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特許7388195トリコデルマ・リーセイ変異株およびタンパク質の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-20
(45)【発行日】2023-11-29
(54)【発明の名称】トリコデルマ・リーセイ変異株およびタンパク質の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/15 20060101AFI20231121BHJP
   C12P 19/00 20060101ALI20231121BHJP
   C12P 21/00 20060101ALI20231121BHJP
   C12P 21/02 20060101ALI20231121BHJP
   C12N 9/42 20060101ALN20231121BHJP
   C12N 15/31 20060101ALN20231121BHJP
【FI】
C12N1/15
C12P19/00
C12P21/00 C
C12P21/02 C ZNA
C12N9/42
C12N15/31
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019559122
(86)(22)【出願日】2019-08-28
(86)【国際出願番号】 JP2019033643
(87)【国際公開番号】W WO2020045473
(87)【国際公開日】2020-03-05
【審査請求日】2022-08-01
(31)【優先権主張番号】P 2018160157
(32)【優先日】2018-08-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】加川 雄介
(72)【発明者】
【氏名】平松 紳吾
(72)【発明者】
【氏名】山田 勝成
【審査官】長谷川 強
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-019622(JP,A)
【文献】国際公開第2017/170918(WO,A1)
【文献】特開2016-187319(JP,A)
【文献】Biotechnology and Biology of Trichoderma,2014年,pp.89-102
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/15
C12P 19/00
C12P 21/00
C12P 21/02
C12N 9/42
C12N 15/31
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドの発現が欠損または低下する変異を有する、Trichoderma reeseiの変異株。
【請求項2】
前記変異が、配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドのGlycosyltransferase_GTP_typeドメインが欠損する変異である、請求項1に記載の変異株。
【請求項3】
前記変異が、配列番号2で表されるアミノ酸配列のN末端側から1523番目のグルタミン酸残基でのストップコドン変異である、請求項2に記載の変異株。
【請求項4】
請求項1~3のいずれかに記載の変異株を培養する工程を含む、タンパク質の製造方法。
【請求項5】
請求項1~3のいずれかに記載の変異株を培養する工程を含む、セルラーゼの製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載のセルラーゼの製造方法によりセルラーゼを製造する工程および前記工程で得られたセルラーゼを用いてセルロース含有バイオマスを糖化する工程を含む、糖の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タンパク質製造能が向上するTrichoderma reeseiの変異株および当該変異株を用いたタンパク質の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
Trichoderma reeseiは、高いタンパク質製造能を有していることが知られており、これまで同糸状菌を用いたタンパク質の製造の検討が行われてきた。Trichoderma reeseiは、タンパク質の中でも特に糖化酵素に分類されるセルラーゼを製造する能力に優れており、例えばセルラーゼ製造量をさらに向上させるため、セルラーゼ製造を制御する因子の過剰発現や欠損が行われている。
【0003】
非特許文献1では、Trichoderma reeseiのセルラーゼの製造を制御する因子の中でも、セルラーゼの製造を抑制する転写因子であるCre1の機能を低下させることにより高いセルラーゼ製造能を有するTrichoderma reeseiの変異株が取得されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】Juliano P,Single nucleotide polymorphism analysis of a Trichoderma reesei hyper-cellulolytic mutant developed in Japan,Bioscience, Biotechnology, and Biochemistry, Volume 77, 2013, Issue 3, P534-543
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のとおり、Trichoderma reeseiのタンパク質製造を制御する因子の一つである転写因子が解明されているが、これは、制御機構の一部にすぎないと考える。そこで本発明では、Trichoderma reeseiのタンパク質製造を制御する新規因子を探索し、タンパク質製造能がさらに強化されたTrichoderma reeseiの変異株の取得および当該Trichoderma reeseiの変異株を用いたタンパク質の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、これまで知られていなかったタンパク質の生産量を増やすことが可能な新規制御因子を解明できれば、Trichoderma reeseiのタンパク質の製造量をさらに向上させることができると考え、鋭意検討した結果、配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドの機能が欠損または低下したTrichoderma reeseiの変異株を培養することにより、タンパク質製造能を向上させることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は以下の(1)~(6)で構成される。
