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特許7388158処理装置、及び巻線温度算出モデルの決定方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-20
(45)【発行日】2023-11-29
(54)【発明の名称】処理装置、及び巻線温度算出モデルの決定方法
(51)【国際特許分類】
   H02P 29/64 20160101AFI20231121BHJP
【FI】
H02P29/64
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019216312
(22)【出願日】2019-11-29
(65)【公開番号】P2021087325
(43)【公開日】2021-06-03
【審査請求日】2022-09-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000002945
【氏名又は名称】オムロン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田中 政仁
(72)【発明者】
【氏名】福原 仁
(72)【発明者】
【氏名】恵木 守
(72)【発明者】
【氏名】大野 悌
【審査官】安池 一貴
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/145267(WO,A1)
【文献】特開平06-054572(JP,A)
【文献】特開2017-051089(JP,A)
【文献】特開2008-141941(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 29/64
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
巻線が巻かれた固定子及び回転子を有するモータの電子サーマルが有する、該巻線の温度を推定するための算出モデルであって、該巻線の温度特性に関連する巻線関連パラメータを含む巻線温度特性モデルと、該巻線の近傍に配置される温度センサによって検出される、巻線近傍温度の特性に関連する所定パラメータを含む所定温度特性モデルと、を含む算出モデルを決定する処理装置であって、
前記巻線の温度を所定温度に上昇させるための電圧印加を行っている状態で、該巻線の温度の上昇推移である第1上昇推移と、前記温度センサの検出温度の上昇推移である第2上昇推移とを取得する温度推移取得部と、
前記第2上昇推移に基づいて、前記所定パラメータを算出して前記所定温度特性モデルを決定し、更に、前記第1上昇推移に基づいて、前記巻線関連パラメータを算出して前記巻線温度特性モデルを決定する、決定部と、を備え、
前記決定部は、前記第2上昇推移に基づいて、前記固定子の温度特性に関連する固定子関連パラメータを含み、前記巻線温度特性モデル及び前記所定温度特性モデルと相関を有する固定子温度特性モデルを介して、前記所定パラメータを算出して前記所定温度特性モデルを決定し、更に、前記第1上昇推移に基づいて、該固定子温度特性モデルを介して前記巻線関連パラメータを算出して前記巻線温度特性モデルを決定する、
処理装置。
【請求項2】
前記温度推移取得部は、前記巻線の抵抗値に基づいて前記第1上昇推移を取得する、
請求項1に記載の処理装置。
【請求項3】
前記巻線への印加電圧を入力とし該巻線を流れる電流を出力したときの、前記モータにおける周波数応答を取得する周波数応答取得部と、
前記周波数応答に基づいて、前記巻線の抵抗値を算出する抵抗算出部と、
を更に備える、請求項に記載の処理装置。
【請求項4】
前記電圧印加においては第1周期の電圧印加が行われ、
前記抵抗算出部は、前記第1周期の電圧印加を入力したときの前記モータの出力電流に従って前記周波数応答取得部により取得された前記周波数応答に基づき、前記電圧印加時の前記巻線の抵抗値を算出し、
前記温度推移取得部は、前記抵抗算出部により算出された前記巻線の抵抗値に基づいて、前記第1上昇推移を取得する、
請求項に記載の処理装置。
【請求項5】
前記電圧印加が行われている際に、前記モータの前記回転子を所定の一定速度で回転駆動する、
請求項1から請求項の何れか1項に記載の処理装置。
【請求項6】
巻線が巻かれた固定子及び回転子を有するモータの電子サーマルが有する、該巻線の温度を推定するための算出モデルであって、該巻線の温度特性に関連する巻線関連パラメータを含む巻線温度特性モデルと、該巻線の近傍に配置される温度センサによって検出される、巻線近傍温度の特性に関連する所定パラメータを含む所定温度特性モデルと、を含む算出モデルを決定する方法であって、
前記巻線の温度を所定温度に上昇させるための電圧印加を行っている状態で、該巻線の温度の上昇推移である第1上昇推移と、前記温度センサの検出温度の上昇推移である第2上昇推移とを取得するステップと、
前記第2上昇推移に基づいて、前記所定パラメータを算出して前記所定温度特性モデルを決定し、更に、前記第1上昇推移に基づいて、前記巻線関連パラメータを算出して前記巻線温度特性モデルを決定するステップと、を含み、
前記決定するステップでは、前記第2上昇推移に基づいて、前記固定子の温度特性に関連する固定子関連パラメータを含み、前記巻線温度特性モデル及び前記所定温度特性モデルと相関を有する固定子温度特性モデルを介して、前記所定パラメータを算出して前記所定温度特性モデルを決定し、更に、前記第1上昇推移に基づいて、該固定子温度特性モデルを介して前記巻線関連パラメータを算出して前記巻線温度特性モデルを決定する、
巻線温度算出モデルの決定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータの電子サーマルに関するモデルパラメータの調整を行う技術に関する。
【背景技術】
【0002】
モータは様々な分野で使用されており、その使用条件である回転速度やモータ負荷等も様々である。また、モータの周囲雰囲気も必ずしも一定ではなく、一般的には、モータの周囲温度が高くなるとモータからの放熱が行われにくくなり、その使用環境は過酷なものとなる。モータを駆動する場合、過負荷環境下に置かれるとモータの巻線温度が過度に上昇し、巻線が焼損してしまうことがある。このような巻線の焼損を回避するために、サーミスタやサーモスタット等の温度センサをモータ内に埋め込み、これらにより巻線の温度を直接検出することで、モータの過負荷運転を回避する技術がある(例えば、特許文献1を参照)。ただし、このような場合、温度センサをモータ内に埋め込む必要があり、また温度センサを正確に所定位置に配置させないと、巻線の温度を適切に検出することが難しくなる。
