IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社明電舎の特許一覧

特許7388249汚水処理施設の運転操作量導出装置及び運転操作量導出方法
<>
  • 特許-汚水処理施設の運転操作量導出装置及び運転操作量導出方法 図1
  • 特許-汚水処理施設の運転操作量導出装置及び運転操作量導出方法 図2
  • 特許-汚水処理施設の運転操作量導出装置及び運転操作量導出方法 図3
  • 特許-汚水処理施設の運転操作量導出装置及び運転操作量導出方法 図4
  • 特許-汚水処理施設の運転操作量導出装置及び運転操作量導出方法 図5
  • 特許-汚水処理施設の運転操作量導出装置及び運転操作量導出方法 図6
  • 特許-汚水処理施設の運転操作量導出装置及び運転操作量導出方法 図7
  • 特許-汚水処理施設の運転操作量導出装置及び運転操作量導出方法 図8
  • 特許-汚水処理施設の運転操作量導出装置及び運転操作量導出方法 図9
  • 特許-汚水処理施設の運転操作量導出装置及び運転操作量導出方法 図10
  • 特許-汚水処理施設の運転操作量導出装置及び運転操作量導出方法 図11
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-20
(45)【発行日】2023-11-29
(54)【発明の名称】汚水処理施設の運転操作量導出装置及び運転操作量導出方法
(51)【国際特許分類】
   G06N 20/00 20190101AFI20231121BHJP
   C02F 1/00 20230101ALI20231121BHJP
   G05B 13/02 20060101ALI20231121BHJP
   G06T 7/00 20170101ALI20231121BHJP
【FI】
G06N20/00 130
C02F1/00 D
C02F1/00 V
G05B13/02 L
G06T7/00 350B
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020038478
(22)【出願日】2020-03-06
(65)【公開番号】P2021140523
(43)【公開日】2021-09-16
【審査請求日】2022-09-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000006105
【氏名又は名称】株式会社明電舎
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】木村 雄喜
(72)【発明者】
【氏名】鮫島 正一
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼倉 正佳
(72)【発明者】
【氏名】高▲瀬▼ 信彰
(72)【発明者】
【氏名】庭川 誠
(72)【発明者】
【氏名】深井 寛修
【審査官】青木 重徳
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/167651(WO,A1)
【文献】特開2019-209271(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第110515411(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06N 20/00
C02F 1/00
G05B 13/02
G06T 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
汚水処理施設の運転状況を、水質の改善を目的として変更するに際し、前記汚水処理施設内の設備の運転操作量を導出する、汚水処理施設の運転操作量導出装置であって、
前記運転状況に関連する複数の施設パラメータの各々に対し、当該施設パラメータの推移を関数で表現したときに、異なる複数の時間間隔において前記関数をそれぞれ複数の周波数成分に分解し、当該複数の周波数成分の各々に対する振幅に基づく値が、一方の軸を前記複数の時間間隔の各々とし他方の軸を前記複数の周波数成分の各々とした画像の画素値として設定された、変換画像を生成する、変換画像生成部と、
機械学習器を備え、前記複数の施設パラメータの各々に対応する前記変換画像または前記変換画像を基にした画像を入力とし、前記変換画像に対応する運転操作量データを教師データとして前記機械学習器を深層学習し、前記運転操作量の導出に関するモデルパラメータを生成する、運転操作量学習部と、
前記モデルパラメータを用いて構築した学習モデルにより前記運転操作量を導出する、運転操作量導出部と、
を備えている、汚水処理施設の運転操作量導出装置。
【請求項2】
前記運転操作量学習部は、前記機械学習器に前記変換画像を入力し、
前記モデルパラメータは、前記変換画像に関する特徴を特徴量マップとして有し、
当該特徴量マップを基に、前記学習モデルに入力される前記変換画像の、前記学習モデルが出力する前記運転操作量への影響が大きい注視領域を抽出した注視領域画像を生成し、当該注視領域画像を前記変換画像に重ね合わせて、前記注視領域が強調表示された注視領域強調画像を生成する、注視領域抽出部を備えている、請求項1に記載の汚水処理施設の運転操作量導出装置。
【請求項3】
前記モデルパラメータは、前記特徴量マップを、前記複数の施設パラメータの各々に対して有しており、
前記注視領域抽出部は、前記複数の施設パラメータの各々に対して、当該施設パラメータに対応する前記特徴量マップを基に、個別に前記注視領域を抽出して前記注視領域画像を生成する、請求項2に記載の汚水処理施設の運転操作量導出装置。
【請求項4】
前記運転操作量学習部は、前記変換画像と、当該変換画像に畳み込みオートエンコーダを適用した出力画像との差分画像を、前記機械学習器に入力し、
前記差分画像を前記変換画像に重ね合わせることで、前記差分画像中の前記学習モデルが出力する前記運転操作量への影響が大きい注視領域が抽出され強調表示された注視領域強調画像を生成する、注視領域抽出部を備えている、請求項1に記載の汚水処理施設の運転操作量導出装置。
【請求項5】
前記複数の施設パラメータは、汚泥濃度及び汚泥流量を含むトレンドデータと、前記汚水処理施設において処理される水の水質データを含む、請求項1から4のいずれか一項に記載の汚水処理施設の運転操作量導出装置。
【請求項6】
汚水処理施設の運転状況を、水質の改善を目的として変更するに際し、前記汚水処理施設内の設備の運転操作量を導出する、汚水処理施設の運転操作量導出方法であって、
前記運転状況に関連する複数の施設パラメータの各々に対し、当該施設パラメータの推移を関数で表現したときに、異なる複数の時間間隔において前記関数をそれぞれ複数の周波数成分に分解し、当該複数の周波数成分の各々に対する振幅に基づく値が、一方の軸を前記複数の時間間隔の各々とし他方の軸を前記複数の周波数成分の各々とした画像の画素値として設定された、変換画像を生成し、
前記複数の施設パラメータの各々に対応する前記変換画像または前記変換画像を基にした画像を入力とし、前記変換画像に対応する運転操作量データを教師データとして機械学習器を深層学習し、前記運転操作量の導出に関するモデルパラメータを生成し、
前記モデルパラメータを用いて構築した学習モデルにより前記運転操作量を導出する、汚水処理施設の運転操作量導出方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、汚水処理施設の運転操作量導出装置及び運転操作量導出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、例えば下水処理施設等の汚水処理施設において、活性汚泥処理によって汚水を浄化することが、広く行われている。活性汚泥処理においては、汚水を貯留した反応槽において、汚水を曝気等により送風された空気に晒し、好気的な微生物に汚濁物質を分解させて活性汚泥を生成し、活性汚泥を増殖させて沈降分離することで、汚水が浄化される。
このような汚水処理施設では、汚泥引抜量、反応層における溶存酸素量や送風量等を、作業員が決定し、汚水処理施設中の様々な設備を操作することで、日々の運転がなされている。
上記のような設備を操作するに際し、設備の運転操作量の決定は、熟練した作業員の勘や経験、ノウハウに依るところが大きく、非常に難易度が高い作業である。このため、熟練した作業員に依らずとも運転操作量を決定可能とすることが、望まれている。
【0003】
上記のような、運転操作量の決定においては、例えばニューラルネットワーク等の深層学習手法を適用し、熟練した作業員の運転操作をモデル化することが考えられる。
例えば特許文献1には、過去のある時点から現在までに汚水貯留施設へ入ってきた実績流入量と、プラントデータをもとに、現在より先のある一定時間内に流入する汚水量を予測し、予め設定されたポンプ吐出量の目標値と、予測流入量と、実績流入量と、現在の貯蔵量と、現在のポンプ吐出量の情報より演算される情報を入力とし、予め決定されたメンバーシップ関数・ルールに従い、ファジィ推論によりポンプの目標吐出量を決定する、下水処理場の汚水ポンプ制御装置が開示されている。
特許文献1の装置には、ニューラルネットワークが用いられている。このニューラルネットワークは、入力としてポンプ井水位、除塵流入ゲート開度、汚水ポンプ吐出量、実績流入量等の時系列データを与えると、予測流入量を出力する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平9-68170号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般に、上記のような深層学習手法を適用する場合、そのブラックボックス性が問題となり得る。人の脳内のニューロンの繋がりを模したニューラルネットワークは、多数のニューロンの線形結合と非線形関数による活性化の多層構造で表現され、その推論の結果に対して説明を与えることが難しい。下水処理施設等の汚水処理施設においては、特に公共性が非常に高いため、何らかの問題が生じた際に汚水処理施設の運営企業や当該施設の使用者に致命的な損害を与え得る。したがって、ブラックボックス性のある深層学習手法を汚水処理施設に導入するためには、特に問題発生時の解析性等の観点において、非常に高い障壁を乗り越えなければならない。
