(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-20
(45)【発行日】2023-11-29
(54)【発明の名称】電解質膜
(51)【国際特許分類】
H01M 8/1051 20160101AFI20231121BHJP
H01M 8/106 20160101ALI20231121BHJP
H01M 8/1023 20160101ALI20231121BHJP
H01M 8/1039 20160101ALI20231121BHJP
H01M 8/10 20160101ALI20231121BHJP
C08G 65/40 20060101ALI20231121BHJP
C08J 5/20 20060101ALI20231121BHJP
【FI】
H01M8/1051
H01M8/106
H01M8/1023
H01M8/1039
H01M8/10 101
C08G65/40
C08J5/20 CER
C08J5/20 CEZ
(21)【出願番号】P 2019516020
(86)(22)【出願日】2019-03-19
(86)【国際出願番号】 JP2019011393
(87)【国際公開番号】W WO2019188572
(87)【国際公開日】2019-10-03
【審査請求日】2022-02-09
(31)【優先権主張番号】P 2018067925
(32)【優先日】2018-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】國田 友之
(72)【発明者】
【氏名】梅田 浩明
(72)【発明者】
【氏名】井上 達広
【審査官】守安 太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-182538(JP,A)
【文献】特開2007-280653(JP,A)
【文献】特開2004-335119(JP,A)
【文献】特開2004-253336(JP,A)
【文献】特開2012-172033(JP,A)
【文献】国際公開第2006/106726(WO,A1)
【文献】特開2007-273450(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/10
C25B 9/00
C25B 13/00
C08J 5/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子電解質と、ノニオン性フッ素系界面活性剤とを含
み、前記ノニオン性フッ素系界面活性剤の含有量が、高分子電解質の総量に対する質量比として、0.01以上0.20以下である、電解質膜。
【請求項2】
前記ノニオン性フッ素系界面活性剤が、フッ化アルキル基、フッ化アルケニル基またはフッ化アリール基からなるフッ素含有基と、非イオン性の親媒基とを有する化合物である、請求項1に記載の電解質膜。
【請求項3】
前記フッ素含有基がパーフルオロアルキル基、パーフルオロアルケニル基またはパーフルオロアリール基である、請求項2に記載の電解質膜。
【請求項4】
前記親媒基が、ポリエーテル基、カルボン酸エステル基、スルホン酸エステル基、亜リン酸エステル基またはリン酸エステル基を含む親水性基である、請求項2または3に記載の電解質膜。
【請求項5】
前記親水性基が、下記一般式(C1)に示すポリアルキルエーテル構造または下記一般式(C2)に示すポリアクリレート構造を有する基である、請求項4に記載の電解質膜。
【化1】
(一般式(C1)においてq、rはr=2qを満たす自然数であり、sはアルキルエーテル構造の繰り返し数を意味する1以上1000以下の整数である。一般式(C2)において、Rは炭素数1~20のアルキル基、炭素数1~20のアルケニル基、炭素数6~20のアリール基から選ばれる少なくとも一種の基であり、tはアクリレート構造の繰り返し数を意味する1以上1000以下の整数である。(C1)または(C2)においてsまたはtが2以上である場合、複数のアルキルエーテル構造またはアクリレート構造は、それぞれ同じでも異なっていてもよい。)
【請求項6】
前記ノニオン性フッ素系界面活性剤が、150℃における蒸気圧が2kPa未満の化合物である、請求項1~5のいずれかに記載の電解質膜。
【請求項7】
前記ノニオン性フッ素系界面活性剤が、熱重量示差熱分析における5%重量減少温度が150℃以上の化合物である、請求項1~6のいずれかに記載の電解質膜。
【請求項8】
前記ノニオン性フッ素系界面活性剤が、重量平均分子量1000以上10000以下の化合物である、請求項1~7のいずれかに記載の電解質膜。
【請求項9】
前記高分子電解質と含フッ素高分子多孔質基材とが複合化してなる複合層を有する、請求項1~8のいずれかに記載の電解質膜。
【請求項10】
前記含フッ素高分子多孔質基材が、フッ素原子を50質量%以上含有する多孔質基材である、請求項9に記載の電解質膜。
【請求項11】
前記含フッ素高分子多孔質基材が、X線光電子分光法により測定される酸素原子含有量が10質量%以下の多孔質基材である、請求項9または10に記載の電解質膜。
【請求項12】
前記高分子電解質がイオン性基を有する炭化水素系ポリマーである、請求項1~11のいずれかに記載の電解質膜。
【請求項13】
前記高分子電解質がイオン性基を有する芳香族炭化水素系ポリマーである、請求項1~12のいずれかに記載の電解質膜。
【請求項14】
請求項1~13のいずれかに記載の電解質膜の両面に触媒層が形成されてなる触媒層付電解質膜。
【請求項15】
前記触媒層がフッ素系高分子電解質を含む、請求項14に記載の触媒層付電解質膜。
【請求項16】
請求項1~13のいずれかに記載の電解質膜を用いてなる膜電極複合体。
【請求項17】
請求項1~13のいずれかに記載の電解質膜を用いてなる固体高分子形燃料電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体高分子形燃料電池等に用いられる電解質膜に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、水素、メタノールなどの燃料を電気化学的に酸化することによって電気エネルギーを取り出す一種の発電装置であり、近年、クリーンなエネルギー供給源として注目されている。なかでも固体高分子形燃料電池は、標準的な作動温度が100℃前後と低く、かつ、エネルギー密度が高いことから、比較的小規模の分散型発電施設、自動車や船舶など移動体の発電装置として幅広い応用が期待されている。また、小型移動機器、携帯機器の電源としても注目されており、ニッケル水素電池やリチウムイオン電池などの二次電池に替わり、携帯電話やパソコンなどへの搭載が期待されている。
【0003】
燃料電池は通常、膜電極複合体(Membrane Electrode Assembly:MEA)がセパレータによって挟まれたセルをユニットとして構成されている。MEAは、電解質膜の両面に触媒層を配置し、その両側にさらにガス拡散層を配置したものである。MEAは、電解質膜を挟んで両側に配置された触媒層とガス拡散層とで一対の電極層が構成され、そのうちの一方がアノード電極であり、他方がカソード電極である。アノード電極に水素を含む燃料ガスが接触するとともに、カソード電極に空気が接触することにより電気化学反応によって電力が作り出される。電解質膜は高分子電解質材料を主として構成される。高分子電解質材料は触媒層のバインダーにも用いられる。
【0004】
従来、高分子電解質材料としてフッ素系高分子電解質であるナフィオン(登録商標)(デュポン社製)が広く用いられてきた。ナフィオン(登録商標)はクラスター構造に起因するプロトン伝導チャネルを通じて、低加湿で高いプロトン伝導性を示す。その一方で、ナフィオン(登録商標)は多段階合成を経て製造されるため非常に高価であり、加えて、前述のクラスター構造により燃料クロスオーバーが大きいという課題があった。また、燃料電池作動条件では、乾湿サイクルが繰り返され、特に電解質膜は膨潤収縮を繰り返す。その際、電解質膜はセパレータ等で拘束されているため、シワやたるみが生じ、局所的な応力集中により、膜が破断し、膜の機械強度や物理的耐久性が失われるという問題があった。さらに、軟化点が低く高温で使用できないという問題、さらには、使用後の廃棄処理の問題や材料のリサイクルが困難といった課題が指摘されてきた。このような課題を克服するために、ナフィオン(登録商標)に替わり得る安価で、膜特性に優れた炭化水素系電解質膜の開発も近年活発化している。
【0005】
一方、燃料電池の発電性能を向上させるためには、触媒層と電解質膜との間の界面の接合性が高いことが重要である。これまで、触媒層と電解質膜との界面の接合性が十分でないために、両者の界面で発生する界面抵抗が増大し、発電性能が低下する課題があった。そこで、両者の接合性を向上させるため、電解質膜の表面を改質する方法や触媒層との接触面積を増やす方法、および電解質膜に直接触媒層を塗工する方法が提案されている。
【0006】
特許文献1では、電解質膜の表面をプラズマもしくはコロナ放電処理し、改質する方法が記載されている。特許文献2では、電解質膜の表面に凹凸構造を設けることで触媒層との接触面積を増やす方法が記載されている。特許文献3では、電解質膜に直接触媒層を塗工する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2009-218154号公報
【文献】特開2005-166401号公報
【文献】特開2004-146367号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1では、プラズマもしくはコロナ放電処理効果の寿命に制限があり、改質効果が失活する課題があった。また、特許文献2では、膜の表面に設けた、膜厚の薄い凹部を基点として膜の破断が起きやすくなり、耐久性が低下する課題があった。特許文献3では、電解質膜に触媒層を塗工する際に、触媒層に含まれる溶媒を電解質膜が吸収し、膨潤することで、電解質膜にシワやたるみが発生し、耐久性が低下する課題があった。
【0009】
本発明は、かかる背景に鑑み、電解質膜に物理的な処理を施すことなく、かつ表面改質効果が失活することなく触媒層との接合性を改善し、良好な発電性能を実現する電解質膜を提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するための本発明の電解質膜は、高分子電解質と、ノニオン性フッ素系界面活性剤とを含む。
【発明の効果】
【0011】
本発明の電解質膜は、触媒層との接合性を高め、良好な発電性能を実現することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について詳細に説明する。以下本明細書において「~」は、その両端の数値を含む範囲を表すものとする。
【0013】
<電解質膜>
〔高分子電解質〕
本発明で使用する高分子電解質とは、イオン性基を有することによりプロトン伝導性を有するポリマーであり、フッ素系高分子電解質と炭化水素系ポリマーのいずれであっても良い。
【0014】
ここで、フッ素系高分子電解質とは、ポリマー中のアルキル基および/またはアルキレン基の水素の大部分または全部がフッ素原子に置換されたものを意味する。イオン性基を有するフッ素系高分子電解質の代表例としては、ナフィオン(登録商標)(デュポン社製)、フレミオン(登録商標)(旭硝子社製)およびアシプレックス(登録商標)(旭化成社製)などの市販品を挙げることができる。
【0015】
これらフッ素系高分子電解質は、非常に高価であり、ガスクロスオーバーが大きいという課題がある。そこで、機械強度、物理的耐久性、化学的安定性などの点からも、本発明で使用する高分子電解質は炭化水素系ポリマーであることが好ましい。すなわち、本発明において、高分子電解質がイオン性基を有する炭化水素系ポリマーであることが好ましい。また、本発明による触媒層との接合性向上効果の恩恵が大きい点でも、高分子電解質が炭化水素系ポリマーである態様は特に好ましい。さらに、高分子電解質が炭化水素系ポリマーであり、触媒層が、後述のように、フッ素系高分子電解質を含有する態様である場合、高分子電解質の触媒層に対する接合性が大きく改善され、発電性能の向上効果が大きいため、さらに好ましい。
【0016】
炭化水素系ポリマーとしては、主鎖に芳香環を有する芳香族炭化水素系ポリマーが好ましい。ここで、芳香環は、炭化水素系芳香環だけでなく、ヘテロ環などを含んでいてもよい。また、芳香環ユニットと共に一部脂肪族系ユニットがポリマーを構成していてもよい。
【0017】
芳香族炭化水素系ポリマーの具体例としては、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンオキシド、ポリアリーレンエーテル系ポリマー、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンスルフィドスルホン、ポリパラフェニレン、ポリアリーレン系ポリマー、ポリアリーレンケトン、ポリエーテルケトン、ポリアリーレンホスフィンホキシド、ポリエーテルホスフィンホキシド、ポリベンゾオキサゾール、ポリベンゾチアゾール、ポリベンゾイミダゾール、ポリアミド、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリイミドスルホンから選択される構造を芳香環とともに主鎖に有するポリマーが挙げられる。なお、ここでいうポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルケトン等は、その分子鎖にスルホン結合、エーテル結合、ケトン結合を有している構造の総称であり、ポリエーテルケトンケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトンケトン、ポリエーテルケトンエーテルケトンケトン、ポリエーテルケトンスルホンなどを含む。炭化水素骨格は、これらの構造のうち複数の構造を有していてもよい。これらのなかでも、芳香族炭化水素系ポリマーとして特にポリエーテルケトン骨格を有するポリマー、すなわちポリエーテルケトン系ポリマーが最も好ましい。