【0003】
一方で、温度センサ等のように直接的なセンサを使用せずに、モータに流す電流指令から負荷状況を計算し、巻線の過昇温を判定する電子サーマルに関する技術が開発されている。このような電子サーマルでは、ソフトウェア上で巻線の過昇温が判断されることになる。例えば、特許文献2に示す技術では、モータに印加した電圧、電流、該モータの誘起電圧等のパラメータに基づいて巻線抵抗値を推定し、その推定された巻線抵抗値から巻線温度を推定する。また、特許文献3に示す技術では、モータの始動時に測定した巻線抵抗値から始動時の巻線温度を推定し、その後にモータに流した電流に基づいて巻線温度の推移を推定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平4-283087号公報
【文献】特開2011-15584号公報
【文献】特開平9-261850号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
電子サーマル技術を用いて巻線の過昇温を回避するためには、当該モータに関連する諸元が明確になっているのが好ましい。すなわち、巻線の温度に関連する巻線の抵抗値やモータの誘起電圧等の物理的なパラメータが明確であれば、巻線の温度をより正確に推定することが可能となる。しかし、ドライバでモータを駆動する場合、そのモータの物理的パラメータが必ずしも明確になっているとは限らない。そのため、電子サーマル技術による巻線の過昇温抑制は、安全上のマージンを確保した上で行わざるを得ず、過度な保護となる傾向がある。
【0006】
一方で、モータの巻線に温度センサを配置してその温度を検出することで巻線の過昇温抑制を図ることも可能ではあるが、上記の通り、その検出結果がモータ内での温度センサの配置に大きく依存するため、精度の高い巻線保護の実現は容易ではない。仮に好ましい配置ができたとしても、巻線から温度センサまでの間に所定の熱容量が存在し、更には温度センサ自体に応答遅れがあるため、温度センサの検出そのものに遅れが含まれてしまう。そのため、温度センサを利用する場合、特に大電流による急激な温度変化を適時に検出
することは容易ではない。
【0007】
本願の開示は、このような問題に鑑みてなされたものであり、モータの電子サーマルに関し、巻線の温度推定を正確に行う技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願の開示においては、上記課題を解決するために、所定の電圧印加の際の巻線温度の上昇推移と、巻線温度を検出するように配置されている温度センサの検出温度の上昇推移とを用いて、モータの電子サーマルのための巻線温度特性モデルと所定の温度特性モデルとを決定する構成を採用した。このように電子サーマル技術に温度センサの検出値を反映させることで、電子サーマルによりモータ巻線の温度をより正確に推定することができる。
【0009】
詳細には、本開示は、巻線が巻かれた固定子及び回転子を有するモータの電子サーマルが有する、該巻線の温度を推定するための算出モデルであって、該巻線の温度特性に関連する巻線関連パラメータを含む巻線温度特性モデルと、該巻線の近傍に配置される温度センサによって検出される、巻線近傍温度の特性に関連する所定パラメータを含む所定温度特性モデルと、を含む算出モデルを決定する処理装置であって、前記巻線の温度を所定温度に上昇させるための電圧印加を行っている状態で、該巻線の温度の上昇推移である第1上昇推移と、前記温度センサの検出温度の上昇推移である第2上昇推移とを取得する温度推移取得部と、前記第2上昇推移に基づいて、前記所定パラメータを算出して前記所定温度特性モデルを決定し、更に、前記第1上昇推移に基づいて、前記巻線関連パラメータを算出して前記巻線温度特性モデルを決定する、決定部と、を備える。
【0010】
本開示の処理装置は、モータの巻線温度を検出するために巻線の近傍に温度センサが配置されているモータに対して、電子サーマル技術により巻線の過昇温抑制を図るように構成される。当該温度センサとしては公知の温度センサを採用することができ、モータの内部での温度センサの配置は、好ましくはその温度検出部が巻線に接触する場所であるが、巻線の近傍でありその温度を検出可能な位置であればよく特定の配置に限定されない。
【0011】
そして、当該処理装置は、巻線温度特性モデルと所定温度特性モデルとを含む算出モデルを用いて、電圧印加時の巻線温度の推定を可能とするように、両モデルを決定する。
当該巻線温度特性モデルは、モータにおいて仮想的に固定子の熱的影響を除いたときの、巻線の温度特性を算出するためのモデルである。当該モデルに含まれる巻線関連パラメータとしては、巻線に関する熱抵抗や熱時定数等が例示できる。また、所定温度特性モデルは、モータにおいて仮想的に固定子の熱的影響を除いたときの、温度センサの検出温度の特性を算出するためのモデルである。温度センサの検出には、巻線温度が反映されていると考えられる。当該モデルに含まれる所定パラメータとしては、温度センサの温度検出に関する熱抵抗や熱時定数等が例示できる。
【0012】
ここで、温度推移取得部は、巻線の温度を所定温度に上昇させるための電圧印加を行っている状態で、巻線に関連する2つの温度推移(上昇推移)を取得する。1つの上昇推移は、実際に巻線に生じている温度推移である第1上昇推移であり、もう1つの上昇推移は、温度センサの検出温度の上昇推移である第2上昇推移である。そして、電子サーマル技術により所定温度特性モデルと巻線温度特性モデルを含む算出モデルを用いて巻線温度を推定するためには、巻線温度への固定子の温度推移の影響を適切に考慮する必要がある。
【0013】
ここで、上記の第1上昇推移は巻線の温度推移であり、第2上昇推移はその巻線の近傍に配置された温度センサの検出温度の推移であるから、両上昇推移には、実質的に同一視できるモータの固定子の温度推移が影響していると考えられる。このことは、第1上昇推
