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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-20
(45)【発行日】2023-11-29
(54)【発明の名称】車両の制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60W 10/18 20120101AFI20231121BHJP
   B60W 10/00 20060101ALI20231121BHJP
   B60W 10/04 20060101ALI20231121BHJP
   B60W 10/10 20120101ALI20231121BHJP
   B60W 30/14 20060101ALI20231121BHJP
   B60W 40/02 20060101ALI20231121BHJP
   B60K 6/445 20071001ALI20231121BHJP
   B60W 10/08 20060101ALI20231121BHJP
   B60W 10/06 20060101ALI20231121BHJP
   B60W 20/30 20160101ALI20231121BHJP
   B60W 20/10 20160101ALI20231121BHJP
   B60T 8/17 20060101ALI20231121BHJP
【FI】
B60W10/18 900
B60W10/00 148
B60W10/04
B60W10/10
B60W10/18
B60W30/14
B60W40/02
B60K6/445 ZHV
B60W10/10 900
B60W10/08 900
B60W10/06 900
B60W20/30
B60W20/10
B60T8/17 C
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020171556
(22)【出願日】2020-10-09
(65)【公開番号】P2022063155
(43)【公開日】2022-04-21
【審査請求日】2022-08-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085361
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 治幸
(74)【代理人】
【識別番号】100147669
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 光治郎
(72)【発明者】
【氏名】向野 隆志
(72)【発明者】
【氏名】日浅 康博
(72)【発明者】
【氏名】土田 康隆
(72)【発明者】
【氏名】松原 亨
【審査官】上野 力
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-073161(JP,A)
【文献】特表2015-505761(JP,A)
【文献】特開2007-001452(JP,A)
【文献】特開2000-043696(JP,A)
【文献】特開2018-034671(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 10/18
B60W 10/00
B60W 10/04
B60W 10/10
B60W 30/14
B60W 40/02
B60K 6/445
B60W 10/08
B60W 10/06
B60W 20/30
B60W 20/10
B60T 8/17
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンと、前記エンジンと駆動輪との間の動力伝達経路の一部を構成する自動変速機と、前記駆動輪に動力伝達可能に連結された回転機と、を備えた車両の、制御装置であって、
運転者の運転操作に因らず少なくとも加減速を自動的に行うことによって前記車両の運転を行う運転支援制御を実行する運転制御部と、
前記運転支援制御による走行中における減速時に、前記回転機による回生制動を行うと共に、前記車両に対する要求減速量が所定減速量以下である場合には、前記自動変速機のダウンシフトを制限する一方で、前記要求減速量が前記所定減速量より大きい場合には、前記ダウンシフトを制限しないことによって、前記車両の減速量を制御する減速制御部と、
を含むものであり、
前記要求減速量は、前記回生制動及び前記エンジンのフリクションによるエンジンブレーキによって実現する分の前記減速量であり、
前記減速制御部は、前記運転支援制御による走行中における減速時に、前記要求減速量が前記所定減速量より大きい状態でホイールブレーキによって前記減速量を増大した場合には、前記要求減速量を前記所定減速量以下に設定することを特徴とする車両の制御装置。
【請求項2】
前記所定減速量は、予め定められた、前記回生制動によって実現できる前記減速量の最大値であることを特徴とする請求項1に記載の車両の制御装置。
【請求項3】
前記減速制御部は、前記ダウンシフトを禁止することで、前記ダウンシフトを制限することを特徴とする請求項1又は2に記載の車両の制御装置。
【請求項4】
前記減速制御部は、前記要求減速量が前記所定減速量以下である場合には、前記エンジンのフリクションによるエンジンブレーキを作用させず、前記回生制動によって前記減速量を発生させる一方で、前記要求減速量が前記所定減速量より大きい場合には、前記エンジンブレーキと前記回生制動とによって前記減速量を発生させることを特徴とする請求項3に記載の車両の制御装置。
【請求項5】
前記減速制御部は、前記運転支援制御による走行中における前記要求減速量に前記運転者の操作に伴う前記車両に対する要求減速量が含まれていないときに、前記要求減速量に基づく前記ダウンシフトを制限するかしないかの切替えを行うことを特徴とする請求項1から4の何れか1項に記載の車両の制御装置。
【請求項6】
前記運転支援制御は、前記車両の周辺情報に基づいて少なくとも車速を自動的に制御して前記車両の運転を行う運転制御であることを特徴とする請求項1からの何れか1項に記載の車両の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンと自動変速機と回転機とを備えた車両の制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エンジンと、前記エンジンと駆動輪との間の動力伝達経路の一部を構成する自動変速機と、前記駆動輪に動力伝達可能に連結された回転機と、を備えた車両の制御装置が良く知られている。例えば、特許文献1に記載された車両制御装置がそれである。この特許文献1には、車両の減速要求が為された場合に、必要に応じて回転機による回生制動を行い、自動変速機をダウンシフトすることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-62247号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、車両の減速走行中には、エンジンのフリクションによるエンジンブレーキを作用させることによっても車両の減速を得ることができる。減速走行中にエンジンブレーキを作用させる場合、自動変速機のダウンシフトによって減速量を増大させることができるので、車両に対する要求減速量を実現し易い。しかしながら、ダウンシフトによってエンジン回転速度が上昇する為、NVが悪化する可能性がある。このNVは、車両で生じる騒音や振動の総称である。運転者の運転操作に因らず車両を運転する運転支援制御による走行中は、運転者の運転操作に基づいて走行する手動運転制御による走行中に比べて運転者がNVを感じ易い為、NV悪化によってドライバビリティーが悪化する可能性がある。又は、要求減速量が増減すると、ダウンシフトとアップシフトとが繰り返されるビジーシフトが生じる可能性がある。運転支援制御による走行中は、手動運転制御による走行中に比べて運転者がエンジン回転速度の変化や変速ショックを感じ易い為、ビジーシフトによってドライバビリティーが悪化する可能性がある。
【0005】
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであり、その目的とするところは、運転支援制御による走行中における減速時に、要求減速量を実現しつつドライバビリティーの悪化を抑制することができる車両の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の発明の要旨とするところは、(a)エンジンと、前記エンジンと駆動輪との間の動力伝達経路の一部を構成する自動変速機と、前記駆動輪に動力伝達可能に連結された回転機と、を備えた車両の、制御装置であって、(b)運転者の運転操作に因らず少なくとも加減速を自動的に行うことによって前記車両の運転を行う運転支援制御を実行する運転制御部と、(c)前記運転支援制御による走行中における減速時に、前記回転機による回生制動を行うと共に、前記車両に対する要求減速量が所定減速量以下である場合には、前記自動変速機のダウンシフトを制限する一方で、前記要求減速量が前記所定減速量より大きい場合には、前記ダウンシフトを制限しないことによって、前記車両の減速量を制御する減速制御部と、を含むものであり、(d)前記要求減速量は、前記回生制動及び前記エンジンのフリクションによるエンジンブレーキによって実現する分の前記減速量であり、(e)前記減速制御部は、前記運転支援制御による走行中における減速時に、前記要求減速量が前記所定減速量より大きい状態でホイールブレーキによって前記減速量を増大した場合には、前記要求減速量を前記所定減速量以下に設定することにある。
【0007】
また、第2の発明は、前記第1の発明に記載の車両の制御装置において、前記所定減速量は、予め定められた、前記回生制動によって実現できる前記減速量の最大値である。
【0008】
また、第3の発明は、前記第1の発明又は第2の発明に記載の車両の制御装置において、前記減速制御部は、前記ダウンシフトを禁止することで、前記ダウンシフトを制限することにある。
【0009】
また、第4の発明は、前記第3の発明に記載の車両の制御装置において、前記減速制御部は、前記要求減速量が前記所定減速量以下である場合には、前記エンジンのフリクションによるエンジンブレーキを作用させず、前記回生制動によって前記減速量を発生させる一方で、前記要求減速量が前記所定減速量より大きい場合には、前記エンジンブレーキと前記回生制動とによって前記減速量を発生させることにある。
【0010】
