(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-20
(45)【発行日】2023-11-29
(54)【発明の名称】車両の減速度演算装置、及び、該装置を用いた車両の制動制御装置
(51)【国際特許分類】
B60T 8/172 20060101AFI20231121BHJP
B60T 8/26 20060101ALI20231121BHJP
B60T 8/28 20060101ALI20231121BHJP
B60T 8/1755 20060101ALI20231121BHJP
G01P 15/00 20060101ALI20231121BHJP
B60T 8/171 20060101ALI20231121BHJP
【FI】
B60T8/172 Z
B60T8/26 K
B60T8/28 A
B60T8/1755 C
G01P15/00 A
B60T8/171 Z
(21)【出願番号】P 2020012146
(22)【出願日】2020-01-29
【審査請求日】2022-12-07
(73)【特許権者】
【識別番号】301065892
【氏名又は名称】株式会社アドヴィックス
(72)【発明者】
【氏名】藤田 優
(72)【発明者】
【氏名】寺坂 将仁
【審査官】羽鳥 公一
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-149994(JP,A)
【文献】特開2012-171434(JP,A)
【文献】特開平11-218546(JP,A)
【文献】特開平04-223275(JP,A)
【文献】特開平09-290733(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60T 7/12-8/96
G01P 15/00-15/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の前輪に作用する制動力を調整して、前記車両の後輪の浮き上がりを抑制する後輪浮き抑制制御に適用される車両の減速度演算装置であって、
減速度センサからの検出信号を検出減速度として取得する取得部と、
前記車両の車輪の回転速度に基づいて前記車両の減速度を演算減速度として演算する演算部と、
前記検出減速度と前記演算減速度とに基づいて前記後輪浮き抑制制御に適用される減速度である積算減速度として決定する決定部と、
を備え、
前記決定部は、
前記検出減速度の時間変化量と前記演算減速度の時間変化量とが一致した場合の前記演算減速度を基準減速度として決定し、該基準減速度に前記検出減速度の時間変化量を順次積算して前記積算減速度を演算する、車両の減速度演算装置。
【請求項2】
車両の前輪に作用する制動力を調整して、前記車両の後輪の浮き上がりを抑制する車両の制動制御装置であって、
前記車両の減速度を検出減速度として検出する減速度センサと、
前記車両の車輪の回転速度を車輪速度として検出する車輪速度センサと、
前記制動力を調整するアクチュエータと、
前記アクチュエータを制御するコントローラと、
を備え、
前記コントローラは、
前記車輪速度に基づいて前記車両の減速度を演算減速度として演算し、
前記検出減速度の時間変化量と前記演算減速度の時間変化量とが一致した場合の前記演算減速度を基準減速度として決定し、
前記基準減速度に前記検出減速度の時間変化量を順次積算して積算減速度を演算し、
前記積算減速度がしきい値以上になった場合に、前記制動力を減少する、車両の制動制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、車両の減速度演算装置、及び、該装置を用いた車両の制動制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
出願人は、特許文献1に示されるように、「後輪の浮き上がりを抑制するための前輪ブレーキのブレーキ圧の減圧が不要に実施されることを抑制することのできる車両のブレーキ制御装置を提供する」ことを目的に、「自動二輪車両のブレーキ制御装置の構成要素である電子制御ユニット40は、加速度センサ41の出力GXにフィルタ処理を施した値を出力するフィルタ処理部44と、前輪ブレーキ10の作動中に、フィルタ処理部44の出力値であるフィルタ値により示される車体減速度が規定のリフトアップ判定値以上となったときに、前輪ブレーキ10のブレーキ圧を減圧する減圧制御を行う減圧制御部42と、を備える。こうしたブレーキ制御装置の電子制御ユニット40に、フィルタ処理部44の出力値により示される車体減速度の増加率が規定値以上のときには、同増加率が上記規定値未満のときよりもリフトアップ判定値を大きい値に設定する判定値設定部45を備える」ものを開発している。
【0003】
