(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-20
(45)【発行日】2023-11-29
(54)【発明の名称】コイル製造方法
(51)【国際特許分類】
C25D 13/00 20060101AFI20231121BHJP
C25D 13/12 20060101ALI20231121BHJP
C25D 13/22 20060101ALI20231121BHJP
【FI】
C25D13/00 305Z
C25D13/12 A
C25D13/22 A
(21)【出願番号】P 2020170049
(22)【出願日】2020-10-07
【審査請求日】2022-11-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(74)【代理人】
【識別番号】110002871
【氏名又は名称】弁理士法人坂本国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】中山 卓
(72)【発明者】
【氏名】小薮 駿介
(72)【発明者】
【氏名】蟹江 隆久
(72)【発明者】
【氏名】星野 彰教
【審査官】祢屋 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-224924(JP,A)
【文献】特開平11-152599(JP,A)
【文献】特開2012-167349(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 13/00
C25D 13/12
C25D 13/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁膜を有するコイルの製造方法であって、
前記絶縁膜が付与される前かつ成形後のコイル素材を準備する準備工程と、
前記コイル素材を電着槽に浸漬した状態で、前記コイル素材に接続される第1電極と、前記電着槽内の第2電極との間に電位差を発生させる電着塗装工程とを含み、
前記コイル素材は、前記電着槽の下部側に位置する第1部位と、前記第1部位の両側で上方向に延在する2つの第2部位とを有し、
前記第2電極は、前記第1部位に対して下側から上下方向に対向する下側電極部と、前記第2部位に対して水平方向で対向する上側電極部とを有し、
前記電着塗装工程は、前記コイル素材のうちの
前記第1部位が前記コイル素材のうちの
前記第2部
位よりも膜厚が厚くなる態様で、前記
第1部位と前記第2部位とに前記絶縁膜を同時に付与する、コイル製造方法。
【請求項2】
前記電着塗装工程は、前記コイル素材の前記第1部位と前記第2電極の前記下側電極部との間の電位差を、前記コイル素材の前記第2部位と前記第2電極の前記上側電極部との間の電位差よりも大きくすることを含む、請求項1に記載のコイル製造方法。
【請求項3】
前記電着塗装工程において、前記コイル素材は、前記電着槽内の塗料の流れ方向に視て、複数列をなす、請求項1又は2に記載のコイル製造方法。
【請求項4】
前記上側電極部と前記下側電極部とは、上下方向で互いに離間する、請求項1から3のうちのいずれか1項に記載のコイル製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、コイル製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コイルの絶縁膜を電着塗装により付与する技術が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記のような従来技術では、コイルの部位に応じて有意に異なる膜厚の絶縁膜を電着塗装により効率的に付与することが難しい。
【0005】
そこで、1つの側面では、本開示は、コイルの部位に応じて有意に異なる膜厚の絶縁膜を電着塗装により効率的に付与することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
1つの側面では、絶縁膜を有するコイルの製造方法であって、
前記絶縁膜が付与される前かつ成形後のコイル素材を準備する準備工程と、
前記コイル素材を電着槽に浸漬した状態で、前記コイル素材に接続される第1電極と、前記電着槽内の第2電極との間に電位差を発生させる電着塗装工程とを含み、
前記電着塗装工程は、前記コイル素材のうちの一部が前記コイル素材のうちの他の部分よりも膜厚が厚くなる態様で、前記一部と前記他の部分とに前記絶縁膜を同時に付与する、コイル製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0007】
1つの側面では、本開示によれば、コイルの部位に応じて有意に異なる膜厚の絶縁膜を電着塗装により効率的に付与することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図5】第1実施例によるコイル製造方法の説明用の斜視図。
