(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-20
(45)【発行日】2023-11-29
(54)【発明の名称】回転電機のロータ
(51)【国際特許分類】
H02K 1/276 20220101AFI20231121BHJP
【FI】
H02K1/276
(21)【出願番号】P 2019212185
(22)【出願日】2019-11-25
【審査請求日】2022-03-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】西條 正起
【審査官】柏崎 翔
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-75892(JP,A)
【文献】米国特許第6291920(US,B1)
【文献】特開2013-132124(JP,A)
【文献】特開2001-95183(JP,A)
【文献】特開2016-220514(JP,A)
【文献】特表2016-507207(JP,A)
【文献】特開昭59-201663(JP,A)
【文献】特開2005-341655(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 1/276
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
永久磁石が埋め込まれる埋め込み孔が径方向に複数形成されたロータコア本体を含む円柱状のロータコアを有する回転電機のロータであって、
前記ロータコアは、周方向に複数の磁極領域を有するとともに、前記埋め込み孔と隣接し、q軸磁路に沿って延びるフラックスバリアを有し、
前記フラックスバリアは、前記ロータコアの軸方向に延びており、
前記フラックスバリアのうち前記ロータコアの最も内径側に位置する前記フラックスバリアを最内フラックスバリアとすると、前記最内フラックスバリアは、前記最内フラックスバリアにおける径方向の内側に位置する第1内面と、前記最内フラックスバリアにおける径方向の外側に位置する第2内面とを有し、
前記ロータコア本体は、
軸方向において前記ロータコア本体を見たとき、前記第1内面と前記第2内面とを接続するように設けられるブリッジを有しており、
前記最内フラックスバリアは、前記ブリッジと前記ロータコア本体の外縁との間に区画された空間である外径側閉空間が形成され、
前記外径側閉空間には、非磁性体で構成された補強部が前記ロータコア本体の軸方向に埋め込まれており、
前記第1内面は、前記埋め込み孔において前記永久磁石が当接する径方向の内側に位置する内面をq軸磁路に沿う方向へ延長した仮想内面よりも隣の磁極領域に向かって張り出している張出部を有し、
前記ブリッジは、前記第1内面から前記第2内面に向かうにつれてd軸に近づくように設けられており、
前記ロータコア本体は、複数の電磁鋼板が軸方向に沿って積層されることで構成され、
前記ロータコアは、
軸方向において前記ロータコア本体の両端に積層される蓋部材と、
軸方向において前記ロータコア本体及び前記蓋部材を挟み込む挟持部と、を有し、
前記挟持部は、前記補強部と一体的に設けられていることを特徴とする回転電機のロータ。
【請求項2】
前記最内フラックスバリアには、前記永久磁石と前記ブリッジとの間に区画された空間である内径側閉空間が形成されていることを特徴とする請求項
1に記載の回転電機のロータ。
【請求項3】
前記蓋部材は、
前記外径側閉空間に連通する蓋孔と、
径方向における最も内径側に位置する前記埋め込み孔の前記永久磁石から前記ブリッジまでを覆い、且つ最も内径側に位置する前記埋め込み孔よりも径方向の外側に位置する前記埋め込み孔を覆う蓋部と、を有し、
前記蓋孔には、前記補強部が埋め込まれていることを特徴とする請求項1に記載の回転電機のロータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転電機のロータに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、特許文献1に記載されるような回転電機のロータが知られている。
