(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-20
(45)【発行日】2023-11-29
(54)【発明の名称】撥液性構造体及びその製造方法並びに包装材及び剥離シート
(51)【国際特許分類】
B32B 27/18 20060101AFI20231121BHJP
B32B 27/20 20060101ALI20231121BHJP
B32B 27/30 20060101ALI20231121BHJP
B05D 5/06 20060101ALI20231121BHJP
B05D 7/24 20060101ALI20231121BHJP
B05D 1/36 20060101ALI20231121BHJP
B65D 65/40 20060101ALI20231121BHJP
【FI】
B32B27/18 Z
B32B27/20 Z
B32B27/30 D
B05D5/06 104G
B05D7/24 303J
B05D7/24 302L
B05D1/36 Z
B65D65/40 D
(21)【出願番号】P 2020525634
(86)(22)【出願日】2019-06-12
(86)【国際出願番号】 JP2019023362
(87)【国際公開番号】W WO2019244752
(87)【国際公開日】2019-12-26
【審査請求日】2022-05-25
(31)【優先権主張番号】P 2018117094
(32)【優先日】2018-06-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018173407
(32)【優先日】2018-09-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019018922
(32)【優先日】2019-02-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019018919
(32)【優先日】2019-02-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019064067
(32)【優先日】2019-03-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100169063
【氏名又は名称】鈴木 洋平
(72)【発明者】
【氏名】加藤 了嗣
(72)【発明者】
【氏名】木下 廣介
(72)【発明者】
【氏名】鈴田 昌由
(72)【発明者】
【氏名】関川 未奈
【審査官】馳平 憲一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/106922(WO,A1)
【文献】特開2008-007680(JP,A)
【文献】特開2017-074778(JP,A)
【文献】特開2015-209493(JP,A)
【文献】国際公開第2017/159654(WO,A1)
【文献】国際公開第03/011991(WO,A1)
【文献】特開2006-143866(JP,A)
【文献】国際公開第2016/181676(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B1/00-43/00
B05D1/00-7/26
C08J7/04-7/06
C09D1/00-10/00
C09D101/00-201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
撥液性を付与すべき表面と、前記表面上に形成された撥液層とを備える撥液性構造体であって、
前記撥液層が平均粒子径0.1~6μmの鱗片状フィラーと、熱可塑性樹脂と、フッ素化合物とを含むとともに、前記鱗片状フィラーを含む凝集体を有し、
前記撥液層に含まれる前記鱗片状フィラーの質量W
S1と、前記撥液層に含まれる前記熱可塑性樹脂の質量W
Pと前記フッ素化合物の質量W
FCの合計(W
P+W
FC)との比W
S1/(W
P+W
FC)が0.1~10であ
り、
前記撥液層が平均粒子径5~1000nmの第2フィラーを更に含み、
前記撥液層に含まれる前記鱗片状フィラーの質量W
S1
と前記第2フィラーの質量W
S2
の合計(W
S1
+W
S2
)と、前記撥液層に含まれる前記熱可塑性樹脂の質量W
P
と前記フッ素化合物の質量W
FC
の合計(W
P
+W
FC
)との比(W
S1
+W
S2
)/(W
P
+W
FC
)が0.1~10であり、
前記撥液層が平均粒子径10~100μmの第3フィラーを更に含み、
前記撥液層に含まれる前記鱗片状フィラーの質量W
S1
と前記第2フィラーの質量W
S2
と前記第3フィラーの質量W
S3
の合計(W
S1
+W
S2
+W
S3
)と、前記撥液層に含まれる前記熱可塑性樹脂の質量W
P
と前記フッ素化合物の質量W
FC
の合計(W
P
+W
FC
)との比(W
S1
+W
S2
+W
S3
)/(W
P
+W
FC
)が0.1~10であり、
前記フッ素化合物が、パーフルオロアルキル、パーフルオロアルケニル及びパーフルオロポリエーテルからなる群から選ばれる構造を有する化合物である、撥液性構造体。
【請求項2】
撥液性を付与すべき表面と、前記表面上に形成された撥液層とを備える撥液性構造体であって、
前記撥液層が平均粒子径0.1~6μmの鱗片状フィラーと、熱可塑性樹脂と、フッ素化合物とを含むとともに、前記鱗片状フィラーを含む凝集体を有し、
前記撥液層に含まれる前記鱗片状フィラーの質量W
S1
と、前記撥液層に含まれる前記熱可塑性樹脂の質量W
P
と前記フッ素化合物の質量W
FC
の合計(W
P
+W
FC
)との比W
S1
/(W
P
+W
FC
)が0.1~10であり、
前記撥液層が平均粒子径10~100μmの第3フィラーを更に含み、
前記撥液層に含まれる前記鱗片状フィラーの質量W
S1と前記第3フィラーの質量W
S3の合計(W
S1+W
S3)と、前記撥液層に含まれる前記熱可塑性樹脂の質量W
Pと前記フッ素化合物の質量W
FCの合計(W
P+W
FC)との比(W
S1+W
S3)/(W
P+W
FC)が0.1~10であ
り、
前記フッ素化合物が、パーフルオロアルキル、パーフルオロアルケニル及びパーフルオロポリエーテルからなる群から選ばれる構造を有する化合物である、撥液性構造体。
【請求項3】
前記フッ素化合物が、
N-ビニル-2-ピロリドン、N-ビニル-3-メチル-2-ピロリドン、N-ビニル-5-メチル-2-ピロリドン及びN-ビニル-3,3-ジメチル-2-ピロリドンからなる群から選ばれる化合物に由来する構造単位を含まない、請求項1
又は2に記載の撥液性構造体。
【請求項4】
撥液性を付与すべき表面と、前記表面上に形成された撥液層とを備える撥液性構造体であって、
前記撥液層が平均粒子径0.1~6μmの鱗片状フィラーと、平均粒子径10~100μmの第3フィラーと、熱可塑性樹脂と、フッ素化合物とを含むとともに、前記鱗片状フィラーを含む凝集体を有し、
前記撥液層を法線方向から見たとき、前記第3フィラーが占有する面積A
3と前記撥液層の面積Aの比A
3/Aが0.25~0.95であ
り、
前記フッ素化合物が、パーフルオロアルキル、パーフルオロアルケニル及びパーフルオロポリエーテルからなる群から選ばれる構造を有する化合物である、撥液性構造体。
【請求項5】
前記撥液層に含まれる前記鱗片状フィラーの質量W
S1と前記第3フィラーの質量W
S3の比W
S3/W
S1が1.0~20.0である、請求項
1~4のいずれか一項に記載の撥液性構造体。
【請求項6】
前記撥液層に含まれる前記鱗片状フィラーの質量W
S1と前記第3フィラーの質量W
S3の合計(W
S1+W
S3)と、前記撥液層に含まれる前記熱可塑性樹脂の質量W
Pと前記フッ素化合物の質量W
FCの合計(W
P+W
FC)との比(W
S1+W
S3)/(W
P+W
FC)が0.1~10.0である、請求項
5に記載の撥液性構造体。
【請求項7】
前記撥液層が、平均粒子径5~1000nmの第2フィラーを更に含む、請求項
4~
6のいずれか一項に記載の撥液性構造体。
【請求項8】
撥液性を付与すべき表面と、前記表面上に形成された撥液層とを備える撥液性構造体であって、
前記撥液層が、フィラーと、フッ素化合物と、前記フッ素化合物と反応する官能基を有する架橋剤とを含有する撥液層形成用組成物の硬化物を含み、
前記架橋剤が、前記官能基としてアジリジン基、イソシアネート基及びカルボジイミド基からなる群より選択される少なくとも一種の基を有し、
前記フッ素化合物が、パーフルオロアルキル、パーフルオロアルケニル及びパーフルオロポリエーテルからなる群から選ばれる構造を有する化合物である、撥液性構造体。
【請求項9】
撥液性を付与すべき表面と、前記表面上に形成された撥液層とを備える撥液性構造体であって、
前記撥液層が、フィラーと、フッ素化合物と、前記フッ素化合物と反応する官能基を有する架橋剤とを含有する撥液層形成用組成物の硬化物を含み、
前記フィラーが平均粒子径0.1~6μmの鱗片状フィラーを含み、前記撥液層が前記鱗片状フィラーの凝集体を含
み、
前記フッ素化合物が、パーフルオロアルキル、パーフルオロアルケニル及びパーフルオロポリエーテルからなる群から選ばれる構造を有する化合物である、撥液性構造体。
【請求項10】
撥液性を付与すべき表面と、前記表面上に形成された撥液層とを備える撥液性構造体であって、
前記撥液層が、フィラーと、フッ素化合物と、前記フッ素化合物と反応する官能基を有する架橋剤とを含有する撥液層形成用組成物の硬化物を含み、
前記フィラーが平均粒子径10~100μmの第3フィラーを含
み、
前記フッ素化合物が、パーフルオロアルキル、パーフルオロアルケニル及びパーフルオロポリエーテルからなる群から選ばれる構造を有する化合物である、撥液性構造体。
【請求項11】
前記フィラーが平均粒子径5~1000nmの第2フィラーを含む、請求項
8~
10のいずれか一項に記載の撥液性構造体。
【請求項12】
前記撥液層形成用組成物が熱可塑性樹脂を更に含む、請求項
8~
11のいずれか一項に記載の撥液性構造体。
【請求項13】
前記撥液層形成用組成物に含まれる前記フィラーの質量W
Sと、前記撥液層形成用組成物に含まれる前記フッ素化合物の質量W
FCと前記架橋剤の質量W
Cの合計(W
FC+W
C)との比W
S/(W
FC+W
C)が0.3~10である、請求項
8~
12のいずれか一項に記載の撥液性構造体。
【請求項14】
前記撥液層形成用組成物に含まれる前記フィラーの質量W
Sと、前記撥液層形成用組成物に含まれる前記熱可塑性樹脂の質量W
Pと前記フッ素化合物の質量W
FCと前記架橋剤の質量W
Cの合計(W
P+W
FC+W
C)との比W
S/(W
P+W
FC+W
C)が0.3~10である、請求項
12に記載の撥液性構造体。
【請求項15】
前記撥液層形成用組成物に含まれる前記架橋剤の質量W
Cと、前記撥液層形成用組成物に含まれる前記フッ素化合物の質量W
FCとの比W
C/W
FCが0.01~0.5である、請求項
8~
14のいずれか一項に記載の撥液性構造体。
【請求項16】
前記撥液層形成用組成物に含まれる前記架橋剤の質量W
Cと、前記撥液層形成用組成物に含まれる前記熱可塑性樹脂の質量W
Pと前記フッ素化合物の質量W
FCの合計(W
P+W
FC)との比W
C/(W
P+W
FC)が0.01~0.5である、請求項
12又は
14に記載の撥液性構造体。
【請求項17】
撥液性を付与すべき表面と、前記表面上に形成された撥液層とを備える撥液性構造体であって、
前記撥液層が、フッ素含有樹脂を含むバインダ樹脂と、該バインダ樹脂中に分散されたフィラーとを含有し、
前記フッ素含有樹脂中に含まれるフッ素の質量W
F
と前記フィラーの質量W
S
との比W
F
/W
S
が0.06~0.90であり、
前記撥液層が架橋剤を更に含み、
前記フッ素含有樹脂が、パーフルオロアルキル、パーフルオロアルケニル及びパーフルオロポリエーテルからなる群から選ばれる構造を有する樹脂である、撥液性構造体。
【請求項18】
撥液性を付与すべき表面と、前記表面上に形成された撥液層とを備える撥液性構造体であって、
前記撥液層が平均粒子径0.1~6μmの鱗片状フィラーと、熱可塑性樹脂と、フッ素化合物とを含むとともに、前記鱗片状フィラーを含む凝集体を有し、
前記撥液層に含まれる前記鱗片状フィラーの質量W
S1
と、前記撥液層に含まれる前記熱可塑性樹脂の質量W
P
と前記フッ素化合物の質量W
FC
の合計(W
P
+W
FC
)との比W
S1
/(W
P
+W
FC
)が0.1~10であり、
撥液性を付与すべき前記表面と前記撥液層との間に配置された、熱可塑性樹脂を含む下地層を更に備え、
前記下地層が平均一次粒子径5~30μmの第5フィラーを含
み、
前記フッ素化合物が、パーフルオロアルキル、パーフルオロアルケニル及びパーフルオロポリエーテルからなる群から選ばれる構造を有する化合物である、撥液性構造体。
【請求項19】
撥液性を付与すべき表面と、前記表面上に形成された撥液層とを備える撥液性構造体であって、
前記撥液層が平均粒子径0.1~6μmの鱗片状フィラーと、平均粒子径10~100μmの第3フィラーと、熱可塑性樹脂と、フッ素化合物とを含むとともに、前記鱗片状フィラーを含む凝集体を有し、
前記撥液層を法線方向から見たとき、前記第3フィラーが占有する面積A
3
と前記撥液層の面積Aの比A
3
/Aが0.25~0.95であり、
撥液性を付与すべき前記表面と前記撥液層との間に配置された、熱可塑性樹脂を含む下地層を更に備え、
前記下地層が平均一次粒子径5~30μmの第5フィラーを含
み、
前記フッ素化合物が、パーフルオロアルキル、パーフルオロアルケニル及びパーフルオロポリエーテルからなる群から選ばれる構造を有する化合物である、撥液性構造体。
【請求項20】
撥液性を付与すべき表面と、前記表面上に形成された撥液層とを備える撥液性構造体であって、
前記撥液層が、フィラーと、フッ素化合物と、前記フッ素化合物と反応する官能基を有する架橋剤とを含有する撥液層形成用組成物の硬化物を含み、
撥液性を付与すべき前記表面と前記撥液層との間に配置された、熱可塑性樹脂を含む下地層を更に備え、
前記下地層が平均一次粒子径5~30μmの第5フィラーを含
み、
前記フッ素化合物が、パーフルオロアルキル、パーフルオロアルケニル及びパーフルオロポリエーテルからなる群から選ばれる構造を有する化合物である、撥液性構造体。
【請求項21】
撥液性を付与すべき表面と、前記表面上に形成された撥液層とを備える撥液性構造体であって、
前記撥液層が、フッ素含有樹脂を含むバインダ樹脂と、該バインダ樹脂中に分散されたフィラーとを含有し、
前記フッ素含有樹脂中に含まれるフッ素の質量W
F
と前記フィラーの質量W
S
との比W
F
/W
S
が0.06~0.90であり、
撥液性を付与すべき前記表面と前記撥液層との間に配置された、熱可塑性樹脂を含む下地層を更に備え、
前記下地層が平均一次粒子径5~30μmの第5フィラーを含
み、
前記フッ素含有樹脂が、パーフルオロアルキル、パーフルオロアルケニル及びパーフルオロポリエーテルからなる群から選ばれる構造を有す樹脂である、撥液性構造体。
【請求項22】
前記フィラーの平均一次粒子径が5nm~30μmである、請求項
17~21のいずれか一項に記載の撥液性構造体。
【請求項23】
前記フィラーが平均一次粒子径0.1~6μmの鱗片状フィラーを含む、請求項
17~
22のいずれか一項に記載の撥液性構造体。
【請求項24】
前記フィラーが平均一次粒子径5~1000nmの第2フィラーを含む、請求項
17~
23のいずれか一項に記載の撥液性構造体。
【請求項25】
前記フィラーが平均一次粒子径5~30μmの第4フィラーを含む、請求項
17~
24のいずれか一項に記載の撥液性構造体。
【請求項26】
前記撥液層が熱可塑性樹脂を更に含む、請求項
17~
25のいずれか一項に記載の撥液性構造体。
【請求項27】
前記撥液層が、
N-ビニル-2-ピロリドン、N-ビニル-3-メチル-2-ピロリドン、N-ビニル-5-メチル-2-ピロリドン及びN-ビニル-3,3-ジメチル-2-ピロリドンからなる群から選ばれる化合物に由来する構造単位を含まない、請求項1~
26のいずれか一項に記載の撥液性構造体。
【請求項28】
前記第5フィラーの平均一次粒子径が10~20μmである、請求項
18~21のいずれか一項に記載の撥液性構造体。
【請求項29】
物品と接する側に、請求項1~
28のいずれか一項に記載の撥液性構造体を有する包装材。
【請求項30】
前記物品が水分を含む、請求項
29に記載の包装材。
【請求項31】
前記物品が油分を含む、請求項
29又は
30に記載の包装材。
【請求項32】
前記物品が界面活性剤を含む、請求項
29~
31のいずれか一項に記載の包装材。
【請求項33】
前記物品がハンドソープ、ボディーソープ、シャンプー、リンス、クリーム類及び化粧品からなる群から選ばれる一種である、請求項
32に記載の包装材。
【請求項34】
物品と接する側に、請求項1~
28のいずれか一項に記載の撥液性構造体を有する剥離シート。
【請求項35】
前記物品が水分を含む、請求項
34に記載の剥離シート。
【請求項36】
前記物品が油分を含む、請求項
34又は
35に記載の剥離シート。
【請求項37】
前記物品が界面活性剤を含む、請求項
34~
36のいずれか一項に記載の剥離シート。
【請求項38】
前記物品がハンドソープ、ボディーソープ、シャンプー、リンス、クリーム類及び化粧品からなる群から選ばれる一種である、請求項
34に記載の剥離シート。
【請求項39】
請求項1~
17のいずれか一項に記載の撥液構造体の製造方法であって、
前記撥液層を形成するための塗液を調製する工程と、
撥液性を付与すべき表面上に、前記塗液の塗膜を形成する工程と、
前記塗膜を乾燥させる工程と、
を備える、撥液性構造体の製造方法。
【請求項40】
請求項
18~
21のいずれか一項に記載の撥液性構造体の製造方法であって、
撥液性を付与すべき表面上に、前記下地層を形成する工程と、
前記撥液層を形成するための塗液を調製する工程と、
前記下地層上に、前記塗液の塗膜を形成する工程と、
前記塗膜を乾燥させる工程と、
を備える、撥液性構造体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、撥液性構造体及びその製造方法、並びに、物品と接する側に上記撥液性構造体を有する包装材及び剥離シートに関する。
