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特許7388220バッテリ劣化判定装置、バッテリ劣化判定方法、及びバッテリ劣化判定プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-20
(45)【発行日】2023-11-29
(54)【発明の名称】バッテリ劣化判定装置、バッテリ劣化判定方法、及びバッテリ劣化判定プログラム
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/48 20060101AFI20231121BHJP
   H02J 7/00 20060101ALI20231121BHJP
   G01R 31/392 20190101ALI20231121BHJP
   G01R 31/382 20190101ALI20231121BHJP
   G01R 31/385 20190101ALI20231121BHJP
   G01R 31/389 20190101ALI20231121BHJP
   G01R 31/374 20190101ALI20231121BHJP
   B60R 16/04 20060101ALI20231121BHJP
   B60L 1/00 20060101ALN20231121BHJP
【FI】
H01M10/48 P
H01M10/48 301
H02J7/00 Q
G01R31/392
G01R31/382
G01R31/385
G01R31/389
G01R31/374
B60R16/04 W
B60L1/00 L
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020018735
(22)【出願日】2020-02-06
(65)【公開番号】P2021125392
(43)【公開日】2021-08-30
【審査請求日】2022-04-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】芳賀 伸烈
【審査官】高野 誠治
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-091217(JP,A)
【文献】国際公開第2018/056262(WO,A1)
【文献】特開2016-090330(JP,A)
【文献】特開2006-292565(JP,A)
【文献】特開2016-070920(JP,A)
【文献】特開2010-019758(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/48
H02J 7/00
G01R 31/392
G01R 31/382
G01R 31/385
G01R 31/389
G01R 31/374
B60R 16/04
B60L 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バッテリの状態量を取得する取得部と、
前記取得部が取得した前記状態量と前記バッテリの温度に関連する物理量の相関がある場合に、前記状態量の大きさに応じて予め定めた補正量で前記状態量を補正する補正部と、
前記補正部によって補正された前記状態量に基づいて、前記バッテリの劣化を判定し、前記相関がない場合は、前記取得部が取得した前記状態量に基づいて、前記バッテリの劣化を判定する判定部と、
を含むバッテリ劣化判定装置。
【請求項2】
前記補正部は、前記バッテリの使用期間に応じて異なる補正量で前記状態量を補正する請求項1に記載のバッテリ劣化判定装置。
【請求項3】
前記取得部は、前記物理量を更に取得する請求項1又は請求項2に記載のバッテリ劣化判定装置。
【請求項4】
前記物理量を推定する推定部を更に含む請求項1又は請求項2に記載のバッテリ劣化判定装置。
【請求項5】
前記補正部は、前記状態量と前記物理量の相関係数が予め定めた値以上の場合に、前記状態量を補正する請求項1~の何れか1項に記載のバッテリ劣化判定装置。
【請求項6】
前記補正部は、前記状態量及び前記物理量のそれぞれについて、予め定めた期間におけるそれぞれの平均値と比較して相関を判断し、前記状態量を補正する請求項1~の何れか1項に記載のバッテリ劣化判定装置。
【請求項7】
前記取得部は、車両に搭載されたセンサによって検出された前記状態量を取得する請求
項1~の何れか1項に記載のバッテリ劣化判定装置。
【請求項8】
