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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-20
(45)【発行日】2023-11-29
(54)【発明の名称】制御装置及び搬送システム
(51)【国際特許分類】
   B65G 1/04 20060101AFI20231121BHJP
【FI】
B65G1/04 543
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020034048
(22)【出願日】2020-02-28
(65)【公開番号】P2021134078
(43)【公開日】2021-09-13
【審査請求日】2022-12-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000002945
【氏名又は名称】オムロン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100155712
【弁理士】
【氏名又は名称】村上 尚
(72)【発明者】
【氏名】大城 篤志
(72)【発明者】
【氏名】馬目 知徳
【審査官】内田 茉李
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-134148(JP,A)
【文献】特開2015-213318(JP,A)
【文献】国際公開第2012/144068(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65G 1/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
搬送ロボットの制御を行う制御装置であって、
前記搬送ロボットとの間で無線通信を行うマスター通信部と、
前記マスター通信部が受信する、前記搬送ロボットが生成した電文の通信状態に基づいて、前記無線通信の品質を判定する通信品質判定部と、
前記無線通信の品質によって、前記搬送ロボットを制御するための指示を送信するか否かに関する、指示状態を決定する指示状態決定部と、を備え
前記指示状態は、
前記搬送ロボットへの命令の送信を許可する第1状態と、
前記搬送ロボットへの命令の送信を待機させる第2状態と、
前記搬送ロボットに対して送信した命令を、他の前記搬送ロボットに再割り当てして送信させる第3状態と、を含む、制御装置。
【請求項2】
前記電文は、前記搬送ロボットに関する情報及び時系列情報を含み、
前記通信品質判定部は、
前記搬送ロボットからの複数の前記電文の前記時系列情報に基づいて、前記電文の到着時系列誤りを判定する時系列判定部と、
少なくとも前記到着時系列誤りの発生数に基づいて、前記無線通信の受信成功率を算出する受信成功率算出部と、
前記受信成功率に応じて、前記無線通信の品質を区分する品質区分部と、を有する、請求項1に記載の制御装置。
【請求項3】
前記受信成功率算出部は、更に前記電文の誤り訂正の発生数に基づいて、前記無線通信の受信成功率を算出する請求項2に記載の制御装置。
【請求項4】
前記品質区分部は、前記受信成功率の過去の値と現時点の値を反映して、前記無線通信の品質を区分する、請求項2または3に記載の制御装置。
【請求項5】
前記電文を生成する電文生成部と、前記無線通信を行うスレーブ通信部とが設けられた搬送ロボット、及び、
請求項1からのいずれか1項に記載の制御装置を備えた、搬送システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、搬送ロボットを制御する制御装置、及び、それを備えた搬送システムに関する。
【背景技術】
【0002】
工場や倉庫等において利用される、無人搬送車(AGV:Automated Guided Vehicle)や、無人フォークリフト(AGF:Automated Guided Forklift)等の、自走式の搬送ロボットが提案されている。複数台のこのような搬送ロボットが、無線通信を通じて制御装置により制御されて、工場等における搬送の自動化を実現する搬送システムが構成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2019-48689号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