上記のロータは、円柱状のロータコアを備えている。ロータコアには、永久磁石が埋め込まれる埋め込み孔が径方向に複数形成されている。ロータコアは、周方向に複数の磁極領域を有するとともに、埋め込み孔と隣接するフラックスバリアを有している。フラックスバリアは、q軸磁路に沿って延びている。フラックスバリアのうちロータコアの最も内径側に位置するフラックスバリアは、ロータコアの外周の近傍に至るまで延びている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、フラックスバリアのうちロータコアの最も内径側に位置するフラックスバリアをロータコアの外周の近傍に至るまで延ばすほど、最も内径側に位置するフラックスバリアの延びた先におけるロータコアの肉厚が薄くなる。そのため、ロータコアの強度が低下してしまう。そのため、当該肉厚を厚くすることでロータコアの強度を維持しようとすると、当該肉厚の部分で漏洩磁束が大きくなってしまう虞がある。
【0005】
本発明は、このような従来の技術に存在する問題点に着目してなされたものであり、その目的は、漏洩磁束を抑制しやすくできるとともに強度を維持できる回転電機のロータを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決する回転電機のロータは、永久磁石が埋め込まれる埋め込み孔が径方向に複数形成されたロータコア本体を含む円柱状のロータコアを有する回転電機のロータであって、前記ロータコアは、周方向に複数の磁極領域を有するとともに、前記埋め込み孔と隣接し、q軸磁路に沿って延びるフラックスバリアを有し、前記フラックスバリアは、前記ロータコアの軸方向に延びており、前記フラックスバリアのうち前記ロータコアの最も内径側に位置する前記フラックスバリアを最内フラックスバリアとすると、前記最内フラックスバリアは、前記最内フラックスバリアにおける径方向の内側に位置する第1内面と、前記最内フラックスバリアにおける径方向の外側に位置する第2内面とを有し、前記ロータコア本体は、軸方向において前記ロータコア本体を見たとき、前記第1内面と前記第2内面とを接続するように設けられるブリッジを有しており、前記最内フラックスバリアは、前記ブリッジと前記ロータコア本体の外縁との間に区画された空間である外径側閉空間が形成され、前記外径側閉空間には、非磁性体で構成された補強部が前記ロータコア本体の軸方向に埋め込まれている。
【0007】
これによれば、ロータコアの外径側閉空間に埋め込まれた補強部によりロータコアの強度を維持できる。また、ブリッジ及び補強部によりロータコアの強度を維持できるため、最内フラックスバリアの延びた先におけるロータコアの肉厚を薄くすることが可能となり、漏洩磁束を抑制しやすくなる。したがって、漏洩磁束を抑制しやすくできるとともにロータコアの強度を維持することができる。
【0008】
上記の回転電機のロータにおいて、前記最内フラックスバリアには、前記永久磁石と前記ブリッジとの間に区画された空間である内径側閉空間が形成されているとよい。
溶融させた非磁性体の材料をロータコアの外径側閉空間に流し込むことにより補強部を構成することがある。このとき、ブリッジが永久磁石を挟みこむように設けられていると、外径側閉空間に流し込まれる溶融された非磁性体の材料の熱が永久磁石に伝わってしまい、永久磁石の性能を低下させてしまう虞がある。
【0009】
その点、これによれば、ロータコアの内径側閉空間は、断熱層として機能する。よって、ロータコアの埋め込み孔に埋め込まれる永久磁石への熱影響を抑制することができる。
上記の回転電機のロータにおいて、前記ロータコアは、軸方向において前記ロータコア本体の両端に積層される蓋部材を有し、前記蓋部材は、前記外径側閉空間に連通する蓋孔と、径方向における最も内径側に位置する前記埋め込み孔の前記永久磁石から前記ブリッジまでを覆い、且つ最も内径側に位置する前記埋め込み孔よりも径方向の外側に位置する前記埋め込み孔を覆う蓋部と、を有し、前記蓋孔には、前記補強部が埋め込まれているとよい。
【0010】
