と、
前記監視情報取得工程における前記監視情報に基づいて前記導電経路部の異常を判定する異常判定工程と、を備え、
前記電位差取得工程は、第1導電経路部の第1電位差を取得する第1電位差取得工程と、
前記第1導電経路部とは異なる第2導電経路部の第2電位差を取得する第2電位差取得工程と、を備え、
前記監視情報取得工程の前記監視情報は、前記第1電位差と前記第2電位差とを含む各電位差を比較した比較情報を含み、
前記第1導電経路部及び前記第2導電経路部は、いずれも前記発熱体を複数含む、加熱装置の状態監視方法。
【請求項3】
前記異常判定工程は、前記監視情報取得工程における前記比較情報に基づいて前記第1導電経路部及び前記第2導電経路部のいずれかの導電経路部の異常を判定し、
前記異常判定工程で異常と判定された前記導電経路部に含まれる各発熱体の個別の電位差を取得する個別電位差取得工程と、
前記個別電位差取得工程で取得した各発熱体の電位差に基づいて、交換又は修理の必要な発熱体を識別する識別工程と、をさらに備える、請求項
2に記載の加熱装置の状態監視方法。
【請求項4】
前記異常判定工程では、前記導電経路部の各発熱体のうち、いずれかの発熱体にスパーク発生の予兆があるか否かを判定する、請求項
3に記載の加熱装置の状態監視方法。
【請求項5】
前記異常判定工程では、予め取得した前記第1導電経路部の前記第1電位差を第1初期電位差とし、予め取得した前記第2導電経路部の前記第2電位差を第2初期電位差とし、前記第1初期電位差と前記第2初期電位差とを含む各初期電位差を比較した初期比較情報と、前記監視情報取得工程の前記比較情報とを対比することで、前記導電経路部の異常判定を行う、請求項
3又は請求項
4に記載の加熱装置の状態監視方法。
【請求項6】
前記加熱装置は、ガラスを加熱する用途に用いられる、請求項1から請求項
5のいずれか一項に記載の加熱装置の状態監視方法。
【請求項7】
複数の発熱体を電気的に直列接続した導電経路と、前記導電経路に電気を供給する電源とを備える加熱装置の状態を監視する状態監視システムであって、
少なくとも一つの前記発熱体を含む導電経路部の電位差を取得する電位差取得部と、
前記発熱体の状態を監視する監視情報を得る監視情報取得部と、
前記監視情報取得部で取得された前記監視情報に基づいて前記導電経路部の異常を判定する異常判定部と、を備え、
前記電位差取得部は、第1導電経路部の第1電位差を取得する第1電位差取得部と、
前記第1導電経路部とは異なる第2導電経路部の第2電位差を取得する第2電位差取得部と、を備え、
前記監視情報取得部の前記監視情報は、前記第1電位差と前記第2電位差とを含む各電位差の比較情報を含
み、
前記第1導電経路部及び前記第2導電経路部のいずれか一方の導電経路部は、前記発熱体を複数含む、状態監視システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加熱装置の状態監視方法、及び状態監視システムに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、ガラス原料や溶融ガラス等の加熱対象物を加熱するには、複数の発熱体を電気的に接続した導電経路を備える加熱装置が用いられる場合がある(特許文献1)。特許文献1には、発熱体の損傷状態を検査する検査方法において、複数の発熱体の電気抵抗値の合計値から算出した電気抵抗変化率に基づいて発熱体の状態を判定する工程を備える方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のように電気的に直列接続された複数の発熱体を備える加熱装置を、加熱対象物の温度や加熱対象物の周辺の環境温度に基づいて温度制御すると、各発熱体の電気抵抗値は、温度制御による出力変化や発熱体の温度変化に伴って経時的に変化する。このため、上記従来のように、複数の発熱体の電気抵抗値の合計から算出した電気抵抗変化率を用いて発熱体の状態を監視した場合、例えば、発熱体におけるスパーク発生を識別する精度を高めたり、発熱体のスパーク発生の予兆等の詳細な状態を把握したりことは困難であった。
【0005】