【背景技術】
【0002】
撥水性を有する構造体について種々の態様が知られている。例えば、特許文献1には、基材部の表面に、鱗片状無機微粒子がバインダにより固定された微粒子層と、微粒子層の表面を被覆した撥水膜層とが設けられた撥水構造体が開示されている。特許文献2には、熱可塑性樹脂と、疎水性粒子とを含む、単層の撥水性ヒートシール膜が開示されている。特許文献3には、基材と、基材上の熱接着層とを備える蓋材用撥水性積層体において、上記熱接着層が熱可塑性樹脂、撥水性微粒子及びこの撥水性微粒子よりも平均粒子径の大きいビーズ粒子を含むことが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-132055号公報
【文献】特開2017-155183号公報
【文献】国際公開第2017/204258号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1~3に記載の発明においては、水滴との接触角によって撥水性が評価されている。特許文献2,3に記載の発明においては、撥ヨーグルト性(ヨーグルトの付着性)についても評価されている。しかし、これらの文献に記載の発明においては、油分を含む液状物(例えば、カレー、生クリーム)に対する撥液性は検討されていない。
【0005】
本開示は、水に対する優れた撥液性を有するとともに、油又はこれを含む液状物等に対しても優れた撥液性を有する撥液性構造体及びその製造方法を提供する。また、本開示は、物品と接する側に上記撥液性構造体を有する包装材及び剥離シートを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の第一の側面に係る撥液性構造体は、撥液性を付与すべき表面(以下、場合により「被処理面」という。)と、被処理面上に形成された撥液層とを備え、この撥液層は平均粒子径0.1~6μmの鱗片状フィラーと、熱可塑性樹脂と、フッ素化合物(例えば、フッ素含有樹脂)とを含むとともに、鱗片状フィラーを含む凝集体を有し、撥液層に含まれる鱗片状フィラーの質量WS1と、撥液層に含まれる熱可塑性樹脂の質量WPとフッ素化合物の質量WFCの合計(WP+WFC)との比WS1/(WP+WFC)が0.1~10である。
【0007】
上記撥液層は、水及びヨーグルトに対する優れた撥液性を有するとともに、油又はこれを含む液状物等(例えば、カレー、生クレーム)に対しても優れた撥液性を有する。撥液層に含まれる鱗片状フィラーの質量WS1と、撥液層に含まれる熱可塑性樹脂の質量WPとフッ素化合物の質量WFCの合計(WP+WFC)との比を所定の範囲(0.1≦WS1/(WP+WFC)≦10)とすることで、撥液層の形成過程において、鱗片状フィラーを含む凝集体であって、具体的には、多数の鱗片状フィラーと、熱可塑性樹脂と、フッ素化合物とが渾然一体となっており優れた撥液性に寄与する凝集体を撥液層の表面に形成できることを本発明者らは見出した。
【0008】
撥液層に存在する凝集体が多数の鱗片状フィラーによって構成されていることで、複雑且つ微細な形状を有する鱗片状フィラーに起因する凹凸又は空隙が撥液層の表面に形成される(
図4及び
図5のSEM画像参照)。これにより、撥液層に液状物が接触した状態であっても、液状物との接触面積を小さくできることから撥液性が発現する。これに加え、フッ素化合物を含む凝集体が撥液層の表面に存在することで、フッ素化合物による撥液性も発現する。また、鱗片状フィラーを含む凝集体が熱可塑性樹脂を含むことで、凝集体の強度が高まり、凝集体が撥液層から剥がれ落ちることを抑制できる。
【0009】
上記比WS1/(WP+WFC)の値を0.1~10の範囲としたのは種々の評価試験を行った本発明者らの以下の知見に基づくものである。すなわち、この値が0.1未満であると、鱗片状フィラーの量が相対的に少ないことに起因して撥液層の表面に凹凸が十分に形成されず、撥液性が不十分となる傾向にあるとともに、鱗片状フィラーの複雑且つ微細な形状がバインダ樹脂(熱可塑性樹脂及びフッ素化合物)に覆われてしまって鱗片状フィラーの当該形状による撥液性の発現が不十分となる傾向にある。他方、この値が10を越えると、鱗片状フィラーの量が相対的に多いことに起因して撥液層から鱗片状フィラーが脱落しやすい。これに加え、撥液層の形成に使用する塗液において鱗片状フィラーが沈降しやすく、塗工によって撥液層を安定的に形成することが困難となる傾向にある。
【0010】
第一の側面に係る撥液性構造体と、上述の特許文献1に記載の撥液性構造体とを対比すると、前者においては鱗片状フィラーを含む撥液層に液状物が接するのに対し、後者においては鱗片状フィラーを含む微粒子層は撥水膜層で被覆されており、微粒子層ではなく、撥水膜層に水が接する点において、少なくとも両者は明確に相違する。また、第一の側面に係る撥液性構造体と、上述の特許文献2,3に記載の発明とを対比すると、前者においては撥液層に含まれるフィラーが鱗片状であり、これが疎水性を有している必要がないに対し、後者において使用される粒子は球状であると認められ且つ疎水性(撥水性)を有する必要がある点において、少なくとも両者は明確に相違する。
【0011】
本開示における撥液層は、平均粒子径5~1000nmの第2フィラーを更に含んでもよい。撥液層形成用の塗液に、このサイズのフィラーを配合することで、鱗片状フィラーの一次粒子の間にフィラーを介在させることが可能となる。これにより、鱗片状フィラーの一次粒子が過度に積層(凝集)することに起因して過度に大きい凝集体が形成されることを抑制できる。またnmオーダーの凹凸がより効率的に形成される。
【0012】
本開示における撥液層は、平均粒子径10~100μmの第3フィラー(以下、場合により「粗大フィラー」という。)を更に含んでもよい。撥液層がこのサイズのフィラーを含むことで、鱗片状フィラーによって構成される凝集体による凹凸よりも粗い凹凸を撥液層の表面に形成することができる。これにより、界面活性剤等を含み且つ粘性が高い液状物(例えば、ハンドソープ、ボディーソープ、シャンプー、リンス、クリーム類及び化粧品)に対しても特に優れた撥液性を撥液層が発現することができる。
【0013】
本開示における撥液層は、撥液層に含まれる鱗片状フィラーの質量をWS1とし、第3のフィラーの質量をWS3としたとき、その比WS3/WS1の値を1.0~20.0とすることができる。鱗片状フィラーの質量WS1と第3のフィラーの質量WS3の比によってμmオーダーの凹凸形成が異なる。すなわち、WS3/WS1の値が1.0以上であると、第3のフィラーによってμmオーダーの凹凸が十分に形成され、優れた撥液性が得られる。WS3/WS1の値が20.0以下であると、鱗片状フィラーによってnmオーダーの凹凸が十分に形成され、優れた撥液性が得られる。
【0014】
本開示における撥液層は、撥液層に含まれる鱗片状フィラーの質量WS1と第3のフィラーの質量WS3の合計(WS1+WS3)と、撥液層に含まれる熱可塑性樹脂の質量WPとフッ素化合物の質量WFCの合計(WP+WFC)との比(WS1+WS3)/(WP+WFC)を0.1~10とすることができる。この比が0.1よりも小さいと、鱗片状フィラーの複雑且つ微細な形状がバインダ樹脂(熱可塑性樹脂及びフッ素化合物)に覆われてしまって鱗片状フィラーの当該形状による撥液性の発現が不十分となる傾向にある。他方、この値が10を越えると、鱗片状フィラー及び粗大フィラーの量が相対的に多いことに起因して撥液層から鱗片状フィラーや粗大フィラーが脱落しやすい。これに加え、撥液層の形成に使用する塗液においてフッ素化合物の量が相対的に少なくなり、撥液性が安定的に得られない傾向がある。
【0015】
本開示における撥液層に含まれる上記フッ素化合物は、ピロリドン又はその誘導体(以下、場合により「ピロリドン類」という。)に由来する構造単位を含まないものであってもよい。また、上記撥液層全体として、ピロリドン類に由来する構造単位を含まなくてもよい。ピロリドン類に由来する構造単位は、優れた耐油性が求められる耐油紙等においてフッ素化合物とその下層(紙など)との密着性の向上や、フッ素化合物の水への分散安定化のためにフッ素化合物(フッ素添加剤)に含まれることがあるが、界面活性剤等を含み且つ粘性が高い液状物と接した場合、界面活性剤等とピロリドン類に由来する構造単位との相互作用により撥液性が低下する場合があることを本発明者らは見出した。一部のフッ素化合物にはピロリドン類に由来する構造単位が含まれており、そのようなフッ素化合物を用いた場合、その撥液性の向上効果が、界面活性剤等を含み且つ粘性が高い液状物に対しては十分に発現しない場合がある。これに対し、フッ素化合物、更には撥液層全体が、ピロリドン類に由来する構造単位を含まないようにすることで、界面活性剤等を含み且つ粘性が高い液状物に対して特に優れた撥液性を得ることができる。
【0016】
本開示の第二の側面に係る撥液性構造体は、被処理面と、被処理面上に形成された撥液層とを備え、この撥液層は、平均粒子径0.1~6μmの鱗片状フィラーと、平均粒子径10~100μmの第3フィラー(粗大フィラー)と、熱可塑性樹脂と、フッ素化合物とを含むとともに、鱗片状フィラーを含む凝集体を有し、撥液層を法線方向から見たとき、第3フィラーが占有する面積と撥液層の面積の比率が0.25~0.95である。
【0017】
上記撥液層は、水及びヨーグルトに対する優れた撥液性を有するとともに、油又はこれを含む液状物(例えば、カレー、生クリーム等)や、界面活性剤を含む液状物(例えばハンドソープ、ボディーソープ、シャンプー、リンス、クリーム類及び化粧品等)に対しても優れた撥液性を有する。すなわち上記の様な構成とすることで、撥液層の形成過程において、鱗片状フィラーによって構成される凝集体によるnmスケールの凹凸と、撥液層の所定の面積を占有する粗大フィラーによるμmスケールの粗い凹凸と、熱可塑性樹脂と、フッ素化合物とが渾然一体となっており、油又はこれを含む液状物や界面活性剤等を含み且つ粘性が高い液状物に対しても優れた撥液性を有する撥液層を形成できることを本発明者らは見出した。
【0018】
撥液層に存在する凝集体が多数の鱗片状フィラーによって構成されていることで、複雑且つ微細な形状を有する鱗片状フィラーに起因するnmオーダーの凹凸が撥液層の表面に形成される(
図10参照)。これにより、撥液層に液状物が接触した状態であっても、液状物との接触面積を小さくできることから撥液性が発現する。鱗片状フィラーの平均粒子径が6μmより大きいと、形成される凹凸が大きなものとなり、撥液性を向上させるのに必要なnmオーダーの凹凸が十分形成されない。
【0019】
更に、撥液層に所定の占有率をもって存在する粗大フィラーに起因するμmオーダーの粗い凹凸が撥液層の表面に形成される(
図10参照)。これにより、撥液層と撥液層に接触した液状物の間に空隙が形成され撥液性が発現する。粗大フィラーの平均粒子径が10μm以上であると、撥液層と液状物の液滴との間に十分な空隙が形成されやすく、一方、100μm以下であると、撥液層からの粗大フィラーの脱落を十分に抑制できる。
【0020】
これに加え、フッ素化合物を含む凝集体が撥液層の表面に存在することで、フッ素化合物による撥液性も発現する。また、熱可塑性樹脂を含むことで、鱗片状フィラーを含む凝集体の強度が高まり、鱗片状フィラーの凝集体や粗大フィラーが撥液層から剥がれ落ちることを抑制できる。
【0021】
撥液層を法線方向から見たときの粗大フィラーが占有する面積と撥液層の面積の比率を0.25~0.95の範囲としたのは、種々の評価試験を行った本発明者らの以下の知見に基づくものである。すなわち、粗大フィラー(第3フィラー)が占有する面積をA3とし、撥液層の面積をAとして、その比率A3/Aが0.25以上であると、μmオーダーの粗い凹凸が十分に形成され、液状物の液滴を十分に保持することができ、優れた撥液性が発現される。比率A3/Aが0.95以下であると、粗大フィラーによって撥液層が埋め尽くされて平滑化されることを抑制でき、液滴を保持するのに十分な空隙が形成され、優れた撥液性が発現される。
【0022】
第二の側面に係る撥液性構造体と、上述の特許文献1に記載の撥液性構造体とを対比すると、前者においては鱗片状フィラーと粗大フィラーを含む撥液層に液状物が接するのに対し、後者においては鱗片状フィラーを含む微粒子層は撥水膜層で被覆されており、微粒子層ではなく、撥水膜層に水が接する点において、少なくとも両者は明確に相違する。また、第二の側面に係る撥液性構造体と、上述の特許文献2、3に記載の発明とを対比すると、前者においては撥液層が鱗片状フィラー及び粗大フィラーの両方を含み、うち微細なフィラーである鱗片状フィラーは疎水性を有している必要がないのに対し、後者において使用される微細な粒子は球状であると認められ且つ疎水性(撥水性)を有する必要がある点において、少なくとも両者は明確に相違する。
【0023】
本開示の第三の側面に係る撥液性構造体は、被処理面と、被処理面上に形成された撥液層とを備える撥液性構造体であって、上記撥液層が、フィラーと、フッ素化合物と、上記フッ素化合物と反応する官能基を有する架橋剤とを含有する撥液層形成用組成物の硬化物を含む。
【0024】
上記撥液層は、水及びヨーグルトに対する優れた撥液性を有するとともに、油又はこれを含む液状物等(例えば、カレー、生クレーム)に対しても優れた撥液性を有する。更に、上記撥液性構造体が備える撥液層は、水及びヨーグルト、並びに、油又はこれを含む液状物等(以下、場合により、これらをまとめて「液状物」という。)と長期間接触しても撥液性を維持することができる。上記効果が得られる理由について、本発明者らは以下のように考えている。上記撥液層形成用組成物の硬化物を含む撥液層は、フッ素化合物が表面にブリードアウトすることで表面自由エネルギーを低下させるとともに、フィラーにより表面に凹凸が形成されることで撥液層に液状物が接触した状態であっても液状物との接触面積を小さくでき、優れた撥液性を得ることができる。なお、フッ素化合物はフィラーとともに撥液層形成用組成物に含有されて撥液層を形成するため、フィラーにより凹凸を形成した後、その上にフッ素化合物の層を積層する場合と比較して、凹凸がフッ素化合物で埋まることを抑制することができ、優れた撥液性を発現しやすくなる。
【0025】
更に、撥液層形成用組成物がフッ素化合物と反応する官能基を有する架橋剤を含有することにより、架橋剤とフッ素化合物とが反応して撥液層中に架橋構造を形成することができ、撥液層からフィラーが脱落することを抑制することができる。また、架橋剤がフッ素化合物と反応することで、フッ素化合物が有する反応点(水酸基等の官能基)を減らすことができ、上記反応点に起因した撥液層と液状物との親和性を低下させることができる。更に、フッ素化合物と架橋剤により架橋構造が形成されることで、フッ素化合物が有するパーフルオロアルキル基(Rf基)等のフッ素含有基の配向を剛直にすることができると考えられ、撥液層と液状物とが長期間接触した際にフッ素含有基の配向が乱れて撥液性が低下することを抑制することができるものと考えられる。架橋剤の添加により生じるこれらの作用により、上記撥液性構造体が備える撥液層は、液状物と長期間接触しても優れた撥液性を維持することができる。なお、本明細書において、液状物と長期間接触しても撥液性を維持する性質を、場合により「耐久性」という。
【0026】
架橋剤を添加することによる上記効果をより十分に得る観点から、上記架橋剤は、上記官能基としてアジリジン基、イソシアネート基及びカルボジイミド基からなる群より選択される少なくとも一種の基を有していてもよい。これらの基は、フッ素化合物及び後述する熱可塑性樹脂との反応性に優れている。
【0027】
上記撥液層形成用組成物は、熱可塑性樹脂を更に含んでもよい。これにより、撥液層からのフィラーの脱落をより十分に抑制でき、且つ、撥液層の撥液性及び耐久性をより向上させることができる。撥液層形成用組成物が熱可塑性樹脂を含む場合、架橋剤は熱可塑性樹脂とも反応してフッ素化合物とともに架橋構造を形成してもよい。
【0028】
第三の側面及び後述の第四の側面に係る撥液性構造体において、フィラーの平均粒子径は、例えば、5nm~30μmである。撥液層の表面に撥液性をより向上しやすい凹凸を形成する観点から、上記フィラーは、平均粒子径0.1~6μmの鱗片状フィラー、平均粒子径5~1000nmの第2フィラー、及び、平均粒子径10~100μmの第3フィラーからなる群より選択される少なくとも一種のフィラーを含んでいてもよい。フィラーが鱗片状フィラーを含む場合、撥液層は鱗片状フィラーの凝集体を含んでいてもよい。フィラーの組み合わせの好ましい例としては、鱗片状フィラーと第2フィラー、鱗片状フィラーと第3フィラー、及び、鱗片状フィラーと第2フィラーと第3フィラーの組み合わせが挙げられる。
【0029】
上記撥液層形成用組成物に含まれるフィラーの質量WSと、上記撥液層形成用組成物に含まれるフッ素化合物の質量WFCと架橋剤の質量WCの合計(WFC+WC)との比WS/(WFC+WC)、又は、上記撥液層形成用組成物に含まれる熱可塑性樹脂の質量WPとフッ素化合物の質量WFCと架橋剤の質量WCの合計(WP+WFC+WC)との比WS/(WP+WFC+WC)は、0.3~10であってもよい。比WS/(WFC+WC)又は比WS/(WP+WFC+WC)が上記範囲内であると、撥液性の向上に寄与する凹凸を撥液層の表面に形成しやすく、撥液層に液状物が接触した状態であっても、液状物との接触面積を小さくできることから高い撥液性が発現しやすい。
【0030】
本開示の第四の側面に係る撥液性構造体は、被処理面と、被処理面上に形成された撥液層とを備え、上記撥液層が、フッ素含有樹脂を含むバインダ樹脂と、該バインダ樹脂中に分散されたフィラーとを含有し、上記フッ素含有樹脂中に含まれるフッ素の質量WFと上記フィラーの質量WSとの比WF/WSが0.06~0.90である。
【0031】