これによれば、ロータコアの外径側閉空間に溶融された非磁性体の材料が流し込まれるときに、蓋部材の蓋部により溶融された金属が永久磁石に付着することなく、蓋孔及び外径側閉空間にのみ流し込まれる。よって、ロータコアの埋め込み孔に埋め込まれる永久磁石への熱影響を抑制することができる。
【0011】
上記の回転電機のロータにおいて、前記第1内面は、前記埋め込み孔において前記永久磁石が当接する径方向の内側に位置する内面をq軸磁路に沿う方向へ延長した仮想内面よりも隣の磁極領域に向かって張り出している張出部を有するとよい。
【0012】
これによれば、d軸磁路における最内フラックスバリアの幅が広がるため、リラクタンストルクを増加させることができる。
上記の回転電機のロータにおいて、前記ロータコア本体は、複数の電磁鋼板が前記軸方向に沿って積層されることで構成され、前記ロータコアは、前記軸方向において前記ロータコア本体を挟み込む挟持部を有し、前記挟持部は、前記補強部と一体的に設けられているとよい。
【0013】
これによれば、補強部と一体的に設けられた挟持部により複数の電磁鋼板が軸方向に分離しないように固定することができる。よって、複数の電磁鋼板を固定するためにネジ等の固定部材を用意することなく、好適に複数の電磁鋼板を固定することができる。
【発明の効果】
【0014】
この発明によれば、漏洩磁束を抑制しやすくできるとともに強度を維持できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図6】変更例におけるロータコアの電磁鋼板の部分上面図。
【
図7】変更例におけるロータコアの電磁鋼板の部分上面図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、ロータコアを具体化した実施形態を
図1~
図5にしたがって説明する。なお、本実施形態のロータコアを説明するにあたり、最初に本実施形態のロータコアを採用した回転電機の構成を説明する。
【0017】
図1に示すように、回転電機10は、磁石埋込式回転電機である。回転電機10は、ロータ20と、ステータ30とを備えている。ステータ30は、ロータ20の外周を取り囲むように設けられている。なお、回転電機10は、極数が「4」である。
【0018】
ステータ30は、ステータコア31を有している。ステータコア31は、円筒状をなしている。ステータコア31の内周側には、周方向に複数のスロット32が形成されている。各スロット32は、ステータコア31の内周面に開口している。各スロット32の間には、ティース33が形成されている。ティース33には、コイルが巻回されている。ロータ20は、ステータコア31の内周面との間に隙間が形成されるように設けられている。
【0019】
図1及び
図2に示すように、ロータ20は、円筒状のロータコア21と、回転軸22とを有している。回転軸22は、ロータコア21の中心を貫通する貫通孔21aに挿通され、且つロータコア21に対して焼き嵌めされている。
【0020】
図2に示すように、ロータコア21は、ロータコア本体40を含んでいる。ロータコア本体40は、複数の円板状の電磁鋼板41がロータコア21の軸線mが延びる方向である軸方向に沿って積層されることで構成されている。複数の電磁鋼板41は、全て同一の構成を有している。なお、
図2で記載されているロータコア本体40では、複数の電磁鋼板41が積層されている状態を一部省略して記載している。
【0021】
ロータコア本体40の構成を
図3にしたがって詳しく説明する。なお、
図3には電磁鋼板41の構成が示されているが、複数の電磁鋼板41は、全て同一の構成を有している。よって、電磁鋼板41の構成と、ロータコア本体40の構成とは同一とみなすことができるため、
図3にしたがってロータコア本体40の構成を説明する。
【0022】
