(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-20
(45)【発行日】2023-11-29
(54)【発明の名称】X線撮影装置
(51)【国際特許分類】
A61B 6/00 20060101AFI20231121BHJP
H05G 1/66 20060101ALI20231121BHJP
H05G 1/26 20060101ALI20231121BHJP
【FI】
A61B6/00 320Z
H05G1/66 C
H05G1/26 T
(21)【出願番号】P 2020068930
(22)【出願日】2020-04-07
【審査請求日】2022-07-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100093056
【氏名又は名称】杉谷 勉
(74)【代理人】
【識別番号】100142930
【氏名又は名称】戸高 弘幸
(74)【代理人】
【識別番号】100175020
【氏名又は名称】杉谷 知彦
(74)【代理人】
【識別番号】100180596
【氏名又は名称】栗原 要
(74)【代理人】
【識別番号】100195349
【氏名又は名称】青野 信喜
(72)【発明者】
【氏名】代田 健
(72)【発明者】
【氏名】宇野 晴雄
【審査官】亀澤 智博
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-066052(JP,A)
【文献】国際公開第2010/061809(WO,A1)
【文献】特開2018-098013(JP,A)
【文献】特開2013-182764(JP,A)
【文献】特開2000-173796(JP,A)
【文献】実公昭50-013494(JP,Y1)
【文献】米国特許第05883487(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 6/00 - 6/14
H05G 1/00 - 1/70
H01J 35/00 -35/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
陰極と、陽極と、前記陽極を所定の稼働速度に回転させる回転駆動部とを有し、前記陰極および前記稼働速度で回転している前記陽極の間に高電圧を印加することによって前記陽極から被検体に対してX線を発生させるX線管を備えるX線撮影装置であって、
前記X線撮影装置に対する電力供給のON/OFFを切り換える主電源操作部と、
前記X線管に共振が発生する前記陽極の回転速度である共振速度より低い制動速度に前記陽極の回転速度を減速させる制動部と、
回転している前記陽極に対して前記制動部による減速が行われることなく前記主電源操作部がOFFの状態に操作される状態である非制動停止状態が予測される所定の事態を検知する非制動停止予測部と、
を備え、
前記非制動停止予測部は、
前記X線撮影装置における前記所定の事態としてのエラーの発生を検知するエラー検知部を備え、
前記エラー検知部は、前記所定の事態としてのエラーの発生を検知することにより前記制動部を作動させ、前記陽極の回転速度を前記制動速度に減速させるX線撮影装置。
【請求項2】
陰極と、陽極と、前記陽極を所定の稼働速度に回転させる回転駆動部とを有し、前記陰極および前記稼働速度で回転している前記陽極の間に高電圧を印加することによって前記陽極から被検体に対してX線を発生させるX線管を備えるX線撮影装置であって、
前記X線撮影装置に対する電力供給のON/OFFを切り換える主電源操作部と、
前記X線管に共振が発生する前記陽極の回転速度である共振速度より低い制動速度に前記陽極の回転速度を減速させる制動部と、
回転している前記陽極に対して前記制動部による減速が行われることなく前記主電源操作部がOFFの状態に操作される状態である非制動停止状態が予測される所定の事態を検知する非制動停止予測部と、
前記回転駆動部によって前記陽極が回転を開始する時刻である回転開始時間、および前記制動部によって前記陽極の回転速度が前記制動速度に減速された時刻である制動完了時間を検知するタイマと、
前記タイマによって検知された前記回転開始時間および前記制動完了時間を上書き記憶する記憶部と、
を備え、
前記非制動停止予測部は、前記回転開始時間と前記制動完了時間とのいずれが早い時刻であるかを前記主電源操作部がONの状態に操作される際に判定する操作時間検知部を備え、前記所定の事態を検知することにより前記制動部を作動させ、前記陽極の回転速度を前記制動速度に減速させ、
前記操作時間検知部は、前記回転開始時間の方が前記制動完了時間よりも遅いと判定した場合において前記制動部を作動させ、前記陽極の回転速度を前記制動速度に減速させるX線撮影装置。
【請求項3】
陰極と、陽極と、前記陽極を所定の稼働速度に回転させる回転駆動部とを有し、前記陰極および前記稼働速度で回転している前記陽極の間に高電圧を印加することによって前記陽極から被検体に対してX線を発生させるX線管を備えるX線撮影装置であって、
前記X線撮影装置に対する電力供給のON/OFFを切り換える主電源操作部と、
前記X線管に共振が発生する前記陽極の回転速度である共振速度より低い制動速度に前記陽極の回転速度を減速させる制動部と、
回転している前記陽極に対して前記制動部による減速が行われることなく前記主電源操作部がOFFの状態に操作される状態である非制動停止状態が予測される所定の事態を検知する非制動停止予測部と、
前記主電源操作部がOFFの状態に操作された時刻から次に前記主電源操作部がONの状態に操作された時刻までの時間である停止時間を計測する停止時間計測手段と、
を備え、
前記非制動停止予測部は、
前記制動部が作動することなく前記陽極の回転速度が前記稼働速度から前記共振速度にまで惰性で減速するために要する時間である共振速度到達時間と前記停止時間とのいずれが長いかを前記主電源操作部がONの状態に操作される際に判定する停止時間判定部を備え、前記所定の事態を検知することにより前記制動部を作動させ、前記陽極の回転速度を前記制動速度に減速させ、
前記停止時間判定部は、前記共振速度到達時間の方が前記停止時間よりも長いと判定した場合において前記制動部を作動させ、前記陽極の回転速度を前記制動速度に減速させるX線撮影装置。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれかに記載のX線撮影装置において、
前記被検体に対する検査の終了の指示を入力する検査終了指示部を備え、
前記非制動停止予測部は、
前記検査終了指示部による前記入力を検知する検査終了検知部を備え、
前記検査終了検知部は、前記検査終了指示部による前記入力を検知することにより前記制動部を作動させ、前記陽極の回転速度を前記制動速度に減速させるX線撮影装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、X線撮影装置に係り、特にX線管の劣化を防止する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
X線撮影装置においてX線を発生させる構成として、陽極を比較的高速である所定の速度(一例として180Hz)で回転させ、高速回転する陽極に対して陰極より電子ビームを照射させる回転陽極型のX線管が一般的に用いられる。従来の回転陽極型X線管では、X線を発生させてX線撮影が完了する度に、陽極の回転に対して制動をかけることにより陽極の回転速度を低下させる(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、このような構成を有する従来例の場合には、次のような問題がある。
【0005】
従来の構成ではX線の発生を開始させる度に陽極の回転速度を所定の速度に加速させる必要があり、当該加速には数秒程度の時間を要する。そのため、X線管からX線を発生させる操作(X線撮影)を複数回にわたって連続的に行う場合、X線を発生させる度に陽極回転の再加速を待つ必要があるので、複数回にわたる連続的なX線撮影に要する時間が長期化する。
【0006】
このような複数回にわたる連続的なX線撮影に要する時間を短縮化するための新たなX線管制御方法として、以下のようなものが挙げられる。すなわち、陽極の回転速度が所定の速度に加速された後、X線を発生させる操作の有無とは無関係に一定時間、陽極が当該所定の速度を維持しつつ回転し続ける。当該新たな制御方法では、X線管からX線を短時間の間隔で複数回発生させる操作を行う場合であっても、X線を発生させる操作を行う度に陽極回転の再加速を待つ必要がないので、複数回にわたる連続的なX線撮影を短時間で行うことができる。
【0007】