また、第5の発明は、前記第1の発明から第4の発明の何れか1つに記載の車両の制御装置において、前記減速制御部は、前記運転支援制御による走行中における前記要求減速量に前記運転者の操作に伴う前記車両に対する要求減速量が含まれていないときに、前記要求減速量に基づく前記ダウンシフトを制限するかしないかの切替えを行うことにある。
【0012】
また、第の発明は、前記第1の発明から第の発明の何れか1つに記載の車両の制御装置において、前記運転支援制御は、前記車両の周辺情報に基づいて少なくとも車速を自動的に制御して前記車両の運転を行う運転制御である。
【発明の効果】
【0013】
前記第1の発明によれば、運転支援制御による走行中における減速時に、回生制動が行われると共に、要求減速量が所定減速量以下である場合には、自動変速機のダウンシフトが制限される一方で、要求減速量が所定減速量より大きい場合には、ダウンシフトが制限されないことによって、車両の減速量が制御されるので、緩減速走行時には、エンジン回転速度の上昇に伴うNV悪化が抑制されたり、ビジーシフトが抑制され、急減速走行時には、ダウンシフトによって大きな減速量が得られ易くされる。よって、運転支援制御による走行中における減速時に、要求減速量を実現しつつドライバビリティーの悪化を抑制することができる。
また、運転支援制御による走行中における減速時に、回生制動及びエンジンブレーキによって実現する要求減速量が所定減速量より大きい状態でホイールブレーキによって減速量を増大した場合には、要求減速量が所定減速量以下に設定されるので、自動変速機のダウンシフトが抑制され、ホイールブレーキによって応答性良く大きな減速量が発生させられる。
【0014】
また、前記第2の発明によれば、前記所定減速量は、回生制動によって実現できる減速量の最大値であるので、緩減速走行時には、ダウンシフトが制限されても回生制動によって要求減速量を実現することができる。
【0015】
また、前記第3の発明によれば、ダウンシフトが禁止されることでダウンシフトが制限されるので、緩減速走行時には、エンジン回転速度の上昇に伴うNV悪化が確実に抑制されたり、ビジーシフトが確実に抑制される。
【0016】
また、前記第4の発明によれば、要求減速量が所定減速量以下である場合には、エンジンブレーキが作用させられず、回生制動によって減速量が発生させられるので、緩減速走行時には、ダウンシフトが禁止されても要求減速量を実現することができる。一方で、要求減速量が所定減速量より大きい場合には、エンジンブレーキと回生制動とによって減速量が発生させられるので、急減速走行時には、ダウンシフトによってエンジンのフリクションを増大させることで要求減速量を実現することができる。
【0017】
また、前記第5の発明によれば、運転支援制御による走行中における要求減速量に運転者の操作に伴う要求減速量が含まれていないときに、要求減速量に基づくダウンシフトを制限するかしないかの切替えが行われるので、減速走行時に運転者のブレーキ操作や車速を低下させる操作などが行われていないときには、NV悪化やビジーシフトが抑制され易くされる。
【0019】
また、前記第の発明によれば、前記運転支援制御は、車両の周辺情報に基づいて少なくとも車速を自動的に制御して車両の運転を行う運転制御であるので、運転支援制御による走行中における減速時に、要求減速量が適切に実現させられ、車速が適切に制御される。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明が適用される車両の概略構成を説明する図であると共に、車両における各種制御の為の制御機能及び制御系統の要部を説明する図である。
図2図1の機械式有段変速部の変速作動とそれに用いられる係合装置の作動の組み合わせとの関係を説明する作動図表である。
図3図1の電気式無段変速部と機械式有段変速部とにおける各回転要素の回転速度の相対的関係を表す共線図である。
図4図1の機械式有段変速部の変速制御に用いられるATギヤ段変速マップと、走行モードの切替制御に用いられる走行モード切替マップと、の一例を示す図であって、それぞれの関係を示す図でもある。
図5】電子制御装置の制御作動の要部を説明するフローチャートであり、運転支援制御による走行中における減速時に要求減速度を実現しつつドライバビリティーの悪化を抑制する為の制御作動を説明するフローチャートである。
図6図5のフローチャートに示す制御作動を実行した場合のタイムチャートの一例を示す図であって、緩減速が行われた場合である。
図7図5のフローチャートに示す制御作動を実行した場合のタイムチャートの一例を示す図であって、急減速が行われた場合である。
図8図5のフローチャートに示す制御作動を実行した場合のタイムチャートの一例を示す図であって、急減速中にホイールブレーキが作用させられた場合である。
図9】本発明が適用される車両の概略構成を説明する図であって、図1の車両とは別の実施例である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の実施形態において、前記自動変速機における変速比は、「入力側の回転部材の回転速度/出力側の回転部材の回転速度」である。この変速比におけるハイ側は、変速比が小さくなる側である高車速側である。変速比におけるロー側は、変速比が大きくなる側である低車速側である。例えば、最ロー側変速比は、最も低車速側となる最低車速側の変速比であり、変速比が最も大きな値となる最大変速比である。
【0022】
以下、本発明の実施例を図面を参照して詳細に説明する。
【実施例1】
【0023】
図1は、本発明が適用される車両10の概略構成を説明する図であると共に、車両10における各種制御の為の制御系統の要部を説明する図である。図1において、車両10は、エンジン12と第1回転機MG1と第2回転機MG2とを備えている。又、車両10は、駆動輪14と、エンジン12と駆動輪14との間の動力伝達経路に設けられた動力伝達装置16と、を備えている。
【0024】
エンジン12は、駆動力を発生することが可能な駆動力源であって、例えばガソリンエンジンやディーゼルエンジン等の公知の内燃機関である。エンジン12は、後述する電子制御装置90によって、車両10に備えられたスロットルアクチュエータや燃料噴射装置や点火装置等を含むエンジン制御装置50が制御されることによりエンジン12の出力トルクであるエンジントルクTeが制御される。
【0025】
第1回転機MG1及び第2回転機MG2は、電動機(モータ)としての機能及び発電機(ジェネレータ)としての機能を有する回転電気機械であって、所謂モータジェネレータである。第1回転機MG1及び第2回転機MG2は、各々、車両10に備えられたインバータ52を介して、車両10に備えられたバッテリ54に接続されている。第1回転機MG1及び第2回転機MG2は、各々、後述する電子制御装置90によってインバータ52が制御されることにより、第1回転機MG1の出力トルクであるMG1トルクTg及び第2回転機MG2の出力トルクであるMG2トルクTmが制御される。回転機の出力トルクは、例えばエンジン12の運転時と同じ回転方向である正回転の場合、加速側となる正トルクでは力行トルクであり、減速側となる負トルクでは回生トルクである。バッテリ54は、第1回転機MG1及び第2回転機MG2の各々に対して電力を授受する蓄電装置である。第1回転機MG1及び第2回転機MG2は、車体に取り付けられる非回転部材としてのケース18内に設けられている。
【0026】
動力伝達装置16は、ケース18内において共通の軸心上に直列に配設された、電気式無段変速部20及び機械式有段変速部22等を備えている。電気式無段変速部20は、直接的に或いは図示しないダンパーなどを介して間接的にエンジン12に連結されている。機械式有段変速部22は、電気式無段変速部20の出力側に連結されている。又、動力伝達装置16は、機械式有段変速部22の出力回転部材である出力軸24に連結された差動歯車装置26、差動歯車装置26に連結された一対の車軸28等を備えている。車軸28は、駆動輪14と連結されている。尚、以下、電気式無段変速部20を無段変速部20、機械式有段変速部22を有段変速部22という。又、無段変速部20や有段変速部22等は上記共通の軸心に対して略対称的に構成されており、図1ではその軸心の下半分が省略されている。上記共通の軸心は、エンジン12のクランク軸、そのクランク軸に連結された無段変速部20の入力回転部材である連結軸30などの軸心である。
【0027】
無段変速部20は、第1回転機MG1と、エンジン12の動力を第1回転機MG1及び無段変速部20の出力回転部材である中間伝達部材32に機械的に分割する動力分割機構としての差動機構34と、を備えている。中間伝達部材32には、第2回転機MG2が動力伝達可能に連結されている。無段変速部20は、第1回転機MG1の運転状態が制御されることにより差動機構34の差動状態が制御される電気式無段変速機である。無段変速部20は、変速比(ギヤ比ともいう)γ0(=エンジン回転速度Ne/MG2回転速度Nm)が変化させられる電気的な無段変速機として作動させられる。エンジン回転速度Neは、エンジン12の回転速度であり、無段変速部20の入力回転速度すなわち連結軸30の回転速度と同値である。MG2回転速度Nmは、第2回転機MG2の回転速度であり、無段変速部20の出力回転速度すなわち中間伝達部材32の回転速度と同値である。第1回転機MG1は、エンジン回転速度Neを制御可能な回転機であって、差動用回転機に相当する。尚、第1回転機MG1の運転状態を制御することは、第1回転機MG1の運転制御を行うことである。
【0028】
差動機構34は、シングルピニオン型の遊星歯車装置にて構成されており、サンギヤS0、キャリアCA0、及びリングギヤR0を備えている。キャリアCA0には連結軸30を介してエンジン12が動力伝達可能に連結され、サンギヤS0には第1回転機MG1が動力伝達可能に連結され、リングギヤR0には第2回転機MG2が動力伝達可能に連結されている。差動機構34において、キャリアCA0は入力要素として機能し、サンギヤS0は反力要素として機能し、リングギヤR0は出力要素として機能する。
【0029】
有段変速部22は、中間伝達部材32と駆動輪14との間の動力伝達経路の一部を構成する、つまり無段変速部20と駆動輪14との間の動力伝達経路の一部を構成する、有段変速機としての機械式変速機構である。中間伝達部材32は、有段変速部22の入力回転部材としても機能する。中間伝達部材32には第2回転機MG2が一体回転するように連結されている。第2回転機MG2は、駆動力を発生することが可能な駆動力源として機能する回転機であって、走行駆動用回転機に相当する。又、無段変速部20の入力側にはエンジン12が連結されている。よって、有段変速部22は、駆動力源(エンジン12、第2回転機MG2)と駆動輪14との間の動力伝達経路の一部を構成する自動変速機である。第2回転機MG2は、エンジン12と駆動輪14との間の動力伝達経路に動力伝達可能に連結された回転機である。つまり、第2回転機MG2は、有段変速部22を介して駆動輪14に動力伝達可能に連結された回転機である。有段変速部22は、例えば第1遊星歯車装置36及び第2遊星歯車装置38の複数組の遊星歯車装置と、ワンウェイクラッチF1を含む、クラッチC1、クラッチC2、ブレーキB1、ブレーキB2の複数の係合装置と、を備えている、公知の遊星歯車式の自動変速機である。以下、クラッチC1、クラッチC2、ブレーキB1、及びブレーキB2については、特に区別しない場合は単に係合装置CBという。