特許文献1の制動制御装置では、後輪の浮き上がりを抑制する制御(「後輪浮き抑制制御」という)を実行するために加速度センサ(「減速度センサ」ともいう)の検出信号(「検出減速度」という)を利用している。減速度センサの検出方向が、路面に対して水平であれば、検出減速度に重力成分が含まれることなく、正確に車両(車体)の減速度が検出され得る。しかしながら、検出減速度には、ゼロ点ドリフトの誤差が含まれるため、該誤差が補償される必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、後輪浮き抑制制御に用いられる減速度演算装置において、ゼロ点ドリフトの誤差が低減され得るものを提供することである。更に、車両の制動制御装置において、ゼロ点ドリフトの誤差が補償され、好適に後輪浮き抑制制御が実行され得るものを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る車両の減速度演算装置(GS)は、車両の前輪(WHf)に作用する制動力(Fxf)を調整して、前記車両の後輪(WHr)の浮き上がりを抑制する後輪浮き抑制制御に適用されるものであって、「減速度センサ(GX)からの検出信号を検出減速度(Gx)として取得する取得部(XA)」と、「前記車両の車輪(WH)の回転速度(Vw)に基づいて前記車両の減速度を演算減速度(Ge)として演算する演算部(XB)」と、「前記検出減速度(Gx)と前記演算減速度(Ge)とに基づいて前記後輪浮き抑制制御に適用される減速度である積算減速度(Gs)として決定する決定部(XC)」と、を備える。そして、前記決定部(XC)は、前記検出減速度(Gx)の時間変化量(dGx)と前記演算減速度(Ge)の時間変化量(dGe)とが一致した場合の前記演算減速度(Ge)を基準減速度(gs)として決定し、該基準減速度(gs)に前記検出減速度(Gx)の時間変化量(dGx)を順次積算して前記積算減速度(Gs)を演算する。
【0007】
上記構成によって演算される、積算減速度Gsには、ゼロ点ドリフトの誤差が好適に補償されている。このため、積算減速度Gsによって、後輪浮き抑制制御に適用される車両の減速度が精度良く演算される。
【0008】
本発明に係る車両の制動制御装置(SC)は、車両の前輪(WHf)に作用する制動力(Fxf)を調整して、前記車両の後輪(WHr)の浮き上がりを抑制するものであって、「前記車両の減速度を検出減速度(Gx)として検出する減速度センサ(GX)」と、「前記車両の車輪(WH)の回転速度(Vw)を車輪速度(Vw)として検出する車輪速度センサ(VW)」と、「前記制動力(Fxf)を調整するアクチュエータ(HU)」と、「前記アクチュエータ(HU)を制御するコントローラ(ECU)」と、を備える。前記コントローラ(ECU)は、前記車輪速度(Vw)に基づいて前記車両の減速度を演算減速度(Ge)として演算し、前記検出減速度(Gx)の時間変化量(dGx)と前記演算減速度(Ge)の時間変化量(dGe)とが一致した場合の前記演算減速度(Ge)を基準減速度(gs)として決定し、前記基準減速度(gs)に前記検出減速度(Gx)の時間変化量(dGx)を順次積算して積算減速度(Gs)を演算する。そして、前記コントローラ(ECU)は、前記積算減速度(Gs)がしきい値(gx)以上になった場合に、前記制動力(Fxf)を減少する。
【0009】
上記構成によれば、ゼロ点ドリフトの誤差影響が補償された積算減速度Gsに基づいて後輪浮き抑制制御が実行されるため、後輪WHrの浮き上がりが、確実に抑制され得る。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明に係る減速度演算装置GSの実施形態、及び、制動制御装置SCの第1の実施形態を説明するための全体構成図である。
【
図2】減速度演算装置GSの演算処理を説明するためのブロック図である。
【
図3】減速度演算装置GSの演算結果を利用した後輪浮き抑制制御の演算処理を説明するためのフロー図である。
【
図4】減速度演算装置GSの演算処理、及び、後輪浮き抑制制御の演算処理を説明するための時系列線図である。
【
図5】本発明に係る制動制御装置SCの第2の実施形態を説明するための全体構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<構成部材等の記号、記号末尾の添字>
以下の説明において、「CW」等の如く、同一記号を付された構成部材、演算処理、信号、特性、及び、値は、同一機能のものである。各種記号の末尾に付された添字「f」、「r」は、車両の前後方向において、それが何れに関するものであるかを示す包括記号である。具体的には、「f」は前輪、「r」は後輪を示す。例えば、車輪において、前輪WHf、及び、後輪WHrと表記される。更に、記号末尾の添字「f」、「r」は省略され得る。添字「f」、「r」が省略された場合には、各記号は、その総称を表す。例えば、「CWf」は前輪ホイールシリンダを表し、「CWr」は後輪ホイールシリンダを表し、「CW」は前輪、後輪ホイールシリンダを表す。加えて、接続路HSにおいて、マスタシリンダCMに近い側が「上部」と称呼され、ホイールシリンダCWに近い側が「下部」と称呼される。
【0012】
<本発明に係る減速度演算装置GS、及び、制動制御装置SCの第1の実施形態>
図1の全体構成図を参照して、本発明に係る車両の減速度演算装置GSの実施形態、及び、該装置GSを備えた車両の制動制御装置SCの第1の実施形態について説明する。車両としては、自動二輪車(「モータサイクル」ともいう)が想定されている。車両には、2系統の流体路(即ち、2つの制動系統)が採用される。2つの制動系統のうちの一方では、前輪マスタシリンダCMfが、前輪接続路HSfを介して、前輪ホイールシリンダCWfに接続される。2つの制動系統のうちの他方では、後輪マスタシリンダCMrが、後輪接続路HSrを介して後輪ホイールシリンダCWrに接続される。ここで、前輪、後輪接続路HSf、HSr(=HS)は流体路である。「流体路」は、作動液体である制動液BFを移動するための経路であり、制動配管、流体ユニットHUの流路、ホース等が該当する。
【0013】
制動制御装置SCを備える車両には、制動操作部材BP(=BPf、BPr)、ホイールシリンダCW(=CWf、CWr)、及び、マスタシリンダCM(=CMf、CMr)が備えられる。
【0014】