本発明は、こうした実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、電気的に直列接続された複数の発熱体を備えた加熱装置の状態を好適に監視することのできる加熱装置の状態監視方法、及び状態監視システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決する加熱装置の状態監視方法は、複数の発熱体を電気的に直列接続した導電経路と、前記導電経路に電気を供給する電源とを備える加熱装置の状態監視方法であって、少なくとも一つの前記発熱体を含む導電経路部の電位差を取得する電位差取得工程と、前記発熱体の状態を監視する監視情報を取得する監視情報取得工程と、前記監視情報取得工程における前記監視情報に基づいて前記導電経路部の異常を判定する異常判定工程と、を備え、前記電位差取得工程は、第1導電経路部の第1電位差を取得する第1電位差取得工程と、前記第1導電経路部とは異なる第2導電経路部の第2電位差を取得する第2電位差取得工程と、を備え、前記監視情報取得工程の前記監視情報は、前記第1電位差と前記第2電位差とを含む各電位差を比較した比較情報を含む。
【0007】
この方法によれば、監視情報取得工程では、上述した比較情報を監視情報として取得しているため、第1導電経路部又は第2導電経路部に含まれる発熱体の状態の変化を、第1電位差と第2電位差との相対的な変化として把握することができる。このため、例えば、加熱装置の温度制御に伴って各発熱体の電気抵抗値が経時的に変化したとしても、第1導電経路部又は第2導電経路部に含まれる発熱体の状態変化を容易に把握することができる。そして、異常判定工程では、監視情報として取得した上記比較情報に基づいて導電経路部の異常を容易に判定できる。
【0008】
上記加熱装置の状態監視方法において、前記第1導電経路部及び前記第2導電経路部のいずれか一方の導電経路部は、前記発熱体を複数含むことが好ましい。
上記加熱装置の状態監視方法において、前記第1導電経路部及び前記第2導電経路部は、いずれも前記発熱体を複数含むことがより好ましい。
【0009】
上記方法によれば、監視情報取得工程では、複数の発熱体を含む導電経路部の電位差に基づく監視情報を取得することで、個々の発熱体の電位差に基づく監視情報を取得するよりも、監視情報の複雑化を回避することができる。
【0010】
上記加熱装置の状態監視方法において、前記異常判定工程は、前記監視情報取得工程における前記比較情報に基づいて前記第1導電経路部及び前記第2導電経路部のいずれかの導電経路部の異常を判定し、前記異常判定工程で異常と判定された前記導電経路部に含まれる各発熱体の個別の電位差を取得する個別電位差取得工程と、前記個別電位差取得工程で取得した各発熱体の電位差に基づいて、交換又は修理の必要な発熱体を識別する識別工程と、をさらに備えてもよい。
【0011】
この方法によれば、発熱体の交換又は修理の作業を効率的に行うことができる。
上記加熱装置の状態監視方法において、前記異常判定工程では、前記導電経路部の各発熱体のうち、いずれかの発熱体にスパーク発生の予兆があるか否かを判定してもよい。
【0012】
この方法によれば、スパーク発生を要因とする発熱体の破断を未然に防ぐことができる。
上記加熱装置の状態監視方法において、前記異常判定工程では、予め取得した前記第1導電経路部の前記第1電位差を第1初期電位差とし、予め取得した前記第2導電経路部の前記第2電位差を第2初期電位差とし、前記第1初期電位差と前記第2初期電位差とを含む各初期電位差を比較した初期比較情報と、前記監視情報取得工程の前記比較情報とを対比することで、前記導電経路部の異常判定を行ってもよい。
【0013】
この方法によれば、例えば、個々の発熱体の公差等に基づく発熱体の初期性能の違いを考慮して、導電経路部の異常判定を行うことができる。
上記加熱装置の状態監視方法において、前記加熱装置は、ガラスを加熱する用途に用いられるものであってもよい。
【0014】
この方法によれば、ガラスの製造設備のメンテナンスの手間を軽減したり、ガラスの品位を高めたりすることが可能となる。
