(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-20
(45)【発行日】2023-11-29
(54)【発明の名称】電動工具
(51)【国際特許分類】
B25B 21/02 20060101AFI20231121BHJP
【FI】
B25B21/02 H
B25B21/02 Z
(21)【出願番号】P 2020017078
(22)【出願日】2020-02-04
【審査請求日】2022-12-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000006301
【氏名又は名称】マックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001254
【氏名又は名称】弁理士法人光陽国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】110001209
【氏名又は名称】特許業務法人山口国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山下 通夫
(72)【発明者】
【氏名】田村 純一
(72)【発明者】
【氏名】橋本 泰成
【審査官】城野 祐希
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-031314(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25B 21/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気で駆動される電動モータと、
前記電動モータの軸と連結される入力軸、及び、前記入力軸と複数のギアを介して連結され、複数の前記ギアのギア比に応じた回転速度で回転する出力軸を有した減速機と、
前記減速機の前記出力軸と連結され、前記出力軸の回転により回転するハンマーユニットと、
前記ハンマーユニットを介して前記電動モータの回転を外部に出力する最終出力軸と、
前記電動モータを回転させる操作を受けるスイッチと、
前記スイッチの操作に応じて前記電動モータの回転の有無及び回転速度を制御する制御部とを備え、
前記ハンマーユニットは、
前記最終出力軸を周方向に打撃して、前記最終出力軸に周方向の力を加えるハンマーと、
前記ハンマーを変位可能に支持するハンマーキャリアと、
前記減速機の前記出力軸が回転すると、前記ハンマーを変位させる変位部とを備え、
前記電動モータの前記軸、前記減速機の前記出力軸及び前記最終出力軸が同軸上に配置され
、
前記変位部の回転と前記最終出力軸に掛かる負荷により前記ハンマーが揺動により変位し、前記最終出力軸と前記ハンマーとの回転方向の係止と、係止の一時的な解除が行われて、前記ハンマーが前記最終出力軸を周方向に打撃する
電動工具。
【請求項2】
前記制御部は、前記スイッチの操作量に応じて前記電動モータの回転数が設定される
請求項1に記載の電動工具。
【請求項3】
前記制御部は、前記スイッチの操作量に応じて設定される前記電動モータの回転数を調整可能とした
請求項2に記載の電動工具。
【請求項4】
前記電動モータはブラシレスモータで、
前記ハンマーユニットは、前記ハンマーを2個備えた
請求項1~請求項3の何れか1項に記載の電動工具。
【請求項5】
前記
電動モータの出力は、下限が350W以上である
請求項1~請求項4の何れか1項に記載の電動工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動モータにより駆動される電動工具に関する。
【背景技術】
【0002】
電動モータ、圧縮空気で作動するエアモータ等を駆動源として回転動作し、所定値以上の負荷が加わると回転方向へ間欠的な打撃力を加えるように構成された工具として、打撃力を利用した高いトルクでネジ、ナット等の締結を行うことが可能なインパクトドライバと称す回転打撃工具が知られている。
【0003】
駆動源として電動モータを使用する従来のインパクトドライバでは、打撃力を発生するハンマーユニットは、ビットが取り付けられるアンビルに回転方向への打撃力を与えるハンマーと、ハンマーをアンビルへ近づく方向に付勢する圧縮バネを備えた構成である(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