制御装置は、これら複数の搬送ロボットに対して搬送の指示を適宜に割り当てて、目的とする搬送作業を実現させる。しかし、工場や倉庫等の搬送システムでは通常、多量の搬送対象物に対応するために、搬送ロボットが多数配備される。これらの搬送ロボットの状態は様々であり、制御装置が、ある特定の搬送ロボットに搬送の指示を送信しても、そのレスポンスが返ってこないこともある。その原因としては、通信品質に問題があることもあるし、搬送ロボット自体の固有の問題であることもある。
【0005】
しかし従来、通信品質の問題であるのか、搬送ロボット固有の問題が生じているのかは明確に考慮されておらず、搬送ロボットへの指示の発行に関しても、その点を考慮した対応がなされていなかった。本発明は、一側面では、このような実情を鑑みてなされたものであり、制御装置と搬送ロボットとの間の通信の品質を、搬送システムに適した態様で評価し、それによって搬送の指示の割り当てを適正化し得る搬送システムの制御装置を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の課題を解決するために、以下の構成を採用する。本発明の一側面に係る制御装置は、搬送ロボットの制御を行う制御装置であって、前記搬送ロボットとの間で無線通信を行うマスター通信部と、前記マスター通信部が受信する、前記搬送ロボットが生成した電文の通信状態に基づいて、前記無線通信の品質を判定する通信品質判定部と、前記無線通信の品質によって、前記搬送ロボットを制御するための指示を送信するか否かに関する、指示状態を決定する指示状態決定部と、を備える。
【0007】
上記構成によれば、制御装置と搬送ロボットとの間の通信の品質を、搬送システムに適した態様で評価し、それによって搬送の指示の割り当てを適正化し得る搬送システムの制御装置が実現できる。
【0008】
上記一側面に係る制御装置において、前記電文は、前記搬送ロボットに関する情報及び時系列情報を含み、前記通信品質判定部は、前記搬送ロボットからの複数の前記電文の前記時系列情報に基づいて、前記電文の到着時系列誤りを判定する時系列判定部と、少なくとも前記到着時系列誤りの発生数に基づいて、前記無線通信の受信成功率を算出する受信成功率算出部と、前記受信成功率に応じて、前記無線通信の品質を区分する品質区分部と、を有していてもよい。
【0009】
上記構成によれば、制御装置と搬送ロボットとが制御の用に供するために行う通信の状態によって、通信の品質が具体的に評価される。またこのような通信の評価は、制御装置が搬送ロボットの制御を適正に行い得るようにするための尺度として優れており、搬送の指示の割り当てをより適正化し得る制御装置が実現できる。
【0010】
上記一側面に係る制御装置において、前記受信成功率算出部は、更に前記電文の誤り訂正の発生数に基づいて、前記無線通信の受信成功率を算出する構成を備えてもよい。上記構成によれば、制御装置と搬送ロボットとが制御の用に供するために行う複数の観点からの通信の状態によって、通信の品質が具体的に評価される。よって搬送の指示の割り当てをより適正化し得る制御装置が実現できる。
【0011】
上記一側面に係る制御装置において、前記品質区分部は、前記受信成功率の過去の値と現時点の値を反映して、前記無線通信の品質を区分する構成を備えてもよい。上記構成によれば、通信状態の細かい変動に影響されることなく、搬送システム中の搬送ロボットへのジョブの割り当てと指示が行えるようになる。
【0012】
上記一側面に係る制御装置において、前記指示状態は、前記搬送ロボットへの命令の送信を許可する第1状態と、前記搬送ロボットへの命令の送信を待機させる第2状態と、前記搬送ロボットに対して送信した命令を、他の前記搬送ロボットに再割り当てして送信させる第3状態と、を含む構成を備えてもよい。上記構成によれば、搬送ロボットに対して、必要以上にジョブの再割り当てが繰り返されたり、複数の搬送ロボットが重複した指示を実行しようとしてしまうというような、搬送システムの不要な動作がもたらされることが抑制される。
【0013】
