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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-20
(45)【発行日】2023-11-29
(54)【発明の名称】車両の制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60W 20/50 20160101AFI20231121BHJP
   B60K 6/445 20071001ALI20231121BHJP
   B60L 50/16 20190101ALI20231121BHJP
   B60W 10/02 20060101ALI20231121BHJP
   F16H 3/64 20060101ALI20231121BHJP
   F16H 3/72 20060101ALI20231121BHJP
【FI】
B60W20/50
B60K6/445 ZHV
B60L50/16
B60W10/02 900
F16H3/64
F16H3/72 A
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2020141901
(22)【出願日】2020-08-25
(65)【公開番号】P2022037659
(43)【公開日】2022-03-09
【審査請求日】2022-08-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083998
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 丈夫
(74)【代理人】
【識別番号】100096644
【弁理士】
【氏名又は名称】中本 菊彦
(72)【発明者】
【氏名】勇 陽一郎
【審査官】岩田 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-089413(JP,A)
【文献】特開2020-097334(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 20/50
B60K 6/445
B60L 50/16
B60W 10/02
F16H 3/64
F16H 3/72
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の回転部材のうちのいずれか一対の回転部材を選択的に連結しまたは解放する係合機構と、前記一対の回転部材のうちの一方の回転部材を、前記一対の回転部材のうちの他方の回転部材に接近または離隔させる所定のアクチュエータとを備え、前記係合機構を係合した係合状態と、前記係合機構を解放した解放状態とを切り替えることにより、複数の走行モードのうちの第1走行モードと第2走行モードとを切り替える車両の制御装置であって
前記係合機構を制御するコントローラを備え、
前記コントローラは、
前記係合機構の動作性能を判断するパラメータの値に基づいて前記係合機構の動作性能の低下の有無を判断し、
前記係合機構の動作性能が低下していることが判断された場合に、前記第1走行モードと前記第2走行モードとのうちの航続可能距離が長い方の選択走行モードを設定し、かつ前記係合機構の係合状態と解放状態との切り替えを伴う走行モードの切り替えを禁止する
ことを特徴とする車両の制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両の制御装置であって
前記コントローラは、
前記パラメータの値が予め定められた所定範囲内でない場合に、前記係合機構の動作性能が低下していると判断する
ことを特徴とする車両の制御装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の車両の制御装置であって
前記係合機構を係合することにより駆動輪にトルク伝達可能に連結されるエンジンと、前記駆動輪または前記駆動輪とは異なる他の駆動輪に連結されたモータとを更に備え、
前記選択走行モードは、前記係合機構を係合して前記エンジンから前記駆動輪にトルクを伝達して走行するHV走行モードを含む
ことを特徴とする車両の制御装置。
【請求項4】
請求項3に記載の車両の制御装置であって
前記車両は、前記複数の回転部材のうちの所定の一対の回転部材を係合することにより、前記エンジンから前記駆動輪に伝達するトルクの増幅率が大きいローモードを設定する第1係合機構と、前記複数の回転部材のうちの他の一対の回転部材を係合することにより、前記エンジンから前記駆動輪に伝達するトルクの増幅率が前記ローモードよりも小さいハイモードを設定する第2係合機構とを備え、
前記係合機構は、前記第1係合機構と前記第2係合機構とを含み、
前記HV走行モードは、前記ローモードと前記ハイモードとのいずれか一方のモードを含む
ことを特徴とする車両の制御装置。
【請求項5】
請求項4に記載の車両の制御装置であって
前記選択走行モードは、前記ローモードである
ことを特徴とする車両の制御装置。
【請求項6】
請求項4または5に記載の車両の制御装置であって
前記エンジンが連結された回転要素と、前記モータが連結された回転要素と、前記駆動輪が連結された回転要素とのうちの二つの回転要素である第1回転要素および第2回転要素と、第3回転要素とが差動回転可能に連結された第1差動機構と、
前記エンジンが連結された回転要素と、前記モータが連結された回転要素と、前記駆動輪が連結された回転要素とのうちの他の回転要素である第4回転要素と、前記第3回転要素に連結された第5回転要素と、第6回転要素とが差動回転可能に連結された第2差動機構とを更に備え、
前記第1係合機構は、前記第1回転要素と前記第2回転要素とのいずれか一方の回転要素と、前記第6回転要素との一対の回転要素である第1回転要素対、および前記第4回転要素と前記第5回転要素と前記第6回転要素とのいずれか一対の回転要素である第2回転要素対のいずれか一方の回転要素対を係合し、前記第2係合機構は、前記第1回転要素対と、前記第2回転要素対とのうちの他方の回転要素対を係合するように構成されている
ことを特徴とする車両の制御装置。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれか一項に記載の車両の制御装置であって
前記所定のアクチュエータは、電磁アクチュエータを含み、
前記車両は、前記電磁アクチュエータに電力を供給する電源を備え、
前記パラメータは、前記電源の電圧を含む
ことを特徴とする車両の制御装置。
【請求項8】
請求項1ないし7のいずれか一項に記載の車両の制御装置であって
前記パラメータは、前記所定のアクチュエータの温度を含む
ことを特徴とする車両の制御装置。
【請求項9】
請求項1ないし8のいずれか一項に記載の車両の制御装置であって
前記パラメータは、前記一方の回転部材が、前記他方の回転部材に接近または離隔するストローク速度を含む
ことを特徴とする車両の制御装置。
【請求項10】
請求項1ないし9のいずれか一項に記載の車両の制御装置であって
前記パラメータは、前記所定のアクチュエータの運転速度を含む
ことを特徴とする車両の制御装置。
【請求項11】
請求項1ないし10のいずれか一項に記載の車両の制御装置であって
前記コントローラは、
前記パラメータの値に基づいて前記係合機構の動作性能の復帰の有無を判断し、
前記係合機構の動作性能が復帰したと判断された場合に、前記係合機構の係合状態と解放状態との切り替えを伴う走行モードの切り替えを許可するように構成されている
ことを特徴とする車両の制御装置。
【請求項12】
請求項1ないし11のいずれか一項に記載の車両の制御装置であって
前記コントローラは、
前記係合機構の係合状態と解放状態との切り替えを伴う走行モードの切り替えを禁止している間に、前記車両に搭載された所定の部材を保護するために走行モードの切り替えが要求された場合に、前記係合機構の係合状態と解放状態との切り替えを伴う走行モードの切り替えを許可するように構成されている
ことを特徴とする車両の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、複数の走行モードを設定することができる車両の制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、駆動力源としてのエンジンとモータとを備えたハイブリッド車両の制御装置が記載されている。このハイブリッド車両は、エンジンとモータと出力軸とが差動回転するように連結された差動機構と、その差動機構の出力回転数を変更することができる自動変速機とを備え、モータから反力トルクを出力することによりエンジンから駆動輪にトルクを伝達することができるように構成されている。さらに、このハイブリッド車両は、エンジンを停止してモータの動力で走行するEV走行モードを設定できるように構成されている。具体的には、エンジンと差動機構とを選択的に連結することができる第1クラッチ機構と、差動機構の二つの回転要素を選択的に連結することができる第2クラッチ機構とを備えていて、その第1クラッチ機構を解放するとともに、第2クラッチ機構を係合することにより、エンジンと駆動輪とのトルクの伝達を遮断するとともに、モータの動力で走行できるように構成されている。