上記撥液層は、水に対する優れた撥液性を有するとともに、油又はこれを含む液状物等(例えば、カレー、生クレーム)に対しても優れた撥液性を有する。上記効果が得られる理由について、本発明者らは以下のように考えている。上記撥液層は、フッ素含有樹脂中に含まれるフッ素の質量WFとフィラーの質量WSとの比WF/WSが0.06~0.90であることで、フィラー表面に効率良くフッ素を配置することができる。これにより、撥液層の表面自由エネルギーを効率良く低下させることができ、撥液層は優れた撥液性を得ることができる。また、上記比WF/WSが0.06~0.90であることで、フィラーにより撥液層表面に凹凸が効率的に形成され、撥液層に液状物(水、並びに、油又はこれを含む液状物等)が接触した状態であっても液状物との接触面積を小さくでき、優れた撥液性を得ることができる。なお、フッ素含有樹脂はフィラーとともに撥液層を形成するため、フィラーにより凹凸を形成した後、その上にフッ素含有樹脂の層を積層する場合と比較して、凹凸がフッ素含有樹脂で埋まることを抑制することができ、優れた撥液性を発現しやすくなる。
【0032】
上記撥液性構造体において、フッ素含有樹脂はフッ素-アクリル共重合体を含んでいてもよい。フッ素-アクリル共重合体を含むことで、撥液層は、水、並びに、油又はこれを含む液状物等に対してより優れた撥液性を発現しやすくなる。
【0033】
上記撥液性構造体において、撥液層は熱可塑性樹脂を更に含んでもよい。これにより、撥液層からのフィラーの脱落をより十分に抑制でき、且つ、撥液層の撥液性及び耐久性をより向上させることができる。
【0034】
上記撥液性構造体において、撥液層は架橋剤を更に含んでもよい。撥液層が架橋剤を含むことで、例えばフッ素含有樹脂と架橋剤とが反応して撥液層中に架橋構造が形成され、撥液層からフィラーが脱落することをより一層抑制することができる。なお、撥液層が熱可塑性樹脂を含む場合、架橋剤は熱可塑性樹脂とも反応してフッ素含有樹脂とともに架橋構造を形成していてもよい。また、架橋剤がフッ素含有樹脂と反応することで、フッ素含有樹脂が有する反応点(水酸基等の官能基)を減らすことができ、上記反応点に起因した撥液層と液状物(水、並びに、油又はこれを含む液状物等)との親和性を低下させることができる。更に、フッ素含有樹脂と架橋剤により架橋構造が形成されることで、フッ素含有樹脂が有するパーフルオロアルキル基(Rf基)等のフッ素含有基の配向を剛直にすることができると考えられ、撥液層と液状物とが長期間接触した際にフッ素含有基の配向が乱れて撥液性が低下することを抑制することができるものと考えられる。架橋剤の添加により生じるこれらの作用により、上記撥液性構造体が備える撥液層は、液状物と長期間接触しても優れた撥液性を維持することができる。
【0035】
架橋剤を添加することによる上記効果をより十分に得る観点から、上記架橋剤は、上記官能基としてアジリジン基、イソシアネート基及びカルボジイミド基からなる群より選択される少なくとも一種の基を有していてもよい。これらの基は、フッ素含有樹脂及び熱可塑性樹脂との反応性に優れている。
【0036】
本開示に係る撥液性構造体は、被処理面と撥液層との間に配置された、熱可塑性樹脂を含む下地層を更に備えてもよい。この下地層は、平均一次粒子径10~100μmの第5フィラーを更に含んでもよい。このような下地層を設けることで、被処理面と撥液層との密着性を向上させることができるとともに、界面活性剤等を含み且つ粘性が高い液状物(例えば、ハンドソープ、ボディーソープ、シャンプー、リンス、クリーム類及び化粧品)に対する撥液性をより向上させることができる。界面活性剤等を含み且つ粘性が高い液状物に対する撥液性が向上するのは、被処理面と撥液層の密着性が向上したことで、粘性の高い液状物が剥離する際に撥液層が脱落するのを抑制できるためである。換言すれば、粘性が高い液状物による撥液層の脱落を抑制できるため、界面活性剤等を含み且つ粘性が高い液状物に対する撥液性が向上する。また、下地層に上記第5フィラーを含有させた場合には、下地層の表面に、撥液層における鱗片状フィラーによって構成される凝集体による凹凸よりも粗い凹凸を形成することができ、その上に撥液層を設けることで、撥液層の表面に、より粗く且つ複雑な凹凸を形成することができる。その結果、界面活性剤等を含み且つ粘性が高い液状物に対する撥液性を一層向上させることができる。第5フィラーの平均一次粒子径は、優れた撥液性を得る観点から、5~30μm又は10~20μmとしてもよい。
【0037】
本開示は、物品と接する側に、上記撥液性構造体を有する包装材及び剥離シートを提供する。上述のとおり、撥液性構造体が備える撥液層は、水に対する優れた撥液性を有するとともに、油又はこれを含む液状物等に対しても優れた撥液性を有する。したがって、包装材及び剥離シートは、水分を含む物品(例えば、水、飲料、ヨーグルト)及び油分を含む物品(例えば、カレー及び生クリーム)に適用することができる。包装材及び剥離シートは、ハンドソープ、ボディーソープ、シャンプー、リンス、クリーム類及び化粧品からなる群から選ばれる一種である物品に適用することもできる。
【0038】
本開示は、上述の撥液構造体の製造方法を提供する。撥液構造体の製造方法は、撥液層を形成するための塗液を調製する工程と、撥液性を付与すべき表面上に、塗液の塗膜を形成する工程と、塗膜を乾燥させる工程とを備える。下地層を備える撥液構造体の製造方法は、撥液性を付与すべき表面上に、下地層を形成する工程と、撥液層を形成するための塗液を調製する工程と、下地層上に、塗液の塗膜を形成する工程と、塗膜を乾燥させる工程とを備える。
【発明の効果】
【0039】
本開示によれば、水に対する優れた撥液性を有するとともに、油又はこれを含む液状物等に対しても優れた撥液性を有する撥液性構造体及びその製造方法が提供される。また、本開示によれば、上記撥液性構造体を物品と接する側に有する包装材及び剥離シートが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【
図1】
図1は本開示に係る撥液性構造体の一実施形態を模式的に示す断面図である。
【
図2】
図2(a)は市販の鱗片状シリカフィラー(AGCエスアイテック株式会社製サンラブリー)のSEM画像であり、
図2(b)は
図2(a)よりも高倍率で撮影したSEM画像である。
【
図3】
図3(a)は比W
S1/(W
P+W
FC)が1未満であり、鱗片状フィラーが相対的に不足している撥液層を模式的に示す断面図であり、
図3(b)は比W
S1/(W
P+W
FC)が10超であり、バインダ樹脂が相対的に不足している撥液層を模式的に示す断面図である。
【
図4】
図4(a)は撥液層の表面のSEM画像であり、
図4(b)は
図4(a)よりも高倍率で撮影したSEM画像である。
【
図5】
図5(a)は撥液層の表面のSEM画像であり、
図5(b)は
図5(a)よりも高倍率で撮影したSEM画像である。
【
図6】
図6は本開示に係る撥液性構造体の変形例を模式的に示す断面図である。
【
図7】
図7は本開示に係る撥液性構造体の変形例を模式的に示す断面図である。
【
図8】
図8は本開示に係る撥液性構造体の変形例を模式的に示す断面図である。
【
図9】
図9は本開示に係る撥液性構造体の変形例を模式的に示す断面図である。
【
図10】
図10は第二実施形態に係る撥液性構造体を模式的に示す断面図である。
【
図11】
図11は第二実施形態に係る撥液性構造体を模式的に示す平面図である。
【
図12】
図12(a)は比(W
S1+W
S3)/(W
P+W
FC)が1未満であり、鱗片状フィラーが相対的に不足している撥液層を模式的に示す断面図であり、
図12(b)は比(W
S1+W
S3)/(W
P+W
FC)が10超であり、バインダ樹脂が相対的に不足している撥液層を模式的に示す断面図である。
【
図13】
図13は第四実施形態に係る撥液性構造体の変形例を模式的に示す断面図である。
【
図14】
図14(a)は鱗片状フィラーを含む下地層のSEM画像であり、
図14(b)は鱗片状フィラーを含む下地層及びこれを覆うオーバーコート層のSEM画像である。
【
図15】
図15は実施例1c~3cで作製した撥液層の表面を倍率を変えて撮影したSEM画像を示す表である。
【
図16】
図16は実施例1c~3cで作製した撥液層の表面を倍率を変えて撮影したSEM画像を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0041】
以下、添付図面を参照して、本開示の複数の実施形態について詳細に説明する。本発明は以下に説明する実施形態に限定されるものではない。なお、以下の説明において、同一要素又は同一機能を有する要素には、同一符号を用いることとし、重複する説明は省略する。本明細書中に段階的に記載されている数値範囲において、ある段階の数値範囲の上限値又は下限値は、他の段階の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。本明細書中に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。ある実施形態に係る構成は他の実施形態に適用してもよい。
【0042】
[第一実施形態]
<撥液性構造体>
図1は、本実施形態に係る撥液性構造体の概略断面図である。
図1に示されるように、撥液性構造体10は、被処理面1a(撥液性を付与すべき表面)を有する基材1と、被処理面1a上に形成された撥液層3とを備える。
【0043】
(基材)
基材1は、撥液性を付与すべき表面を有し且つ支持体となるものであれば特に制限はなく、例えば、フィルム状(厚さ:10~200μm程度)であっても、プレート状(厚さ:1~10mm程度)であってもよい。フィルム状の基材としては、例えば、紙、樹脂フィルム、金属箔等が挙げられる。これらの材料からなるフィルム包装材の内面を被処理面1aとし、これに撥液層3を形成することで、内容物が付着しにくい包装袋を得ることができる。プレート状の基材としては、例えば、紙、樹脂、金属、ガラス等が挙げられる。これらの材料を成形してなる容器の内面を被処理面1aとし、これに撥液層3を形成することで、内容物が付着しにくい容器を得ることができる。
【0044】
紙としては、上質紙、特殊上質紙、コート紙、アート紙、キャストコート紙、模造紙、クラフト紙等が挙げられる。樹脂としては、ポリオレフィン、酸変性ポリオレフィン、ポリエステル(例えばポリエチレンテレフタレート(PET))、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリアミド(PA)、ポリ塩化ビニル(PVC)、セルロースアセテート、セロファン樹脂等が挙げられる。金属としては、例えばアルミニウム、ニッケル等が挙げられる。
【0045】
基材1がフィルム状である場合、撥液層3の構成成分である熱可塑性樹脂と熱融着性を有することが好ましい。基材1の融点は170℃以下であることが好ましい。これにより、ヒートシールによって包装袋を形成する際、基材1と撥液層3との密着性がより強固になるため、ヒートシール性がより向上する。このような観点から、基材1の融点は150℃以下であることがより好ましい。基材1の融点は示差走査熱量分析により測定することが可能である。
【0046】
(撥液層)
撥液層3は撥液性を有する層であり、基材1の表面の一部又は全部を覆うように形成されている。撥液性とは、撥水性及び撥油性の両特性を包含する概念であり、具体的には、液体状、半固体状、もしくはゲル状の水性又は油性材料に対し撥液する特性である。水性又は油性材料としては、水、油、ヨーグルト、カレー、生クリーム、ゼリー、プリン、シロップ、お粥、スープ等の食品、ハンドソープ、シャンプー等の洗剤、医薬品、化粧品、化学品などが挙げられる。これらが直接接するように、撥液性構造体10において、撥液層3が最内層又は最外層をなしている。
【0047】
撥液層3は、
図1に示すように、多数の鱗片状フィラー5fによって形成された凝集体5を有する。凝集体5によって撥液層3の表面に凹凸が形成されている。凝集体5は、平均粒子径0.1~6μmの鱗片状フィラー5fと、これを覆っているバインダ樹脂5bとによって構成されている。凝集体5によって撥液層3の表面に凹凸が形成される。この凹凸のサイズは、例えば、nmオーダーである。
【0048】
鱗片状フィラー5fは、その一次粒子、二次凝集体又は三次凝集体の状態で存在し得る。二次凝集体は、鱗片状フィラー5fの一次粒子が平行的に配向して複数枚重なり合うことによって形成されるものである。鱗片状フィラー5fの三次凝集体は、一次粒子や二次凝集体が不規則に重なり合うことにより、各方向に結晶成長したものである。
【0049】
鱗片状フィラー5fの平均粒子径(以下、場合により、「平均一次粒子径」という。他の種類のフィラーについても同様)は、上述のとおり、0.1~6μmであり、0.1~4μm又は4~6μmであってもよい。鱗片状フィラー5fの平均粒子径が0.1μm以上であることで凝集体5が形成されやすく、他方、6μm以下であることで、鱗片状フィラー5fの複雑且つ微細な形状に由来する撥液性が十分に発現される。鱗片状フィラーの平均粒子径は、SEMの視野内における任意の計10個の鱗片状フィラーについて長径と短径の長さを測定し、その和を2で割ることで得られる値の平均値を意味する。
【0050】
鱗片状フィラー5fを構成する材料としては、シリカ、タルク、雲母、酸化チタン、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、酸化亜鉛、スメクタイト、ゼオライト、酸化アルミニウム等が挙げられる。鱗片状シリカの市販品として、例えば、AGCエスアイテック株式会社製のサンラブリーが挙げられる。鱗片状雲母の市販品として、例えば、株式会社レプコ製のレプコマイカが挙げられる。鱗片状酸化アルミニウムの市販品として、例えば、河合石灰工業株式会社製のセラシュールが挙げられる。
図2(a)は市販の鱗片状シリカフィラー(AGCエスアイテック株式会社製サンラブリー)のSEM画像であり、
図2(b)は
図2(a)よりも高倍率で撮影したSEM画像である。なお、鱗片状フィラー5fは、疎水処理や撥液性処理が施されていないものであってよい。
【0051】
バインダ樹脂5bは、熱可塑性樹脂と、撥液性を有するフッ素化合物とを含む。上述のとおり、バインダ樹脂5bは、鱗片状フィラー5fとともに凝集体5を構成する。バインダ樹脂5bにおける熱可塑性樹脂の含有率(バインダ樹脂5bの質量基準)は、例えば、50~95質量%であり、60~95質量%又は70~90質量%であってもよい。バインダ樹脂5bにおける熱可塑性樹脂の含有率が50質量%以上であることで、撥液層3から鱗片状フィラー5fが脱落することを十分に抑制することができ、他方、95質量%以下であることで、フッ素化合物の含有率を十分に確保でき、撥液層3が優れた撥液性を発現しやすい。バインダ樹脂5bにおけるフッ素化合物の含有率(バインダ樹脂5bの質量基準)は、例えば、5~50質量%であり、5~40質量%又は10~30質量%であってもよい。バインダ樹脂5bにおけるフッ素化合物の含有率が5質量%以上であることで、撥液層3が優れた撥液性を発現しやすく、他方、50質量%以下であることで、熱可塑性樹脂の含有率を十分に確保でき、撥液層3から鱗片状フィラー5fが脱落することを十分に抑制することができる。
【0052】
熱可塑性樹脂としては、特に制限されず、例えば、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、エチレン-αオレフィン共重合体、ホモ、ブロック、あるいはランダムポリプロピレン、プロピレン-αオレフィン共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体等が挙げられる。例えば、エチレン-αオレフィン共重合体であれば、プロピレンとα-オレフィンとのブロック共重合体、ランダム共重合体等ということができる。αオレフィン成分としては、エチレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-ヘプテン、1-オクテン、4-メチル-1-ペンテンなどを例示することができる。
【0053】
熱可塑性樹脂の融点は、例えば、50~135℃である。融点が135℃以下であることにより、フッ素化合物を撥液層3の表面にブリードアウトさせやすい。フッ素化合物が表面にブリードアウトすることで、表面自由エネルギーを低下させることができ、これにより、撥液層3の表面に優れた撥液性を発現させることができる。なお、フッ素化合物のブリードアウト促進には高温で乾燥させる方法があるが、熱可塑性樹脂の融点が高過ぎる場合は相応の高温が必要となるため、基材1に変形等の支障が生じる虞がある。一方、融点が50℃以上であることで、ある程度の結晶性が確保されるため軟化によるブロッキングの発生が抑制される。このような観点から、熱可塑性樹脂の融点は60~120℃であることがより好ましい。
【0054】
熱可塑性樹脂は、所定の酸で変性された変性ポリオレフィンであってもよい。変性ポリオレフィンは、例えば不飽和カルボン酸、不飽和カルボン酸の酸無水物、不飽和カルボン酸のエステル等から導かれる不飽和カルボン酸誘導体成分で、ポリオレフィンをグラフト変性することで得られる。また、ポリオレフィンとして、水酸基変性ポリオレフィンやアクリル変性ポリオレフィン等の変性ポリオレフィンを使用することもできる。変性ポリオレフィン樹脂としては、例えば日本製紙株式会社製のアウローレン、住友精化株式会社製のザイクセン、三井化学株式会社製のユニストール、ユニチカ株式会社製のアローベース等が挙げられる。
【0055】
フッ素化合物としては特に制限されず、パーフルオロアルキル、パーフルオロアルケニル、パーフルオロポリエーテル等の構造を有する化合物を適宜用いることができる。フッ素化合物として、市販のフッ素系塗料を使用することができる。市販のフッ素系塗料として、例えば、旭硝子株式会社製のアサヒガード、AGCセイミケミカル株式会社製のエスエフコート、株式会社ネオス製のフタージェント、ソルベイ社製のフルオロリンク、ダイキン工業株式会社製のユニダインが挙げられる。
【0056】
フッ素化合物は、界面活性剤等を含み且つ粘性が高い液状物(例えば、ハンドソープ、ボディーソープ、シャンプー、リンス、クリーム類及び化粧品)に対する撥液性をより向上させる観点から、ピロリドン又はその誘導体(ピロリドン類)に由来する構造単位を含まないものであってもよい。ここで、ピロリドン類としては、例えば、N-ビニル-2-ピロリドン、N-ビニル-3-メチル-2-ピロリドン、N-ビニル-5-メチル-2-ピロリドン、N-ビニル-3,3-ジメチル-2-ピロリドンなどが挙げられる。ピロリドン類に由来する構造単位を含まないフッ素化合物としては、例えば、旭硝子株式会社製のアサヒガードAG-E060、AG-E070、AG-E090、ダイキン工業株式会社製のユニダインTG-8111が挙げられる。
