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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-20
(45)【発行日】2023-11-29
(54)【発明の名称】エポキシ樹脂組成物及びその硬化物
(51)【国際特許分類】
   C08L 63/00 20060101AFI20231121BHJP
   C08K 5/17 20060101ALI20231121BHJP
   C08L 83/12 20060101ALI20231121BHJP
   C08L 71/00 20060101ALI20231121BHJP
   C08K 5/13 20060101ALI20231121BHJP
   C08K 5/09 20060101ALI20231121BHJP
   C08K 5/524 20060101ALI20231121BHJP
【FI】
C08L63/00 C
C08K5/17
C08L83/12
C08L71/00 Z
C08K5/13
C08K5/09
C08K5/524
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020056068
(22)【出願日】2020-03-26
(65)【公開番号】P2020172634
(43)【公開日】2020-10-22
【審査請求日】2023-01-27
(31)【優先権主張番号】P 2019076576
(32)【優先日】2019-04-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大野 雄磨
(72)【発明者】
【氏名】花岡 拓磨
【審査官】中落 臣諭
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-186693(JP,A)
【文献】特表2016-503114(JP,A)
【文献】特開2007-308559(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L1/00-101/14
C08K3/00-13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記成分(A)~(C)を含有するエポキシ樹脂組成物。
(A)10℃における粘度が250Pa・s以下の主剤エポキシ樹脂
(B)下記一般式(1)で示されるジアミンと、少なくとも1つのエポキシ基を有するエポキシ化合物との反応生成物(b1)を含むエポキシ樹脂硬化剤
N-HC-A-CH-NH (1)
(式(1)中、Aはシクロヘキシレン基又はフェニレン基である。)
(C)23℃における表面張力が20.5~28.0dyne/cmである添加剤
【請求項2】
前記成分(C)の23℃における表面張力が20.5~23.5dyne/cmである、請求項1に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項3】
前記成分(C)がポリエーテル構造を有するシリコーン系添加剤及びポリエーテル構造を有するアクリル系添加剤からなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項1又は2に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項4】
前記成分(C)の含有量が0.005~0.5質量%である、請求項1~3のいずれか1項に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項5】
前記反応生成物(b1)が1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサンと、ビスフェノールAから誘導されたグリシジルオキシ基を有する多官能エポキシ樹脂との反応生成物である、請求項1~4のいずれか1項に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項6】
さらに成分(D)として硬化促進剤を含有する、請求項1~5のいずれか1項に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項7】
前記成分(D)がフェノール化合物、有機酸類、及び有機リン系化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項6に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項8】
前記成分(D)がp-tert-ブチルフェノール、サリチル酸、及び亜リン酸トリフェニルからなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項7に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載のエポキシ樹脂組成物の硬化物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はエポキシ樹脂組成物及びその硬化物に関する。
【背景技術】
【0002】
各種ポリアミンをエポキシ樹脂硬化剤として用いたエポキシ樹脂組成物は、船舶・橋梁・陸海上鉄構築物用の防食塗料等の塗料分野、コンクリート構造物のライニング・補強・補修材、建築物の床材、上下水道のライニング、舗装材、接着剤等の土木・建築分野に広く利用されている。
【0003】
ビス(アミノメチル)シクロヘキサン及びキシリレンジアミンからなる群から選ばれるジアミンとエポキシ化合物との付加反応物である変性ポリアミン化合物は、エポキシ樹脂硬化剤として用いると硬化性が良好なエポキシ樹脂組成物が得られ、その硬化物は塗膜性能及び硬化物物性に優れることが知られている。
例えば特許文献1には、少なくとも1つ以上のグリシジル基を有する化合物と、ビス(アミノメチル)シクロヘキサン又はキシリレンジアミンに相当する特定構造のジアミンとの反応生成物であるポリアミン化合物をエポキシ樹脂硬化剤として含み、且つ、特定の性質を有するポリエーテル変性ポリシロキサン及びアミノ基変性ポリシロキサンとを組み合わせて配合したエポキシ樹脂組成物が、透明性等の表面外観、乾燥しやすさ、基材への密着性、及び耐水性に優れることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2007-186693号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の実施例では23℃条件下でエポキシ樹脂組成物を硬化させて塗膜を形成している。しかしながら、特許文献1に記載のエポキシ樹脂及びエポキシ樹脂硬化剤を含むエポキシ樹脂組成物を10℃程度の低温条件下で用いると、作業性が低下し、気泡が混入しやすく、得られる塗膜の透明性、平滑性、光沢性等の外観が悪化することが見出された。