例えば、上記のような特許文献1においては、ニューラルネットワーク等の入力となるのは時系列のデータである。このようなデータは、一般に、一見して理解できるような構造とはなっておらず、かつ一覧性が低いため、視認性が低く、ニューラルネットワーク等にどのようなデータが与えられたのかを理解するのが容易ではない。このため、何らかの問題が生じた際に、例えばそれが入力データ中の特にどの部分に起因したものなのかを解析することも難しい。
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、深層学習により運転操作値を導出するに際し、入力となる時系列データの視認性及び解析性を向上可能な、汚水処理施設の運転操作量導出装置及び運転操作量導出方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記課題を解決するため、以下の手段を採用する。すなわち、本発明は、汚水処理施設の運転状況を、水質の改善を目的として変更するに際し、前記汚水処理施設内の設備の運転操作量を導出する、汚水処理施設の運転操作量導出装置であって、前記運転状況に関連する複数の施設パラメータの各々に対し、当該施設パラメータの推移を関数で表現したときに、異なる複数の時間間隔において前記関数をそれぞれ複数の周波数成分に分解し、当該複数の周波数成分の各々に対する振幅に基づく値が、一方の軸を前記複数の時間間隔の各々とし他方の軸を前記複数の周波数成分の各々とした画像の画素値として設定された、変換画像を生成する、変換画像生成部と、機械学習器を備え、前記複数の施設パラメータの各々に対応する前記変換画像または前記変換画像を基にした画像を入力とし、前記変換画像に対応する運転操作量データを教師データとして前記機械学習器を深層学習し、前記運転操作量の導出に関するモデルパラメータを生成する、運転操作量学習部と、前記モデルパラメータを用いて構築した学習モデルにより前記運転操作量を導出する、運転操作量導出部と、を備えている、汚水処理施設の運転操作量導出装置を提供する。
【0008】
また、本発明は、汚水処理施設の運転状況を、水質の改善を目的として変更するに際し、前記汚水処理施設内の設備の運転操作量を導出する、汚水処理施設の運転操作量導出方法であって、前記運転状況に関連する複数の施設パラメータの各々に対し、当該施設パラメータの推移を関数で表現したときに、異なる複数の時間間隔において前記関数をそれぞれ複数の周波数成分に分解し、当該複数の周波数成分の各々に対する振幅に基づく値が、一方の軸を前記複数の時間間隔の各々とし他方の軸を前記複数の周波数成分の各々とした画像の画素値として設定された、変換画像を生成し、前記複数の施設パラメータの各々に対応する前記変換画像または前記変換画像を基にした画像を入力とし、前記変換画像に対応する運転操作量データを教師データとして機械学習器を深層学習し、前記運転操作量の導出に関するモデルパラメータを生成し、前記モデルパラメータを用いて構築した学習モデルにより前記運転操作量を導出する、汚水処理施設の運転操作量導出方法を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、深層学習により運転操作値を導出するに際し、入力となる時系列データの視認性及び解析性を向上可能な、汚水処理施設の運転操作量導出装置及び運転操作量導出方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の第1実施形態における汚水処理施設のブロック図である。
図2】上記汚水処理施設に設けられた運転操作量導出装置のブロック図である。
図3】上記汚水処理施設に関連する施設パラメータの説明図である。
図4】上記施設パラメータを変換した変換画像の説明図である。
図5】上記運転操作量導出装置の運転操作量学習部を実現する、機械学習器のブロック図である。
図6】上記運転操作量導出装置を用いた、(a)は学習時の、(b)は運転操作量導出時の、及び(c)は導出根拠抽出表示時の、各々におけるフローチャートである。
図7】上記第1実施形態の変形例における運転操作量導出装置の説明図である。
図8】本発明の第2実施形態における運転操作量導出装置のブロック図である。
図9】上記第2実施形態における運転操作量導出装置のAE学習部及び運転操作量学習部を実現する、AE機械学習器の説明図である。
図10】上記AE機械学習器のブロック図である。
図11】上記第2実施形態における運転操作量導出装置を用いた、(a)は学習時の、(b)は運転操作量導出時の、及び(c)は導出根拠抽出表示時の、各々におけるフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。
【0012】
[第1実施形態]
図1は、第1実施形態における汚水処理施設のブロック図である。汚水処理施設1は、反応槽3に貯留された汚水を微生物により浄化処理する。
汚水処理施設1は、最初沈殿池2、反応槽3、計測器4、最終沈殿池5、散気板6、ブロア7、曝気調整バルブ8、返送汚泥ポンプ9、余剰汚泥引抜ポンプ10、重力濃縮槽11、機械濃縮槽12、消化槽13、脱水槽14、運転操作量導出装置20、及び第1~第8配管L1、L2、L3、L4、L5、L6、L7、L8を備えている。
【0013】
最初沈殿池2には、有機物を含む汚水が原水として導入される。最初沈殿池2においては、導入された汚水内の小さなゴミや砂等が取り除かれて、大まかな固液分離が行われる。ゴミ等が取り除かれた汚水は、第1配管L1を介して、反応槽3に送られる。最初沈殿池2に沈殿した汚泥、いわゆる生汚泥は、第2配管L2を介して、重力濃縮槽11に送られる。
【0014】
反応槽3では、微生物により汚水が生物処理され、浄化される。浄化の際に、汚水は曝気等により空気に晒されて、好気的な微生物が、有機物を分解するとともに、有機物を資化することに伴って増殖することにより、活性汚泥が形成される。活性汚泥処理された水は、第3配管L3を介して、最終沈殿池5に送られる。
反応槽3内の下部には、ブロア7から第6配管L6を介して空気が供給される。第6配管L6の、ブロア7と反応槽3との間には、曝気調整バルブ8が設けられている。曝気調整バルブ8を開閉すると、曝気量(以下においては送風量と記載する)が変化し、これにより反応槽3内の溶存酸素量が調整されて、微生物による生物処理の進行度合いが制御される。反応槽3の、第6配管L6により空気が供給される部分には、酸素の溶解効率を高めるための散気板6が設けられている。
反応槽3には、溶存酸素量(DO)、浮遊物質濃度(MLSS)、NH4濃度、及びNO3濃度等の、様々な水質データを計測する計測器4が設けられている。図1においては、計測器は反応槽3に設けられているが、実際には計測器は、汚水処理施設1内の様々な場所に設けられており、場合によってはこれら複数の計測器による計測結果が総括されて処理系全体での水質データとして、運転操作等の各作業や判断に使用される。後に説明するトレンドデータについても同様である。
【0015】
最終沈殿池5では、反応槽3から送られた活性汚泥処理された水に含まれる活性汚泥が沈殿されて、汚水が浄化される。最終沈殿池5で活性汚泥が分離された上澄みは、処理水として系外に放流される。
最終沈殿池5で沈殿した汚泥の一部は、返送汚泥ポンプ9により第4配管L4を通じて再び反応槽3に戻され、活性汚泥処理に再利用される。残りの汚泥は余剰汚泥として汚泥引抜ポンプ10により第5配管L5を通じて排出されて、機械濃縮槽12に送られる。
【0016】
重力濃縮槽11と機械濃縮槽12の各々は、最初沈殿池2から送られた生汚泥と、余剰汚泥引抜ポンプ10を介して最終沈殿池5から送られた余剰汚泥の各々を濃縮処理する。重力濃縮槽11と機械濃縮槽12により濃縮された汚泥は、第7配管L7を通じて消化槽13へ送られる。
消化槽13は、濃縮された汚泥を、例えば嫌気性消化方式により、嫌気性微生物の働きによって有機性汚泥を分解し、消化処理する。分解された汚泥は、第8配管L8を通じて脱水槽14に送られる。
脱水槽14は、分解された汚泥の含水率を下げ、減容化する。減容化された汚泥は焼却処理される。
【0017】
本第1実施形態における運転操作量導出装置20は、上記のような汚水処理施設1を対象としており、汚水処理施設1の運転状況を、水質の改善を目的として変更するに際し、汚水処理施設1内の設備の運転操作量を導出する。
図2は、運転操作量導出装置20のブロック図である。運転操作量導出装置20は、データ蓄積部24、変換画像生成部25、変換画像蓄積部26、運転操作量学習部27、モデルパラメータ記憶部28、運転操作量導出部29、及び注視領域抽出部30を備えている。
これら運転操作量導出装置20の構成要素のうち、変換画像生成部25、運転操作量学習部27、運転操作量導出部29、及び注視領域抽出部30は、例えば上記情報処理装置内のCPUにより実行されるソフトウェア、プログラムであってよい。また、データ蓄積部24、変換画像蓄積部26、及びモデルパラメータ記憶部28は、上記情報処理装置内外に設けられた半導体メモリや磁気ディスクなどの記憶装置により実現されていてよい。
【0018】
運転操作量導出装置20の入力は、汚水処理施設1の運転状況に関連する、汚泥濃度や汚泥流量、水温等のトレンドデータ21を含む。これらトレンドデータ21の各々は、最初沈殿池2、反応槽3、最終沈殿池5等の各々において取得した値を個別に用いてもよいし、これらの値から汚水処理施設1の処理系全体として総括された値を導出し、これを用いても構わない。
