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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-20
(45)【発行日】2023-11-29
(54)【発明の名称】光ファイバ
(51)【国際特許分類】
   G02B 6/028 20060101AFI20231121BHJP
   C03C 13/04 20060101ALI20231121BHJP
   G02B 6/036 20060101ALI20231121BHJP
【FI】
G02B6/028
C03C13/04
G02B6/036
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2020530270
(86)(22)【出願日】2019-07-11
(86)【国際出願番号】 JP2019027591
(87)【国際公開番号】W WO2020013297
(87)【国際公開日】2020-01-16
【審査請求日】2022-06-21
(31)【優先権主張番号】P 2018133316
(32)【優先日】2018-07-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100136722
【弁理士】
【氏名又は名称】▲高▼木 邦夫
(74)【代理人】
【識別番号】100174399
【弁理士】
【氏名又は名称】寺澤 正太郎
(72)【発明者】
【氏名】山本 義典
(72)【発明者】
【氏名】森田 圭省
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 健美
(72)【発明者】
【氏名】川口 雄揮
【審査官】野口 晃一
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-148465(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0044596(US,A1)
【文献】特開2007-052458(JP,A)
【文献】特開2013-122502(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0079677(US,A1)
【文献】MILLER, Stewart E. and CHYNOWETH, Alan G.,Optical Fiber Telecommunications,米国,Academic Press, New York,1979年10月28日,p.186-p.191
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 6/02-6/036
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリカガラスを主成分とするコアであって、ファイバ軸に沿って延びたコアと、
シリカガラスを主成分とするクラッドであって、前記コアの外周面を包囲するとともに前記コアの屈折率より低い屈折率を有するクラッドと、
を備え、
前記コアにおける屈折率の平均値n1_ave、前記クラッドにおける屈折率の最小値nc_min、純シリカガラスの屈折率n0は、
n1_ave > nc_min
nc_min < n0
なる関係を満たし、
前記クラッドが、フッ素を含み、
前記クラッドにおけるフッ素濃度が、前記クラッドの最外部において最小となるよう調整され、
前記ファイバ軸に垂直な断面において、前記クラッドにおける前記フッ素濃度と、前記ファイバ軸からの半径方向に沿った距離rと、により与えられる前記クラッドにおけるフッ素濃度分布XF(r)は、
前記クラッドの内周面からの前記半径方向に沿った距離がクラッド幅の50%となる位置から、前記内周面からの前記半径方向に沿った距離が前記クラッド幅の80%となる位置までの環状領域として規定される、前記クラッドの外側領域のうち、前記半径方向に沿って規定される幅が1μmの任意の微小区間において、
前記フッ素濃度分布XF(r)の、前記距離rにおける微分係数XF'(r)が負であり、かつ、前記微分係数XF'(r)の絶対値が30ppm/μm以上600ppm/μm以下である、
光ファイバ。
【請求項2】
前記クラッドの前記最外部におけるフッ素濃度XFc_outer[ppm]、前記クラッドにおける前記フッ素濃度の最大値XFc_max[ppm]が、
0 ≦XFc_outer < 0.8 × XFc_max
なる関係を満たす、請求項1に記載の光ファイバ。
【請求項3】
前記クラッドの前記外側領域において、前記断面に垂直に働く応力が引張応力である、
請求項に記載の光ファイバ。
【請求項4】
前記クラッドの内周面からの当該光ファイバの半径方向に沿った距離がクラッド幅の50%となる位置から、前記内周面からの前記半径方向に沿った距離が前記クラッド幅の80%となる位置までの環状領域として規定される、前記クラッドの外側領域において、前記ファイバ軸に垂直な当該光ファイバの断面に垂直に働く応力が引張応力である、
請求項1または請求項2に記載の光ファイバ。
【請求項5】
波長1550nmにおいて80μm以上160μm以下の実効断面積を有する、
請求項1から請求項のいずれか一項に記載の光ファイバ。