【
図6】第1実施例によるコイル製造方法の説明用の正面図。
【
図7】第2実施例によるコイル製造方法の説明用の斜視図。
【
図8】第2実施例によるコイル製造方法の説明用の正面図。
【
図9】第3実施例によるコイル製造方法の説明用の斜視図。
【
図10】第3実施例によるコイル製造方法の説明用の正面図。
【
図11A】流速低減部材による作用(塗料の流れに対する作用)の説明図。
【
図12】第4実施例によるコイル製造方法の説明用の斜視図。
【
図13】第4実施例によるコイル製造方法の説明用の正面図。
【
図16】第5実施例によるコイル製造方法の説明用の斜視図。
【
図17】第5実施例によるコイル製造方法の説明用の正面図。
【
図19】第6実施例によるコイル製造方法の説明用の斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面を参照しながら各実施例について詳細に説明する。なお、図面の寸法比率はあくまでも一例であり、これに限定されるものではなく、また、図面内の形状等は、説明の都合上、部分的に誇張している場合がある。
【0010】
以下では、まず、本実施例のコイル製造方法により製造されるコイルについて概説してから、コイル製造方法について説明する。
【0011】
図1は、ステータコア112にコイル片52が組み付けられた状態のステータ10の軸方向に沿った断面図である。なお、
図1には、図中のQ2部の拡大図が併せて示される。
図2は、複数のコイル片52のうちの、一のコイル片52の3面図である。
図3は、コイル片52の概略的な断面図である。
【0012】
ステータコイル114は、U相コイル、V相コイル、及びW相コイル(以下、U、V、Wを区別しない場合は「相コイル」と称する)を含む。各相コイルの基端は、入力端子(図示せず)に接続されており、各相コイルの末端は、他の相コイルの末端に接続されて中性点を形成する。すなわち、ステータコイル114は、スター結線される。ただし、ステータコイル114の結線態様は、必要とするモータ特性等に応じて、適宜、変更してもよく、例えば、ステータコイル114は、スター結線に代えて、デルタ結線されてもよい。
【0013】
ステータコイル114の各相コイルは、複数のコイル片52を結合して構成される。コイル片52は、相コイルを、組み付けやすい単位(例えば2つのスロット23に挿入される単位)で分割したセグメントコイル(セグメント導体)の形態である。コイル片52は、
図3に示すように、断面略矩形の線状導体(平角線)120を、絶縁膜130で被覆してなる。ここでは、線状導体は、一例として、銅により形成される。ただし、変形例では、線状導体は、鉄のような他の導体材料により形成されてもよい。また、線状導体の断面形状は、矩形以外であってもよい。
【0014】
一のコイル片52は、軸方向の一方側のセグメント導体52Aと、軸方向の他方側のセグメント導体52Bとを結合してなる。
【0015】
セグメント導体52A及びセグメント導体52Bは、それぞれ、一対の直線状のスロット収容部50と、当該一対のスロット収容部50を連結する渡り部54と、を有した略U字状に成形されてよい。コイル片52をステータコア112に組み付ける際、一対のスロット収容部50は、それぞれ、スロット23に挿入される(
図1参照)。この場合、コイル片52は、例えば軸方向に組み付けることができる。
【0016】
一のスロット23には、
図1に示すコイル片52のスロット収容部50が複数、径方向に並んで挿入される。従って、ステータコア112の軸方向の両端には、周方向に延びる渡り部54が複数、径方向に並ぶ。ここでは、一例として、一のスロット23に6つのコイル片52が組み付けられる(すなわち6層巻構造である)。なお、渡り部54は、コイルエンドを形成する。
【0017】
なお、
図2に示す例では、セグメント導体52A及びセグメント導体52Bは、それぞれ、周方向両側のスロット収容部50のうちの一方が結合可能であるのに対して、他方が、径方向に1層分だけ互いに離間する方向にオフセットする。具体的には、セグメント導体52A及びセグメント導体52Bは、それぞれ、対向面42の頂部にオフセット部521A、521Bを備え、オフセット部521A、521Bは、径方向で逆方向のオフセットを実現する。
【0018】
コイル片52は、重ね巻の形態でステータコア112に巻装される。この場合、一のコイル片52を構成するセグメント導体52A及びセグメント導体52Bは、
図2に示すように、それぞれ、周方向両側のスロット収容部50のうちの、一方側のスロット収容部50の結合部40同士が結合される。この場合、他方側のスロット収容部50は、他の一のコイル片52に結合される。この際、結合部40は、互いに全体が径方向で対向して面接触する対向面42を有し、対向面42同士が重なる状態で結合部40同士が結合される。
【0019】
なお、
図1~