また、運転操作量導出装置20の入力は、既に説明したような、溶存酸素量(DO)、浮遊物質濃度(MLSS)、NH4濃度、及びNO3濃度等の水質データ22を含む。
運転操作量導出装置20の入力の一つである運転操作量データ23については、後に説明する。
【0019】
運転操作量導出装置20の出力は、上記のように、各設備の運転操作量31である。運転操作量31は、本第1実施形態においては、最初沈殿池2から反応槽3へと流入する汚水の流入量、送風量、最終沈殿池5から返送汚泥ポンプ9を介して反応槽3へと返送される返送汚泥の量である返送汚泥量、最終沈殿池5から余剰汚泥引抜ポンプ10を介して機械濃縮槽12へと送られる余剰汚泥の量である余剰汚泥引抜量を含む。
本第1実施形態においては、例えば、反応槽3内の溶存酸素量を一定以上にするために、送風量が目標値として設定されている。しかし、例えば反応槽3内の溶存酸素量自体に目標値を設定して、溶存酸素量が当該目標値以上となるように風量を調整する処理系も想定される。この場合においては、例えば運転操作量31として、送風量に替えて、溶存酸素量を出力するようにしてもよい。
返送汚泥量は、より詳細には、例えば返送汚泥ポンプ9の回転数であり得る。
余剰汚泥引抜量は、より詳細には、例えば余剰汚泥引抜ポンプ10による余剰汚泥の引抜時間であり得る。
また、本第1実施形態においては、運転操作量31は、脱水槽14での脱水処理において注入される高分子凝集剤の注入率を含む。
【0020】
運転操作量導出装置20は、上記のようなトレンドデータ21及び水質データ22が入力されると、これに対応する、すなわち入力されたトレンドデータ21と水質データ22に表されるような状況下においてこれに対応して実行すべき、運転操作量31を導出する。この導出を効果的に行うために、運転操作量導出装置20は、運転操作量学習部27に設けられた機械学習器40を機械学習することにより生成された学習モデル50を備えている。より詳細には、運転操作量学習部27は、トレンドデータ21及び水質データ22を含む学習データを機械学習器40に入力して機械学習を行い、運転操作量31の導出に関するモデルパラメータを生成する。
すなわち、運転操作量導出装置20は、運転操作量31の学習と、運転操作量31の導出を行う。また、本第1実施形態においては、運転操作量導出装置20はこれに加えて、運転操作量31の導出に際し、入力されたデータ中の特にどの部分が導出に大きな影響を与えたか、その根拠を解析して抽出し、結果を注視、強調表示する。説明を簡単にするために、以下ではまず、運転操作量31の学習時における、運転操作量導出装置20の各構成要素の説明をした後に、運転操作量31の導出時での各構成要素の挙動について説明し、更に、導出根拠抽出表示時の各構成要素の挙動について説明する。
【0021】
運転操作量31の学習時には、学習データを基に、運転操作量学習部27が機械学習器40を機械学習させる。この機械学習器40が深層学習されることにより、学習モデル50が生成される。
学習データは、運転操作量導出装置20が運転操作量31を導出する際に入力されるトレンドデータ(施設パラメータ)21と水質データ(施設パラメータ)22である。より詳細には、学習データは、運転操作量31を学習する時刻を基準時刻とすると、この学習時における基準時刻より前に実際の汚水処理施設1において計測、記録されたトレンドデータ21と水質データ22である。これらトレンドデータ21と水質データ22は、時間の経過とともにその推移が記録された、時系列データである。
【0022】
トレンドデータ21と水質データ22が学習データとして機械学習器40に入力されて機械学習器40を機械学習する際に、機械学習器40は、学習の中途段階において、学習データに対して適していると考えられる運転操作量31を導出する。この、機械学習器40が出力した運転操作量31は、運転操作量データ23と比較される。運転操作量データ23は、汚水処理施設1が、学習データとして機械学習器40に入力されたトレンドデータ21と水質データ22に示される状況下にあると想定したときに、熟練した作業員が汚水処理施設1の設備に対して実施すると考えられる、実際の運転の操作量である。機械学習器40の出力である運転操作量31は、入力された学習データに対応する運転操作量データ23と比較され、この比較結果を反映するように機械学習器40が機械学習される。すなわち、運転操作量データ23は、学習データとして機械学習器40に入力されたトレンドデータ21と水質データ22に対応する、教師データである。
このようにして、機械学習器40は、運転操作量データ23に近い運転操作量31を出力するように学習される。
【0023】
データ蓄積部24は、機械学習器40の学習に使用される、トレンドデータ21、水質データ22、及び運転操作量データ23を記憶、蓄積する。
【0024】
変換画像生成部25は、データ蓄積部24から、トレンドデータ21、水質データ22、及び運転操作量データ23を取得する。変換画像生成部25は、トレンドデータ21と水質データ22の各々から、個別に、変換画像を生成する。
図3は、トレンドデータ21及び水質データ22に対するデータ加工の説明図である。図4は、変換画像の説明図である。
既に説明したように、トレンドデータ21と水質データ22として記録された各施設パラメータ21、22の各々は、時系列データであり、その各々が、横軸を時間軸として、縦軸をその値として示した際に、図3に示されるような関数fとして表現される。説明を簡単にするため、ここでは、施設パラメータ21、22のうち、水温21Aを例にとり説明する。
【0025】
変換画像生成部25は、まず、図3に示されるような、学習時における基準時刻SPより前の時系列データである水温21Aの関数fを、異なる複数の時間間隔I1~I56でそれぞれ切り出し、関数f1~f56を生成する。
本第1実施形態においては、変換画像生成部25は、基準時刻SPから12時間ごと遡った各時刻において、当該時刻の4週間前から当該時刻までの複数の時間間隔I1~I56において関数fを切り出す。本第1実施形態においては、トレンドデータ21と水質データ22は1時間刻みで計測されている。このため、各時間間隔I1~I56のレコード数は、4(週間)×7(日)×24(時間)=672となる。本第1実施形態においては、672を12で除算した値である56を、時間間隔I1~I56の数とした。
このように、変換画像生成部25は、関数fを切り出して、複数の関数f1~f56を生成する。
【0026】
次に、変換画像生成部25は、これらの切り出した複数の関数f1~f56の各々に対し、フーリエ変換を適用し、周波数と時間の2軸のスペクトログラム表現に変換する。本第1実施形態においては、各関数f1~f56を、1/12、1/24、1/36と、分母を12刻みで大きくし、1/672までの、計56種類の周波数成分に分解するように設定した。
図4に示される変換画像49は、各関数f1~f56を上記のようにスペクトログラム表現して縦方向に積層したものである。変換画像49は、56×56の解像度の画像である。変換画像49は1チャネルの画像であり、各画素は、例えば画素値が8ビットで表現される場合には、0から255までの値を取り得る。変換画像49の各行49aは、複数の時間間隔I1~I56の中の1つの時間間隔に対応する、関数f1~f56の各々のスペクトログラム表現である。各列49bは、フーリエ変換時の各周波数成分に対応する。例えば、変換画像49のi行目のj列目の画素は、対応する関数fiをフーリエ変換した際の、j番目の周波数成分に対応する振幅に基づく値を、画素値として有している。
【0027】
変換画像49の各画素には、対応する振幅の値を、例えば画素値が8ビットで表現される場合には、0から255までの値に正規化した値として設定され得る。振幅の値に上限及び下限を設けて、振幅の値として、極端に大きな、あるいは小さな値が導出され得る場合には、振幅をこれら上限あるいは下限として設定するようにしてもよい。
【0028】
変換画像生成部25は、このように、運転状況に関連する複数の施設パラメータ21、22の各々に対し、当該施設パラメータ21、22の推移を関数fで表現したときに、異なる複数の時間間隔I1~I56において関数fをそれぞれ複数の周波数成分に分解し、当該複数の周波数成分の各々に対する振幅に基づく値が、一方の軸を複数の時間間隔I1~I56の各々とし他方の軸を複数の周波数成分の各々とした画像49の画素値として設定された、変換画像49を生成する。
変換画像生成部25は、複数の基準時刻SPに対して、複数のトレンドデータ21、水質データ22の各々に対して、複数の変換画像49を生成する。変換画像生成部25は、基準時刻SPごとに、各トレンドデータ21、水質データ22の変換画像49と、当該基準時刻SPにおける運転操作量データ23とを、それぞれ対応付けて、変換画像蓄積部26に記憶、蓄積する。
【0029】
運転操作量学習部27は、変換画像蓄積部26から、互いに関連付けられた複数の変換画像49と、運転操作量データ23を取得する。
トレンドデータ21と水質データ22の総数が複数個ある場合には、複数個の、1チャネルの変換画像49が互いに関連付けられている。運転操作量学習部27は、これら複数個の変換画像49を積層し、1個の複数チャネルの変換画像49Sを生成する。
運転操作量学習部27は、この積層した変換画像49Sを機械学習器40に入力する。図5は、機械学習器40のブロック図である。本第1実施形態においては、機械学習器40は、画像を入出力とした場合の処理と相性の良い畳み込みニューラルネットワーク(Convolutional Neural Network、以下CNNと記載する)により実現されている。
機械学習器40は、畳み込み処理部41と全結合部42を備えている。畳み込み処理部41は、複数の畳み込み層44を備えている。全結合部42は、入力層46、中間層47、及び出力層48を備えている。