このようなハンマーユニットは、アンビルに所定以上の負荷が掛かると、ハンマーが圧縮バネを圧縮しながら後退することで、アンビルとハンマーとの回転方向の係止が一時的に解除された後、圧縮バネが復元する力でハンマーが前進すると共に、ハンマーがアンビルを回転方向に打撃する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ハンマーがアンビルに対して軸方向に変位する構成のハンマーユニットを用いるインパクトドライバでは、所定の打撃力を得るため、アンビルに所定以上の負荷が掛からない状態でハンマーが後退することを抑制する必要がある。このため、アンビルに所定以上の負荷が掛からない状態でハンマーが後退しないような所定の力で、ハンマーをアンビルに近づく方向へ付勢し得る圧縮バネが用いられる。これにより、アンビルの回転数の高低によらず所望の打撃力が得られる。しかし。低速回転でも打撃力を小さくすることが難しく、ネジの寸法等によっては、打撃による締め付けトルクが過大となる場合がある。
【0007】
本発明は、このような課題を解決するためなされたもので、打撃による過剰なトルクの発生を抑制できるようにした電動工具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決するため、本発明は、電気で駆動される電動モータと、電動モータの軸と連結される入力軸、及び、入力軸と複数のギアを介して連結され、複数のギアのギア比に応じた回転速度で回転する出力軸を有した減速機と、減速機の出力軸と連結され、出力軸の回転により回転するハンマーユニットと、ハンマーユニットを介して電動モータの回転を外部に出力する最終出力軸と、電動モータを回転させる操作を受けるスイッチと、スイッチの操作に応じて電動モータの回転の有無及び回転速度を制御する制御部とを備え、ハンマーユニットは、最終出力軸を周方向に打撃して、最終出力軸に周方向の力を加えるハンマーと、ハンマーを変位可能に支持するハンマーキャリアと、減速機の出力軸が回転すると、ハンマーを変位させる変位部とを備え、電動モータの軸、減速機の出力軸及び最終出力軸が同軸上に配置され、変位部の回転と最終出力軸に掛かる負荷によりハンマーが揺動により変位し、最終出力軸とハンマーとの回転方向の係止と、係止の一時的な解除が行われて、ハンマーが最終出力軸を周方向に打撃する電動工具である。
【0009】
本発明では、スイッチの操作に応じた回転数で電動モータが制御され、電動モータが回転することで、減速機のギア比に応じた回転数で最終出力軸が回転する。最終出力軸に所定の負荷が掛かると、ハンマーが変位することで最終出力軸が周方向に打撃される。
【発明の効果】
【0010】
本発明では、変位部の回転でハンマーが変位し、最終出力軸を周方向に打撃する方式のハンマーユニットを、電動モータで駆動することで、十分な打撃回数を得ることができる。これにより、1打撃当たりの衝撃を小さく抑えて、打撃による過剰なトルクの発生を抑制しつつ、必要十分なトルクを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本実施の形態のインパクトドライバの一例を示す側断面図である。
【
図2A】本実施の形態のスピンドル組み立て体の一例を示す斜視図である。
【
図2B】本実施の形態のスピンドル組み立て体の一例を示す斜視図である。
【
図2C】本実施の形態のスピンドル組み立て体の一例を示す背面図である。
【
図2D】本実施の形態のスピンドル組み立て体の一例を示す正面図である。
【
図2E】本実施の形態のスピンドル組み立て体の一例を示す分解斜視図である。
【
図2F】本実施の形態のスピンドル組み立て体の一例を示す分解斜視図である。
【
図3A】本実施の形態のハンマーユニットの一例を示す分解斜視図である。
【
図3B】本実施の形態のハンマーユニットの一例を示す分解斜視図である。
【
図4】本実施の形態のインパクトドライバの制御機能の一例を示す機能ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して、本発明の電動工具の実施の形態の一例であるインパクトドライバについて説明する。
【0013】
<本実施の形態のインパクトドライバの全体構成例>
図1は、本実施の形態のインパクトドライバの一例を示す側断面図である。
【0014】
