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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-20
(45)【発行日】2023-11-29
(54)【発明の名称】発光デバイス
(51)【国際特許分類】
   H01L 33/32 20100101AFI20231121BHJP
   H01S 5/343 20060101ALI20231121BHJP
【FI】
H01L33/32
H01S5/343 610
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020537415
(86)(22)【出願日】2019-08-02
(86)【国際出願番号】 JP2019030492
(87)【国際公開番号】W WO2020036080
(87)【国際公開日】2020-02-20
【審査請求日】2022-07-26
(31)【優先権主張番号】P 2018153056
(32)【優先日】2018-08-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002185
【氏名又は名称】ソニーグループ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001357
【氏名又は名称】弁理士法人つばさ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田才 邦彦
(72)【発明者】
【氏名】川西 秀和
(72)【発明者】
【氏名】簗嶋 克典
【審査官】小濱 健太
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-335854(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 33/00-33/64
H01S 5/00-5/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
Alx2Inx1Ga(1-x1-x2)N(0<x1<1,0≦x2<1)からなると共に、発光領域を有する第1の量子井戸層と、
前記基板と前記第1の量子井戸層との間に設けられた障壁層と、
前記基板と前記障壁層との間において、前記第1の量子井戸層から8nm以上50nm未満離れた位置に設けられると共に、4.0分子層未満の厚みを有するAly2Iny1Ga(1-y1-y2)N(0<y1<1,0≦y2<1)からなる第2の量子井戸層とを備え、
前記第1の量子井戸層は一の量子井戸層からなる単一量子井戸であり、
前記第2の量子井戸層のバンドギャップエネルギー(Egy)は、前記一の量子井戸層のバンドギャップエネルギー(Egxm)以下である
発光デバイス。
【請求項2】
前記第2の量子井戸層の厚みは、0.5分子層以上3.5分子層以下である、請求項1に記載の発光デバイス。
【請求項3】
前記第1の量子井戸層の発光波長は500nm以上である、請求項1に記載の発光デバイス。
【請求項4】
前記第2の量子井戸層は超格子を形成していない、請求項1に記載の発光デバイス。
【請求項5】
前記基板と前記第2の量子井戸層との間に、さらに、4.0分子層未満の厚みを有するAly2Iny1Ga(1-y1-y2)N(0<y1<1,0≦y2<1)からなる第3の量子井戸層を有する、請求項1に記載の発光デバイス。
【請求項6】
前記基板は、窒化ガリウム(GaN)基板により構成されている、請求項1に記載の発光デバイス。
【請求項7】
前記基板は、サファイア基板、シリコン(Si)基板、窒化アルミニウム(AlN)基板および酸化亜鉛(ZnO)基板のうちのいずれかにより構成されている、請求項1に記載の発光デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、例えば窒化ガリウム(GaN)系材料を用いた発光デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
窒化ガリウム(GaN)系材料を用いた発光デバイスの開発が活発に行われている。発光デバイスとしては、例えば、半導体レーザ(LD:Laser Diode)および発光ダイオード(LED:Light Emitting Diode)等が挙げられる。可視領域の波長の光を出射する発光デバイスでは、GaN系材料としてGaInNを用いて発光層が形成されている。GaInNは、Inの組成が高くなるに従い発光波長が長くなる。一方で、Inの組成が高くなるにつれて発光効率が低下する傾向がある。
【0003】
