(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-20
(45)【発行日】2023-11-29
(54)【発明の名称】光通信素子及び光ニューラルネットワーク
(51)【国際特許分類】
G02F 3/00 20060101AFI20231121BHJP
G06E 3/00 20060101ALI20231121BHJP
H04B 10/80 20130101ALI20231121BHJP
【FI】
G02F3/00
G06E3/00
H04B10/80
(21)【出願番号】P 2020021221
(22)【出願日】2020-02-12
【審査請求日】2022-10-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000005223
【氏名又は名称】富士通株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】秋山 知之
(72)【発明者】
【氏名】田中 信介
(72)【発明者】
【氏名】中舍 安宏
(72)【発明者】
【氏名】星田 剛司
【審査官】大西 孝宣
(56)【参考文献】
【文献】特表2019-523932(JP,A)
【文献】特開2001-183710(JP,A)
【文献】特開2004-138785(JP,A)
【文献】特開2003-121889(JP,A)
【文献】特開2018-200391(JP,A)
【文献】特開2019-101887(JP,A)
【文献】特表平11-502634(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0222729(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/00 - 1/125
G02F 1/21 - 7/00
G02B 6/12 - 6/14
G06E 1/00 - 3/00
H04B 10/00 - 10/90
H04J 14/00 - 14/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光信号を入力する所定数の入力ポートを備えた入力ポート群と、
前記光信号を出力する前記所定数の出力ポートを備えた出力ポート群と、
前記入力ポート群と前記出力ポート群との間に接続され、前記入力ポート毎に備えた移相器付きの第1の導波路を備えた第1の導波路群と、
前記入力ポート群と前記出力ポート群との間に接続され、前記出力ポート毎に備えた移相器付きの第2の導波路を備えた第2の導波路群と、
前記入力ポート群内の前記入力ポートと前記第1の導波路群内の前記第1の導波路との間、前記第1の導波路群内の前記第1の導波路と前記第2の導波路群内の前記第2の導波路との間及び、前記第2の導波路群内の前記第2の導波路と前記出力ポート群内の前記出力ポートとの間に接続される、第3の導波路を備える複数のスラブと、
前記スラブは、
前記第3の導波路の入口に光進行方向に対して垂直なラテラル方向に等間隔で配置され、前記第3の導波路に前記光信号を入力する前記所定数の第1のポートと、
前記第3の導波路の出口に前記ラテラル方向に等間隔かつ、前記第1のポートに対向するように配置され、前記第3の導波路から前記光信号を出力する前記所定数の第2のポートと
を有し、
前記第3の導波路は、
各モードの伝搬定数が異なるマルチモード導波路であって、前記第1のポートから入力した単一モード導波路の光信号が相互に干渉することで、前記光信号の進行に応じて前記ラテラル方向にある各進行位置の光強度が変化して、前記ラテラル方向にある全部の進行位置に光強度が分布できる寸法に構成し
、
前記第3の導波路は、
前記所定数をNとした場合に、複数の第1のポートの内、1番目の第1のポートから光信号を入力した前記光進行方向の第1のタイミングの前記1番目のポートに対応する進行位置のみに光強度が分布し、
前記光進行方向の第2のタイミングの前記1番目及びN番目のポートに対応する進行位置に1/2の光強度が分布し、
前記光進行方向の第3のタイミングの前記N番目のポートに対応する進行位置のみに光強度が分布し、
前記光進行方向の第4のタイミングの前記1番目及び前記N番目のポートに対応する進行位置に1/2の光強度が分布し、
前記光信号が前記1番目の第1のポートに対応する前記1番目の第2のポートから出力する第5のタイミングの前記1番目の第1のポートに対応する進行位置のみに光強度が分布する構成を想定した場合に、
前記第1のポートから前記第2のポートまでの間の距離の内、前記第1のタイミングから前記ラテラル方向にある全部の進行位置に光強度が分布するタイミングまでの最短の前記光進行方向の距離を第3の導波路の前記光進行方向の寸法に設定して成ることを特徴とする光通信素子。