【0003】
特許文献2には、エンジンとモータと変速機構とが直列に連結されたハイブリッド車両の制御装置が記載されている。このハイブリッド車両は、エンジンとモータとの間に第1クラッチ機構が設けられ、更にモータと変速機構との間に第2クラッチ機構が設けられていて、各クラッチ機構を係合することにより、エンジンとモータとの動力によって走行するHEVモードが設定され、第1クラッチ機構を解放しかつ第2クラッチ機構を係合することにより、モータの動力によって走行するEVモードを設定するように構成されている。そのEVモードからHEVモードへの切り替えは、第2クラッチ機構をスリップ制御するとともに、第1クラッチ機構を係合してエンジンをクランキングするように構成されている。
【0004】
したがって、特許文献2に記載されたハイブリッド車両は、第2クラッチ機構を解放することができないオン故障が発生した場合には、EVモードからHEVモードに切り替えることができなくなり、航続可能距離が短くなる可能性がある。そのため、特許文献2に記載された制御装置は、HEVモードを設定して走行しているときに、第2クラッチ機構を解放することができないオン故障が発生した場合には、HEVモードからEVモードへの切り替えを禁止することにより、航続可能距離が長いHEVモードを継続して設定するように構成されている。
【0005】
なお、特許文献3には、上記特許文献2と同様に構成されたハイブリッド車両において、第1クラッチ機構が過剰に高温になることを抑制するために、解放された第1クラッチ機構を係合した場合の第1クラッチ機構の温度を推定し、その温度が上限温度を超えるときに、第1クラッチ機構の係合を伴うモードの切替を規制するように構成された制御装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第4075959号公報
【文献】特許第6222399号公報
【文献】特許第6194735号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載されたハイブリッド車両は、第1クラッチ機構を解放し、かつ第2クラッチ機構を係合することにより、エンジンを停止し、モータの動力で走行できるため、燃費を向上させることができる。一方、その状態で第1クラッチ機構を係合できないフェールが生じた場合には、エンジンの動力によって走行できないため、モータに通電する蓄電装置の充電残量に応じた走行距離しか走行することができず、航続可能距離が短くなる可能性がある。
【0008】
そこで、特許文献2に記載された制御装置のように、エンジンの動力を駆動輪に伝達して走行している場合に、その走行モードを維持することにより、航続可能距離を長くすることができる。しかしながら、エンジンと駆動輪とのトルクの伝達を遮断した状態で、エンジンと駆動輪との間に設けられたクラッチを係合することができないオフ故障が生じた場合には、モータの動力のみで走行せざるを得ず、航続可能距離が短くなる可能性がある。すなわち、クラッチ機構のフェールが生じた時点の走行モードがHEV走行モードである場合に限り航続可能距離が短くなることを抑制できるため、他の走行モードを設定して走行しているときにクラッチ機構がフェールした場合には、航続可能距離を長くすることができない。つまり、航続可能距離を長くすることができる条件に制限があり、技術的な改善の余地があった。
【0009】
この発明は上記の技術的課題に着目してなされたものであって、走行モードを切り替えるクラッチ機構が動作できなくなっても航続可能距離の低下を抑制できる車両の制御装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するために、この発明は、複数の回転部材のうちのいずれか一対の回転部材を選択的に連結しまたは解放する係合機構と、前記一対の回転部材のうちの一方の回転部材を、前記一対の回転部材のうちの他方の回転部材に接近または離隔させる所定のアクチュエータとを備え、前記係合機構を係合した係合状態と、前記係合機構を解放した解放状態とを切り替えることにより、複数の走行モードのうちの第1走行モードと第2走行モードとを切り替える車両の制御装置であって、前記係合機構を制御するコントローラを備え、前記コントローラは、前記係合機構の動作性能を判断するパラメータの値に基づいて前記係合機構の動作性能の低下の有無を判断し、前記係合機構の動作性能が低下していることが判断された場合に、前記第1走行モードと前記第2走行モードとのうちの航続可能距離が長い方の選択走行モードを設定し、かつ前記係合機構の係合状態と解放状態との切り替えを伴う走行モードの切り替えを禁止することを特徴とするものである。
【0011】
また、この発明では、前記コントローラは、前記パラメータの値が予め定められた所定範囲内でない場合に、前記係合機構の動作性能が低下していると判断してもよい。
【0012】
また、この発明では、前記係合機構を係合することにより駆動輪にトルク伝達可能に連結されるエンジンと、前記駆動輪または前記駆動輪とは異なる他の駆動輪に連結されたモータとを更に備え、前記選択走行モードは、前記係合機構を係合して前記エンジンから前記駆動輪にトルクを伝達して走行するHV走行モードを含んでよい。
【0013】
また、この発明では、前記車両は、前記複数の回転部材のうちの所定の一対の回転部材を係合することにより、前記エンジンから前記駆動輪に伝達するトルクの増幅率が大きいローモードを設定する第1係合機構と、前記複数の回転部材のうちの他の一対の回転部材を係合することにより、前記エンジンから前記駆動輪に伝達するトルクの増幅率が前記ローモードよりも小さいハイモードを設定する第2係合機構とを備え、前記係合機構は、前記第1係合機構と前記第2係合機構とを含み、前記HV走行モードは、前記ローモードと前記ハイモードとのいずれか一方のモードを含んでよい。
【0015】
また、この発明では、前記選択走行モードは、前記ローモードであってよい。
【0016】
また、この発明では、前記エンジンが連結された回転要素と、前記モータが連結された回転要素と、前記駆動輪が連結された回転要素とのうちの二つの回転要素である第1回転要素および第2回転要素と、第3回転要素とが差動回転可能に連結された第1差動機構と、前記エンジンが連結された回転要素と、前記モータが連結された回転要素と、前記駆動輪が連結された回転要素とのうちの他の回転要素である第4回転要素と、前記第3回転要素に連結された第5回転要素と、第6回転要素とが差動回転可能に連結された第2差動機構とを更に備え、前記第1係合機構は、前記第1回転要素と前記第2回転要素とのいずれか一方の回転要素と、前記第6回転要素との一対の回転要素である第1回転要素対、および前記第4回転要素と前記第5回転要素と前記第6回転要素とのいずれか一対の回転要素である第2回転要素対のいずれか一方の回転要素対を係合し、前記第2係合機構は、前記第1回転要素対と、前記第2回転要素対とのうちの他方の回転要素対を係合するように構成されていてよい。
【0017】
また、この発明では、前記所定のアクチュエータは、電磁アクチュエータを含み、前記車両は、前記電磁アクチュエータに電力を供給する電源を備え、前記パラメータは、前記電源の電圧を含んでよい。
【0018】
また、この発明では、前記パラメータは、前記所定のアクチュエータの温度を含んでよい。
【0019】
また、この発明では、前記パラメータは、前記一方の回転部材が、前記他方の回転部材に接近または離隔するストローク速度を含んでよい。
【0020】
また、この発明では、前記パラメータは、前記所定のアクチュエータの運転速度を含んでよい。
【0021】
また、この発明では、前記コントローラは、前記パラメータの値に基づいて前記係合機構の動作性能の復帰の有無を判断し、前記係合機構の動作性能が復帰したと判断された場合に、前記係合機構の係合状態と解放状態との切り替えを伴う走行モードの切り替えを許可するように構成されていてよい。
【0022】
そして、この発明では、前記コントローラは、前記係合機構の係合状態と解放状態との切り替えを伴う走行モードの切り替えを禁止している間に、前記車両に搭載された所定の部材を保護するために走行モードの切り替えが要求された場合に、前記係合機構の係合状態と解放状態との切り替えを伴う走行モードの切り替えを許可するように構成されていてよい。
【発明の効果】
【0023】
この発明によれば、走行モードを切り替えるクラッチ機構の動作性能が低下している場合に、そのクラッチ機構を係合させることにより設定される走行モードと、解放させることにより設定される走行モードとのうちの航続可能距離が長い方の選択走行モードを設定するとともに、そのクラッチ機構の係合状態と解放状態との切り替えを伴う走行モードの切り替えを禁止する。したがって、クラッチ機構の動作性能が低下した時点で航続可能距離が長い走行モードを設定することにより、航続可能距離が短い走行モードが設定されている状態でクラッチ機構が動作できなくなることを抑制できる。そのため、クラッチ機構が動作できなくなっても、航続可能距離の長い走行モードが設定されていることにより、航続可能距離が低下することを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】この発明の実施形態における車両の前輪を駆動する装置の一例を説明するためのスケルトン図である。