【0057】
撥液層3に含まれる鱗片状フィラー5fの質量WS1と、撥液層3に含まれる熱可塑性樹脂の質量WPとフッ素化合物の質量WFCの合計(WP+WFC)との比WS1/(WP+WFC)が0.1~10であり、0.5~10又は1~5であってもよい。この値がこの範囲内であることで、鱗片状フィラー5fの全体がバインダ樹脂5bで十分に覆われていながらも、鱗片状フィラー5fの複雑且つ微細な形状が撥液層3の表面に現れている。これにより、鱗片状フィラー5fが撥液層3から脱落することが抑制されるとともに、鱗片状フィラー5fに起因する撥液性及びバインダ樹脂5bに含まれるフッ素化合物による撥液性の両方を享受することができる。なお、撥液層3を燃焼させても、無機物である鱗片状フィラー5fの質量は実質的に変化しないため、WS1/(WP+WFC)の値は撥液層3の燃焼による質量の変化を測定し、これらの測定値から算出することができる。
【0058】
図3(a)は比W
S1/(W
P+W
FC)が0.1未満であり、鱗片状フィラー5fが相対的に不足している撥液層を模式的に示す断面図である。鱗片状フィラー5fの量が相対的に少ないこと(バインダ樹脂5bが過剰であること)に起因して鱗片状フィラー5fの複雑且つ微細な形状がバインダ樹脂5bに覆われてしまって鱗片状フィラー5fの当該形状による撥液性の発現が不十分となる。他方、
図3(b)は比W
S1/(W
P+W
FC)が10超であり、バインダ樹脂5bが相対的に不足している撥液層を模式的に示す断面図である。鱗片状フィラー5fの量が相対的に多いこと(バインダ樹脂5bが不足していること)に起因して鱗片状フィラー5f又はこれらの凝集体が撥液層から脱落しやすい。また、撥液層3の形成に使用する塗液において鱗片状フィラー5fが沈降しやすく、塗工によって撥液層3を安定的に形成することが困難となる傾向にある。
【0059】
凝集体5は、多数の鱗片状フィラー5fと、バインダ樹脂5b(熱可塑性樹脂及びフッ素化合物)が渾然一体となったものである。凝集体5によって撥液層3の表面に凹凸が形成されている。
図4(a)は撥液層3の表面のSEM画像であり、
図4(b)は
図4(a)よりも高倍率で撮影したSEM画像である。本発明者らの検討によると、一つの凝集体5のサイズ((長径+短径)/2)が4μm以上であれば、撥液層3の撥液性向上に凝集体5が寄与する。
【0060】
図5のSEM画像に示された撥液層は、
図4のSEM画像に示された撥液層と同じ塗液を使用して形成されたものあるものの、
図4の撥液層よりも5倍程度に塗液の塗布量を増やして形成されたものである。
図5(a)に示された凝集体は、一部に隙間はあるものの、基材1上に層をなすように形成されている。なお、塗液の塗布量は、塗液の濃度や、塗工に使用するワイヤーバーの番手によって調整することができる。
【0061】
図4(a)に示されたように、複数の凝集体5は撥液層3において互いに離間して配置されていてもよい。つまり、複数の凝集体5が島状に配置されていてもよい。あるいは、
図5(a)に示されたように、多数の凝集体5が連続的に形成されており、撥液層3において凝集体5からなる多孔質な層が形成されていてもよい。また、
図4(b)及び
図5(b)に示されたように、凝集体5は鱗片状フィラー5fの複雑且つ微細な形状に由来する複雑な形状を有している。すなわち、凝集体5は、複数の鱗片状フィラー5fの一次粒子(平均粒子径0.1~6μm)がランダムに並んだ状態で凝集していることで、ひだ状の表面と、ひだによって形成される空隙部とを有する。
【0062】
撥液層3におけるバインダ樹脂5bの厚さ(
図1における厚さT)は、例えば、0.05~10μmであり、0.5~10μm又は1~5μmであってもよい。バインダ樹脂5bの厚さが0.05μm以上であることで鱗片状フィラー5fが撥液層3から脱落することを十分に抑制できるとともに、フッ素化合物による優れた撥液性を達成することができる。他方、バインダ樹脂5bの厚さが10μm以下であることで、鱗片状フィラー5fの複雑且つ微細な形状が撥液層3の表面に現れやすく、鱗片状フィラー5fによる優れた撥液性を達成することができる。
【0063】
撥液層3は、撥液機能を損なわない程度の範囲で、必要に応じてその他の添加剤を含んでいてもよい。その他の添加剤としては、例えば、難燃剤、スリップ剤、アンチブロッキング剤、酸化防止剤、光安定剤、粘着付与剤等が挙げられる。
【0064】
撥液層3は、界面活性剤等を含み且つ粘性が高い液状物に対する撥液性をより向上させる観点から、ピロリドン類に由来する構造単位を含まないものであってもよい。すなわち、ピロリドン類に由来する構造単位は、フッ素化合物に含まれないだけでなく、それ以外の撥液層3を構成する成分のいずれにも含まれなくてもよい。撥液層3におけるピロリドン類に由来する構造単位の有無は、赤外分光法や核磁気共鳴分光法、熱分解GC-MSなどにより判断することができる。
【0065】
<撥液性構造体の製造方法>
撥液性構造体10の製造方法について説明する。本実施形態に係る製造方法は、平均粒子径0.1~6μmの鱗片状フィラーと熱可塑性樹脂とフッ素化合物と溶媒とを含む塗液を準備する工程と、基材1の被処理面1a上に、上記塗液の塗膜を形成する工程と、この塗膜を乾燥することによって、鱗片状フィラーの凝集体を有する撥液層を形成する工程とを備える。上記塗液の組成を調整することで、0.1≦WS1/(WP+WFC)≦10の条件を満たす撥液層3が形成される。以下、各工程について説明する。
【0066】
まず、鱗片状フィラー5fと、熱可塑性樹脂と、フッ素化合物と、溶媒とを含む塗液を調製する。溶剤としては水、アルコール、有機溶媒等が挙げられる。塗液中の各成分の配合量(固形分)は、撥液層3における各成分の含有量が上述のとおりになるように適宜調整すればよい。なお、熱可塑性樹脂は、水、アルコール等に分散したエマルジョンの形態であってもよい。このようなポリオレフィンエマルジョンは、対応するモノマーの重合反応等により生成したポリマーを乳化する方法で調製されたものでもよく、あるいは対応するモノマーを乳化重合することにより調製されたものでもよい。
【0067】
得られた塗液を基材1上に塗布する。塗布方法としては公知の方法が特に制限なく使用可能であり、浸漬法(ディッピング法);スプレー、コーター、印刷機、刷毛等を用いる方法が挙げられる。また、これらの方法に用いられるコーター及び印刷機の種類並びにそれらの塗工方式としては、ダイレクトグラビア方式、リバースグラビア方式、キスリバースグラビア方式、オフセットグラビア方式等のグラビアコーター、リバースロールコーター、マイクログラビアコーター、チャンバードクター併用コーター、エアナイフコーター、ディップコーター、バーコーター、コンマコーター、ダイコーター等を挙げることができる。塗液の塗布量は、上述の厚さの撥液層3が得られるように適宜調整することができる。
【0068】
基材1上に形成された塗膜を加熱により乾燥させる。これにより、基材1と、基材1上に設けられた撥液層3とを備える撥液性構造体10を得ることができる。加熱条件は、溶剤を揮発させることができれば制限はないが、例えば60~100℃で0.5~5分間とすることができる。
【0069】
<包装材>
本実施形態に係る包装材は、物品と接する側に、撥液性構造体10を有する。本実施形態に係る包装材は、水分を含む物品(例えば、水、飲料、ヨーグルト)及び油分を含む物品(例えば、カレー及び生クリーム)に適用することができるとともに、ハンドソープ、ボディーソープ、シャンプー、リンス、クリーム類及び化粧品からなる群から選ばれる一種である物品に適用することもできる。包装材の具体的態様としては、カレーやパスタソース用のレトルトパウチ、ヨーグルトやプリン用の容器及び蓋材、ハンドソープやシャンプー、リンス等のトイレタリー用の容器又はこれらの詰め替え用パウチ、歯磨きや医薬品用のチューブなどが挙げられる。
【0070】
<剥離シート>
本実施形態に係る剥離シートは、物品と接する側に、撥液性構造体10を有する。本実施形態に係る剥離シートは、水分を含む物品及び油分を含む物品に適用することができるとともに、ハンドソープ、ボディーソープ、シャンプー、リンス、クリーム類及び化粧品からなる群から選ばれる一種である物品に適用することもできる。より具体的には、剥離シートは、弁当の蓋と、食材との間に配置されるシートであって、粘稠物(例えば、マヨネーズ、タルタルソース又はケチャップ)が弁当の蓋に付着することを防止する用途に使用される。剥離シートは、例えば、クリーム類又は化粧品を収容する容器の蓋の内面に配置されるシートであって、粘稠物(例えば、ヘアワックス、保湿クリーム又はスキンクリーム)が容器の蓋に付着することを防止する用途にも使用される。
【0071】
以上、本開示の第一実施形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。例えば、上記実施形態においては、フィラーとして鱗片状フィラー5fを単独で含む撥液層3を例示したが、撥液層3は鱗片状フィラー5fよりもサイズが小さいフィラー(第2フィラー)及び鱗片状フィラー5fよりもサイズが大きいフィラー(第3フィラー)の少なくとも一方を更に含んでもよい。
【0072】
図6に示す撥液性構造体10Aは、鱗片状フィラー5fよりもサイズが小さいフィラー6f(第2フィラー)を更に含む撥液層3Aを備える。フィラー6fは、例えば、球状であり、5~1000nmの平均粒子径を有する。撥液層形成用の塗液に、適量のフィラー6fを配合することで、鱗片状フィラー5fの一次粒子の間にフィラー6fを介在させることが可能となる(
図6参照)。これにより、鱗片状フィラー5fの一次粒子が過度に積層(凝集)することに起因して過度に大きい凝集体が形成されることを抑制できる。
【0073】
撥液層3Aに含まれる鱗片状フィラーの質量WS1と第2フィラー(フィラー6f)の質量WS2の合計(WS1+WS2)と、撥液層3Aに含まれる熱可塑性樹脂の質量WPとフッ素化合物の質量WFCの合計(WP+WFC)との比(WS1+WS2)/(WP+WFC)は、例えば、0.1~10であり、0.5~10又は1~5であってもよい。上記比(WS1+WS2)/(WP+WFC)が上記範囲内であることで、鱗片状フィラー5f及び第2フィラー(フィラー6f)の全体がバインダ樹脂5bで十分に覆われていながらも、鱗片状フィラー5f及び第2フィラー(フィラー6f)を含む凝集体の形状が撥液層3の表面に現れ易い。これにより、鱗片状フィラー5f及び第2フィラー(フィラー6f)が撥液層3から脱落することが抑制されるとともに、鱗片状フィラー5f及び第2フィラー(フィラー6f)に起因する撥液性及びバインダ樹脂5bに含まれるフッ素化合物による撥液性の両方を享受することができる。
【0074】
撥液層3Aにおける第2フィラー(フィラー6f)の含有量は、鱗片状フィラー5fの質量100質量部に対し、例えば、5~300質量部であり、10~250質量部又は20~200質量部であってもよい。第2フィラー(フィラー6f)の含有量が上記範囲内であると、鱗片状フィラー5fの一次粒子が過度に積層(凝集)することに起因して過度に大きい凝集体が形成されることをより十分に抑制できるとともに、鱗片状フィラー5f及び第2フィラー(フィラー6f)に起因する優れた撥液性が得られ易い。
【0075】
フィラー6fを構成する材料としては、シリカ、タルク、雲母、酸化チタン、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、酸化亜鉛、スメクタイト、ゼオライト、酸化アルミニウム等が挙げられる。フィラー6fとして、例えば、以下の市販品を使用することができる。シリカフィラーの市販品として、例えば、日本アエロジル製のアエロジル、株式会社日本触媒製のシーホスター、信越シリコーン製のシリカ球状微粒子QSG、QCBが挙げられる。酸化チタンフィラーの市販品として、例えば、エボニックデグサ社製のAEROXIDE TiO2が挙げられる。酸化アルミニウムフィラーの市販品として、例えば、エボニックデグサ社製のAEROXIDE Aluが挙げられる。
【0076】
図7に示す撥液性構造体10Bは、鱗片状フィラー5fよりもサイズが大きいフィラー7fを更に含む撥液層3Bを備える。フィラー7fは、例えば、球状であり、10~100μmの平均粒子径を有する。このサイズのフィラー7fを含む撥液層3Bの表面には、鱗片状フィラー5fによって構成される凝集体5による凹凸よりも粗い凹凸が形成される。これにより、撥液層3Bは、界面活性剤等を含み且つ粘性が高い液状物(例えば、ハンドソープ、ボディーソープ、シャンプー、リンス、クリーム類及び化粧品)に対しても特に優れた撥液性を有する。フィラー7fは撥液性を有するものであってもよい。
【0077】
撥液層3Bに含まれる鱗片状フィラーの質量WS1と第3フィラー(フィラー7f)の質量WS3の合計(WS1+WS3)と、撥液層3Bに含まれる熱可塑性樹脂の質量WPとフッ素化合物の質量WFCの合計(WP+WFC)との比(WS1+WS3)/(WP+WFC)は、例えば、0.1~10であり、0.5~10又は1~5であってもよい。上記比比(WS1+WS3)/(WP+WFC)が上記範囲内であることで、鱗片状フィラー5f及び第3フィラー(フィラー7f)の全体がバインダ樹脂5bで十分に覆われていながらも、鱗片状フィラー5fを含む凝集体及び第3フィラー(フィラー7f)の形状が撥液層3の表面に現れ易い。これにより、鱗片状フィラー5f及び第3フィラー(フィラー7f)が撥液層3から脱落することが抑制されるとともに、鱗片状フィラー5f及び第3フィラー(フィラー7f)に起因する撥液性及びバインダ樹脂5bに含まれるフッ素化合物による撥液性の両方を享受することができる。
【0078】
撥液層3Bにおける第3フィラー(フィラー7f)の含有量は、鱗片状フィラー5fの質量100質量部に対し、例えば、50~5000質量部であってもよく、100~2000質量部、80~1000質量部、又は、100~400質量部であってもよい。第3フィラー(フィラー7f)の含有量が上記範囲内であると、鱗片状フィラー5fによって構成される凝集体5による凹凸よりも粗い凹凸が第3フィラー(フィラー7f)によって適度に形成される。これにより、撥液層3Bは、界面活性剤等を含み且つ粘性が高い液状物に対しても、より優れた撥液性が得られ易い。
【0079】
なお、これらのフィラーの平均粒子径はSEMの視野内における任意の計10個のフィラーについて長径と短径の長さを測定し、その和を2で割ることで得られる値の平均値を意味する。
【0080】
フィラー7fを構成する材料としては、シリカ、タルク、雲母、酸化チタン、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、酸化亜鉛、スメクタイト、ゼオライト、酸化アルミニウム、シリコーン、アクリル樹脂、ウレタン樹脂等が挙げられる。フィラー7fとして、例えば、以下の市販品を使用することができる。シリカフィラーの市販品として、例えば、AGCエスアイテック株式会社製のサンスフェアが挙げられる。シリコーンフィラーの市販品として、信越シリコーン製のシリコーンパウダーKMPが挙げられる。アクリル樹脂フィラーの市販品として、アイカ工業株式会社製のガンツパール、根上工業株式会社製のアートパール(架橋アクリルビーズ)が挙げられる。ウレタン樹脂フィラーの市販品として、根上工業株式会社製のアートパール(架橋ウレタンビーズ)が挙げられる。
【0081】
撥液層は、鱗片状フィラー5fとともに、上述の第2フィラー(フィラー6f)及び第3フィラー(フィラー7f)の両方を更に含んでもよい。
図8に示す撥液性構造体10Cは、鱗片状フィラー5fと、フィラー6fと、フィラー7fとを含む撥液層3Cを備える。撥液層3Cの表面には、バインダ樹脂5b、鱗片状フィラー5f及びフィラー6fからなる凝集体5による凹凸と、フィラー7fによる粗い凹凸とが形成される。これにより、撥液層3Cは、界面活性剤等を含み且つ粘性が高い液状物(例えば、ハンドソープ、ボディーソープ、シャンプー、リンス、クリーム類及び化粧品)に対しても特に優れた撥液性を有する。
【0082】
撥液層3Cに含まれる鱗片状フィラーの質量WS1と第2フィラー(フィラー6f)の質量WS2と第3フィラー(フィラー7f)の質量WS3の合計(WS1+WS2+WS3)と、撥液層に含まれる熱可塑性樹脂の質量WPとフッ素化合物の質量WFCの合計(WP+WFC)との比(WS1+WS2+WS3)/(WP+WFC)は、例えば、0.1~10であり、0.3~10、0.5~10又は1~5であってもよい。撥液層3Cにおける第2フィラー(フィラー6f)の含有量は、鱗片状フィラー5fの質量100質量部に対し、例えば、5~300質量部であり、10~250質量部又は20~200質量部であってもよい。撥液層3Cにおける第3フィラー(フィラー7f)の含有量は、鱗片状フィラー5fの質量100質量部に対し、例えば、50~5000質量部であってもよく、100~2000質量部、80~1000質量部、又は、100~400質量部であってもよい。
【0083】
バインダ樹脂5bは、熱可塑性樹脂と、撥液性を有するフッ素化合物とを含む。バインダ樹脂5bは、鱗片状フィラー5fとともに凝集体5を構成する。バインダ樹脂5bは、フィラー7fを結着させる。バインダ樹脂5bにおける熱可塑性樹脂の含有率(バインダ樹脂5bの質量基準)は、例えば、50~95質量%であり、60~95質量%又は70~90質量%であってもよい。バインダ樹脂5bにおける熱可塑性樹脂の含有率が50質量%以上であることで、撥液層3から鱗片状フィラー5f又はフィラー7fが脱落することを十分に抑制することができ、他方、95質量%以下であることで、フッ素化合物の含有率を十分に確保でき、撥液層3が優れた撥液性を発現しやすい。
【0084】
上記実施形態においては、基材1の被処理面1a上に撥液層3が直接接して形成されている場合を例示したが、基材1の被処理面1a上に下地層が形成されており、当該下地層上に撥液層3が形成されていてもよい。以下、下地層について説明する。
【0085】
(下地層)