しかしながら、X線管の陽極が一定時間は高速で回転し続ける構成とすることにより、X線管が早期に劣化するという新たな問題が懸念される。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、複数回にわたる連続的なX線撮影を短時間で実行できるとともに、X線管の劣化をより確実に防止できるX線撮影装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記問題を解決するために、本発明者らが検討した結果、以下のような知見が得られた。すなわち、陽極が一定時間高速で回転し続けることにより、当該高速回転を維持している間に操作者がX線装置本体の電源をオフにするという事態が発生しうる。
【0010】
X線管において、共振域と呼ばれる特定の回転速度(一例として70~90Hz)で陽極が回転している場合、共振効果によってX線管全体が大きく振動するのでX線管、特に回転陽極の支持部が劣化し易くなる。制動機構の作動によって陽極の回転速度が急速に減速する場合、陽極の回転速度が共振域となる時間は短いのでX線管に対する影響は小さい。
【0011】
一方、X線装置本体の電源をオフにすると回転陽極に対する制動機構もオフになるので、高速回転する陽極は惰性によって緩やかに減速していく。そのため、陽極は惰性によって減速する場合、陽極の回転速度が共振点となる時間が非常に長くなる。X線管が長時間共振することによって、ベアリングを例とするX線管の各部品が損耗するため、結果としてX線管が早期に劣化する。
【0012】
本発明は、このような目的を達成するために、次のような構成をとる。
すなわち本発明は、陰極と、陽極と、前記陽極を所定の稼働速度に回転させる回転駆動部と、前記陰極および前記稼働速度で回転している前記陽極の間に高電圧を印加することによって前記陽極から被検体に対してX線を発生させる高電圧発生部とを有するX線管を備えるX線撮影装置であって、前記X線撮影装置に対する電力供給のON/OFFを切り換える主電源操作部と、前記X線管に共振が発生する前記陽極の回転速度である共振速度より低い制動速度に前記陽極の回転速度を減速させる制動部と、回転している前記陽極に対して前記制動部による減速が行われることなく前記主電源操作部がOFFの状態に操作される状態である非制動停止状態が予測される所定の事態を検知する非制動停止予測部と、を備え、前記非制動停止予測部は、前記X線撮影装置に発生する前記所定の事態としてのエラーの発生を検知するエラー検知部を備え、前記エラー検知部は、前記所定の事態としてのエラーの発生を検知することにより前記制動部を作動させ、前記陽極の回転速度を前記制動速度に減速させるものである。
【0013】
当該構成において、非制動停止予測部は、回転している陽極に対して制動部による減速が行われることなく主電源操作部がOFFの状態に操作される状態である非制動停止状態が予測される所定の事態を検知する。非制動停止状態が予測される所定の事態を検知した場合、非制動停止予測部は制動部を作動させ、陽極の回転速度を制動速度に減速させる。
【0014】
制動速度は、共振速度より低い速度として予め定められている速度であり、共振速度とはX線管に共振が発生する陽極の回転速度である。すなわち、非制動停止予測部が陽極の回転速度を制動速度に減速させることにより、非制動停止状態が発生した場合であっても陽極の回転速度は速やかに制動速度となるので、陽極の回転速度が長時間共振速度となることと回避できる。従って、陽極が一定時間高速で回転し続ける構成であったとしても非制動停止状態となることを防止できるので、連続的なX線の発生を短時間で実行できるとともに、共振に起因するX線管の劣化をより確実に防止できる。
【0015】
また、上述した発明において、前記非制動停止予測部は、前記X線撮影装置に発生するエラーを検知するエラー検知部を備え、前記エラー検知部は、前記エラーの発生を検知することにより前記制動部を作動させ、前記陽極の回転速度を前記制動速度に減速させることが好ましい。
【0016】
[作用・効果]本発明に係るX線撮影装置によれば、非制動停止予測部はX線撮影装置に発生するエラーを検知するエラー検知部を備える。エラー検知部は、エラーの発生を検知することにより駆動部を作動させ、陽極の回転速度を制動速度に減速させる。エラーが発生することにより、操作者は制動部を作動させることなく主電源操作部がOFFの状態に操作するという事態が予測される。そのため、エラーの発生をエラー検知部が検知すると駆動部が陽極の回転速度を自動的に制動速度へ減速させる構成とすることにより、非制動停止状態が発生してX線管が劣化し易くなることを防止できる。
【0017】
また、上述した発明において、前記被検体に対する検査の終了の指示を入力する検査終了指示部を備え、前記非制動停止予測部は、前記検査終了指示部による前記入力を検知する検査終了検知部を備え、前記検査終了検知部は、前記検査終了指示部による前記入力を検知することにより前記制動部を作動させ、前記陽極の回転速度を前記制動速度に減速させることが好ましい。
【0018】
[作用・効果]本発明に係るX線撮影装置によれば、非制動停止予測部は、被検体に対する検査の終了の指示が入力されることを検知する検査終了検知部を備える。検査終了検知部は、検査終了指示部による当該入力を検知することにより駆動部を作動させ、陽極の回転速度を前記制動速度に減速させる。被検体に対する検査の終了の指示が入力されることにより、操作者は制動部を作動させることなく主電源操作部がOFFの状態に操作する事態が予測される。そのため、検査終了の指示を検査終了検知部が検知すると駆動部が陽極の回転速度を自動的に制動速度へ減速させる構成とすることにより、非制動停止状態が発生してX線管が劣化し易くなることを防止できる。
【0019】
本発明は、このような目的を達成するために、次のような構成をとってもよい。
すなわち本発明は、陰極と、陽極と、前記陽極を所定の稼働速度に回転させる回転駆動部とを有し、前記陰極および前記稼働速度で回転している前記陽極の間に高電圧を印加することによって前記陽極から被検体に対してX線を発生させるX線管を備えるX線撮影装置であって、前記X線撮影装置に対する電力供給のON/OFFを切り換える主電源操作部と、前記X線管に共振が発生する前記陽極の回転速度である共振速度より低い制動速度に前記陽極の回転速度を減速させる制動部と、回転している前記陽極に対して前記制動部による減速が行われることなく前記主電源操作部がOFFの状態に操作される状態である非制動停止状態が予測される所定の事態を検知する非制動停止予測部と、前記回転駆動部によって前記陽極が回転を開始する時刻である回転開始時間、および前記制動部によって前記陽極の回転速度が前記制動速度に減速された時刻である制動完了時間を検知するタイマと、前記タイマによって検知された前記回転開始時間および前記制動完了時間を上書き記憶する記憶部と、を備え、前記非制動停止予測部は、前記回転開始時間と前記制動完了時間とのいずれが早い時刻であるかを前記主電源操作部がONの状態に操作される際に判定する操作時間検知部を備え、前記所定の事態を検知することにより前記制動部を作動させ、前記陽極の回転速度を前記制動速度に減速させ、前記操作時間検知部は、前記回転開始時間の方が前記制動完了時間よりも遅いと判定した場合において前記制動部を作動させ、前記陽極の回転速度を前記制動速度に減速させるものである。
【0020】
[作用・効果]本発明に係るX線撮影装置によれば、主電源操作部がONの状態に操作される際に、回転開始時間と制動完了時間とのいずれが早い時刻であるかを判定する操作時間検知部を備えている。操作時間検知部は、回転開始時間の方が制動完了時間よりも早いと判定した場合において駆動部を作動させ、陽極の回転速度を制動速度に減速させる。
【0021】
回転開始時間は陽極が回転を開始する時刻として記憶部に上書き記憶され、制動完了時間は陽極の回転速度が制動速度に減速された時刻として記憶部に上書き記憶される。そのため、回転開始時間の方が制動完了時間よりも早い場合、非制動停止状態の発生が予測される。よって、回転開始時間の方が前記制動完了時間よりも早いと操作時間検知部が判定した場合において駆動部が陽極の回転速度を自動的に制動速度へ減速させるので、非制動停止状態が発生してX線管が劣化し易くなることを防止できる。
【0022】
本発明は、このような目的を達成するために、次のような構成をとってもよい。