【請求項6】
1530nm以下のケーブルカットオフ波長を有する、
請求項1から請求項のいずれか一項に記載の光ファイバ。
【請求項7】
前記コアがGeOおよび塩素の少なくともいずれかを含む、
請求項1から請求項のいずれか一項に記載の光ファイバ。
【請求項8】
前記コアが少なくとも前記塩素を含み、
前記コアの最外部における塩素濃度XCl_outer [ppm]、前記コアの塩素濃度の最大値XCl_max [ppm]が、
0 ≦ XCl_outer < 0.8×XCl_max
なる関係を満たす、請求項に記載の光ファイバ。
【請求項9】
前記コアが前記GeOおよび前記塩素の双方を含み、
前記コア中に含まれるGeOの濃度の平均値が33000ppm以下であり、
前記コア中に含まれる塩素元素の濃度の平均値が20000ppm以下である、
請求項または請求項に記載の光ファイバ。
【請求項10】
前記コアがフッ素を含む、
請求項1から請求項のいずれか一項に記載の光ファイバ。
【請求項11】
純シリカガラスに対する前記コアの屈折率の平均値の比屈折率差Δcoreが-0.2%以上+0.4%以下である、
請求項1から請求項10のいずれか一項に記載の光ファイバ。
【請求項12】
前記クラッドの最小屈折率に対する前記コアの屈折率の平均値の比屈折率差Δ1が0.1%以上0.5%以下である、
請求項1から請求項11のいずれか一項に記載の光ファイバ。
【請求項13】
前記コアの屈折率プロファイルの指数αが1以上10以下である、
請求項1から請求項12のいずれか一項に記載の光ファイバ。
【請求項14】
前記コアと前記クラッドとの間に設けられたディプレスト部を備え、
前記ディプレスト部における屈折率の平均値n2_aveが、
n2_ave ≦ nc_min
なる関係を満たす、
請求項1から請求項13のいずれか一項に記載の光ファイバ。
【請求項15】
前記ディプレスト部に対する前記コアの屈折率の平均値の比屈折率差Δ+が0.2%以上0.5%以下である、
請求項14に記載の光ファイバ。
【請求項16】
前記クラッドの最小屈折率に対する前記ディプレスト部の屈折率の平均値の比屈折率差Δ2が-0.16%以上-0.02%以下であり、
前記ディプレスト部の半径r2と前記コアの半径r1との比r2/r1 が2.0以上7.0以下である、
請求項14または請求項15に記載の光ファイバ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、光ファイバに関するものである。
本出願は、2018年7月13日出願の日本出願第2018-133316号に基づく優先権を主張し、前記日本出願に記載された全ての記載内容を援用するものである。
【背景技術】
【0002】
光ファイバを伝送路とする光伝送システムでは、伝送距離の長距離化および伝送容量の拡大が要求されている。このような要求を満たすため、光ファイバの伝送損失が小さいことが望まれる。光ファイバ母材(optical fiber preform)を線引きすることにより光ファイバを製造する線引き工程では、加熱により軟化させた光ファイバ母材に張力を印加して線引きをするので、製造された光ファイバのガラス部には印加された張力と平行な応力が残留する。光ファイバのガラス部は、コアおよびクラッドから構成され、光ファイバを伝搬する信号光の大部分のパワーはコアに集中する。コアに引張応力が残留していると、残留する引張応力によりコアにガラス構造欠陥が増加するため、伝送損失が悪化する。したがって、コアには圧縮応力が残留することが望ましい。
【0003】
特許文献1には、コアにおける応力が圧縮応力である光ファイバが記載されている。特許文献1に記載された光ファイバでは、コアがアルカリ金属元素を含むことで、コアの粘性が下がり、コアにおける応力が圧縮応力となっている。特許文献1に記載された光ファイバは、クラッドがフッ素(フッ素元素)および塩素(塩素元素)を含むが、クラッドにおけるフッ素濃度の分布については何ら考慮されていない。
【0004】
また、特許文献2にも、コアにおける応力が圧縮応力である光ファイバが記載されている。特許文献2に記載された光ファイバでは、コアがGeOを含むとともに、光ファイバ母材が適切な線引き速度および線引き張力で線引きされた直後に得られた光ファイバが適切な長さの加熱炉を通過することで、コアにおける応力が圧縮応力となっている。特許文献2に記載された光ファイバのガラス部は、中心コア、光学クラッドおよびジャケットを有する。ただし、最外層のジャケットは、純シリカガラスまたは塩素を含むシリカガラスであり、ガラス材料の屈折率を下げるフッ素を含んでいない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2014-118334号公報
【文献】特開2013-122502号公報
【文献】特開2009-168813号公報
【発明の概要】
【0006】
本開示に係る光ファイバは、シリカガラスを主成分とするコアと、シリカガラスを主成分とするクラッドと、を少なくとも備える。コアは、ファイバ軸(当該光ファイバの中心軸)に沿って延びている。クラッドは、コアの外周面を包囲するとともに該コアの屈折率より低い屈折率を有する。コアにおける屈折率の平均値n1_ave、クラッドにおける屈折率の最小値nc_min、純シリカガラスの屈折率n0は、