制動操作部材BPは、運転者が車両を減速するために操作する部材である。例えば、前輪制動操作部材BPfとして、ブレーキレバーが採用され、後輪制動操作部材BPrとして、ブレーキペダルが採用される、また、スクータでは、制動操作部材BPf、BPrとして、共に、ブレーキレバーが採用される。制動操作部材BPが操作されることによって、前輪、後輪ホイールシリンダCWf、CWr(=CW)内の液圧(前輪、後輪ホイールシリンダ液圧)Pwf、Pwrが調整される。その結果、前輪、後輪制動トルクTqf、Tqr(=Tq)が調整され、前輪、後輪制動力Fxf、Fxr(=Fx)が発生される。ここで、前輪、後輪ホイールシリンダ液圧Pwf、Pwrは、「前輪、後輪制動液圧Pwf、Pwr(=Pw)」とも称呼される。
【0015】
車両の車輪WH(=WHf、WHr)には、前輪、後輪回転部材KTf、KTr(=KT)が固定される。そして、回転部材KT(例えば、ブレーキディスク)を挟み込むように前輪、後輪ブレーキキャリパCPf、CPr(=CP)が配置される。ブレーキキャリパCPには、ホイールシリンダCWが設けられ、その内部の制動液BFの圧力(制動液圧)Pwが増加されることによって、摩擦部材(例えば、ブレーキパッド)が、回転部材KTに押し付けられる。回転部材KTと車輪WHとは、一体的に回転するよう固定されているため、このときに生じる摩擦力によって、車輪WHに制動トルクTqが発生される。この制動トルクTqによって、車輪WHに制動力Fxが生じる。
【0016】
前輪、後輪マスタシリンダCMf、CMr(=CM)の内部には、前輪、後輪液圧室Rmf、Rmr(=Rm)が形成されている。制動操作部材BPが操作されると、液圧室Rmの体積が減少され、制動液BFが、液圧室Rmから、接続路HSを介して、ホイールシリンダCWに圧送される。つまり、ホイールシリンダCWの液圧Pwが、マスタシリンダCMの液圧(「マスタシリンダ液圧」という)Pmによって増加される。
【0017】
更に、車両には、前輪、後輪車輪速度センサVWf、VWr(=VW)、及び、前後加速度センサ(「減速度センサ」ともいう)GXが備えられる。各車輪WHに設けられた車輪速度センサVWによって、前輪、後輪車輪速度Vwf、Vwr(=Vw)が検出される。車両の車体に設けられた減速度センサGXによって、車両の前後方向(進行方向)の加速度(前後加速度であり、「検出減速度」ともいう)Gxが検出される。車輪速度Vw、及び、検出減速度Gxの信号は、車輪WHのロック傾向(即ち、過大な減速スリップ)を抑制するアンチロックブレーキ制御、後輪WHrのリフトアップを抑制する後輪浮き抑制制御等の制動力制御に利用される。各センサ(VW等)によって検出された車輪速度Vw、前後加速度(検出減速度)Gxは、制動コントローラECU(単に、「コントローラ」ともいう)に入力される。コントローラECUでは、車輪速度Vwに基づいて、車体速度Vxが演算される。
【0018】
≪制動コントローラECU≫
制動制御装置SCは、制動コントローラECU、及び、流体ユニットHUにて構成される。制動コントローラ(「電子制御ユニット」ともいう)ECUは、マイクロプロセッサ等が実装された電気回路基板と、マイクロプロセッサにプログラムされた制御アルゴリズムにて構成されている。
【0019】
制動コントローラECU(電子制御ユニット)によって、流体ユニットHUの電気モータMT、及び、電磁弁VI、VOが制御(駆動)される。具体的には、マイクロプロセッサ内の制御アルゴリズムに基づいて、電磁弁VI、VOを制御するための駆動信号Vi、Voが演算される。同様に、電気モータMTを制御するための駆動信号Mtが演算される。
【0020】
コントローラECUには、電磁弁VI、VO、及び、電気モータMTを駆動するよう、駆動回路が備えられる。駆動回路には、電気モータMTを駆動するよう、スイッチング素子(MOS-FET、IGBT等のパワー半導体デバイス)によってブリッジ回路が形成される。モータ駆動信号Mtに基づいて、各スイッチング素子の通電状態が制御され、電気モータMTの出力が制御される。また、駆動回路では、駆動信号Vi、Voに基づいて、スイッチング素子が駆動され、電磁弁VI、VOへの通電状態(即ち、励磁状態)が制御される。駆動回路には、電気モータMT、及び、電磁弁VI、VOの実際の通電量を検出する通電量センサが設けられる。例えば、通電量センサとして、電流センサが設けられ、電気モータMT、及び、電磁弁VI、VOへの供給電流が検出される。
【0021】
制動コントローラECUには、減速度演算装置GSが含まれている。減速度演算装置GSは、マイクロプロセッサにプログラムされたアルゴリズムである。減速度演算装置GSによって、車輪速度Vw、及び、検出減速度Gxに基づいて、後輪浮き抑制制御に適用される積算減速度Gsが演算される。積算減速度Gsの詳細については後述する。
【0022】
≪流体ユニットHU≫
流体ユニットHUは、車輪WHの制動力Fxを個別に制御するアクチュエータである。前輪、後輪マスタシリンダCMf、CMrの前輪、後輪液圧室Rmf、Rmrと、前輪、後輪ホイールシリンダCWf、CWrとは、前輪、後輪接続路(流体路)HSf、HSr(=HS)にて接続される。接続路HSにおいて、マスタシリンダCMとホイールシリンダCWとの間には流体ユニットHUが設けられる。流体ユニットHUは、インレット弁VI、アウトレット弁VO、電気モータMT、流体ポンプHP、及び、低圧リザーバRWにて構成される。
【0023】
前輪、後輪インレット弁VIf、VIr(=VI)は、通電に応じて閉弁する、常開型の電磁弁(例えば、オン・オフ弁)である。インレット弁VIは、接続路HSの途中に設けられている。インレット弁VIは、コントローラECUからの駆動信号Viに基づいて制御される。インレット弁VIによって、接続路HSを通じた、ホイールシリンダCWとマスタシリンダCMとの間の制動液BFの移動が、開弁時には許容され、閉弁時には遮断される。