本発明の一側面に係る搬送システムは、前記電文を生成する電文生成部と、前記無線通信を行うスレーブ通信部とが設けられた搬送ロボット、及び、上記いずれかの制御装置を備える。上記構成によれば、制御装置と搬送ロボットとの間の通信の品質を、搬送システムに適した態様で評価し、それによって制御装置による搬送の指示の割り当てを適正化し得る搬送システムが実現できる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の一側面に係る制御装置によれば、制御装置と搬送ロボットとの間の通信の品質を、搬送システムに適した態様で評価し、それによって搬送の指示の割り当てを適正化し得る制御装置が実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の適用例に係る制御装置を備えた搬送システムが導入される工場の例を模式的に示す、フロアマップである。
図2】本発明の実施形態1に係る制御装置及びそれを備えた搬送システムの構成を示すブロック図である。
図3】本発明の実施形態2に係る制御装置における、品質区分部の動作を、実施形態1に係る制御装置の場合と比較して説明するための表である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の一側面に係る実施の形態が、図面に基づいて説明される。
【0017】
§1 適用例
図1を参照しつつ、本発明が適用される場面の一例が説明される。図1は、本適用例に係る制御装置を備えた搬送システムが適用され得る工場や倉庫等のエリアの一例である、工場100のフロアマップを模式的に示した図である。
【0018】
工場100内には、製品、半製品、部品、工具、治具、梱包材やそれらを収納するカセット等の、搬送対象物を搬送する搬送ロボット20が備えられている。搬送ロボット20は、一例として、搬送対象物を把持する、ロボットアーム(マニピュレータ)が設けられた自走式の搬送ロボットである。しかし搬送ロボット20としては、無人搬送台車や、AGF、その他の形態の自走式搬送装置であってもよい。
【0019】
工場100内には搬送対象物を載置し得る棚30が設置されている。また、工場100内には、搬送対象物を所定の受け入れ用のポートに載置すると、組み立て、加工、組み着け、検査等の所要の処理を施して、所定の受け出し用のポートに載置する、生産設備も設置されている。なお生産設備によっては、受け入れ用のポートと受け出し用のポートとが、兼用されていてもよい。
【0020】
本適用例に係る制御装置を備えた搬送システムの搬送ロボット20は、これらの設備間で、搬送対象物を搬送し得る。搬送ロボット20には、電文を生成する電文生成部と、スレーブ通信部が設けられている。なお、図1のフロアマップには本適用例に係る制御装置は不図示である。本適用例に係る制御装置には、搬送ロボット20のスレーブ通信部との間で無線通信を行うマスター通信部が設けられている。
【0021】
本適用例に係る制御装置には、更に、マスター通信部が受信した上記電文の通信状態に基づいて、無線通信の品質を判定する通信品質判定部が設けられている。また、本適用例に係る制御装置には、無線通信の品質によって、上記搬送ロボットを制御するための指示を送信するか否かに関する、指示状態を変更する指示状態決定部と、が設けられている。
【0022】
本適用例に係る制御装置では、制御装置と搬送ロボット20との間の通信の品質が、搬送ロボット20側から制御装置に送信される電文の通信状態に基づいて評価される。このような電文は、制御装置が、各々の搬送ロボット20の状況を把握したうえでジョブの割り当てを行うために必要な、搬送ロボット20がその状態を制御装置に通知するための報告であり得る。
【0023】
従って、無線の電波強度や物理的な通信速度といった物理パラメタによらず、実際に制御装置と搬送ロボットとが制御の用に供するために行う通信の状態によって、通信の品質が評価され得る。そのためこのような通信の品質の評価手法は、制御装置が搬送ロボット20の制御を適正に行い得るようにするための、評価の尺度として適している。
【0024】