本発明の課題は、ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、キシリレンジアミン等の所定のジアミンとエポキシ化合物との反応生成物であるポリアミン化合物をエポキシ樹脂硬化剤として含み、10℃程度の低温条件下で用いても外観良好な塗膜を形成できるエポキシ樹脂組成物、及びその硬化物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、所定の物性を有する主剤エポキシ樹脂、所定のエポキシ樹脂硬化剤、及び所定の物性を有する添加剤を含有するエポキシ樹脂組成物が、上記課題を解決できることを見出した。
すなわち本発明は、下記に関する。
[1]下記成分(A)~(C)を含有するエポキシ樹脂組成物。
(A)10℃における粘度が250Pa・s以下の主剤エポキシ樹脂
(B)下記一般式(1)で示されるジアミンと、少なくとも1つのエポキシ基を有するエポキシ化合物との反応生成物(b1)を含むエポキシ樹脂硬化剤
N-HC-A-CH-NH (1)
(式(1)中、Aはシクロヘキシレン基又はフェニレン基である。)
(C)23℃における表面張力が20.5~28.0dyne/cmである添加剤
[2]前記成分(C)の23℃における表面張力が20.5~23.5dyne/cmである、[1]に記載のエポキシ樹脂組成物。
[3]前記成分(C)がポリエーテル構造を有するシリコーン系添加剤及びポリエーテル構造を有するアクリル系添加剤からなる群から選ばれる少なくとも1種である、[1]又は[2]に記載のエポキシ樹脂組成物。
[4]前記成分(C)の含有量が0.005~0.5質量%である、[1]~[3]のいずれか1項に記載のエポキシ樹脂組成物。
[5]前記反応生成物(b1)が1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサンと、ビスフェノールAから誘導されたグリシジルオキシ基を有する多官能エポキシ樹脂との反応生成物である、[1]~[4]のいずれか1項に記載のエポキシ樹脂組成物。
[6]さらに成分(D)として硬化促進剤を含有する、[1]~[5]のいずれか1項に記載のエポキシ樹脂組成物。
[7]前記成分(D)がフェノール化合物、有機酸類、及び有機リン系化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種である、[6]に記載のエポキシ樹脂組成物。
[8]前記成分(D)がp-tert-ブチルフェノール、サリチル酸、及び亜リン酸トリフェニルからなる群から選ばれる少なくとも1種である、[7]に記載のエポキシ樹脂組成物。
[9][1]~[8]のいずれか1項に記載のエポキシ樹脂組成物の硬化物。
【発明の効果】
【0007】
本発明のエポキシ樹脂組成物によれば、10℃程度の低温条件下で用いても作業性が良好で、気泡の混入も少なく、外観良好な塗膜を形成することができ、例えば、船舶塗料、重防食塗料、タンク用塗料、パイプ内装用塗料、外装用塗料、床材用塗料等の塗料用途に好適に用いられる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
[エポキシ樹脂組成物]
本発明のエポキシ樹脂組成物(以下、単に「本発明の組成物」ともいう)は、下記成分(A)~(C)を含有する。
(A)10℃における粘度が250Pa・s以下の主剤エポキシ樹脂
(B)下記一般式(1)で示されるジアミンと、少なくとも1つのエポキシ基を有するエポキシ化合物との反応生成物(b1)を含むエポキシ樹脂硬化剤
N-HC-A-CH-NH (1)
(式(1)中、Aはシクロヘキシレン基又はフェニレン基である。)
(C)23℃における表面張力が20.5~28.0dyne/cmである添加剤
本発明の組成物は上記成分(A)~(C)を含有することにより、10℃程度の低温条件下で用いても作業性が良好で、気泡の混入も少なく、外観が良好な塗膜を形成できる。
【0009】
<主剤エポキシ樹脂(A)>
本発明の組成物は、成分(A)として、10℃における粘度が250Pa・s以下の主剤エポキシ樹脂を含有する。主剤エポキシ樹脂(A)の粘度が上記範囲であることにより、低温条件下で用いても作業性が良好で、外観良好な塗膜を形成できるエポキシ樹脂組成物が得られる。
本発明において「主剤エポキシ樹脂」とは、少なくともエポキシ樹脂を含み、エポキシ樹脂組成物の主剤となる成分をいう。
【0010】
低温条件下での作業性向上の観点、及び外観良好な塗膜を形成する観点から、成分(A)の10℃における粘度は、250Pa・s以下であり、好ましくは200Pa・s以下、より好ましくは150Pa・s以下、さらに好ましくは100Pa・s以下、よりさらに好ましくは70Pa・s以下、よりさらに好ましくは50Pa・s以下、よりさらに好ましくは30Pa・s以下、よりさらに好ましくは15Pa・s以下である。また、同様の観点から、成分(A)の10℃における粘度は、好ましくは0.1Pa・s以上、より好ましくは0.2Pa・s以上、さらに好ましくは0.5Pa・s以上、よりさらに好ましくは1.0Pa・s以上、よりさらに好ましくは3.0Pa・s以上である。
上記粘度は、10℃においてE型粘度計で測定される値であり、具体的には実施例に記載の方法で測定できる。
【0011】
成分(A)に用いるエポキシ樹脂としては、後述する成分(B)であるエポキシ樹脂硬化剤の活性水素と反応するグリシジル基を持つエポキシ樹脂であればいずれも使用することができる。得られる塗膜の耐水性や硬度の観点からは、分子内に芳香環又は脂環式構造を含む多官能エポキシ樹脂が好ましく、分子内に芳香環を含む多官能エポキシ樹脂がより好ましい。
成分(A)に用いられる好ましいエポキシ樹脂の具体例としては、メタキシリレンジアミンから誘導されたグリシジルアミノ基を有する多官能エポキシ樹脂、ジアミノジフェニルメタンから誘導されたグリシジルアミノ基を有する多官能エポキシ樹脂、パラアミノフェノールから誘導されたグリシジルアミノ基及びグリシジルオキシ基を有する多官能エポキシ樹脂、ビスフェノールAから誘導されたグリシジルオキシ基を有する多官能エポキシ樹脂、ビスフェノールFから誘導されたグリシジルオキシ基を有する多官能エポキシ樹脂、フェノールノボラックから誘導されたグリシジルオキシ基を有する多官能エポキシ樹脂、レゾルシノールから誘導されたグリシジルオキシ基を有する多官能エポキシ樹脂、及び、これら多官能エポキシ樹脂の水素添加品である水添エポキシ樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種の樹脂が挙げられる。柔軟性や耐衝撃性、耐湿熱性などの諸性能を向上させるために、上記の種々のエポキシ樹脂を2種以上混合して使用することもできる。
