(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-20
(45)【発行日】2023-11-29
(54)【発明の名称】運転支援システム
(51)【国際特許分類】
G08G 1/16 20060101AFI20231121BHJP
B60W 40/04 20060101ALI20231121BHJP
B60W 30/09 20120101ALI20231121BHJP
【FI】
G08G1/16 C
B60W40/04
B60W30/09
(21)【出願番号】P 2020028591
(22)【出願日】2020-02-21
【審査請求日】2022-01-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106150
【氏名又は名称】高橋 英樹
(74)【代理人】
【識別番号】100082175
【氏名又は名称】高田 守
(74)【代理人】
【識別番号】100113011
【氏名又は名称】大西 秀和
(72)【発明者】
【氏名】中村 慧
(72)【発明者】
【氏名】藤田 和幸
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 みなみ
(72)【発明者】
【氏名】粟田 孝久
【審査官】西畑 智道
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2019/0016316(US,A1)
【文献】特開2017-182768(JP,A)
【文献】特開2017-206040(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第105761546(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G08G 1/00-99/00
G01C 21/00-21/36
G01C 23/00-25/00
B60W 40/04
B60W 30/09
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の運転を支援する運転支援システムであって、
前記車両の運転環境を示す運転環境情報が格納される記憶装置と、
前記運転環境情報に基づいて、前記車両の前方の物標との衝突を回避するための減速制御及び操舵制御の少なくとも一方を含む運転支援制御を実行するプロセッサと
を備え、
前記運転支援制御は、前記物標が支援領域内に存在する場合に作動し、前記物標が前記支援領域外に存在する場合には作動せず、
前記運転環境情報は、前記車両の前方の前記物標の位置と移動方向を示す物標情報を含み、
前記プロセッサは、前記物標情報に基づいて、前記車両の前方の車道領域を前記車両から見て第1側から第2側の方へ横断する前記物標を、横断物標として認識し、
前記横断物標が認識された後、前記プロセッサは、
認識された前記横断物標の前記移動方向に基づいて
前記第1側と前記第2側を定義し、前記車両から見て前記第1側に位置する第1支援領域と、前記車両から見て前記第2側に位置する第2支援領域とを、前記支援領域の一部として設定し、
前記横断物標が前記第2支援領域に存在する場合、前記プロセッサは、前記横断物標が前記第1支援領域に存在する場合と比較して、前記運転支援制御の制御強さを弱める
運転支援システム。
【請求項2】
請求項1に記載の運転支援システムであって、
前記運転支援制御は、前記減速制御を含み、
前記運転支援制御の前記制御強さは、前記減速制御における減速度であり、
前記制御強さを弱めることは、前記減速度を低くすることである
運転支援システム。
【請求項3】
請求項1に記載の運転支援システムであって、
前記運転支援制御の前記制御強さは、前記減速制御における減速度と前記操舵制御における操舵角の少なくとも一方を含む支援制御量の大きさであり、
前記支援制御量は、前記車両と前記物標との間の相対位置及び相対速度を含む相対関係パラメータの関数で表され、
前記制御強さを弱めることは、同一の前記相対関係パラメータに対する前記支援制御量をより小さくすることである
運転支援システム。
【請求項4】
請求項1に記載の運転支援システムであって、
前記プロセッサは、前記横断物標の周囲にリスク領域を設定し、前記車両が前記リスク領域を避けるように前記運転支援制御を実行し、
前記運転支援制御の前記制御強さは、前記リスク領域の大きさであり、
前記制御強さを弱めることは、前記リスク領域を小さくすることである
運転支援システム。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか一項に記載の運転支援システムであって、
前記プロセッサは、更に、前記第1支援領域と前記第2支援領域との間の中央支援領域を前記支援領域の一部として設定し、
前記横断物標が前記第1支援領域あるいは前記第2支援領域に存在する場合、前記プロセッサは、前記横断物標が前記中央支援領域に存在する場合と比較して、前記運転支援制御の前記制御強さを弱める
運転支援システム。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか一項に記載の運転支援システムであって、
前記第1支援領域と前記第2支援領域の各々は、更に、近方支援領域と遠方支援領域に分割され、
前記車両の進行方向において、前記近方支援領域は、前記車両と前記遠方支援領域との間に位置しており、
前記横断物標が前記遠方支援領域に存在する場合、前記プロセッサは、前記横断物標が前記近方支援領域に存在する場合と比較して、前記運転支援制御の前記制御強さを弱める
運転支援システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の運転を支援する運転支援制御に関する。特に、本発明は、車両の前方の物標との衝突を回避するための運転支援制御に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、車両と歩行者等の物体との衝突回避を支援する走行支援装置を開示している。走行支援装置は、カメラやレーダに基づいて検出された物体が車道領域か歩道領域のいずれに存在するかを判定する。車道領域は、縁石、ガードレール等の検出位置に基づいて設定される。物体が車道領域に存在する場合、支援範囲は、物体が歩道領域に存在する場合よりも大きくなるように設定される。物体の将来位置が支援範囲に含まれる場合、走行支援装置は、物体との衝突を回避するために衝突回避制御を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
車両の前方の物標との衝突を回避するための運転支援制御について考える。特に、車両の前方の車道領域を横断する「横断物標」に対する運転支援制御について考える。第1タイミングにおける横断物標の移動方向は車両に近づく方向であり、第2タイミングにおける横断物標の移動方向は車両から遠ざかる方向であるとする。第2タイミングにおける横断物標との衝突可能性は、第1タイミングにおける衝突可能性よりも大幅に低い。衝突可能性が低下したにもかかわらず第2タイミングにおいて第1タイミングと同じ強さで運転支援制御を行うことは過剰である。
【0005】