状態監視システムは、複数の発熱体を電気的に直列接続した導電経路と、前記導電経路に電気を供給する電源とを備える加熱装置の状態を監視する状態監視システムであって、少なくとも一つの前記発熱体を含む導電経路部の電位差を取得する電位差取得部と、前記発熱体の状態を監視する監視情報を得る監視情報取得部と、前記監視情報取得部で取得された前記監視情報に基づいて前記導電経路部の異常を判定する異常判定部と、を備え、前記電位差取得部は、第1導電経路部の第1電位差を取得する第1電位差取得部と、前記第1導電経路部とは異なる第2導電経路部の第2電位差を取得する第2電位差取得部と、を備え、前記監視情報取得部の前記監視情報は、前記第1電位差と前記第2電位差とを含む各電位差の比較情報を含む。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、電気的に直列接続された複数の発熱体を備えた加熱装置の状態を好適に監視することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】実施形態における状態監視システムを示す概略図である。
【
図3】加熱装置の状態監視方法を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、加熱装置の状態監視方法、及び状態監視システムの一実施形態について図面を参照して説明する。なお、図面では、説明の便宜上、構成の一部を誇張又は簡略化して示す場合がある。また、各部分の寸法比率についても、実際と異なる場合がある。
【0018】
<状態監視システム>
図1に示すように、状態監視システム11は、加熱装置12の状態を監視するシステムである。加熱装置12は、複数の発熱体13を電気的に直列接続した導電経路14と、導電経路14に電気を供給する電源15とを備えている。
【0019】
本実施形態では、ガラスを加熱する加熱装置12を一例として説明する。加熱装置12は、ガラス原料を溶融する溶融炉16をさらに備えている。溶融炉16は、底壁17、側壁18及び上壁19を有する。溶融炉16は、例えば、煉瓦等の耐火物や白金又は白金合金から形成することができる。
【0020】
溶融炉16の側壁18は、溶融炉16内にガラス原料を供給する供給口18aと、溶融炉16内の溶融ガラスMGを流出させる流出口18bとを有している。供給口18aには、供給装置FDからガラス原料が供給される。流出口18bから流出させた溶融ガラスMGは、溶融炉16の下流側に配置された成形装置MDにより成形される。
【0021】
溶融炉16の上壁19には、複数の発熱体13が取り付けられている。各発熱体13は、通電により発熱する発熱部13aと、非発熱部13bとを備えた抵抗発熱体である。発熱体13の発熱部13aは、溶融炉16内に配置され、溶融炉16内のガラス原料や溶融ガラスMGを加熱する。発熱体13の発熱部13aは、溶融ガラスMGの上方の空間に配置されている。発熱体13の発熱部13aは、溶融ガラスMGの揮発成分と接触する雰囲気下で使用される。
【0022】
本実施形態の加熱装置12における発熱体13は、U字状の発熱部13aを有しているが、発熱体13の形状は特に限定されない。発熱部13aの形状は、例えば、波型形状や棒状等の形状に変更することもできる。非発熱部13bは、例えば、図示を省略した端子等を備えている。
【0023】
発熱体13の発熱部13aの材質としては、例えば、二珪化モリブデン、モリブデン、黒鉛、炭化ケイ素、ニッケル-クロム系合金、鉄-クロム-アルミニウム系合金、タングステン、白金、ジルコニア、ランタンクロマイト等が挙げられる。
【0024】
加熱装置12は、導電経路14に供給される電力を温度制御する温度制御部20を備えている。温度制御部20は、図示を省略した温度センサで測定された温度の測定値に基づいて、例えばフィードバック制御する。なお、温度の測定値は、加熱対象物である溶融ガラスMGの温度の測定値であってもよいし、溶融炉16の壁部温度の測定値や溶融炉16内の雰囲気温度の測定値であってもよい。また、電源15は、交流電源であってもよいし、直流電源であってもよい。
【0025】
加熱装置12の導電経路14は、複数の発熱体13と、複数の発熱体13を電気的に接続する配線を備えている。導電経路14は、第1導電経路部14aと、第1導電経路部14aとは異なる第2導電経路部14bとを有している。本実施形態の第1導電経路部14aは、3つの発熱体13を電気的に直列接続した構成を有する。第2導電経路部14bについても、3つの発熱体13を電気的に直列接続した構成を有する。