【0030】
係合装置CBは、油圧アクチュエータにより押圧される多板式或いは単板式のクラッチやブレーキ、油圧アクチュエータによって引き締められるバンドブレーキなどにより構成される、油圧式の摩擦係合装置である。係合装置CBは、車両10に備えられた油圧制御回路56内の各ソレノイドバルブSL1-SL4等から出力される調圧された係合装置CBの各係合圧によりそれぞれのトルク容量が変化させられることで、各々、係合や解放などの制御状態すなわち作動状態が切り替えられる。
【0031】
有段変速部22は、第1遊星歯車装置36及び第2遊星歯車装置38の各回転要素が、直接的に或いは係合装置CBやワンウェイクラッチF1を介して間接的に、一部が互いに連結されたり、中間伝達部材32、ケース18、或いは出力軸24に連結されている。第1遊星歯車装置36の各回転要素は、サンギヤS1、キャリアCA1、リングギヤR1であり、第2遊星歯車装置38の各回転要素は、サンギヤS2、キャリアCA2、リングギヤR2である。
【0032】
有段変速部22は、複数の係合装置のうちの何れかの係合装置である例えば所定の係合装置の係合によって、変速比γat(=AT入力回転速度Ni/出力回転速度No)が異なる複数の変速段(ギヤ段ともいう)のうちの何れかのギヤ段が形成される有段変速機である。つまり、有段変速部22は、複数の係合装置の何れかが係合されることで、ギヤ段が切り替えられるすなわち変速が実行される。本実施例では、有段変速部22にて形成されるギヤ段をATギヤ段と称す。AT入力回転速度Niは、有段変速部22の入力回転速度すなわち中間伝達部材32の回転速度であり、MG2回転速度Nmと同値である。AT入力回転速度Niは、MG2回転速度Nmで表すことができる。出力回転速度Noは、有段変速部22の出力回転速度すなわち出力軸24の回転速度である。出力回転速度Noは、無段変速部20と有段変速部22とを合わせた全体の変速機である複合変速機40の出力回転速度でもある。複合変速機40は、エンジン12と駆動輪14との間の動力伝達経路の一部を構成する自動変速機である。尚、エンジン回転速度Neは、複合変速機40の入力回転速度でもある。
【0033】
有段変速部22は、例えば図2の係合作動表に示すように、複数のATギヤ段として、AT1速ギヤ段(図中の「1st」)-AT4速ギヤ段(図中の「4th」)の4段の前進用のATギヤ段が形成される。AT1速ギヤ段の変速比γatが最も大きく、ハイ側のATギヤ段程、変速比γatが小さくなる。又、後進用のATギヤ段(図中の「Rev」)は、例えばクラッチC1の係合且つブレーキB2の係合によって形成される。つまり、後進走行を行う際には、例えばAT1速ギヤ段が形成される。図2の係合作動表は、各ATギヤ段と複数の係合装置の各作動状態との関係をまとめたものである。すなわち、図2の係合作動表は、各ATギヤ段と、各ATギヤ段において各々係合される係合装置である所定の係合装置との関係をまとめたものである。図2において、「○」は係合、「△」はエンジンブレーキ時や有段変速部22のコーストダウンシフト時に係合、空欄は解放をそれぞれ表している。
【0034】
有段変速部22は、後述する電子制御装置90によって、ドライバー(=運転者)のアクセル操作や車速V等に応じて形成されるATギヤ段が切り替えられる、すなわち複数のATギヤ段が選択的に形成される。例えば、有段変速部22の変速制御においては、係合装置CBの何れかの掴み替えにより変速が実行される、すなわち係合装置CBの係合と解放との切替えにより変速が実行される、所謂クラッチツゥクラッチ変速が実行される。
【0035】
車両10は、更に、機械式のオイルポンプであるMOP58、不図示の電動式のオイルポンプ等を備えている。MOP58は、連結軸30に連結されており、エンジン12の回転と共に回転させられて動力伝達装置16にて用いられる作動油OILを吐出する。又、不図示の電動式のオイルポンプは、例えばエンジン12の停止時すなわちMOP58の非駆動時に駆動させられて作動油OILを吐出する。MOP58や不図示の電動式のオイルポンプが吐出した作動油OILは、油圧制御回路56へ供給される。係合装置CBは、作動油OILを元にして油圧制御回路56により調圧された各係合圧によって作動状態が切り替えられる。
【0036】
図3は、無段変速部20と有段変速部22とにおける各回転要素の回転速度の相対的関係を表す共線図である。図3において、無段変速部20を構成する差動機構34の3つの回転要素に対応する3本の縦線Y1、Y2、Y3は、左側から順に第2回転要素RE2に対応するサンギヤS0の回転速度を表すg軸であり、第1回転要素RE1に対応するキャリアCA0の回転速度を表すe軸であり、第3回転要素RE3に対応するリングギヤR0の回転速度(すなわち有段変速部22の入力回転速度)を表すm軸である。又、有段変速部22の4本の縦線Y4、Y5、Y6、Y7は、左から順に、第4回転要素RE4に対応するサンギヤS2の回転速度、第5回転要素RE5に対応する相互に連結されたリングギヤR1及びキャリアCA2の回転速度(すなわち出力軸24の回転速度)、第6回転要素RE6に対応する相互に連結されたキャリアCA1及びリングギヤR2の回転速度、第7回転要素RE7に対応するサンギヤS1の回転速度をそれぞれ表す軸である。縦線Y1、Y2、Y3の相互の間隔は、差動機構34の歯車比ρ0に応じて定められている。又、縦線Y4、Y5、Y6、Y7の相互の間隔は、第1遊星歯車装置36の歯車比ρ1と第2遊星歯車装置38の歯車比ρ2とに応じて定められている。共線図の縦軸間の関係においてサンギヤとキャリアとの間が「1」に対応する間隔とされるとキャリアとリングギヤとの間が遊星歯車装置の歯車比ρ(=サンギヤの歯数/リングギヤの歯数)に対応する間隔とされる。
【0037】
図3の共線図を用いて表現すれば、無段変速部20の差動機構34において、第1回転要素RE1にエンジン12(図中の「ENG」参照)が連結され、第2回転要素RE2に第1回転機MG1(図中の「MG1」参照)が連結され、中間伝達部材32と一体回転する第3回転要素RE3に第2回転機MG2(図中の「MG2」参照)が連結されて、エンジン12の回転を中間伝達部材32を介して有段変速部22へ伝達するように構成されている。無段変速部20では、縦線Y2を横切る各直線L0e、L0m、L0Rにより、サンギヤS0の回転速度とリングギヤR0の回転速度との関係が示される。
【0038】
又、有段変速部22において、第4回転要素RE4はクラッチC1を介して中間伝達部材32に選択的に連結され、第5回転要素RE5は出力軸24に連結され、第6回転要素RE6はクラッチC2を介して中間伝達部材32に選択的に連結されると共にブレーキB2を介してケース18に選択的に連結され、第7回転要素RE7はブレーキB1を介してケース18に選択的に連結される。有段変速部22では、係合装置CBの係合解放制御によって縦線Y5を横切る各直線L1、L2、L3、L4、LRにより、出力軸24における「1st」、「2nd」、「3rd」、「4th」、「Rev」の各回転速度が示される。
【0039】
図3中の実線で示す、直線L0e及び直線L1、L2、L3、L4は、少なくともエンジン12を駆動力源として走行するハイブリッド走行(=HV走行)が可能なHV走行モードでの前進走行における各回転要素の相対速度を示している。HV走行は、エンジン12からの駆動力を少なくとも用いて走行するエンジン走行である。このHV走行モードでは、差動機構34において、キャリアCA0に入力される正トルクのエンジントルクTeに対して、第1回転機MG1による負トルクの反力トルクとなるMG1トルクTgがサンギヤS0に入力されると、リングギヤR0には正回転にて正トルクとなるエンジン直達トルクTd(=Te/(1+ρ0)=-(1/ρ0)×Tg)が現れる。そして、要求駆動力Frdemに応じて、エンジン直達トルクTdとMG2トルクTmとの合算トルクが車両10の前進方向の駆動トルクとして、AT1速ギヤ段-AT4速ギヤ段のうちの何れかのATギヤ段が形成された有段変速部22を介して駆動輪14へ伝達される。第1回転機MG1は、正回転にて負トルクを発生する場合には発電機として機能する。第1回転機MG1の発電電力Wgは、バッテリ54に充電されたり、第2回転機MG2にて消費される。第2回転機MG2は、発電電力Wgの全部又は一部を用いて、或いは発電電力Wgに加えてバッテリ54からの電力を用いて、MG2トルクTmを出力する。
【0040】
図3中の一点鎖線で示す直線L0m及び図3中の実線で示す直線L1、L2、L3、L4は、エンジン12の運転を停止した状態で第2回転機MG2を駆動力源として走行するモータ走行(=EV走行)が可能なEV走行モードでの前進走行における各回転要素の相対速度を示している。EV走行は、第2回転機MG2からの駆動力のみを用いて走行するモータ走行である。EV走行モードでの前進走行におけるEV走行では、キャリアCA0はゼロ回転とされ、リングギヤR0には正回転にて正トルクとなるMG2トルクTmが入力される。このとき、サンギヤS0に連結された第1回転機MG1は、無負荷状態とされて負回転にて空転させられる。つまり、EV走行モードでの前進走行では、エンジン12は駆動されず、エンジン回転速度Neはゼロとされ、MG2トルクTmが車両10の前進方向の駆動トルクとして、AT1速ギヤ段-AT4速ギヤ段のうちの何れかのATギヤ段が形成された有段変速部22を介して駆動輪14へ伝達される。ここでのMG2トルクTmは、正回転且つ正トルクの力行トルクである。
【0041】
図3中の破線で示す、直線L0R及び直線LRは、EV走行モードでの後進走行における各回転要素の相対速度を示している。このEV走行モードでの後進走行では、リングギヤR0には負回転にて負トルクとなるMG2トルクTmが入力され、そのMG2トルクTmが車両10の後進方向の駆動トルクとして、AT1速ギヤ段が形成された有段変速部22を介して駆動輪14へ伝達される。車両10では、後述する電子制御装置90によって、複数のATギヤ段のうちの前進用のロー側のATギヤ段である例えばAT1速ギヤ段が形成された状態で、前進走行時における前進用のMG2トルクTmとは正負が反対となる後進用のMG2トルクTmが第2回転機MG2から出力させられることで、後進走行を行うことができる。ここでのMG2トルクTmは、負回転且つ負トルクの力行トルクである。尚、HV走行モードにおいても、直線L0Rのように第2回転機MG2を負回転とすることが可能であるので、EV走行モードと同様に後進走行を行うことが可能である。