バッテリの状態量を取得して、取得した前記状態量と前記バッテリの温度に関連する物理量の相関がある場合に、前記状態量の大きさに応じて予め定めた補正量で前記状態量を補正し、補正した前記状態量に基づいて、前記バッテリの劣化を判定し、前記相関がない場合は、取得した前記状態量に基づいて、前記バッテリの劣化を判定することを含む処理をコンピュータによって実行させるバッテリ劣化判定方法
【請求項9】
コンピュータに、
バッテリの状態量を取得して、取得した前記状態量と前記バッテリの温度に関連する物理量の相関がある場合に、前記状態量の大きさに応じて予め定めた補正量で前記状態量を補正し、補正した前記状態量に基づいて、前記バッテリの劣化を判定し、前記相関がない場合は、取得した前記状態量に基づいて、前記バッテリの劣化を判定することを含む処理を実行させるためのバッテリ劣化判定プログラム
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の補機用電池等のバッテリの劣化を判定するバッテリ劣化判定装置、バッテリ劣化判定方法、及びバッテリ劣化判定プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、時刻毎に測定された電池の使用時間と、時刻毎に測定された電池の劣化を示す劣化指標の測定値を記憶する記憶部と、電池の寿命を診断する処理部とを有し、処理部が、電池の使用時間と劣化指標の測定値に基づいて劣化指標の時間変化量を求め、劣化指標の時間変化量に基づいて個々の電池ごとに劣化指標の予測関数を求め、劣化指標の予測関数に基づいて劣化指標の予測値を求め、劣化指標の予測値に基づいて電池の寿命を診断する電池の寿命診断装置が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-179733号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
バッテリの電圧や抵抗等の状態量は、バッテリの温度や電流等に依存して変動してしまうが、特許文献1では、バッテリの電圧や抵抗等の状態量が、バッテリの温度や電流等に依存して変動することを考慮していない。そのため、状態量をそのまま用いてバッテリの劣化判定を行うと、判定精度が低下する虞があるため改善の余地がある。
【0005】
本発明は、上記事実を考慮して成されたもので、バッテリの劣化を高精度に判定可能なバッテリ劣化判定装置、バッテリ劣化判定方法、及びバッテリ劣化判定プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために請求項1に記載のバッテリ劣化判定装置は、バッテリの状態量を取得する取得部と、前記取得部が取得した前記状態量と前記バッテリの温度に関連する物理量の相関がある場合に、前記状態量の大きさに応じて予め定めた補正量で前記状態量を補正する補正部と、前記補正部によって補正された前記状態量に基づいて、前記バッテリの劣化を判定し、前記相関がない場合は、前記取得部が取得した前記状態量に基づいて、前記バッテリの劣化を判定する判定部と、を含む。
【0007】
請求項1に記載の発明によれば、取得部では、バッテリの状態量が取得される。取得される状態量は、バッテリが劣化するに従って変化する物理量であり、例えば、バッテリの電圧、抵抗、温度等が一例として挙げられる。
【0008】
補正部では、取得部が取得した状態量とバッテリの温度に関連する物理量の相関がある場合に、状態量が補正される。
【0009】
そして、判定部では、補正部によって補正された状態量に基づいて、バッテリの劣化が判定される。このように、バッテリの温度に関連する物理量と相関のある状態量を補正してバッテリの劣化判定を行うので、状態量をそのまま用いてバッテリの劣化判定を行う場合に比べて、バッテリの劣化を高精度に判定できる。
【0010】
なお、補正部は、請求項2に記載の発明のように、バッテリの使用期間に応じて異なる補正量で状態量を補正してもよい。これにより、劣化への影響を考慮して、補正による劣化判定機会を逸するのを抑制することが可能となる。
【0011】
また、補正部は、状態量の大きさに応じて予め定めた補正量で状態量を補正する。これにより、劣化への影響を考慮して、補正による劣化判定機会を逸するのを抑制することが可能となる。
【0012】
また、判定部は、相関がない場合は、取得部が取得した状態量に基づいて、バッテリの劣化を判定する。これにより、不必要な補正を行うことなくバッテリの劣化を判定できる。
