(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-20
(45)【発行日】2023-11-29
(54)【発明の名称】ケイ素含有テトラカルボン酸二無水物、その製造方法およびポリイミド樹脂
(51)【国際特許分類】
C07F 7/08 20060101AFI20231121BHJP
C08G 73/14 20060101ALI20231121BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20231121BHJP
【FI】
C07F7/08 W CSP
C08G73/14
C07B61/00 300
(21)【出願番号】P 2020101513
(22)【出願日】2020-06-11
【審査請求日】2022-07-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002240
【氏名又は名称】弁理士法人英明国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】木村 真司
【審査官】早乙女 智美
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-143848(JP,A)
【文献】特表昭59-501208(JP,A)
【文献】特開昭60-210624(JP,A)
【文献】国際公開第2010/095329(WO,A1)
【文献】特開昭59-056452(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第1702097(CN,A)
【文献】国際公開第2013/061823(WO,A1)
【文献】特開2017-115163(JP,A)
【文献】特開2015-000983(JP,A)
【文献】特開2008-163090(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07F
C08G
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表されるケイ素含有テトラカルボン酸二無水物。
【化1】
(式中、R
1は、それぞれ独立に
メチル基、エチル基またはフェニル基であり、R
2は、
水素原子であり、R
2
’は、それぞれ独立に水素原子
、メチル基またはエチル基であり、Aは、下記構造式(2)
【化2】
で表される二価の基であり、破線は、結合手を表す。)
【請求項2】
下記式のいずれかで表される請求項1記載のケイ素含有テトラカルボン酸二無水物。
【化3】
【請求項3】
下記一般式(3)で表されるシラン化合物と、下記一般式(4)で表される酸無水物とをヒドロシリル化反応させる請求項1
または2記載のケイ素含有テトラカルボン酸二無水物の製造方法。
【化4】
(式中、R
1
、R
2
およびR
2
’は、上記と同じである。)
【請求項4】
請求項1
または2記載のケイ素含有テトラカルボン酸二無水物を含む単量体の重合物であるポリイミド樹脂。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ケイ素含有テトラカルボン酸二無水物に関し、さらに詳述すると、ポリアミド酸およびポリイミドの原料として有用なケイ素含有テトラカルボン酸二無水物、その製造方法ならびにポリイミド樹脂に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ポリイミド樹脂は、耐熱性、耐燃性、電気・機械的特性などを有する樹脂として知られており、銅張積層板、多層プリント配線板材料などの複合材料として使用されている。また、ポリイミド樹脂は、LSIの多層配線用パッシベーション膜、メモリー素子用α線遮断膜、磁気ヘッドなどの多層配線絶縁膜、液晶配線向膜などのワニスとして、またフレキシブルプリント配線板基板などのフィルムとしても利用されている。
しかし、一般的なポリイミド樹脂は、芳香族テトラカルボン酸二無水物を原料とするものであり、高耐熱性である一方で、光透過性や有機溶剤への溶解性に乏しいという問題がある。
この点、光学分野での使用を目的に、光透過性を向上させるため、脂環式テトラカルボン酸二無水物を原料としたポリイミドが提案されている(特許文献1,2)が、これらのポリイミドも有機溶剤への溶解性は不十分であるうえ、合成方法が煩雑で高コストとなるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2005-336244号公報
【文献】特開2010-70721号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、有機溶剤への溶解性および光透過性に優れるポリイミド樹脂を与えるテトラカルボン酸二無水物、その製造方法およびポリイミド樹脂を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、ケイ素原子を含有する所定のテトラカルボン酸二無水物が、有機溶剤への溶解性および光透過性に優れるポリイミド樹脂を与えることを見出し、本発明を完成した。
【0006】
即ち、本発明は、
1. 下記一般式(1)で表されるケイ素含有テトラカルボン酸二無水物、
【化1】
(式中、R
1は、それぞれ独立に炭素原子数1~12の一価炭化水素基であり、R
2は、それぞれ独立に水素原子または炭素原子数1~12の一価炭化水素基であり、Aは、下記構造式(2)
【化2】
で表される二価の基であり、破線は、結合手を表す。)