【0042】
車両10は、走行用の駆動力源として、エンジン12及び第2回転機MG2を備えたハイブリッド車両である。動力伝達装置16において、エンジン12や第2回転機MG2から出力される動力は、有段変速部22へ伝達され、その有段変速部22から差動歯車装置26等を介して駆動輪14へ伝達される。このように、動力伝達装置16は、駆動力源(エンジン12、第2回転機MG2)からの駆動力を駆動輪14へ伝達する。尚、動力は、特に区別しない場合にはトルクや力も同意である。
【0043】
図1に戻り、車両10は、エンジン12、無段変速部20、及び有段変速部22などの制御に関連する車両10の制御装置を含むコントローラとしての電子制御装置90を備えている。図1は、電子制御装置90の入出力系統を示す図であり、又、電子制御装置90による制御機能の要部を説明する機能ブロック図である。電子制御装置90は、例えばCPU、RAM、ROM、入出力インターフェース等を備えた所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、CPUはRAMの一時記憶機能を利用しつつ予めROMに記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことにより車両10の各種制御を行う。電子制御装置90は、必要に応じてエンジン制御用、回転機制御用、油圧制御用等の各コンピュータを含んで構成される。
【0044】
電子制御装置90には、車両10に備えられた各種センサ等(例えばエンジン回転速度センサ60、出力回転速度センサ62、MG1回転速度センサ64、MG2回転速度センサ66、アクセル開度センサ68、スロットル弁開度センサ70、ブレーキペダルセンサ71、ステアリングセンサ72、ドライバ状態センサ73、Gセンサ74、ヨーレートセンサ76、バッテリセンサ78、油温センサ79、車両周辺情報センサ80、車両位置センサ81、外部ネットワーク通信用アンテナ82、ナビゲーションシステム83、運転支援設定スイッチ群84、シフトポジションセンサ85など)による検出値に基づく各種信号等(例えばエンジン回転速度Ne、車速Vに対応する出力回転速度No、第1回転機MG1の回転速度であるMG1回転速度Ng、AT入力回転速度Niと同値であるMG2回転速度Nm、運転者の加速操作の大きさを表す運転者のアクセル操作量であるアクセル開度θacc、電子スロットル弁の開度であるスロットル弁開度θth、ホイールブレーキを作動させる為のブレーキペダルが運転者によって操作されている状態を示す信号であるブレーキオン信号Bon、運転者によるブレーキペダルの踏込操作の大きさを表すブレーキ操作量Bra、車両10に備えられたステアリングホイールの操舵角θsw及び操舵方向Dsw、ステアリングホイールが運転者によって握られている状態を示す信号であるステアリングオン信号SWon、運転者の状態を示す信号であるドライバ状態信号Drv、車両10の前後加速度Gx及び左右加速度Gy、車両10の鉛直軸まわりの回転角速度であるヨーレートRyaw、バッテリ54のバッテリ温度THbatやバッテリ充放電電流Ibatやバッテリ電圧Vbat、作動油OILの温度である作動油温THoil、車両周辺情報Iard、位置情報Ivp、通信信号Scom、ナビ情報Inavi、自動運転制御やクルーズ制御等の運転支援制御CTsにおける運転者による設定を示す信号である運転支援設定信号Sset、車両10に備えられたシフトレバーの操作ポジションPOSshなど)が、それぞれ供給される。
【0045】
運転者のアクセル操作量は、例えばアクセルペダルなどのアクセル操作部材の操作量である加速操作量であって、車両10に対する運転者の出力要求量である。運転者の出力要求量としては、アクセル開度θaccの他に、スロットル弁開度θthなどを用いることもできる。
【0046】
ドライバ状態センサ73は、例えば運転者の表情や瞳孔などを撮影するカメラ、運転者の生体情報を検出する生体情報センサなどのうちの少なくとも一つを含んでおり、運転者の視線や顔の向き、眼球や顔の動き、心拍の状態等の運転者の状態を取得する。
【0047】
車両周辺情報センサ80は、例えばライダー、レーダー、及び車載カメラなどのうちの少なくとも一つを含んでおり、車両10の周辺情報である車両周辺情報Iardを直接的に取得する。車両周辺情報Iardは、走行中の道路に関する情報や車両周辺に存在する物体に関する情報である。前記ライダーは、例えば車両10の前方の物体、側方の物体、後方の物体などを各々検出する複数のライダー、又は、車両10の全周囲の物体を検出する一つのライダーであり、検出した物体に関する物体情報を車両周辺情報Iardとして出力する。前記レーダーは、例えば車両10の前方の物体、前方近傍の物体、後方近傍の物体などを各々検出する複数のレーダーなどであり、検出した物体に関する物体情報を車両周辺情報Iardとして出力する。前記ライダーやレーダーによる物体情報には、検出した物体の車両10からの距離と方向とが含まれる。前記車載カメラは、例えば車両10の前方や後方を撮像する単眼カメラ又はステレオカメラであり、撮像情報を車両周辺情報Iardとして出力する。この撮像情報には、走行路の車線、走行路における標識、駐車スペース、及び走行路における他車両や歩行者や障害物などの情報が含まれる。
【0048】
車両位置センサ81は、GPSアンテナなどを含んでいる。位置情報Ivpは、GPS(Global Positioning System)衛星が発信するGPS信号(軌道信号)などに基づく地表又は地図上における車両10の現在位置を示す情報である自車位置情報を含んでいる。
【0049】
ナビゲーションシステム83は、ディスプレイやスピーカ等を有する公知のナビゲーションシステムである。ナビゲーションシステム83は、位置情報Ivpに基づいて、予め記憶された地図データ上に自車位置を特定する。ナビゲーションシステム83は、ディスプレイに表示した地図上に自車位置を表示する。ナビゲーションシステム83は、目的地が入力されると、出発地から目的地までの走行経路を演算し、ディスプレイやスピーカ等で運転者に走行経路などの指示を行う。ナビ情報Inaviは、例えばナビゲーションシステム83に予め記憶された地図データに基づく道路情報や施設情報などの地図情報などを含んでいる。前記道路情報には、市街地道路、郊外道路、山岳道路、高速自動車道路すなわち高速道路などの道路の種類、道路の分岐や合流、道路の勾配、制限速度などの情報が含まれる。前記施設情報には、スーパー、商店、レストラン、駐車場、公園、車両10の故障対応業者、自宅、高速道路におけるサービスエリアなどの拠点の種類、所在位置、名称などの情報が含まれる。上記サービスエリアは、例えば高速道路で、駐車、食事、給油などの設備のある拠点である。尚、ナビ情報Inaviにおける道路情報等は、車両周辺情報Iardにもなり得る。
【0050】
運転支援設定スイッチ群84は、自動運転制御を実行させる為の自動運転選択スイッチ、クルーズ制御を実行させる為のクルーズスイッチ、クルーズ制御における車速を設定するスイッチ、クルーズ制御における先行車との車間距離を設定するスイッチ、設定された車線を維持して走行するレーンキープ制御を実行させる為のスイッチなどを含んでいる。
【0051】
通信信号Scomは、例えば道路交通情報通信システムなどの車外装置であるセンターとの間で送受信された道路交通情報など、及び/又は、前記センターを介さずに車両10の近傍にいる他車両との間で直接的に送受信された車車間通信情報などを含んでいる。前記道路交通情報には、例えば道路の渋滞、事故、工事、所要時間、駐車場などの情報が含まれる。前記車車間通信情報は、例えば車両情報、走行情報、交通環境情報などを含んでいる。前記車両情報には、例えば乗用車、トラック、二輪車などの車種を示す情報が含まれる。前記走行情報には、例えば車速V、位置情報、ブレーキペダルの操作情報、ターンシグナルランプの点滅情報、ハザードランプの点滅情報などの情報が含まれる。前記交通環境情報には、例えば道路の渋滞、工事などの情報が含まれる。
【0052】
電子制御装置90からは、車両10に備えられた各装置(例えばエンジン制御装置50、インバータ52、油圧制御回路56、外部ネットワーク通信用アンテナ82、ホイールブレーキ装置86、操舵装置88、情報周知装置89など)に各種指令信号(例えばエンジン12を制御する為のエンジン制御指令信号Se、第1回転機MG1及び第2回転機MG2を各々制御する為の回転機制御指令信号Smg、係合装置CBの作動状態を制御する為の油圧制御指令信号Sat、通信信号Scom、ホイールブレーキによる制動トルクTbを制御する為のブレーキ制御指令信号Sbra、車輪(特には前輪)の操舵を制御する為の操舵制御指令信号Sste、運転者に警告や報知を行う為の情報周知制御指令信号Sinfなど)が、それぞれ出力される。
【0053】
ホイールブレーキ装置86は、車輪にホイールブレーキによる制動トルクTbを付与するブレーキ装置である。制動トルクTbは、駆動トルクTrのうちの制動側となる負トルクである。ホイールブレーキ装置86は、運転者による例えばブレーキペダルの踏込操作などに応じて、ホイールブレーキに設けられたホイールシリンダへブレーキ油圧を供給する。ホイールブレーキ装置86では、通常時には、ブレーキマスタシリンダから発生させられる、ブレーキ操作量Braに対応した大きさのマスタシリンダ油圧がブレーキ油圧としてホイールシリンダへ供給される。一方で、ホイールブレーキ装置86では、例えばABS制御時、横滑り抑制制御時、自動車速制御時、自動運転制御時などには、ホイールブレーキによる制動トルクTbの発生の為に、各制御で必要なブレーキ油圧がホイールシリンダへ供給される。上記車輪は、駆動輪14及び不図示の従動輪である。
【0054】
操舵装置88は、例えば車速V、操舵角θsw及び操舵方向Dsw、ヨーレートRyawなどに応じたアシストトルクを車両10の操舵系に付与する。操舵装置88では、例えば自動運転制御時などには、前輪の操舵を制御するトルクを車両10の操舵系に付与する。
【0055】
情報周知装置89は、例えば車両10の走行に関わる何らかの故障が発生したり、車両10の走行に関わる機能が低下した場合などに、運転者に対して警告や報知を行う装置である。情報周知装置89は、例えばモニタやディスプレイやアラームランプ等の表示装置、及び/又はスピーカやブザー等の音出力装置などである。前記表示装置は、運転者に対して視覚的な警告や報知を行う装置である。音出力装置は、運転者に対して聴覚的な警告や報知を行う装置である。