図3に示すように、軸方向においてロータコア本体40を見たとき、ロータコア本体40は、回転電機10の極数に合わせて周方向に4つの磁極領域Rを有している。4つの磁極領域Rのそれぞれは、ロータコア21の軸線mを中心とする中心角が90°となる。ロータコア本体40には、4つの磁極領域Rのそれぞれにおいて、ロータコア21の軸線mを中心とする径方向に複数形成された埋め込み孔42が形成されている。本実施形態では、ロータコア本体40には、4つの磁極領域Rのそれぞれにおいて、径方向において2層の埋め込み孔42が形成されている。埋め込み孔42は、軸方向においてロータコア本体40を貫通している。すなわち、埋め込み孔42は、複数の電磁鋼板41の全てに形成された埋め込み孔42が軸方向において連通することで形成されている。埋め込み孔42は、隣り合う磁極領域Rへ広がりつつロータコア21の軸線mから離間するような円弧状をなしている。ロータコア本体40の埋め込み孔42には、永久磁石90が埋め込まれる。永久磁石90は、埋め込み孔42の形状に合わせて円弧状をなしている。永久磁石90は、隣り合う磁極領域Rにおいてロータコア21の径方向の外側に位置する磁極が異なるように埋め込み孔42に埋め込まれる。例えば、4つの磁極領域Rのうちの1つにおいて、ロータコア21の径方向の外側がS極となるように永久磁石90が埋め込み孔42に埋め込まれると、隣り合う磁極領域Rに埋め込まれる永久磁石90は、ロータコア21の径方向の外側がN極となるように埋め込み孔42に埋め込まれる。そのため、ロータコア本体40の4つの磁極領域Rにおいて、隣り合う磁極領域Rのそれぞれは、異なる磁極となる。
【0023】
図5に示すように、ロータコア本体40の埋め込み孔42の両端には、フラックスバリア43が形成されている。フラックスバリア43は、埋め込み孔42と隣接しq軸磁路に沿って延びる。永久磁石90のq軸磁束は、
図6に示すように永久磁石90の湾曲している方向に沿って延びる。
【0024】
フラックスバリア43は、軸方向に延びている。フラックスバリア43は、軸方向においてロータコア本体40を貫通している。フラックスバリア43のうちロータコア21の最も内径側に位置するフラックスバリア43を最内フラックスバリア44とする。最内フラックスバリア44は、軸方向においてロータコア本体40を見たときにロータコア21の軸線mから離間するような円弧状をなしている。また、最内フラックスバリア44は、ロータコア21の外周の近傍に至るまで延びている。
【0025】
最内フラックスバリア44は、最内フラックスバリア44における径方向の内側に位置する第1内面S1と、最内フラックスバリア44における径方向の外側に位置する第2内面S2とを有している。第1内面S1は、最内フラックスバリア44の内面におけるロータコア21の軸線mに近い方の内面である。また、第2内面S2は、最内フラックスバリア44の内面におけるロータコア21の軸線mから離間している内面である。ロータコア本体40は、第1内面S1と第2内面S2とを接続するようにブリッジ50を有している。ブリッジ50は、軸方向においてロータコア本体40の全長に亘って設けられている。すなわち、ブリッジ50は、複数の電磁鋼板41の全てに形成されたブリッジ50が軸方向において重ね合わされることで形成されている。ここで、ブリッジ50は、電磁鋼板41と同じ材質で構成されている。そのため、ブリッジ50を設ける位置が永久磁石90に近すぎる場合、あるいはブリッジ50の幅が広すぎる場合、永久磁石90の磁束がブリッジ50から漏洩してしまい、ロータコア21を回転電機10に適用したときのトルクに有効な磁束が低減してしまう虞がある。そのため、ブリッジ50は、ロータコア21の設計時に永久磁石90のトルクに有効な磁束が低減しない位置や幅を予め確認した上で設けられている。
【0026】
最内フラックスバリア44には、ブリッジ50とロータコア本体40の外縁との間に区画された空間である外径側閉空間44aが形成されている。外径側閉空間44aは、フラックスバリア43と同様に軸方向においてロータコア本体40を貫通している。また、最内フラックスバリア44には、永久磁石90とブリッジ50との間に区画された空間である内径側閉空間44bが形成されている。内径側閉空間44bは、フラックスバリア43と同様に軸方向においてロータコア本体40を貫通している。
【0027】
外径側閉空間44aには、非磁性体である金属により構成される補強部60が埋め込まれている。補強部60は、軸方向においてロータコア本体40の全長に亘って埋め込まれている。補強部60は、アルミニウムにより構成されている。
【0028】