本発明の1つの目的は、車両の前方の横断物標との衝突を回避するための過剰な運転支援制御を抑制することができる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の1つの観点は、車両の運転を支援する運転支援システムに関連する。
運転支援システムは、
車両の運転環境を示す運転環境情報が格納される記憶装置と、
運転環境情報に基づいて、車両の前方の物標との衝突を回避するための減速制御及び操舵制御の少なくとも一方を含む運転支援制御を実行するプロセッサと
を備える。
運転支援制御は、物標が支援領域内に存在する場合に作動し、物標が支援領域外に存在する場合には作動しない。
車両が存在する車道領域は、車両から見て第1側に位置する第1車道境界と、車両から見て第1側と反対の第2側に位置する第2車道境界との間の領域である。
横断物標は、車両の前方の車道領域を第1側から第2側の方へ横断する物標である。
プロセッサは、横断物標に対する支援領域を、複数の分割支援領域に分割する。
複数の分割支援領域は、車両から見て第1側に位置する第1支援領域と、車両から見て第2側に位置する第2支援領域とを含む。
プロセッサは、横断物標が複数の分割支援領域のいずれに存在するかを判定し、当該判定の結果に応じた制御強さで運転支援制御を実行する。
横断物標が第2支援領域に存在する場合、プロセッサは、横断物標が第1支援領域に存在する場合と比較して、運転支援制御の制御強さを弱める。
【発明の効果】
【0007】
本発明の1つの観点によれば、横断物標に対する支援領域は、複数の分割支援領域に分割される。複数の分割支援領域は、車両から見て第1側に位置する第1支援領域と、車両から見て第2側に位置する第2支援領域とを含む。運転支援システムは、横断物標が複数の分割支援領域のいずれに存在するかを判定し、当該判定の結果に応じた制御強さで運転支援制御を実行する。特に、横断物標が第2支援領域に存在する場合の制御強さは、横断物標が第1支援領域に存在する場合よりも弱い。すなわち、車両から遠ざかる方向に移動する横断物標に対する運転支援制御は比較的弱くなる。従って、衝突可能性が低下した横断物標に対する過剰な運転支援制御が抑制される。過剰な運転支援制御が抑制されるため、車両の乗員が感じる違和感あるいは煩わしさが軽減される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の実施の形態に係る運転支援システムの概要を説明するための概念図である。
【
図3】本発明の実施の形態に係る運転支援制御及び支援領域を説明するための概念図である。
【
図4】本発明の実施の形態に係る車両及び運転支援システムの構成例を概略的に示すブロック図である。
【
図5】本発明の実施の形態における運転環境情報の例を示すブロック図である。
【
図6】本発明の実施の形態に係る運転支援システムによる運転支援制御に関連する処理を示すフローチャートである。
【
図7】本発明の実施の形態に係る支援領域設定処理の第1の例を説明するための概念図である。
【
図8】本発明の実施の形態に係る支援領域設定処理の第2の例を説明するための概念図である。
【
図9】本発明の実施の形態に係る支援領域設定処理の第3の例を説明するための概念図である。
【
図10】本発明の実施の形態に係る支援領域設定処理の第4の例を説明するための概念図である。
【
図11】本発明の実施の形態に係る運転支援システムにおいて用いられる情報を示すブロック図である。
【
図12】本発明の実施の形態に係る領域判定処理及び運転支援制御を示すフローチャートである。
【
図13】本発明の実施の形態に係る運転支援制御の第1の例を説明するための概念図である。
【
図14】本発明の実施の形態に係る運転支援制御の第1の例の変形例を説明するための概念図である。
【
図15】本発明の実施の形態に係る運転支援制御の第2の例を説明するための概念図である。
【
図16】本発明の実施の形態に係る運転支援制御の第3の例を説明するための概念図である。
【
図17】本発明の実施の形態に係る支援領域設定処理の他の例を説明するための概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
添付図面を参照して、本発明の実施の形態を説明する。
【0010】
1.概要
図1は、本実施の形態に係る運転支援システム10の概要を説明するための概念図である。運転支援システム10は、車両1の運転を支援する「運転支援制御」を行う。運転支援制御は、車両1の自動運転を制御する自動運転制御に含まれていてもよい。典型的には、運転支援システム10は、車両1に搭載されている。あるいは、運転支援システム10の少なくとも一部は、車両1の外部の外部装置に配置され、リモートで運転支援制御を行ってもよい。つまり、運転支援システム10は、車両1と外部装置とに分散的に配置されてもよい。
【0011】
本実施の形態では、車両1の前方の物標との衝突を回避するための運転支援制御(衝突回避制御、リスク回避制御)を考える。回避対象である物標としては、歩行者、自転車、二輪車、他車両(先行車両、駐車車両、等)、動物、落下物、等が例示される。車両1の前方の物標との衝突を回避するための運転支援制御は、減速制御と操舵制御の少なくとも一方を含む。すなわち、運転支援システム10は、車両1の前方の物標との衝突を回避するために、車両1の減速及び操舵の少なくとも一方を自動的に行う。
【0012】
回避対象である物標は、典型的には、車両1の前方の車道あるいはその近傍に存在する。本実施の形態では、特に、車両1の前方の車道を横断する物標について考える。車両1の前方の車道を横断する物標は、以下、「横断物標CT」と呼ばれる。そのような横断物標CTとしては、歩行者、自転車、動物、等が例示される。
【0013】
横断物標CTについて更に詳しく説明するために、車道領域RAについて説明する。
図1に示されるように、車両1は、車道領域RAに存在している。車道領域RAは、第1車道境界RB1と第2車道境界RB2との間の領域である。第1車道境界RB1は、車道領域RAの一方の境界であり、車両1から見て第1側(
図1に示される例では左側)に位置している。第2車道境界RB2は、車道領域RAの他方の境界であり、車両1から見て第1側と反対の第2側(
図1に示される例では右側)に位置している。車道境界は、例えば、車道外側線(最も外側の区画線)である。他の例として、車道境界は、縁石、ガードレール、壁、中央分離帯といった道路端物体であってもよい。第1側へ向かう第1方向とは、第1車道境界RB1へ向かう方向であり、第2側へ向かう第2方向とは、第2車道境界RB2へ向かう方向である。
【0014】
横断物標CTは、車両1の前方の車道領域RAを第1側から第2側の方へ横断する物標である。言い換えれば、横断物標CTは、車両1の前方の車道領域RAを第2方向に横断する物標である。より詳細には、横断物標CTは、第1車道境界RB1を超えて車道領域RAに進入する。更に、横断物標CTは、車道領域RA内を第2車道境界RB2の方に向かって移動する。そして、横断物標CTは、第2車道境界RB2を超えて車道領域RAの外に出る。
【0015】
続いて、
図2及び
図3を参照して、横断物標CTとの衝突を回避するための運転支援制御について説明する。そのために、まず、「支援領域SA」について説明する。