【0012】
上記の中でも、低温条件下での作業性向上の観点、及び外観良好な塗膜を形成する観点、得られる塗膜の耐水性や硬度の観点から、成分(A)に用いられるエポキシ樹脂は、メタキシリレンジアミンから誘導されたグリシジルアミノ基を有する多官能エポキシ樹脂、ビスフェノールAから誘導されたグリシジルオキシ基を有する多官能エポキシ樹脂、及びビスフェノールFから誘導されたグリシジルオキシ基を有する多官能エポキシ樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種がより好ましく、ビスフェノールAから誘導されたグリシジルオキシ基を有する多官能エポキシ樹脂及びビスフェノールFから誘導されたグリシジルオキシ基を有する多官能エポキシ樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種がさらに好ましく、得られる塗膜の耐水性や硬度の観点、及び、低温条件下で結晶化し難いという観点から、ビスフェノールAから誘導されたグリシジルオキシ基を有する多官能エポキシ樹脂がよりさらに好ましい。
【0013】
成分(A)は上記エポキシ樹脂以外に、反応性希釈剤を含有していてもよい。反応性希釈剤としては、少なくとも1つのエポキシ基を有する低分子化合物が挙げられ、例えばフェニルグリシジルエーテル、クレジルグリシジルエーテル等の芳香族モノグリシジルエーテル;ブチルグリシジルエーテル、ヘキシルグリシジルエーテル、オクチルグリシジルエーテル、デシルグリシジルエーテル、ラウリルグリシジルエーテル、テトラデシルグリシジルエーテル等のアルキルモノグリシジルエーテル;1,3-プロパンジオールジグリシジルエーテル、1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル等の、脂肪族ジオールのジグリシジルエーテルが例示される。これらの中でも、希釈性の観点から、反応性希釈剤としてはアルキルモノグリシジルエーテル、及び脂肪族ジオールのジグリシジルエーテルからなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましく、アルキルモノグリシジルエーテルがより好ましい。当該アルキルの炭素数は、希釈性及び作業性の観点から、好ましくは3~18、より好ましくは4~12である。
上記反応性希釈剤は、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0014】
反応性希釈剤を用いる場合、成分(A)中の反応性希釈剤の含有量は、成分(A)が前記所定の粘度範囲となる量である限り特に制限されず、通常1質量%以上であり、得られる塗膜の耐水性や硬度の観点からは、好ましくは80質量%以下、より好ましくは70質量%以下、さらに好ましくは60質量%以下、よりさらに好ましくは50質量%以下、よりさらに好ましくは30質量%以下、よりさらに好ましくは20質量%以下である。
【0015】
成分(A)は前記エポキシ樹脂及び反応性希釈剤以外に、非反応性希釈剤を含むことを排除するものではないが、作業性、環境安全性、得られる塗膜の耐水性や硬度の観点からは、エポキシ樹脂単独、又はエポキシ樹脂及び反応性希釈剤の混合物としての10℃における粘度が250Pa・s以下であることが好ましい。当該粘度のより好ましい範囲は前記と同じである。
【0016】
成分(A)は、低温条件下での作業性向上の観点、及び外観良好な塗膜を形成する観点、得られる塗膜の耐水性や硬度の観点から、好ましくはビスフェノールAから誘導されたグリシジルオキシ基を有する多官能エポキシ樹脂、ビスフェノールFから誘導されたグリシジルオキシ基を有する多官能エポキシ樹脂、又は、これら多官能エポキシ樹脂と反応性希釈剤との組み合わせであり、より好ましくはビスフェノールAから誘導されたグリシジルオキシ基を有する多官能エポキシ樹脂と反応性希釈剤との組み合わせ、又はビスフェノールFから誘導されたグリシジルオキシ基を有する多官能エポキシ樹脂であり、さらに好ましくはビスフェノールAから誘導されたグリシジルオキシ基を有する多官能エポキシ樹脂と反応性希釈剤との組み合わせからなるものである。
【0017】
成分(A)のエポキシ当量は特に制限されないが、低温条件下での作業性及び硬化性の観点から、好ましくは600g/当量以下、より好ましくは500g/当量以下、さらに好ましくは300g/当量以下、よりさらに好ましくは250g/当量以下である。
【0018】
成分(A)として用いることができる市販のエポキシ樹脂としては、三菱ケミカル(株)製の「jER825」、「jER827」、「jER801N」、「jER801PN」、「jER802」、「jER811」、「jER813」、「jER819」、「jER806」、「jER806H」、「jER807」等が挙げられる。
【0019】
<エポキシ樹脂硬化剤(B)>
本発明のエポキシ樹脂組成物は、成分(B)として、下記一般式(1)で示されるジアミンと、少なくとも1つのエポキシ基を有するエポキシ化合物との反応生成物(b1)を含むエポキシ樹脂硬化剤を含有する。
N-HC-A-CH-NH (1)
(式(1)中、Aはシクロヘキシレン基又はフェニレン基である。)
本発明の組成物は成分(B)として所定の反応生成物(b1)を含むエポキシ樹脂硬化剤を含有することにより、硬化性が良好で、耐水性や硬度等が良好な塗膜を形成することができる。
【0020】
(反応生成物(b1))
反応生成物(b1)は、前記一般式(1)で示されるジアミン(以下、単に「原料ジアミン」ともいう)と、少なくとも1つのエポキシ基を有するエポキシ化合物(以下、単に「原料エポキシ化合物」ともいう)との反応生成物である。
式(1)中、Aはシクロヘキシレン基又はフェニレン基であり、シクロヘキシレン基が好ましい。具体的には、Aは1,2-シクロヘキシレン基、1,3-シクロヘキシレン基、1,4-シクロヘキシレン基、1,2-フェニレン基、1,3-フェニレン基、及び1,4-フェニレン基からなる群から選ばれる少なくとも1種であり、硬化性、得られる塗膜の硬度等の観点からは1,2-シクロヘキシレン基、1,3-シクロヘキシレン基、及び1,4-シクロヘキシレン基からなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましく、1,3-シクロヘキシレン基がより好ましい。なお本明細書におけるシクロヘキシレン基には、シス体、トランス体のいずれも含まれる。
【0021】
前記一般式(1)で示されるジアミンの具体例としては、1,2-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、o-キシリレンジアミン、m-キシリレンジアミン(MXDA)、及びp-キシリレンジアミン(PXDA)が挙げられる。
