(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-20
(45)【発行日】2023-11-29
(54)【発明の名称】圧電素子
(51)【国際特許分類】
H10N 30/87 20230101AFI20231121BHJP
H10N 30/853 20230101ALI20231121BHJP
H10N 30/50 20230101ALI20231121BHJP
H10N 30/053 20230101ALI20231121BHJP
H10N 30/045 20230101ALI20231121BHJP
【FI】
H10N30/87
H10N30/853
H10N30/50
H10N30/053
H10N30/045
(21)【出願番号】P 2019231701
(22)【出願日】2019-12-23
【審査請求日】2022-08-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100124062
【氏名又は名称】三上 敬史
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 誠志
【審査官】小山 満
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-335664(JP,A)
【文献】特開2002-218771(JP,A)
【文献】特開2015-072979(JP,A)
【文献】国際公開第2010/150610(WO,A1)
【文献】特開2015-198158(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10N 30/87
H10N 30/853
H10N 30/50
H10N 30/053
H10N 30/045
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電セラミック材料を含む圧電素体と、
互いに対向するように前記圧電素体に配置されている第一電極及び第二電極と、
を備え、
前記圧電素体が前記第一電極により受ける応力は、前記圧電素体が前記第二電極により受ける応力より大きく、
前記圧電素体の分極方向は、前記第一電極から前記第二電極に向かう方向である、圧電素子。
【請求項2】
前記第一電極の被覆率は、前記第二電極の被覆率より大きい、請求項1に記載の圧電素子。
【請求項3】
前記圧電素子における前記第一電極及び前記第二電極が接している面は、焼結面を含んでいる、請求項1又は2に記載の圧電素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電素子に関する。
【背景技術】
【0002】
圧電セラミック材料を含む圧電素体と、圧電素体に配置された一対の電極とを備えた圧電素子が知られている(たとえば、特許文献1及び特許文献2参照)。一対の電極は、互いに対向して圧電素体に配置され、圧電素体に電界を印加するような構成を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2008/078487号
【文献】国際公開第2015/060132号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の一つの態様は、大きな変位量を示すとともに、高い信頼性を有する圧電素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、大きな変位量を示すとともに、高い信頼性を有する構成について鋭意研究を行った。その結果、本発明者らは、以下の知見を新たに得て、本発明を想到するに至った。
【0006】
圧電素体には、たとえば、圧電素体に配置される一対の電極を介して電界が印加されて分極処理が施される。分極処理では、圧電素体に含まれる結晶構造内の所定のイオンが移動し、圧電素体内に存在している各ドメインでの分極の向きが揃えられる。たとえば、ペロブスカイト型結晶構造(一般式:ABOX)では、電界の印加によってBイオンが移動し、各ドメインでの分極の向きが揃えられる。このとき、所定の位置まで移動したBイオンの総量が多いほど分極の状態が良好となり、圧電特性が高くなる。各ドメインにおいて、Bイオンが上記所定の位置に移動し、分極が所定の方向に揃うことにより好適な分極状態が得られる。
上記所定のイオンの移動しやすさは、圧電素体が当該圧電素体に配置される電極から受ける応力により異なる。たとえば、圧電素体に電界を印加する一対の電極のうち一方の電極から受ける応力が、他方の電極から受ける応力より大きい場合、上記所定のイオンは、一方の電極に向かう方向には移動しがたく、他方の電極に向かう方向には移動しやすい傾向を有する。