【0016】
支援領域SAは、車両1の前方に設定される領域であり、物標に対する運転支援制御を作動させるか否かの判定に用いられる。具体的には、物標が支援領域SA内に存在する場合、運転支援制御が作動する。一方、物標が支援領域SA外に存在する場合、運転支援制御は作動しない。つまり、運転支援システム10は、支援領域SA内に存在する物標との衝突を回避するように運転支援制御を実行する。車両1の進行方向に沿った支援領域SAの縦幅は、例えば、所定のTTC(Time To Collision)に相当する距離に設定される。支援領域SAの横幅、特に、横断物標CTに対する支援領域SAの横幅は、次の通りである。
【0017】
横断物標CTに対する支援領域SAは、支援開始境界SB1と支援終了境界SB2との間の領域である。支援開始境界SB1は、支援領域SAの第1側の境界であり、車両1から見て第1側に位置している。一方、支援終了境界SB2は、支援領域SAの第2側の境界であり、車両1から見て第2側に位置している。
図2に示される例では、支援開始境界SB1は第1車道境界RB1であり、支援終了境界SB2は第2車道境界RB2である。つまり、支援領域SAの横幅は、車道領域RAの横幅と一致している。但し、支援開始境界SB1と支援終了境界SB2の位置は、
図2で示された例に限定されない。支援領域SAは、車道領域RAより狭くてもよく、あるいは、車道領域RAより広くてもよい。
【0018】
上述の通り、横断物標CTは、車両1の前方の車道領域RAを第1側から第2側の方へ横断する。横断物標CTが支援開始境界SB1を超えて支援領域SAに進入すると、当該横断物標CTに対する運転支援制御が開始する。その後、横断物標CTが支援終了境界SB2を超えて支援領域SAの外に出ると、当該横断物標CTに対する運転支援制御は終了する。
【0019】
図2は、比較例を示している。比較例では、支援領域SA内に存在する横断物標CTに対して、一様な制御強さで運転支援制御が行われる。例えば、支援領域SA内に存在する横断物標CTに対して、同じ減速度で減速制御が行われる。しかしながら、この比較例の場合、横断物標CTに対する運転支援制御が過剰となるおそれがある。そのことを説明するために、
図2に示される2つのタイミングでの横断物標CTについて考える。
【0020】
第1タイミングにおいて、横断物標CTは、車両1から見て第1側の支援領域SAに位置している。第1タイミングよりも後の第2タイミングにおいて、横断物標CTは、車両1から見て第2側の支援領域SAに位置している。便宜上、第1タイミングでの横断物標CTを「第1横断物標CT1」と呼び、第2タイミングでの横断物標CTを「第2横断物標CT2」と呼ぶ。第1横断物標CT1の移動方向は、車両1に近づく方向である。一方、第2横断物標CT2の移動方向は、車両1から遠ざかる方向である。従って、第2横断物標CT2との衝突可能性は、第1横断物標CT1との衝突可能性よりも大幅に低い。そのような第2横断物標CT2に対して第1横断物標CT1と同様に運転支援制御を作動させることは、必ずしも必要ではない。
【0021】
衝突可能性が低下したにもかかわらず、第1横断物標CT1の場合と同じ強さで運転支援制御を行うことは過剰である。車両1の乗員(典型的にはドライバ)は、そのような過剰な運転支援制御に対して違和感あるいは煩わしさを感じる。例えば、車両1から遠ざかる第2横断物標CT2を回避するために過剰な減速度で減速制御が行われた場合、車両1の乗員は、その過剰な減速制御に対して違和感あるいは煩わしさを感じる。
【0022】
そこで、本実施の形態は、横断物標CTとの衝突を回避するための過剰な運転支援制御を抑制することができる技術を提供する。
【0023】
図3は、本実施の形態に係る横断物標CTに対する支援領域SA及び運転支援制御を説明するための概念図である。
【0024】
運転支援システム10は、横断物標CTに対する支援領域SAを複数の分割支援領域SAiに分割する。
図3に示される例では、複数の分割支援領域SAi(i=0~2)は、中央支援領域SA0、第1支援領域SA1、及び第2支援領域SA2を含んでいる。第1支援領域SA1は、車両1から見て第1側に位置している。第2支援領域SA2は、車両1から見て第2側に位置している。中央支援領域SA0は、第1支援領域SA1と第2支援領域SA2との間に挟まれている。第1分割境界SD1は、中央支援領域SA0と第1支援領域SA1との間の境界である。第2分割境界SD2は、中央支援領域SA0と第2支援領域SA2との間の境界である。
【0025】
更に、運転支援システム10は、横断物標CTが複数の分割支援領域SAiのいずれに存在するかを判定する「領域判定処理」を実行する。そして、運転支援システム10は、その領域判定処理の結果に応じた“制御強さ”で運転支援制御を実行する。具体的には、横断物標CTが中央支援領域SA0に存在する場合、運転支援制御の制御強さは最も強い。横断物標CTが第1支援領域SA1に存在する場合の運転支援制御の制御強さは、横断物標CTが中央支援領域SA0に存在する場合よりも弱い。横断物標CTが第2支援領域SA2に存在する場合の運転支援制御の制御強さは、横断物標CTが第1支援領域SA1に存在する場合よりも更に弱い。
【0026】
運転支援制御の“制御強さ”は、例えば、運転支援制御の制御量の大きさで表される。運転支援制御が減速制御を含む場合、運転支援制御の制御量は、減速制御における減速度を含む。運転支援制御が操舵制御を含む場合、運転支援制御の制御量は、操舵制御における操舵角(操舵量)を含む。運転支援制御の制御強さを強めることは、運転支援制御の制御量をより大きくすることを意味する。逆に、運転支援制御の制御強さを弱めることは、運転支援制御の制御量をより小さくすることを意味する。
【0027】
例えば、運転支援システム10は、領域判定処理の結果に応じた減速度で減速制御を実行する。具体的には、横断物標CTが中央支援領域SA0に存在する場合の減速度(絶対値)は最も高く設定される。横断物標CTが第1支援領域SA1に存在する場合の減速度は、横断物標CTが中央支援領域SA0に存在する場合よりも低く設定される。横断物標CTが第2支援領域SA2に存在する場合の減速度は、横断物標CTが第1支援領域SA1に存在する場合よりも更に低く設定される。このように減速度を調整することによって、運転支援制御の制御強さを調整することができる。
【0028】
以上に説明されたように、本実施の形態によれば、運転支援システム10は、領域判定処理の結果に応じた制御強さで運転支援制御を実行する。特に、横断物標CTが第2支援領域SA2に存在する場合の制御強さは、横断物標CTが第1支援領域SA1に存在する場合よりも弱い。すなわち、車両1から遠ざかる方向に移動する第2横断物標CT2に対する運転支援制御は比較的弱くなる。従って、衝突可能性が低下した第2横断物標CT2に対する過剰な運転支援制御が抑制される。過剰な運転支援制御が抑制されるため、車両1の乗員(典型的にはドライバ)が感じる違和感あるいは煩わしさが軽減される。このことは、運転支援システム10に対する信頼の向上に寄与する。
【0029】