【0030】
運転操作量学習部27は、積層した変換画像49Sを初段の畳み込み層44Aへ入力する。
畳み込み層44Aは、所定の数のフィルタを備えている。機械学習器40は、各フィルタに対し、これを変換画像49S上に位置付け、フィルタ内の変換画像49Sの各画素の画素値に対して、フィルタ内に画素位置に対応して設定された重みを付けて和を計算することで、畳み込みフィルタ処理を実行する。これにより、畳み込み層44Aにおける1つの画素の画素値が演算される。機械学習器40は、フィルタを変換画像49S上で所定の解像度刻みで移動させつつ、このような畳み込みフィルタ処理を実行することで複数の画素値を演算し、これを並べて、フィルタに対応した1枚の画像を生成する。
機械学習器40は、この処理を、畳み込み層44Aの全てのフィルタに対して実行し、フィルタの数に応じた特徴量マップ45Aを生成する。
特徴量マップ45Aに対しては、必要に応じて、バッチ正規化処理やプーリング処理、活性化関数が実行される。
畳み込み層44Aにおいて生成された特徴量マップ45Aは、次段の畳み込み層44の入力画像となる。
【0031】
複数の畳み込み層44の各々において、上記のような特徴量マップ45の生成と次段の畳み込み層44への入力を繰り返す。
各フィルタの重みは、機械学習により調整される。
最終段の畳み込み層44Bの出力である特徴量マップ45Bは、入力層46への入力となる。
【0032】
入力層46は、所定の数の入力ノード46nを備えている。各入力ノード46nは、特徴量マップ45Bの全ての画素値と結合しており、層間に結合荷重を備えている。入力層46においては、この結合荷重に基づいて、特徴量マップ45Bの各画素値情報に対して重み付け和を演算し、その結果にReLU(Rectified Liner Unit)等の出力関数を適用した値が、各入力ノード46nに格納される。
本第1実施形態においては、出力層48の有する出力ノード48nの数は1個である。すなわち、本第1実施形態においては、運転操作量学習部27は、導出対象となる運転操作量31が複数存在する場合には、この各々に対応する機械学習器40を備えており、複数の機械学習器40の各々が、対応する運転操作量31に特化して学習される。
中間層47は、入力層46と出力層48の間に設けられており、隣接する層間においては全てのノード同士が全結合し、ノード間に結合荷重を備えた構成となっている。中間層47及び出力層48の各々のノードにおいては、この結合荷重に基づいて、前段の層の各ノードに対して重み付け和を演算し、その結果に出力関数を適用した値が格納される。
【0033】
機械学習器40においては、入力された変換画像49が、上記のような畳み込み処理部41と全結合部42において処理され、出力ノード48nに処理結果が格納される。運転操作量学習部27は、この処理結果と、機械学習器40に入力された変換画像49に対応する運転操作量データ23との2乗誤差等により表されるコスト関数を小さくするように、誤差逆伝搬法、確率的勾配降下法等により、畳み込み処理部41の各フィルタの重みの値、全結合部42の各結合荷重の値等を調整することで、機械学習器40を機械学習する。
結果として、機械学習器40は、変換画像49が入力されたときに、これに対応する運転操作量データ23に近い運転操作量31を出力するように学習される。学習が終了した時点の特徴量マップ45Bは、畳み込み処理部41により変換画像49に関する特徴が抽出されて反映されたものとなっている。
【0034】
運転操作量学習部27は、学習が終了すると、調整が終了した、特徴量マップ45すなわち各フィルタの重みの値や、全結合部42における結合荷重等のパラメータを、モデルパラメータとして、モデルパラメータ記憶部28に記憶する。モデルパラメータ記憶部28に記憶されたモデルパラメータは、後に説明する運転操作量導出部29において取得され、運転操作量31を推定する学習モデル50が構築される。
すなわち、運転操作量学習部27は、人工知能ソフトウェアの一部であるプログラムモジュールとして利用される、適切な学習パラメータが学習された学習済みの学習モデル50を生成するものである。
【0035】
このように、運転操作量学習部27は、機械学習器40を備え、複数の施設パラメータ21、22の各々に対応する変換画像49を入力とし、変換画像49に対応する運転操作量データ23を教師データとして機械学習器40を深層学習し、運転操作量31の導出に関するモデルパラメータを生成する。
【0036】
次に、運転操作量31の導出時での各構成要素の挙動について説明する。
変換画像生成部25は、データ蓄積部24から、運転操作量31を導出したい時刻、例えば現在の時刻における、トレンドデータ21と水質データ22を取得する。変換画像生成部25は、これらトレンドデータ21と水質データ22の各々に対し、学習時と同様に、複数の変換画像49を生成する。
変換画像生成部25は、これら複数の変換画像49を互いに対応付けて、変換画像蓄積部26に記憶、蓄積する。
【0037】
運転操作量導出部29は、変換画像蓄積部26から、互いに関連付けられた複数の変換画像49を取得する。
運転操作量導出部29は、運転操作量学習部27と同様に、複数の1チャネルの変換画像49を積層し、複数チャネルの変換画像49Sを生成する。
運転操作量導出部29はまた、モデルパラメータ記憶部28からモデルパラメータを取得し、学習モデル50を構築する。学習モデル50は、図5に示される機械学習器40と略同等の構造を備えている。運転操作量導出部29は、この学習モデル50を、例えばCPU上でプログラムとして実行することで、運転操作量31を導出する。
【0038】
運転操作量導出部29が学習モデル50に積層した変換画像49Sを入力すると、学習モデル50は、畳み込み処理部41と全結合部42を順に辿りながら、運転操作量学習部27における機械学習器40と同様な計算処理を実行する。最終的に出力ノード48nから、変換画像49Sに対応する運転操作量31が出力される。
既に説明したように、運転操作量学習部27は、導出対象となる運転操作量31が複数存在する場合には、この各々に対応する機械学習器40を備えており、複数の機械学習器40の各々が、対応する運転操作量31に特化して学習される。運転操作量導出部29も、複数の機械学習器40の各々に対応して、複数の学習モデル50を構築し、この各々に対して積層した変換画像49Sを入力することで、各学習モデル50に対応する運転操作量31を導出する。
【0039】
次に、導出根拠抽出表示時での各構成要素の挙動について説明する。
導出根拠抽出表示時においては、注視領域抽出部30は、運転操作量31の導出に際して学習モデル50へ入力された変換画像49の中の、特にどの部分が導出に大きな影響を与えたか、その根拠を解析して抽出し、結果を注視、強調表示する。ここでは、運転操作量31が複数ある場合において、この中の任意の1つの運転操作量31に対して注視、強調表示を行うことを想定して説明する。
注視領域抽出部30は、変換画像蓄積部26から、運転操作量31の導出時に入力として用いた複数の変換画像49を取得する。
注視領域抽出部30は、運転操作量学習部27と同様に、複数の1チャネルの変換画像49を積層し、複数チャネルの変換画像49Sを生成する。
注視領域抽出部30はまた、モデルパラメータ記憶部28から、解析対象の運転操作量31に対応する学習モデル50のモデルパラメータを取得する。
【0040】
注視領域抽出部30は、まず、出力層48の出力ノード48nに格納される運転操作量31、すなわち目的変数の値をワンホット表現する。
例えば、目的変数yがn種類の値をとる変数とする場合には、目的変数yは次式のように表現される。
【数1】
このように、目的変数yはn次元のベクトルにより表現され、yの値がk(1≦k≦n)番目の値を取るとき、第k成分のみ1で、他の成分は0となる。
【0041】
運転操作量31がスカラー値であり、その下限と上限が規定されるものである場合には、例えば、yとして運転操作量31が下限の値をとる場合とし、yとして運転操作量31が上限の値をとる場合とすることができる。この場合においては、例えば、下限から上限までの数値範囲を所定の間隔でn-1個の領域に分割し、この領域を分割する閾値となる値を、y~yn-1とすることができる。
この場合においては、運転操作量31がy(1≦k≦n)のいずれにも一致しない場合は、運転操作量31に最も近いy(1≦k≦n)の値が適用され得る。
【0042】
ここで、図5に示されるように、学習モデル50における畳み込み処理部41の処理結果、すなわち最終段の特徴量マップ45Bの、チャネル数がm、及び縦と横の大きさが共にlであるものとする。この場合には、最終段の特徴量マップ45BはAij (1≦c≦m、1≦i≦l、1≦j≦l)として表すことができる。
このとき、注視領域抽出部30は、c(1≦m≦c)番目のチャネルに対する重みa を、モデルパラメータ記憶部28から取得した、学習モデル50のモデルパラメータに基づいて、次式により算出する。
【数2】
上式において、Zは正規化係数である。
【0043】
上記のように、注視領域抽出部30は、運転操作量31の導出に際して学習モデル50へ入力された変換画像49の中の、特にどの部分が導出に大きな影響を与えたか、その根拠を解析する。本第1実施形態においては、目的変数yへの影響が大きい変換画像49の部分を、微分係数を平均化することにより特定する。ここでは、微分係数は、数式2に示されるように、目的変数yの特徴量マップ45Bの値Aij による偏微分により表される。すなわち、目的変数yへの影響が大きい変換画像49の部分は、変換画像49内の当該部分に微小な変化を加えた場合の、目的変数yに生じる影響が大きくなるため、微分係数も大きくなる。
この考え方に基づき、注視領域抽出部30は変換画像49の注視、強調表示するべき注視領域を抽出する。
【0044】