【0018】
高分子電解質としては、共連続様またはラメラ様の相分離構造を形成するものが好適である。このような相分離構造は、例えばイオン性基を有する親水性ポリマーとイオン性基を有さない疎水性ポリマーのような非相溶な2種以上のポリマーブレンドからなる成形体や、イオン性基を含有するセグメント(A1)とイオン性基を含有しないセグメント(A2)のような非相溶な2種以上のセグメントからなるブロックコポリマーなどにおいて発現し得る。共連続様およびラメラ様の相分離構造においては、親水性ドメインおよび疎水性ドメインがいずれも連続相を形成するため、連続したプロトン伝導チャネルが形成されることによりプロトン伝導性に優れる高分子電解質成形体が得られやすい。ここでドメインとは、一つの成形体において、類似する物質やセグメントが凝集してできた塊のことを意味する。
【0019】
高分子電解質としては特に、イオン性基を含有するセグメント(A1)と、イオン性基を含有しないセグメント(A2)をそれぞれ1個以上有するブロックコポリマーが好ましい。ここで、セグメントとは、特定の性質を示す繰り返し単位からなる共重合体ポリマー鎖中の部分構造であって、分子量が2000以上のものを表すものとする。ブロックコポリマーを用いることで、ポリマーブレンドと比較して微細なドメインを有する共連続様の相分離構造を発現させることが可能となり、より優れた発電性能、物理的耐久性が達成できる。
【0020】
以下、イオン性基を含有するセグメント(A1)もしくはポリマーを「イオン性ブロック」、イオン性基を含有しないセグメント(A2)もしくはポリマーを「非イオン性ブロック」と表記することがある。もっとも、本明細書における「イオン性基を含有しない」という記載は、当該セグメントもしくはポリマーが相分離構造の形成を阻害しない範囲でイオン性基を少量含んでいる態様を排除するものではない。
【0021】
このようなブロックコポリマーとしては、非イオン性ブロックに対するイオン性ブロックのモル組成比(A1/A2)が、0.20以上であることが好ましく、0.33以上であることがより好ましく、0.50以上であることがさらに好ましい。また、モル組成比(A1/A2)は5.00以下であることが好ましく、3.00以下であることがより好ましく2.50以下であることがさらに好ましい。モル組成比(A1/A2)が、0.20未満あるいは5.00を越える場合には、低加湿条件下でのプロトン伝導性が不足したり、耐熱水性や物理的耐久性が不足したりする場合がある。ここで、モル組成比(A1/A2)とは、非イオン性ブロック中に存在する繰り返し単位のモル数に対するイオン性ブロック中に存在する繰り返し単位のモル数の比を表す。「繰り返し単位のモル数」とは、イオン性ブロック、非イオン性ブロックの数平均分子量をそれぞれ対応する構成単位の分子量で除した値とする。
【0022】
高分子電解質が有するイオン性基は、プロトン交換能を有するイオン性基であればよい。このような官能基としては、スルホン酸基、スルホンイミド基、硫酸基、ホスホン酸基、リン酸基、カルボン酸基が好ましく用いられる。イオン性基はポリマー中に2種類以上含むことができる。中でも、高プロトン伝導度の点から、ポリマーはスルホン酸基、スルホンイミド基、硫酸基から選ばれる少なくとも1つを有することがより好ましく、原料コストの点からスルホン酸基を有することが最も好ましい。
【0023】
高分子電解質のイオン交換容量(IEC)は、プロトン伝導性と耐水性のバランスから、0.1meq/g以上、5.0meq/g以下が好ましい。IECは、1.4meq/g以上がより好ましく、2.0meq/g以上がさらに好ましい。またIECは、3.5meq/g以下がより好ましく、3.0meq/g以下がさらに好ましい。IECが0.1meq/gより小さい場合には、プロトン伝導性が不足する場合があり、5.0meq/gより大きい場合には、耐水性が不足する場合がある。
【0024】
ここで、IECとは、高分子電解質の単位乾燥重量当たりに導入されたイオン性基のモル量であり、この値が大きいほどイオン性基の導入量が多いことを示す。本発明においては、IECは、中和滴定法により求めた値と定義する。中和滴定によるIECの算出は、実施例第(2)項に記載の方法で行う。
【0025】
本発明においては、高分子電解質として芳香族炭化水素系ブロックコポリマーを用いることが特に好ましく、ポリエーテルケトン系ブロックコポリマーであることがより好ましい。特に、下記のようなイオン性基を含有する構成単位(S1)を含むセグメントと、イオン性基を含有しない構成単位(S2)を含むセグメントとを含有するポリエーテルケトン系ブロックコポリマーは特に好ましく用いることができる。
【0026】
【0027】
一般式(S1)中、Ar1~Ar4は任意の2価のアリーレン基を表し、Ar1および/またはAr2はイオン性基を含有し、Ar3およびAr4はイオン性基を含有しても含有しなくても良い。Ar1~Ar4は任意に置換されていても良く、互いに独立して2種類以上のアリーレン基が用いられても良い。*は一般式(S1)または他の構成単位との結合部位を表す。
【0028】
【0029】
一般式(S2)中、Ar5~Ar8は任意の2価のアリーレン基を表し、任意に置換されていても良いが、イオン性基を含有しない。Ar5~Ar8は互いに独立して2種類以上のアリーレン基が用いられても良い。*は一般式(S2)または他の構成単位との結合部位を表す。
【0030】
ここで、Ar1~Ar8として好ましい2価のアリーレン基は、フェニレン基、ナフチレン基、ビフェニレン基、フルオレンジイル基などの炭化水素系アリーレン基、ピリジンジイル、キノキサリンジイル、チオフェンジイルなどのヘテロアリーレン基などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。ここで、「フェニレン基」としてはベンゼン環と他の構成単位との結合部位を有する箇所によりo-フェニレン基、m-フェニレン基、p-フェニレン基の3種類があり得るが、本明細書において特に限定しない場合はこれらの総称として用いる。「ナフチレン基」や「ビフェニレン基」など、その他の2価のアリーレン基についても同様である。Ar1~Ar8は、好ましくはフェニレン基とイオン性基を含有するフェニレン基、最も好ましくはp-フェニレン基とイオン性基を含有するp-フェニレン基である。また、Ar5~Ar8はイオン性基以外の基で置換されていてもよいが、無置換である方がプロトン伝導性、化学的安定性、物理的耐久性の点でより好ましい。
【0031】
また、十分な寸法安定性、機械強度、物理的耐久性、燃料遮断性、耐溶剤性を得るためには、高分子電解質が結晶性を有する芳香族炭化水素系ポリマーであることが好ましい。ここで、「結晶性を有する」とは昇温すると結晶化されうる結晶化可能な性質を有しているか、あるいは既に結晶化していることを意味する。
【0032】
結晶性の有無の確認は、示差走査熱量分析法(DSC)あるいは広角X線回折によって実施される。本発明においては、製膜後に示差走査熱量分析法によって測定される結晶化熱量が0.1J/g以上であるか、もしくは、広角X線回折によって測定される結晶化度が0.5%以上であることが好ましい。すなわち、示差走査熱量分析法において結晶化ピークが認められない場合は、既に結晶化している場合と、高分子電解質が非晶性である場合が考えられるが、既に結晶化している場合は広角X線回折によって結晶化度が0.5%以上となる。
【0033】
結晶性を有する芳香族炭化水素系ポリマーは、電解質膜の加工性が不良である場合がある。その場合、芳香族炭化水素系ポリマーに保護基を導入し、一時的に結晶性を抑制してもよい。具体的には、保護基を導入した状態で製膜し、その後に脱保護することで、結晶性を有する芳香族炭化水素系ポリマーを本発明において高分子電解質として用いることができる。
【0034】
〔ノニオン性フッ素系界面活性剤〕
本発明で用いるノニオン性フッ素系界面活性剤(以下、単に「界面活性剤」という場合がある)は、アルキル基、アルケニル基またはアリール基中の水素原子をフッ素原子で置換した、フッ化アルキル基、フッ化アルケニル基またはフッ化アリール基からなるフッ素含有基と、非イオン性の親媒基(親水性基または親油性基)とを有する化合物であることが好ましい。
【0035】
フッ素含有基は、アルキル基、アルケニル基またはアリール基中の全ての水素原子をフッ素原子で置換した、パーフルオロアルキル基、パーフルオロアルケニル基またはパーフルオロアリール基が好ましい。
【0036】
フッ素含有基としては、界面活性効果が優れることから、フッ化アルケニル基またはフッ化アリール基がより好ましく、柔軟な構造を有し高い界面活性作用を示すことから、フッ化アルケニル基がさらに好ましい。
【0037】
フッ素含有基は、炭素数が2個以上であることが好ましく、4個以上であることがより好ましく、6個以上であることが特に好ましい。また、炭素数が20個以下であることが好ましく、15個以下であることがより好ましく、10個以下であることが特に好ましい。炭素数が2個未満である場合、揮発性、水溶性が高く電解質膜中に残存せずに物理的耐久性が低下することがある。炭素数が20個を超える場合、高分子電解質と相分離し物理的耐久性が低下することがある。
【0038】
具体的には、フッ化アルキル基としては、フッ化エチル基、フッ化プロピル基、フッ化ブチル基、フッ化ペンチル基、フッ化ヘキシル基、フッ化ヘプチル基、フッ化オクチル基、フッ化ノニル基、フッ化デシル基を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0039】
また、フッ化アルケニル基としては、フッ化エテニル基、フッ化プロペニル基、フッ化ブテニル基、フッ化ペンテニル基、フッ化ヘキセニル基、フッ化ヘプテニル基、フッ化オクテニル基、フッ化ノネニル基、フッ化デセニル基を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0040】
それらの中でも、揮発性、水溶性が低く電解質膜中に残存し易いことからフッ化ヘキシル基、フッ化ヘプチル基、フッ化オクチル基、フッ化ノニル基、フッ化デシル基、フッ化ヘキセニル基、フッ化ヘプテニル基、フッ化オクテニル基、フッ化ノネニル基、フッ化デセニル基がより好ましい。ここで、「フッ化エチル基」としては、1官能基中に含まれるフッ素原子の数によりモノフルオロエチル基、ジフルオロエチル基、トリフルオロエチル基、テトラフルオロエチル基、ペンタフルオロエチル基の5種類の官能基が有り得るが、本明細書において「フッ化エチル基」はこれらの総称として用いる。「フッ化プロピル基」や「フッ化ブチル基」などのその他の官能基についても同様である。また、前記ジフルオロエチル基の場合、2個のフッ素原子を有する官能基であり1,1-ジフルオロエチル基、1,2-ジフルオロエチル基、2,2-ジフルオロエチル基という3種類の構造異性体が存在するが、本明細書において「ジフルオロエチル基」はこれらの総称として用いる。「トリフルオロエチル基」や「テトラフルオロエチル基」などのその他の官能基についても同様である。
【0041】
フッ素含有基の構造は、直鎖状、分岐鎖状、環状等であることができるが、中でも分岐鎖状の構造を有する場合、フッ素化合物同士の相互作用が弱くなり、表面張力が低下し易いため好ましい。本発明においては、特に下記式(F1)に示す構造からなるフッ素含有基を有する界面活性剤が特に好ましい。
【0042】
【0043】
式(F1)において*は他の原子団との結合箇所を意味する。
【0044】
ノニオン性フッ素系界面活性剤としては、フッ素原子を1分子内に10質量%以上有する化合物が好適に用いられる。フッ素原子を20質量%以上有する化合物はより好ましく、フッ素原子を40質量%以上有する化合物は更に好ましい。1分子内のフッ素原子含有量が10質量%未満の場合、触媒層との親和性が不十分となり、十分な発電性能向上効果を得られないことがある。また、水や酸への溶解性が高く燃料電池等の電気化学セルを運転している際に生成する水や酸に溶解し、電解質膜から溶出することにより、高分子電解質と触媒層との親和性が低下することがある。
【0045】
親媒基は、親水性基あるいは親油性基であることができるが、親水性基であることが好ましい。
【0046】
親水性基は、酸素、窒素、リン、硫黄およびホウ素からなる群より選択される親水性元素を有する非イオン性基であれば特に限定されないが、ポリエーテル基、カルボン酸エステル基、スルホン酸エステル基、亜リン酸エステル基またはリン酸エステル基を含む基であることが好ましく、イオン性基との水素結合を形成することにより高分子電解質との親和性に優れ且つ化学的安定性にも優れることからポリエーテル基を含む基であることがより好ましい。その中でも、親水性基が下記一般式(C1)に示すポリアルキルエーテル構造または下記一般式(C2)に示すポリアクリレート構造を有する基であることが好ましく、特に高分子電解質との親和性に優れることから下記一般式(C1)に示すポリアルキルエーテルであることがより好ましい。
【0047】
【0048】
