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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-20
(45)【発行日】2023-11-29
(54)【発明の名称】車両制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60W 30/10 20060101AFI20231121BHJP
   B60W 30/08 20120101ALI20231121BHJP
   B60W 40/08 20120101ALI20231121BHJP
【FI】
B60W30/10
B60W30/08
B60W40/08
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020010825
(22)【出願日】2020-01-27
(65)【公開番号】P2021115972
(43)【公開日】2021-08-10
【審査請求日】2022-07-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】辻 雄太
(72)【発明者】
【氏名】舟久保 晃
(72)【発明者】
【氏名】加賀美 光二
(72)【発明者】
【氏名】福庭 一志
【審査官】楠永 吉孝
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-062237(JP,A)
【文献】国際公開第2018/105037(WO,A1)
【文献】特開2015-228090(JP,A)
【文献】特開2016-149122(JP,A)
【文献】特開2019-084885(JP,A)
【文献】特開2020-164038(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 30/00~60/00
G08G 1/00~ 1/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両を制御する車両制御装置であって、
前記車両の進行方向前方にある道路に関する道路情報を記憶する記憶部と、
退避走行制御を行う制御部とを備え、
前記道路情報は、前記道路の幅方向端に沿う路肩領域の幅員に関する情報を含み、
前記制御部は、
前記退避走行制御として、前記記憶部に記憶された道路情報に基づいて前記車両を前記路肩領域へ向けて退避させるための退避経路を生成し、前記車両が前記退避経路を走行するように前記車両の走行を制御するとともに、
前記退避走行制御の過程で、前記車両に設置された情報取得部で取得された車外環境情報に基づいた探索により認識された候補停車位置に対して設定された第1リスク値と、当該候補停車位置に到達するまでの前記車両の振る舞いに対して設定された第2リスク値との積により前記退避走行制御における路上障害物との衝突リスクを算出し、当該衝突リスクが所定以上の場合に、前記退避走行制御を取りやめて、走行レーン内に当該車両を停車させる
ことを特徴とする車両制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両制御装置において、
前記第1リスク値は、複数の走行レーンがある場合に、相対的に路肩領域に近い走行レーンの方が、相対的に路肩領域から遠い走行レーンよりも低く設定されている
ことを特徴とする車両制御装置。
【請求項3】
請求項1に記載の車両制御装置において、
前記退避経路は、前記退避走行制御が開始されてから車両が進行方向に所定時間又は所定距離走行した場合における到達点までの範囲内にある路肩領域に向かうように生成される
ことを特徴とする車両制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
ここに開示された技術は、車両制御装置に関する技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
従来より、運転者が体調不良を起こしたり、自動車の制御装置に異常が生じたりしたときに、車両を出来る限り安全な場所に停車させるための走行制御装置が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、運転者のブレーキ操作によらずに車両を停止させる緊急停車ユニットを備え、運転者状態検出部により運転者の状態の悪化が検出された場合には、車両を停車させる位置周辺の環境に応じて車両の舵角を変更しつつ車両を停車させる車両制御装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第5569602号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、周囲の交通状況は刻々と変化しているので、選択された走行パターンで走行させることが困難であったり、設定された位置に停車させるのが困難な場合がある。その場合に、新たな停車位置を探索することが想定されるが、交通状況等により停車位置の設定が困難な場合に、停車させるまでの時間が長大化する問題がある。
【0006】
ここに開示された技術は、斯かる点に鑑みてなされたものであり、車両を緊急停車させる際に停車させるまでの時間が長大化するのを回避することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するために、ここに開示された技術では、前記車両の進行方向前方にある道路に関する道路情報を記憶する記憶部と、退避走行制御を行う制御部とを備える走行制御装置を対象として、前記道路情報は、前記道路の幅方向端に沿う路肩領域の幅員に関する情報を含み、前記制御部は、前記退避走行制御として、前記記憶部に記憶された道路情報に基づいて前記車両を前記路肩領域へ向けて退避させるための退避経路を生成し、前記車両が前記退避経路を走行するように前記車両の走行を制御するとともに、前記退避走行制御の過程で、前記車両に設置された情報取得部で取得された車外環境情報に基づいて、前記退避走行制御における路上障害物との衝突リスクを演算し、当該衝突リスクが所定以上の場合に、前記退避走行制御を取りやめて、走行レーン内に当該車両を停車させるという構成とした。
【0008】
このような構成にすることで、例えば、車両を緊急停車させる場合に、路肩領域に停車させるのか、走行レーンに停車させるのかを、衝突リスクの大きさに応じて適切に判断することができる。また、停車するまでに想定外の時間がかかったり、なかなか停車できないという事態を避けることができる。すなわち、車両を緊急停車させる際に停車させるまでの時間が長大化するのを回避することができる。
【0009】
前記制御部は、候補停車位置に対して設定された第1リスク値と、当該候補停車位置に到達するまでの前記車両の振る舞いに対して設定された第2リスク値との積により前記衝突リスクを算出する、としてもよい。
【0010】
この構成によると、衝突リスクが具体的に評価されるため、衝突リスクをより適切に判断することができる。
【0011】
前記第1リスク値は、複数の走行レーンがある場合に、相対的に路肩領域に近い走行レーンの方が、相対的に路肩領域から遠い走行レーンよりも低く設定されている、としてもよい。
【0012】
相対的に路肩領域に近い走行レーンの方が相対的に路肩領域から遠い走行レーンよりも中央分離帯から離れており、周囲の車両と接触する可能性が低くなる。これにより、他車両との衝突リスクを軽減することができる。
【0013】
前記退避経路は、前記退避制御が開始されてから車両が進行方向に所定時間又は所定距離走行した場合における到達点までの範囲内にある路肩領域に向かうように生成される、としてもよい。
【0014】
これにより、例えば、運転者の体調不良等により車両を緊急停車させる場合に、緊急停車させるまでの最大時間又は最大距離を規定することができる。
【発明の効果】
【0015】
以上説明したように、ここに開示された技術によると、車両を緊急停車させる際に停車させるまでの時間が長大化するのを回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】例示的な走行制御装置を概略的に示すブロック図である。
図2A】緊急停車位置の設定動作を示すフローチャートである。
図2B】路肩領域の分析処理を示すフローチャートである。
図2C】停車位置設定工程の処理動作を示すフローチャートである。
図3A】車両の緊急停車時における制御部の処理動作を示すフローチャートである。
図3B】減速工程の処理動作を示すフローチャートである。
図3C】レーンチェンジ工程の処理動作を示すフローチャートである。
図3D】第1走行レーン走行工程及び停車工程の処理動作を示すフローチャートである。
図4】路肩領域の分析処理について説明するための図である。
図5】緊急停車位置の設定処理について説明するための図である。
図6】車両の走行シーンを示す概略図であって、第1候補停車位置に停車可能なシーンの一例を示す。
図7A図6の走行シーンで作成された分析リストの一例を示す。
図7B図8の走行シーンで作成された分析リストの一例を示す。
図7C図9の走行シーンで作成された分析リストの一例を示す。
図7D図10の走行シーンで作成された分析リストの一例を示す。
図7E図11の走行シーンで作成された分析リストの一例を示す。
図8】車両の走行シーンを示す概略図であって、第1候補停車位置に停車不能なシーンの例を示す。
図9】車両の走行シーンを示す概略図であって、第1候補停車位置に停車不能なシーンの他の例を示す。
図10A】車両の走行シーンを示す概略図であって、第1及び第2候補停車位置に停車不能なシーンの一例を示す。
図10B図10Aにおいて、緊急停車位置付近を拡大した図である。
図11】車両の走行シーンを示す概略図であって、路肩領域に停車不能なシーンの一例を示す。
図12】第1リスク値を示すテーブルである。
図13】第1リスク値を示すテーブルである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、例示的な実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。尚、以下の説明において、車両(本実施形態では自動車)の前進走行側を単に前側といい、後退走行側を単に後側という。また、後側から前側を見たときの左側を左側といい、その逆を右側という。また、以下の説明では、車両は左側通行の地域を走行する場合を想定して説明する。
【0018】
(車両制御システム)
図1は、実施形態の車両制御システム1の構成を例示する。車両制御システム1は、車両(具体的には自動四輪車)に設けられる。車両は、マニュアル運転とアシスト運転と自動運転とに切り換え可能である。マニュアル運転は、運転者の操作(例えばアクセルの操作など)に応じて走行する運転である。アシスト運転は、運転者の操作を支援して走行する運転である。自動運転は、運転者の操作なしに走行する運転である。車両制御システム1は、アシスト運転および自動運転において、車両を制御する。具体的には、車両制御システム1は、車両に設けられたアクチュエータ40を制御することで車両の動作(特に走行)を制御する。
【0019】
車両制御システム1は、情報取得部30と、車両制御装置10とを備える。以下の説明では、車両制御システム1が設けられている車両を「自車両H」と記載し、自車両Hの周囲に存在する他の車両を「他車両J」と記載する。
【0020】
〔アクチュエータ〕