以上のことから、圧電素体が一方の電極から受ける応力と、圧電素体が他方の電極から受ける応力とが異なる構成を実現させた上で、分極方向が、一方の電極から他方の電極に向かう方向とされることにより、大きな分極が得られている圧電素子が実現され得る。得られている分極が大きいほど、圧電素子は、大きな変位量を示す。圧電素子では、得られている分極が大きいほど、分極方向とは逆方向に電圧が印加される状況下で使用される場合でも、分極が失われがたく、圧電素子は、高い信頼性を有する。
【0007】
一つの態様に係る圧電素子は、圧電セラミック材料を含む圧電素体と、互いに対向するように圧電素体に配置されている第一電極及び第二電極と、を備えている。圧電素体が第一電極により受ける応力は、圧電素体が第二電極により受ける応力より大きい。圧電素体の分極方向は、第一電極から第二電極に向かう方向である。
【0008】
上記一つの態様では、圧電素体が第一電極により受ける応力は、圧電素体が第二電極により受ける応力より大きく、かつ、圧電素体の分極方向は、第一電極から第二電極に向かう方向である。したがって、上記一つの態様は、大きな変位量を示すとともに、高い信頼性を有する。
【0009】
上記一つの態様では、第一電極の被覆率は、第二電極の被覆率より大きくてもよい。この場合、圧電素体が第一電極により受ける応力は、圧電素体が第二電極により受ける応力より大きい構成が、簡易かつ確実に実現される。
【0010】
上記一つの態様では、圧電素体における第一電極及び第二電極が接している面は、焼結面を含んでいてもよい。この場合、圧電素体からのセラミックスの脱粒が抑制され、圧電素体における第一電極及び第二電極の被覆の状態が良好となる。
【発明の効果】
【0011】
本発明の一つの態様によれば、大きな変位量を示すとともに、高い信頼性を有する圧電素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、本発明の第一実施形態に係る圧電素子を示す斜視図である。
【
図3】
図3は、本発明の第二実施形態に係る圧電素子を示す斜視図である。
【
図5】
図5の(a)及び
図5の(b)は、電界と分極との関係を示す線図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、説明において、同一要素又は同一機能を有する要素には、同一符号を用いることとし、重複する説明は省略する。
【0014】
(第一実施形態)
初めに、
図1及び
図2を参照して、第一実施形態に係る圧電素子1の構成を説明する。
図1は、第一実施形態に係る圧電素子を示す斜視図である。
図2は、
図1のII-II線に沿った断面図である。
【0015】
圧電素子1は、圧電素体3と、圧電素体3に配置された第一電極10及び第二電極20とを備えている。第一電極10及び第二電極20は、第一方向Ax1に沿って互いに対向している。第一電極10及び第二電極20は、圧電素体3に電界を印加するための電極である。圧電素子1は、たとえば、ハードディスク装置といった装置に用いられる。具体的には、圧電素子1は、たとえば、デュアル・アクチュエータ方式のハードディスク装置において、ボイスコイルモータ以外の第二のアクチュエータとして用いられる。
【0016】
圧電素体3は、圧電セラミック材料を含み、具体的には、たとえば、圧電セラミック材料の焼結体からなる。圧電セラミック材料としては、PZT[Pb(Zr、Ti)O3]、PT(PbTiO3)、PLZT[(Pb、La)(Zr、Ti)O3]、又はチタン酸バリウム(BaTiO3)といったペロブスカイト型結晶構造(一般式:ABOX)の酸化物などが挙げられる。
【0017】
圧電素体3は、略直方体形状を有し、互いに対向している第一主面3a及び第二主面3bを有する。第一主面3a及び第二主面3bは、第一方向Ax1に沿って対向しており、圧電素体3の外表面の一部を成している。圧電素体3は、たとえば、複数の圧電体層が積層されて構成されており、たとえば、圧電セラミック材料を含むセラミックグリーンシートの焼結体から構成される。各圧電体層が積層される方向は、第一方向Ax1に沿うことができる。各圧電体層が互いに重なり合っている層の境界は、たとえば、視認できない程度に一体化されている。圧電素体3は、第一方向Ax1に沿って、たとえば、長さ0.08mm程度を有する。
【0018】
圧電素体3は、互いに対向している第一端面3c及び第二端面3dを更に有する。第一端面3cと第二端面3dとは、第一方向Ax1に交差する第二方向Ax2に沿って対向しており、圧電素体3の外表面の一部を成している。第二方向Ax2は、略直方体形状の圧電素体3において、たとえば、その長手方向である。圧電素体3は、第二方向Ax2に沿って、たとえば、長さ1.1mm程度を有する。
【0019】