これに対して、例えば、特許文献1では、活性層の直下に活性層よりもIn組成の低いGaInNおよびGaN等からなる超格子構造を設けることで発光効率の改善を図った光半導体装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2011-35433号公報
【発明の概要】
【0005】
このように、GaN系材料を用いた発光デバイスでは、発光効率の改善が求められている。
【0006】
発光効率を向上させることが可能な発光デバイスを提供することが望ましい。
【0007】
本開示の一実施形態の発光デバイスは、基板と、Alx2Inx1Ga(1-x1-x2)N(0<x1<1,0≦x2<1)からなると共に、発光領域を有する第1の量子井戸層と、基板と第1の量子井戸層との間に設けられた障壁層と、基板と障壁層との間において、第1の量子井戸層から8nm以上50nm未満離れた位置に設けられると共に、4.0分子層未満の厚みを有するAly2Iny1Ga(1-y1-y2)N(0<y1<1,0≦y2<1)からなる第2の量子井戸層とを備えたものであり、第1の量子井戸層は一の量子井戸層からなる単一量子井戸であり、第2の量子井戸層のバンドギャップエネルギー(Egy)は、一の量子井戸層のバンドギャップエネルギー(Egxm)以下であるである。
【0008】
本開示の一実施形態の発光デバイスでは、基板と障壁層との間に、障壁層上に設けられ、一の発光層を含むと共に、Alx2Inx1Ga(1-x1-x2)N(0<x1<1,0≦x2<1)からなる第1の量子井戸層から8nm以上50nm未満離れると共に、4.0分子層未満の厚みを有するAly2Iny1Ga(1-y1-y2)N(0<y1<1,0≦y2<1)からなる第2の量子井戸層を設けるようにした。第1の量子井戸層は一の量子井戸層からなる単一量子井戸であり、第2の量子井戸層は一の量子井戸層のバンドギャップエネルギー(Egxm)以下のバンドギャップエネルギー(Egy)を有する。これにより、第1の量子井戸層の2次元成長が促進され、第1の量子井戸層のIn組成の揺らぎおよび各層の膜厚の揺らぎが低減されると共に、積層方向におけるIn組成の急峻性が向上する。
【0009】
本開示の一実施形態の発光デバイスによれば、Alx2Inx1Ga(1-x1-x2)N(0<x1<1,0≦x2<1)からなると共に、発光領域を有し、一の量子井戸層からなる単一量子井戸である第1の量子井戸層の下方に、障壁層を介して、第1の量子井戸層から8nm以上50nm未満離れると共に、4.0分子層未満の厚みを有し、一の量子井戸層のバンドギャップエネルギー(Egxm)以下のバンドギャップエネルギー(Egy)を有するAly2Iny1Ga(1-y1-y2)N(0<y1<1,0≦y2<1)からなる第2の量子井戸層を設けるようにしたので、第1の量子井戸層の2次元成長が促進されるようになる。よって、第1の量子井戸層のIn組成の揺らぎおよび各層の膜厚の揺らぎが低減されると共に、積層方向におけるIn組成の急峻性が改善され、発光効率を向上させることが可能となる。
【0010】
なお、ここに記載された効果は必ずしも限定されるものではなく、本開示中に記載されたいずれの効果であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本開示の実施の形態に係る発光デバイスの構成を表す断面模式図である。
図2図1に示した発光デバイスの各層のバンドギャップを表す図である。
図3】量子井戸層の厚みと発光強度との関係を表す図である。
図4】量子井戸発光層に対する量子井戸層のIn組成と発光強度との関係を表す図である。
図5A図1に示した発光デバイスの製造工程を説明する断面模式図である。
図5B図5Aに続く工程を表す断面模式図である。
図5C図5Bに続く工程を表す断面模式図である。
図6】各形態の発光強度を表す図である。
図7】本開示の変形例1に係る発光デバイスの構成を表す断面模式図である。
図8図7に示した発光デバイスの各層のバンドギャップを表す図である。
図9】本開示の変形例2に係る発光デバイスの構成を表す断面模式図である。
図10図9に示した発光デバイスの各層のバンドギャップを表す図である。
図11】本開示の変形例3に係る発光デバイスの構成を表す断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本開示における実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。以下の説明は本開示の一具体例であって、本開示は以下の態様に限定されるものではない。また、本開示は、各図に示す各構成要素の配置や寸法、寸法比等についても、それらに限定されるものではない。なお、説明する順序は、下記の通りである。
1.実施の形態(量子井戸発光層の下方に発光に関与しない量子井戸層を設けた例)
1-1.発光デバイスの構成
1-2.発光デバイスの製造方法
1-3.作用・効果