注視領域抽出部30は、次に、上記の重みa を用いて、特徴量マップ45Bの全てのチャネルを総合的に考慮した、特徴量マップ45Bの重みBij (1≦i≦l、1≦j≦l)を、次式により計算する。
【数3】
【0045】
注視領域抽出部30は、上記のように計算された、特徴量マップ45Bの重みBij を、変換画像49の画像の大きさ、本第1実施形態においては56×56の解像度へと引き延ばし、拡大する。この拡大は、例えば、56×56の大きさの画像内に、l×lの要素数を有する重みBij の値の各々を、互いに所定の間隔をあけてコピーしたうえで、コピーされた画素間に位置する画素の画素値を、これら重みBij の値がコピーされた画素の画素値を基に、例えばバイリニアで補完することにより行われ得る。あるいは、拡大は、56×56の大きさの画像を、l×lの数の、略同等な大きさの画素領域に分割したうえで、各画素領域内の全ての画素の画素値を、対応する重みBij の値に設定することによっても行われ得る。
【0046】
このようにして、注視領域抽出部30は、l×lの要素数を有する重みBij の値を変換画像49の大きさへと拡大した画像である注視領域画像を生成する。上記のような数式1~3により計算された重みBij の値は、変換画像49の、目的変数yすなわち運転操作量31への影響が大きい注視領域において大きな値となるため、注視領域画像においては、注視領域が明るくなるように強調表示されている。
注視領域抽出部30は、注視領域画像を、積層した変換画像49Sに重ね合わせることで、注視領域が明るく強調表示された注視領域強調画像32を生成する。
【0047】
実際には、運転操作量31の導出に際して学習モデル50へ入力された変換画像49の中の導出に大きな影響を与えた部分を解析する際には、例えば運転操作量31が2番目の値であるyをとることがありその理由を解析したい場合には、上式においてkを2と設定した状態で注視領域画像を生成する。このように、値kを任意に変更することで、運転操作量31のワンホット表現された値の各々における注視領域画像を生成することができる。
【0048】
次に、図1図5、及び図6を用いて、上記の汚水処理施設の運転操作量導出装置20を用いた運転操作量導出方法を説明する。図6(a)は学習時の、図6(b)は運転操作量導出時の、及び図6(c)は導出根拠抽出表示時の、各々におけるフローチャートである。
【0049】
運転操作量31の学習時には、まず、データ蓄積部24は、機械学習器40の学習に使用される、トレンドデータ21、水質データ22、及び運転操作量データ23を記憶、蓄積する(ステップS1)。
変換画像生成部25は、データ蓄積部24から、トレンドデータ21、水質データ22、及び運転操作量データ23を取得する。変換画像生成部25は、トレンドデータ21と水質データ22の各々から、個別に、変換画像を生成する(ステップS3)。
【0050】
より詳細には、変換画像生成部25は、運転状況に関連する複数の施設パラメータ21、22の各々に対し、当該施設パラメータ21、22の推移を関数fで表現したときに、異なる複数の時間間隔I1~I56において関数fをそれぞれ複数の周波数成分に分解し、当該複数の周波数成分の各々に対する振幅に基づく値が、一方の軸を複数の時間間隔I1~I56の各々とし他方の軸を複数の周波数成分の各々とした画像49の画素値として設定された、変換画像49を生成する。
変換画像生成部25は、複数の基準時刻SPに対して、複数のトレンドデータ21、水質データ22の各々に対して、複数の変換画像49を生成する。変換画像生成部25は、基準時刻SPごとに、各トレンドデータ21、水質データ22の変換画像49と、当該基準時刻SPにおける運転操作量データ23とを、それぞれ対応付けて、変換画像蓄積部26に記憶、蓄積する。
【0051】
運転操作量学習部27は、変換画像蓄積部26から、互いに関連付けられた複数の変換画像49と、運転操作量データ23を取得する。
運転操作量学習部27は、複数の施設パラメータ21、22の各々に対応する変換画像49を入力とし、変換画像49に対応する運転操作量データ23を教師データとして機械学習器40を深層学習し、運転操作量31の導出に関するモデルパラメータを生成する(ステップS5)。
運転操作量学習部27は、生成したモデルパラメータを、モデルパラメータ記憶部28に記憶する(ステップS7)。
【0052】
運転操作量31の導出時には、変換画像生成部25は、データ蓄積部24から、運転操作量31を導出したい時刻、例えば現在の時刻における、トレンドデータ21と水質データ22を取得する(ステップS11)。変換画像生成部25は、これらトレンドデータ21と水質データ22の各々に対し、学習時と同様に、複数の変換画像49を生成する(ステップS13)。
変換画像生成部25は、これら複数の変換画像49を互いに対応付けて、変換画像蓄積部26に記憶、蓄積する。
【0053】
運転操作量導出部29は、変換画像蓄積部26から、互いに関連付けられた複数の変換画像49を取得する。
運転操作量導出部29は、運転操作量学習部27と同様に、複数の1チャネルの変換画像49を積層し、複数チャネルの変換画像49Sを生成する。
運転操作量導出部29はまた、モデルパラメータ記憶部28からモデルパラメータを取得し、学習モデル50を構築する(ステップS15)。
運転操作量導出部29が学習モデル50に積層した変換画像49Sを入力すると、学習モデル50は、畳み込み処理部41と全結合部42を順に辿りながら、運転操作量学習部27における機械学習器40と同様な計算処理を実行する。最終的に出力ノード48nから、変換画像49Sに対応する運転操作量31が出力される(ステップS17)。
【0054】
導出根拠抽出表示時には、注視領域抽出部30は、変換画像蓄積部26から、運転操作量31の導出時に入力として用いた複数の変換画像49を取得する(ステップS21)。
注視領域抽出部30は、運転操作量学習部27と同様に、複数の1チャネルの変換画像49を積層し、複数チャネルの変換画像49Sを生成する。
注視領域抽出部30はまた、モデルパラメータ記憶部28から、解析対象の運転操作量31に対応する学習モデル50のモデルパラメータを取得する。
【0055】
注視領域抽出部30は、数式1~3に基づいて、重みBij の値を計算し、l×lの要素数を有する重みBij の値を変換画像49の大きさへと拡大した画像である注視領域画像を生成する(ステップS23)。
注視領域抽出部30は、注視領域画像を、積層した変換画像49Sに重ね合わせることで、注視領域が明るく強調表示された注視領域強調画像32を生成する(ステップS25)。
【0056】
次に、上記の汚水処理施設の運転操作量導出装置及び運転操作量導出方法の効果について説明する。
【0057】
本実施形態の汚水処理施設1の運転操作量導出装置20は、汚水処理施設1の運転状況を、水質の改善を目的として変更するに際し、汚水処理施設1内の設備の運転操作量31を導出する、汚水処理施設1の運転操作量導出装置20であって、運転状況に関連する複数の施設パラメータ21、22の各々に対し、当該施設パラメータ21、22の推移を関数fで表現したときに、異なる複数の時間間隔I1~I56において関数fをそれぞれ複数の周波数成分に分解し、当該複数の周波数成分の各々に対する振幅に基づく値が、一方の軸を複数の時間間隔I1~I56の各々とし他方の軸を複数の周波数成分の各々とした画像の画素値として設定された、変換画像49を生成する、変換画像生成部25と、機械学習器40を備え、複数の施設パラメータ21、22の各々に対応する変換画像49を入力とし、変換画像49に対応する運転操作量データ23を教師データとして機械学習器40を深層学習し、運転操作量31の導出に関するモデルパラメータを生成する、運転操作量学習部27と、モデルパラメータを用いて構築した学習モデル50により運転操作量31を導出する、運転操作量導出部29と、を備えている。
また、本実施形態の汚水処理施設1の運転操作量導出方法は、汚水処理施設1の運転状況を、水質の改善を目的として変更するに際し、汚水処理施設1内の設備の運転操作量31を導出する、汚水処理施設1の運転操作量導出方法であって、運転状況に関連する複数の施設パラメータ21、22の各々に対し、当該施設パラメータ21、22の推移を関数fで表現したときに、異なる複数の時間間隔I1~I56において関数fをそれぞれ複数の周波数成分に分解し、当該複数の周波数成分の各々に対する振幅に基づく値が、一方の軸を複数の時間間隔I1~I56の各々とし他方の軸を複数の周波数成分の各々とした画像の画素値として設定された、変換画像49を生成し、複数の施設パラメータ21、22の各々に対応する変換画像49を入力とし、変換画像49に対応する運転操作量データ23を教師データとして機械学習器40を深層学習し、運転操作量31の導出に関するモデルパラメータを生成し、モデルパラメータを用いて構築した学習モデル50により運転操作量31を導出する。
上記のような構成によれば、時系列データとして与えられた施設パラメータ21、22が変換画像49に変換され、これが機械学習器40の学習、及び学習モデル50による運転操作量31の導出に入力として使用される。すなわち、機械学習器40や学習モデル50の入力が、一覧性が高く、一見してデータの傾向を理解し得る画像であるため、機械学習器40や学習モデル50にどのようなデータが与えられたかを理解するのが容易である。このため、何らかの問題が生じた際に、例えばそれが入力データのどの部分に起因したものなのかを解析することも容易である。
これにより、入力となる時系列データの視認性及び解析性を向上可能な、汚水処理施設1の運転操作量導出装置20及び運転操作量導出方法を提供可能である。
【0058】
汚水処理においては、熟練した作業員が運転操作量31を決定する際に、1週間先、2週間先等の、長期的な視点で注目している施設パラメータ21、22もあれば、数時間先、1日先等の、短期的な視点で注目している施設パラメータ21、22もあり、考慮すべきタイムスケールは、対象となる運転操作量31や、その折々の汚水処理施設1の状況によっても異なる。