すなわち本発明は、陰極と、陽極と、前記陽極を所定の稼働速度に回転させる回転駆動部とを有し、前記陰極および前記稼働速度で回転している前記陽極の間に高電圧を印加することによって前記陽極から被検体に対してX線を発生させるX線管を備えるX線撮影装置であって、前記X線撮影装置に対する電力供給のON/OFFを切り換える主電源操作部と、前記X線管に共振が発生する前記陽極の回転速度である共振速度より低い制動速度に前記陽極の回転速度を減速させる制動部と、回転している前記陽極に対して前記制動部による減速が行われることなく前記主電源操作部がOFFの状態に操作される状態である非制動停止状態が予測される所定の事態を検知する非制動停止予測部と、前記主電源操作部がOFFの状態に操作された時刻から次に前記主電源操作部がONの状態に操作された時刻までの時間である停止時間を計測する停止時間計測手段と、を備え、前記非制動停止予測部は、前記制動部が作動することなく前記陽極の回転速度が前記稼働速度から前記共振速度にまで惰性で減速するために要する時間である共振速度到達時間と前記停止時間とのいずれが長いかを前記主電源操作部がONの状態に操作される際に判定する停止時間判定部を備え、前記所定の事態を検知することにより前記制動部を作動させ、前記陽極の回転速度を前記制動速度に減速させ、前記停止時間判定部は、前記共振速度到達時間の方が前記停止時間よりも長いと判定した場合において前記制動部を作動させ、前記陽極の回転速度を前記制動速度に減速させるものである。
【0023】
[作用・効果]本発明に係るX線撮影装置によれば、主電源操作部がONの状態に操作される際において、共振速度到達時間と前記停止時間とのいずれが長いかを判定する停止時間判定部を備えている。停止時間判定部は、共振速度到達時間の方が停止時間よりも長いと判定した場合において駆動部を作動させ、陽極の回転速度を前記制動速度に減速させる。
【0024】
共振速度到達時間は、制動部が作動することなく陽極の回転速度が稼働速度から共振速度にまで惰性で減速するために要する時間として予め定められる。そのため、共振速度到達時間の方が停止時間よりも長い場合、非制動停止状態の発生が予測される。よって、共振速度到達時間の方が停止時間よりも長いと停止時間判定部が判定した場合において駆動部が陽極の回転速度を自動的に制動速度へ減速させるので、非制動停止状態が発生してX線管が劣化し易くなることを防止できる。
【発明の効果】
【0025】
本発明に係るX線撮影装置によれば、非制動停止状態が予測される所定の事態を検知する非制動停止予測部を備える。非制動停止状態が予測される所定の事態を検知した場合、非制動停止予測部は制動部を作動させ、陽極の回転速度を制動速度に減速させる。非制動停止状態は、回転している陽極に対して制動部による減速が行われることなく主電源操作部がOFFの状態に操作される状態である。
【0026】
制動速度は、共振速度より低い速度として予め定められている速度であり、共振速度とはX線管に共振が発生する陽極の回転速度である。すなわち、非制動停止予測部が陽極の回転速度を制動速度に減速させることにより、非制動停止状態が発生した場合であっても陽極の回転速度は速やかに制動速度となるので、陽極の回転速度が長時間共振速度となることと回避できる。従って、陽極が一定時間高速で回転し続ける構成であったとしても非制動停止状態となることを防止できるので、連続的なX線の発生を短時間で実行できるとともに、共振に起因するX線管の劣化をより確実に防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】実施例に係るX線撮影装置の全体構成を説明する正面図である。
【
図2】実施例に係るX線撮影装置の構成を説明する機能ブロック図である。
【
図3】実施例に係るX線撮影装置の主要な動作を説明するフローチャートである。
【
図4】実施例に係るX線撮影装置において制動部が作動した状態を示すタイミングチャートである。
【
図5】実施例に係るX線撮影装置において制動部が作動することなく主電源操作部がOFFにされた状態を示すタイミングチャートである。
【
図6】従来のX線撮影装置における動作を示すタイミングチャートである。
【
図7】実施例に係るX線撮影装置におけるエラー検知部および検査終了検知部の動作を説明するフローチャートである。
【
図8】実施例に係るX線撮影装置においてエラー検知部の動作を示すタイミングチャートである。
【
図9】実施例に係るX線撮影装置において検査終了検知部の動作を示すタイミングチャートである。
【
図10】実施例に係るX線撮影装置における操作時間検知部の動作を説明するフローチャートである。
【
図11】実施例に係るX線撮影装置において操作時間検知部が制動部を作動させない状態を示すタイミングチャートである。
【
図12】実施例に係るX線撮影装置において操作時間検知部が制動部を作動させる状態を示すタイミングチャートである。
【
図13】変形例に係るX線撮影装置の主要な構成を説明する機能ブロック図である。
【
図14】変形例に係るX線撮影装置において停止時間判定部が制動部を作動させる状態を示すタイミングチャートである。
【
図15】変形例に係るX線撮影装置における停止時間判定部の動作を説明するフローチャートである。
【
図16】変形例に係るX線撮影装置において停止時間判定部が制動部を作動させない状態を示すタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、図面を参照してこの発明の実施例を説明する。
【0029】
<全体構成の説明>
実施例に係るX線撮影装置1は
図1に示すように、天板3と、X線管5と、X線検出器7と、制御装置9と、入力装置11とを備えている。天板3、X線管5、X線検出器7、および制御装置9は撮影室R1に配設されており、入力装置11は操作室R2に配設されている。
【0030】
天板3は、水平姿勢をとる被検体Mを載置させる。天板3は床面に配設された基台4に支持されており、昇降移動可能に構成されている。X線管5は被検体Mに対してX線を照射するものであり、天井から垂下されている支持体8によって懸垂支持されている。支持体8は撮影室R1の天井に沿って水平移動が可能となるように構成される。X線管5は支持体8の移動に従って、水平方向に移動できる。またX線管5は支持体8に沿って昇降移動可能に構成される。
【0031】
X線管5の下部にはコリメータ13が設けられている。コリメータ13は、X線管5から照射されるX線を所定の形状に制限する。所定の形状の一例としては、角錐となっているコーン状などが挙げられる。X線検出器7は、X線管5から照射されたX線を検出して電気信号に変換する。X線管5とX線検出器7は、天板3を挟んで対向配置されている。
【0032】
X線管5は
図2に示すように、陽極15と、陰極17と、回転駆動部19とを備えている。陽極15および陰極17は、図示しない管球の内部において対向配置されている。回転駆動部19は、陽極15を回転させる。回転駆動部19の構成の一例として、陽極15に接続されている回転子、および2相の交番磁界を発生させて当該回転子を回転させる固定子コイルが挙げられる。回転駆動部19の構成は、陽極15を回転させる構成であれば特に限定されない。
【0033】
制御装置9は、一例として中央処理演算装置(CPU:Central Processing Unit)などの情報処理手段を備えている。制御装置9は、天板3、X線管5、およびX線検出器7を例とする、X線撮影装置1を構成する各部の動作を統括制御する。
【0034】
制御装置9は、整流器21と、高圧チョッパ23と、インバータ25と、高電圧発生部27と、スタータ28と、制動部30と、画像生成部31とを備えている。整流器21は、商用電源20と電気的に接続されており、商用電源20から供給される電力を交流から直流に変換する。高圧チョッパ23は、整流器21によって変換された電圧を昇圧する。昇圧された電流は、インバータ25およびスタータ28にそれぞれ印加される。
【0035】
インバータ25は、高圧チョッパ23から印加された電圧を直流交流変換して高電圧発生部27へと供給する。高電圧発生部27は、供給された電圧を陽極15と陰極17との間に印加する。陽極15が回転している状態で陽極15と陰極17との間に電圧が印加されることにより、陰極17から陽極15に対して電子ビームが射出され、陽極15においてX線が発生する。
【0036】
スタータ28は、所定の電圧と所定の周波数とを有する2相の交流電力を発生させるとともに当該交流電力を回転駆動部19に供給する。回転駆動部19に交流電力が供給されることにより、回転駆動部19は陽極15を任意の回転速度で回転させることができる。
【0037】
制動部30は、スタータ28が発生させる交流電力を制御することによって、回転駆動部19による陽極15の回転速度を低下させる。制動部30による陽極15の制動が行われることにより、陽極15の回転速度は制動速度F1以下となる。制動速度F1は、共振域F3より低い所定の回転速度であり、言い換えればX線管5の共振を確実に回避できる回転速度である。本実施例において、制動速度F1は60Hzであるものとする。共振域F3は、X線管5に共振効果が作用するような、陽極15の回転速度の範囲である。本実施例では70Hz以上90Hz以下が共振域F3であるものとする。