2.変形例1(量子井戸発光層を2層積層した例)
3.変形例2(量子井戸層および量子井戸発光層をそれぞれ2層積層した例)
4.変形例3(半導体レーザとしての構成の一例)
【0013】
<1.実施の形態>
図1は、本開示の一実施の形態に係る発光デバイス(発光デバイス1)の断面構成を模式的に表したものである。この発光デバイス1は、例えば可視領域、特に500nm以上の波長の光を出射する発光ダイオード(LED)等である。本実施の形態の発光デバイス1は、基板11上に、下地層12、n-AlGaInN層13、n-GaInN層14、量子井戸層15(第2の量子井戸層)、障壁層16、量子井戸発光層17(第1の量子井戸層)、p-AlGaInN層18およびp++-AlGaInN層19がこの順に積層されたものであり、量子井戸層15は、量子井戸発光層17に対して8nm以上50nm未満離れた位置に設けられると共に、4.0分子層未満の厚みを有している。
【0014】
(1-1.発光デバイスの構成)
発光デバイス1は、窒化ガリウム(GaN)系材料を用いて形成されており、上記のように、下地層12、n-AlGaInN層13、n-GaInN層14、量子井戸層15、障壁層16、量子井戸発光層17、p-AlGaInN層18およびp++-AlGaInN層19がこの順に積層されている。
【0015】
基板11は、例えば窒化ガリウム(GaN)基板であり、その厚みは例えば300μm~500μmである。例えば、GaN基板のc面が主面として用いられている。
【0016】
下地層12は、基板11上に設けられており、例えばn型のAlGaInNにより形成されている。下地層12の厚みは、例えば10nm~1000nmである。
【0017】
n-AlGaInN層13は、下地層12上に設けられており、n型のAlGaInNにより形成されている。n-GaInN層14は、n-AlGaInN層13上に設けられており、n型のGaInNにより形成されている。
【0018】
量子井戸層15は、n-GaInN層14上に設けられている。量子井戸層15は、Aly2Iny1Ga(1-y1-y2)N(0<y1<1,0≦y2<1)からなる。量子井戸層15のインジウム(In)組成は、量子井戸層15および量子井戸発光層17が共にGaInNからなる場合には、後述する量子井戸発光層17と同等以上のInを含有していることが好ましく、例えば15%以上50%以下である。量子井戸層15および量子井戸発光層17がAlGaInNからなる場合には、量子井戸層15のバンドギャップエネルギー(Egy)は、図2に示したように、量子井戸発光層17のバンドギャップエネルギー(Egxm)以下であることが好ましい。なお、図2の横方向は、発光デバイス1の積層方向の層厚に相当する。
【0019】
量子井戸層15は、発光には寄与せず、4分子層(Mono Layers;MLs)未満の厚みで形成されていることが好ましく、より好ましくは、0.5分子層以上3.5分子層以下である。ここで、分子層(MLs)は、例えばIII-V族の化合物半導体であれば、III族-V族-III族の原子間距離を指し、六方晶のGaNのC軸方向の場合には0.26nmに相当する。また、量子井戸層15は、上記のように、量子井戸発光層17に対して8nm以上50nm未満の位置に離間して配置されている。これにより、量子井戸層15は、波動関数の観点から孤立した量子井戸状態となっており、超格子構造を形成していないものとする。なお、量子井戸発光層17に対して8nm以上50nm未満離れた位置とは、量子井戸発光層17の最も基板11側に設けられたウェルの基板11側の面からの位置である。
【0020】
障壁層16は、量子井戸層15と量子井戸発光層17との間に設けられている。障壁層16は、例えばGaN、GaInNまたはAlGaNからなり、これらを2層以上積層した積層膜や超格子構造としてもよい。障壁層16の厚みは、上記のように、量子井戸層15と量子井戸発光層17との距離が8nm以上50nm未満となることが好ましいことから、例えば8nm以上50nm未満であることが好ましい。量子井戸層15と量子井戸発光層17との距離が8nm未満となると、量子井戸層15および量子井戸発光層17の総歪蓄積量が増大し、結晶欠陥が増殖されて平坦性が悪化する虞がある。一方で、量子井戸層15と量子井戸発光層17との距離が50nm以上となると、量子井戸層15の表面情報が失われ、量子井戸発光層17の2次元成長の促進が得られなくなる。なお、障壁層16が2層以上積層された積層構造からなると共に、その積層構造中に超格子構造を含む場合には、超格子構造の前後に8nm以上50nm未満の厚みの単層を設けるようにすればよい。
【0021】