また、本適用例に係る制御装置では、制御装置と搬送ロボット20との間の通信の品質が評価され、その結果に基づいて、前記搬送ロボットを制御するための指示を送信するか否かに関する、指示状態が変更される。よって、通信の品質に係わる評価が搬送ロボット20の固有の問題とは切り分けてなされて、指示状態が変更されるから、適正に搬送システムが運用され得る。
【0025】
§2 構成例
〔実施形態1〕
<搬送システムの概要>
以下に、制御装置及び搬送システムのより具体的な構成例と動作が説明される。図2は、実施形態1に係る制御装置10及びそれを備える搬送システム1の構成を示すブロック図である。搬送システム1は、制御装置10と搬送ロボット20とを備える。図2において、搬送ロボット20は1台分について、構成が詳細に示されているが、他機についても同様の内部構成を備える。
【0026】
制御装置10は、搬送システムサーバ(AMHSサーバ:Automated Material Handling System Server)等の名称で呼ばれることもある、搬送についての管理を担う情報処理システムである。制御装置10は、上位情報処理システム等からの指令に基づいて、搬送システム1中の搬送ロボット20に、より具体的な搬送の指示を送信する。制御装置10は、このような処理を実行し得る情報処理システムであればよく、物理的に一筐体に納められた装置で有る必要は無い。
【0027】
搬送システム1が適用される場面が生産工場である場合、生産工場における製品の生産を管理する上位情報処理システムは、製造実行システムサーバ(MESサーバ:Manufacturing Execution System Server)と呼称されることがある。搬送システム1が適用される場面が物流倉庫である場合には、物流倉庫における保管品の入庫・出庫を管理する上位情報処理システムは、倉庫管理システムサーバ(WMSサーバ:Warehouse Management System Server)と呼称されることがある。
【0028】
<搬送ロボットの構成>
図2に示されるように、搬送ロボット20には、スレーブ通信部21、電文生成部22、固有状態監視部23、指示受付部24、動作制御部25、及び、機構部26が設けられている。スレーブ通信部21は、制御装置10との間との無線通信を実行する通信インターフェースである。
【0029】
電文生成部22は、制御装置10に対して報告するための、搬送ロボット20の固有状態の情報を含む電文を生成し、スレーブ通信部21を通じて制御装置10に通知する機能ブロックである。固有状態監視部23は、搬送ロボット20の固有状態を取得する機能ブロックである。ここで、搬送ロボット20の固有状態とは、個別の搬送ロボット自身に関わる状態をいい、例えば、現在位置や、動作の状態、搬送対象物の積載の状態、バッテリー残量等、搬送ロボット20の動作や、その他の内部状態に関する状態をいう。
【0030】
指示受付部24は、制御装置10からの搬送ロボット20に対する搬送等に関する指示を、スレーブ通信部21を通じて受け付ける機能ブロックである。動作制御部25は、指示受付部24が受け付けた指示に基づいて、機構部26を制御し、搬送ロボット20に所要の動作を実行させる機能ブロックである。
【0031】
機構部26は搬送ロボット20が搬送の動作を実行するための機構である。機構部26は少なくとも、搬送ロボット20が移動するための走行機構を含む。更に、機構部26は、搬送対象物を取り上げ、あるいは載置する機構、例えばロボットアームを有していてもよい。
【0032】
<制御装置の構成>
図2に示されるように、制御装置10には、マスター通信部11、通信品質判定部12、指示状態決定部13、スレーブ監視部14、及び指示生成部15が設けられている。マスター通信部11は、複数の搬送ロボット20との間との無線通信を実現する通信インターフェースである。
【0033】
通信品質判定部12は、マスター通信部11が受信した搬送ロボット20からの上記電文の通信状態に基づいて、搬送ロボット20との間の無線通信の品質を判定する機能ブロックである。通信品質判定部12は、時系列判定部121、受信判定部122、受信成功率算出部123、及び品質区分部124を有する。これら各部の機能と動作については後述される。
【0034】