アクチュエータ40は、駆動系のアクチュエータ、操舵系のアクチュエータ、制動系のアクチュエータなどを含む。駆動系のアクチュエータの例としては、エンジンE、トランスミッションT、モータが挙げられる。制動系のアクチュエータの例としては、ブレーキBが挙げられる。操舵系のアクチュエータの例としては、ステアリングSが挙げられる。
【0021】
〔情報取得部〕
情報取得部30は、車両の制御に用いられる各種情報を取得する。情報取得部30が取得する情報には、道路上の障害物の情報、及び、車両の走行目標となる目標位置までの目標経路を生成するための車外の環境情報(車外環境情報)が含まれる。この例では、情報取得部30は、複数のカメラ31と、複数のレーダ32と、位置センサ33と、車両状態センサ34と、乗員状態センサ35と、車外通信部36と、運転操作センサ37とを含む。
【0022】
〈カメラ〉
複数のカメラ31は、互いに同様の構成を有する。複数のカメラ31は、車両の周囲を囲うように車両に設けられる。複数のカメラ31は、車両の周囲に広がる環境(路上障害物を含む。以下、車外環境という)を撮像することで、車外環境を示す画像データを取得する。複数のカメラ31の各々により得られた画像データは、車両制御装置10に送信される。カメラ31で撮像された画像データは、車外環境情報の一例である。
【0023】
この例では、複数のカメラ31は、広角レンズを有する単眼カメラである。例えば、カメラ31は、CCD(Charge Coupled Device)やCMOS(Complementary metal-oxide-semiconductor)などの固体撮像素子を用いて構成される。尚、カメラ31は、狭角レンズを有する単眼カメラであってもよいし、広角レンズまたは狭角レンズを有するステレオカメラであってもよい。
【0024】
〈レーダ〉
複数のレーダ32は、互いに同様の構成を有する。複数のレーダ32は、車両の周囲を囲うように車両に設けられる。複数のレーダ32は、車外環境を検出する。具体的には、レーダ32は、車外環境へ向けて電波を送信して車外環境からの反射波を受信することで車外環境を検出する。複数のレーダ32の検出結果は、車両制御装置10に送信される。
【0025】
例えば、レーダ32は、ミリ波を送信するミリ波レーダであってもよいし、レーザ光を送信するライダ(Light Detection and Ranging)であってもよいし、赤外線を送信する赤外線レーダであってもよいし、超音波を送信する超音波センサであってもよい。レーダ32の検出結果は、車外環境情報の一例である。
【0026】
〈位置センサ〉
位置センサ33は、車両の位置(例えば緯度および経度)を検出する。例えば、位置センサ33は、全地球測位システムからのGPS情報を受信し、GPS情報に基づいて車両の位置を検出する。位置センサ33により得られた情報(車両の位置)は、車両制御装置10に送信される。位置センサ33で検出された車両の位置は、車外環境情報の一例である。
【0027】
〈車両状態センサ〉
車両状態センサ34は、車両の状態(例えば速度や加速度やヨーレートなど)を検出する。例えば、車両状態センサ34は、車両の速度を検出する車速センサ、車両の加速度を検出する加速度センサ、車両のヨーレートを検出するヨーレートセンサなどを含む。車両状態センサ34により得られた情報(車両の状態)は、車両制御装置10に送信される。
【0028】
〈乗員状態センサ〉
乗員状態センサ35は、車両を運転する運転者の状態(例えば運転者の身体挙動や生体情報など)を検出する。乗員状態センサ35により得られた情報(運転者の状態)は、車両制御装置10に送信される。図示しないが、例えば、乗員状態センサ35は、車内カメラ、生体情報センサなどを含む。車内カメラは、車両の内部に設けられる。車内カメラは、運転者の眼球を含む領域を撮像することで運転者の眼球を含む画像データを取得する。車内カメラにより得られた画像データは、車両制御装置10に送信される。例えば、車内カメラは、運転者の前方に配置され、運転者の眼球が撮像範囲内となるように撮像範囲が設定される。尚、車内カメラは、運転者に装着されるゴーグル(図示省略)に設けられてもよい。生体情報センサは、運転者の生体情報(例えば発汗や心拍や血流量や皮膚温など)を検出する。
【0029】
〈車外通信部〉
車外通信部36は、車両の外部に設けられた車外ネットワーク(例えばインターネットなど)を通じて情報を受信する。例えば、車外通信部36は、車両の周囲に位置する他車両Jからの通信情報、ナビゲーションシステム(図示を省略)からのカーナビゲーションデータ、交通情報、高精度地図情報などを受信する。車外通信部36により得られた情報は、車両制御装置10に送信される。車外通信部36により車外ネットワークから取得された交通情報、高精度地図情報などの情報は、車外環境情報の一例である。
【0030】
〈運転操作センサ〉
運転操作センサ37は、車両に加えられる運転操作を検出する。例えば、運転操作センサ37は、アクセル開度センサ、操舵角センサ、ブレーキ油圧センサなどを含む。アクセル開度センサは、車両のアクセルの操作量を検出する。操舵角センサは、車両のハンドルの操舵角を検出する。ブレーキ油圧センサは、車両のブレーキの操作量を検出する。運転操作センサ37により得られた情報(車両の運転操作)は、車両制御装置10に送信される。
【0031】
〔車両制御装置〕
車両制御装置10は、制御部100と、記憶部20とを備える。車両制御装置10は、アクチュエータ40および車両制御システム1の各部(この例では情報取得部30など)と電気的に接続される。そして、車両制御装置10は、車両制御システム1の各部により得られた情報に基づいてアクチュエータ40および車両制御システム1の各部を制御する。
【0032】
車両制御装置10は、アシスト運転または自動運転において、車両が走行すべき経路である目標経路を決定し、車両が目標経路に追従して走行するようにアクチュエータ40の動作を制御する。例えば、車両制御装置10は、1つまたは複数の電子制御ユニット(ECU)により構成される。電子制御ユニットは、単一のIC(Integrated Circuit)により構成されてもよいし、複数のICにより構成されてもよい。また、IC内には、単一のコアまたはダイが設けられてもよいし、連携する複数のコアまたはダイが設けられてもよい。コアまたはダイは、例えば、CPU(プロセッサ)と、CPUを動作させるためのプログラムやCPUでの処理結果などの情報を記憶するメモリとにより構成されてもよい。メモリは、記憶部20の一例である。記憶部20については、後で具体的に説明する。
【0033】
〔制御部〕
車両制御装置10は、制御部100を備える。制御部100は、情報取得部30により取得された各種情報に基づいて、アクチュエータ40の動作を制御する。
【0034】
この例では、制御部100は、運転者の体調を監視する。そして、制御部100は、運転者の体調異常が検出されるまで通常走行制御を行い、運転者の体調異常が検出されると通常走行制御を停止して退避走行制御を開始する。通常走行制御では、制御部100は、複数の経路候補の中から目標経路を選択し、車両が目標経路を走行するようにアクチュエータ40の動作を制御する。退避走行制御では、制御部100は、車両を路肩領域Rに設定した緊急停車位置に向けて退避させるための退避経路を生成し、車両が退避経路を走行するようにアクチュエータ40の動作を制御する。制御部100は、退避走行制御において、運転者の操作なしに車両を走行させる。すなわち、退避走行制御は、前述の自動運転である。尚、上記の体調異常は、疾患により運転者の運転機能が低下した状態のことであり、運転者による車両の運転の継続が困難である状態のことである。このような体調異常の例としては、脳卒中などの脳疾患、心筋梗塞などの心疾患、癲癇、低血糖などが挙げられる。ここで、本開示における路肩領域Rとは、路肩及び路側帯のように車両の走行路に沿って路端寄りに設けられた帯状の道路のうち、車両の停車が認められている領域を指すものとする。また、路肩領域Rには、走行路の路端寄りに車両が駐停車できるように道路の一部の幅員を広げて設けられた車両用の駐停車領域(例えば、図4の斜線領域R11参照)を含む。
【0035】
制御部100は、車外環境認識部111と、運転操作認識部112と、車両挙動推定部113と、乗員状態推定部114と、走行制御部115と、緊急停車制御部130とを有する。
【0036】
〈車外環境認識部〉
車外環境認識部111は、複数のカメラ31の出力と、複数のレーダ32の出力と、位置センサ33の出力と、車外通信部36の出力と、車両挙動推定部113の出力に基づいて、車両の外部環境を認識する。車外環境認識部111は、車外環境認識手段の一例である。
【0037】
例えば、車外環境認識部111は、深層学習により生成された学習モデルを用いて、上記の出力から車両の外部環境を示す車外環境情報を生成する。深層学習では、多層ニューラルネットワーク(Deep Neural Network)が用いられる。多層ニューラルネットワークの例としては、CNN(Convolutional Neural Network)が挙げられる。
【0038】
具体的には、車外環境認識部111は、カメラ31により得られた画像に対して画像処理を行うことで、走行路などの車両が移動可能な領域を表す二次元マップデータを生成する。また、車外環境認識部111は、レーダ32の検出結果に基づいて、車両の周辺に存在する物体に関する情報である物体情報を取得する。車外環境認識部111は、前記物体情報を基に、車両の周辺に存在する物体のうち車両の走行及び停車をする過程において障害となり得る路上障害物を認識する。物体の例としては、時間経過により変位する動体と、時間経過により変位しない静止体とが挙げられる。動体の例としては、自動四輪車、自動二輪車、自転車、歩行者などが挙げられる。静止体の例としては、標識、街路樹、中央分離帯、センターポール、建物などが挙げられる。また、物体情報には、物体の位置座標、物体の速度などが含まれる。尚、車外環境認識部111は、レーダ32の検出結果に加えて又は代えてカメラ31により得られた画像に基づいて物体情報を取得してもよい。そして、車外環境認識部111は、二次元マップデータと物体情報とを統合することで、車外環境を表す統合マップデータ(三次元マップデータ)を生成する。二次元マップデータ、物体情報、統合マップデータは、車外環境情報の一例である。
【0039】
〈運転操作認識部〉
運転操作認識部112は、運転操作センサ37の出力に基づいて車両に加えられる運転操作を認識する。例えば、運転操作認識部112は、深層学習により生成された学習モデルを用いて、運転操作センサ37の出力から車両に加えられる運転操作を示すデータを生成する。
【0040】
〈車両挙動推定部〉
車両挙動推定部113は、車両状態センサ34の出力に基づいて車両の挙動(例えば速度や加速度やヨーレートなど)を推定する。例えば、車両挙動推定部113は、深層学習により生成された学習モデルを用いて、車両状態センサ34の出力から車両の挙動を示すデータを生成する。
【0041】
例えば、車両挙動推定部113において用いられる学習モデルは、車両6軸モデルである。車両6軸モデルは、走行中の車両の「前後」「左右」「上下」の3軸方向の加速度と「ピッチ」「ロール」「ヨー」の3軸方向の角速度とをモデル化したものである。すなわち、車両6軸モデルは、車両の動きを古典的な車両運動工学的な平面上のみ(車両の前後左右(X-Y移動)とヨー運動(Z軸)のみ)で捉えるのではなく、4つの車輪にサスペンションを介して乗っている車体のピッチング(Y軸)およびロール(X軸)運動とZ軸の移動(車体の上下動)の、合計6軸を用いて車両の挙動を再現する数値モデルである。