一般式(C1)においてq、rはr=2qを満たす自然数であり、sはアルキルエーテル構造の繰り返し数を意味する1以上1000以下の整数である。一般式(C2)において、Rは炭素数1~20のアルキル基、炭素数1~20のアルケニル基、炭素数6~20のアリール基から選ばれる少なくとも一種の基であり、tはアクリレート構造の繰り返し数を意味する1以上1000以下の整数である。(C1)または(C2)においてsまたはtが2以上である場合、複数のアルキルエーテル構造またはアクリレート構造は、それぞれ同じでも異なっていてもよい。
【0049】
親油性基としては、フッ素原子を含まない、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、フェニル基が挙げられる。
【0050】
本発明において、ノニオン性フッ素系界面活性剤が、150℃における蒸気圧が2kPa未満の化合物であることが好ましく、150℃における蒸気圧が1kPa以下の化合物がより好ましく、沸点を有さない、すなわち沸騰することなく熱分解を開始する化合物が最も好ましい。本発明においては特に、界面活性剤が、熱重量示差熱分析における5%重量減少温度が150℃以上の化合物であることが好ましい。かかる界面活性剤であれば製膜時に揮発・分解しないため電解質膜中に残存させることができる。
【0051】
本発明において、ノニオン性フッ素系界面活性剤が、重量平均分子量1000以上の化合物であることが好ましく、1500以上の化合物であることがより好ましく、2000以上の化合物であることが更に好ましい。また、ノニオン性フッ素系界面活性剤が、重量平均分子量10000以下の化合物であることが好ましく、8000以下の化合物であることがより好ましく、5000以下の化合物であることが更に好ましい。界面活性剤の重量平均分子量が1000未満の場合、揮発性が高く水などの溶媒に溶解しやすくなるため、製膜時の揮発や電解質膜としての使用中における溶出により、高分子電解質と多孔質基材や触媒層との親和性が低下し両者の界面において剥離・破断し耐久性が低下することがある。界面活性剤の重量平均分子量が10000を超える場合、電解質膜の中で界面活性剤のみが凝集し海島様の相分離構造を形成することにより、界面活性剤と高分子電解質や多孔質基材との界面において破断し耐久性が低下することがある。
【0052】
界面活性剤としては、フッ素含有基の分子量が200以上であることが好ましく、400以上であることがより好ましく、1000以上であることが更に好ましい。また、フッ素含有基の分子量が5000以下であることが好ましく、3000以下であることがより好ましく、2000以下であることが更に好ましい。フッ素含有基の分子量が200未満の場合、フッ素含有基における分子鎖の柔軟性や自由度が不足することにより、多孔質基材や触媒層との親和性が低下し、高分子電解質との界面において剥離・破断し耐久性が低下することがある。フッ素含有基の分子量が5000を超える場合、電解質膜の中で界面活性剤のみが凝集し海島様の相分離構造を形成することにより、界面活性剤と高分子電解質や多孔質基材との界面において破断し耐久性が低下することがある。
【0053】
親媒基として親水性基を有する界面活性剤の場合、親水性基の分子量が100以上であることが好ましく、200以上であることがより好ましく、500以上であることが更に好ましい。また、親水性基の分子量が4000以下であることが好ましく、2500以下であることがより好ましく、1500以下であることが更に好ましい。親水性基の分子量が100未満の場合、親水性基における分子鎖の柔軟性や自由度が不足することにより、高分子電解質との親和性が低下し、多孔質基材との界面において破断し耐久性が低下することがある。親水性基の分子量が4000を超える場合、水溶性が増加することにより燃料電池等の電気化学セルを運転している際に生成する水や酸に溶解し電解質膜から溶出するため、高分子電解質と多孔質基材との親和性が低下し、寸法変化時に高分子電解質と多孔質基材との界面において破断することにより耐久性が低下することがある。
【0054】
また、界面活性剤は、水、10%硫酸または10%水酸化ナトリウム水溶液へ溶解しない化合物であることが好ましく、水に溶解しない化合物であることより好ましく、これらのいずれにも溶解しない化合物であることが最も好ましい。ここで、溶解しないとは、25℃における飽和溶解度が0.1質量%未満であることを意味する。界面活性剤が当該溶媒および/または溶液に溶解する場合、燃料電池等の電気化学セルを運転している際に生成する水や酸に溶解し電解質膜から溶出することにより、高分子電解質と多孔質基材や触媒層との親和性が低下し、寸法変化時に高分子電解質と多孔質基材や触媒層との界面において剥離・破断することにより耐久性が低下することがある。
【0055】
本発明に用いられるノニオン性フッ素系界面活性剤としては、例えば、大日本インキ社製のメガファック(登録商標)F-251、同F-253、同F-281、同F-430、同F-477、同F-551、同F-552、同F-553、同F-554、同F-555、同F-556、同F-557、同F-558、同F-559、同F-560、同F-561、同F-562、同F-563、同F-565、同F-568、同F-570、同F-572、同F-574、同F-575、同F-576、同R-40、同R-40-LM、同R-41、同R-94、同RS-56、同RS-72-K、同RS-75、同RS-76-E、同RS-76-NS、同DS-21、同F444、同TF-2066、旭硝子社製のサーフロン(登録商標)S-141、同S-145、同S-241、同S-242、同S-243、同S-386、同S-420、同S-611、同S-651、ネオス社製のフタージェント(登録商標)251、同208M、同212M、同215M、同250、同209F、同222F、同245F、同208G、同218GL、同240G、同212P、同220P、同228P、同FTX-218、同DFX-18、同710FL、同710FM、同710FS、同730FL、同730FM、同610FM、同683、同601AD、同601ADH2、同602A、同650AC、同681、三菱マテリアル電子化成社製のEF-PP31N04、EF-PP31N09、EF-PP31N15、EF-PP31N22、3M社製のFC-4430、FC-4432、OMNOVA SOLUTIONS社製のPF-151N、PF-636、PF-6320、PF-656、PF-6520、PF-652-NF、PF-3320、ダイキン工業社製のTG-9131、ゼッフル(登録商標)GH-701、ソルベイ株式会社製のフルオロリンク(登録商標)A10-P等を挙げることができる。
【0056】
電解質膜におけるノニオン性フッ素系界面活性剤の含有量は、電解質膜に含まれる高分子電解質の総量に対する質量比として、0.005以上が好ましく、0.01以上がより好ましい。また、0.20以下が好ましく、0.10以下がより好ましい。当該比が0.005未満の場合、高分子電解質と含フッ素高分子多孔質基材や触媒層との親和性が低下し、寸法変化時に高分子電解質と含フッ素高分子多孔質基材や触媒層との界面において剥離・破断することにより耐久性が低下することがある。また、当該比が0.20を超える場合、界面活性剤が過剰となり電解質膜のプロトン伝導度が低下することがある。なお、ここでの界面活性剤の含有量は、完成した電解質膜中に残存している界面活性剤の量であり、製造過程で脱落した界面活性剤は除外した量を意味するものとする。
【0057】
電解質膜に含まれるノニオン性フッ素系界面活性剤の分析方法としては、高分子電解質膜と共に界面活性剤を所定の溶媒に溶解させる方法を挙げることができる。高分子電解質膜の溶液及び溶媒を除去した乾固物に対して、赤外線分光(IR)分析、1H核磁気共鳴(NMR)分析、19F NMR分析、MALDI-MS分析、熱分解GC/MS分析を行うことにより、各種界面活性剤の化学構造を分析するとともに、界面活性剤の含有量を算出することができる。また、前記溶液及び乾固物に対して溶媒抽出や再沈殿といった一般的な精製処理を施しノニオン性フッ素系界面活性剤のみを抽出した上での分析も好適である。
【0058】
前記ノニオン性界面活性剤の分析に用いる溶媒は、高分子電解質膜を構成するポリマー種によって適宜選択することができる。例えば、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチル-2-ピロリドン、ジメチルスルホキシド、スルホラン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、ヘキサメチルホスホントリアミド等の非プロトン性極性溶媒、γ-ブチロラクトン、酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル系溶媒、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネートなどのカーボネート系溶媒、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル等のアルキレングリコールモノアルキルエーテル、メタノール、エタノール、1‐プロパノール、イソプロピルアルコールなどのアルコール系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶媒、酢酸エチル、酢酸ブチル、乳酸エチル等のエステル系溶媒、ヘキサン、シクロヘキサンなどの炭化水素系溶媒、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒、クロロホルム、ジクロロメタン、1,2-ジクロロエタン、パークロロエチレン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼンなどのハロゲン化炭化水素系溶媒、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサンなどのエーテル系溶媒、アセトニトリルなどのニトリル系溶媒、ニトロメタン、ニトロエタン等のニトロ化炭化水素系溶媒、水などが好適に用いられる。また、これらの溶媒を二種以上の混合した混合溶媒を用いてもよい。
【0059】
高分子電解質膜が不溶性である場合は異なる分析手法を用いることができる。ノニオン性フッ素系界面活性剤を含む高分子電解質膜そのものに対してIR分析、固体NMR分析、MALDI-MS分析、熱分解GC/MS分析を行うことにより界面活性剤の化学構造や含有量を分析することができる。高分子電解質膜を溶媒に浸漬しノニオン性フッ素系界面活性剤のみを溶解、抽出した上での分析も好適である。
【0060】
本発明に用いられるノニオン性フッ素系界面活性剤としては、不純物として金属類を含有しないものが好ましい。ここで金属類とは金属元素の単体や金属イオン、非イオン性金属化合物、金属酸化物などが挙げられるがこれらに限定されない。金属類を含む場合、ノニオン性フッ素系界面活性剤の親水基や親油基と相互作用することにより、高分子電解質膜中での自由度が低下し界面活性剤としての機能が低下するため、寸法変化時に高分子電解質と多孔質基材や触媒層との界面において剥離・破断し耐久性が低下することがある。
【0061】
〔含フッ素高分子多孔質基材〕
本発明の電解質膜は、高分子電解質と、含フッ素高分子多孔質基材(以下、単に「多孔質基材」という場合がある。)とが複合化してなる複合層を有する電解質膜(以下、「複合電解質膜」という場合がある。)であると、より好ましい。このような態様においては、高分子電解質と触媒層との接合性向上効果のみならず、高分子電解質と多孔質基材との接合性向上効果も得られ、高い発電性能に加え、高い耐久性、寸法安定性を有する電解質膜とすることができる。ここで、複合化とは含フッ素高分子多孔質基材に含まれる空孔に高分子電解質が充填された状態を意味しており、前記複合層とは含フッ素高分子多孔質基材の空孔に高分子電解質が充填された構造を有する高分子電解質膜層を意味する。
【0062】
含フッ素高分子多孔質基材とは、フッ素原子含有高分子が成形されてなる多孔質基材である。フッ素原子含有高分子は一般的に疎水性の化合物であるため、高分子電解質と複合化することにより、電解質膜に耐水性を付与し、吸水時の寸法変化を抑制することができる。また、一般にフッ素原子含有高分子化合物は薬品への溶解性が低く化学反応に対し安定であるため、電解質膜に耐薬品性、化学的耐久性も付与することができる。
【0063】
含フッ素高分子多孔質基材は、耐水性の観点からフッ素原子を50質量%以上含有する多孔質基材であることが好ましく、60質量%以上のフッ素原子を含有する多孔質基材であることがより好ましく、70質量%以上のフッ素原子を含有する多孔質基材であることが特に好ましい。含フッ素高分子多孔質基材におけるフッ素原子含有量は、多孔質基材を燃焼させて発生したガスを吸収させた溶液のイオンクロマトグラフィーにより測定した値であるものとし、具体的には後述する実施例第(10)項に記載の方法で測定することができる。
【0064】
本発明において、含フッ素高分子多孔質基材が、X線光電子分光法(XPS)により測定される酸素原子含有量が10質量%以下の多孔質基材であることが好ましい。含フッ素高分子多孔質基材としては、酸素原子含有量が8%以下のものがより好ましく、5%以下のものがさらに好ましい。酸素原子含有量が10%を超える場合、含フッ素高分子多孔質基材の吸水性が増加し、複合電解質膜が吸水した際の寸法変化が大きくなる場合がある。含フッ素高分子多孔質基材の酸素原子含有量は、具体的には後述する実施例第(15)項に記載の方法で測定することができる。
【0065】