【0024】
接続路HSにおいて、インレット弁VIとホイールシリンダCWとの間(即ち、インレット弁VIの下部)には、流体路である前輪、後輪戻し路HRf、HRr(=HR)の一方の端部が接続される。戻し路HRの他方の端部は、「前輪、後輪RWf、RWr(=RW)」、及び、「接続路HSにおいて、マスタシリンダCMとインレット弁VIとの間(即ち、インレット弁VIの上部)」に接続される。換言すれば、戻し路HRは、インレット弁VIを迂回するよう、接続路HSにおいて、インレット弁VIの上部と、インレット弁VIの下部とを接続する流体路である。
【0025】
前輪、後輪アウトレット弁VOf、VOr(=VO)は、通電に応じて開弁する、常閉型の電磁弁(例えば、オン・オフ弁)である。アウトレット弁VOは、戻し路HRに設けられる。アウトレット弁VOは、コントローラECUからの駆動信号Voに基づいて制御される。アウトレット弁VOによって、戻し路HRを通じた、ホイールシリンダCWからマスタシリンダCMの側への制動液BFの移動が、開弁時には許容され、閉弁時には遮断される。
【0026】
前輪、後輪流体ポンプHPf、HPr(=HP)が、前輪、後輪戻し路HRf、HRr(=HR)に設けられる。また、低圧リザーバRWが、戻し路HRに接続される。詳細には、流体ポンプHPは、アウトレット弁VOと「インレット弁VIの上部における接続路HSと戻し路HRとの接続部」との間に設けられる。また、低圧リザーバRWは、アウトレット弁VOと流体ポンプHPとの間で、戻し路HRに接続される。
【0027】
2つの流体ポンプHPは、1つの電気モータMTによって駆動される。電気モータMTは、制動コントローラECUからの駆動信号Mtに基づいて制御される。流体ポンプHPによって、制動液BFが、低圧リザーバRW、又は、ホイールシリンダCWから汲み上げられ、インレット弁VIの上部(例えば、マスタシリンダCMの液圧室Rm)に戻される。
【0028】
アンチロックブレーキ制御、又は、後輪浮き抑制制御によって、ホイールシリンダCW内の液圧(制動液圧)Pwを減少するためには、インレット弁VIが閉位置にされ、アウトレット弁VOが開位置される。制動液BFのインレット弁VIからの流入が阻止され、ホイールシリンダCW内の制動液BFは、低圧リザーバRWに流出し、制動液圧Pwは減少される。また、制動液圧Pwを増加するためには、インレット弁VIが開位置にされ、アウトレット弁VOが閉位置される。制動液BFの低圧リザーバRWへの流出が阻止され、マスタシリンダCMの液圧(マスタシリンダ液圧)Pmが、ホイールシリンダCWに導入され、制動液圧Pwが増加される。更に、ホイールシリンダCW内の液圧(制動液圧)Pwを保持するためには、インレット弁VI、及び、アウトレット弁VOが、共に閉弁される。つまり、電磁弁VI、VOを制御することによって、制動液圧Pw(即ち、制動トルクTqであり、結果、制動力Fx)が、各車輪WHのホイールシリンダCWにて、独立に調整可能である。
【0029】
<減速度演算装置GSの演算処理>
図2のブロック図を参照して、減速度演算装置GSでの演算処理について説明する。減速度演算装置GSは、後輪浮き抑制制御を含む制動制御装置SCに適用され、減速度センサGXの出力である検出減速度Gxのゼロ点ドリフトの誤差を補償し、後輪浮き抑制制御を好適に実行するためのものである。減速度演算装置GSは、コントローラECU内にプログラムされた制御アルゴリズムを含み、取得部XA、演算部XB、及び、決定部XCにて構成される。なお、以下で説明する積算減速度Gs、検出減速度Gx、及び、演算減速度Geは、車両を減速する側の値が「正符号(+)」で表される。
【0030】
取得部XAにて、減速度センサGXから検出減速度Gxが取得される。具体的には、コントローラECUでは、先ず、アナログ信号である減速度センサGXの出力(検出信号)が、アナログ/デジタル変換回路によって、デジタル信号に変換される。そして、アナログ/デジタル変換後の減速度センサGXの出力にフィルタ処理が施されて、検出減速度Gxが取得(決定)される。
【0031】
演算部XBにて、車輪速度Vwに基づいて、演算減速度Geが演算される。具体的には、演算部XBでは、先ず、前輪車輪速度Vwf、及び、後輪車輪速度Vwrのうちの速い方の車輪速度に基づいて、車体速度Vxが演算される。車体速度Vxの演算において、その時間変化量において制限が設けられてもよい。即ち、車体速度Vxの増加勾配の上限値αup、及び、減少勾配の下限値αdnが設定され、車体速度Vxの変化が、上下限値αup、αdnによって制約される。次に、車体速度Vxが時間微分されて、演算減速度Geが演算される。つまり、演算部XBでは、車輪速度Vwに基づいて車体速度Vxが演算され、車体速度Vxに基づいて演算減速度Geが演算される。
【0032】
決定部XCにて、検出減速度Gx、及び、演算減速度Geに基づいて、積算減速度Gsが演算される。積算減速度Gsは、後輪浮き抑制制御に適用される車両(車体)の減速度である。決定部XCでは、先ず、検出減速度Gxの時間変化量dGx、及び、演算減速度Geの時間変化量dGeが演算される。次に、「時間変化量dGxと時間変化量dGeとが一致しているか、否か」が判定される。そして、時間変化量dGxと時間変化量dGeとが一致した場合における演算減速度Geが基準減速度gsとして決定される。ここで、時間変化量dGxは、「検出勾配」とも称呼され、検出減速度Gxの時間微分値である。また、時間変化量dGeは、「演算勾配」とも称呼され、演算減速度Geの時間微分値である。