圧電素体3は、互いに対向している第一側面3e及び第二側面3fを更に有する。第一側面3eと第二側面3fとは、第一方向Ax1及び第二方向Ax2に交差する第三方向Ax3に沿って対向しており、圧電素体3の外表面の一部を成している。第三方向Ax3は、略直方体形状の圧電素体3において、たとえば、その短手方向である。圧電素体3は、第三方向Ax3に沿って、たとえば、長さ0.75mm程度を有する。
【0020】
第一主面3a及び第二主面3bは、第一端面3cと第二端面3dとを接続するように、第二方向Ax2に沿って延びている。また、第一主面3a及び第二主面3bは、第一側面3eと第二側面3fとを接続するように、第三方向Ax3に沿って延びている。
第一端面3c及び第二端面3dは、第一主面3aと第二主面3bとを接続するように、第一方向Ax1に沿って延びている。また、第一端面3c及び第二端面3dは、第一側面3eと第二側面3fとを接続するように、第三方向Ax3に沿って延びている。
第一側面3e及び第二側面3fは、第一端面3cと第二端面3dとを接続するように、第二方向Ax2に沿って延びている。また、第一側面3e及び第二側面3fは、第一主面3aと第二主面3bとを接続するように、第一方向Ax1に沿って延びている。
【0021】
本実施形態では、第一電極10は、圧電素体3の外表面のうち、第一主面3a上に設置された外部電極である。第一電極10は、第一主面3a上において、第一端面3cから第二端面3dに達するまで延在し、また、第一側面3eから第二側面3fに達するまで延在している。すなわち、第一電極10は、第一主面3aの全体を覆うように設置されることができる。第一電極10は、第二主面3b上、第一端面3c上、第二端面3d上、第一側面3e上、及び第二側面3f上のいずれにも配置されていない。
【0022】
第一電極10は、たとえば、圧電素体3側から順に、Cr層、Ni-Cr合金層、及びAu層が積層された構造、すなわち、Cr層を下層、Ni-Cr合金層を中間層、Au層を上層としたCr/Ni-Cr/Au積層構造を有する。この積層構造は、下層にCr層を有することにより、下層にCr層を有しない場合に比べて圧電素体3への応力が大きい。圧電素体3は、第一電極10の近傍において、電極から受ける応力が比較的大きい部分を有する。本実施形態では、中間層のNi-Cr合金層は、Ni-Cu層であってよく、また、第一電極10は、その応力が第二電極20より大きくなるのであれば、たとえば、Ni-Cr合金層、Au層、又はCr層、Ni層といった同様の金属からなる単層構造を有してもよい。
【0023】
第一電極10が積層構造を有する場合、たとえば、Cr層の厚みは、50~200nmであり、Ni-Cr合金層の厚みは、20~400nmである。また、Au層の厚みは、たとえば、50~200nmである。第一電極10が単層構造を有する場合、その厚みは、たとえば、120~800nmである。
【0024】
本実施形態では、第二電極20は、圧電素体3の外表面のうち、第二主面3b上に設置され外部電極である。第二電極20は、第二主面3b上において、第一端面3cから第二端面3dに達するまで延在し、また、第一側面3eから第二側面3fに達するまで延在している。すなわち、第二電極20は、第二主面3bの全体を覆うように設置されることができる。第二電極20は、第一主面3a、第一端面3c上、第二端面3d上、第一側面3e上、及び第二側面3f上のいずれにも配置されていない。
【0025】
第二電極20は、たとえば、圧電素体3側から順に、Ni-Cr合金層及びAu層が積層された構造、すなわち、Ni-Cr合金層を下層、Au層を上層としたNi-Cr/Au積層構造を有する。この積層構造は、下層にCr層を有するCr/Ni-Cr/Au積層構造に比べて圧電素体3への応力が小さい。圧電素体3は、第二電極20の近傍において、電極から受ける応力が比較的小さい部分を有する。本実施形態では、中間層のNi-Cr合金層は、Ni-Cu層であってよく、また、第二電極20は、その応力が第一電極10より小さくなるのであれば、たとえば、Ni-Cr合金層、Au層、又はCr層、Ni層といった同様の金属からなる単層構造を有してもよい。
【0026】
第二電極20が積層構造を有する場合、たとえば、Ni-Cr合金層の厚みは、20~400nmであり、Au層の厚みは、50~200nmである。第二電極20が単層構造を有する場合、その厚みは、たとえば、70~600nmである。本実施形態では、圧電素体3が第一電極10と第二電極20とによって挟まれた構造を有しているので、たとえば、圧電素体3の変形を抑制することができる。
【0027】
圧電素子1においては、第一電極10及び第二電極20のうち、第一電極10が比較的硬度の高い材料によって構成される一方で、第二電極20が比較的硬度の低い材料によって構成されているので、圧電素体3が第一電極10から受ける応力は、圧電素体3が第二電極20から受ける応力より大きい。すなわち、圧電素体3に配置される電極の硬度の違いによって、圧電素体3が電極から受ける応力が異なっている。