量子井戸発光層17は、障壁層16上に設けられている。量子井戸発光層17は、Alx2Inx1Ga(1-x1-x2)N(0<x1<1,0≦x2<1)からなり、層内に発光領域を有する。量子井戸発光層17のインジウム(In)組成は、量子井戸層15および量子井戸発光層17が共にGaInNからなる場合には、量子井戸層15と同等以下であることが好ましく、例えば15%以上50%以下である。量子井戸発光層17の厚みは、例えば2nm以上4nm以下であることが好ましい。
【0022】
p-AlGaInN層18は、量子井戸発光層17上に設けられており、p型のAlGaInNにより形成されている。p++-AlGaInN層19は、p-AlGaInN層18上に設けられており、アクセプタがp-AlGaInN層18よりも高濃度にドーピングされたp型のAlGaInNにより形成されている。
【0023】
図3は、量子井戸層15の厚みと量子井戸発光層17の発光強度との関係を表したものである。量子井戸層15を設けない場合(0MLs)と比較して、1MLs~3MLsの量子井戸層15を設けることで、1桁以上大きな発光強度が得られており、発光効率の著しい向上が確認された。なお、このときの量子井戸層15と量子井戸発光層17の距離(障壁層16の厚み)は15nmであり、5nmとした場合には、発光強度は図3に示した量子井戸層15の各厚みにおける発光強度の2/3未満に低下した。
【0024】
図4は、量子井戸発光層17に対する量子井戸層15のIn組成と量子井戸発光層17の発光強度との関係を表したものである。ここでは、量子井戸層15の厚みは全て2MLsとしている。図4からわかるように、量子井戸層15のIn組成が高いほど量子井戸発光層17の発光強度は増加し、特に、量子井戸発光層17と同一以上のIn組成とすることが好ましいことわかる。
【0025】
(1-2.発光デバイスの製造方法)
本実施の形態の発光デバイス1は、例えば以下のように製造することができる。図5A図5Cは、発光デバイス1の製造方法を工程順に表したものである。
【0026】
まず、図5Aに示したように、基板11上に下地層12を形成する。具体的には、GaNからなる基板11上に、例えば700℃~1200℃の温度でn-AlGaInN層を成長させる。これにより、基板11上に下地層12が形成される。
【0027】
次に、図5Bに示したように、下地層12上にn-AlGaInN層13、n-GaInN層14および量子井戸層15を順に形成する。n-AlGaInN層13は、例えば700℃~1200℃の温度で、下地層12上に、例えばSi等のドナーをドーピングしたn型のAlGaInNを成長させることにより形成される。n-GaInN層14は、例えば700℃~900℃の温度で、n-AlGaInN層13上に、例えばSi等のドナーをドーピングしたn型のGaInNを成長させることにより形成される。量子井戸層15は、例えば600℃~900℃の温度で、n-GaInN層14上に、Aly2Iny1Ga(1-y1-y2)N(0<y1<1,0≦y2<1)を例えば2MLsの厚みで成長させることにより形成される。
【0028】
続いて、図5Cに示したように、量子井戸層15上に、障壁層16および量子井戸発光層17を順に形成する。障壁層16は、例えば600℃~900℃の温度で、n-AlGaInN層13上にGaNを成長させることにより形成される。量子井戸発光層17は、例えば600℃~900℃の温度で、障壁層16上にAlx2Inx1Ga(1-x1-x2)N(0<x1<1,0≦x2<1)を例えば3nmの厚みで成長させることにより形成される。
【0029】
最後に、量子井戸発光層17上にp-AlGaInN層18およびp++-AlGaInN層19を順に形成する。p-AlGaInN層18は、例えば600℃~1000℃の温度で、量子井戸発光層17上にMg等のアクセプタをドーピングしたp型のAlGaInNを成長させることにより形成される。p++-AlGaInN層19は、例えば600℃~1000℃の温度で、p-AlGaInN層18上にMg等のアクセプタを高濃度にドーピングしたp型のAlGaInNを成長させることにより形成される。以上により、図1に示した発光デバイス1が完成する。
【0030】
(1-3.作用・効果)
窒化ガリウム(GaN)系材料を用いた発光デバイスは、可視領域の発光素子として開発されており、その用途の1つとしてRGBの発光素子を用いたディスプレイがある。可視領域のうち、青色帯域および緑色帯域は、GaN系材料を用いたLEDやLDで既に実用化されているが、緑色帯域の光を発するLEDおよびLDでは発光効率の改善が求められている。赤色帯域の光を発する発光デバイスではGaInP系材料が用いられているが、GaInP系の材料を用いたLEDおよびLDは、特に高温時における発光効率が低く、例えばレーザディスプレイ用途においては、さらなる高出力化および高効率化が求められている。
【0031】