【0056】
電子制御装置90は、車両10における各種制御を実現する為に、AT変速制御手段すなわちAT変速制御部92、ハイブリッド制御手段すなわちハイブリッド制御部94、減速制御手段すなわち減速制御部96、及び運転制御手段すなわち運転制御部98を備えている。
【0057】
AT変速制御部92は、予め実験的に或いは設計的に求められて記憶された関係すなわち予め定められた関係である例えば図4に示すようなATギヤ段変速マップを用いて有段変速部22の変速判断を行い、必要に応じて有段変速部22の変速制御を実行する為の油圧制御指令信号Satを油圧制御回路56へ出力する。
【0058】
図4において、ATギヤ段変速マップは、例えば車速V及び要求駆動力Frdemを変数とする二次元座標上に、有段変速部22の変速が判断される為の予め定められた複数種類の変速線SHを有する所定の関係である。ここでは、車速Vに替えて出力回転速度Noなどを用いても良い。又、要求駆動力Frdemに替えて要求駆動トルクTrdemやアクセル開度θaccやスロットル弁開度θthなどを用いても良い。複数種類の変速線SHは、例えば実線に示すようなアップシフトが判断される為のアップシフト線SHua、SHub、SHuc、及び破線に示すようなダウンシフトが判断される為のダウンシフト線SHda、SHdb、SHdcを含んでいる。
【0059】
ハイブリッド制御部94は、エンジン12の作動を制御するエンジン制御手段すなわちエンジン制御部としての機能と、インバータ52を介して第1回転機MG1及び第2回転機MG2の作動を制御する回転機制御手段すなわち回転機制御部としての機能と、を含んでおり、それらの制御機能によりエンジン12、第1回転機MG1、及び第2回転機MG2によるハイブリッド駆動制御等を実行する。
【0060】
ハイブリッド制御部94は、予め定められた関係である例えば駆動要求量マップにアクセル開度θacc及び車速Vを適用することで駆動要求量としての駆動輪14における要求駆動力Frdemを算出する。前記駆動要求量としては、要求駆動力Frdem[N]の他に、駆動輪14における要求駆動トルクTrdem[Nm]、駆動輪14における要求駆動パワーPrdem[W]、出力軸24における要求AT出力トルク等を用いることもできる。ハイブリッド制御部94は、バッテリ54の充電可能電力Winや放電可能電力Wout等を考慮して、要求駆動トルクTrdemと車速Vとに基づく要求駆動パワーPrdemを実現するように、エンジン12を制御する指令信号であるエンジン制御指令信号Seと、第1回転機MG1及び第2回転機MG2を制御する指令信号である回転機制御指令信号Smgと、を出力する。エンジン制御指令信号Seは、例えばそのときのエンジン回転速度NeにおけるエンジントルクTeを出力するエンジン12のパワーであるエンジンパワーPeの指令値である。回転機制御指令信号Smgは、例えばエンジントルクTeの反力トルクとしての指令出力時のMG1回転速度NgにおけるMG1トルクTgを出力する第1回転機MG1の発電電力Wgの指令値であり、又、指令出力時のMG2回転速度NmにおけるMG2トルクTmを出力する第2回転機MG2の消費電力Wmの指令値である。
【0061】
バッテリ54の充電可能電力Winは、バッテリ54の入力電力の制限を規定する入力可能電力であり、バッテリ54の放電可能電力Woutは、バッテリ54の出力電力の制限を規定する出力可能電力である。バッテリ54の充電可能電力Winや放電可能電力Woutは、例えばバッテリ温度THbat及びバッテリ54の充電量に相当する充電状態値SOC[%]に基づいて電子制御装置90により算出される。バッテリ54の充電状態値SOCは、バッテリ54の充電状態を示す値であり、例えばバッテリ充放電電流Ibat及びバッテリ電圧Vbatなどに基づいて電子制御装置90により算出される。
【0062】
ハイブリッド制御部94は、例えば無段変速部20を無段変速機として作動させて複合変速機40全体として無段変速機として作動させる場合、最適エンジン動作点等を考慮して、要求駆動パワーPrdemを実現するエンジンパワーPeが得られるエンジン回転速度NeとエンジントルクTeとなるように、エンジン12を制御すると共に第1回転機MG1の発電電力Wgを制御することで、無段変速部20の無段変速制御を実行して無段変速部20の変速比γ0を変化させる。この制御の結果として、無段変速機として作動させる場合の複合変速機40の変速比γt(=Ne/No)が制御される。最適エンジン動作点は、例えば要求エンジンパワーPedemを実現するときに、エンジン12単体の燃費にバッテリ54における充放電効率等を考慮した車両10におけるトータル燃費が最も良くなるエンジン動作点として予め定められている。このエンジン動作点は、エンジン回転速度NeとエンジントルクTeとで表されるエンジン12の運転点である。このように、動力伝達装置16では、ATギヤ段が形成された有段変速部22と無段変速機として作動させられる無段変速部20とで、無段変速部20と有段変速部22とが直列に配置された複合変速機40全体として無段変速機を構成することができる。
【0063】
又は、無段変速部20を有段変速機のように変速させることも可能であるので、動力伝達装置16では、ATギヤ段が形成される有段変速部22と有段変速機のように変速させる無段変速部20とで、複合変速機40全体として有段変速機のように変速させることができる。つまり、複合変速機40では、エンジン回転速度Neの出力回転速度Noに対する比の値を表す変速比γtが異なる複数のギヤ段を選択的に成立させるように、有段変速部22と無段変速部20とを制御することが可能である。本実施例では、複合変速機40にて成立させられるギヤ段を模擬ギヤ段と称する。変速比γtは、直列に配置された、無段変速部20と有段変速部22とで形成されるトータル変速比であって、無段変速部20の変速比γ0と有段変速部22の変速比γatとを乗算した値(γt=γ0×γat)となる。
【0064】
模擬ギヤ段は、例えば有段変速部22の各ATギヤ段と1又は複数種類の無段変速部20の変速比γ0との組合せによって、有段変速部22の各ATギヤ段に対してそれぞれ1又は複数種類を成立させるように割り当てられる。例えば、AT1速ギヤ段に対して模擬1速ギヤ段-模擬3速ギヤ段が成立させられ、AT2速ギヤ段に対して模擬4速ギヤ段-模擬6速ギヤ段が成立させられ、AT3速ギヤ段に対して模擬7速ギヤ段-模擬9速ギヤ段が成立させられ、AT4速ギヤ段に対して模擬10速ギヤ段が成立させられるように予め定められている。複合変速機40では、出力回転速度Noに対して所定の変速比γtを実現するエンジン回転速度Neとなるように無段変速部20が制御されることによって、あるATギヤ段において異なる模擬ギヤ段が成立させられる。又、複合変速機40では、ATギヤ段の切替えに合わせて無段変速部20が制御されることによって、模擬ギヤ段が切り替えられる。
【0065】
ハイブリッド制御部94は、例えば無段変速部20を有段変速機のように変速させて複合変速機40全体として有段変速機のように変速させる場合、予め定められた関係である例えば模擬ギヤ段変速マップを用いて複合変速機40の変速判断を行い、AT変速制御部92による有段変速部22のATギヤ段の変速制御と協調して、複数の模擬ギヤ段を選択的に成立させるように無段変速部20の変速制御を実行する。複数の模擬ギヤ段は、それぞれの変速比γtを維持できるように出力回転速度Noに応じて第1回転機MG1によりエンジン回転速度Neを制御することによって成立させることができる。各模擬ギヤ段の変速比γtは、出力回転速度Noの全域に亘って必ずしも一定値である必要はなく、所定領域で変化させても良いし、各部の回転速度の上限や下限等によって制限が加えられても良い。このように、ハイブリッド制御部94は、エンジン回転速度Neを有段変速のように変化させる変速制御が可能である。複合変速機40全体として有段変速機のように変速させる模擬有段変速制御は、例えば運転者によってスポーツ走行モード等の走行性能重視の走行モードが選択された場合や要求駆動トルクTrdemが比較的大きい場合に、複合変速機40全体として無段変速機として作動させる無段変速制御に優先して実行するだけでも良いが、所定の実行制限時を除いて基本的に模擬有段変速制御が実行されても良い。
【0066】
ハイブリッド制御部94は、走行モードとして、EV走行モード又はHV走行モードを走行状態に応じて選択的に成立させる。例えば、ハイブリッド制御部94は、予め定められた関係である例えば図4に示すような走行モード切替マップを用いて、要求駆動パワーPrdemが比較的小さなEV走行領域にある場合には、EV走行モードを成立させる一方で、要求駆動パワーPrdemが比較的大きなHV走行領域にある場合には、HV走行モードを成立させる。
【0067】
図4において、走行モード切替マップは、例えば車速V及び要求駆動力Frdemを変数とする二次元座標上に、HV走行モードとEV走行モードとを切り替える為のHV走行領域とEV走行領域との境界線を有する所定の関係である。上記境界線は、例えば一点鎖線に示すような、EV走行とHV走行との切替えが判断される為の予め定められた走行領域切替線CFである。走行モードの切替えでは走行に用いられる駆動力源が切り替えられることから、走行領域切替線CFは駆動力源切替線でもある。尚、図4では、便宜上、この走行モード切替マップをATギヤ段変速マップと共に示している。
【0068】
ハイブリッド制御部94は、要求駆動パワーPrdemがEV走行領域にあるときであっても、バッテリ54の充電状態値SOCが予め定められたエンジン始動閾値未満となる場合やエンジン12の暖機が必要な場合などには、HV走行モードを成立させる。前記エンジン始動閾値は、エンジン12を強制的に始動してバッテリ54を充電する必要がある充電状態値SOCであることを判断する為の予め定められた閾値である。
【0069】
ハイブリッド制御部94は、エンジン12の運転停止時にHV走行モードを成立させた場合には、エンジン12を始動するエンジン始動制御を行う。ハイブリッド制御部94は、エンジン12を始動するときには、例えば第1回転機MG1によりエンジン回転速度Neを上昇させつつ、エンジン回転速度Neが点火可能な所定点火可能回転速度以上となったときに点火することでエンジン12を始動する。すなわち、ハイブリッド制御部94は、第1回転機MG1によりエンジン12をクランキングすることでエンジン12を始動する。
【0070】