【0028】
第一電極10及び第二電極20の形成方法としては、たとえば、めっき法が用いられる。めっき法は、スパッタリング法、蒸着法、電解めっき法、又は焼き付け法を含む。本実施形態では、第一電極10及び第二電極20は、めっき層である。
【0029】
圧電素体3における第一電極10及び第二電極20が接している面は、焼結面を含んでいてもよい。焼結面は、圧電セラミック材料の焼結体の表面を形成し、自然面と同様の表面構成を有する。自然面とは、焼成により成長した結晶粒の表面により構成される面であり、自然面には凹凸が存在する。本実施形態では、第一主面3a及び第二主面3bが、焼結面であることができる。圧電素体3が焼結面を含んでよいので、圧電素体3からのセラミックスの脱粒が抑制され、圧電素体3における第一電極10及び第二電極20の被覆の状態が良好となる。
【0030】
本実施形態では、第一電極10の被覆率は、第二電極20の被覆率より大きくてもよい。具体的には、第一電極10の被覆率は、95~100であり、第二電極20の被覆率は、65~95である。本実施形態では、圧電素体3が第一電極10により受ける応力は、圧電素体3が第二電極20により受ける応力より大きい構成が、簡易かつ確実に実現される。
【0031】
第一電極10及び第二電極20が、共に、同様の材料によって構成される場合には、第一電極10は、第二電極20よりも大きな厚さを有することができる。具体的には、スパッタリング法、蒸着法、又は電解めっき法によって形成された場合、第一電極10の厚さは、120~800nmであり、第二電極20の厚さは、70~600nmである。焼き付け法によって形成された場合、第一電極10の厚さは、2~7μmであり、第二電極20の厚さは、5~12μmである。これらの場合、圧電素体3が第一電極10により受ける応力は、圧電素体3が第二電極20により受ける応力より大きい構成が、簡易かつ確実に実現される。
【0032】
第一電極10と第二電極20との組み合わせは、圧電素体3に電界を印加するための電極として機能する。したがって、圧電素子1は、圧電素体3に電界を印加するための一対の電極、すなわち、第一電極10と第二電極20とを備えている。圧電素子1では、圧電素体3は、第一電極10と第二電極20との間に活性領域EA1を有し、活性領域EA1は、圧電素子1に印加された電界に応じて変位する。
【0033】
第二電極20は、小さな応力を有するので、圧電素体3が第二電極20により受ける応力は比較的小さい。このため、第二電極20が圧電素体3の変位を阻害することが抑制されて、第二電極20近傍での活性領域EA1の変位量は比較的大きい。一方、第一電極10は、大きな応力を有するので、圧電素体3が第一電極10により受ける応力は比較的大きい。このため、第一電極10は、圧電素体3の変位を阻害し易く、第一電極10近傍での活性領域EA1の変位量は小さくなる傾向がある。本実施形態では、圧電素体3が第一電極10により受ける応力は、圧電素体3が第二電極20により受ける応力より大きい。
【0034】
圧電素子1の作製に際しては、活性領域EA1の分極方向が、第一電極10から第二電極20に向かう方向になるように電界が印加される。この方向に電界が印加されるのは、圧電素体3において、たとえば、それに含まれる材料のイオン、たとえば、ペロブスカイト型結晶構造(一般式:ABOX)では、Bサイトのプラスイオンは、第二電極20から第一電極10に向かうよりも、第一電極10から第二電極20に向かう方が動きやすいからである。
【0035】
分極処理は、たとえば、常温下で行なわれる。分極処理は、常温のほか、たとえば、80℃から150℃程度に加熱して行なわれてもよい。加熱して分極処理を行う場合には、分極電界を印加状態からゼロにするときに、圧電素体3の温度が常温の状態になっていることが好ましい。エージングによる分極の劣化、圧電素子1の駆動による分極の劣化をより効果的に抑制するためである。圧電素子1の駆動に際しては、第一電極10を正極とし、第二電極20を負極として電界が印加される。
【0036】
以上説明したように、本実施形態では、圧電素体3は、第一電極10と第二電極20との間に位置する領域を有する。この領域は、第一電極10から応力を受ける第一部分と、第二電極20から応力を受ける第二部分とを有する。第一部分が受ける応力は、第二部分が受ける応力より大きい。したがって、本実施形態は、圧電素体3が、第一部分及び第二部分を有する、すなわち、第一電極10及び第二電極20から受ける応力が互いに異なる部分を有する構成を実現する。