図2】各クラッチ機構を操作する装置の一例を説明するための模式図である。
図3】この発明の実施形態における車両の後輪を駆動する装置の一例を説明するためのスケルトン図である。
図4】この発明の実施形態における制御装置の一例を説明するためのブロック図である。
図5】HV-Hiモードでの動作状態を説明するための共線図である。
図6】HV-Loモードでの動作状態を説明するための共線図である。
図7】直結モードでの動作状態を説明するための共線図である。
図8】切り離しモードでの動作状態を説明するための共線図である。
図9】この発明の実施形態における車両の制御装置の制御例を説明するためのフローチャートである。
図10】各クラッチ機構の動作性能が低下しているか否かを判断するためのマップの一例を示す図である。
図11】モータ温度と補機バッテリの電圧とに基づいて、各クラッチ機構の動作性能が低下しているか否かを判断するためのマップの一例を示す図である。
図12図9に示す制御例を実行した場合における各クラッチ機構の動作性能の低下を判断するフラグ、要求される走行モード、第1クラッチ機構の係合判定、および走行モードの切り替えを禁止するフラグの変化を説明するためのタイムチャートである。
図13】各クラッチ機構が正常に動作できるようになった場合に、走行モードの切り替えを禁止するフラグをオフに設定する制御例を説明するためのフローチャートである。
図14】所定の部材を保護するために走行モードの切り替えを許可する制御例を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
この発明の実施形態における車両Veの一例を図1を参照して説明する。図1に示す車両Veは、エンジン(ENG)1と、二つのモータ2,3とを有するハイブリッド駆動装置(以下、単に駆動装置と記す)4を備えている。この駆動装置4は、前輪(駆動輪)5R,5Lを駆動するように構成されている。エンジン1は、従来知られたガソリンエンジンやディーゼルエンジンなどであって、供給される燃料と空気との混合気を燃焼することにより駆動トルクを出力し、また、その混合気の燃焼を停止すること、すなわち、燃料の供給を停止することにより、フリクショントルクやポンピングロスなどに応じた制動トルクを出力することができるように構成されている。
【0026】
第1モータ2は発電機能のあるモータ(すなわちモータ・ジェネレータ:MG1)によって構成され、エンジン1の回転数を第1モータ2によって制御するとともに、第1モータ2で発電した電力により第2モータ3を駆動し、その第2モータ3が出力するトルクを走行のための駆動トルクに加えることができるように構成されている。第2モータ3は、第1モータ2と同様に発電機能のあるモータ(すなわちモータ・ジェネレータ:MG2)によって構成することができる。これらの第1モータ2および第2モータ3は、例えば、ロータに永久磁石を取り付けた、永久磁石式の同期モータなどの交流モータによって構成することができる。なお、各モータ2,3には、リチウムイオン電池などの二次電池によって構成されたバッテリや、キャパシタなどの蓄電装置Ba1から電力が供給され、また、各モータ2,3により発電された電力を蓄電装置Ba1に充電することができるように構成され、さらに、一方のモータ2(3)が発電した電力を、他方のモータ3(2)に通電することができるように構成されている。
【0027】
エンジン1には、動力分割機構6が連結されている。この動力分割機構6は、エンジン1が出力したトルクを第1モータ2側と出力側とに分割するものであって、そのようにトルクを分割する機能を主とする分割部7と、そのトルクの分割率を変更する機能を主とする変速部8とにより構成されている。
【0028】
分割部7は、三つの回転要素によって差動作用を行う構成であればよく、遊星歯車機構を採用することができる。図1に示す例では、シングルピニオン型の遊星歯車機構(第1差動機構)によって構成されている。図1に示す分割部7は、サンギヤ9と、サンギヤ9に対して同心円上に配置された、内歯歯車であるリングギヤ10と、これらサンギヤ9とリングギヤ10との間に配置されてサンギヤ9とリングギヤ10とに噛み合っているピニオンギヤ11と、ピニオンギヤ11を自転および公転可能に保持するキャリヤ12とを有している。
【0029】
エンジン1が出力したトルクが前記キャリヤ12に入力されるように構成されている。具体的には、エンジン1の出力軸13に、動力分割機構6の入力軸14が連結され、その入力軸14がキャリヤ12に連結されている。また、サンギヤ9に第1モータ2が連結されている。なお、キャリヤ12と入力軸14とを直接連結する構成に替えて、歯車機構などの伝動機構(図示せず)を介してキャリヤ12と入力軸14とを連結してもよい。また、その出力軸13と入力軸14との間にダンパ機構やトルクコンバータなどの機構(図示せず)を配置してもよい。さらに、第1モータ2とサンギヤ9とを直接連結する構成に替えて、歯車機構などの伝動機構(図示せず)を介して第1モータ2とサンギヤ9とを連結してもよい。これらのサンギヤ9およびキャリヤ12が、この発明の実施形態における「第1回転要素」および「第2回転要素」に相当し、リングギヤ10が、この発明の実施形態における「第3回転要素」に相当し、分割部7が、この発明の実施形態における「第1差動機構」に相当する。
【0030】
変速部8は、シングルピニオン型の遊星歯車機構によって構成されている。すなわち、変速部8は、上記の分割部7と同様に、サンギヤ15と、サンギヤ15に対して同心円上に配置された内歯歯車であるリングギヤ16と、これらサンギヤ15とリングギヤ16との間に配置されてこれらサンギヤ15およびリングギヤ16に噛み合っているピニオンギヤ17と、ピニオンギヤ17を自転および公転可能に保持しているキャリヤ18とを有している。したがって、変速部8は、サンギヤ15、リングギヤ16、およびキャリヤ18の三つの回転要素によって差動作用を行う差動機構(第2差動機構)となっている。この変速部8におけるサンギヤ15に分割部7におけるリングギヤ10が連結されている。また、変速部8におけるリングギヤ16に、出力ギヤ19が連結されている。このリングギヤ16が、この発明の実施形態における「第4回転要素」に相当し、サンギヤ15が、この発明の実施形態における「第5回転要素」に相当し、キャリヤ18が、この発明の実施形態における「第6回転要素」に相当し、変速部8が、この発明の実施形態における「第2差動機構」に相当する。
【0031】
上記の分割部7と変速部8とが複合遊星歯車機構を構成するように第1クラッチ機構(第1係合機構)CL1が設けられている。第1クラッチ機構CL1は、変速部8におけるキャリヤ18を、分割部7におけるキャリヤ12および入力軸14に選択的に連結するためのものであって、摩擦式のクラッチ機構や噛み合い式のクラッチ機構によって構成することができる。この第1クラッチ機構CL1を係合させることにより分割部7におけるキャリヤ12と変速部8におけるキャリヤ18とが連結されてこれらが入力要素となり、また分割部7におけるサンギヤ9が反力要素となり、さらに変速部8におけるリングギヤ16が出力要素となった複合遊星歯車機構が形成される。
【0032】
さらに、変速部8の全体を一体化させるための第2クラッチ機構(第2係合機構)CL2が設けられている。この第2クラッチ機構CL2は、変速部8におけるキャリヤ18とリングギヤ16もしくはサンギヤ15、あるいはサンギヤ15とリングギヤ16とを連結するなどの少なくともいずれか二つの回転要素を連結するためのものであって、第1クラッチ機構CL1と同様に、摩擦式のクラッチ機構や噛み合い式のクラッチ機構によって構成することができる。図1に示す例では、第2クラッチ機構CL2は、変速部8におけるキャリヤ18とリングギヤ16とを連結するように構成されている。この第2クラッチ機構CL2を係合させることにより変速部8を構成する各回転要素が一体となって回転する。したがって、分割部7におけるキャリヤ12が入力要素となり、また分割部7におけるサンギヤ9が反力要素となり、さらに変速部8におけるリングギヤ16が出力要素となる。
【0033】
すなわち、上述した動力分割機構6を構成する回転部材、またはそれらの回転部材と一体に回転する部材が、この発明の実施形態における「複数の回転部材」に相当し、キャリヤ12(それと一体に回転する部材を含む)およびキャリヤ18、あるいはキャリヤ18およびリングギヤ16(それと一体に回転数部材を含む)が、この発明の実施形態における「一対の回転部材」に相当し、各クラッチ機構CL1,CL2が、この発明の実施形態における「係合機構」に相当する。
【0034】
図2には、各クラッチ機構CL1,CL2を噛み合い式のクラッチ機構とした場合に採用できる操作機構20の一例を説明するための模式図を示してある。操作機構20は、各係合機構CL1,CL2を係合状態と解放状態とに切り替えるためのものであって、円筒状のシフトドラム21と、そのシフトドラム21を回転させるアクチュエータ22とを備えている。すなわち、図2に示す操作機構20は、アクチュエータ22の回転角度を制御することにより、二つのクラッチ機構CL1,CL2の係合状態と解放状態とを、後述する走行モードに応じた状態に制御することができるように構成されている。このアクチュエータ22が、この発明の実施形態における「所定のアクチュエータ」に相当する。