【0013】
なお、物理量は、請求項に記載の発明のように、取得部が取得してもよいし、請求項に記載の発明のように、物理量を推定する推定部を更に含んで、推定部が推定してもよい。
【0014】
また、補正部は、請求項に記載の発明のように、状態量と物理量の相関係数が予め定めた値以上の場合に、状態量を補正してもよい。或いは、請求項に記載の発明のように、状態量及び物理量のそれぞれについて、予め定めた期間におけるそれぞれの平均値と比較して相関を判断し、状態量を補正してもよい。
【0015】
また、取得部は、請求項に記載の発明のように、車両に搭載されたセンサによって検出された状態量を取得してもよい。
【0016】
なお、本発明は、請求項に記載の発明のように、バッテリの状態量を取得して、取得した前記状態量と前記バッテリの温度に関連する物理量の相関がある場合に、前記状態量の大きさに応じて予め定めた補正量で前記状態量を補正し、補正した前記状態量に基づいて、前記バッテリの劣化を判定し、前記相関がない場合は、取得した前記状態量に基づいて、前記バッテリの劣化を判定することを含む処理をコンピュータによって実行させるバッテリ劣化判定方法としてもよい。
【0017】
或いは、請求項10に記載の発明のように、コンピュータに、バッテリの状態量を取得して、取得した前記状態量と前記バッテリの温度に関連する物理量の相関がある場合に、前記状態量の大きさに応じて予め定めた補正量で前記状態量を補正し、補正した前記状態量に基づいて、前記バッテリの劣化を判定し、前記相関がない場合は、取得した前記状態量に基づいて、前記バッテリの劣化を判定することを含む処理を実行させるためのバッテリ劣化判定プログラムとしてもよい。
【発明の効果】
【0018】
以上説明したように本発明によれば、バッテリの劣化を高精度に判定可能なバッテリ劣化判定装置、バッテリ劣化判定方法、及びバッテリ劣化判定プログラムを提供できる、という効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本実施形態に係るバッテリ劣化判定システムの概略構成を示す図である。
図2】本実施形態に係るバッテリ劣化判定システムにおける車載器及びセンタの構成を示すブロック図である。
図3】バッテリの電圧と温度のデータの一例を示す図である。
図4】バッテリの温度が取得できない車両の場合に、電圧の対象データの月日のデータからバッテリ温度を推定する例を説明するための図である。
図5】バッテリの温度の変動とバッテリの状態量の相関の有無に応じた補正を説明するための図である。
図6】バッテリの温度の変動とバッテリの状態量の相関係数を取得して補正する場合の具体例を示す図である。
図7】年間の平均値に対する上下関係の一致からバッテリの温度の変動とバッテリの状態量の相関を判定して補正する場合の具体例を示す図である。
図8】データ補正処理部の補正量の一例を示す図である。
図9】確率算出部による劣化確率の算出例を示す図である。
図10】本実施形態に係るバッテリ劣化判定システムにおけるセンタのデータ補正部で行われる処理の流れの一例を示すフローチャートである。
図11】本実施形態に係るバッテリ劣化判定システムにおけるセンタのデータ演算部で行われる処理の流れの一例を示すフローチャートである。
図12】携帯端末を通信装置として適用した場合の劣化判定システムの概略構成を示す図である。
図13】センタが有する機能を携帯端末に備えた構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態の一例を詳細に説明する。図1は、本実施形態に係るバッテリ劣化判定システムの概略構成を示す図である。
【0021】
本実施形態に係るバッテリ劣化判定システム10は、車両14に搭載された車載器16と、バッテリ劣化判定装置としてのセンタ12とが通信ネットワーク18を介して接続されている。本実施形態に係るバッテリ劣化判定システム10では、複数の車載器16に搭載されたバッテリの状態量をセンタ12に送信して、センタ12がバッテリの劣化判定を行う。センタ12は、複数の車両から収集したバッテリの状態量のビッグデータとAI(Artificial Intelligence)による機械学習を活用して、バッテリの状態量を入力値としてバッテリの劣化を判定する。
【0022】
なお、本実施形態では、バッテリとして、車両14の補機用鉛蓄電池を一例として適用した場合について説明する。また、状態量は、バッテリの状態を表す状態量であり、特に、バッテリが劣化するに従って変化する物理量である。例えば、バッテリの電圧、抵抗、温度等が一例として挙げられるが、本実施形態では、一例としてバッテリの電圧を状態量とした例を説明する。