(1)配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドの機能が欠損または低下する変異を有する、Trichoderma reeseiの変異株。
(2)前記変異が、配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドのGlycosyltransferase_GTP_typeドメインが欠損する変異である、(1)に記載の変異株。
(3)前記変異が、配列番号2で表されるアミノ酸配列のN末端側から1523番目のグルタミン酸残基でのストップコドン変異である、(2)に記載の変異株。
(4)(1)~(3)のいずれかに記載の変異株を培養する工程を含む、タンパク質の製造方法。
(5)(1)~(3)のいずれかに記載の変異株を培養する工程を含む、セルラーゼの製造方法。
(6)(5)に記載のセルラーゼの製造方法によりセルラーゼを製造する工程および前記工程で得られたセルラーゼを用いてセルロース含有バイオマスを糖化する工程を含む、糖の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドの機能が欠損または低下したTrichoderma reeseiの変異株は、当該変異導入前の親株と比較して、タンパク質の製造能が向上し、タンパク質を高生産することが可能となる。さらに、製造されるタンパク質がセルラーゼの場合には、セルラーゼの各種比活性も向上するという予想外の効果も得られる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は、もともとタンパク質の製造能に優れる微生物であるTrichoderma reeseiの親株に変異を導入することによって、さらにタンパク質製造能を高めることを特徴としている。具体的には、本発明はTrichoderma reeseiの変異株に関するものであり、配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドの機能が欠損または低下する変異を有することを特徴としている。
【0010】
本発明で用いるTrichoderma reeseiの親株は野生株には制限されず、タンパク質製造能が高まるように改良された変異株も親株として好ましく用いることができ、例えば、変異剤や紫外線照射などで変異処理を施し、タンパク質の製造性が向上した変異株を上記親株として利用することができる。上記親株として用いる変異株の具体例は、Trichoderma reeseiに属する公知の変異株であるQM6a株(NBRC31326)、QM9123株(ATCC24449)、QM9414株(NBRC31329)、PC-3-7株(ATCC66589)、QM9123株(NBRC31327)、RutC-30株(ATCC56765)、CL-847株(Enzyme.Microbiol.Technol.10,341-346(1988))、MCG77株(Biotechnol.Bioeng.Symp.8, 89(1978))、MCG80株(Biotechnol.Bioeng.12,451-459(1982))などが挙げられる。なお、QM6a株、QM9414株、QM9123株はNBRC(NITE Biological Resource Center)より、PC-3-7株、RutC-30株はATCC(American Type Culture Collection)より入手することができる。
【0011】
配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドは、Trichoderma reeseiが有する全長1,738アミノ酸のポリペプチドであり、National Center for Biotechnology Informationでは、Trichoderma reesei QM6a株が持つglycosyltransferase family 41,partial(EGR46476)としても登録されている。glycosyltransferase family 41,partialは2量体を形成してglycosyltransferase family 41となり(The EMBO Journal,27,2080-2788(2008))、翻訳直後の新生タンパク質がゴルジ複合体を通過する過程において、N-アセチルガラクトサミン(GalNAc)をアミノ酸残基であるセリンまたはスレオニン残基に転移させる機能を有している(Biochemistry,Fourth edition,11,280-281(1995))。配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする遺伝子の具体例として、配列番号1で表される塩基配列が挙げられる。
【0012】
配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドの機能を欠損または低下させる方法としては、glycosyltransferase family 41,partialの全欠損、glycosyltransferase family 41,partialの一部欠損させるような変異を導入する方法が挙げられ、具体的には、配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする遺伝子配列に対して、塩基の欠失、挿入、置換などによりフレームシフト変異やストップコドン変異を導入する方法が挙げられる。
【0013】
glycosyltransferase family 41,partialの欠損とは、そのポリペプチドが全てなくなる、一部が無くなる、全てが異なるアミノ酸に変わる、一部が異なるアミノ酸に変わる、またはそれらの組み合わせのことを指す。さらに具体的には配列番号2で表されるアミノ酸配列において、上記に示したglycosyltransferase family 41,partialのアミノ酸配列と配列同一性が80%以下になることを指し、好ましくは50%以下であり、さらに好ましくは20%以下であり、さらに好ましくは10%以下であり、さらに好ましくは5%以下であり、さらに好ましくは3%以下であり、さらに好ましくは1%以下であり、最も好ましくは0%である。