【0035】
シフトドラム21は、従来知られている円筒カムと同様に構成することができ、図2に示す例では、外周面にカム溝23,24が形成されている。具体的には、シフトドラム21の軸線方向における一方側に円周方向に沿った第1カム溝23が形成され、他方側に円周方向に沿った第2カム溝24が形成されている。これらのカム溝23,24は、シフトドラム21の軸線方向に蛇行して形成されている。
【0036】
また、アクチュエータ22の出力軸22aが、シフトドラム21に連結されている。このアクチュエータ22は、図示しない補機類などに電力を供給する補機バッテリBa2から電力が供給されることにより駆動する電磁アクチュエータであって、例えば、ステッピングモータやサーボモータなどの回転角度を適宜に制御できるモータにより構成することができる。すなわち、アクチュエータ22を制御することにより、シフトドラム21の回転角度を制御できるように構成されている。なお、アクチュエータ22とシフトドラム21との間に、アクチュエータ22の出力トルクを増大させる減速機構などを設けていてもよい。この補機バッテリBaが、この発明の実施形態における「電源」に相当する。
【0037】
上記の第1カム溝23には、カムフォロワーとしての第1操作ピン25が係合し、その第1操作ピン25には、第1操作ピン25と一体となって軸線方向に移動することができる第1可動部材26が連結されている。この第1可動部材26は、第1クラッチ機構CL1を押圧して係合させるための部材であって、図2に示す例では、入力軸14と一体となって回転するハブ27がスプリング28を介して第1可動部材26に連結されている。なお、第1可動部材26とハブ27とは、相対回転可能に設けられている。
【0038】
このハブ27における上記スプリング28に押圧される受圧面とは反対側の端面には、ドグ歯29が形成されている。また、図2に示す例では、ハブ27におけるドグ歯29が形成された端面に対向してキャリヤ18が配置されており、そのハブ27に対向する面に、ドグ歯29に噛み合うドグ歯30が形成されている。したがって、シフトドラム21を回転させること、すなわち第1可動部材26に対して相対的に移動させることにより、各ドグ歯29,30を噛み合わせる係合位置に第1可動部材26を移動させ、また各ドグ歯29,30の噛み合いを解消した解放位置に第1可動部材26を移動させる。上記のように各ドグ歯29,30を噛み合わせることにより、入力軸14(またはハブ27)とキャリヤ18とが係合状態となって一体に回転する。このハブ27が、この発明の実施形態における「一方の回転部材」に相当し、キャリヤ18が、この発明の実施形態における「他方の回転部材」に相当する。なお、上記のスプリング28は、各ドグ歯29,30の位相が一致して歯先が接触した場合に圧縮されることにより、各ドグ歯29,30や第1操作ピン25に過剰な荷重が作用することを抑制するために設けられている。
【0039】
同様に、第2カム溝24には、カムフォロワーとしての第2操作ピン31が係合し、その第2操作ピン31には、第2操作ピン31と一体となって軸線方向に移動することができる第2可動部材32が連結されている。この第2可動部材32は、第2クラッチ機構CL2を押圧して係合させるための部材であって、図2に示す例では、リングギヤ16と一体となって回転する回転部材33がスプリング34を介して第2可動部材32に連結されている。なお、第2可動部材32と回転部材33とは、相対回転可能に設けられている。
【0040】
この回転部材33における上記スプリング34に押圧される受圧面とは反対側の端面には、ドグ歯35が形成されている。また、図2に示す例では、回転部材33におけるドグ歯35が形成された端面に対向してキャリヤ18が配置されており、その回転部材33に対向する面に、ドグ歯35に噛み合うドグ歯36が形成されている。したがって、シフトドラム21を回転させること、すなわち第2可動部材32に対して相対的に移動させることにより、各ドグ歯35,36を噛み合わせる係合位置に第2可動部材32を移動させ、また各ドグ歯35,36の噛み合いを解消した解放位置に第2可動部材32を移動させる。上記のように各ドグ歯35,36を噛み合わせることにより、リングギヤ16とキャリヤ18とが係合状態となって一体に回転する。この回転部材33が、この発明の実施形態における「一方の回転部材」に相当し、キャリヤ18が、この発明の実施形態における「他方の回転部材」に相当する。なお、上記のスプリング34は、各ドグ歯35,36の位相が一致して歯先が接触した場合に圧縮されることにより、各ドグ歯35,36や第2操作ピン31に過剰な荷重が作用することを抑制するために設けられている。
【0041】
上述したように各クラッチ機構CL1,CL2は、アクチュエータ22を駆動すること、すなわちアクチュエータ22としてのモータに通電することにより係合状態と解放状態とが切り替わるように構成されている。言い換えると、各クラッチ機構CL1,CL2は、アクチュエータ22への通電を停止している場合には、その通電を停止した時点における係合状態または解放状態を維持するように構成されている。つまり、各クラッチ機構CL1,CL2は、いわゆるノーマルステイ型のクラッチ機構によって構成されている。
【0042】
上述した第1クラッチ機構CL1と第2クラッチ機構CL2との少なくともいずれか一方を係合することにより、動力分割機構6を介してエンジン1と出力ギヤ19とがトルク伝達可能に連結される。その出力ギヤ19から前輪5R,5Lにギヤトレーン部を介してトルクが伝達される。図1に示す例では、上記のエンジン1や分割部7あるいは変速部8の回転中心軸線と平行にカウンタシャフト37が配置されている。前記出力ギヤ19に噛み合っているドリブンギヤ38がこのカウンタシャフト37に取り付けられている。また、カウンタシャフト37にはドライブギヤ39が取り付けられており、このドライブギヤ39が終減速機であるデファレンシャルギヤユニット40におけるリングギヤ41に噛み合っている。
【0043】
さらに、前記ドリブンギヤ38には、第2モータ3におけるロータシャフト3aに取り付けられたドライブギヤ42が噛み合っている。したがって、前記出力ギヤ19から出力された動力もしくはトルクに、第2モータ3が出力した動力もしくはトルクを、上記のドリブンギヤ38の部分で加えるように構成されている。このようにして合成された動力もしくはトルクをデファレンシャルギヤユニット40から左右のドライブシャフト43に出力し、その動力やトルクが前輪5R,5Lに伝達されるように構成されている。なお、第2モータ3は、例えば、ドライブギヤ39にトルク伝達可能に連結し、そのドライブギヤ39のトルクを変更できるように構成してもよい。
【0044】
さらに、図1に示す例では、第1モータ2から出力された駆動トルクを、前輪5R,5Lに伝達することができるように、出力軸13または入力軸14を固定可能に構成された、ワンウェイクラッチFを備えている。そのワンウェイクラッチFは、出力軸13や入力軸14が、エンジン1の駆動時に回転する方向とは逆方向に回転することを禁止するように構成されている。
【0045】
したがって、第1モータ2が駆動トルクを出力してワンウェイクラッチFが係合状態となることにより、第1モータ2の駆動トルクに対する反力トルクをワンウェイクラッチFが受け持ち、その結果、第1モータ2からリングギヤ16に第1モータ2の駆動トルクが伝達される。すなわち、ワンウェイクラッチFにより出力軸13または入力軸14を固定することで、分割部7におけるキャリヤ12や、変速部8におけるキャリヤ18を反力要素として機能させ、分割部7におけるサンギヤ9を入力要素として機能させることができるように構成されている。
【0046】
なお、ワンウェイクラッチFは、第1モータ2が駆動トルクを出力した場合に、反力トルクを発生させるためのものであり、したがって、ワンウェイクラッチFに代えて摩擦式のブレーキ機構を設け、そのブレーキ機構によって出力軸13または入力軸14の回転を規制するトルクを発生させてもよい。その場合、出力軸13または入力軸14を完全に固定する構成に限らず、相対回転を許容しつつ、要求される反力トルクを出力軸13または入力軸14に作用させるように構成してもよい。
【0047】
この発明の実施形態における車両Veは、上述したように一対の前輪5R,5Lを駆動する駆動装置4に加えて、一対の後輪45R,45Lを駆動する駆動装置46を更に備えている。図3には、その駆動装置46の一例を説明するためのスケルトン図を示してあり、ここに示す駆動装置46は、第3モータ47を駆動力源として備えている。この第3モータ47は、上述した第1モータ2や第2モータ3と同様に、発電機能を有するモータ・ジェネレータであって、蓄電装置Ba1から電力が供給され、また発電した電力を蓄電装置Ba1に充電することができ、さらに、第1モータ2や第2モータ3との間で電力を授受することができるように構成されている。