なお、高分子電解質と複合化された後の複合電解質膜中に存在する含フッ素高分子多孔質基材の分析を行う場合、複合電解質膜を高分子電解質のみを溶解する溶媒に浸漬することで含フッ素高分子多孔質基材のみを取り出すことが可能である。
【0066】
含フッ素高分子多孔質基材の材質としてのフッ素原子含有高分子としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリヘキサフルオロプロピレン、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、ポリビニリデンジフルオリド(PVdF)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、パーフルオロアルコキシフッ素樹脂(PFA)、エチレンクロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)などが挙げられるがこれらに限定されない。耐水性の観点から、PTFE、ポリヘキサフルオロプロピレン、FEP、PFAが好ましく、分子配向により高い機械強度を有することから、PTFEが特に好ましい。
【0067】
含フッ素高分子多孔質基材の形態としては、空孔の無いフッ素原子含有高分子膜を膜面方向に延伸し微細な空孔を形成させた延伸微多孔膜や、フッ素原子含有高分子化合物溶液を調製し製膜した後、溶媒を含んだままの状態でフッ素原子含有高分子化合物の貧溶媒に浸漬し凝固させた湿式凝固微多孔膜、フッ素原子含有高分子化合物溶液を紡糸した溶液紡糸ファイバーからなる不織布、フッ素原子含有高分子化合物を溶融し紡糸した溶融紡糸ファイバーからなる不織布などが挙げられる。
【0068】
溶液紡糸の方法としては、口金より高圧を加え繊維状に吐出したフッ素原子含有高分子溶液を熱風により乾燥させる乾式紡糸法や、繊維状に吐出したフッ素原子含有高分子溶液を当該フッ素原子含有高分子化合物の貧溶媒に浸漬し凝固させる湿式紡糸法、高電圧を引加した空間へフッ素原子含有高分子溶液を吐出し静電気により繊維状に引っ張るエレクトロスピニングなどが挙げられる。
【0069】
溶融紡糸法としては、溶融したフッ素原子含有高分子を口金より繊維状に吐出したメルトブロー紡糸が挙げられる。
【0070】
本発明で使用する含フッ素高分子多孔質基材の厚みに特に制限はなく、複合電解質膜の用途によって決めるべきものであるが、0.5μm以上50μm以下の膜厚を有するものが実用的に用いられ、2μm以上40μm以下の膜厚を有するものが好ましく用いられる。
【0071】
高分子電解質と複合化する前の含フッ素高分子多孔質基材の空隙率は、特に限定されないが、得られる複合電解質膜のプロトン伝導性と機械強度の両立の観点から、50~98%が好ましく、80~98%がより好ましい。なお、含フッ素高分子多孔質基材の空隙率Y1(体積%)は下記の数式によって求めた値と定義する。
【0072】
Y1=(1-Db/Da)×100
Da:含フッ素高分子多孔質基材を構成する高分子化合物の比重
Db:含フッ素高分子多孔質基材全体の比重
複合層における高分子電解質の充填率は50%以上であることが好ましく、60%以上であることがより好ましい。複合層の充填率が低い場合、プロトン伝導パスが失われることにより発電性能が低下することがある。なお、本発明における複合層の充填率は複合層の総体積に対し高分子電解質が占める割合を示す値でありIECより計算できる。具体的には実施例第(3)項に記載の方法で行うものとする。
【0073】
複合電解質膜は、複合層の両側または片側に、多孔質基材等の補強材と複合化されていない高分子電解質層が形成されていてもよい。このような層を有することにより、電解質膜と電極の接合性を向上させ、界面剥離を抑制することができる。補強材と複合化されていない高分子電解質層を複合層の両側または片側に接して形成する場合、当該層を構成する高分子電解質は、複合層内に充填された高分子電解質と同じポリマーであることが好ましい。
【0074】
このような複合電解質膜は、複合層を有することにより、面方向の寸法変化率を低下させることができる。面方向の寸法変化率の低下により、燃料電池の電解質膜として用いた際に、乾湿サイクル時に電解質膜のエッジ部分等に発生する膨潤収縮によるストレスを低減し、耐久性を向上させやすくすることができる。複合電解質膜の面方向の寸法変化率λxyは、10%以下であることが好ましく、8%以下であることがより好ましく、5%以下であることがさらに好ましい。
【0075】
また、複合電解質膜における面方向の寸法変化率は、MD、TDの異方性が小さいことが好ましい。ここでMDとはMachine Directionの略であり、後述の複合電解質膜製造工程において含フッ素高分子多孔質基材、コーター或いは塗工基材を動かす方向を意味する。含フッ素高分子多孔質基材、コーター、塗工基材のいずれを動かすかは塗工プロセスに応じて適宜決定するものであり特に限定されることはない。含フッ素高分子多孔質基材、コーター、塗工基材の内、複数要素を動かすプロセスを適用する場合、通常全ての要素を同じ方向に動かすことが多いが、異なる方向に動かすプロセスを適用しても構わない。この場合、(1)塗工基材、(2)コーター、(3)含フッ素高分子多孔質基材の順に動かしているか否かを判断し、動かしている要素の内、最も順位の高いものと同じ方向をMDと定義する。TDとはTraverse Directionの略であり複合電解質膜の面方向において、MDと直交する方向である。
【0076】
異方性が大きい場合、燃料電池のセルデザインを制約したり、寸法変化の大きい方向と直交するエッジに膨潤収縮によるストレスが集中し、その部分から電解質膜の破断が始まったりすることがある。具体的には、TDの寸法変化率λTDに対するMDの寸法変化率λMDの比λMD/λTDが、0.5≦λMD/λTD≦2.0を満たすことが好ましい。
【0077】
ここで、寸法変化率とは、乾燥状態における複合電解質膜の寸法と湿潤状態における複合電解質膜の寸法の変化を表す指標であり、具体的な測定は実施例第(5)項に記載の方法で行う。
【0078】
複合電解質膜における複合層の厚みは、とくに限定されるものでないが、0.5μm以上50μm以下が好ましく、2μm以上40μm以下がより好ましい。複合層が厚い場合、電解質膜の物理的耐久性が向上する一方で、膜抵抗が増大する傾向がある。逆に、複合層が薄い場合、発電性能が向上する一方で、物理的耐久性に課題が生じ、電気短絡や燃料透過などの問題が生じやすい傾向がある。
【0079】
〔触媒層〕
触媒層は、電解質膜の両面に接して形成された触媒粒子を含む層であり、一般的には触媒粒子およびフッ素系高分子電解質からなる高分子電解質を含む層である。触媒層がフッ素系高分子電解質からなる高分子電解質を含む場合、接合性向上効果が顕著に発現するため、特に好ましい態様である。フッ素系高分子電解質としては、前述のものを用いることをできる。
【0080】
本発明の触媒層付電解質膜において、触媒層がイオン性基を有するパーフルオロ系ポリマーを含むことが、発電性能及び化学的耐久性の点で好ましい。イオン性基を有するパーフルオロ系ポリマーを用いることで、触媒層に含まれるイオン性基の酸性度が高くなりプロトン伝導度がより向上するとともに、化学的に安定なC-F結合を多数有することから触媒層の化学的耐久性をより向上させることができる。
【0081】
触媒粒子としては、触媒物質が炭素粒子に担持された触媒担持炭素粒子が一般的に用いられる。触媒物質としては、白金だけでなく、白金族元素のパラジウム、ルテニウム、イリジウム、ロジウム、オスミウムの他、鉄、鉛、銅、クロム、コバルト、ニッケル、マンガン、バナジウム、モリブデン、ガリウム、アルミニウム等の金属又はこれらの合金、又は酸化物、複酸化物等があげられる。炭素粒子の種類は、微粒子状で導電性を有し、触媒との反応により腐食、劣化しないものであれば特に限定されることはないが、カーボンブラック、グラファイト、黒鉛、活性炭、カーボンファイバー、カーボンナノチューブ、及び、フラーレン粒子が使用できる。
【0082】
触媒層における、触媒粒子の含有量に対する高分子電解質の含有量の質量比は、0.2以上2.5以下の範囲が好ましく、0.5以上2.0以下が特に好ましい。0.2よりも小さいと、触媒層が割れることがある。2.5よりも大きいと、ガス拡散性が損なわれ、発電性能が低下することがある。
【0083】
触媒層の厚みは、好ましくは0.03μm~2000μmである。良好な発電性能および耐久性を得やすくするには、触媒層の厚みが0.5μm以上であることがより好ましく、1~30μmであることが特に好ましい。
【0084】
<電解質膜の製造方法>
本発明の電解質膜は、一例として、高分子電解質とノニオン性フッ素系界面活性剤とを溶媒に溶解した高分子電解質-界面活性剤混合溶液(以下、単に「混合溶液」という場合がある)を基材上に流延塗布した後、乾燥させて溶媒を除去することにより製造することができる。
【0085】
混合溶液における界面活性剤の含有量は、前述の通り、高分子電解質の総量に対する質量比として、0.005以上が好ましく0.01以上がより好ましい。また、0.20以下が好ましく、0.10以下がより好ましい。当該比が0.005未満の場合、高分子電解質と触媒層の親和性が低下し、発電性能の向上効果が十分に得られないことがある。また、当該比が0.20を超える場合、界面活性剤が過剰となり電解質膜のプロトン伝導度が低下することがある。
【0086】
混合溶液に使用する溶媒は、ポリマー種によって適宜選択することができる。溶媒としては、例えば、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチル-2-ピロリドン、ジメチルスルホキシド、スルホラン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、ヘキサメチルホスホントリアミド等の非プロトン性極性溶媒、γ-ブチロラクトン、酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル系溶媒、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネートなどのカーボネート系溶媒、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル等のアルキレングリコールモノアルキルエーテル、メタノール、エタノール、1‐プロパノール、イソプロピルアルコールなどのアルコール系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶媒、酢酸エチル、酢酸ブチル、乳酸エチル等のエステル系溶媒、ヘキサン、シクロヘキサンなどの炭化水素系溶媒、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒、クロロホルム、ジクロロメタン、1,2-ジクロロエタン、パークロロエチレン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼンなどのハロゲン化炭化水素系溶媒、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサンなどのエーテル系溶媒、アセトニトリルなどのニトリル系溶媒、ニトロメタン、ニトロエタン等のニトロ化炭化水素系溶媒、水などが好適に用いられる。また、これらの溶媒を二種以上の混合した混合溶媒を用いてもよい。
【0087】
混合溶液における高分子電解質の濃度は、5~40質量%が好ましく、10~25質量%がより好ましい。この範囲の濃度であれば、表面平滑性に優れた電解質膜が得られやすくなる。混合溶液の濃度が低すぎると、溶液粘度が低すぎて、電解質膜の膜厚が不均一となる場合がある。一方、電解質-界面活性剤混合溶液の濃度が高すぎると、溶液粘度が高すぎて、電解質膜の表面平滑性が悪化する場合がある。
【0088】
混合溶液の溶液粘度は、好ましくは100~50,000mPa・s、より好ましくは300~10,000mPa・sである。溶液粘度が低すぎる場合、電解質膜の膜厚が不均一となることがある。一方、溶液粘度が高すぎる場合、電解質膜の表面平滑性が悪化することがある。
【0089】
混合溶液を流延塗布する方法としては、ナイフコート、ダイレクトロールコート、マイヤーバーコート、グラビアコート、リバースコート、エアナイフコート、スプレーコート、刷毛塗り、ディップコート、ダイコート、バキュームダイコート、カーテンコート、フローコート、スピンコート、スクリーン印刷、インクジェットコートなどの手法が適用できる。ここで混合溶液を流延塗布するために使用する装置をコーターと呼ぶ。
【0090】
基材上に混合溶液を塗布した後は、乾燥工程を経ることで、電解質膜を形成することができる。乾燥工程では、電解質-界面活性剤混合溶液の塗膜を加熱し、溶媒を蒸発させる。加熱手段は、溶媒が蒸発できれば特に限定されることはないが、例えば、オーブンやヒーター等の加熱装置、赤外線、温風等を用いて電解質膜の近傍の温度を制御する装置等を用いることができる。また、基材を介して塗膜に熱を伝導してもよい。加熱の温度範囲は、溶媒の沸点に近く、電解質膜のガラス転移温度以下であることが好ましい。また、加熱せず、減圧や気流の導入のみで溶媒を除去することも可能である。
【0091】
乾燥工程における乾燥時間や乾燥温度は適宜実験的に決めることができるが、少なくとも基材から剥離しても自立膜になる程度に乾燥することが好ましい。乾燥の方法は基材の加熱、熱風、赤外線ヒーター等の公知の方法が選択できる。乾燥温度は、高分子電解質や界面活性剤の分解を考慮して200℃以下が好ましく、150℃以下がより好ましい。
【0092】