本実施の形態のインパクトドライバ1Aは、ブラシレスモータ2と、ブラシレスモータ2等を冷却するファン3を備える。また、インパクトドライバ1Aは、ブラシレスモータ2の駆動力が減速機4及びハンマーユニット5を介して伝達されるアンビル6を備える。
【0015】
更に、インパクトドライバ1Aは、ブラシレスモータ2を動作させるスイッチ7及び
図1では図示しない正逆切り替えスイッチを備える。また、インパクトドライバ1Aは、ブラシレスモータ2の外装及び軸受等、ブラシレスモータ2の構造体の一部を構成し、かつ、インパクトドライバ1A全体の外装を構成するハウジング10を備える。
【0016】
更に、インパクトドライバ1Aは、スイッチ7及び正逆切り替えスイッチと、図示しないバッテリ取付部等が設けられるハンドル10Hを備える。
【0017】
<本実施の形態のブラシレスモータの構成例>
ブラシレスモータ2は電動モータの一例で、回転子20と、回転子20の周囲に固定子21を備える。回転子20は、駆動部の出力軸である軸20aを中心とした円周方向に沿って所定の配置で永久磁石が設けられる。
【0018】
以下の説明では、軸20aに沿った方向をブラシレスモータ2の軸方向と称し、ブラシレスモータ2の軸方向をインパクトドライバ1Aの前後方向と称す。また、軸20aに直交する方向をブラシレスモータ2の径方向と称す。
【0019】
固定子21は、軸20aを中心とした円周方向に沿って所定の配置で駆動コイル22を備える。ブラシレスモータ2は、回転子20に設けた永久磁石の磁気変化をホールセンサ等の位置検知手段で検知し、駆動コイル22に所定のパターンで電流を流すことで、回転子20が回転する。ブラシレスモータ2の出力は、下限が350W程度以上であることが好ましい。
【0020】
ファン3は、ブラシレスモータ2の後方に延在する軸20aに取り付けられ、回転子20と一体に回転する。ファン3は、ブラシレスモータ2の軸方向に沿った後面側に、軸受部24が入る凹部30を備える。
【0021】
軸受部24は、ブラシレスモータ2の後方に延在する軸20aが挿入されるベアリング24aを支持する。軸受部24は、ハウジング10の後面の内側に、ベアリング24aが嵌る形状の凸部を設けて構成される。これにより、軸受部24及び軸受部24に支持されたベアリング24aは、ファン3の凹部30に入る形態となる。
【0022】
<本実施の形態の減速機の構成例>
減速機4は複数のギアを有した遊星ギアで構成され、ブラシレスモータ2の軸20aに連結される入力軸40と、入力軸40に取り付けられるサンギア41と、サンギア41とかみ合う複数のプラネタリギア42と、プラネタリギア42とかみ合うインターナルギア43を備える。
【0023】
また、減速機4は、プラネタリギア42を支持するギアキャリア44と、ギアキャリア44に連結される出力軸45と、プラネタリギア42、ギアキャリア44及び出力軸45が組み立てられたスピンドル組み立て体46を備える。
【0024】
減速機4は、入力軸40及びサンギア41と、プラネタリギア42及び出力軸45の軸方向が、ブラシレスモータ2の軸方向と平行で、ブラシレスモータ2の軸20a、入力軸40及びスピンドル組み立て体46の出力軸45が同軸上に位置する。
【0025】
図2A及び
図2Bは、本実施の形態のスピンドル組み立て体の一例を示す斜視図、
図2Cは、本実施の形態のスピンドル組み立て体の一例を示す背面図、
図2Dは、本実施の形態のスピンドル組み立て体の一例を示す正面図、
図2E及び
図2Fは、本実施の形態のスピンドル組み立て体の一例を示す分解斜視図である。
【0026】
ギアキャリア44は、スピンドル組み立て体46の軸方向と直交する径方向の中心に、入力軸40及びサンギア41が挿入される空間が形成される。
【0027】
また、ギアキャリア44は、スピンドル組み立て体46の軸方向と平行なプラネタリギア42の軸方向に沿った一方の側に、第1のフランジ部44aとベアリング支持部44bを備える。スピンドル組み立て体46は、ギアキャリア44の第1のフランジ部44a及びベアリング支持部44bが、ブラシレスモータ2の側に位置する。
【0028】
更に、ギアキャリア44は、プラネタリギア42の軸方向に沿った他方の側に、第2のフランジ部44cと出力軸支持部44dを備える。スピンドル組み立て体46は、ギアキャリア44の第2のフランジ部44c及び出力軸支持部44dに取り付けられた出力軸45が、ハンマーユニット5の側に位置する。
【0029】