一般に、GaN系材料を用いた可視領域の発光素子では、活性層にはGaInNが用いられている。GaInNは、Inの組成が大きくなるに従い、発光波長が長くなる。その発光波長の変化は活性層の厚みにもよるが、例えば16%で青色帯域、23%で緑色帯域および33%で赤色帯域となる。一方で、Inの組成が大きくなるにつれて発光再結合確率の減少および非発光再結合確率の増大が生じ、青色帯域よりも長い波長領域において良好な発光特性を有するLEDやLDを提供することは困難である。
【0032】
発光再結合確率の減少の要因としては、例えばIn組成の揺らぎの増大およびピエゾ分極の増大が挙げられる。非発光再結合確率の増大については、GaN基板やGaNテンプレート基板と、GaInN活性層との間の格子不整合度の増大に起因する結晶欠陥の発生が挙げられる。また、一般にIn組成の高いGaInNは、表面が3次元形状になりやすい。このためGaInNからなる発光層やその上方に設けられる障壁層の平坦性が低下しやすく、発光素子を構成する各層の膜厚揺らぎや積層方向のIn組成の急峻性が悪化しやすく、発光波長が不均一となり、特に、半導体レーザではレーザ発振に必要な利得が低下する。
【0033】
上記課題を解決する方法としては、例えば、以下の2つの方法が考えられる。1つ目は、格子不整合度の増大に起因する結晶欠陥の発生に対して活性層への歪量が低減するように、活性層の直下に活性層よりもIn組成の低いGaInNおよびGaN等からなる超格子構造を積層する方法である。2つ目は、例えばGaInN活性層の上下にGaInNの歪補償層として、AlGaNを積層する方法がある。しかしながら、上記方法では、歪量の低減によるピエゾ分極の低減や結晶欠陥の抑制には一定の効果が期待されるものの、In組成の揺らぎや平坦性の悪化による膜厚揺らぎ、積層方向のIn組成の急峻性を十分に改善することは難しく、さらなる発光効率の改善が求められている。
【0034】
これに対して、本実施の形態の発光デバイス1では、基板11とAlx2Inx1Ga(1-x1-x2)N(0<x1<1,0≦x2<1)からなる量子井戸発光層17との間に、量子井戸発光層17から8nm以上50nm未満離れた位置に、4.0分子層未満の厚みを有するAly2Iny1Ga(1-y1-y2)N(0<y1<1,0≦y2<1)からなる量子井戸層15を設けるようにした。
【0035】
図6は、量子井戸層15を設けず2つの量子井戸発光層が積層されたDouble Quantum Well構造を有する発光デバイス(DQW)、本実施の形態の発光デバイス1(thin well-Single Quantum Well;tw-SQW)および後述する変形例1の発光デバイス2(thin well-Double Quantum Well;tw-DQW)の発光強度を表したものである。なお、twは上記までで説明した量子井戸層15に相当する。各発光強度を比較すると、量子井戸層15を設けることで、発光強度が大きく増加していることがわかる。表1は、1つの量子井戸発光層が設けられたSingle Quantum Well構造を有する発光デバイス(SQW)、上記DQW、tw-SQWおよびtw-DQWにおける量子井戸発光層の発光強度、内部量子効率、欠陥、界面急峻性および平坦性をまとめたものである。表1では、各項目に対してA,B,C,Dの4段階で評価している。発光強度および内部量子効率では、両者の値が高い順にA,B,C,Dと評価した。欠陥では、欠陥密度が少ない順にA,B,C,Dと評価した。界面急峻性では、XRD評価にて得られるDQWのサテライトピークの振幅高さが大きい順にA,B,C,Dと評価した。平坦性では、量子井戸活性層の成長時に、結晶表面へ照射する光の反射強度の強さの高い順に、A,B,C,Dと評価した。つまり、すべての項目においてAが最も優れた評価となる。
【0036】
【表1】
【0037】
これらの結果から、本実施の形態のように、量子井戸発光層17の下方に上記構成を有する量子井戸層15を設けることで、量子井戸発光層の2次元成長が促進されるようになり、量子井戸発光層17のIn組成の揺らぎや量子井戸発光層17およびさらに上方に形成される層の膜厚の揺らぎが低減される。更に、積層方向におけるIn組成の急峻性を向上させることが可能となる。
【0038】
以上のように、本実施の形態の発光デバイス1および後述する発光デバイス2では、Alx2Inx1Ga(1-x1-x2)N(0<x1<1,0≦x2<1)からなる量子井戸発光層17の下方に、障壁層16を介して、量子井戸発光層17から8nm以上50nm未満離れた位置に、4.0分子層未満の厚みを有するAly2Iny1Ga(1-y1-y2)N(0<y1<1,0≦y2<1)からなる量子井戸層15を設けるようにした。これにより、量子井戸発光層17のIn組成の揺らぎおよび量子井戸発光層17を含む上方に形成される層の膜厚の揺らぎが低減されると共に、積層方向におけるIn組成の急峻性が改善され、発光効率を向上させることが可能となる。