圧電素体3の分極方向は、第一電極10から第二電極20に向かう方向である。したがって、本実施形態は、分極方向が、第一部分から第二部分に向かう方向、すなわち、第一電極10から応力を受ける部分から、第二電極20から応力を受ける部分に向かう方向とされている構成を実現する。これらの結果、本実施形態では、大きな変位量を示すとともに、高い信頼性を有する。
【0037】
(第二実施形態)
次に、
図3及び
図4を参照して、第二実施形態に係る圧電素子1pの構成を説明する。
図3は、第二実施形態に係る圧電素子を示す斜視図である。
図4は、
図3のIV-IV線に沿った断面図である。
【0038】
圧電素子1pは、圧電素体5と、圧電素体5に配置された第一電極30及び第二電極40とを備えている。第一電極30及び第二電極40は、圧電素体5に電界を印加するための電極である。圧電素体5は、第一実施形態と同様に、圧電セラミック材料を含み、例えば、セラミック材料の焼結体からなる。
【0039】
圧電素体5は、第一実施形態と同様に、略直方体形状を有し、第一主面5a及び第二主面5bと、第一端面5c及び第二端面5dと、及び第一側面5e及び第二側面5fとを有する。これらの面は、圧電素体5の外表面を成している。
【0040】
第一主面5a及び第二主面5bは、第一方向Bx1に沿って対向しており、圧電素体5は、たとえば、第一実施形態と同様に複数の圧電体層が積層されて構成されている。圧電素体5は、第一方向Bx1に沿って、たとえば、長さ0.1mm程度を有する。
第一端面5cと第二端面5dとは、第一方向Bx1に交差する第二方向Bx2に沿って対向しており、第二方向Bx2は、略直方体形状の圧電素体5において、たとえば、その長手方向である。圧電素体5は、第二方向Bx2に沿って、たとえば、長さ1.1mm程度を有する。
第一側面5eと第二側面5fとは、第一方向Bx1及び第二方向Bx2に交差する第三方向Bx3に沿って対向しており、第三方向Bx3は、略直方体形状の圧電素体5において、たとえば、その短手方向である。圧電素体5は、第三方向Bx3に沿って、たとえば、長さ0.75mm程度を有する。
【0041】
第一電極30は、圧電素体5の外表面上に形成される外部電極であり、第一実施形態の第一電極10と同様の層構造と厚さを有し、同様の製法により形成されることができる。第一電極30は、第一電極部分31と、第二電極部分32と、第三電極部分33とを有する。第一電極部分31は、第一主面5a上に配置され、第二電極部分32は、第二端面5d上に配置されている。第三電極部分33は、第二主面5b上に配置されている。第一電極部分31及び第三電極部分33は、第一方向Bx1において、互いに対向している。第一電極部分31、第二電極部分32及び第三電極部分33は、圧電素体5の外表面上において一体的に形成されている。第一電極部分31と第二電極部分32とは、第一主面5aと第二端面5dとが成す稜部6aにおいて、互いに連結され、第二電極部分32と第三電極部分33とは、第二端面5dと第二主面5bとが成す稜部6bにおいて、互いに連結されている。
【0042】
第一電極部分31は、第一主面5a上において、第一側面5eから第二側面5fに達するまで延在している。第一電極部分31は、第一主面5a上において、第二端面5dから第一端面5cに向かって延在し、第一端面5cとは離間している。第一電極部分31は、第一端面5c側に電極端部31cを有し、電極端部31cは、第一端面5cとの間に間隔S31を成している。間隔S31は、たとえば、10~100μmである。間隔S31がこの範囲にあるとき、第一電極30と第二電極40との短絡を防ぐことができ、また、圧電素体5からのセラミックスの脱粒を効果的に抑制することができる。第二電極部分32は、第二端面5dの全体を覆うように配置されている。
【0043】
第三電極部分33は、第二主面5b上において、第一側面5eから第二側面5fに達するまで延在している。第三電極部分33は、第二主面5b上において、第二端面5dから第一端面5cに向かって延在し、第一端面5cとは離間している。第三電極部分33は、第一端面5c側に電極端部33cを有し、電極端部33cは、第一端面5cとの間に間隔S33を成している。間隔S33は、たとえば、10~100μmである。間隔S33がこの範囲にあるとき、第一電極30と第二電極40との短絡を防ぐことができ、また、圧電素体5からのセラミックスの脱粒を効果的に抑制することができる。第一電極30は、第一端面5c上、第一側面5e上及び第二側面5f上のいずれにも配置されていない。
【0044】
圧電素体5における第一電極10が接している面は、焼結面を含んでいてもよい。本実施形態では、第一主面5a及び第二主面5bが、焼結面であることができて、第一電極10の第一電極部分31は、焼結面である第一主面5aに接することができる。第三電極部分33は、焼結面である第二主面5bに接することができる。
【0045】
