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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-20
(45)【発行日】2023-11-29
(54)【発明の名称】基布、ジェットルームおよび基布の製造方法
(51)【国際特許分類】
   D03D 47/36 20060101AFI20231121BHJP
   D03D 5/00 20060101ALI20231121BHJP
   D03D 47/34 20060101ALI20231121BHJP
   B60R 21/235 20060101ALI20231121BHJP
   D03D 1/02 20060101ALI20231121BHJP
【FI】
D03D47/36
D03D5/00 Z
D03D47/34
B60R21/235
D03D1/02
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019503766
(86)(22)【出願日】2018-12-10
(86)【国際出願番号】 JP2018045366
(87)【国際公開番号】W WO2019146286
(87)【国際公開日】2019-08-01
【審査請求日】2021-08-17
(31)【優先権主張番号】P 2018011415
(32)【優先日】2018-01-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001896
【氏名又は名称】弁理士法人朝日奈特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】有地 保
(72)【発明者】
【氏名】新開 啓令
(72)【発明者】
【氏名】河原 好宏
【審査官】長谷川 大輔
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第106319713(CN,A)
【文献】実開平04-097886(JP,U)
【文献】国際公開第2017/159583(WO,A1)
【文献】特開平02-269843(JP,A)
【文献】特開平09-111578(JP,A)
【文献】特開昭62-268849(JP,A)
【文献】特開2002-161454(JP,A)
【文献】特開昭48-019850(JP,A)
【文献】実開昭57-167790(JP,U)
【文献】特開2017-075408(JP,A)
【文献】特開2003-171853(JP,A)
【文献】特開2003-147663(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D03D1/00-51/46
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基布を製造するための、ジェットルームであり、
前記基布は、
緯方向分解糸強力の長さ方向における変動係数CV1(100×標準偏差/平均値)が3.0%以下であり、かつ、
緯方向分解糸伸度の長さ方向における変動係数CV2(100×標準偏差/平均値)が4.0以下であり、
前記ジェットルームは、
開口した経糸群の間に緯入れする緯糸供給ノズルに緯糸を供給する測長装置と、接圧調整部材とを備え、
前記測長装置は、緯糸張力維持用の緯糸挟持機構を備え、
前記緯糸挟持機構は、
固定軸に回転可能に支持され、回転駆動される第1のローラと、
移動軸に回転可能に支持され、前記第1のローラに対して圧接されることにより前記第1のローラの回転に従動して回転する第2のローラとを備え、
前記接圧調整部材は、
前記第1のローラに対する前記第2のローラの接圧を調整し、稼動中における前記移動軸の前記固定軸方向への揺動幅を5~600μmに調整するための部材であり、
前記接圧調整部材は、
前記第1のローラに対する前記第2のローラの接圧を調整するための付勢部材と、
ジェットルームによって生じる振動を緩和するための振動吸収部材とを備え、
緯入れ時の緯糸の到達側織り端で、緯糸飛走経路を挟んで互いに対向して設けられ、緯糸飛走ピーク張力を0.4~1.2cN/dtexに調整するための一対の緯糸張力部材を備える、ジェットルーム。
【請求項2】
前記測長装置と前記緯糸供給ノズルとの間に配置され、所定長さの緯糸を巻き取るための測長バンドをさらに備える、請求項1記載のジェットルーム。
【請求項3】
基布を製造するための、基布の製造方法であり、
前記基布は、
緯方向分解糸強力の長さ方向における変動係数CV1(100×標準偏差/平均値)が3.0%以下であり、かつ、
緯方向分解糸伸度の長さ方向における変動係数CV2(100×標準偏差/平均値)が4.0以下であり、
前記基布の製造方法は、
開口した経糸群の間に緯入れする緯糸供給ノズルに緯糸を供給する測長装置と、接圧調整部材と、緯入れ時の緯糸の到達側織り端で、緯糸飛走経路を挟んで互いに対向して設けられる一対の緯糸張力付与部材とを備え、前記接圧調整部材が、第1のローラに対する第2のローラの接圧を調整するための付勢部材と、ジェットルームによって生じる振動を緩和するための振動吸収部材とを備えるジェットルームを使用し、
緯糸を開口した前記経糸群の間に緯入れする際に、固定軸に回転可能に支持され、回転駆動される第1のローラと、移動軸に回転可能に支持され前記第1のローラに対して圧接されることにより前記第1のローラの回転に従動して回転する第2のローラとを備える緯糸張力維持用の緯糸挟持機構において、前記接圧調整部材によって、前記第1のローラに対する前記第2のローラの接圧を調整することにより、前記移動軸の前記固定軸方向への揺動幅を5~600μmに調整する工程および緯入れ時の緯糸到達側織り端で、前記緯糸張力付与部材により生じる緯糸飛走ピーク張力が0.4~1.2cN/dtexとなる工程を含む、基布の製造方法。
【請求項4】
前記緯糸供給ノズルに緯入れを行う前に、所定長さの緯糸を測長バンドに巻き取る工程をさらに含む、請求項3記載の基布の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基布、ジェットルームおよび基布の製造方法に関する。より詳細には、本発明は、強力および伸度のバラツキが小さい高品質な基布、そのような基布を製造する際に発生する繊維屑の量を減少させることのできるジェットルームおよび基布の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ジェットルームにより製織する際に、生産効率の向上のため、緯糸引き出し速度が増加している。一般的に、ジェットルームにおける測長量(打ち込む緯糸の長さ)は、織機据付けの測長装置で行われている。ノズルから緯糸を跳ばす上流側において、測長装置は、フィードローラと測長ローラとの2つのローラによって緯糸を挟持し、その後、ノズルに向かって緯糸を送り出す。
【0003】
ところで、ジェットルーム等の織機は、送り出し、開口、緯入れ、筬打ち、巻き取り等の工程を一体的に行う。そのため、緯入れに際して、筬打ち時の振動等が伝播し、上記2つのローラによる緯糸の挟持が不充分になる場合がある。そこで、フィードローラの揺動(ジャンピング)を抑制するための装置が開発されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-75408号公報
【発明の概要】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の装置は、波ワッシャ等を備えることにより、単に振動を発散させて抑制することを目的とする。測長ローラは、種々のサイズがあり、かつ、使用し続けることにより摩耗することもある。そのため、このような装置では、種々のサイズの測長ローラが用いられる場合に、測長ローラに対するフィードローラの圧接強さを一定に保つことができず、充分にフィードローラの揺動(ジャンピング)を抑制することができない。したがって、得られる基布は、緯方向における強力や伸度がバラツキやすく、品位が低下しやすい。また、挟持する力が一定でない状態で緯糸がノズルから打ち出されるため、織機の稼働を確保するためには、所望する基布の幅を大きく超える長さの緯糸を打ち出さなければならず、多くの余剰を生じやすい。そのため、廃棄しなければならない繊維屑の量が増えるという問題がある。