一方、横断物標CTが第1支援領域SA1に存在する場合の制御強さは、横断物標CTが第2支援領域SA2に存在する場合よりも強い。すなわち、車両1に近づく方向に移動する第1横断物標CT1に対する運転支援制御は比較的強くなる。従って、車両1の乗員(典型的にドライバ)の不安感が軽減される。このことも、運転支援システム10に対する信頼の向上に寄与する。
【0030】
本実施の形態では、運転支援制御の制御強さが、第1支援領域SA1と第2支援領域とで“非対称的”に設定されていると言える。このような非対称的な設定により、横断物標CTに対する運転支援制御を適切に実行することが可能となる。
【0031】
以下、本実施の形態に係る運転支援システム10について更に詳しく説明する。
【0032】
2.運転支援システム
2-1.構成例
図4は、本実施の形態に係る車両1及び運転支援システム10の構成例を概略的に示すブロック図である。特に、
図4は、運転支援制御に関連する構成例を示している。車両1は、センサ群20と走行装置30を備えている。
【0033】
センサ群20は、車両状態センサ21を含んでいる。車両状態センサ21は、車両1の状態を検出する。例えば、車両状態センサ21は、車速センサ、ヨーレートセンサ、横加速度センサ、舵角センサ、等を含んでいる。車速センサは、車両1の車速を検知する。ヨーレートセンサは、車両1のヨーレートを検知する。横加速度センサは、車両1の横加速度を検知する。舵角センサは、車両1の車輪の舵角を検知する。
【0034】
センサ群20は、更に、周辺状況センサ22を含んでいる。周辺状況センサ22は、車両1の周囲の状況を検出する。具体的には、周辺状況センサ22は、カメラ23及びレーダ(ミリ波レーダ)24を含んでいる。カメラ23は、車両1の周囲の状況を撮像する撮像装置である。レーダ24は、車両1の周囲の状況を計測する測距センサである。周辺状況センサ22は、更に、ライダー(LIDAR: Laser Imaging Detection and Ranging)を含んでいてもよい。
【0035】
走行装置30は、操舵装置、駆動装置、及び制動装置を含んでいる。操舵装置は、車両1の車輪を転舵する。例えば、操舵装置は、パワーステアリング(EPS: Electric Power Steering)装置を含んでいる。駆動装置は、駆動力を発生させる動力源である。駆動装置としては、エンジン、電動機、インホイールモータ等が例示される。制動装置は、制動力を発生させる。
【0036】
運転支援システム10は、少なくとも制御装置100を含んでいる。運転支援システム10は、センサ群20を含んでいてもよい。運転支援システム10は、走行装置30を含んでいてもよい。
【0037】
制御装置100は、車両1を制御する。典型的には、制御装置100は、車両1に搭載されるマイクロコンピュータである。制御装置100は、ECU(Electronic Control Unit)とも呼ばれる。あるいは、制御装置100は、車両1の外部の情報処理装置であってもよい。その場合、制御装置100は、車両1と通信を行い、車両1をリモートで制御する。
【0038】
制御装置100は、プロセッサ110及び記憶装置120を備えている。プロセッサ110は、各種処理を実行する。記憶装置120には、各種情報が格納される。記憶装置120としては、揮発性メモリ、不揮発性メモリ、等が例示される。プロセッサ110がコンピュータプログラムである制御プログラムを実行することにより、プロセッサ110(制御装置100)による各種処理が実現される。制御プログラムは、記憶装置120に格納されている、あるいは、コンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録されている。
【0039】
2-2.情報取得処理
プロセッサ110(制御装置100)は、車両1の運転環境を示す運転環境情報200を取得する「情報取得処理」を実行する。運転環境情報200は、車両1に搭載されたセンサ群20による検出結果に基づいて取得される。取得された運転環境情報200は、記憶装置120に格納される。
【0040】
図5は、運転環境情報200の例を示すブロック図である。運転環境情報200は、車両状態情報210及び周辺状況情報220を含んでいる。
【0041】
車両状態情報210は、車両1の状態を示す情報である。車両1の状態としては、車速、ヨーレート、横加速度、舵角、等が例示される。プロセッサ110は、車両状態センサ21による検出結果から車両状態情報210を取得する。
【0042】
周辺状況情報220は、車両1の周囲の状況を示す情報である。プロセッサ110は、周辺状況センサ22による検出結果に基づいて周辺状況情報220を取得する。例えば、周辺状況情報220は、カメラ撮像情報230、レーダ計測情報240、道路構成情報250、及び物標情報260を含んでいる。
【0043】
カメラ撮像情報230は、カメラ23による撮像結果を示す情報である。カメラ撮像情報230は、カメラ23によって撮像された車両1の周囲の状況を示す画像情報を含んでいる。
【0044】
レーダ計測情報240は、レーダ24による計測結果を示す情報である。レーダ計測情報240は、車両1の周囲の物体に関する情報(例えば、相対位置及び相対速度)を含んでいる。
【0045】
道路構成情報250は、車両1の周囲の道路構成に関する情報である。車両1の周囲の道路構成は、区画線(白線)及び道路端物体を含む。道路端物体は、道路の端を示す立体的な障害物である。道路端物体としては、縁石、ガードレール、壁、中央分離帯、草むら、等が例示される。道路構成情報250は、区画線や道路端物体の位置(車両1に対する相対位置)を少なくとも示す。
【0046】
例えば、カメラ撮像情報230(画像情報)を解析することによって、区画線を識別し、その区画線の相対位置を算出することができる。画像解析手法としては、セマンティックセグメンテーション(Semantic Segmentation)やエッジ検出が例示される。同様に、カメラ撮像情報230(画像情報)を解析することによって、道路端物体を識別し、その道路端物体の相対位置を算出することができる。あるいは、立体的な道路端物体からのレーダ波の反射強度は強いため、レーダ計測情報240から道路端物体の相対位置を取得することもできる。
【0047】
物標情報260は、車両1の周囲の物標に関する情報である。物標としては、歩行者、自転車、二輪車、他車両(先行車両、駐車車両、等)、動物、落下物、等が例示される。物標情報260は、車両1に対する物標の相対位置及び相対速度を示す。例えば、カメラ撮像情報230(画像情報)を解析することによって、物標を識別し、その物標の相対位置を算出することができる。また、レーダ計測情報240に基づいて、物標を識別し、その物標の相対位置と相対速度を取得することもできる。物標情報260は、物標の移動方向や移動速度を含んでいてもよい。物標の移動方向や移動速度は、物標の位置を追跡することによって算出することができる。
【0048】
2-3.車両走行制御
プロセッサ110(制御装置100)は、車両1の走行を制御する「車両走行制御」を実行する。車両走行制御は、車両1の操舵を制御する操舵制御、車両1の加速を制御する加速制御、及び車両1の減速を制御する減速制御を含む。プロセッサ110は、走行装置30を制御することによって車両走行制御を実行する。具体的には、プロセッサ110は、操舵装置を制御することによって操舵制御を実行する。また、プロセッサ110は、駆動装置を制御することによって加速制御を実行する。また、制御装置100は、制動装置を制御することによって減速制御を実行する。