n1_ave > nc_min
nc_min < n0
なる関係を満たしている。また、クラッドは、フッ素(フッ素元素)を含み、該クラッドにおけるフッ素濃度は、該クラッドの最外部において最小となるよう調整されている。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1図1は、光ファイバ1の構成を示す図である。
図2図2は、光ファイバ2の構成を示す図である。
図3図3は、光ファイバ1,2のコアの屈折率分布の例を示す図である。
図4図4は、指数αを変えた種々の屈折率プロファイルにおいて、波長1310nmにおけるLP01モードとLP11モードとのDMDを示すグラフである。
図5図5は、光ファイバ2のディプレスト部の屈折率分布の例を示す図である。
図6図6は、樹脂被覆層を備える光ファイバ2の断面構造を示す図である。
図7図7は、具体例に係る光ファイバの屈折率プロファイルである。
図8図8は、具体例に係る光ファイバのフッ素濃度分布XF(r)を示す図である。
図9図9は、具体例に係る光ファイバのフッ素濃度分布XF(r)の微分係数XF'(r)をプロットしたグラフを示す図である。
図10図10は、具体例に係る光ファイバの残留応力分布を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
[本開示の実施形態の説明]
本開示は、安価かつ容易に製造することができる低損失の光ファイバを提供することを目的としている。最初に本開示の実施形態の内容をそれぞれ個別に列挙して説明する。
【0009】
(1) 本開示の一態様として、当該光ファイバは、シリカガラスを主成分とするコアと、シリカガラスを主成分とするクラッドと、を少なくとも備える。コアは、ファイバ軸(当該光ファイバの中心軸)に沿って延びている。クラッドは、コアの外周面を包囲するとともに該コアの屈折率より低い屈折率を有する。コアにおける屈折率の平均値n1_ave、クラッドにおける屈折率の最小値nc_min、純シリカガラスの屈折率n0は、
n1_ave > nc_min
nc_min < n0
なる関係を満たしている。また、クラッドは、フッ素(フッ素元素)を含み、該クラッドにおけるフッ素濃度は、該クラッドの最外部において最小となるよう調整されている。なお、本明細書において「クラッドの最外部」とは、クラッドの内周面からの半径方向に沿った距離がクラッド幅の80%となる位置から、クラッドの外周面までの環状領域を意味する。
【0010】
(2) 本開示の一態様として、クラッドの最外部におけるフッ素濃度XFc_outer[ppm]、クラッドにおけるフッ素濃度の最大値XFc_max[ppm]は、
0 ≦ XFc_outer < 0.8 × XFc_max
なる関係を満たすのが好ましい。ここで、本開示において「濃度」は「質量分率」(全体の質量に対する各成分の質量)で表記される。
【0011】
(3) 本開示の一態様として、クラッドの外側領域のうち任意の微小区間において、クラッドにおけるフッ素濃度分布XF(r)の、距離rにおける微分係数XF'(r)は負であり、かつ、該微分係数XF'(r)の絶対値が30ppm/μm以上600ppm/μm以下であるのが好ましい。なお、クラッドにおけるフッ素濃度分布XF(r)は、ファイバ軸に垂直な当該光ファイバの断面において、クラッドにおけるフッ素濃度と、該ファイバ軸からの当該光ファイバの半径方向に沿った距離rと、により与えられる。クラッドの外側領域は、該クラッドの内周面からの半径方向に沿った距離がクラッド幅の50%となる位置から、該内周面からの半径方向に沿った距離がクラッド幅の80%となる位置までの環状領域として規定される。また、クラッドの外側領域内に含まれる任意の微小区間は、半径方向に沿って規定される幅が1μmを有する区間である。
【0012】
(4) 本開示の一態様として、クラッドの外側領域において、ファイバ軸に垂直な断面に垂直に働く応力は、引張応力であるのが好ましい。本開示の一態様として、当該光ファイバは、波長1550nmにおいて80μm以上160μm以下の実効断面積を有するのが好ましい。また、本開示の一態様として、当該光ファイバは、1530nm以下のケーブルカットオフ波長を有するのが好ましい。
【0013】
(5) 本開示の一態様として、コアは、GeOを含むのが好ましい。本開示の一態様として、コアは、塩素(塩素元素)を含んでもよい。なお、本開示の一態様として、コアの最外部における塩素濃度XCl_outer [ppm]、コアの塩素濃度の最大値XCl_max [ppm]は、
0 ≦ XCl_outer < 0.8×XCl_max
なる関係を満たすのが好ましい。また、本開示の一態様として、コアがGeOおよび塩素を含み、コア中に含まれるGeOの濃度の平均値が33000ppm以下であり、コア中に含まれる塩素の濃度の平均値が20000ppm以下であるのが好ましい。
【0014】
(6) 本開示の一態様として、コアは、フッ素を含んでもよい。本開示の一態様として、純シリカガラスに対するコアの屈折率の平均値の比屈折率差Δcoreは、-0.2%以上+0.4%以下であるのが好ましい。さらに、本開示の一態様として、クラッドの最小屈折率に対するコアの屈折率の平均値の比屈折率差Δ1は、0.1%以上0.5%以下であるのが好ましい。本開示の一態様として、コアの屈折率プロファイルの指数αが1以上10以下であるのが好ましい。