移と第2上昇推移を利用することで、電子サーマル技術により、固定子の温度推移の影響を考慮した巻線温度の推定が可能であることを意味する。そこで、上記処理装置では、決定部が、第2上昇推移に基づいて所定パラメータを算出して所定温度特性モデルを決定し、更に、第1上昇推移に基づいて、巻線関連パラメータを算出して巻線温度特性モデルを決定する。このように決定された所定温度特性モデルと巻線温度特性モデルを含む算出モデルは、温度センサが内包する温度検出の遅れを吸収する形で、固定子の温度推移の影響を好適に反映させて巻線温度の推定を可能とする。
【0014】
上記の処理装置において、前記決定部は、前記第2上昇推移に基づいて、前記固定子の温度特性に関連する固定子関連パラメータを含み、前記巻線温度特性モデル及び前記所定温度特性モデルと相関を有する固定子温度特性モデルを介して、前記所定パラメータを算出して前記所定温度特性モデルを決定し、更に、前記第1上昇推移に基づいて、該固定子温度特性モデルを介して前記巻線関連パラメータを算出して前記巻線温度特性モデルを決定してもよい。当該固定子温度特性モデルは、モータにおいて仮想的に巻線の熱的影響を除いたときの、固定子の温度特性を算出するためのモデルである。当該モデルに含まれる固定子関連パラメータとしては、固定子に関する熱抵抗や熱時定数等が例示できる。このような構成を採用することで、固定子の温度推移の影響を好適に反映させた所定温度特性モデルと巻線温度特性モデルを決定することができる。
【0015】
上記の処理装置において、前記温度推移取得部は、前記巻線の抵抗値に基づいて前記第1上昇推移を取得してもよい。これにより、所定温度特性モデルと巻線温度特性モデルを決定する際に、温度センサとは別の測定形態によって巻線温度の上昇推移を正確に測定することが可能となる。
【0016】
また、上記の処理装置は、前記巻線への印加電圧を入力とし該巻線を流れる電流を出力したときの、前記モータにおける周波数応答を取得する周波数応答取得部と、前記周波数応答に基づいて、前記巻線の抵抗値を算出する抵抗算出部と、を更に備えてもよい。このように巻線の電気的特性に着目してその周波数応答を利用することで、巻線の抵抗値検出のために巻線に印加する電圧を可及的に小さくでき、その電圧印加に起因する巻線温度の変動を抑制し、より正確な巻線の抵抗値の測定が可能となる。
【0017】
また、上記の処理装置において、前記電圧印加においては第1周期の電圧印加が行われ、前記抵抗算出部は、前記第1周期の電圧印加を入力したときの前記モータの出力電流に従って前記周波数応答取得部により取得された前記周波数応答に基づき、前記電圧印加時の前記巻線の抵抗値を算出し、前記温度推移取得部は、前記抵抗算出部により算出された前記巻線の抵抗値に基づいて、前記第1上昇推移を取得してもよい。このような構成によると、第1上昇推移の測定に関し、巻線温度の変動を抑制し、より正確な巻線の抵抗値の測定が可能となる。
【0018】
そして、上述までの処理装置において、前記電圧印加が行われている際に、前記モータの前記回転子を所定の一定速度で回転駆動してもよい。温度センサによる温度検出では、その温度センサの検出部が近い巻線の温度が検出される傾向が強くなる。一方で、第2上昇推移の取得のために巻線に対して電圧印加を行っている際に、モータの巻線を構成する何れかの相(例えば、モータが三相交流モータの場合、U、V、W相の何れか)に偏ってその印加電流が流れてしまうと、温度センサによる温度検出にばらつきが生じるおそれがある。そこで、上記のように回転子を所定の一定速度で回転することで、モータの巻線に概ね均質に印加電流を流すことができ、第2上昇推移を好適に取得することが可能となる。
【0019】
また、上記課題を解決するために、本開示を巻線温度算出モデルの決定方法の側面から
も捉えることができる。すなわち、本開示は、巻線が巻かれた固定子及び回転子を有するモータの電子サーマルが有する、該巻線の温度を推定するための算出モデルであって、該巻線の温度特性に関連する巻線関連パラメータを含む巻線温度特性モデルと、該巻線の近傍に配置される温度センサによって検出される、巻線近傍温度の特性に関連する所定パラメータを含む所定温度特性モデルと、を含む算出モデルを決定する方法である。そして、当該方法は、前記巻線の温度を所定温度に上昇させるための電圧印加を行っている状態で、該巻線の温度の上昇推移である第1上昇推移と、前記温度センサの検出温度の上昇推移である第2上昇推移とを取得するステップと、前記第2上昇推移に基づいて、前記所定パラメータを算出して前記所定温度特性モデルを決定し、更に、前記第1上昇推移に基づいて、前記巻線関連パラメータを算出して前記巻線温度特性モデルを決定するステップと、を含む。前記決定するステップでは、前記第2上昇推移に基づいて、前記固定子の温度特性に関連する固定子関連パラメータを含み、前記巻線温度特性モデル及び前記所定温度特性モデルと相関を有する固定子温度特性モデルを介して、前記所定パラメータを算出して前記所定温度特性モデルを決定し、更に、前記第1上昇推移に基づいて、該固定子温度特性モデルを介して前記巻線関連パラメータを算出して前記巻線温度特性モデルを決定してもよい。また、上述までの処理装置に関し開示された技術思想は、技術的な齟齬が生じない限りにおいて、上記巻線温度算出モデルの決定方法に適用することができる。
【発明の効果】
【0020】
モータの電子サーマルに関し、巻線の温度推定を正確に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】巻線温度特性モデルと所定温度特性モデルを含む算出モデルの構成を示す図である。
図2】巻線温度特性モデルと固定子温度特性モデルとの相関、及び所定温度特性モデルと固定子温度特性モデルとの相関を説明するための図である。
図3】算出モデルをモータに適合させるときにモータに印加する電圧の推移と、そのときの巻線温度、及び温度センサによる検出温度の推移を示す図である。
図4】モータが組み込まれて構成される制御システムの概略構成である。
図5図4に示す制御システムのサーボドライバで形成される制御構造を示す第1の図である。
図6図4に示す制御システムのサーボドライバで形成される制御構造を示す第2の図である。
図7】サーボドライバで実行される、算出モデルのモータへの適合方法の処理の流れを示すフローチャートである。
図8】モータに印加される電圧の推移を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
<適用例>