【0042】
〈乗員状態推定部〉
乗員状態推定部114は、乗員状態センサ35の出力に基づいて運転者の状態(例えば運転者の健康状態や感情や姿勢など)を推定する。例えば、乗員状態推定部114は、深層学習により生成された学習モデルを用いて、乗員状態センサ35の出力から運転者の挙動を示すデータを生成する。この例では、乗員状態推定部114は、運転者の体調異常を検出する。
【0043】
〈走行制御部〉
走行制御部115は、車外環境認識部111の出力と、運転操作認識部112の出力と、車両挙動推定部113の出力と、乗員状態推定部114の出力とに基づいて、アクチュエータ40を制御する。この例では、走行制御部115は、経路生成部116と、経路決定部117と、車両運動決定部118と、アクチュエータ制御部119と、ルールベース制御部120を有する。
【0044】
《経路生成部》
経路生成部116は、車外環境認識部111の出力に基づいて、車両の走行目標となる目標位置に車両を走行させるための1つまたは複数の候補経路を生成する。候補経路は、車両が走行可能な経路であり、目標経路の候補である。候補経路には、例えば、車外環境認識部111により認識された路上障害物を回避する走行経路が含まれる。
【0045】
例えば、経路生成部116は、ステートラティス法を用いて候補経路を生成する。具体的な図示は省略するが、経路生成部116は、車外環境認識部111により認識された走行路上に多数のグリッド点からなるグリッド領域を設定し、車両の進行方向へ向けて複数のグリッド点を順に連結することで多数の走行経路を設定する。また、経路生成部116は、複数の走行経路の各々に経路コストを付与する。例えば、走行経路における車両の安全性が高くなるにつれて、その走行経路に付与される経路コストが小さくなる。そして、経路生成部116は、複数の走行経路の各々に付与された経路コストに基づいて、複数の走行経路の中から1つまたは複数の走行経路を候補経路として選択する。
【0046】
ここで、目標位置には、車両の最終的な到達先を示す最終目標位置と、最終目標位置に車両を走行させる過程で、最終目標位置と現在の車両位置との間に適宜設定される中間目標位置とが含まれる。中間目標位置は、例えば、上記のグリッド領域の終端における車両の到達先を示す目標位置であり、走行の過程で適宜更新される。
【0047】
また、経路生成部116は、運転者の体調異常が検出された場合のような緊急時における退避走行制御では、車両を緊急停車させる停車位置を探索して目標位置に設定し、停車位置までの退避経路を生成する。退避経路の生成方法の具体例については、後で説明する。
【0048】
《経路決定部》
経路決定部117は、車外環境認識部111の出力、運転操作認識部112の出力、乗員状態推定部114の出力の少なくとも1つに基づいて、経路生成部116とルールベース制御部120と退避制御部130との各々により生成された1つまたは複数の候補経路の中から目標経路となる候補経路を選択する。例えば、経路決定部117は、運転者が正常な状態(通常走行状態)において、複数の候補経路のうち運転者が最も快適であると感じる候補経路を選択する。
【0049】
例えば、経路決定部117は、通常走行状態における走行制御(通常走行制御)において、ルールベース制御部120により生成された候補経路よりも経路生成部116により生成された候補経路を優先的に目標経路として選択する。また、経路決定部117は、通常走行制御において、経路生成部116により生成された候補経路がルールベース制御部120により生成された候補経路から大きく逸脱している場合に、ルールベース制御部120により生成された候補経路を目標経路として選択してもよい。例えば、経路決定部117は、経路生成部116により生成された走行経路がルールベース制御部120により探索されたフリースペースを通過しない場合に、経路生成部116により生成された候補経路がルールベース制御部120により生成された候補経路から大きく逸脱していると判定してもよい。ここで、フリースペースとは、車外環境に含まれる走行路及び路肩領域のうち障害物が存在しない領域である。障害物は、動的な障害物と、静的な障害物とを含む。動的な障害物の例としては、他車両、歩行者などが挙げられる。静的な障害物の例としては、中央分離帯、センターポールなどが挙げられる。尚、以下の説明では、走行路のフリースペースを「走行路フリースペース」と呼ぶ場合がある。
【0050】
また、経路決定部117は、運転者の体調異常が検出された場合のような緊急時における退避走行制御では、経路生成部116により生成された退避経路を目標経路として選択する。
【0051】
《車両運動決定部》
車両運動決定部118は、経路決定部117により目標経路として選択された候補経路に基づいて目標運動を決定する。この目標運動は、目標経路に追従して走行するために必要となる車両の運動のことである。この例では、車両運動決定部118は、目標運動を達成するための駆動力と制動力と操舵量である目標駆動力と目標制動力と目標操舵量をそれぞれ導出する。例えば、車両運動決定部118は、車両6軸モデルに基づいて目標経路における車両の動きを演算し、その演算結果に基づいて目標運動を決定する。
【0052】
《アクチュエータ制御部》
アクチュエータ制御部119は、車両運動決定部118により決定された目標運動に基づいてアクチュエータ40を制御する。この例では、アクチュエータ制御部119は、PT制御部119aと、ブレーキ制御部119bと、操舵制御部119cとを有する。PT制御部119aは、目標駆動力を示す駆動指令値を駆動系のアクチュエータに送信する。ブレーキ制御部119bは、目標制動力を示す制動指令値を制動系のアクチュエータに送信する。操舵制御部119cは、目標操舵量を示す操舵指令値を操舵系のアクチュエータに送信する。
【0053】
〈ルールベース制御部〉
ルールベース制御部120は、深層学習により生成された学習モデルの代わりに、予め定められたルールに基づくアルゴリズムを用いて処理を行う。
【0054】
具体的には、ルールベース制御部120は、情報取得部30の出力に基づいて車外環境を認識し、その車外環境に基づいて走行路フリースペースを探索する。例えば、ルールベース制御部120は、予め設定された探索ルールに基づいて、走行路フリースペースを探索する。探索ルールには、物体を中心とする所定の範囲(例えば数mの範囲)を回避不能範囲とするというルールが含まれてもよい。また、ルールベース制御部120は、物体が動体である場合に、その動体の移動速度を考慮して走行路フリースペースを探索するように構成されてもよい。
【0055】
そして、ルールベース制御部120は、走行路フリースペースを通過する候補経路(すなわち障害物を回避する候補経路)を生成する。ルールベース制御部120により生成された候補経路(すなわちフリースペースを通過する候補経路)は、走行制御部115の経路決定部117において利用される。
【0056】
〈緊急停車制御部〉
緊急停車制御部130は、緊急時(例えば、乗員状態推定部114により運転者の異常が検出されたとき)に、運転者の操作によらずに該車両を緊急停車位置まで自動走行させて、該停車位置に緊急停車させるための制御を行う。具体的には、緊急停車制御部130は、停車位置決定部131と、停車経路生成部132と、リスク算出部133とを備える。
【0057】
尚、緊急停車制御部130は、運転者の異常が検出された場合に、それまでの運転モードが、マニュアル運転モード、アシスト運転モード、自動運転モードのいずれの運転モードであるかに拘わらずに自動的に作動する。
【0058】
図2A図2C及び図3A図3Dは、緊急停車制御部130による処理の一例を示したフローチャートであり、緊急停車制御部130の各構成要素の機能についてこれらの図面を参照しつつ説明する。尚、説明の便宜上、図2A図2Cをまとめて図2といい、図3A図3Dをまとめて図3という場合がある。
【0059】
《停車位置決定部》
停車位置決定部131は、乗員状態推定部114により運転者の異常が検出されると、路肩領域の分析を行い、その路肩領域の分析結果に基づいて緊急停車位置を設定する。緊急停車位置は、前述の最終目標位置の一例である。
【0060】
図2の緊急停車制御は、運転者の異常が検出されると動作する。すなわち、運転者の異常が検出されるまでは、図2AのステップS11で待機状態となる。
【0061】
図2Aにおいて、運転者の異常が検出されると、ステップS11でYES判定となる。次のステップS13及びS14において、Tは運転者異常が検出されてからの経過時間であり、運転者の異常が検出された時点をT=0とする。そうすると、運転者異常が検出された後の最初の動作では、ステップS13,S14はYES判定となり、制御フローは次のステップS15に進む。
【0062】
ステップS15では、停車位置決定部131は、退避スペースを検出するための検出候補エリアを設定する。具体的には、停車位置決定部131は、退避スペースを検出する検出候補エリアの始点Psと終点Peとを設定する。
【0063】
始点Psの設定方法は、特に限定されないが、例えば、停車位置決定部131は、自車両Hの車速を所定の速度以下まで減速させることができる地点を始点Psとして設定する。より具体的には、始点Psは、例えば、運転者の体調異常が検出されてから、自車両Hの車速を所定以下(例えば、10km/h)まで減速させ、その車速で所定時間(例えば3秒間)走行した場合における到達地点に設定される。
【0064】
図4には、始点Ps及び終点Peの設定例を示している。具体的に、図4では、実線の自車両HのH1の位置で運転者の異常が検出され、H2の場所で減速が開始されて、H3の場所で車両が上記の所定速度までの減速及び所定時間の走行が予測される場合に、始点PsがH3の場所に設定された例を示している。尚、本実施形態では、時間経過についての説明を容易にするために、自車両の符号Hの後ろに時間経過順を示す1,2,3…の符号を付して、位置H1,H2,H3…として説明するものとする。すなわち、位置H1,H2,H3…は、自車両Hの位置が時間経過によってどのように遷移するかを示している。他車両Jについても同様である。他の図面についても、同様に、車両の符号H,Jの後ろに数字を付して、車両位置の時間経過による遷移状態を示す場合がある。
【0065】
終点Peの設定方法は、特に限定されないが、例えば、始点Psから所定の車速(例えば10km/h)で所定時間走行した場合に車両が到達する地点に設定される。所定時間の設定方法は、特に限定されないが、例えば、走行シーンに合わせて設定される。具体的には、終点Peは、一般道では始点Psから60秒走行した地点、高速道路では始点Psから180秒間走行した地点、のように設定される。また、終点Peとして、実際の制限時間に対してマージンを持たせるようにしてもよい。
【0066】
このように、検出候補エリアの終点Peを定めることで、どの位置までに停車させるかを確定させることができ、自動停車するまでに想定外の時間がかかったり、なかなか停車できないという事態を避けることができる。尚、停車位置決定部131による終点Peの決定方法は、特に限定されない。例えば、終点Peまでの距離(走行時間)が固定値であってもよいし、運転者の体調異常の状態や重症度、緊急度などに応じて値が変更されてもよい。
【0067】
ステップS15において、停車位置決定部131は、始点Ps及び終点Peの設定が終わると、次のステップS16では、後述する路肩領域の静的評価が終了しているか否かが判断される。ここでは、緊急停車位置が未設定のため、NO判定となり、制御フローは、路肩領域の分析(ステップS20)に進む。