【請求項2】
前記第3の導波路の前記光進行方向の寸法は、
L3×(p/W)
(但し、L3:前記1番目のポートから前記第2のタイミングでの前記1番目のポートに対応する進行位置までの距離、p:隣接する第1のポート同士の間隔、W:第3の導波路のラテラル方向の長さ)で得られる寸法であることを特徴とする請求項
1に記載の光通信素子。
【請求項3】
前記第3の導波路は、
前記ラテラル方向に配置された前記所定数Nの第1のポートの内、1番目の第1のポートの同心軸から直近の前記ラテラル方向にある第3の導波路の内壁までの距離が隣接する前記第1のポート同士の間隔と同じ寸法、かつ、N番目の第1のポートの同心軸から直近の前記ラテラル方向にある前記第3の導波路の内壁までの距離が隣接する前記第1のポート同士の間隔と同じ寸法を有することを特徴とする請求項
1又は2に記載の光通信素子。
【請求項4】
前記光進行方向の前記第3の導波路の寸法は、
2nH(N+1)p2/λ
(但し、nH:高屈折率領域屈折率、λ:使用する光の波長、N:ポート数、p:隣接する第1のポート同士の配置間隔)で得られる寸法であることを特徴とする請求項1~
3の何れか一つに記載の光通信素子。
【請求項5】
所定数の光信号を入力すると共に、前記所定数の光信号をユニタリ変換して出力する第1のユニタリ変換素子と、
前記第1のユニタリ変換素子から出力されたユニタリ変換後の前記所定数の光信号の光強度を変更する、前記所定数の光アンプと、
前記光アンプ毎に光強度が変更された前記ユニタリ変換後の光信号を入力すると共に、前記所定数の光信号をユニタリ変換して出力する第2のユニタリ変換素子とを有し、
前記第1のユニタリ変換素子又は前記第2のユニタリ変換素子は、
光信号を入力する所定数の入力ポートを備えた入力ポート群と、
前記光信号を出力する前記所定数の出力ポートを備えた出力ポート群と、
前記入力ポート群と前記出力ポート群との間に接続され、前記入力ポート毎に備えた移相器付きの第1の導波路を備えた第1の導波路群と、
前記入力ポート群と前記出力ポート群との間に接続され、前記出力ポート毎に備えた移相器付きの第2の導波路を備えた第2の導波路群と、
前記入力ポート群内の前記入力ポートと前記第1の導波路群内の前記第1の導波路との間、前記第1の導波路群内の前記第1の導波路と前記第2の導波路群内の前記第2の導波路との間及び、前記第2の導波路群内の前記第2の導波路と前記出力ポート群内の前記出力ポートとの間に接続される、第3の導波路を備える複数のスラブと、
前記スラブは、
前記第3の導波路の入口に光進行方向に対して垂直なラテラル方向に等間隔で配置され、前記第3の導波路に前記光信号を入力する前記所定数の第1のポートと、
前記第3の導波路の出口に前記ラテラル方向に等間隔かつ、前記第1のポートに対向するように配置され、前記第3の導波路から前記光信号を出力する前記所定数の第2のポートと
を有し、
前記第3の導波路は、
伝搬定数が異なるマルチモード導波路であって、前記第1のポートから入力した単一モード導波路の光信号が相互に干渉することで、前記光信号の進行に応じて前記ラテラル方向にある各進行位置の光強度が変化して、前記ラテラル方向にある全部の進行位置に光強度が分布できる寸法に構成し、
前記第3の導波路は、
前記所定数をNとした場合に、複数の第1のポートの内、1番目の第1のポートから光信号を入力した前記光進行方向の第1のタイミングの前記1番目のポートに対応する進行位置のみに光強度が分布し、
前記光進行方向の第2のタイミングの前記1番目及びN番目のポートに対応する進行位置に1/2の光強度が分布し、
前記光進行方向の第3のタイミングの前記N番目のポートに対応する進行位置のみに光強度が分布し、
前記光進行方向の第4のタイミングの前記1番目及び前記N番目のポートに対応する進行位置に1/2の光強度が分布し、
前記光信号が前記1番目の第1のポートに対応する前記1番目の第2のポートから出力する第5のタイミングの前記1番目の第1のポートに対応する進行位置のみに光強度が分布する構成を想定した場合に、