【0048】
第3モータ47の出力軸48には、第3モータ47のトルクを変化させることなく出力する直結段と、第3モータ47のトルクを増幅して出力する減速段との二つの変速段を設定することができる差動機構49が連結されている。この差動機構49は、第3モータ47が連結されたサンギヤ50と、リングギヤ51と、出力軸52が連結されたキャリヤ53とにより構成されたシングルピニオン型の遊星歯車機構によって構成され、キャリヤ53とリングギヤ51とを選択的に連結する直結クラッチ機構CL3と、リングギヤ51を固定部材Cに選択的に連結する減速ブレーキ機構Bとを備えている。
【0049】
したがって、直結クラッチ機構CL3を係合しかつ減速ブレーキ機構Bを解放することにより第3モータ47のトルクがそのまま出力軸52に伝達される直結段が設定され、直結クラッチ機構CL3を解放しかつ減速ブレーキ機構Bを係合することにより第3モータ47のトルクを増幅して出力軸に伝達する減速段が設定される。なお、直結クラッチ機構CL3および減速ブレーキ機構Bを解放することにより、第3モータ47と後輪45R,45Lとのトルクの伝達が遮断される。
【0050】
これらの直結クラッチ機構CL3と減速ブレーキ機構Bとは、従来知られている摩擦式の係合機構によって構成することや噛み合い式の係合機構によって構成することができ、図示しないアクチュエータを制御することにより、係合状態と解放状態とを選択的に切り替えることができるように構成されている。
【0051】
その出力軸52には、ドライブギヤ54が連結され、そのドライブギヤ54に噛み合うドリブンギヤ55が、出力軸52と平行に配置されたカウンタシャフト56の一方の端部に連結されている。なお、ドリブンギヤ55は、ドライブギヤ54よりも大径に形成されていて、出力軸52からカウンタシャフト56には、トルクが増幅されて伝達される。このカウンタシャフト56の他方の端部には、カウンタドライブギヤ57が連結され、そのカウンタドライブギヤ57に、リヤデファレンシャルギヤユニット58におけるリングギヤ59が連結されている。そして、リヤデファレンシャルギヤユニット58に連結された一対のドライブシャフト60に後輪45R,45Lが連結されている。図3には、便宜上、一方の後輪45Rのみを示してある。
【0052】
なお、後輪45R,45Lを駆動するための駆動装置46は、例えば、低摩擦路を走行する場合に四輪駆動するためや、第2モータ3の出力トルクを低下させて駆動システム全体としての効率を低下させるためなどに使用されるものであって、第2モータ3と同時に、あるいは第2モータ3に替わって駆動する。そのため、以下の説明では、第2モータ3の制御について記載するものの、その第2モータ3の制御について記載している部分は、第3モータ47の制御と読み替え、あるいは第2モータ3と第3モータ47との双方の制御として読み替えればよい。
【0053】
上記のエンジン1、各モータ2,3,47、各クラッチ機構CL1,CL2,CL3、および減速ブレーキ機構Bを制御するための電子制御装置(ECU)61が設けられている。このECU61は、この発明の実施形態における「コントローラ」に相当するものであり、マイクロコンピュータを主体にして構成されている。図4は、ECU61の構成の一例を説明するためのブロック図である。図4に示す例では、HV-ECU62、MG-ECU63、エンジンECU64、およびクラッチECU65によりECU61が構成されている。
【0054】
HV-ECU62は、車両Veに搭載された種々のセンサからデータが入力され、その入力されたデータと、予め記憶されているマップや演算式などとに基づいて、MG-ECU63、エンジンECU64、およびクラッチECU65に指令信号を出力するように構成されている。HV-ECU62に入力されるデータの一例を図4に示してあり、車速、アクセル開度、第1モータ(MG1)2の回転数、第2モータ(MG2)3の回転数、エンジン1の出力軸13の回転数(エンジン回転数)、変速部8におけるリングギヤ16またはカウンタシャフト37の回転数である出力回転数、第1可動部材26(またはハブ27)のストローク量、第2可動部材32(または回転部材33)のストローク量、アクチュエータ22の温度、第1モータ2の温度、第2モータ3の温度、蓄電装置Ba1の充電残量(SOC)、蓄電装置Ba1の温度、補機バッテリBa2の出力電圧、駆動装置4内に設けられた部材の潤滑や冷却を行うためのATF(Automatic Transmission Fluid)の温度、シフトドラム21の回転角度などのデータが、HV-ECU62に入力される。
【0055】
そして、HV-ECU62に入力されたデータなどに基づいて第1モータ2、第2モータ3、および第3モータ47の出力トルクを求めて、それらの求められたデータを指令信号としてMG-ECU63に出力する。同様に、HV-ECU62に入力されたデータなどに基づいてエンジン1の出力トルクを求めて、その求められたデータを指令信号としてエンジンECU64に出力する。さらに、HV-ECU62に入力されたデータなどに基づいて第1クラッチ機構CL1、第2クラッチ機構CL2、直結クラッチ機構CL3、および減速ブレーキ機構Bを係合させるか解放させるかを判断して、その判断された係合状態または解放状態の指令信号をクラッチECU65に出力する。なお、各クラッチ機構CL1,CL2,CL3や減速ブレーキ機構Bが摩擦式の係合機構である場合には、係合状態と解放状態との情報に加えて、伝達するべきトルク容量の情報がHV-ECU62からクラッチECU65に出力される。
【0056】
MG-ECU63は、上記のようにHV-ECU62から入力されたデータに基づいて各モータ2,3,47に通電するべき電流値を求めて、各モータ2,3,47に指令信号を出力する。各モータ2,3,47は、交流モータであるから、上記の指令信号は、インバータで生成するべき電流の周波数や、コンバータで昇圧するべき電圧値などが含まれる。
【0057】
エンジンECU64は、上記のようにHV-ECU62から入力されたデータに基づいて電子スロットルバルブの開度を定めるための電流、点火装置で混合気を着火するための電流、EGR(Exhaust Gas Recirculation)バルブの開度を定めるための電流、吸気バルブや排気バルブの開度を定めるための電流値などを求め、それぞれのバルブや装置に指令信号を出力する。すなわち、エンジンECU64は、エンジントルクを制御するための指示信号を、エンジン1の出力トルクを制御する各装置に出力する。
【0058】
クラッチECU65は、上記のようにHV-ECU62から入力された各クラッチ機構CL1,CL2,CL3、および減速ブレーキ機構Bの係合状態と解放状態との信号に基づいて、それらの係合状態と解放状態とを成立させるためのアクチュエータ22や図示しない他のアクチュエータの制御量を求め、その制御量となるようにアクチュエータ22に指令信号を出力する。なお、ECU61は、全ての制御を統合して行う単一のものに限らず、エンジン1、各モータ2,3,47、各クラッチ機構CL1,CL2,CL3、および減速ブレーキ機構B毎にそれぞれ設けられていてもよい。
【0059】
上記の駆動装置4は、エンジン1から駆動トルクを出力して走行するHV走行モードと、エンジン1から駆動トルクを出力することなく、第1モータ2や第2モータ3から駆動トルクを出力して走行するEV走行モードとを設定することが可能である。さらに、HV走行モードは、エンジン1から所定のトルクを出力した場合に、変速部8のリングギヤ16(または出力ギヤ19)に伝達されるトルクが相対的に大きいHV-Loモードと、そのトルクが相対的に小さいHV-Hiモードと、エンジン1のトルクを変化させずにそのまま変速部8のリングギヤ16に伝達する直結モード(固定段モード)とを設定することができる。
【0060】
またさらに、EV走行モードは、第1モータ2および第2モータ3から駆動トルクを出力するデュアルモードと、第1モータ2から駆動トルクを出力せずに第2モータ3のみから駆動トルクを出力するシングルモード(切り離しモード)とを設定することが可能である。更にデュアルモードは、第1モータ2から出力されたトルクの増幅率が比較的大きいEV-Loモードと、第1モータ2から出力されたトルクの増幅率がEV-Loモードより小さいEV-Hiモードとを設定することが可能である。
【0061】
それらの各走行モードは、エンジン1、各モータ2,3、および各クラッチ機構CL1,CL2を制御することにより設定される。これらの走行モードと、各走行モードにおける、第1クラッチ機構CL1、第2クラッチ機構CL2、ワンウェイクラッチFの係合および解放の状態、第1モータ2および第2モータ3の運転状態、エンジン1からの駆動トルクの出力の有無の一例を以下の表に示してある。表中における「●」のシンボルは係合している状態を示し、「-」のシンボルは解放している状態を示し、「G」のシンボルは主にジェネレータとして運転することを意味し、「M」のシンボルは主にモータとして運転することを意味し、空欄はモータおよびジェネレータとして機能していない、または第1モータ2や第2モータ3が駆動のために関与していない状態を意味し、「ON」はエンジン1から駆動トルクを出力している状態を示し、「OFF」はエンジン1から駆動トルクを出力していない状態を示している。なお、ここに示す第2モータ3からトルクを出力して走行する走行モードでは、第2モータ3に加えて、あるいは第2モータ3に代えて、第3モータ47からトルクを出力することができ、その場合には、直結クラッチ機構CL3と、減速ブレーキ機構Bとのいずれか一方を、要求されるトルクなどに基づいて係合する。