【0033】
例えば、決定部XCでは、上記判定が、「検出勾配dGxと演算勾配dGeとの偏差(「勾配偏差」ともいう)hGが所定量hx未満になったこと」によって行われる。ここで、所定量hxは、予め設定された所定値(定数)である。更に、「検出勾配dGxと演算勾配dGeとの一致」は、「勾配偏差hGが所定量hx未満である状態が所定時間(「基準時間」ともいう)txに亘って継続された時点(対応する演算周期)」で判定されてもよい。ここで、基準時間txは、予め設定された所定値(定数)である。何れにしても、基準減速度gsは、検出勾配dGxと演算勾配dGeとが一致した場合の演算減速度Geである。
【0034】
そして、決定部XCでは、基準減速度gsに検出減速度Gxの時間変化量(検出勾配)dGxが演算周期毎に順次積算されて積算減速度Gsが演算される。つまり、基準減速度gsが設定された演算周期の次回の演算周期では、以下の式(1)にて、積算減速度Gsが演算される。なお、以下の式において、[n]は今回の演算周期に対応し、[n-1]は前回の演算周期に対応する状態量(変数)を表す。
Gs[n]=gs+dGx[n] …式(1)
【0035】
初回の積算減速度Gsが演算された後は、前回演算周期の積算減速度Gs[n-1]に、今回演算周期の検出勾配dGx[n]が加算されて、積算減速度Gs[n]が演算される。即ち、式(2)に示す様に、積算減速度Gs[n-1]に、検出勾配dGx[n]が演算周期毎に順次加算されて、積算減速度Gs[n]が演算される。
Gs[n]=Gs[n-1]+dGx[n] …式(2)
【0036】
検出減速度Gxには、ゼロ点ドリフトの誤差が含まれる。しかしながら、検出勾配dGxは、時間に対する変化量であるため、ゼロ点ドリフトの誤差は含まれない。減速度演算装置GSでは、検出勾配dGxが、演算周期毎に、順次積算されることによって、積算減速度Gsが演算される。従って、積算減速度Gsでは、ゼロ点ドリフトの誤差が補償されている。
【0037】
演算減速度Geは、車輪速度Vwに基づいて演算されるため、車輪WHの減速スリップ(車輪WHの回転方向のスリップであり、車体速度Vxと車輪速度Vwとの差)の影響を受ける。特に、後輪浮き抑制制御が実行される場合は、車体減速度が大きい急制動であるため、減速スリップが増大し易い。車輪WHの減速スリップの影響を受けないよう、減速度演算装置GSでは、検出勾配dGxと演算勾配dGeとが一致した場合の演算減速度Geが基準値(基準減速度)gsとされて、検出勾配dGxの積算が開始される。ここで、「検出勾配dGxと演算勾配dGeとが一致した場合」は、「検出勾配dGxと演算勾配dGeとの勾配偏差hGが所定量hx未満になった場合」である。詳細には、「hG<hx」の状態が、所定の基準時間txに亘って継続された時点の演算減速度Geが基準値gsとして決定される。
【0038】
「検出勾配dGxと演算勾配dGeとが一致した場合」は、「演算減速度Geにおいて、車輪WHの減速スリップの影響が及んでいない場合」に相当する。このため、基準減速度gsには減速スリップに起因する誤差が含まれず、検出勾配dGxには減速度センサGXのゼロ点ドリフトの誤差が含まれない。従って、基準減速度gsを起点に、検出勾配dGxが、演算周期毎に、順次加算されて決定される積算減速度Gsには、減速スリップに起因する誤差、及び、ゼロ点ドリフトの誤差が共に補償されている。換言すれば、車両(車体)の減速度が、積算減速度Gsによって、精度良く表現(決定)される。
【0039】
<後輪浮き抑制制御の演算処理>
図3のフロー図を参照して、減速度演算装置GSの演算結果(積算減速度)Gsを利用した後輪浮き抑制制御の演算処理について説明する。
【0040】
車両の重心は路面よりも高い位置にあるため、急制動によって、後輪荷重が減少し、極端な場合には後輪WHrが路面から離れる状況(「後輪浮き」、又は、「後輪リフトアップ」という)が生じ得る。後輪浮き抑制制御は、車体の減速度に基づいて前輪制動力Fxfを減少することによって、該後輪浮きを抑制するものである。以下、減速度演算装置GSによって演算される積算減速度Gsに応じた後輪浮き抑制制御について述べる。
【0041】
ステップS110にて、減速度演算装置GSにて演算された積算減速度Gsが読み込まれる(取得される)。ステップS120にて、「後輪浮き抑制制御が実行されているか、否か」が判定される。後輪浮き抑制制御が実行されておらず、ステップS120が否定される場合には、処理は、ステップS130に進められる。一方、後輪浮き抑制制御が実行中であり、ステップS120が肯定される場合には、処理は、ステップS140に進められる。
【0042】
ステップS130にて、「後輪浮き抑制制御の実行を開始するか、否か」が判定される。具体的には、以下の条件1(開始条件)が満足されると、後輪浮き抑制制御の実行を開始することが判定される。
条件1:積算減速度Gsが開始減速度gx以上であること。ここで、開始減速度gxは、前輪制動力Fxfの減少を開始するためのしきい値であり、予め設定された所定値(定数)である。
「Gs≧gx」であり、ステップS130が肯定される場合には、処理は、ステップS150に進められる。一方、「Gs<gx」であり、ステップS130が否定される場合には、処理は、ステップS110に戻される。
【0043】
ステップS140にて、「後輪浮き抑制制御の実行を終了するか、否か」が判定される。具体的には、以下の条件2(終了条件)が満足されると、後輪浮き抑制制御の実行を終了することが判定される。