【0014】
National Center for Biotechnology InformationのCDD Search Resultsによれば、N末端側から1338番目~1725番目のアミノ酸残基はGlycosyltransferase_GTP_typeドメインであると開示されている。本発明において、glycosyltransferase family 41,partial内に位置するアミノ酸配列に欠失、置換、または付加などの変異がおこることによって、配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドの機能が欠損または低下する具体例としては、配列番号1で表される塩基配列において、6261番目のシトシンがアデニンへ変異することによりストップコドンが挿入する変異が挙げられる。当該変異により、配列番号2で表されるアミノ酸配列の1523番目のグルタミン酸残基がストップコドンに変異して翻訳が終了する。それにより、glycosyltransferase family 41の機能を主に担うGlycosyltransferase_GTP_typeドメインの途中で翻訳は終了することから、本来のタンパク質としての機能は消失する。
【0015】
また、配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドの発現を低下させる、または発現を消失させる変異を導入することによっても当該ポリペプチドの機能を低下させてもよく、具体的には、配列番号2で表されるアミノ酸配列をコードする遺伝子のプロモーターやターミネーター領域の変異によるポリペプチドの発現量の低下または消失によるものであってもよい。一般的に、プロモーターとターミネーター領域は、転写に関与する遺伝子の前後数百塩基の領域に相当し、配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドの転写に関与するプロモーターとターミネーターを含む塩基配列の具体例としては、配列番号1で表される塩基配列が挙げられる。
【0016】
上記の遺伝子の変異導入は、当業者にとって公知の変異剤または紫外線照射などによる変異処理、選択マーカーを用いた相同組換えなどの遺伝子組換え、あるいはトランスポゾンによる変異など、既存の遺伝子変異方法を用いることができる。
【0017】
配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドの機能が欠損したTrichoderma reeseiの変異株は以下の方法で取得することができる。
【0018】
配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドの全ての機能が欠損または低下した変異株は、親株となるTrichoderma reeseiの胞子に対して、ニトロソグアニジン(NTG)、エチルメタンスルホン酸(EMS)、紫外線などを用いて遺伝子変異処理を行い、得られた変異株の遺伝子を解析して、上記の変異を有する変異株をスクリーニングすることで、取得できる。
【0019】
本発明の変異株は、当該変異導入前の親株と比較し、タンパク質の製造能が向上するため、本発明の変異株の培養液は、同一の培養条件にて得られた当該変異導入前の親株の培養液と比較して、タンパク質濃度が増加する。また、タンパク質が酵素の場合には、酵素の比活性が増加する。ここで、タンパク質濃度の増加率や酵素の比活性の増加率は、増加していれば特に限定はされないが、20%以上であることが好ましい。
【0020】
本発明の変異株は、配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドの機能が欠損または低下する変異以外にも、タンパク質製造量の向上および/または培養液の粘度が低下し培養液中の溶存酸素飽和度の低下が抑制される変異を有していてもよい。具体的には、配列番号3、5、7のいずれかで表されるポリペプチドの機能が低下する遺伝子変異が挙げられる。
【0021】
配列番号3で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドは、Trichoderma reeseiが有するポリペプチドであり、National Center for Biotechnology Informationでは、Trichoderma reesei QM6a株が持つpredicted proteinのEGR50654として登録されている。配列番号3で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドは機能未知のポリペプチドであるが、National Center for Biotechnology InformationのCnserved Domain Architecture Retrieval Toolによれば、N末端側から95番目~277番目のアミノ酸残基はMiddle domain of eukaryotic initiation factor 4Gドメイン(以降MIF4Gドメインと記載する。)、N末端側から380~485番目のアミノ酸残基はMA-3ドメインを有すると開示されている。MIF4GおよびMA-3の両ドメインは、DNAまたはRNAに結合する機能を有することが知られている(Biochem.44,12265-12272(2005)、Mol.Cell.Biol.1,147-156(2007))。これらの記載により配列番号3で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドは、少なくともDNAおよび/またはRNAに結合する機能を有すると推定される。
【0022】
配列番号3で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする遺伝子の具体例として、配列番号4で表される塩基配列が挙げられる。EGR50654の機能が低下する遺伝子変異とは、EGR50654が有するMIF4Gドメインおよび/またはMA-3ドメインの全欠損、MIF4Gドメインおよび/またはMA-3ドメインの一部欠損、MIF4GドメインとMA-3ドメインとの立体配置関係の変化する遺伝子変異が挙げられる。さらに、配列番号3で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドの発現量の低下や消失させる変異を導入することによっても当該ポリペプチドの機能を低下させることができる。配列番号3で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドの機能が欠損する具体例としては、配列番号4で表される塩基配列において、1039番目から1044番目のいずれかの塩基が欠失する変異が挙げられる。