【0006】
本発明は、このような従来の問題に鑑みてなされたものであり、強力および伸度のバラツキが小さい高品質な基布、そのような基布を製造する際に発生する繊維屑の量を減少させることのできるジェットルームおよび基布の製造方法を提供することを目的とする。
【0007】
上記課題を解決する本発明の一態様の基布は、緯方向分解糸強力の長さ方向における変動係数CV1(100×標準偏差/平均値)が3.0%以下であり、緯方向分解糸伸度の長さ方向における変動係数CV2(100×標準偏差/平均値)が4.0以下である、基布である。
【0008】
上記課題を解決する本発明の一態様の基布は、生地部と、前記生地部の長さ方向における両端にそれぞれ形成された所定幅の耳部とを含み、前記耳部を含む幅方向の緯方向分解糸強力の長さ方向における変動係数CV1’(100×標準偏差/平均値)が3.0%以下であり、前記耳部を含む幅方向の緯方向分解糸伸度の長さ方向における変動係数CV2’(100×標準偏差/平均値)が4.0以下である、基布である。
【0009】
上記課題を解決する本発明の一態様の基布は、合成繊維からなり、生地部と、前記生地部の長さ方向における両端にそれぞれ形成された所定幅の耳部とを含み、前記耳部は、緯糸のはみ出した耳房を有し、前記耳房の、前記基布の長さ方向における長さ方向変動係数CV3(100×標準偏差/平均値)が8.0%以下である、基布である。
【0010】
上記課題を解決する本発明の一態様のジェットルームは、開口した経糸群の間に緯入れする緯糸供給ノズルに緯糸を供給する測長装置と、接圧調整部材とを備え、前記測長装置は、緯糸張力維持用の緯糸挟持機構を備え、前記緯糸挟持機構は、固定軸に回転可能に支持され、回転駆動される第1のローラと、移動軸に回転可能に支持され、前記第1のローラに対して圧接されることにより前記第1のローラの回転に従動して回転する第2のローラとを備え、前記接圧調整部材は、前記第1のローラに対する前記第2のローラの接圧を調整し、稼動中における前記移動軸の前記固定軸方向への揺動幅を5~600μmに調整するための部材である、ジェットルームである。
【0011】
上記課題を解決する本発明の一態様の基布の製造方法は、開口した経糸群の間に緯入れする緯糸供給ノズルに緯糸を供給する測長装置と、接圧調整部材と、緯入れ時の緯糸の到達側織り端で、緯糸飛走経路を挟んで互いに対向して設けられる一対の緯糸張力付与部材とを備えるジェットルームを使用し、緯糸を開口した前記経糸群の間に緯入れする際に、固定軸に回転可能に支持され、回転駆動される第1のローラと、移動軸に回転可能に支持され前記第1のローラに対して圧接されることにより前記第1のローラの回転に従動して回転する第2のローラとを備える緯糸張力維持用の緯糸挟持機構において、前記接圧調整部材によって、前記第1のローラに対する前記第2のローラの接圧を調整することにより、前記移動軸の前記固定軸方向への揺動幅を5~600μmに調整する工程および緯入れ時の緯糸到達側織り端で、前記緯糸張力付与部材により生じる緯糸飛走ピーク張力が0.4~1.2cN/dtexとなる工程を含む、基布の製造方法である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、本発明の一実施形態のジェットルームにおいて緯入れを行う際に主に稼働する各構成の模式図である。
図2図2は、本発明の一実施形態のジェットルームの概略的な平面図である。
図3図3は、本発明の一実施形態のジェットルームにおいて得られる緯入れ時の緯糸張力と織機のクランク角度とを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<基布>
本発明の一実施形態の基布は、緯方向分解糸強力の長さ方向における変動係数CV1(100×標準偏差/平均値)が3.0%以下であり、緯方向分解糸伸度の長さ方向における変動係数CV2(100×標準偏差/平均値)が4.0以下である。このような基布は、強力および伸度のいずれも変動が小さく、高品位である。
【0014】
緯方向分解糸強力の長さ方向における変動係数CV1(100×標準偏差/平均値)は、3.0%以下であればよく、2.5%以下であることが好ましく、2.0%以下であることがより好ましい。また、変動係数CV1の下限は特に限定されない。変動係数CV1の下限は、製織前の原糸の時点で強力に若干のばらつきがあることを考慮すると、0.5%以上であってもよく、0.1%以上であることが好ましい。変動係数CV1が3.0%を超える場合、製織時の織機の稼働が低下するとともに、基布の品位が悪化する傾向がある。本実施形態において、変動係数CV1は、基布の幅方向中央から長さ方向に連続して分解糸強度を20点測定し、その平均値と標準偏差から算出することができる。また、分解した糸の強度は、JIS繊維L1013 8.5.1「化学繊維フィラメント糸試験方法」により測定することができる。
【0015】
緯方向分解糸伸度の長さ方向における変動係数CV2(100×標準偏差/平均値)は、4.0%以下であればよく、3.5%以下であることが好ましく、3.0%以下であることがより好ましい。また、変動係数CV2の下限は特に限定されない。変動係数CV2の下限は、製織前の原糸の時点で伸度に若干のばらつきがあることを考慮すると、1.0%以上であってもよく、1.5%以上であることが好ましい。変動係数CV2が4.0%を超える場合、製織時の織機の稼働が低下するとともに、基布の品位が悪化する傾向がある。本実施形態において、変動係数CV2は、基布の幅方向中央から長さ方向に連続して分解糸伸度を20点測定し、その平均値と標準偏差から算出することができる。また、分解した糸の伸度は、JIS繊維L1013 8.5.1「化学繊維フィラメント糸試験方法」により測定することができる。
【0016】
また、本実施形態の基布は、特に、生地部と、生地部の長さ方向における両端にそれぞれ形成された所定幅の耳部とを含む場合において、耳部を含む幅方向の緯方向分解糸強力の長さ方向における変動係数CV1’(100×標準偏差/平均値)が3.0%以下であり、耳部を含む幅方向の緯方向分解糸伸度の長さ方向における変動係数CV2’(100×標準偏差/平均値)が4.0以下であってもよい。
【0017】
この場合、耳部を含む幅方向の緯方向分解糸強力の長さ方向における変動係数CV1’(100×標準偏差/平均値)は、3.0%以下であることが好ましく、2.5%以下であることがより好ましい。また、変動係数CV1’の下限は特に限定されない。変動係数CV1’の下限は、製織前の原糸の時点で強度に若干のばらつきがあることを考慮すると、0.1%以上であってもよく、0.5%以上であることが好ましい。変動係数CV1’が3.0%を超える場合、製織時の織機の稼働が低下するとともに、基布の品位が悪化する傾向がある。本実施形態において、変動係数CV1’は、基布の幅方向5.0cmの耳際から長さ方向に連続して分解糸強度を20点測定し、その平均値と標準偏差から算出することができる。なお、変動係数CV1を算出する際のサンプリング位置は特に限定されない。サンプリング位置は、「基布の幅方向5.0cmの耳際」以外にも、基布の幅方向5.0~30.0cmの耳際から採取した試料であってもよい。また、分解した糸の強度は、JIS繊維L1013 8.5.1「化学繊維フィラメント糸試験方法」により測定することができる。なお、本実施形態において、「耳際」とは、織物の幅方向で最も外側の経糸と緯糸で形成される部分を指す。
【0018】
耳部を含む幅方向の緯方向分解糸伸度の長さ方向における変動係数CV2’(100×標準偏差/平均値)は、4.0%以下であればよく、3.5%以下であることが好ましく、3.0%以下であることがより好ましい。また、変動係数CV2’の下限は特に限定されない。変動係数CV2’の下限は、製織前の原糸の時点で伸度に若干のばらつきがあることを考慮すると、1.0%以上であってもよく、1.5%以上であることが好ましい。変動係数CV2’が4.0%以下であることにより、基布品位が良く、均一な物性の基布が得られ、設計通りのクッション特性を得やすい。本実施形態において、変動係数CV2’は、基布の長さ方向5.0cmの耳際から長さ方向に連続して分解糸強度を20点測定し、その平均値と標準偏差から算出することができる。