減速制御部96は、例えば運転者によるアクセル操作(例えばアクセル開度θacc、アクセル開度θaccの減少速度)、車速V、降坂路の勾配、ホイールブレーキを作動させる為の運転者によるブレーキ操作(例えばブレーキ操作量Bra、ブレーキ操作量Braの増大速度)などに基づいて要求減速量としての要求減速度Grdemを算出し、予め定められた関係を用いて要求減速度Grdemを実現する為の要求制動トルクTbdemを設定する。減速量は、減速度Gr、減速力、減速トルクなどで表すことができ、前記要求減速量としては、要求減速度Grdemの他に、要求減速力、要求減速トルク等を用いることもできる。本実施例では、減速量として減速度Grを用い、前記要求減速量として要求減速度Grdemを用いる。減速制御部96は、車両10の減速走行中には、要求制動トルクTbdemが得られるように車両10の制動トルクTbを発生させる。減速度Grが大きい側は、制動トルクTbが小さい側、すなわち制動トルクTbの絶対値が大きい側である。
【0071】
車両10の制動トルクTbは、例えば回生制動トルクTbr、ホイールブレーキトルクTbw、エンジンブレーキトルクTbeなどによって発生させられる。回生制動トルクTbrは、例えば第2回転機MG2の回生制御による制動すなわち第2回転機MG2による回生制動によって得られる制動トルクTbである。第2回転機MG2による回生制御は、駆動輪14から入力される被駆動トルクにより第2回転機MG2を回転駆動させて発電機として作動させ、その発電電力をインバータ52を介してバッテリ54へ充電する制御である。ホイールブレーキトルクTbwは、ホイールブレーキ装置86によるホイールブレーキによって得られる制動トルクTbである。エンジンブレーキトルクTbeは、エンジン12のフリクションによるエンジンブレーキによって得られる制動トルクTbである。
【0072】
車両10の制動トルクTbは、例えばエネルギー効率の向上の観点では、回生制動トルクTbrにて優先して発生させられる。減速制御部96は、回生制動トルクTbrに必要な回生トルクが得られるように第2回転機MG2による回生制御を実行する指令をハイブリッド制御部94へ出力する。エンジン12が回転中であるときには、エンジンブレーキが作用させられるので、エンジン回転速度Neに応じたエンジンブレーキトルクTbeが車両10の制動トルクTbとして発生させられる。回生制動トルクTbr及びエンジンブレーキトルクTbeは、駆動力源による制動トルクTb、すなわち駆動力源ブレーキトルクTbpである。
【0073】
減速制御部96は、例えば要求制動トルクTbdemの絶対値が比較的小さな場合には、専ら回生制動トルクTbrにて要求制動トルクTbdemを実現する。減速制御部96は、例えば要求制動トルクTbdemの絶対値が比較的大きな場合には、回生制動トルクTbrにホイールブレーキトルクTbwを加えて要求制動トルクTbdemを実現する。減速制御部96は、例えば車両10が停止する直前には、回生制動トルクTbrの分をホイールブレーキトルクTbwに置き換えて要求制動トルクTbdemを実現する。減速制御部96は、要求制動トルクTbdemを実現するのに必要となるホイールブレーキトルクTbwを得る為のブレーキ制御指令信号Sbraをホイールブレーキ装置86へ出力する。
【0074】
エンジン12が回転中であるときには、例えば回生制動トルクTbrにエンジンブレーキトルクTbeが加えられて要求制動トルクTbdemが実現させられる。エンジンブレーキトルクTbeを作用させる場合、例えば車速Vが同じであれば、複合変速機40の模擬ギヤ段が低車速側である程、エンジンブレーキトルクTbeの絶対値が大きくさせられる。減速制御部96は、エンジンブレーキトルクTbeを作用させる場合、例えば車速V、降坂路等の走行路の状況、要求制動トルクTbdemなどに基づいて、複合変速機40をダウンシフトする指令をAT変速制御部92やハイブリッド制御部94へ出力する。例えば、車両10の減速走行時に禁止される、複合変速機40の模擬ギヤ段が予め定められている。減速制御部96は、複合変速機40の模擬ギヤ段を禁止するフラグを高車速側から順次オンとすることで、複合変速機40をダウンシフトする指令を出力する。
【0075】
運転制御部98は、車両10の運転制御として、運転者の運転操作に基づいて走行する手動運転制御CTmと、運転者の運転操作に因らず車両10の運転を行う運転支援制御CTsと、を実行することが可能である。手動運転制御CTmは、運転者の運転操作による手動運転にて走行する運転制御である。その手動運転は、アクセル操作、ブレーキ操作、操舵操作などの運転者の運転操作によって車両10の通常走行を行う運転方法である。運転支援制御CTsは、例えば運転操作を自動的に支援する運転支援にて走行する運転制御である。その運転支援は、運転者の運転操作や意思に因らず、各種センサからの信号や情報等に基づく電子制御装置90による制御により加減速などを自動的に行うことによって車両10の走行を行う運転方法である。自動的に行われる加減速は、例えばアクセル操作、制動操作などによる加速走行、減速走行、定常走行である。
【0076】
運転支援制御CTsは、例えば運転者により入力された目的地や地図情報などに基づいて自動的に目標走行状態を設定し、その目標走行状態に基づいて加減速、操舵などを自動的に行う自動運転にて走行する自動運転制御などである。尚、運転支援制御CTsは、少なくとも加減速を自動的に行うことによって車両10の運転を行う運転制御であれば良く、運転支援制御CTsには、自動運転制御以外に、操舵操作などの一部の運転操作を運転者が行う自動車速制御などを含めても良い。前記自動車速制御は、例えば運転者により設定された目標車速Vtgtへ車速Vを追従させたり、運転者により設定された先行車との車間距離を維持させるように、制動トルクTbを含む駆動トルクTrを制御するクルーズ制御としての公知の車間距離制御(ACC(Adaptive Cruise Control))である。又は、前記自動車速制御は、例えば車速Vが運転者により設定された目標車速Vtgtを超えないように駆動力Frを制御する公知の自動車速制限制御(ASL(Adjustable Speed Limiter))である。要は、運転支援制御CTsは、車両周辺情報Iardなどに基づいて少なくとも車速Vを自動的に制御して車両10の運転を行う運転制御である。
【0077】
運転制御部98は、運転支援設定スイッチ群84における自動運転選択スイッチやクルーズスイッチなどがオフとされて運転支援による運転が選択されていない場合には、手動運転モードを成立させて手動運転制御CTmを実行する。運転制御部98は、例えば運転者の操作等に応じて加減速を行うように、有段変速部22、エンジン12、第1回転機MG1、第2回転機MG2、及びホイールブレーキ装置86を各々制御する指令を、AT変速制御部92、ハイブリッド制御部94、及び減速制御部96に出力することで手動運転制御CTmを実行する。
【0078】
運転制御部98は、運転者によって運転支援設定スイッチ群84における自動運転選択スイッチが操作されて自動運転制御が選択されている場合には、自動運転モードを成立させて自動運転制御を実行する。具体的には、運転制御部98は、運転者により入力された目的地、位置情報Ivpに基づく自車位置情報、ナビ情報Inaviなどに基づく地図情報、及び車両周辺情報Iardに基づく走行路における各種情報等に基づいて、自動的に目標走行状態を設定する。運転制御部98は、設定した目標走行状態に基づいて加減速と操舵とを自動的に行うように、有段変速部22、エンジン12、第1回転機MG1、第2回転機MG2、及びホイールブレーキ装置86を各々制御する指令を、AT変速制御部92、ハイブリッド制御部94、及び減速制御部96に出力することに加え、前輪の操舵を制御する為の操舵制御指令信号Ssteを操舵装置88に出力することで自動運転制御を行う。
【0079】
又は、運転制御部98は、運転者によって運転支援設定スイッチ群84におけるクルーズスイッチが操作されてACC(=アダプティブクルーズコントロール)が選択されている場合には、ACCモードを成立させてACCを実行する。具体的には、運転制御部98は、運転者により設定された目標車速Vtgtや先行車との車間距離に基づいて加減速を自動的に行うように、有段変速部22、エンジン12、第1回転機MG1、第2回転機MG2、及びホイールブレーキ装置86を各々制御する指令を、AT変速制御部92、ハイブリッド制御部94、及び減速制御部96に出力する。ハイブリッド制御部94又は減速制御部96は、運転者により設定された目標車速Vtgtや先行車との車間距離に基づいてACCにおける要求トルクであるACC要求トルクTaccdemを設定する。ハイブリッド制御部94、減速制御部96などは、ACC要求トルクTaccdemを実現する加減速を自動的に行う。ACC要求トルクTaccdemが負の値となる制動時は、ACC要求トルクTaccdemが要求制動トルクTbdemとなる。
【0080】
ところで、運転支援制御CTsによる走行中は、手動運転制御CTmによる走行中に比べて、運転者はNV、エンジン回転速度Neの変化、変速ショックなどを感じ易い。その為、運転支援制御CTsによる走行中における減速時に、要求減速度Grdemを実現する為に複合変速機40がダウンシフトされてエンジン回転速度Neが上昇させられると、NVが悪化してドライバビリティーが悪化する可能性がある。又は、運転支援制御CTsによる走行中における減速時に、要求減速度Grdemの増減によって複合変速機40のダウンシフトとアップシフトとが繰り返されるビジーシフトが生じると、エンジン回転速度の変化や変速ショックが発生してドライバビリティーが悪化する可能性がある。
【0081】
そこで、減速制御部96は、運転支援制御CTsによる走行中における減速時に、第2回転機MG2による回生制動を行うと共に、車両10に対する要求減速度Grdemが所定減速度Grf以下である場合には、複合変速機40のダウンシフトを制限する一方で、要求減速度Grdemが所定減速量としての所定減速度Grfより大きい場合には、複合変速機40のダウンシフトを制限しないことによって、車両10の減速度Grを制御する。
【0082】
所定減速度Grfは、例えば予め定められた、第2回転機MG2による回生制動によって実現できる減速度Grの最大値である。又、所定減速度Grfは、例えば予め定められた、シフトレバーの操作ポジションPOSshがD操作ポジションであるときに実現できる減速度Grの最大値でもある。つまり、所定減速度Grfは、例えば駆動要求量マップにおいてアクセル開度θaccのゼロを適用したときの要求制動トルクTbdemにて実現できる減速度Grである。本実施例では、所定減速度Grfを実現する為の制動トルクTbを、D駆動力源ブレーキトルクTbpDと称する。D操作ポジションは、複合変速機40の前進走行ポジション(=Dポジション)を選択する前進走行操作ポジションである。複合変速機40のDポジションは、複合変速機40の自動変速制御を実行して車両10の前進走行を可能とする複合変速機40のシフトポジションである。