【0038】
制動部30はスタータ28を制御する構成に限ることはなく、陽極15の回転速度を減速させる構成であれば適宜変更してよい。制動部30の他の構成としては、回転駆動部19の動作を低下または停止させる構成が挙げられる。画像生成部31はX線検出器7の後段に設けられており、X線検出器7から出力されたX線検出信号に基づいて各種画像処理を行うことによってX線画像を生成する。
【0039】
入力装置11は、操作者Sの指示を入力するものであり、その例として、キーボード入力式のパネル、タッチ入力式のパネル、押しボタン式のスイッチ、切り換え式のスイッチなどが挙げられる。操作者Sは操作室R2から窓Wdを通して被検体Mなどを確認しつつ、入力装置11を適宜操作することによってX線撮影装置1に対する各種指示を行う。
【0040】
入力装置11は、主電源操作部33と、検査指示部35と、撮影指示部37と、制動指示部39とを備えている。主電源操作部33は一例として切り換え式のスイッチであり、X線撮影装置1の全体に対する電力供給のオン/オフを制御する。検査指示部35は一例としてタッチパネルに配設されているアイコンであり、被検体Mに対する検査の開始および終了に関する操作者Sの指示を入力する。
【0041】
撮影指示部37は、X線撮影装置1によるX線撮影の準備および開始などに関する指示を入力する。本実施例において、撮影指示部37は2段階に押圧操作される押しボタン式のスイッチで構成される。撮影指示部37に対して1段階目の押圧操作が行われることによって、陽極15の回転速度は稼働速度F2に上昇する。なお、稼働速度F2はX線の発生に必要な陽極15の回転速度であり、一例として180Hzである。そして陽極15の回転速度が稼働速度F2である状態で、撮影指示部37に対して2段階目の押圧操作が行われることによってX線撮影が実行される。
【0042】
制動指示部39は一例として押しボタン式のスイッチであり、制動指示部39を操作することによって制動部30が作動される。すなわち、操作者Sは制動指示部39をオンの状態に操作することにより、任意のタイミングで陽極15の回転速度を減速させることができる。
【0043】
X線撮影装置1は、さらに表示部41と、報知部43と、記憶部45と、タイマ55とを備えている。表示部41は一例として操作室R2に配設される高画質モニタであり、画像生成部31が生成したX線画像を表示する。報知部43は、X線撮影装置1を構成する各部の状態を操作者Sに報知させる。報知部43による報知方法の一例として、音声または光によって報知する構成が挙げられる。記憶部45は、画像生成部31が生成したX線画像を例とする、X線撮影装置1において取得された各種情報を記憶する。
【0044】
タイマ55はX線撮影装置1における各種動作が行われる時間を計測するものであり、一例として陽極15が回転を開始した時間(撮影指示部37の1段階目の操作が行われた時間)を回転開始時間B1として検知する。またタイマ55は、制動部30が作動することによって陽極15の回転速度が制動速度F1となった時間を制動完了時間B2として検知する。タイマ55が検知した回転開始時間B1および制動完了時間B2の情報は、記憶部45へ送信される。回転開始時間B1および制動完了時間B2の情報は、記憶部45へ送信される度に上書き記憶される。
【0045】
本発明に係るX線撮影装置1は、X線管5が長時間共振することを防止する構成として、非制動停止予測部50を制御装置9に備えている。非制動停止予測部50は非制動停止状態の発生を予測される事態を検知し、当該事態を検知した場合に制動部30を自動的に作動させることによってX線管5が長時間共振することを防止する。非制動停止状態についての詳細な説明は後述する。本実施形態において、非制動停止予測部50はエラー検知部51と、検査終了検知部53と、操作時間検知部57とを備えている。
【0046】
エラー検知部51は制動部30および報知部43とそれぞれ接続されており、X線撮影装置1において発生した各種エラーを検知する。エラーの一例として、天板3または支持体8を移動させる駆動装置の動作エラーなどが挙げられる。エラー検知部51がエラーを検知すると、当該エラーに関する情報を報知部43へ送信するとともに、陽極15の回転速度を減速させる旨の信号を制動部30へ送信する。
【0047】
検査終了検知部53は検査指示部35の下流に設けられている。検査指示部53によって被検体Mの検査が終了した旨の指示が入力された場合、検査終了検知部53は当該指示を検知するとともに、陽極15の回転速度を減速させる旨の信号を制動部30へ送信する。
【0048】
操作時間検知部57は、記憶部45に記憶されている回転開始時間B1および制動完了時間B2の情報を読み出し、各々の時間を比較する。制動完了時間B2が回転開始時間B1より速い時間である場合、操作時間検知部57は陽極15の回転速度を減速させる旨の信号を制動部30へ送信する。
【0049】
<X線撮影装置の基本動作>
ここで、X線撮影装置1によってX線撮影を行うための基本動作について、
図3のフローチャートと
図4のタイミングチャートとを用いて説明する。まず、操作者Sは主電源操作部33をONの状態となるように操作する(ステップS1)。主電源操作部33がONの状態となることにより、X線管5、X線検出器7、制御装置9、各種駆動装置など、X線撮影装置1を構成する各部に対して電力が供給される。
【0050】
次に、操作者Sは入力装置11を操作して、ネットワークを介してHIS(Hospital Information System)およびRIS(Radiology Information System)などから検査オーダを取得する(ステップS2)。
【0051】
操作者Sは、取得された検査オーダの中からX線撮影の対象となる被検体Mの検査情報を選択し、当該検査情報に沿って被検体Mに対する検査を開始する旨の指示を検査指示部35によって入力する(ステップS3)。
【0052】
検査開始の指示を入力した後、撮影条件を設定する(ステップS4)。すなわち、操作者Sは撮影室R1に入って被検体Mを天板3に適切な姿勢で載置させるとともに、コリメータ13から可視光を照射させてX線照射野の範囲および位置を確認する。そして操作者Sは操作室R2に戻って入力装置11を操作し、X線管5に印加する管電圧および管電流などのX線撮影条件を設定する。
【0053】
X線撮影の条件が設定されると、操作者Sは撮影指示部37を把持して1段階目の押圧操作を行うことによって陽極15を回転させる(ステップS5)。1段階目の押圧操作により、スタータ28から回転駆動部19へと所定の駆動電力が印加される。駆動電力の印加により、
図4において符号P1で示すように、回転駆動部19は陽極15の回転速度を稼働速度F2まで上昇させる。このとき、陽極15の回転速度は短時間(一例として2秒程度)で稼働速度F2(本実施例では180Hz)にまで加速される。陽極15が稼働速度F2で回転することにより、X線管5からX線を発生させることが可能となる。
【0054】
タイマ55は、1段階目の押圧操作が行われた時間を検知し、当該時間を回転開始時間B1として記憶部45に上書き記憶させる。またタイマ55は、陽極15の回転速度が稼働速度F2に達した時間を併せて検知する。陽極15の回転速度が稼働速度F2となった後、予め定められた所定時間DPが経過するまで、陽極15は稼働速度F2を維持しつつ回転する。
【0055】
陽極15の回転速度が稼働速度F2に達した後、X線撮影を実行する(ステップS6)。すなわち、符号T1で示されるタイミングにおいて、操作者Sは撮影指示部37に対して2段階目の押圧操作を行う。2段階目の押圧操作を行うことにより、制御装置9においてインバータ25から高電圧発生部27へと所定の電力が出力される。高電圧発生部27は当該出力に応じて、陽極15と陰極17との間に高電圧を印加させる。高電圧が印加されることにより、回転する陽極15に対して陰極17から電子ビームが照射され、X線が発生する。
【0056】
陽極15において発生したX線は、コリメータ13によって照射範囲がステップS4において定めたX線照射野に制限され、被検体Mに照射される。被検体Mを透過したX線はX線検出器7によって検出されてX線検出信号に変換される。画像生成部31がX線検出信号に基づいて画像処理を行うことにより、X線画像が生成される。このように、撮影指示部37に対して2段階目の押圧操作を行うことによって、X線撮影が実行される。
【0057】