【0026】
状態監視システム11は、状態監視制御部21を備えている。状態監視制御部21は、第1導電経路部14aの第1電位差を取得する第1電位差取得部22と、第2導電経路部14bの第2電位差を取得する第2電位差取得部23と、発熱体13の状態を監視する監視情報を得る監視情報取得部24とを備えている。監視情報取得部24の監視情報は、第1電位差と第2電位差とを含む各電位差の比較情報である。
【0027】
図2に示すように、監視情報取得部24の比較情報の一例としては、
図2に実線で示す第1電位差と
図2に一点鎖線で示す第2電位差とを共通の時間軸で示したグラフが挙げられる。加熱装置12は、温度制御部20によって温度制御されるため、第1電位差及び第2電位差は、経時的に変化する。ここで、第1導電経路部14a及び第2導電経路部14bの各発熱体13の減耗が少ない場合、温度制御に伴う第1電位差及び第2電位差の挙動は、ほぼ同じ挙動となる。一方、例えば、第2導電経路部14bの各発熱体13のうち、いずれかの発熱体13の減耗が進行すると、第1電位差及び第2電位差において、第2電位差が相対的に高まる傾向となる。
【0028】
例えば、
図2に示すグラフでは、時間T1付近から、第1電位差及び第2電位差において第2電位差が相対的に高まる傾向にあることから、時間T1付近から第2導電経路部14bの各発熱体13のうち、いずれかの発熱体13の減耗の進行度合いが大きくなったと推定できる。また、時間が経過するにつれて、第1電位差と第2電位差との差が大きくなっていることから、発熱体13の減耗が進行していると推定できる。そして、例えば、
図2に示される時間T2において、第2導電経路部14bに含まれる発熱体13にスパークが発生することで、発熱体13が破断する。加熱装置12の管理者は、比較情報を監視することで、発熱体13のスパーク発生の予兆を把握することが可能となる。
【0029】
本実施形態の状態監視制御部21は、監視情報取得部24における比較情報に基づいて第1導電経路部14a及び第2導電経路部14bのいずれかの導電経路部の異常を判定する異常判定部25をさらに備えている。状態監視制御部21は、異常判定部25で異常と判定された導電経路部に含まれる各発熱体13の個別の電位差を取得する個別電位差取得部26と、個別電位差取得工程で取得された各発熱体13の電位差に基づいて、交換又は修理の必要な発熱体13を識別する識別部27とをさらに備えている。個別電位差取得部26は、図示を省略した電位差測定装置により各発熱体13の電位差を取得する。識別部27は、予め決められた閾値を用いて電位差の異常を示す発熱体13を識別する。
【0030】
状態監視制御部21は、図示を省略したプロセッサ、メモリ、ソフトウェア、画像表示装置等により構成することができる。
<加熱装置12の状態監視方法>
次に、加熱装置12の状態監視方法について
図3に示すフロー図を参照して説明する。
【0031】
加熱装置12の状態監視方法は、電位差の初期値を決定する初期値決定工程(ステップS11)と、少なくとも一つの発熱体13を含む導電経路部の電位差を取得する電位差取得工程(ステップS12)と、発熱体13の状態を監視する監視情報を得る監視情報取得工程(ステップS13)とを備えている。
【0032】
ステップS11の初期値決定工程では、予め取得した第1電位差を第1初期電位差とし、予め取得した第2電位差を第2初期電位差とし、第1初期電位差と第2初期電位差とを比較した初期比較情報を取得する。初期比較情報としては、例えば、第1初期電位差と第2初期電位差との合計の電位差に対する第1初期電位差の比率と、第1初期電位差と第2初期電位差との合計の電位差に対する第2初期電位差の比率とを用いることができる。なお、初期比較情報は、例えば、第1初期電位差と第2初期電位差との比率や、第1初期電位差と第2初期電位差との差であってもよい。
【0033】