【0023】
図2は、本実施形態に係るバッテリ劣化判定システム10における車載器16及びセンタ12の構成を示すブロック図である。
【0024】
車載器16は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、及びRAM(Random Access Memory)等を含む一般的なマイクロコンピュータで構成され、バッテリ情報取得部22及びデータ送信部24の機能を有する。
【0025】
バッテリ情報取得部22は、車両14に搭載されたバッテリ20の状態量としてバッテリ20の電圧をバッテリ情報として取得する。バッテリ情報取得部22は、例えば、電圧センサによってバッテリ20の電圧を取得する。また、バッテリ情報取得部22は、バッテリ20の温度を検出する温度センサを更に備えて、バッテリ20の温度も取得してもよい。
【0026】
データ送信部24は、バッテリ情報取得部22によって取得されたバッテリ情報を、通信ネットワーク18を介してセンタ12へ送信する。
【0027】
一方、センタ12は、CPU、ROM、及びRAM等を含む一般的なコンピュータで構成されている。センタ12は、データ受信部30、データ補正部32、データ演算部40、及びデータ出力部46の機能を有する。
【0028】
データ受信部30は、車載器16のデータ送信部24から通信ネットワーク18を介して送信されるバッテリ情報を受信することにより、バッテリ20の状態量を表すバッテリ情報を車両14の車載器16から取得する。なお、以下では、バッテリ情報はバッテリ20の状態量として説明する場合がある。
【0029】
データ補正部32は、温度代替処理部34及びデータ補正処理部36の機能を有し、データ受信部30が受信したバッテリ情報に対してバッテリ20の温度に起因する変動量を補正する処理を行う。
【0030】
温度代替処理部34は、車両14にバッテリ20の温度を検出するセンサがなく、温度情報を取得できない場合に、劣化判定または劣化判定の学習の際に使用するバッテリ20の温度を推定する。バッテリ20がラゲージスペースなどのようにエンジン等の発熱体から離れた状態で、バッテリ20の温度が外気に依存する場合、図3に示すように、バッテリ20の温度は季節に応じて周期的に上下の変動を繰り返す。従って、車両14の地域の季節と外気の関係が分かれば、ある程度、バッテリ20の温度を推定可能であるため、温度代替処理部34が、バッテリ20の温度を推定する。具体的には、図4に示すように、センサがなく、バッテリ20の温度が取得できない車両のデータ(状態量としての電圧)を取得する場合、同じ搭載位置での時期とバッテリ20の温度の関係を予め取得しておく、そして、状態量としての電圧の対象データの月日のデータ(季節)からバッテリ20の温度を推定する。
【0031】
データ補正処理部36は、バッテリ20の状態量が、バッテリ20の温度に影響を受け、バッテリ温度は外気の影響を受けるため、外気の変動と相関を持つ状態量の変動は外気の影響として除外するための補正を行う。本実施形態では、図5の上段に示すように、バッテリ20の温度または外気温の変動と相関を持つ状態量の変動に関しては、メカニズムに基づく計算式(理論式)により補正を行い、図5の下段に示すように、相関を持たない状態量の変動に関しては補正を停止する。理論式は、例えば、電圧の場合V=OCV-IR(T)を用いる。ここで、OCVは開回路電圧(Open Circuit Voltage)、Iは電流、R(T)は状態量取得時の温度に対する抵抗値を示す。
【0032】
また、温度と状態量の相関に関しては、両者の相関係数を取得する方法や、年間の平均値に対する上下関係の一致から相関を判定する方法などがある。例えば、相関係数を取得する場合は、図6に示すように、劣化判定または学習に使用するデータ(例えば、1ヶ月分のデータ)を取得し、電圧と温度での相関を取得する。相関係数が予め定めた閾値(例えば、0.8)以上の場合は、相関ありとして、電圧値を上述した計算式に基づいて補正する。一方、相関がない場合は補正を停止する。これにより、状態量の変動から、温度に起因する変動量のみを補正でき、バッテリ20の劣化に対する状態量の変動を明確に抽出することができるため、劣化判定精度を向上することが可能となる。一方、年間の平均値に対する上下関係の一致から判定する場合は、図7に示すように、劣化判定または学習に使用するデータ(例えば、1ヶ月分のデータ)を取得し、直近1年での平均電圧、及び直近1年での平均温度を導出する。ここで、電圧及び温度は共に平均値と比較して平均値以上、または平均値以下となるものは相関があると見なして、理論式を用いて状態量を補正する。