図2に示すように、ロータコア21は、軸方向においてロータコア本体40に積層される蓋部材70を有している。蓋部材70は、軸方向においてロータコア本体40の両端に積層されている。蓋部材70は、電磁鋼板により構成されている。
【0029】
図4に示すように、蓋部材70の外形は、電磁鋼板41と同じ形状を有している。蓋部材70は、蓋孔71と、蓋部72とを有している。蓋孔71は、外径側閉空間44aと同じ形状を有している。蓋孔71は、軸方向においてロータコア本体40の外径側閉空間44aと同じ位置に設けられており、蓋部材70の板厚を貫通している。すなわち、蓋部材70をロータコア本体40に積層したとき、蓋孔71は外径側閉空間44aに連通している。蓋孔71には、外径側閉空間44aに埋め込まれている補強部60が埋め込まれている。蓋部材70をロータコア本体40に積層した状態において、蓋部72は、ロータコア21の径方向における最も内径側に位置する埋め込み孔42の永久磁石90からブリッジ50までを覆っている。また、蓋部72は、最も内径側に位置する埋め込み孔42よりも径方向の外側に位置する埋め込み孔42を覆っている。蓋部72とは、蓋部材70の蓋孔71及び回転軸22を挿通するための孔を除く全ての板状部分を示している。すなわち、蓋部材70は、最も内径側に位置する埋め込み孔42よりも径方向の外径側に位置する埋め込み孔42と、最も内径側に位置する埋め込み孔42における永久磁石90が設けられる部分と、内径側閉空間44bと、ブリッジ50とに対応する部分とに対応する位置に孔部が形成されず、外径側閉空間44aに対応する位置にのみ蓋孔71が形成されている部材である。
【0030】
図2に示すように、ロータコア21は、軸方向においてロータコア本体40を挟み込む挟持部80を有している。挟持部80は、軸方向においてロータコア本体40及び蓋部材70を挟み込んでいる。挟持部80は、補強部60(
図2中の破線で示す)と一体的に設けられている。すなわち、挟持部80は、アルミニウムにより構成され、且つ補強部60と一体的に設けられることによりロータコア本体40を構成する複数の電磁鋼板及び蓋部材70を軸方向において分離させない機能を有している。
【0031】
ここで、本実施形態のロータコア21は、アルミダイカストにより形成される。ロータコア21の形成方法について以下説明する。
ロータコア本体40の埋め込み孔42に永久磁石90を埋め込んだ状態で軸方向においてロータコア本体40の両端に蓋部材70を積層することで組立体を形成する。当該組立体を型に収容し、溶融したアルミニウムを型に流し込む。型に流し込まれたアルミニウムは、蓋部材70の蓋孔71と、ロータコア本体40の外径側閉空間44aとに充填される。型には、ロータコア21の挟持部80を形成するための内部空間が設けられている。そのため、型に流し込まれたアルミニウムが十分に冷却されて型を取り外したとき、組立体における蓋部材70の蓋孔71及びロータコア本体40の外径側閉空間44aに補強部60が形成されるとともに補強部60と一体的に設けられる挟持部80が形成される。これによりロータコア21が形成される。
【0032】
本実施形態の作用について説明する。
ロータコア21を構成する電磁鋼板41は厳密には微小なうねりが生じており、ロータコア21と回転軸22を圧入嵌合している場合、電磁鋼板41は面外方向へ座屈変形しやすいのが実状である。このような状態でロータコア21を回転電機10に適用して回転させると、ロータコア21に遠心力が発生するため、ロータコア21における最内フラックスバリア44の延びた先とロータコア21の外縁との間に形成されているロータコア21の薄肉部分に曲げ応力が発生し、ロータコア21の電磁鋼板41がめくれるように変形する力が発生する。しかし、上記のロータコア21では、外径側閉空間44a及び蓋部材70の蓋孔71に埋め込まれた補強部60及びブリッジ50によりロータコア21の薄肉部分に発生する曲げ応力を緩和させている。また、複数の電磁鋼板41及び蓋部材70は、アルミダイカストにより形成された挟持部80で軸方向に挟み込まれることでさらにめくれ難くなっている。よって、ロータコア21は、ブリッジ50及び補強部60により強度を維持し、且つ補強部60と一体的に設けられる挟持部80を形成することでロータコア21の強度をより向上させている。