第二電極40は、内部電極41を有する。本実施形態では、圧電素子1pは、圧電素体5内に配置される内部電極として、内部電極41のみを有する。内部電極41は、第一方向Bx1において、第一電極30の第一電極部分31及び第三電極部分33と対向するように、圧電素体5内に形成されている。内部電極41と第一電極部分31との距離は、第一方向Bx1に沿って、たとえば、20~100μmである。内部電極41と第三電極部分33との距離は、第一方向Bx1に沿って、たとえば、20~100μmである。内部電極41の形状は、第一方向Bx1に沿った方向から見て、たとえば、略矩形である。
【0046】
内部電極41は、第二方向Bx2に沿って、第一端面5cから第二端面5dに向かって圧電素体5内で延在する。内部電極41は、第一端面5cに露出していると共に、第二方向Bx2において、第二端面5dから離間している。内部電極41は、第二方向Bx2において互いに対向する一対の電極端面41c及び電極端面41dを有し、電極端面41cは、圧電素体5の第一端面5cに露出する一方で、電極端面41dは、圧電素体5の第二端面5dに露出していない。
【0047】
間隔S41は、電極端面41dと第二端面5dとの間隔であり、たとえば、10~100μmである。圧電素子1pは、間隔S41を有することにより、内部電極41と第一電極30との短絡を防ぐことができ、また、圧電素子1pにおける分極処理時に生じる歪や駆動時に生じる変位のバランスを良好にとることができる。
【0048】
内部電極41は、第三方向Bx3に沿って、圧電素体5内で延在し、互いに対向する一対の電極側面41e及び電極側面41fを有する。本実施形態では、電極側面41eは、圧電素体5の第一側面5eに露出し、電極側面41fは、圧電素体5の第二側面5fに露出している。
【0049】
圧電素子1pでは、内部電極41は、たとえば、圧電素体5との同時焼成によって作製され、たとえば、Ag-Pd合金からなり、Ag及びPdからなる粒子を含む導電性ペーストの焼結体として構成される。このAg-Pd合金電極において、Ag及びPdの割合は、例えば、Ag:Pd=7:3である。内部電極41の材料としては、Ag-Pd合金のほか、たとえば、Pt、Ag、Pd、Au、Cu、Ni、及びこれらの合金といった導電性材料が挙げられる。内部電極41は、これらの導電性材料を含む導電性ペーストの焼結体として構成されてもよい。内部電極41の厚みは、たとえば、0.2~3μmである。
【0050】
圧電素体5における第二電極40が接している面は、焼結面を含んでいてもよい。内部電極41は、たとえば、圧電素体5との同時焼成によって作製されるので、内部電極41と接している圧電素体5の面は、焼結面であることができる。
【0051】
第二電極40は、外部電極42を更に有する。外部電極42は、圧電素体5の外表面である第一端面5cの全体を覆うように配置されている。外部電極42は、第一端面5cに露出する内部電極41の電極端面41cをすべて覆うように配置されている。内部電極41は、第一端面5cにおいて、外部電極42に連結され、内部電極41は、外部電極42に電気的に接続される。外部電極42は、第二方向Bx2に沿って、第一電極30の第二電極部分32に対向している。外部電極42は、第一主面5a上、第二主面5b上、第二端面5d上、第一側面5e上、及び第二側面5f上のいずれにも配置されていない。
【0052】
外部電極42は、たとえば、圧電素体5側から順に、Ni-Cr合金層及びAu層が積層された構造、すなわち、Ni-Cr合金層を下層とし、Au層を上層としたNi-Cr/Au積層構造を有する。外部電極42は、たとえば、Ni-Cr合金層、Au層、又はCr層、Ni層といった同様の金属からなる単層構造を有してもよい。外部電極42の形成方法としては、たとえば、めっき法が用いられる。めっき法は、スパッタリング法、蒸着法、又は電解めっき法を含む。本実施形態では、外部電極42は、めっき層である。
【0053】
外部電極42が積層構造を有する場合、たとえば、Ni-Cr合金層の厚みは、20~400nmであり、Au層の厚みは、50~200nmである。外部電極42が単層構造を有する場合、たとえば、外部電極42の厚みは、70~600nmである。本実施形態では、圧電素体5が第一電極30と外部電極42とによって挟まれた構造を有しているので、たとえば、圧電素体5の変形を抑制することができる。
【0054】
第一電極30と第二電極40の内部電極41との組み合わせは、圧電素体5に電界を印加するための電極として機能する。したがって、圧電素子1pは、圧電素体5に電界を印加するための一対の電極、すなわち、第一電極30と内部電極41とを備えている。
【0055】
圧電素子1pでは、圧電素体5は、第一電極30と内部電極41との間に活性領域を有し、活性領域は、圧電素子1pに印加された電界に応じて変位する。本実施形態では、特に、第一電極30の第一電極部分31と内部電極41と間に活性領域EB1、及び第一電極30の第三電極部分33と内部電極41と間に活性領域EB2が含まれる。活性領域EB1と活性領域EB2とは、第一方向Bx1に沿って、一つの内部電極41の両側に位置している。