図3では、特定の構造のステータコア112及びステータコイル114が示されるが、ステータコア112及びステータコイル114の構造は、ステータコイル114が絶縁膜130を有する限り、任意である。また、セグメントコイルの形態のコイル片は、コイル片52のようなステータコア112のスロット23内で結合される形態に限られず、軸方向一端側で結合される形態のような、他の形態であってもよい。また、ステータコイル114の巻き方も任意であり、波巻の形態等のような、上述したような重ね巻の形態以外の巻き方であってもよい。
【0020】
次に、
図4A以降を参照して、本実施例のコイル製造方法について詳説する。
【0021】
本実施例のコイル製造方法は、まず、絶縁膜130が付与される前かつ成形後のコイル素材を準備する準備工程を含む。なお、成形後のコイル素材は、例えば、直線状の線状導体を曲げ成形等してなる。成形後のコイル素材は、一部の成形だけが実行済みであってもよいし、例えば
図2に示したコイル片52のセグメント導体52A、52Bに対応する形態へと成形が完了されていてもよい(
図4B参照)。
【0022】
本実施例のコイル製造方法は、準備工程で準備したコイル素材(以下、「ワークW」とも称する)に対して絶縁膜130を電着塗装により付与する電着塗装工程を含む。なお、準備工程と電着塗装工程との間には、他の工程が含まれてもよい。
【0023】
ワークWにおける絶縁膜130を付与する対象部分(被塗部分)は、ワークW全体であってもよいし、ワークWの一部であってもよい。本実施例では、一例として、ワークWにおける絶縁膜130を付与する対象部分は、ワークWの略全体であり、以下、単にワークWという。
【0024】
図4Aは、電着塗装工程の概要の説明図である。
図4Bは、一のワークWを示す概略的な平面図である。
【0025】
電着塗装工程は、
図4Aに示すように、ワークWを電着槽70に浸漬する。電着槽70には、塗料が満たされている。なお、
図4Aには、電着槽70に満たされた塗料がハッチング領域72で模式的に示されている。なお、塗料は、絶縁膜130の材料であり、ポリアミドイミド樹脂やポリイミド樹脂等を含む絶縁塗料であってよい。
【0026】
第1電極74と第2電極76との間の電位差が発生すると、塗料を介して直流電流が発生し(塗膜成分が電気泳動し)、電着槽70内に浸漬されたワークWの表面には、塗料の膜(塗膜)が析出(電着)される。このようにして形成される塗料の膜が、絶縁膜130となる。なお、第1電極74は、ワークWに直接的に導通され、第2電極76は、電着槽70内に配置され、第1電極74と第2電極76との間には、直流電源(整流器)78が電気的に接続される。また、電着塗装工程中、電着槽70内の塗料は、流れを有する。例えば、電着塗装工程中、電着槽70には、供給側の配管(図示せず)から塗料が供給され、排出側から排出される。この場合、塗料は電着槽70を介して循環される。
なお、
図4Aでは、第2電極76は概略的に示されているが、第1電極74との間に電位差を発生させる第2電極76に係る各種の電極構成の具体例については、後述する。
【0027】
ところで、ワークWは絶縁膜130が付与されることで、最終的にコイル片52を形成するが、コイル片52は、上述のようにコイルエンドを形成する部分(渡り部54)においては、異なる相間での絶縁性を高める観点から、絶縁膜130が比較的厚いほうが望ましい。他方、コイル片52は、スロット23に収容されるスロット収容部50においては、スロット23内における導体の占有率を高める観点から、絶縁膜130が比較的薄いほうが望ましい。
【0028】
そこで、本実施例による電着塗装工程は、ワークWのうちの、渡り部54となる部位(以下、「厚膜付与部位W1」と称する)が、ワークWのうちのスロット収容部50となる部位(以下、「薄膜付与部位W2」と称する)よりも膜厚が有意に厚くなるように、厚膜付与部位W1と薄膜付与部位W2に絶縁膜130を電着塗装により同時に付与するように構成される。この場合、薄膜付与部位W2の膜厚を1.0とした場合、厚膜付与部位W1の膜厚は、1.1以上であり、好ましくは、2.0(すなわち2倍)以上である。なお、
図4Bには、ワークWにおける厚膜付与部位W1と薄膜付与部位W2の一例が示されているが、厚膜付与部位W1と薄膜付与部位W2との間の境界位置は、
図4Bに示すような位置から若干ずれてもよい。
【0029】
以下では、本実施例のコイル製造方法について、厚膜付与部位W1と薄膜付与部位W2との間で絶縁膜130に膜厚差が生じるような電着塗装工程に関する部分を、複数の実施例に分けて順に説明していく。
【0030】
[第1実施例]
図5及び
図6は、第1実施例によるコイル製造方法の説明図であり、
図5は、電着槽70A内に浸漬されたワークWの状態を模式的に示す斜視図であり、
図6は、電着槽70A内に浸漬されたワークWの状態を模式的に示す正面図である。
図5及び
図6(以降の