上記の中でも、硬化性、得られる塗膜の硬度等の観点からは1,2-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、及び1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサンからなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましく、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサンがより好ましい。
【0022】
前記ジアミンと反応させる、少なくとも1つのエポキシ基を有するエポキシ化合物としては、例えば、ブチルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、メタクレジルグリシジルエーテル、パラクレジルグリシジルエーテル、オルソクレジルグリシジルエーテル、ネオデカン酸グリシジルエステル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、1,2-プロパンジオールジグリシジルエーテル、1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテル、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、及び、成分(A)に用いるエポキシ樹脂として例示した、分子内に芳香環又は脂環式構造を含む多官能エポキシ樹脂が挙げられ、これらのうち1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
上記の中でも、反応性の観点から、原料エポキシ化合物としては2つ以上のエポキシ基を有する化合物が好ましい。耐熱性、得られる塗膜の硬度等の観点からは、成分(A)に用いるエポキシ樹脂として例示した、分子内に芳香環又は脂環式構造を含む多官能エポキシ樹脂が好ましく、分子内に芳香環を含む多官能エポキシ樹脂がより好ましく、ビスフェノールAから誘導されたグリシジルオキシ基を有する多官能エポキシ樹脂、及びビスフェノールFから誘導されたグリシジルオキシ基を有する多官能エポキシ樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種がより好ましく、ビスフェノールAから誘導されたグリシジルオキシ基を有する多官能エポキシ樹脂がさらに好ましい。
【0023】
原料エポキシ化合物として用いられる上記多官能エポキシ樹脂のエポキシ当量は特に制限されないが、耐熱性、得られる塗膜の硬度等の観点から、好ましくは600g/当量以下、より好ましくは500g/当量以下、さらに好ましくは300g/当量以下、よりさらに好ましくは250g/当量以下である。
【0024】
硬化性、耐熱性、得られる塗膜の耐水性及び硬度の観点から、反応生成物(b1)は、好ましくは1,2-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、及び1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサンからなる群から選ばれる少なくとも1種のジアミンと、ビスフェノールAから誘導されたグリシジルオキシ基を有する多官能エポキシ樹脂及びビスフェノールFから誘導されたグリシジルオキシ基を有する多官能エポキシ樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種のエポキシ化合物との反応生成物であり、より好ましくは1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサンと、ビスフェノールAから誘導されたグリシジルオキシ基を有する多官能エポキシ樹脂との反応生成物である。
【0025】
原料ジアミンと原料エポキシ化合物との反応生成物の例としては、下記の構造(a)~(d)を有するものが挙げられるが、これらに限定されるものではない。なお、下記構造(a)~(d)中、Aは原料ジアミンの残基、Bは原料エポキシ化合物の残基を表す。また当該反応生成物は、未反応の原料ジアミンを含有していてもよい。
【化1】
【0026】
反応生成物(b1)の製造方法は特に限定されず、従来公知の方法が使用できる。例えば、反応器内に原料ジアミンを仕込み、ここに原料エポキシ化合物を一括添加、又は滴下等により分割添加して加熱し、反応させる方法が挙げられる。該反応は窒素ガス等の不活性雰囲気下で行うことが好ましい。
反応に用いる原料ジアミンと原料エポキシ化合物との比率は特に制限されないが、反応生成物(b1)がエポキシ樹脂硬化剤としての作用を発揮するためには、反応生成物(b1)は主剤エポキシ樹脂(A)中のエポキシ基と反応しうる活性水素を有している必要がある。この観点から、原料ジアミン中の活性水素数を[D]、原料エポキシ化合物中のエポキシ基数を[E]とした場合に、[D]/[E]が、好ましくは20~4、より好ましくは16~8、さらに好ましくは12~8となる比率で反応させる。
反応時の温度及び反応時間は、使用する原料エポキシ化合物の種類等に応じて適宜選択することができる。反応速度及び生産性、並びに原料の分解等を防止する観点からは、反応時の温度は好ましくは50~150℃、より好ましくは70~120℃である。また反応時間は、原料エポキシ化合物の添加が終了してから、好ましくは0.5~12時間、より好ましくは1~6時間である。
【0027】
反応生成物(b1)の活性水素当量(AHEW)は、好ましくは100以下であり、より好ましくは90以下、さらに好ましくは80以下である。反応生成物(b1)のAHEWが100以下であると、本発明の組成物への配合量が少なくても高い硬化性を発現する。反応生成物(b1)のAHEWは、製造容易性などの観点から、好ましくは45以上であり、より好ましくは50以上である。反応生成物(b1)のAHEWは、例えば滴定法で求められる。
【0028】
成分(B)は、さらに、反応生成物(b1)以外の他の硬化剤成分を含有してもよい。当該「他の硬化剤成分」としては、反応生成物(b1)以外のポリアミン化合物又はその変性体が挙げられる。
また成分(B)には、本発明の効果を損なわない範囲で、さらにベンジルアルコール等の非反応性希釈剤等を配合してもよい。
但し成分(B)に含まれる反応生成物(b1)の含有量は、本発明の効果を得る観点から、成分(B)全量に対し、好ましくは40質量%以上、より好ましくは50質量%以上、さらに好ましくは60質量%以上である。また、上限は100質量%である。
【0029】
成分(B)の活性水素当量(AHEW)は、好ましくは300以下であり、より好ましくは200以下、さらに好ましくは120以下である。当該AHEWが低い方が、成分(A)への配合量が少なくても高い硬化性を発現する。一方で、得られる塗膜の耐水性、硬度等の観点からは、成分(B)のAHEWは、好ましくは45以上、より好ましくは70以上である。