2. 下記一般式(3)で表されるシラン化合物と、下記一般式(4)で表される酸無水物とをヒドロシリル化反応させる1記載のケイ素含有テトラカルボン酸二無水物の製造方法、
【化3】
(式中、R
1およびR
2は、上記と同じである。)
3. 1記載のケイ素含有テトラカルボン酸二無水物を含む単量体の重合物であるポリイミド樹脂
を提供する。
【発明の効果】
【0007】
本発明のケイ素含有テトラカルボン酸二無水物は、ポリイミドの原料に使用することができる。本発明のケイ素含有テトラカルボン酸二無水物を原料に使用したポリイミドは、有機溶剤への溶解性および光透過性に優れ、光学用途などに有用である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施例1-1で得られたケイ素含有テトラカルボン酸二無水物のIRスペクトルである。
【
図2】実施例1-1で得られたケイ素含有テトラカルボン酸二無水物の
1H-NMRスペクトルである。
【
図3】実施例2-1で得られたポリイミド樹脂のIRスペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明をさらに詳しく説明する。
本発明のケイ素含有テトラカルボン酸二無水物は、下記一般式(1)で表される。
【0010】
【0011】
式(1)中、R1は、それぞれ独立に炭素原子数1~12の一価炭化水素基であり、R2は、それぞれ独立に水素原子または炭素原子数1~12の一価炭化水素基である。
R1およびR2の炭素原子数1~12の一価炭化水素基としては、直鎖、分岐、環状のいずれでもよく、具体例としては、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、n-オクチル、シクロヘキシル基等のアルキル基、フェニル、トリル、ナフチル基等のアリール基などが挙げられる。これらの中でも原料入手の点から、R1およびR2は、炭素原子数1~6のアルキル基が好ましく、メチル基がより好ましい。
【0012】
Aは、下記構造式(2)で表される二価の基であり、破線は、結合手を表す。
【0013】
【0014】
本発明のケイ素含有テトラカルボン酸二無水物の具体例としては、下記のものが例示される。
【0015】
【0016】
本発明のケイ素含有テトラカルボン酸二無水物は、例えば、下記一般式(3)で表されるシラン化合物と、下記一般式(4)で表される酸無水物とをヒドロシリル化反応させることにより得られる。
【0017】
【0018】
式(3)および(4)中、R1およびR2は、上記式(1)中のR1およびR2と同じである。
【0019】
シラン化合物(3)の具体例としては、1,4-ビス(ジメチルシリル)ベンゼン、1,4-ビス(ジエチルシリル)ベンゼン、1,4-ビス(ジフェニルシリル)ベンゼン、1,3-ビス(ジメチルシリル)ベンゼンなどが挙げられる。
【0020】
酸無水物(4)の具体例としては、5-ノルボルネン-2,3-ジカルボン酸無水物、メチル-5-ノルボルネン-2,3-ジカルボン酸無水物、エチル-5-ノルボルネン-2,3-ジカルボン酸無水物などが挙げられる。
【0021】
シラン化合物(3)と酸無水物(4)の使用量は、シラン化合物中のSi-H基1モルに対し、酸無水物中の炭素-炭素二重結合の量が1.0~3.0モルとなる量が好ましい。
【0022】
ヒドロシリル化反応触媒としては、従来から公知のものを全て使用することができる。例えば、白金金属を担持したカーボン粉末、白金黒、塩化第2白金、塩化白金酸、塩化白金酸と一価アルコールとの反応生成物、白金とジビニルテトラメチルジシロキサン等のビニルシロキサンとの錯体;塩化白金酸とオレフィン類との錯体、白金ビスアセトアセテート等の白金系触媒;パラジウム系触媒;ロジウム系触媒などの白金族金属系触媒が挙げられる。
【0023】
触媒の使用量は、触媒としての有効量でよく、特に限定されないが、通常、上記シラン化合物と酸無水物の合計質量に対して、白金族金属の質量基準で好ましくは1~500ppm、特に好ましくは2~200ppm程度を配合するとよい。
【0024】
上記付加反応(ヒドロシリル化反応)は溶媒を用いなくても進行するが、溶媒を用いることにより穏和な条件で反応を行うことができる。溶媒としては、例えば、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒;ヘキサン、オクタン等の脂肪族炭化水素系溶媒;テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル系溶媒などが挙げられ、これらは1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0025】
反応温度は、20~150℃が好ましく、50~120℃がより好ましく、反応時間は、1~24時間が好ましい。
【0026】
このようにして得られる本発明のケイ素含有テトラカルボン酸二無水物は、ポリアミド酸やポリイミドなどの原料として有用である。本発明のケイ素含有テトラカルボン酸二無水物をモノマーとして上記樹脂を製造することで、透明性および有機溶剤への溶解性の高い樹脂を得ることができる。
【0027】