条件2:積算減速度Gsが終了減速度gz未満であること。ここで、終了減速度gzは、前輪制動力Fxfの減少を終了するためのしきい値(前輪制動力Fxfの増加を許可するためのしきい値)であり、予め設定された所定値(定数)である。終了減速度gzは、開始減速度gxよりも小さい値として設定される(即ち、「gx>gz」)。
【0044】
「Gs≧gz」であり、ステップS140が否定される場合には、処理は、ステップS150に進められる。一方、「Gs<gz」であり、ステップS140が肯定される場合には、前輪制動力Fxfの増加が許可され(即ち、前輪制動力Fxfの減少が終了され)、処理は、ステップS110に戻される。
【0045】
ステップS140にて、後輪浮き抑制制御の終了条件として、以下の車体速度Vxに係る条件3が付け加えられてもよい。
条件3:車体速度Vxが終了速度vx未満であること。ここで、終了速度vxは、予め設定された所定値(定数)である。
ステップS140にて、条件3が採用される場合には、条件2、及び、条件3のうちの何れか1つが満足される場合に、後輪浮き抑制制御の実行が終了される。従って、条件2、及び、条件3が共に否定される場合に限って、後輪浮き抑制制御の実行が継続される。
【0046】
ステップS150にて、前輪制動力Fxfが減少される。例えば、
図1を参照して説明した様に、前輪インレット弁VIfが閉弁され、前輪アウトレット弁VOfが開弁される。前輪アウトレット弁VOfの開弁によって、前輪ホイールシリンダCWf内の制動液BFが、前輪低圧リザーバRWfに流出される。また、前輪インレット弁VIfの閉弁によって、前輪マスタシリンダCMfから前輪ホイールシリンダCWfへの制動液BFの流入が阻止される。結果、前輪制動液圧Pwfは減少され、前輪制動力Fxfが減少される。
【0047】
後輪浮き抑制制御において、減速スリップ起因誤差、及び、ゼロ点ドリフト誤差が補償された積算減速度Gsが採用されることによって、該制御の性能が向上される。詳細には、減速スリップ、及び、ゼロ点ドリフトの影響を受けることなく、適切なタイミングで、前輪制動力Fxfの減少が行われ得る。
【0048】
<減速度演算装置GS、及び、後輪浮き抑制制御の演算処理>
図4の時系列線図(時間Tに対する状態変数Ge、Gx、Gsの遷移図)を参照して、減速度演算装置GS、及び、後輪浮き抑制制御の演算処理について説明する。線図では、走行中の自動二輪車において、時点t0にて、運転者が急制動を行い、その後、後輪浮き抑制制御が実行される状況が想定されている。ここで、取得部XAにて、減速度センサGXの検出信号に応じて取得される検出減速度Gx(破線で示す)においては、ゼロ点が値goだけドリフトしている。
【0049】
時点t0にて、急制動が開始される。演算部XBにて、車輪速度Vwに基づいて演算減速度Geが演算される。検出された車輪速度Vwには減速スリップが含まれているため、演算減速度Ge(実線で示す)は変動し、車両の減速度が正しくは演算されない。
【0050】
決定部XCでは、検出減速度Gxの時間変化量(検出勾配)dGx、及び、演算減速度Geの時間変化量(演算勾配)dGeが演算される。更に、検出勾配dGxと演算勾配dGeとが比較され、「検出勾配dGxと演算勾配dGeとが一致したか、否か」が判定される。
【0051】
例えば、時点t1にて、検出勾配dGxと演算勾配dGeとの比較結果(勾配偏差)hG(=|dGx-dGe|)が、所定量hx未満であることが判定される。そして、時点t1から、所定時間(基準時間)txだけ経過した時点t2にて、上記一致の判定が行われる。つまり、時点t2の直前までは、「検出勾配dGxと演算勾配dGeとの一致」は否定されている。
【0052】
時点t2において、該時点の演算減速度Geが、基準減速度gsとして設定される(点(S)を参照)。時点t2の次の演算周期において、上記の式(1)に応じて、積算減速度Gsが演算される。その後の演算周期においては、上記の式(2)に応じて、積算減速度Gsが演算される。つまり、決定部XCでは、検出減速度Gxの時間変化量dGxと演算減速度Geの時間変化量dGeとが一致した場合の演算減速度Geが基準減速度gsとして決定される。そして、この基準減速度gsに検出減速度Gxの時間変化量dGxが順次積算されることによって、積算減速度Gsが演算される。
【0053】
検出減速度Gxには、値goのゼロ点ドリフトが含まれるが、検出勾配dGxには、この誤差は含まれない。また、車輪速度Vwは減速スリップが含まれるため、演算減速度Geは振動的になり、演算勾配dGeは変動する。「dGxと演算勾配dGeとの一致」は、演算減速度Geの変動が収束したことを意味する。従って、減速度演算装置GSでは、検出勾配dGxと演算勾配dGeとが一致した場合の演算減速度Geが基準減速度gsとされて、これに、ゼロ点ドリフトの影響を受けない検出勾配dGxが順次加算されることによって、積算減速度Gsが演算される。このため、積算減速度Gsには、ゼロ点ドリフトの影響、及び、減速スリップの影響が共に排除されているため、積算減速度Gsによって、正確に車両の減速度が決定される。
【0054】
時点t3にて、積算減速度Gsが開始減速度(しきい値)gx以上となり、後輪浮き抑制制御の実行が開始される。これに伴い、前輪制動力Fxfが減少される。ここで、開始減速度gxは、前輪制動力Fxfの減少を開始するための予め設定されたしきい値である。
【0055】