【0049】
2-4.運転支援制御の概要
プロセッサ110(制御装置100)は、車両1の運転を支援する「運転支援制御」を実行する。特に、プロセッサ110は、車両1の前方の物標との衝突を回避するための運転支援制御(衝突回避制御、リスク回避制御)を実行する。車両1の前方の物標との衝突を回避するための運転支援制御は、減速制御と操舵制御の少なくとも一方を含む。プロセッサ110は、上述の運転環境情報200に基づいて運転支援制御を実行する。
【0050】
図6は、本実施の形態に係る運転支援制御に関連する処理を示すフローチャートである。
図6に示される処理フローは、一定サイクル毎に繰り返し実行される。
【0051】
ステップS110において、プロセッサ110は、上述の情報取得処理を実行する。すなわち、プロセッサ110は、センサ群20による検出結果に基づいて運転環境情報200を取得する。運転環境情報200は、記憶装置120に格納される。
【0052】
ステップS120において、プロセッサ110は、物標情報260に基づいて、車両1の前方に物標が存在するか否かを判定する。言い換えれば、プロセッサ110は、車両1の前方の領域において物標が認識されているか否かを判定する。
【0053】
特に、横断物標CTは、車両1の前方の車道領域RAを第1側から第2側の方へ横断する物標である。プロセッサ110は、車両1の前方の車道領域RAを第1側から第2側の方へ横断する物標を、横断物標CTとして認識する。車道領域RAの境界(RB1,RB2)は、車道外側線あるいは道路端物体である。車道外側線や道路端物体の位置は、道路構成情報250から得られる。物標の位置や移動方向は、物標情報260から得られる。従って、プロセッサ110は、道路構成情報250と物標情報260に基づいて、横断物標CTを認識することができる。
【0054】
車両1の前方に物標が存在する場合(ステップS120;Yes)、処理は、ステップS130に進む。一方、車両1の前方に物標が存在しない場合(ステップ120;No)、今回のサイクルにおける処理は終了する。
【0055】
ステップS130において、プロセッサ110は、物標に対する支援領域SAを設定する「支援領域設定処理」を実行する。支援領域SAは、車両1の前方に設定される領域であり、物標に対する運転支援制御を作動させるか否かの判定に用いられる。支援領域設定処理の詳細については後述される。
【0056】
続くステップS140において、プロセッサ110は、運転支援制御の作動条件が成立するか否かを判定する。運転支援制御の作動条件は、物標が支援領域SA内に存在することである。物標の位置は、物標情報260から得られる。作動条件が成立する場合(ステップS140;Yes)、処理は、ステップS150に進む。一方、作動条件が成立しない場合(ステップS140;No)、処理は、ステップS160に進む。
【0057】
ステップS150において、プロセッサ110は、運転支援制御を実行する、つまり、運転支援制御を作動させる。具体的には、プロセッサ110は、車両1と物標との衝突を回避するために、運転環境情報200に基づいて、上述の減速制御と操舵制御のうち少なくとも一方を実行する。例えば、プロセッサ110は、車両状態情報210と物標情報260に基づいて、物標との衝突を回避するために必要な目標減速度及び目標操舵角の少なくとも一方を算出する。プロセッサ110は、目標減速度に従って制動装置を制御する。また、プロセッサ110は、目標操舵角に従って操舵装置を制御する。
【0058】
ステップS160において、プロセッサ110は、運転支援制御を実行しない。つまり、プロセッサ110は、運転支援制御を作動させない。運転支援制御が既に実行中であった場合、プロセッサ110は、運転支援制御を停止させる。
【0059】
3.支援領域設定処理(ステップS130)
以下、横断物標CTに対する支援領域設定処理(ステップS130)について詳しく説明する。支援領域設定処理としては、様々な例が考えられる。
【0060】
3-1.第1の例
図7は、横断物標CTに対する支援領域設定処理の第1の例を説明するための概念図である。第1の例では、道路上に区画線が存在する場合について説明する。
【0061】
図7には、三車線道路が示されている。車両1は、中央の車線L0に存在している。車線L0の第1側には第1車線L1が存在している。車線L0の第2側には第2車線L2が存在している。
【0062】
車両1から見て第1側には、第1近傍区画線M1、第1車道外側線ME1、及び第1道路端物体EG1が存在している。第1近傍区画線M1は、車線L0の第1側の区画線であり、車線L0と第1車線L1との境界を表している。第1近傍区画線M1は、車両1から見て第1側に存在する区画線のうち車両1に最も近いものであると言える。第1車道外側線ME1は、第1車線L1の第1側の区画線であり、第1車線L1と第1路肩RS1との境界を表している。第1路肩RS1は、第1車道外側線ME1と第1道路端物体EG1との間の領域である。
【0063】
車両1から見て第2側には、第2近傍区画線M2、第2車道外側線ME2、及び第2道路端物体EG2が存在している。第2近傍区画線M2は、車線L0の第2側の区画線であり、車線L0と第2車線L2との境界を表している。第2近傍区画線M2は、車両1から見て第2側に存在する区画線のうち車両1に最も近いものであると言える。第2車道外側線ME2は、第2車線L2の第2側の区画線であり、第2車線L2と第2路肩RS2との境界を表している。第2路肩RS2は、第2車道外側線ME2と第2道路端物体EG2との間の領域である。
【0064】
車道領域RAの境界(RB1,RB2)は、車道外側線あるいは道路端物体である。例えば、車道領域RAは、第1車道外側線ME1と第2車道外側線ME2との間の領域である。その場合、第1車道境界RB1は第1車道外側線ME1であり、第2車道境界RB2は第2車道外側線ME2である。他の例として、車道領域RAは、第1道路端物体EG1と第2道路端物体EG2との間の領域であってもよい。その場合、第1車道境界RB1は第1道路端物体EG1であり、第2車道境界RB2は第2道路端物体EG2である。
【0065】
まず、プロセッサ110は、支援領域SAの支援開始境界SB1と支援終了境界SB2を設定する。例えば、プロセッサ110は、支援開始境界SB1を第1車道境界RB1の位置に設定し、支援終了境界SB2を第2車道境界RB2の位置に設定する。但し、支援開始境界SB1と支援終了境界SB2の位置は、その例に限定されない。支援領域SAは、車道領域RAより狭くてもよく、あるいは、車道領域RAより広くてもよい。
【0066】
更に、プロセッサ110は、支援領域SAを複数の分割支援領域SAiに分割する。複数の分割支援領域SAiは、中央支援領域SA0、第1支援領域SA1、及び第2支援領域SA2を含んでいる。プロセッサ110は、車線L0の第1近傍区画線M1及び第2近傍区画線M2に基づいて、中央支援領域SA0、第1支援領域SA1、及び第2支援領域SA2を設定する。
【0067】