【0033】
本実施形態の効果について説明する。
(1)本実施形態では、ロータコア21の外径側閉空間44aに埋め込まれた補強部60によりロータコア21の強度を維持できる。また、ブリッジ50及び補強部60によりロータコア21の強度を維持できるため、最内フラックスバリア44の延びた先におけるロータコア21の肉厚を薄くすることが可能となり、漏洩磁束を抑制しやすくなる。したがって、漏洩磁束を抑制しやすくできるとともにロータコア21の強度を維持することができる。
【0034】
(2)本実施形態では、ロータコア21の内径側閉空間44bは、断熱層として機能する。よって、溶融したアルミニウムをロータコア本体40の外径側閉空間44aに流し込んだとしてもロータコア21の埋め込み孔42に埋め込まれる永久磁石90への熱影響を抑制することができる。
【0035】
(3)本実施形態では、ロータコア21の外径側閉空間44aに溶融されたアルミニウムが流し込まれるときに、蓋部材70の蓋部72により溶融されたアルミニウムが永久磁石90に付着することなく、蓋孔71及び外径側閉空間44aにのみ流し込まれる。よって、ロータコア21の埋め込み孔42に埋め込まれる永久磁石90への熱影響を抑制することができる。
【0036】
(4)本実施形態では、補強部60と一体的に設けられた挟持部80により複数の電磁鋼板41が軸方向に分離しないように固定することができる。よって、複数の電磁鋼板41を固定するためにネジ等の固定部材を用意することなく、好適に複数の電磁鋼板41を固定することができる。
【0037】
(5)本実施形態では、補強部60がアルミニウムにより構成されている。アルミニウムは軽量であるため、ロータコア21の回転によって補強部60に生じる遠心力を抑制できる。したがって、ロータコア21の強度をより維持し易くすることができる。
【0038】
(6)回転軸22は、ロータコア21の貫通孔21aに焼き嵌めされている。回転軸22をロータコア21に焼き嵌めすると、電磁鋼板41及び蓋部材70に嵌合力が発生し、軸方向において電磁鋼板41及び蓋部材70が座屈しめくれるようにゆがむことがある。
【0039】
その点、本実施形態では、全ての電磁鋼板41及び蓋部材70に発生するゆがむ力が補強部60により緩和される。したがって、電磁鋼板41及び蓋部材70のゆがみを抑制できる。
【0040】
(7)ロータコア本体40にブリッジ50を設けることにより、ロータコア21の軸線mに直交する平面で切断したときのロータコア21の断面における強度のバランスを向上させることができる。すなわち、ロータコア21の径方向における外力に対するロータコア21の強度を向上させることができる。
【0041】
(8)ロータコア21の最も外径側に位置する埋め込み孔42と、最も内径側に位置する埋め込み孔42とに埋め込まれる永久磁石90のサイズが異なる場合であっても、ブリッジ50によりロータコア21の強度のバランスを向上させることができる。
【0042】
(9)本実施形態では、蓋部材70が電磁鋼板により構成されている。そのため、ロータコア本体40を構成する電磁鋼板41の加工工程を一部変更することで蓋部材70を製造することが可能である。したがって、ロータコア21の製造コストを低減させることができる。
【0043】
(10)本実施形態では、アルミダイカストにより補強部60及び挟持部80を形成している。そのため、ネジ等の固定部材を用意することなく、好適に複数の電磁鋼板41を固定することができ、ロータコア21の製造コストを低減することができる。
【0044】
なお、本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
○ 本実施形態の最内フラックスバリア44を以下のように変更してもよい。
【0045】
図6および
図7に示すように、第1内面S1は、埋め込み孔42において永久磁石90が当接する径方向の内側に位置する内面をq軸磁路に沿う方向へ延長した仮想内面C(
図6の一点鎖線で示す)よりも隣の磁極領域Rに向かって張り出している張出部100を有していてもよい。すなわち、第1内面S1はq軸磁路に沿った位置よりも隣の磁極領域Rへ広がっていてもよい。