混合溶液中の高分子電解質は、イオン性基がアルカリ金属またはアルカリ土類金属の陽イオンと塩を形成している状態のものを用いてもよい。この場合、基材上に膜を形成し、好ましくは乾燥工程を経た後に、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の陽イオンをプロトンと交換する工程を有していても良い。この工程は、形成された膜を酸性水溶液と接触させる工程であることが好ましい。また、当該接触は、形成された膜を酸性水溶液に浸漬する工程であることがより好ましい。この工程においては、酸性水溶液中のプロトンがイオン性基とイオン結合している陽イオンと置換されるとともに、残留している水溶性の不純物や、残存モノマー、溶媒、残存塩などが同時に除去される。酸性水溶液は特に限定されないが、硫酸、塩酸、硝酸、酢酸、トリフルオロメタンスルホン酸、メタンスルホン酸、リン酸、クエン酸などを用いることが好ましい。酸性水溶液の温度や濃度等も適宜決定すべきであるが、生産性の観点から0℃以上80℃以下の温度で、3質量%以上、30質量%以下の硫酸水溶液を使用することが好ましい。
【0093】
〔複合電解質膜の製造方法〕
本発明において、複合電解質膜は、第一の態様として、高分子電解質とノニオン性フッ素系界面活性剤とを混合した高分子電解質-界面活性剤混合溶液である含浸溶液を含フッ素高分子多孔質基材に含浸した後に、乾燥させて含浸溶液に含まれる溶媒を除去することにより製造することができる。第一の態様、および後述の第二の態様の製造方法で使用する高分子電解質、含フッ素高分子多孔質基材およびノニオン性フッ素系界面活性剤の詳細は前述の通りであるため、ここでは省略する。
【0094】
また、本発明において、複合電解質膜は、第二の態様として、予めノニオン性フッ素系界面活性剤を付与した含フッ素高分子多孔質基材に高分子電解質溶液である含浸溶液を含浸した後に、乾燥させて前記含浸溶液に含まれる溶媒を除去することによっても製造することができる。
【0095】
この場合、界面活性剤を含フッ素高分子多孔質基材に付与する方法としては、
(1)界面活性剤溶液に浸漬した含フッ素高分子多孔質基材を引き上げながら余剰の溶液を除去して付与量を制御する方法
(2)含フッ素高分子多孔質基材上に界面活性剤溶液を流延塗布する方法
(3)界面活性剤溶液を流延塗布した支持基材上に含フッ素高分子多孔質基材を貼り合わせて含浸させる方法
が挙げられる。
【0096】
界面活性剤が液状やオイル状の場合は、前記界面活性剤溶液の代わりに、界面活性剤そのものを含浸させても構わないが、多孔質基材中へ界面活性剤が浸透しやすくなるように粘度を調整したり、過剰量の界面活性剤が付与されないように希釈したりするために、所定の溶媒を用いて溶解させた界面活性剤溶液を用いることが好ましい。
【0097】
界面活性剤溶液を流延塗布する方法としては、ナイフコート、ダイレクトロールコート、マイヤーバーコート、グラビアコート、リバースコート、エアナイフコート、スプレーコート、刷毛塗り、ディップコート、ダイコート、バキュームダイコート、カーテンコート、フローコート、スピンコート、スクリーン印刷、インクジェットコートなどの手法が適用できる。
【0098】
第二の態様においては、界面活性剤は、多孔質基材の質量を100質量%として、5質量%以上付与することが好ましく10質量%以上付与することがより好ましい。また、同様に30質量%以下付与することが好ましく、20質量%以下付与することがより好ましい。5質量%未満の場合、高分子電解質と多孔質基材の親和性が低下し複合化が出来ないことがある。30質量%を超える場合、界面活性剤が過剰となり多孔質基材の空孔を閉塞し、複合電解質膜のプロトン伝導度が低下することがある。
【0099】
また、第二の態様においては、界面活性剤の付与により多孔質基材表面の高分子電解質溶液に使用する溶媒の接触角が120度以下となることが好ましく、80度以下となることがより好ましく、50度以下となることが更に好ましい。接触角が120度を超える場合、高分子電解質溶液が界面活性剤含有多孔質基材に含浸しにくくなることがある。
【0100】
さらに、第二の態様においては、界面活性剤として、含浸する高分子電解質溶液の溶媒へ不溶性の化合物を用いることが好ましい。このような界面活性剤を使用した場合、高分子電解質溶液の含浸時に多孔質基材表面や、触媒層と接する複合電解質膜の表面から高分子電解質へ界面活性剤が拡散することを防止し、界面活性剤としての機能を十分に発揮しつつ、界面活性剤が存在することによるプロトン伝導度の低下を防止することができる。
【0101】
第一および第二の態様において、含浸溶液中の高分子電解質の濃度は、3~40質量%が好ましく、5~25質量%がより好ましい。この範囲の濃度であれば、多孔質基材の空隙に高分子電解質を充分に充填でき、かつ表面平滑性に優れた複合層が得られやすくなる。高分子電解質の濃度が低すぎると、含フッ素高分子多孔質基材の空隙への高分子電解質の充填効率が低下し、複数回の浸漬処理が必要となる場合がある。一方、高分子電解質の濃度が高すぎると、溶液粘度が高すぎて、多孔質基材の空隙に対しポリマーを充分に充填できない場合がある。
【0102】
含浸溶液(第一の態様における「高分子電解質-界面活性剤混合溶液」または第二の態様における「高分子電解質溶液」)を含フッ素高分子多孔質基材に含浸する方法としては、
(1)含浸溶液に浸漬した含フッ素高分子多孔質基材を引き上げながら余剰の溶液を除去して膜厚を制御する方法
(2)含フッ素高分子多孔質基材上に含浸溶液を流延塗布する方法
(3)含浸溶液を流延塗布した支持基材上に含フッ素高分子多孔質基材を貼り合わせて含浸させる方法
が挙げられる。
【0103】
溶媒の乾燥は、(3)の方法で含浸を行った場合はそのままの状態で行うことができる。また、(1)または(2)の方法で含浸を行った場合、別途用意した支持基材に含フッ素高分子多孔質基材を貼り付けた状態で含浸溶液の溶媒を乾燥する方法が、複合電解質膜の皺や厚みムラなどが低減でき、膜品位を向上させる点からは好ましい。
【0104】
含浸溶液を流延塗布する方法としては、ナイフコート、ダイレクトロールコート、マイヤーバーコート、グラビアコート、リバースコート、エアナイフコート、スプレーコート、刷毛塗り、ディップコート、ダイコート、バキュームダイコート、カーテンコート、フローコート、スピンコート、スクリーン印刷、インクジェットコートなどの手法が適用できる。
【0105】
〔触媒層付電解質膜の製造方法〕
本発明の触媒層付電解質膜(Catalyst Coated Membrane:CCM)は、本発明の電解質膜の両面に触媒層が形成されてなる。触媒層を形成する方法は特に限定されるものではないが、工程が簡便であることやプロセスコストを抑制できることから、触媒層インクを塗布して乾燥する方法や、予めデカール基材上に触媒層が形成されてなる触媒層デカールを用いて触媒層を転写した後に乾燥する方法が好ましい。
【0106】
触媒層インクを塗布する方法の場合、塗布方法は、目的の形状に塗工できる方法であれば特に限定されることはなく、前述の混合溶液の塗布工程で述べた方法を用いることができる。
【0107】
触媒層インクに含まれる溶媒は、高分子電解質および触媒担持炭素粒子を分散する溶媒であれば特に限定されることはないが、加熱により蒸発させて除去しやすい溶媒が好ましい。例えば、沸点が140℃以下の溶媒であることが好ましい。触媒層インクの溶媒としては、具体的には、水、メタノール、エタノール、1-プロパノ―ル、2-プロパノ―ル、1-ブタノ-ル、2-ブタノ-ル、イソブチルアルコール、tert-ブチルアルコール、ペンタノ-ルなどのアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、ペンタノン、ヘキサノン、へプタノン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン、アセトニルアセトン、ジイソブチルケトンなどのケトン類、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、アニソール、メトキシトルエン、ジブチルエーテルなどのエーテル類、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ノルマルプロピル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル、乳酸メチル、乳酸エチル、乳酸ブチルなどのエステル類、その他ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ジアセトンアルコール、1-メトキシ-2-プロパノールなどを一種または二種以上混合したものを用いることができる。
【0108】
触媒層デカールを用いて転写する方法の場合、まず、基材上に触媒層インクを塗布し、必要に応じて乾燥工程を経ることで触媒層デカールを作製する。そして、電解質膜をカソード電極側の触媒層デカールと、アノード電極側の触媒層デカールで挟み、両デカールの触媒層が設けられた面と電解質膜とが接するようにしてホットプレスすることで、触媒層付電解質膜を得ることができる。ホットプレスの温度や圧力は、電解質膜の厚さ、水分率、触媒層やデカール基材により適宜選択すればよいが、工業的生産性や電解質膜材料の熱分解抑制などの観点から0℃~250℃の範囲で行うことが好ましく、触媒層に含有される高分子電解質のガラス転移温度より大きく、なおかつ200℃以下で行うことがより好ましい。ホットプレスにおける加圧は、電解質膜や電極保護の観点からできる限り弱い方が好ましく、平板プレスの場合、10MPa以下の圧力が好ましい。
【0109】
触媒層インク塗布時に使用するデカール基材としては、電解質膜製膜時に使用する基材と同様の樹脂フィルムや基板が使用できるほか、PTFE、ポリヘキサフルオロプロピレン、ETFE、エチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、FEP、PFA、PVdF等のフッ素樹脂を用いることができる。耐熱性、耐溶剤性に加えて、化学的安定性や離型性の点から、フッ素樹脂フィルムを用いることが好ましい。
【0110】
触媒層の乾燥は、前述の混合溶液の乾燥で述べた方法と同様の方法を用いることができる。
【0111】
〔用途〕
本発明の電解質膜は、種々の用途に適用可能である。例えば、人工皮膚などの医療用途、ろ過用途、耐塩素性逆浸透膜などのイオン交換樹脂用途、各種構造材用途、電気化学用途、加湿膜、防曇膜、帯電防止膜、脱酸素膜、太陽電池用膜、ガスバリアー膜に適用可能である。中でも種々の電気化学用途により好ましく利用できる。電気化学用途としては、例えば、固体高分子形燃料電池、レドックスフロー電池、水電解装置、クロロアルカリ電解装置、電気化学式水素ポンプ、水電解式水素発生装置が挙げられる。
【0112】
固体高分子形燃料電池、電気化学式水素ポンプ、および水電解式水素発生装置において、電解質膜は、両面に触媒層、電極基材及びセパレータが順次積層された状態で使用される。特に、電解質膜の両面に触媒層及びガス拡散基材を順次積層させたもの(即ち、ガス拡散基材/触媒層/電解質膜/触媒層/ガス拡散基材の層構成のもの)は、膜電極複合体(MEA)と称されている。本発明の電解質膜は、前記CCMおよびMEAを構成する電解質膜として好適に用いられる。
【0113】
本発明の膜電極複合体、および本発明の固体高分子形燃料電池は、本発明の電解質膜を用いてなる。
【実施例】
【0114】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、各種測定条件は次の通りである。
【0115】
(1)ポリマーの分子量
ポリマー溶液の数平均分子量及び重量平均分子量をGPCにより測定した。紫外検出器と示差屈折計の一体型装置として東ソー社製HLC-8022GPCを用いた。また、GPCカラムとして東ソー社製TSK gel SuperHM-H(内径6.0mm、長さ15cm)2本を用いた。N-メチル-2-ピロリドン溶媒(臭化リチウムを10mmol/L含有するN-メチル-2-ピロリドン溶媒)にて、流量0.2mL/minで測定し、標準ポリスチレン換算により数平均分子量及び重量平均分子量を求めた。
【0116】
(2)イオン交換容量(IEC)
中和滴定法により測定した。測定は3回実施し、その平均値を取った。
【0117】
1.プロトン置換し、純水で十分に洗浄した電解質膜の膜表面の水分を拭き取った後、100℃にて12時間以上真空乾燥し、乾燥重量を求めた。
【0118】
2.電解質膜に5質量%硫酸ナトリウム水溶液を50mL加え、12時間静置してイオン交換した。
【0119】
3.0.01mol/L水酸化ナトリウム水溶液を用いて、生じた硫酸を滴定した。指示薬として市販の滴定用フェノールフタレイン溶液0.1w/v%を加え、薄い赤紫色になった点を終点とした。
【0120】
4.IECは下記式により求めた。
【0121】
IEC(meq/g)=〔水酸化ナトリウム水溶液の濃度(mmol/ml)×滴下量(ml)〕/試料の乾燥重量(g)
(3)複合層における高分子電解質の充填率(複合層の充填率)
光学顕微鏡または走査形電子顕微鏡(SEM)で複合電解質膜の断面を観察し高分子電解質と含フッ素高分子多孔質基材からなる複合層の厚みをT1、複合層の外側に別の層がある場合はそれらの厚みをT2、T3とした。複合層を形成する高分子電解質の比重をD1、複合層の外側の別の層を形成する高分子電解質の比重をそれぞれのD2、D3、複合電解質膜の比重をDとした。それぞれの層を形成するポリマーのIECをI1、I2、I3、複合電解質膜のIECをIとすると、複合層中の高分子電解質の充填率Y2(体積%)は下式で求めた。
【0122】