ギアキャリア44は、プラネタリギア42を回転可能に支持する軸42aの一方の端部が挿入される第1の孔部44eが第1のフランジ部44aに開けられる。第1の孔部44eは、サンギア41の周囲に配置される複数個、本来では3個のプラネタリギア42の配置に合わせて、ギアキャリア44の径方向の中心に対して同一径上の3か所に設けられる。第1の孔部44eは、軸42aが挿抜可能な直径を有し、第1のフランジ部44aを貫通する。
【0030】
ベアリング支持部44bは、第1のフランジ部44aからスピンドル組み立て体46の軸方向に沿って突出し、円筒形状の外周に、
図1に示すベアリング26が挿入される。
【0031】
第1の孔部44eは、ギアキャリア44の径方向の中心から、第1の孔部44eの周方向においてギアキャリア44の中心に最も近い位置までの距離が、ギアキャリア44の中心から、ベアリング支持部44bの外周までの距離(ベアリング支持部44bの外周の半径)より小さく構成される。
【0032】
これにより、第1の孔部44eは、一部がベアリング支持部44bで塞がれる。よって、第1の孔部44eに挿入された軸42aの一方の端部がベアリング支持部44bに当たり、軸42aが第1のフランジ部44aの側から抜けることが規制される。
【0033】
また、ギアキャリア44は、軸42aの他方の端部が挿入される第2の孔部44fが第2のフランジ部44cに開けられる。第2の孔部44fは、プラネタリギア42の配置に合わせて第1の孔部44eと同軸上に設けられる。第2の孔部44fは、軸42aが挿抜可能な直径を有し、第2のフランジ部44cを貫通する。
【0034】
出力軸支持部44dは、第2のフランジ部44cからスピンドル組み立て体46の軸方向に沿って突出する内筒部44gと、内筒部44gからスピンドル組み立て体46の軸方向に沿って突出し、出力軸45が締結されるネジ部44hを備える。
【0035】
第2の孔部44fは、ギアキャリア44の径方向の中心から、第2の孔部44fの周方向においてギアキャリア44の中心に最も近い位置までの距離が、ギアキャリア44の中心から、内筒部44gの外周までの距離(内筒部44gの外周の半径)より小さく構成される。
【0036】
出力軸支持部44dは、第2の孔部44fの位置に合わせて、内筒部44gの外周に溝部44iが設けられる。溝部44iは、ギアキャリア44の径方向の中心から、底部までの距離が、ギアキャリア44の径方向の中心から、第2の孔部44fの周方向においてギアキャリア44の中心に最も近い位置までの距離と同等に構成される。
【0037】
これにより、第2の孔部44fの径方向の全体が出力支持部44dで塞がれず、軸42aが第2のフランジ部44cの側から挿抜が可能である。
【0038】
出力軸45は、出力軸支持部44dに形成されるネジ部44hに締結されることで、出力軸支持部44dに取り付けられる。出力軸45は、出力軸支持部44dに取り付けられると、第2の孔部44fを覆う外筒部45aを備える、また、出力軸45は、ベアリング支持部45bと、スプライン部45cを備える。
【0039】
外筒部45aは、出力軸45の径方向の中心から、外筒部45aの外周面までの距離(外筒部45aの外周の半径)が、ギアキャリア44の径方向の中心から、第2の孔部44fの周方向においてギアキャリア44の中心に最も遠い位置までの距離と同等に構成される。
【0040】
これにより、出力軸45が出力軸支持部44dに取り付けられると、第2の孔部44fが外筒部45aで覆われる。よって、第2の孔部44fに挿入された軸42aの他方の端部が外筒部45aに当たり、軸42aが第2のフランジ部44cの側から抜けることが規制される。なお、第2の孔部44fは、外筒部45aで全体が覆われなくても、軸42aが抜けないように外筒部45aで一部が覆われる形態であればよい。
【0041】
ベアリング支持部45bは、外筒部45aから減速機4の軸方向に沿って突出し、円筒形状の外周に、
図1に示すベアリング27が挿入される。
【0042】
スプライン部45cは、ベアリング支持部45bからスピンドル組み立て体46の軸方向に沿って所定の断面形状で突出する。
【0043】
スピンドル組み立て体46は、ギアキャリア44の第1のフランジ部44aと第2のフランジ部44cの間にプラネタリギア42が入れられ、第2のフランジ部44cの側から第2の孔部44f、プラネタリギア42及び第1の孔部44eへと軸42aが挿入される。第1の孔部44eに挿入された軸42aは、一方の端部がベアリング支持部44bに当たり、軸42aが第1のフランジ部44aの側から抜けることが規制される。