ステップS11の初期値決定工程において、第1初期電位差及び第2初期電位差の取得は、加熱装置12で加熱する加熱対象物の温度が安定した後に行うことが好ましい。本実施形態のステップS11の初期値決定工程では、例えば、溶融炉16内の溶融ガラスMGの温度が安定するまで加熱装置12を温度制御部20により制御し、溶融ガラスMGの温度が一定の時間内で所定の温度範囲内となったとき、第1初期電位差と第2初期電位差とを取得することが好ましい。
【0034】
ステップS11の初期値決定工程後、加熱装置12は、継続して温度制御され、溶融炉16内のガラス原料及び溶融ガラスMGを加熱する。
なお、ステップS11の初期値決定工程は、第1電位差取得部22、第2電位差取得部23、及び監視情報取得部24で行うことができる。
【0035】
ステップS12の電位差取得工程では、第1電位差取得部22で第1電位差を取得し、第2電位差取得部23で第2電位差を取得する。ステップS13の監視情報取得工程では、監視情報取得部24で比較情報を取得する。比較情報としては、第1電位差と第2電位差との合計の電位差に対する第1電位差の比率と、第1電位差と第2電位差との合計の電位差に対する第2電位差の比率とを用いることができる。なお、比較情報としては、例えば、第1電位差と第2電位差との比率や、第1電位差と第2電位差との差であってもよい。なお、このように比較情報を変更する場合、上述した初期比較情報についても同様に変更すればよい。
【0036】
加熱装置12の状態監視方法は、異常判定工程(ステップS14)と、個別電位差取得工程(ステップS15)と、識別工程(ステップS16)とをさらに備えている。
ステップS14の異常判定工程では、監視情報取得工程における比較情報に基づいて第1導電経路部14a及び第2導電経路部14bのいずれかの導電経路部に異常があるか否かを判定する。本実施形態のステップS14の異常判定工程では、ステップS11の初期値決定工程において決定した各比率に基づき異常判定を行う。具体的には、ステップS14の異常判定工程では、ステップS11の初期値決定工程で決定した各比率に基づき、さらに閾値を決定し、その閾値を用いて異常判定を行う。
【0037】
ステップS14の異常判定工程において、例えば、第2導電経路部14bに異常がある旨の判定がなされた場合(ステップS14:YES)、ステップS15の個別電位差取得工程へと進む。ステップS14の異常判定工程において異常がある旨の判定がなされなかった場合(ステップS14:NO)には、ステップS12の電位差取得工程が繰り返される。ステップS14の異常判定工程では、例えば、加熱装置12の導電経路部に含まれる各発熱体13のうち、いずれの発熱体13にスパーク発生する予兆があるか否かを判定することができる。詳述すると、ステップS14の異常判定工程において、より安全性を考慮した閾値を設定することで、発熱体13のスパーク発生前に異常がある旨の判定をすることが可能となる。
【0038】
ステップS15の個別電位差取得工程では、ステップS14の異常判定工程で異常と判定された第2導電経路部14bに含まれる各発熱体13の個別の電位差を取得する。各発熱体13の個別の電位差の取得方法としては、例えば、ステップS14において異常と判断された場合、各発熱体13に電位差の測定装置を取り付けて、各電位差を測定することにより実行できる。ステップS16の識別工程では、ステップS15の個別電位差取得工程で取得された各発熱体13の電位差に基づいて、交換又は修理の必要な発熱体13を識別する。
【0039】
詳述すると、ステップS16の識別工程では、例えば、ステップS11の初期値決定工程において、各発熱体13の電位差である初期電位差を予め取得し、その初期電位差と、ステップS15の個別電位差取得工程で取得した各発熱体13の電位差とをそれぞれ対比する。ステップS11の初期値決定工程では、例えば、各発熱体13の初期電位差の合計に対する各発熱体13の初期電位差の比率を算出する。また、ステップS15の個別電位差取得工程では、例えば、各発熱体13の電位差の合計に対する各発熱体13の電位差の比率を算出する。
【0040】