電子サーマルを有するモータ2(図4を参照)において当該電子サーマルでのモータ巻線の温度を推定するためのモデルパラメータの調整を行う処理装置の一例について、図1図3に基づいて説明する。なお、本開示の実施形態においては、モータ2は、その固定子に巻線が巻かれるとともに回転子を有する構成であればよく、その具体的な構成は特定のものに限定されない。また、モータ2の内部には、その巻線温度を検出できるように温度センサ3が配置され、より詳細には、温度センサ3の検出部が巻線の近傍に位置するように、好ましくは当該検出部が巻線に接触するように温度センサ3が配置されている。
【0023】
ここで、図1は、モータの電子サーマルが有する、巻線温度を算出するための算出モデル10の概略構造を示している。また、図2は、算出モデル10の導出を説明するための図であって、巻線温度特性モデルと固定子温度特性モデルとの相関、及び所定温度特性モ
デルと固定子温度特性モデルとの相関を示している。そして、図3は、図1に示す算出モデル10で使用される算出用パラメータ、すなわち巻線関連パラメータ及び所定パラメータを決定する際に、モータに印加され電圧推移、及びその際の巻線温度の推移を示す図である。
【0024】
ここで、算出モデル10を説明する前に、モータ2において巻線温度に影響を及ぼし得る主な熱源、すなわち比較的大きな熱容量を有する構造物である巻線と固定子を考慮して巻線の温度推定を行い得る算出モデル(以下、「ベース算出モデル」という)20について、図2の上段(a)に基づいて説明する。ベース算出モデル20は、モータ2の巻線温度を算出するプログラムであり、その入力として当該モータにおける印加電力が与えられると、当該モータの巻線温度を出力する。なお、当該印加電力は、モータの巻線コイルの電気抵抗に起因して生じる、いわゆる銅損とみなすことができ、物理的には巻線コイルを流れる電流の二乗に比例する。そして、図1に示すように、ベース算出モデル20は、自身を構成するサブのモデルとして巻線温度特性モデル21と固定子温度特性モデル22とを含む。巻線温度特性モデル21は、モータにおいて仮想的に固定子の熱的影響を除いたときの、巻線の温度特性を算出するためのモデルであり、固定子温度特性モデル22は、モータにおいて仮想的に巻線の熱的影響を除いたときの、固定子の温度特性を算出するためのモデルである。このようにベース算出モデル20が両モデルを含み、更に図2の上段(a)に示すように各モデルの出力の和がモータの巻線温度として算出されることで、固定子と巻線との相関が考慮された上でモータの巻線温度が算出される構成となっている。
【0025】
ここで、巻線温度特性モデル21について説明する。巻線温度特性モデル21は、巻線の温度特性に関連するパラメータ(巻線関連パラメータ)である巻線に関する熱抵抗Raや熱時定数Taを含んで、下記の式1で表される。なお、熱抵抗Raは、熱の伝えにくさを表す値で、単位時間で発生する熱量あたりの温度上昇量を意味するパラメータである。本実施形態では、モータの巻線を熱的に均質な物体として捉えたときの熱抵抗が採用される。また、熱時定数Taは、巻線の温度変化に対する応答性の度合いを表すパラメータであり、巻線が初期の熱平衡状態から別の熱平衡状態に遷移する際に、その温度差の63.2%変化するのに要する時間として定義される。
巻線温度特性モデル = Ra/(Ta・s+1) ・・・(式1)
【0026】
次に、固定子温度特性モデル22について説明する。固定子温度特性モデル22は、固定子の温度特性に関連するパラメータ(固定子関連パラメータ)である固定子に関する熱抵抗Rbや熱時定数Tbを含んで、下記の式2で表される。なお、熱抵抗Rbの定義は上記の熱抵抗Raの定義と同じであり、本実施形態では、モータの固定子を熱的に均質な物体として捉えたときの熱抵抗が採用される。また、熱時定数Tbは、固定子の温度変化に対する応答性の度合いを表すパラメータであり、上記の熱時定数Taの定義と同じである。
固定子温度特性モデル = Rb/(Tb・s+1) ・・・(式2)
【0027】
そして、ベース算出モデル20においては、入力(モータにおける印加電力)が、巻線温度特性モデル21及び固定子温度特性モデル22に引き渡される。そして、各モデルの出力が加算されて、ベース算出モデル20の出力、すなわちモータ巻線の推定温度とされる。なお、各モデルの出力の加算の際に、各モデルの出力に対して所定のゲインを乗じた値を加算するようにしてもよい。このようにベース算出モデル20が構成されることで、モータの巻線温度が固定子と巻線との相関を考慮して推定されることになる。
【0028】
このように巻線温度を推定するためにベース算出モデル20を利用する場合、固定子温度特性モデル22を特定する必要がある。しかし、固定温度特性モデル22を特定するためには、極力固定子に対して巻線が熱的影響を及ぼさない状況を形成するのが好ましいが
容易ではない。そこで、本願開示では、モータ2の巻線近傍に配置されている温度センサ3の検出温度の推移が利用される。図2の下段(b)には、巻線近傍の温度、すなわち温度センサ3の検出温度の推定を行い得る算出モデル(以下、「巻線近傍算出モデル」という)30を示している。巻線近傍算出モデル30は、温度センサ3の検出温度を算出するプログラムであり、その入力としてモータ2における印加電力が与えられると、温度センサ3の検出温度を出力する。そして、図2(b)に示すように、巻線近傍算出モデル30は、自身を構成するサブのモデルとして所定温度特性モデル31と固定子温度特性モデル32とを含む。
【0029】
所定温度特性モデル31は、モータにおいて仮想的に固定子の熱的影響を除いたときの、温度センサ3の検出温度特性(巻線近傍の温度特性)を算出するためのモデルであり、当該検出温度特性には巻線の温度特性が反映されていると考えることができる。また、固定子温度特性モデル32は、モータにおいて仮想的に巻線の熱的影響を除いたときの、固定子の温度特性を算出するためのモデルである。したがって、固定子温度特性モデル32は、図2の上段(a)に示す固定子温度特性モデル22と同一と考えることができる。このように巻線近傍算出モデル30が両モデルを含み、更に図2の下段(b)に示すように各モデルの出力の和が温度センサ3の検出温度として算出される構成となっている。
【0030】