【0030】
また、本発明の組成物中の成分(B)の含有量は、耐水性、硬度等が良好な塗膜を形成する観点から、成分(A)と成分(B)との含有量比が、[成分(A)中のエポキシ基数/成分(B)中の活性水素数]として、好ましくは1/0.5~1/2、より好ましくは1/0.75~1/1.5、さらに好ましくは1/0.8~1/1.2となる量である。
【0031】
<添加剤(C)>
本発明の組成物は、成分(C)として、23℃における表面張力が20.5~28.0dyne/cmである添加剤(以下、単に「添加剤(C)」ともいう)を含有する。本発明の組成物は、上記所定の表面張力を有する添加剤(C)を含有することにより、低温条件下でも外観良好な塗膜を形成できる。
【0032】
成分(C)の23℃における表面張力は、低温条件下で外観良好な塗膜を形成する観点から、好ましくは20.5~27.5dyne/cm、より好ましくは20.5~27.0dyne/cm、さらに好ましくは20.5~25.0dyne/cm、よりさらに好ましくは20.5~23.5dyne/cm、よりさらに好ましくは20.5~23.0dyne/cm、よりさらに好ましくは20.5~22.0dyne/cm、よりさらに好ましくは20.5~21.5dyne/cm、よりさらに好ましくは20.5~21.0dyne/cmである。
上記表面張力は、JIS K2241:2017「切削油剤」の6.3.3「ウィルヘルミー表面張力計による試験方法」に準拠して23℃において測定される値であり、具体的には実施例に記載の方法で測定できる。
【0033】
成分(C)は23℃における表面張力が上記範囲である添加剤であれば特に制限されず、例えばシリコーン系添加剤、アクリル系添加剤、ポリエーテル系添加剤、フッ素系添加剤等が挙げられる。
これらの中でも、低温条件下で外観良好な塗膜を形成する観点から、好ましくはシリコーン系添加剤及びアクリル系添加剤からなる群から選ばれる少なくとも1種である。
本明細書において「シリコーン系添加剤」とは、主鎖がシリコーン鎖である添加剤、「アクリル系添加剤」とは、主鎖がポリアクリレート鎖である添加剤を意味する。
【0034】
シリコーン添加剤としては、低温条件下で外観良好な塗膜を形成する観点から、変性ポリシロキサンが好ましい。その具体例としては、主鎖がポリシロキサンであり、その側鎖にポリエーテル構造を有するポリエーテル変性ポリシロキサン;主鎖がポリシロキサンであり、その側鎖にポリエステル構造を有するポリエステル変性ポリシロキサン;主鎖がポリシロキサンであり、その側鎖にポリエーテル構造及びポリエステル構造を有するポリエーテルエステル変性ポリシロキサン;主鎖がポリシロキサンであり、その側鎖にアラルキル基を有するアラルキル変性ポリシロキサン;等が挙げられる。
シリコーン添加剤の中でも、低温条件下で外観良好な塗膜を形成する観点から、ポリエーテル変性ポリシロキサン、ポリエーテルエステル変性ポリシロキサン等の、ポリエーテル構造を有するシリコーン系添加剤が好ましく、ポリエーテル変性ポリシロキサンがより好ましく、ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサンがさらに好ましい。
【0035】
なお、10℃程度の低温条件下で塗膜形成を行う観点からは、本発明のエポキシ樹脂組成物は、アミノ基変性ポリシロキサン等の、アミノ基を含有するシリコーン系添加剤を含有しないことが好ましく、その含有量は、エポキシ樹脂組成物中、好ましくは0.04質量%以下、より好ましくは0.02質量%以下であり、下限は0質量%である。10℃程度の低温条件下においては、該添加剤中のアミノ基と二酸化炭素との反応による塩生成に由来する塗膜の白化が生じるおそれがあるが、アミノ基を含有するシリコーン系添加剤の含有量が上記範囲であればこの現象を回避できる。また、組成物中の該添加剤の配合量が多い場合にはブリードアウトによる塗膜の白化等が生じるおそれもあるが、当該添加剤の含有量が上記範囲であれば、このような不具合も回避できる。
【0036】
アクリル系添加剤としては、アクリレートの単独重合物又は共重合物、及びこれら重合物を変性した変性アクリレートが挙げられる。当該変性アクリレートの具体例としては、ポリエーテルマクロマー変性アクリレート、シリコーン及びポリエーテルのマクロマー変性アクリレート等の、主鎖がポリアクリレート鎖であり、その側鎖にポリエーテル構造を有する変性アクリレートが挙げられる。
アクリル系添加剤の中でも、低温条件下で外観良好な塗膜を形成する観点から、ポリエーテルマクロマー変性アクリレート、シリコーン及びポリエーテルのマクロマー変性アクリレート等の、ポリエーテル構造を有するアクリル系添加剤が好ましい。
【0037】
成分(C)は1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。上記の中でも、低温条件下で外観良好な塗膜を形成する観点から、成分(C)としては、好ましくはポリエーテル構造を有するシリコーン系添加剤及びポリエーテル構造を有するアクリル系添加剤からなる群から選ばれる少なくとも1種であり、より好ましくはポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン、ポリエーテルマクロマー変性アクリレート、及び、シリコーン及びポリエーテルのマクロマー変性アクリレートからなる群から選ばれる少なくとも1種であり、低温条件下で外観良好な塗膜を形成する観点、硬化速度及び塗膜の硬度向上の観点からは、さらに好ましくはポリエーテル変性ポリジメチルシロキサンである。
【0038】
成分(C)として用いることができる市販の添加剤としては、ビックケミー・ジャパン(株)製の「BYK-333」「BYK-331」「BYK-378」「BYK-330」(以上、ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン)、「BYK-356」(アクリル系共重合物)、「BYK-3565」(シリコーン及びポリエーテルのマクロマー変性アクリレート)、「BYK-3560」(ポリエーテルマクロマー変性アクリレート)等が挙げられる。
【0039】
本発明の組成物中の成分(C)の含有量は、好ましくは0.005~0.5質量%、より好ましくは0.01~0.3質量%、さらに好ましくは0.02~0.2質量%である。組成物中の成分(C)の含有量が0.005質量%以上であれば、低温条件下で外観良好な塗膜を形成することが容易になり、0.5質量%以下であれば、低温条件下で成分(C)がブリードアウトすることによる塗膜の白化や耐水性低下のおそれがない。
【0040】
<硬化促進剤(D)>