図7に示される例では、プロセッサ110は、第1分割境界SD1を、第1近傍区画線M1の位置に設定する。また、プロセッサ110は、第2分割境界SD2を、第2近傍区画線M2の位置に設定する。その場合、中央支援領域SA0は、第1近傍区画線M1と第2近傍区画線M2との間の領域である。第1支援領域SA1は、支援開始境界SB1と第1近傍区画線M1との間の領域である。第2支援領域SA2は、支援終了境界SB2と第2近傍区画線M2との間の領域である。
【0068】
第1車道境界RB1、第2車道境界RB2、第1近傍区画線M1、及び第2近傍区画線M2の位置は、道路構成情報250から得られる。従って、プロセッサ110は、道路構成情報250に基づいて、支援領域SA、中央支援領域SA0、第1支援領域SA1、及び第2支援領域SA2を設定することができる。
【0069】
3-2.第2の例
図8は、横断物標CTに対する支援領域設定処理の第2の例を説明するための概念図である。第1の例と重複する説明は、適宜省略される。
【0070】
第2の例においても、プロセッサ110は、車線L0の第1近傍区画線M1及び第2近傍区画線M2に基づいて、中央支援領域SA0、第1支援領域SA1、及び第2支援領域SA2を設定する。但し、第1の例の場合よりも中央支援領域SA0が広く設定される。具体的には、プロセッサ110は、第1分割境界SD1を、第1近傍区画線M1から第1側の方に距離α1だけ離れた位置に設定する。また、プロセッサ110は、第2分割境界SD2を、第2近傍区画線M2から第2側の方に距離α2だけ離れた位置に設定する。距離α1、α2は、同じであってもよいし、異なっていてもよい。いずれにせよ、距離α1、α2は共に、一般的な車線幅よりも著しく小さい。
【0071】
3-3.第3の例
図9は、横断物標CTに対する支援領域設定処理の第3の例を説明するための概念図である。第1の例と重複する説明は、適宜省略される。
【0072】
第3の例では、車線L0の第1側に第1車線L1が存在せず、第1近傍区画線M1が第1車道外側線ME1となっている。この場合、プロセッサ110は、第1分割境界SD1を、支援開始境界SB1と第1車両端2-1との間の位置に設定する。第1車両端2-1は、車両1の第1側の端部(側部)である。例えば、プロセッサ110は、第1分割境界SD1を、支援開始境界SB1と第1車両端2-1との中間位置に設定する。
【0073】
尚、車線L0の第2側に第2車線L2が存在しない場合も同様である。プロセッサ110は、第2分割境界SD2を、支援終了境界SB2と第2車両端2-2との間の位置に設定する。第2車両端2-2は、車両1の第2側の端部(側部)である。例えば、プロセッサ110は、第2分割境界SD2を、支援終了境界SB2と第2車両端2-2との中間位置に設定する。
【0074】
3-4.第4の例
図10は、横断物標CTに対する支援領域設定処理の第4の例を説明するための概念図である。第4の例では、道路上に区画線が存在しない場合について説明する。第1の例と重複する説明は、適宜省略される。
【0075】
図10において、車道領域RAは、第1道路端物体EG1と第2道路端物体EG2との間の領域である。つまり、第1車道境界RB1は第1道路端物体EG1であり、第2車道境界RB2は第2道路端物体EG2である。
【0076】
プロセッサ110は、車両端2に基づいて、中央支援領域SA0、第1支援領域SA1、及び第2支援領域SA2を設定する。第1車両端2-1は、車両1の第1側の端部(側部)である。第2車両端2-2は、車両1の第2側の端部(側部)である。プロセッサ110は、第1分割境界SD1を、第1車両端2-1から第1側の方に距離β1だけ離れた位置に設定する。また、プロセッサ110は、第2分割境界SD2を、第2車両端2-2から第2側の方に距離β2だけ離れた位置に設定する。距離β1、β2は、同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0077】
3-5.支援領域情報
プロセッサ110は、支援領域設定処理を実行することによって支援領域情報130を生成する。支援領域情報130は、支援領域設定処理によって設定された支援領域SAの構成を示す。具体的には、支援領域情報130は、支援領域SA及び分割支援領域SAi(中央支援領域SA0、第1支援領域SA1、及び第2支援領域SA2)の位置を示す。言い換えれば、支援領域情報130は、支援開始境界SB1、支援終了境界SB2、第1分割境界SD1、及び第2分割境界SD2の位置を示す。
図11に示されるように、プロセッサ110は、支援領域情報130を記憶装置120に格納する。
【0078】
4.領域判定処理(ステップS140)
ステップS140において、プロセッサ110は、運転支援制御の作動条件が成立するか否かを判定する。上述の通り、運転支援制御の作動条件は、物標が支援領域SA内に存在することである。
【0079】
特に、物標が横断物標CTである場合、プロセッサ110は、横断物標CTが複数の分割支援領域SAiのいずれに存在するかを判定する「領域判定処理」を実行する。分割支援領域SAiの位置は、支援領域情報130から得られる。横断物標CTの位置は、物標情報260から得られる。従って、プロセッサ110は、支援領域情報130及び物標情報260に基づいて、領域判定処理を実行することができる。
【0080】
図12は、領域判定処理及び運転支援制御を示すフローチャートである。横断物標CTが中央支援領域SA0に存在する場合(ステップS141;Yes)、処理は、ステップS151に進む。横断物標CTが第1支援領域SA1に存在する場合(ステップS141;No、ステップS142;Yes)、処理は、ステップS152に進む。横断物標CTが第2支援領域SA2に存在する場合(ステップS141;No、ステップS142;No、ステップS143;Yes)、処理は、ステップS153に進む。それ以外の場合(ステップS140;No)、処理は、ステップS160に進む。
【0081】
5.領域判定結果に応じた運転支援制御(ステップS150)
以下、横断物標CTに対する運転支援制御(ステップS150)について詳しく説明する。
図12に示されるように、プロセッサ110は、上述の領域判定処理(ステップS140)の結果に応じた制御強さで運転支援制御を実行する。
【0082】
具体的には、ステップS151において、プロセッサ110は、運転支援制御の制御強さを最も強くする。横断物標CTは、車両1に最も近い中央支援領域SA0に存在している。そのような横断物標CTに対して運転支援制御を強く実行することにより、車両1の乗員の不安感が軽減される。
【0083】
ステップS152において、プロセッサ110は、運転支援制御の制御強さを、ステップS151の場合よりも弱める。横断物標CTは、中央支援領域SA0よりは車両1から遠い第1支援領域SA1に存在している。ステップS151の場合よりも制御強さを弱めることによって、車両1の乗員が感じる違和感あるいは煩わしさが軽減される。その一方で、第1支援領域SA1に存在する横断物標CT(第1横断物標CT1)の移動方向は、車両1に近づく方向である。そのような第1横断物標CT1に対して運転支援制御をある程度の制御強さで実行することにより、車両1の乗員の不安感が軽減される。
【0084】