Y2=[(T1+T2+T3)×D×I-(T2×D2×I2+T3×D3×I3)]/(T1×D1×I1)×100
(4)透過型電子顕微鏡(TEM)トモグラフィーによる相分離構造の観察
染色剤として2質量%酢酸鉛水溶液中に電解質膜の試料片を浸漬させ、25℃下で48時間静置して染色処理を行った。染色処理された試料を取りだし、エポキシ樹脂で包埋し、可視光を30秒照射し固定した。ウルトラミクロトームを用いて室温下で薄片100nmを切削し、以下の条件に従って観察を実施した。
【0123】
装 置:電界放出型電子顕微鏡 (HRTEM) JEOL製 JEM2100F
画像取得:Digital Micrograph
システム:マーカー法
加速電圧 :200 kV
撮影倍率 :30,000 倍
傾斜角度 :+61°~-62°
再構成解像度:0.71 nm/pixel
3次元再構成処理は、マーカー法を適用した。3次元再構成を実施する際の位置合わせマーカーとして、コロジオン膜上に付与したAuコロイド粒子を用いた。マーカーを基準として、+61°から-62°の範囲で、試料を1°毎に傾斜しTEM像を撮影する連続傾斜像シリーズより取得した計124枚のTEM像を基にCT再構成処理を実施し、3次元相分離構造を観察した。
【0124】
(5)熱水試験による寸法変化率(λxy)測定
電解質膜を約5cm×約5cmの正方形に切り取り、温度23℃±5℃、湿度50%±5%の調温調湿雰囲気下に24時間静置後、ノギスでMDの長さとTDの長さ(MD1とTD1)を測定した。該電解質膜を80℃の熱水中に8時間浸漬後、再度ノギスでMDの長さとTDの長さ(MD2とTD2)を測定し、面方向におけるMDとTDの寸法変化率(λMDとλTD)および面方向の寸法変化率(λxy)(%)を下式より算出した。
【0125】
λMD=(MD2-MD1)/MD1×100
λTD=(TD2-TD1)/TD1×100
λxy=(λMD+λTD)/2
(6)電解質膜を使用した膜電極複合体(MEA)の作製
市販の電極、BASF社製燃料電池用ガス拡散電極“ELAT(登録商標)LT120ENSI”5g/m2Ptを5cm角にカットしたものを1対準備し、燃料極、空気極として電解質膜を挟むように対向して重ね合わせ、150℃、5MPaで3分間加熱プレスを行い、乾湿サイクル耐久性評価用MEAを得た。
【0126】
(7)プロトン伝導度
膜状の試料を25℃の純水に24時間浸漬した後、80℃、相対湿度25~95%の恒温恒湿槽中にそれぞれのステップで30分保持し、定電位交流インピーダンス法でプロトン伝導度を測定した。測定装置としては、Solartron社製電気化学測定システム(Solartron 1287 Electrochemical InterfaceおよびSolartron 1255B Frequency Response Analyzer)を使用し、2端子法で定電位インピーダンス測定を行い、プロトン伝導度を求めた。交流振幅は、50mVとした。サンプルは幅10mm、長さ50mmの膜を用いた。測定治具はフェノール樹脂で作製し、測定部分は開放させた。電極として、白金板(厚さ100μm、2枚)を使用した。電極は電極間距離10mm、サンプル膜の表側と裏側に、互いに平行にかつサンプル膜の長手方向に対して直交するように配置した。
【0127】
(8)乾湿サイクル耐久性
上記(6)で作製したMEAを英和(株)製JARI標準セル“Ex-1”(電極面積25cm2)にセットし、セル温度80℃の状態で、両極に160%RHの窒素を2分間供給し、その後両電極に0%RHの窒素(露点-20℃以下)を2分間供給するサイクルを繰り返した。1000サイクルごとに水素透過量の測定を実施し、水素透過電流が初期電流の10倍を越えた時点を乾湿サイクル耐久性とした。
【0128】
水素透過量の測定は、一方の電極に燃料ガスとして水素、もう一方の電極に窒素を供給し、加湿条件:水素ガス90%RH、窒素ガス:90%RHで試験を行った。開回路電圧が0.2V以下になるまで保持し、0.2~0.7Vまで1mV/secで電圧を掃引し0.7Vにおける電流値を水素透過電流とした。
【0129】
(9)セル電圧
田中貴金属工業株式会社製白金触媒担持炭素粒子TEC10E50E(白金担持率50質量%)と、デュポン(DuPont)社製ナフィオン(登録商標)”(”Nafion(登録商標)”)を2:1の質量比となるように調整した触媒インクを、市販のポリテトラフルオロエチレン製フィルムに白金量が0.3mg/cm2となるように塗布し、触媒デカールを作製した。
【0130】
上記触媒デカールを5cm角にカットしたもの2枚準備し、電解質膜を挟むように対向して重ね合わせ、150℃、5MPaで3分間加熱プレスを行い、触媒層付電解質膜を得た。得られた触媒層付電解質膜を用いて、一方の面をカソード極、もう一方の面をアノード極としてMEAを作製した。
【0131】
得られたMEAを英和(株)製JARI標準セル“Ex-1”(電極面積25cm2)にセットし、セル温度90℃、燃料ガス:水素、酸化ガス:空気、ガス利用率:水素70%/酸素40%、加湿条件;アノード側30%RH/カソード30%RH、背圧0.1MPa(両極)において電流-電圧(I-V)測定した。1A/cm2時のセル電圧を読み取った。
【0132】
(10)含フッ素高分子多孔質基材に含まれるフッ素原子含有量測定
以下の条件に従い、含フッ素高分子多孔質基材試料を秤量し分析装置の燃焼管内で燃焼させ、発生したガスを溶液に吸収後、吸収液の一部をイオンクロマトグラフィーにより分析した。
<燃焼・吸収条件>
システム:AQF-2100H、GA-210(三菱化学製)
電気炉温度:Inlet 900℃、Outlet 1000℃
ガス:Ar/O2 200mL/min、O2 400mL/min
吸収液:H2O2 0.1%、内標Br 8μg/mL
吸収液量:20mL
<イオンクロマトグラフィー・アニオン分析条件>
システム:ICS1600(DIONEX製)
移動相:2.7mmol/L Na2CO3/0.3mmol/L NaHCO3
流速:1.50mL/min
検出器:電気伝導度検出器
注入量:20μL
(11)界面活性剤の化学構造分析
赤外線分光(IR)分析、1H核磁気共鳴(NMR)分析、19F NMR分析、MALDI-MS分析、熱分解GC/MS分析を行い、各種界面活性剤の化学構造を分析し、フッ素原子及び親水性元素の含有量(酸素、窒素、リン、硫黄およびホウ素の合計)を算出した。
【0133】
(12)界面活性剤の重量平均分子量測定
下記条件に従い、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)分析により界面活性剤の重量平均分子量を測定した。
装置:ゲル浸透クロマトグラフGPC(機器No.GPC-27)
検出器:紫外可視吸収分光検出器UV(島津製作所製SPD-20AV)
カラム:TSKgel Super HZM-N 2本
SuperHZ4000、2500、1000各1本
溶媒:テトラヒドロフラン(THF)
流速:0.45mL/min
カラム温度:40℃
注入量:0.02mL
標準試料:東ソー製およびAgilent単分散ポリエチレングリコール(PEG)
データ処理:TRC製GPCデータ処理システム
(13)複合電解質膜の断面SEM測定
下記条件に従い、断面SEM測定を行った。得られた画像から中央の白色領域を複合層、両隣の黒色領域を外部の別層としその厚みを測定した。
装置:電界放射型走査電子顕微鏡(FE-SEM)S-4800(日立ハイテクノロジーズ製)
加速電圧:2.0kV
前処理:BIB法にて作製した断面試料にPt コートして測定した。
BIB法:アルゴンイオンビームを使用した断面試料作製装置。試料直上に遮蔽板を置き、その上からアルゴンのブロードイオンビームを照射してエッチングを行うことで観察面・分析面(断面)を作製する。
【0134】
(14)電解質膜に含まれる界面活性剤量
以下の条件に従い、電解質膜を秤量し分析装置の燃焼管内で燃焼させ、発生したガスを溶液に吸収後、吸収液の一部をイオンクロマトグラフィーにより分析した。多孔質基材を含まない電解質膜の場合、本分析値から予め測定しておいた界面活性剤を含まない高分子電解質の寄与を除外することにより界面活性剤の寄与を算出し、界面活性剤に含まれるフッ素原子量から電解質膜に含まれる界面活性剤量を算出して、電解質膜中に含まれる高分子電解質に対する界面活性剤の比(界面活性剤/高分子電解質)を求めた。複合電解質膜の場合は、本分析値から予め測定しておいた界面活性剤を含まない高分子電解質の寄与および(10)により予め測定しておいた含フッ素高分子多孔質基材の寄与を除外することにより、界面活性剤の寄与を算出し、界面活性剤に含まれるフッ素原子量から複合電解質膜に含まれる界面活性剤量を算出して、複合膜中に含まれる高分子電解質に対する界面活性剤の比(界面活性剤/高分子電解質)を求めた。
<燃焼・吸収条件>
システム:AQF-2100H、GA-210(三菱化学製)
電気炉温度:Inlet 900℃、Outlet 1000℃
ガス:Ar/O2 200mL/min、O2 400mL/min
吸収液:H2O2 0.1%、内標Br 8μg/mL
吸収液量:20mL
<イオンクロマトグラフィー・アニオン分析条件>
システム:ICS1600(DIONEX製)
移動相:2.7mmol/L Na2CO3/0.3mmol/L NaHCO3
流速:1.50mL/min
検出器:電気伝導度検出器
注入量:20μL
(15)XPSによる多孔質基材の酸素含有量測定
予め5mm角の大きさに切断した多孔質基材を超純水でリンスし、室温、67Paにて10時間乾燥させた後、液体窒素で30分冷却し、凍結粉砕機にて5分間の処理を2回実施することにより、サンプルを準備した。準備したサンプルの組成を測定し、酸素原子含有量を算出した。測定装置、条件としては、以下の通りである。
測定装置:Quantera SXM
励起X線:monochromatic Al Kα1,2線(1486.6eV)
X線径:200μm
光電子脱出角度:45°
[合成例1]
(下記一般式(G1)で表される2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1,3-ジオキソラン(K-DHBP)の合成)
攪拌器、温度計及び留出管を備えた 500mlフラスコに、4,4’-ジヒドロキシベンゾフェノン49.5g、エチレングリコール134g、オルトギ酸トリメチル96.9g及びp-トルエンスルホン酸一水和物0.50gを仕込み溶解した。その後78~82℃で2時間保温攪拌した。更に、内温を120℃まで徐々に昇温、ギ酸メチル、メタノール、オルトギ酸トリメチルの留出が完全に止まるまで加熱した。この反応液を室温まで冷却後、反応液を酢酸エチルで希釈し、有機層を5%炭酸カリウム水溶液100mlで洗浄し分液後、溶媒を留去した。残留物にジクロロメタン80mlを加え結晶を析出させ、濾過し、乾燥して2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1,3-ジオキソラン52.0gを得た。この結晶をGC分析したところ99.9%の2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1,3-ジオキソランと0.1%の4,4’-ジヒドロキシベンゾフェノンであった。
【0135】
【0136】
[合成例2]
(下記一般式(G2)で表されるジソジウム-3,3’-ジスルホネート-4,4’-ジフルオロベンゾフェノンの合成)
4,4’-ジフルオロベンゾフェノン109.1g(アルドリッチ試薬)を発煙硫酸(50%SO3)150mL(和光純薬試薬)中、100℃で10時間反応させた。その後、多量の水中に少しずつ投入し、NaOHで中和した後、食塩(NaCl)200gを加え合成物を沈殿させた。得られた沈殿を濾別し、エタノール水溶液で再結晶し、上記一般式(G2)で示されるジソジウム-3,3’-ジスルホネート-4,4’-ジフルオロベンゾフェノンを得た。純度は99.3%であった。
【0137】
【0138】
[合成例3]
(下記一般式(G3)で表されるイオン性基を含有しないオリゴマーa1の合成)
かき混ぜ機、窒素導入管、Dean-Starkトラップを備えた1000mL三口フラスコに、炭酸カリウム16.59g(アルドリッチ試薬、120mmol)、前記合成例1で得たK-DHBP25.8g(100mmol)および4,4’-ジフルオロベンゾフェノン20.3g(アルドリッチ試薬、93mmol)を入れた。窒素置換後、N-メチルピロリドン(NMP)300mL、トルエン100mL中で160℃で脱水し、昇温してトルエン除去、180℃で1時間重合を行った。多量のメタノールに再沈殿精製を行い、イオン性基を含有しないオリゴマー(末端:ヒドロキシル基)を得た。数平均分子量は10000であった。
【0139】
かき混ぜ機、窒素導入管、Dean-Starkトラップを備えた500mL三口フラスコに、炭酸カリウム1.1g(アルドリッチ試薬、8mmol)、イオン性基を含有しない前記オリゴマー(末端:ヒドロキシル基)を20.0g(2mmol)を入れ、窒素置換後、N-メチルピロリドン(NMP)100mL、トルエン30mL中で100℃で脱水後、昇温してトルエンを除去し、デカフルオロビフェニル4.0g(アルドリッチ試薬、12mmol)を入れ、105℃で1時間反応を行った。多量のイソプロピルアルコールで再沈殿することで精製を行い、下記式(G3)で示されるイオン性基を含有しないオリゴマーa1(末端:フルオロ基)を得た。数平均分子量は11000であった。
【0140】
【0141】
[合成例4]
(下記一般式(G4)で表されるイオン性基を含有するオリゴマーa2の合成)