【0056】
第二電極40では、内部電極41は、たとえば、Ag-Pd合金などにより構成されるので、その硬度は低く、また、内部電極41は、圧電素体5と同時焼成されるので、圧電素体5が内部電極41により受ける応力は比較的小さい。圧電素体5は、第二電極40の近傍において、電極から受ける応力が小さい部分を有する。このため、内部電極41が圧電素体5の変位を阻害することが抑制されて、内部電極41近傍での活性領域EA1の変位量は比較的大きい。一方、第一電極30は、たとえば、Ni-Cr/Au積層構造によって構成されるので、その硬度は高く、また、第一電極30は、焼成後のめっき法などによって金属層を形成することにより得られるので、圧電素体5が第一電極30により受ける応力は比較的大きい。圧電素体3は、第一電極30の近傍において、電極から受ける応力が大きい部分を有する。このため、第一電極30は、圧電素体5の変位を阻害し易く、第一電極30近傍での活性領域EA1の変位量は小さくなる傾向がある。本実施形態では、圧電素体5が第一電極30により受ける応力は、圧電素体5が内部電極41により受ける応力より大きい。本実施形態では、内部電極41は、焼結金属層である。
【0057】
圧電素子1pの作製に際しては、活性領域EA1の分極方向が、第一電極30から内部電極41に向かう方向になるように電界が印加される。より具体的には、活性領域EB1の分極方向が、第一電極30の第一電極部分31から内部電極41に向かう方向になるように電界が印加され、活性領域EB2の分極方向が、第一電極30の第三電極部分33から内部電極41に向かう方向になるように電界が印加される。この方向に電界が印加されるのは、圧電素体5において、たとえば、それに含まれる材料のイオン、たとえば、ペロブスカイト型結晶構造(一般式:ABOX)では、Bサイトのプラスイオンは、内部電極41から第一電極30に向かうよりも、第一電極30から内部電極41に向かう方が動きやすいからである。分極処理は、たとえば、常温下で行なわれる。
【0058】
以上説明したように、本実施形態では、圧電素体5は、第一電極30と、第二電極40の内部電極41との間に位置する領域を有する。この領域は、第一電極30から応力を受ける第一部分と、内部電極41から応力を受ける第二部分とを有する。第一部分が受ける応力は、第二部分が受ける応力より大きい。したがって、本実施形態は、圧電素体5が、第一部分及び第二部分を有する、すなわち、第一電極30及び第二電極40から受ける応力が互いに異なる部分を有する構成を実現する。
圧電素体5の分極方向は、第一電極30から第二電極40の内部電極41に向かう方向である。したがって、本実施形態は、分極方向が、第一部分から第二部分に向かう方向、すなわち、第一電極30から応力を受ける部分から、内部電極41から応力を受ける部分に向かう方向とされている構成を実現する。これらの結果、本実施形態では、大きな変位量を示すとともに、高い信頼性を有する。
【0059】
圧電素子1pでは、第二電極40の内部電極41は、たとえば、圧電素体5との同時焼成によって作製されるので、内部電極41にも焼結反応が起こる。焼結反応による焼結金属層として構成される内部電極41は、金属材料が焼結する過程で、金属材料同士が互いに引き合うために、複数の孔が形成される傾向にある。したがって、圧電素体5において、内部電極41によって被覆されていない部分がランダムに発生し、内部電極41の被覆率が低くなる傾向がある。一方、第一電極30は、焼成後のめっき法などで形成されるので、緻密であり、孔などが形成されがたい傾向にある。このため、圧電素体5の第一電極30が設置される領域によって被覆されていない部分は生じ難く、第一電極30の被覆率が高くなる傾向がある。
【0060】
本実施形態では、第一電極30の被覆率は、第二電極40の内部電極41の被覆率より大きい。具体的には、第一電極30の被覆率は、95~100であり、内部電極41の被覆率は、60~95である。本実施形態では、圧電素体5が第一電極30により受ける応力は、圧電素体5が内部電極41により受ける応力より大きい構成が、簡易かつ確実に実現される。したがって、圧電素子1pにおいては、第一電極30と、第二電極40の内部電極41との材質及び作製法の違いにより、圧電素体5が電極から受ける応力が異なっている。すなわち、めっき層として構成される第一電極30から圧電素体5が受ける応力は、焼結金属層として構成される内部電極41から圧電素体が受ける応力より大きくなっている。
【0061】