【表1】
【0062】
図5ないし図8には、HV-Hiモード、HV-Loモード、直結モード、および切り離しモードを設定した場合における動力分割機構6の各回転要素の回転数、およびエンジン1、各モータ2,3のトルクの向きを説明するための共線図を示してある。共線図は、動力分割機構6における各回転要素を示す直線をギヤ比の間隔をあけて互いに平行に引き、これらの直線に直交する基線からの距離をそれぞれの回転要素の回転数として示す図であり、それぞれの回転要素を示す直線にトルクの向きを矢印で示すとともに、その大きさを矢印の長さで示している。
【0063】
図5に示すようにHV-Hiモードでは、エンジン1から駆動トルクを出力し、第2クラッチ機構CL2を係合するとともに、第1モータ2から反力トルクを出力する。また、図6に示すようにHV-Loモードでは、エンジン1から駆動トルクを出力し、第1クラッチ機構CL1を係合するとともに、第1モータ2から反力トルクを出力する。
【0064】
エンジン1からリングギヤ16に伝達されるトルクの大きさは、HV-Hiモードを設定した場合とHV-Loモードを設定した場合とで異なる。具体的には、エンジン1の出力トルクをTeとすると、HV-Loモードを設定した場合に、リングギヤ16に伝達されるトルクの大きさは、(1/(1ーρ1・ρ2))Teとなり、HV-Hiモードを設定した場合に、リングギヤ16に伝達されるトルクの大きさは、(1/(1+ρ1))Teとなる。ここで、「ρ1」は分割部7のギヤ比(リングギヤ10の歯数とサンギヤ9の歯数との比率)であり、「ρ2」は変速部8のギヤ比(リングギヤ16の歯数とサンギヤ15の歯数との比率)である。なお、ρ1およびρ2は、「1」よりも小さい値である。
【0065】
すなわち、HV-Loモードを設定した場合の方が、HV-Hiモードを設定した場合よりも、エンジン1の駆動トルクに対するリングギヤ16(または前輪5R,5L)に伝達されるトルクの比であるトルクの分割率(増幅率)が大きい。なお、上記キャリヤ12およびキャリヤ18が、この発明の実施形態における「所定の一対の回転部材」または「第1回転要素対」に相当し、第1クラッチ機構CL1が、この発明の実施形態における「第1係合機構」に相当し、リングギヤ16およびキャリヤ18が、この発明の実施形態における「他の一対の回転部材」または「第2回転要素対」に相当し、第2クラッチ機構CL2が、この発明の実施形態における「第2係合機構」に相当する。
【0066】
そして、上記の反力トルクよりも大きなトルクを第1モータ2から出力すると、その余剰分のトルクがエンジン回転数を低下させるように作用し、それとは反対に上記の反力トルクよりも小さなトルクを第1モータ2から出力すると、エンジントルクの一部が、エンジン回転数を増大させるように作用する。すなわち、第1モータ2のトルクを制御することによりエンジン回転数を制御することができる。言い換えると、エンジン回転数が目標回転数となるように第1モータ2のトルクが制御される。なお、エンジン回転数は、例えば、エンジン1の燃費が良好となる回転数に制御され、あるいは第1モータ2の駆動効率などを考慮した駆動装置4全体としての効率(消費エネルギー量を前輪5R,5Lのエネルギー量で除算した値)が最も良好となる回転数に制御される。
【0067】
上記のように第1モータ2から反力トルクを出力することにより、第1モータ2が発電機として機能する場合には、エンジン1の動力の一部が第1モータ2により電気エネルギーに変換される。そして、エンジン1の動力から第1モータ2により電気エネルギーに変換された動力分を除いた動力が変速部8におけるリングギヤ16に伝達される。なお、第1モータ2により変換された電力は、第2モータ3を駆動するために第2モータ3に供給してもよく、蓄電装置Ba1の充電残量を増加させるために蓄電装置Ba1に供給してもよい。
【0068】
直結モードでは、各クラッチ機構CL1,CL2が係合されることにより、図7に示すように動力分割機構6における各回転要素が同一回転数で回転する。言い換えると、エンジン1と第1モータ2と出力部材(出力ギヤ19)とが差動回転することを制限する。したがって、エンジン1の動力の全てが動力分割機構6から出力される。そのため、エンジン1の動力の一部が、第1モータ2や第2モータ3により電気エネルギーに変換されることがなく、電気エネルギーに変換する際に生じるジュール損などを要因とした損失を抑制でき、動力の伝達効率を向上させることができる。
【0069】
切り離しモードでは、各クラッチ機構CL1,CL2が解放されることにより、動力分割機構6を介したエンジン1と前輪5R,5Lとのトルクの伝達が遮断される。したがって、切り離しモードでは、図8に示すようにエンジン1および第1モータ2が停止させられる。すなわち、分割部7を構成する各回転要素、および変速部8におけるサンギヤ15が停止するとともに、リングギヤ16が車速に応じた回転数で回転し、キャリヤ18が、変速部8のギヤ比とリングギヤ16の回転数とに応じた回転数で回転する。なお、切り離しモードでは、例えば、エンジン1を暖機するためなど、種々の条件に応じてエンジン1を駆動していてもよい。そのようにエンジン1を駆動している場合であっても、各クラッチ機構CL1,CL2を解放することにより、エンジントルクは、駆動輪5R,5Lに伝達されない。
【0070】
上述したように各走行モードは、各クラッチ機構CL1,CL2をそれぞれ制御することにより変更される。具体的には、切り離しモードが設定されている状態では、第1クラッチ機構CL1を係合し、第1モータ2から駆動トルクを出力することにより、EV-Loモードに切り替えられ、または、第1クラッチ機構CL1を係合した後に、第1モータ2によってエンジン1をクランキングし、更にその後に、エンジン1を始動することによりHV-Loモードに切り替えられる。同様に、切り離しモードが設定されている状態では、第2クラッチ機構CL2を係合し、第1モータ2から駆動トルクを出力することにより、EV-Hiモードに切り替えられ、または、第2クラッチ機構CL2を係合した後に、第1モータ2によってエンジン1をクランキングし、更にその後に、エンジン1を始動することによりHV-Hiモードに切り替えられる。さらに、HV-LoモードやHV-Hiモードが設定されている状態では、第1モータ2の回転数を制御することにより、解放されているクラッチ機構CL1(CL2)における一対の回転部材(例えば、ハブ27とキャリヤ18、あるいは回転部材33とキャリヤ18)の回転数差を所定差以下に制御し、その状態で、解放されているクラッチ機構CL1(CL2)を係合することにより、直結モードに切り替えられる。
【0071】
したがって、図2に示す操作機構20は、アクチュエータ22を所定の回転方向に所定角度ずつ回動させることにより、第1クラッチ機構CL1が解放状態から係合状態に切り替わり、ついで、第2クラッチ機構CL2が解放状態から係合状態に切り替わり、その後に、第1クラッチ機構CL1が係合状態から解放状態に切り替わり、更にその後に、第2クラッチ機構CL2が係合状態から解放状態に切り替わるように、各カム溝23,24が形成されている。なお、アクチュエータ22を上記とは反対方向に回動させることにより、上記とは逆の順に、各クラッチ機構CL1,CL2の係合状態と解放状態とを切り替えることもできる。
【0072】
上述したように各クラッチ機構CL1,CL2を制御することにより設定する走行モードが切り替わるため、各クラッチ機構CL1,CL2の係合状態と解放状態とを切り替えることができないフェールが生じると、走行モードの切り替えができなくなる。したがって、例えば、切り離しモードを設定している状態で走行モードの切り替えができなくなると、蓄電装置Ba1に充電された電力量に応じた走行距離が航続可能距離となり、電力に加えて燃料をエネルギー源としたHV走行モードを設定した場合よりも航続可能距離が短くなる。また、直結モードは、エンジン回転数が車速に応じた回転数となるため、低車速時にはエンジンストールが生じる可能性がある。それに対して、HV-LoモードやHV-Hiモードは、第1モータ2の回転数を制御することによりエンジン回転数を適宜制御できるため、低車速域であっても走行できる。そのため、直結モードを設定している状態で走行モードの切り替えができなくなると、低車速域で走行できず、航続可能距離がHV-LoモードやHV-Hiモードを設定した場合よりも短くなる可能性がある。上記の切り離しモードや直結モードから、HV-LoモードやHV-Hiモードへの走行モードの切り替えは、クラッチ機構CL1,CL2の係合状態と解放状態とを切り替えることにより実行されるものであり、したがって、切り離しモードや直結モードが、この発明の実施形態における「第1走行モード」に相当し、HV-LoモードやHV-Hiモードが、この発明の実施形態における「第2走行モード」に相当する。