【0023】
配列番号5で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドは、Trichoderma reeseiが有するポリペプチドであり、National Center for Biotechnology Informationでは、Trichoderma reesei QM6a株が持つpredicted proteinのEGR44419として登録されている。配列番号5で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドは機能未知のポリペプチドであるが、National Center for Biotechnology InformationのCnserved Domain Architecture Retrieval Toolによれば、N末端側から26番目~499番目のアミノ酸残基はSugar(and other) Transporterドメインを有すると開示されている。この記載により配列番号5で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドは、少なくとも菌体の内側と外側の間における糖の輸送に関与していると推定される。
【0024】
配列番号5で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする遺伝子の具体例として、配列番号6で表される塩基配列が挙げられる。EGR44419の機能が低下する遺伝子変異とは、EGR44419が有するSugar(and other) Transporterドメインの全欠損、Sugar(and other) Transporterドメインの一部欠損、Sugar(and other) Transporterドメインの立体配置関係の変化する遺伝子変異が挙げられる。さらに、配列番号5で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドの発現量の低下や消失させる変異を導入することによっても当該ポリペプチドの機能を低下させることができる。配列番号5で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドの機能が欠損する具体例としては、配列番号6で表される塩基配列において、1415番目に11塩基が挿入する変異が挙げられる。
【0025】
配列番号7で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドは、Trichoderma reeseiが有するポリペプチドであり、National Center for Biotechnology Informationでは、Trichoderma reesei QM6a株が持つbeta-adaptin large subunitのEGR48910として登録されている。配列番号7で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドは、真核生物に広く保存されているクラスリンと結合する細胞内外や菌体内外の輸送に関与する小胞を構成するアダプタープロテインを構成するタンパク質のひとつである(Proc.Nati.Acad.Sci.USA.101,14108-14113(2004))。
【0026】
配列番号7で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする遺伝子の具体例として、配列番号8で表される塩基配列が挙げられる。EGR48910の遺伝子変異とは、配列番号8で表される塩基配列において、1080番目の塩基であるシトシンがアデニンへの変異が挙げられる。
【0027】
また、本発明は、前記変異株を培養する工程を含むタンパク質の製造方法に関する。
【0028】
本発明の変異株の培養工程に用いる培地の組成は、Trichoderma reeseiがタンパク質を製造できるような培地組成となっていれば特に制限はなく、トリコデルマ属細菌の周知の培地組成を採用することができる。窒素源としては、例えば、ポリペプトン、肉汁、CSL、大豆かすなどを用いることができる。また、培地には、タンパク質を製造させるための誘導物質を添加してもよい。
【0029】
本発明によりセルラーゼを製造する場合には、培地にラクトース、セルロースおよびキシランからなる群から選択される少なくとも1種類または2種類以上の誘導剤を含む培地で培養することができる。また、セルロースやキシランは、セルロースやキシランを含むバイオマスを誘導物質として添加してもよい。セルロールやキシランを含有するバイオマスの具体例としては、種子植物、シダ植物、コケ植物、藻類、水草などの植物の他、廃建材なども用いることができる。種子植物は、裸子植物と被子植物に分類されるが、どちらも好ましく用いることができる。被子植物はさらに単子葉植物と双子葉植物に分類されるが、単子葉植物の具体例としては、バガス、スイッチグラス、ネピアグラス、エリアンサス、コーンストーバー、コーンコブ、稲わら、麦わらなどが挙げられ、双子葉植物の具体例としては、ビートパルプ、ユーカリ、ナラ、シラカバなどが好ましく用いられる。
【0030】
また、セルロースやキシランを含むバイオマスは、前処理されたものを用いてもよい。前処理方法は特に限定されないが、例えば、酸処理、硫酸処理、希硫酸処理、アルカリ処理、水熱処理、亜臨界処理、微粉砕処理、蒸煮処理、など公知の手法を用いることができる。このような前処理をされたセルロールやキシランを含むバイオマスとして、パルプを用いてもよい。
【0031】