図7等も同様)には、互いに直交するX、Y、Z軸が定義されており、また、Z軸に関しては、Z方向に沿ったZ1側及びZ2側が定義されている。Z方向は、上下方向に対応し、Z1側及びZ2側は、それぞれ、上側と下側に対応する。
【0031】
なお、
図5及び
図6(以降の
図7等も同様)では、上述した第1電極74や直流電源78の図示は省略されるが、第1電極74や直流電源78は、
図4Aに示した態様で同様に設けられているものとする。
【0032】
図5及び
図6に示す例では、複数のワークWが同時に浸漬される。具体的には、複数のワークWは、一例として、Y方向に並ぶ態様で浸漬される。以下では、特に言及しない限り、任意の1つのワークWについて説明するが、他のワークWについても実質的に同様である。これは、後述する第2実施例以降も同様である。また、
図5及び
図6に示す図は、ワークWが電着槽70Aに浸漬された状態(電着塗装が実行されている状態)を示す。これは、以降の
図7等も同様である。また、
図5に示す斜視図(以下、
図7等の斜視図も同様)、ワークWの状態等が理解しやすいように、手前側の部材が透視で示されている。
【0033】
第1実施例では、第2電極76は電極76Aを有し、電着槽70Aは、更に、電気抵抗が電極76Aよりも有意に大きい遮蔽部材90を有する。
【0034】
電極76Aは、X方向両側のスロット収容部50に係る薄膜付与部位W2にX方向で対向するように、ワークWのX方向両側に配置される。それぞれの電極76Aは、X方向に視て、ワークWのZ方向全体を覆うように配置される。なお、変形例では、電極76Aは、ワークWのY方向両側に配置されてもよい。この場合も、それぞれの電極76Aは、Y方向に視て、ワークWのZ方向全体を覆うように配置されてよい。
【0035】
遮蔽部材90は、例えば、SUS(Steel Use Stainless)板等にエポキシ樹脂等を塗布することで形成される。遮蔽部材90は、X方向に視て、ワークWの一部であって、薄膜付与部位W2のZ方向全体を覆うように配置される。従って、遮蔽部材90は、X方向に視て、厚膜付与部位W1を覆うことはない。
【0036】
この場合、第1実施例による電着塗装工程は、
図5及び
図6に示すように、ワークWを、薄膜付与部位W2と電極76Aとの間に遮蔽部材90が位置するように、電着槽70Aに浸漬することを含む。換言すると、遮蔽部材90は、ワークWが浸漬された状態で、X方向で薄膜付与部位W2と電極76Aとの間に位置するように、電着槽70Aに対して設けられる。なお、遮蔽部材90は、ワークWとともに電着槽70Aに浸漬されてもよいし、ワークWが浸漬された後に浸漬されてもよいし、あらかじめ電着槽70Aにセットされていてもよい。
【0037】
このような第1実施例による電着塗装工程によれば、遮蔽部材90が薄膜付与部位W2と電極76Aとの間に配置されるので、薄膜付与部位W2に付与される絶縁膜130の膜厚を低減できる。具体的には、遮蔽部材90は、電極76Aと薄膜付与部位W2との間に配置されるので、薄膜付与部位W2まわりは、電気が流れ難くなり(電流密度が低下し)、塗膜が析出し難くなる。他方、遮蔽部材90は、電極76Aと厚膜付与部位W1との間には位置しないので、厚膜付与部位W1まわりは、電気は流れやすく、塗膜が析出し易い。この結果、厚膜付与部位W1において薄膜付与部位W2よりも有意に厚い絶縁膜130を付与できる。
【0038】
このように、第1実施例によれば、遮蔽部材90を用いて、ワークWの一部である薄膜付与部位W2だけに局所的に塗膜を析出され難くするので、厚膜付与部位W1と薄膜付与部位W2とに、同時に膜厚の異なる絶縁膜130を付与できる。従って、第1実施例によれば、厚膜付与部位W1と薄膜付与部位W2との間における絶縁膜130の膜厚差を、効率的に実現できる。すなわち、第1実施例によれば、コイル片52の部位に応じて有意に異なる膜厚の絶縁膜130を電着塗装により効率的に付与できる。
【0039】
[第2実施例]
図7及び
図8は、第2実施例によるコイル製造方法の説明図であり、
図7は、電着槽70B内に浸漬されたワークWの状態を模式的に示す斜視図であり、
図8は、電着槽70B内に浸漬されたワークWの状態を模式的に示す正面図である。
【0040】
第2実施例では、第2電極76は、電極76Bと、厚膜付与用電極77Bとを有する。
【0041】
電極76Bは、上述した第1実施例による電極76Aと同様であってよい。
【0042】
厚膜付与用電極77Bは、厚膜付与部位W1のZ方向Z1側に配置される。厚膜付与用電極77Bは、Z方向に視て、ワークWの厚膜付与部位W1に重なるように配置される。厚膜付与用電極77Bは、厚膜付与部位W1をZ方向Z1側に所定距離d1だけオフセットした位置に、Z2側の対向面770Bを有する。なお、所定距離d1は、一定値であってよい。また、厚膜付与用電極77Bは、X方向の側面は、Z方向Z1側に向かうにつれて、薄膜付与部位W2から離れる方向に傾斜する。この場合、厚膜付与用電極77BのX方向の側面が、所定距離d1よりも薄膜付与部位W2に近づくことはない。