【0019】
さらに、本実施形態の基布は、特に、合成繊維からなり、生地部と、生地部の長さ方向における両端にそれぞれ形成された所定幅の耳部とを含む場合において、耳部が緯糸のはみ出した耳房を有しており、耳房の、前記基布の長さ方向における長さ方向変動係数CV3(100×標準偏差/平均値)が8.0%以下であってもよい。
【0020】
この場合、耳房の長さ方向における長さ方向変動係数CV3(100×標準偏差/平均値)は、8.0%以下であることが好ましく、7.5%以下であることがより好ましい。また、変動係数CV3の下限は特に限定されない。変動係数CV3の下限は、製織前の原糸の時点で強度・伸度度に若干のばらつきがあり、耳房形成直後の緯糸の幅方向中央部への縮み込み量ばらつきを考慮すると、0.1%以上であってもよく、0.5%以上であることが好ましい。変動係数CV3が8.0%以下であることにより、基布品位が良く、均一な物性の基布が得られ、設計通りのクッション特性を得やすい。本実施形態において、変動係数CV3は、基布の長さ方向沿って並んでいる連続したそれぞれの緯糸の耳房に関して、耳房の長さを50点連続で測定し、その平均値と標準偏差から算出することができる。
【0021】
基布を構成する原料(繊維)は特に限定されない。基布を構成する繊維は、基布を用いて作製すべき製品等に応じて適宜選択され得る。繊維は、比較的繊度が小さくてもよく、中程度であってもよく、大きくてもよい。以下、一例として、本実施形態の基布を用いて繊度の細い繊維を用いて薄地織物が作製される場合、および、中程度の繊度の繊維を用いてエアバッグ用基布が作製される場合について示す。
【0022】
・薄地織物が作製される場合
基布は、少なくとも織物の経糸または緯糸の一部に、総繊度が5~30dtexの熱可塑性合成繊維が用いられることが好ましい。熱可塑性合成繊維は、経糸および緯糸の両方に用いられてもよい。
【0023】
熱可塑性合成繊維は特に限定されない。一例を挙げると、熱可塑性合成繊維は、ポリエステル系繊維、ポリアミド系繊維、ポリオレフィン系繊維等である。ポリエステル系繊維は、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートやこれらを主成分とした共重合ポリエステル系繊維等が例示される。ポリアミド系繊維は、ナイロン6、ナイロン66および第3成分を共重合したもの等が例示される。ポリオレフィン系繊維は、ポリプロピレン、ポリエチレン等が例示される。これらのうち、熱可塑性合成繊維は、特に耐熱性、染色性が優れる点から、ポリエステル系繊維であることが好ましく、やわらかさが優れる点から、ポリアミド系繊維であることが好ましい。なお、基布は、一部に熱可塑性合成繊維以外の繊維が用いられてもよい。
【0024】
基布が薄地織物等に用いられる場合において、熱可塑性合成繊維の分子量は、大きいことが好ましい。なお、熱可塑性合成繊維を構成するポリマーの分子量は、通常粘度で表すことができる。そのため、熱可塑性合成繊維のポリマーは、高粘度であることが好ましい。一例を挙げると、ポリエステル系繊維の場合には、固有粘度[η]は、0.65以上であることが好ましく、0.8以上であることがより好ましい。また、固有粘度[η]は、1.30以下であることが好ましく、1.1以下であることがより好ましい。なお、本実施形態において、固有粘度[η]は、オルソクロロフェノール中、1重量%で測定した極限粘度をいう。固有粘度[η]が上記範囲内であることにより、薄地織物等に用いられるような細い糸繊度のポリエステル系繊維であっても、上記した強力および伸度の変動係数の範囲が達成されやすい。特に、固有粘度[η]が0.65以上であることにより、糸強度、糸の摩耗強度が大きくなり、特に単糸繊度が細い糸を織物にした場合の引き裂き強度、摩耗強度も充分となり得る。一方、固有粘度[η]が1.3以下であることにより、基布にした場合に風合いが硬くなるという問題が生じにくい。
【0025】
また、ポリアミド系繊維の場合には、相対粘度が2.5以上であることが好ましく、2.6以上であることがより好ましい。また、相対粘度は、3.5以下であることが好ましく、3.4以下であることがより好ましい。なお、本実施形態において、相対粘度は、85.5%特級濃硫酸中に重合体濃度が1.0g/dlの濃度でポリマーまたはプレポリマーを溶解し25℃でオストワルド粘度計を用い、溶液相対粘度を測定したものをいう。相対粘度が2.5以上であることにより、糸強度、糸の摩耗強度が大きくなり、特に繊度が細い糸を織物にした場合の引き裂き強度、摩耗強度が充分となり得る。一方、相対粘度が3.5以下であることにより、基布にした場合に風合いが硬くなるという問題が生じにくい。
【0026】
基布が薄地織物等に用いられる場合において、経糸または緯糸の一部に用いられる繊維の総繊度は、3dtex以上であることが好ましく、5dtex以上であることがより好ましい。また、総繊度は、70dtex以下であることが好ましく、50dtex以下であることがより好ましい。総繊度が上記範囲内であることにより、得られる薄地織物は、厚さが適切であり、丈夫であり、かつ、硬くなりにくい。
【0027】
単糸繊度は、0.5dtex以上であることが好ましく、0.7dtex以上であることがより好ましい。また、単糸繊度は、6.0dtex以下であることが好ましく、2.5dtex以下であることがより好ましい。単糸繊度が上記範囲内であることにより、得られる薄地織物は、低通気度であり、かつ、柔軟な手触りが得られやすい。
【0028】
繊維の単糸断面の形状は特に限定されない。合成繊維の単繊維の断面形状としては、円形断面の他に、扁平断面のものを用いることもできる。扁平な断面の繊維を用いることにより、織物としたときの繊維の高い密度での充填が可能となり、織物中の単繊維間に占める空隙が小さくなり、同じ織物組織であれば、同等繊度の円形断面糸を使用した場合よりも、通気量を小さく抑えることを実現できる。
【0029】
また、扁平断面の形状については、単繊維の断面形状を楕円に近似した際、その長径(D1)と短径(D2)との比(D1/D2)で定義される扁平率が1.5以上であることが好ましく、2.0以上であることがより好ましい。また、扁平率は、4以下であることが好ましく、3.5以下であることがより好ましい。扁平断面形状としては、幾何学的に真の楕円形の他、たとえば、長方形、菱形または繭形でもよいし、左右対称の他、左右非対称型でもよい。また、これらを組み合わせた形状のものでもよい。さらに、断面形状は、上記を基本形として、突起や凹みあるいは部分的に中空部があるものであってもよい。
たとえば、断面形状がW型断面、V型断面繊維であることにより、繊維は、基布にした場合にレンガ積み構造に配置され、最密充填に似た構造を呈し、単糸と単糸との間隙が小さくなり、通気性を低減させることができる。また、繊維は、W型断面など扁平形状の単糸であることにより,糸による曲げ応力の低減効果のため、風合いがやわらかい基布が得られやすい。
【0030】
また、W断面、V断面、めがね型断面等の異型断面繊維であって、溝(すなわち単糸断面に凹部)を有する形状の場合、繊維は、基布としての吸汗速乾性が優れ、汗をかいてもさらっとした衣料用基布、ふとん側地等に好適である。
【0031】
基布が薄地織物等に用いられる場合において、基布の目付けは、15g/m2以上であることが好ましく、20g/m2以上であることがより好ましい。また、基布の目付けは、120g/m2以下であることが好ましく、100g/m2以下であることがより好ましい。基布の目付けが上記範囲内であることにより、基布をスポーツ衣料やふとん側地、特にダウンジャケットや羽毛ふとんの側地として使用した際に、丈夫であり、かつ、軽量感を感じやすい。
【0032】