【0073】
この発明の実施形態における車両の制御装置は、上述したようにクラッチ機構CL1,CL2の係合状態と解放状態とを切り替えることにより走行モードが切り替えられる場合に、それらのクラッチ機構CL1,CL2が動作できない状態となる以前に、航続可能距離が長い走行モードを設定するように構成されている。その制御例を説明するためのフローチャートを図9に示してある。
【0074】
図9に示す制御例では、まず、クラッチ機構CL1,CL2の動作性能を判断し得る種々のパラメータを読み込む(ステップS1)。言い換えると、ハブ27(または第1可動部材26)や回転部材33(または第2可動部材32)の推力に関連するパラメータを読み込む。図2に示すクラッチ機構CL1,CL2は、補機バッテリBa2からアクチュエータ(以下、モータと記す)22に通電することによりシフトドラム21を回動させて動作するものであるため、モータ温度が高いと出力トルクが低下し、シフトドラム21の回転速度が低下する。また、その補機バッテリBa2の電圧が低下すると、モータ22に通電する電流値が低下することにより、上記と同様にモータ22の出力トルクが低下して、シフトドラム21の回転速度が低下する。あるいは、ハブ27や回転部材33と図示しないガイド部との摺動抵抗が大きい場合などには、ハブ27や回転部材33の移動速度が低下する。そのため、ステップS1では、モータ温度、補機バッテリBa2の電圧、およびハブ27や回転部材33の移動速度を読み込む。なお、ハブ27や回転部材33の移動速度は、ハブ27や回転部材33のストローク量を検出するセンサの信号から求められた値を読み込めばよい。
【0075】
ついで、ステップS1で読み込まれたパラメータに基づいて各クラッチ機構CL1,CL2の動作性能が低下しているか否かを判断する(ステップS2)。このステップS2は、ステップS1で読み込まれた各パラメータの値が、予め定められた所定範囲内であるか否かを判断すればよい。
【0076】
図10には、各クラッチ機構CL1,CL2の動作性能が低下しているか否かを判断するために予めECU61に記憶されたマップを示してある。図10における横軸に補機バッテリBa2の電圧、モータ温度、ストローク速度などの動作性能の低下を判断するためのパラメータを採り、縦軸に動作性能が低下していることを示すフラグの値(オンまたはオフ)を示している。図10に示すように各クラッチ機構CL1,CL2が正常に動作する場合におけるパラメータの値(正常値)を中心として、ステップS1で読み込まれたパラメータの値が所定範囲内にない場合、すなわち、上限許容値および下限許容値の範囲内(所定範囲内)にない場合には、各クラッチ機構CL1,CL2の動作性能が低下していると判断できる。なお、上限許容値は、モータ22や補機バッテリBa2などの装置を保護するためなどに基づいて定められた上限値よりも低く、同様に下限許容値は、それらの装置を保護するためなどに基づいて定められた下限値よりも高く定められている。
【0077】
このマップは、それぞれのパラメータに対応して複数備え、いずれか一つのパラメータに基づいて各クラッチ機構CL1,CL2の動作性能が低下していると判断できる場合に、ステップS2で肯定的に判断してもよい。なお、ストローク速度は、低速である場合のみ各クラッチ機構CL1,CL2の動作性能が低下していると判断してよい。
【0078】
また、ステップS2では、複数のパラメータを複合して各クラッチ機構CL1,CL2の動作性能が低下しているか否かを判断してもよい。図11は、その一例を説明するためのマップであり、横軸にモータ温度を採り、縦軸に補機バッテリBa2の電圧を採り、各クラッチ機構CL1,CL2の動作性能が低下していない領域を実線で囲って示している。図11に示すようにモータ温度が図10における上限許容値よりも高い場合であっても、補機バッテリBa2の電圧が高い場合には、モータ22から大きなトルクを出力できるため、各クラッチ機構CL1,CL2の動作性能が低下していないと判断してもよい。なお、図11には、図10における許容上限値および許容下限値を破線で示し、モータ22および補機バッテリBa2を保護するためなどに基づいて定められた上限値および下限値を一点鎖線で示している。
【0079】
なお、アクチュエータ22としてステッピングモータを使用した場合などのアクチュエータ22の回転速度を検出することができる場合には、その回転速度(運転速度)に基づいて各クラッチ機構CL1,CL2の動作性能が低下しているか否かを判断してもよい。
【0080】
各クラッチ機構CL1,CL2の動作性能が低下していないことによりステップS2で否定的に判断された場合は、ステップS1にリターンする。それとは反対に、各クラッチ機構CL1,CL2の動作性能が低下していることによりステップS2で肯定的に判断された場合には、航続可能距離の長い走行モードを判定(または選択)し(ステップS3)、ついで、ステップS3で判定された走行モードに切り替える(ステップS4)。このステップS3で判定(または選択)される走行モードが、この発明の実施形態における「選択走行モード」に相当する。
【0081】
具体的に例を挙げてステップS3およびステップS4について説明すると、ステップS2で肯定的に判断された時点に設定されている走行モードが切り離し走行モードである場合には、エンジン1や各モータ2,3が正常に動作できるとすると、HV走行モードは、蓄電装置Ba1に充電された電力と燃料とをエネルギー源として走行できるため、蓄電装置Ba1に充電された電力のみをエネルギー源として走行するEV走行モードよりも航続可能距離が長くなる。そのため、ステップS3では、HV走行モードが判定される。この場合、エンジン1から駆動輪5R,5Lに機械的に伝達されるトルク、すなわち、動力分割機構6におけるトルクの分割率は、HV-Loモードの方がHV-Hiモードよりも大きく、HV-Loモードの方が大きな駆動力を得ることができるため、HV-Loモードを設定することが好ましい。
【0082】
そして、ステップS4により切り離しモードからHV-Loモードに切り替える。具体的には、まず、第1モータ2をエンジン1の回転方向と同一方向に回転させるとともに、その回転数を増加させる。このように第1モータ2の回転数を増加させると、リングギヤ10およびサンギヤ15の回転方向が反転する。その結果、キャリヤ18の回転数が低下して、キャリヤ12(または入力軸14)とキャリヤ18との回転数差が小さくなるため、キャリヤ12とキャリヤ18との回転数差が許容差以下になった時点で、第1クラッチ機構CL1を係合する。
【0083】
ついで、第1モータ2の回転数を低下させるように第1モータ2からトルクを出力することにより、エンジン回転数を増加させる。すなわち、第1モータ2のトルクを制御することによりエンジン1をクランキングする。そして、エンジン回転数が所定回転数まで増加した時点で、エンジン1を始動してHV-Loモードに切り替える。
【0084】
一方、エンジン1の排気を浄化するための図示しない浄化装置の温度が許容温度以上であり、エンジン1を負荷運転することができない場合には、HV走行モードを設定すると、実質的にエンジン1を連れ回すことになるため、要求駆動力を得るための電力消費量がEV走行モードを設定した場合よりも多くなる。そのような場合には、ステップS3でEV走行モードが選択される。なお、そのようにEV走行モードが選択された場合には、比較的大きな駆動力を得ることができるEV-Loモードを選択することが好ましい。
【0085】
また、この制御例では、各クラッチ機構CL1,CL2の動作性能が低下している場合に航続可能距離が長い走行モードに切り替えるものであるから、比較的小さな動力によって走行モードを切り替えることが好ましい。したがって、HV-Loモードに切り替える場合よりもHV-Hiモードに切り替える方が、アクチュエータ22の動力を小さくできるときには、HV-Hiモードを選択してもよい。
【0086】
さらに、図1に示す駆動装置4は、エンジン1を駆動させて第1モータ2により発電することにより、蓄電装置Ba1を充電できるため、第2モータ3のみの動力で走行するとしてもいずれか一方のクラッチ機構CL1,CL2を係合している方が、航続可能距離を長くできる。しかしながら、リバース走行する場合には、エンジントルクの一部が駆動輪5R,5Lに伝達され、その伝達されるトルクの向きは、リバース走行するためのトルクに対抗する。したがって、リバースレンジが選択されている場合には、動力分割機構6を介して駆動輪5R,5Lに伝達されるエンジントルクが相対的に小さいHV-Hiモードを選択してもよい。
【0087】
そして、上述したようにステップS4を実行することにより航続可能距離の長い走行モードに切り替えられた後に、走行モードの切り替えを禁止するフラグをオンに設定して(ステップS5)、このルーチンを一旦終了する。
【0088】
図12には、切り離しモードを設定している状態で、各クラッチ機構CL1,CL2の動作性能が低下し、それにより、HV-Loモードに切り替えた場合の各クラッチ機構CL1,CL2の動作性能の低下を判断するフラグFc、要求される走行モード、第1クラッチ機構CL1の係合判定、および走行モードの切り替えを禁止するフラグFmの変化を説明するためのタイムチャートを示してある。