【0043】
この場合、第2実施例による電着塗装工程は、ワークWを、厚膜付与部位W1が薄膜付与部位W2よりも厚膜付与用電極77Bに近くなるように、電着槽70Bに浸漬する。
【0044】
第2実施例によれば、厚膜付与部位W1に近接する位置に厚膜付与用電極77Bが設けられるので、厚膜付与部位W1に付与される絶縁膜130の膜厚を増加できる。具体的には、厚膜付与用電極77Bと厚膜付与部位W1との間に電気は流れやすくなり、厚膜付与部位W1に、塗膜が析出し易くなる。この結果、厚膜付与部位W1において薄膜付与部位W2よりも有意に厚い絶縁膜130を付与できる。
【0045】
厚膜付与用電極77Bは、好ましくは、対向面770Bから、Z方向Z2側に突出する突起部771を備える。突起部771は、好ましくは、頂部が尖った形態である。突起部771は、厚膜付与部位W1のうちの、凹部60の最も深い位置に尖端が近接する(所定距離d1よりも有意に短い距離まで近接する)。本実施例では、厚膜付与部位W1は、渡り部54の形態に対応し、3箇所の凹部60を有する。3箇所の凹部60は、渡り部54とコイル片52との間の曲げに起因した2箇所の凹部60と、渡り部54の周方向の中央部の凹部60である。そして、突起部771は、3箇所の凹部60に応じて3箇所に設けられる。
【0046】
この場合、第2実施例による電着塗装工程は、ワークWを、凹部60に厚膜付与用電極77Bの突起部771が近接するように、電着槽70Bに浸漬することで、
図8に示す浸漬状態を実現する。
【0047】
ところで、ワークWの凹部60には塗膜が析出し難い傾向がある。凹部60は、曲げ成形により生じるので、渡り部54には凹部60のような凹部が生じやすい。すなわち、成形後のコイル素材からなるワークWには、凹部60のような、塗膜が析出し難い凹部が生じやすい。そして、このような凹部が、厚膜付与部位W1に含まれると、厚膜付与部位W1における所望の膜厚が実現されないおそれがある。
【0048】
この点、第2実施例によれば、上述したように凹部60に厚膜付与用電極77Bの突起部771が近接するので、厚膜付与部位W1において凹部60だけ絶縁膜130の膜厚が局所的に比較的に薄くなりやすい傾向を低減でき、凹部60に付与される絶縁膜130の膜厚を効果的に増加できる。また、突起部771が尖った形態を有するので、凹部60に電荷が集中しやすくなり(電流密度が高くなりやすく)、凹部60に付与される絶縁膜130の膜厚を効果的に増加させることができる。
【0049】
このように、第2実施例によれば、電極76Bとは別に厚膜付与用電極77Bを用いて、ワークWの一部である厚膜付与部位W1だけに局所的に塗膜を析出されやすくするので、厚膜付与部位W1と薄膜付与部位W2とに、同時に膜厚の異なる絶縁膜130を付与できる。従って、第2実施例によれば、厚膜付与部位W1と薄膜付与部位W2との間における絶縁膜130の膜厚差を、効率的に実現できる。すなわち、第2実施例によれば、コイル片52の部位に応じて有意に異なる膜厚の絶縁膜130を電着塗装により効率的に付与できる。
【0050】
[第3実施例]
図9及び
図10は、第3実施例によるコイル製造方法の説明図であり、
図9は、電着槽70D内に浸漬されたワークWの状態を模式的に示す斜視図であり、
図10は、電着槽70D内に浸漬されたワークWの状態を模式的に示す正面図である。
図11Aは、電着槽70D内に浸漬されたワークWまわりの塗料の流れを模式的にY方向視で示す図である。
図11Aでは、塗料の流れが、矢印R100からR102で模式的に示されている。
図11Bは、塗料の流速と膜厚との関係を示す図であり、横軸は流速を示し、縦軸は膜厚を示し、両者の関係がプロット点(上下方向の範囲を有するプロット点)で示されている。なお、ここでは、Y方向に沿って塗料が流されるものとする。
【0051】
第3実施例では、第2電極76は、電極76Dを有し、電着槽70Dは、更に、流速低減部材92を有する。
【0052】
電極76Dは、X方向両側のスロット収容部50に係る薄膜付与部位W2にX方向で対向するように、ワークWのX方向両側に配置される。それぞれの電極76Dは、X方向に視て、ワークWのZ方向全体を覆うように配置される。
【0053】
流速低減部材92は、液体(塗料)に対して透過性を有しない部材であり、電着槽70D内の塗料の流れに抗する。流速低減部材92は、例えば、板状の形態であり、塗料の流れ方向(Y方向)の流れに対して顕著な抵抗となるように、その表面の法線方向が塗料の流れ方向に一致するように配置される。流速低減部材92は、電気抵抗が電極76Dよりも有意に大きい。流速低減部材92は、例えば、SUS板等にエポキシ樹脂等を塗布することで形成される。流速低減部材92は、Y方向に視て、ワークWの一部であって、薄膜付与部位W2のZ方向全体を覆うように配置される。従って、流速低減部材92は、Y方向に視て、厚膜付与部位W1を覆うことはない。
【0054】
この場合、第3実施例による電着塗装工程は、