時点t4にて、積算減速度Gsが終了減速度gz未満となり、後輪浮き抑制制御の実行が、一旦終了される。これに伴い、減少されていた前輪制動力Fxfが増加される。ここで、終了減速度gzは、前輪制動力Fxfの減少を終了し(即ち、前輪制動力Fxfの増加を許可し)、再度、前輪制動力Fxfを増加するための予め設定されたしきい値である。なお、終了減速度gzは、開始減速度gx未満の値である。例えば、終了減速度gzは、開始減速度gxよりも、値gaだけ小さい。
【0056】
時点t5にて、積算減速度Gsが開始減速度gx以上となり、再度、後輪浮き抑制制御の実行が開始され、前輪制動力Fxfが制限されて、減少される。時点t6にて、積算減速度Gsが終了減速度gz未満となり、後輪浮き抑制制御の実行が終了され、前輪制動力Fxfが増加される。この様に、車両が停止、又は、車体速度Vxが所定速度vs未満になるまで、前輪制動力Fxfの増減が繰り返される。
【0057】
上述した様に、積算減速度Gsは、ゼロ点ドリフト、減速スリップの誤差影響が補償された状態変数である。このため、積算減速度Gsが利用されることによって、後輪浮き抑制制御が好適に実行され、急制動時の後輪WHrの浮き上がり現象(リフトアップ現象)が、確実に抑制され得る。
【0058】
<本発明に係る制動制御装置SCの第2の実施形態>
図5の全体構成図を参照して、本発明に係る制動制御装置SCの第2の実施形態について説明する。第2の実施形態でも、車両としては、自動二輪車が想定されている。第2の実施形態では、運転者の制動操作に代わって、又は、補助して、自動的に制動力Fxを増加する「自動制動制御」が実行可能とされる。自動制動制御では、車両の前方の物体(障害物)と、車両との相対距離Obに応じた要求減速度Gtに基づいて、車両と障害物との衝突を回避等するよう、ホイールシリンダCWの液圧(制動液圧)Pw(=Pwf、Pwr)がマスタシリンダCMの液圧(マスタシリンダ液圧)Pm(=Pmf、Pmr)から増加される。以下、第1の実施形態との相違点を中心に説明する。
【0059】
≪運転支援システム≫
第2の実施形態に係る車両には、障害物との衝突を回避、又は、衝突時の被害を軽減するよう、運転支援システムが備えられる。運転支援システムは、距離センサOB、及び、運転支援コントローラECJを含んで構成される。距離センサOBによって、自車両の前方に存在する物体(他車両、固定物、人、自転車、等)と、自車両との間の距離(相対距離)Obが検出される。例えば、距離センサOBとして、カメラ、レーダ等が採用される。相対距離Obは、運転支援コントローラECJに入力される。運転支援コントローラECJでは、相対距離Obに基づいて、要求減速度Gtが演算される。要求減速度Gtは、自動制動制御を実行するための車両減速度の目標値である。制動コントローラECUと運転支援コントローラECJとは、通信バスBSを通して、ネットワーク接続されている。要求減速度Gtは、通信バスBSを介して、制動コントローラECUに送信される。
【0060】
例えば、要求減速度Gtは、衝突余裕時間Tc、及び、車頭時間Twに基づいて演算される。衝突余裕時間Tcは、自車両と物体とが衝突に至るまでの時間であり、車両前方の物体と自車両との相対的な距離Obが、障害物と自車両との速度差(「相対速度」と称呼し、相対距離Obの時間微分値)によって除算されることによって決定される。車頭時間Twは、前方の物体の現在位置に自車両が到達するまでの時間であり、相対距離Obが、車体速度Vxにて除算されて演算される。要求減速度Gtは、衝突余裕時間Tcが大きいほど、小さくなるように演算される。また、要求減速度Gtは、車頭時間Twが大きいほど、要求減速度Gtが小さくなるように演算される。なお、車体速度Vxは、通信バスBSを介して、制動コントローラECUから送信される。
【0061】
更に、第2の実施形態に係る車両には、運転者による前輪、後輪制動操作部材(ブレーキレバー、ブレーキペダル)BPf、BPrの前輪、後輪操作量Baf、Bar(=Ba)を検出するよう、前輪、後輪操作量センサBAf、BAr(=BA)が設けられる。例えば、操作量センサBAとして、マスタシリンダ液圧センサPM(=PMf、PMr)、制動操作部材BPの操作変位Spを検出する操作変位センサSP(=SPf、SPr)、及び、制動操作部材BPの操作力Fpを検出する操作力センサFP(図示せず)のうちの少なくとも1つが採用される。つまり、制動操作量Baは、マスタシリンダ液圧Pm、操作変位Sp、及び、操作力Fpの少なくとも1つである。
【0062】
≪制動制御装置SC≫
第1の実施形態と同様に、流体ユニットHUは、接続路HSに設けられる。流体ユニットHUは、上述した様に、電気モータMT、流体ポンプHP、インレット弁VI、及び、アウトレット弁VOを含んでいる。更に、流体ユニットHUは、これらに加え、調圧弁UA(=UAf、UAr)、調圧リザーバRC(=RCf、RCr)、マスタシリンダ液圧センサPM(=PMf、PMr)を含んで構成される。
【0063】
前輪、後輪調圧弁UAf、UAr(=UA)が、前輪、後輪インレット弁VIf、VIr(=VI)の上部(マスタシリンダCMとインレット弁VIとの間の部位)において、前輪、後輪接続路HSf、HSr(=HS)に設けられる。調圧弁UAは、通電量(電流値)に応じて、その開弁量(リフト量)が連続的に制御される常開型のリニア電磁弁(「差圧弁」ともいう)である。
【0064】
調圧弁UAの上部と、調圧弁UAの下部とを接続するように、前輪、後輪還流路HKf、HKr(=HK)が設けられる。流体路である還流路HKには、前輪、後輪流体ポンプHPf、HPr(=HP)が設けられるとともに、前輪、後輪調圧リザーバRCf、RCr(=RC)に接続される。
【0065】