【0015】
(7) 本開示の一態様として、当該光ファイバは、コアとクラッドとの間に設けられたディプレスト部(depressed portion)を備えもよい。本開示の一態様として、ディプレスト部における屈折率の平均値n2_aveは、
n2_ave ≦ nc_min
なる関係を満たすのが好ましい。本開示の一態様として、ディプレスト部に対するコアの屈折率の平均値の比屈折率差Δ+は、0.2%以上0.5%以下であるのが好ましい。さらに、本開示の一態様として、クラッドの最小屈折率に対するディプレスト部の屈折率の平均値の比屈折率差Δ2は、-0.16%以上-0.02%以下であるのが好ましい。加えて、該ディプレスト部の半径r2とコアの半径r1との比r2/r1は、2.0以上7.0以下であるのが好ましい。
【0016】
以上、この[本開示の実施形態の説明]の欄に列挙された各態様は、残りの全ての態様のそれぞれに対して、または、これら残りの態様の全ての組み合わせに対して適用可能である。本開示の光ファイバは、安価かつ容易に製造することができ、伝送損失を小さくすることができる。
【0017】
[本開示の実施形態の詳細]
以下、本開示に係る光ファイバの具体的な構造を、添付図面を参照しながら詳細に説明する。なお、本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。また、図面の説明において同一の要素には同一符号を付して重複する説明を省略する。
【0018】
上記特許文献1に記載された光ファイバでは、アルカリ金属元素がコアに添加されているので、製造コストが増加する。上記特許文献2に記載された光ファイバでは、信号光をコアに閉じ込めるためには、コアにGeOを添加してコアの屈折率を上げる必要がある。しかし、GeOの濃度が多いと、GeOの濃度揺らぎによるレイリー散乱が増加し、伝送損失が増加してしまう。また、上記特許文献2に記載された光ファイバを製造するためには、加熱炉の設置の費用が必要になるとともに、加熱炉の長さおよび線引き速度を適切に設定する必要があり、線引き速度の増加に限界がある。
【0019】
図1は、光ファイバ1の構成を示す図である。図1は、ファイバ軸AX(中心軸)に垂直な断面における光ファイバ1の構造、ファイバ軸AXを中心として半径方向に沿った屈折率プロファイル、および該半径方向に沿ったフッ素濃度分布を示す。光ファイバ1は、ファイバ軸AXに沿って伸びる半径r1のコア11と、該コア11の外周面を包囲する半径rcのクラッド13と、を備える。コア11およびクラッド13はシリカガラスを主成分とする。コア11の屈折率はクラッド13の屈折率より高い。コア11における屈折率の平均値n1_ave、クラッド13における屈折率の最小値nc_min、純シリカガラスの屈折率n0は、当該光ファイバ1(コア11およびクラッド13)において、以下の式(1)および(2):
n1_ave > nc_min (1)
nc_min < n0 (2)
で表される関係を満たしている。
【0020】
図2は、光ファイバ2の構成を示す図である。図2は、ファイバ軸AX(中心軸)に垂直な断面における光ファイバ2の構造、ファイバ軸AXを中心として半径方向に沿った屈折率プロファイル、および該半径方向に沿ったフッ素濃度分布を示す。光ファイバ2は、ファイバ軸AXに沿って伸びた半径r1のコア11と、該コア11の外周面を包囲する半径r2のディプレスト部12と、該ディプレスト部12の外周面を包囲する半径rcのクラッド13と、を備える。光ファイバ2は、コア11とクラッド13との間に設けられたディプレスト部12を備える。コア11、ディプレスト部12、およびクラッド13は、シリカガラスを主成分とする。コア11の屈折率はクラッド13の屈折率より高い。ディプレスト部12の屈折率はクラッド13の屈折率より低い。ディプレスト部12における屈折率の平均値n2_aveは、当該光ファイバ2(コア11、ディプレスト部12、およびクラッド13)において、上記式(1)および(2)で表される関係に加えて、以下の式(3):
n2_ave ≦ nc_min (3)
で表される関係も満たしている。
【0021】
なお、光ファイバ1(図1)は、光ファイバ2(図2)においてr2=r1とした構造(ディプレスト部12が除去された構造)に相当する。半径r1、r2のそれぞれは、ファイバ軸AXからの半径方向に沿った距離rにおける屈折率の微分係数が極小または極大となるときの値として判定される。
【0022】
光ファイバ1(図1)および光ファイバ2(図2)のいずれも、クラッド13はフッ素を含む。クラッド13におけるフッ素濃度は、最外部において最小になるよう調整されている。なお、「最外部」は、クラッド13の外周面を含み、クラッド13の内周面(図1および図2におけるr2の位置)からの半径方向に沿った距離がクラッド幅(rc-r2)の80%となる位置より外側に位置する環状領域である。シリカガラスは、フッ素濃度が小さいほど粘性が高い。したがって、線引き工程の際に、ガラスにかかる張力をクラッド13の最外部付近が主に負担することになり、相対的にコアにかかる張力は小さくなる。その結果、クラッド13の最外部付近にはファイバ軸に垂直な断面に垂直に働く引張応力が残留する。ただし、光ファイバ内を伝搬する信号光の大部分のパワーが存在するコアにおける応力を圧縮応力とすることができるため、光ファイバ全体としては伝送損失を低く抑えることができる。