下地層は基材1と撥液層3との間に配置される層であり、基材1の表面(被処理面1a)の一部又は全部を覆うように形成されている。下地層を基材1と撥液層3との間に介在させることで、基材1と撥液層3との密着性を高めることができる。また、下地層を設けることで、撥液性構造体の撥液性をより向上させることができる。基材1と撥液層3との間に下地層が介在する場合、基材1は下地層と熱融着性を有することが好ましい。
【0086】
下地層は少なくとも熱可塑性樹脂を含み、フィラーを含んでもよい。熱可塑性樹脂としては、撥液層3に用いられる熱可塑性樹脂と同様のものを用いることができる。また、フィラーとしては、撥液層3に用いられるフィラー7f(平均粒子径10~100μm)と同様のものを用いることができる。下地層が含むフィラーの平均一次粒子径は、優れた撥液性の観点から、5~30μm又は10~20μmであってもよい。
【0087】
下地層は、撥液層3に用いられる鱗片状フィラー5fを含んでもよいが、凹凸構造を効率良く形成する観点から、含まなくてもよい。また、下地層は、撥液層3に用いられる第2フィラー(フィラー6f)を含んでもよいが、凹凸構造を効率良く形成する観点から、含まなくてもよい。
【0088】
下地層がフィラーを含む場合、下地層に含まれるフィラー(第5フィラー)の質量WS5と、下地層に含まれる熱可塑性樹脂の質量WPとの比WS5/WPが0.5~10であってもよく、1~7.5又は3~5であってもよい。この値がこの範囲内であることで、撥液性構造体に凹凸構造を効率良く形成できる傾向がある。
【0089】
下地層の厚さは、例えば、0.1~10μmであり、0.5~5μm又は1~3μmであってもよい。下地層の厚さが0.1μm以上であることで撥液層との密着性が向上する傾向がある。他方、下地層の厚さが10μm以下であることで下地層がフィラーを含む際の凹凸形成が効率良くできる傾向がある。なお、下地層がフィラーを含む場合、上記下地層の厚さは、撥液層3におけるバインダ樹脂5bの厚さ(
図1における厚さT)と同様に、熱可塑性樹脂の厚さ(フィラーがない部分の厚さ)を意味する。
【0090】
下地層の単位面積当たりの質量は、例えば、1.0~30.0g/m2であり、3~10g/m2又は4~8g/m2であってもよい。下地層の単位面積当たりの質量が1.0g/m2以上であることで、撥液層との密着性が向上する傾向がある。他方、下地層の単位面積当たりの質量が30g/m2以下であることで、下地層がフィラーを含む場合に、凹凸構造と撥液層との密着性とを効率良く得ることができる。
【0091】
下地層は、必要に応じてその他の添加剤を含んでいてもよい。その他の添加剤としては、例えば、難燃剤、スリップ剤、アンチブロッキング剤、酸化防止剤、光安定剤、粘着付与剤等が挙げられる。
【0092】
下地層の形成方法は、撥液層3の形成方法と同様である。すなわち、下地層は、熱可塑性樹脂と、必要に応じて添加されるフィラー及び他の添加剤等と、溶媒とを含む塗液を調製し、当該塗液を基材1上に塗布して塗膜を形成し、当該塗膜を乾燥させることで形成することができる。塗液に用いられる溶媒、塗液の塗布方法、及び、塗膜の乾燥方法は、撥液層3を形成する場合と同様である。
【0093】
図9は、下地層を有する撥液性構造体の一例を示す概略断面図である。
図9に示す撥液性構造体10Dは、基材1の被処理面1a上に形成された下地層8と、該下地層8上に形成された撥液層3Aとを備える。撥液性構造体10Dにおいて、下地層8は、熱可塑性樹脂8bとフィラー8fとで構成されている。上述したように、下地層の厚さT’は熱可塑性樹脂8bの厚さ(フィラー8fがない部分の厚さ)を意味する。また、撥液性構造体10Dにおいて、撥液層3Aは、
図6に示した撥液性構造体10Aにおける撥液層3Aと同様の構成を有する。但し、下地層8上に形成する撥液層の構成はこれに限定されない。
図9に示すように、下地層8を基材1と撥液層3Aとの間に介在させることで、基材1と撥液層3Aとの密着性をより高めることができる。また、フィラー8fを含有する下地層8上に撥液層3Aを設けることで、撥液層3Aの表面に、粗く且つ複雑な凹凸を形成することができ、撥液性構造体の撥液性をより向上させることができる。
【0094】
[第二実施形態]
第二実施形態に係る撥液性構造体20は、被処理面1aと、被処理面1a上に形成された撥液層3Dとを備え、撥液層3Dが平均粒子径0.1~6μmの鱗片状フィラー5fと、平均粒子径10~100μmのフィラー7f(粗大フィラー)と、熱可塑性樹脂と、フッ素化合物とを含むとともに、鱗片状フィラー5fを含む凝集体5を有し、撥液層3Dを法線方向から見たとき、フィラー7fが占有する面積と撥液層の面積の比率が0.25~0.95である。
【0095】
撥液層3Dが含む成分及びその含有比率等は、第一実施形態及びその変形例と同様とすることができる。以下、第二実施形態に関し、上述の実施形態等と異なる事項について主に説明する。
【0096】
撥液層3Dは、鱗片状フィラー5fと、これよりもサイズが大きいフィラー7fとを含む。フィラー7fは、例えば、球状であり、10~100μmの平均粒子径を有する。このサイズのフィラー7fを含むことにより撥液層3Dの表面には、鱗片状フィラー5fによって構成される凝集体5表面の凹凸よりも粗いμmオーダーの凹凸が形成され、凹状の部分が空隙9となっている。これにより、撥液層3は、界面活性剤等を含み且つ粘性が高い液状物(例えば、ハンドソープ、ボディーソープ、シャンプー、リンス、クリーム類及び化粧品)に対しても特に優れた撥液性を有する。フィラー7fは撥液性を有するものであってもよい。
【0097】
撥液層3に含まれる鱗片状フィラー5fの質量WS1とフィラー7fの質量WS3の合計(WS1+WS3)と、撥液層3に含まれる熱可塑性樹脂の質量WPとフッ素化合物の質量WFCの合計(WP+WFC)との比(WS1+WS3)/(WP+WFC)は、例えば、0.1~10であり、0.5~10又は1~5であってもよい。撥液層3におけるフィラー7fの質量WS3と、鱗片状フィラー5fの質量WS1の比WS3/WS1は、例えば1.0~20.0とすればよい。
【0098】
図11は撥液層3Dを法線方向から見た図であり、撥液層3Dは一部がフィラー7fに占有された態様となっている。フィラー7fに占有されていない部分には、
図10に示したような鱗片状フィラーの凝集体5(
図11に図示せず)が形成されている。撥液層3Dを法線方向から見込んだときにフィラー7fが占有する面積A
3(丸で示した部分)は、撥液層3D全体の面積Aに対して、その比率A
3/Aが0.25~10となる様にする。この比が0.25以上であることで、μmオーダーの粗い凹凸が十分に形成され、液状物の液滴をフィラー7f上に保持することができ、優れた撥液性が得られる。この比が0.95以下であることで、フィラー7fによって撥液層3Dが埋め尽くされて平滑化されることを抑制でき、液滴を撥液層3Dから離間させて保持するのに十分な空隙が形成され、優れた撥液性が得られる。
【0099】
撥液層3Dに含まれる鱗片状フィラー5fの質量WS1とフィラー7fの質量WS3の合計(WS1+WS3)と、撥液層3Dに含まれる熱可塑性樹脂の質量WPとフッ素化合物の質量WFCの合計(WP+WFC)との比(WS1+WS3)/(WP+WFC)は0.1~10であり、0.5~10又は1~5であってもよい。この値がこの範囲内であることで、鱗片状フィラー5f及びフィラー7fの全体がバインダ樹脂5bで十分に覆われていながらも、鱗片状フィラー5fの複雑且つ微細な形状が撥液層3Dの表面に現れている。これにより、鱗片状フィラー5fやフィラー7fが撥液層3Dから脱落することが抑制されるとともに、鱗片状フィラー5f及びフィラー7fに起因する撥液性及びバインダ樹脂5bに含まれるフッ素化合物による撥液性の両方を享受することができる。なお、撥液層3Dを燃焼させても、無機物である鱗片状フィラー5f及びフィラー7fの質量は実質的に変化しないため、(WS1+WS3)/(WP+WFC)の値は撥液層3Dの燃焼による質量の変化を測定し、これらの測定値から算出することができる。
【0100】
図12(a)は比(W
S1+W
S3)/(W
P+W
FC)が0.1未満であり、バインダ樹脂5bが相対的に過剰である撥液層を模式的に示す断面図である。鱗片状フィラー5fの量が相対的に少ないことに起因して鱗片状フィラー5fの複雑且つ微細な形状がバインダ樹脂5bに覆われてしまって鱗片状フィラー5fの当該形状による撥液性の発現が不十分となるおそれがある。他方、
図12(b)は比(W
S1+W
S3)/(W
P+W
FC)が10超であり、バインダ樹脂5bが相対的に不足している撥液層を模式的に示す断面図である。鱗片状フィラー5f及びフィラー7fの量が相対的に多いことに起因して鱗片状フィラー5f又はこれらの凝集体やフィラー7fが撥液層から脱落しやすい。また、撥液層の形成に使用する塗液において鱗片状フィラー5fが沈降しやすく、塗工によって撥液層を安定的に形成することが困難となる傾向にある。
【0101】
凝集体5は、多数の鱗片状フィラー5fと、バインダ樹脂5b(熱可塑性樹脂及びフッ素化合物)が渾然一体となったものである。凝集体5によって撥液層3Dの表面にnmオーダーの凹凸が形成されている。本発明者らの検討によると、一つの凝集体5のサイズ((長径+短径)/2)が4μm以上であれば、撥液層の撥液性向上に凝集体5が寄与する。フィラー7fはバインダ樹脂5bによって撥液層に固定されている。フィラー7fによりμmオーダーの凹凸が形成され、凝集体5の部分に空隙9が形成されていることで液状物の液滴を離間して保持でき、撥液性向上に寄与している。
【0102】
撥液層3Dにおけるバインダ樹脂5bの厚さ(
図10における厚さT)は、例えば、0.05~10μmであり、0.5~10μm又は1~5μmであってもよい。バインダ樹脂5bの厚さが0.05μm以上であることで鱗片状フィラー5fやフィラー7fが撥液層3から脱落することを十分に抑制できるとともに、フッ素化合物による優れた撥液性を達成することができる。他方、バインダ樹脂5bの厚さが10μm以下であることで、鱗片状フィラー5fの複雑且つ微細な形状が撥液層3の表面に現れやすく、鱗片状フィラー5fによる優れた撥液性を達成することができる。
【0103】
第二実施形態に係る撥液性構造体の製造方法は、平均粒子径0.1~6μmの鱗片状フィラー5fと平均粒子径10~100μmのフィラー7fと熱可塑性樹脂とフッ素化合物と溶媒とを含む塗液を準備する工程と、被処理面1a上に、上記塗液の塗膜を形成する工程と、この塗膜を乾燥することによって、鱗片状フィラー5fの凝集体5とフィラー7fとを有する撥液層3Dを形成する工程とを備える。これにより、nmオーダーの凹凸とμmオーダーの凹凸を、一括して形成することができる。一括して形成することで、別途撥水剤をオーバーコートする場合のようにnmオーダーの凹凸が埋もれてしまうことがなく、効率的に形成することができる。
【0104】
以上、本開示の第二実施形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。例えば、上記実施形態においては、フィラーとして、鱗片状フィラー5f及びフィラー7fを含む撥液層3Dを例示したが、撥液層3Dは
図8に示す撥液層3Cと同様、よりサイズが小さいフィラー6fを更に含んでもよい。また、被処理面1aと撥液層3Dとの間に下地層8が設けられていてもよい(
図9参照)。
【0105】
[第三実施形態]
第三実施形態に係る撥液性構造体は、被処理面1aと、被処理面1a上に形成された撥液層とを備え、撥液層が、フィラーと、フッ素化合物と、上記フッ素化合物と反応する官能基を有する架橋剤とを含有する撥液層形成用組成物の硬化物を含む。第三実施形態に係る撥液層が含む成分及びその含有比率等は、第一実施形態及びその変形例並びに第二実施形態と同様とすることができる。以下、第三実施形態に関し、上述の実施形態等と異なる事項について主に説明する。
【0106】
撥液層が含むフィラーの平均一次粒子径は、例えば、5nm~30μmであればよい。フィラーは、平均一次粒子径0.1~6μmの鱗片状フィラー5fを含んでもよく、平均一次粒子径5~1000nmのフィラー6fを含んでもよく、平均一次粒子径5~30μmの第4フィラーを含んでもよい。すなわち、上記フィラーは、平均一次粒子径0.1~6μmの鱗片状フィラー5f、平均一次粒子径5~1000nmのフィラー6f、及び、平均一次粒子径5~30μmの第4フィラーからなる群より選択される少なくとも一種のフィラーを含んでいてもよい。フィラーが鱗片状フィラー5fを含む場合、撥液層は鱗片状フィラー5fの凝集体5を含んでいてもよい。これらのフィラーを含むことで、撥液層は、その表面に凹凸がより効率的に形成され、水、並びに、油又はこれを含む液状物等に対してより優れた撥液性を発現しやすくなる。
【0107】
また、上記フィラーが2種以上のフィラーを含む場合、フィラーの組み合わせの好ましい例としては、鱗片状フィラーと第2フィラー、鱗片状フィラーと第4フィラー、及び、鱗片状フィラーと第2フィラーと第4フィラーの組み合わせが挙げられる。粒子径又は形状の異なる2種以上のフィラーを組み合わせて用いることで、単一のフィラーでは形成できない複雑な凹凸構造を撥液層表面に形成することができ、撥液性をより向上させることができる。このとき、少なくとも鱗片状(板状)フィラーを用いることで、複雑な凹凸構造をより効率良く形成することができ、撥液性をより向上させやすい。
【0108】
バインダ樹脂5bは、フィラーと、撥液性を有するフッ素化合物と、フッ素化合物と反応する官能基を有する架橋剤と、必要に応じて用いられる成分(例えば、熱可塑性樹脂)とを含有する撥液層形成用組成物のうち、フィラー以外の成分からなる組成物(以下、場合により「バインダ組成物」という。)の硬化物である。バインダ樹脂5bは、鱗片状フィラー5fとともに凝集体5を構成する。凝集体5は、多数の鱗片状フィラー5fと、バインダ樹脂5bが渾然一体となったものである。凝集体5によって撥液層の表面に凹凸が形成されている(
図1参照)。
【0109】
バインダ組成物におけるフッ素化合物の含有率(バインダ組成物の固形分の質量基準)は、例えば、5~99質量%であり、15~75質量%又は20~50質量%であってもよい。バインダ組成物におけるフッ素化合物の含有率が5質量%以上であることで、撥液層が優れた撥液性を発現しやすく、他方、99質量%以下であることで、架橋剤や必要に応じて用いられる熱可塑性樹脂の含有率を十分に確保でき、撥液層から鱗片状フィラー5fが脱落することを十分に抑制することができるとともに、撥液層の耐久性を十分に高めることができる。
【0110】
バインダ組成物における熱可塑性樹脂の含有率(バインダ組成物の固形分の質量基準)は、例えば、5~90質量%であり、10~50質量%又は20~30質量%であってもよい。バインダ組成物における熱可塑性樹脂の含有率が5質量%以上であることで、撥液層から鱗片状フィラー5fが脱落することを十分に抑制することができ、他方、90質量%以下であることで、フッ素化合物及び架橋剤の含有率を十分に確保でき、撥液層が優れた撥液性及び耐久性を発現しやすい。
【0111】
バインダ組成物に含まれる架橋剤の質量WCと、バインダ組成物に含まれるフッ素化合物の質量WFCとの比WC/WFCは、例えば、0.01~0.5であり、0.05~0.3又は0.1~0.2であってもよい。上記比WC/WFCが0.01以上であると、撥液層から鱗片状フィラー5fが脱落することを十分に抑制することができるとともに、撥液層の耐久性を十分に高めることができる。他方、上記比WC/WFCが0.5以下であると、フッ素化合物の含有量を十分に確保でき、フッ素化合物を撥液層の表面に十分にブリードアウトさせやすいため、良好な撥液性を発現させることができる。
【0112】
バインダ組成物が熱可塑性樹脂を含む場合、バインダ組成物に含まれる架橋剤の質量WCと、バインダ組成物に含まれる熱可塑性樹脂の質量WPとフッ素化合物の質量WFCの合計(WP+WFC)との比WC/(WP+WFC)は、例えば、0.01~0.5であり、0.05~0.3又は0.1~0.2であってもよい。上記比WC/(WP+WFC)が0.01以上であると、撥液層から鱗片状フィラー5fが脱落することを十分に抑制することができるとともに、撥液層の耐久性を十分に高めることができる。他方、上記比WC/(WP+WFC)が0.5以下であると、フッ素化合物及び熱可塑性樹脂の含有量を十分に確保でき、フッ素化合物を撥液層の表面に十分にブリードアウトさせやすいため、良好な撥液性を発現させることができるとともに、熱可塑性樹脂による撥液層3から鱗片状フィラー5fが脱落することを抑制する効果を十分に得ることができる。
【0113】
フッ素化合物は、水に分散させた水分散体として用いられることが一般的である。そのためフッ素化合物の多くは、水との親和性を高めるために水酸基やアミノ基等の親水性基を有する。フッ素化合物が有するこれらの官能基は、架橋剤が有する官能基と反応し、撥液層3に架橋構造が形成されることとなる。また、フッ素化合物が有するこれらの官能基は、架橋剤と反応することで減少するため、撥液層に残存する官能基が低減される。そのため、撥液層が液状物と長期間接触した場合でも撥液性の低下を抑制でき、優れた撥液性を長期間維持することができる。なお、フッ素化合物を水以外の溶剤に分散させた分散体として用いる場合、フッ素化合物は使用される溶剤との親和性を高めるための構造(例えば、炭化水素鎖等)を有していてもよい。
【0114】
架橋剤としては、フッ素化合物と反応する官能基を有するものであれば特に制限されないが、例えば、アジリジン基、イソシアネート基、カルボジイミド基、アミノ基等の官能基を有する架橋剤を用いることができる。市販の架橋剤としては、例えば、株式会社日本触媒製のケミタイト、三井化学株式会社製のタケネート、日清紡ケミカル株式会社製のカルボジライト、明成化学工業株式会社製のメイカネート、サイテックインダストリーズ社製のサイメル(Cymel)が挙げられる。
【0115】
バインダ組成物が熱可塑性樹脂を含む場合、熱可塑性樹脂は、所定の酸で変性された変性ポリオレフィンであってもよい。変性ポリオレフィンは官能基が導入されているため、架橋剤と反応して架橋構造を形成しやすいという観点からも好ましい。上記官能基としては、カルボキシル基、水酸基、(メタ)アクリロイル基、アミノ基等が挙げられる。これらの官能基を有する変性ポリオレフィンを用いることで、撥液層には熱可塑性樹脂、フッ素化合物及び架橋剤からなる架橋構造が形成され、より優れた耐久性を撥液層に付与することができる。