【0033】
また、バッテリの状態量は、劣化に応じて変動するため、状態量を用いて劣化を推定する場合、補正することによって劣化判定機会を逸してしまう場合がある。そのため、データ補正処理部36は、劣化判定の際に、入力として使用する状態量を補正する場合、劣化への影響を考慮して補正量を決定する。具体的には、補正量は状態量と補正係数のデータマップを用いて決定する。また、状態量が電圧であれば、低電圧域の補正量を他の電圧域に比べて小さくし、状態量が抵抗であれば、高抵抗域の補正量を他の抵抗域に比べて小さくする。例えば、補正量は、図8に示すように、予め定めた初期の期間(例えば、劣化していない1~2年の期間)の場合の補正係数は最大量補正する予め定めた第3データ補正量の補正係数とする。また、初期以降の後期の期間は、状態量の大きさに応じた補正係数を用いる。図8の例では、低電圧域の補正量を小さくした例を示し、低電圧域の補正量を第1データ補正量の補正係数とし、高電圧域の補正量を第2データ補正量の補正係数として例を示す。
【0034】
データ演算部40は、確率算出部42及び劣化判定部44の機能を有し、車載器16から取得した状態量に基づいて、バッテリ20の劣化判定を行う。
【0035】
確率算出部42は、図9に示すように、事前に取得した状態量の劣化データを教師データとして、ニューラルネットワークやCNN(Convolutional Neural Network)等のAIモデルによる機械学習によりデータマップを予め作成する。そして、作成したデータマップを用いてバッテリ20の状態量を入力として劣化確率を算出する。劣化確率としては、例えば、予め定めた期間内aで劣化する確率や、期間内aで劣化しない確率を算出する。
【0036】
劣化判定部44は、確率算出部42の算出結果に基づいて、状態量が予め定めた劣化条件を満たすか否かを判定することにより、バッテリ20が劣化しているか否かを判定する。例えば、確率算出部42で算出された劣化する確率が予め定めた閾値以上か否かを判定することにより、劣化を判定する。
【0037】
データ出力部46は、劣化判定部44の判定結果を、状態量を取得した車両14の車載器16に送信する。これにより、車載器16から、バッテリ20の劣化判定結果を報知することが可能となる。
【0038】
なお、バッテリ情報取得部22またはデータ受信部30が取得部に対応し、データ補正部32が補正部に対応し、データ演算部40が判定部に対応する。また、温度代替処理部34が推定部に対応する。
【0039】
続いて、上述のように構成された本実施形態に係るバッテリ劣化判定システム10のセンタ12で行われる具体的な処理について説明する。
【0040】
図10は、本実施形態に係るバッテリ劣化判定システム10におけるセンタ12のデータ補正部32で行われる処理の流れの一例を示すフローチャートである。なお、図10の処理は、例えば、データ受信部30が状態量を車載器16から受信した場合に開始する。
【0041】
ステップ100では、温度代替処理部34が、温度データがあるか否かを判定する。該判定は、状態量と共に、温度データを車載器16から受信したか否かを判定する。該判定が否定された場合にはステップ102へ移行し、肯定された場合にはステップ104へ移行する。
【0042】
ステップ102では、温度代替処理部34が、温度代替処理を行ってステップ104へ移行する。例えば、図4に示すように、時期とバッテリ20の温度の関係を予め取得しておき、状態量の対象データの月日のデータ(季節)からバッテリ温度を推定する。
【0043】
ステップ104では、データ補正処理部36が、予め定めたN期間以内であるか否かを判定する。該判定は、例えば、1~2年等の初期の期間内であるか否かを判定する。該判定が肯定された場合にはステップ106へ移行し、否定された場合にはステップ108へ移行する。
【0044】
ステップ106では、データ補正処理部36が、第3データ補正量を取得してステップ114へ移行する。第3データ補正量は、図8に示す初期の期間に対応する補正係数を取得する。本実施形態では、第3データ補正量は、上述したように、最大量補正する補正係数とする。
【0045】