【0023】
光ファイバ1または光ファイバ2の端面を他の光ファイバの端面と融着接続する際、光ファイバの端部がクリーブ(cleave)される。このとき、光ファイバ1または光ファイバ2のクラッド13における最外部のフッ素濃度が小さいことにより、光ファイバのクリーブが容易になる。すなわち、ファイバ軸AXに対してより直角で平坦なクリーブ面を得ることができる。
【0024】
クラッド13における最外部のフッ素濃度XFc_outer[ppm]、クラッド13におけるフッ素濃度の最大値XFc_max[ppm]は、以下の式(4):
0 ≦ XFc_outer < XFc_max (4)
で表される関係を満たしている。また、以下の(5):
0 ≦ XFc_outer < 0.8 × XFc_max (5)
で表される関係が満たされるのが好適である。以下の式(6):
0 ≦ XFc_outer < 0.5 × XFc_max (6)
で表される関係が満たされるのがさらに好ましい。さらに、以下の式(7):
0 ≦ XFc_outer < 0.3 × XFc_max (7)
で表される関係が満たされるのが最も好ましい。上記式(4)から式(7)の関係を満たすことにより、クラッド13における最外部のガラス粘性をより高くすることができる。
【0025】
クラッド13のフッ素濃度分布(半径方向に沿った距離rとフッ素濃度とで規定される分布)をXF(r)とするとき、クラッド13の外側領域のうち任意の微小区間(半径方向に沿った幅が1μmの区間)において、フッ素濃度分布XF(r)の、距離rにおける微分係数XF'(r)は負であり、かつ、該微分係数XF'(r)の絶対値が30ppm/μm以上600ppm/μm以下であるのが好ましい。なお、クラッド13の外側領域は、以下の式(8):
r2+(rc-r2)×0.5 ≦ r ≦ r2+(rc-r2)×0.8 (8)
で表された関係を満たしており、クラッド13の内周面からの半径方向に沿った距離がクラッド幅(rc-r2)の50%となる位置から、該内周面からの半径方向に沿った距離がクラッド幅の80%となる位置までの環状領域として規定される。
【0026】
微分係数XF'(r)の絶対値が大きいほど、クラッド13における最外部のフッ素濃度が小さくなる。この場合、クラッド13における最外部のガラス粘性を高くするためには好ましい。一方で、微分係数XF'(r)の絶対値が過度に大きいと、半径方向に沿って残留応力の変化が大きくなる。このような残留応力の変化増大は、ガラス構造の不均一化につながり、伝送損失が悪化する。そのため、クラッド13の外側領域のうち幅1μmの任意の微小区間で、微分係数XF'(r)が負であり、かつ、微分係数XF'(r)の絶対値が30ppm/μm以上600ppm/μm以上であるのが好ましい。
【0027】
半径方向に沿った光ファイバ内のフッ素濃度分布は、電子線マイクロアナライザ(EPMA: Electron Probe Micro Analyzer)を用いて測定することができる。EPMAでは、測定対象物である光ファイバに電子線を照射し、そのときに発生するX線の強度を測定する。予めフッ素濃度が既知であるサンプルを測定しておくことにより(X線強度とフッ素濃度との間の検量線を取得)、光ファイバから測定されたX線強度をフッ素濃度に換算することができる。
【0028】
クラッド13の外側領域(クラッド内周面からの半径方向に沿った距離がクラッド幅の50%以上80%以下となる範囲)に残留する応力が引張応力であるのが好ましい。これにより、クラッド13内の広い領域において線引き時の張力を負担することができ、コア11内における応力を圧縮応力とすることができる。あるいは、クラッド13内の全領域における応力は、引張応力であってもよい。ここで、光ファイバの残留応力の、半径方向に沿った分布は、例えば、上記特許文献3に記載されているように、直交する2偏光を用いて、光ファイバ中の複屈折に基づいて測定することができる。
【0029】
本開示の光ファイバ1、2の、波長1550nmにおける伝送損失は、0.180dB/km以下、好ましくは0.174dB/km以下であり、より好ましくは0.170dB/km以下である。
【0030】
従来から知られているシングルモード光ファイバ(SMF: Single Mode Fiber)は、波長1550nmにおいて80μm程度の実効断面積と、1260nm以下のケーブルカットオフ波長を有する。また、従来から知られている非零分散シフトファイバ(NZDSF: Non-Zero Dispersion Shifted Fiber)は、波長1550nmにおいて50μm以上70μm以下程度の実効断面積と、1450nm以下のケーブルカットオフ波長を有する。これら従来のSMFおよびNZDSFと異なり、本開示の光ファイバ1、2は、好適には、波長1550nmにおいて80μm以上160μm以下の実効断面積と、1530nm以下のケーブルカットオフ波長を有する。
【0031】