本実施形態の基布の組織は、本実施形態で規定する基布が得られる限り特に限定されない。一例を挙げると、薄地織物に使用される場合、基布の組織は、平織りであることが特に好ましい。基布の織密度は、樹脂加工されるか、樹脂加工されないか、また織糸の繊度等によって変わり得る。一例を挙げると、平組織の場合、カバーファクターは、500以上であることが好ましく、550以上であることがより好ましい。また、カバーファクターは、3000以下であることが好ましく、2500以下であることがより好ましい。カバーファクターが上記範囲内であることにより、低通気度、柔軟性、縫い目ずれ、軽量性の点から好ましい。基布のカバーファクターとは、糸条繊度の平方根と1インチあたりの糸条数との積の値について、経糸と緯糸のそれぞれで算出し、それを合計した和を言う。すなわち、織物のカバーファクター(CF)は、経糸総繊度をDw(dtex)、緯糸総繊度をDf(dtex)、経糸の織密度をNw(本/2.54cm)、緯糸の織密度をNf(本/2.54cm)としたとき、次の式で表される。
CF=(Dw)1/2×Nw+(Df)1/2×Nf
【0033】
本実施形態の基布は、上記のとおり、緯方向分解糸強力の長さ方向における変動係数CV1が3.0%以下であり、緯方向分解糸伸度の長さ方向における変動係数CV2が4.0以下である。そのため、基布は、強力および伸度のいずれも変動が小さく、高品位である。また、このような基布は、たとえばナイロン等の染めムラの生じやすい材料からなる場合であっても、強度および伸度のバラツキが小さいため、染色時に染めムラを生じにくい。そのため、本実施形態の基布は、たとえば薄地織物を用いた一般衣料、スポーツ衣料、衣料資材、カーペット、ソファー、カーテンなどのインテリア製品、カーシートなどの車輌内装品、化粧品、化粧品マスク、ワイピングクロス、健康用品などの生活用途やフィルター、有害物質除去製品などの環境・産業資材用途において好適である。
【0034】
・エアバッグが作製される場合
基布は、その地部が合成繊維マルチフィラメントから構成されてもよい。合成繊維は特に限定されない。一例を挙げると、合成繊維は、ポリアミド系繊維、ポリエステル系繊維、アラミド系繊維、レーヨン系繊維、ポリサルホン系繊維、あるいは超高分子量ポリエチレン系繊維等である。これらの中でも、合成繊維は、大量生産性や経済性に優れたポリアミド系繊維やポリエステル系繊維であることが好ましい。
【0035】
ポリアミド系繊維は、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン12、ナイロン46や、ナイロン6とナイロン66との共重合ポリアミド、ナイロン6にポリアルキレングリコール、ジカルボン酸、アミン等を共重合させた共重合ポリアミド等からなる繊維が例示される。これらの中でも、ナイロン6繊維、ナイロン66繊維は、強度が特に優れており好ましい。
【0036】
ポリエステル系繊維は、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等からなる繊維が例示される。ポリエステル系繊維は、ポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレートに酸成分としてイソフタル酸、5-ナトリウムスルホイソフタル酸や、アジピン酸等の脂肪族ジカルボン酸を共重合させた共重合ポリエステルからなる繊維であってもよい。
【0037】
これらの合成繊維には、紡糸・延伸工程や加工工程での生産性、あるいは特性改善のために、熱安定剤、酸化防止剤、光安定剤、平滑剤、帯電防止剤、可塑剤、増粘剤、顔料、難燃剤等の添加剤が含まれてもよい。
【0038】
合成繊維の単繊維の断面形状は、円形断面であってもよく、円形断面の他に扁平断面であってもよい。扁平な断面の繊維を用いることにより、織物としたときの繊維の高い密度での充填が可能となり、織物中の単繊維間に占める空隙が小さくなり、同じ織物組織であれば、同等繊度の円形断面糸を使用した場合よりも、エアバッグ用途で要求される、通気量を小さく抑えることができる。
【0039】
扁平断面の形状については、単繊維の断面形状を楕円に近似した際に、その長径(D1)と短径(D2)との比(D1/D2)で定義される扁平率が1.5以上であることが好ましく、2.0以上であることがより好ましい。また、扁平率は、4以下であることが好ましく、3.5以下であることがより好ましい。扁平断面形状としては、幾何学的に真の楕円形の他、長方形、菱形または繭形等であってもよく、左右対称の他、左右非対称型であってもよい。また、扁平断面形状は、これらの組み合わされた形状であってもよい。さらに、断面形状は、上記を基本形として、突起や凹みあるいは部分的に中空部が形成されたものであってもよい。
【0040】
基布がエアバッグ等に用いられる場合において、基布の目付けは、110g/m2以上であることが好ましく、120g/m2以上であることがより好ましい。また、基布の目付けは、240g/m2以下であることが好ましく、230g/m2以下であることがより好ましい。基布の目付けが上記範囲内であることにより、基布をエアバッグ用として使用した際に、丈夫であり、かつ、通気量を小さく抑えることができる。
【0041】
本実施形態の基布は、通常は、同じ合成繊維糸が経糸および緯糸として用いられることが好ましい。なお、本実施形態において、「同じ合成繊維糸が経糸および緯糸として用いられる」とは、経糸・緯糸とも同種のポリマーからなり、経糸・緯糸とも同じ単糸繊度を有し、かつ経糸・緯糸とも同じ総繊度を有するということである。同種のポリマーとは、ナイロン66同士、ポリエチレンテレフタレート同士等、ポリマーの主たる繰り返し単位が共通するポリマー同士であることをいう。一例を挙げると、ホモポリマーと共重合ポリマーとの組み合わせであっても、本実施形態でいう同種のポリマーとして好ましく使用される。さらには、共重合成分の有無、また共重合する場合は共重合成分の種類、量も同じ組み合わせであるならば、経糸と緯糸とを区別する必要がなく、生産管理上好ましい。
【0042】
本実施形態において基布の地部糸として使用される合成繊維糸の単繊維繊度は1~7dtexの合成繊維フィラメントであることが好ましい。単糸繊度が7dtex以下であることにより、得られる基布中の単繊維間に占める空隙が小さくなり、繊維の充填化効果がより一層向上する。その結果、基布は、通気量が低下しやすい。また、単糸繊度が7dtex以下であることにより、合成繊維フィラメントの剛性を低下させる効果が得られる。そのため、得られる基布を用いたエアバッグは、収納性が向上しやすい。
【0043】
織物の地部糸として使用される合成繊維糸の総繊度は、100dtex以上であることが好ましく、150dtex以上であることがより好ましい。また、総繊度は、1000dtex以下であることが好ましく、800dtex以下であることがより好ましい。総繊度が上記範囲内であることにより、得られる基布は、強度、通気度および滑脱抵抗力が優れる。また、得られる基布を用いたエアバッグは、収納時のコンパクト性や、低通気性が維持されやすい。なお、本実施形態において、繊度は、JIS L 1013:2010 8.3.1 A法により、所定荷重0.045cN/dtexで正量繊度を測定される値である。
【0044】
本実施形態の基布がエアバッグ用として使用される場合、基布を構成する繊維の引張強度は、エアバッグ基布用織物として要求される機械的特性を満足する点と、製糸操業面から、経糸および緯糸ともに8.0cN/dtex以上であることが好ましく、8.3cN/dex以上であることがより好ましい。また、引張強度は、9.0cN/dtex以下であることが好ましく、8.7cN/dtex以下であることがより好ましい。なお、本実施形態において、引張強度は、JIS L 1096:8.15.5 D法(ベンジュラム法)により測定し得る。
【0045】
本実施形態の基布の組織は、本実施形態で規定する基布が得られる限り特に限定されない。一例を挙げると、エアバッグに使用される場合、基布の組織は、コンパクトに収納できる観点から、平織りであることが特に好ましい。基布の織密度は、樹脂加工されるか、樹脂加工されないか、また織糸の繊度等によって変わり得る。一例を挙げると、カバーファクターは、1500以上であることが好ましく、1800以上であることがより好ましい。また、カバーファクターは、2800以下であることが好ましく、2500以下であることがより好ましい。カバーファクターが上記範囲内であることにより、基布は、低通気性と高滑脱抵抗力とが両立されやすい。なお、カバーファクターの定義は、薄地織物に用いられる場合に関連して上記したとおりである。
【0046】