ステップS153において、プロセッサ110は、運転支援制御の制御強さを、ステップS152の場合よりも更に弱める。横断物標CT(第2横断物標CT2)の移動方向は、車両1から遠ざかる方向である。そのような第2横断物標CT2との衝突可能性は、第1横断物標CT1の場合よりも低い。運転支援制御の制御強さを弱めることによって、衝突可能性が低下した第2横断物標CT2に対する過剰な運転支援制御が抑制される。過剰な運転支援制御が抑制されるため、車両1の乗員が感じる違和感あるいは煩わしさが軽減される。
【0085】
運転支援制御の制御強さを調整する方法としては、様々な例が考えられる。以下、運転支援制御の制御強さを調整する方法の様々な例を説明する。尚、運転支援制御の制御強さを調整するために、
図11に示される「制御調整情報150」が用いられる。制御調整情報150は、予め作成され、記憶装置120に格納される。
【0086】
5-1.第1の例
図13は、本実施の形態に係る運転支援制御の第1の例を説明するための概念図である。典型的には、横断物標CTとの衝突を回避するための運転支援制御は、減速制御を含んでいる。この場合、運転支援制御の制御強さは、減速制御における減速度である。運転支援制御の制御強さを強めることは、減速制御における減速度(絶対値)を高くすることを意味する。逆に、運転支援制御の制御強さを弱めることは、減速制御における減速度(絶対値)を低くすることを意味する。
【0087】
図13に示されるように、複数の分割支援領域SAi(SA0、SA1、SA2)毎に異なる減速度が予め設定されている。プロセッサ110は、領域判定処理の結果に応じた減速度で減速制御を実行する。具体的には、横断物標CTが中央支援領域SA0内に存在する場合、プロセッサ110は、デフォルト減速度D0で減速制御を実行する。横断物標CTが第1支援領域SA1内に存在する場合、プロセッサ110は、デフォルト減速度D0よりも低い第1減速度D1で減速制御を実行する。横断物標CTが第2支援領域SA2内に存在する場合、プロセッサ110は、第1減速度D1よりも更に低い第2減速度D2で減速制御を実行する。
【0088】
デフォルト減速度D0、第1減速度D1、及び第2減速度D2は、「D0>D1>D2」という関係が成り立つように予め設定される。制御調整情報150は、デフォルト減速度D0、第1減速度D1、及び第2減速度D2のそれぞれの設定値を示す。あるいは、制御調整情報150は、デフォルト減速度D0、デフォルト減速度D0と第1減速度D1の比率、及びデフォルト減速度D0と第2減速度D2の比率を示していてもよい。いずれの場合であっても、プロセッサ110は、領域判定処理の結果と制御調整情報150に基づいて、減速制御における減速度、すなわち、運転支援制御の制御強さを調整することができる。
【0089】
図14は、第1の例の変形例を示している。横断物標CTが第1分割境界SD1を超えて第1支援領域SA1から中央支援領域SA0に移ったとき、プロセッサ110は、減速度を第1減速度D1からデフォルト減速度D0に徐々に変化させてもよい。同様に、横断物標CTが第2分割境界SD2を超えて中央支援領域SA0から第2支援領域SA2に移ったとき、プロセッサ110は、減速度をデフォルト減速度D0から第2減速度D2に徐々に変化させてもよい。これにより、減速度の不連続が抑制され、車両1の挙動の急変が抑制される。
【0090】
5-2.第2の例
図15は、本実施の形態に係る運転支援制御の第2の例を説明するための概念図である。運転支援制御における制御量は、以下、「支援制御量CON」と呼ばれる。運転支援制御が減速制御を含む場合、支援制御量CONは、減速制御における減速度(目標減速度)を含む。運転支援制御が操舵制御を含む場合、支援制御量CONは、操舵制御における操舵角(目標操舵角)を含む。
【0091】
第2の例では、支援制御量CONが、車両1と横断物標CTとの間の相対関係に応じて動的に変動する場合を考える。車両1と横断物標CTとの間の相対関係を表す相対関係パラメータδPは、車両1と横断物標CTとの間の相対位置及び相対速度δVを少なくとも含む。車両1と横断物標CTとの間の相対位置は、X方向(前方方向)における車両1と横断物標CTとの間の縦距離δX、及びY方向(横方向)における車両1と横断物標CTとの間の横距離δYのうち少なくとも一方を含む。下記式(1)で表されるように、支援制御量CONは、相対関係パラメータδPの関数で表される。
【0092】
式(1):CON=f(δP)
【0093】
関数fは、数式であってもよいし、予め生成されたマップであってもよい。関数fの情報は、制御調整情報150に含まれている。また、相対関係パラメータδPは、物標情報260から得られる。プロセッサ110は、制御調整情報150と物標情報260に基づいて、相対関係パラメータδPに応じた支援制御量CONを算出(決定)する。そして、プロセッサ110は、その支援制御量CONに従って運転支援制御を実行する。
【0094】
上述の通り、本実施の形態によれば、プロセッサ110は、領域判定処理の結果に応じた制御強さで運転支援制御を実行する。第2の例では、運転支援制御の制御強さは、支援制御量CONの大きさである。運転支援制御の制御強さを強めることは、同一の相対関係パラメータδPに対する支援制御量CONをより大きくすることである。逆に、運転支援制御の制御強さを弱めることは、同一の相対関係パラメータδPに対する支援制御量CONをより小さくすることである。
【0095】
例えば、複数の分割支援領域SAi(SA0、SA1、SA2)毎に異なる関数fが用いられる。プロセッサ110は、領域判定処理の結果に応じた関数fを用いて支援制御量CONを算出する。具体的には、横断物標CTが中央支援領域SA0内に存在する場合、プロセッサ110は、デフォルト関数f0を用いてデフォルト支援制御量CON0を算出する(下記式(2)参照)。横断物標CTが第1支援領域SA1内に存在する場合、プロセッサ110は、第1関数f1を用いて第1支援制御量CON1を算出する。横断物標CTが第2支援領域SA2内に存在する場合、プロセッサ110は、第2関数f2を用いて第2支援制御量CON2を算出する。
【0096】
式(2):
CON0=f0(δP)
CON1=f1(δP)<CON0=f0(δP)
CON2=f2(δP)<CON1=f1(δP)
【0097】
相対関係パラメータδPが同一であるという条件で比較したとき、第1支援制御量CON1がデフォルト支援制御量CON0よりも小さくなるように、デフォルト関数f0と第1関数f1は設定されている。同様に、相対関係パラメータδPが同一であるという条件で比較したとき、第2支援制御量CON2が第1支援制御量CON1よりも小さくなるように、第1関数f1と第2関数f2は設定されている。
【0098】
デフォルト関数f0、第1関数f1、及び第2関数f2の情報は、制御調整情報150に含まれている。プロセッサ110は、制御調整情報150を参照して、領域判定処理の結果に応じた関数fを選択し、選択した関数fを用いて支援制御量CONを算出する。これにより、領域判定処理の結果に応じた支援制御量CON(制御強さ)で運転支援制御を実行することが可能となる。
【0099】
他の例として、第1支援制御量CON1は、デフォルト支援制御量CON0と第1補正係数γ1との積で表されてもよい(下記式(3)参照)。同様に、第2支援制御量CON2は、デフォルト支援制御量CON0と第2補正係数γ2との積で表されてもよい。