【0068】
-路肩領域の分析-
図2Bは、路肩領域の分析工程S20の一例について示したフローチャートである。本実施形態では、図2Bのフローに基づいた路肩領域の分析結果として、図4の走行シーンに基づいて図5の分析リストL1が作成される例、及び、図6の走行シーンに基づいて図7Aの分析リストL2が作成される例について説明する。
【0069】
尚、図6では、後述する幅員の評価値がCの路肩領域についての図示を省略しているが、図4と同様に、停止線SLの自車両H側に第1走行レーンに沿って延びる路肩領域R(幅員の評価値がA~C)が設けられているものとする。後述する図8図10A図11図12についても同様である。また、以下の説明において、図5の分析リストL1と図7の分析リストL2とを区別しない場合には、単に分析リストLと記載する。
【0070】
ステップS21において、停車位置決定部131は、検出候補エリア(地点Psから地点Peの間)の道路情報を取得する。道路情報には、走行路に関する情報と、路肩領域の幅員を算出するための情報と、交通規制情報や道路構造情報などの車両を走行させたり停車させたりする上での交通制約となる情報(以下、交通制約情報という)とが含まれる。道路情報は、例えば、車外通信部36を介して外部のネットワークやGPSから取得される。
【0071】
ステップS22では、路肩領域の幅員が算出される。具体的な算出方法は、特に限定されないが、例えば、停車位置決定部131は、車外通信部36を介して受信された高精度地図情報と、情報取得部30で取得された車外環境情報に基づいて、路肩領域Rの幅員が算出される。より具体的には、例えば、図4に示すように、停車位置決定部131は、高精度地図情報の第1走行レーンの中心において、始点Psと終点Peとの間に、所定間隔でn個(nは2以上の整数)の点P~Pをプロットし、それぞれの点P~Pから道路端までの法線を引いて距離を求め、各法線の長さから走行レーンの1/2幅を引いて路肩領域の幅員とする。尚、高精度地図情報に路肩領域の幅員の情報が含まれている場合には、ステップS22を省略して、その情報を使用するようにしてもよい。換言すると、路肩領域の幅員は、例えば、縁石から第1走行レーンの路肩側の白線まで幅員である。
【0072】
ステップS22では、路肩領域の有無や路肩領域と走行路との間の白線の種類についての情報を取得し、分析リストLに反映する。図5の例では、それぞれの点P(Ps<P<Pe)について、路肩領域がある場合に「1」、路肩領域がない場合に「0」が設定されている。また、白線が1本の場合、すなわち、車両の駐停車が可能な路肩領域の場合に「1」、それ以外の白線の場合に「0」が設定されている。また、路肩領域を区画する白線が存在しない場所については、「-」が設定されている。図7Aについても同様である。
【0073】
ステップS23では、路肩領域の幅員についての評価(以下、路肩幅員評価ともいう)が実行される。図5及び図7Aの例では、路肩領域の幅員に応じて各点Pを3段階(A、B、C)で評価をした例を示している。評価Aは路肩領域の幅員が「車両の全幅+0.5m以上」であり、評価Bは路肩領域の幅員が「車両の全幅+0.5m未満」であり、評価Bは路肩領域の幅員が「車両の全幅未満」である。車両の全幅には、例えば、自車両に関する車両情報が適用される。また、路肩領域の評価は、路肩領域の有無や白線の種類を加味したものとしてもよい。例えば、図5の点Pn-2~Pの欄に示すように、路肩領域の有無で「0」が設定されていたり、白線の種類で「0」が設定されている場合に、路肩領域の評価として、車両の停車位置として不適切である点であることを示す評価値(例えば「0」)が設定されるようにしてもよい。
【0074】
ステップS24では、交通規制情報や道路構造情報などの交通制約情報が分析リストに反映される。交通規制情報は、例えば、交差点までの距離、横断歩道/自動車横断帯までの距離、分流路/合流路までの距離、踏切までの距離、バス停留所までの距離、駐停車禁止の道路標識/路面標示の有無、安全地帯からの距離などの情報が含まれる。道路構造情報としては、例えば、道路の勾配量、トンネルの内/外、軌道敷の内/外などの情報が含まれる。
【0075】
より具体的に、例えば、ステップS24では、緊急停車位置(緊急停車スペース)として設定可能か否かが分析リストLに反映される。例えば、分析リストLには、それぞれの点Pについて、緊急停車位置として設定可能な場合に「1」、設定不可能な場合に「0」が設定される。図5の例では、交差点までの距離が5m以上ある場合には緊急停車位置の設定が可能な位置としての「1」が設定され、交差点までの距離が5m未満の場合に、緊急停車位置の設定が不可能な位置としての「0」が設定される。また、横断歩道までの距離についても同様に設定される。
【0076】
ステップS25では、本制御プロセスの実行時における路肩評価が実行される。路肩評価の方法は、特に限定されないが、例えば、路肩評価として、前述の道路情報を基にした静的評価と、動的評価との組み合わせによる評価が実行される。換言すると、分析リストLの静的評価の項目に記載された情報は、道路情報の一例である。
【0077】
動的評価とは、例えば、運転者の異常が検出された場合に、その時点で情報取得部30から取得された車外環境情報に基づく評価であり、準動的障害物に関する評価(以下、準動体評価という)と、動的障害物に関する評価(以下、動体評価という)とを含む。
【0078】
準動体評価では、エンジンがオフ状態の駐車車両のように動作が停止している路上障害物、工事用の柵や看板のように一時的に設置された路上障害物、電柱等の路上障害物に対する評価が実施される。換言すると、準動体評価の評価対象である準動的障害物には、道路情報に反映されていない路上障害物であって、情報取得部30から取得された時点若しくはその前後の時間において静止体であるものが含まれる。準動体評価では、自車両Hの走行経路から路肩領域の間において、前述の法線上に路上障害物がない場合に「1」が設定され、路上障害物がある場合に「0」が設定される。例えば、図4においてCの位置に電柱が立っており、それ以外に路上障害物がないとすると、図5の分析リストL1において点P4に「0」が設定される。尚、停車位置に向かう退避経路が設定されていない場合には、例えば、現在の走行路を直進した場合における走行経路と路肩領域との間において、前述の法線上の路上障害物が評価される。
【0079】
動体評価では、歩行者や走行している車両、走行路において信号待ち等により一時的に停車している車両のように、「動いている路上障害物もしくは近い将来に動く可能性のある路上障害物(これらを総称して動的障害物という)」に対する評価が実施される。動体評価では、自車両Hの走行経路(準動体評価の場合と同様)から路肩領域の間において、前述の法線上に路上障害物がない場合に「1」が設定され、路上障害物がある場合に「0」が設定される。尚、動体評価では、路上障害物が前方向または後方向に移動する可能性があるので、路上障害物がある点Pに加えて、前後数点の点Pにも「0」が設定される。尚、前後のどの程度の点Pに「0」を設定するかについては、特に限定されず、例えば、固定量にしてもよいし、路上障害物の種別や、情報取得部30からの車外環境情報を基に推定される路上障害物の移動速度に基づいて設定するようにしてもよい。
【0080】
路肩評価では、例えば、静的評価と動的評価をすべて掛け合わせた結果に基づいて評価値を算出する。例えば、「1」と「0」が設定されている項目について、一つでも「0」が設定されていると、その点Pについての評価値は「0」となる。例えば、図4及び図5の例において、点Pは、路肩幅員評価の評価値が「C」であり、その他の評価項目がすべて「1」となっているので、路肩評価の評価値として「C」が設定される。一方で、点P~Pについては、路肩幅員評価の評価値は「C」であるが、動体評価の評価値が「0」なので、路肩評価の評価値として「0」が設定される。このようにして、すべての点Pに対して、路肩評価が実行され、評価値として路肩幅員評価値の「A~C」または「0」が設定される。すべての点Pについての路肩評価が終わると、上記の分析リストLが、記憶部20に記憶され、図2Bの処理が終了し、制御フローは図2AのステップS30(図2Cの処理)に進む。
【0081】
分析リストLの静的評価は、最初に始点Ps及びPeが設定された場合にのみ評価が実行される。一方で、動的評価は、車両の走行過程において随時または所定期間ごとに更新される。動的評価の更新は、例えば、後述する図2AのステップS19で実行される。
【0082】
-停車位置設定工程-
図2Cでは、路肩領域の分析工程S20で生成された分析リストLに基づいて、停車位置の設定工程として、緊急停車位置の探索及び設定が実行される。
【0083】
ステップS31では、記憶部20から前述の分析リストLが読みだされ、その分析リストLを用いて車両を緊急停車させることができる領域(以下、停車可能領域という)が抽出される。具体的には、停車可能領域として、例えば、分析リストの評価値がA~Cの領域のうち、路肩領域の幅員が所定幅員以上であり、かつ、その所定幅員以上の領域が所定距離にわたって連続する領域が設定される。上記の所定幅員として、例えば、評価値がA,Bの領域に限定してもよいし、上記の所定幅員に評価値がA~Cの領域をすべて含ませるようにしてもよい。
【0084】
図4及び図5の例では、停車可能領域として、評価値がA,Bの領域が設定されているものとする。そうすると、図4に示すように、ステップS31では、停車可能領域R11が抽出される。図6及び図7Aの例では、停車可能領域に評価値がA~Cの領域をすべて含ませるものとしている。そうすると、図6に示すように、ステップS31では、停車可能領域R21~R25が抽出される。尚、図4及び図6において、RNは交通制約のある制約領域を示している。
【0085】
ステップS32では、自車両Hの現在位置(現在位置が始点Psより手前の場合は始点Ps)から終点Peの間に、停車可能領域があるか否かが判定される。図4の例では、停車可能領域R11が抽出されているので、ステップS32はYES判定となり、制御フローは次のステップS33に進む。図6の例についても、停車可能領域R21~R25が抽出されているので図4と同様に、制御フローは次のステップS33に進む。
【0086】
ステップS33では、停車可能領域が複数あるか否かが判定される。図4の例のように、停車可能領域が1つしかない場合、その停車可能領域R11内に緊急停車位置に設定され(ステップS36)、緊急停車位置の設定処理は終了となる。一方で、図6の例のように、停車可能領域が複数ある場合には、制御フローは次のステップS35に進む。
【0087】
ステップS35では、優先度に基づいて緊急停車位置の設定が可能か否かが判定される。図6の例では、路肩領域の幅員が広い順に評価値がA,B,Cと設定されているので、優先度は、評価値がA,B,Cの順に高い。そうすると、図6の例では、図7Aに示すように、評価値Aの停車可能領域がR22,R24の2つあるので、ステップS35においてNO判定となり、制御フローはステップS38に進む。ステップS38では、同じ優先度(評価値A)の中で、本制御プロセスの実行時点において停車が可能であり、かつ、最も近い領域である停車可能領域R22内に緊急停車位置が設定される。緊急停車位置の設定が終わると、図2Cの設定処理、すなわち、図2AのステップS30の処理は終了となる。
【0088】
一方、ステップS35でYES判定となった場合、すなわち、優先度に基づく緊急停車位置の設定が可能な場合には、停車が可能な停車可能領域のうち、最も優先度の高い領域内に緊急停車位置が設定される。