前記第1のポートから前記第2のポートまでの間の距離の内、前記第1のタイミングから前記ラテラル方向にある全部の進行位置に光強度が分布するタイミングまでの最短の前記光進行方向の距離を第3の導波路の前記光進行方向の寸法に設定して成ることを特徴とする光ニューラルネットワーク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光通信素子及び光ニューラルネットワークに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、デジタル電子集積回路が主流のニューラルネットワーク(NN:Neural Network)プロセッサの機能を受動光回路等で実現する光NNが知られている。光NNでは、例えば、光が進行する進行時間で推論が完了することになるため、推論が完了するまでの高スループット及び低レイテンシ化が実現できる。また、光NNでは、例えば、受動光回路内を光信号が進行する際の消費電力が不要になる。そこで、光NNを実現する上で使用するユニタリ変換素子等の光通信素子では、回路上に集積できるポート数の上限を増やしながら、素子全体の小型化を図ることが求められている。
【0003】
図7は、従来の光NN200の一例を示す説明図である。
図7に示す光NN200は、入力ポート群201と、出力ポート群202と、複数のMZ(マッハツェンダ)干渉器203を相互に接続したユニタリ変換素子204とを有する。入力ポート群201は、光信号を入力するN個の入力ポート201Aを備えている。出力ポート群202は、光信号を出力するN個の出力ポート202Aを備えている。ユニタリ変換素子204は、入力ポート群201と出力ポート群202との間に複数のMZ干渉器203を相互に接続することで構成する。MZ干渉器203は、2個の2×2の固定カプラ211と、固定カプラ211同士を接続する一対の導波路212と、一対の導波路212の内、一方の導波路212Aを通過する光信号の位相量を調整する、一方の導波路212毎に備えた移相器213とを有する。
【0004】
MZ干渉器203は、一方の導波路212を通過する光信号の位相量を調整することで、一方の導波路212Aを通過する光信号と他方の導波路212Bを通過する光信号との間で位相差が生じる。そして、MZ干渉器203は、その位相差に応じて出力光の光強度を調整する。その結果、各MZ干渉器203の出力光の光強度を調整することで、出力光の光強度の変化に応じて任意の比率で出力光を分配できる。つまり、相互に接続した複数のMZ干渉器203を用いて、光NN200の任意ベクトル行列演算が実現可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2018-200391号公報
【文献】特開2019-101887号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
図7に示すユニタリ変換素子204の光進行方向の横幅の寸法Lmは、例えば2(N-1)×(Lc1+Lp1)で表現できる。Nは、入力ポート201Aのポート数、Lc1は、2×2の固定カプラ211の光進行方向の横幅の寸法、Lp1は、移相器213付きの導波路212の光進行方向の横幅の寸法である。ユニタリ変換素子204の横幅の寸法Lmは、例えば、Lc1=100μm、Lp1=500μmとした場合、Lm=(N-1)×1.2mmとなり、寸法が大きくなるため、集積可能なポート数Nの上限を少なくせざるを得ない。更に、ユニタリ変換素子204内の移相器213の配置数は、例えば、(N-1)×Nで算出できるため、任意の変換を実現するための制御対象の移相器213が多くなる。その結果、制御対象の移相器213を制御する際の処理負担が大きくなる。
【0007】
つまり、従来のユニタリ変換素子204では、入力ポート数が増えるに連れて横幅の寸法Lmが大きくなるため、集積回路の実装面積が大きくなる。更に、従来のユニタリ変換素子204では、入力ポート数が増えるに連れて制御対象となる移相器213の配置数が増えるため、制御対象の移相器213を制御する際の処理負担が大きくなる。
【0008】
一つの側面では、素子全体の小型化を図る光通信素子及び光ニューラルネットワークを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
一つの態様の光通信素子は、入力ポート群と、出力ポート群と、第1の導波路群と、第2の導波路群と、複数のスラブとを有する。入力ポート群は、光信号を入力する所定数の入力ポートを備えている。出力ポート群は、光信号を出力する所定数の出力ポートを備えている。第1の導波路群は、入力ポート群と出力ポート群との間に接続され、入力ポート毎に備えた移相器付きの第1の導波路を備えている。第2の導波路群は、入力ポート群と出力ポート群との間に接続され、出力ポート毎に備えた移相器付きの第2の導波路を備えている。各スラブは、入力ポート群内の入力ポートと第1の導波路群内の第1の導波路との間、第1の導波路群内の第1の導波路と第2の導波路群内の第2の導波路との間及び、第2の導波路群内の第2の導波路と出力ポート群内の出力ポートとの間に接続される第3の導波路を備えている。各スラブは、所定数の第1のポートと、所定数の第2のポートとを有する。第1のポートは、第3の導波路の入口に光進行方向に対して垂直なラテラル方向に等間隔で配置され、第3の導波路に光信号を入力する。第2のポートは、第3の導波路の出口にラテラル方向に等間隔かつ、第1のポートに対向するように配置され、第3の導波路から光信号を出力する。第3の導波路は、伝搬定数が異なるマルチモード導波路であって、第1のポートから入力した単一モード導波路の光信号が相互に干渉することで、光信号の進行に応じてラテラル方向にある各進行位置の光強度が変化して、ラテラル方向にある全部の進行位置に光強度が分布できる寸法に構成した。