本発明の組成物は、成分(D)として、さらに硬化促進剤を含有してもよい。本発明の組成物が硬化促進剤(D)を含有することにより、硬化速度及び塗膜の硬度を向上させることができる。
当該硬化促進剤としては、例えば、フェノール化合物、有機酸類、有機酸塩類、3級アミン類、4級アンモニウム塩類、イミダゾール類、有機リン系化合物、4級ホスホニウム塩類、ジアザビシクロアルケン類、有機金属塩化合物、ホウ素化合物、及び金属ハロゲン化物等が挙げられる。
【0041】
フェノール化合物としては、フェノール、クレゾール、ハイドロキノン、1-ナフトール、2-ナフトール、レゾルシン、フェノールノボラック樹脂、p-イソプロピルフェノール、p-tert-ブチルフェノール、ノニルフェノール、ビスフェノールA等が挙げられる。
硬化速度及び塗膜の硬度を向上させる観点から、フェノール化合物としては、好ましくはフェノール、クレゾール、p-イソプロピルフェノール、p-tert-ブチルフェノール、ノニルフェノール、及びビスフェノールAからなる群から選ばれる少なくとも1種であり、より好ましくはp-tert-ブチルフェノールである。
【0042】
有機酸類としては、カルボン酸系化合物、スルホン酸系化合物等が挙げられる。
カルボン酸系化合物としては、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、ブタン酸、2-エチルヘキサン酸、安息香酸等のモノカルボン酸;乳酸、サリチル酸等のヒドロキシカルボン酸;シュウ酸、マロン酸、マレイン酸、イタコン酸、フマル酸、アジピン酸、セバシン酸、イソフタル酸、トリメリット酸、ピロメリット酸、テトラヒドロフタル酸、ヘキサヒドロフタル酸等の多価カルボン酸;等が挙げられる。
スルホン酸系化合物としては、p-トルエンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸等が挙げられる。
硬化速度及び塗膜の硬度を向上させる観点から、有機酸類としては、好ましくはカルボン酸系化合物、より好ましくはヒドロキシカルボン酸であり、さらに好ましくはサリチル酸である。
【0043】
有機酸塩類としては、上記有機酸の塩が挙げられ、例えば、上記カルボン酸系化合物又はスルホン酸系化合物の、イミダゾール塩、置換イミダゾール塩、ジアザビシクロウンデセン(DBU)塩、ジアザビシクロノネン(DBN)塩、ジアザビシクロオクタン(DABCO)塩、テトラエチルアンモニウム塩、及びテトラブチルアンモニウム塩等が挙げられる。
【0044】
3級アミン類としては、トリエチレンジアミン、トリエタノールアミン、ベンジルジメチルアミン、ジメチルシクロヘキシルアミン、2-(ジメチルアミノメチル)フェノール等が挙げられる。4級アンモニウム塩類としては、テトラエチルアンモニウムブロマイド、テトラブチルアンモニウムブロマイド等が挙げられる。
イミダゾール類としては、2-メチルイミダゾール、2-エチルイミダゾール、2-フェニルイミダゾール、1-シアノエチル-2-エチル-4-メチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール、1-ベンジル-2-メチルイミダゾール等が挙げられる。
有機リン系化合物としては、トリフェニルホスフィン、ジフェニルホスフィン、トリブチルホスフィン、亜リン酸トリフェニル等が挙げられ、好ましくは亜リン酸トリフェニルである。
4級ホスホニウム塩類としては、テトラフェニルホスホニウムブロマイド、テトラ-n-ブチルホスホニウムブロマイド等が挙げられる。
ジアザビシクロアルケン類としては、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン-7等が挙げられる。
有機金属塩化合物としては、オクチル酸亜鉛、オクチル酸錫等が挙げられる。ホウ素化合物としては三フッ化ホウ素、トリフェニルボレート等が挙げられる。また、金属ハロゲン化物としては塩化亜鉛、塩化第二錫等が挙げられる。
【0045】
成分(D)は、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
上記の中でも、組成物への溶解性及び速硬化性の観点から、成分(D)は、フェノール化合物、有機酸類、及び有機リン系化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましく、フェノール化合物、ヒドロキシカルボン酸、及び有機リン系化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種がより好ましく、p-tert-ブチルフェノール、サリチル酸、及び亜リン酸トリフェニルからなる群から選ばれる少なくとも1種がさらに好ましい。
粘度上昇を抑制する観点、組成物への溶解性、並びに塗膜の硬度及び耐候性の観点からは、成分(D)はフェノール化合物及び有機リン系化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種がより好ましく、粘度上昇を抑制する観点、組成物への溶解性、塗膜の硬度及び耐候性、並びに塗膜の耐水性の観点からはフェノール化合物がさらに好ましい。上記観点から、成分(D)はより好ましくはp-tert-ブチルフェノール及び亜リン酸トリフェニルからなる群から選ばれる少なくとも1種であり、さらに好ましくはp-tert-ブチルフェノールである。
【0046】
成分(D)を用いる場合、その含有量は、成分(B)100質量部に対し、好ましくは1~30質量部、より好ましくは2~20質量部、さらに好ましくは3~15質量部である。組成物中の成分(D)の含有量が成分(B)100質量部に対し1質量部以上であれば、硬化速度及び塗膜の硬度向上効果が良好である。また、30質量部以下であれば、組成物への溶解性が良好であり、低温条件下での粘度上昇、及び塗膜の耐候性低下を抑制することができる。
【0047】
本発明のエポキシ樹脂組成物には、さらに、充填材、可塑剤などの改質成分、揺変剤などの流動調整成分、顔料、粘着付与剤などのその他の成分を用途に応じて含有させてもよい。
但し本発明の組成物中、成分(A)~(C)の合計含有量は、本発明の効果を得る観点から、好ましくは50質量%以上、より好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上、よりさらに好ましくは90質量%以上である。また、上記含有量の上限は100質量%である。
【0048】
本発明のエポキシ樹脂組成物の製造方法には特に制限はなく、成分(A)~(C)、及び必要に応じ他の成分を公知の方法及び装置を用いて混合し、製造することができる。エポキシ樹脂組成物に含まれる各成分の混合順序にも特に制限はない。
【0049】
[硬化物]