ステップ108では、データ補正処理部36が、状態量が補正許可域内であるか否かを判定する。該判定は、図8に示す後期の期間に対応し、状態量としての電圧が、補正係数が最大補正量の補正係数となる電圧であるか否かを判定する。該判定が肯定された場合にはステップ110へ移行し、否定された場合にはステップ112へ移行する。
【0046】
ステップ110では、データ補正処理部36が、第2データ補正量を取得してステップ114へ移行する。第2データ補正量は、図8に示す後期の期間の高電圧域に対応する補正係数で、本実施形態では、第3データ補正量と同様に、最大量補正する補正係数とする。
【0047】
ステップ112では、データ補正処理部36が、第1データ補正量を取得してステップ114へ移行する。第1データ補正量は、図8に示す後期の期間の低電圧域に対応する補正係数で、図8に示すように、電圧に応じて0から最大の補正係数までの値となる。
【0048】
ステップ114では、データ補正処理部36が、状態量と温度の相関値を取得してステップ116へ移行する。すなわち、本実施形態では、状態量としての電圧と温度の相関値を取得する。
【0049】
ステップ116では、データ補正処理部36が、相関値が予め定めた閾値CCより大きいか否か、すなわち、相関があるか否かを判定する。該判定が、肯定された場合にはステップ118へ移行し、否定された場合にはステップ120へ移行する。
【0050】
ステップ118では、データ補正処理部36が、ステップ106、ステップ110、またはステップ112で取得した補正係数を用いて、状態量としての電圧を補正して一連のデータ補正部32での処理を終了する。
【0051】
一方、ステップ120では、データ補正処理部36が、データ補正を中止して、一連のデータ補正部32での処理を終了する。
【0052】
次に、データ補正部32の処理に続いて行われる、データ演算部40で行われる処理について説明する。図11は、本実施形態に係るバッテリ劣化判定システム10におけるセンタ12のデータ演算部40で行われる処理の流れの一例を示すフローチャートである。なお、図11の処理は、例えば、図10のデータ補正部32の処理が終了したところで開始する。
【0053】
ステップ200では、確率算出部42が、バッテリ20の劣化確率を算出してステップ202へ移行する。すなわち、予め作成したデータマップを用いてバッテリ20の状態量を入力として劣化確率を算出する。劣化確率としては、ここでは、予め定めた期間内aで劣化する確率を算出するが、期間内aで劣化しない確率を算出してもよい。
【0054】
ステップ202では、劣化判定部44が、算出した劣化確率Aが予め定めた閾値CPより大きいか否かを判定する。該判定が肯定された場合にはステップ204へ移行し、否定された場合にはステップ206へ移行する。
【0055】
ステップ204では、劣化判定部44が、バッテリの劣化であると判定して劣化判定をオンとして一連のデータ演算部40での処理を終了する。
【0056】
一方、ステップ206では、劣化判定部44が、バッテリの劣化なしと判定して劣化判定をオフとして一連のデータ演算部40での処理を終了する。
【0057】
このように処理を行うことで、本実施形態では、バッテリ20の温度変化と相関のある状態量を補正し、相関のない状態量は補正しないことで、温度変化によるバッテリ20の劣化判定精度への影響を抑制することができる。
【0058】
また、状態量を補正する場合に、バッテリ20の使用期間や状態量に応じて補正量を決定することで劣化への影響を考慮することにより、補正による劣化判定時期の遅延を抑制することができる。
【0059】
さらに、車両14にバッテリ20の温度を検出するセンサがなく、温度情報を取得できない場合であっても、温度代替処理部34が温度を推定することで、温度センサの追加のコスト上昇を抑制できる。また、温度情報を取得できないことによる劣化判定精度の低下を抑制できる。
【0060】
なお、上記の実施形態では、第2データ補正量と第3データ補正量の補正係数が同じである例を説明したが、これに限るものではなく、第2データ補正量と第3データ補正量は異なる補正係数としてもよい。また、図8に示す補正係数は一例であってこれに限定されるものではない。
【0061】
また、上記の実施形態では、データ補正処理部36が、状態量と温度の相関に応じて補正する例を説明したが、これに限るものではない。例えば、電圧や抵抗などの状態量は、電流値に依存することが知られている。一般的に、バッテリ20の抵抗が温度に依存するため、車両14での電流負荷も温度に応じて制御されることがある。この場合、電流負荷がある周期で変動するため、温度を電流値に置き換えて同様の処理を行うことが可能となる。また同様に、温度や電流に応じて変化する他の物理量を適用してもよい。