【発明の効果】
【0010】
1つの側面によれば、光通信素子の小型化を図る。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、本実施例の光通信素子の一例を示す断面略斜視図である。
【
図2】
図2は、光通信素子の一例を示す説明図である。
【
図3】
図3は、第3の導波路内の光進行方向のタイミング毎のラテラル方向にある進行位置毎の光強度の分布の一例を示す説明図である。
【
図4】
図4は、入力ポート数毎の光通信素子の横幅の寸法における本実施例と従来技術との比較結果の一例を示す説明図である。
【
図5】
図5は、入力ポート数毎の光通信素子の移相器の配置数における本実施例と従来技術との比較結果の一例を示す説明図である。
【
図6】
図6は、本実施例のユニタリ変換素子を採用した光NNの一例を示す説明図である。
【
図7】
図7は、従来の光NNの一例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面に基づいて、本願の開示する光通信素子等の実施例を詳細に説明する。尚、各実施例により、開示技術が限定されるものではない。また、以下に示す各実施例は、矛盾を起こさない範囲で適宜組み合わせても良い。
【実施例】
【0013】
図1は、本実施例の光通信素子1の一例を示す断面略斜視図、
図2は、光通信素子1の一例を示す説明図である。
図1に示す光通信素子1は、入力ポート群2と、出力ポート群3と、2個の導波路群4と、3個のスラブ5とを有する。入力ポート群2は、光信号を入力する所定数N個の入力ポート2Aを備えている。出力ポート群3は、光信号を出力する所定数N個の出力ポート3Aを備えている。
【0014】
2個の導波路群4は、例えば、第1の導波路群4A及び第2の導波路群4Bである。第1の導波路群4Aは、入力ポート群2と出力ポート群3との間に接続され、入力ポート2A毎に備えた、所定数N個の第1の導波路41Aを備えている。更に、第2の導波路群4Bは、入力ポート群2と出力ポート群3との間に接続され、出力ポート3A毎に備えた、所定数N個の第2の導波路41Bを有する。第1の導波路41A及び第2の導波路41Bは、移相器42付きの光導波路である。移相器42は、位相量を調整することで出力光の光強度が変化する。その結果、出力光の光強度の変化に応じて任意の比率で出力光を分配できる。尚、光通信素子1で使用する移相器42の配置数は、例えば、2N個である。
【0015】
第1の導波路41A及び第2の導波路41Bは、光路となるコアと、コアを取り囲むクラッドとを有し、コアの屈折率とクラッドの屈折率とが異なるため、コアとクラッドとの間の境界面で全反射を起こして光信号が光進行方向X1に進行する。コアは、例えば、高屈折率材料で構成し、クラッドは、例えば、低屈折率材料で構成する。尚、
図1及び
図2に示す第1の導波路41A及び第2の導波路41は、コアの部分を図示しているが、クラッドの部分は図示を省略するものとする。
【0016】
スラブ5は、平板状のコアと、平板状のクラッドとを有し、断面形状が光進行方向X1に延びる平板状のコアを平板状のグラッドで取り囲むことで構成する。平板状のコアは、例えば、高屈折率材料、平板状のクラッドは、例えば、低屈折率材料で構成するため、平板状のコアと平板状のクラッドとの間の境界面で全反射を起こして光が進行する。尚、
図1及び
図2に示すスラブ5は、平板状のコアの部分を図示しているが、平板状のクラッドの部分の図示は省略するものとする。
【0017】