図9から
図11Aに示すように、ワークWを、薄膜付与部位W2まわりの塗料の流速が厚膜付与部位W1まわりの塗料の流速よりも低くなるように、電着槽70Dに浸漬することを含む。
図11Aに模式的に示すように、流速低減部材92が、その表面の法線方向が塗料の流れ方向(矢印R100参照)に一致するように配置されると、流速低減部材92まわりで流れが堰き止められることで(矢印R100’参照)、流速低減部材92の裏側(流れ方向で後流側)での流速が顕著に低減する(矢印R102参照)。これにより、流速低減部材92の裏側(流れ方向で後流側)に位置する薄膜付与部位W2まわりの塗料の流速が顕著に低下する。
【0055】
ここで、
図11Bに示すように、塗料の流速と膜厚との関係は、流速が比較的小さくなると膜厚が顕著に低下する傾向を有する。従って、第3実施例によれば、薄膜付与部位W2において比較的薄い絶縁膜130を付与できる。他方、厚膜付与部位W1まわりの塗料の流れは、流速低減部材92による有意な影響を受けない(矢印R101参照)。この結果、厚膜付与部位W1において薄膜付与部位W2よりも有意に厚い絶縁膜130を付与できる。
【0056】
このように、第3実施例によれば、流速低減部材92を用いて塗料の流速を制御することで、ワークWの一部である薄膜付与部位W2だけに局所的に塗膜を析出され難くするので、厚膜付与部位W1と薄膜付与部位W2とに、同時に膜厚の異なる絶縁膜130を付与できる。従って、第3実施例によれば、厚膜付与部位W1と薄膜付与部位W2との間における絶縁膜130の膜厚差を、効率的に実現できる。すなわち、第3実施例によれば、コイル片52の部位に応じて有意に異なる膜厚の絶縁膜130を電着塗装により効率的に付与できる。
【0057】
[第4実施例]
図12及び
図13は、第4実施例によるコイル製造方法の説明図であり、
図12は、電着槽70E内に浸漬されたワークWの状態を模式的に示す斜視図であり、
図13は、電着槽70E内に浸漬されたワークWの状態を模式的に示す正面図である。
図14は、比較例による絶縁膜130’と、第3実施例により形成される絶縁膜130とを対比で概略的に示す図である。
図15は、極間距離と膜厚との関係を示す図であり、横軸は極間距離を示し、縦軸は膜厚を示し、両者の関係がプロット点で示されている。
【0058】
第4実施例では、第2電極76は、電極76Eと、厚膜付与用電極77Eとを有する。
【0059】
電極76Eは、X方向両側のスロット収容部50に係る薄膜付与部位W2にX方向で対向するように、ワークWのX方向両側に延在する。電極76Eは、厚膜付与用電極77Eと連続的に接続される。なお、図示の例では、電極76Eは、厚膜付与用電極77Eと一体に形成されているが、別々であってもよい。電極76Eのうちの、薄膜付与部位W2まわりに設けられる部分は、上述した第1実施例による電極76Aと同様であってよい。図示の例では、電極76Eのうちの、薄膜付与部位W2まわりに設けられる部分は、薄膜付与部位W2からX方向で所定距離d2だけオフセットした位置に配置されている。
【0060】
厚膜付与用電極77Eは、第1部位7701Eと、第2部位7702Eとを含む。
【0061】
第1部位7701Eは、厚膜付与部位W1のZ方向Z2側に配置される。第1部位7701Eは、Z方向に視て、ワークWの厚膜付与部位W1に重なるように配置される。第1部位7701Eは、厚膜付与部位W1をZ方向Z2側に所定距離d1だけオフセットした位置に、Z1側の対向面770Eを有する。
【0062】
第2部位7702Eは、電極76Eと第1部位7701Eとの間に延在する。第2部位7702Eは、厚膜付与部位W1に対してX方向両側に配置され、電極76Eの下端から連続する。なお、電極76Eは、下端部において、Z方向Z2側がワークWに徐々に近接する態様で形成されてもよい。すなわち,電極76Eと第2部位7702Eとの間の境界は、明確でなくてもよい。
【0063】
このようにして第4実施例では、電極76E及び厚膜付与用電極77Eは、協動して、ワークWが浸漬される浸漬部まわりに一体的な電極を形成する。
【0064】
第4実施例では、電着塗装工程は、ワークWを、厚膜付与部位W1が厚膜付与用電極77Eから所定距離d1(第1距離の一例)だけ離れかつ薄膜付与部位W2が電極76Eから所定距離d2(第2距離の一例)だけ離れるように、電着槽70Eに浸漬することを含む。
【0065】
この場合、所定距離d1及び所定距離d2は、極間距離に対応するので、その値に応じて厚膜付与部位W1と薄膜付与部位W2に付与される絶縁膜130の膜厚が変化する。具体的には、
図15に示すように、極間距離が短くなるほど膜厚が大きくなる傾向がある。
【0066】
第4実施例では、このような特性を利用するために、所定距離d1は、所定距離d2よりも有意に小さい。これにより、厚膜付与部位W1において薄膜付与部位W2よりも有意に厚い絶縁膜130を付与できる。
【0067】
ところで、