特に本実施形態においては、このような熟練した作業員の、経験や勘、ノウハウに基づく高度な状況判断を、高精度にモデル化するため、時系列データを時間と周波数の2軸でスペクトログラム表現した変換画像49を入力としている。これにより、熟練した作業員が過去、どの程度の時間を遡って、かつ、どの程度のタイムスケールで汚水処理施設1の状況を把握して、運転操作量31を決定しているのかを、可視化することができる。
【0059】
また、運転操作量学習部27は、機械学習器40に変換画像49を入力し、モデルパラメータは、変換画像49に関する特徴を特徴量マップ45Bとして有し、当該特徴量マップ45Bを基に、学習モデル50に入力される変換画像49の、学習モデル50が出力する運転操作量31への影響が大きい注視領域を抽出した注視領域画像を生成し、注視領域画像を変換画像49に重ね合わせて、注視領域が強調表示された注視領域強調画像32を生成する、注視領域抽出部30を備えている。
上記のような構成によれば、変換画像49の、学習モデル50が出力する運転操作量31への影響が大きい注視領域を抽出することができるため、運転操作量31の導出に際して学習モデル50へ入力された変換画像49の中の、特にどの部分が導出に大きな影響を与えたか、その根拠を解析して抽出し、結果を注視、強調表示することができる。
このため、例えば機械学習器40の教師データである運転操作量データ23を熟練した作業員が作成した場合においては、熟練した作業員の運転操作量31を決定する際の根拠、すなわち、熟練した作業員であればどのような状況に着目してどのように汚水処理施設1を運転操作するのかを、明確に認識し、理解することができる。
【0060】
また、注視領域抽出部30は、注視領域に相当する画素が強調表示された、変換画像49と同じ解像度の注視領域画像を生成し、当該注視領域画像を変換画像49に重ね合わせることで、注視領域が強調表示された注視領域強調画像32を生成する。
上記のような構成によれば、注視領域が強調表示された注視領域強調画像32を閲覧することで、変換画像49中の注視領域を簡単かつ明確に視認することができる。
【0061】
また、複数の運転操作量31を対象とし、運転操作量学習部27は、各運転操作量31に応じた複数の機械学習器40を備え、複数の機械学習器40の各々は、畳み込み処理部41と全結合部42を備えるCNNで実現されており、全結合部42の出力層48は、複数の運転操作量31の中の1つに対応する、1つの出力ノード48nを備えている。
複数の運転操作量31に対して、これらの導出を1つの学習モデル50で行う場合においては、これに対応する数だけの出力ノード48nを、学習モデル50の出力層48が有する構成となる。このような場合において、機械学習器40の、特徴量マップ45Bをはじめとするモデルパラメータは、複数の運転操作量31の各々を考慮して、これら全てに影響されるように、機械学習器40は機械学習される。このため、モデルパラメータを用いて注視領域を抽出しても、学習モデル50における運転操作量31の各々に関する導出根拠がわかりにくくなる。
これに対し、上記のような構成によれば、運転操作量学習部27は、各運転操作量31に応じた複数の機械学習器40を備え、各機械学習器40は対応した運転操作量31を出力する出力ノード48nを1つのみ備えている。したがって、機械学習器40のモデルパラメータは、対応する運転操作量31のみを考慮するように、機械学習器40は機械学習される。このため、モデルパラメータを用いて注視領域を抽出した場合に、運転操作量31の導出根拠を明確に認識することができる。
【0062】
また、複数の施設パラメータ21、22は、汚泥濃度及び汚泥流量を含むトレンドデータ21と、汚水処理施設において処理される水の水質データ22を含む。
上記のような構成によれば、汚泥濃度及び汚泥流量を含むトレンドデータ21と、汚水処理施設において処理される水の水質データ22に対応する変換画像49の中の、特にどの部分が導出に大きな影響を与えたか、その根拠を解析して抽出し、結果を注視、強調表示することができる。
【0063】
[第1実施形態の変形例]
次に、図7を用いて、上記実施形態として示した汚水処理施設の運転操作量導出装置及び運転操作量導出方法の変形例を説明する。図7は、本変形例における機械学習器60及び学習モデル70の説明図である。本変形例における運転操作量導出装置は、上記実施形態の運転操作量導出装置20とは、機械学習器60及び学習モデル70の構造が異なっている。
【0064】
上記第1実施形態においては、運転操作量学習部27は、複数のトレンドデータ21と水質データ22の各々に対応する、複数個の、1チャネルの変換画像49を積層し、1個の複数チャネルの変換画像49Sを生成して、これを機械学習器40への入力としていた。運転操作量導出部29も同様に、複数チャネルの変換画像49Sを生成して、これを学習モデル50への入力としていた。これに伴い、機械学習器40及び学習モデル50は、1つの畳み込み処理部41を備えた構成となっていた。
これに対し、本変形例における機械学習器60と学習モデル70は、トレンドデータ21と水質データ22の数に対応した、複数の畳み込み処理部61を備えており、トレンドデータ21と水質データ22の各々に対応する、複数個の、1チャネルの変換画像49は、積層されずにそのまま、対応する畳み込み処理部61へと入力される。
機械学習器60と学習モデル70の全結合部62の数は、上記第1実施形態と同様に1個である。全結合部62の入力層66においては、全ての畳み込み処理部61の最終段の特徴量マップ65Bが入力ノード66nに入力され、この値が中間層67を伝搬して出力層68の出力ノード68nに格納される。
このように、本変形例においては、複数の施設パラメータ21、22の各々に対して、特徴量マップ65Bを備えている。
【0065】
注視領域抽出部30は、変換画像蓄積部26から、運転操作量31の導出時に入力として用いた複数の変換画像49を、及びモデルパラメータ記憶部28から、解析対象の運転操作量31に対応する学習モデル60のモデルパラメータを取得する。このモデルパラメータには、上記の複数の特徴量マップ65Bが含まれる。
注視領域抽出部30は、複数チャネルの変換画像49Sを生成せずに、トレンドデータ21と水質データ22の各々に対応する変換画像49に対し、個別に、対応する特徴量マップ65Bの値に基づき数式1~3によって重みBij の値を計算する。結果として、注視領域抽出部30は、トレンドデータ21と水質データ22の各々に対応した注視領域画像を生成する。注視領域抽出部30は、複数の注視領域画像の各々を、対応する変換画像49に重ね合わせることで、各変換画像49に対して、個別に注視領域が強調表示された注視領域強調画像32を生成する。
【0066】
本変形例が、既に説明した第1実施形態と同様な効果を奏することは言うまでもない。
特に本変形例においては、モデルパラメータは、特徴量マップ65Bを、複数の施設パラメータ21、22の各々に対して有しており、注視領域抽出部30は、複数の施設パラメータ21、22の各々に対して、当該施設パラメータ21、22に対応する特徴量マップ65Bを基に、個別に注視領域を抽出して注視領域画像を生成する。
上記のような構成によれば、複数の施設パラメータ21、22の各々に対して、個別に、注視領域を抽出して注視領域画像を生成することができる。このため、入力となる時系列データの視認性及び解析性をより向上可能な、汚水処理施設1の運転操作量導出装置及び運転操作量導出方法を提供可能である。
【0067】
[第2実施形態]
次に、第2実施形態における汚水処理施設1の運転操作量導出装置を説明する。本第2実施形態においては、上記第1実施形態と共通する構成については図中に同じ符号を付して説明を省略する。図8は、本第2実施形態における運転操作量導出装置80のブロック図である。本第2実施形態は、特に、運転操作量学習部87、モデルパラメータ記憶部88、運転操作量導出部89、及び注視領域抽出部90の動作が上記第1実施形態とは異なっている。更に、本第2実施形態の運転操作量導出装置80は、AE学習部91を備えている。特に本第2実施形態においては、これら各部の動作を中心に説明する。
運転操作量導出装置80は、第1実施形態における運転操作量導出装置20と同様に、図1を用いて説明した汚水処理施設1に用いられている。
【0068】
第1実施形態と同様に、以下では、運転操作量31の学習時における、運転操作量導出装置80の各構成要素の説明をした後に、運転操作量31の導出時での各構成要素の挙動について説明し、更に、導出根拠抽出表示時の各構成要素の挙動について説明する。
【0069】
運転操作量導出装置80は、AE学習部91を備えている。AE学習部91は、畳み込みオートエンコーダ(Convolutional Autoencoder)により実現された、AE機械学習器100を備えている。AE機械学習器100は、人工知能ソフトウェアの一部であるプログラムモジュールとして利用される、適切な学習パラメータが学習された学習済みモデルを生成するものである。
運転操作量31の学習時には、変換画像生成部25が、複数のトレンドデータ21、水質データ22の各々に対して、複数の変換画像49を生成し、変換画像蓄積部26に記憶、蓄積した後に、AE学習部91がAE機械学習器100を学習させる。
【0070】
図9は、AE機械学習器100と、機械学習器40の間の処理の流れに関する説明図である。図10は、AE機械学習器100のブロック図である。
AE機械学習器100は、畳み込み処理部101、全結合層102、及び逆畳み込み処理部103を備えている。