スラブ5は、第3の導波路51と、所定数Nの第1のポート52と、所定数N個の第2のポート53とを有する。所定数N個の第1のポート52は、第3の導波路51の入口に光進行方向X1に対して垂直なラテラル方向X2に等間隔pで配置されている。第1のポート52は、第3の導波路51に光信号を入力するポートである。所定数N個の第2のポート53は、第3の導波路51の出口にラテラル方向X2に等間隔pかつ、第1のポート52に対向するように配置されている。第2のポート53は、第3の導波路51から光信号を出力するポートである。第3の導波路51は、伝搬定数が異なるマルチモード導波路であって、第1のポート52から入力した単一モード導波路の光信号が相互に干渉することで、光信号の進行に応じてラテラル方向X2にある各進行位置の光強度が変化する。更に、第3の導波路51は、光信号の進行に応じてラテラル方向X2にある全部の進行位置に光強度が分布できる寸法に構成した。
【0018】
第3の導波路51は、ラテラル方向X2に配置された第1のポート52の内、1番目の第1のポート52の同心軸から直近のラテラル方向X2にある第3の導波路51の内壁51Aまでの距離が隣接する第1のポート52同士の間隔pと同じ寸法を有する。第3の導波路51は、N番目の第1のポート52の同心軸から直近のラテラル方向X2にある第3の導波路51の内壁51Bまでの距離が隣接する第1のポート52同士の間隔pと同じ寸法を有する。
【0019】
3個のスラブ5は、例えば、第1のスラブ5A、第2のスラブ5B及び第3のスラブ5Cである。第1のスラブ5Aは、入力ポート群2内の入力ポート2Aと第1の導波路群4A内の第1の導波路41Aとの間に接続される第3の導波路51を備えている。第2のスラブ5Bは、第1の導波路群4A内の第1の導波路41Aと第2の導波路群4B内の第2の導波路41Bとの間に接続される第3の導波路51を備えている。第3のスラブ5Cも、第2の導波路群4B内の第2の導波路41Bと出力ポート群3内の出力ポート3Aとの間に接続される第3の導波路51を備えている。
【0020】
第3の導波路51の縦幅の寸法Wは、光進行方向X1に対して垂直なラテラル方向X2の縦幅であって、複数の導波路モードをサポートできる長さの寸法である。また、光通信素子1の寸法Lは、光進行方向X1の光通信素子1の横幅である。光通信素子1の寸法Lは、例えば、3Ls+2Lpで表現できる。Lsは、各スラブ5の第3の導波路51の横幅の寸法である。Lpは、第1の導波路群4A又は第2の導波路群4Bの光進行方向X1の横幅の寸法である。
【0021】
第3の導波路51の横幅の寸法Lsは、例えば、2nH(N+1)p2/λで表現できる。尚、nHは、平板状コアの高屈折率領域の屈折率、λは平板状のコアを通過する光信号の波長、Nはポート数、pは隣接する第1のポート52同士の配置間隔である。従って、光通信素子1の横幅の寸法Lは、6nH(N+1)p2/λ+2Lpで表現できる。例えば、nH=3、λ=1550nm、p=2μmとした場合、光通信素子1の横幅の寸法Lは、(N+1)×46μm+1mmとなる。
【0022】
図3は、第3の導波路51内の光進行方向X1のタイミング毎のラテラル方向X2にある進行位置毎の光強度の分布の一例を示す説明図である。第3の導波路51では、例えば、第1のポート52から入力した単一モード導波路の光信号が相互干渉する。第3の導波路51は、光信号の相互干渉で、光信号の進行に応じてラテラル方向X2の導波モードを励振し、伝搬定数の異なる複数の導波モードの干渉効果により、光信号の進行に応じて、ラテラル方向X2にある進行位置毎の光強度が様々に変化する。
【0023】
例えば、第1のポート52の所定数N個を10、ポート1から光信号を入力した場合、光進行方向X1のタイミング“1”からタイミング“45”までのラテラル方向X2のポート1~10の進行位置毎の光強度の分布を想定する。ポート1から光信号を入力した光進行方向X1のタイミング“1”での光強度分布では、ポート1の進行位置の光強度が1.00、ポート2~10の進行位置の光強度が0.00の分布となる。
【0024】
光進行方向X1のタイミング“2”での光強度分布では、ポート1及び10の進行位置の光強度が0.01、ポート2及び9の進行位置の光強度が0.05、ポート3及び8の進行位置の光強度が0.10の分布となる。更に、光強度分布では、ポート4及び7の進行位置の光強度が0.15、ポート5及び6の進行位置の光強度が0.18の分布となる。すなわち、タイミング“2”の光強度分布では、ラテラル方向X2にあるポート1~10の全進行位置に光強度が分布する。
【0025】
そして、光進行方向X1のタイミング“12”の光強度分布では、ポート1及び10の進行位置の光強度が0.50、ポート2~9の進行位置の光強度が0.00となる。すなわち、タイミング“12”の光強度分布では、ポート1の進行位置と、ポート1の対称点であるポート10の進行位置との夫々で全体の1/2の光強度が分布する。
【0026】