図6についてより詳しくは、外径側閉空間44aの第1内面S1は、q軸磁路に沿った位置よりも隣の磁極領域Rへ広がっている。具体的には、最内フラックスバリア44の外径側閉空間44aの径方向の内側に位置する内面に張出部100が設けられている。
図7についてより詳しくは、張出部100は、最内フラックスバリア44の内径側閉空間44bの径方向の内側に位置する内面に設けられている。ただし、
図6および
図7で示す変形例ともに、張出部100は、隣り合う磁極領域Rの間を通過する磁路の幅を確保する程度に張り出している。
【0046】
このように変更することで、d軸磁路における最内フラックスバリア44の幅が広がり、d軸磁束を妨げることができる。これにより、d軸インダクタンスが低下し、リラクタンストルクを増加させることができる。また、永久磁石90の自己短絡する磁束を低減することができる。そのため、永久磁石90のトルクに有効な磁束をより好適にロータコア21の外周側に位置するステータ30に伝達することができる。ひいては、回転電機10の性能を向上させることができる。なお、本変更例の張出部100は、最内フラックスバリア44の外径側閉空間44aの径方向の内側に位置する内面に設けられていてもよい。
【0047】
○ フラックスバリア43は、必ずしも軸方向においてロータコア本体40を貫通させなくてもよい。
○ 補強部60は、ロータコア本体40の軸方向の全長に亘って設けられていたが、これに限らず、ロータコア本体40の外径側閉空間44aの内部で軸方向の一部分に設けられるようにしてもよい。
【0048】
○ 補強部60は、アルミニウムにより構成されていたが、これに限らない。例えば、真鍮により構成されていてもよい。すなわち、補強部60は、非磁性の金属で構成されていることが好ましい。あるいは、樹脂により構成されていてもよい。
【0049】
○ 本実施形態では、挟持部80を割愛してもよい。このように変更しても補強部60を構成するアルミニウムが複数の電磁鋼板41及び蓋部材70との間に入り込むことで軸方向における複数の電磁鋼板41及び蓋部材70の分離を抑制することができる。
【0050】
○ 本実施形態では、ロータコア本体40が複数の電磁鋼板41で構成されていたが、これに限らない。例えばロータコア本体40を1つの筒状をなす部材により構成してもよい。また、1枚の電磁鋼板41でロータコア本体40を構成してもよい。ただし、このように変更する場合、電磁鋼板41の板厚を永久磁石90が埋め込める程度に厚くするように変更することが好ましい。
【0051】
○ 本実施形態及び上記の変更例において、補強部60は非磁性体である金属で構成されているが、補強部60は非磁性体で構成されていればよく、ロータコア21の強度を向上させることができれば非磁性体の材質は適宜変更してもよい。
【0052】
○ 蓋孔71は、外径側閉空間44aと同じ形状でなくてもよい。
○ ロータコア21をロータコア本体40と、補強部60とで構成し、蓋部材70を割愛してもよい。
【0053】
○ 最内フラックスバリア44は、外径側閉空間44aのみで構成され、内径側閉空間44bを割愛してもよい。このように変更する場合、埋め込み孔42に埋め込まれる永久磁石90は、熱影響に強い材質で構成されているとよい。
【0054】
○ ロータコア21の径方向において、埋め込み孔42は2層設けられていたが、これに限らない。例えば、3層以上設けるように変更してもよい。
○ 回転電機10は、極数が「4」であったが、これに限らない。極数は適宜変更してもよい。このように変更する場合、ロータコア21の磁極領域Rも当該極数に応じて適宜変更することが好ましい。
【符号の説明】
【0055】
10…回転電機、20…ロータ、21…ロータコア、40…ロータコア本体、41…電磁鋼板、42…埋め込み孔、43…フラックスバリア、44…最内フラックスバリア、44a…外径側閉空間、44b…内径側閉空間、50…ブリッジ、60…補強部、70…蓋部材、71…蓋孔、72…蓋部、80…挟持部、90…永久磁石、100…張出部、m…軸線、C…仮想内面、R…磁極領域、S1…第1内面、S2…第2内面。