AE学習部91は、変換画像蓄積部26から変換画像49を取得し、これを一枚ずつ、畳み込み処理部101へ入力する。畳み込み処理部101の各畳み込み層は、機械学習器40の畳み込み処理部41と同様な処理を実行した後、これを全結合層102へ入力する。全結合層102においても、機械学習器40の全結合部42と同様な処理が実行される。全結合層102における実行結果は、逆畳み込み処理部103に入力される。
逆畳み込み処理部103においては、畳み込み処理部101と対称的な処理が実行される。すなわち、変換画像49は畳み込み処理部101により全結合層102に至るまでに低次元に圧縮されたが、逆畳み込み処理部103においては、低次元に圧縮された状態から復元されるように動作する。これにより、変換画像49と同じ解像度を備える出力画像111が生成される。
AE機械学習器100においては、この生成された画像111が、変換画像49を再現した再現画像111となるように、機械学習が行われる。
AE機械学習器100の学習が終了すると、AE学習部91は、AE機械学習器100のモデルパラメータをモデルパラメータ記憶部88に記憶する。
【0071】
運転操作量学習部87は、モデルパラメータ記憶部88からAE機械学習器100のモデルパラメータを取得し、AE学習モデル110を構築する。AE学習モデル110は、AE機械学習器100と略同等の構造を備えている。運転操作量学習部87は、このAE学習モデル110を、例えばCPU上でプログラムとして実行することで、次のように差分画像112を生成する。
運転操作量学習部87は、変換画像蓄積部26から、互いに関連付けられた複数の変換画像49と、運転操作量データ23を取得し、複数の変換画像49の各々を、個別にAE学習モデル110に入力することで、各変換画像49に対応した出力画像111を生成する。運転操作量学習部87は、各変換画像49と、対応する出力画像111との差分を取ることで、差分画像112を生成する。
運転操作量学習部87は、この差分画像112を積層し、1個の複数チャネルの差分画像112Sを生成し、これを用いて機械学習器40を機械学習する。
【0072】
汚水処理において、熟練した作業員が運転操作量31を変更するのは、入力データ、すなわちトレンドデータ21や水質データ22が、普段の運転状態と異なっている場合に対処するときである。すなわち、オートエンコーダに通常の変換画像49を学習させておくと、通常とは異なる、すなわち何らかの運転操作量31の変更を要する状態に相当する変換画像49に対しては、出力となる再現画像111が、通常とは異なり、特に通常時に対して変化が顕著な部分については、入力された変換画像49とは異なる画像が出力される。本第2実施形態においては、これらの差分を取ることにより、学習モデル50が出力する運転操作量31への影響が大きい注視領域を抽出することを意図している。
【0073】
機械学習器40の機械学習は、上記第1実施形態と同様に実行されるため、説明を省略する。機械学習器40は、上記のような、何らかの運転操作量31の変更が必要となる状態が反映された差分画像112を入力として機械学習されるため、第1実施形態において変換画像49を入力とした場合と同様に、効果的に運転操作量31を出力するように学習可能である。
【0074】
運転操作量学習部87は、学習が終了すると、調整が終了した、特徴量マップ45すなわち各フィルタの重みの値や、全結合部42における結合荷重等のパラメータを、モデルパラメータとして、モデルパラメータ記憶部88に記憶する。
すなわち、運転操作量学習部87は、人工知能ソフトウェアの一部であるプログラムモジュールとして利用される、適切な学習パラメータが学習された学習済みの学習モデル50を生成するものである。
【0075】
次に、運転操作量31の導出時での各構成要素の挙動について説明する。
運転操作量導出部89は、変換画像蓄積部26から、互いに関連付けられた複数の変換画像49を取得する。
運転操作量導出部89は、モデルパラメータ記憶部88から、機械学習器40及びAE機械学習器100のモデルパラメータを取得し、学習モデル50とAE学習モデル110を構築する。学習モデル50は、図5に示される機械学習器40と略同等の構造を備えている。運転操作量導出部89は、この学習モデル50を、例えばCPU上でプログラムとして実行することで、運転操作量31を導出する。
【0076】
運転操作量導出部89は、AE学習モデル110に複数の変換画像49を個別に入力して、各変換画像49に対応した出力画像111を生成する。運転操作量導出部89は、各変換画像49と、対応する出力画像111との差分を取ることで、差分画像112を生成する。
運転操作量導出部89は、この差分画像112を積層し、1個の複数チャネルの差分画像112Sを生成する。運転操作量導出部89は、学習モデル50に積層した差分画像112Sを入力すると、学習モデル50は、畳み込み処理部41と全結合部42を順に辿り、出力ノード48nに、差分画像112Sに対応する運転操作量31を出力する。
上記の第1実施形態と同様に、運転操作量学習部87は、導出対象となる運転操作量31が複数存在する場合には、この各々に対応する機械学習器40を備えており、複数の機械学習器40の各々が、対応する運転操作量31に特化して学習される。運転操作量導出部89も、複数の機械学習器40の各々に対応して、複数の学習モデル50を構築し、この各々に対して対応する差分画像112Sを入力することで、各学習モデル50に対応する運転操作量31を導出する。
運転操作量導出部89は、差分画像112の各々を、当該差分画像112を生成した際のAE学習モデル110への入力となった変換画像49に対応付けて、変換画像蓄積部26に記憶、蓄積する。
【0077】
次に、導出根拠抽出表示時での各構成要素の挙動について説明する。
注視領域抽出部90は、変換画像蓄積部26から、変換画像49と、これに対応付けられた差分画像112を取得する。
上記のように、差分画像112は、変換画像49と出力画像111の差分を取ることにより生成されている。すなわち、差分画像112は、何らかの運転操作量31の変更を要する状態に相当する変換画像49に対して、特に通常時に対して変化が顕著な部分が強調表示されたものであり、上記第1実施形態における注視領域画像に相当する。
したがって、注視領域抽出部90は、この注視領域画像を変換画像49に重ね合わせることにより、注視領域が強調表示された注視領域強調画像32を生成する。
【0078】
次に、図8図10、及び図11を用いて、上記の汚水処理施設の運転操作量導出装置80を用いた運転操作量導出方法を説明する。図11(a)は学習時の、図11(b)は運転操作量導出時の、及び図11(c)は導出根拠抽出表示時の、各々におけるフローチャートである。
【0079】
運転操作量31の学習時には、変換画像生成部25が、複数のトレンドデータ21、水質データ22の各々に対して、複数の変換画像49を生成し、変換画像蓄積部26に記憶、蓄積した(ステップS3)後に、AE学習部91がAE機械学習器100を学習させる(ステップS34)。
AE機械学習器100においては、変換画像49を入力して生成された画像111が、変換画像49を再現した再現画像111となるように、機械学習が行われる。
AE機械学習器100の学習が終了すると、AE学習部91は、AE機械学習器100のモデルパラメータをモデルパラメータ記憶部88に記憶する。
【0080】
運転操作量学習部87は、モデルパラメータ記憶部88からAE機械学習器100のモデルパラメータを取得し、AE学習モデル110を構築する。
運転操作量学習部87は、変換画像蓄積部26から、互いに関連付けられた複数の変換画像49と、運転操作量データ23を取得し、複数の変換画像49の各々を、個別にAE学習モデル110に入力することで、各変換画像49に対応した出力画像111を生成する。運転操作量学習部87は、各変換画像49と、対応する出力画像111との差分を取ることで、差分画像112を生成する。
運転操作量学習部87は、この差分画像112を積層し、1個の複数チャネルの差分画像112Sを生成し、これを用いて機械学習器40を機械学習する(ステップS35)。
運転操作量学習部87は、学習が終了すると、調整が終了した、特徴量マップ45すなわち各フィルタの重みの値や、全結合部42における結合荷重等のパラメータを、モデルパラメータとして、モデルパラメータ記憶部88に記憶する(ステップS37)。
【0081】
運転操作量31の導出時には、変換画像生成部25が変換画像49を生成し(ステップS13)、変換画像蓄積部26に互いに関連付けられた複数の変換画像49を記憶、蓄積すると、運転操作量導出部89は、変換画像蓄積部26からこれを取得する。
運転操作量導出部89は、モデルパラメータ記憶部88から、機械学習器40及びAE機械学習器100のモデルパラメータを取得し、学習モデル50とAE学習モデル110を構築する(ステップS44、S45)。
運転操作量導出部89は、AE学習モデル110に複数の変換画像49を個別に入力して、各変換画像49に対応した出力画像111を生成する。運転操作量導出部89は、各変換画像49と、対応する出力画像111との差分を取ることで、差分画像112を生成する。
運転操作量導出部89は、この差分画像112を積層し、1個の複数チャネルの差分画像112Sを生成する。運転操作量導出部89は、学習モデル50に積層した差分画像112Sを入力すると、学習モデル50は、畳み込み処理部41と全結合部42を順に辿り、出力ノード48nに、差分画像112Sに対応する運転操作量31を出力する(ステップS47)。
運転操作量導出部89は、差分画像112の各々を、当該差分画像112を生成した際のAE学習モデル110への入力となった変換画像49に対応付けて、変換画像蓄積部26に記憶、蓄積する。
【0082】
導出根拠抽出表示時には、注視領域抽出部90は、変換画像蓄積部26から、変換画像49と、これに対応付けられた差分画像112を取得する(ステップS51)。