更に、光進行方向X1のタイミング“22”の光強度分布では、ポート1~10の全進行位置に光強度が分布する。更に、光進行方向X1のタイミング“23”の光強度分布では、ポート1~9の進行位置の光強度が0.00、ポート10の進行位置の光強度が1.00の分布となる。すなわち、タイミング“22”の光強度分布では、ポート1に入射した光信号がポート1の対称点であるポート10に結像する分布となる。更に、光進行方向X1のタイミング“24”の光強度分布では、ポート1~10の全進行位置に光強度が分布する。
【0027】
更に、光進行方向X1のタイミング“34”の光強度分布では、ポート1の進行位置と、ポート1の対称点であるポート10の進行位置との夫々で全体の1/2の光強度が分布する。光進行方向X1のタイミング“44”の光強度分布では、ポート1~10の全進行位置に光強度が分布する。そして、光進行方向X1のタイミング“45”の光強度分布では、ポート1の進行位置の光強度が1.00、ポート2~10の進行位置の光強度が0.00となる。
【0028】
タイミング“1”からタイミング“45”までの間でラテラル方向X2にあるポート1~ポート10の全進行位置に光強度が分布する任意のタイミングは、
図3に示すように、“2”、“22”、“24”及び“54”のタイミングで発生することになる。その結果、ラテラル方向X2にある全進行位置に光強度が分布することで、光通信素子1で実行する、例えば、ユニタリ変換の自由度を最大化することが可能になる。
【0029】
第3の導波路51内の複数の第1のポート52の内、1番目の第1のポート52の入力光が、1番目の第2のポート53に結像するまでの距離、すなわち、タイミング“1”からタイミング“45”までの距離をL1とする。更に、1番目の第1のポート52の入力光が、1番目の第1のポート52と対称点となる10番目の第1のポート52に結像するまでの距離、すなわちタイミング“1”からタイミング“23”までの距離をL2とする。この場合、L2は、L1/2に近似する。更に、1番目の第1のポート52の入力光が、1番目の第1のポート52と対称点となる10番目の第1のポート52との光強度が半分となるまでの距離、すなわち、タイミング“1”からタイミング“12”までの距離をL3とする。この場合、L3は、L2/2に近似する。第3の導波路51の縦幅W/ポート間隔pは入力ポート数Nに近似している。
【0030】
第3の導波路51は、光進行方向X1のタイミング“1”からタイミング“45”までの間で、タイミング“2”、“22”、“24”及び“54”のラテラル方向X2にある全進行位置に光強度が分布することになる。そこで、全進行位置に光強度が分布するラテラル方向X2にある任意のタイミングの中で、タイミング“1”から最短距離のタイミングは、L3(p/W)付近のタイミング、例えば、タイミング“2”である。そこで、第3の導波路51の横幅の寸法Lsは、タイミング“1”からタイミング“2”までの距離を確保すればよいことになる。
【0031】
従って、第3の導波路51の横幅の寸法Lsは、タイミング“1”からタイミング“2”までの距離で済む。つまり、第1のスラブ5Aの第3の導波路51、第2のスラブ5Bの第3の導波路51及び第3のスラブ5Cの第3の導波路51の横幅の寸法Lsは、夫々、タイミング“1”からタイミング“2”までの距離である。
【0032】
従って、光通信素子1の横幅の寸法Lは、L=3Ls+2Lp=6nH(N+1)p2/λ+2Lpとなる。この際、nH=3、λ=1550nm、p=2μmの場合、L=(N+1)×46μm+1mmとなる。つまり、光通信素子1の横幅の寸法Lは、従来に比較して大幅に短くできるため、光通信素子1の小型化に貢献できる。
【0033】
更に、移相器42の配置数は、ポート数N毎に、第1の導波路41Aの1個の移相器42と、第2の導波路41Bの1個の移相器42となるため、2N個となる。つまり、光通信素子1の移相器42の配置数を大幅に削減することで、光通信素子1の小型化は勿論のこと、移相器42の制御処理に要する負荷を軽減できる。
【0034】
図4は、入力ポート数N毎の光通信素子1の横幅の寸法Lの本実施例と従来技術との比較結果の一例を示す説明図である。従来技術の光通信素子の横幅の寸法は、(N-1)×1.2mmで算出できる。これに対して、本実施例の光通信素子1の横幅の寸法は、(N+1)×46μm+1mmで算出できる。
【0035】