本実施形態の基布がエアバッグ用として使用される場合、基布の組織は、平織りであることが好ましい。基布の組織は、基布への要求特性などにより斜文織り、朱子織り等であってもよく、織物組織によってヘルド通し順、筬への引き通し本数が適宜決定される。
【0047】
基布幅は、160cm以上であることが好ましく、180cm以上であることがより好ましい。また、基布幅は、260cm以下であることが好ましく、250cm以下であることがより好ましい。基布幅が上記範囲内である場合、基布は、エアバックを製造する際の裁断時のロスが発生しにくい。なお、本実施形態において、「基布幅」とは、耳部を除いた基布の生地部の幅である。
【0048】
本実施形態の基布は、上記のとおり、緯方向分解糸強力の長さ方向における変動係数CV1が3.0%以下であり、緯方向分解糸伸度の長さ方向における変動係数CV2が4.0以下である。そのため、基布は、強力および伸度のいずれも変動が小さく、高品位であり、たとえばエアバッグ用の基布として好適である。
【0049】
<ジェットルーム>
本発明の一実施形態のジェットルームは、基布を製織するためのジェットルームである。図1は、本実施形態のジェットルームにおいて緯入れを行う際に主に稼働する各構成の模式図である。図2は、本実施形態のジェットルーム1の概略的な平面図である。なお、図2には、説明の明瞭化のため、図1に示される緯糸ノズルよりも上流側に配置される構成が省略されている。図1に示されるように、ジェットルームは、開口した経糸群の間に緯入れする緯糸供給ノズル4に緯糸を供給する測長装置2と、接圧調整部材3と、駆動部(図示せず)とを備える。これらの各構成は、緯入れ時に主に駆動される。また、図2に示されるように、ジェットルーム1は、経糸供給装置(図示せず)から供給され、縦方向に整列された複数の経糸1aと、経糸1aが通される筬1bと、筬1bの下流側に配置されたテンプル装置1cと、筬1bとテンプル装置1cとの間に配置された緯糸供給ノズル4と、緯糸供給ノズル4から経糸1aを直交する方向に適宜繰り出され、経糸1a間に緯入れされる緯糸1dと、筬1bによりテンプル装置1cの方向に打ち込まれる緯糸1dを切断するための緯糸カッター1eとを主に備える。緯糸供給ノズル4によって打ち込まれる緯糸1dは到達側織り端で、緯糸飛走経路を挟んで互いに対向して設けられる一対の張力付与部材1fによって把持され、筬1bによる筬打ちが終了するまで適切な緯糸張力が維持される。緯糸供給ノズル4は、緯糸1dを供給する際に、高圧力水や圧縮空気等の流体の噴射を利用する。本実施形態では、一例として、高圧力水を利用するジェットルーム(ウォータージェットルーム)に関して説明する。本実施形態のジェットルームは、特に、上記接圧調整部材3が設けられている点が特徴である。なお、本実施形態のジェットルームは、上記実施形態において詳述した基布を製織するためのジェットルームとして好適である。
【0050】
まず、本実施形態の説明の前に、一般的なジェットルームの有する課題について説明する。一般的なジェットルームは、緯糸供給ノズル4から経糸1aを直交する方向に適宜繰り出して、開口した経糸1a群の間に緯入れする。緯入れされた緯糸1dは、筬1bにより筬打ちされるとともに、両端部が切断される。一般に、ジェットルームは、これらの一連の動作が高速で連動する。ジェットルームの回転数は、たとえば500rpm以上であり、好ましくは700rpmである。そのため、たとえば筬打ち時の振動は、他の構成部位(たとえば測長装置2)等にも伝播する。このような振動の伝播は、回転数が600rpmを超える場合に特に顕著である。
【0051】
図1に示されるように、測長装置2は、緯糸張力維持用の緯糸挟持機構5を備える。この緯糸挟持機構5は、測長ローラ51(第1のローラの一例)と、フィードローラ52(第2のローラの一例)とを備えている。測長ローラ51は、駆動部によって回転駆動されるローラであり、固定軸53に回転可能に固定されている。一方、フィードローラ52は、固定されていない移動軸54に回転可能に支持されたローラであり、測長ローラ51と接することにより、緯糸1dを挟持している。測長ローラ51の大きさおよび回転数により、所定長さの緯糸1dが測長バンド6に巻き取られ、次いで、緯糸供給ノズル4に送られる。
【0052】
上記のとおり、筬打ち等の振動が伝播すると、測長ローラ51に対してフィードローラ52が浮き上がること(ジャンピング)がある。そうすると、接圧調整部材3を備えていない従来のジェットルームにおいて、フィードローラ52および測長ローラ51は、適切に緯糸1dを挟持することができず、所定長さの緯糸1dが正確に巻き取られない場合があった。また、フィードローラ52は、使用され続けることにより摩耗することがあった。これによっても、測長ローラ51に対するフィードローラ52の圧接力が変化し、適切に緯糸1dを挟持することができなくなる場合があった。
【0053】
その結果、接圧調整部材3を備えていない従来のジェットルームは、基布の幅よりも、幾分余分な長さの緯糸1dを測り取り、緯糸供給ノズル4に供給する必要があった。すなわち、緯糸供給ノズル4は、基布の幅よりも幾分長い緯糸1dを供給し、その後、緯糸1dの端部を切断していた。そのため、切断される緯糸1dの端部の長さが長く、多くの繊維屑を生じていた。
【0054】
また、このように余分な長さの緯糸1dを供給したとしても、所定長さの緯糸1dが正確に巻き取られない問題は解決されなかった。そのため、緯糸供給ノズル4から飛ばされる緯糸1dは、緯方向分解糸強力の長さ方向におけるバラツキや、緯方向分解糸伸度の長さ方向におけるバラツキが大きくなり、得られる基布の品位が優れなかった。また。端部が切断されることにより形成される耳房の長さにも大きなバラツキを生じており、上記緯方向分解糸強力や緯方向分解糸伸度の長さ方向におけるバラツキの一因となっていた。
【0055】
これに対し、本実施形態のジェットルームは、測長ローラ51に対するフィードローラ52の接圧を調整し、稼動中における移動軸54の固定軸53方向への揺動幅を5~600μmに調整するための接圧調整部材3および緯入れ時の緯糸把持による緯糸飛走ピーク張力を0.4~1.2cN/dtexに調整するための張力付与部材1fを備える。
【0056】
接圧調整部材3は、フィードローラ52の取り付けられた移動軸54に接続される一端と、ジェットルームの一部であって、フィードローラ52の近傍に接続される他端とを備える比較的長尺の部材である。接圧調整部材3は、フィードローラ52が測長ローラ51に圧接されるように、移動軸54を測長ローラ51側に引っ張るよう構成されている。
【0057】
接圧調整部材3の構成は特に限定されない。一例を挙げると、接圧調整部材3は、好適には、測長ローラ51に対するフィードローラ52の接圧を調整するための引張バネ(付勢部材の一例、図示せず)とその引張バネの取付長を調整する部材(付勢部材の一例、図示せず)、筬打ち等の振動を緩和するための振動吸収部材(図示せず)とを備える。振動吸収部材は、振動を緩和するための部位であり、たとえば、天然ゴム、ニトリルゴム、ブチルゴムフッ素ゴム、ウレタンゴム、エチレンプロピレンゴム、水素化ニトリルゴム、クロロプロピレンゴム、アクリルゴム等の弾性を有する高分子材料やスプリングダンパ、ガススプリング、油圧ダンパ等のダンパ機構で構成する部位である。振動吸収部材は、接圧調整部材3の他の部位(特に引張バネや、移動軸54に接続された一端部分)への振動の伝播を抑制する。接圧調整部材3の本体の材質は特に限定されない。接圧調整部材3の本体は、ジェットルームからの振動に耐えることができ、かつ、フィードローラ52に圧接され得る程度の剛性および耐久性を有する材質であることが好ましい。一例を挙げると、本体の材質は、ステンレス鋼、クロムモリブデン鋼、アルミ合金等である。
【0058】