本開示の光ファイバ1、2では、クラッド13の最外部において、局所的に屈折率が高く、クラッド13の最外部の屈折率とコアの屈折率との差が小さい。信号光パワーの一部がクラッド13の最外部付近にまで拡がると、実効的なコア11とクラッド13との間の比屈折率差は小さくなる。そのため、信号光パワーの大部分は、コア11および該コア11に近接するクラッド13の内側領域にのみ存在する方が好ましい。また、本実施形態では実効断面積が大きい方が、コア11の外径が大きくなり、信号光パワーのうち、より多くの部分がコア11および該コア11に近接するクラッド13の内側領域にのみ存在するので好ましい。一方で、実効断面積が過度に大きいと曲げ損失が増大し易くなる。したがって、波長1550nmにおける実効断面積は80μm以上160μm以下であることが好ましい。
【0032】
ケーブルカットオフ波長が長いほど、基底モード(fundamental mode)である信号光パワーのコア11への閉じ込めが強くなるので好ましい。一方で、Cバンド(波長1530以上1565nm以下)において信号光をシングルモード動作させるためには、ケーブルカットオフ波長は1530nm以下であることが好ましい。曲げ直径60mmで100ターン巻いたときの、波長1550nmおよび1625nmにおける曲げ損失は、2.0dB以下であることが好ましい。この曲げ損失は、より好ましくは0.1dB以下であり、最も好ましくは0.05dB以下である。
【0033】
本開示の光ファイバ1、2の他の諸特性は、国際勧告ITU-T G.654に準拠していてもよい。
【0034】
コア11の材質は、純シリカガラスであってもよい。コア11の材質は、GeO、塩素(塩素元素)およびフッ素(フッ素元素)のうちのいずれかを含むシリカガラスであってもよく、これらドーパントのうちの2種類以上を含むシリカガラスであってもよい。これらの元素をコア11が含むことにより、該コア11の粘性が下がるので、コア11における応力を圧縮応力にできるのでより好ましい。また、GeOまたは塩素をコア11が含むことにより、該コア11の屈折率が高くなる。この場合、信号光のコア11への閉じ込めをより強くすることができるので好ましい。ただし、これらドーパントを過度にコア11が含むと、添加された元素の濃度揺らぎによるレイリー散乱損失が増加する。そのため、純シリカガラスに対するコア11の屈折率の平均値の比屈折率差Δcoreは、-0.2%以上+0.4%以下の範囲に収まることが好ましい。Δcoreは、より好ましくは-0.2%以上+0.2%以下であり、最も好ましくは0%以上+0.2%以下である。
【0035】
コア11の最外部における塩素濃度XCl_outer [ppm]、コア11の塩素濃度の最大値XCl_max [ppm]は、以下の式(9):
0 ≦ XCl_outer < 0.8×XCl_max …(9)
なる関係を満たすのが好ましい。これにより、コアクラッド 界面において粘性の変化を小さく抑えることができる。さらに塩素濃度は、以下の式(10):
0 ≦ XCl_outer < 0.5×XCl_max …(10)
なる関係を満たしてもよい。
【0036】
コア11にはGeOおよび塩素の両方が含まれるとなおよい。塩素よりもGeOの方が元素の濃度揺らぎによるレイリー散乱損失が増加しやすい。しかしながら、コア11がGeOと塩素の両方を含むことで、GeOを過度に添加することなく、コア11の屈折率を高くして信号光のコアへの閉じ込めをより強くすることができる。また、コア11の粘性を下げて該コア11における応力をより大きくすることができる。好ましくは、コア11に含まれるGeOの濃度平均値が0ppm以上33000ppm以下(純シリカガラスの屈折率に対する屈折率変化量の相対値を0以上0.2%以下だけ増加させる濃度)であり、塩素の濃度平均値が0ppm以上20000ppm以下(純シリカガラスの屈折率に対する屈折率変化量の相対値を0%以上0.2%以下だけ増加させる濃度)である。さらに好ましくは、コア中に含まれるGeOの濃度平均値が0ppm以上25000ppm以下(純シリカガラスの屈折率に対する屈折率変化量の相対値を0%以上0.15%以下だけ増加させる濃度)であり、塩素の濃度平均値が0ppm以上15000ppm以下(純シリカガラスの屈折率に対する屈折率変化量の相対値を0%以上0.15%以下だけ増加させる濃度)である。
【0037】
コア11の半径r1が大きい方が、該コア11への信号光パワーの閉じ込めを大きくすることができるので好ましい。また、クラッド13の最小屈折率に対するコア11の屈折率の平均値の比屈折率差Δ1が大きい方が、該コア11への信号光パワーの閉じ込めを大きくすることができるので好ましい。ただし、半径r1および比屈折率差Δ1のいずれも過度に大きいと、ケーブルカットオフ波長が長くなり、Cバンドなど信号光波長帯域において信号光がシングルモード動作をしなくなる。そのため、半径r1は4.0μm以上8.0μm以下であるのが好ましく、比屈折率差Δ1は0.1%以上0.5%以下であるのが好ましい。これにより、上述の実効断面積、ケーブルカットオフ波長、およびファイバ特性を実現することができる。
【0038】
コア11およびクラッド13を備える光ファイバ1(図1)の構成より、ディプレスト部12をも備える光ファイバ2(図2)の構成が好ましい。ディプレスト部12に対するコア11の屈折率の平均値の比屈折率差Δ+は0.2%以上0.5%以下であるのが好ましい。これにより、信号光パワーの大部分がコア11およびディプレスト部12に閉じ込められる。すなわち、比屈折率差Δ1は小さくてもよく、クラッド13のフッ素濃度は小さくてもよい。このとき、比屈折率差Δ1は0.1%以上0.3%以下であってもよい。