【0039】
特に、本実施の形態では、青色帯域よりも発光波長の長い量子井戸発光層を有する発光デバイスにおいてより大きな効果が得られる。例えば、緑色帯域や赤色帯域の光を発する発光デバイス(発光ダイオード(LD)および後述する半導体レーザ(LED)等)において発光効率を著しく向上させることが可能となる。
【0040】
次に、本開示の変形例(変形例1~3)について説明する。以下では、上記実施の形態と同様の構成要素については同一の符号を付し、適宜その説明を省略する。
【0041】
<2.変形例1>
図7は、本開示の変形例(変形例1)に係る発光デバイス(発光デバイス2)の断面構成を模式的に表したものである。この発光デバイス2は、例えば可視領域、特に500nm以上の波長の光を出射する発光ダイオード等である。発光デバイス2は、上記実施の形態と同様に、量子井戸発光層17の下方に、障壁層16を介して、8nm以上50nm未満離れた位置に4.0分子層未満の厚みを有する量子井戸層15を設けたものである。本変形例では、量子井戸発光層17上に、さらに障壁層26を介して量子井戸発光層27を設けた点が上記実施の形態とは異なる。
【0042】
障壁層26は、量子井戸発光層17上に設けられており、障壁層16と同様に、例えばGaN、GaInNまたはAlGaNからなり、これらを2層以上積層した構造や超格子構造としてもよい。障壁層26の厚みは、例えば2nm以上20nm以下であればよい。
【0043】
量子井戸発光層27は、障壁層26上に設けられている。量子井戸発光層27は、量子井戸発光層17と同様に、Alx2Inx1Ga(1-x1-x2)N(0<x1<1,0≦x2<1)からなる。量子井戸発光層27のインジウム(In)組成は、量子井戸層15および量子井戸発光層27が共にGaInNからなる場合には、量子井戸層15と同等以下であることが好ましく、例えば15%以上50%以下である。量子井戸発光層27の厚みは、例えば2nm以上4nm以下であることが好ましい。
【0044】
図8は、量子井戸層15、量子井戸発光層17および量子井戸発光層27のバンドギャップを表したものである。本変形例における量子井戸層15、量子井戸発光層17および量子井戸発光層27のバンドギャップエネルギーの大小関係は、量子井戸層15のバンドギャップエネルギー(Egy)が、量子井戸発光層17および量子井戸発光層27のうち、より大きなバンドギャップエネルギーを有する層のバンドギャップエネルギー(Egxm)以下であることが好ましい。例えば、図8とは異なり、量子井戸発光層27のバンドギャップエネルギーが量子井戸発光層17のバンドギャップエネルギーよりも大きい場合には、量子井戸層15のバンドギャップエネルギー(Egy)は、量子井戸発光層27のバンドギャップエネルギー以下であることが好ましい。
【0045】
このように、2つの量子井戸発光層17,27を有する発光デバイス2でも、下層側に配置された量子井戸発光層17と基板11との間に、量子井戸発光層17から8nm以上50nm未満離れた位置に、4.0分子層未満の厚みを有するAly2Iny1Ga(1-y1-y2)N(0<y1<1,0≦y2<1)からなる量子井戸層15を設けることで、上記実施の形態と同様に、発光効率を向上させることが可能となる。
【0046】
<3.変形例2>
図9は、本開示の変形例(変形例2)に係る発光デバイス(発光デバイス3)の断面構成を模式的に表したものである。この発光デバイス3は、例えば可視領域、特に500nm以上の波長の光を出射する発光ダイオード等である。発光デバイス3は、量子井戸発光層17の下方に、2つの量子井戸層15,35がそれぞれ障壁層16,36を介して設けた点が上記変形例1とは異なる。具体的には、本変形例の発光デバイス3は、基板11上に、下地層12、n-AlGaInN層13、n-GaInN層14、量子井戸層35(第3の量子井戸層)、障壁層36、量子井戸層15、障壁層16、量子井戸発光層17、障壁層26、量子井戸発光層27、p-AlGaInN層18およびp++-AlGaInN層19がこの順に積層された構成を有する。
【0047】
量子井戸層35は、n-GaInN層上に設けられており、量子井戸層15と同様に、Aly2Iny1Ga(1-y1-y2)N(0<y1<1,0≦y2<1)からなる。量子井戸層35のインジウム(In)組成は、量子井戸層15,35および量子井戸発光層17,27が共にGaInNからなる場合には、量子井戸発光層17,27と同等以上であることが好ましく、例えば、15%以上50%以下である。量子井戸層15,35および量子井戸発光層17,27がAlGaInNからなる場合には、量子井戸層35のバンドギャップエネルギー(Egy2)は、量子井戸層15のバンドギャップエネルギー(Egy1)と同様に、量子井戸発光層17,27のうち、よりバンドギャップエネルギーが大きな量子井戸発光層(図10では、量子井戸発光層17)のバンドギャップエネルギー(Egxm)以下であることが好ましい。