例えば、入力ポート数Nが10個の場合、従来技術の光通信素子の横幅の寸法は11mmであるのに対し、本実施例の光通信素子1の横幅の寸法Lは、1.5mmである。従って、本実施例の光通信素子1の横幅の寸法Lは、従来技術の光通信素子の横幅の寸法に比較して大幅に短縮化できる。また、入力ポート数Nが20個の場合でも、従来技術の光通信素子の横幅の寸法は、23mmであるのに対し、本実施例の光通信素子1の横幅の寸法Lは、2.0mmである。また、例えば、入力ポート数Nが50個の場合、従来技術の光通信素子の横幅の寸法は59mmであるのに対し、本実施例の光通信素子1の横幅の寸法Lは3.3mmである。また、入力ポート数Nが100個の場合、従来技術の光通信素子の横幅の寸法は120mmであるのに対し、本実施例の光通信素子1の横幅の寸法は5.6mmである。つまり、本実施例の光通信素子1の横幅の寸法Lは、従来技術の光通信素子の横幅の寸法に比較して、大幅に短縮化できる。
【0036】
図5は、入力ポート数N毎の光通信素子1の移相器42の配置数における本実施例と従来技術との比較結果の一例を示す説明図である。従来技術の光通信素子内の移相器の配置数は、(N-1)×Nで算出できる。これに対して、本実施例の光通信素子1内の移相器42の配置数は、2Nで算出できる。
【0037】
例えば、入力ポート数Nが10個の場合、従来技術の光通信素子の移相器の配置数は90個であるのに対し、本実施例の光通信素子1の移相器42の配置数は、20個である。従って、本実施例の光通信素子1の移相器42の配置数は、従来技術の光通信素子の移相器の配置数に比較して大幅に削減できる。入力ポート数が20個の場合、従来技術の光通信素子の移相器の配置数は380個であるのに対し、本実施例の光通信素子1の移相器42の配置数は40個である。また、例えば、入力ポート数Nが50個の場合、従来技術の光通信素子の移相器の配置数は2450個であるのに対し、本実施例の光通信素子1の移相器42の配置数は100個である。入力ポート数が100個の場合、従来技術の光通信素子の移相器の配置数は9900個であるのに対し、本実施例の光通信素子1の移相器42の配置数は200個である。つまり、本実施例の光通信素子1の移相器42の配置数は、従来技術の光通信素子内の移相器の配置数に比較して大幅に軽減できる。移相器42の配置数が少なくなるに連れて移相器42の制御の処理負荷が小さくなる。
【0038】
本実施例の光通信素子1は、入力ポート群2と出力ポート3群との間に接続され、入力ポート2A毎に備えた移相器42付きの第1の導波路41Aを備える第1の導波路群4Aを有する。更に、光通信素子1は、入力ポート群2と出力ポート群3との間に接続され、出力ポート3A毎に備えた移相器42付きの第2の導波路41Bを備える第2の導波路群4Bを有する。更に、光通信素子1は、入力ポート群2内の入力ポート2Aと第1の導波路群4A内の第1の導波路41Aとの間に接続される、第3の導波路51を備えるスラブ5を有する。更に、光通信素子1は、第1の導波路群4A内の第1の導波路41Aと第2の導波路群4B内の第2の導波路41Bとの間に接続される、第3の導波路51を備えるスラブ5を有する。更に、光通信素子1は、第2の導波路群4B内の第2の導波路41Bと出力ポート群3内の出力ポート3Aとの間に接続される、第3の導波路51を備えるスラブ5を有する。その結果、導波路41A,41B毎に2個の移相器42を配置したので、光通信素子1に実装する移相器42の個数が少なくなるため、移相器42の制御が容易になる。
【0039】
光通信素子1のスラブ5は、第3の導波路51の入口に光進行方向X1に対して垂直なラテラル方向X2で等間隔に配置され、第3の導波路51に光信号を入力する所定数N個の第1のポート52を有する。更に、スラブ5は、第3の導波路51の出口にラテラル方向X2で等間隔かつ、第1のポート52に対向するように配置され、第3の導波路51から光信号を出力する所定数N個の第2のポート53を有する。更に、第3の導波路51は、伝搬定数が異なるマルチモード導波路であって、第1のポート52から入力した単一モード導波路の光信号が相互に干渉することで、光信号の進行に応じてラテラル方向X2にある各進行位置の光強度が変化する。更に、第3の導波路51は、ラテラル方向X2にある全部の進行位置に光強度が分布できる寸法に構成した。その結果、スラブ5の第3の導波路51の横幅の寸法Lsを短縮化できるので、入力ポート数Nが増えたとしても、光通信素子1の横幅の寸法Lsを短くできる。従って、従来技術に比較して、光通信素子1を小型化できる。
【0040】
第3の導波路51は、タイミング“1”からラテラル方向X2にある全部の進行位置に光強度が分布する任意のタイミング“2”、“22”、“24”、“44”までの最短の光進行方向X1の距離を第3の導波路51の横幅の寸法Lsにして構成する。その結果、第3の導波路51の横幅の寸法Lsを短縮化したので、光通信素子1を小型化できる。
【0041】
第3の導波路51の横幅の寸法Lsは、L3×(p/W)で得られる寸法にした。その結果、第3の導波路51の横幅の寸法Lsを短縮化したので、光通信素子1を小型化できる。