【0039】
ディプレスト部12の半径r2とコア11の半径r1との比r2/r1が過度に小さいと、基底モードである信号光がクラッド13に漏れ出てしまいコアへの閉じ込めが弱くなる。また、比r2/r1が過度に大きいと、不要な高次モードもコア11およびディプレスト部12に閉じ込められ、信号光波長帯域において信号光がシングルモード動作をしなくなる。そのため、比r2/r1は、好ましくは2.0以上7.0以下であり、より好ましくは2.5以上4.5以下である。
【0040】
クラッド13における最小屈折率に対するディプレスト部の屈折率の平均値の比屈折率差Δ2は負である。Δ+を一定とした場合、Δ2の絶対値が過度に小さいと、高次モードも閉じ込められ易くなる。すなわち、信号光波長帯域において信号光がシングルモード動作をしなくなる。一方で、Δ2の絶対値が過度に大きいと、基底モードの信号光がカットオフされ、あるいは、漏洩による損失が生じる。そのため、Δ2は、-0.16%以上-0.02以下であることが好ましい。
【0041】
純シリカガラスに対するクラッド13における最外部の比屈折率差Δc_outer、純シリカガラスに対するクラッド13内における最小屈折率の比屈折率差Δc_minは、以下の式(11):
Δc_outer ≧ Δc_min (11)
で表される関係を満たしている。以下の式(12):
Δc_outer ≧ 0.8 × Δc_min (12)
で表される関係が満たされるのがより好ましい。以下の式(13):
Δc_outer ≧ 0.5 × Δc_min (13)
で表される関係が満たされるのが、さらに好ましい。以下の式(14):
Δc_outer ≧ 0.3 × Δc_min (14)
で表される関係が満たされるのが最も好ましい。
【0042】
ここで、純シリカガラスに対するコア11の屈折率の平均値の比屈折率差Δcoreは、以下の式(15):
Δcore [%] = 100 × (n1_ave - n0)/n1_ave (15)
で表される。クラッド13内での最小屈折率に対するコア11の屈折率の平均値の比屈折率差Δ1は、以下の式(16):
Δ1 [%] = 100 × (n1_ave - nc_min)/n1_ave (16)
で表される。クラッド13内での最小屈折率に対するディプレスト部12の屈折率の平均値の比屈折率差Δ2は、以下の式(17):
Δ2 [%] = 100 × (n2_ave - nc_min)/n2_ave (17)
で表される。ディプレスト部12に対するコア11の屈折率の平均値の比屈折率差Δ+は、以下の式(18):
Δ+ [%] = 100 × (n1_ave - n2_ave)/n1_ave (18)
で表される。クラッド13における最外部の屈折率をnc_outerとすると、純シリカガラスに対するクラッド13における最外部の比屈折率差Δc_outerは、以下の式(19):
Δc_outer = 100 × (nc_outer -n0)/nc_outer (19)
で表される。クラッド13内での最小屈折率をnc_minとすると、純シリカガラスに対するクラッド13内での最小屈折率の比屈折率差Δc_minは、以下の式(20):
Δc_min = 100 × (nc_min - n0)/nc_min (20)
で表される。
【0043】
光ファイバ1、2のコア11は、任意の屈折率プロファイルを有していてよく、例えば、図3に示されたようなタイプAからタイプHの屈折率プロファイルがコア11に適用され得る。いずれの屈折率プロファイルであっても、コア11内の屈折率の平均値をn1_aveとする。
【0044】
ここで、コア11の屈折率プロファイルは、半径r[um]における屈折率n(r)が、
【数1】
Δmax [%] = 100×(n1_max - n0) / n1_max
なる式で近似されるα乗プロファイルであってもよい(図3のタイプB、タイプC、タイプG、タイプHなど)。本開示の光ファイバは、最大1530nmのケーブルカットオフ波長を有するため、Oバンド(波長1260nm以上1360nm以下)では2モード以上が伝搬可能である。そのため、本開示の光ファイバは、1本のファイバ中で複数のモードを伝搬させるモード分割多重伝送に適用可能である。コア11のプロファイル形状がα乗の方が、モード間の群遅延差(DMD:Differential mode delay)を小さくできること、および、受信機内でのMIMO(Multiple-input and multiple-output)処理の負荷を低減できること、から好ましい。図4は、r2/r1=3.8、rc=62.5μm、Δ2=-0.06%として指数αを変えた種々の屈折率プロファイルにおいて、波長1310nmにおけるLP01モードとLP11モードとのDMDを示すグラフである。ここで、Δmaxおよびコア半径r1は、実効断面積Aeffが125μm、ケーブルカットオフ波長が1450nmとなるように調整されている。これより、DMDの絶対値を小さく抑えるには指数αは1以上10以下が好ましいことが分かる。より好ましくは、指数αは1.5以上5以下である。最も好ましくは、指数αは2以上4以下である。
【0045】