【0048】
量子井戸層35は、発光には寄与せず、量子井戸層15と同様に、4分子層(MLs)未満の厚みで形成されていることが好ましく、より好ましくは、0.5分子層以上3.5分子層以下である。量子井戸層35と量子井戸層15との距離は、例えば8nm以上50nm未満となるように離間して配置されていることが好ましい。これにより、上記実施の形態および変形例1と同様に、量子井戸発光層17および量子井戸発光層27のIn組成の揺らぎならびに量子井戸発光層17および量子井戸発光層27を含む上方に形成される層の膜厚の揺らぎが低減されると共に、積層方向におけるIn組成の急峻性が改善され、発光効率を向上させることが可能となる。
【0049】
障壁層36は、量子井戸層35と量子井戸層15との間に設けられており、障壁層16と同様に、例えばGaN、GaInNまたはAlGaNからなり、これらを2層以上積層した構造や超格子構造としてもよい。障壁層36の厚みは、障壁層16と同様に、8nm以上50nm未満であることが好ましい。なお、障壁層36が2層以上積層された積層構造からなると共に、その積層構造中に超格子構造を含む場合には、超格子構造の前後に8nm以上50nm未満の厚みの単層を設けるようにすればよい。
【0050】
このように、量子井戸発光層17の下方に2つの量子井戸層15,35を有する発光デバイス3でも、下層側に配置された量子井戸発光層17と基板11との間に、量子井戸発光層17から8nm以上50nm未満離れた位置に、4.0分子層未満の厚みを有するAly2Iny1Ga(1-y1-y2)N(0<y1<1,0≦y2<1)からなる量子井戸層15を設けると共に、量子井戸層15の下方の量子井戸層15から8nm以上50nm未満離れた位置に量子井戸層35を設けることで、上記実施の形態と同様に、発光効率を向上させることが可能となる。
【0051】
<4.変形例3>
図11は、本開示の変形例(変形例3)に係る発光デバイス(発光デバイス4)の断面構成の一例を模式的に表したものである。この発光デバイス4は、例えば可視領域、特に500nm以上の波長の光を出射する半導体レーザの一例である。本変形例の発光デバイス4は、上記実施の形態と同様に、量子井戸発光層47の下方に、障壁層46を介して、8nm以上50nm未満離れた位置に4.0分子層未満の厚みを有する量子井戸層45が設けられたものであり、基板11上に、下地層12、下部クラッド層43、ガイド層44、量子井戸層45、障壁層46、量子井戸発光層47、ガイド層48、上部クラッド層49およびp++-AlGaInN層19がこの順に積層された構成を有する。
【0052】
下部クラッド層43は、下地層12上に設けられており、n型のAlGaInNにより形成されている。ガイド層44は、下部クラッド層43上に設けられており、アンドープあるいはn型のGaInNにより形成されている。
【0053】
量子井戸層45は、ガイド層44上に設けられている。量子井戸層45は、上記量子井戸層15と同様に、Aly2Iny1Ga(1-y1-y2)N(0<y1<1,0≦y2<1)からなる。量子井戸層45のインジウム(In)組成は、量子井戸層45および量子井戸発光層47が共にGaInNからなる場合には、後述する量子井戸発光層47と同等以上であることが好ましく、例えば15%以上50%以下である。量子井戸層45および量子井戸発光層47がAlGaInNからなる場合には、量子井戸層45のバンドギャップエネルギー(Egy)は、量子井戸発光層47のバンドギャップエネルギー以下であることが好ましい。
【0054】
量子井戸層45は、発光には寄与せず、4分子層(MLs)未満の厚みで形成されていることが好ましい。量子井戸層45は、上記のように、量子井戸発光層47との距離が8nm以上50nm未満となるように離間して配置されている。これにより、量子井戸層45は、波動関数の観点から孤立した量子井戸状態となっており、超格子構造を形成していないものとする。
【0055】
障壁層46は、量子井戸層45と量子井戸発光層47との間に設けられている。障壁層46は、上記障壁層16と同様に、例えばGaN、GaInNまたはAlGaNからなり、これらを2層以上積層した構造や超格子構造としてもよい。障壁層46の厚みは、上記のように、量子井戸層45と量子井戸発光層47との距離が8nm以上50nm未満となることが好ましいことから、例えば8nm以上50nm未満であることが好ましい。量子井戸層45と量子井戸発光層47との距離が8nm未満となると、量子井戸層45および量子井戸発光層47の総歪蓄積量が増大し、結晶欠陥が増殖されて平坦性が悪化する虞がある。一方で、量子井戸層45と量子井戸発光層47との距離が50nm以上となると、量子井戸層45の表面情報が失われ、量子井戸発光層47の2次元成長の促進が得られなくなる。なお、障壁層46が2層以上積層された積層構造からなると共に、その積層構造中に超格子構造を含む場合には、超格子構造の前後に8nm以上50nm未満の厚みの単層を設けるようにすればよい。