【0044】
プラネタリギア42が取り付けられたギアキャリア44は、出力軸支持部44dのネジ部44hに出力軸45が締結される。ギアキャリア44は、出力軸45が出力軸支持部44dに取り付けられると、第2の孔部44fに挿入された軸42aの他方の端部が外筒部45aに当たり、軸42aが第2のフランジ部44cの側から抜けることが規制される。
【0045】
これにより、スピンドル組み立て体46は、軸方向に分割されたギアキャリア42と出力軸45が一体に組み立てられることで、プラネタリギア42の軸42aが、軸方向の両側から固定され、軸42aがギアキャリア44から抜けることが規制された状態で、プラネタリギア42がギアキャリア44に対して回転可能に支持される。
【0046】
インターナルギア43は、円筒形状の内周面に、プラネタリギア42がかみ合う歯部が形成される。
【0047】
減速機4は、ハウジング10の内部に取り付けられる被駆動部支持体47に支持される。被駆動部支持体47は、入力軸40及びインターナルギア43を支持する第1の被駆動部支持体47aと、スピンドル組み立て体46を支持する第2の被駆動部支持体47bを備える。
【0048】
被駆動部支持体47は、ブラシレスモータ2の前方に延在する軸20aが挿入されるベアリング25を支持する第1の軸支持部47cを第1の被駆動部支持体47aに備える。第1の軸支持部47cは、第1の被駆動部支持体47aのブラシレスモータ2と対向する後面側から軸方向に突出する。また、被駆動部支持体47は、インターナルギア43が回転不可となる形態で、第1の被駆動部支持体47aに支持される。
【0049】
更に、被駆動部支持体47は、スピンドル組み立て体46のベアリング支持部44dに挿入されるベアリング26を支持する第2の軸支持部47dを第1の被駆動部支持体47aに備える。
【0050】
また、被駆動部支持体47は、スピンドル組み立て体46のベアリング支持部45bに挿入されるベアリング27を支持する第3の軸支持部47eを第2の被駆動部支持体47bに備える。
【0051】
減速機4は、サンギア41が取り付けられた入力軸40が、ブラシレスモータ2の軸20aに連結される。減速機4は、入力軸40が、ブラシレスモータ2の軸20aを介して、被駆動部支持体47の第1の軸支持部47cにベアリング25により支持される。
【0052】
また、減速機4は、スピンドル組み立て体46のベアリング支持部44bが、被駆動部支持体47の第2の軸支持部47dにベアリング26により支持され、スピンドル組み立て体46のベアリング支持部45bが、被駆動部支持体47の第3の軸支持部47eにベアリング27により支持される。
【0053】
これにより、減速機4は、入力軸40と、スピンドル組み立て体46及びスピンドル組み立て体46に設けた出力軸45が、ブラシレスモータ2の軸20aと同軸上に位置する。また、スピンドル組み立て体46に支持されたプラネタリギア42がサンギア41とかみ合うと共に、インターナルギア43とかみ合う。
【0054】
よって、減速機4は、ブラシレスモータ2が回転すると、サンギア40、プラネタリギア42及びインターナルギア43のギア比に応じた回転数で出力軸45が回転する。減速機4の減速比は、1:3以上1:4.5以下程度である。
【0055】
<本実施の形態のハンマーユニットの構成例>
図3A及び
図3Bは、本実施の形態のハンマーユニットの一例を示す分解斜視図である。
【0056】
ハンマーユニット5は、アンビル6を打撃するハンマー50と、ハンマー50を変位可能に支持するハンマーキャリア51と、ハンマー50を変位させる変位部52を備える。
【0057】
ハンマーユニット5は、単数もしくは複数個のハンマー50が、揺動等により変位可能に設けられる。本例では、2個のハンマー50が、ハンマーキャリア51に揺動可能に支持される。
【0058】
ハンマー50は、揺動の支点となる軸50aの軸方向に沿った一端に被作用部50bを備える。被作用部50bは、所定の形状でハンマー50から突出する。また、ハンマー50は、軸50aが挿入される孔部50cを備える。孔部50cは、被作用部50bの形成位置に設けられる。
【0059】
ハンマーキャリア51は、軸50aの軸方向に沿った一方の側に第1のフランジ部51aを備え、他方の側に第2のフランジ部51bを備える。また、ハンマーキャリア51は、軸50aの一方の端部が挿入される第1の孔部51cが第1のフランジ部51aに開けられ、軸50aの他方の端部が挿入される第2の孔部51dが第2のフランジ部51bに開けられる。