【0062】
また、上記の実施形態では、状態量の一例としてバッテリ20の電圧、抵抗、温度等を挙げたが、状態量はこれらに限るものではない。例えば、バッテリ20に関係する電流、電力、または2次的に得られるSOC(State Of Charge:充電量)等、及びこれらを掛け合わせたり足したりした量も、状態量の候補になり得る。また、候補となる状態量は、1つだけ使用してもよいし、複数使用してもよい。どの状態量が最適なのかは、状況や要求される精度等によって変わるため、適宜選択すればよい。
【0063】
また、上記の実施形態では、センタ12と通信するために車両14に通信装置を備える例を説明したが、これに限るものではない。例えば、図12に示すように、乗員が携帯するスマートフォン等の携帯端末50を通信装置として適用してもよい。或いは、図13に示すように、図2に示すセンタ12が有する機能を携帯端末50に備えて、携帯端末50によりバッテリ20の劣化を判定する処理を行なってもよい。
【0064】
また、上記の実施形態では、ビッグデータとAIモデルによる機械学習を用いてバッテリ20の劣化を判定する例を説明したが、これに限るものではない。例えば、単回帰分析や重回帰分析等を用いる判定方法を適用してもよい。或いは、少数データと物理モデルを用いた劣化判定方法を適用してもよい。或いは、機械学習と物理モデルを併用した劣化判定方法を適用してもよい。
【0065】
また、上記の実施形態では、データ補正処理部36において、状態量と補正係数のデータマップを用いて補正量を決定する例を説明したが、これに限るものではない。例えば、データマップの代わりに算出式を用いてもよい。また、補正係数を決定するのは状態量や期間のみではなく、バッテリ20の負荷に影響を与える因子(例えば、車両14の使用状態や、走行状態等)であればどれでも用いることができる。
【0066】
また、上記の実施形態では、温度代替処理部34が温度を推定する方法の一例として、月日のデータからバッテリ20の温度を推定する例を説明したが、温度の推定方法はこれに限るものではない。例えば、期間以外に温度と連動する値があれば、温度と連動する値を用いてもよい。例えば、エンジンコンパートメント内にバッテリ20が設置される場合、バッテリ20の温度はエンジン水温等のエンジン温度に左右されるので、エンジン水温からバッテリ20の温度を推定してもよい。但し、この場合、エンジン温度の検出周期は時間単位等のように、月日のデータの検出周期より短い周期とする。また、温度を推定する方法としては、算出式を用いて推定してもよい。
【0067】
また、上記の各実施形態におけるセンタ12で行われる処理は、プログラムを実行することにより行われるソフトウエア処理として説明したが、これに限るものではない。例えば、GPU(Graphics Processing Unit)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、及びFPGA(Field-Programmable Gate Array)等のハードウエアで行う処理としてもよい。或いは、ソフトウエア及びハードウエアの双方を組み合わせた処理としてもよい。また、ソフトウエアの処理とした場合には、プログラムを各種記憶媒体に記憶して流通させるようにしてもよい。
【0068】
さらに、本発明は、上記に限定されるものでなく、上記以外にも、その主旨を逸脱しない範囲内において種々変形して実施可能であることは勿論である。
【符号の説明】
【0069】
10 バッテリ劣化判定システム
12 センタ
14 車両
16 車載器
20 バッテリ
22 バッテリ情報取得部(取得部)
30 データ受信部(取得部)
32 データ補正部(補正部)
34 温度代替処理部(推定部)
36 データ補正処理部
40 データ演算部(判定部)
42 確率算出部
44 劣化判定部
図1
図2
図3
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図5
図6
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図9
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図13