なお撮影指示部37が2段階目の操作が行われると、稼働速度F2が維持される所定時間DPの計測が更新される。すなわちタイマ55は、当該2段階目の操作が行われたタイミングT1を検知し、所定時間DPの起点をタイミングT1に更新させる。当該更新により、タイミングT1から所定時間DPが経過するまで陽極15の回転速度が稼働速度F2に維持される。
【0058】
操作者Sは、表示部43などを用いてX線画像を確認し、さらにX線撮影を行うかどうかの判断を行う(ステップS7)。再度X線撮影を行う場合はステップS4に戻り、新たなX線撮影に係るX線撮影条件を設定する。
【0059】
なお、直近にX線撮影が行われたタイミングT1から所定時間DPが経過するまで、陽極15は稼働速度F2を維持しつつ回転する。そこで操作者Sは所定時間DPが経過する前にX線撮影条件を設定して撮影指示部37を2段階目まで操作する(
図4の符号T2を参照)。この場合、陽極15は減速することなく稼働速度F2を維持しているので、陽極15が稼働速度F2に加速されることを待つ必要がない。そのため、速やかに陰極17から陽極15へと電子ビームを照射させてX線撮影を再度実行できる。タイマ55はタイミングT2を検知し、所定時間DPの起点をT2に更新する。
【0060】
その後、撮影指示部37が操作されることなく、直近にX線撮影が行われたタイミングT2から所定時間DPが経過した場合、制御装置9において制動部30が作動する。制動部30はスタータ28を制御することにより、回転駆動部19における回転子の回転を減速させる。当該制御により、陽極15の回転速度は稼働速度F2から制動速度F1へと速やかに減速する(
図4の符号P2を参照)。陽極15の回転速度が制動速度F1に減速されると、制動部30による制御が解除され、陽極15は惰性によって制動速度F1から緩やかに減速されて停止する(符号P3を参照)。
【0061】
タイマ55は、制動部30の作動が開始した時間を検知するとともに、制動部30の作動によって制動速度F1に減速された時間を制動完了時間B2として検知する。検知された制動完了時間B2は、記憶部45に上書き記憶される。なお、所定時間DPが経過する前であっても、操作者Sが入力装置11に設けられている制動操作部39を操作することにより、任意のタイミングで制動部30を作動させて陽極15の回転速度を速やかに制動速度F1へと減速させることができる。
【0062】
一方、被検体Mについて必要なX線撮影を全て完了した場合、操作者Sは入力装置11の検査指示部35を操作して検査終了の指示を入力する(ステップS8)。検査終了の指示が入力されることにより、X線撮影によって取得されたX線画像などの情報が、図示しないネットワークを介して病院のサーバへと送信される。
【0063】
被検体Mに対する検査を行った後、全ての被検体に対する検査が完了したどうかによって操作を分岐する(ステップS9)。さらに別の被検体に対して検査を行う場合はステップS2に戻り、検査オーダの中から当該別の被検体に対する検査情報を選択する。
【0064】
ステップS9において全ての被検体に対する検査が完了した場合、操作者Sは主電源操作部33をOFFの状態に操作する(ステップS10)。主電源操作部33がOFFの状態となることにより、X線撮影装置1に対する電力の供給が停止される。以上の動作により、X線撮影装置1に係る基本動作について、全ての工程が完了する。
【0065】
<共振を防止する制御の説明>
ここで実施例に係るX線撮影装置1において、X線管5の共振を防止する制御機構について説明する。まずは
図4のタイミングチャートと
図5のタイミングチャートを用いて、X線管5が共振する事態について説明する。
【0066】
陽極15が稼働速度F2で回転している場合に制動部30が作動した場合、陽極15の回転速度は速やかに制動速度F1へと減速する(
図4、符号P2)。制動速度F1は共振域F3より低い速度である。また制動部30が作動した場合において、制動速度F1への減速に要する時間は一例として2~3秒程度の短時間である。よって、制動部30が作動した場合、陽極15の回転速度が共振域F3となってX線管5が共振する時間は非常に短いので、共振によってX線管5が受ける影響は小さい。
【0067】
一方で
図5に示すように、陽極15の回転速度が稼働速度F2を維持している状態で主電源操作部33がOFFに操作される場合(符号T3を参照)、共振によってX線管5が受ける影響が大きくなる。すなわち、主電源操作部33をOFFにすると制動部30に対する電力供給も停止するので、制動部30は作動することができなくなる。従って、陽極15の回転速度が稼働速度F2を維持している状態で、制動部30が作動する前に主電源操作部33がOFFに操作されると、陽極15は制動を受けることなく惰性によって回転速度を緩やかに低下させていくこととなる(
図5、符号P4を参照)。
【0068】
惰性による減速には一例として数十分程度の長い時間を要する。よって、制動部30が作動することなく、稼働速度F2から惰性によって減速する場合、陽極15の回転速度が共振域F3となる時間Ghが長くなる。従って、制動部30を作動させることなく主電源操作部33をOFFにすると、X線管5が共振する時間が長くなるのでX線管5が劣化し易くなる。
【0069】
従来の装置では陽極の回転を稼働速度F2に加速させた後、X線撮影の指示を行う度に陽極の回転に制動をかける。すなわち
図6に示すように、時刻T4において撮影指示部を操作した場合、時刻T4の直後に陽極の回転速度が速やかに減速される(符号P5を参照)。そのため、再度X線撮影の指示を行う場合、撮影指示部を1段階目に操作して陽極が再び稼働速度F2に加速されるのを待ってから撮影指示部を2段階目に操作する必要がある(符号T5を参照)。よって、従来の装置では連続してX線撮影を行う場合はX線撮影に要する時間が長くなるので連続撮影の利便性が低下する。
【0070】
これに対し、実施例に係るX線撮影装置1では連続撮影の利便性を向上させるべく、X線撮影の指示を行った後、所定時間DPが経過するまで陽極15の回転速度が稼働速度F2に維持される構成となっている。この場合、陽極15が稼働速度F2で回転している時間が比較的長い。そのため、陽極15の回転速度が稼働速度F2を維持している状態で、操作者Sが制動指示部39の操作を行うことなく主電源操作部33をOFFに操作する、という事態が発生しうる。
【0071】
そこで、X線撮影装置1は共振による影響を回避すべく、X線管5が長時間共振するような事態を予測し、自動的に制動部30を作動させて速やかに陽極15の回転速度を減速させる構成を備えている。具体的には本実施例において、X線撮影装置1はエラー検知部51、検査終了検知部53、操作時間検知部57を備えており、それぞれ異なる3つの事態に対して、自動的に制動部30を作動させてX線管5の共振を回避する構成を備えている。以下、X線撮影装置1においてX線管5の共振を回避する構成について説明する。
【0072】
<エラー検知部の説明>
第1に、エラー検知部51によってX線管5の共振を回避する構成について説明する。操作者Sが主電源操作部33をOFFに操作すると予測される事態として、X線撮影装置1に何らかのエラーが発生してX線撮影の続行が不可能になる場合が挙げられる。この場合、操作者Sは報知部43によって報知されるエラーに注意するため、制動部30を作動させることなく即座に主電源操作部33をOFFに操作する、という事態が発生しうる。
【0073】
本実施例ではこのような、稼働速度F2で回転している陽極15が制動部30による制動を受けることなく、主電源操作部33がOFFに操作されてX線撮影装置1に対する電力供給が停止されるという事態を「非制動停止状態」とする。すなわち、X線撮影装置1においてエラーが報知されることは、非制動停止状態が発生してX線管5が長時間共振することが予測される事態となる。
【0074】
そこで、エラー検知部51は報知部43にエラーを報知させると同時に、制動部30を作動させる機能を備えている。すなわち、一例としてコリメータ13が障害物に干渉する、または支持体8の駆動機構が作動しない、などのエラーが時刻T6においてX線撮影装置1に発生した場合、エラー検知部51は当該エラーの発生を検知する。
【0075】
エラー検知部51がエラーを検知すると、エラー検知部51は非制動停止状態の発生を予測し、制動部30を作動させる旨の信号がエラー検知部51から制動部30へ送信される。当該信号により、制動部30が作動して回転駆動部19による陽極15の回転を減速させる制御が実行される。その結果、
図8に示すように時刻T6において陽極15は減速を開始し、陽極15の回転速度は速やかに制動速度F1にまで減速される。
【0076】
エラー検知部51は制動部30へ信号を送信するとともに、検知されたエラーの情報を報知部43に送信する。報知部43は送信されたエラーの情報を文字、光、音声などによって操作者Sに報知する。すなわち、エラー検知部51によって制動部30が作動した後に操作者Sは報知部43によってエラーを把握することとなる。