【0089】
尚、停車可能領域が自車両Hの長さよりも十分に長い場合に、停車可能領域の中でどこを緊急停車位置に設定するかは特に限定されない。例えば、その停車可能領域のうちの手前側の位置が緊急停車位置に設定される。緊急停車位置の設定が終わると、図2Cの設定処理、すなわち、図2AのステップS30の処理は終了となる。
【0090】
以下の説明において、説明の便宜上、上記の停車位置決定部131による緊急停車位置を設定する工程を「停車位置設定工程」と呼ぶものとする。
【0091】
《停車経路生成部》
停車経路生成部132では、停車位置決定部131によって設定された緊急停車位置までの退避経路を生成する。具体的には、停車経路生成部132は、経路生成部116による経路生成と同様の処理を実行する。具体的には、停車経路生成部132は、車外環境認識部111の出力に基づいて複数の候補経路を生成する。また、停車経路生成部132は、複数の走行経路の各々に付与された経路コストに基づいて、複数の走行経路の中から安全でかつ最短で緊急停車位置に向かう走行経路を緊急停車位置に向かう退避経路(以下、単に退避経路という)として選択する。尚、停車経路生成部132は、より安全性を担保するために、ルールベース制御部120と同様の処理に基づいて、退避経路を生成するようにしてもよい。停車経路生成部132は、選択した退避経路を車両運動決定部118に送信する。
【0092】
《リスク算出部》
リスク算出部133は、情報取得部30で取得された車外環境情報に基づいて、後述する退避経路生成工程、減速工程、レーンチェンジ工程、第1走行レーン走行工程、停車工程において、自車両Hが路上障害物に衝突する衝突リスクを算出する。
【0093】
リスク算出部133にて考慮される路上障害物は、動体(例えば、自動四輪車、自動二輪車、自転車、歩行者など)と、静止体(工事などで一時的に設置された設置物、駐車車両など)の両方が含まれる。リスク算出部133で算出された衝突リスクは、停車位置決定部に送信される。ここで、同一方向に向かう走行路のうち、路肩領域Rに隣接する走行レーンを第1走行レーンと呼ぶ。また、第1走行レーンに隣接し、かつ、第1走行レーンよりも路肩領域Rから離れた走行レーンがある場合に、その走行レーンを第2走行レーンと呼ぶ。また、第2走行レーンに隣接し、かつ、第2走行レーンよりも路肩領域Rから離れた走行レーンがある場合に、その走行レーンを第3走行レーンと呼ぶ。すなわち、走行路は、路肩領域側から、第1走行レーン、第2走行レーン、第3走行レーンの順に並んだ走行レーンを有する。尚、走行レーンは、第1走行レーンの1つであってもよいし、同一方向の走行レーンが4レーン以上あってもよい。
【0094】
また、リスク算出部133は、衝突リスクとして、自車両Hを停車させる候補となる位置(以下、候補停車位置という)に対して設定された第1リスク値と、候補停車位置に到達するまでの自車両Hの振る舞いに対して設定された第2リスク値との積による衝突リスク値を算出するようにしてもよい。衝突リスク値の具体的な算出方法については、後ほど説明する。
【0095】
〔退避走行制御〕
次に、図2及び図3を参照して退避走行制御について説明する。
【0096】
まず、退避走行制御について、概要を説明すると、退避走行制御では、前述の停車位置設定工程に加えて、退避経路生成工程、減速工程、レーンチェンジ工程、第1走行レーン走行工程及び停車工程が実行される。退避経路生成工程は、停車位置設定工程で設定された緊急停車位置までの退避経路を生成する工程である。減速工程は、自車両Hの車速を所定速度以下に減速させる工程である。レーンチェンジ工程は、複数の走行レーン(同一方向)がある場合において、自車両Hが第1走行レーン以外を走行しているときに、情報取得部30で取得された車外環境情報に基づいて、第1走行レーンに向かって車両をレーンチェンジさせる工程である。第1走行レーン走行工程は、第1走行レーンにおいて自車両Hを所定速度以下で走行させる工程である。停車工程は、第1走行レーンから停車可能領域に車両を進入させて、緊急停車位置に自車両Hを停車させる工程である。
【0097】
退避走行制御では、自車両Hが緊急停車位置に停車するまでの間、図2及び図3のフローが繰り返し実行される。尚、上記の《停車位置決定部》において、図2AのステップS30までの動作について説明したので、ここでは、その後の動作について説明する。
【0098】
《退避走行制御(1)》
以下の説明では、自車両Hが、図6の走行シーンを走行している際に、運転者異常が検出されたものとして説明する。すなわち、図3Aの制御フローの開始時点において、図6に示す位置に始点Ps、終点Peが設定され、図7Aの分析リストL2が作成されているものとする。また、停車可能領域としてR21~R25(図6参照)が抽出され、緊急停車位置が停車可能領域R22内に設定された状態であるものとする。
【0099】
図2Aにおいて、ステップS30の処理、すなわち、停車位置決定部131による停車位置設定工程が終了すると、制御フローは図3AのステップS41に進む。
【0100】
ステップS41において、緊急停車制御部130では、停車位置の設定があるか否かが確認される。停車位置の設定には、新規に緊急停車位置が設定された場合と、詳細は後述するが、緊急停車位置に向かって走行している途中で緊急停車位置が変更(再設定)された場合とが含まれる。図2のステップS30において緊急停車位置が設定されているので、ステップS41はYES判定となり、制御フローはステップS42に進む。
【0101】
-退避経路生成工程-
ステップS42では、停車位置決定部131によって設定された緊急停車位置までの退避経路が生成される。具体的に、退避経路生成工程では、停車経路生成部132が、停車位置決定部131によって設定された緊急停車位置までの退避経路を生成する。退避経路を生成については、上記の《停車経路生成部》で説明したので、ここではその説明を省略する。
【0102】
次のステップS43において、緊急停車制御部130は、自車両Hがあらかじめ設定された所定の速度まで減速しているかを確認する。前述のとおり、車両挙動推定部113は、車両状態センサ34(例えば、車速センサ)の出力を基に車速を推定する。そこで、緊急停車制御部130は、例えば、車両挙動推定部113で推定された自車両Hの車速情報を基に、自車両Hが所定の速度(例えば、10km/h)まで減速されているかを確認する。
【0103】
例えば、所定速度まで減速できていない場合、ステップS43はNO判定となり、制御フローはステップS60の「減速工程」に進む。図6の例では、自車両HがH1とH2の間を走行している場合が相当する。
【0104】
-減速工程-
図3Bは、減速工程についての処理動作を示すフローチャートである。
【0105】
減速工程では、まず、ステップS61において、報知装置Dを用いて自車両Hを緊急停車させることが報知される。報知装置Dは、ハザードランプのように光によって視覚的に緊急停車を報知する光報知装置と、ホーンやスピーカーのように音や音声によって緊急停車を報知する音報知装置とを含む。具体的には、例えば、緊急停車制御部130は、ホーンで音を発しながら、ハザードランプを点滅させて、周囲の他車両J等に、自車両Hが緊急停車動作(減速動作)に入ることを報知する。尚、ステップS61において、光報知装置と音報知装置のいずれか一方を用いて自車両Hを緊急停車させることを報知するようにしてもよい。
【0106】
また、ステップS61の処理と並行して、ステップS62において、リスク算出部133は、情報取得部で取得された車外環境情報に基づいて、減速工程を実行すること及びその後の工程における衝突リスクを算出する。例えば、リスク算出部133は、カメラ31やレーダ32の出力に基づいて、自車両の後方や斜め後方を走行する他車両Jの位置や速度の情報を把握し、自車両が減速した場合に、他車両Jが自車両Hに衝突するリスクを算出する。
【0107】
次のステップS63において、緊急停車制御部130は、リスク算出部133で算出された衝突リスクが所定以上かどうかを判断する。衝突リスクの評価方法は、特に限定されないが、例えば、(1)他車両Jの位置に応じた位置スコアと速度に応じた速度スコアを設定し、その積算値が所定の衝突スコア以上になっているか否かで衝突リスクを判断してもよいし、(2)緊急停車制御部130内で車両モデル等を用いて走行シミュレーションを行うことにより衝突リスクを判断するようにしてもよい。
【0108】
例えば、図6に示すように、周囲に他車両Jが走行していない場合、衝突リスクは所定未満となり(ステップS62でNO判定)、緊急停車制御部130は、減速制御を開始する(ステップS64)。具体的な減速制御の方法は、特に限定されないが、例えば、緊急停車制御部130は、車両運動決定部118に対して、所定の速度に向かって減速をするように指示する減速指示信号を送信する。車両運動決定部118では、減速制御信号を受信すると、アクチュエータ制御部119を介して各アクチュエータを制御し、自車両Hを減速させる。そして、所定時間以内に減速処理が終わった場合には、次のステップS65でYES判定となり、緊急停車制御部130は、減速工程を終了する。図6の例では、自車両HがH2の位置で減速工程が終わり、自車両Hの車速が所定速度以下になったものとする。減速工程が終了すると、制御フローは、図3AのステップS44に進む。
【0109】
尚、図示は省略するが、ステップS63において、緊急停車制御部130が減速制御を開始した後においても、リスク算出部133によるリスク算出を繰り返し実施し、所定以上の衝突リスクがある場合に、割り込み処理により減速制御を一時停止してステップS63に戻り、YES判定(ステップS68)に進むようにしてもよい。ステップS68の制御については、後ほど説明する。
【0110】
図3Aに戻り、ステップS44において、緊急停車制御部130は、車両が第1走行レーンを走行しているか否かを確認する。緊急停車制御部130は、例えば、位置センサ33で検出された車両の位置情報や、カメラ31で撮像された車外環撮の画像データに基づいて、自車両の走行レーンを確認する。図6のH2の位置を自車両Hが走行している場合、ステップステップS44でNO判定となり、次のステップS45に進む。ステップS45では、レーンチェンジ動作が終わっているかどうかが確認されるので、こちらでもNO判定となり、制御フローは次のステップS70の「レーンチェンジ工程」にすすむ。
【0111】
-レーンチェンジ工程-
図3Cは、レーンチェンジ(レーンチェンジともいう)工程の処理動作を示すフローチャートである。
【0112】
まず、ステップS71において、リスク算出部133は、情報取得部で取得された車外環境情報に基づいて、レーンチェンジ工程を実行すること及びその後の工程における衝突リスクを算出する。例えば、リスク算出部133は、カメラ31やレーダ32の出力に基づいて、自車両の前方、路肩側の斜め前方、路肩側の斜め後方及び後方における路上障害物(例えば、他車両J)の位置や速度の情報を把握し、自車両が路肩領域側の走行レーンにレーンチェンジした場合に、他車両Jと衝突するリスクを算出する。
【0113】
次のステップS72において、緊急停車制御部130は、リスク算出部133で算出された衝突リスクが所定以上かどうかを判断する。衝突リスクの評価方法は、特に限定されないが、例えば、前述の「減速工程」と同様の方法が適用できる。
【0114】