培養方法は特に限定されず、例えば遠沈管、フラスコ、ジャーファーメンター、タンクなどを用いた液体培養や、プレートなどを用いた固体培養などで培養することができる。Trichoderma reeseiは、好気的条件で培養することが好ましく、これらの培養方法の中でも、特にジャーファーメンターや、タンク内に通気や撹拌を行いながら培養する深部培養が好ましい。通気量は、0.1~2.0vvm程度が好ましく、0.3~1.5vvmがより好ましく0.5~1.0vvmが特に好ましい。培養温度は、25~35℃程度が好ましく、25~31℃がより好ましい。培養におけるpHの条件は、pH3.0~7.0が好ましく、pH4.0~6.0がより好ましい。培養時間は、タンパク質が生産される条件で、回収可能な量のタンパク質が蓄積されるまで行う。通常、24~288時間、好ましくは24~240時間、より好ましくは36~240時間、さらに好ましくは36~192時間である。
【0032】
本発明で製造するタンパク質は特に制限はないが、菌体外に分泌されるタンパク質を効率的に製造することができ、中でも好ましくは酵素であり、より好ましくはセルラーゼ、アミラーゼ、インベルターゼ、キチナーゼ、ペクチナーゼ等の糖化酵素であり、さらに好ましくはセルラーゼである。
【0033】
本発明で製造されるセルラーゼには、様々な加水分解酵素が含まれており、キシラン、セルロース、ヘミセルロースに対する分解活性を持つ酵素などが含まれている。具体例としては、セルロース鎖の加水分解によりセロビオースを製造するセロビオハイドラーゼ(EC 3.2.1.91)、セルロース鎖の中央部分から加水分解するエンドグルカナーゼ(EC 3.2.1.4)、セロオリゴ糖およびセロビオースを加水分解するβ-グルコシダーゼ(EC 3.2.1.21)、ヘミセルロースや特にキシランに作用することを特徴とするキシラナーゼ(EC 3.2.1.8)、キシロオリゴ糖を加水分解するβ-キシロシダーゼ(EC 3.2.1.37)などが挙げられる。
【0034】
本発明のTrichoderma reesei変異株が親株と比較してタンパク質の製造能が向上していることや、セルラーゼの比活性が向上していることは、変異株および親株を同じ条件で培養して得られる培養液を以下の方法により測定されるタンパク質濃度やβ-グルコシダーゼ比活性、β-キシロシダーゼ比活性およびセロビオハイドロラーゼ比活性からなる群から選択されるいずれか1種以上の比活性の比較により確認する。
【0035】
タンパク質濃度は、変異株および親株の培養液を15,000×gで10分間遠心分離して得られた上清を希釈し、Quick Start Bradford プロテインアッセイ(Bio-Rad社製)250μLに希釈した上清を5μL添加し、室温で15分間静置後の595nmで用いる吸光度を測定する。牛血清アルブミン溶液を標準液とし、検量線に基づいて糖化酵素溶液に含まれるタンパク質濃度を算出する。
【0036】
β-グルコシダーゼ比活性は、前記培養液上清に、まず、1mMのp-ニトロフェニル-β-グルコピラノシド(シグマアルドリッチジャパン社製)を含有する50mM酢酸バッファー90μLに酵素希釈液10μLを添加して30℃で10分間反応させる。次に2M炭酸ナトリウム10μLを加えてよく混合して反応を停止し、405nmの吸光度の増加を測定する。最後に1分間あたり1μmolのp-ニトロフェノールを遊離する活性を1Uとして比活性を算出する。
【0037】
β-キシロシダーゼ比活性は、前記培養液上清に、まず、1mMのp-ニトロフェニル-β-キシロピラノシド(シグマアルドリッチジャパン社製)を含有する50mM酢酸バッファー90μLに酵素希釈液10μLを添加し30℃で30分間反応させ、次に、2M炭酸ナトリウム10μLを加えてよく混合して反応を停止し、405nmの吸光度の増加を測定する。最後に1分間あたり1μmolのp-ニトロフェノールを遊離する活性を1Uとして比活性を算出する。
【0038】
セロビオハイドロラーゼ比活性は、前記培養液上清に、まず、1mMのp-ニトロフェニル-β-ラクトピラノシド(シグマアルドリッチジャパン社製)を含有する50mM酢酸バッファー90μLに酵素希釈液10μLを添加し30℃で60分間反応させ、次に、2M炭酸ナトリウム10μLを加えてよく混合して反応を停止し、405nmの吸光度の増加を測定する。最後に、1分間あたり1μmolのp-ニトロフェノールを遊離する活性を1Uとして比活性を算出する。
【0039】
前記変異株を培養した培養液に含まれるタンパク質を回収する方法は特に限定されないが、前記変異株の菌体を培養液から除去し、タンパク質を回収することができる。菌体の除去方法としては、遠心分離法、膜分離法、フィルタープレス法などが例として挙げられる。
【0040】
また、前記変異株を培養した培養液から菌体を除去せずに、タンパク質の溶解液として利用する場合には、培養液中でTrichoderma reeseiの変異株が生育できないように処理することが好ましい。菌体が生育できないように処理する方法としては、熱処理、薬剤処理、酸・アルカリ処理、UV処理などが挙げられる。
【0041】
タンパク質が酵素の場合には、上記のように菌体を除去又は生育していないように処理した培養液を、そのまま酵素液として利用することができる。
【0042】
また、製造対象であるタンパク質がセルラーゼの場合には、当該セルラーゼを用いて、セルロース含有バイオマスを糖化して、糖を製造することができる。また、前記変異株を培養して得られるセルラーゼは、前記変異導入前の親株を培養して得られるセルラーゼと比較して特にβ-グルコシダーゼの比活性が高いため、効率的にセルロース含有バイオマスを分解してグルコース濃度の高い糖液を得ることができ、より多くの糖を得ることができる。
【0043】
本発明で用いるセルロース含有バイオマスは、上記の誘導剤として記載したセルロースを含むバイオマスと同様のバイオマスや、前処理されたバイオマスを用いることができる。
【0044】
糖化反応の条件は、特に限定されないが、糖化反応の温度は、25~60℃の範囲であることが好ましく、特に30℃~55℃の範囲であることがより好ましい。糖化反応の時間は、2時間~200時間の範囲であることが好ましい。糖化反応のpHは、pH3.0~7.0の範囲が好ましく、pH4.0~6.0の範囲であることがさらに好ましい。トリコデルマ属由来セルラーゼの場合、その反応最適pHは5.0である。さらに、加水分解の過程でpHの変化が起きるため、反応液に緩衝液を添加する、あるいは酸やアルカリを用いて一定pHを保持しながら実施することが好ましい。
【0045】
糖化液から酵素を分離回収する場合には、糖化液を限外ろ過膜などでろ過し、非透過側に回収することができる、必要に応じてろ過の前工程として、糖化液から固形分を取り除いておいてもよい。回収した酵素は、再び糖化反応に用いることができる。