接圧調整部材3が取り付けられることにより、フィードローラ52は、測長ローラ51に対する圧接力が適切に調整される。具体的には、ジェットルームの稼動中における移動軸54の固定軸53方向への揺動幅が5~600μmとなるよう調整される。なお、揺動幅は、5μm以上となるよう調整されることが好ましく、10μm以上となるよう調整されることがより好ましい。また、揺動幅は、600μm以下となるよう調整されることが好ましく、400μm以下となるよう調整されることがより好ましい。揺動幅が5μm未満である場合、ローラ摩耗が著しく摩耗する傾向がある。一方、揺動幅が600μmを超える場合、ジェットルームは、測長ローラ51に対するフィードローラ52の接圧を一定に保ちにくく、所定長さの緯糸1dが正確に巻き取られない傾向がある。なお、本実施形態において、揺動幅は、測長ローラ51に対してフィードローラ52が振動により浮き上がる際の距離をいう。
【0059】
緯糸張力付与部材1fは、緯入れ時の緯糸の到達側織り端で、緯糸飛走経路を挟んで互いに対向して設けられている。緯糸張力付与部材1fは、図2に示されるように、筬1b側に向けて突出するプレート部材と、これらのプレート部材に対向する部分にスリットが形成された部材とを含む。緯糸は、筬打ちされたときに、プレート部材によって緯糸の先端がスリットに押し込まれる。これにより、緯糸は、張力が付与される。
【0060】
緯糸張力付与部材1fの素材は特に限定されない。一例を挙げると、緯糸張力付与部材1fの素材は、緯糸に過度な張力が付与されないために、プレート部材と緯糸とが接する箇所に、梨地加工、凹凸加工、粗面化加工、ローレット加工等が施されてもよい。
【0061】
張力付与部材1fによって生じる緯糸飛走ピーク張力は、0.4~1.2cN/dtexであることが好ましく、0.6~1.0cN/dtexであることがより好ましい。張力付与部材1fにより生じる緯糸飛走ピーク張力が0.4cN/dtex未満である場合、緯糸の把持が不充分となり、織機稼働不良につながる傾向がある。一方、張力付与部材1fにより生じる緯糸飛走ピーク張力が1.2cN/dtexを超える場合、緯糸に過度に張力がかかりすぎ、織物としてヒケやスジといった品位不良につながる傾向がある。図3は、本実施形態のジェットルームにおいて得られる緯入れ時の緯糸張力と織機のクランク角度とを示すグラフである。本実施形態において、緯糸張力付与部材1fにより生じる緯糸飛走ピーク張力は、織機クランク角度が330~360°付近に生じるピーク張力のことをいう。
【0062】
以上、本実施形態のジェットルームは、測長装置2において、測長ローラ51とフィードローラ52とによって、緯糸1dを適切な接圧にて挟持することができる。そのため、もし仮に測長ローラ51の寸法等が変更された場合であっても、接圧調整部材3は、測長ローラ51に対するフィードローラ52の接圧が一定となるように維持する。その結果、緯糸供給ノズル4には、緯糸1dが均一に供給される。また、本実施形態のジェットルームは、緯糸張力付与部材1fが設けられることにより、緯糸張力付与部材1fによって緯入れ時の緯糸を確実に把持することができ、かつ筬打ちが終了するまで適切な緯糸張力を維持することができる。これにより、強力および伸度のバラツキが小さい高品質な基布が得られるとともに、緯入れ時に発生する繊維屑の量を減少させることができる。
【0063】
<基布の製造方法>
本発明の一実施形態の基布の製造方法は、上記した開口した経糸群の間に緯入れする緯糸供給ノズルに緯糸を供給する測長装置と、接圧調整部材と、緯入れ時の緯糸に到達側織り端で、緯糸飛走経路を挟んで互いに対向して設けられる一対の緯糸張力付与部材とを備えるジェットルームを使用する。基布の製造方法は、緯糸を開口した経糸群の間に緯入れする際に、固定軸に回転可能に支持され回転駆動される測長ローラと、移動軸に回転可能に支持され測長ローラに対して圧接されることにより測長ローラの回転に従動して回転するフィードローラとを備える緯糸張力維持用の緯糸挟持機構において、接圧調整部材によって、測長ローラに対するフィードローラの接圧を調整することにより、移動軸の固定軸方向への揺動幅を5~600μmに調整する工程および緯入れ時の緯糸到達織り端で、前記緯糸張力付与部材により生じる緯糸飛走ピーク張力が0.4~1.2cN/dtexとなる工程を含む。なお、本実施形態の基布の製造方法は、このような接圧を調整して緯入れを行う工程を採用している以外は、従来の基布の製造方法において採用される他の構成が採用され得る。なお、本実施形態の基布の製造方法は、上記実施形態において詳述した基布を製造するための方法として好適である。
【0064】
すなわち、まず、合成繊維フィラメント糸が経糸および緯糸として用いられ、織物設計に準じた繊度の経糸を整経して織機にかけられる。同様に緯糸が準備される。経糸および緯糸に用いられる合成繊維フィラメント糸条は、同じものであることが、基布の品質上、後工程の面で好ましい。ジェットルームは、ウォータージェットルームを用いることが製織時の経糸毛羽の発生が小さく、また高速製織が比較的容易で生産性が高いため好ましい。
【0065】
本実施形態では、経糸張力は50cN/本以上に調整されることが好ましく、100cN/本以上に調整されることがより好ましい。また、経糸張力は、250cN/本以下に調整されることが好ましく、200cN/本以下に調整されることがより好ましい。経糸張力が上記範囲内に調整される場合、織物を構成するマルチフィラメント糸の糸束中の単繊維間の空隙が減少されやすく、得られる基布の通気量が低減されやすい。また、緯糸の打ち込み後に、上記張力をかけられた経糸が緯糸を押し曲げることで、緯糸方向の織物の組織拘束力が高められやすく、織物の抗目ズレ性が向上し、エアバッグとして袋体を形成するときの縫製部分の目ズレによる空気漏れが抑えられやすい。経糸張力を上記範囲内に調整する方法としては、織機の経糸送り出し速度を調整する方法や、緯糸の打ち込み速度を調整する方法等が例示される。なお、経糸張力が製織中に実際に上記範囲内となっているかどうかは、たとえば織機稼動中に経糸ビームとバックローラーとの中間において、経糸1本当たりに加わる張力を張力測定器で測ることにより、確認することができる。
【0066】
また、経糸開口における上糸シート張力と下糸シート張力に差をつけることが好ましい。これらを調整する方法としては、バックローラー高さを、一般的に水平位置から、たとえば10~30mm高めの位置に設置するなどして、上糸の走行線長と下糸の走行線長に差をつける方法が例示される。また、上糸の張力と下糸の張力とに差をつける他の方法としては、たとえば、開口装置にカム駆動方式を採用し、上糸・下糸の片側のドエル角を他方よりも100度以上大きく取る方法が例示される。
【0067】
次いで、上記したジェットルームが用いられ、開口、緯入れ、筬打ち、巻き取り等が連動して行われる。この際、本実施形態の基布の製造方法は、上記のとおり、ジェットルームが測長装置において、フィードローラと測長ローラとによって、緯糸を適切な接圧にて挟持することができる。そのため、もし仮に測長ローラの寸法等が変更された場合であっても、接圧調整部材は、測長ローラに対するフィードローラの接圧が一定となるように維持する。その結果、緯糸供給ノズルには、緯糸が均一に供給される。これにより、強力および伸度のバラツキが小さい高品質な基布が得られるとともに、緯入れ時に発生する繊維屑の量を減少させることができる。なお、上記工程は、緯入れ時において上記したジェットルームが用いられる以外は、いずれも常法にて行われる。
【0068】
本実施形態の織物の製造方法は、上記工程後に必要に応じて、精練、熱セット等の加工工程が採用されてもよい。特にエアバッグ用途等の小さい通気量が求められる場合には、得られた基布は、基布表面に樹脂等が塗布されてもよく、フィルムを貼り付けたコート布とされてもよい。
【0069】
なお、本実施形態の基布の製造方法によって得られた基布からエアバッグを製造する方法は特に限定されない。一例を挙げると、エアバッグは、基布を裁断パターンにしたがって裁断し、袋状に縫製し、インフレーターなどの付属機器を取り付けることによって製造し得る。得られるエアバッグは、運転席用、助手席用および後部座席用、側面用、膝用、天井用エアバッグ等に使用され得る。得られるエアバッグは、特に、大きな拘束力が求められる運転席用、助手席用エアバッグとして好適に使用される。なお、基布の裁断は、通常、樹脂加工された織物を複数枚積層し、ナイフによる打ち抜きにより行われる。また、ノンコート基布の場合は、ナイフによる打ち抜き裁断では、裁断品の端がほつれやすいので、通常、レーザーカッターにより1枚ずつ裁断される。本実施形態の基布は、上記ジェットルームが用いられることにより、耳房の長さが均一になるよう調整され得る。そのため、基布は、設計通りの形状に裁断されやすく、縫製も容易である。その結果、得られるエアバッグは、エアバッグとしての形態が設計通りで、かつ、正確な形態に仕上げられることができ、高い破裂強度を有するなど機能的に優れる。また、エアバッグに使用された基布は、耳房の長さが均一であるため、廃棄される繊維屑の量が少なく、コスト的にも有利である。