流体ポンプHPは、調圧弁UAの上部から制動液BFを吸込み、調圧リザーバRCを介して、調圧弁UAの下部に制動液BFを吐出する。電気モータMTによって流体ポンプHPが回転駆動されると、還流路HKでは、破線矢印で示す様に、制動液BFの前輪、後輪還流KNf、KNr(=KN)が生じる(「HP→UA→RC→HP」の流れ)。ここで、「還流」とは、制動液BFが循環して、再び元の流れに戻ることである。
【0066】
調圧弁UAによって、還流KNが絞られて、調圧弁UAの上部(即ち、マスタシリンダ液圧Pm)と下部(即ち、制動液圧Pw)との間に圧力差(差圧)Saが発生される。具体的には、コントローラECUによって、常開型の調圧弁UAに通電が行われることで、その開弁量が減少され、ホイールシリンダCWの液圧Pwが、マスタシリンダ液圧Pmから増加するように調節される。例えば、自動制動制御では、制動操作部材BPが操作されていない場合(即ち、「Pm=0」の場合)に、この調圧弁UAのオリフィス効果によって、自動でホイールシリンダ液圧Pwが増加される。自動制動制御では、要求減速度Gtに基づいて、要求減速度Gtが大きいほど、調圧弁UAの開弁量が小さくされ、差圧Sa(結果、制動液圧Pw)が増加される。
【0067】
前輪、後輪調圧弁UAf、UArの上部には、前輪、後輪液圧室Rmf、Rmrの液圧(マスタシリンダ液圧)Pmf、Pmrを検出するよう、前輪、後輪マスタシリンダ液圧センサPMf、PMrが設けられる。マスタシリンダ液圧センサPM(=PMf、PMr)は操作量センサBAに相当し、マスタシリンダ液圧Pmは操作量Baに相当する。例えば、操作量センサBAとして、操作変位センサSPが採用される場合には、マスタシリンダ液圧センサPMは省略されてもよい。或いは、冗長性を確保するため、マスタシリンダ液圧センサPMと操作変位センサSPとが共に設けられてもよい。
【0068】
第2の実施形態において、インレット弁VI(常開型オン・オフ電磁弁)、及び、アウトレット弁VO(常閉型オン・オフ電磁弁)は、第1の実施形態と同様に配置される。第2の実施形態でも、第1の実施形態と同様に、後輪浮き抑制制御では、前輪インレット弁VIf、及び、前輪アウトレット弁VOfの制御によって、前輪制動液圧Pwf(結果、前輪制動力Fxf)が減少される。具体的には、積算減速度Gsが開始減速度gx以上になった時点で、前輪インレット弁VIfが閉弁され、前輪アウトレット弁VOfが開弁され、前輪制動液圧Pwfが減少される。
【0069】
第2の実施形態においては、前輪調圧弁UAfによって、後輪浮き抑制制御が行われてもよい。具体的には、積算減速度Gsが開始減速度gx以上になった時点で、前輪調圧弁UAfへの通電量が減少され、その開弁量が増加される。結果、前輪制動液圧Pwfが減少され、前輪制動力Fxfが減少される。第2の実施形態においても、上記同様の効果(積算減速度Gsを利用した高精度な後輪浮き抑制制御の実行)を奏する。
【0070】
<他の実施形態>
以下、他の実施形態について説明する。他の実施形態においても、上記同様の効果を奏する。
上記実施形態では、車輪WHの制動トルクTq(結果、制動力Fx)を調節するアクチュエータとして、制動液BFを介した液圧式のユニットHUが例示された。これに代えて、電気モータによって駆動される、電動式のアクチュエータが採用され得る。電動式アクチュエータでは、電気モータの回転動力が、直線動力に変換され、これによって、摩擦部材が回転部材KTに押し付けられる。従って、制動液圧Pwに依らず、電気モータによって、直接、制動トルクTqが付与され、制動力Fxが発生される。更に、前輪WHf用として、制動液BFを介した液圧式のアクチュエータが採用され、後輪WHr用として、電動式のアクチュエータが採用された、複合型であってもよい。
【0071】
上記の実施形態では、車両として、自動二輪車が採用されて、減速度演算装置GS、及び、減速度演算装置GSを備える制動制御装置SCが適用された。これに代えて、減速度演算装置GS、及び、減速度演算装置GSを備える制動制御装置SCは、四輪車(乗用車、トラック等)にも適用することができる。しかしながら、減速度演算装置GS、及び、減速度演算装置GSを備える制動制御装置SCは、自動二輪車でより効果を発揮する。以下、この理由について説明する。
【0072】
自動二輪車は旋回する際に車体を傾ける必要があることから、四輪車用タイヤのトレッド面が偏平であるのに対して、二輪車用タイヤは、その断面形状が円に近い形状となっている。このため、自動二輪車においては、旋回のために車体が傾けられると、タイヤ径(車軸とタイヤの接地面との距離)が小さくなり、車輪速度センサVWの検出結果(即ち、車輪速度)Vwが小さくなる。つまり、自動二輪車の車輪速度Vwにおいては、減速スリップ誤差に加え、旋回に起因する誤差(旋回誤差)が含まれる。積算減速度Gsによって、この旋回誤差も補償されるため、減速度演算装置GS、及び、減速度演算装置GSを備える制動制御装置SCは、四輪車に適用される場合に比較して、自動二輪車に適用されことが、極めて有効である。
【符号の説明】
【0073】
GS…減速度演算装置、XA…取得部、XB…演算部、XC…決定部、SC…制動制御装置、BP…制動操作部材、CM…マスタシリンダ、CW…ホイールシリンダ、HU…流体ユニット、MT…電気モータ、HP…流体ポンプ、VI…インレット弁、VO…アウトレット弁、UA…調圧弁、ECU…コントローラ、VW…車輪速度センサ、GX…減速度センサ、Vw…車輪速度、Vx…車体速度、Gx…検出減速度、Ge…演算減速度、Gs…積算減速度、gs…基準減速度、dGx…検出勾配(検出減速度Gxの時間変化量)、dGe…演算勾配(演算減速度Geの時間変化量)、Fx…制動力。