かき混ぜ機、窒素導入管、Dean-Starkトラップを備えた1000mL三口フラスコに、炭酸カリウム27.6g(アルドリッチ試薬、200mmol)、前記合成例1で得たK-DHBP12.9g(50mmol)および4,4’-ビフェノール9.3g(アルドリッチ試薬、50mmol)、前記合成例2で得たジソジウム-3,3’-ジスルホネート-4,4’-ジフルオロベンゾフェノン39.3g(93mmol)、および18-クラウン-6、 17.9g(和光純薬82mmol)を入れ、窒素置換後、N-メチルピロリドン(NMP)300mL、トルエン100mL中で170℃で脱水後、昇温してトルエン除去、180℃で1時間重合を行った。多量のイソプロピルアルコールで再沈殿することで精製を行い、下記式(G4)で示されるイオン性基を含有するオリゴマーa2(末端:ヒドロキシル基)を得た。数平均分子量は16000であった。
【0142】
【0143】
(式(G4)において、Mは、H、NaまたはKを表す。)
[合成例5]
(下記式(G5)で表される3-(2,5-ジクロロベンゾイル)ベンゼンスルホン酸ネオペンチルの合成)
攪拌機、冷却管を備えた3Lの三口フラスコに、クロロスルホン酸245g(2.1mol)を加え、続いて2,5-ジクロロベンゾフェノン105g(420mmol)を加え、100℃のオイルバスで8時間反応させた。所定時間後、反応液を砕氷1000gにゆっくりと注ぎ、酢酸エチルで抽出した。有機層を食塩水で洗浄、硫酸マグネシウムで乾燥後、酢酸エチルを留去し、淡黄色の粗結晶3-(2,5-ジクロロベンゾイル)ベンゼンスルホン酸クロリドを得た。粗結晶は精製せず、そのまま次工程に用いた。
【0144】
2,2-ジメチル-1-プロパノール(ネオペンチルアルコール)41.1g(462mmol)をピリジン300mLに加え、約10℃に冷却した。ここに上記で得られた粗結晶を約30分かけて徐々に加えた。全量添加後、さらに30分撹拌し反応させた。反応後、反応液を塩酸水1000mL中に注ぎ、析出した固体を回収した。得られた固体を酢酸エチルに溶解させ、炭酸水素ナトリウム水溶液、食塩水で洗浄後、硫酸マグネシウムで乾燥後、酢酸エチルを留去し、粗結晶を得た。これをメタノールで再結晶し、前記構造式で表される3-(2,5-ジクロロベンゾイル)ベンゼンスルホン酸ネオペンチルの白色結晶を得た。
【0145】
【0146】
[合成例6]
(下記一般式(G6)で表されるイオン性基を含有しないオリゴマーの合成)
撹拌機、温度計、冷却管、Dean-Stark管、窒素導入の三方コックを取り付けた1lの三つ口のフラスコに、2,6-ジクロロベンゾニトリル49.4g(0.29mol)、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン88.4g(0.26mol)、炭酸カリウム47.3g(0.34mol)をはかりとった。窒素置換後、スルホラン346ml、トルエン173mlを加えて攪拌した。フラスコをオイルバスにつけ、150℃に加熱還流させた。反応により生成する水をトルエンと共沸させ、Dean-Stark管で系外に除去しながら反応させると、約3時間で水の生成がほとんど認められなくなった。反応温度を徐々に上げながら大部分のトルエンを除去した後、200℃で3時間反応を続けた。次に、2,6-ジクロロベンゾニトリル12.3g(0.072mol)を加え、さらに5時間反応した。
【0147】
得られた反応液を放冷後、トルエン100mlを加えて希釈した。副生した無機化合物の沈殿物を濾過除去し、濾液を2lのメタノール中に投入した。沈殿した生成物を濾別、回収し乾燥後、テトラヒドロフラン250mlに溶解した。これをメタノール2lに再沈殿し、下記一般式(G6)で表される目的のオリゴマー107gを得た。数平均分子量は11000であった。
【0148】
【0149】
[合成例7]
(下記式(G8)で表されるセグメントと下記式(G9)で表されるセグメントからなるポリエーテルスルホン(PES)系ブロックコポリマー前駆体b2’の合成)
無水塩化ニッケル1.62gとジメチルスルホキシド15mLとを混合し、70℃に調整した。これに、2,2’-ビピリジル2.15gを加え、同温度で10分撹拌し、ニッケル含有溶液を調製した。
【0150】
ここに、2,5-ジクロロベンゼンスルホン酸(2,2-ジメチルプロピル)1.49gと下記式(G7)で示される、スミカエクセルPES5200P(住友化学社製、Mn=40,000、Mw=94,000)0.50gとを、ジメチルスルホキシド5mLに溶解させて得られた溶液に、亜鉛粉末1.23gを加え、70℃に調整した。これに前記ニッケル含有溶液を注ぎ込み、70℃で4時間重合反応を行った。反応混合物をメタノール60mL中に加え、次いで、6mol/L塩酸60mLを加え1時間攪拌した。析出した固体を濾過により分離し、乾燥し、灰白色の下記式(G8)と下記式(G9)で表されるセグメントを含むブロックコポリマー前駆体b2’を1.62g、収率99%で得た。重量平均分子量は23万であった。
【0151】
【0152】
[高分子電解質溶液A]イオン性基を含有するセグメントとして前記(G4)で表されるオリゴマー、イオン性基を含有しないセグメントとして前記(G3)で表されるオリゴマーを含有するブロックコポリマーからなる高分子電解質溶液
かき混ぜ機、窒素導入管、Dean-Starkトラップを備えた500mL三口フラスコに、炭酸カリウム0.56g(アルドリッチ試薬、4mmol)、合成例4で得られたイオン性基を含有するオリゴマーa2(末端:ヒドロキシル基)を16g(1mmol)入れ、窒素置換後、N-メチルピロリドン(NMP)100mL、シクロヘキサン30mL中で100℃で脱水後、昇温してシクロヘキサン除去し、合成例3で得られたイオン性基を含有しないオリゴマーa1(末端:フルオロ基)11g(1mmol)を入れ、105℃で24時間反応を行った。多量のイソプロピルアルコールへの再沈殿精製により、ブロックコポリマーb1を得た。重量平均分子量は34万であった。
【0153】
得られたブロックコポリマーを溶解させた5質量%N-メチルピロリドン(NMP)溶液を、久保田製作所製インバーター・コンパクト高速冷却遠心機(型番6930にアングルローターRA-800をセット、25℃、30分間、遠心力20000G)で重合原液の直接遠心分離を行った。沈降固形物(ケーキ)と上澄み液(塗液)がきれいに分離できたので上澄み液を回収した。次に、撹拌しながら80℃で減圧蒸留し、1μmのポリプロピレン製フィルターを用いて加圧ろ過し、高分子電解質溶液A(高分子電解質濃度13質量%)を得た。高分子電解質溶液Aの粘度は1300mPa・sであった。
【0154】
[高分子電解質溶液B]下記一般式(G10)で表されるポリアリーレン系ブロックコポリマーからなる高分子電解質溶液
乾燥したN,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)540mlを、3-(2,5-ジクロロベンゾイル)ベンゼンスルホン酸ネオペンチル135.0g(0.336mol)と、合成例6で合成した式(G6)で表されるイオン性基を含有しないオリゴマーを40.7g(5.6mmol)、2,5-ジクロロ-4’-(1-イミダゾリル)ベンゾフェノン6.71g(16.8mmol)、ビス(トリフェニルホスフィン)ニッケルジクロリド6.71g(10.3mmol)、トリフェニルホスフィン35.9g(0.137mol)、ヨウ化ナトリウム1.54g(10.3mmol)、亜鉛53.7g(0.821mol)の混合物中に窒素下で加えた。
【0155】
反応系を撹拌下に加熱し(最終的には79℃まで加温)、3時間反応させた。反応途中で系中の粘度上昇が観察された。重合反応溶液をDMAc730mlで希釈し、30分撹拌し、セライトを濾過助剤に用い、濾過した。
【0156】
前記濾液をエバポレーターで濃縮し、濾液に臭化リチウム43.8g(0.505mol)を加え、内温110℃で7時間、窒素雰囲気下で反応させた。反応後、室温まで冷却し、アセトン4lに注ぎ、凝固した。凝固物を濾集、風乾後、ミキサーで粉砕し、1N塩酸1500mlで攪拌しながら洗浄を行った。濾過後、生成物は洗浄液のpHが5以上となるまで、イオン交換水で洗浄後、80℃で一晩乾燥し、目的のポリアリーレン系ブロックコポリマー23.0gを得た。この脱保護後のポリアリーレン系ブロックコポリマーの重量平均分子量は、19万であった。得られたポリアリーレン系ブロックコポリマーを、0.1g/gとなるように、N-メチル-2-ピロリドン/メタノール=30/70(質量%)有機溶媒に溶解して高分子電解質溶液Bを得た。高分子電解質溶液Bの粘度は1200mPa・sであった。
【0157】
【0158】
[高分子電解質溶液C]ランダムコポリマーからなる高分子電解質溶液C
撹拌機、窒素導入管、Dean-Starkトラップを備えた5Lの反応容器に、合成例1で合成した2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1,3-ジオキソラン129g、4,4’-ビフェノール93g(アルドリッチ試薬)、および合成例2で合成したジソジウム-3,3’-ジスルホネート-4,4’-ジフルオロベンゾフェノン422g(1.0mol)を入れ、窒素置換後、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)3000g、トルエン450g、18-クラウン-6 232g(和光純薬試薬)を加え、モノマーが全て溶解したことを確認後、炭酸カリウム304g(アルドリッチ試薬)を加え、環流しながら160℃で脱水後、昇温してトルエン除去し、200℃で1時間脱塩重縮合を行った。重量平均分子量は32万であった。
【0159】
次に重合原液の粘度が500mPa・sになるようにNMPを添加して希釈し、久保田製作所製インバーター・コンパクト高速冷却遠心機(型番6930にアングルローターRA-800をセット、25℃、30分間、遠心力20000G)で重合原液の直接遠心分離を行った。沈降固形物(ケーキ)と上澄み液(塗液)がきれいに分離できたので上澄み液を回収した。次に、撹拌しながら80℃で減圧蒸留し、ポリマー濃度が14質量%になるまでNMPを除去し、さらに5μmのポリエチレン製フィルターで加圧濾過して高分子電解質溶液Cを得た。高分子電解質溶液Cの粘度は1000mPa・sであった。
【0160】
[高分子電解質溶液D]ポリエーテルスルホン系ブロックコポリマーからなる高分子電解質溶液D
合成例7で得られたブロックコポリマー前駆体b2’ 0.23gを、臭化リチウム一水和物0.16gとNMP8mLとの混合溶液に加え、120℃で24時間反応させた。反応混合物を、6mol/L塩酸80mL中に注ぎ込み、1時間撹拌した。析出した固体を濾過により分離した。分離した固体を乾燥し、灰白色の前記式(G9)で示されるセグメントと下記式(G11)で表されるセグメントからなるブロックコポリマーb2を得た。得られたポリエーテルスルホン系ブロックコポリマーの重量平均分子量は19万であった。得られたポリエーテルスルホン系ブロックコポリマーを、0.1g/gとなるように、N-メチル-2-ピロリドン/メタノール=30/70(質量%)有機溶媒に溶解して高分子電解質溶液Dを得た。高分子電解質溶液Dの粘度は1300mPa・sであった。
【0161】
【0162】
[ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)多孔質基材A]
ポアフロンHP-045-30(住友電工ファインポリマー株式会社製)を縦横方向に3倍延伸することにより、膜厚8μm、空隙率89%のePTFE多孔質フィルムAを作製した。
【0163】
[親水化ePTFE多孔質基材A’]
露点-80℃のグローブボックス内において、ePTFE多孔質基材Aを金属ナトリウム-ナフタレン錯体/テトラヒドロフラン(THF)1%溶液30g、THF70gからなる溶液に浸漬し、3秒経過後に引き上げ、すぐにTHFで十分洗浄し、膜厚8μm、空隙率88%の親水化ePTFE多孔質基材A’を作製した。
【0164】
[テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)多孔質基材B]
FEP共重合体樹脂(フロン工業株式会社製)75重量部と、無機充填剤としてシリカ微粒子(信越シリコーン社製、QSG-30、1次粒子平均粒子径30nm)15重量部を粉体混合機により充分混合した。
【0165】
この混合物を、二軸押出機(東芝機械社製、TEM-35)を用い、300℃で混練したのち、直径2.5mmのストランドを押出し、これを長さ2.5mmで切断してペレットを得た。
【0166】
このペレットを口径40mmの単軸押出機(池貝社製、VS40)に供給し、700mmの口金幅を有するフラットダイを用い、ダイス温度333℃、押出速度4.3kg/時間で押し出した。当該吐出物を、表面温度が130℃になるように調整したロールに沿わせて4.8m/分の速度で引き取ることにより、厚さ13μmのETFEフィルムを得た。
【0167】
得られたフィルムを縦横方向に4倍延伸することにより、膜厚8μm、空隙率90%のFEP多孔質基材Bを作製した。
【0168】
[ポリビニリデンジフルオリド(PVdF)多孔質基材C]
デュラポアメンブレン(メルクミリポア社製、疎水性、孔径0.45μm、直径293mm、白色、無地)を縦横方向に3倍延伸することにより、膜厚8μm、空隙率88%のPVdF多孔質基材Cを作製した。
【0169】
[エチレン・テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)多孔質基材D]