指示状態決定部13は、通信品質判定部12による無線通信の品質の判定結果に基づいて、前記搬送ロボットを制御するための指示を送信するか否かに関する、指示状態を変更する機能ブロックである。スレーブ監視部14は、搬送システム1内の搬送ロボット20の固有状態を監視する機能ブロックである。スレーブ監視部14は、少なくともマスター通信部11が受信した搬送ロボット20からの上記電文の内容に基づいて、搬送ロボット20の固有状態を監視する。
【0035】
指示生成部15は、上位情報処理システム等からの指令に基づいて、搬送システム1内の搬送ロボット20に対し、スレーブ監視部14が取得した各々の搬送ロボット20の固有状態を考慮して、搬送対象物の搬送についてのジョブを割り当てる。更に指示生成部15は、そうしてジョブを割り当てた搬送ロボット20への搬送等の指示を生成し、マスター通信部11を通じて送信する。
【0036】
またその際、指示生成部15は、指示状態決定部13が決定した指示状態をも考慮して、搬送対象物の搬送についてのジョブの割り当てと、搬送ロボット20への搬送等の指示の送出を実行する。その詳細については後述する。ここで、搬送ロボット20の固有状態を考慮してジョブを割り当てるとは、次のような事例が挙げられる。
【0037】
例えば、ある搬送対象物を移動させる際に、動作の状態がジョブ実行中で無く、当該搬送対象物の載置場所に近い位置にいる搬送ロボット20に、そのジョブを割り当てる。あるいは、搬送のために十分なバッテリー残量の搬送ロボット20を選択して、ジョブを割り当てる。
【0038】
<搬送システムの動作>
以下に、実施形態1に係る制御装置10及び搬送システム1の特徴的な動作について、詳細に説明する。搬送ロボット20の電文生成部22は、固有状態監視部23が取得した搬送ロボット20の固有状態の情報と、時系列情報とを含む電文を作成する。その際、更に、制御装置10との無線通信の電波強度に関する情報を含んでもよい。時系列情報は、時刻の情報であってもよく、あるいは、当該電文の作成順であってもよい。実施形態1の具体例では、時系列情報は時刻の情報であるものとする。
【0039】
電文生成部22は、搬送ロボット20の固有状態を、逐次に制御装置10に対して伝達するために、上記電文を定期的に生成する。搬送ロボット20のスレーブ通信部21は、当該電文を、誤り訂正符号(いわゆるチェックサム)を付した電文として、制御装置に送信する。誤り訂正としては公知の方式が適宜に適用され得る。例えば、誤り訂正方式として、HMAC-SHA256(Hash-based Message Authentication Code - Secure Hash Algorithm 256-bit)を用いてもよい。
【0040】
制御装置10のマスター通信部11は、特定の搬送ロボット20からの上記電文を受信すると、誤り訂正方式に基づいて、受信した電文に通信による誤りがあるか否かを判断し、また電文の内容を取り出す。電文の内容を取り出す際、誤りがある場合には誤り訂正が実行されてよい。電文の内容は、スレーブ監視部14が取得する。時系列判定部121は、特定の搬送ロボット20から順次送信される電文の時系列情報を参照して、受信した電文の時系列が到着時系列と相違した電文であるか否かを判断する。
【0041】
受信判定部122は、ある電文に対し、時系列判定部121の判定結果と、マスター通信部11による誤りがあるか否かの判断結果に基づいて、受信が成功であるか否かを判断する。受信が成功であるか否かの判断は、電文の時系列が到着時系列と相違した電文で無く、かつ、誤りが無い場合に、受信が成功であるとし、それ以外の場合を成功でないとすることで行う。
【0042】
受信判定部122は、所定の期間内の受信が成功とされた電文の数をカウントする。なお、受信が成功であるか否かの判断は、時系列判定部121の判定結果のみで行うことも可能である。あるいは、マスター通信部11による誤りがあるか否かの判断結果のみで行うことも可能である。
【0043】
受信成功率算出部123は、上記所定の期間内の、特定の搬送ロボット20からの受信電文数と、そのうち受信が成功とされた電文の数の比とから、受信成功率を算出する。なお、更に、受信成功率算出部123は、電文に含まれる電文作成の時刻(時系列情報)と、当該電文の受信時刻との時間差が、予め定められた時間内か否かの判断を含めて、受信成功率を算出してもよい。あるいは更に、電文に含まれた制御装置10との無線通信の電波強度に関する情報による電波強度が、予め定められた値以上か否かの判断をも含めて、受信成功率を算出してもよい。