【0116】
撥液層形成用組成物に含まれる鱗片状フィラー5fの質量WS1と、撥液層形成用組成物に含まれるフッ素化合物の質量WFCと架橋剤の質量WCの合計(WFC+WC)との比WS1/(WFC+WC)、又は、撥液層形成用組成物に含まれる熱可塑性樹脂の質量WPとフッ素化合物の質量WFCと架橋剤の質量WCの合計(WP+WFC+WC)との比WS1/(WP+WFC+WC)は、0.3~10であってもよく、0.5~10又は1~5であってもよい。この値がこの範囲内であることで、鱗片状フィラー5fの全体がバインダ樹脂5bで十分に覆われていながらも、鱗片状フィラー5fの複雑且つ微細な形状が撥液層の表面に現れやすい。これにより、鱗片状フィラー5fが撥液層から脱落することが抑制されるとともに、鱗片状フィラー5fに起因する撥液性及びバインダ樹脂5bに含まれるフッ素化合物による撥液性の両方を享受することができる。
【0117】
なお、撥液層形成用組成物に含まれる鱗片状フィラー5f、フッ素化合物、熱可塑性樹脂及び架橋剤の質量比は、撥液層に含まれる上記各成分の質量比と実質的に同じであり、撥液層を燃焼させても、無機物である鱗片状フィラー5fの質量は実質的に変化しないため、比WS1/(WFC+WC)、又は、比WS1/(WP+WFC+WC)の値は撥液層の燃焼による質量の変化を測定し、これらの測定値から算出することができる。
【0118】
第三実施形態に係る撥液性構造体の製造方法は、フィラーと、フッ素化合物と、上記フッ素化合物と反応する官能基を有する架橋剤と、溶媒とを含む塗液を準備する工程と、被処理面上に、上記塗液の塗膜を形成する工程と、この塗膜を乾燥及び硬化させることによって撥液層を形成する工程とを備える。この方法により、上記効果を奏する撥液性構造体を製造することができる。
【0119】
以上、本開示の第三実施形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。例えば、被処理面1aと撥液層との間に下地層8が設けられていてもよい(
図9参照)。
【0120】
[第四実施形態]
第四実施形態に係る撥液性構造体は、被処理面1aと、被処理面1a上に形成された撥液層とを備える撥液性構造体であって、上記撥液層が、フッ素含有樹脂を含むバインダ樹脂と、該バインダ樹脂中に分散されたフィラーとを含有し、上記フッ素含有樹脂中に含まれるフッ素の質量WFと上記フィラーの質量WSとの比WF/WSが0.06~0.90である。第四実施形態に係る撥液層が含む成分及びその含有比率等は、第一実施形態及びその変形例並びに第二実施形態及び第三実施形態と同様とすることができる。以下、第四実施形態に関し、上述の実施形態等と異なる事項について主に説明する。
【0121】
バインダ樹脂は、少なくともフッ素含有樹脂を含む。フッ素含有樹脂としては特に制限されず、パーフルオロアルキル、パーフルオロアルケニル、パーフルオロポリエーテル等の構造を有する樹脂を適宜用いることができる。フッ素含有樹脂は、撥液層3の撥液性をより向上させる観点から、フッ素-アクリル共重合体を含むことが好ましい。フッ素-アクリル共重合体とは、含フッ素単量体とアクリル単量体とからなる共重合体である。フッ素-アクリル共重合体は、ブロック共重合体であってもランダム共重合体であってもよい。フッ素-アクリル共重合体を用いることで、撥液層3の耐侯性、耐水性、耐薬品性及び造膜性についても向上させることができる。
【0122】
フッ素含有樹脂中のフッ素含有量は、例えば30~60質量%であり、40~50質量%であってもよい。フッ素含有量は、フッ素含有樹脂を構成する原子の総質量に対するフッ素原子の質量の割合を意味する。
【0123】
フッ素含有樹脂としては、市販のフッ素系塗料を使用することができる。市販のフッ素系塗料として、例えば、旭硝子株式会社製のアサヒガード、AGCセイミケミカル株式会社製のエスエフコート、株式会社ネオス製のフタージェント、ソルベイ社製のフルオロリンク、ダイキン工業株式会社製のユニダイン、第一工業製薬株式会社製のH-3539シリーズ、日油株式会社製のモディパーFシリーズ等が挙げられる。
【0124】
上述のとおり、撥液層において、フッ素含有樹脂中に含まれるフッ素の質量W
Fとフィラーの質量W
Sとの比W
F/W
Sは0.06~0.90である。ここで、フィラーの質量W
Sは、2種以上のフィラーを用いている場合は、それらの総量を意味する。例えば、
図1に示す撥液層3においては、鱗片状フィラー5fの質量W
S1がフィラーの質量W
Sに相当する。上記比W
F/W
Sが0.06以上であると、フィラー表面に十分な量のフッ素を効率良く配置することができ、撥液層の表面自由エネルギーを効率良く低下させることができるため、撥液層は優れた撥液性を得ることができる。かかる効果をより十分に得る観点から、比W
F/W
Sは0.10以上であってもよく、0.15以上であってもよく、0.21以上であってもよい。特に、比W
F/W
Sが0.21以上であると、撥液層表面に存在するフッ素の量が増えるため、撥液性がより向上する。また、フッ素含有樹脂としてフッ素-アクリル共重合体を用いた場合、比W
F/W
Sが0.21以上であるとアクリル成分の量も増えるため塗膜の強度が向上し、フィラーの脱落を抑制することができる。一方、上記比W
F/W
Sが0.90以下であると、フィラーがフッ素含有樹脂に埋もれることなく、撥液層表面に凹凸が効率的に形成され、撥液層は優れた撥液性を得ることができる。かかる効果をより十分に得る観点から、比W
F/W
Sは0.80以下であってもよく、0.70以下であってもよく、0.60以下であってもよく、0.50以下であってもよい。上記比W
F/W
Sは、例えば熱分解GC-MS、燃焼IC法などにより測定することができる。また、上記比W
F/W
Sは、撥液層を構成する各成分の配合量が分かる場合には、当該配合量から計算により求めることもできる。なお、質量W
Fと質量W
Sの単位は同一である。
【0125】
バインダ樹脂5bにおけるフッ素含有樹脂の含有率(バインダ樹脂5bの質量基準)は、例えば、5質量%以上であり、15質量%以上又は50質量%以上であってもよい。バインダ樹脂5bにおけるフッ素含有樹脂の含有率は100質量%であってもよいが、バインダ樹脂5bが熱可塑性樹脂や架橋剤を含む場合、フッ素含有樹脂の含有率は99質量%以下であってもよく、75質量%以下であってもよい。バインダ樹脂5bにおけるフッ素含有樹脂の含有率が5質量%以上であると、撥液層が優れた撥液性を発現しやすく、他方、99質量%以下であると、熱可塑性樹脂や架橋剤の含有率を十分に確保でき、撥液層からフィラーが脱落することを十分に抑制することができるとともに、撥液層の耐久性を十分に高めることができる。
【0126】
バインダ樹脂5bにおける熱可塑性樹脂の含有率(バインダ樹脂5bの質量基準)は、例えば、5~90質量%であり、10~50質量%又は20~30質量%であってもよい。バインダ樹脂5bにおける熱可塑性樹脂の含有率が5質量%以上であると、撥液層からフィラーが脱落することを十分に抑制することができ、他方、90質量%以下であると、フッ素含有樹脂や架橋剤の含有率を十分に確保でき、撥液層が優れた撥液性及び耐久性を発現しやすい。
【0127】
バインダ樹脂5bに含まれる架橋剤の質量WCと、バインダ樹脂5bに含まれるフッ素含有樹脂の質量WJとの比WC/WJは、例えば、0.01~0.5であり、0.05~0.3又は0.1~0.2であってもよい。上記比WC/WJが0.01以上であると、撥液層からフィラーが脱落することを十分に抑制することができるとともに、撥液層の耐久性を十分に高めることができる。他方、上記比WC/WJが0.5以下であると、フッ素含有樹脂の含有量を十分に確保でき、フッ素含有樹脂を撥液層の表面に十分にブリードアウトさせることができるため、良好な撥液性を発現させることができる。
【0128】
バインダ樹脂5bが熱可塑性樹脂及び架橋剤を含む場合、バインダ樹脂5bに含まれる架橋剤の質量WCと、バインダ樹脂5bに含まれる熱可塑性樹脂の質量WPとフッ素含有樹脂の質量WJの合計(WP+WJ)との比WC/(WP+WJ)は、例えば、0.01~0.5であり、0.05~0.3又は0.07~0.2であってもよい。上記比WC/(WP+WJ)が0.01以上であると、撥液層からフィラーが脱落することを十分に抑制することができるとともに、撥液層の耐久性を十分に高めることができる。他方、上記比WC/(WP+WJ)が0.5以下であると、フッ素含有樹脂及び熱可塑性樹脂の含有量を十分に確保でき、フッ素含有樹脂を撥液層の表面に十分にブリードアウトさせることができるため、良好な撥液性を発現させることができるとともに、熱可塑性樹脂による撥液層からフィラーが脱落することを抑制する効果を十分に得ることができる。
【0129】
撥液層に含まれるバインダ樹脂5bの質量WBとフィラーの質量WSとの比WB/WSは、0.1~5であってもよく、0.2~2又は0.3~1であってもよい。ここで、バインダ樹脂5bの質量WBは、フッ素含有樹脂の質量WJ、熱可塑性樹脂の質量WP、及び、架橋剤の質量WCの合計の質量に相当する。上記比WB/WSが上記範囲内であることで、フィラーの全体がバインダ樹脂5bで十分に覆われていながらも、撥液層の表面にフィラーによる凹凸構造が形成されやすい。これにより、フィラーが撥液層から脱落することが抑制されるとともに、フィラーに起因する撥液性及びバインダ樹脂5bに含まれるフッ素含有樹脂による撥液性の両方を享受することができる。なお、撥液層3を燃焼させてもフィラーの質量WSは実質的に変化しないため、上記比WB/WSの値は、撥液層の燃焼による質量の変化を測定し、その測定値から算出することができる。
【0130】
凝集体5は、多数の鱗片状フィラー5fと、バインダ樹脂5b(フッ素含有樹脂、熱可塑性樹脂及び架橋剤等の硬化物)が渾然一体となったものである。凝集体5によって撥液層3の表面に凹凸が形成されている(
図1参照)。本発明者らの検討によると、一つの凝集体5のサイズ((長径+短径)/2)が4μm以上であれば、撥液層3の撥液性向上に凝集体5が大きく寄与する。
【0131】
複数の凝集体5は撥液層3において互いに離間して配置されていてもよい。つまり、複数の凝集体5が島状に配置されていてもよい。あるいは、多数の凝集体5が連続的に形成されており、撥液層3において凝集体5からなる多孔質な層が形成されていてもよい。また、凝集体5は鱗片状フィラー5fの複雑且つ微細な形状に由来する複雑な形状を有している。すなわち、凝集体5は、複数の鱗片状フィラー5fの一次粒子(例えば平均一次粒子径0.1~6μmの粒子)がランダムに並んだ状態で凝集していることで、ひだ状の表面と、ひだによって形成される空隙部とを有する。
【0132】
撥液層3の単位面積当たりの質量は、例えば、0.3~10.0g/m2であり、1.0~3.0g/m2又は1.5~2.5g/m2であってもよい。撥液層3の単位面積当たりの質量が0.3g/m2以上であることで、フッ素含有樹脂による優れた撥液性を達成することができる。他方、撥液層3の単位面積当たりの質量が10.0g/m2以下であることで、凹凸構造とフッ素含有樹脂による撥液効果とを効率良く得ることができる。
【0133】
フッ素含有樹脂は、界面活性剤等を含み且つ粘性が高い液状物(例えば、ハンドソープ、ボディーソープ、シャンプー、リンス、クリーム類及び化粧品)に対する撥液性をより向上させる観点から、ピロリドン又はその誘導体(ピロリドン類)に由来する構造単位を含まないものであってもよい。ここで、ピロリドン類としては、例えば、N-ビニル-2-ピロリドン、N-ビニル-3-メチル-2-ピロリドン、N-ビニル-5-メチル-2-ピロリドン、N-ビニル-3,3-ジメチル-2-ピロリドンなどが挙げられる。ピロリドン類に由来する構造単位を含まないフッ素含有樹脂としては、例えば、旭硝子株式会社製のアサヒガードAG-E060、AG-E070、AG-E090、ダイキン工業株式会社製のユニダインTG-8111が挙げられる。
【0134】
バインダ樹脂は熱可塑性樹脂及び架橋剤の一方又は両方を更に含んでもよい。バインダ樹脂が熱可塑性樹脂を含むことで、撥液層からのフィラーの脱落をより十分に抑制でき、且つ、撥液層の撥液性及び耐久性をより向上させることができる。熱可塑性樹脂は、第一実施形態において挙げたものから選択すればよい。バインダ樹脂が架橋剤を含む場合、撥液層においてバインダ樹脂は、架橋剤を介してフッ素含有樹脂や熱可塑性樹脂が架橋した架橋構造を有していてもよい。撥液層が架橋剤を更に含むことで、例えばフッ素含有樹脂と架橋剤とが反応して撥液層中に架橋構造が形成され、撥液層からフィラーが脱落することをより一層抑制することができる。また、架橋剤がフッ素含有樹脂と反応することで、フッ素含有樹脂が有する反応点(水酸基等の官能基)を減らすことができ、上記反応点に起因した撥液層と液状物(水、並びに、油又はこれを含む液状物等)との親和性を低下させることができる。更に、フッ素含有樹脂と架橋剤により架橋構造が形成されることで、フッ素含有樹脂が有するパーフルオロアルキル基(Rf基)等のフッ素含有基の配向を剛直にすることができると考えられ、撥液層と液状物とが長期間接触した際にフッ素含有基の配向が乱れて撥液性が低下することを抑制することができるものと考えられる。架橋剤の添加により生じるこれらの作用により、撥液層は、液状物と長期間接触しても優れた撥液性を維持することができる。架橋剤は、第三実施形態において挙げたものから選択すればよい。
【0135】
第四実施形態に係る撥液性構造体の製造方法は、フッ素含有樹脂を含むバインダ樹脂とフィラーとを含む塗液を準備する工程と、撥液性を付与すべき表面上に、上記塗液の塗膜を形成する工程と、上記塗膜を乾燥及び硬化させることによって撥液層を形成する工程とを備える。塗液において、フッ素含有樹脂中に含まれるフッ素の質量WFとフィラーの質量WSとの比WF/WSは、0.06~0.90である。塗液は、例えば、鱗片状フィラー5fと、フッ素含有樹脂と、溶媒と、必要に応じて熱可塑性樹脂及び架橋剤の少なくとも一方とを含む。塗液が架橋剤を含む場合、撥液層3には、フッ素含有樹脂と必要に応じて用いられる熱可塑性樹脂と架橋剤とからなる架橋構造が形成される。加熱条件は、溶剤を揮発させることができ且つ架橋反応を生じさせることができれば制限はないが、例えば60~100℃で0.5~5分間とすることができる。この方法により、上述した効果を奏する本開示の撥液性構造体を製造することができる。
【0136】
なお、撥液層3は、鱗片状フィラー5fの代わりに第2フィラーを単独で含む層であってもよく、鱗片状フィラー5fの代わりに第3フィラーを単独で含む層であってもよい。
図13に示す撥液性構造体40Aは、フィラーとして、鱗片状フィラー5fよりもサイズが小さい第2フィラー(フィラー6f)を単独で含む撥液層3Eを備える。フィラー6fは、例えば、球状であり、5~1000nmの平均一次粒子径を有する。撥液層3Eにおいても、上述した比W
F/W
Sを0.06~0.90とすることで、撥液層3Eは優れた撥液性を得ることができる。なお、
図13に示す撥液層3Eにおいては、フィラー6fの質量W
S2がフィラーの質量W
Sに相当する。この変形例において、比W
F/W
Sの好ましい範囲やその効果は、本実施形態において説明したものと同様である。
【0137】
本実施形態における撥液層は、
図6に示す撥液層3Aと同様、フィラーとして、鱗片状フィラー5fと、鱗片状フィラー5fよりもサイズが小さいフィラー6fとを含む態様であってもよい。撥液層形成用の塗液に、適量のフィラー6fを配合することで、鱗片状フィラー5fの一次粒子の間にフィラー6fを介在させることが可能となる(
図6参照)。これにより、鱗片状フィラー5fの一次粒子が過度に積層(凝集)することに起因して過度に大きい凝集体が形成されることを抑制できる。この態様においても、上述した比W
F/W
Sを0.06~0.90とすることで、撥液層は優れた撥液性を得ることができる。なお、この態様においては、鱗片状フィラー5fの質量W
S1とフィラー6fの質量W
S2との合計が、フィラーの質量W
Sに相当する。この態様に係る凝集体は、鱗片状フィラー5fと、フィラー6fと、これらを覆っているバインダ樹脂5bとによって構成されている。この態様において、比W
F/W
Sの好ましい範囲やその効果は、撥液性構造体10において説明したものと同様である。また、撥液層に含まれるフィラーが異なる点以外の構成は、本実施形態において説明したものと同様である。また、撥液層に含まれるフィラーが異なる点以外の構成は、撥液性構造体10において説明したものと同様である。
【0138】
フィラー6fの含有量は、鱗片状フィラー5fの質量100質量部に対し、例えば、5~300質量部であってもよく、10~250質量部、又は、20~200質量部であってもよい。フィラー6fの含有量が上記範囲内であると、鱗片状フィラー5fの一次粒子が過度に積層(凝集)することに起因して過度に大きい凝集体が形成されることをより十分に抑制できるとともに、鱗片状フィラー5f及びフィラー6fに起因する優れた撥液性が得られ易い。
【0139】
本実施形態における撥液層は、
図7に示す撥液層3Bと同様、フィラーとして、鱗片状フィラー5fと、鱗片状フィラー5fよりもサイズが大きいフィラー7fとを更に含む態様であってもよい。フィラー7fは、例えば、球状であり、5~30μmの平均一次粒子径を有する。このサイズのフィラー7fを含む撥液層の表面には、鱗片状フィラー5fによって構成される凝集体による凹凸よりも粗い凹凸が形成される。これにより、この態様に係る撥液層は、界面活性剤等を含み且つ粘性が高い液状物(例えば、ハンドソープ、ボディーソープ、シャンプー、リンス、クリーム類及び化粧品)に対しても特に優れた撥液性を有する。フィラー7fは撥液性を有するものであってもよい。
【0140】
この態様に係る撥液層においても、上述した比WF/WSを0.06~0.90とすることで、撥液層は優れた撥液性を得ることができる。なお、この態様に係る撥液層においては、鱗片状フィラー5fの質量WS1とフィラー7fの質量WS3との合計が、フィラーの質量WSに相当する。この態様において、比WF/WSの好ましい範囲やその効果は、本実施形態において説明したものと同様である。また、撥液層に含まれるフィラーが異なる点以外の構成は、撥液性構造体10において説明したものと同様である。