【0056】
量子井戸発光層47は、障壁層46上に設けられている。量子井戸発光層47は、上記量子井戸発光層17と同様に、Alx2Inx1Ga(1-x1-x2)N(0<x1<1,0≦x2<1)からなる。量子井戸発光層47のインジウム(In)組成は、量子井戸層45および量子井戸発光層47が共にGaInNからなる場合には、量子井戸層45と同等以下であることが好ましく、例えば15%以上50%以下である。量子井戸発光層47の厚みは、例えば2nm以上4nm以下であることが好ましい。
【0057】
ガイド層48は、量子井戸発光層47上に設けられており、アンドープあるいはp型のGaInNにより形成されている。上部クラッド層49は、ガイド層48上に設けられており、p型のAlGaInNにより形成されている。
【0058】
以上のように、半導体レーザにおいても、量子井戸発光層47の下層に、量子井戸発光層47から8nm以上50nm未満離れた位置に、4.0分子層未満の厚みを有するAly2Iny1Ga(1-y1-y2)N(0<y1<1,0≦y2<1)からなる量子井戸層45を設けることで、上記実施の形態と同様に、発光効率を向上させることが可能となる。
【0059】
以上、実施の形態および変形例1~3を挙げて本開示を説明したが、本開示は上記実施の形態に限定されるものではなく、種々変形可能である。例えば、上記実施の形態において例示した発光デバイス1の構成要素、配置および数等は、あくまで一例であり、全ての構成要素を備える必要はなく、また、他の構成要素をさらに備えていてもよい。
【0060】
更に、上記実施の形態等では、基板11として窒化ガリウム(GaN)基板を用いる例を示したが、基板11は、例えばサファイア基板、シリコン(Si)基板、窒化アルミニウム(AlN)基板および酸化亜鉛(ZnO)基板のいずれかを用いてもよい。
【0061】
なお、本明細書に記載された効果はあくまで例示であってこれに限定されるものではなく、また他の効果があってもよい。
【0062】
なお、本開示は、以下のような構成も可能である。
(1)
基板と、
Alx2Inx1Ga(1-x1-x2)N(0<x1<1,0≦x2<1)からなると共に、発光領域を有する第1の量子井戸層と、
前記基板と前記第1の量子井戸層との間に設けられた障壁層と、
前記基板と前記障壁層との間において、前記第1の量子井戸層から8nm以上50nm未満離れた位置に設けられると共に、4.0分子層未満の厚みを有するAly2Iny1Ga(1-y1-y2)N(0<y1<1,0≦y2<1)からなる第2の量子井戸層とを備え、
前記第1の量子井戸層は一の量子井戸層からなる単一量子井戸であり、
前記第2の量子井戸層のバンドギャップエネルギー(Egy)は、前記一の量子井戸層のバンドギャップエネルギー(Egxm)以下である
発光デバイス。
(2)
前記第2の量子井戸層の厚みは、0.5分子層以上3.5分子層以下である、前記(1)に記載の発光デバイス。
(3)
前記第1の量子井戸層の発光波長は500nm以上である、前記(1)または(2)に記載の発光デバイス。
(4)
前記第2の量子井戸層は超格子を形成していない、前記(1)乃至(3)のうちのいずれか1つに記載の発光デバイス。
(5)
前記基板と前記第2の量子井戸層との間に、さらに、4.0分子層未満の厚みを有するAly2Iny1Ga(1-y1-y2)N(0<y1<1,0≦y2<1)からなる第3の量子井戸層を有する、前記(1)乃至(4)のうちのいずれか1つに記載の発光デバイス。
(6)
前記基板は、窒化ガリウム(GaN)基板により構成されている、前記(1)乃至(5)のうちのいずれか1つに記載の発光デバイス。
(7)
前記基板は、サファイア基板、シリコン(Si)基板、窒化アルミニウム(AlN)基板および酸化亜鉛(ZnO)基板のうちのいずれかにより構成されている、前記(1)乃至(6)のうちのいずれか1つに記載の発光デバイス。
【0063】
本出願は、日本国特許庁において2018年8月16日に出願された日本特許出願番号2018-153056号を基礎として優先権を主張するものであり、この出願の全ての内容を参照によって本出願に援用する。
【0064】
当業者であれば、設計上の要件や他の要因に応じて、種々の修正、コンビネーション、サブコンビネーション、および変更を想到し得るが、それらは添付の請求の範囲やその均等物の範囲に含まれるものであることが理解される。
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図5C
図6
図7
図8
図9
図10
図11