例えば、図6に示すように、周囲に他車両Jが走行していない場合、衝突リスクは所定未満となり(ステップS72でNO判定)、緊急停車制御部130は、レーンチェンジ制御を開始する(ステップS73)。具体的なレーンチェンジ制御の方法は、特に限定されないが、例えば、緊急停車制御部130は、ハザードランプの点滅をやめさせて、路肩領域側の方向指示器(図示省略)を点滅させるとともに、車両運動決定部118に対して路肩領域側の走行レーンに向かってレーンチェンジをするように指示するレーンチェンジ指示信号を送信する。車両運動決定部118では、レーンチェンジ指示信号を受信すると、アクチュエータ制御部119を介して各アクチュエータを制御し、自車両Hをレーンチェンジさせる。図6の例では、自車両Hが位置H4でレーンチェンジ工程が終わり、自車両Hは、所定速度以下の車速で第1走行レーンの走行を開始したものとする。レーンチェンジ工程が終了すると、制御フローは、図3AのステップS80に進む。
【0115】
-第1走行レーン走行工程、停車工程-
図3Dは、第1走行レーン走行工程及び停車工程の処理動作を示すフローチャートである。
【0116】
まず、ステップS81及びステップS82では、緊急停車制御部130は、カメラ31により停車可能領域R22が認識されるまでの間、例えば、ハザードランプを点滅させながら、第1走行レーンにおいて自車両Hを所定速度(例えば、10km/h)以下で走行させる。
【0117】
そして、情報取得部30(例えば、カメラ31やレーダ32)により停車可能領域R22(緊急停車位置)が認識されると、ステップS81でYES判定となり、制御フローはステップS84に進む。
【0118】
ステップS84において、リスク算出部133は、情報取得部30(例えば、カメラ31やレーダ32)で認識された停車可能領域R22(緊急停車位置)の衝突リスクを算出する。例えば、リスク算出部133は、カメラ31やレーダ32の出力に基づいて、停車可能領域R22(緊急停車位置)の路上障害物(例えば、停車した他車両J)の有無を確認することで、路上障害物に衝突するリスクを算出する。
【0119】
ステップS85において、緊急停車制御部130は、カメラ31やレーダ32の出力に基づいて、停車可能領域R22がフリースペースか否か、換言すると、停車可能領域R22に進入した場合に路上障害物に衝突するリスクがあるかどうかを確認する。図6の例では、自車両Hが位置H5まで走行したときに、停車可能領域R22がフリースペースであることが認識できたものとする。そうすると、ステップS85でNO判定となり、緊急停車制御部130は、第1走行レーン走行工程として、停車可能領域R22の手前まで自車両Hを走行させる(ステップS86)。尚、図示は省略するが、第1走行レーン走行工程においても、前述の「減速工程」や「レーンチェンジ工程」と同様に、情報取得部で取得された車外環境情報に基づいて、第1走行レーン走行工程を実行すること及びその後の停車工程における衝突リスクを算出するようにしてもよい。そして、緊急停車制御部130は、衝突リスクが所定以上と判断した場合に、その場に停車させるなどの状況に応じた制御を実行するようにしてもよい。
【0120】
次のステップS91において、リスク算出部133は、情報取得部で取得された車外環境情報に基づいて、第1走行レーン走行工程及び/または停車工程における衝突リスクを算出する。例えば、リスク算出部133は、カメラ31やレーダ32の出力に基づいて、自車両の前方、路肩側の斜め前方、路肩側の斜め後方及び後方における路上障害物(例えば、自転車や歩行者等)の位置や速度の情報を把握し、自車両が第1走行レーン走行したり、停車可能領域R22に進入する際に、路上障害物に衝突するリスクを算出する。
【0121】
次のステップS92において、緊急停車制御部130は、リスク算出部133で算出された衝突リスクが所定以上かどうかを判断する。衝突リスクの評価方法は、特に限定されないが、例えば、前述の「減速工程」と同様の方法が適用できる。
【0122】
例えば、図6に示すように、周囲に路上障害物がなく、停車可能領域R22がフリースペースの場合、衝突リスクは所定未満となり(ステップS92でNO)、緊急停車制御部130は、停車可能領域R22への進入及び緊急停車位置への停車制御を開始する(ステップS93)。具体的な停車制御の方法は、特に限定されないが、例えば、緊急停車制御部130は、ハザードランプの点滅をやめさせて、路肩領域側の方向指示器(図示省略)を点滅させるとともに、車両運動決定部118に対して停車可能領域R22に進入して停車するように指示する停車指示信号を送信する。車両運動決定部118では、停車指示信号を受信すると、アクチュエータ制御部119を介して各アクチュエータを制御し、自車両Hを停車可能領域R22に進入させ、緊急停車位置に停車させる。自車両Hの緊急停車位置への停車が終わると退避走行制御は終了となる。
【0123】
《退避走行制御(2)》
以下の説明では、自車両Hが、図8の走行シーンを走行している際に、運転者異常が検出されたものとして説明する。なお、前述の《退避走行制御(1)》の場合と同様に、図3Aの制御フローの開始時点において、図8に示す位置に始点Ps、終点Peが設定され、図7Aの分析リストL2が作成されているものとする。また、自車両HがH1の位置を走行しているときには、停車可能領域R22に停車している他車両Jaは認識できておらず、自車両HがH5の位置に来たときに初めて他車両Jaが認識できたものとする。
【0124】
ここでは、前述の《退避走行制御(1)》との相違点を中心に説明するものとし、《退避走行制御(1)》と共通の動作について説明を省略する場合がある。例えば、自車両HがH5の位置に到達するまでの動作、すなわち、図3AのステップS80の手前までの動作は前述の《退避走行制御(1)》と共通である。そこで、ここでは自車両HがH5の位置まで走行し、図3Dの制御プロセスが開始されたところからの動作について説明する。
【0125】
-第1走行レーン走行工程、停車工程-
図8の例では、停車可能領域R22が認識されたときに(ステップS81でYES)、停車可能領域R22に他車両Jaが停車しているので、ステップS85でYES判定となる。すなわち、緊急停車制御部130は、停車可能領域R22に進入すると、他車両Jaとの衝突リスクが所定以上であると判断し、第1走行レーン走行工程を途中で取りやめて、停車位置の再設定を実行する。具体的には、緊急停車制御部130は、図3Dの制御プロセスを中断し、制御フローが図2AのステップS13に戻される。
【0126】
-停車位置設定工程-
図2Aにおいて、自車両Hが位置H5(図8参照)を走行しているので、ステップS13はYES判定、ステップS15はNO判定となる。また、路肩領域の静的評価は、最初のフローで実行済みのため、ステップS16はYES判定となり、制御フローはステップS26に進む。
【0127】
ステップS26では、現在の自車両Hの位置よりも先にある点Pにおける分析リストLの動的評価に係る評価値(準動的障害物及び動的障害物の項目)と路肩領域の総合的な評価値(図7Aの右端の欄)が更新される。図7Bには、更新された分析リストL2を示している。図7Bでは、領域R22に対する準動的障害物の評価結果として「0」が設定される。その結果、領域R22における路肩評価の評価値として「0」が設定される。尚、停車可能領域R23~R25、制約領域RNの評価値は変わらなかったものとする。
【0128】
このように、分析リストLの静的評価は、最初に始点Ps及びPeが設定された場合にのみ実行し、工程を途中で取りやめた際には、動的評価に係る評価値のみを更新するようにしている。これにより、走行過程で工程を取りやめた場合における演算時間を大幅に短縮することができる。
【0129】
ステップS26での分析リストの更新が終わると、次のステップS30(図2C参照)では、緊急停車位置の探索及び設定が実行される。尚、各制御プロセスの処理は、これまでの説明と同じなので、以下の説明では、処理結果を中心に説明する。
【0130】
図2CのステップS31では、停車可能領域としてR23~R25が抽出される。上記のとおり、領域R22は、路肩評価の評価値として「0」が設定されているので、停車可能領域として抽出されない。
【0131】
ステップS32及びステップS33は、停車可能領域R23~R25が抽出されているのでYES判定となる。
【0132】
ステップS35において、ここでは図7Bに示すように、優先度Aの停車可能領域がR24の1つなので、優先度に基づく緊急停車位置の設定が可能である。したがって、ステップS35でYES判定となり、次の緊急停車位置が停車可能領域R24内に設定される。図2Cの設定処理が終了すると、図2AのステップS30の処理は終了となり、制御フローは図3Aに進む。
【0133】
図2のステップS30において緊急停車位置が設定されているので、図3AステップS41はYES判定となり、制御フローはステップS42の退避経路生成工程に進む。
【0134】
-退避経路生成工程-
ステップS42では、停車経路生成部132により、停車可能領域R24内に設定された緊急停車位置までの退避経路が生成される。
【0135】
-減速工程-
自車両Hは、すでに所定速度以下まで減速されているので、ステップS43でYES判定となり、ここでは、減速工程は実行されず、制御フローは次のステップS44に進む。
【0136】
-レーンチェンジ工程-
自車両Hは、すでに第1走行レーンを走行しているので、ステップS44でYES判定となり、ここでは、レーンチェンジ工程は実行されず、制御フローは次のステップS80に進む。
【0137】
-第1走行レーン走行工程、停車工程-
ステップS81及びステップS82では、緊急停車制御部130は、カメラ31により停車可能領域R24が認識されるまでの間、例えば、ハザードランプを点滅させながら、第1走行レーンにおいて自車両Hを所定速度(例えば、10km/h)以下で走行させる。
【0138】
そして、情報取得部30(例えば、カメラ31やレーダ32)により停車可能領域R22(緊急停車位置)が認識されると、ステップS81でYES判定となり、制御フローはステップS84に進む。
【0139】
この時点で、自車両は位置H8を走行しているものとする。また、図8の例では、自車両Hが位置H8まで走行したときに、停車可能領域R24がフリースペースであることが認識できたものとする。
【0140】
そうすると、ステップS84において、ステップS85でNO判定となり、緊急停車制御部130は、第1走行レーン走行工程として、停車可能領域R24の手前まで自車両Hを走行させる(ステップS86)。
【0141】
そして、ステップS91ではリスク算出部133により衝突リスクが算出され、ステップS92では緊急停車制御部130により衝突リスクが所定以上かどうかが判断される。
図8の例では、停車可能領域R24がフリースペースなので、ステップS92でNO判定となる。そうすると、緊急停車制御部130が、停車可能領域R24への進入及び緊急停車位置への停車制御を開始し、自車両Hの緊急停車位置への停車が終わると退避走行制御は終了となる。
【0142】
《退避走行制御(3)》
以下の説明では、自車両Hが、図9の走行シーンを走行している際に、運転者異常が検出されたものとして説明する。なお、前述の《退避走行制御(2)》の場合と同様に、図3Aの制御フローの開始時点において、図9に示す位置に始点Ps、終点Peが設定され、図7Aの分析リストL2が作成されているものとする。
【0143】