【0070】
以上、本発明の一実施形態について説明した。本発明は、上記実施形態に格別限定されない。なお、上記した実施形態は、以下の構成を有する発明を主に説明するものである。
【0071】
(1)緯方向分解糸強力の長さ方向における変動係数CV1(100×標準偏差/平均値)が3.0%以下であり、緯方向分解糸伸度の長さ方向における変動係数CV2(100×標準偏差/平均値)が4.0以下である、基布。
【0072】
このような構成によれば、基布は、強力および伸度のいずれも変動が小さく、高品位である。また、このような基布は、たとえばナイロン等からなる場合であっても、染色時に染めムラを生じにくい。また、基布は、強力および伸度のバラツキが小さいため、たとえばエアバッグ用の基布として好適である。
【0073】
(2)生地部と、前記生地部の長さ方向における両端にそれぞれ形成された所定幅の耳部とを含み、前記耳部を含む幅方向の緯方向分解糸強力の長さ方向における変動係数CV1’(100×標準偏差/平均値)が3.0%以下であり、前記耳部を含む幅方向の緯方向分解糸伸度の長さ方向における変動係数CV2’(100×標準偏差/平均値)が4.0以下である、基布。
【0074】
このような構成によれば、基布は、強力および伸度のバラツキの生じやすい耳部においてさえ、強力および伸度のいずれも変動が小さく、極めて高品位である。
【0075】
(3)合成繊維からなり、生地部と、前記生地部の長さ方向における両端にそれぞれ形成された所定幅の耳部とを含み、前記耳部は、緯糸のはみ出した耳房を有し、前記耳房の、前記基布の長さ方向における長さ方向変動係数CV3(100×標準偏差/平均値)が8.0%以下である、基布。
【0076】
このような構成によれば、基布は、基布の長さ方向における耳房の長さが均一である。すなわち、基布は、均一な張力にて緯糸が打ち出されたといえる。そのため、基布は、製織時の緯糸の打ち出す長さも一定であり、余剰となる繊維屑を生じにくい。
【0077】
(4)エアバッグ用である、(1)~(3)のいずれかに記載の基布。
【0078】
このような構成によれば、基布は、強力および伸度のバラツキが小さいため、たとえばエアバッグ用の基布として好適である。
【0079】
(5)開口した経糸群の間に緯入れする緯糸供給ノズルに緯糸を供給する測長装置と、接圧調整部材とを備え、前記測長装置は、緯糸張力維持用の緯糸挟持機構を備え、前記緯糸挟持機構は、固定軸に回転可能に支持され、回転駆動される第1のローラと、移動軸に回転可能に支持され、前記第1のローラに対して圧接されることにより前記第1のローラの回転に従動して回転する第2のローラとを備え、前記接圧調整部材は、前記第1のローラに対する前記第2のローラの接圧を調整し、稼動中における前記移動軸の前記固定軸方向への揺動幅を5~600μmに調整するための部材である、ジェットルーム。
【0080】
このような構成によれば、ジェットルームは、測長装置において、第1のローラと第2のローラとによって、緯糸を適切な接圧にて挟持することができる。もし仮に第1のローラの寸法等が変更された場合であっても、接圧調整部材は、第1のローラに対する第2のローラの接圧が一定となるように維持する。その結果、緯糸供給ノズルには、緯糸が均一に供給される。これにより、強力および伸度のバラツキが小さい高品質な基布が得られるとともに、緯入れ時に発生する繊維屑の量を減少させることができる。
【0081】
(6)前記接圧調整部材は、前記第1のローラに対する前記第2のローラの接圧を調整するための付勢部材と、ジェットルームによって生じる振動を緩和するための振動吸収部材とを備える、(5)記載のジェットルーム。
【0082】
このような構成によれば第1のローラに対する第2のローラの接圧は、付勢部材によって適切に調整されやすい。また、筬打ち等に関連して伝播される振動は、振動吸収部材によって適切に吸収されやすい。その結果、緯糸供給ノズルには、緯糸がより均一に供給される。これにより、強力および伸度のバラツキがより小さい高品質な基布が得られるとともに、緯入れ時に発生する繊維屑の量をより少なくすることができる。
【0083】
(7)緯入れ時の緯糸の到達側織り端で、緯糸飛走経路を挟んで互いに対向して設けられる一対の緯糸張力部材を備える(5)または(6)に記載のジェットルーム。
【0084】
このような構成によれば、緯入れ時の緯糸を確実に把持することができ、かつ筬打ちが終了するまで適切な緯糸張力を維持できるようにすることができる。これにより、強力および伸度のバラツキがより小さい高品質な基布が得られることとともに、緯糸入れ時に派生する繊維屑の量をより少なくすることができる。
【0085】
(8)開口した経糸群の間に緯入れする緯糸供給ノズルに緯糸を供給する測長装置と、接圧調整部材と、緯入れ時の緯糸の到達側織り端で、緯糸飛走経路を挟んで互いに対向して設けられる一対の緯糸張力付与部材とを備えるジェットルームを使用し、緯糸を開口した前記経糸群の間に緯入れする際に、固定軸に回転可能に支持され、回転駆動される第1のローラと、移動軸に回転可能に支持され前記第1のローラに対して圧接されることにより前記第1のローラの回転に従動して回転する第2のローラとを備える緯糸張力維持用の緯糸挟持機構において、前記接圧調整部材によって、前記第1のローラに対する前記第2のローラの接圧を調整することにより、前記移動軸の前記固定軸方向への揺動幅を5~600μmに調整する工程および緯入れ時の緯糸到達側織り端で、前記緯糸張力付与部材により生じる緯糸飛走ピーク張力が0.4~1.2cN/dtexとなる工程を含む、基布の製造方法。
【0086】
このような構成によれば、ジェットルームは、測長装置において、第1のローラと第2のローラとによって、緯糸を適切な接圧にて挟持することができる。もし仮に第1のローラの寸法等が変更された場合であっても、接圧調整部材は、第1のローラに対する第2のローラの接圧が一定となるように維持する。その結果、緯糸供給ノズルには、緯糸が均一に供給される。また緯入れ時の緯糸を確実に把持することができ、かつ筬打ちが終了するまで適切な緯糸張力を維持することができる。これにより、強力および伸度のバラツキが小さい高品質な基布が得られるとともに、緯入れ時に発生する繊維屑の量を減少させることができる。
【実施例
【0087】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明する。本発明は、これら実施例に何ら限定されない。なお、本発明の説明で使用した各種の物性値は、以下に記載する測定法によるものである。
【0088】
[測定方法]
(1)総繊度
JIS L 1013(2010) 8.3.1 B法に示される方法により、正量繊度を測定して総繊度とした。
(2)フィラメント数
JIS L 1013(1999) 8.4の方法に基づいて算出した。
(3)糸の強度および伸度
JIS L1013(2010) 8.5.1標準時試験に示される定速伸長形の条件で測定した。試料をオリエンテック社製“テンシロン”(TENSILON)UCT-100を用いて、掴み間隔は25cm、引張り速度は30cm/分で行った。なお、伸度はS-S曲線における最大強力を示した点の伸びから求めた。
(4)カバーファクター
経糸または緯糸に用いられる糸の総繊度と織密度から計算される値であり、以下の式(1)によって定義した。なお、式(1)において、Dwは経糸総繊度(dtex)であり、Dfは緯糸総繊度(dtex)であり、Nwは経糸の織密度(本/2.54cm)であり、Nfは緯糸の織密度(本/2.54cm)である。
CF=(Dw×)1/2×Nw+(Df×)1/2×Nf ・・・ (1)
(5)経糸・緯糸の織密度(経糸密度および緯糸密度)