本発明のエポキシ樹脂組成物の硬化物(以下、単に「本発明の硬化物」ともいう)は、上述した本発明のエポキシ樹脂組成物を公知の方法で硬化させたものである。エポキシ樹脂組成物の硬化条件は用途、形態に応じて適宜選択され、特に限定されないが、低温条件下で塗布及び硬化を行っても、作業性が良好で、気泡の混入も少なく、透明性、平滑性、光沢性等が良好な塗膜を形成できる。この観点から、エポキシ樹脂組成物の塗布及び硬化温度は、好ましくは20℃以下、より好ましくは15℃以下である。
本発明の硬化物の形態も特に限定されず、用途に応じて選択することができる。外観良好な塗膜を形成できる観点からは、当該エポキシ樹脂組成物の硬化物は膜状の硬化物であることが好ましい。
【0050】
<用途>
本発明のエポキシ樹脂組成物は硬化性が良好で、低温条件下で外観良好な塗膜を形成できることから、例えば、船舶塗料、重防食塗料、タンク用塗料、パイプ内装用塗料、外装用塗料、床材用塗料等の塗料用途に好適に用いられる。
【実施例
【0051】
次に実施例を挙げて本発明をより詳しく説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。また、各実施例における各種測定、評価は以下のように行った。
【0052】
(表面張力)
表面張力は、JIS K2241:2017「切削油剤」の6.3.3「ウィルヘルミー表面張力計による試験方法」に準拠して、23℃、50%R.H.条件下で、協和界面化学(株)製の自動表面張力計「CBVP-A3」を用いて測定した。
【0053】
(粘度)
主剤エポキシ樹脂、及び表4に記載の硬化剤、添加剤及び硬化促進剤の混合物の10℃における粘度は、東機産業(株)製のE型粘度計「TVE-22H型粘度計 コーンプレートタイプ」を用いて測定した。
【0054】
(塗膜外観)
基材としてリン酸亜鉛処理鉄板(パルテック(株)製;SPCC-SD PB-N144 0.8×70×150mm)を用いた。10℃、80%R.H.条件下で、基材上に各例のエポキシ樹脂組成物をアプリケーターを用いて塗布し、塗膜を形成した(塗布直後の塗膜厚み:200μm)。この塗膜を10℃、80%R.H.条件下で保存し、1日経過後の塗膜の外観を目視観察して、透明性、平滑性、光沢性、及び表面状態を以下の基準で評価した。透明性、平滑性、光沢性についてはEx,G,F,Pの順に評価結果が良好であることを示す。また、表面状態がC評価以下のものを不合格とした。
<透明性>
Ex:優秀(濁りなし)
G:良好(わずかに濁りがあるが、使用上問題なし)
F:可(やや白濁あり)
P:不良(白濁)
<平滑性>
Ex:優秀
G:良好
F:可
P:不良(ハジキがある、又は全面に凹凸がある)
<光沢性>
Ex:優秀(光沢あり)
G:良好(やや光沢が劣るが、使用上問題なし)
F:可(光沢が少ない)
P:不良(光沢なし)
<表面状態>
A:気泡も凹凸もない
B:気泡はないが、わずかに凹凸が見られる
C:気泡若しくは凹凸が多い
D:ゆず肌
E:ベナードセル
【0055】
(指触乾燥)
10℃、80%R.H.条件下で、前記と同様の方法で基材(リン酸亜鉛処理鉄板)上に各例のエポキシ樹脂組成物を塗布し、塗膜を形成した(塗布直後の塗膜厚み:200μm)。この塗膜を10℃、80%R.H.条件下で保存し、1、2、7日経過後に指触により以下の基準で評価した。
Ex:優秀(約50Nの力で親指を押し付けた際も塗膜のべたつきがなく、指紋の残存もなし)
G:良好(約50Nの力で親指を押し付けた際に塗膜のべたつきはないが、指触後の指紋の残存あり)
F:可(約50Nの力で親指を押し付けた際に塗膜のべたつきあり)
P:不良(約5Nの力で親指を押し付けた際に塗膜のべたつきあり)
【0056】
(鉛筆硬度)
10℃、80%R.H.条件下で、前記と同様の方法で基材(リン酸亜鉛処理鉄板)上に各例のエポキシ樹脂組成物を塗布し、塗膜を形成した(塗布直後の厚み:200μm)。この塗膜を10℃、80%R.H.条件下で保存し、1、2、7日経過後にJIS K5600-5-4:1999に準拠して鉛筆硬度を測定した。
【0057】
(耐水スポット試験)
10℃、80%R.H.条件下で、前記と同様の方法で基材(リン酸亜鉛処理鉄板)上に各例のエポキシ樹脂組成物を塗布し、塗膜を形成した(塗布直後の厚み:200μm)。この塗膜を10℃、80%R.H.条件下で保存し、1、2、7日経過後に塗膜表面にスポイトで純水を2~3滴滴下し、その箇所を50mLスクリュー管瓶で蓋をした。24時間経過後に水を拭き取り、外観を目視観察して、以下の基準で評価した。
Ex:優秀(全く変化なし)
G:良好(わずかに変化はあるが、使用上問題なし)
F:可(やや白化あり)
P:不良(白化)
【0058】
(耐候性試験)
表4に記載のエポキシ樹脂組成物を用いて、次の通り耐候性試験を行った。
各例で得られたエポキシ樹脂組成物を、20mm×20mm×厚さ2mmのシリコーン型内で、23℃で7日間硬化させて試験片を作製した。次いで、該試験片をUV試験機((株)東洋精機製作所製「サンテストXXL+」)に入れ、キセノンランプにより波長300~400nmの紫外線を照度60W/mの強度で照射した。
UV照射量が6000(kJ/m)に到達した後に試験片を取り出し、色差計(日本電色工業(株)製「ZE2000」)を用いて、JIS K7373:2006に準拠してYI値を測定した。耐候性試験後のYI値を表4に示した。YI値が小さいほど硬化物の耐候性が良好であることを示す。
【0059】
製造例1(エポキシ樹脂硬化剤1の製造)
攪拌装置、温度計、窒素導入管、滴下漏斗及び冷却管を備えた内容積2リットルのセパラブルフラスコに、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン(1,3-BAC、三菱瓦斯化学(株)製、シス/トランス比=77/23)569g(4.0モル)を仕込み、窒素気流下、攪拌しながら80℃に昇温した。80℃に保ちながら、エポキシ化合物としてビスフェノールAから誘導されたグリシジルオキシ基を有する多官能エポキシ樹脂(三菱ケミカル(株)製「jER828」、エポキシ当量:186g/当量)298g(1,3-BAC 1モルに対し0.2モルとなる量)を2時間かけて滴下した。滴下終了後、100℃に昇温して2時間反応を行い、反応生成物(b1)に相当する、1,3-BACとjER828との反応生成物867g(活性水素当量60g/当量)を得た。ここに非反応性希釈剤であるベンジルアルコール579gを添加して希釈し、エポキシ樹脂硬化剤1(反応生成物(b1)の濃度60質量%、活性水素当量100g/当量)1446gを得た。
【0060】
実施例1~7、比較例1~2(エポキシ樹脂組成物の調製及び評価)