ここでは、前述の《退避走行制御(2)》との相違点を中心に説明するものとし、《退避走行制御(2)》と共通の動作について説明を省略する場合がある。尚、図9において、自車両Hの位置H1は、図6の位置H2と対応している。すなわち、ここでは、図3AのステップS60の減速工程まで終了しており、図3AのステップS44からの動作について説明する。尚、図9に示すように、位置H2の時点で、自車両は第3走行レーンを走行しており、第2車線レーンにおいて後方から自車両Hよりも速い他車両Jが接近しているものとする。
【0144】
図3AのステップS44において、自車両H(位置H2)は、第3レーンを走行しているので、ステップS44ではNO判定となり、制御フローはステップS70のレーンチェンジ工程に進む。
【0145】
-レーンチェンジ工程-
ステップS71では、リスク算出部133により、位置H1において情報取得部で取得された車外環境情報に基づいて、他車両Jと衝突するリスクが算出される。ここでは、他車両Jが自車両よりも早い速度で近づいており、他車両Jとの衝突リスク(衝突スコア)が所定以上になっているという算出結果が出たものとする。そうすると、次のステップS72でYES判定となり、制御フローはステップS76に進む。
【0146】
ステップS76では、レーンチェンジをせずに、それまで走行していた走行レーンでの走行が継続され、制御フローは、次のステップS77に進む。
【0147】
ステップS77では、自車両Hが再探索基準位置を通過したかどうかが確認される。再探索基準位置とは、緊急停車位置に停車させる場合に、各工程を走行レーンのどの位置までに終わらせておく必要があるかに基づいて設定された位置である。再探索基準位置の設定方法は、特に限定されないが、例えば、(1)自車両の位置と車速とに基づくテーブルを用意し、そのテーブルに基づいて設定する、(2)内部で車両モデル等を用いた演算を行う、といった方法が適用できる。図9及び図10Aの例では、停車可能領域R22に対する再探索基準位置として自車両Hが薄いドットハッチングの領域を超えた場合に再探索するように設定されているものとする。同様に、停車可能領域R24に対する再探索基準位置として自車両Hが濃いドットハッチングの領域を超えた場合に再探索するように設定されているものとする。そうすると、ステップS77でNO判定となり、制御フローはステップS71に戻る。その後、自車両Hが位置H2、他車両Jが位置J2まで走行したものとする。
【0148】
ステップS71では、リスク算出部133により、位置H2において情報取得部で取得された車外環境情報に基づいて、他車両Jと衝突するリスクが算出される。図9に示すように、位置H2においても他車両J(位置J2)との衝突リスク(衝突スコア)が所定以上になっているという算出結果が出たものとする。そうすると、制御フローは、ステップS72でYES判定となる。そして、ステップS74のときに、自車両Hが位置H3、他車両Jが位置J3まで走行したものとする。すなわち、自車両Hが、薄いドットハッチングの領域を超えて、その先の濃いドットハッチングの領域に進入したとする。
【0149】
そうすると、ステップS77でYES判定となり、レーンチェンジ工程を途中で取りやめて、停車位置の再設定を実行する。具体的には、緊急停車制御部130は、図3Cの制御プロセスを中断し、制御フローが図2AのステップS13に戻される。
【0150】
-停車位置設定工程-
図2Aにおいて、自車両Hが位置H3(図9参照)を走行しているので、ステップS13はYES判定、ステップS15はNO判定となる。また、路肩領域の静的評価は、最初のフローで実行済みのため、ステップS16はYES判定となり、制御フローはステップS26に進む。
【0151】
ステップS26では、現在の自車両Hの位置よりも先にある点Pにおける分析リストLの動的評価に係る評価値が更新される。図7Cには、更新された分析リストL2を示している。図7Cでは、停車可能領域R22が、自車両よりも先にあるが、評価の対象外(「-」を記入)となっており、それ以外の評価は図7Bと同じであったものとする。
【0152】
次のステップS30(図2C参照)では、緊急停車位置の探索及び設定が実行される。ここでの緊急停車位置の設定プロセスは、前述の《退避走行制御(2)》と同様であり、次の緊急停車位置が停車可能領域R24内に設定される。
【0153】
-退避経路生成工程-
ステップS42では、停車経路生成部132により、停車可能領域R24内に設定された緊急停車位置までの退避経路が生成される。
【0154】
-減速工程-
自車両Hは、すでに所定速度以下まで減速されているので、ステップS43でYES判定となり、ここでは、減速工程は実行されず、制御フローは次のステップS44に進む。
【0155】
-レーンチェンジ工程-
図3CのステップS71では、リスク算出部133により、位置H3において情報取得部で取得された車外環境情報に基づいて、他車両Jと衝突するリスクが算出される。ここでは、他車両J(位置J3)は、自車両H(位置H2)の斜め前方を、自車両Hよりも速い速度で走行しているものとする。したがって、位置H3では、衝突リスク(衝突スコア)が所定未満になっているという算出結果が出たものとする。
【0156】
そうすると、ステップS72においてNO判定となり、緊急停車制御部130は、自車両を第3走行レーンから第2走行レーンにレーンチェンジさせる(図9の位置H4から位置H5参照)。そして、第2走行レーンにレーンチェンジが完了すると、いったん図3Cのレーンチェンジ工程は終了となる。その後、制御フローは図3AのステップS44に戻ってNO判定となり、再びステップS70において、第2走行レーンから第1走行レーンへのレーンチェンジ工程が実行される(図9の位置H6から位置H7参照)。
【0157】
-第1走行レーン走行工程、停車工程-
停車可能領域R24への緊急停車については、前述の《退避走行制御(2)》と同様であり、ここでは、説明を省略する。自車両Hの緊急停車位置(停車可能領域R24内)への停車が終わると退避走行制御は終了となる。
【0158】
《退避走行制御(4)》
以下の説明では、自車両Hが、図10Aの走行シーンを走行している際に、運転者異常が検出されたものとして説明する。なお、前述の《退避走行制御(3)》の場合と同様に、図3Aの制御フローの開始時点において、図10Aに示す位置に始点Ps、終点Peが設定され、図7Aの分析リストL2が作成されているものとする。
【0159】
ここでは、前述の《退避走行制御(3)》との相違点を中心に説明するものとし、《退避走行制御(3)》と共通の動作について説明を省略する場合がある。例えば、自車両HがH7の位置に到達するまでの動作、すなわち、「第1走行レーン走行工程、停車工程」を開始するところまでの動作は、前述の《退避走行制御(1)》と共通である。そこで、ここでは自車両HがH7の位置まで走行し、図3Dの制御プロセスが開始されたところからの動作について説明する。尚、自車両Hが位置H6を走行しているときには、停車可能領域R24に停車している他車両Jbは認識できておらず、自車両HがH7の位置に来たときに初めて他車両Jbが認識できたものとする。
【0160】
-第1走行レーン走行工程、停車工程-
図10Aの例では、自車両HがH7の位置に来たときに停車可能領域R24が認識される、すなわちステップS81でYES判定となる。そして、停車可能領域R24に他車両Jbが停車しているので、ステップS85はYES判定となる。すなわち、緊急停車制御部130は、停車可能領域R24に進入すると、他車両Jaとの衝突リスクが所定以上であると判断し、第1走行レーン走行工程を途中で取りやめて、停車位置の再設定を実行する。具体的には、緊急停車制御部130は、図3Dの制御プロセスを中断し、制御フローが図2AのステップS13に戻される。
【0161】
-停車位置設定工程-
図2Aにおいて、自車両Hの位置がHを走行しているので、ステップS13はYES判定、ステップS15はNO判定となる。また、路肩領域の静的評価は、最初のフローで実行済みのため、ステップS16はYES判定となり、制御フローはステップS26に進む。
【0162】
ステップS26では、現在の自車両Hの位置よりも先にある点Pにおける分析リストLの動的評価に係る評価値が更新される。図7Dには、更新された分析リストL2を示している。図7Dでは、領域R24に対する準動的障害物の評価結果として「0」が設定される。その結果、領域R24における路肩評価の評価値として「0」が設定される。尚、停車可能領域R25、制約領域RNの評価値は変わらなかったものとする。
【0163】
次のステップS30(図2C参照)では、緊急停車位置の探索及び設定が実行される。
【0164】
図2CのステップS31では、停車可能領域としてR25のみが抽出される。上記のとおり、領域R24は、路肩評価の評価値として「0」が設定されているので、停車可能領域として抽出されない。
【0165】
停車可能領域R25のみが抽出されているので、ステップS32はYES判定、ステップS33はNO判定となる。そして、次のステップS36では、停車可能領域R25内に緊急停車位置に設定され、停車位置設定工程は終了となる。
【0166】
-退避経路生成工程-
ステップS42では、停車経路生成部132により、停車可能領域R25内に設定された緊急停車位置までの退避経路が生成される。
【0167】
-減速工程-
自車両Hは、すでに所定速度以下まで減速されているので、ステップS43でYES判定となり、ここでは、減速工程は実行されず、制御フローは次のステップS44に進む。
【0168】
-レーンチェンジ工程-
自車両Hは、すでに第1走行レーンを走行しているので、ステップS44でYES判定となり、ここでは、レーンチェンジ工程は実行されず、制御フローは次のステップS80に進む。
【0169】
-第1走行レーン走行工程、停車工程-
停車可能領域R25への緊急停車については、前述の《退避走行制御(3)》の停車可能領域R24への停車と実質的に同じような流れであり、ここでは、説明を省略する。図10Bに示すように、自車両Hの緊急停車位置(停車可能領域R25内)への停車が終わると退避走行制御は終了となる。
【0170】
以上のように、本実施形態によると、車両制御装置10の制御部100は、車両を緊急停車させる場合に、記憶部20に記憶された路肩領域Rの情報を基に車両を停車させる停車位置を設定する停車位置設定工程と、停車位置までの退避経路を生成する退避経路生成工程と、車両の車速を所定速度以下に減速させる減速工程と、車外環境情報に基づいて、第2走行レーンから第1走行レーンのフリースペースに車両をレーンチェンジさせるレーンチェンジ工程と、第1走行レーンにおいて車両を前記所定速度以下で走行させる第1走行レーン走行工程と、前記第1走行レーンから前記停車位置に該車両を進入させて停車させる停車工程とを実行するように構成されている。そして、制御部100は、情報取得部で取得された車外環境情報に基づいて、道路上の障害物に衝突する衝突リスクを演算し、その衝突リスクが所定以上の工程が存在する場合に該工程を取りやめて、取りやめた工程以降の動作を実行するための停車位置を設定する。
【0171】
このように、道路上の障害物に衝突する衝突リスクが所定以上の工程を取りやめて、取りやめた工程以降の動作を実行するための停車位置を設定することにより、一旦設定した緊急停車位置に向かう退避経路が、その後の交通流の変化によって衝突リスクが顕在化する前に、安全に緊急停車ができる停車位置及び退避経路に切り替えることができる。
【0172】
《退避走行制御(5)》
以下の説明では、自車両Hが、図11の走行シーンを走行している際に、運転者異常が検出されたものとして説明する。なお、前述の《退避走行制御(3)》の場合と同様に、図3Aの制御フローの開始時点において、図11に示す位置に始点Ps、終点Peが設定され、図7Aの分析リストL2が作成されているものとする。