所定温度特性モデル31は、温度センサ3の検出温度、すなわち巻線近傍の温度特性に関連するパラメータ(所定パラメータ)である熱抵抗Rsや熱時定数Tsを含んで、下記の式3で表される。なお、熱抵抗Rsの定義は上記の熱抵抗Raの定義と同じであり、本実施形態では、モータの巻線及びその近傍の空間を熱的に均質な物体として捉えたときの熱抵抗が採用される。また、熱時定数Tsは、巻線及びその近傍の空間の温度変化に対する応答性の度合いを表すパラメータであり、上記の熱時定数Taの定義と同じである。
所定温度特性モデル = Rs/(Ts・s+1) ・・・(式3)
【0031】
固定子温度特性モデル32は、上記の通り固定温度特性モデル22と同一視できるため、その詳細な説明は割愛する。そして、巻線近傍算出モデル30においては、入力(モータにおける印加電力)が、所定温度特性モデル31及び固定子温度特性モデル32に引き渡される。そして、各モデルの出力が加算されて、巻線近傍算出モデル30の出力、すなわち温度センサ3の検出温度の推定値とされる。
【0032】
ここで、図2の上段(a)と下段(b)を見比べると、巻線温度を推定するベース算出モデル20と温度センサ3の検出温度を推定する巻線近傍算出モデル30には、共通して固定子温度特性モデル22、32が含まれている。したがって、巻線近傍算出モデル30から導出される固定子温度特性モデル32を、ベース算出モデル20に含まれる固定子温度特性モデル22に代入することで、図1に示す算出モデル10を導出することができる。
【0033】
以上を踏まえて、図1に基づいて、電子サーマルが有する算出モデル10について説明する。算出モデル10は、モータの電子サーマルにおいて当該モータの巻線温度を算出するプログラムであり、その入力として当該モータにおける印加電力が与えられると、当該モータの巻線温度を出力する。そして、図1に示すように、算出モデル10は、自身を構成するサブのモデルとして巻線温度特性モデル11と所定温度特性モデル12と温度センサ3を含む。巻線温度特性モデル11は、モータにおいて仮想的に固定子の熱的影響を除いたときの、巻線の温度特性を算出するためのモデルであり、図2の上段(a)に示す巻線温度特性モデル21と同一のモデルである。また、所定温度特性モデル12は、モータにおいて仮想的に固定子の熱的影響を除いたときの、温度センサ3の検出温度特性(巻線近傍の温度特性)を算出するためのモデルであり、図2の下段(b)に示す所定温度特性モデル31と同一のモデルである。
【0034】
このように構成される算出モデル10では、図1において破線15で囲む部分が、いわば図2の下段(b)に示す固定子温度特性モデル32に相当する構成である。そのため、入力(モータにおける印加電力)が、巻線温度特性モデル11及び所定温度特性モデル12に引き渡されると、巻線温度特性モデル11の出力に、温度センサ3の出力と所定温度特性モデル12との差分が加算されて、算出モデル10の出力、すなわちモータ巻線の推定温度とされる。なお、各モデルの出力の加算の際に、各モデルの出力に対して所定のゲインを乗じた値を加算するようにしてもよい。
【0035】
次に、図3に基づいて、巻線温度特性モデル11、21で使用される熱抵抗Ra及び熱時定数Taの算出、所定温度特性モデル12、31で使用される熱抵抗Rs及び熱時定数Tsの算出、固定子温度特性モデル22、32で使用される熱抵抗Rb及び熱時定数Tbの算出について説明する。なお、これらのパラメータRa、Rb、Rs、Ta、Tb、Tsを総じてモデルパラメータとも称する。
【0036】
図3の上段に示す印加電圧の推移では、時刻T1~T2の期間においては、巻線温度を所定温度まで上昇させるための、モータ2への電圧印加が行われている。この時刻T1~T2の期間ではモータの巻線温度が図2の下段の線L1に示すように上昇し収束するため(温度t0から温度t1までの上昇)、当該期間の巻線温度推移を第1上昇推移L1と称する。また、モータ巻線の近傍の温度を検出するように配置されている温度センサ3の実際の検出温度推移が線L2で示されている(温度t0から温度t2まで上昇し収束している)。巻線と温度センサ3との間には幾らかの熱容量が介在するため、第2上昇推移L2は、第1上昇推移L1よりも若干、温度が低温側となる。また、電圧印加時にはモータ2の回転子が回転しないようにd軸のみに電流が流れるように、電圧V1が印加される。このようにすることで、当該電圧印加時のモータ2の駆動軸が不用意に駆動することを回避できる。別法として、電圧印加時にモータ2の回転子が所定の低速度(例えば、数10rpm)で回転するように、電圧V1が印加されてもよい。このようにすることで、モータ2の巻線において電流を均質に流すことができ、温度センサ3の配置の、その検出温度への影響を軽減できる。なお、このときの印加電圧V1は、上記モデルパラメータの算出に好適となるようにモータ温度を上昇させる印加電圧であればよく、例えば、モータの定格電力に対応する電圧とすることができる。
【0037】
そして、Ra、Rb、Rs、Ta、Tb、Tsのモデルパラメータは、時刻T1~T2の第1上昇推移L1及び第2上昇推移L2に基づいて算出される。先ず、第2上昇推移L2に基づいて、所定温度特性モデル12、31に関連する熱抵抗Rs及び熱時定数Tsと、固定子関連特性モデル22、32に関連する熱抵抗Rb及び熱時定数Tbが算出される。具体的には、最小二乗法を利用して、温度センサ3の検出温度がt0からt2まで上昇するのに要した時間や投入電力等に基づいて、モデルパラメータRs、Ts、Rb、Tbが算出される。これにより、所定温度特性モデル12、31と固定子関連特性モデル22、32が決定される。続いて、第1上昇推移L1に基づいて、巻線温度特性モデル11、21に関連する熱抵抗Ra及び熱時定数Taが算出される。なお、この算出において、固定子関連特性モデル22、32に関連する熱抵抗Rb及び熱時定数Tbについては、既に算出されている値を利用する。具体的なモデルパラメータ11、21の算出は、同様に最小二乗法を利用して、温度センサ3の検出温度がt0からt1まで上昇するのに要した時間や投入電力等に基づいて行われる。これにより、巻線温度特性モデル11、21が決定される。
【0038】
このように算出されたモデルパラメータを用いて巻線温度特性モデル11と所定温度特性モデル12とを形成し、そして両モデルを含む算出モデル10が決定される。このように決定された算出モデル10を用いることで、温度センサ3の検出値を利用して電子サー