図14に模式的に示す比較例による絶縁膜130’は、厚膜付与部位W1において薄膜付与部位W2よりも有意に厚いものの、厚みの急変箇所で段差が生じている(矢印R1参照)。このような段差は、スロット23へのコイル片52の組み付け時等にステータコア112に引っ掛かりやすく、組み付け性を低下させる要因となりうる。
【0068】
そこで、第4実施例では、第2部位7702Eは、かかる段差が生じないように構成される。具体的には、
図13にQ13部で示すように、第2部位7702Eは、Z方向Z1側に向かうにつれてワークWから徐々に離れる傾斜面77021を有する。なお、傾斜面77021は、
図13に示すように、Z方向Z2側に凹む曲面により形成されてよい。これにより、厚膜付与用電極77EとワークWとの間の距離(すなわち極間距離)は、Z方向Z1側に向かうにつれて(すなわち厚膜付与部位W1から薄膜付与部位W2に向かうにつれて)徐々に大きくなる。この結果、
図14に模式的に示す絶縁膜130のように、厚膜付与部位W1から薄膜付与部位W2に向かうにつれて徐々に膜厚が小さくなる膜厚プロフィールを実現できる(矢印R2参照)。この場合、比較例による絶縁膜130’で生じる段差を無くすことができ、良好な組み付け性を実現できる。
【0069】
このように、第4実施例によれば、電極76E及び厚膜付与用電極77EとワークWとの距離の変化を利用して、ワークWの一部である薄膜付与部位W2だけに局所的に塗膜を析出され難くするので、厚膜付与部位W1と薄膜付与部位W2とに、同時に膜厚の異なる絶縁膜130を付与できる。従って、第4実施例によれば、厚膜付与部位W1と薄膜付与部位W2との間における絶縁膜130の膜厚差を、効率的に実現できる。すなわち、第4実施例によれば、コイル片52の部位に応じて有意に異なる膜厚の絶縁膜130を電着塗装により効率的に付与できる。
【0070】
[第5実施例]
図16及び
図17は、第5実施例によるコイル製造方法の説明図であり、
図16は、電着槽70F内に浸漬されたワークWの状態を模式的に示す斜視図であり、
図17は、電着槽70F内に浸漬されたワークWの状態を模式的に示す正面図である。
図18は、印加電圧と膜厚との関係を示す図であり、横軸は印加電圧を示し、縦軸は膜厚を示し、両者の関係がプロット点で示されている。
【0071】
第5実施例では、第2電極76は、薄膜付与用電極76Fと、厚膜付与用電極77Fとを有する。薄膜付与用電極76Fと、厚膜付与用電極77Fとは、互いに対して離間し、導通しない関係である。
【0072】
薄膜付与用電極76Fは、薄膜付与部位W2まわりに設けられる。薄膜付与用電極76Fは、ワークWのX方向両側に配置される。それぞれの薄膜付与用電極76Fは、X方向に視て、ワークWのうちの、薄膜付与部位W2のZ方向全体を覆うように配置される。薄膜付与用電極76Fは、薄膜付与部位W2からX方向で一定の所定距離d2だけオフセットした位置に配置されている。なお、変形例では、薄膜付与用電極76Fは、ワークWのY方向両側に配置されてもよい。この場合も、それぞれの薄膜付与用電極76Fは、Y方向に視て、薄膜付与部位W2のZ方向全体を覆うように配置されてよい。
【0073】
厚膜付与用電極77Fは、厚膜付与部位W1まわりに設けられる。厚膜付与用電極77Fは、厚膜付与部位W1に対してZ方向Z2側に配置される第1部位7701Fと、ワークWのX方向両側に配置される第2部位7702Fとを有する。
【0074】
第1部位7701Fは、厚膜付与部位W1をZ方向Z2側に所定距離d1だけオフセットした位置に、Z1側の対向面770Fを有する。第2部位7702Fは、厚膜付与部位W1をX方向に所定距離d1だけオフセットした位置に、X方向両側の対向面772を有する。所定距離d1は、一定であってよく、所定距離d2と同じであってよい。ただし、変形例では、上述した第4実施例のように、第1部位7701Fに係る所定距離d1は、所定距離d2よりも小さく、Z方向Z1側に向かうにつれて所定距離d2と同じ値に近づくように徐々に変化してもよい。
【0075】
第5実施例では、薄膜付与用電極76Fと厚膜付与用電極77Fには、それぞれ異なる電圧が印加される。具体的には、厚膜付与用電極77Fに印加される電圧の方が、薄膜付与用電極76Fに印加される電圧よりも高い。この場合、厚膜付与部位W1と厚膜付与用電極77Fとの間の電位差は、薄膜付与部位W2と薄膜付与用電極76Fとの間の電位差よりも大きくなる。ここで、所定距離d1、d2が同じである場合、
図18に示すように、電着塗装による膜厚は、印加電圧が大きくなるほど大きくなる傾向がある。従って、第5実施例によれば、厚膜付与部位W1において薄膜付与部位W2よりも有意に厚い絶縁膜130を付与できる。
【0076】