【0077】
従って、操作者Sがエラーの発生を認識して即座に主電源操作部33をOFFに操作した場合であっても、陽極15の回転速度は既に稼働速度F2から制動速度F1へと減速されている。よって、主電源操作部33がOFFの状態に操作されて制動部30が作動できなくなったとしても、陽極15の回転速度が共振域F3となることを回避できる。このように、実施例に係るX線撮影装置1ではエラー検知部51を備えることにより、エラーの発生に起因する、陽極15が稼働速度F2から惰性で減速してX線管5が長時間共振するという事態を回避できる。
【0078】
<検査終了検知部の説明>
第2に、検査終了検知部53によってX線管5の共振を回避する構成について説明する。操作者Sが主電源操作部33をOFFに操作すると予測される事態として、ステップS8において検査指示部35を操作して検査終了の指示を入力する場合が挙げられる。
【0079】
陽極15が稼働速度F2で回転した後において、
図7に示されるように、所定時間DPが経過した場合(ステップS505)、制動操作部39が操作された場合(ステップS506)、またはエラー発生部51がエラーを検知した場合(ステップS507)、制動部30が作動して陽極15の回転速度は速やかに制動速度F1へと減速される(ステップS511~513)。
【0080】
しかし、X線撮影が迅速かつ順調に完了することによって、所定時間DPが経過することなく、かつ制動操作部39の操作およびエラーの発生がいずれも行われることもなく検査終了の指示が入力装置11に入力される場合がある。この場合、陽極15は稼働速度F2で回転し続けている状態となっている。
【0081】
当該状態において操作者Sが制動操作部39の操作を忘れて即座に主電源操作部33をOFFに操作することにより、制動部30を作動させることなく即座に主電源操作部33をOFFに操作する、という事態が発生しうる。すなわち、言い換えると、検査指示部35によって検査終了の指示が入力されることも、非制動停止状態が発生してX線管5が長時間共振することが予測される事態となる。
【0082】
そこで、検査終了検知部53は検査終了の指示が入力されることを検知することにより、X線撮影の情報をサーバに送信すると同時に制動部30を作動させる機能を備えている。すなわち、操作者Sが時刻T8において検査指示部35を操作して検査終了の指示を入力した場合、検査終了検知部53は当該指示を検知する。
【0083】
検査終了検知部53が検査終了の指示を検知すると、検査終了検知部53は非制動停止状態の発生を予測する。そして、制動部30を作動させる旨の信号が検査終了検知部53から制動部30へ送信される。当該信号により、制動部30が作動して回転駆動部19による陽極15の回転を減速させる制御が実行される。その結果、
図9に示すように時刻T8において陽極15は減速を開始し、陽極15の回転速度は速やかに制動速度F1にまで減速される。
【0084】
従って、操作者Sが検査終了の指示を入力した後、制動操作部39を操作することなく主電源操作部33をOFFに操作した場合であっても、当該時刻T9において、陽極15の回転速度は既に稼働速度F2から制動速度F1へと減速されている。よって、主電源操作部33がOFFの状態に操作されて制動部30が作動できなくなったとしても、陽極15の回転速度が共振域F3となることを回避できる。このように、実施例に係るX線撮影装置1では検査終了検知部53を備えることにより、ステップS8に係る検査終了の指示入力後において、陽極15が稼働速度F2から惰性で減速してX線管5が長時間共振するという事態を回避できる。
【0085】
<操作時間検知部の説明>
第3に、操作時間検知部57によってX線管5の共振を回避する構成について説明する。X線撮影装置1において、制動部30が作動することなく主電源操作部33がOFFに操作されると予測される事態として、X線撮影を行うことなくX線撮影装置1の点検を行う場合が挙げられる。すなわち、始業時または終業時などにおいてX線撮影装置1の動作を点検することがある。
【0086】
当該点検において、点検者がX線管5の動作確認のために陽極15を回転させた後、所定時間DPの経過(ステップS505)、制動操作部39の操作(ステップS506)、またはエラーの発生(ステップS507)がいずれも行われない状態で、主電源操作部33をOFFにして点検を終了させる事態が発生しうる。点検においては検査終了の指示は行われない。そのため、当該事態が発生すると、制動部30が作動することなく主電源操作部33がOFFとなるので陽極15は惰性による緩やかな減速を開始する。その結果、陽極15の回転速度が共振域F3となる時間Ghが長くなるので、X線管5は長時間の共振によって劣化しやすくなる。
【0087】
しかしながら、稼働速度F2で回転する陽極15が惰性による緩やかな減速を開始した場合、陽極15の回転速度が稼働速度F2から共振域F3へと減速されるまでに要する時間は比較的長く、一例として数十分程度である。すなわち、点検者が主電源操作部33をOFFに操作してからX線管5が共振を開始するまでに数十分程度の時間的余裕が存在する。従って、主電源操作部33がOFFに操作された後、陽極15の回転速度が惰性によって共振域F3に減速されるまでに主電源操作部33が再度ONの状態に操作された場合、速やかに制動部30を作動させることによってX線管5の共振を回避できる。
【0088】
そこで、操作時間検知部57は回転開始時間B1および制動完了時間B2を取得して比較することにより、制動部30が作動されることなく主電源操作部33がOFFに操作された事態を予測する機能を有する。
【0089】
図7に示すように、稼働速度F2となるように陽極15が回転を開始した場合(ステップS502)、当該開始の時刻が最新の回転開始時刻B1として上書き記憶される(ステップS503)。そして制動部30が作動して陽極15の回転速度が制動速度F1に減速された場合、制動速度F1に減速された時刻が最新の制動完了時間B2として上書き記憶される(ステップS509~511)。
【0090】
すなわち
図4および
図8などに示すように、陽極15が稼働速度F2に達した後、制動部30が作動して陽極15の回転速度が制動速度F1に減速された場合、回転開始時間B1が先に記憶部45に上書き記憶され、その後に制動完了時間B2が記憶部45に上書き記憶されることとなる。つまり、制動部30が作動して陽極15の回転速度が稼働速度F2から制動速度F1に減速された場合、回転開始時間B1と比べて制動完了時間B2は遅い時間となる。
【0091】
一方で陽極15が稼働速度F2に達した後、制動部30が作動することなく陽極15の回転速度が惰性で減速した場合、
図5に示すように回転開始時間B1が記憶部45に上書き記憶されるが、制動完了時間B2は記憶部45に上書き記憶されない。従って、制動部30が作動することなく陽極15の回転速度が惰性で減速した場合、制動完了時間B2と比べて回転開始時間B1の方が遅い時間となる。
【0092】
このように、最新の回転開始時間B1の時刻と最新の制動完了時間B2の時刻とを比較することにより、直近において主電源操作部33がOFFに操作される時点において、制動部30の作動による陽極15の減速が行われていたか否かを知ることができる。
【0093】
操作時間検知部57を用いてX線管5の共振を回避する一連の動作について、
図10のフローチャートを参照して説明する。まず、主電源操作部33をONの状態に操作することをトリガとして、操作時間検知部57は記憶部45に記憶されている回転開始時間B1および制動完了時間B2の情報を取得する(ステップS601、S602)。そして、回転開始時間B1が制動完了時間B2よりも早いかどうかによって工程を分岐する(ステップS603)。
【0094】
回転開始時間B1の時刻が制動完了時間B2の時刻よりも
早い場合、直近に主電源操作部33がOFFに操作された時刻T10において、制動部30が既に作動して陽極15が制動速度F1に減速されていることを確認できる(
図11を参照)。よって、時刻T11に主電源操作部33を再度ONにした状態において、X線管5が共振する可能性がない。すなわち、主電源操作部33を再度ONにした状態において制動部30を作動させる必要がない。従って、時刻T11において操作時間検知部57は制動部30を作動させることなく、以降のステップに進む。
【0095】
一方、
図12に示すように、回転開始時間B1の時刻が制動完了時間B2の時刻よりも