主剤エポキシ樹脂(A)として、三菱ケミカル(株)製「jER801N」(ビスフェノールAから誘導されたグリシジルオキシ基を有する多官能エポキシ樹脂のアルキルグリシジルエーテル希釈品、アルキルグリシジルエーテルの含有量:15質量%、エポキシ当量:215g/当量、10℃における粘度:7.3Pa・s)を用い、エポキシ樹脂硬化剤(B)として、製造例1で得られたエポキシ樹脂硬化剤1を用いた。主剤エポキシ樹脂のエポキシ基数と、エポキシ樹脂硬化剤の活性水素数とが1/1となるよう表1に記載の配合量にて配合し、さらに実施例1~7及び比較例2では、表1に示す量の各種添加剤を添加して混合し、エポキシ樹脂組成物を調製した。
得られたエポキシ樹脂組成物について、前述の方法で評価を行った。結果を表1に示す。
【0061】
実施例8~10、比較例3~4(エポキシ樹脂組成物の調製及び評価)
主剤エポキシ樹脂(A)として、三菱ケミカル(株)製「jER807」(ビスフェノールFから誘導されたグリシジルオキシ基を有する多官能エポキシ樹脂、エポキシ当量:169g/当量、10℃における粘度:38.5Pa・s)を用い、エポキシ樹脂硬化剤(B)として、製造例1で得られたエポキシ樹脂硬化剤1を用いた。主剤エポキシ樹脂のエポキシ基数と、エポキシ樹脂硬化剤の活性水素数とが1/1となるよう表2に記載の配合量にて配合し、さらに実施例8~10及び比較例4では、表2に示す量の各種添加剤を添加して混合し、エポキシ樹脂組成物を調製した。
得られたエポキシ樹脂組成物について、前述の方法で評価を行った。結果を表2に示す。
【0062】
比較例5~8(エポキシ樹脂組成物の調製及び評価)
比較用の主剤エポキシ樹脂(A)’として、三菱ケミカル(株)製「jER828」(ビスフェノールAから誘導されたグリシジルオキシ基を有する多官能エポキシ樹脂、エポキシ当量:186g/当量、10℃における粘度:255.4Pa・s)を用い、エポキシ樹脂硬化剤(B)として、製造例1で得られたエポキシ樹脂硬化剤1を用いた。主剤エポキシ樹脂のエポキシ基数と、エポキシ樹脂硬化剤の活性水素数とが1/1となるよう表3に記載の配合量にて配合し、さらに比較例6~8では、表3に示す量の各種添加剤を添加して混合し、エポキシ樹脂組成物を調製した。
得られたエポキシ樹脂組成物について、前述の方法で評価を行った。結果を表3に示す。
【0063】
実施例11~15、比較例9(エポキシ樹脂組成物の調製及び評価)
主剤エポキシ樹脂(A)として、三菱ケミカル(株)製「jER801N」(ビスフェノールAから誘導されたグリシジルオキシ基を有する多官能エポキシ樹脂のアルキルグリシジルエーテル希釈品、エポキシ当量:215g/当量、10℃における粘度:7.3Pa・s)を用い、エポキシ樹脂硬化剤(B)として、製造例1で得られたエポキシ樹脂硬化剤1を用いた。主剤エポキシ樹脂のエポキシ基数と、エポキシ樹脂硬化剤の活性水素数とが1/1となるよう表4に記載の配合量にて配合し、さらに、表4に示す量の添加剤(C)及び硬化促進剤(D)を添加して混合し、エポキシ樹脂組成物を調製した。
得られたエポキシ樹脂組成物について、前述の方法で評価を行った。結果を表4に示す。
【0064】
【表1】
【0065】
【表2】
【0066】
【表3】
【0067】
【表4】
【0068】
表1~4に示した添加剤の詳細は下記の通りである。なお表1~3中の各成分の配合量(質量%)及び表4中の各成分の配合量(質量部)は、いずれも有姿での量である。
(C1)BYK-333 ビックケミー・ジャパン(株)製、ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン、23℃における表面張力:20.6dyne/cm、Lot No.0001527106
(C2)BYK-331 ビックケミー・ジャパン(株)製、ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン、23℃における表面張力:20.9dyne/cm、Lot No.0001835486
(C3)BYK-378 ビックケミー・ジャパン(株)製、ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン、23℃における表面張力:20.9dyne/cm、Lot No.0001612792
(C4)BYK-3565 ビックケミー・ジャパン(株)製、シリコーン及びポリエーテルのマクロマー変性アクリレート、23℃における表面張力:23.0dyne/cm、Lot No.0001890547
(C5)BYK-330 ビックケミー・ジャパン(株)製、ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン、23℃における表面張力:23.1dyne/cm、Lot No.0001544450
(C6)BYK-356 ビックケミー・ジャパン(株)製、アクリル系共重合物、23℃における表面張力:25.1dyne/cm、Lot No.0001548680
(C7)BYK-3560 ビックケミー・ジャパン(株)製、ポリエーテルマクロマー変性アクリレート、23℃における表面張力:27.2dyne/cm、Lot No.0001873272
(c1)BYK-322 ビックケミー・ジャパン(株)製、アラルキル変性ポリメチルアルキルシロキサン、23℃における表面張力:28.5dyne/cm、Lot No.0001547479
【0069】
表1より、所定の添加剤を配合した実施例1~7のエポキシ樹脂組成物によれば、比較例1,2のエポキシ樹脂組成物と比較して外観が良好な塗膜を形成できることがわかる。同様に、表2の実施例8~10のエポキシ樹脂組成物によれば、比較例3,4のエポキシ樹脂組成物と比較して外観が良好な塗膜を形成できることがわかる。
また表3より、主剤エポキシ樹脂の粘度が本願の規定範囲外である場合は、10℃という低温条件下で塗膜形成を行うと、所定の添加剤を配合しない場合には表面状態が著しく悪化し(比較例5)、添加剤を配合した場合であっても塗膜中の泡抜けが悪く、外観良好な塗膜が得られなかった(比較例6~8)。
表4より、実施例3のエポキシ樹脂組成物にさらに硬化促進剤(D)を配合した実施例11~15のエポキシ樹脂組成物では、塗膜外観を良好な状態で維持したまま硬化速度及び塗膜の硬度が向上した。特に、成分(D)として亜リン酸トリフェニル又はp-tert-ブチルフェノールを用いた場合(実施例12、13)には、サリチル酸を用いた場合(実施例11)と比較して粘度上昇を抑制することができ、塗膜の耐候性も良好であった。成分(D)としてp-tert-ブチルフェノールを用いた場合(実施例13~15)は、実施例3と比較すると、上記に加えて塗膜の耐水性も向上した。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明のエポキシ樹脂組成物によれば、10℃程度の低温条件下で用いても作業性が良好で、気泡の混入も少なく、外観良好な塗膜を形成することができ、例えば、船舶塗料、重防食塗料、タンク用塗料、パイプ内装用塗料、外装用塗料、床材用塗料等の塗料用途に好適に用いられる。