【0044】
品質区分部124は、所定期間毎に、受信成功率算出部123が算出した受信成功率の値に応じて、通信品質を区分して判定する。通信品質の区分は、例えば、受信成功率が第1閾値以上である場合に第1区分、第2閾値以下である場合に第3区分とし、これらの間の場合を第2区分とする。
【0045】
また例示として、第1閾値は70%、第2閾値は30%とすることができる。しかしこれらの閾値の値は例示であって、搬送システムに応じて適宜に設定される。以上のようにして、通信品質判定部12は、マスター通信部11が受信した搬送ロボット20からの上記電文の通信状態に応じて、通信の品質が判定される。
【0046】
次に、制御装置10の指示状態決定部13は、通信品質判定部12の品質区分部124が決定した通信の品質に応じて。制御装置10の指示状態を決定する。指示状態は、それぞれ第1区分、第2区分、第3区分に応じた、例えば、アクティブ(第1状態)、ペンディング(第2状態)、デッド(第3状態)の3状態を取るようにすることができる。
【0047】
アクティブ(Active)は、当該搬送ロボット20が搬送等の指示を直ちに受信できる通信の品質状況と見なされる状態に相当する。制御装置10は、指示状態がアクティブである際、当該搬送ロボット20への指示を実行できる。すなわち指示を許可する。デッド(Dead)は、当該搬送ロボット20が搬送等の指示を受信できない通信の品質状況と見なされる状態に相当する。制御装置10は、指示状態がデッドである際、当該搬送ロボット20への指示は実行しない。更に、当該搬送ロボット20に対する指示のレスポンスが得られていない場合、当該指示についてのジョブを他機に再割り当てして指示を再発行する。
【0048】
ペンディング(Pending)は、アクティブとデッドの間の中間的な通信品質状況と見なされる状態に相当する。制御装置10は、指示状態がデッドである際、当該搬送ロボット20への指示を待機する。そうして、指示状態がアクティブに変化して指示ができる状態となれば、当該搬送ロボット20の指示を実行し、指示状態がデッドに変化すれば、ジョブを他機に再割り当てする。
【0049】
指示生成部15は、上記指示状態に従って、搬送システム1内の多数の搬送ロボット20に対して、ジョブを割り当て、特定の搬送ロボット20に指示を送信する。よって、実施形態1の制御装置10では、制御装置10と搬送ロボット20との間の通信の品質に基づいて、搬送の指示の割り当てや指示のタイミングを適正化できる。
【0050】
搬送システム1では、特に、指示可能なアクティブの指示状態と、指示不可能なデッドの指示状態の間に、上述のペンディングという状態を有している。そのため、必要以上にジョブの再割り当てが繰り返されたり、複数の搬送ロボット20が重複した指示を実行しようとしてしまうというような、搬送システムにおける不要な動作がもたらされることが抑制される。
【0051】
また、通信の品質の評価は、無線の電波強度や物理的な通信速度といった物理パラメタによらず、実際に制御装置10と搬送ロボット20との間で、制御の用に供するために行う通信の状態によって行われる。そのため、このような通信の品質の評価手法は、制御装置が搬送ロボット20の制御を適正に行い得るようにするための、評価の尺度として適している。
【0052】
〔実施形態2〕
本発明の他の実施形態について、以下に説明する。なお、説明の便宜上、上記実施形態にて説明した部材と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を繰り返さない。
【0053】
実施形態2に係る制御装置10及び搬送システム1は、品質区分部124の動作が実施形態1とは異なる他は、実施形態1と同様の構成を備えており、同様に動作する。実施形態1に係る制御装置10においては、品質区分部124が受信成功率算出部123が算出した受信成功率の値に応じて、通信品質を区分して判定する。その際、品質区分部124は、所定期間毎に、当該期間(現時点)における受信成功率に応じて、通信品質を区分していた。
【0054】