遅い場合、直近にX線撮影装置1が使用された際に、制動部30が作動することなく時刻T12において主電源操作部33がOFFに操作されたことを確認できる。よって、時刻T13に主電源操作部33を再度ONにした状態において、陽極15が惰性で減速しておりX線管5が長時間共振する可能性が予測される。言い換えれば、回転開始時間B1の時刻が制動完了時間B2の時刻よりも早いことも、非制動停止状態が発生してX線管5が長時間共振することが予測される事態となる。
【0096】
そこで回転開始時間B1の時刻が制動完了時間B2の時刻よりも早い場合、操作時間検知部57は非制動停止状態の発生を予測する。そして、制動部30を作動させる旨の信号が操作時間検知部57から制動部30へ送信される(
図12、符号T13)。当該信号により、制動部30が作動して回転駆動部19による陽極15の回転を減速させる制御が実行される。その結果、時刻T13において陽極15は減速を開始し、陽極15の回転速度は速やかに制動速度F1にまで減速される(ステップS604、S605)。そしてタイマ55は、制動速度F1に減速された時刻を制動完了時間B2として検知し、記憶部45は当該制動完了時間B2を上書き記憶する(ステップS606)。
【0097】
このように操作時間検知部57を用いることにより、時刻T12において陽極15が惰性によって減速している場合であっても、時刻T13において操作時間検知部57が制動部30を作動させる。制動部30の作動により、陽極15の回転速度を速やかに制動速度F1へと減速させるので、陽極15の回転速度が共振域F3となる時間を大きく短縮できる。よって、X線管5が共振によって劣化することを回避できる。
【0098】
<実施形態の構成による効果>
(第1項)本実施形態に係るX線撮影装置は、陰極と、陽極と、陽極を所定の稼働速度に回転させる回転駆動部と、陰極および稼働速度で回転している陽極の間に高電圧を印加することによって陽極から被検体に対してX線を発生させる高電圧発生部とを有するX線管を備えるものであって、X線撮影装置に対する電力供給のON/OFFを切り換える主電源操作部と、X線管に共振が発生する陽極の回転速度である共振域より低い制動速度に陽極の回転速度を減速させる制動部と、回転している陽極に対して制動部による減速が行われることなく主電源操作部がOFFの状態に操作される状態である非制動停止状態が予測される所定の事態を検知する非制動停止予測部と、を備え、非制動停止予測部は、当該所定の事態を検知することにより駆動部を作動させ、陽極の回転速度を制動速度に減速させる。
【0099】
第1項に記載のX線撮影装置によれば、非制動停止状態が予測される所定の事態を検知する非制動停止予測部を備える。非制動停止状態が予測される所定の事態を検知した場合、非制動停止予測部は制動部を作動させ、陽極の回転速度を制動速度に減速させる。非制動停止状態は、回転している陽極に対して制動部による減速が行われることなく主電源操作部がOFFの状態に操作される状態である。
【0100】
制動速度は、共振域より低い速度として予め定められている速度であり、共振域とはX線管に共振が発生する陽極の回転速度である。すなわち、非制動停止予測部が陽極の回転速度を制動速度に減速させることにより、非制動停止状態が発生した場合であっても陽極の回転速度は速やかに制動速度となるので、陽極の回転速度が長時間共振域となることと回避できる。従って、陽極が一定時間稼働速度で回転し続ける構成であったとしても非制動停止状態となることを防止できるので、連続的なX線の発生を短時間で実行できるとともに、共振に起因するX線管の劣化をより確実に防止できる。
【0101】
(第2項)また第1項に記載のX線撮影装置において、非制動停止予測部は、X線撮影装置に発生するエラーを検知するエラー検知部を備え、エラー検知部は、当該エラーの発生を検知することにより駆動部を作動させ、陽極の回転速度を制動速度に減速させる。
【0102】
第3項に記載のX線撮影装置によれば、X線撮影装置1にエラーが発生した場合、操作者が制動部を作動させることなく主電源操作部をOFFの状態に操作する、という事態が予測される。そこで、エラーの発生をエラー検知部が検知すると、駆動部が陽極の回転速度を自動的に制動速度へ減速させるように、当該エラー検知部は駆動部を制御する。当該エラー検知部を備えることにより、非制動停止状態が発生してX線管が急速に劣化し易くなることを防止できる。
【0103】
(第3項)また第1項または第2項に記載のX線撮影装置において、被検体に対する検査の終了の指示を入力する検査終了指示部を備え、非制動停止予測部は、検査終了指示部による当該検査終了の指示の入力を検知する検査終了検知部を備え、検査終了検知部は、検査終了指示部による検査終了の指示の入力を検知することにより駆動部を作動させ、陽極の回転速度を制動速度に減速させる。
【0104】
第3項に記載のX線撮影装置によれば、被検体に対する検査の終了の指示が入力されることにより、操作者は制動部を作動させることなく主電源操作部をOFFの状態に操作する、という事態が予測される。そのため、検査終了の指示を検査終了検知部が検知すると駆動部が陽極の回転速度を自動的に制動速度へ減速させる構成とすることにより、非制動停止状態が発生してX線管が劣化し易くなることを防止できる。
【0105】
(第4項)また第1項ないし第3項のいずれかに記載のX線撮影装置1において、回転駆動部によって陽極が回転を開始する時刻である回転開始時間、および制動部によって陽極の回転速度が制動速度に減速された時刻である制動完了時間を検知するタイマと、タイマによって検知された回転開始時間および制動完了時間を上書き記憶する記憶部と、を備え、非制動停止予測部は、回転開始時間と制動完了時間とのいずれが早い時刻であるかを主電源操作部がONの状態に操作される際に判定する操作時間検知部を備え、操作時間検知部は、回転開始時間の方が前記制動完了時間よりも早いと判定した場合に駆動部を作動させ、陽極の回転速度を制動速度に減速させる。
【0106】
第4項に記載のX線撮影装置によれば、回転開始時間は陽極が回転を開始する時刻としてタイマに検知されて記憶部に上書き記憶される。制動完了時間は陽極の回転速度が制動速度に減速された時刻としてタイマに検知されて記憶部に上書き記憶される。そのため、回転開始時間の方が制動完了時間よりも早い場合、陽極が回転を開始した後において制動部が作動していないので、非制動停止状態の発生が予測される。よって、回転開始時間の方が制動完了時間よりも早いと操作時間検知部が判定した場合において駆動部が陽極の回転速度を自動的に制動速度へ減速させるので、非制動停止状態が発生してX線管5が劣化し易くなることを防止できる。
【0107】
(第5稿)また第1項ないし第4稿のいずれか1項に記載のX線撮影装置において、主電源操作部がOFFの状態に操作された時刻から次に主電源操作部がONの状態に操作された時刻までの時間である停止時間を計測する停止時間計測部と、を備え、前記非制動停止予測部は、前記制動部が作動することなく前記陽極の回転速度が前記稼働速度から共振域にまで惰性で減速するために要する時間である共振速度到達時間と前記停止時間とのいずれが長いかを前記主電源操作部がONの状態に操作される際に判定する停止時間判定部を備え、前記停止時間判定部は、前記共振速度到達時間の方が前記停止時間よりも長いと判定した場合において前記駆動部を作動させ、前記陽極の回転速度を前記制動速度に減速させる。
【0108】
第5項に記載のX線撮影装置によれば、主電源操作部がONの状態に操作される際において、共振速度到達時間と前記停止時間とのいずれが長いかを判定する停止時間判定部を備えている。停止時間判定部は、共振速度到達時間の方が停止時間よりも長いと判定した場合において駆動部を作動させ、陽極の回転速度を前記制動速度に減速させる。
【0109】
共振速度到達時間は、制動部が作動することなく陽極の回転速度が稼働速度から共振速度にまで惰性で減速するために要する時間として予め定められる。そのため、共振速度到達時間の方が停止時間よりも長い場合、非制動停止状態の発生が予測される。よって、共振速度到達時間の方が停止時間よりも長いと停止時間判定部が判定した場合において駆動部が陽極の回転速度を自動的に制動速度へ減速させるので、非制動停止状態が発生してX線管が劣化し易くなることを防止できる。
<他の実施形態>
なお、今回開示された実施例は、すべての点で例示であって制限的なものではない。本発明の範囲は、特許請求の範囲、並びに、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。例として、本発明は下記のように変形実施することができる。
【0110】
(1)上述した実施例において、非制動停止予測部50はエラー検知部51と、検査終了検知部53と、操作時間検知部57とを備えているが、非制動停止予測部50はこれら3つを兼ね備える構成に限られない。すなわち、非制動停止予測部50はエラー検知部51と、検査終了検知部53と、操作時間検知部57とのうち少なくとも1つを備えている構成であればよい。