【0141】
撥液層は、鱗片状フィラー5fとともに、上述のフィラー6f及びフィラー7fの両方を更に含んでもよい。
図6に示す撥液性構造体10Dは、鱗片状フィラー5fと、フィラー6fと、フィラー7fとを含む撥液層3Dを備える。撥液層3Dの表面には、バインダ樹脂5b、鱗片状フィラー5f及びフィラー6fからなる凝集体5による凹凸と、フィラー7fによる粗い凹凸とが形成される。これにより、撥液層3Dは、界面活性剤等を含み且つ粘性が高い液状物(例えば、ハンドソープ、ボディーソープ、シャンプー、リンス、クリーム類及び化粧品)に対しても特に優れた撥液性を有する。
【0142】
撥液層3Dにおいても、上述した比W
F/W
Sを0.06~0.90とすることで、撥液層3Dは優れた撥液性を得ることができる。なお、
図6に示す撥液層3Dにおいては、鱗片状フィラー5fの質量W
S1とフィラー6fの質量W
S2とフィラー7fの質量W
S3との合計が、フィラーの質量W
Sに相当する。本実施形態において、比W
F/W
Sの好ましい範囲やその効果は、撥液性構造体10において説明したものと同様である。また、撥液層に含まれるフィラーが異なる点以外の構成は、撥液性構造体10において説明したものと同様である。
【0143】
以上説明した実施形態に限らず、撥液層に用いるフィラーは適宜選択することができる。例えば、撥液層に含まれるフィラーは、鱗片状フィラー5f、フィラー6f及びフィラー7f以外のフィラーを含んでいてもよい。なお、より優れた撥液性を撥液層に付与する観点から、撥液層は、鱗片状フィラー5f、フィラー6f及びフィラー7fからなる群より選択される少なくとも一種を含むことが好ましく、少なくとも鱗片状フィラー5fを含むことがより好ましく、鱗片状フィラー5fとフィラー6f及びフィラー7fの少なくとも一方とを含むことが更に好ましく、鱗片状フィラー5f、フィラー6f及びフィラー7fの3種類のフィラーを含むことが特に好ましい。
【0144】
以上、本開示の第四実施形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。例えば、被処理面1aと撥液層との間に下地層が設けられていてもよい(
図9参照)。
【実施例】
【0145】
本開示を以下の実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
【0146】
第一実施形態に係る撥液性構造体及び比較例に係る撥液性構造体を作製するため、以下の材料を準備した。
(基材)
・ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム
(熱可塑性樹脂)
・変性ポリオレフィン:アウローレンAE-301(商品名、日本製紙株式会社製、融点60~70℃)
(フッ素化合物)
・フッ素系塗料a:アサヒガードAG-E060(商品名、旭硝子株式会社製、ピロリドン類に由来する構造単位を有さない化合物、カチオン系の水系材料)
・フッ素系塗料b:アサヒガードAG-E070(商品名、旭硝子株式会社製、ピロリドン類に由来する構造単位を有さない化合物、カチオン系の水系材料)
・フッ素系塗料c:アサヒガードAG-E090(商品名、旭硝子株式会社製、ピロリドン類に由来する構造単位を有さない化合物、アニオン系の水系材料)
・フッ素系塗料d:ユニダインTG-8111(商品名、ダイキン工業株式会社製、ピロリドン類に由来する構造単位を有さない化合物、アニオン系の水系材料)
・フッ素系塗料e:ユニダインTG-8811(商品名、ダイキン工業株式会社製、ピロリドン類に由来する構造単位を有する化合物、カチオン系の水系材料)
(鱗片状フィラー)
・鱗片状シリカa:サンラブリー(商品名、AGCエスアイテック株式会社製、平均粒子径4~6μm)
・鱗片状シリカb:サンラブリー(商品名、AGCエスアイテック株式会社製、平均粒子径0.1μm)
・鱗片状雲母:レプコマイカ(商品名、株式会社レプコ製、平均粒子径4μm)
(第2フィラー)
・シリカ粒子a:AEROSIL(商品名、日本アエロジル株式会社製、平均粒子径7nm)
・シリカ粒子b:AEROSIL(商品名、日本アエロジル株式会社製、平均粒子径30nm)
・シリカ粒子c:シーホスター(商品名、株式会社日本触媒製、平均粒子径500nm)
・シリカ粒子d:シーホスター(商品名、株式会社日本触媒製、平均粒子径1000nm)
(第3フィラー及び第5フィラー)
・シリカ粒子e:サンスフェア(商品名、AGCエスアイテック株式会社製、平均粒子径10μm)
・シリカ粒子f:サンスフェア(商品名、AGCエスアイテック株式会社製、平均粒子径20μm)
・アクリルビーズa:アートパール(商品名、根上工業株式会社製、平均粒子径90μm)
・アクリルビーズb:アートパール(商品名、根上工業株式会社製、平均粒子径10μm)
・シリカ粒子g:HS-304(商品名、日鉄ケミカル&マテリアル株式会社製、平均粒子径28μm)
・シリカ粒子h:サンスフェア(商品名、AGCエスアイテック株式会社製、平均粒子径5μm)
・シリカ粒子i:サンスフェア(商品名、AGCエスアイテック株式会社製、平均粒子径12μm)
・ポリエチレン粒子:フロービーズ(商品名、住友精化株式会社製、平均粒子径11μm)
(溶媒)
・アルコール系溶媒(2-プロパノール)
【0147】
<撥液性構造体の作製>
(実施例1a~12a)
撥液層における各成分の質量比(固形分)が表1~3の実施例1a~12aにそれぞれ示すものとなるように、熱可塑性樹脂、フッ素系塗料(フッ素化合物)、鱗片状フィラー、第2フィラー、及び、第3フィラーのうちの使用する各成分を溶媒に加えた。これを充分に撹拌して撥液層形成用塗液を調製し、基材としてのPETフィルム上にバーコーターを用いて塗布した。その後、塗布された塗液を80℃で1分間加熱乾燥し、基材上に撥液層を形成した。撥液層におけるバインダ層の厚さ(
図1における厚さT)が0.5μmとなるように塗布量を調整した。
【0148】
(実施例13a、22a~25a及び28a)
撥液層における各成分の質量比(固形分)が表4~5の実施例13a、22a~25a及び28aにそれぞれ示すものとなるように、熱可塑性樹脂、フッ素系塗料(フッ素化合物)、鱗片状フィラー、第2フィラー、及び、第3フィラーのうちの使用する各成分を溶媒に加えた。これを充分に撹拌して撥液層形成用塗液を調製し、基材としてのPETフィルム上にバーコーターを用いて塗布した。その後、塗布された塗液を80℃で1分間加熱乾燥し、基材上に撥液層を形成した。撥液層におけるバインダ層の厚さ(
図1における厚さT)が0.5μmとなるように塗布量を調整した。
【0149】
(実施例14a~21a及び26a~27a)
下地層における各成分の質量比(固形分)が表4~5の実施例14a~21a及び26A~27Aにそれぞれ示すものとなるように、熱可塑性樹脂、及び、必要に応じて第5フィラーを溶媒に加えた。これを充分に撹拌して下地層形成用塗液を調製し、基材としてのPETフィルム上にバーコーターを用いて塗布した。その後、塗布された塗液を80℃で1分間加熱乾燥し、基材上に下地層を形成した。下地層における熱可塑性樹脂の層の厚さ(
図9における厚さT’)が0.5μmとなるように塗布量を調整した。
【0150】
次に、撥液層における各成分の質量比(固形分)が表4~5の実施例14a~21a及び26a~27aにそれぞれ示すものとなるように、熱可塑性樹脂、フッ素系塗料(フッ素化合物)、鱗片状フィラー、第2フィラー、及び、第3フィラーのうちの使用する各成分を溶媒に加えた。これを充分に撹拌して撥液層形成用塗液を調製し、下地層上にバーコーターを用いて塗布した。その後、塗布された塗液を80℃で1分間加熱乾燥し、下地層上に撥液層を形成した。撥液層におけるバインダ層の厚さ(
図1における厚さT)が0.5μmとなるように塗布量を調整した。
【0151】
(実施例29a~37a)
下地層における各成分の質量比(固形分)が表6~7の実施例29a~37aにそれぞれ示すものとなるように、熱可塑性樹脂、及び、第5フィラーを溶媒に加えた。これを充分に撹拌して下地層形成用塗液を調製し、基材としてのPETフィルム上にバーコーターを用いて塗布した。その後、塗布された塗液を80℃で1分間加熱乾燥し、基材上に下地層を形成した。下地層における熱可塑性樹脂の層の厚さ(
図9における厚さT’)が0.5μmとなるように塗布量を調整した。
【0152】
次に、撥液層における各成分の質量比(固形分)が表6の実施例29a~37aにそれぞれ示すものとなるように、熱可塑性樹脂、フッ素系塗料(フッ素化合物)、鱗片状フィラー、第2フィラー、及び、第3フィラーのうちの使用する各成分を溶媒に加えた。これを充分に撹拌して撥液層形成用塗液を調製し、下地層上にバーコーターを用いて塗布した。その後、塗布された塗液を80℃で1分間加熱乾燥し、下地層上に撥液層を形成した。撥液層におけるバインダ層の厚さ(
図1における厚さT)が0.5μmとなるように塗布量を調整した。
【0153】
【0154】
【0155】
【0156】
【0157】
【0158】
【0159】
比較例に係る撥液性構造体を作製するため、以下の材料を準備した。
(基材)
・ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム
(熱可塑性樹脂)
・変性ポリオレフィン:アウローレンAE-301(商品名、日本製紙株式会社製、融点60~70℃)
(フッ素化合物)
・フッ素系塗料a:アサヒガードAG-E060(商品名、旭硝子株式会社製、ピロリドン類に由来する構造単位を有さない化合物)
(鱗片状フィラー)
・鱗片状シリカa:サンラブリー(商品名、AGCエスアイテック株式会社製、平均粒子径4~6μm)
(真球状フィラー)
・真球状シリカ:サンスフェア(商品名、AGCエスアイテック株式会社製、平均粒子径4μm)
【0160】
<撥液性構造体の作製>
(比較例1a)
表7の比較例1aに示すとおり、まず、フッ素系塗料を含まない塗液を用いたことの他は実施例1aと同様にして鱗片状フィラー及び熱可塑性樹脂を含む層(以下、「下地層」という。)を基材上に形成した。その後、下地層の表面上に実施例1aで使用したフッ素系塗料をバーコーターを用いて塗布した。塗布されたフッ素系塗料を80℃で1分間加熱乾燥し、下地層の表面上にオーバーコート層を形成した。
【0161】
なお、
図14(a)及び
図14(b)は比較例1aに係る構造体を撮影したものではないものの、
図14(a)は鱗片状フィラーを含む下地層のSEM画像であり、
図14(b)は鱗片状フィラーを含む下地層及びこれを覆うオーバーコート層のSEM画像である。これらのSEM画像によれば、オーバーコート層によって鱗片状フィラーの微細な凹凸が埋もれている様子が見て取れる。
【0162】
(比較例2a)
表7の比較例2aに示すとおり、鱗片状フィラーを含まない塗液を用いたことの他は実施例1aと同様にして熱可塑性樹脂及びフッ素系塗料を含む撥液層を基材上に形成した。
【0163】
(比較例3a)
表7の比較例3aに示すとおり、鱗片状フィラーの代わりに真球状フィラーを含む塗液を用いたことの他は実施例1aと同様にして基材上に撥液層を形成した。なお、真球状シリカの質量をAとして、比WS1/(WP+WFC)を算出した。
【0164】
(比較例4a,5a)
撥液層における各成分の質量比(固形分)を表7の比較例4a,5aにそれぞれ示すものとしたことの他は、実施例1aと同様にして基材上に撥液層を形成した。
【0165】
【0166】
<撥液性構造体の評価>
撥液性構造体について、以下の観点から評価を行った。評価結果を表8~17に示す。
【0167】
(撥液性評価)
撥液性構造体を撥液層側の面が上になるように平置きし、撥液層上に下記の液体(生クリームを除く)をスポイトで2μL滴下した。その後、撥液性構造体を垂直に立て、そのまま30秒静置して、滴下した液体の状態を目視にて観察した。生クリームはスポイトで採取できないため、薬さじで少量のかたまりを採取し、これを撥液層上に落とした。その後、撥液性構造体を垂直に立て、そのまま30秒静置して、生クリームの状態を目視にて観察した。
[使用した液体]
純水
カレー:ボンカレーゴールド中辛(大塚食品)
生クリーム:苺のショートケーキ(ファミリーマート)から採取
ヨーグルト:明治ブルガリアヨーグルトL81低糖(明治)
サラダ油:日清サラダ油(日清オイリオ)
ハンドソープ:くらしモア 薬用ハンドソープ(日本石鹸)
シャンプー1:植物の恵みで髪にやさしいシャンプー(セブンイレブン)
シャンプー2:地肌までここちよく洗うシャンプー(セブンイレブン)
シャンプー3:TSUBAKIシャイニングシャンプー(資生堂)
シャンプー4:ジュレームモイストリペアシャンプー(コーセー)
シャンプー5:ジュレームリラックスシャンプー ソフト&モイスト(コーセー)
[評価基準]
A:撥液層上から液滴が丸くなって転がり落ちた。又は剥がれ落ちた。
B:撥液層上から流れ落ち、流れた跡が残らなかった。
C:撥液層上から流れ落ちたが、流れた跡が点状に残った。
D:撥液層上から流れ落ちたが、流れた跡が線状に残った。
E:撥液層上に留まって動かなかった。又は撥液層中に染み込んだ。
【0168】
(付着性評価)
粘稠物に対する付着性評価を以下の方法で行った。ポリプロピレン(PP)フィルムを平置きし、下記の粘稠物を薬さじで2g採取し、これをPPフィルム上に落とした。撥液性構造体を撥液層側の面がPPフィルムと対向するように配置し、それを50g/25cm2の荷重で粘稠物に押し当て、そのまま10秒間静置した。その後、撥液性構造体を剥離し、粘稠物と接触していた撥液層の接触面への粘稠物の付着状態を目視にて観察した。観察結果から下記の評価基準に基づいて付着性を評価した。評価結果がA~Dであれば実用上問題ないと言える。評価結果はA~Cであることが望ましい。
[使用した粘稠物]
粘稠物1:キユーピーマヨネーズ(キユーピー)
粘稠物2:ウーノ ハイブリットハード(資生堂)
粘稠物3:フリープラスモイストケアローション(カネボウ化粧品)
粘稠物4:オードムーゲ薬用スキンクリーム(小林製薬)
[評価基準]
A:接触面に粘稠物の付着が見られなかった。
B:接触面の10%未満の面積に粘稠物の付着が見られた。
C:接触面の10%以上30%未満の面積に粘稠物の付着が見られた。
D:接触面の30%以上70%未満の面積に粘稠物の付着が見られた。
E:接触面の70%以上の面積に粘稠物の付着が見られた。
【0169】
【0170】
【0171】
【0172】
【0173】
【0174】
【0175】
【0176】
【0177】
【0178】
【0179】
比較例5aに係る撥液層はフィラーが脱落したため、撥液性評価及び付着性評価を実施することができなかった。
【0180】
第二実施形態に係る撥液性構造体及び比較例に係る撥液性構造体を作製するため、以下の材料を準備した。
(基材)
・ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム
(熱可塑性樹脂)
・変性ポリオレフィン:アウローレン(商品名、日本製紙製、融点60~70℃)
(フッ素化合物)
・フッ素系塗料:アサヒガード(商品名、旭硝子製)
(鱗片状フィラー)
・鱗片状シリカa:サンラブリー(商品名、AGCエスアイテック製、平均粒子径4~6μm)
・鱗片状シリカb:サンラブリー(商品名、AGCエスアイテック製、平均粒子径0.1μm)
・鱗片状雲母:レプコマイカ(商品名、レプコ製、平均粒子径4μm)
(粗大フィラー)
・シリカ粒子a:サンスフェア(商品名、AGCエスアイテック製、平均粒子径10μm)
・シリカ粒子b:サンスフェア(商品名、AGCエスアイテック製、平均粒子径20μm)
・アクリルビーズ:アートパール(商品名、根上工業製、平均粒子径90μm)
(第2フィラー)
・シリカ粒子c:AEROSIL(商品名、日本アエロジル製、平均粒径7nm)
・シリカ粒子d:AEROSIL(商品名、日本アエロジル製、平均粒径13nm)
・シリカ粒子e:AEROSIL(商品名、日本アエロジル製、平均粒径30nm)
・シリカ粒子f:シーホスター(商品名、日本触媒製、平均粒径500nm)
・シリカ粒子g:シーホスター(商品名、日本触媒製、平均粒径1000nm)
(オーバーコート層)
・フッ素系塗料:アサヒガード(商品名、旭硝子製)
【0181】
<撥液性構造体の作製>
(実施例1b~14b)
撥液層における各成分の質量比(固形分)が表18の実施例1b~14bにそれぞれ示すものとなるように、熱可塑性樹脂、フッ素化合物、鱗片状フィラー及び粗大フィラーを溶媒に加えた。これを充分に撹拌して撥液層形成用塗液を調製し、基材としてのPETフィルム上にバーコーターを用いて塗布した。その後、塗布された塗液を80℃で1分間加熱乾燥し、基材上に撥液層を形成した。撥液層におけるバインダ層の厚さ(
図1における厚さT)が0.5μmとなるように塗布量を調整した。
【0182】
【0183】
(実施例15b~19b)
撥液層における各成分の質量比(固形分)が表19の実施例15b~19bにそれぞれ示すものとなるように、熱可塑性樹脂、フッ素化合物、鱗片状フィラー、粗大フィラー及び第2フィラーを溶媒に加えた。これを充分に撹拌して撥液層形成用塗液を調製し、基材としてのPETフィルム上にバーコーターを用いて塗布した。その後、塗布された塗液を80℃で1分間加熱乾燥し、基材上に撥液層を形成した。撥液層におけるバインダ層の厚さ(
図1における厚さT)が0.5μmとなるように塗布量を調整した。
【0184】
【0185】
(比較例1b)
撥液層における各成分の質量比(固形分)が表20の比較例1bに示すものとなるように、鱗片状フィラー、熱可塑性樹脂を溶媒に加えた。これを充分に撹拌して下地層形成用塗液を調製し、基材としてのPETフィルム上にバーコーターを用いて塗布した。その後、塗布された塗液を80℃で1分間加熱乾燥し、基材上に下地層を形成した。下地層の厚さが0.5μmとなるように塗布量を調整した。次いで、下地層の表面上にフッ素化合物を溶媒に加えた塗液をバーコーターにより塗布した。そして塗布された塗液を80℃で1分間加熱乾燥し、下地層上にオーバーコート層を形成した。
【0186】
(比較例2b)
表20の比較例2bに示すとおり、熱可塑性樹脂、フッ素化合物を含み、鱗片状フィラーおよび粗大フィラーを含まない塗液を用いたことの他は実施例1bと同様にして熱可塑性樹脂及びフッ素系塗料を含む撥液層を基材上に形成した。