【実施例
【0046】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。
【0047】
<参考例1>タンパク質濃度測定条件
使用するタンパク質濃度測定試薬:Quick Start Bradfordプロテインアッセイ(Bio-Rad製)
測定条件
測定温度:室温
タンパク質濃度測定試薬:250μL
糸状菌の培養液:5μL
反応時間:5分
吸光度:595nm
標準品:BSA。
【0048】
<参考例2>セルラーゼの比活性の測定条件
(β-グルコシダーゼ比活性の測定条件)
基質:p-ニトロフェニル-β-グルコピラノシド(シグマアルドリッチジャパン社製)
反応液:1mMのp-ニトロフェニル-β-グルコピラノシドを含有する50mM酢酸バッファー90μL
酵素希釈液:10μL
反応温度:30℃
反応時間:10分間
反応停止剤:2M炭酸ナトリウム10μL
吸収度:405nm。
【0049】
(β-キシロシダーゼ比活性の測定条件)
基質:p-ニトロフェニル-β-キシロピラノシド(シグマアルドリッチジャパン社製)
反応液:1mMのp-ニトロフェニル-β-キシロピラノシドを含有する50mM酢酸バッファー90μL
酵素希釈液:10μL
反応温度:30℃
反応時間:10分間
反応停止剤:2M炭酸ナトリウム10μL
吸収度:405nm。
【0050】
(セロビオハイドロラーゼ比活性の測定条件)
基質:p-ニトロフェニル-β-ラクトピラノシド(シグマアルドリッチジャパン社製)
反応液:1mMのp-ニトロフェニル-β-ラクトピラノシドを含有する50mM酢酸バッファー90μL
酵素希釈液:10μL
反応温度:30℃
反応時間:10分間
反応停止剤:2M炭酸ナトリウム10μL
吸収度:405nm。
【0051】
<参考例3>セルロース含有バイオマスの糖化試験
セルロース含有バイオマスとして、Arbocel(登録商標) B800(レッテンマイヤー社製)または平均粒径100μmに粉末化したバガスを用いた。酵素液としては、Trichoderma reeseiまたはTrichoderma reeseiの変異株の培養液を1ml採取して遠心分離し、菌体を除去した上清を回収し、さらに0.22μmのフィルターでろ過したろ液を用いた。
【0052】
(糖化反応)
糖化反応の緩衝液として1M 酢酸ナトリウムバッファー100μL、雑菌の繁殖防止として50g/L エリスロマイシン溶液2μL、糖化対象物として、Arbocel(登録商標)B800(レッテンマイヤー株式会社製)または平均粒径100μmに粉末化したバガスをそれぞれ0.1g用いた。また、酵素液は、Arbocel(登録商標) B800を用いたフラスコ培養により得られた酵素液は、Arbocel(登録商標) B800を糖化対象物とした場合は450μL、粉末バガスを糖化対象物とした場合は400μL用いた。ラクトースを用いたフラスコ培養により得られた酵素液は、Arbocel(登録商標) B800を糖化対象物とした場合は350μL、粉末バガスを糖化対象物とした場合は400μLそれぞれ添加し、計1mLになるよう滅菌水でメスアップしたものを2mLチューブに入れた。50℃の温度条件で24時間糖化反応を行い、糖化物を遠心分離した上清を糖化液として回収し、回収した糖化液の10分の1量の1N NaOH溶液を添加して、酵素反応を停止させた。反応停止後の糖化液中のグルコース濃度を下記に示すUPLCで測定した。
【0053】
(グルコース濃度の測定)
グルコースは、ACQUITY UPLC システム(Waters)を用いて、以下の条件で定量分析した。グルコースの標品で作製した検量線をもとに、定量分析した。
カラム:AQUITY UPLC BEH Amide 1.7μm 2.1×100mm Column
分離法:HILIC
移動相:移動相A:80%アセトニトリル、0.2%TEA水溶液、移動相B:30%アセトニトリル、0.2%TEA水溶液とし、下記グラジエントに従った。グラジエントは下記の時間に対応する混合比に到達する直線的なグラジエントとした。
開始条件:(A99.90%、B0.10%)、開始2分後:(A96.70%、B3.30%)、開始3.5分後:(A95.00%、B5.00%)、開始3.55分後:(A99.90%、B0.10%)、開始6分後:(A99.90%、B0.10%)。
検出方法:ELSD(蒸発光散乱検出器)
流速:0.3mL/min
温度:55℃。
【0054】
<実施例1>配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドの機能が欠損したTrichoderma reeseiの変異株の作製
(変異株の作製方法)
配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドの機能が欠損したTrichoderma reeseiの変異株は、配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする配列番号1で表される遺伝子を選択マーカーとしてアセトアミド、選択マーカー遺伝子としてアセトアミドを分解することができるアセトアミダーゼ(AmdS)遺伝子(amdS)と置き換えることで破壊する。配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドの機能を欠損させるため、配列番号9で表される遺伝子配列からなるDNA断片を作製し、当該DNA断片をTrichoderma reesei QM9414株に形質転換して配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドの機能が欠損したTrichoderma reeseiの変異株を作製する。この方法により、配列番号1で表される塩基配列が欠損したTrichoderma reeseiの変異株が得られる。amdSを含むDNA配列の上流および下流に、上記の配列番号1で表される塩基配列からなるDNA断片を導入するために、Trichoderma reesei QM9414株の遺伝子配列と相同的な部分を付加するように変異導入用プラスミドを作製する。
【0055】