【0060】
変位部52は、ハンマー50の被作用部50bが入る作用部52aと、減速機4の出力軸45が連結される軸孔部52bを備える。作用部52aは、被作用部50bが入る所定の形状の溝部を設けて構成される。軸孔部52bは、出力軸45のスプライン部45cの形状に合わせた孔部を設けて構成される。
【0061】
ハンマーユニット5は、ハンマーキャリア51の第1のフランジ部51aの内側に変位部52が入れられる。また、ハンマーユニット5は、ハンマーキャリア51の第1のフランジ部51aと第1のフランジ部51bの間にハンマー50が入れられる。ハンマー50は、被作用部50bが変位部52の作用部52aに入れられ、孔部50cに挿入された軸50aが、第1のフランジ部51aの第1の孔部51c及び第2のフランジ部51bの第2の孔部51dに挿入されることで、ハンマーキャリア51に揺動可能に支持される。
【0062】
更に、ハンマーユニット5は、変位部52の軸孔部52bに、減速機4の出力軸45のスプライン部45cが挿入され、アンビル6がガイドリング53を介してハンマー50の内側に挿入される。
【0063】
アンビル6は最終出力軸の一例で、ハンマー50に打撃される被打撃部60を備える。被打撃部60は、アンビル6の外周に周方向に凹凸形状を設けて構成され、変位部52の動作で揺動したハンマー50により周方向に打撃される力を受ける。
【0064】
アンビル6は、軸61を介して減速機4の出力軸45と連結され、ブラシレスモータ2の軸20aと同軸上に位置する。なお、減速機4の出力軸45からアンビル6へは、軸61を介して直接的に駆動力が伝達されない。
【0065】
アンビル6は、図示しないビットあるいはソケット等が着脱可能に装着されることで、回転方向への打撃を加えながら被締結物へのネジの締結が可能である。
【0066】
ハンマーユニット5は、ブラシレスモータ2が回転することで、減速機4の出力軸45が回転すると、変位部52が回転する。また、変位部52が回転することで、変位部52の作用部52aにハンマー50の被作用部50bが押され、ハンマー50及びハンマーキャリア51が回転する。更に、変位部52の作用部52aにハンマー50の被作用部50bが押されることで、ハンマー50が軸50aを支点として変位し、ハンマー50がアンビル6の被打撃部60と回転方向に係止する。これにより、アンビル6が回転する。
【0067】
アンビル6に所定以上の負荷が掛かると、ハンマー50が軸50aを支点に揺動することで、アンビル6の被打撃部60とハンマー50との回転方向の係止が一時的に解除された後、変位部52の作用部52aにハンマー50の被作用部50bが押されることで、ハンマー50が軸50aを支点として変位し、ハンマー50がアンビル6の被打撃部60を回転方向に打撃する。
【0068】
ハンマーユニット5は、グリスを保持するグリス溜り51eを備える。グリス溜り51eは、ハンマー50及び変位部52と、アンビル6の被打撃部60が入れられる第1のフランジ部51aと第2のフランジ部51bとの間の空間で構成される。ハンマーユニット5は、グリス溜まり51eにグリスが充填されることで、各可動部に潤滑材としてグリスが塗布される。例えば、ハンマー50の軸50aと孔部50c、ハンマー50の被作用部50bと変位部52の作用部52a、ハンマー50とアンビル6の被打撃部60、ハンマーキャリア51等にグリスが塗布され、擦動による摩擦を低減すると共に、摩耗を低減する。
【0069】
<本実施の形態のハウジングの構成例>
ハウジング10は、ブラシレスモータ2の軸方向に沿った前後に分割される形状で、前ハウジング11Fと後ハウジング11Rを備える。
【0070】
後ハウジング11Rは第1のハウジングの一例で、ブラシレスモータ2等の外装を構成し、前ハウジング11Fが取り付けられる分割面が所定の形状で開口する。後ハウジング11Rは、ブラシレスモータ2の固定子21と、被駆動部支持体47を支持する。
【0071】
前ハウジング11Fは第2のハウジングの一例で、後ハウジング11Rに取り付けられる分割面が所定の形状で開口する。前ハウジング11Fは、ハンマーユニット5の外装を構成するハンマーケース部12Fを覆う。
【0072】
<本実施の形態のスイッチの構成例>