このように、第5実施例によれば、薄膜付与用電極76F及び厚膜付与用電極77FとワークWとの間に生じる電位差の相違を利用して、ワークWの一部である薄膜付与部位W2だけに局所的に塗膜を析出され難くするので、厚膜付与部位W1と薄膜付与部位W2とに、同時に膜厚の異なる絶縁膜130を付与できる。従って、第5実施例によれば、厚膜付与部位W1と薄膜付与部位W2との間における絶縁膜130の膜厚差を、効率的に実現できる。すなわち、第5実施例によれば、コイル片52の部位に応じて有意に異なる膜厚の絶縁膜130を電着塗装により効率的に付与できる。
【0077】
[第6実施例]
図19は、第6実施例によるコイル製造方法の説明図であり、電着槽70G内に浸漬されたワークWの状態を模式的に示す斜視図である。
【0078】
第6実施例では、第2電極76は、電極76Gを有する。
【0079】
電極76Gは、薄膜付与用電極部761Gと、厚膜付与用電極部771Gとを有する。なお、
図19では、薄膜付与用電極部761Gと、厚膜付与用電極部771Gとは、一体であるが、互いに導通しない関係であってもよい。
【0080】
薄膜付与用電極部761Gは、
図19に示すように、薄膜付与部位W2にX方向で対向するように、ワークWのX方向両側に配置される。それぞれの薄膜付与用電極部761Gは、X方向に視て、ワークWのうちの、薄膜付与部位W2のZ方向全体を覆うように配置される。薄膜付与用電極部761Gは、薄膜付与部位W2からX方向で一定の所定距離d2(図示せず、
図17等参照)だけオフセットした位置に配置されている。なお、変形例では、薄膜付与用電極部761Gは、ワークWのY方向両側に配置されてもよい。この場合も、それぞれの薄膜付与用電極部761Gは、Y方向に視て、薄膜付与部位W2のZ方向全体を覆うように配置されてよい。
【0081】
厚膜付与用電極部771Gは、薄膜付与用電極部761Gの下端部からZ方向Z2側に連続してZ方向に延在する。厚膜付与用電極部771Gは、X方向に視て、ワークWのうちの、厚膜付与部位W1のZ方向全体を覆うように配置される。厚膜付与用電極部771Gは、厚膜付与部位W1からX方向で上述の所定距離d2より大きい距離だけオフセットした位置に配置されてもよい。変形例では、厚膜付与用電極部771Gは、上述した実施例4による厚膜付与用電極77Eと同様の形態であってもよいし、上述した実施例5による厚膜付与用電極77Fと同様の形態であってもよい。
【0082】
第6実施例では、薄膜付与用電極部761Gは、厚膜付与用電極部771Gに比べて、Y方向の幅が小さい。
図19では、Y方向に並んだ複数のワークWに対して、厚膜付与用電極部771GはY方向に連続して形成されるのに対して、薄膜付与用電極部761Gは、櫛歯状に各ワークWに対向するごとに分断する態様で形成される。このため、薄膜付与用電極部761Gは、ワークWにX方向で対向する対向面積が、厚膜付与用電極部771Gよりも有意に小さくなる。
【0083】
このような第6実施例による電着塗装工程によれば、薄膜付与部位W2に対向する電極面積(薄膜付与用電極部761GのY方向の側面の面積)を比較的小さくすることができる。薄膜付与部位W2に対向する電極面積が小さくなると、薄膜付与部位W2まわりは、電気が流れ難くなり(電流密度が低下し)、塗膜が析出し難くなる。他方、厚膜付与部位W1に対向する電極面積(厚膜付与用電極部771GのY方向の側面の面積)は比較的大きいままであるので、厚膜付与部位W1まわりは、電気は流れやすく、塗膜が析出し易い。この結果、厚膜付与部位W1において薄膜付与部位W2よりも有意に厚い絶縁膜130を付与できる。
【0084】
このように、第6実施例によれば、ワークWに対向する電極の面積の相違を利用して、ワークWの一部である薄膜付与部位W2だけに局所的に塗膜を析出され難くするので、厚膜付与部位W1と薄膜付与部位W2とに、同時に膜厚の異なる絶縁膜130を付与できる。従って、第6実施例によれば、厚膜付与部位W1と薄膜付与部位W2との間における絶縁膜130の膜厚差を、効率的に実現できる。すなわち、第1実施例によれば、コイル片52の部位に応じて有意に異なる膜厚の絶縁膜130を電着塗装により効率的に付与できる。
【0085】
以上、各実施例について詳述したが、特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された範囲内において、種々の変形及び変更が可能である。また、前述した実施例の構成要素を全部又は複数を組み合わせることも可能である。また、各実施形態の効果のうちの、従属項に係る効果は、上位概念(独立項)とは区別した付加的効果である。
【0086】
例えば、上述した各実施例の各種組み合わせのうちの、第1実施例と第3実施例との組み合わせの場合、遮蔽部材90は、流速低減部材92を兼ねてもよい。
【符号の説明】
【0087】
130・・・絶縁膜、114・・・ステータコイル(コイル)、W・・・ワーク(コイル素材)、70(70A~70G)・・・電着槽、74・・・第1電極、76・・・第2電極、90・・・遮蔽部材、771・・・突起部、92・・・流速低減部材、d1・・・所定距離(第1距離)、d2・・・所定距離(第2距離)