マルによりモータの巻線温度を推定することが可能となる。当該推定においては、温度センサ3が内包する検出遅れを吸収した形で巻線温度が算出モデル10によって算出されるため、高精度であり且つ遅れの少ない巻線温度の推定が実現でき、以て、モータ2の巻線過昇温を効果的に抑制することができる。
【0039】
<第1の実施例>
図4は、本実施形態の処理装置としても作動するサーボドライバ4を含む制御システムの概略構成図である。当該制御システムは、ネットワーク1と、モータ2と、サーボドライバ4と、標準PLC(Programmable Logic Controller)5とを備える。なお、上記の通
り、モータ2には温度センサ3が備えられている。当該制御システムは、モータ2とともに図示しない負荷装置を駆動制御するためのシステムである。そして、モータ2及び負荷装置が、当該制御システムによって制御される制御対象とされる。ここで、負荷装置としては、各種の機械装置(例えば、産業用ロボットのアームや搬送装置)が例示できる。また、モータ2はその負荷装置を駆動するアクチュエータとして負荷装置内に組み込まれている。例えば、モータ2は、巻線が巻かれた固定子(ステータ)と回転子(ロータ)を有するACサーボモータである。なお、モータ2には図示しないエンコーダが取り付けられており、当該エンコーダによりモータ2の動作に関するパラメータ信号がサーボドライバ4にフィードバック送信されている。このフィードバック送信されるパラメータ信号(以下、フィードバック信号という)は、たとえばモータ2の回転軸の回転位置(角度)についての位置情報、その回転軸の回転速度の情報等を含む。
【0040】
サーボドライバ4は、ネットワーク1を介して標準PLC5からモータ2の動作(モーション)に関する動作指令信号を受けるとともに、モータ2に接続されているエンコーダから出力されたフィードバック信号を受ける。サーボドライバ4は、標準PLC5からの動作指令信号およびエンコーダからのフィードバック信号に基づいて、モータ2の駆動に関するサーボ制御、すなわち、モータ2の動作に関する指令値を算出するとともに、モータ2の動作がその指令値に追従するように、モータ2に駆動電流を供給する。なお、この供給電流は、交流電源7からサーボドライバ4に対して送られる交流電力が利用される。本実施例では、サーボドライバ4は三相交流を受けるタイプのものであるが、単相交流を受けるタイプのものでもよい。なお、サーボドライバ4によるサーボ制御については、サーボドライバ4が有する位置制御器41、速度制御器42、電流制御器43を利用したフィードバック制御であり、その詳細については図5に基づいて後述する。
【0041】
ここで、図4に示すように、サーボドライバ4は、位置制御器41、速度制御器42、電流制御器43を備え、これらの処理により上記サーボ制御が実行される。また、サーボドライバ4は、モータ2を過負荷による損傷から保護するために電子サーマル部100(図5を参照)を有している。この電子サーマル部100は、モータ2の巻線温度を推定し、その推定温度に基づいてモータ2の過負荷状態を判断する。そこで、図5に示す、サーボドライバ4に形成される制御構造に基づいて、サーボドライバ4による上記サーボ制御及び電子サーマル部100によるモータ2の保護制御の説明を行う。当該制御構造は、所定の演算装置及びメモリ等を有するサーボドライバ4において所定の制御プログラムが実行されることで形成される。
【0042】
位置制御器41は、例えば、比例制御(P制御)を行う。具体的には、標準PLC5から通知された位置指令と検出位置との偏差である位置偏差に、位置比例ゲインKppを乗ずることにより速度指令を算出する。なお、位置制御器41は、予め制御パラメータとして、位置比例ゲインKppを有している。次に、速度制御器42は、例えば、比例積分制御(PI制御)を行う。具体的には、位置制御器41により算出された速度指令と検出速度との偏差である速度偏差の積分量に速度積分ゲインKviを乗じ、その算出結果と当該速度偏差の和に速度比例ゲインKvpを乗ずることにより、トルク指令を算出する。なお
、速度制御器42は、予め制御パラメータとして、速度積分ゲインKviと速度比例ゲインKvpを有している。また、速度制御器42はPI制御に代えてP制御を行ってもよい。この場合には、速度制御器42は、予め制御パラメータとして、速度比例ゲインKvpを有することになる。次に、電流制御器43は、速度制御器42により算出されたトルク指令に基づいてアンプ44を駆動するための指令電圧を生成する。生成された指令電圧に応じてアンプ44がモータ2を駆動するための駆動電流を出力し、それによりモータ2が駆動制御される。電流制御器43は、トルク指令に関するフィルタ(1次のローパスフィルタ)や一又は複数のノッチフィルタを含み、制御パラメータとして、これらのフィルタの性能に関するカットオフ周波数等を有している。
【0043】
そして、サーボドライバ4の制御構造は、速度制御器42、電流制御器43、制御対象であるモータ2等を前向き要素とする速度フィードバック系を含み、更に、当該速度フィードバック系と位置制御器41を前向き要素とする位置フィードバック系を含んでいる。このように構成される制御構造によって、サーボドライバ4は標準PLC5から供給される位置指令に追従するようにモータ2をサーボ制御することが可能となる。
【0044】
このようにモータ2がサーボ制御される際に、モータ2に対して過大な負荷(例えば、モータ2の定格負荷を超える負荷)が比較的長時間掛けられると、モータ2の巻線に対して過大な電流が長時間流れることになるため、巻線温度が過度に上昇し、その焼損を招く恐れがある。このようなモータ2の過負荷状態での駆動を回避するために、サーボドライバ4は電子サーマル部100を有している。具体的には、電子サーマル部100は、図1に示す算出モデル10と、過負荷判定部110を有している。上記の通り、算出モデル10は、巻線温度特性モデル11と所定温度特性モデル12を含み、モータ2における印加電力が各モデルに入力として与えられるとともに温度センサ3の検出値が与えられると、その結果モータ2の巻線温度を出力する。そして、過負荷判定部110は、算出モデル10の出力である巻線温度に基づいて、モータ2が過負荷状態に至る可能性があるか、換言するとモータ2の巻線が過度に昇温するおそれがあるかについて判定を行う。なお、過負荷判定部110によりモータ2が過負荷状態に置かれていると判定された場合には、サーボドライバ4は、モータ2を保護するためにその駆動を停止することができる。
【0045】