具体的には、Trichoderma reesei QM9414株から定法に従って抽出したゲノムDNAと配列番号10および11で表されるオリゴDNAを用いてPCRをし、得られた増幅断片を制限酵素AflIIとNotIで処理したDNA断片を上流DNA断片とする。また、配列番号12および13で表されるオリゴDNAを用いてPCRをし、得られた増幅断片を制限酵素MluIとSphIで処理したDNA断片を下流DNA断片とする。そして、上流及び下流DNA断片をAflIIとNotI、MluIとSphIの制限酵素をそれぞれ用いてamdSが挿入されたプラスミドへ導入し、変異導入用プラスミドを構築する。そして、変異導入用プラスミドを制限酵素AflIIとSphIで処理し、配列番号9で示す得られたDNA断片でTrichoderma reesei QM9414株を形質転換する。分子生物学的手法はMolecular cloning,laboratory manual,1st,2nd,3rd(1989)の記載通りに行う。また、形質転換は標準的な手法であるプロトプラスト-PEG法を用い、具体的にはGene,61,165-176(1987)の記載通りに行う。
【0056】
(変異株の作製・評価)
前述の方法に従って取得したTrichoderma reeseiの変異株をTrichoderma reesei 変異株Iとして、以下のタンパク質製造試験並びにタンパク質濃度およびセルラーゼ比活性測定の実験に用いた。
【0057】
<実施例2>Trichoderma reesei 変異株を用いたタンパク質の製造試験
(前培養)
実施例1で作製したTrichoderma reeseiの変異株の胞子を1.0×10/mLになるように生理食塩水で希釈し、その希釈胞子溶液2.5mLを表1に示した1Lバッフル付フラスコへ入れた250mLの前培養培地へ接種させ、振盪培養機にて28℃、120rpmの条件にて72時間培養を行う。コントロールとして、Trichoderma reesei QM9414株を用い、以下同様の実験操作を行う。
【0058】
【表1】
【0059】
(本培養)
Arbocel B800(レッテンマイヤー社)を表2で示した本培養培地に添加し、5Lジャーファーメンター(バイオット社製)を用い、深部培養検討を行う。
【0060】
Trichoderma reesei QM9414株および実施例1で作製したTrichoderma reesei 変異株の前培養液200mLをArbocel B800が添加された本培養培地2.5Lに接種する。
【0061】
培養条件は、本培養培地に前培養培地を接種後、28℃、700rpm、通気量100mL/minの培養条件にて、pH5.0に制御しながら深部培養を行う。
【0062】
【表2】
【0063】
(培養液の採取)
培養開始120時間後にそれぞれ20mLの培養液を採取する。採取した培養液の1部は、15,000×g、4℃の条件下で10分間遠心分離を行い、上清を得る。その上清を0.22μmのフィルターでろ過し、そのろ液をセルラーゼ溶液として、以下の実験に用いる。
【0064】
(タンパク質濃度の測定)
参考例1の条件で、培養開始120時間目に採取した培養液におけるタンパク質濃度を測定する。その結果、配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドの機能が欠損したTrichoderma reeseiの変異株の培養液におけるタンパク質濃度は、Trichoderma reesei QM9414株の培養液におけるタンパク質濃度と比較して高くなる。
【0065】
(酵素活性の測定)
参考例2の条件で、培養開始120時間目に採取した培養液におけるセルラーゼの比活性として、β-グルコシダーゼ、β-キシロシダーゼ、セロビオハイドラーゼの比活性をそれぞれ測定する。比活性は、405nmの吸光度の増加を測定し、1分間あたり1μmolの基質を遊離する活性を1Uとして算出する。その結果、配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドの機能が欠損したTrichoderma reeseiの変異株の培養液における上記3種類の比活性は、Trichoderma reesei QM9414株の培養液における比活性と比較して高くなる。
【0066】
(フラスコ培養)
実施例1で作製したTrichoderma reesei 変異株Iの胞子を、1.0×10/mLになるように生理食塩水で希釈し、その希釈胞子溶液0.1mLを表3に示したArbocel(登録商標) B800(レッテンマイヤー社)またはラクトースが含まれる50mLバッフル付フラスコへ入れた10mLのフラスコ培地へ接種させ、振盪培養機にて28℃、120rpmの条件にて120時間培養を行った。
【0067】
また、変異株Iの変異導入前の親株であるTrichoderma reesei QM9414株についても比較対象として前述の方法に従って120時間培養を行った。
【0068】
【表3】
【0069】
(培養液の採取)
培養開始120時間後に1mL培養液を採取した。培養液を15,000×g、4℃の条件下で10分間遠心分離を行い、上清を得た。その上清を0.22μmのフィルターでろ過し、そのろ液を以下の各種実験に用いた。
【0070】
(タンパク質濃度の測定)
Arbocel(登録商標) B800を用いた培養では、Trichoderma reesei QM9414株を培養した培養液に含まれるタンパク質濃度を1とした場合、Trichoderma reesei 変異株Iの培養液に含まれるタンパク質濃度の相対値は1.2であり、変異株のタンパク質製造能は親株よりも向上することを確認した。
【0071】
ラクトースを用いた培養でも、Trichoderma reesei QM9414株を培養した培養液に含まれるタンパク質濃度を1とした場合、Trichoderma reesei 変異株Iの培養液に含まれるタンパク質濃度の相対値は1.3であり、変異株のタンパク質製造能は親株よりも向上することを確認した。
【0072】
(セルラーゼ各種比活性の測定)
Arbocel(登録商標) B800を用いた培養では、Trichoderma reesei QM9414株を培養した培養液のセルラーゼの各種比活性を1とした場合、Trichoderma reesei 変異株Iを培養した培養液のセルラーゼの各種比活性の相対値は、β-グルコシダーゼ比活性は1.1、β-キシロシダーゼ比活性は1.5、セロビオハイドロラーゼ比活性は1.8であり、セルラーゼの各種比活性も向上するという予想外の効果が得られることを確認した。
【0073】