JIS L 1096:(1999) 8.6.1に基づき、試料を平らな台上に置き、不自然なしわや張力を除いて、基布の幅方向の中央部の異なる5か所について2.54cmの区間の経糸および緯糸の本数を数え、それぞれの平均値を算出した。
(6)引張強力
JIS K 6404-3 6.試験方法B(ストリップ法)に基づき、経方向および緯方向のそれぞれについて、基布の幅方向に5等分した領域から試験片を5枚採取し、幅の両側から糸を取り除いて幅30mmとし、定速緊張型の試験機にて、つかみ間隔150mm、引張速度200mm/分で試験片が切断するまで引っ張った。その切断に至るまでの最大荷重を測定し、経方向および緯方向のそれぞれについて平均値を算出した。
(7)破断伸度
JIS K 6404-3 6.試験方法B(ストリップ法)に基づき、経方向および緯方向のそれぞれについて、織物の幅方向に5等分した領域から試験片を5枚採取し、幅の両側から糸を取り除いて幅30mmとし、これら試験片の中央部に100mm間隔の標線を付け、定速緊張型の試験機にて、つかみ間隔150mm、引張速度200mm/分で試験片が切断するまで引っ張り、切断に至るときの標線間の距離を読み取り、下記式によって、破断伸度を算出し、経方向および緯方向のそれぞれについて平均値を算出した。
E=[(L-100)/100]×100
(式中、Eは破断伸度(%)であり、Lは切断時の標線間の距離(mm)である)
(8)通気度
基布の耳部端から10cmを除いた両耳端から、約20cm×20cmの試験片を基布の長さ方向に向かって5枚の試験片を採取して測定を実施した。両耳部各5箇所平均値の大きい方を通気度とした。
(9)緯方向分解糸強力の長さ方向における変動係数CV1
基布の幅方向中央から長さ方向に連続して緯糸の分解糸強度を20点測定し、その平均値と標準偏差とから算出した。分解した糸の強度は、JIS繊維L1013 8.5.1「化学繊維フィラメント糸試験方法」に基づき測定した。
(10)緯方向分解糸伸度の長さ方向における変動係数CV2
基布の幅方向中央から長さ方向に連続して緯糸の分解糸伸度を20点測定し、その平均値と標準偏差とから算出した。分解した糸の伸度は、JIS繊維L1013 8.5.1「化学繊維フィラメント糸試験方法」に基づき測定した。
(11)耳房長さ変動係数
ノギスを使用してロール耳際の耳房の長さを基布の長さ方向に連続して50点測定し、その平均値と標準偏差とから算出した。
(12)フィードローラ最大揺動幅
(株)キーエンス製、高速・高精度CCDレーザ変位計LK-G35を使用し、織機運転時のフィードローラ垂直方向最大揺動幅を測定した。
(13)緯糸飛走ピーク張力
インテック(株)製、P/C対応型テンションメーターTN-8を使用し、織機運転時の緯糸飛走張力を測定した。
【0089】
<実施例1>
(経糸および緯糸)
経糸および緯糸として、ナイロン66からなり、円形の断面形状を持つ単繊維繊度が6.53dtexの単繊維72フィラメントで構成され、総繊度470dtexで、強度8.5cN/dtex、伸度23%で無撚りの合成繊維フィラメントを準備した。
(整経・ビーマー工程)
上記経糸を用い、整経機にて整経シート張力40g/本、ビーマーにてビーマーシート75g/本にて経糸ビームを作製した。
(製織工程)
上記経糸ビームおよび上記緯糸を用い、ウォータージェットルームを用い、経糸の織密度が51.2本/2.54cm、緯糸の織密度が51.0本/2.54cmの基布を製織した。経糸張力を100g/本に調整し、織機回転数を730rpmとした。測長装置には接圧調整部材を使用して、測長装置のフィードローラの振動を抑制し、フィードローラと測長ローラとが圧接された状態を維持した。この接圧調整治具は、測長ローラに対するフィードローラの接圧を調整するための付勢部材と、ジェットルームによって生じる振動を緩和するための振動吸収部材とを備える。また緯糸到達織り端には、一対の張力付与部材を使用して、緯入れ時の緯糸を確実に把持することができ、かつ筬打ちが終了するまで適切な緯糸張力を維持した。またこの張力付与部材を構成する筬側に向けて突出するプレート部材には凹凸加工を施したものを採用した。基布の製織中にフィードローラの振動をレーザ変位計で測定した結果を表1に示す。また、基布の耳房長さを測定した結果を表1に示す。なお、実施例1において、製織中のフィードローラの最大揺動幅は、179μmであり、張力付与部材により生じる緯糸飛走ピーク張力は1.02cN/dtexであった(精練および熱セット)。
次いで、得られた基布を、65℃で精練し、ピンテンター乾燥機を用いて幅入れ率0%、オーバーフィード率0%の寸法規制の下で、120℃~180°にて1分間の熱セット加工を施した。
(コート工程)
次いでこの織物をフローティングナイフコーターにて、粘度50Pa・sの無溶剤系シリコーン樹脂を、表面に25g/m2になるようにコーティングを行った後、190℃で1分間加硫処理を行い、エアバッグ用織物を得た。
【0090】
<実施例2>
表1に記載の製織条件に変更した以外は、実施例1と同様の方法により、基布を作製した。なお、実施例2では、コート工程は行わなかった。結果を表1に示す。なお、実施例2において、製織中のフィードローラの最大揺動幅は、200μmであり、張力付与部材により生じる緯糸飛走ピーク張力は1.15cN/dtexであった。
【0091】
<実施例3>
表1に記載の製織条件に変更した以外は、実施例1と同様の方法により、基布を作製した。なお、実施例3では、コート工程は行わなかった。結果を表1に示す。なお、実施例3において、製織中のフィードローラの最大揺動幅は、148μmであり、張力付与部材により生じる緯糸飛走ピーク張力は0.44cN/dtexであった。
【0092】
<比較例1>
接圧調整部材に代えて、引張バネを用いてフィードローラを測長ローラに圧接させ、張力付与部材を構成する筬側に向けて突出するプレート部材に鏡面(磨き)加工を施した以外は、表1に記載の製織条件に変更し、実施例1と同様の方法により、基布を作製した。結果を表1に示す。なお、比較例1において、製織中のフィードローラの最大揺動幅は、711μmであり、張力付与部材により生じる緯糸飛走ピーク張力は1.23cN/dtexであった。
【0093】
<比較例2>
表1に記載の製織条件に変更した以外は、比較例1と同様の方法により、基布を作製した。なお、比較例2では、コート工程は行わなかった。結果を表1に示す。なお、比較例2において、製織中のフィードローラの最大揺動幅は、685μmであり、張力付与部材により生じる緯糸飛走ピーク張力は1.61cN/dtexであった。
【0094】
<比較例3>
張力付与部材を構成する筬側に向けて突出するプレート部材に鏡面(磨き)加工を施した以外は、表1に記載の製織条件に変更し、実施例1と同様の方法により、基布を作製した。なお、比較例3において、製織中のフィードローラの最大揺動幅は、594μmであり、張力付与部材により生じる緯糸飛走ピーク張力は1.52cN/dtexであった。
【0095】
【表1】
【0096】
表1に示されるように、緯方向分解糸強力の長さ方向における変動係数CV1が3.0%以下であり、かつ、緯方向分解糸伸度の長さ方向における変動係数CV2が4.0%以下であった実施例1~3の基布は、いずれも強力および伸度のバラツキが小さい高品位な基布であり、かつ、フィードローラの揺動幅を小さく抑えることができたことや緯糸張力付与部材による緯糸飛走ピーク張力を小さく抑えることができたことから、製造時に発生する繊維屑の量を減少させることができると考えられた。一方、少なくとも、緯方向分解糸強力の長さ方向における変動係数CV1が3.0%を超えたか、または、緯方向分解糸伸度の長さ方向における変動係数CV2が4.0%を超えた比較例1~3の基布は、いずれも強力および伸度のバラツキが大きく、かつ、フィードローラの揺動幅が大きくなったことや緯糸張力付与部材による緯糸飛走ピーク張力が大きくなったため、製造時に発生する繊維屑の量を充分に低減できないと考えられた。
【符号の説明】
【0097】
1 ジェットルーム
1a 経糸
1b 筬
1c テンプル装置
1d 緯糸
1e 緯糸カッター
1f 張力付与部材
2 測長装置
3 接圧調整部材
4 緯糸供給ノズル
5 緯糸挟持機構
51 測長ローラ
52 フィードローラ
53 固定軸
54 移動軸
6 測長バンド
図1
図2
図3