【0111】
(2)上述した実施例において、
図13に示すように、非制動停止予測部50はさらに停止時間判定部61を備えていてもよい。なお説明の便宜上、
図13においては主要な構成を示すに留め、X線管5、インバータ25、画像生成部31などの構成を省略している。また、非制動停止予測部50はエラー検知部51、検査終了検知部53、および操作時間検知部57の各々を省略し、非制動停止状態を予測してX線管5の共振を防止する構成として停止時間判定部61のみを備えていてもよい。
【0112】
停止時間判定部61は、主電源操作部33がONの状態となるように操作された時に、共振速度到達時間DSと停止時間SPとのいずれが長いかを判定することによって、非制動停止状態が予測される事態を検知する。
【0113】
なお、共振速度到達時間DSは
図5に示すように、稼働速度F2で回転する陽極15に対して制動部30が作動することなく、陽極15の回転速度が稼働速度F2から共振域F3にまで惰性で減速するために要する時間を意味する。また、停止時間SPは
図11または
図12に示すように、主電源操作部33がOFFの状態に操作された時刻から次に主電源操作部33がONの状態に操作された時刻までの時間を意味する。具体的には
図11における時刻T10から時刻T11までの時間、または
図12における時刻T12から時刻T13までの時間が停止時間SPに相当する。
【0114】
当該変形例ではタイマ55を用いて共振速度到達時間DSおよび停止時間SPを計測する。この場合、タイマ55が本発明における停止時間計測部に相当する。ただし、共振速度到達時間DSおよび停止時間SPを計測する構成はタイマ55に限ることはない。また、共振速度到達時間DSおよび停止時間SPをそれぞれ異なる計測手段を用いて計測してもよい。共振速度到達時間DSの長さは予め計測され、記憶部45に記憶されている。
【0115】
停止時間判定部61を備える構成において、非制動停止状態が予測される事態を検知することによってX線管5の共振を回避するための一連の動作について、
図15のフローチャートを参照して説明する。まず、主電源操作部33がOFFの状態に操作されることをトリガとして、タイマ55は停止時間SPの計測を開始する(ステップS701、S702)。
【0116】
そして、次回に主電源操作部33をONの状態に操作することをトリガとして、タイマ55は停止時間SPの計測を完了する(ステップS703、S704)。計測された停止時間SPの情報はタイマ55から停止時間判定部61へと送信される。また停止時間SPの送信と同期して、共振速度到達時間DSの情報が記憶部45から停止時間判定部61へと送信される。
【0117】
停止時間判定部61は、共振速度到達時間DSと停止時間SPとのいずれが長いかを判定する。以降、停止時間SPが共振速度到達時間DSよりも長いかどうかによって工程を分岐する(ステップS705)。
【0118】
図14に示すように、停止時間SPが共振速度到達時間DSよりも短い場合、制動部30を作動させて陽極15の回転速度を制動速度F1へ速やかに減速させる。すなわち、直近に主電源操作部33がOFFに操作された時刻T14において、制動部30が作動することなく陽極15が惰性で減速を開始していた場合であっても、主電源操作部33を再度ONにした時刻T15における陽極15の回転速度は未だに共振域F3より早い速度を維持している。
【0119】
つまり、時刻T15においてX線管5はまだ共振する状態となっていない一方で、このまま陽極15が惰性で回転し続けるとX線管5が長時間共振することが予測される。言い換えれば、停止時間SPが共振速度到達時間DSよりも短いことは、非制動停止状態が発生してX線管5が長時間共振することが予測される事態となる。
【0120】
そこで、停止時間SPが共振速度到達時間DSよりも短い場合、停止時間判定部61は非制動停止状態の発生を予測する。そして
図14に示される時刻T15において、制動部30を作動させる旨の信号が停止時間判定部61から制動部30へ送信される。当該信号により、制動部30が作動して回転駆動部19による陽極15の回転を減速させる制御が実行される。その結果、時刻T15において陽極15は減速を開始し、陽極15の回転速度は速やかに制動速度F1にまで減速される(ステップS706、S707)。そしてタイマ55は、制動速度F1に減速された時刻を制動完了時間B2として検知し、記憶部45は当該制動完了時間B2を上書き記憶する(ステップS708)。
【0121】
一方で
図16に示すように、停止時間SPが共振速度到達時間DSよりも長い場合、制動部30は作動することなく、以降のステップに進む。すなわち、直近に主電源操作部33がOFFに操作された時刻T16において、制動部30が作動することなく陽極15が惰性で減速を開始していた場合であっても、主電源操作部33を再度ONにした時刻T17における陽極15の回転速度は既に共振域F3より低い速度にまで減速されている。よって、主電源操作部33を再度ONにした時刻T17において制動部30を作動させる必要がない。従って、時刻T17において停止時間判定部61は制動部30を作動させることなく、以降のステップに進む。
【0122】
このように停止時間判定部61を用いることにより、X線管5が共振によって劣化することを回避できる。すなわち、時刻T14において制動部30が作動しておらず陽極15が惰性による減速を開始している場合であっても、時刻T15において停止時間判定部61が制動部30を作動させる。制動部30の作動により、陽極15の回転速度を速やかに制動速度F1へと減速させるので、陽極15の回転速度が共振域F3となる時間を大きく短縮できる。よって、長時間共振することに起因するX線管5の劣化を確実に回避できる。
【0123】
(3)上述した実施例において、X線撮影装置1は天板3を備えており、臥位姿勢をとる被検体Mに対してX線撮影を行う構成を例示したが、天板3を備える構成に限られない。すなわち、X線撮影装置1は立位姿勢をとる被検体Mに対してX線撮影を行う構成であってもよい。
【0124】
(4)上述した実施例において、X線管5は天井から垂下されている支持体8に支持されている構成に限られない。一例として、X線管5を支持する支持体8は天板3と接続されている構成であってもよいし、支持体8は撮影室R1の床面または壁面に配設されていてもよい。
【0125】
(5)上述した実施例において、陽極15の回転速度が稼働速度F2から共振域F3にまで惰性で減速するために要する時間である共振速度到達時間DSとして、
図5に示すように、陽極15の回転速度が稼働速度F2から共振域F3の最大値に達するまでの時間を適用しているがこれに限られない。一例として
図16に示すように、陽極15の回転速度が稼働速度F2から共振域F3の最小値に達するまでの時間FRを適用してもよい。また陽極15の回転速度が稼働速度F2から共振域F3に含まれるいずれかの値に達するまでの時間を共振速度到達時間DSとして適用してもよい。
【0126】
(6)上述した実施例において、操作時間検知部57は主電源操作部33がONに操作された時点において回転開始時間B1と制動完了時間B2とを比較し、回転開始時間B1が制動完了時間B2より遅い場合に制動部30を作動させる構成としているがこれに限られない。一例として、操作時間検知部57は主電源操作部33がONに操作された時点において無条件に制動部30を作動させる構成であってもよい。
【0127】
このような変形例では、非制動状態が発生して陽極15が惰性で減速を開始して共振域F3に近づいている場合、主電源操作部33がONに操作された時点において無条件に制動部30が作動する。そのため、陽極15の回転速度が長時間共振域F3となることを回避できる。また無条件で操作時間検知部57が制動部30を作動させる構成とすることにより、回転開始時間B1および制動完了時間B2を検知または記憶する構成を省略できる。また、回転開始時間B1および制動完了時間B2を比較して判定する演算も省略できる。よって、X線撮影装置1の構成をより簡略化できる。
【符号の説明】
【0128】
1 …X線撮影装置
3 …天板
5 …X線管
7 …X線検出器
9 …制御装置
11 …入力装置
13 …コリメータ
15 …陽極
17 …陰極
19 …回転駆動部
25 …インバータ
27 …高電圧発生部
28 …スタータ
30 …制動部
30 …画像生成部
33 …主電源操作部
35 …検査指示部
37 …撮影指示部
39 …制動指示部
43 …報知部
45 …記憶部
51 …エラー検知部
53 …検査終了検知部
55 …タイマ
57 …操作時間検知部
61 …停止時間判定部