注視領域抽出部90は、この差分画像112を注視領域画像として変換画像49に重ね合わせることにより、注視領域が強調表示された注視領域強調画像32を生成する(ステップS53)。
【0083】
次に、上記の汚水処理施設1の運転操作量導出装置及び運転操作量導出方法の効果について説明する。
【0084】
本実施形態の汚水処理施設1の運転操作量導出装置80は、汚水処理施設1の運転状況を、水質の改善を目的として変更するに際し、汚水処理施設1内の設備の運転操作量31を導出する、汚水処理施設1の運転操作量導出装置80であって、運転状況に関連する複数の施設パラメータ21、22の各々に対し、当該施設パラメータ21、22の推移を関数fで表現したときに、異なる複数の時間間隔I1~I56において関数fをそれぞれ複数の周波数成分に分解し、当該複数の周波数成分の各々に対する振幅に基づく値が、一方の軸を複数の時間間隔I1~I56の各々とし他方の軸を複数の周波数成分の各々とした画像の画素値として設定された、変換画像49を生成する、変換画像生成部25と、機械学習器40を備え、複数の施設パラメータ21、22の各々に対応する差分画像112(変換画像49を基にした画像)を入力とし、変換画像49に対応する運転操作量データ23を教師データとして機械学習器40を深層学習し、運転操作量31の導出に関するモデルパラメータを生成する、運転操作量学習部87と、モデルパラメータを用いて構築した学習モデル50により運転操作量31を導出する、運転操作量導出部89と、を備えている。
また、本実施形態の汚水処理施設1の運転操作量導出方法は、汚水処理施設1の運転状況を、水質の改善を目的として変更するに際し、汚水処理施設1内の設備の運転操作量31を導出する、汚水処理施設1の運転操作量導出方法であって、運転状況に関連する複数の施設パラメータ21、22の各々に対し、当該施設パラメータ21、22の推移を関数fで表現したときに、異なる複数の時間間隔I1~I56において関数fをそれぞれ複数の周波数成分に分解し、当該複数の周波数成分の各々に対する振幅に基づく値が、一方の軸を複数の時間間隔I1~I56の各々とし他方の軸を複数の周波数成分の各々とした画像の画素値として設定された、変換画像49を生成し、複数の施設パラメータ21、22の各々に対応する差分画像112(変換画像49を基にした画像)を入力とし、変換画像49に対応する運転操作量データ23を教師データとして機械学習器40を深層学習し、運転操作量31の導出に関するモデルパラメータを生成し、モデルパラメータを用いて構築した学習モデル50により運転操作量31を導出する。
上記のような構成によれば、時系列データとして与えられた施設パラメータ21、22が変換画像49に変換され、これを基にした差分画像112が機械学習器40の学習、及び学習モデル50による運転操作量31の導出に入力として使用される。すなわち、機械学習器40や学習モデル50の入力が、一覧性が高く、一見してデータの傾向を理解し得る画像であるため、機械学習器40や学習モデル50にどのようなデータが与えられたかを理解するのが容易である。このため、何らかの問題が生じた際に、例えばそれが入力データのどの部分に起因したものなのかを解析することも容易である。
これにより、入力となる時系列データの視認性及び解析性を向上可能な、汚水処理施設1の運転操作量導出装置80及び運転操作量導出方法を提供可能である。
【0085】
汚水処理においては、熟練した作業員が運転操作量31を決定する際に、1週間先、2週間先等の、長期的な視点で注目している施設パラメータ21、22もあれば、数時間先、1日先等の、短期的な視点で注目している施設パラメータ21、22もあり、考慮すべきタイムスケールは、対象となる運転操作量31や、その折々の汚水処理施設1の状況によっても異なる。
特に本実施形態においては、このような熟練した作業員の、経験や勘、ノウハウに基づく高度な状況判断を、高精度にモデル化するため、時系列データを時間と周波数の2軸でスペクトログラム表現した変換画像49を基にした差分画像112を入力としている。これにより、熟練した作業員が過去、どの程度の時間を遡って、かつ、どの程度のタイムスケールで汚水処理施設1の状況を把握して、運転操作量31を決定しているのかを、可視化することができる。
【0086】
また、運転操作量学習部87は、変換画像49と、当該変換画像49に畳み込みオートエンコーダを適用した出力画像111との差分画像112を、機械学習器40に入力し、差分画像112を変換画像49に重ね合わせることで、差分画像112中の学習モデル50が出力する運転操作量31への影響が大きい注視領域が抽出され強調表示された注視領域強調画像32を生成する、注視領域抽出部90を備えている。
上記のような構成によれば、既に説明したように、差分画像112により、学習モデル50が出力する運転操作量31への影響が大きい注視領域が抽出されるため、変換画像49の中の、特にどの部分が導出に大きな影響を与えたか、その根拠を解析して抽出し、結果を注視、強調表示することができる。
このため、例えば機械学習器40の教師データである運転操作量データ23を熟練した作業員が作成した場合においては、熟練した作業員の運転操作量31を決定する際の根拠、すなわち、熟練した作業員であればどのような状況に着目してどのように汚水処理施設1を運転操作するのかを、明確に認識し、理解することができる。
【0087】
また、複数の運転操作量31を対象とし、運転操作量学習部87は、各運転操作量31に応じた複数の機械学習器40を備え、複数の機械学習器40の各々は、畳み込み処理部41と全結合部42を備えるCNNで実現されており、全結合部42の出力層48は、複数の運転操作量31の中の1つに対応する、1つの出力ノード48nを備えている。
複数の運転操作量31に対して、これらの導出を1つの学習モデル50で行う場合においては、これに対応する数だけの出力ノード48nを、学習モデル50の出力層48が有する構成となる。このような場合において、機械学習器40の、特徴量マップ45Bをはじめとするモデルパラメータは、複数の運転操作量31の各々を考慮して、これら全てに影響されるように、機械学習器40は機械学習される。このため、モデルパラメータを用いて注視領域を抽出しても、学習モデル50における運転操作量31の各々に関する導出根拠がわかりにくくなる。
これに対し、上記のような構成によれば、運転操作量学習部87は、各運転操作量31に応じた複数の機械学習器40を備え、各機械学習器40は対応した運転操作量31を出力する出力ノード48nを1つのみ備えている。したがって、機械学習器40のモデルパラメータは、対応する運転操作量31のみを考慮するように、機械学習器40は機械学習される。このため、モデルパラメータを用いて注視領域を抽出した場合に、運転操作量31の導出根拠を明確に認識することができる。
【0088】
また、複数の施設パラメータ21、22は、汚泥濃度及び汚泥流量を含むトレンドデータ21と、汚水処理施設において処理される水の水質データ22を含む。
上記のような構成によれば、汚泥濃度及び汚泥流量を含むトレンドデータ21と、汚水処理施設において処理される水の水質データ22に対応する変換画像49の中の、特にどの部分が導出に大きな影響を与えたか、その根拠を解析して抽出し、結果を注視、強調表示することができる。
【0089】
なお、本発明の汚水処理施設の運転操作量導出装置及び運転操作量導出方法は、図面を参照して説明した上述の各実施形態及び変形例に限定されるものではなく、その技術的範囲において他の様々な変形例が考えられる。
【0090】
例えば、上記各実施形態及び変形例において、トレンドデータ21を汚水処理施設1の運転状況に関連する、汚泥濃度や汚泥流量、水温等としたが、トレンドデータ21は、運転操作量31として導出される値、例えば送風量を含んでも構わない。運転操作量31の要素、例えば送風量がトレンドデータ21に含まれた場合には、トレンドデータ21としての送風量は、運転操作量31としての送風量を導出する際には使用されないが、送風量以外の他の運転操作量31を導出する際の入力としては使用され得る。
また、上記第2実施形態においては、複数の、トレンドデータ21と水質データ22の各々に対応する変換画像49は、1つの、すなわち共通のAE機械学習器100及びAE学習モデル110に入力されていたが、これに替えて、トレンドデータ21と水質データ22の各々に対応して、個別に、AE機械学習器及びAE学習モデルが備えられていてもよい。
【0091】
これ以外にも、本発明の主旨を逸脱しない限り、上記各実施形態及び変形例で挙げた構成を取捨選択したり、他の構成に適宜変更したりすることが可能である。
例えば、上記第2実施形態の運転操作量導出装置80において、機械学習器40及び学習モデル50が、上記第1実施形態の変形例の機械学習器60及び学習モデル70のように、トレンドデータ21と水質データ22の数に対応した、複数の畳み込み処理部61を備え、この各々に、対応する差分画像112が入力されるように構成されていてもよい。
【符号の説明】
【0092】
1 汚水処理施設
20、80 運転操作量導出装置
21 トレンドデータ(施設パラメータ)
22 水質データ(施設パラメータ)
23 運転操作量データ
24 データ蓄積部
25 変換画像生成部
26 変換画像蓄積部
27、87 運転操作量学習部
28、88 モデルパラメータ記憶部
29、89 運転操作量導出部
30、90 注視領域抽出部
31 運転操作量
32 注視領域強調画像
40、60 機械学習器
49 変換画像
50、70 学習モデル
45、45B、65B、Aij 特徴量マップ
91 AE学習部
100 AE機械学習器(畳み込みオートエンコーダ)
110 AE学習モデル(畳み込みオートエンコーダ)
111 出力画像
112 差分画像(変換画像を基にした画像)
f 関数
I1~I56 時間間隔
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11