スイッチ7は、作業者により操作されるトリガ70と、トリガ70を介して押圧力を受ける荷重センサ71を有したセンサユニット74を備える。荷重センサ71は、荷重に応じて電気伝導度が変化し、電気伝導度の変化に応じて抵抗値が変化する構成である。なお、スイッチ7は、可変抵抗を利用した構成であってもよい。
【0073】
<本実施の形態のインパクトドライバの制御機能例>
図4は、本実施の形態のインパクトドライバの制御機能の一例を示す機能ブロック図である。インパクトドライバ1Aは、スイッチ7及び正逆切り替えスイッチ8等の操作に応じてブラシレスモータ2等の制御を行う制御部110を備える。また、インパクトドライバ1Aは、ブラシレスモータ2を駆動する駆動部111を備える。
【0074】
制御部110は、スイッチ7に掛かる荷重、スイッチ7の作動量等、スイッチ7の操作に応じて、ブラシレスモータ2の回転数が設定され、所望の回転数となるように、電流値、電圧値が設定される。
【0075】
制御部110は、図示しないホールセンサの出力からブラシレスモータ2の回転方向、回転速度等を検出し、本例では、PWM(Pulse Width Modulation:パルス幅変調)方式により、駆動部111で駆動コイル22に制御されたパターンで電流を流し、ブラシレスモータ2を制御する。
【0076】
<本実施の形態のブラシレスモータの作用効果例>
本実施の形態のインパクトドライバ1Aでは、ブラシレスモータ2の出力を350W程度以上、減速機4の減速比を1:3以上1:4.5以下程度とし、減速機4の出力軸45の無負荷最高回転数を毎分4000回転以上12000回転以下程度とすることで、変位部52の回転でハンマー50が揺動し、アンビル6の被打撃部60を周方向に打撃する方式のハンマーユニット5を用いて、十分な打撃回数を得ることができる。
【0077】
駆動源として電動モータを使用するインパクトドライバでは、従来、ハンマーユニットは、アンビルに回転方向への打撃力を与えるハンマーと、ハンマーをアンビルへ近づく方向に付勢する圧縮バネを備えた構成である。このようなハンマーユニットは、アンビルに所定以上の負荷が掛かると、ハンマーが圧縮バネを圧縮しながら後退することで、アンビルとハンマーとの回転方向の係止が一時的に解除された後、圧縮バネが復元する力でハンマーが前進すると共に、ハンマーがアンビルを回転方向に打撃する。このような方式のハンマーユニットを用いるインパクトドライバでは、低速回転でも打撃力を小さくすることが難しく、ネジの寸法によっては、打撃による締め付けトルクが過大となる場合がある。
【0078】
これに対し、インパクトドライバ1Aでは、変位部52の回転でハンマー50が揺動し、アンビル6の被打撃部60を周方向に打撃する方式のハンマーユニット5を用いることで、1打撃当たりの衝撃が小さく抑えられる。
【0079】
これにより、打撃による過剰なトルクの発生を抑制しつつ、所望の寸法のネジを締結するために必要十分なトルクを得ることができる。また、ハンマーが軸方向に移動する従来のインパクトドライバでは、アンビルに取り付けられたビットの先端が、軸方向に生じる慣性によってネジのリセスから外れやすいという課題を持つ。これに対し、インパクトドライバ1Aでは、ハンマー50が軸方向に移動しないため、アンビル6に取り付けられたビットの先端が、ネジのリセスから外れるような軸方向の慣性が生じることが抑制され、精密な作業がやりやすい。従って、ネジの締め付け過ぎ、カムアウトの発生を抑制でき、ネジの頭を締結対象物と合わせるような作業に好適となる。
【0080】
また、駆動源が電気で駆動される電動モータであることで、スイッチの操作量と電動モータの回転数との関係を電子制御で自在に設定できるため、高速回転のみならず、圧縮空気を利用したエアモータを駆動源としたインパクトドライバでは実現することが難しい、毎分十数回転~数百回転程度の低速回転でアンビル6を回転させ、かつ、回転速度を制御することができると共に、低速回転域での微調整が容易になる。
【0081】
これにより、ネジ締めの微調整が容易となり、精密なネジ締め作業での使いやすさが向上する。また、圧縮空気を利用したエアモータを駆動源としたインパクトドライバでは、エアホースの接続が必要であるが、電動モータを使用することで、バッテリで駆動することができ、エアホースや電源コードの接続が不要となる、よって、取り回し性が向上する。
【0082】