ここで、電子サーマル部100が有する算出モデル10をサーボドライバ4の制御対象とされるモータ2に適合させるための制御構造について、図6に基づいて説明する。サーボドライバ4は、算出モデル10のモータ2への適合のためにモデル適合部200を有する。モデル適合部200は、モータ2に対応する算出モデル10のモデルパラメータ、すなわちモータ2に対応する、巻線温度特性モデル11の熱抵抗Ra及び熱時定数Taと、所定温度特性モデル12の熱抵抗Rs及び熱時定数Tsとを算出し、それらを用いて算出モデル10をモータ2に適合させる。なお、算出モデル10の適合時には、図5に示した電流制御器43及びアンプ44は利用されるが位置制御器41及び速度制御器42は利用されないため、図6においては位置制御器41及び速度制御器42の記載は省略している。
【0046】
ここで、モデル適合部200は、印加制御部210、温度推移取得部220、決定部230を有している。印加制御部210は、算出モデル10のモデルパラメータを算出するための電圧印加、すなわち図3の上段に示した電圧印加を行うための指令を電流制御器43に対して出力する。なお、印加制御部210による電圧印加は、算出モデル10のモデルパラメータの算出に適するように制御される。
【0047】
温度推移取得部220は、モータ2の巻線抵抗値に基づいて、算出モデル10の適合時(電圧印加時)における巻線温度の第1上昇推移L1及び第2上昇推移L2を取得する。当該巻線温度の取得は、下記の式4に従って行われる。
巻線温度θ2=R2/R1・(234.5+θ1)-234.5 ・・・(式4)
R1は、電圧印加開始時(図3における時刻T1)の巻線抵抗値である。
θ1は、電圧印加開始時の巻線温度である。例えば、モータ2の周囲環境の大気温度(サーボドライバ4で取得可能な場合)やモータ2に取り付けられているエンコーダが有する温度センサの検出値を、θ1として利用できる。
R2は、電圧印加時における巻線抵抗値である。なお、巻線抵抗値R2の取得については、後述する。
温度推移取得部220は、印加制御部210による電圧印加に伴って、式4に従ってその際のモータ2の巻線温度を随時取得していく。
【0048】
決定部230は、温度推移取得部220により取得された第1上昇推移L1及び第2上昇推移L2に基づいて、モータ2に対応する、巻線温度特性モデル11の熱抵抗Ra及び熱時定数Taと、所定温度特性モデル12の熱抵抗Rs及び熱時定数Tsとを算出する。これらのモデルパラメータの算出については、上述の通りである。更に、決定部230は、算出されたモデルパラメータを、算出モデル10の巻線温度特性モデル11と所定温度特性モデル12に適用し各モデルを決定する。この結果、図1に示した電子サーマル部100のための算出モデル10は、サーボドライバ4によって制御されるモータ2そのものに適合されることになる。
【0049】
ここで、モデル適合部200による算出モデル10の適合方法について、図7に基づいて説明する。図7は、モデル適合部200による算出モデル10の適合方法の流れを示すフローチャートである。先ず、S101では、印加制御部210による電圧印加を開始する直前に、モータ2の巻線抵抗値(式4におけるR1)とその巻線温度(式4におけるθ1)を取得する初期化処理を行う。巻線抵抗値は、モータの端子間に測定用の電圧を印加しその際の電流値に基づいて算出される。また、この初期化処理における巻線温度は、モータ2が周囲環境に十分に長く置かれていることをもって、その巻線温度は外気温度と同程度と考えることができる。そこで、外気温度やモータ2に設置されているエンコーダ内の温度センサの検出温度が、初期化処理における巻線温度として取得される。
【0050】
次に、S102では、印加制御部210により電圧印加を行いながら、温度推移取得部220によりモータ2の巻線温度の第1上昇推移L1と、温度センサ3の検出温度の第2上昇推移L2を取得する。これらの上昇推移は、電圧印加期間を共通とする。ここで、当該電圧印加によって巻線温度が上昇している際に、別途、抵抗値算出のための電圧印加を行おうとすると、本来の電圧印加による昇温制御が阻害されることになる。モデルパラメータ算出のための電圧印加では、モータ2の巻線温度をt1まで上昇させる必要があるため、抵抗値算出の度にその昇温が乱されてしまうと、モデルパラメータ(熱抵抗や熱時定数)を好適に算出しにくくなる。そこで、本実施形態では、モデルパラメータ算出のための電圧印加においては周期的な電圧印加を行いその電圧印加により巻線温度を上昇させると同時に、その電圧印加をモータ2への入力としその巻線を流れる電流を出力としたときに、当該電圧印加に対する電流の周波数応答を利用してモータ2の巻線抵抗値の算出を行う。
【0051】
具体的には、図8の上段(a)に示すように電圧印加では、印加期間(T1~T2)において周期的な正弦波電圧を印加する。このとき、当該正弦波電圧の実効値(二乗平均値)が、図3に示した電圧V1となる。このように周期的な正弦波電圧を印加することで、モータ2の巻線温度をt1に上昇させることができる。ここで、周期的な電圧印加が行われているときに、その印加電圧値と、モータ2の巻線に流れる電流値とが温度推移取得部220によって、それぞれ入力値、出力値として取得される。この入力値に対する出力値の周波数応答は、下記の式5で示すモータ2の電気的特性を反映するものである。
モータ2の電気的特性:(1/R)・(1/(Ts+1)) ・・・(式5)
ただし、Rはモータ2の巻線抵抗、Tはモータ2の電気的時定数である。
【0052】
そこで、温度推移取得部220は、上記出力値の周波数応答を算出し、それに基づいて得られるゲインG(ω)及び位相P(ω)を利用して、更にモータ2の巻線抵抗Rを下記の式6に従って算出する。
【数1】
・・・(式6)
更に、温度推移取得部220は、式6で算出された巻線抵抗Rを式4におけるR2に代入して、周波数応答を取得した時点での巻線温度(式4におけるθ2)を算出する。
【0053】
このように温度推移取得部220は、電圧印加時のモータ2の巻線を流れる電流の周波数応答を利用することで、モータ2の昇温処理(巻線温度をt1まで上昇させる処理、センサ3の検出温度をt2まで上昇させる処理)を阻害することなく、その巻線抵抗値を利用して第1上昇推移L1及び第2上昇推移L2を取得することができる。なお、温度推移取得部220による各上昇推移の取得タイミング、すなわち上記周波数応答の取得タイミングは、モデルパラメータを算出可能な程度に各上昇推移が取得できる範囲で適宜設定されればよい。