ステップS16の識別工程では、ステップS11の初期値決定工程で算出した各発熱体13の比率に基づき決定した閾値を用いて電位差の異常を示す発熱体13を識別する。ステップS16の識別工程で識別された発熱体13は、交換又は修理の必要な発熱体13である旨を報知手段により加熱装置12の管理者に報知する。報知手段としては、例えば、画像表示装置を用いることができる。具体的には、各発熱体13に予め割り振られた番号や、各発熱体13の模式図に特定の発熱体13を識別する記号等を画像表示装置に表示させることで、加熱装置12の管理者に容易に報知することができる。
【0041】
以上のように状態監視方法では、例えば、発熱体13にスパークが発生する予兆に基づき交換又は修理の必要な発熱体13を特定することが可能となるため、発熱体13がスパークにより破断することを未然に防ぐことができる。すなわち、発熱体13の破断に伴って発生する発熱体13の破片が落下することを未然に防ぐことができる。これにより、発熱体13の破片を回収する手間を省くことができる。また、本実施形態では、発熱体13の破片が溶融ガラスMGに混入することを防ぐことができるため、溶融ガラスMG中への発熱体13の破片の混入を要因とするトラブルを回避することができる。
【0042】
また、ステップS14の異常判定工程では、第1導電経路部14aと第2導電経路部14bのいずれかの異常を判定した後、第1導電経路部14a及び第2導電経路部14bに含まれる各発熱体13とのいずれかの異常を判定しているため、個別の発熱体13の電位差を常時測定する必要が無い。そのため、状態監視制御部21の負荷を減らすことができる。
【0043】
次に、本実施形態の作用及び効果について説明する。
(1)加熱装置12は、複数の発熱体13を電気的に直列接続した導電経路14と、導電経路14に電気を供給する電源15とを備えている。加熱装置12の状態監視方法は、少なくとも一つの発熱体13を含む導電経路部の電位差を取得する電位差取得工程(ステップS12)と、発熱体13の状態を監視する監視情報を得る監視情報取得工程(ステップS13)とを備えている。加熱装置12の状態監視方法は、ステップS13の監視情報取得工程における監視情報に基づいて導電経路部の異常を判定する異常判定工程(ステップS14)をさらに備えている。
【0044】
ステップS12の電位差取得工程は、第1導電経路部14aの第1電位差を取得する第1電位差取得工程と、第1導電経路部14aとは異なる第2導電経路部14bの第2電位差を取得する第2電位差取得工程とを備えている。ステップS13の監視情報取得工程の監視情報は、第1電位差と第2電位差とを含む各電位差を比較した比較情報を含む。
【0045】
この方法によれば、ステップS13の監視情報取得工程では、上述した比較情報を監視情報として取得しているため、第1導電経路部14a又は第2導電経路部14bに含まれる発熱体13の状態の変化を、第1電位差と第2電位差との相対的な変化として把握することができる。このため、例えば、加熱装置12の温度制御に伴って各発熱体13の電気抵抗値が経時的に変化したとしても、第1導電経路部14a又は第2導電経路部14bに含まれる発熱体13の状態変化を容易に把握することができる。従って、電気的に直列接続された複数の発熱体13を備える加熱装置12の状態を好適に監視することができる。そして、ステップS14の異常判定工程では、監視情報として取得した上記比較情報に基づいて導電経路部の異常を容易に判定できる。
【0046】
(2)加熱装置12における第1導電経路部14a及び第2導電経路部14bのいずれも発熱体13を複数含んでいる。この場合、ステップS13の監視情報取得工程では、複数の発熱体13を含む導電経路部の電位差に基づく監視情報を取得することで、個々の発熱体13の電位差に基づく監視情報を取得するよりも、監視情報の複雑化を回避することができる。従って、電気的に直列接続された4つ以上の発熱体13の監視情報を取得する負荷を軽減できる。
【0047】
(3)ステップS14の異常判定工程は、ステップS13の監視情報取得工程における比較情報に基づいて第1導電経路部14a及び第2導電経路部14bのいずれかの導電経路部の異常を判定している。加熱装置12の状態監視方法は、ステップS14の異常判定工程で異常と判定された導電経路部に含まれる各発熱体13の個別の電位差を取得する個別電位差取得工程(ステップS15)をさらに備えている。加熱装置12の状態監視方法は、ステップS15の個別電位差取得工程で取得した各発熱体13の電位差に基づいて、交換又は修理の必要な発熱体13を識別する識別工程(ステップS16)をさらに備えている。この場合、発熱体13の交換又は修理の作業を効率的に行うことができる。