図3は、受信成功率の具体的な事例における、実施形態1及び実施形態2それぞれの品質区分部124の動作結果を説明するための図表である。各時刻tにおいて、品質区分部124が算出する受信成功率P(t)の事例が第2列に示されている。第3列には、時刻tにおける受信成功率P(t)に基づいて通信品質が区分される、実施形態1の場合の指示状態が示されている。実施形態1の場合では、時刻t=5以降のように、受信成功率P(t)が時刻毎に大きく変動すると、指示状態がアクティブとデッドとの間で振れるような状況が発生し得る。
【0055】
一方、実施形態2に係る制御装置10では、通信品質判定部12の品質区分部124は、当該期間(現時点)における受信成功率のみならず、過去の受信成功率も反映して、通信品質を区分して判定する。実施形態2の品質区分部124では、受信成功率に基づいて、以下のように通信品質を区分する。
【0056】
時刻tにおける受信成功率P(t)を、ロジット関数(Logit function)で変換した対数オッズL(t)を算出する(図3の第4列)。次に、初期値を0とした、過去から時刻tまでの対数オッズL(t)の累積である累積対数オッズLs(t)を算出する(図3の第5列)。累積対数オッズLs(t)をロジット関数の逆関数で変換した受信成功尤度P2(t)を算出する(図3の第6列)。そうして、実施形態1の場合の受信成功率P(t)に替えて、受信成功尤度P2(t)の値によって、通信品質の区分を行う(図3の第7列)。
【0057】
実施形態2の方法で、通信品質の区分を行った場合には、受信成功率の過去の値も反映して区分がなされるため、受信成功率P(t)が時刻毎に大きく変動しても、指示状態の変動が抑制されるように作用する。図3の時刻t=5以降のように、実施形態2の場合では、受信成功率P(t)が時刻毎に大きく変動しても、指示状態がアクティブとデッドとの間で振れるような状況が発生し難い。従って、実施形態2の制御装置10によれば、通信状態の細かい変動に影響されることなく、実施形態1の場合よりも安定した状態で、搬送システム1中の搬送ロボット20へのジョブの割り当てと指示が行えるようになる。
【0058】
〔実施形態3〕
上記各実施形態において、通信品質の区分を行うための、第1閾値及び第2閾値は、指示状態を適正に判断できるよう、適宜に定められている必要がある。これらの閾値は、搬送システム1が適用される工場等において、試行錯誤によって適正値を見定めることができる。しかし、そのためには多数のデータを取得しつつ、適宜修正しながら最も好ましい値を見出す作業が必要となる。
【0059】
実施形態3では、そのような閾値の決定をサポートし得る手法について説明する。実施形態3による閾値の決定方法では、搬送システムが適用される様々な場(工場、倉庫等)について、同様の通信の特性を持つ場を同一のグループに属するものとしてグループ分け(クラス判別)しておき、それぞれについて、予め適切な閾値の値を保有しておく。そうして、搬送システムを新たな場に適用する際に、その場における通信の特性を測定し、特性が最も近いグループの閾値の値を、その場における閾値の値の推奨値として採用するというものである。
【0060】
実施形態3におけるこのようなグループ分け(クラス判別)は、上記各実施形態において通信品質を算出するために用いるパラメタに関する各種確率を、検討対象データとして用いて実施することを特徴とする。すなわち、検討対象データとしては、以下のものが挙げられる。
【0061】
期間内における電文のうち、受信時系列の齟齬が無かった電文の割合である、時系列妥当性確率。期間内における電文のうち、誤り訂正方式による誤り訂正が無かった電文の割合である、信頼性確率。期間内における電文のうち、電文に含まれる電文作成の時刻(時系列情報)と、当該電文の受信時刻との時間差が、予め定められた時間内であった電文の割合である、時間内到着確率。期間内における電文のうち、電文に含まれた制御装置10との無線通信の電波強度に関する情報による電波強度が、予め定められた値以上であった電文の割合である、妥当電波強度確率。
【0062】
グループ分け(クラス判別)の手法としては、部分空間法を適用することができる。本手法は公知の統計的手法であるため、簡単に説明する。まず、期間kごとに、上記各検討対象データ(各種確率)を要素に持つベクトルa(k)を定義する。更に測定を行った期間k(kは1からnの整数)についてn個のベクトルa(k)を並べた系内通信値行列Adを定義する。