【0089】
図12における例では、t0時点で切り離しモードが設定されていることにより、第1クラッチ機構CL1は解放されている。なお、t0時点では、各クラッチ機構CL1,CL2の動作性能が低下していないことにより、各フラグFc,Fmはオフに設定されている。
【0090】
t1時点で、各クラッチ機構CL1,CL2における動作性能の低下が判定されると、フラグFcがオンに切り替わり、そのため、t2時点で、要求される走行モードが、切り離しモードからHV-Loモードに切り替わる。したがって、第1クラッチ機構CL1を係合するための制御が実行される。すなわち、第1モータ2の回転数を制御することによりキャリヤ12とキャリヤ18との回転数差を所定差まで低下させ、その後に、アクチュエータ22に通電して、第1クラッチ機構CL1が係合するようにシフトドラム21を回動させる。その結果、t3時点で、第1クラッチ機構CL1が係合してHV-Loモードに切り替えられる。
【0091】
上述したように各クラッチ機構CL1,CL2の動作性能が低下している場合に、航続可能距離の長い走行モードに切り替え、かつその走行モードからの切り替えを禁止する。したがって、各クラッチ機構CL1,CL2の動作性能が低下した時点で航続可能距離が長い走行モードを設定することにより、航続可能距離が短い走行モードが設定されている状態で各クラッチ機構CL1,CL2が動作できなくなることを抑制できる。そのため、各クラッチ機構CL1,CL2が動作できなくなっても、航続可能距離の長い走行モードが設定されていることにより、航続可能距離が低下することを抑制できる。
【0092】
なお、各クラッチ機構CL1,CL2が正常に動作できるようになった場合には、上記の走行モードの切り替えを禁止するフラグをオフに設定して、要求駆動力や車速などに応じた走行モードに適宜切り替えてもよい。すなわち、通常の制御によって走行モードを設定してよい。その制御の一例を図13に示してある。図13に示す制御例では、まず、走行モードの切り替えを禁止するフラグがオンであるか否かを判断し(ステップS11)、そのフラグがオフであることによりステップS11で否定的に判断された場合は、そのままこのルーチンを一旦終了する。それとは反対に、走行モードの切り替えを禁止するフラグがオンであることによりステップS11で肯定的に判断された場合には、各クラッチ機構CL1,CL2の動作性能が復帰したか否かを判断する(ステップS12)。このステップS12は、上述したパラメータが許容上限値よりも小さい上限閾値以下であり、かつ許容下限値よりも大きい下限閾値以上であるか否かに基づいて判断することができる。
【0093】
各クラッチ機構CL1,CL2の動作性能が復帰していないことによりステップS12で否定的に判断された場合は、走行モードの切り替えを禁止するフラグをオンに維持して(ステップS13)、このルーチンを一旦終了する。それとは反対に、各クラッチ機構CL1,CL2の動作性能が復帰したことによりステップS12で肯定的に判断された場合は、走行モードの切り替えを禁止するフラグをオフに切り替え(ステップS14)、その後、通常制御に切り替える(ステップS15)。つまり、要求駆動力や車速などに応じて走行モードを設定する。
【0094】
また、上述したように各クラッチ機構CL1,CL2の動作性能が低下していると判断された場合であっても、直ちに、各クラッチ機構CL1,CL2が動作できなくなるとは限らない。そのため、この発明の実施形態における制御装置は、例えば、航続可能距離が長い走行モードとしてHV-Loモードが選択された場合であっても、高車速で走行することにより第1モータ2の回転数が上限回転数まで増加した場合に、第1モータ2を保護するために、HV-Hiモードに切り替えるなど、上記走行モードの切り替えを禁止するフラグがオンである間に、所定の部材を保護するために走行モードの切り替えが要求された場合には、その走行モードの切り替えを許可してもよい。
【0095】
その制御例を説明するためのフローチャートを図14に示してある。図14に示す制御例では、まず、走行モードの切り替えを禁止するフラグがオンであるか否かを判断し(ステップS21)、そのフラグがオフであることによりステップS21で否定的に判断された場合は、そのままこのルーチンを一旦終了する。それとは反対に、走行モードの切り替えを禁止するフラグがオンであることによりステップS21で肯定的に判断された場合には、所定の部材を保護するための走行モードの切り替え要求があるか否かを判断する(ステップS22)。このステップS22は、例えば、第1モータ2の回転数や、ピニオンギヤ11,17の回転数などが上限回転数まで増加した場合に、それらの部材を保護するために他の制御によって走行モードを切り替えることが要求されたか否かによって判断することができる。
【0096】
所定の部材を保護するための走行モードの切り替え要求がないことによりステップS22で否定的に判断された場合には、そのままこのルーチンを一旦終了する。それとは反対に、所定の部材を保護するための走行モードの切り替え要求があることによりステップS22で肯定的に判断された場合には、ステップS22で要求される走行モードへの切り替えを許可して(ステップS23)、このルーチンを一旦終了する。
【0097】
なお、この発明の実施形態における車両は、図1に示す構成に限らず、少なくとも一つのクラッチ機構を備え、そのクラッチ機構の係合状態と解放状態とを切り替えることにより走行モードを切り替えることができる車両であればよい。したがって、例えば、図1におけるリングギヤ10とキャリヤ18とを連結し、第1クラッチ機構CL1によりサンギヤ15とキャリヤ12とをトルク伝達可能に連結し、第2クラッチ機構CL2によりサンギヤ15とキャリヤ18とリングギヤ16とのいずれか二つの回転部材を連結するように構成した動力分割機構を備えた車両であってもよい。その場合には、第1クラッチ機構CL1を係合することによりHV-Hiモードが設定され、第2クラッチ機構CL2を係合することによりHV-Loモードが設定される。
【0098】
上記のようにエンジン、第1モータ、出力部材、二つの差動機構、および二つのクラッチ機構を備え、それらのクラッチ機構を制御することによりエンジンから出力部材に伝達されるトルクの分割率を変更可能な構成を総括して示すとすると、「エンジンが連結された回転要素と、モータが連結された回転要素と、駆動輪が連結された回転要素とのうちの二つの回転要素である第1回転要素および第2回転要素と、第3回転要素とが差動回転可能に連結された第1差動機構と、エンジンが連結された回転要素と、モータが連結された回転要素と、駆動輪が連結された回転要素とのうちの他の回転要素である第4回転要素と、第3回転要素に連結された第5回転要素と、第6回転要素とが差動回転可能に連結された第2差動機構と、前記第1回転要素と前記第2回転要素とのいずれか一方の回転要素と、前記第6回転要素との一対の回転要素である第1回転要素対、および前記第4回転要素と前記第5回転要素と前記第6回転要素とのいずれか一対の回転要素である第2回転要素対のいずれか一方の回転要素対を係合することにより、エンジンから駆動輪に伝達するトルクが大きいローモードを設定する第1係合機構と、第1回転要素対と、第2回転要素対とのうちの他方の回転要素対を係合することにより、エンジンから駆動輪に伝達するトルクがローモードよりも小さいハイモードを設定する第2係合機構とを備えた車両」である。
【0099】
さらに、この発明の実施形態における車両は、例えば、エンジンから前輪にトルクを伝達する前輪駆動装置と、モータから後輪にトルクを伝達する後輪駆動装置とを備え、そのエンジンと前輪との間に、トルクの伝達を選択的に遮断できるクラッチ機構が設けられ、クラッチ機構を係合することによりエンジンとモータとの動力で走行するハイブリッド走行モードを設定し、クラッチ機構を解放することによりモータの動力のみで走行するEV走行モードを設定できる車両であってもよい。
【0100】
また、この発明の実施形態における制御装置は、クラッチ機構の動作性能が低下している場合に、航続可能距離が長い走行モードを設定し、その動作性能が低下したクラッチ機構の係合状態と解放状態との切り替えを伴う走行モードの切り替えを禁止するものであり、例えば、上述したHV-Loモードを設定した場合であっても、EV-Loモードへの切り替えを禁止するものではない。
【符号の説明】
【0101】
1 エンジン
2,3,47 モータ
4,46 駆動装置
5R,5L 前輪(駆動輪)
6 動力分割機構
7 分割部
8 変速部
9,15,50 サンギヤ
10,16,41,51,59 リングギヤ
11,17 ピニオンギヤ
12,18,53 キャリヤ
19 出力ギヤ
20 操作機構
22 アクチュエータ(モータ)
26,32 可動部材
27 ハブ
33 回転部材
45R,45L 後輪
B 減速ブレーキ機構
Ba1 蓄電装置
Ba2 補機バッテリ
CL1,CL2,CL3 クラッチ機構
61 ECU(電子制御装置)
Ve 車両
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14