また、インパクトドライバ等の電動工具では、電動モータの回転数を減速する減速機として、遊星ギアを利用した減速機が用いられている。遊星ギアを用いた減速機は一般的に減速比を大きくすることができ、また、電動工具では、小型化のためにサンギアを少ない歯数としている。
【0083】
これに対し、電動工具において出力軸の回転数を高くしたい場合、減速比を小さくする必要がある。減速比を小さくするためには、少ない歯数のサンギアと組み合わせるためにプラネタリギアの歯数も少なくなり、サンギア、プラネタリギアともに径が小さくなることから、プラネタリギアの回転軸が、プラネタリギアを支持するスピンドルの回転軸に接近する。しかし、プラネタリギアの回転軸が挿入される孔部が、ある程度の直径を有するスピンドルの軸に重なってくるため、構造としての成立が難しくなる。
【0084】
そこで、本実施の形態の減速機4では、スピンドルを軸方向に分割して、ギアキャリア44と出力軸45を備えたスピンドル組み立て体46とした。スピンドル組み立て体46では、プラネタリギア42の軸42aの一方の端部は、軸42bが挿入される第1の孔部44aと径方向に重なるベアリング支持部44bを利用して、抜けが規制される構成とした。プラネタリギア42の軸42aの他方の端部は、ギアキャリア44に出力軸45が取り付けられることで、抜けが規制される構成とした。
【0085】
これにより、ブラシレスモータ2の軸20aと出力軸45を同軸上とした遊星ギアを利用した減速機4において、プラネタリギア42の歯数を小さくしても、軸42aの挿抜及び固定が可能な構成となり、従来より小さい減速比が実現可能となる。
【0086】
また、スピンドル組み立て体46は、ギアキャリア44と出力軸45がネジを利用した締結構造で一体となるので、駆動力の伝達に関するロスの発生や、音の発生が低減され、また、スピンドル組み立て体46を減速機4に組み付ける際の組み立て性が向上する。
【0087】
更に、ハンマーユニット5の潤滑にオイルを用いる場合、オイルがハンマーユニット5側からブラシレスモータ2側に混入しないようにするため、封止機構が必要である。これに対し、ハンマーユニット5は、オイルに代えて、各可動部に潤滑材としてグリスが塗布される。グリスは、オイルに比較して粘度が高いため、オイルを封止するような封止機構が不要で、ハンマーキャリア51の第1のフランジ部51aと第2のフランジ部51bとの間の空間をグリス溜り51eとして、簡単な構成でグリスを保持できる。また、グリスとオイルを併用した場合でも、オイルの封止機構が必要となるが、オイルを併用せずに、グリスによる潤滑としたことで、オイルの封止機構が不要である。更に、グリスはオイルに比較して粘度が高いが、駆動源としてエアモータより起動トルクが高いブラシレスモータ2を利用することで、グリスの粘度の影響を受けず正常に動作することが可能である。
【符号の説明】
【0088】
1A・・・インパクトドライバ、2・・・ブラシレスモータ、20・・・回転子、20a・・・軸、21・・・固定子、22・・・駆動コイル、24a・・・ベアリング、25・・・ベアリング、26・・・ベアリング、27・・・ベアリング、3・・・ファン、4・・・減速機、40・・・入力軸、41・・・サンギア、42・・・プラネタリギア、42a・・・軸、43・・・インターナルギア、44・・・ギアキャリア、44a・・・第1のフランジ部、44b・・・ベアリング支持部、44c・・・第2のフランジ部、44d・・・出力軸支持部、44e・・・第1の孔部、44f・・・第2の孔部、44g・・・内筒部、44h・・・ネジ部、44i・・・溝部、45・・・出力軸、45a・・・外筒部、45b・・・ベアリング支持部、45c・・・スプライン部、46・・・スピンドル組み立て体、47・・・被駆動部支持体、47a・・・第1の被駆動部支持体、47b・・・第2の被駆動部支持体、47c・・・第1の軸支持部、47d・・・第2の軸支持部、47e・・・第3の軸支持部、5・・・ハンマーユニット、50・・・ハンマー、50a・・・軸、50b・・・被作用部、50c・・・孔部、51・・・ハンマーキャリア、51a・・・第1のフランジ部、51b・・・第2のフランジ部、51c・・・第1の孔部、51d・・・第2の孔部、51e・・・グリス溜り、52・・・変位部、52a・・・作用部、52b・・・軸孔部、53・・・ガイドリング、6・・・アンビル、60・・・被打撃部、61・・・軸、10・・・ハウジング、10H・・・ハンドル、11R・・・後ハウジング、11F・・・前ハウジング、12F・・・ハンマーケース部、110・・・制御部