圧電素体5における第一電極30及び第二電極40が接している面は、焼結面を含んでいてもよいので、圧電素体5からのセラミックスの脱粒が抑制され、圧電素体5における第一電極30及び第二電極40の被覆の状態が良好となる。
【実施例】
【0062】
以下、本発明の実施例及び比較例により、第一実施形態の圧電素子1について更に説明する。本発明は、下記例に制限されない。
【0063】
(実施例1)
(圧電素子の作製)
実施例1に係る圧電素子の作製においては、初めに、圧電セラミック材料として、PZTを用いてグリーンを作製した。続いて、グリーンを焼成し、圧電基板を作製した。圧電基板の厚さは、0.08mmであった。
【0064】
続いて、圧電基板の一の面(第二主面3bのための面)に対して、スパッタリング法により、Ni-Cr/Au積層構造のための積層電極膜を形成した。具体的には、Ni-Cr合金からなる下層用電極膜を形成し、この電極膜の上に、Auからなる上層用電極膜を形成した。下層用電極膜の厚さは、300nm程度であり、上層用電極膜の厚さは、100nm程度であった。この一の面上に形成された積層電極膜は、第二電極のための積層電極膜である。
【0065】
続いて、圧電基板の他の面(第一主面3aのための面)に対して、スパッタリング法により、Cr/Ni-Cr/Au積層構造のための積層電極膜を形成した。具体的には、Crからなる下層用電極膜を形成し、この電極膜の上に、Ni-Cr合金からなる中間層用電極膜を形成した。次に、中間層用電極膜の上に、Auからなる上層用電極膜を形成した。下層用電極膜の厚さは、100nm程度であり、中間層用電極膜の厚さは、300nm程度であった。上層用電極膜の厚さは、100nm程度であった。この他の面上に形成された積層電極膜は、第一電極のための積層電極膜である。
【0066】
積層電極膜の形成後、分極処理を行った。分極処理においては、第一電極のための積層電極膜を正極とし、第二電極のための積層電極膜を負極として電界を印加した。分極処理は、常温で行った。分極処理の後、圧電基板を切断し、個々の圧電素子を形成した。圧電素子は、概ね1.1mm×0.75mm×0.08mmのサイズを有した。
【0067】
(素子特性の評価)
本実施例で作製した圧電素子に対して、交流電界(V[kV/mm])を印加し、分極(P[μC/cm2])の大きさを測定した。分極測定では、第一電極を正極とし、第二電極を負極として電界を印加した。室温下で測定した。
【0068】
測定結果を
図5の(a)に示す。
図5の(a)は、実施例1に係る電界と分極との関係を示す線図(ヒステリシスループ)であり、分極測定を行った結果である。本実施例では、大きな分極が得られると共に、ヒステリシスループは、測定した全ての圧電素子においてほぼ同一であった。
【0069】
(信頼性の評価)
本実施例で作製した10個の圧電素子に対して、信頼性評価として150℃の環境下において、500Hzの矩形波によって電圧±30Vを印加する駆動試験を行った。駆動試験では、第一電極を正極とし、第二電極を負極として電界を印加した。駆動試験を500時間行った後に圧電特性の変化を調べた結果、本実施例の全素子において、駆動試験前後の圧電特性の変化量は2%~3%程度であった。
【0070】
(比較例1)
(圧電素子の作製)
比較例1では、第一電極のための積層電極膜を形成する条件を除いて、実施例1と同様に圧電素子を作製した。本比較例では、第一電極のための積層電極膜は、第二電極のための積層電極膜と同じ材料、層構造及び厚さとを有する電極膜とした。第二電極のための積層電極膜は、Ni-Cr/Au積層構造の電極膜であった。
【0071】
(素子特性の評価)
本比較例で作製した圧電素子に対して、実施例1と同様に、交流電界(V[kV/mm])を印加し、分極(P[μC/cm2])を測定した。測定では、第一電極を正極とし、第二電極を負極として電界を印加した。室温下で測定した。
【0072】
測定結果を
図5の(b)に示す。
図5の(b)は、比較例1に係る電界と分極との関係を示す線図であり、分極測定を行った結果である。本比較例では、全ての圧電素子の約97%の素子において、
図5の(a)に示される実施例1の結果と同様の結果が得られたが、残り約3%の素子においては、
図5の(b)に示されるような圧電特性が見られた。すなわち、本比較例では、全ての圧電素子の約3%の素子において、実施例1のような大きな分極は得られなかった。
【0073】
(信頼性の評価)
本比較例で作製した10個の圧電素子に対して、実施例1と同様に、信頼性評価のための試験を行った。本比較例でも、第一電極を正極とし、第二電極を負極として電界を印加した。駆動試験を500時間行った後、本比較例の全素子において、それらの圧電特性が駆動試験前に比べて10%~15%低下した。
【符号の説明】
【0074】
1…圧電素子、1p…圧電素子、3…圧電素体、5…圧電素体、10…第一電極、20…第二電極、30…第一電極、40…第二電極。