【0042】
第3の導波路51は、ラテラル方向X2に配置された第1のポート52の内、1番目の第1のポート52の同心軸から直近のラテラル方向X2にある第3の導波路51の内壁51Bまでの距離が隣接する第1のポート52同士の間隔pと同じ寸法を有する。更に、第3の導波路51は、N番目の第1のポート52の同心軸から直近のラテラル方向X2にある第3の導波路51の内壁51Bまでの距離が隣接する第1のポート52同士の間隔pと同じ寸法を有する。その結果、第3の導波路51は、光信号の進行に応じてラテラル方向X2にある各進行位置の光強度が変化し、ラテラル方向X2にある全部の進行位置に光強度が分布できる。
【0043】
第3の導波路51の横幅の寸法Lsは、2nH(N+1)p2/λ(但し、nH:高屈折率領域屈折率、λ:使用する光の波長、N:ポート数、p:隣接する第1のポート52同士の配置間隔)で得られる寸法にした。その結果、第3の導波路51の横幅の寸法Lsを短縮化したので、入力ポート数Nが増えたとしても、光通信素子1全体の横幅の寸法Lを短くできる。光通信素子1を小型化できる。
【0044】
本実施例の光通信素子1をユニタリ変換素子として光ニューラルネットワークに採用しても良く、その実施の形態につき、以下に説明する。
図6は、本実施例の光通信素子1のユニタリ変換素子を採用した光ニューラルネットワーク100の一例を示す説明図である。光ニューラルネットワーク100の任意のニューロン演算では、ユニタリ行列×対角行列×ユニタリ行列の行列演算で表現できる。一般的な実数行列MをM=USV*に分解できる。Uはm×mユニタリ行列、Sは対角上に負でない実数を有するm×n対角行列、V*は、n×nユニタリ行列Vの複素共役である。
図6に示す光ニューラルネットワーク100は、行列Vを用いて行列演算を実施する第1のユニタリ変換素子1A(1)と、行列Sを用いて行列乗算を実施する複数の光アンプ6と、行列Uを用いて行列演算を実施する第2のユニタリ変換素子1B(1)とを有する。第1のユニタリ変換素子1Aは、所定数Nの光信号を入力すると共に、所定数Nの光信号をm×mユニタリ行列に変換する。第1のユニタリ変換素子1Aは、ユニタリ変換後の所定数Nの光信号を出力する。
【0045】
光アンプ6は、所定数Nの光信号毎に備えた光アンプである。光アンプ6は、第1のユニタリ変換素子1Aから出力されたユニタリ変換後の所定数Nの光信号の光強度を減衰する。第2のユニタリ変換素子1Bは、光アンプ6毎に減衰された光信号を入力すると共に、減衰後の光信号をユニタリ変換する。第2のユニタリ変換素子1Bは、ユニタリ変換後の光信号を出力する。
【0046】
図6に示す光ニューラルネットワーク100では、第1のユニタリ変換素子1Aと第2のユニタリ変換素子1Bとの間に光アンプ6を挿入する構成としたので、任意の行列演算、すなわちニューロン演算が実現できる。
【0047】
尚、本実施例では、第3の導波路51の横幅の寸法Lsをタイミング“1”からタイミング“2”までの距離を例示したが、タイミング“2”に限定されるものではなく、ラテラル方向X2にある全進行位置に光強度が分布するタイミングであれば良く。
図3に示すように、例えば、タイミング“22”、“24”及び“54”でも良く、適宜変更可能である。
【0048】
また、図示した各部の各構成要素は、必ずしも物理的に図示の如く構成されていることを要しない。すなわち、各部の分散・統合の具体的形態は図示のものに限られず、その全部又は一部を、各種の負荷や使用状況等に応じて、任意の単位で機能的又は物理的に分散・統合して構成することができる。
【0049】
更に、各装置で行われる各種処理機能は、CPU(Central Processing Unit)(又はMPU(Micro Processing Unit)、MCU(Micro Controller Unit)等のマイクロ・コンピュータ)上で、その全部又は任意の一部を実行するようにしても良い。また、各種処理機能は、CPU(又はMPU、MCU等のマイクロ・コンピュータ)で解析実行するプログラム上、又はワイヤードロジックによるハードウェア上で、その全部又は任意の一部を実行するようにしても良いことは言うまでもない。
【符号の説明】
【0050】
1 光通信素子
1A 第1のユニタリ変換素子
1B 第2のユニタリ変換素子
2 入力ポート群
2A 入力ポート
3 出力ポート群
3A 出力ポート
4A 第1の導波路群
5 スラブ
5A 第1のスラブ
5B 第2のスラブ
5C 第3のスラブ
41A 第1の導波路
4B 第2の導波路群
41B 第2の導波路
42 移相器
51 第3の導波路
51A 内壁
51B 内壁
52 第1のポート
53 第2のポート