【0048】
(4)ステップS14の異常判定工程では、導電経路部の各発熱体13のうち、いずれかの発熱体13にスパーク発生の予兆があるか否かを判定することが好ましい。この場合、スパーク発生を要因とする発熱体13の破断を未然に防ぐことができる。
【0049】
(5)ステップS14の異常判定工程では、第1初期電位差と第2初期電位差とを含む各初期電位差を比較した初期比較情報と、ステップS13の監視情報取得工程の比較情報とを対比することで、導電経路部の異常判定を行うことが好ましい。この場合、例えば、個々の発熱体13の公差等に基づく発熱体13の初期性能の違いを考慮して、導電経路部の異常判定を行うことができる。従って、異常判定の精度をより高めることが可能となる。
【0050】
(6)加熱装置12は、ガラスを加熱する用途に用いられることで、ガラスの製造設備のメンテナンスの手間を軽減したり、ガラスの品位を高めたりすることが可能となる。
(変更例)
本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0051】
・ステップS11の初期値決定工程を省略してもよい。すなわち、ステップS14の異常判定工程では、ステップS11の初期値決定工程において決定した各比率を用いずに、予め決定した閾値を用いてよい。
【0052】
・ステップS14の異常判定工程では、発熱体13のスパーク発生の予兆があるか否かを判定しているが、発熱体13のスパーク発生を判定してもよい。
・ステップS15の個別電位差取得工程及びステップS16の識別工程を省略し、例えば、第1導電経路部14aの第1電位差に対して第2導電経路部14bの第2電位差が上昇する傾向となった場合、第2導電経路部14bの各発熱体13の全部を交換してもよい。
【0053】
・第1導電経路部14aに含まれる発熱体13の数は、単数であってもよいし、複数であってもよい。また、第2導電経路部14bに含まれる発熱体13の数についても、単数であってもよいし、複数であってもよい。また、第1導電経路部14aに含まれる発熱体13の数は、第2導電経路部14bに含まれる発熱体13の数と同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0054】
・加熱装置12の導電経路14は、第1導電経路部14a及び第2導電経路部14bの二つの導電経路部に限定されず、三つ以上の導電経路部を有していてもよい。例えば、ステップS12の電位差取得工程において、第3導電経路部の第3電位差をさらに取得し、ステップS13の監視情報取得工程の監視情報は、第1電位差、第2電位差、及び第3電位差を含む各電位差を比較した比較情報であってもよい。
【0055】
・加熱装置12の導電経路14は、1個であるが、複数の導電経路を有する加熱装置に変更してもよい。
・ステップS13の監視情報取得工程の監視情報は、第1電位差と第2電位差とを含む各電位差を直接比較した比較情報であるが、第1電位差と第2電位差とを他の値に換算した換算値を比較した比較情報であってもよい。
【0056】
・ステップS13の監視情報取得工程の監視情報は、上記各電位差の比較情報以外の情報として、例えば、発熱体13の電気抵抗値、電流値、発熱体13の積算使用時間等を含んでいてもよい。
【0057】
・加熱装置12は、溶融炉16内のガラスを加熱する加熱装置12に限定されない。例えば、加熱装置は、溶融炉16と成形装置との間の流路内や槽内の溶融ガラスを加熱する装置等、ガラス物品を製造する製造装置の任意の箇所の溶融ガラスを加熱する装置であってもよい。また、加熱装置は、ガラス以外の加熱対象物を加熱する装置であってもよい。ガラス以外の加熱対象物としては、例えば、金属、セラミックス原料等が挙げられる。
【符号の説明】
【0058】
11…状態監視システム、12…加熱装置、13…発熱体、14…導電経路、14a…第1導電経路部、14b…第2導電経路部、15…電源、22…第1電位差取得部、23…第2電位差取得部、24…監視情報取得部、25…異常判定部、MG…溶融ガラス。