【0083】
電子制御装置90は、運転支援制御CTsによる走行中における減速時に、要求減速度Grdemを実現しつつドライバビリティーの悪化を抑制するという制御機能を実現する為に、更に、状態判定手段すなわち状態判定部99を備えている。
【0084】
状態判定部99は、運転支援制御CTsによる走行中であるか否かを判定する。状態判定部99は、運転支援制御CTsによる走行中であると判定した場合には、減速時であるか否かを判定する。例えば、ACCによる走行中である場合には、状態判定部99は、ACC要求トルクTaccdemが負の値であるか否かに基づいて、又は、ACC要求トルクTaccdemとして負の値が設定されてACC要求トルクTaccdemが設定された負の値に向けて低下させられているか否かに基づいて、減速時であるか否かを判定する。
【0085】
状態判定部99は、運転支援制御CTsによる走行中であって、減速時であると判定した場合には、減速の状態が緩い減速すなわち緩減速であるか否かを判定する。状態判定部99は、要求減速度Grdemが所定減速度Grf以下となる緩い減速であるか否かに基づいて、減速の状態が緩減速であるか否かを判定する。例えば、ACCによる走行中である場合には、状態判定部99は、ACC要求トルクTaccdemがD駆動力源ブレーキトルクTbpD以上であるか否かに基づいて、減速の状態が緩減速であるか否かを判定する。つまり、状態判定部99は、負の値となったACC要求トルクTaccdemの絶対値がD駆動力源ブレーキトルクTbpDの絶対値以下であるか否かに基づいて、減速の状態が緩減速であるか否かを判定する。
【0086】
減速制御部96は、状態判定部99により、運転支援制御CTsによる走行中であって、減速時であると判定されたときに、減速の状態が緩減速であると判定された場合には、複合変速機40のダウンシフトを制限する。特には、減速制御部96は、複合変速機40のダウンシフトを禁止することで、複合変速機40のダウンシフトを制限する。減速制御部96は、運転支援制御CTsによる走行中における減速の状態が緩減速であるときには、複合変速機40のダウンシフトによるエンジンブレーキトルクTbeの絶対値の増大を行わず、回生制動トルクTbrによって要求減速度Grdemを実現する。
【0087】
減速制御部96は、状態判定部99により、運転支援制御CTsによる走行中であって、減速時であると判定されたときに、減速の状態が急減速であると判定された場合には、複合変速機40のダウンシフトを制限しない。上記急減速は、要求減速度Grdemが所定減速度Grfよりも大きくなる急な減速である。減速制御部96は、運転支援制御CTsによる走行中における減速の状態が急減速であるときには、必要に応じて複合変速機40のダウンシフトによってエンジンブレーキトルクTbeの絶対値を増大しつつ、回生制動トルクTbrによって要求減速度Grdemを実現する。
【0088】
運転支援制御CTsによる走行中であっても運転者による運転操作が為された場合には、手動運転制御CTmによる走行中と同様に、運転者はNV、エンジン回転速度Neの変化、変速ショックなどを感じ難い。その為、運転支援制御CTsによる走行中における減速時において、要求減速度Grdemに運転者の操作に伴う要求減速度Grdemが含まれている場合には、複合変速機40のダウンシフトを制限する必要はない。つまり、要求減速度Grdemが運転支援制御CTsによって為された要求減速度Grdemのみの場合に、複合変速機40のダウンシフトを制限するか否かを判断すれば良い。
【0089】
減速制御部96は、運転支援制御CTsによる走行中における要求減速度Grdemに運転者の操作に伴う要求減速度Grdemが含まれていないときに、要求減速度Grdemに基づく複合変速機40のダウンシフトを制限するかしないかの切替えを行う。運転者の操作に伴う要求減速度Grdemは、例えば運転者によるブレーキ操作に基づく要求減速度Grdem、運転者が目標車速Vtgtの設定を低くしたことによる要求減速度Grdem、運転者が先行車との車間距離の設定を長くしたことによる要求減速度Grdemなどである。
【0090】
運転支援制御CTsによる走行中にホイールブレーキ装置86によるホイールブレーキが作用させられた場合、複合変速機40のダウンシフトによってエンジンブレーキトルクTbeの絶対値を増大することに比べて速やかに大きな減速度Grが得られる。そこで、運転支援制御CTsによる走行中における要求減速度Grdemは、第2回転機MG2による回生制動やエンジンブレーキによって実現する分の減速度Grとする。そして、減速制御部96は、運転支援制御CTsによる走行中における減速時に、要求減速度Grdemが所定減速度Grfより大きい状態でホイールブレーキによって減速度Grを増大した場合には、複合変速機40のダウンシフトが制限されるように、要求減速度Grdemを所定減速度Grf以下に設定する。例えば、減速制御部96は、ACCによる走行中における減速時に、ホイールブレーキによって減速度Grを増大した場合には、ACC要求トルクTaccdemをD駆動力源ブレーキトルクTbpD以上に設定する。運転支援制御CTsによる走行中にホイールブレーキが作用させられた場合とは、例えば先行車が急制動したことでホイールブレーキトルクTbwが必要になった場合である。又は、運転支援制御CTsによる走行中にホイールブレーキが作用させられた場合とは、例えば先行車との間に別の車両が割り込んだことで新たな先行車を検知し、ホイールブレーキトルクTbwが必要になった場合である。
【0091】
図5は、電子制御装置90の制御作動の要部を説明するフローチャートであって、運転支援制御CTsによる走行中における減速時に要求減速度Grdemを実現しつつドライバビリティーの悪化を抑制する為の制御作動を説明するフローチャートであり、例えば繰り返し実行される。図6図7図8は、各々、図5のフローチャートに示す制御作動を実行した場合のタイムチャートの一例を示す図である。
【0092】
図5において、先ず、状態判定部99の機能に対応するステップ(以下、ステップを省略する)S10において、運転支援制御CTsによる走行中であるか否かが判定される。このS10の判断が否定される場合は運転制御部98などの機能に対応するS20において、手動運転制御CTmにおける通常制御によって、加速走行や定常走行や減速走行などが行われる。上記S10の判断が肯定される場合は状態判定部99の機能に対応するS30において、減速時であるか否かが判定される。このS30の判断が否定される場合は運転制御部98などの機能に対応するS40において、運転支援制御CTsによる加速走行や定常走行が行われる。上記S30の判断が肯定される場合は状態判定部99の機能に対応するS50において、減速の状態が緩減速であるか否かが判定される。このS50の判断が肯定される場合は減速制御部96の機能に対応するS60において、複合変速機40のダウンシフトが禁止され、回生制動トルクTbrによって要求減速度Grdemが実現させられる。このS60では、複合変速機40のダウンシフトによるエンジンブレーキトルクTbeの絶対値の増大が行われないということであり、エンジンブレーキトルクTbe自体は付与されても良い。上記S50の判断が否定される場合は減速制御部96の機能に対応するS70において、複合変速機40のダウンシフトが制限されず、必要に応じて複合変速機40のダウンシフトによってエンジンブレーキトルクTbeの絶対値が増大されつつ、回生制動トルクTbrによって要求減速度Grdemが実現させられる。
【0093】
図6は、ACCによる走行中に緩減速が行われた場合の一例を示している。図6において、t1a時点は、ACCによる走行中にACC要求トルクTaccdemが低下させられて減速が開始させられた時点を示している。破線で示す比較例では、減速開始後、複合変速機40の模擬ギヤ段が高車速側から順次禁止されて、複合変速機40がダウンシフトさせられる。その為、比較例では、複合変速機40のダウンシフトに伴ってエンジン回転速度Neが上昇させられ、NVが悪化させられる。実線で示す本実施例では、ACC要求トルクTaccdemがD駆動力源ブレーキトルクTbpD以上であるので、減速開始後も、複合変速機40の高車速側の模擬ギヤ段が禁止されず、複合変速機40がダウンシフトされない。よって、本実施例では、緩減速時のエンジン回転速度Neの上昇が抑えられ、NVの悪化が抑制される。
【0094】
図7は、ACCによる走行中に急減速が行われた場合の一例を示している。図7において、t1b時点は、ACCによる走行中にACC要求トルクTaccdemが低下させられて減速が開始させられた時点を示している。破線で示す比較例では、減速開始後、ACC要求トルクTaccdemがD駆動力源ブレーキトルクTbpDよりも小さくなる前から、複合変速機40の模擬ギヤ段が高車速側から順次禁止されて、複合変速機40がダウンシフトさせられる。実線で示す本実施例では、減速開始後、ACC要求トルクTaccdemがD駆動力源ブレーキトルクTbpDよりも小さくなってから、複合変速機40の模擬ギヤ段が高車速側から順次禁止されて、複合変速機40がダウンシフトさせられる(t2b時点以降参照)。よって、本実施例では、ACC要求トルクTaccdemがD駆動力源ブレーキトルクTbpDよりも小さくされるまでは複合変速機40がダウンシフトされず、エンジン回転速度Neの上昇が抑えられる。又、本実施例では、ACC要求トルクTaccdemがD駆動力源ブレーキトルクTbpDよりも小さくされれば複合変速機40がダウンシフトされてエンジンブレーキトルクTbeの絶対値が増大させられるので、急減速時の要求減速度Grdemが適切に実現させられる。尚、ACC要求トルクTaccdemが大きくされると、複合変速機40の模擬ギヤ段の禁止が低車速側から順次解除される。
【0095】
図8は、ACCによる走行中に急減速が行われているときにホイールブレーキが作用させられた場合の一例を示している。図8において、t1c時点は、ACCによる走行中にACC要求トルクTaccdemが低下させられて減速が開始させられた時点を示している。破線で示す比較例と実線で示す本実施例とでは、各々、先行車が検知されて(t2c時点参照)、ホイールブレーキトルクTbwが付与されるまでの作動は図7と同様である。比較例と本実施例とでは共に、ACC要求トルクTaccdemがD駆動力源ブレーキトルクTbpDより小さい状態でホイールブレーキトルクTbwが付与されると、ACC要求トルクTaccdemがD駆動力源ブレーキトルクTbpDに設定される(t3c時点以降参照)。
【0096】