ポリイミド樹脂を合成する際に用いられるジアミン化合物としては、特に限定されるものではなく、従来公知のジアミン化合物から適宜選択して用いることができ、その具体例としては、テトラメチレンジアミン、1,4-ジアミノシクロヘキサン、4,4’-ジアミノジシクロヘキシルメタン等の脂肪族ジアミン;o-フェニレンジアミン、m-フェニレンジアミン、p-フェニレンジアミン、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、2,2-ビス(4-アミノフェニル)プロパン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン等の芳香族ジアミンなどが挙げられ、これらはそれぞれ1種単独で用いても、2種以上組み合わせて用いてもよい。
なお、本発明においては、上述したケイ素含有テトラカルボン酸二無水物とともに、ポリイミド製造に用いられる公知のテトラカルボン酸二無水物を併用してもよいが、透明性および有機溶剤への溶解性を高めるという観点からは、本発明のケイ素含有テトラカルボン酸二無水物を単独で用いることが好ましい。
【0028】
また、本発明のポリイミド樹脂は、公知の方法で製造することができる。
例えば、まず、ケイ素含有テトラカルボン酸二無水物およびジアミン化合物を溶剤中に仕込み、20~50℃程度で反応させて、ポリイミド樹脂の前駆体であるポリアミド酸を製造する。次に、得られたポリアミド酸の溶液を、好ましくは60~200℃に昇温し、ポリアミック酸の酸アミドを脱水閉環反応させてポリイミド樹脂の溶液を得た後、この溶液を、水、メタノール、エタノール、アセトニトリル等の溶剤に投入して沈殿させ、生じた沈殿物を乾燥することにより、ポリイミド樹脂を得ることができる。
【0029】
本発明のポリイミド樹脂の重量平均分子量は、特に限定されるものではないが、当該樹脂から得られる皮膜の強度と、溶剤への溶解性とのバランスを考慮すると、5,000~100,000が好ましく、10,000~50,000がより好ましい。
なお、本発明における重量平均分子量は、テトラヒドロフラン(THF)を溶媒とするゲル浸透クロマトグラフィー(以下、GPCと略すこともある)によるポリスチレン換算値である。
【実施例】
【0030】
以下、実施例および比較例を用いて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0031】
[実施例1-1]ケイ素含有テトラカルボン酸二無水物の製造
撹拌装置、冷却管、滴下ロートおよび温度計を備えた500mLの4つ口フラスコに、5-ノルボルネン-2,3-ジカルボン酸無水物25.0g(152ミリモル)およびトルエン62.5gを加え、撹拌しながらオイルバスを用いて80℃に加熱した。これに、2質量%塩化白金酸のエタノール溶液0.22gを添加し、撹拌しながら1,4-ビス(ジメチルシリル)ベンゼン8.88g(45.7ミリモル)を15分かけて滴下した。滴下終了後、さらに90℃で2時間加熱撹拌し、その後室温まで冷却した。析出した白色沈殿を濾別し、濾物にトルエン40gを加え、130℃で30分撹拌した。室温まで冷却した後、析出した白色沈殿を濾別した。得られた濾物を50℃、0.4kPaの環境で乾燥し、白色固体15.3g(収率64%)を得た。
この白色固体をIRおよび
1H-NMRで分析した結果、下記構造式(5)で表されるケイ素含有テトラカルボン酸二無水物であることが確認された。IRおよび
1H-NMR測定結果を
図1および
図2に示す。
【0032】
【0033】
1H-NMR:7.46ppm(4H,s,Hi)、2.96~2.89ppm(4H,m,Hb,c)、2.83~2.77ppm(4H,m,Ha,d)、1.69~1.54ppm(4H,m,Hf,g)、1.18~1.11ppm(4H,m,Hf,g)、0.94~0.86ppm(2H,m,He)、0.31ppm、および0.30ppm(12H,s,Hh)
【0034】
[実施例2-1]ポリイミド樹脂の製造
撹拌装置、冷却管および温度計を備えた100mLの3つ口フラスコに、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン1.57g(3.82ミリモル)およびN,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)14.3gを加え、撹拌して均一になったところに、実施例1-1で得られた化合物2.00g(3.83ミリモル)を加え、室温で17時間撹拌を続けた。次に、トリエチルアミン1.16g(11.5ミリモル)、無水酢酸1.17g(11.5ミリモル)を順に加え、80℃で3時間イミド化を行った。溶液を室温まで冷却した後、50gのメタノールに滴下して沈殿を析出させた。沈殿を濾別し、50gのメタノールで洗浄後、80℃、0.4kPaの環境で乾燥し、白色粉末状の樹脂2.96g(収率87%)を得た。THFを溶媒とするGPCにより、この樹脂の重量平均分子量(ポリスチレン換算)を測定したところ、21,000であった。
得られた樹脂のIRスペクトルを
図3に示す。1706および1774cm
-1にイミドカルボニル由来のC=O伸縮振動が見られることから、ポリイミド樹脂であることが確認された。
【0035】
得られた樹脂は、クロロホルム、THF、およびDMAcに溶解した。
【0036】
得られた樹脂を10質量%のTHF溶液とし、枠を設けたスライドガラス上に広げ、40℃1時間、次いで80℃1時間の環境下にさらし、15μm厚みのフィルムを作製した。分光光度計(U3310型((株)日立製作所製))を用いてこのフィルムが付いたガラスの光透過率、およびガラス単体の光透過率を測定し、その差からフィルムの透過率を算出したところ、波長400~800nmの範囲で98%以上であった。
【0037】
上記のように、本発明のケイ素含有テトラカルボン酸二無水物を原料に使用したポリイミド樹脂は、有機溶剤への溶解性、および光透過性に優れる材料となることが示された。