FEP樹脂(フロン工業株式会社製)の代わりに、ETFE樹脂(アルドリッチ社製)を用いた以外は、FEP多孔質基材Bと同様にして、膜厚8μm、空隙率89%のETFE多孔質基材Dを作製した。
【0170】
<多孔質基材を含まない電解質膜の製造>
[実施例1-1]
高分子電解質溶液A 100gに、ポリオキシエチレンエーテル系界面活性剤フタージェント(登録商標)FTX-218(株式会社ネオス製)(フッ素原子含有量46質量%、親水性元素含有量14質量%、重量平均分子量1900)0.26g溶解し、高分子電解質と界面活性剤の質量比(以下界面活性剤/電解質と表記)が0.02の電解質-界面活性剤混合溶液を調製した。この電解質-界面活性剤混合溶液をポリエチレンテレフタレート(PET)基材上に流延塗布し、100℃にて4時間乾燥後、窒素下150℃で10分間熱処理した。95℃で10質量%硫酸水溶液に24時間浸漬してプロトン置換、脱保護反応した後に、大過剰量の純水に24時間浸漬して充分洗浄し、電解質膜(膜厚:10μm)を得た。
【0171】
[実施例1-2]
フタージェントFTX-218の代わりに含フッ素基親水性基/親油性基含有オリゴマー系界面活性剤フタージェント(登録商標)710FS(株式会社ネオス製)(フッ素原子含有量16質量%、親水性元素含有量30質量%、重量平均分子量3500)を使用し溶液の界面活性剤/電解質を0.04とした以外は、実施例1-1と同様にして電解質膜(膜厚10μm)を得た。
【0172】
[実施例1-3]
フタージェントFTX-218の代わりにポリオキシエチレンエーテル系界面活性剤フタージェント(登録商標)215M(株式会社ネオス製)(フッ素原子含有量26質量%、親水性元素含有量24質量%、重量平均分子量1050)を使用し溶液の界面活性剤/電解質を0.04とした以外は、質量比実施例1-1と同様にして電解質膜(膜厚10μm)を得た。
【0173】
[実施例1-4]
フタージェントFTX-218の代わりにポリオキシエチレンエーテル系界面活性剤フタージェント(登録商標)208G(株式会社ネオス製)(フッ素原子含有量54質量%、親水性元素含有量11質量%、重量平均分子量1400)を使用し溶液の界面活性剤/電解質を0.01とした以外は、実施例1-1と同様にして電解質膜(膜厚10μm)を得た。
【0174】
[実施例1-5]
フタージェントFTX-218の代わりに、親媒基として親油性基を有する界面活性剤であるフルオロリンク(登録商標)A10-P(ソルベイ株式会社製)(フッ素原子含有量40質量%、重量平均分子量1900)を使用した質量比以外は実施例1-1と同様にして電解質膜(膜厚10μm)を得た。
【0175】
[実施例1-6]
界面活性剤/高分子電解質質量比を0.005とした以外は実施例1-1と同様にして電解質膜(膜厚10μm)を得た。
【0176】
[実施例1-7]
界面活性剤/高分子電解質を0.045とした以外は実施例1-1と同様にして電解質膜(膜厚10μm)を得た。
【0177】
[実施例1-8]
フタージェントFTX-218の代わりに低金属含有グレードポリオキシエチレンエーテル系界面活性剤フタージェント(登録商標)DFX-18(株式会社ネオス製)(フッ素原子含有量46質量%、親水性元素含有量14質量%、重量平均分子量1900)を使用した以外は、実施例1-1と同様にして電解質膜(膜厚10μm)を得た。
【0178】
[比較例1-1]
フタージェントFTX-218の代わりに界面活性剤TritonX-100(非フッ素系界面活性剤)(フッ素原子含有量0、親水性元素含有量27質量%、重量平均分子量700)を使用した質量比以外は実施例1-1と同様にして電解質膜(膜厚10μm)を得た。
【0179】
[比較例1-2]
フタージェントFTX-218の代わりにヘキサフルオロプロピレン、パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)、エチルビニルエーテルおよびヒドロキシエチルビニルエーテルの単量体を35:15:25:25のモル比で仕込み製造されたフッ素系ポリマーA(フッ素原子含有量37質量%、親水性元素含有量16質量%、重量平均分子量60000)を使用した以外は、実施例1-1と同様にして電解質膜(膜厚10μm)を得た。
【0180】
[比較例1-3]
フタージェントFTX-218の代わりに界面活性剤パーフルオロオクタンスルホン酸(PFOS)(アニオン性フッ素系界面活性剤)(フッ素原子含有量65質量%、親水性元素含有量16質量%、重量平均分子量500)を使用した以外は、実施例1-1と同様にして電解質膜(膜厚10μm)を得た。
【0181】
[比較例1-4]
ノニオン性フッ素系添加剤を添加せず、高分子電解質溶液Aをそのまま使用した以外は実施例1-1と同様の方法で触媒層付電解質膜を得た。
【0182】
実施例1-1~1-8、比較例1-1~1-4で製造した電解質膜について、イオン交換容量(IEC)、電解質膜における界面活性剤/電解質の値、相分離構造の態様、プロトン伝導度およびセル電圧を評価した。これらの評価結果を表1に示す。(但し、比較例1-2で用いているフッ素系ポリマーAは一般的には「界面活性剤」には該当しないが、表1においては便宜上「界面活性剤」の欄に記載する。)
【0183】
【0184】
<第一の態様による複合電解質膜の製造>
[実施例2-1]
高分子電解質溶液A 100gに、フタージェントFTX-218 0.26g溶解し、高分子電解質と界面活性剤の質量比(以下、界面活性剤/電解質と表記)が0.02の電解質-界面活性剤混合溶液を調製した。ナイフコーターを用い、この電解質-界面活性剤混合溶液をガラス基板上に流延塗布し、ePTFE多孔質基材Aを貼り合わせた。室温にて1時間保持し、ePTFE多孔質基材Aに電解質-界面活性剤混合溶液Aを十分含浸させた後、100℃にて4時間乾燥した。乾燥後の膜の上面に、再度電解質-界面活性剤混合溶液Aを流延塗布し、室温にて1時間保持した後、100℃にて4時間乾燥し、フィルム状の重合体を得た。10質量%硫酸水溶液に80℃で24時間浸漬してプロトン置換、脱保護反応した後に、大過剰量の純水に24時間浸漬して充分洗浄し、複合電解質膜(膜厚11μm)を得た。
【0185】
[実施例2-2]
界面活性剤/電解質を0.10とした電解質-界面活性剤混合溶液を使用した以外は、実施例2-1と同様にして複合電解質膜(膜厚12μm)を得た。
【0186】
[実施例2-3]
面活性剤/電解質を0.01とした電解質-界面活性剤混合溶液を使用した以外は、実施例2-1と同様にして複合電解質膜(膜厚12μm)を得た。
【0187】
[実施例2-4]
フタージェントFTX-218の代わりにフタージェント710FSを使用した以外は、実施例2-1と同様にして複合電解質膜(膜厚12μm)を得た。
【0188】
[実施例2-5]
高分子電解質溶液Aの代わりに高分子電解質溶液Bを使用した以外は、実施例2-1と同様にして複合電解質膜(膜厚12μm)を得た。
【0189】
[実施例2-6]
高分子電解質溶液Aの代わりに高分子電解質溶液Cを使用した以外は、実施例2-1と同様にして複合電解質膜(膜厚12μm)を得た。
【0190】
[実施例2-7]
高分子電解質溶液Aの代わりに高分子電解質溶液Dを使用した以外は、実施例2-1と同様にして複合電解質膜(膜厚12μm)を得た。
【0191】
[実施例2-8]
高分子電解質溶液Aの代わりに市販のNafion 10質量%分散液(Aidrich社製、Available Acid Capacity 0.92 meq/g品)(以下、「高分子電解質溶液E」と記載する。)を使用した以外は、実施例2-1と同様にして複合電解質膜(膜厚12μm)を得た。
【0192】
[実施例2-9]
ePTFE多孔質基材Aの代わりにFEP多孔質基材Bを使用した以外は、実施例2-1と同様にして複合電解質膜(膜厚12μm)を得た。
【0193】
[実施例2-10]
ePTFE多孔質基材A代わりにPVdF多孔質基材Cを使用した以外は、実施例2-1と同様にして複合電解質膜(膜厚12μm)を得た。
【0194】
[実施例2-11]
ePTFE多孔質基材Aの代わりにETFE多孔質基材Dを使用した以外は、実施例2-1と同様にして複合電解質膜(膜厚12μm)を得た。
【0195】
[実施例2-12]
フタージェントFTX-218の代わりにフタージェントDFX-18を使用した以外は、実施例2-1と同様にして複合電解質膜(膜厚12μm)を得た。
【0196】
[実施例2-13]
フタージェントFTX-218の代わりにフタージェント208Gを使用した以外は、実施例2-1と同様にして複合電解質膜(膜厚12μm)を得た。
【0197】
[比較例2-1]
電解質-界面活性剤混合溶液の代わりに高分子電解質溶液Aを使用した以外は、実施例2-1と同様にして複合電解質膜の作製を試みたが、高分子電解質溶液Aがテトラフルオロエチレン多孔質基材Aに浸透せず複合電解質膜を得ることができなかった。
【0198】
[比較例2-2]
フタージェントFTX-218の代わりにトリトンX-100を使用した以外は、実施例2-1と同様にして複合電解質膜の作製を試みたが、高分子電解質溶液Aが多孔質基材に浸透せず複合電解質膜を得ることができなかった。
【0199】
[比較例2-3]
フタージェントFTX-218の代わりにPFOSを使用した以外は、実施例2-1と同様にして複合電解質膜(膜厚12μm)を得た。
【0200】
[比較例2-4]
フタージェントFTX-218の代わりに比較例1-2と同じフッ素系ポリマーAを使用した以外は、実施例2-1と同様にして複合電解質膜(膜厚12μm)を得た。
【0201】
[比較例2-5]
高分子電解質溶液Aの代わりに高分子電解質溶液Bを使用した以外は、比較例2-1と同様にして複合電解質膜(膜厚12μm)を得た。
【0202】
[比較例2-6]
高分子電解質溶液Aの代わりに高分子電解質溶液Cを使用した以外は、比較例2-1と同様にして複合電解質膜の作製を試みたが、高分子電解質溶液Aがテトラフルオロエチレン多孔質基材Aに浸透せず複合電解質膜を得ることができなかった。
【0203】
[比較例2-7]
高分子電解質溶液Aの代わりに高分子電解質溶液Dを使用した以外は、比較例2-1と同様にして複合電解質膜の作製を試みたが、高分子電解質溶液Aが多孔質基材に浸透せず複合電解質膜を得ることができなかった。
【0204】
[比較例2-8]
高分子電解質溶液Aの代わりに高分子電解質溶液Eを使用した以外は、比較例2-1と同様にして複合電解質膜(膜厚12μm)を得た。
【0205】
<第二の態様による複合電解質膜の製造>
[実施例3-1]
フタージェントFTX-218 1gをイソプロピルアルコール99gに溶解しFTX-218 1質量%溶液を調製した。続いて、ガラス基板上に固定したePTFE多孔質基材上に、ナイフコーターを用いてFTX-218溶液を流延塗布し、100℃にて1時間乾燥し、界面活性剤含有多孔質基材Aを作製した。
【0206】
ナイフコーターを用い、高分子電解質溶液Aを別のガラス基板上に流延塗布し、ガラス基板より引き剥がした界面活性剤含有多孔質基材Aを貼り合わせた。室温にて1時間保持し、界面活性剤含有多孔質基材Aに電解質-界面活性剤混合溶液Aを十分含浸させた後、100℃にて4時間乾燥した。乾燥後の膜の上面に、再度高分子電解質溶液Aを流延塗布し、室温にて1時間保持した後、100℃にて4時間乾燥し、フィルム状の重合体を得た。10質量%硫酸水溶液に80℃で24時間浸漬してプロトン置換、脱保護反応した後に、大過剰量の純水に24時間浸漬して充分洗浄し、複合電解質膜(膜厚11μm)を得た。
【0207】
[実施例3-2]
フタージェントFTX-218の代わりにフタージェント710FSを使用し調製した710FS 2質量%溶液を使用した以外は、実施例3-1と同様にして複合電解質膜(膜厚12μm)を得た。
【0208】
[比較例3-1]
フタージェントFTX-218の代わりにトリトンX-100を使用した以外は、実施例2-1と同様にして複合電解質膜の作製を試みたが、高分子電解質溶液AがePTFE多孔質基材Aに浸透せず複合電解質膜を得ることができなかった。
【0209】
[比較例3-2]
フタージェントFTX-218の代わりにPFOSを使用した以外は、実施例3-1と同様にして複合電解質膜(膜厚12μm)を得た。
【0210】
[比較例3-3]
フタージェントFTX-218の代わりに比較例1-2と同じフッ素系ポリマーAを使用した以外は、実施例3-1と同様にして複合電解質膜(膜厚12μm)を得た。
【0211】
[比較例3-4]
ePTFE多孔質基材Aの代わりに親水化ePTFE多孔質基材A’を使用しトリトンX-100を使用しなかったこと以外は、比較例3-1と同様にして複合電解質膜(膜厚13μm)を得た。
【0212】
実施例2-1~2-13、比較例2-1~2-8、実施例3-1~3-2、比較例3-1~3-4で製造した複合電解質膜について、イオン交換容量(IEC)、複合層中の高分子電解質の充填率、寸法変化率λxy、プロトン電導度、および乾湿サイクル耐久性を評価した。また複合電解質膜を構成するイオン性基含有高分子膜について、相分離構造の有無を評価し、含フッ素高分子多孔質基材について、フッ素原子含有量、空隙率を評価した。これらの評価結果を表2-1、表2-2及び表3に示す。(但し、比較例2-4、比較例3-3で用いているフッ素系ポリマーは一般的には「界面活性剤」には該当しないが、表2-1、表2-2および表3においては便宜上「界面活性剤」の欄に記載する。また、乾湿サイクル耐久性に関して、30000サイクルを超えても水素透過電流が初期電流の10倍を越えなかった場合は、30000サイクルで評価を打ち切った。)
【0213】
【0214】
【0215】