【0054】
なお、図8の上段(a)に示す例では、印加期間において連続的に正弦波電圧を印加しているが、別法として、同図下段(b)に示すように、モータ2の巻線温度がt1の平衡状態に収束できれば正弦波電圧を断続的に印加するようにしてもよい。このとき、印加期間における断続的な正弦波電圧の二乗平均値が電圧V1となる。また、電圧印加での印加電圧の周期は、巻線抵抗値を算出するために適切な周波数応答が取得限りにおいて適宜決定すればよい。印加電圧の周期が長くなり過ぎると電圧印加により巻線温度が急変しやすくなり、一方で、印加電圧の周期が短くなり過ぎるとモータ2の電気的特性を周波数応答に好適に反映することが難しくなる。そこで、印加する正弦波電圧の周波数を、例えば、モータ2の電気的時定数の逆数に相当する周波数の1/3~3倍、好ましくは1/2~2倍、より好ましくは等倍の周波数に設定する。これによりモータ2の温度調整と温度取得とをバランスよく実現できる。
【0055】
次にS103ではモデルパラメータの算出に適した所定の電圧印加時間が経過したか否かが判定される。一例として、所定の電圧印加時間はモータ2の巻線温度がt1に収束するまでの印加時間であってもよい。モータ2の巻線温度の上昇変化率が所定の閾値以下となったときに、その上昇が収束したと判定することができる。なお、上昇変化率は、単位時間当たりの巻線温度の上昇量と定義される。また、当該閾値は、予め決められた固定値であってもよく、別法として、電圧印加開始直後の巻線温度の上昇変化率、すなわち印加期間において最も上昇変化率が高くなると考えられるときの上昇変化率を基準として決定してもよく、例えばその最大と想定される上昇変化率の1/10の値を当該閾値として利
用してもよい。S103で肯定判定されればS104へ進み、否定判定されれば電圧印加を継続すべく、S102以降の処理が繰り返される。
【0056】
次に、S104では、図1図3に基づいて説明したように、S102で取得された第2上昇推移L2に基づいて、固定子温度特性モデル22、32のモデルパラメータである熱抵抗Rbと熱時定数Tbと、所定温度特性モデル12、31のモデルパラメータである熱抵抗Rsと熱時定数Tsが算出され、各モデルが決定される。更にS105では、S1
02で取得された第1上昇推移L1に基づいて、巻線温度特性モデル11、21のモデルパラメータである熱抵抗Raと熱時定数Taが算出され、同モデルが決定される。
【0057】
このように図7に示す算出モデルの適合方法によれば、サーボドライバ4によって駆動されるモータ2に適合された、好適な算出モデル10を準備することができる。これにより、モータ2が駆動される際に、温度センサ3の検出遅れを好適に抑制しながら電子サーマル部100によってその巻線温度が精度よく推定でき、モータ2を過負荷から好適に保護することができる。
【0058】
<その他の実施例>
上述までの実施例においては、モデル適合部200はサーボドライバ4に形成されているが、その態様に代えて、サーボドライバ4に対して電気的に接続可能な処理装置(例えば、PC(パーソナルコンピュータ)等)内に形成されてもよい。当該処理装置は、算出モデルをモータ2に適合させるための装置であり、適合用のソフトウェア(プログラム)が搭載されている。具体的には、当該処理装置は、演算装置やメモリ等を有するコンピュータであり、そこで実行可能なプログラムがインストールされ、それが実行されることで図7に記載の算出モデルの適合方法が実現される。
【0059】
上述した本実施形態に記載されている構成の寸法、材質、形状、その相対配置や記載の方法に含まれる各処理の順序等は、特に記載がない限りは発明の技術的範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【0060】
<付記>
巻線が巻かれた固定子及び回転子を有するモータ(2)の電子サーマル(100)が有する、該巻線の温度を推定するための算出モデル(10)であって、該巻線の温度特性に関連する巻線関連パラメータを含む巻線温度特性モデル(11)と、該巻線の近傍に配置される温度センサ(3)によって検出される、巻線近傍温度の特性に関連する所定パラメータを含む所定温度特性モデル(12)と、を含む算出モデル(10)を決定する処理装置(4)であって、
前記巻線の温度を所定温度に上昇させるための電圧印加を行っている状態で、該巻線の温度の上昇推移である第1上昇推移(L1)と、前記温度センサの検出温度の上昇推移である第2上昇推移(L2)とを取得する温度推移取得部(220)と、
前記第2上昇推移(L2)に基づいて、前記所定パラメータを算出して前記所定温度特性モデル(12)を決定し、更に、前記第1上昇推移(L1)に基づいて、前記巻線関連パラメータを算出して前記巻線温度特性モデル(11)を決定する、決定部(230)と、
を備える、処理装置(4)。
【0061】
巻線が巻かれた固定子及び回転子を有するモータ(2)の電子サーマル(100)が有する、該巻線の温度を推定するための算出モデル(10)であって、該巻線の温度特性に関連する巻線関連パラメータを含む巻線温度特性モデル(11)と、該巻線の近傍に配置される温度センサ(3)によって検出される、巻線近傍温度の特性に関連する所定パラメータを含む所定温度特性モデル(12)と、を含む算出モデル(10)を決定する方法であって、
前記巻線の温度を所定温度に上昇させるための電圧印加を行っている状態で、該巻線の温度の上昇推移である第1上昇推移(L1)と、前記温度センサの検出温度の上昇推移である第2上昇推移(L2)とを取得するステップ(S102)と、
前記第2上昇推移(L2)に基づいて、前記所定パラメータを算出して前記所定温度特性モデル(12)を決定し、更に、前記第1上昇推移(L1)に基づいて、前記巻線関連パラメータを算出して前記巻線温度特性モデル(11)を決定するステップ(S104,
S105)と、
を含む、巻線温度算出モデルの決定方法。
【符号の説明】
【0062】
2 :モータ
3 :温度センサ
4 :サーボドライバ
10 :算出モデル
11 :巻線温度特性モデル
12 :所定温度特性モデル
100 :電子サーマル部
200 :モデル適合部
210 :印加制御部
220 :温度推移取得部
230 :決定部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8