【0063】
系内通信値行列Adの固有値分解を行い、固有値λ(k)と、固有ベクトルx(k)を求める。n個のベクトルa(k)の平均値ベクトルbを求める。ベクトルa(k)-bと、固有ベクトルx(k)の内積ω(k)をk毎に求める。この内積ω(k)は、固有ベクトルの展開計数と称される。固有値λ(k)の大きい順に、適宜の次元mまで固有ベクトルの展開計数ω(k)を並べたベクトルΩが導出される。ベクトルΩを系内通信特徴ベクトルと称することとする。
【0064】
系内通信特徴ベクトルΩが、搬送システムが適用される様々な場(工場、倉庫等)について算出され、系内通信特徴ベクトルΩが存在する空間内で、集まり毎に適宜にグループ分けされる。特定のグループに所属する場についての系内通信特徴ベクトルΩの平均のベクトルを求める等の方法で、当該グループを代表する代表系内通信特徴ベクトルΩgが算出される。
【0065】
搬送システムを新たな場に適用する際には、同様にして系内通信特徴ベクトルΩが算出され、いずれのグループの代表系内通信特徴ベクトルΩgに最も近いかにより、どのグループに属するかが判定される。当該グループに設定された閾値の値が、新たな場に適用された搬送システムにおける閾値の推奨値として採用される。
【0066】
実施形態3に係る制御装置は、図2を用いて実施形態1で説明された制御装置の構成に加え、上述の手法により閾値を算出する閾値算出部を更に備える。閾値算出部は、各グループの代表系内通信特徴ベクトルΩgと、閾値の値を予め保持しており、上記検討対象データを取得し、系内通信特徴ベクトルΩを算出することで、閾値の推奨値を選択する。実施形態3によれば、通信品質の区分を行うための、閾値の設定が容易に行えるようになる。
【0067】
〔ソフトウェアによる実現例〕
制御装置10の機能ブロック(特に、マスター通信部11、通信品質判定部12、指示状態決定部13、スレーブ監視部14、指示生成部15)あるいは、搬送ロボット20の機能ブロック(特に、スレーブ通信部21、電文生成部22、固有状態監視部23、指示受付部24、動作制御部25)は、集積回路(ICチップ)等に形成された論理回路(ハードウェア)によって実現してもよいし、ソフトウェアによって実現してもよい。
【0068】
後者の場合、制御装置10あるいは搬送ロボット20は、各機能を実現するソフトウェアであるプログラムの命令を実行するコンピュータを備えている。このコンピュータは、例えば1つ以上のプロセッサを備えていると共に、上記プログラムを記憶したコンピュータ読み取り可能な記録媒体を備えている。そして、上記コンピュータにおいて、上記プロセッサが上記プログラムを上記記録媒体から読み取って実行することにより、本発明の目的が達成される。
【0069】
上記プロセッサとしては、例えばCPU(Central Processing Unit)を用いることができる。上記記録媒体としては、「一時的でない有形の媒体」、例えば、ROM(Read Only Memory)等の他、テープ、ディスク、カード、半導体メモリ、プログラマブルな論理回路などを用いることができる。また、上記プログラムを展開するRAM(Random Access Memory)などを更に備えていてもよい。
【0070】
また、上記プログラムは、該プログラムを伝送可能な任意の伝送媒体(通信ネットワークや放送波等)を介して上記コンピュータに供給されてもよい。なお、本発明の一態様は、上記プログラムが電子的な伝送によって具現化された、搬送波に埋め込まれたデータ信号の形態でも実現され得る。
【0071】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0072】
1 搬送システム
10 制御装置
11 マスター通信部
12 通信品質判定部
121 時系列判定部
122 受信判定部
123 受信成功率算出部
124 品質区分部
13 指示状態決定部
14 スレーブ監視部
15 指示生成部
20 搬送ロボット
21 スレーブ通信部
22 電文生成部
23 固有状態監視部
24 指示受付部
25 動作制御部
26 機構部
100 工場
図1
図2
図3