【0187】
(比較例3b、4b)
質量比を表20の比較例3b、4bに示すとおりとした以外は実施例1bと同様として熱可塑性樹脂、フッ素系塗料、鱗片状フィラーおよび粗大フィラーを含む撥液層を基材上に形成した。
【0188】
(比較例5b、6b)
撥液層に鱗片状フィラーおよび粗大フィラーを含まず、代わりに第3フィラーを表20の比較例5b、6bにそれぞれ示すものとした塗液を用いたことの他は実施例1bと同様にして熱可塑性樹脂及びフッ素系塗料を含む撥液層を基材上に形成した。
【0189】
【0190】
<撥液性構造体の評価>
撥液性構造体について、以下の観点から評価を行った。評価結果を表21~23に示す。
【0191】
(面積比率の測定)
マイクロスコープ(キーエンス製、VHX-1000)において、1000倍レンズで観察可能な視野範囲(82,872μm2)を撥液層の面積Aとし、検出可能な粗大フィラーが占有する面積A3を求め、面積比率A3/Aを算出した。
【0192】
(撥液性評価)
撥液性構造体を撥液層側の面が上になるように平置きし、撥液層上に下記の液体(生クリームを除く)をスポイトで2μL滴下した。その後、撥液性構造体を垂直に立て、そのまま30秒静置して、滴下した液体の状態を目視にて観察した。生クリームはスポイトで採取できないため、薬さじで少量のかたまりを採取し、これを撥液層上に落とした。その後、撥液性構造体を垂直に立て、そのまま30秒静置して、生クリームの状態を目視にて観察した。
【0193】
[使用した液体]
純水
カレー:ボンカレーゴールド中辛(大塚食品)
生クリーム:苺のショートケーキ(ファミリーマート)から採取
ヨーグルト:明治ブルガリアヨーグルトL81低糖(明治)
サラダ油:日清サラダ油(日清オイリオ)
ハンドソープ:くらしモア 薬用ハンドソープ(日本石鹸)
シャンプー:植物の恵みで髪にやさしいシャンプー(セブンイレブン)
【0194】
[評価基準]
1:撥液層上に留まって動かなかった。又は撥液層中に染み込んだ。
2:撥液層上から流れ落ちたが、流れた跡が線状に残った。
3:撥液層上から流れ落ちたが、流れた跡が点状に残った。
4:撥液層上から流れ落ち、流れた跡が残らなかった。
5:撥液層上から液滴が丸くなって転がり落ちた。又は剥がれ落ちた。
(5が最も良く、1が最も悪い)
評価が2以上であれば実用上は問題がないが、3以上であることがより望ましい。表21~23から明らかなように、第二実施形態に係る撥液性構造体においては、いずれの液体に対しても実用上問題ない撥液性が得られた。一方、比較例では十分な撥液性が得られなかった。
【0195】
【0196】
【0197】
【0198】
第三実施形態に係る撥液性構造体及び比較例に係る撥液性構造体を作製するため、以下の材料を準備した。
(基材)
・ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム
(熱可塑性樹脂)
・変性ポリオレフィン:アウローレンAE-301(商品名、日本製紙株式会社製、融点60~70℃)
(フッ素化合物)
・フッ素系塗料:アサヒガード(商品名、旭硝子株式会社製)
(鱗片状フィラー)
・鱗片状シリカa:サンラブリー(商品名、AGCエスアイテック株式会社製、平均粒子径4~6μm)
・鱗片状シリカb:サンラブリー(商品名、AGCエスアイテック株式会社製、平均粒子径0.1μm)
・鱗片状雲母:レプコマイカ(商品名、株式会社レプコ製、平均粒子径4μm)
(第2フィラー)
・シリカ粒子a:AEROSIL(商品名、日本アエロジル株式会社製、平均粒子径7nm)
・シリカ粒子b:AEROSIL(商品名、日本アエロジル株式会社製、平均粒子径30nm)
・シリカ粒子c:シーホスター(商品名、株式会社日本触媒製、平均粒子径500nm)
・シリカ粒子d:シーホスター(商品名、株式会社日本触媒製、平均粒子径1000nm)
(第3フィラー及び第5フィラー)
・シリカ粒子e:サンスフェア(商品名、AGCエスアイテック株式会社製、平均粒子径10μm)
・シリカ粒子f:サンスフェア(商品名、AGCエスアイテック株式会社製、平均粒子径20μm)
・アクリルビーズ:アートパール(商品名、根上工業株式会社製、平均粒子径90μm)
(架橋剤)
・架橋剤a:タケネートWD-725(商品名、三井化学株式会社製、イソシアネート基含有架橋剤)
・架橋剤b:ケミタイトPZ-33(商品名、株式会社日本触媒製、アジリジン基含有架橋剤)
・架橋剤c:カルボジライトV-02(商品名、日清紡ケミカル株式会社製、カルボジイミド基含有架橋剤)
・架橋剤d:メイカネートCX(商品名、明成化学工業株式会社、ブロックイソシアネート基含有架橋剤)
・架橋剤e:Cymel303(商品名、サイテックインダストリーズ社製、メラミン骨格含有架橋剤)
(溶媒)
・アルコール系溶媒(2-プロパノール)
【0199】
<撥液性構造体の作製>
(実施例1c~19c)
撥液層における各成分の質量比(固形分)が表24~26の実施例1c~19cにそれぞれ示すものとなるように、熱可塑性樹脂、フッ素系塗料(フッ素化合物)、鱗片状フィラー、第2フィラー、第3フィラー、及び、架橋剤のうちの使用する各成分を溶媒に加えた。これを充分に撹拌して撥液層形成用塗液を調製し、基材としてのPETフィルム上にバーコーターを用いて塗布した。その後、塗布された塗液を80℃で1分間加熱して乾燥及び硬化させ、基材上に撥液層を形成した。撥液層におけるバインダ層の厚さ(
図1における厚さT)が0.5μmとなるように塗布量を調整した。
【0200】
なお、
図15及び
図16は、実施例1c~3cで作製した撥液層の表面を倍率を変えて撮影したSEM画像を示す表である。撮影倍率は同表に示す通りである。
図15及び
図16に示したSEM画像から、撥液層の表面に、鱗片状フィラーの凝集体による凹凸が形成されていることが分かる。
【0201】
(実施例20c~22c)
下地層における各成分の質量比(固形分)が表26の実施例20c~22cにそれぞれ示すものとなるように、熱可塑性樹脂、及び、必要に応じて第5フィラーを溶媒に加えた。これを充分に撹拌して下地層形成用塗液を調製し、基材としてのPETフィルム上にバーコーターを用いて塗布した。その後、塗布された塗液を80℃で1分間加熱乾燥し、基材上に下地層を形成した。下地層における熱可塑性樹脂の層の厚さ(
図9における厚さT’)が0.5μmとなるように塗布量を調整した。
【0202】
次に、撥液層における各成分の質量比(固形分)が表26の実施例20c~22cにそれぞれ示すものとなるように、熱可塑性樹脂、フッ素系塗料(フッ素化合物)、鱗片状フィラー、第2フィラー、第3フィラー、及び、架橋剤のうちの使用する各成分を溶媒に加えた。これを充分に撹拌して撥液層形成用塗液を調製し、下地層上にバーコーターを用いて塗布した。その後、塗布された塗液を80℃で1分間加熱して乾燥及び硬化させ、下地層上に撥液層を形成した。撥液層におけるバインダ層の厚さ(
図1における厚さT)が0.5μmとなるように塗布量を調整した。
【0203】
(比較例1c)
表27の比較例1cに示すとおり、まず、鱗片状フィラー及び熱可塑性樹脂を含む層を、下地層(熱可塑性樹脂の層の厚さT’:0.5μm)として基材上に形成した。その後、下地層の表面上に実施例1cで使用したフッ素系塗料をバーコーターを用いて塗布した。塗布されたフッ素系塗料を80℃で1分間加熱乾燥し、下地層の表面上にオーバーコート層を形成した。
【0204】
(比較例2c)
表27の比較例2cに示すとおり、フッ素系塗料に架橋剤を添加した塗液を用いて、下地層の表面上にオーバーコート層を形成したこと以外は比較例1cと同様にした。
【0205】
(比較例3c)
表27の比較例3cに示すとおり、架橋剤を含まない塗液を用いたこと以外は実施例2cと同様にしてフッ素系塗料及び鱗片状フィラーを含む撥液層(バインダ層の厚さ:0.5μm)を基材上に形成した。
【0206】
【0207】
【0208】
【0209】
【0210】
<撥液性構造体の評価>
撥液性構造体について、以下の観点から評価を行った。評価結果を表28~29に示す。
【0211】
(撥液性評価)
撥液性構造体を撥液層側の面が上になるように平置きし、撥液層上に下記の液体(生クリームを除く)をスポイトで2μL滴下した。その後、撥液性構造体を垂直に立て、そのまま30秒静置して、滴下した液体の状態を目視にて観察した。生クリームはスポイトで採取できないため、薬さじで少量のかたまりを採取し、これを撥液層上に落とした。その後、撥液性構造体を垂直に立て、そのまま30秒静置して、生クリームの状態を目視にて観察した。
[使用した液体]
純水
カレー:ボンカレーゴールド中辛(大塚食品)
生クリーム:苺のショートケーキ(ファミリーマート)から採取
ヨーグルト:明治ブルガリアヨーグルトL81低糖(明治)
サラダ油:日清サラダ油(日清オイリオ)
ハンドソープ:くらしモア 薬用ハンドソープ(日本石鹸)
シャンプー:地肌までここちよく洗うシャンプー(セブンイレブン)
[評価基準]
A:撥液層上から液滴が丸くなって転がり落ちた。又は剥がれ落ちた。
B:撥液層上から流れ落ち、流れた跡が残らなかった。
C:撥液層上から流れ落ちたが、流れた跡が点状に残った。
D:撥液層上から流れ落ちたが、流れた跡が線状に残った。
E:撥液層上に留まって動かなかった。又は撥液層中に染み込んだ。
【0212】
(耐久性評価)
撥液構造体を幅50mm、長さ100mmのサイズに切り出して試験片とした。撥液性評価で使用した各液体(生クリームを除く)をそれぞれ200mlビーカーに150ml注入し、上記試験片をその半分の長さまで液体に浸漬して、室温(25℃)で30日間放置した。放置後、試験片を液体から引き上げ、撥液構造体の浸漬部の撥液層が形成されている側の表面に対する各液体の付着状態を目視にて観察し、下記評価基準に基づいて耐久性(各液体と長期間接触した後の撥液性)を評価した。
[評価基準]
A:浸漬部に液体の付着が見られなかった。
B:浸漬部の10%未満の面積に液体の付着が見られた。
C:浸漬部の10%以上30%未満の面積に液体の付着が見られた。
D:浸漬部の30%以上70%未満の面積に液体の付着が見られた。
E:浸漬部の70%以上の面積に液体の付着が見られた。
【0213】
【0214】
【0215】
第四実施形態に係る撥液性構造体及び比較例に係る撥液性構造体を作製するため、以下の材料を準備した。
(基材)
・ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム
(フッ素含有樹脂)
・フッ素系塗料a:アサヒガードAG-E060(商品名、旭硝子株式会社製、ピロリドン類に由来する構造単位を有さないフッ素-アクリル共重合体、カチオン系の水系材料、フッ素含有量45質量%)
・フッ素系塗料b:ユニダインTG-8811(商品名、ダイキン工業株式会社製、ピロリドン類に由来する構造単位を有するフッ素-アクリル共重合体、カチオン系の水系材料、フッ素含有量44質量%)
(鱗片状フィラー)
・鱗片状シリカa:サンラブリー(商品名、AGCエスアイテック株式会社製、平均一次粒子径4~6μm)
・鱗片状シリカb:サンラブリー(商品名、AGCエスアイテック株式会社製、平均一次粒子径0.1μm)
(第2フィラー)
・シリカ粒子a:AEROSIL200(商品名、日本アエロジル株式会社製、平均一次粒子径12nm)
・シリカ粒子b:AEROSIL300(商品名、日本アエロジル株式会社製、平均一次粒子径7nm)
・シリカ粒子c:AEROSIL50(商品名、日本アエロジル株式会社製、平均一次粒子径30nm)
(第3フィラー)
・シリカ粒子d:HS-304(商品名、日鉄ケミカル&マテリアル株式会社製、平均一次粒子径28μm)
(第3及び第5フィラー)
・シリカ粒子e:サンスフェアNP-100(商品名、AGCエスアイテック株式会社製、平均一次粒子径10μm)
(熱可塑性樹脂)
・樹脂a:セポルジョンVA407(商品名、住友精化株式会社製、エチレン-酢酸ビニル共重合体、融点70~80℃)
・樹脂b:アウローレンAE-301(商品名、日本製紙株式会社製、変性ポリオレフィン、融点60~70℃)
(架橋剤)
・架橋剤:タケネートWD-725(商品名、三井化学株式会社製、イソシアネート基含有架橋剤)
(溶媒)
・アルコール系溶媒(2-プロパノール)
【0216】
<撥液性構造体の作製>
(実施例1d~18d及び比較例1d~2d)
撥液層における各成分の質量比(固形分)が表30~31の実施例1d~18d及び比較例1d~2dにそれぞれ示すものとなるように、フッ素系塗料(フッ素含有樹脂)、鱗片状フィラー、第2フィラー、及び、第3フィラーのうちの使用する各成分を溶媒に加えた。これを充分に撹拌して撥液層形成用塗液を調製し、基材としてのPETフィルム上にバーコーターを用いて塗布した。その後、塗布された塗液を80℃で1分間加熱して乾燥及び硬化させ、基材上に撥液層を形成した。撥液層の単位面積当たりの質量が2.0g/m2となるように塗布量を調整した。
【0217】
(実施例19d~29d)
下地層における各成分の質量比(固形分)が表32の実施例19d~29dにそれぞれ示すものとなるように、熱可塑性樹脂、及び、必要に応じて第5フィラーを溶媒に加えた。これを充分に撹拌して下地層形成用塗液を調製し、基材としてのPETフィルム上にバーコーターを用いて塗布した。その後、塗布された塗液を80℃で1分間加熱乾燥し、基材上に下地層を形成した。下地層の単位面積当たりの質量が5.0g/m2となるように塗布量を調整した。
【0218】
次に、撥液層における各成分の質量比(固形分)が表32の実施例19d~29dにそれぞれ示すものとなるように、フッ素系塗料(フッ素含有樹脂)、鱗片状フィラー、第2フィラー、第3フィラー、熱可塑性樹脂、及び、架橋剤のうちの使用する各成分を溶媒に加えた。これを充分に撹拌して撥液層形成用塗液を調製し、下地層上にバーコーターを用いて塗布した。その後、塗布された塗液を80℃で1分間加熱して乾燥及び硬化させ、下地層上に撥液層を形成した。撥液層の単位面積当たりの質量が2.0g/m2となるように塗布量を調整した。
【0219】
【0220】
【0221】
【0222】
<撥液性構造体の評価>
撥液性構造体について、以下の観点から評価を行った。評価結果を表33~34に示す。
【0223】
(撥液性評価)
撥液性構造体を撥液層側の面が上になるように平置きし、撥液層上に下記の液体をスポイトで2μL滴下した。その後、撥液性構造体を垂直に立て、そのまま30秒静置して、滴下した液体の状態を目視にて観察した。観察結果から下記の評価基準に基づいて撥液性を評価した。評価結果がA~Dであれば実用上問題ないと言える。評価結果はA~Cであることが望ましい。
[使用した液体]
純水
ヨーグルト:明治ブルガリアヨーグルトL81低糖(明治)
カレー(常温):ボンカレーゴールド中辛(大塚食品)
サラダ油:日清サラダ油(日清オイリオ)
ハンドソープ:くらしモア 薬用ハンドソープ(日本石鹸)
シャンプー:地肌までここちよく洗うシャンプー(セブンイレブン)
[評価基準]
A:撥液層上から液滴が丸くなって転がり落ちた。又は剥がれ落ちた。
B:撥液層上から流れ落ち、流れた跡が残らなかった。
C:撥液層上から流れ落ちたが、流れた跡が点状に残った。
D:撥液層上から流れ落ちたが、流れた跡が線状に残った。
E:撥液層上に留まって動かなかった。又は撥液層中に染み込んだ。
【0224】
(付着性評価)
粘稠食品に対する付着性評価を以下の方法で行った。ポリプロピレン(PP)フィルムを平置きし、下記の粘稠食品を薬さじで2g採取し、これをPPフィルム上に落とした。撥液性構造体を撥液層側の面がPPフィルムと対向するように配置し、それを50g/25cm2の荷重で粘稠食品に押し当て、そのまま10秒間静置した。その後、撥液性構造体を剥離し、粘稠食品と接触していた撥液層の接触面への粘稠食品の付着状態を目視にて観察した。観察結果から下記の評価基準に基づいて付着性を評価した。評価結果がA~Dであれば実用上問題ないと言える。評価結果はA~Cであることが望ましい。
[使用した粘稠食品]
生クリーム:苺のショートケーキ(ファミリーマート)から採取
マヨネーズ:キユーピーマヨネーズ(キユーピー株式会社)
[評価基準]
A:接触面に粘稠食品の付着が見られなかった。
B:接触面の10%未満の面積に粘稠食品の付着が見られた。
C:接触面の10%以上30%未満の面積に粘稠食品の付着が見られた。
D:接触面の30%以上70%未満の面積に粘稠食品の付着が見られた。
E:接触面の70%以上の面積に粘稠食品の付着が見られた。
【0225】
(耐久性評価)
撥液構造体を幅50mm、長さ100mmのサイズに切り出して試験片とした。撥液性評価で使用した液体のうち、純水、サラダ油、ハンドソープ及びシャンプーをそれぞれ200mlビーカーに150ml注入し、上記試験片をその半分の長さまで液体に浸漬して、室温(25℃)で30日間放置した。放置後、試験片を液体から引き上げ、撥液構造体の浸漬部の撥液層が形成されている側の表面に対する各液体の付着状態を目視にて観察し、下記評価基準に基づいて耐久性(各液体と長期間接触した後の撥液性)を評価した。評価結果がA~Dであれば実用上問題ないと言える。評価結果はA~Cであることが望ましい。
[評価基準]
A:浸漬部に液体の付着が見られなかった。
B:浸漬部の10%未満の面積に液体の付着が見られた。
C:浸漬部の10%以上30%未満の面積に液体の付着が見られた。
D:浸漬部の30%以上70%未満の面積に液体の付着が見られた。
E:浸漬部の70%以上の面積に液体の付着が見られた。
【0226】
【0227】
【産業上の利用可能性】
【0228】
本開示によれば、水に対する優れた撥液性を有するとともに、油又はこれを含む液状物等に対しても優れた撥液性を有する撥液性構造体及びその製造方法が提供される。また、本開示によれば、上記撥液性構造体を物品と接する側に有する包装材及び剥離シートが提供される。
【符号の説明】
【0229】
1…基材、1a…被処理面(撥液性を付与すべき表面)、3,3A,3B,3C,3D,3E…撥液層、5…凝集体、5b…バインダ樹脂、5f…鱗片状フィラー、6f…フィラー(第2フィラー)、7f…フィラー(第3フィラー)、8…下地層、8b…熱可塑性樹脂、8f…フィラー(第5フィラー)、9…空隙、10,10A,10B,10C,10D,20,40A…撥液性構造体。