上述のように、本実施例によれば、運転支援制御CTsによる走行中における減速時に、第2回転機MG2による回生制動が行われると共に、要求減速度Grdemが所定減速度Grf以下である場合には、複合変速機40のダウンシフトが制限される一方で、要求減速度Grdemが所定減速度Grfより大きい場合には、複合変速機40のダウンシフトが制限されないことによって、車両10の減速度Grが制御されるので、緩減速走行時には、エンジン回転速度Neの上昇に伴うNV悪化が抑制されたり、ビジーシフトが抑制され、急減速走行時には、ダウンシフトによって大きな減速度Grが得られ易くされる。よって、運転支援制御CTsによる走行中における減速時に、要求減速度Grdemを実現しつつドライバビリティーの悪化を抑制することができる。
【0097】
また、本実施例によれば、所定減速度Grfは、第2回転機MG2による回生制動によって実現できる減速度Grの最大値であるので、緩減速走行時には、複合変速機40のダウンシフトが制限されても回生制動によって要求減速度Grdemを実現することができる。
【0098】
また、本実施例によれば、複合変速機40のダウンシフトが禁止されることで複合変速機40のダウンシフトが制限されるので、緩減速走行時には、エンジン回転速度Neの上昇に伴うNV悪化が確実に抑制されたり、ビジーシフトが確実に抑制される。
【0099】
また、本実施例によれば、運転支援制御CTsによる走行中における要求減速度Grdemに運転者の操作に伴う要求減速度Grdemが含まれていないときに、要求減速度Grdemに基づく複合変速機40のダウンシフトを制限するかしないかの切替えが行われるので、減速走行時に運転者のブレーキ操作や車速Vを低下させる操作などが行われていないときには、NV悪化やビジーシフトが抑制され易くされる。
【0100】
また、本実施例によれば、運転支援制御CTsによる走行中における減速時に、第2回転機MG2による回生制動やエンジンブレーキによって実現する要求減速度Grdemが所定減速度Grfより大きい状態でホイールブレーキによって減速度Grを増大した場合には、要求減速度Grdemが所定減速度Grf以下に設定されるので、複合変速機40のダウンシフトが抑制され、ホイールブレーキによって応答性良く大きな減速度Grが発生させられる。
【0101】
また、本実施例によれば、運転支援制御CTsは、車両周辺情報Iardに基づいて少なくとも車速Vを自動的に制御して車両10の運転を行う運転制御であるので、運転支援制御CTsによる走行中における減速時に、要求減速度Grdemが適切に実現させられ、車速Vが適切に制御される。
【0102】
次に、本発明の他の実施例を説明する。なお、以下の説明において実施例相互に共通する部分には同一の符号を付して説明を省略する。
【実施例2】
【0103】
図9は、本発明が適用される車両100の概略構成を説明する図である。車両100は、前述の実施例1の車両10とは別の実施例である。
【0104】
図9において、車両100の電気式無段変速部102は、車両10の無段変速部20と比べて、更に、ブレーキB0とクラッチC0とを備えている。ブレーキB0はサンギヤS0とケース18との間に設けられ、クラッチC0はサンギヤS0とキャリアCA0との間に設けられている。
【0105】
電気式無段変速部102は、クラッチC0及びブレーキB0が共に解放されると、無段変速部20と同様に、電気式無段変速機とされる。一方で、電気式無段変速部102は、クラッチC0又はブレーキB0が係合されると、差動作用が不能な非差動状態とされる。クラッチC0が係合される非差動状態では、電気式無段変速部102は変速比γ0が「1」に固定された変速機として機能する有段変速状態とされる。ブレーキB0が係合される非差動状態では、電気式無段変速部102は変速比γ0が「1」より小さい値に固定された増速変速機として機能する有段変速状態とされる。
【0106】
車両100の機械式有段変速部104は、車両10の有段変速部22と同様に、複数組の遊星歯車装置と複数の係合装置とを備えた、公知の遊星歯車式の自動変速機である。
【0107】
電気式無段変速部102と機械式有段変速部104とを合わせた全体の変速機である複合変速機106は、車両10の複合変速機40と同様に、エンジン12と駆動輪14との間の動力伝達経路の一部を構成する自動変速機である。複合変速機106では、クラッチC0及びブレーキB0の何れも係合させないことで、複合変速機40と同様の作動をさせることができる。複合変速機106では、クラッチC0及びブレーキB0の何れかを係合させることで、複合変速機106全体の変速比γtが異なる複数のギヤ段が形成される有段変速機として作動をさせることができる。
【0108】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はその他の態様においても適用される。
【0109】
例えば、前述の実施例では、運転支援制御CTsによる走行中において要求減速度Grdemが所定減速度Grf以下である場合には、複合変速機40のダウンシフトを禁止したが、エンジンブレーキトルクTbe自体は付与されても良いとした。ここで、無段変速部20では、例えば第1回転機MG1を無負荷状態として負回転にて空転させることで、エンジン回転速度Neをゼロに維持することができる。従って、運転支援制御CTsによる走行中において要求減速度Grdemが所定減速度Grf以下であるときに、複合変速機40のダウンシフトを禁止する場合には、エンジンブレーキを作用させないことも可能である。つまり、減速制御部96は、要求減速度Grdemが所定減速度Grf以下である場合には、エンジンブレーキを作用させず、第2回転機MG2による回生制動によって減速度Grを発生させる一方で、要求減速度Grdemが所定減速度Grfより大きい場合には、エンジンブレーキと第2回転機MG2による回生制動とによって減速度Grを発生させる。要求減速度Grdemが所定減速度Grf以下である場合には、エンジンブレーキが作用させられず、第2回転機MG2による回生制動によって減速度Grが発生させられるので、緩減速走行時には、複合変速機40のダウンシフトが禁止されても要求減速度Grdemを実現することができる。又、専ら第2回転機MG2による回生制動によって制動トルクTbが得られるので、エネルギー効率が向上させられる。一方で、要求減速度Grdemが所定減速度Grfより大きい場合には、エンジンブレーキと第2回転機MG2による回生制動とによって減速度Grが発生させられるので、急減速走行時には、複合変速機40のダウンシフトによってエンジン12のフリクションを増大させることで要求減速度Grdemを実現することができる。
【0110】
また、前述の実施例では、複合変速機40のダウンシフトを禁止することで、複合変速機40のダウンシフトを制限したが、この態様に限らない。例えば、複合変速機40のダウンシフトを二回行うところを一回にしたり、複合変速機40のダウンシフトを三回行うところを一回にしたりすることで、複合変速機40のダウンシフトを制限しても良い。このようにしても、緩減速走行時には、エンジン回転速度Neの上昇に伴うNV悪化が抑制されたり、ビジーシフトが抑制されるという一定の効果は得られる。
【0111】
また、前述の実施例において、無段変速部20は、キャリアCA0を回転不能に固定することができるロック機構を備えていても良い。このロック機構は、例えば連結軸30をケース18に対して固定することができるワンウェイクラッチである。又は、このロック機構は、例えば連結軸30とケース18とを選択的に連結することができる、噛合式クラッチ、クラッチやブレーキなどの油圧式摩擦係合装置、乾式の係合装置、電磁式摩擦係合装置、磁粉式クラッチなどの係合装置である。又、差動機構34は、ダブルピニオン型の遊星歯車装置であっても良い。又、差動機構34は、複数の遊星歯車装置が相互に連結されることで4つ以上の回転要素を有する差動機構であっても良い。又、差動機構34は、エンジン12によって回転駆動されるピニオンと、そのピニオンに噛み合う一対のかさ歯車に第1回転機MG1及び中間伝達部材32が各々連結された差動歯車装置であっても良い。又、差動機構34は、2以上の遊星歯車装置がそれを構成する一部の回転要素で相互に連結された構成において、その遊星歯車装置の回転要素にそれぞれエンジン、回転機、駆動輪が動力伝達可能に連結される機構であっても良い。
【0112】
また、前述の実施例では、4種類のATギヤ段に対して10種類の模擬ギヤ段を割り当てる実施態様を例示したが、この態様に限らない。好適には、模擬ギヤ段の段数はATギヤ段の段数以上であれば良く、ATギヤ段の段数と同じであっても良いが、ATギヤ段の段数よりも多いことが望ましく、例えば2倍以上が適当である。ATギヤ段の変速は、中間伝達部材32やその中間伝達部材32に連結される第2回転機MG2の回転速度が所定の回転速度範囲内に保持されるように行なうものであり、又、模擬ギヤ段の変速は、エンジン回転速度Neが所定の回転速度範囲内に保持されるように行なうものであり、それら各々の段数は適宜定められる。
【0113】
また、前述の実施例では、本発明が適用される車両として、複合変速機40を備える車両10や複合変速機106を備える車両100を例示したが、車両10や車両100に限らず、自動変速機を単独で備える車両であっても、本発明を適用することができる。要は、エンジンと、前記エンジンと駆動輪との間の動力伝達経路の一部を構成する自動変速機と、前記駆動輪に動力伝達可能に連結された回転機と、を備えた車両であれば、本発明を適用することができる。上記自動変速機は、例えば無段変速部20を単独で備える自動変速機、有段変速部22を単独で備える自動変速機、公知のDCT(Dual Clutch Transmission)を含む同期噛合型平行2軸式自動変速機、公知のベルト式無段変速機などである。又、上記回転機は、自動変速機を介して駆動輪に動力伝達可能に連結されても良いし、自動変速機を介することなく駆動輪に動力伝達可能に連結されても良い。又は、上記回転機は、エンジンの駆動力が伝達される駆動輪(例えば後輪)とは別の駆動輪(例えば前輪)に動力伝達可能に連結されても良い。この場合、上記車両は、四輪駆動車両である。
【0114】
尚、上述したのはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。
【符号の説明】
【0115】
10:車両
12:エンジン
14:駆動輪
40:複合変速機(自動変速機)
90:電子制御装置(制御装置)
96:減速制御部
98:運転制御部
100:車両
106:複合変速機(自動変速機)
MG2:第2回転機(回転機)
図1
図2
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図9