ラクトースを用いた培養でも、Trichoderma reesei QM9414株を培養した培養液のセルラーゼの各種比活性を1とした場合、Trichoderma reesei 変異株Iを培養した培養液のセルラーゼの各種比活性の相対値は、β-グルコシダーゼ比活性は1.8、β-キシロシダーゼ比活性は1.4、セロビオハイドロラーゼ比活性は1.6でありセルラーゼの各種比活性も向上するという予想外の効果が得られることを確認した。
【0074】
(糖化反応試験)
参考例3で記載した手法に従い、Trichoderma reesei 変異株Iのフラスコ培養開始から120時間目の培養液をセルラーゼとして用いて、セルロース含有バイオマスの糖化反応試験を行った。セルロース含有バイオマスとして、Arbocel(登録商標) B800または粉末バガスを用いた。
【0075】
その結果、Arbocel(登録商標) B800を糖化対象物とした場合の糖化反応において、Arbocel(登録商標) B800を用いてフラスコ培養することにより得られたTrichoderma reesei QM9414株のセルラーゼを用いた場合の糖化液に含まれるグルコース濃度を1とした場合、Trichoderma reesei 変異株Iのセルラーゼを用いた場合の糖化液のグルコース濃度の相対値は1.7、ラクトースを用いてフラスコ培養することにより得られたセルラーゼを用いた場合の糖化液に含まれるグルコース濃度の相対値も1.7であった。
【0076】
粉末バガスを糖化対象物とした場合の糖化反応において、Arbocel(登録商標) B800を用いてフラスコ培養することにより得られたTrichoderma reesei QM9414株のセルラーゼを用いた場合の糖化液に含まれるグルコース濃度を1とした場合、Trichoderma reesei 変異株Iのセルラーゼを用いた場合の糖化液のグルコース濃度の相対値は1.5、ラクトースを用いてフラスコ培養することにより得られたセルラーゼを用いた場合の糖化液に含まれるグルコース濃度の相対値も1.5であった。
【0077】
この結果より、Trichoderma reesei 変異株Iが生産するセルラーゼは、親株が生産するセルラーゼよりも酵素活性に優れ、それによりセルロース含有バイオマスからのグルコースを製造する能力が優れることを確認した。
【0078】
<実施例3>配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドの機能が欠損したTrichoderma reeseiの変異株の作製その2
Trichoderma reesei QM9414株の経代株であるQM9414-A株に対し、遺伝子変異処理を行って変異株であるQM9414-C株を取得した。遺伝子変異処理は、QM9414-A株の胞子を、表1に示す前培養培地1mLあたり1.0×105胞子になるよう接種し、前培養培地15mLを半日培養した後に遠心分離を行い、胞子を回収した。そして、回収した胞子をトリスーマレイン酸バッファー(pH6.0)にて10mLの胞子溶液になるよう懸濁し、そこへトリスーマレイン酸バッファー(pH6.0)で1.0g/Lになるよう溶解させたNTG溶液を0.5mL添加し、28℃、100分間、遺伝子変異処理を行った。遺伝子変異処理した胞子は、遠心分離にて回収した後に、トリスーマレイン酸バッファー(pH6.0)で3回洗浄し、最終的にトリスーマレイン酸バッファー(pH6.0)10mLにて懸濁したものを遺伝子変異処理胞子とした。その遺伝子変異処理胞子を結晶セルロースを添加して調製した寒天培地へ添加し、コロニー周囲に生じるセルラーゼによる結晶セルロース分解領域であるハロの大きさを指標とし、ハロの大きかったQM9414-C株を選抜した。
【0079】
QM9414-C株の遺伝子解析を行ったところ、配列番号1で表される塩基配列の6261番目のシトシンがアデニンへ変異していた。当該変異は、配列番号2で表されるアミノ酸配列の1523番目のグルタミン酸残基をストップコドンに変異させるもので、配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドのGlycosyltransferase_GTP_typeドメインが欠損する変異である。
<実施例4>配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドの機能が欠損したTrichoderma reeseiの変異株を用いたタンパク質の製造試験
(タンパク質濃度とセルラーゼ各種比活性の測定)
実施例3で取得した配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドの機能が欠損したTrichoderma reeseiの変異株であるQM9414-C株について、実施例2と同様の方法で培養を行い、参考例1と参考例2の条件で、培養開始から120時間目の培養液におけるタンパク質濃度とセルラーゼの比活性を測定した。コントロールには、QM9414-C株の親株であるQM9414-A株を用いた。
【0080】
これらの結果は表4に示すとおりであり、QM9414-A株と比較して、QM9414-C株は、相対値で2.6倍培養液中のタンパク質濃度が高くなった。また、QM9414-A株と相対値で比較して、QM9414-C株の各種比活性は、β-グルコシダーゼで3.1倍、β-キシロシダーゼで1.5倍、セロビオハイドロラーゼで2.0倍高くなった。
【0081】
【表4】
【0082】
(糖化反応試験)
参考例3で記載した手法に従い、Trichoderma reesei QM9414-C株の培養開始から120時間目の培養液をセルラーゼとして用いて、セルロース含有バイオマスの糖化反応試験を行った。セルロース含有バイオマスとして、Arbocel(登録商標) B800または粉末バガスを用いた。
【0083】
その結果、Trichoderma reesei QM9414-A株のセルラーゼを用いた場合の糖化液に含まれるグルコース濃度を1とした場合、Trichoderma reesei QM9414-C株のセルラーゼを用いた場合の糖化液のグルコース濃度の相対値は、Arbocel(登録商標) B800を糖化対象物とした場合は1.1、粉末バガスを糖化対象物とした場合の糖化反応においては1.2であった。
【0084】
この結果より、Trichoderma reesei QM9414-C株が生産するセルラーゼは、親株が生産するセルラーゼよりも酵素活性に優れ、それによりセルロース含有バイオマスからのグルコースを製造する能力が優れることを確認した。
【配列表】
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