【0173】
図11では、図9と同様にして、自車両Hが位置H2(第3走行レーン)を走行しており、第2走行レーンの後方から自車両Hよりも速い他車両Jが接近しているものとする。すなわち、図11では、図3Cのレーンチェンジ工程の制御プロセスが中断され、制御フローが図2AのステップS13に戻されて、車両は位置H2から位置H3の間を走行しているところからの制御について説明する。
【0174】
また、図11では、第1走行レーンにおいて、横断歩道の手前から停車可能領域R23まで延びる渋滞が発生しているものとする。すなわち、渋滞車両Jbにより、停車可能領域R23、R24,R25には停車できない状態となっている。そして、自車両Hは、位置H2から位置H3の間で、渋滞車両Jbの存在を把握したものとする。
【0175】
-停車位置設定工程-
自車両Hは、前述のとおり、制御プロセスが図2AのステップS13に戻ったとき、位置H2から位置H3の間(図11参照)を走行している。したがって、ステップS13はYES判定、ステップS15はNO判定となる。また、路肩領域の静的評価は、最初のフローで実行済みのため、ステップS16はYES判定となり、制御フローはステップS26に進む。
【0176】
ステップS26では、現在の自車両Hの位置よりも先にある点Pにおける分析リストLの動的評価に係る評価値が更新される。図7Eには、更新された分析リストL2を示している。図7Eでは、図7Cの場合と同様に、停車可能領域R22は、評価の対象外(「-」を記入)となっている。また、渋滞車両Jbの存在により、停車可能領域R23、R24,R25に対応する位置における動体評価の評価値が「0」に設定される。その結果、停車可能領域R22~R25のすべてにおいて、路肩評価の評価値が「0」に設定される。
【0177】
次のステップS30(図2C参照)では、緊急停車位置の探索及び設定が実行される。図2CのステップS31では、記憶部20から図7Eの分析リストL2が読みだされる。上記のとおり、停車可能領域R22~R25のすべてにおいて路肩評価の評価値が「0」なので、次のステップS32はNO判定となり、制御フローは、ステップS90に進む。
換言すると、緊急停車制御部130は、終点Peまでの間に、自車両Hを路肩領域へ向けて退避させると、他車両に衝突するため、路肩領域に向かう退避経路の生成を取りやめて、走行レーン内に自車両Hを停車させる走行レーン停車工程(ステップS99)を実行する。
【0178】
-走行レーン停車工程-
ステップS99では、緊急停車制御部130は、走行レーン内に自車両Hを停車させる。自車両Hを停車させる停車レーンの決定方法、及び、選択された走行レーン内における停車位置の決定方法については、特に限定されない。
【0179】
例えば、路肩領域への停車ができないと分かった時点で、後方の交通状況を確認し、他車両Jが衝突するリスクが低い場合に、すぐにその場で減速して停車させるようにしてもよい。また、例えば、終点Peまでの間で、できる限り路肩領域R寄りの走行レーンに移動させて停車するように制御してもよい。また、衝突リスクを定量的に評価するような指標を設けて、その指標に基づいて停車レーン及び停車位置を決定してもよい。上記の指標として、例えば、リスク算出部133において、第1リスク値と第2リスク値との積により算出される衝突リスク値を用いてもよい。第1リスク値及び第2リスク値については、以下で具体的に説明する。
【0180】
緊急停車制御部130は、終点Peまでの間のフリースペースに対して、複数の候補停車位置を設定する。リスク算出部133は、各候補停車位置に対して上記の衝突リスク値を算出する。そして、緊急停車制御部130は、リスク算出部132で算出された衝突リスク値が低い候補停車位置を停車位置として決定する。
【0181】
(衝突リスク値の算出)
ここでは、第1リスク値と第2リスク値との積から衝突リスク値を算出する例について説明する。前述のとおり、第1リスク値は、候補停車位置に対して設定され、第2リスク値は、候補停車位置に到達するまでの自車両Hの振る舞いに対して設定される。
【0182】
図12は第1リスク値の一例を示すテーブルである。ここでは、第1リスク値は、図12に示すように、駐車場が最も低く設定されている。路肩領域は、例えば、路肩領域の幅員の車幅に対する余裕度に応じて、駐車場と同等かそれ以上のリスク値となるように設定される。また、第1リスク値は、基本的には、路肩領域に相対的に近いほど低い値になるように設定される。すなわち、第1リスク値は、例えば、一般道において複数の走行レーンがある場合、相対的に左側の走行レーン(例えば、第1走行レーン)の方が、相対的に右側の走行レーン(例えば、第2走行レーン)よりも低く設定される。交差点内は、原則として最終停車位置とならないように、第2リスク値の最小値との積を求めた場合においても、後述する上限閾値以上の値となるように設定される。尚、駐車場は、緊急退避スペースを含み、店舗の駐車場なども含む。
【0183】
図13は第2リスク値の一例を示すテーブルである。第2リスク値は、図4に示すように、自車両Hが走行している走行レーンで車速を変えずに走行を継続する場合が最も低い値に設定される。次にリスク値が低い振る舞いとして、同一走行レーンでの減速が設定される。これは、減速することによって同一速度で継続して走行させるよりも、後方車両との衝突リスクが若干高まることによる。また、レーンチェンジに対するリスク値は、後方車両との衝突リスクが若干高まるとの理由により、同一走行レーンでの走行及び減速よりも高い値に設定される。自車両Hが、横断歩道を通過したり、交差点を通過する場合、第2リスク値は相対的に高い値に設定される。これは、交差点や横断歩道で、歩行者や他車両に衝突する可能性があるためである。同様の観点から、交差点を直進する場合よりも、左折や右折をする場合の方が、第2リスク値が相対的に高く設定される。リスク算出部132が衝突リスク値を算出するときには、候補停車位置に到達するまでの自車両Hの振る舞い全てに対しての第2リスク値が考慮される。
【0184】
尚、図12で示す第1リスク値及び図13で示す第2リスク値は一例であり、任意に設定してよい。また、衝突リスク値に上限基準値を設け、その上限閾値を超える場所については、フリースペースであっても停車位置として設定しないようにしてもよい。上限閾値は、例えば「60」に設定される。
【0185】
次に、図示は省略するが、衝突リスク値の算出についての具体例を示す。
【0186】
例えば、第3走行レーンに位置する車両が、第1候補停車位置として、横断歩道を直進して通過した後に、第1走行レーンの路肩領域側に設けられた駐車場を設定したとする。このとき、自車両Hは、減速して、第3走行レーンから第1走行レーンにレーンチェンジをした後、横断歩道を通過して、駐車場に進入し、停車することになる。そうすると、第2リスク値は、1.5×2×2×20=120となる。そして、駐車場の第1リスク値は「1」なので、第1候補停車位置に対する衝突リスク値は120×1=120となる。
【0187】
また、例えば、第3走行レーンを走行している車両が、第2候補停車位置として、第1走行レーンまでレーンチェンジし、第1走行レーン内に停車する場合を考える。このときの第2リスク値は、2回レーンチェンジをするので、1.5×2×2=6となる。また、第1走行レーンの第1リスク値は「5」である。したがって、第2候補停車位置に対する衝突リスク値は6×5=30となる。
【0188】
また、例えば、第3走行レーンを走行している車両が、第3候補停車位置として、そのまま第3走行レーン内に停車する場合を考える。このときの第2リスク値は、「1.5」となる。また、第3走行レーンの第1リスク値は「30」である。したがって、第3候補停車位置に対する衝突リスク値は1.5×30=45となる。
【0189】
緊急停車制御部130では、例えば、上記の第1候補停車位置から第3候補停車位置が緊急停車の可能なフリースペースとして認識された場合、第2候補停車位置を緊急停車位置として決定する。
【0190】
次に、図11の走行シーンについて説明する。
【0191】
図11において、緊急停車制御部130は、情報取得部30(例えば、カメラ31やレーダ32)で取得された車外環境情報に基づいて、走行レーンのフリースペースを探索する。ここでは、自車両Hが位置H3を走行しているとし、第2走行レーン及び第3走行レーンがフリースペースとして認識されたとする。
【0192】
そうすると、リスク算出部133では、自車両Hが第3走行レーンにそのまま停車する場合と、第2走行レーンにレーンチェンジして停車する場合のそれぞれについて衝突リスク値を算出する。
【0193】
自車両Hが第3走行レーンにそのまま停車する場合、第1リスク値は「30」である(図12参照)。また、同一車線で停車させるので、第2リスク値は「1」である(図13参照)。したがって、第3候補停車位置に対する衝突リスク値は30×1=30となる。
【0194】
自車両Hが第2走行レーンにレーンチェンジして停車する場合、第2走行レーンに停車させるので、第1リスク値は「10」である。また、1回のレーンチェンジがあるので、第2リスク値は「2」となる。したがって、第3候補停車位置に対する衝突リスク値は10×2=20となる。
【0195】
緊急停車制御部130では、上記のリスク算出部133による算出結果を受けて、第2走行レーンを緊急停車位置として設定する。そして、緊急停車制御部130は、図9及び図10Aの場合と同様に、自車両を第3走行レーン(位置H4)から第2走行レーン(位置H5)にレーンチェンジさせ、レーンチェンジ後に自車両Hを停車させる。
【0196】
以上のように、《退避走行制御(5)》によると、緊急停車制御部130では、自車両Hを路肩領域Rに退避させる退避走行制御の過程で、情報取得部30(例えば、カメラ31やレーダ32)で取得された車外環境情報に基づいて路上障害物との衝突リスクを演算し、その衝突リスクが所定以上の場合に、前記退避経路生成工程を取りやめて、走行レーン内に自車両Hを停車させるようにしている。これにより、車両の緊急停車させる際に停車させるまでの時間が長大化するのを回避することができる。
【0197】
前述の実施形態は単なる例示に過ぎず、本開示の範囲を限定的に解釈してはならない。本開示の範囲は請求の範囲によって定義され、請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、全て本開示の範囲内のものである。
【0198】
例えば、上記の実施形態では、路肩領域に停車できないことが判明してから、第1リスク値と第2リスク値との積を基にした衝突リスク値を使用する例について説明したが、これに限定されない。例えば、路肩領域の分析をして分析リストを生成した後で、上記の分析リストと、第1リスク値と第2リスク値との積との結果を総合的に判断して、停車可能領域を抽出するようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0199】
ここに開示された技術は、車外環境認識手段で認識された車外環境情報に基づいて目標位置までの目標経路を生成し、該目標経路に追従するように前記車両を制御する走行制御部を備える、車両の走行制御装置として有用である。
【符号の説明】
【0200】
10 車両制御装置
100 制御部
20 記憶部
30 情報取得部
R 路肩領域
図1
図2A
図2B
図2C
図3A
図3B
図3C
図3D
図4
図5
図6
図7A
図7B
図7C
図7D
図7E
図8
図9
図10A
図10B
図11
図12
図13