【0100】
式(3):
CON0=f0(δP)
CON1=γ1×f0(δP)<CON0=f0(δP)
CON2=γ2×f0(δP)<CON1=γ1×f0(δP)
【0101】
相対関係パラメータδPが同一であるという条件で比較したとき、第1支援制御量CON1がデフォルト支援制御量CON0よりも小さくなるように、第1補正係数γ1は設定されている。同様に、相対関係パラメータδPが同一であるという条件で比較したとき、第2支援制御量CON2が第1支援制御量CON1よりも小さくなるように、第1補正係数γ1と第2補正係数γ2は設定されている。
【0102】
デフォルト関数f0、第1補正係数γ1、及び第2補正係数γ2の情報は、制御調整情報150に含まれている。プロセッサ110は、制御調整情報150を参照して、領域判定処理の結果に応じた補正係数を用いて支援制御量CONを算出する。これにより、領域判定処理の結果に応じた支援制御量CON(制御強さ)で運転支援制御を実行することが可能となる。
【0103】
5-3.第3の例
図16は、本実施の形態に係る運転支援制御の第3の例を説明するための概念図である。第3の例では、プロセッサ110は、横断物標CTの周囲にリスク領域RSKを設定する。リスク領域RSKは、車両1が通過しないことが望まれる領域である。マージン距離dmは、リスク領域RSKの大きさを表すパラメータである。例えば、マージン距離dmは、車両1の車速に応じて可変的に設定される。その場合、車速が高くなるにつれて、マージン距離dmは大きくなる。横断物標CTの位置は、物標情報260から得られる。車速は車両状態情報210から得られる。従って、プロセッサ110は、物標情報260と車両状態情報210に基づいて、リスク領域RSKを設定することができる。
【0104】
更に、プロセッサ110は、車両1がリスク領域RSKを避けるように目標トラジェクトリTRを生成する。目標トラジェクトリTRは、車道領域RA内における車両1の目標位置及び目標速度を含んでいる。車道領域RAは、道路構成情報250から得られる。車速は車両状態情報210から得られる。従って、プロセッサ110は、リスク領域RSKと運転環境情報200に基づいて、目標トラジェクトリTRを生成することができる。そして、プロセッサ110は、車両1が目標トラジェクトリTRに追従するように、操舵制御及び減速制御の少なくとも一方を実行する
【0105】
上述の通り、本実施の形態によれば、プロセッサ110は、領域判定処理の結果に応じた制御強さで運転支援制御を実行する。第3の例では、運転支援制御の制御強さは、リスク領域RSKの大きさ、すなわち、マージン距離dmの大きさである。マージン距離dmが大きくなるにつれて、リスク領域RSKを回避するために必要な操舵角あるいは減速度は大きくなる、すなわち、運転支援制御の制御強さが強くなる。逆に、マージン距離dmが小さくなるにつれて、リスク領域RSKを回避するために必要な操舵角あるいは減速度は小さくなる、すなわち、運転支援制御の制御強さが弱まる。
【0106】
例えば、複数の分割支援領域SAi(SA0、SA1、SA2)毎に異なるマージン距離dmが用いられる。プロセッサ110は、領域判定処理の結果に応じたマージン距離dmを用いて運転支援制御を実行する。具体的には、横断物標CTが中央支援領域SA0内に存在する場合、プロセッサ110は、デフォルトマージン距離dm0を用いて運転支援制御を実行する。横断物標CTが第1支援領域SA1内に存在する場合、プロセッサ110は、第1マージン距離dm1を用いて運転支援制御を実行する。横断物標CTが第2支援領域SA2内に存在する場合、プロセッサ110は、第2マージン距離dm2を用いて運転支援制御を実行する。
【0107】
デフォルトマージン距離dm0、第1マージン距離dm1、及び第2マージン距離dm2は、「dm0>dm1>dm2」という関係が成り立つように設定される。制御調整情報150は、デフォルトマージン距離dm0、第1マージン距離dm1、及び第2マージン距離dm2を示す。あるいは、制御調整情報150は、デフォルトマージン距離dm0、デフォルトマージン距離dm0と第1マージン距離dm1の比率、及びデフォルトマージン距離dm0と第2マージン距離dm2の比率を示していてもよい。いずれの場合であっても、プロセッサ110は、領域判定処理の結果と制御調整情報150に基づいて、リスク領域RSKの大きさ、すなわち、運転支援制御の制御強さを調整することができる。
【0108】
6.支援領域設定処理の他の例
図17は、本実施の形態に係る支援領域設定処理(ステップS130)の更に他の例を説明するための概念図である。既出の説明と重複する説明は、適宜省略する。
【0109】
図17に示される例では、中央支援領域SA0、第1支援領域SA1、及び第2支援領域SA2の各々は、縦分割境界SDXによって更に2分割されている。具体的には、中央支援領域SA0は、中央近方支援領域SA0-Nと中央遠方支援領域SA0-Dに分割されている。第1支援領域SA1は、第1近方支援領域SA1-Nと第1遠方支援領域SA1-Dに分割されている。第2支援領域SA2は、第2近方支援領域SA2-Nと第2遠方支援領域SA2-Dに分割されている。車両1から見て、各遠方支援領域SAi-D(i=0,1,2)は、各近方支援領域SAi-Nよりも遠い。言い換えれば、車両1の進行方向(X方向)において、各近方支援領域SAi-N(i=0,1,2)は、車両1と各遠方支援領域SAi-Dとの間に位置している。車両1と縦分割境界SDXとの間の縦距離は、例えば、車両1が現在の車速で一定時間の間に走行する距離に設定される。
【0110】
プロセッサ110は、近方支援領域SAi-Nと遠方支援領域SAi-Dとで運転支援制御の制御強さを変える。具体的には、横断物標CTが近方支援領域SAi-Nに存在する場合、プロセッサ110は、横断物標CTが遠方支援領域SAi-Dに存在する場合と比較して、運転支援制御の制御強さを強める。これにより、車両1の乗員の不安感が軽減される。逆に、横断物標CTが遠方支援領域SAi-Dに存在する場合、プロセッサ110は、横断物標CTが近方支援領域SAi-Nに存在する場合と比較して、運転支援制御の制御強さを弱める。これにより、過剰な運転支援制御が抑制され、車両1の乗員が感じる違和感あるいは煩わしさが軽減される。
【符号の説明】
【0111】
1 車両
2 車両端
10 運転支援システム
20 センサ群
21 車両状態センサ
22 周辺状況センサ
23 カメラ
24 レーダ
30 走行装置
100 制御装置
110 プロセッサ
120 記憶装置
130 支援領域情報
150 制御調整情報
200 運転環境情報
210 車両状態情報
220 周辺状況情報
230 カメラ撮像情報
240 レーダ計測情報
250 道路構成情報
260 物標情報
CT 横断物標
EG1 第1道路端物体
EG2 第2道路端物体
M1 第1近傍区画線
M2 第2近傍区画線
ME1 第1車道外側線
ME2 第2車道外側線
RA 車道領域
RB1 第1車道境界
RB2 第2車道境界
SA 支援領域
SAi 分割支援領域
SA0 中央支援領域
SA1 第1支援領域
SA2 第2支援領域
SB1 支援開始境界
SB2 支援終了境界
SD1 第1分割境界
SD2 第2分割境界
SDX 縦分割境界