また、光ファイバ2のディプレスト部12は、任意の屈折率プロファイルを有していてよく、例えば、図5に示されたタイプAまたはタイプBの屈折率プロファイルを有していてもよい。いずれの屈折率プロファイルであっても、ディプレスト部12内の屈折率の平均値をn2_aveとする。
【0046】
クラッド13の半径rcは62μm以上63μm以下の範囲に収まる。光ファイバ1、2は、クラッド13の外周面に接するように設けられた樹脂被覆層を備える。図6は、樹脂被覆層を備える光ファイバ2の断面構造を示す図である。樹脂被覆層は、二層構造を有しており、内側に設けられ外力が直接にクラッド13に伝わらないよう機能する一次被覆層14と、該一次被覆層14の外側に設けられ、外傷を防止するよう機能する二次被覆層15とを含む。一次被覆層14の外側半径は90μm以上105μm以下であり、二次被覆層15の外側半径は117.7μm以上127.5μm以下であってもよい。または、一次被覆層14の外側半径は75μm以上87.5μm以下であって、二次被覆層15の外側半径は90μm以上105μm以下であってもよい。
【0047】
本開示の光ファイバ1、2は、コア11がアルカリ金属元素のような特殊な元素を含むことなく、伝送損失の低減を可能にする。また、クラッド13がフッ素を含むことにより該クラッド13の屈折率が下がる。そのため、コア11の屈折率を上げるためにコアにGeを添加する必要がない、あるいは、コア11に添加されるGeの添加量が少なくて済む。光ファイバ母材を線引きすることにより本開示の光ファイバを製造する際に、線引き炉の直下に加熱炉を設ける必要がない。本開示の光ファイバは、安価かつ容易に製造することができ、伝送損失を小さくすることができる。
【0048】
次に、本実施形態に係る光ファイバの具体例について説明する。具体例1に係る光ファイバは、光ファイバ2(図2)と同様の構造を有する。図7は、具体例1に係る光ファイバの屈折率プロファイルを示す図である。図8は、具体例1に係る光ファイバのフッ素濃度分布XF(r)を示す図である。図9は、具体例1に係る光ファイバのフッ素濃度分布XF(r)の微分係数XF'(r)をプロットしたグラフを示す図である。図10は、具体例1に係る光ファイバの残留応力分布を示す図である。なお、図10において、正の残留応力は引張応力を意味し、負の残留応力は圧縮応力を意味する。
【0049】
具体例1に係る光ファイバにおける各構造パラメータは以下のように設定されている。すなわち、r1=5.4μm、r2/r1=6.4、rc=62.5μm、Δcore=0.11%、Δ1=0.20%、Δ2=-0.11%、Δ+=0.31%である。コアは、塩素を含むシリカガラスからなる。クラッドは、フッ素を含むシリカガラスである。XFc_max=2560ppm、XFc_outer=570ppmである。クラッドの外側領域(クラッド内周面からの半径方向に沿った距離がクラッド幅の50%以上80%以下となる範囲)において、フッ素濃度分布XF(r)の微分係数XF'(r)の絶対値は62ppm/μm以上115 ppm/μm以下である。クラッドの全領域における応力は引張応力であり、コアの全領域における応力は圧縮応力である。波長1550nmにおける伝送損失は0.168dB/kmである。波長1550nmにおける実効断面積は109μmである。ケーブルカットオフ波長は1417nmである。直径60mmに100ターン巻いたときの波長1550nmおよび1625nmにおける曲げ損失はいずれも0.05dB以下である。その他のファイバ特性は、国際勧告ITU-T G.654に準拠している。
【0050】
具体例2に係る光ファイバも、光ファイバ2(図2)と同様の構造を有する。具体例2に係る光ファイバにおける各構造パラメータは以下のように設定されている。すなわち、r1=6.5μm、r2/r1=3.8、rc=62.5μm、Δcore=0.16%、Δ1=0.24%、Δ2=-0.06%、Δ+=0.30%である。コアは、GeOおよび塩素が添加されたシリカガラスからなる。コアに添加されたGeOの濃度平均値は13500ppmである。コアに添加された塩素の濃度平均値は8000ppmである。クラッドはフッ素を含んでおり、XFc_max=2400ppm、XFc_outer=1020ppmである。クラッドの外側領域(クラッド内周面からの半径方向に沿った距離がクラッド幅の50%以上80%以下となる範囲)において、|XF’(r)|は30ppm/μm以上152ppm/μm以下である。クラッド内の全領域における応力は引張応力であり、コアの全領域における応力は圧縮応力である。波長1550nmにおける伝送損失は0.170dB/kmであり、波長1550nmにおける実効断面積Aeffは125μmであり、ケーブルカットオフ波長は1453nmであり、直径60mmで100ターン巻いたときの波長1550nmおよび1625nmにおける曲げ損失はいずれも0.05dB以下である。その他のファイバ特性は、国際勧告ITU-T G.654に準拠している。
【符号の説明】
【0051】
1、2…光ファイバ、11…コア、12…ディプレスト部、13…クラッド、14…一次被覆層、15…二次被覆層。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
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図10